(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102734
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】測距装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4865 20200101AFI20240724BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G01S7/4865
G01C3/06 120Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006824
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】319006047
【氏名又は名称】シャープセミコンダクターイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 徹朗
(72)【発明者】
【氏名】井上 高広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆行
(72)【発明者】
【氏名】河辺 勇
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA06
2F112CA04
2F112CA12
2F112DA25
2F112DA28
2F112EA05
2F112FA16
2F112FA41
5J084AA05
5J084AC07
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA36
5J084BA52
5J084CA03
5J084CA32
5J084CA52
5J084CA53
5J084EA04
(57)【要約】
【課題】距離の誤測定の発生を抑制することができる測距装置を提供する。
【解決手段】測距装置は、複数のパルス光を発し、前記複数のパルス光に対応する複数の発光パルス信号を送信する発光部と、前記複数のパルス光のうちの測距対象物で反射された複数の対象パルス光を受け、前記複数の対象パルス光に対応する複数の対象パルス信号を送信する対象受光部と、前記複数の発光パルス信号のそれぞれの発光タイミングおよび前記複数の対象パルス信号のそれぞれの対象受光タイミングをデジタル値に変換する時間-デジタル変換部と、前記対象受光タイミングのデジタル値と前記発光タイミングのデジタル値との差分を横軸とした対象ヒストグラムを生成し、前記対象ヒストグラムの重心に基づいて、前記測距対象物までの距離を算出するヒストグラム生成-距離演算部と、を備え、前記発光部は、一様乱数に対応したランダムな間隔で前記複数のパルス光を発する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパルス光を発し、前記複数のパルス光に対応する複数の発光パルス信号を送信する発光部と、
前記複数のパルス光のうちの測距対象物で反射された複数の対象パルス光を受け、前記複数の対象パルス光に対応する複数の対象パルス信号を送信する対象受光部と、
前記複数の発光パルス信号のそれぞれの発光タイミングおよび前記複数の対象パルス信号のそれぞれの対象受光タイミングをデジタル値に変換する時間-デジタル変換部と、
前記対象受光タイミングのデジタル値と前記発光タイミングのデジタル値との差分を横軸とした対象ヒストグラムを生成し、前記対象ヒストグラムの重心に基づいて、前記測距対象物までの距離を算出するヒストグラム生成-距離演算部と、を備え、
前記発光部は、一様乱数に対応したランダムな間隔で前記複数のパルス光を発する、
測距装置。
【請求項2】
反射部材と、
前記複数のパルス光のうちの前記反射部材で反射された複数の基準パルス光を受け、前記複数の基準パルス光に対応する複数の基準パルス信号を送信する基準受光部と、をさらに備え、
前記時間-デジタル変換部は、前記複数の基準パルス信号のそれぞれの基準受光タイミングをデジタル値に変換し、
前記ヒストグラム生成-距離演算部は、前記基準受光タイミングのデジタル値と前記発光タイミングのデジタル値との差分を横軸とした基準ヒストグラムを生成し、前記基準ヒストグラムの重心と前記対象ヒストグラムの重心との差分に基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する、
請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記発光部は、前記一様乱数を生成する線形帰還シフトレジスタを有する、
請求項1に記載の測距装置。
【請求項4】
前記対象受光部は、前記複数のパルス光のうちの前記測距対象物とは異なる非測距対象物で反射された前記複数の対象パルス光に対応する前記複数の対象パルス信号を送信し、
前記ヒストグラム生成-距離演算部は、前記基準受光タイミングのデジタル値と前記非測距対象物で反射した前記複数の対象パルス光の前記対象受光タイミングのデジタル値との差分を横軸とした非対象ヒストグラムを生成し、
前記被対象ヒストグラムは、前記対象ヒストグラムに比較して、全体として低く、かつ、フラットな形状である、
請求項1に記載の測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下記の特許文献1に開示されているように、ToF(Time of Flight)センサを備えた測距装置の開発が行われている。この測距装置によれば、発光部から発せられたパルス光が、対象物で反射され、受光部で受け取られるまでの時間に光の速度を掛け算することにより、対象物までの距離が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近距離を測定する場合には、測距の正確さを向上させるために、複数のパルス光のヒストグラムの重心に基づいて、測距装置から測定対象物までの距離を算出する。この測定においては、複数のパルス光を発する周期が短くなると、2回目のパルス光が発せられた後に、測距対象物よりも遠方にある非測距対象物から1回目のパルス光の反射光を受光する場合がある。
【0005】
この場合、2回目のパルス光の測距対象物での反射光のヒストグラムの重心と1回目のパルス光の非測距対象物での反射光のヒストグラムの重心との時間差に基づいて、測距装置から検出対象物までの距離を算出してしまう。そのため、測距対象物までの距離を正確に算出することができない。
【0006】
本開示は、上述の問題に鑑みなされたものである。本開示の目的は、対象物までの距離の誤測定の発生を抑制することができる測距装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の測距装置は、複数のパルス光を発し、前記複数のパルス光に対応する複数の発光パルス信号を送信する発光部と、前記複数のパルス光のうちの測距対象物で反射された複数の対象パルス光を受け、前記複数の対象パルス光に対応する複数の対象パルス信号を送信する対象受光部と、前記複数の発光パルス信号のそれぞれの発光タイミングおよび前記複数の対象パルス信号のそれぞれの対象受光タイミングをデジタル値に変換する時間-デジタル変換部と、前記対象受光タイミングのデジタル値と前記発光タイミングのデジタル値との差分を横軸とした対象ヒストグラムを生成し、前記対象ヒストグラムの重心に基づいて、前記測距対象物までの距離を算出するヒストグラム生成-距離演算部と、を備え、前記発光部は、一様乱数に対応したランダムな間隔で前記複数のパルス光を発する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1の測距装置の機能ブロックの概要を示す図である。
【
図2】発光パルス信号と対象パルス信号の一例を示す図である。
【
図3】ランダム値が設定されていないかまたは固定値である場合の非測距対象物からの反射光に対応する対象パルス信号の非対象ヒストグラムおよび測距対象物からの反射光に対応する対象パルス信号の対象ヒストグラムである。
【
図4】ランダム値が線形的に増加する場合の非測距対象物からの反射光に対応する対象パルス信号の非対象ヒストグラムおよび測距対象物からの反射光に対応する対象パルス信号の対象ヒストグラムである。
【
図5】ランダム値が一様乱数に対応する場合の非測距対象物からの反射光に対応する対象パルス信号の非対象ヒストグラムおよび測距対象物からの反射光に対応する対象パルス信号の対象ヒストグラムである。
【
図6】(a)は、微分非線形性が悪いカウンタが用いられ、かつ、ランダム値が用いられない場合のタイミングチャートであり、(b)は、微分非線形性が悪いカウンタが用いられ、かつ、ランダム値が用いられる場合のタイミングチャートである。
【
図7】実施の形態2の測距装置の機能ブロックの概要を示す図である。
【
図8】実施の形態2の測距装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図9】実施の形態2の測距装置の内部で送受信される各信号および各デジタル値のタイミングチャートである。
【
図10】実施の形態2の測距装置によって生成される基準パルス信号の基準ヒストグラム、非対象パルス信号の非対象ヒストグラム、および対象パルス信号の対象ヒストグラムである。
【
図11】実施の形態2の測距装置が発する発光パルスのクロストーク成分を説明するための構造図である。
【
図12】実施の形態2の測距装置が発する発光パルスのクロストーク成分に対応する対象パルス信号のデジタル値を説明するためのヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態の測距装置を、図面を参照しながら説明する。なお、図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
【0010】
(実施の形態1)
図1~
図6を用いて、実施の形態1の測距装置MAを説明する。本実施の形態の測距装置MAは、たとえば、ロボット掃除機の障害物への衝突検出に利用される装置である。本実施の形態の測距装置MAは、近距離の測定を高頻度で実行したい場合に利用される装置である。
【0011】
図1は、実施の形態の測距装置MAの機能ブロックの概要を示す図である。
【0012】
図1に示されるように、測距装置MAは、発光部LE、反射部材RM、対象受光部LRret、時間-デジタル変換部TDC、対象減算回路Dret、およびヒストグラム生成-距離演算部HIDCを備えている。なお、時間-デジタル変換部TDCは、一般に、Time to Digital Convertorと呼ばれる。
【0013】
発光部LEは、ランダムパルス発生回路RT、発光素子VCSEL、および発信回路VDを含んでいる。なお、発光素子VCSELは、一般に、Vertical Cavity Surface Emitting Laserと呼ばれる。
【0014】
ランダムパルス発生回路RTは、同一間隔で繰り返して発信される複数のパルス信号を含むクロック信号を利用して、ランダムな間隔で複数のランダムパルスrpを生成する電子回路である。つまり、ランダムパルス発生部RTは、ランダムなタイミングでランダムパルスrpを順次出力する。
【0015】
ランダムな間隔は、一様乱数を利用して生成される。一様乱数とは、ある区間において、数値が同じ確率で出現するという確率分布に従う乱数のことである。一様乱数は、たとえば、ランダムパルス発生回路RT内の線形帰還シフトレジスタSRによって生成される。
【0016】
発光素子VCSELは、ランダムな間隔の複数のランダムパルスrpに対応する複数の発光パルスPLを発する。
【0017】
発信回路VDは、発光素子VCSELが発した複数のパルス光PLに対応する複数の発光パルス信号vcselを後述される時間-デジタル変換部TDCへ送信する。つまり、発信回路VDは、発光素子VCSELからパルス光PLが発せられたタイミングと同期したタイミングで発光パルス信号vcselを時間-デジタル変換部TDCへ送信する。したがって、発信回路VDは、一様乱数に対応したランダムな間隔で発光パルス信号vcselを時間-デジタル変換部TDCへ送信する。
【0018】
反射部材RMは、発光部LEから発せられた複数のパルス光PLを反射する。反射部材RMは、開口Oを有している。開口Oは、発光素子VCSELから発せられた複数のパルス光PLを通過させる。したがって、開口Oにより、パルス光PLの進行方向が規制される。ただし、本実施の形態においては、反射部材RMは設けられていなくてもよい。
【0019】
測距装置MAの近傍に測定対象物MOが存在し、測定対象物MOよりも測距装置MAから遠い位置に非測距対象物NMOが存在する場合がある。この場合、発光素子VCSELから発せられた複数のパルス光PLは、測定対象物MOおよび非測定対象物NMOのそれぞれで反射される。なお、測距対象物MOは、基準位置から測距対象物MOまでの距離を測定したい対象物である。非測距対象物NMOは、距離を測定したい対象物ではない対象物である。
【0020】
対象受光部LRretは、対象受光素子SPADretおよび発信回路RetDを有する。
【0021】
対象受光素子SPADretは、受けた複数のパルス光に応じた複数のパルス信号に変換する受光ダイオードを含む。対象受光素子SPADretは、本実施の形態においては、Single Photon Avalanche Diodeを含んでいる。対象受光素子SPADretは、発光部LEから発せられ後に開口Oを通過した複数のパルス光PLのうち、測距対象物MOおよび非測定対象物NMOのそれぞれで反射された複数の対象パルス光OLを受光する。
【0022】
発信回路RetDは、対象受光素子SPADretが受光した複数の対象パルス光OLにそれぞれ対応する複数の対象パルス信号retを送信する。つまり、発信回路RetDは、対象受光素子SPADretが対象パルス光OLを受光したタイミングと同期したタイミングで対象パルス信号retを送信する。
【0023】
時間-デジタル変換部TDCは、複数の発光パルス信号vcselのそれぞれの発光タイミングおよび複数の対象パルス信号retのそれぞれの対象受光タイミングをデジタル値に変換する。
【0024】
時間-デジタル変換部TDCは、専用の電子回路により構成されており、カウンタC、第1フリップフロップ回路1FF、および第2フリップフロップ回路2FFを備えている。
【0025】
カウンタCは、発振器(図示せず)から同一間隔で送信される複数のパルスを含むクロック信号clkを受信する。カウンタCは、受信したクロック信号clkのパルス数に対応する数のデジタルカウント値を順次出力する。なお、カウンタCは、16進数の場合、たとえば、1~16までの数に対応する数のデジタルカウント値を出力した後、再度1~16までの数に対応するデジタルカウント値を出力する動作を繰り返す。
【0026】
第1フリップフロップ回路1FFは、第1入力端子1IN、第2入力端子2IN、および第1出力端子1OUTを含んでいる。
【0027】
第1入力端子1INは、カウンタCが出力するデジタルカウント値を順次受け入れる。第2入力端子2INは、発信回路VDから出力された複数の発光パルス信号vcselを順次受け入れる。第1出力端子1OUTは、発光パルス信号vcselが第2入力端子2INへ入力されたときに第1入力端子1INへ入力されたデジタルカウント値を、発光タイミングのデジタル値として出力する。
【0028】
第2フリップフロップ回路2FFは、第3入力端子3IN、第4入力端子4IN、および第2出力端子2OUTを含む。
【0029】
第3入力端子3INは、カウンタCから出力されたデジタルカウント値を順次受け入れる。第4入力端子4INは、発信回路RetDから出力された複数の対象パルス信号retを受け入れる。第2出力端子2OUTは、対象パルス信号retが第4入力端子4INへ入力されたときに第3入力端子3INへ入力されたデジタルカウント値を、対象受光タイミングのデジタル値として出力する。
【0030】
対象減算回路Dretは、第2出力端子2OUTから出力された対象受光タイミングのデジタル値と第1出力端子1OUTから出力された発光タイミングのデジタル値との差分bin_retを算出し、出力する。
【0031】
ヒストグラム生成-距離演算部HIDCは、対象受光タイミングのデジタル値と発光タイミングのデジタル値との差分bin_retを横軸とした対象ヒストグラムOHI(
図5参照)を生成する。また、ヒストグラム生成-距離演算部HIDCは、対象ヒストグラムOHI(
図5参照)の重心に基づいて、予め定められた基準位置から測距対象物MOまでの距離を算出する。より具体的には、ヒストグラム生成-距離演算部HIDCは、基準時刻から対象ヒストグラムOHI(
図5参照)の重心の時刻まで時間差に光の速度を掛け算する。
【0032】
ヒストグラム生成-距離演算部HIDCは、本実施の形態においては、専用の電子回路により構成されているが、プロセッサおよびそのプロセッサに基づいて上記の動作をするプログラムにより構成されていてもよい。
【0033】
図2は、発光パルス信号vcselと対象パルス信号retの一例を示す図である。
【0034】
図2においては、測定範囲が8binであり、ランダム値が0bin~16binであり、非測距対象物NMOが17binの位置にある場合の発光パルス信号vcselおよび対象パルス信号retのタイミングが示されている。
【0035】
ランダム値が0bin~9binの場合、非測距対象物NMOで反射されたパルス光については、2回目の発光パルス信号vcselと1回目の対象パルス信号retとの差分bin_retが次の(式1)で示されるように算出される。
【0036】
(式1) 差分bin_ret=17bin-(2回目の発光パルスの開始タイミング)=17bin-8bin-random_wait=9bin-random
この(式1)から分かるように、差分bin_ret=9bin-random
は、固定値と一様乱数との差であるため、一様乱数である。
【0037】
この条件が成立する確率は、(17-8)/16=56.2%である。非測距対象物NMOによって反射された全てのパルス光に対応する全ての対象パルス信号retのうちの56.2%が0bin~9binの範囲に拡散される。
【0038】
ランダム値が10bin~16binである場合、非測距対象物NMOで反射されたパルス光については、1回目の発光パルス信号vcselと1回目の対象パルス信号retとの差分bin_retは、次の式(2)で算出される。
【0039】
式(2) 差分bin_ret=17bin-(1回目の発光パルスの開始タイミング)=17bin(これは、固定値であるが、測定範囲外の値として処理される。)
この条件が成立する確率は、(16-(17-8))/16=43.7%である。したがって、非測距対象物NMOによって反射された全てのパルス光に対応する全ての対象パルス信号のうちの43.7%が17binにカウントされる。この17binは、測定範囲外の値であるため、測定値に影響を与えない。17binは測定範囲外である理由は、本実施の形態においては、測定範囲を8binと設定したためである。したがって、0bin~7binの範囲内に収まらない差分bin_Retは、ヒストグラムとしてカウントされない、つまり、無視されている。なお、本実施の形態では、測定範囲を8binと設定したが、この8binは測定範囲の一例である。言い換えると、測定範囲の値は、適宜設定され得るものである。
【0040】
図3は、ランダム値が設定されていないかまたは固定値である場合の非測距対象物NMOからの反射光に対応する対象パルス信号retの非対象ヒストグラムNOHIおよび測距対象物MOからの反射光に対応する対象パルス信号retの対象ヒストグラムOHIである。
【0041】
図3から分かるように、ランダム値が設定されていないかまたは固定値である場合、非対象ヒストグラムNOHIは、フラットになっておらず、対象ヒストグラムOHIのピークと同程度に高いピークを有している。この場合、測距対象物MOの対象ヒストグラムOHIと非測距対象物NMOの非対象ヒストグラムNOHIとを識別することが困難であることもある。そのため、測距対象物MOの対象ヒストグラムの重心を正確に算出することは容易ではない場合がある。したがって、測距対象物MOまでの距離を正確に測定できないことがある。
【0042】
図4は、ランダム値が線形的に増加する場合の非測距対象物NMOからの反射光に対応する対象パルス信号retの対象ヒストグラムOHIおよび測距対象物MOからの反射光に対応する対象パルス信号retのヒストグラムNOHIである。
【0043】
図4から分かるように、ランダム値が線形的に増加する場合、非測距対象物NMOの非対象ヒストグラムがピークを持つために、非測距対象物NMOの非対象ヒストグラムNOHIは、フラットになっていない部分を有している。そのため、非対象ヒストグラムNOHIのピークが、対象ヒストグラムOHIのピークと同程度に高い場合、対象ヒストグラムOHIと非対象ヒストグラムNOHIとを識別することが困難である場合がある。
【0044】
たとえば、非測距対象物NMOが全反射する鏡であるために、反射光の強度が高いと、非対象ヒストグラムNOHIのピークが、対象ヒストグラムOHIのピークと同程度に高くなることが考えられる。この場合、対象ヒストグラムOHIの重心を正確に算出することは容易ではない。したがって、基準位置から測距対象物MOまでの距離を正確に測定できない場合がある。
【0045】
図5は、ランダム値が、一様乱数に対応する場合の非測距対象物NMOからの反射光に対応する対象パルス信号retの非対象ヒストグラムNOHIおよび測距対象物MOからの反射光に対応する対象パルス信号retの対象ヒストグラムOHIである。
【0046】
図5において、非測定対象物NMOで反射した複数の対象パルス光OLについての非対象ヒストグラムNOHIと、測定対象物MOで反射した複数の対象パルス光OLについての対象ヒストグラムOHIとを比較する。この場合、
図5から分かるように、非対象ヒストグラムNOHIは、対象ヒストグラムOHIに比較して、全体として低く、かつ、フラットな形状になる。つまり、ランダム値(random_wait)がランダムである場合、非測距対象ヒストグラムが測定範囲内でフラットに拡散される。
【0047】
そのため、非対象ヒストグラムNOHIと対象ヒストグラムOHIとの識別を容易に行うことができる。その結果、対象ヒストグラムOHIの重心を正確に算出することが容易になる。したがって、近距離を測定する場合においても、距離の誤測定の発生を抑制することができる。これは、本実施の形態の測距装置MAによれば、上記したように、複数のパルス光PLが一様乱数に対応するランダムな間隔で発せられるために、非対象ヒストグラムNOHIがフラットになるからである。
【0048】
図6(a)は、微分非線形性が悪いカウンタが用いられ、かつ、ランダム値が用いられない場合のタイミングチャートであり、
図6(b)は、微分非線形性が悪いカウンタが用いられ、かつ、ランダム値が用いられる場合のタイミングチャートである。
図6(a)および
図6(b)において、内側に数字が書き込まれたボックスの横幅がヒストグラムのbin幅に対応するものとする。
【0049】
図6(b)に示されるように、時間-デジタル変換回路TDCの微分非線形性が悪い場合でも、ランダム値が用いられれば、カウンタCが出力するデジタルカウント値は、その取り得る範囲内において万遍なく使用される。そのため、
図6(b)の場合、
図6(a)の場合に比較して、デジタルカウント値は、ヒストグラムのbin幅の大小に起因した悪影響を受け難くすることができる。
【0050】
したがって、本実施の形態の測距装置MAによれば、時間-デジタル変換部TDCの微分非線形性に起因して生じる対象ヒストグラムOHI(
図5参照)の形状の歪みを低減することができる。そのため、対象ヒストグラムOHIの重心についての誤差の発生を抑制することができる。したがって、予め定められた基準位置から測距対象物MOまでの距離の測定誤差の発生を抑制することができる。
【0051】
(実施の形態2)
図7~
図10を用いて、実施の形態2の測距装置を説明する。なお、下記において実施の形態の測距装置MAと同様である点についての説明は繰り返さない。本実施の形態の測距装置MAは、以下の点で、実施の形態1の測距装置MAと異なる。
【0052】
図7は、実施の形態2の測距装置MAの機能ブロックの概要を示す図である。
【0053】
図7から分かるように、本実施の形態の測距装置MAは、実施の形態1の測距装置MAの構成に加えて、基準受光部LRrefを備えている。基準受光部LRrefは、基準受光素子SPADrefおよび発信回路RefDを有する。
【0054】
基準受光素子SPADrefは、受けた複数のパルス光に応じた複数のパルス信号に変換する受光ダイオードを含む。基準受光素子SPADrefは、複数のパルス光PLのうちの反射部材RMで反射された複数の基準パルス光RLを受光する。
【0055】
発信回路RefDは、基準受光素子SPADrefが受光した複数の基準パルス光RLにそれぞれ対応する複数の基準パルス信号refを送信する。つまり、発信回路RefDは、基準受光素子SPADrefが複数の基準パルス光RLを受光したタイミングと同期したタイミングで基準パルス信号refを送信する。
【0056】
本実施の形態の時間-デジタル変換部TDCは、発光タイミングおよび対象受光タイミングに加えて、複数の基準パルス信号refのそれぞれの基準受光タイミングをデジタル値に変換する。そのために、時間-デジタル変換部TDCは、第1フリップフロップ回路1FFおよび第2フリップフロップ回路2FFに加えて、第3フリップフロップ回路3FFを備えている。
【0057】
第3フリップフロップ回路3FFは、第5入力端子5IN、第6入力端子6IN、第3出力端子3OUTを含んでいる。
【0058】
第5入力端子5INは、カウンタCから出力されるデジタルカウント値を順次受け入れる。第6入力端子6INは、発信回路RefDから送信される複数の基準パルス信号refを順次受け入れる。第3出力端子3OUTは、基準パルス信号refが第6入力端子6INへ入力されたときに第5入力端子5INへ入力されたデジタルカウント値を、基準受光タイミングのデジタル値として出力する。
【0059】
本実施の形態の測距装置MAは、実施の形態1の測距装置MAの構成に加えて、基準減算回路Drefを備えている。
【0060】
基準算回路Drefは、第3出力端子3OUTから出力された基準受光タイミングのデジタル値と第1出力端子1OUTから出力された発光タイミングのデジタル値との差分bin_refを算出し、出力する。
【0061】
本実施の形態においては、ヒストグラム生成-距離演算部HIDCは、基準受光タイミングのデジタル値と発光タイミングのデジタル値との差分bin_refを横軸とした基準ヒストグラムRHI(
図10参照)を生成する。また、実施の形態1と同様に、ヒストグラム生成-距離演算部HIDCは、対象受光タイミングのデジタル値と発光タイミングのデジタル値との差分bin_retを横軸とした対象ヒストグラムOHI(
図10参照)を生成する。
【0062】
ヒストグラム生成-距離演算部HIDCは、基準ヒストグラムRHIの重心と対象ヒストグラムOHIの重心との差分に基づいて、予め定められた基準位置から測距対象物MOまでの距離を算出する。より具体的には、ヒストグラム生成-距離演算部HIDCは、基準ヒストグラムRHIの重心と対象ヒストグラムOHIの重心との差分により特定される時間差に光の速度を掛け算することにより、基準位置から測距対象物MOまでの距離を算出する。
【0063】
図8は、本実施の形態の測距装置MAの動作を説明するためのフローチャートである。
【0064】
本実施の形態の測距装置MAにおいては、まず、ステップS1において、発光部LEが複数のパルス光PLを順次発しながら、差分bin_refの基準ヒストグラムRHIおよび差分bin_retの対象ヒストグラムOHI(
図10参照)を生成する。次に、ステップS2において、差分bin_refの基準ヒストグラムRHIの重心を算出する。次に、ステップS3において、差分bin_retの対象ヒストグラムOHIの重心を算出する。その後、ステップS4において、差分bin_refの基準ヒストグラムRHIの重心と差分bin_retの対象ヒストグラムOHIの重心との差分から、予め定められた基準位置から測距対象物MOまでの距離を算出する。
【0065】
図9は、実施の形態の測距装置MAの内部で送受信される各信号および各デジタル値のタイミングチャートである。
【0066】
図9に示されるように、発光部LEは、実施の形態1で説明したように、発光パルス信号vcselをランダムなタイミングで第1フリップフロップ回路1FFへ送信する。本実施の形態においては、発光パルス信号vcselは、8binとランダム値(random_wait)とに基づいて生成される。第1フリップフロップ回路1FFは、カウンタCがクロック信号clkに基づいて出力するデジタルカウント値を受け入れる。第1フリップフロップ回路1FFは、発光パルス信号vcselを受信したタイミングのデジタル値Dig_vcsel、たとえば、「01」、「15」、「02」、および「0B」を順次出力する。
【0067】
基準受光素子SPADrefは、基準パルス信号refを第3フリップフロップ回路3FFへ送信する。第3フリップフロップ回路3FFは、カウンタCがクロック信号clkに基づいて出力するデジタルカウント値を受け入れる。それにより、第3フリップフロップ回路3FFは、基準パルス信号refを受信したタイミングのデジタル値Dig_ref、たとえば、「03」、「17」、「04」、「0D」を出力する。
【0068】
対象受光部LRretは、2つの対象パルス信号retを第2フリップフロップ回路2FFへ送信する。
【0069】
図9の時間軸において隣り合う2つの対象パルス信号retのうちの先の対象パルス信号retは、測距対象物MOで反射した対象パルス光SPADretに対応する対象パルス信号retである。
図9の時間軸において隣り合う2つの対象パルス信号retのうちの後の対象パルス信号retは、非測距対象物NMOで反射した対象パルス光SPADretに対応する対象パルス信号retである。
【0070】
第2フリップフロップ回路2FFは、カウンタCがクロック信号に基づいて出力するデジタルカウント値を受け入れる。それにより、第2フリップフロップ回路2FFは、対象パルス信号retを受信したタイミングのデジタル値Dig_ref、たとえば、「07」、「12」、「1B」、「06」、「08」、「11」、「13」を出力する。
【0071】
基準減算回路Drefは、基準パルス信号refの基準受光タイミングのデジタルカウント値Dig_refと発光パルス信号vcselの発光タイミングのデジタルカウント値Dig_vcselとの差分bin_refを算出する。差分bin_refは、常の一定の値、たとえば、「02」である。
【0072】
対象減算回路Dretは、対象パルス信号retの対象受光タイミングのデジタルカウント値Dig_refと発光パルス信号vcselの発光タイミングのデジタルカウント値Dig_vcselとの差分bin_retを算出する。差分bin_retは、「0F」、「04」、「03」のように、一様分布のランダム値となる。
【0073】
図10は、実施の形態の測距装置MAによって生成される基準パルス信号refの基準ヒストグラムRHI、対象パルス信号retの非対象ヒストグラムNOHI、および対象パルス信号retの対象ヒストグラムOHIである。
【0074】
図10に示されるように、差分bin_refの基準ヒストグラムRHIは、ほぼ一か所に集中的に描かれる分布を示す。一方、差分bin_retは、一か所に集中的に描かれる分布の部分と、フラットな形状に分散されているように描かれる一様分布の部分と、を有している。
【0075】
図10に示される差分bin_retの対象ヒストグラムOHIおよび差分bin_refの基準ヒストグラムRHIのそれぞれの重心を算出することが可能である。したがって、差分bin_retの対象ヒストグラムOHIの重心と差分bin_refの対象ヒストグラムRHIの重心との差を算出することが可能である。
【0076】
本実施の形態の測距装置MAによっても、複数のパルス光PLが一様乱数に対応するランダムな間隔で発せられる。
【0077】
そのため、
図10に示されるように、非対象ヒストグラムNOHIは、対象ヒストグラムOHIに比較して、全体として低く、かつ、フラットな形状になる。したがって、本実施の形態の測距装置MAによっても、実施の形態1の測距装置MAと同様に、近距離を測定する場合の距離の誤測定の発生を抑制することができる。
【0078】
また、本実施の形態の測距装置MAによっても、実施の形態1の測距装置MAと同様に、時間-デジタル変換部TDCの微分非線形性に起因して生じる象ヒストグラムOHIの形状の歪みを低減することができる。
【0079】
本実施の形態の測距装置MAによれば、実施の形態1の測距装置MAにより得られる効果に加えて、次の効果を得ることができる。
【0080】
差分bin_retの対象ヒストグラムOHIの重心と差分bin_refの基準ヒストグラムの重心との差分を用いるため、発光素子VCSELの発光遅延時間をキャンセルすることができる。
【0081】
図11は、実施の形態2の測距装置MAの発光パルスのクロストーク成分を説明するための構造図である。
図12は、実施の形態2の測距装置MAのパルス光のクロストーク成分に対応する対象パルス信号retのデジタル値を説明するためのヒストグラムである。
【0082】
図12に示されるように、
図11に示される反射部材MAで反射された発光パルスについて、そのクロストーク成分に対応する対象パルス信号retのヒストグラムとその本来の成分の対象パルス信号retのヒストグラムとを区別することができる。本実施の形態の測距装置MAによれば、上記したように、差分bin_retの対象ヒストグラムOHIの重心と差分bin_refの基準ヒストグラムの重心との差分を用いて、測距対象物MOまでの距離を算出する。そのため、前述のクロストーク成分に対応する対象パルス信号retが、算出される測距対象物MOまでの距離に誤差を生じさせることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0083】
MA 測距装置
RT ランダムパルス発生部
LE 発光部
RM 反射部材
MO 測距対象物
LRref 基準受光部
LRret 対象受光部
TDC 時間-デジタル変換部
HIDC ヒストグラム生成-距離演算部
PL パルス光
RL 基準パルス光
OL 対象パルス光
vcsel 発光パルス信号
ref 基準パルス信号
ret 対象パルス信号
RHI 基準ヒストグラム
OHI 対象ヒストグラム