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特開2024-102724推定方法、推定プログラム、推定装置及び蓄電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102724
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】推定方法、推定プログラム、推定装置及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20240724BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240724BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20240724BHJP
   G01R 31/3842 20190101ALI20240724BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20240724BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240724BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/3828
G01R31/3842
G01R31/388
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006810
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】國田 智士
(72)【発明者】
【氏名】福島 敦史
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA02
2G216BA03
2G216BA17
2G216BA44
2G216BA45
2G216BA54
2G216BA59
2G216BA71
2G216CB12
2G216CB52
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA05
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】蓄電素子の電力供給性能を精度良く推定できる技術を提供する。
【解決手段】推定方法は、蓄電素子の挙動を模擬する蓄電素子モデルを用いて、想定通電パターンにより通電した際の前記蓄電素子の推定電圧値を推定し、前記蓄電素子における推定状態値の誤差に基づいて求められる補正値により、推定した前記推定電圧値を補正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の挙動を模擬する蓄電素子モデルを用いて、想定通電パターンにより通電した際の前記蓄電素子の推定電圧値を推定し、
前記蓄電素子における推定状態値の誤差に基づいて求められる補正値により、推定した前記推定電圧値を補正する
推定方法。
【請求項2】
前記蓄電素子の計測電流値、計測電圧値及び計測温度値を取得し、
取得した計測電流値、計測電圧値及び計測温度値と、前記蓄電素子モデルとを用いて、前記推定電圧値を推定する
請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記蓄電素子における複数の推定状態値の最大誤差それぞれから求まる個別補正値の総和よりも小さくなるよう、前記補正値を求める
請求項1又は請求項2に記載の推定方法。
【請求項4】
複数の前記推定状態値のうち、所定のタイミングからの経過時間が長い推定状態値の誤差を増大させる
請求項1又は請求項2に記載の推定方法。
【請求項5】
前記蓄電素子の雰囲気温度の変化の大きさ又は通電量の大きさに応じて、前記推定状態値のうちの前記蓄電素子の内部温度の誤差を増大させる
請求項1又は請求項2に記載の推定方法。
【請求項6】
前記想定通電パターンの通電時間の長さ、電流の大きさ、電流変動の大きさ及び回数の少なくとも1つに応じて、前記推定状態値のうちの前記蓄電素子モデルの出力の誤差を増大させる
請求項1又は請求項2に記載の推定方法。
【請求項7】
前記蓄電素子は複数の蓄電セルを有する蓄電ユニットであり、
前記複数の蓄電セルそれぞれの計測電圧値及び計測温度値を取得し、
取得した前記複数の蓄電セルそれぞれの計測電圧値及び計測温度値を用いて推定される前記複数の蓄電セルそれぞれの推定電圧値から、前記蓄電ユニットの推定電圧値を求める
請求項1又は請求項2に記載の推定方法。
【請求項8】
前記推定電圧値と前記補正値とに基づいて、前記想定通電パターンによる前記蓄電素子の充電又は放電の可否を推定する
請求項1又は請求項2に記載の推定方法。
【請求項9】
蓄電素子の挙動を模擬する蓄電素子モデルを用いて、想定通電パターンにより通電した際の前記蓄電素子の推定電圧値を推定し、
前記蓄電素子における推定状態値の誤差に基づいて求められる補正値により、推定した前記推定電圧値を補正する
処理をコンピュータに実行させるための推定プログラム。
【請求項10】
蓄電素子の挙動を模擬する蓄電素子モデルとを用いて、想定通電パターンにより通電した際の前記蓄電素子の推定電圧値を推定する推定部と、
前記蓄電素子における推定状態値の誤差に基づいて求められる補正値により、推定した前記推定電圧値を補正する補正部と
を備える推定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の推定装置を備える、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定方法、推定プログラム、推定装置及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体における自動運転機能及び安全機能を実現するために、車両などへ搭載される蓄電素子の電力供給性能を推定することに対するニーズがある。
【0003】
特許文献1に開示される電池制御装置は、蓄電池を電気的な等価回路に見立ててその充放電挙動を模擬することにより、蓄電池の充放電可能電力を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-114135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
等価回路のような蓄電素子モデルを用いた蓄電素子の電力供給性能の推定においては、蓄電素子の状態を示す状態値が必要となる。状態値は直接計測できない値であることが多く、通常、状態値として蓄電素子の状態を推定した推定状態値が用いられる。このような推定状態値を用いた電力供給性能の推定に関し、推定状態値の誤差を考慮することについて、未だ十分な検討が行われていない。推定状態値の誤差が増大すると、電力供給性能の推定誤差も増大し、電力供給性能の推定精度が悪くなる。
【0006】
本開示の目的は、蓄電素子の電力供給性能を精度良く推定する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る推定方法は、蓄電素子の挙動を模擬する蓄電素子モデルを用いて、想定通電パターンにより通電した際の前記蓄電素子の推定電圧値を推定し、前記蓄電素子における推定状態値の誤差に基づいて求められる補正値により、推定した前記推定電圧値を補正する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、蓄電素子の電力供給性能を精度良く推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】蓄電装置の構成例を示す斜視図である。
図2】蓄電装置の分解斜視図である。
図3】推定装置を備える蓄電装置の構成例を示すブロック図である。
図4】想定通電パターンの一例を示す図である。
図5】想定通電パターンによる通電の可否の推定方法を説明する図である。
図6】蓄電素子モデルの一例を示す回路図である。
図7】回路パラメータのデータテーブルの一例を示す概念図である。
図8】SOC誤差の推定方法を説明する図である。
図9】通電により生じる温度誤差の推定方法を説明する図である。
図10】雰囲気温度変化により生じる温度誤差の推定方法を説明する図である。
図11】推定装置が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図12】推定装置が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)本開示の一態様に係る推定方法は、蓄電素子の挙動を模擬する蓄電素子モデルを用いて、想定通電パターンにより通電した際の前記蓄電素子の推定電圧値を推定し、前記蓄電素子における推定状態値の誤差に基づいて求められる補正値により、推定した前記推定電圧値を補正する。
【0011】
ここで、「蓄電素子」は、蓄電セルであってもよいし、複数の蓄電セルを有する蓄電ユニット(蓄電装置)であってもよい。
想定通電パターンとは、例えば、通電時間及び蓄電素子の動作電圧範囲に基づく電流パターンであってもよい。
【0012】
上記(1)に記載の推定方法によれば、推定状態値の誤差に基づいて効率的且つ適正に求められた補正値で推定電圧値を補正するため、蓄電素子の電力供給性能(SOF:State Of Function)を精度良く推定できる。
【0013】
想定通電パターンにより通電した際の蓄電素子の推定電圧値(単位はボルト(V))は、蓄電素子の推定状態値と、蓄電素子モデルとを用いて求められる。推定状態値とは、直接計測できない値であり、例えば蓄電素子の充電状態(SOC:State of Charge)、内部抵抗、及び内部温度等の値を含む。推定状態値は、蓄電素子の実際の状態値とは乖離する(誤差が生じる)場合がある。推定状態値と実際の状態値との間に生じうる誤差(推定状態値と実際の状態値との差分)を、例えば計測温度値のような計測値といった蓄電素子モデルへの入力要素に対応付けて予め設定しておくことで、設定した誤差に基づいて推定状態値の補正値(V)を効率的且つ精度よく求めることができる。得られた補正値(V)により推定電圧値を補正することで、蓄電素子の充電受入性能又は放電性能を、過大評価又は過小評価することなく適正に推定できる。
【0014】
蓄電素子モデルが出力する蓄電素子の挙動(推定電圧値)もまた、蓄電素子の推定状態値の一例である。蓄電素子モデルに起因する誤差を、例えば蓄電素子モデルに適用される想定通電パターンの通電時間の長さに応じて予め設定しておくことで、設定した誤差に基づいて推定状態値の補正値を効率的且つ精度よく求めることができる。
【0015】
特に蓄電素子を車両などの移動体用途に使用する場合、車両の自動運転機能及び安全機能を確実に動作させるため、SOFの推定を高い精度かつ遅延時間少なく実行することが要求される。上記構成によれば、SOFの推定に対する信頼性を向上できる。
【0016】
(2)上記(1)に記載の推定方法において、前記蓄電素子の計測電流値、計測電圧値及び計測温度値を取得し、取得した計測電流値、計測電圧値及び計測温度値と、前記蓄電素子モデルとを用いて、前記推定電圧値を推定してもよい。
【0017】
(3)上記(1)又は(2)に記載の推定方法において、前記蓄電素子における複数の推定状態値の最大誤差それぞれから求まる個別補正値の総和よりも小さくなるよう、前記補正値を求めてもよい。
ここで、推定状態値の最大誤差とは、所定の推定手法により誤差を求めた場合に想定される誤差の最大値であってもよい。
【0018】
蓄電素子の電圧特性に影響する推定状態値が複数種存在する場合には、複数の推定状態値の誤差を考慮して補正値を求める必要がある。本発明者らは、複数の推定状態値の誤差は互いに独立して生じることに着目し、複数の推定状態値の最大誤差それぞれから求まる個別補正値の総和を補正値として用いると、補正値が必要以上に大きいことを見出した。上記(3)に記載の推定方法によれば、補正値を、複数の推定状態値の最大誤差それぞれから求まる個別補正値の総和よりも小さくなるように求めることにより、蓄電素子の充電受入性能又は放電性能を過小評価すること(蓄電素子の性能を十分に発揮できないこと)を防止できる。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の推定方法において、複数の前記推定状態値のうち、所定のタイミングからの経過時間が長い推定状態値の誤差を増大させてもよい。
所定のタイミングとは、例えば前回又は直近の状態値を精度よく推定したタイミング、前回又は直近の推定状態値の誤差をリセットしたタイミング等であってもよい。
【0020】
上記(4)に記載の推定方法によれば、推定状態値の誤差の生じる一因となる経過時間の長さを推定状態値の誤差に反映できる。経過時間の長さに対応して実際の状態値との乖離が大きくなる推定状態値の誤差を好適に補正できる。
【0021】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の推定方法において、前記蓄電素子の雰囲気温度の変化の大きさ又は通電量の大きさに応じて、前記推定状態値のうちの前記蓄電素子の内部温度の誤差を増大させてもよい。
【0022】
上記(5)に記載の推定方法によれば、推定状態値のうちの内部温度の誤差の生じる一因となる蓄電素子の雰囲気温度又は通電量を推定状態値の誤差に反映できる。雰囲気温度の変化の大きさ又は充放電による通電量の大きさに対応して実際の状態値との乖離が大きくなる内部温度の誤差を好適に補正できる。
【0023】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の推定方法において、前記想定通電パターンの通電時間の長さ、電流の大きさ、電流変動の大きさ及び回数の少なくとも1つに応じて、前記推定状態値のうちの前記蓄電素子モデルの出力の誤差を増大させてもよい。
【0024】
上記(6)に記載の推定方法によれば、推定状態値のうちの蓄電素子モデルの出力の誤差の生じる一因となる想定通電パターンの通電時間の長さ、電流の大きさ、電流変動の大きさ及び回数の少なくとも1つを推定状態値の誤差に反映できる。通電時間の長さ、電流の大きさ、電流変動の大きさ及び回数に対応して実際の状態値との乖離が大きくなる蓄電素子モデルの出力の誤差を好適に補正できる。
【0025】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の推定方法において、前記蓄電素子は複数の蓄電セルを有する蓄電ユニットであり、前記複数の蓄電セルそれぞれの計測電圧値及び計測温度値を取得し、取得した前記複数の蓄電セルそれぞれの計測電圧値及び計測温度値を用いて推定される前記複数の蓄電セルそれぞれの推定電圧値から、前記蓄電ユニットの推定電圧値を求めてもよい。
【0026】
複数の蓄電セルを有する蓄電ユニットでは、多くの場合、蓄電セル毎に計測電圧値及び計測温度値が異なる。上記(7)に記載の推定方法によれば、複数の蓄電セルそれぞれの計測電圧値及び計測温度値を取得することで、想定通電パターンにより通電した際の各蓄電セルの推定電圧値を適正に求めることができ、その結果、蓄電ユニットの推定電圧値を適正に求めることができる。
【0027】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の推定方法において、前記推定電圧値と前記補正値とに基づいて、前記想定通電パターンによる前記蓄電素子の充電又は放電の可否を推定してもよい。
【0028】
上記(8)に記載の推定方法によれば、補正により精度よく推定された蓄電素子の電圧挙動に基づき、蓄電素子の充電又は放電の可否を精度よく推定できる。充電又は放電の可否の推定結果は、上位装置(例えば、車両のECU(Electronic Control Unit)、離れて設置される監視装置、クラウドサーバ等)へ出力されてもよい。
【0029】
(9)本開示の一態様に係る推定プログラムは、蓄電素子の挙動を模擬する蓄電素子モデルを用いて、想定通電パターンにより通電した際の前記蓄電素子の推定電圧値を推定し、前記蓄電素子における推定状態値の誤差に基づいて求められる補正値により、推定した前記推定電圧値を補正する処理をコンピュータに実行させる。
【0030】
(10)本開示の一態様に係る推定装置は、蓄電素子の挙動を模擬する蓄電素子モデルとを用いて、想定通電パターンにより通電した際の前記蓄電素子の推定電圧値を推定する推定部と、前記蓄電素子における推定状態値の誤差に基づいて求められる補正値により、推定した前記推定電圧値を補正する補正部とを備える。
【0031】
(11)本開示の一態様に係る蓄電装置は、上記(10)に記載の推定装置を備える。
【0032】
上記(11)に記載の蓄電装置によれば、蓄電装置内で、電力供給性能の推定を容易に行うことができる。外部装置との通信を介することなく短時間でローカル的に処理を行うことで、応答性を向上できる。蓄電装置内で電力供給性能を推定するエッジコンピューティングにより、蓄電装置が搭載される移動体又は設備等が、蓄電装置をより安全かつ安定的に使用できる。
【0033】
以下、本開示をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。
【0034】
図1は蓄電装置1の構成例を示す斜視図、図2は蓄電装置1の分解斜視図である。以下では、図中に示す「前後」、「左右」、及び「上下」の各方向を参照しながら、蓄電装置1の構成例について説明する。
【0035】
蓄電装置1は、例えば、エンジン車両、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等に好適に搭載されるバッテリーである。蓄電装置1は、例えば12ボルト(V)バッテリー又は48Vバッテリーである。
【0036】
蓄電装置1は、複数の蓄電セル2、推定装置3、及びバスバーユニット4を備える。蓄電装置1は、蓄電素子の一例である。蓄電セル2、推定装置3、及びバスバーユニット4は、収容ケース10の内部に収容される。蓄電セル2は、例えばリチウムイオン二次電池による電池セルである。
【0037】
実施の形態において、蓄電素子は、複数の蓄電セル2を有する蓄電ユニットである。代替的に、蓄電素子は単一の蓄電セル2であってもよい。
【0038】
推定装置3は、平板状の回路基板である。推定装置3は、例えば電池管理システム(BMS:Battery Management system)である。推定装置3は、蓄電セル2及び蓄電装置1の電圧、蓄電セル2に流れる電流、並びに蓄電装置1に関する温度を含む計測データを取得する。推定装置3は、取得した計測データに基づき、蓄電素子モデルを用いて蓄電装置1の電力供給性能を推定する。
【0039】
実施の形態において、推定装置3は、蓄電装置1の内部に搭載されている。代替的に、推定装置3は、蓄電装置1から離隔して設置されてもよい。推定装置3は、蓄電装置1の外部に接続されるサーバ装置、端末装置又は車両ECUなどのコンピュータであってもよい。この場合、蓄電装置1に関して計測される計測データは、通信によりサーバ装置等へ送信されるとよい。
【0040】
収容ケース10は合成樹脂製である。収容ケース10は、上面が開口したケース本体11と、ケース本体11の開口を覆うカバー12とを備える。ケース本体11及びカバー12は、蓄電セル2、推定装置3、及びバスバーユニット4を収容した状態にて、ネジ等の締結具、接着剤又は溶着等により液密に固着される。収容ケース10の一側面には、極性が異なる一対の外部端子13A,13Bが設けられる。
【0041】
蓄電セル2は、中空直方体状のケース21を備える。ケース21の上面には蓄電セル2の正端子22及び負端子23が設けられている。ケース21の内部には図示を省略する電極体及び電解液等が収容される。
【0042】
電極体は、シート状の正極と、負極とを、2枚のシート状のセパレータを介して重ね合わせ、これらを巻回(縦巻き又は横巻き)することにより構成される。セパレータは、多孔性の樹脂フィルムにより形成される。多孔性の樹脂フィルムとして、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂フィルムを使用できる。
【0043】
正極は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等からなる長尺帯状の正極基材の表面に、正極活物質層が形成された電極板である。正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層に用いられる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を使用できる。正極活物質としては、例えばLiFePO4 が挙げられる。正極活物質層は、導電助剤、バインダ等を更に含んでもよい。
【0044】
負極は、例えば銅又は銅合金等からなる長尺帯状の負極基材の表面に、負極活物質層が形成された電極板である。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を使用できる。負極活物質としては、例えば黒鉛(グラファイト)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。負極活物質層は、バインダ、増粘剤等を更に含んでもよい。
【0045】
電解質には、従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用できる。例えば、電解質として、有機溶媒中に支持塩を含有させた電解質を使用できる。有機溶媒として、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒が用いられる。支持塩として、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 等のリチウム塩が好適に用いられる。電解質は、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0046】
実施の形態において、蓄電セル2は、リチウムイオン二次電池による電池セルである。代替的に、蓄電セル2は、全固体電池、鉛電池、レドックスフロー電池、亜鉛空気電池、アルカリマンガン電池、リチウム硫黄電池、ナトリウム硫黄電池、酸化銀亜鉛電池、ニッケル水素電池、溶融塩熱電池などによる電池セルであってもよいし、キャパシタであってもよい。
【0047】
実施の形態において、蓄電セル2は、巻回型の電極体を備えた角型の電池セルである。代替的に、蓄電セル2は、円筒型の電池セル、又はラミネート型(パウチ型)の電池セルであってもよく、積層型の電極体を備えた電池セルであってもよい。
【0048】
実施の形態において、ケース本体11に収容されている蓄電セル2の数は4個である。代替的に、ケース本体11に収容される蓄電セル2の数は、1個以上4個未満であってもよく、4個超であってもよい。以下の説明では、蓄電セル2を、ケース本体11の前側から順に、第1蓄電セル2A、第2蓄電セル2B、第3蓄電セル2C、第4蓄電セル2Dとも記載する。
【0049】
図2に示すように、各蓄電セル2は、隣り合う蓄電セル2の正端子22及び負端子23の向きが逆となるようケース本体11に収容される。
【0050】
蓄電セル2の端子面上にはバスバーユニット4が配置される。バスバーユニット4は、複数のバスバー41~45と、これらのバスバー41~45を保持する樹脂製のバスバーフレーム46とを備える。バスバーフレーム46は、複数の蓄電セル2の上側を覆って、複数の蓄電セル2から発せられる輻射熱を遮る。バスバーフレーム46の上面には推定装置3が配置される。推定装置3は、バスバーフレーム46の上面から離隔した状態にて、スペーサ47を介してバスバーフレーム46に固定される。推定装置3と蓄電セル2との間にはバスバーフレーム46や空気等の断熱層が存在するため、推定装置3は、蓄電セル2から熱的に離隔して配置されている。実施の形態において、推定装置3と蓄電素子2とを直接的に繋ぐ金属部材は、バスバー41~45のみである。
【0051】
バスバー41~45は、蓄電セル2に対する充放電経路を構成する。バスバー41~45は、金属製であり、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ステンレス鋼等の導電性に優れ、熱伝導性が高い材料により形成される。バスバー41により、第1蓄電セル2Aの負端子23と一方の外部端子13Aとが接続される。バスバー45により、第4蓄電セル2Dの正端子22と他方の外部端子13Bとが接続される。バスバー42~44により、隣り合う蓄電セル2において、一方の蓄電セル2の正端子22と、他方の蓄電セル2の負端子23とが電気的に接続される。
【0052】
バスバー41~45は、ネジ等の締結具48によって推定装置3の下面に連結される。バスバー41~45を介して、蓄電セル2と推定装置3とが接続される。推定装置3上の熱は、締結具48及びバスバー41~45を介して、蓄電セル2に伝わる。充放電時に蓄電セル2において発生する熱は、バスバー41~45及び締結具48を介して、推定装置3の上面に伝わる。
【0053】
図1及び図2では、4個の蓄電セル2がバスバー41~45により直列に接続されている構成を説明した。代替的に、蓄電セル2は一部又は全部が並列に接続されてもよい。
【0054】
推定装置3は、樹脂製の基板61を備える。基板61の上面には、遮断回路62、第1温度センサ64、及び第2温度センサ65などが搭載される。
【0055】
遮断回路62は、第4蓄電素子2Dの正端子22に接続されるバスバー45と、外部端子13Bに接続されるバスバー63との間の導通路を接続又は遮断するための回路である。遮断回路62は、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などの半導体スイッチにより構成される。図2の例では、バスバー45,63間の導通路として、前後方向に延びる6本の導通路が形成されており、それら6本の導通路には、それぞれ2個のMOSFETが直列(かつ、内部のボディダイオードが逆向き)に接続されている。各導通路に配置される2個のMOSFETは、導通路を接続又は遮断するスイッチとしての機能を有すると共に、導通路を遮断した場合における、蓄電セル2から外部への電流の流出、及び外部から蓄電セル2への電流の流入を防止する機能を有する。代替的に、遮断回路62は、リレースイッチにより構成されてもよい。
【0056】
第1温度センサ64は、センサ部の周囲が合成樹脂材等により絶縁されたサーミスタや熱電対などの温度センサである。第1温度センサ64は、蓄電装置1(蓄電セル2)の内部温度に相関する温度を計測する。本実施形態では、第1温度センサ64は、蓄電装置1の雰囲気温度を計測する。蓄電装置1の雰囲気温度とは、蓄電装置1の内部の空間(空気)の温度を表す。第1温度センサ64は、通電発熱体からの熱の影響を受けないように、遮断回路62などから十分に離隔した位置に配置されてもよい。
【0057】
上述した通り、蓄電セル2の内部の温度を直接的に計測することは困難である。本実施形態では、第1温度センサ64により計測した蓄電セル2の周囲の温度を、蓄電装置1の内部温度の代用として用いる。
【0058】
第2温度センサ65は、センサ部の周囲が合成樹脂材等により絶縁されたサーミスタや熱電対などの温度センサである。第2温度センサ65は、基板61上の通電発熱体の温度を計測する。図2の例において、通電発熱体は、遮断回路62が備える半導体スイッチである。通電発熱体は、蓄電装置1の通電量に対応して発熱量が変化する。例えば、ハイレートで蓄電装置1を充放電すると、半導体スイッチの発熱は大きくなる。第2温度センサ65は通電発熱体の近傍に配置される。通電発熱体の近傍とは、通電発熱体の熱が伝わり、基板61の上面で温度変化として検出される位置を表す。基板61上に複数の蓄電セル2の充電状態(電圧)をバランスさせるバランサが実装されている場合、第2温度センサ65は、バランサ(通電発熱体の他の例)の近傍に配置されてもよい。
【0059】
実施の形態において、第1温度センサ64は、遮断回路62から離隔した位置に配置し、蓄電装置1の雰囲気温度を計測する。代替的に、第1温度センサ64は、蓄電セル2の表面、蓄電セル2と推定装置3とを接続するバスバー、締結具48の近傍に配置されてもよい。この場合、第1温度センサ64により、蓄電セル2の熱の影響をより強く反映した温度が検出される。
【0060】
ケース本体11には、さらに、図示を省略する電流センサ66及び電圧センサ67(図3参照)が収容される。電流センサ66は、例えばシャント抵抗、変流器、ホール効果型電流センサなどであり、蓄電セル2に流れる電流の大きさと向き(充電方向か放電方向か)を計測する。電圧センサ67は、各蓄電セル2の端子電圧を計測する。
【0061】
図3は、推定装置3を備える蓄電装置1の構成例を示すブロック図である。蓄電装置1は、外部端子13A,13Bを介して、車両ECU(Electronic Control Unit)71や、エンジン始動用のスターターモータ、電装品等の電気負荷72に接続されている。スターターモータを回転する場合や車両を起動する場合、蓄電装置1は放電して電気負荷72に対して電力供給を行う。
【0062】
車両ECU71は、車両を制御する車両制御部である。車両ECU71は、電気負荷72を制御する。車両ECU71は、推定装置3から受け付けた充放電性能に関する推定結果に基づいて、電気負荷72を制御することにより蓄電装置1の充電電圧や許容充放電量を制御する。車両ECU71は、「上位装置」の一例である。
【0063】
推定装置3は、制御部31、記憶部32、入出力部33及び通信部34等を備える。本実施形態では、推定装置3は回路基板で実現されるが、代替的に、推定装置3は、複数台のコンピュータで構成し分散処理する構成でもよく、1台のサーバ内に設けられた複数の仮想マシンによって実現されてもよく、クラウドサーバを用いて実現されてもよい。
【0064】
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備える演算回路である。制御部31が備えるCPU又はGPUは、ROMや記憶部32に格納された各種コンピュータプログラムを実行し、上述したハードウェア各部の動作を制御する。制御部31は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えてもよい。
【0065】
記憶部32は、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の不揮発性記憶装置を備える。記憶部32は、制御部31が参照する各種コンピュータプログラム及びデータ等を記憶する。記憶部32は、推定装置3に接続された外部記憶装置であってもよい。
【0066】
本実施形態の記憶部32は、蓄電装置1の電力供給性能の推定に関する処理をコンピュータに実行させるための推定プログラム321と、推定プログラム321の実行に必要なデータとしての推定データ322とを記憶している。推定データ322には、シミュレーションで用いられる蓄電素子モデルが含まれる。蓄電素子モデルは、回路構成を示す構成情報、および蓄電素子モデルを構成する各素子の値等により記述される。記憶部32には、蓄電素子モデルの回路構成を示す構成情報及び蓄電素子モデルを構成する各素子の値等が記憶される。
【0067】
推定プログラム321を含むコンピュータプログラム(プログラム製品)は、当該コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体3Aにより提供されてもよい。記録媒体3Aは、例えば磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の可搬型メモリである。制御部31は、図示しない読取装置を用いて、記録媒体3Aから所望のコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部32に記憶させる。代替的に、上記コンピュータプログラムは通信により提供されてもよい。推定プログラム321は、単一のコンピュータプログラムでも複数のコンピュータプログラムにより構成されるものでもよく、また、単一のコンピュータ上で実行されても通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されてもよい。
【0068】
入出力部33は、外部装置を接続するための入出力インタフェースを備える。入出力部33には、遮断回路62、第1温度センサ64、第2温度センサ65、電流センサ66及び電圧センサ67等が接続されている。制御部31は、入出力部33を通じて、第1温度センサ64及び第2温度センサ65により計測される温度のデータと、電流センサ66により計測される電流のデータと、電圧センサ67により計測される電圧のデータとを随時取得する。また制御部31は、入出力部33を通じて、遮断回路62へ制御信号を出力することにより、遮断回路62のオン状態とオフ状態を切り替える。
【0069】
入出力部33には、液晶ディスプレイ装置のような表示装置が接続されてもよい。制御部31は、入出力部33を介して電力供給可否の推定結果を出力し、表示装置へ表示させる。
【0070】
通信部34は、外部装置との通信を実現する通信インタフェースを備える。制御部31は、通信部34を通じて、外部装置との間で電力供給性能の推定結果を含む各種データを送受信する。通信部34を介して通信可能に接続される外部装置は、上位装置(例えば車両ECU71)であってもよい。
【0071】
本実施形態の電力供給性能の推定方法について説明する。推定装置3は、電力供給性能の推定として、想定通電パターンにより通電した場合の蓄電装置1の電圧挙動を推定し、電圧挙動の推定結果に基づき、想定通電パターンによる通電(電力供給)の可否を推定する。本実施形態の推定方法では、電圧挙動の推定に際し、蓄電装置1の状態を推定した推定状態値の誤差を考慮して電圧挙動の推定値を補正することにより、想定通電パターンによる通電の可否の判定精度を向上させる。以下、通電の可否の推定方法を説明した後、電圧挙動の推定方法を詳述する。
【0072】
通電の可否の推定では、特定の想定通電パターンによる通電が可能か否かを推定する。通電の可否の推定では、例えば、想定通電パターンでの通電により蓄電装置1の電圧が予め設定される電圧閾値を下回るか否か、蓄電装置1の電流が放電可能電流を超えるか否かを推定してもよい。想定通電パターンとは、例えば、蓄電装置1を備える車両に搭載される各種電気負荷72の消費電流量に基づく電流パターンであり、通電時間及び蓄電装置1の動作電圧範囲に基づく電流パターンである。動作電圧範囲は、例えばバッテリ電圧閾値又は車両に搭載される電気負荷72に応じて決定される電圧閾値であり、放電時には蓄電装置1の下限電圧であり、充電時には蓄電装置1の上限電圧が与えられる。動作電圧範囲は、蓄電セル2毎に設定されるセル電圧閾値であってもよい。想定通電パターンに係る通電時間、動作電圧範囲及び電流値は、例えば上位装置から与えられてもよく、設定済みの想定通電パターンとして予め記憶部32に記憶されてもよい。
【0073】
図4は、想定通電パターンの一例を示す図である。図4に示すグラフの横軸は時間(単位は秒(s))、左縦軸は電流(単位はアンペア(A))、右縦軸はバッテリ電圧(単位はV)である。横軸の右側ほど値が大きく、縦軸の上側ほど値が大きい。左縦軸は、下方向に向かうほど電流値が小さく、すなわち大電流で放電していることを表す。
【0074】
図4では、想定通電パターンとして、電流I1でt秒間にわたり放電する場合を示す。バッテリ電圧閾値は電圧値V1である。想定通電パターンは、放電に関するものに限らず、充電に関するものであってもよい。想定通電パターンは、複数パターンが設定されてもよい。
【0075】
図5は、想定通電パターンによる通電の可否の推定方法を説明する図である。図5中、上側のグラフは、想定通電パターンによる通電に伴う蓄電装置1の推定電圧値の時間変化を示し、下側のグラフは、通電の可否の推定結果を示す。図5では、蓄電装置1が放電状態で使用されている場合において、図4に示す想定通電パターンで通電したときの通電の可否を推定する例を示す。推定装置3は、蓄電装置1の使用時において、定常的(例えば1秒毎)に推定処理を実行してもよい。図5では、異なる推定時点t1,t2,t3それぞれにおいて推定された蓄電装置1の推定電圧値、及び通電の可否の推定結果を示す。
【0076】
想定通電パターンによる所定の電流値で、所定の通電時間にわたり蓄電装置1を放電した場合、蓄電装置1の推定電圧値は、図5の上側に示すように、放電に伴い経時的に低下する。推定装置3は、各推定時点t1,t2,t3において、想定通電パターンを通電後の推定電圧値が所定の動作電圧範囲を超えるか否か(予め設定される下限電圧を下回るか否か)を推定する。通電後の推定電圧値が動作電圧範囲を超えない(下限電圧を下回らない)場合、通電可と推定できる。通電後の推定電圧値が動作電圧範囲を超える(下限電圧を下回る)場合には、通電不可と推定できる。
【0077】
詳しくは後述するが、推定装置3は、推定時点における蓄電装置1の状態を示す推定状態値を蓄電素子モデルに与えることにより、想定通電パターンを通電後の推定電圧値を求める。推定状態値とは、例えば蓄電装置1のSOC、内部抵抗、及び内部温度等を含む。蓄電装置1の推定状態値は、時間の経過に伴い変化する。各推定時点の蓄電装置1の状態に応じて、通電の可否が推定される。
【0078】
図5に示すように、推定時点t1及び推定時点t2において、想定通電パターンを通電後の推定電圧値Vt1、Vt2は下限電圧よりも大きいことから、通電可と推定される。推定時点t3において、想定通電パターンを通電後の推定電圧値Vt3は下限電圧よりも小さいことから、通電不可と推定される。
【0079】
通電の可否の推定に用いる推定電圧値の推定方法を説明する。
【0080】
推定装置3は、蓄電素子モデルを用いて、蓄電装置1の推定電圧値を求める。図6は、蓄電素子モデルの一例を示す回路図である。図6に一例として示す蓄電素子モデルは、等価回路モデルであり、蓄電セル2の電圧源及び抵抗やコンデンサなどの回路素子を組合せ、蓄電セル2の充放電挙動を模擬するものである。
【0081】
図6に示す例において、等価回路モデルは、正極端子と負極端子との間に直列に接続される定電圧源、直流抵抗成分を模擬するための直流抵抗器、及び過渡的な分極特性を模擬するためのRC並列回路を備える。図6では、第1RC並列回路と第2RC並列回路との2つのRC並列回路が直列に接続されている等価回路モデルを示すが、RC並列回路は2段に限らない。
【0082】
定電圧源は、直流電圧を出力する電圧源である。定電圧源が出力する電圧は、蓄電セル2の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)であり、VOCVと記載する。開放電圧VOCVは、例えばSOCの関数として与えられる。開放電圧VOCVは、蓄電セル2の実容量の関数として与えられてもよい。
【0083】
直流抵抗器は、蓄電セル2の直流抵抗成分(直流インピーダンス)を模擬するためのものであり、抵抗素子R0を含む。抵抗素子R0は、通電電流、電圧、SOC、内部温度などに応じて変動する値として与えられる。直流抵抗器のインピーダンスが定まれば、等価回路モデルに電流Iが流れたときに直流抵抗器に発生する電圧を計算できる。直流抵抗器に発生する電圧を、直流抵抗電圧VR0とする。
【0084】
第1RC並列回路は、並列に接続された抵抗素子R1及び容量素子C1から構成される。第2RC並列回路は、並列に接続された抵抗素子R2及び容量素子C2から構成される。各RC並列回路を構成する抵抗素子R1,R2及び容量素子C1,C2は、通電電流、SOC、内部温度などに応じて変動する値として与えられる。抵抗素子R1,R2及び容量素子C1,C2によって、RC並列回路のインピーダンスが定まる。RC並列回路のインピーダンスが定まれば、等価回路モデルに電流Iが流れたときにRC並列回路に発生する電圧を計算できる。RC並列回路に発生する電圧は、第1RC並列回路に発生する分極電圧VR1C1と、第2RC並列回路に発生する分極電圧VR2C2との合計電圧である。
【0085】
以上の等価回路モデルにおいて、想定通電パターンにより通電した場合に発生する蓄電セル2の端子電圧(推定電圧値)Vcellを推定する。tn秒後の時点における蓄電セル2の推定電圧値)Vcellは、開放電圧VOCV、電流I、抵抗素子R0,R1,R2、及び容量素子C1,C2を用いて、下記(1)式により推定できる。
【0086】
【数1】
【0087】
式(1)において、開放電圧VOCVは、例えばSOC-OCVテーブルを用いて、推定時点におけるSOCから求めてもよい。推定時点におけるSOCは、電流積算法により算出してもよい。SOC-OCVテーブルは、温度ごとに設けてもよいし、共通のテーブルを用いてもよい。電流Iは、電流センサ66による計測電流値を用いることができる。電流Iは、例えば充電の場合には正の値であり、放電の場合には負の値となる。
【0088】
式(1)により求められる各蓄電セル2の推定電圧値Vcellの合計値を計算することで、蓄電装置1の電圧(推定電圧値)Vbatが求められる。蓄電装置1の推定電圧値Vbatは、各蓄電セル2の推定電圧値Vcellの合計値から、蓄電装置1における構造抵抗による電圧降下を差し引いた値としてもよい。構造抵抗は、例えば導電部材の抵抗成分である。
【0089】
等価回路モデルに用いられる抵抗素子R0,R1,R2、及び容量素子C1,C2(以下、回路パラメータとも称する)は、模擬対象となる蓄電装置1の目的に応じて、予め実測データ等に基づき得られる。推定装置3の記憶部32には、回路パラメータが予め記憶されている。回路パラメータは、例えばデータテーブル形式で記憶される。
【0090】
図7は、回路パラメータのデータテーブルの一例を示す概念図である。図7に示すように、回路パラメータのデータテーブルでは、例えば蓄電装置1の内部温度、SOC、及び通電電流に対応付けて回路パラメータが格納される。図7では、所定間隔毎の内部温度、SOC及び通電電流に対し、抵抗素子R0を格納するデータテーブルを示す。抵抗素子R0以外の回路パラメータそれぞれについても同様にデータテーブルが用意されており、内部温度、SOC及び通電電流に対応付けて各回路パラメータが設定される。
【0091】
推定装置3は、例えば外部装置との通信により回路パラメータを取得し、取得した回路パラメータを記憶部32の推定データ322に記憶する。回路パラメータのデータテーブルは、蓄電装置1の内部抵抗値の推定結果に応じて適宜更新されてもよい。
【0092】
推定装置3は、推定電圧値Vcellの推定に際し、推定時点における蓄電装置1の内部温度、SOC及び通電電流に対応する回路パラメータをデータテーブルから読み出す。読み出した回路パラメータ及び他の入力値を式(1)に代入することで、推定電圧値Vcellが求められる。
【0093】
式(1)により求められる各蓄電セル2の推定電圧値Vcellの合計値を計算することで、蓄電装置1の電圧(推定電圧値)Vbatが求められる。
【0094】
推定電圧値Vcell及び推定電圧値Vbatの推定結果は、蓄電装置1の内部抵抗、内部温度及びSOCに依存する。蓄電装置1の内部抵抗、内部温度及びSOCは、蓄電装置1の状態を示す値であり、直接計測することができない。従って、推定電圧値Vbatの推定には、蓄電装置1の状態を推定した推定状態値を用いる必要がある。
【0095】
推定状態値は、各種推定機能により推定することができる。各種推定機能による推定は、個々の蓄電装置1の状態を必ずしも完全に反映することができず、推定誤差が生じると考えられる。誤差を有する内部温度及びSOCに基づき上述の回路パラメータを求めると、回路パラメータの値がずれ、結果として推定電圧値Vbatに誤差が生じる。また誤差を有する内部抵抗を用いて推定電圧値Vbatを推定すると、推定電圧値Vbatに誤差が生じる。
【0096】
また等価回路モデルの出力も、推定状態値の1種である。等価回路モデルは、個々の蓄電セル2の特性を必ずしも完全に考慮することができず、等価回路モデルを用いて出力される推定電圧値Vbatと、蓄電装置1を実際に通電した場合の電圧値との間にも、誤差が生じると考えられる。
【0097】
推定状態値の誤差を考慮することで、推定電圧値Vbatをより適正に推定できる。推定電圧値Vbatに誤差を生じさせうる推定状態値の誤差は、複数種が挙げられるため、各推定状態値の誤差に起因して生じる個別の電圧誤差を総合的に考慮する必要がある。本実施形態では、複数の推定状態値の誤差は互いに独立して生じる(互いに依存していない)ことに着目し、各推定状態値の誤差に起因して生じる個別の電圧誤差をそれぞれ求める。個別の電圧誤差は、推定電圧値Vbatに対する個別補正値(V)に相当する。得られた各電圧誤差を合計することで最終的な電圧誤差を求める。最終的な電圧誤差は、推定電圧値Vbatに対する補正値(V)であり、ΔVerrorと記載する。求めた補正値ΔVerrorを用いて推定電圧値Vbatを補正することで、最終的な推定電圧値ΔVbat_errorを推定する。
【0098】
複数の推定状態値の誤差は互いに依存していないことから、各推定状態値の誤差が同時に最大誤差となる可能性は極めて低い。各推定状態値の最大誤差を用いた場合には、補正値ΔVerrorが過剰に見積もられ、本来よりも早期に通電不可と推定してしまう恐れがある。特定の推定状態値の誤差のみを用いて補正値ΔVerrorを求めると、補正値ΔVerrorが過少に見積もられ、電力供給の可否を誤推定してしまう恐れがある。各推定状態値の誤差をそれぞれ求めて補正値ΔVerrorを決定することで、蓄電装置1の充電受入性能又は放電性能を、過大評価又は過小評価することなく適正に推定できる。
【0099】
SOCの誤差に起因する電圧の推定誤差をSOC誤差とし、ΔVsocと記載する。内部抵抗の誤差に起因する電圧の推定誤差を内部抵抗誤差とし、ΔVRiと記載する。内部温度の誤差に起因する電圧の推定誤差を温度誤差とし、ΔVTcellと記載する。推定電圧値Vbatと蓄電装置1を実際に通電した場合の電圧値との間に生じうる誤差に起因する電圧の推定誤差をモデル誤差とし、ΔVmodelと記載する。
【0100】
補正値ΔVerrorは、一例として、SOC誤差ΔVsoc、内部抵抗誤差ΔVRi、温度誤差ΔVTcell、及びモデル誤差ΔVmodelを用いて、下記(2)式で表すことができる。
【数2】
【0101】
補正値ΔVerrorを用いて推定電圧値Vbatを補正することで、推定状態値の誤差を加味した最終的な蓄電装置1の推定電圧ΔVbat_errorが求められる。推定電圧ΔVbat_errorは、推定電圧値Vbatと、電圧誤差ΔVerrorとを用いて、下記(3)により推定できる。
ΔVbat_error=Vbat-ΔVerror…(3)
【0102】
上記(2)式で表されるように、補正値ΔVerrorは、個別の電圧誤差の総和である。本実施形態では、各推定状態値に基づき個別の電圧誤差をそれぞれ求める。
【0103】
図8は、SOC誤差の推定方法を説明する図である。SOC誤差ΔVsocは、満充電時点からの時間と、SOCの推定誤差との関係性のデータに基づき推定可能である。図8に示すグラフは上記関係性の一例を示す。図8に示すグラフの横軸は時間(単位はh)、縦軸はSOCの推定誤差(単位は%)である。横軸の右側ほど値が大きく、縦軸の上側ほど値が大きい。
【0104】
蓄電装置1のSOCは、一例として電流積算法により推定できる。電流積算法では、前回の満充電状態のSOC値を基準として、満充電以降、蓄電装置1に出入りした電流値を積算することによりSOCを求める。電流積算法では、電流センサ66の計測誤差により、SOCの推定誤差(%)が発生する。通常、SOCの推定誤差が、予め設定される満充電実施の閾値を超えた場合、蓄電装置1を満充電することで、SOCの推定誤差をリセットする。SOCの推定誤差は、例えばOCV法を用いてSOCの推定を行うこと(OCVリセットを行うこと)でリセットできる。OCV法とは、SOCとOCVとの相関関係に基づき、蓄電装置1のOCVからSOCを決定する手法である。
【0105】
図8に示すように、所定のタイミング(基準時点)からの経過時間が長くなるにつれて、SOCの推定誤差(%)が増大する傾向がある。所定のタイミングとは、前回(直近)の満充電時点であり、すなわち前回の誤差をリセットしたタイミングである。このような傾向を反映するよう、満充電時点からの時間とSOCの推定誤差との関係性のデータを生成する。生成された上記関係性のデータを予め保持しておくことで、上記関係性のデータと、前回の満充電時点からの経過時間とに基づき、SOCの推定誤差が求められる。
【0106】
満充電時点からの時間とSOCの推定誤差との関係性は、蓄電装置1の内部温度に依存して変化するため、SOCの推定誤差を決定する際は、蓄電装置1の内部温度の履歴を考慮してもよい。例えば、蓄電装置1の内部温度が低い程、蓄電装置1の自己放電量が大きくなることから、SOCの推定誤差が大きくなるよう推定されてもよい。
【0107】
SOCの推定誤差を加味したSOC値を用いた場合の推定電圧値Vbatと、SOCの推定誤差を加味していないSOC値を用いた場合の推定電圧値Vbatとの差分を算出することで、SOC誤差ΔVsocが求められる。以下の説明において、SOCのような推定状態値の推定誤差を加味した場合の推定電圧値Vbatは、求めた推定誤差を加味した推定状態値を等価回路モデルに適用することで求められる。推定誤差を加味した推定状態値とは、例えば電流積算法により算出したSOCに、SOCの推定誤差を加算又は減算して得られるSOCである。
【0108】
内部抵抗誤差ΔVRiは、同様に、所定のタイミング(基準時点)からの時間と、内部抵抗の推定誤差との関係性のデータに基づき推定可能である。所定のタイミング(基準時点)とは、前回の内部抵抗の推定時点である。より詳細には、内部抵抗を精度よく推定可能な条件下における前回の内部抵抗の推定時点である。蓄電装置1の内部抵抗の推定誤差(mΩ)は、前回の内部抵抗の推定時点からの経過時間が長くなるにつれて、増大する傾向がある。このような傾向を反映するよう、内部抵抗の推定時点からの時間と内部抵抗の推定誤差との関係性のデータを生成する。生成された上記関係性のデータを予め保持しておくことで、上記関係性のデータと、前回の内部抵抗の推定時点からの経過時間とに基づき、内部抵抗の推定誤差が求められる。内部抵抗を精度よく推定可能な条件下における内部抵抗の推定時点とは、例えばエンジンのクランク軸を回転させてエンジンを始動させるクランキング時、又は高電圧システム起動時等、内部抵抗の推定に好適な電流量が流れるタイミングであってもよい。
【0109】
内部抵抗の推定時点からの時間と内部抵抗の推定誤差との関係性は、蓄電装置1の内部温度に依存して変化するため、内部抵抗の推定誤差を決定する際は、蓄電装置1の内部温度の履歴を考慮してもよい。例えば、蓄電装置1の内部温度が低い程、蓄電装置1の劣化度合いが大きくなることから、内部抵抗の推定誤差が大きくなるよう推定されてもよい。
【0110】
内部抵抗の推定誤差を加味した内部抵抗値を用いた場合の推定電圧値Vbatと、内部抵抗の推定誤差を加味していない内部抵抗値を用いた場合の推定電圧値Vbatとの差分を算出することで、内部抵抗誤差ΔVRiが求められる。
【0111】
図9は電流の通電により生じる温度誤差の推定方法を説明する図であり、図10は雰囲気温度変化により生じる温度誤差の推定方法を説明する図である。温度誤差ΔVTcellは、実際の充電又は放電に伴う通電量(充放電量)に起因する第1の温度誤差ΔVTcellと、蓄電装置1の雰囲気温度の変化に起因する第2の温度誤差ΔVTcellとを含む。
【0112】
図9を用いて、第1の温度誤差ΔVTcellの推定方法を説明する。第1の温度誤差ΔVTcellは、蓄電装置1の通電量と、内部温度の推定誤差との関係性のデータに基づき推定可能である。図9に示すグラフは上記関係性の一例を示す。図9に示すグラフの横軸は、蓄電装置1の通電量を示すデータとしての、通電発熱体の温度と雰囲気温度との差分(単位は℃)である。縦軸は内部温度の推定誤差(単位は℃)である。横軸の右側ほど値が大きく、縦軸の上側ほど値が大きい。
【0113】
本実施形態では、第2温度センサ65により計測された通電発熱体の温度(計測温度値)を用いて、蓄電装置1の通電量を把握する。上述のように、通電発熱体の温度は、蓄電装置1の通電量に対応して変化する。通電発熱体の温度と、第1温度センサ64により計測された雰囲気温度との差分が大きい程、通電量が大きいことを表す。代替的に、蓄電装置1の通電量は、例えば電流センサ66及び電圧センサ67から求められる電力量に基づき求めてもよい。
【0114】
蓄電装置1の内部温度(セル温度)は、直接計測することができないため、蓄電装置1に関する温度として、第1温度センサ64を用いて取得される雰囲気温度(計測温度値)が用いられる。蓄電装置1を通電した場合、蓄電装置1内の発熱に対応して内部温度が急上昇する一方、第1温度センサ64の計測温度値が内部温度と同じ温度に到達するには時間を要する。内部温度と第1温度センサ64の計測温度値とのずれが、内部温度の推定誤差(℃)となる。
【0115】
図9に示すように、通電発熱体の温度と雰囲気温度との差分、すなわち蓄電装置1の通電量が大きくなるにつれて、内部温度の推定誤差が増大する傾向がある。このような傾向を反映するよう、通電量と内部温度の推定誤差との関係性のデータを生成する。生成された上記関係性のデータと、推定時点における通電量とに基づき、内部温度の推定誤差が求められる。このように、通常の蓄電装置1の温度検出用の第1温度センサ64と、温度誤差の補正用の第2温度センサ65とを蓄電装置1に設けることで、精度よく内部温度の推定誤差を求める。
【0116】
通電量が比較的小さい場合には、内部温度の推定誤差が微少であると考えられることから、図9に示すように、内部温度の推定誤差の発生閾値が予め設定されてもよい。推定時点における通電量が、推定誤差の発生閾値以上である場合にのみ、内部温度の推定誤差が推定されてもよい。
【0117】
内部温度の推定誤差を加味した内部温度値を用いた場合の推定電圧値Vbatと、内部温度の推定誤差を加味していない内部温度値を用いた場合の推定電圧値Vbatとの差分を算出することで、第1の温度誤差ΔVTcellが求められる。
【0118】
図10を用いて、第2の温度誤差ΔVTcellの推定方法を説明する。第2の温度誤差ΔVTcellは、蓄電装置1の雰囲気温度の変化量と、内部温度の推定誤差との関係性のデータに基づき推定可能である。図10に示すグラフは上記関係性の一例を示す。図10に示すグラフの横軸は、単位時間(図10の例では10分)毎の雰囲気温度の変化量(単位は℃)であり、縦軸は内部温度の推定誤差(単位は℃)である。横軸の右側ほど値が大きく、縦軸の上側ほど値が大きい。
【0119】
蓄電装置1の雰囲気温度の変化が激しい場合、第1温度センサ64による計測温度値は比較的早く雰囲気温度付近に変化する一方、蓄電装置1の内部が雰囲気温度と同じ温度になるまでには時間を要する。
【0120】
図10に示すように、雰囲気温度の変化量が大きくなるにつれて、内部温度の推定誤差が増大する傾向がある。このような傾向を反映するよう、雰囲気温度の変化量と内部温度の推定誤差との関係性のデータを生成する。生成された上記関係性のデータと、推定時点における雰囲気温度の変化量とに基づき、内部温度の推定誤差が求められる。
【0121】
内部温度の推定誤差を加味した内部温度値を用いた場合の推定電圧値Vbatと、内部温度の推定誤差を加味していない内部温度値を用いた場合の推定電圧値Vbatとの差分を算出することで、第2の温度誤差ΔVTcellが求められる。
【0122】
蓄電装置1において、第1の温度誤差ΔVTcellと第2の温度誤差ΔVTcellとが同時に発生する可能性は低いと推定されることから、補正値ΔVerrorの計算に際し、第1の温度誤差ΔVTcellと、第2の温度誤差ΔVTcellとのいずれか一方のみを利用してもよい。例えば、推定時点における通電量が推定誤差の発生閾値以上である場合、第1の温度誤差ΔVTcellを用いて補正値ΔVerrorを求め、推定時点における通電量が推定誤差の発生閾値未満である場合、第2の温度誤差ΔVTcellを用いて補正値ΔVerrorを求めてもよい。
【0123】
モデル誤差ΔVmodelは、蓄電装置1とモデル誤差ΔVmodelとの関係性のデータに基づき推定可能である。上記関係性のデータは、等価回路モデルと同様の条件で実施したバッテリでの通電試験結果である電圧値と、等価回路モデルにより推定される推定電圧値との差分を求めることで生成されてもよい。
【0124】
想定通電パターンの通電時間が比較的短時間の場合、等価回路モデルによる推定電圧値の推定精度は高く、モデル誤差ΔVmodelは無視できる程小さい。想定通電パターンの通電電時間が比較的長時間の場合、等価回路モデルでは蓄電セル2の拡散抵抗の増大を考慮できないため、等価回路モデルによる推定電圧値の推定精度は低く、モデル誤差ΔVmodelが大きくなる傾向がある。このような傾向を反映するよう、蓄電装置1とモデル誤差ΔVmodelとの関係性のデータを生成する。生成された上記関係性のデータに基づき、蓄電装置1に対するモデル誤差ΔVmodelが求められる。蓄電装置1とモデル誤差ΔVmodelとの関係性のデータは、想定通電パターンの通電時間に代えて又は想定通電パターンの通電時間に加えて、想定通電パターンの電流の大きさ、電流変動の大きさ、及び回数の少なくとも1つを考慮して求められてもよい。
【0125】
想定通電パターンの通電時間の長さに対応してモデル誤差ΔVmodelが変化することから、蓄電装置1とモデル誤差ΔVmodelとの関係性のデータは、想定通電パターンの通電時間を考慮して設定されてもよい。想定通電パターンの通電時間が長くなるにつれて、モデル誤差ΔVmodelが増大するよう上記関係性を設定する。あるいは、想定通電パターンの電流の大きさが大きくなるにつれてモデル誤差ΔVmodelが増大するよう上記関係性を設定してもよい。想定通電パターンの電流変動の大きさが大きくなるにつれてモデル誤差ΔVmodelが増大するよう上記関係性を設定してもよい。想定通電パターンによる通電回数が多くなるにつれてモデル誤差ΔVmodelが増大するよう上記関係性を設定してもよい。
【0126】
電力供給性能の推定を実施する前に蓄電セル2が分極していた場合にも、モデル誤差ΔVmodelが大きくなる傾向がある。蓄電装置1とモデル誤差ΔVmodelとの関係性のデータは、推定時点前の充放電履歴を考慮して設定されてもよい。推定時点前の直近の所定期間において充放電が行われていた場合、モデル誤差ΔVmodelが増大するよう上記関係性を設定する。充放電の電流値が大きくなるにつれて、モデル誤差ΔVmodelが増大するよう上記関係性を設定してもよく、充放電の時間が長くなるにつれて、モデル誤差ΔVmodelが増大するよう上記関係性を設定してもよい。
【0127】
推定装置3は、上述の各種関係性のデータを取得し、取得した各種関係性のデータを記憶部32の推定データ322に予め記憶しておく。各種関係性のデータは、例えば各関係性を示すグラフ、テーブル、関数式等として記憶されてもよい。各種関係性のデータはいずれも、例えば予め通電試験を行うことで生成できる。上記関係性のデータは、電力供給性能の推定対象となる蓄電装置1と同じ試験セル、又は蓄電装置1に類似する構造、種類、組成等を有する試験セルを用いた通電試験により生成されてもよい。
【0128】
図5で説明したように、補正値ΔVerrorによる補正後の推定電圧ΔVbat_errorと、予め設定される下限電圧又は上限電圧とを比較することにより、通電可否が判定される。
【0129】
上記では、各種センサにより取得した蓄電装置1の電流、電圧及び温度の計測データと、等価回路モデルとに基づき推定電圧値Vcell及び推定電圧値Vbatを求める例を説明した。代替的に、推定電圧値Vcell及び推定電圧値Vbatは、内部温度の推定値、SOC及びSOH等と、等価回路モデルとに基づき求められてもよい。
【0130】
図11及び図12は、推定装置3が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。以下のフローチャートにおける処理は、推定装置3の記憶部32に記憶する推定プログラム321に従って制御部31により実行されてもよく、制御部31に備えられた専用のハードウェア回路(例えばFPGA又はASIC)により実現されてもよく、それらの組合せによって実現されてもよい。
【0131】
推定装置3の制御部31は、取得部としての機能により、蓄電装置1の電流、電圧及び温度の計測データの取得を開始する(ステップS11)。計測データは、電流センサ66による計測電流値、電圧センサ67による計測電圧値、第1温度センサ64による雰囲気温度の計測温度値、及び第2温度センサ65による通電発熱体の温度の計測温度値を含む。以降、制御部31は、所定の又は適宜の間隔で計測データを取得し、取得した計測データを記憶部32に記憶する。これにより、時系列の計測データが収集される。計測データの取得とは、記憶部32に記憶された計測データを読み出すものであってもよい。
【0132】
制御部31は、計測データの取得に対応して、例えば電流積算の手法により蓄電装置1のSOCを求めてもよい。制御部31は、得られたSOCと、推定データ322に記憶するSOC-OCVテーブルとに基づいて、計測時点におけるSOCに応じた開放電圧VOCVを求めてもよい。
【0133】
制御部31は、電力供給性能の推定処理の対象となる想定通電パターンを取得する(ステップS12)。制御部31は、例えば上位装置から送信される通電電流値、通電時間及び上限電圧又は下限電圧を受信することにより、想定通電パターンを取得してもよい。
【0134】
制御部31は、電力供給性能を推定するか否かを判定する(ステップS13)。例えば予め設定される推定タイミングでないことにより、電力供給性能を推定しないと判定した場合(ステップS13:NO)、制御部31は、処理をステップS13に戻し、推定タイミングとなるまで待機する。
【0135】
予め設定される推定タイミングであることにより、電力供給性能を推定すると判定した場合(ステップS13:YES)、制御部31は、推定部としての機能により、想定通電パターンにより通電した際の蓄電装置1の推定電圧値Vbatを推定する(ステップS14)。制御部31は、推定時点における計測電流値、計測電圧値及び雰囲気温度の計測温度値を用いて、等価回路モデルにより各蓄電セル2の推定電圧値Vcellを推定する。制御部31は、推定した各蓄電セル2の推定電圧値Vcellの合計値を計算することで、蓄電装置1の推定電圧値Vbatを求める。等価回路モデルに用いる各回路パラメータは、推定時点における計測電流値、雰囲気温度の計測温度値及び電流積算によるSOC値に基づき求められる。推定電圧値Vbatは、各種推定状態値の誤差を加味していない電圧値である。
【0136】
制御部31は、蓄電装置1の充放電履歴に基づき、前回の満充電時点からの経過時間を導出する(ステップS15)。制御部31は、記憶部32に記憶する満充電時点からの時間とSOCの推定誤差との関係性のデータに基づいて、導出した経過時間に対応するSOCの推定誤差を導出する(ステップS16)。
【0137】
制御部31は、推定したSOCの推定誤差を加味した場合の推定電圧値Vbatと、ステップS14で推定したSOCの推定誤差を加味していない場合の推定電圧値Vbatとの差分を算出することにより、SOC誤差ΔVsocを推定する(ステップS17)。
【0138】
制御部31は、蓄電装置1の充放電履歴に基づき、前回の内部抵抗の推定時点からの経過時間を導出する(ステップS18)。制御部31は、記憶部32に記憶する内部抵抗の推定時点からの時間と内部抵抗の推定誤差との関係性のデータに基づいて、導出した経過時間に対応する内部抵抗の推定誤差を導出する(ステップS19)。
【0139】
制御部31は、推定した内部抵抗の推定誤差を加味した場合の推定電圧値Vbatと、ステップS14で推定した内部抵抗の推定誤差を加味していない場合の推定電圧値Vbatとの差分を算出することにより、内部抵抗誤差ΔVRiを推定する(ステップS20)。
【0140】
制御部31は、雰囲気温度と通電発熱体の温度との温度差分が、予め設定される内部温度の推定誤差の発生閾値以上であるか否かを判定する(ステップS21)。雰囲気温度と通電発熱体の温度との温度差分は、第1温度センサ64による雰囲気温度の計測温度値と、第2温度センサ65による通電発熱体の温度の計測温度値との差分(差分の絶対値)を算出することで得られる。
【0141】
温度差分が推定誤差の発生閾値未満であると判定した場合(ステップS21:NO)、制御部31は、記憶部32に記憶する雰囲気温度の変化量と内部温度の推定誤差との関係性のデータに基づいて、内部温度の推定誤差を導出する(ステップS22)。制御部31は、記憶部32に記憶する時系列の計測データに基づいて、直近の単位時間での雰囲気温度の変化量を算出し、算出した雰囲気温度の変化量に対応する内部温度の推定誤差を、上記関係性のデータから求める。
【0142】
制御部31は、推定した内部温度の推定誤差を加味した場合の推定電圧値Vbatと、ステップS14で推定した内部温度の推定誤差を加味していない場合の推定電圧値Vbatとの差分を算出することにより、温度誤差ΔVTcellとしての第2の温度誤差ΔVTcellを推定する(ステップS23)。
【0143】
温度差分が推定誤差の発生閾値以上であると判定した場合(ステップS21:YES)、制御部31は、記憶部32に記憶する通電量(通電発熱体の温度と雰囲気温度との差分)と内部温度の推定誤差との関係性のデータに基づいて、内部温度の推定誤差を導出する(ステップS24)。制御部31は、算出した温度差分に対応する内部温度の推定誤差を、上記関係性のデータから求める。
【0144】
制御部31は、推定した内部温度の推定誤差を加味した場合の推定電圧値Vbatと、ステップS14で推定した内部温度の推定誤差を加味していない場合の推定電圧値Vbatとの差分を算出することにより、温度誤差ΔVTcellとしての第1の温度誤差ΔVTcellを推定する(ステップS25)。
【0145】
制御部31は、記憶部32に記憶する蓄電装置1とモデル誤差ΔVmodelとの関係性のデータに基づいて、モデル誤差ΔVmodelを推定する(ステップS26)。
【0146】
ステップS26では、制御部31は、想定通電パターンの通電時間の長さに基づいて、使用する関係性のデータを特定し、特定した関係性のデータを用いてモデル誤差ΔVmodelを推定してもよい。制御部31は、想定通電パターンの通電時間の長さに応じた補正係数を用いて、通電時間の長さに対応してモデル誤差ΔVmodelが増大するよう、推定したモデル誤差ΔVmodelを補正してもよい。
【0147】
ステップS26では、制御部31は、推定時点前における直近の充放電履歴に基づいて、使用する関係性のデータを特定し、特定した関係性のデータ用いてモデル誤差ΔVmodelを推定してもよい。制御部31は、直近の充放電履歴に応じた補正係数を用いて、充放電に対応してモデル誤差ΔVmodelが増大するよう、推定したモデル誤差ΔVmodelを補正してもよい。
【0148】
制御部31は、推定したSOC誤差ΔVsoc、内部抵抗誤差ΔVRi、温度誤差ΔVTcell、及びモデル誤差ΔVmodelに基づいて、補正値ΔVerrorを推定する(ステップS27)。補正値ΔVerrorは、一例として、SOC誤差ΔVsoc、内部抵抗誤差ΔVRi、温度誤差ΔVTcell、及びモデル誤差ΔVmodelそれぞれの2乗の総和のルートの値とすることができる。
【0149】
制御部31は、補正部としての機能により、推定した補正値ΔVerrorを用いて、ステップS14で推定した推定電圧値Vbatを補正して、最終的な蓄電装置1の推定電圧値ΔVbat_errorを推定する(ステップS28)。
【0150】
制御部31は、推定した推定電圧値ΔVbat_errorに基づいて、蓄電装置1に対する想定通電パターンの通電可否を推定する(ステップS29)。制御部31は、推定電圧値ΔVbat_errorが、想定通電パターンの動作電圧範囲を超えるか否かを判定することにより、通電可否を推定する。
【0151】
制御部31は、例えば通信部34を介し、推定結果に基づく情報を上位装置へ出力し(ステップS30)、一連の処理を終了する。制御部31は、推定結果に基づく情報として、推定電圧値ΔVbat_error及び通電可否を出力してもよく、それらの少なくとも1つを出力してもよい。
【0152】
制御部31は、推定処理を終了するか否かを判定する(ステップS31)。例えば所定の終了動作が実行されていないことにより、推定処理を終了しないと判定した場合(ステップS31:NO)、制御部31は、処理をステップS13に戻し、推定処理を繰り返す。所定の終了動作が実行されたことにより、推定処理を終了すると判定した場合(ステップS31:YES)、制御部31は、一連の処理を終了する。
【0153】
上述の処理において、SOC誤差ΔVsoc、内部抵抗誤差ΔVRi、温度誤差ΔVTcell、及びモデル誤差ΔVmodelの推定順序は限定されない、各誤差の推定処理はその順序を変更して実行されてもよく、また、並行処理されてもよい。
【0154】
本実施形態によれば、蓄電装置1の推定状態値の誤差に基づいて蓄電装置1の推定電圧値を補正することで、蓄電装置1の電力供給性能を精度よく推定できる。
【0155】
推定装置、推定方法及び推定プログラムは、車両以外の用途にも適用可能であり、航空機、フライイングビークル、HAPS(High Altitude Platform Station)等の飛行体に適用されてもよいし、船舶や潜水艦に適用されてもよい。推定装置、推定方法及び推定プログラムは、高度な安全性が求められる(リアルタイム計算が求められる)移動体に適用することが好ましいが、移動体に限らず、定置用蓄電装置に適用されてもよい。
【0156】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
各実施形態に示すシーケンスは限定されるものではなく、矛盾の無い範囲で、各処理手順はその順序を変更して実行されてもよく、また並行して複数の処理が実行されてもよい。各処理の処理主体は限定されるものではなく、矛盾の無い範囲で、各装置の処理を他の装置が実行してもよい。
【0157】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0158】
1 蓄電装置(蓄電素子)
2 蓄電セル
3 推定装置
31 制御部
32 記憶部
33 入出力部
34 通信部
321 推定プログラム
322 推定データ
3A 記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12