(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102737
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】計測装置、計測方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
G06M 3/00 20060101AFI20240724BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G06M3/00 L
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006827
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】松本 直也
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA13
4C038VB11
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】歩数計測の精度を向上させる。
【解決手段】データ取得部101は、加速度センサにより出力された時系列の加速度データを取得する。タイミング特定部103は、時系列の加速度データに基づいて、加速度が加速度の基準値を上まわる第1タイミングと、加速度が加速度の基準値を下まわる第2タイミングとを特定する。基準範囲決定部104は、時系列の加速度データに対応する加速度波形の振幅と所定の時間内における第1タイミングと第2タイミングとのうち少なくとも一方の個数である第1個数とに基づいて、第1タイミングから第2タイミングまでの時間幅に対する基準範囲を決定する。計数部108は、時間幅判別部105により時間幅が基準範囲内に収まると判別された場合、加速度波形における第1タイミングから第2タイミングまでの波形である部分波形に対して一歩分を計数する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサにより出力された時系列の加速度データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得された前記時系列の加速度データに基づいて、加速度が加速度の基準値を上まわるタイミングである第1タイミングと、前記加速度が前記加速度の基準値を下まわるタイミングである第2タイミングとを特定するタイミング特定手段と、
前記時系列の加速度データに対応する加速度波形の振幅と所定の時間内における前記第1タイミングと前記第2タイミングとのうち少なくとも一方の個数である第1個数とに基づいて、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの時間幅に対する基準範囲を決定する基準範囲決定手段と、
前記時間幅が前記基準範囲決定手段により決定された前記基準範囲内に収まるか否かを判別する時間幅判別手段と、
前記時間幅判別手段により前記時間幅が前記基準範囲内に収まると判別された場合、前記加速度波形における前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの波形である部分波形に対して一歩分を計数する計数手段と、を備える、
計測装置。
【請求項2】
前記基準範囲決定手段は、前記加速度波形の振幅と前記第1個数とに基づいて前記加速度センサを装着しているユーザの状態を推定し、推定した前記ユーザの状態に基づいて前記基準範囲を決定する、
請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記基準範囲決定手段は、前記加速度波形の振幅が第1基準値未満である場合において、前記第1個数が個数閾値以上である場合、前記ユーザの状態が階段を下って走行する状態である階段下降走行状態であると推定し、前記加速度波形の振幅が前記第1基準値未満である場合において、前記第1個数が前記個数閾値未満である場合、前記ユーザの状態が歩行状態であると推定する、
請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記基準範囲決定手段は、前記加速度波形の振幅が第1基準値未満且つ前記第1基準値よりも小さい第2基準値以上である場合において、前記第1個数が個数閾値以上である場合、前記ユーザの状態が階段を下って走行する状態である階段下降走行状態であると推定し、前記加速度波形の振幅が前記第1基準値未満である場合において、前記第1個数が前記個数閾値未満である場合、又は、前記加速度波形の振幅が前記第2基準値未満である場合、前記ユーザの状態が歩行状態であると推定する、
請求項2に記載の計測装置。
【請求項5】
前記基準範囲決定手段は、前記ユーザの状態が前記階段下降走行状態であると推定した場合、前記基準範囲の下限値を第1下限値に決定し、前記ユーザの状態が前記歩行状態であると推定した場合、前記基準範囲の下限値を前記第1下限値よりも大きい第2下限値に決定する、
請求項3又は4に記載の計測装置。
【請求項6】
前記部分波形の振幅が振幅閾値以上であるか否かを判別する振幅判別手段を備え、
前記計数手段は、前記時間幅判別手段により前記時間幅が前記基準範囲内に収まると判別され、且つ、前記振幅判別手段により前記部分波形の振幅が前記振幅閾値以上であると判別された場合、前記部分波形に対して一歩分を計数する、
請求項1から4の何れか1項に記載の計測装置。
【請求項7】
前記加速度波形の振幅に基づいて、前記振幅閾値を決定する振幅閾値決定手段を備える、
請求項6に記載の計測装置。
【請求項8】
加速度センサにより出力された時系列の加速度データを取得し、
前記時系列の加速度データに基づいて、加速度が加速度の基準値を上まわるタイミングである第1タイミングと、前記加速度が前記加速度の基準値を下まわるタイミングである第2タイミングとを特定し、
前記時系列の加速度データに対応する加速度波形の振幅と所定の時間内における前記第1タイミングと前記第2タイミングとのうち少なくとも一方の個数である第1個数とに基づいて、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの時間幅に対する基準範囲を決定し、
前記時間幅が前記基準範囲内に収まるか否かを判別し、
前記時間幅が前記基準範囲内に収まると判別した場合、前記加速度波形における前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの波形である部分波形に対して一歩分を計数する、
計測方法。
【請求項9】
コンピュータを、
加速度センサにより出力された時系列の加速度データを取得するデータ取得手段、
前記データ取得手段により取得された前記時系列の加速度データに基づいて、加速度が加速度の基準値を上まわるタイミングである第1タイミングと、前記加速度が前記加速度の基準値を下まわるタイミングである第2タイミングとを特定するタイミング特定手段、
前記時系列の加速度データに対応する加速度波形の振幅と所定の時間内における前記第1タイミングと前記第2タイミングとのうち少なくとも一方の個数である第1個数とに基づいて、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの時間幅に対する基準範囲を決定する基準範囲決定手段、
前記時間幅が前記基準範囲決定手段により決定された前記基準範囲内に収まるか否かを判別する時間幅判別手段、
前記時間幅判別手段により前記時間幅が前記基準範囲内に収まると判別された場合、前記加速度波形における前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの波形である部分波形に対して一歩分を計数する計数手段、として機能させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、計測装置、計測方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ユーザに装着された加速度センサの出力に基づいて、ユーザの歩行又は走行による歩数を計測する計測装置が知られている。このような計測装置では、ユーザの状態に応じて、各種の閾値を決定することが好適である。例えば、特許文献1には、加速度波形の振幅から推定したユーザの状態に応じて、加速度波形における一歩分の時間幅に関する閾値を決定する技術が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された技術では、ユーザの状態が加速度波形の振幅が大きくなる状態であるほど、加速度波形における一歩分の時間幅が短くなることを前提としている。具体的には、ユーザの状態が走行状態である場合、加速度波形の振幅が大きく、加速度波形における一歩分の時間幅が短くなることが前提である。また、ユーザの状態が歩行状態である場合、加速度波形の振幅が小さく、加速度波形における一歩分の時間幅が長くなることが前提である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ユーザの状態によっては、加速度波形の振幅と加速度波形における一歩分の時間幅との関係が上述した関係にない可能性がある。例えば、ユーザの状態が階段を下降して走行する状態である場合、加速度波形の振幅が小さく、加速度波形における一歩分の時間幅が短いことがある。従って、特許文献1に記載された技術は、歩数計測の精度において改善の余地があるとも考えられる。このため、歩数計測の精度を向上させる技術が望まれている。
【0006】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、歩数計測の精度を向上させる計測装置、計測方法、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示に係る計測装置は、
加速度センサにより出力された時系列の加速度データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得された前記時系列の加速度データに基づいて、加速度が加速度の基準値を上まわるタイミングである第1タイミングと、前記加速度が前記加速度の基準値を下まわるタイミングである第2タイミングとを特定するタイミング特定手段と、
前記時系列の加速度データに対応する加速度波形の振幅と所定の時間内における前記第1タイミングと前記第2タイミングとのうち少なくとも一方の個数である第1個数とに基づいて、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの時間幅に対する基準範囲を決定する基準範囲決定手段と、
前記時間幅が前記基準範囲決定手段により決定された前記基準範囲内に収まるか否かを判別する時間幅判別手段と、
前記時間幅判別手段により前記時間幅が前記基準範囲内に収まると判別された場合、前記加速度波形における前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの波形である部分波形に対して一歩分を計数する計数手段と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、歩数計測の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】オフセット処理後の合成加速度波形の一部を示す図
【
図6】部分波形の時間幅と合成加速度波形の振幅との対応関係を示す図
【
図7】ユーザの状態毎に合成加速度波形の振幅と部分波形の時間幅と時間幅の下限閾値とを示す図
【
図10】実施の形態に係る計測装置が実行する歩数計測処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付す。
【0011】
(実施の形態)
図1は、実施の形態1に係る計測装置100の構成を示す図である。計測装置100は、ユーザの歩行又は走行による歩数を計測する装置である。計測装置100は、ユーザの身体に装着され、ユーザの身体に加わる加速度を検出して、歩数を計測する。計測装置100は、例えば、ユーザの腕、ユーザの腰等に装着される。計測装置100は、歩数を計測する専用の電子機器でもよいし、歩数を計測する機能を有する汎用の電子機器でもよい。歩数を計測する専用の電子機器は、いわゆる歩数計である。汎用の電子機器としては、スマートフォン、スマートウォッチ、携帯電話等がある。
図1に示すように、計測装置100は、制御部11と、記憶部12と、表示部13と、操作受付部14と、通信部15と、検出部16とを備える。
【0012】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、RTC(Real Time Clock)等を備える。CPUは、中央処理装置、中央演算装置、プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)等とも呼び、計測装置100の制御に係る処理及び演算を実行する中央演算処理部として機能する。制御部11において、CPUは、ROMに格納されているプログラム及びデータを読み出し、RAMをワークエリアとして用いて、計測装置100を統括制御する。RTCは、例えば、計時機能を有する集積回路である。なお、CPUは、RTCから読み出される時刻情報から現在日時を特定可能である。
【0013】
記憶部12は、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の不揮発性の半導体メモリを備えており、いわゆる補助記憶装置としての役割を担う。記憶部12は、制御部11が各種処理を実行するために使用するプログラム及びデータを記憶する。また、記憶部12は、制御部11が各種処理を実行することにより生成又は取得するデータを記憶する。
【0014】
表示部13は、制御部11による制御に従って、各種の画像を表示する。例えば、表示部13は、ユーザから各種の操作を受け付けるための画面を表示する。表示部13は、タッチスクリーン、液晶ディスプレイ等を備える。操作受付部14は、ユーザから各種の操作を受け付け、受け付けた操作の内容を示す情報を制御部11に供給する。操作受付部14は、タッチスクリーン、ボタン、レバー等を備える。
【0015】
通信部15は、制御部11による制御に従って、周知の有線通信規格又は周知の無線通信規格に則って、各種の装置と通信する。周知の有線通信規格としては、USB(Universal Serial Bus、登録商標)、Thunderbolt(登録商標)等がある。周知の無線通信規格としては、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、Zigbee(登録商標)等がある。通信部15は、各種の通信規格に準拠した通信インターフェースを備える。
【0016】
検出部16は、計測装置100に加わる加速度を検出する。検出部16は、例えば、X軸方向の加速度と、X軸方向と直交するY軸方向の加速度と、X軸方向とY軸方向とに直交するZ軸方向の加速度とを検出する3軸加速度センサを備える。検出部16は、3つの軸方向のそれぞれについて、時系列の加速度データを出力する。つまり、検出部16は、X軸方向の加速度を示す時系列データと、Y軸方向の加速度を示す時系列データと、Z軸方向の加速度を示す時系列データとを出力する。
【0017】
次に、
図2を参照して、計測装置100の機能について説明する。計測装置100は、機能的には、データ取得部101と、データ処理部102と、タイミング特定部103と、基準範囲決定部104と、時間幅判別部105と、振幅閾値決定部106と、振幅判別部107と、計数部108と、表示制御部109とを備える。これらの各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述され、ROM又は記憶部12に格納される。そして、CPUが、ROM又は記憶部12に記憶されたプログラムを実行することによって、これらの各機能を実現する。
【0018】
データ取得部101は、加速度センサにより出力された時系列の加速度データを取得する。この加速度センサは、例えば、検出部16が備える3軸加速度センサである。データ取得部101は、この3軸加速度センサから各軸方向の時系列の加速度データを取得する。データ取得部101は、データ取得手段の一例である。
【0019】
データ処理部102は、データ取得部101により取得された時系列の加速度データに対して各種の処理を施す。例えば、データ処理部102は、合成処理、フィルタ処理、オフセット処理等を実行する。合成処理は、3軸分の加速度を合成する処理である。合成処理は、例えば、各時刻の加速度について、X軸方向の加速度とY軸方向の加速度とZ軸方向の加速度との二乗和の平方根を算出し、算出した二乗和の平方根を合成加速度として求める処理である。合成処理により、時系列の合成加速度データが算出される。
【0020】
フィルタ処理は、合成処理により得られた時系列の合成加速度データから高周波成分を除去する処理である。一般的に、人間の歩行又は走行時におけるピッチの限界は5Hz程度である。そこで、フィルタ処理では、5Hz以上の信号成分がノイズ成分として除去される。例えば、加速度データのサンプリング周波数が32Hzである場合、タップ数が7であり、タップ係数が1,2,3,4,3,2,1であるローパスフィルタにより、時系列の合成加速度から高周波成分が除去される。フィルタ処理により、高周波成分が除去された時系列の合成加速度データが算出される。
【0021】
図3に、ユーザが走行しているときに取得される、フィルタ処理後の合成加速度波形を示す。合成加速度波形は、時系列の合成加速度データに対応する波形である。
図3において、横軸は、時間であるtを示し、縦軸は、フィルタ処理後の合成加速度であるa1を示す。なお、本実施の形態では、加速度のサンプリング周期は、32Hzである。ユーザが走行している場合、
図3に示すように、合成加速度は、基本的に、周期的に変動する。また、ユーザが歩行している場合に取得される合成加速度も、基本的に、周期的に変動する。なお、歩行時に取得される合成加速度の振幅は、基本的に、走行時に取得される合成加速度の振幅よりも小さい。また、歩行時に取得される合成加速度の変動周期は、基本的に、走行時に取得される合成加速度の変動周期よりも長い。
【0022】
図3において、基本的に、合成加速度波形の1つのピークを一歩と見做すことができる。本実施の形態では、合成加速度波形の1つのピークに対応する波形である部分波形に注目し、部分波形の幅と部分波形の振幅との双方に基づいて、この部分波形が歩行又は走行に起因する波形であるか否かを判別する。この部分波形が歩行又は走行に起因する波形であると判別された場合、一歩分を計数する。部分波形の幅は、基本的に、歩行又は走行のピッチに対応する。部分波形の振幅は、基本的に、歩行又は走行による加速度変化の大きさに対応する。
【0023】
オフセット処理は、フィルタ処理により得られた時系列の合成加速度データから直流成分を除去する処理である。歩行又は走行による加速度の変化から歩数を求める場合、加速度の直流成分は不要である。そこで、オフセット処理では、時系列の合成加速度から直流成分をオフセット成分として除去する。例えば、加速度データのサンプリング周波数が32Hzである場合、タップ数が17であり、各タップ係数が1である平均フィルタにより、時系列の合成加速度の直流成分が算出される。そして、時系列の合成加速度のそれぞれから、算出された直流成分が除去される。オフセット処理により、直流成分が除去された時系列の合成加速度データが算出される。
【0024】
タイミング特定部103は、データ取得部101により取得された時系列の加速度データに基づいて、第1タイミングと第2タイミングとを特定する。第1タイミングは、加速度が加速度の基準値を上まわるタイミングである。第2タイミングは、加速度が加速度の基準値を下まわるタイミングである。加速度の基準値は、例えば、時系列の加速度データが示す加速度の直流成分に対応する値である。具体的には、例えば、加速度の基準値は、直近の規定時間における加速度の平均値である。規定時間は、例えば、1秒間である。
【0025】
直流成分が除去された時系列の合成加速度データに対応する合成加速度波形において、第1タイミングは、正方向に向かってゼロクロスするタイミングであり、第2タイミングは、負方向に向かってゼロクロスするタイミングである。例えば、タイミング特定部103は、データ処理部102が算出した、直流成分が除去された時系列の合成加速度データに基づいて、第1タイミングと第2タイミングとを特定する。
図4に、直流成分が除去された時系列の合成加速度データに対応する合成加速度波形の一部を示す。
図4において、横軸は、時間であるtを示し、縦軸は、オフセット処理後の合成加速度であるa2を示す。
【0026】
図4において、合成加速度が上昇中にゼロクロスするタイミングはt11であり、合成加速度が下降中にゼロクロスするタイミングはt12である。従って、t11を第1タイミングとし、t12を第2タイミングとすることが好適である。しかしながら、t11及びt12を特定する場合、例えば、補間処理に伴う処理負荷が大きい。そこで、本実施の形態では、時系列の合成加速度のうち、負の値から正の値に変化した合成加速度に対応する第1ポイントのタイミングであるt1を第1タイミングと見做す。また、時系列の合成加速度のうち、正の値から負の値に変化した合成加速度に対応する第2ポイントのタイミングであるt2を第2タイミングと見做す。
【0027】
なお、加速度が加速度の基準値を上まわる第1タイミングは、a2が0になった直後のタイミングであるt1に限定されない。例えば、第1タイミングは、a2が0になる直前のタイミングであるt21でもよいし、a2が0になったタイミングであるt11でもよいし、a2が0になる直前のタイミングであるt21とa2が0になった直後のタイミングであるt1との中間のタイミングでもよい。また、加速度が加速度の基準値を下まわる第2タイミングは、a2が0になった直後のタイミングであるt2に限定されない。例えば、第2タイミングは、a2が0になる直前のタイミングであるt22でもよいし、a2が0になったタイミングであるt12でもよいし、a2が0になる直前のタイミングであるt22とa2が0になった直後のタイミングであるt2との中間のタイミングでもよい。
【0028】
図4では、第1ポイントを白抜きの丸で示し、第2ポイントを白抜きの四角で示す。本実施の形態では、直流成分が除去された合成加速度波形のうち第1タイミングであるt1から第2タイミングであるt2までの波形を部分波形という。加速度データのサンプリング周波数が高いほど、t11とt1との差、及び、t12とt2との差は小さい。なお、後述するように、全ての部分波形に対して、歩行又は走行に起因する波形であるか否か判別される。そして、歩行又は走行に起因する波形であると判別された部分波形の個数が歩数に設定される。タイミング特定部103は、タイミング特定手段の一例である。
【0029】
基準範囲決定部104は、時系列の加速度データに対応する加速度波形の振幅と第1個数とに基づいて、第1タイミングから第2タイミングまでの時間幅に対する基準範囲を決定する。第1タイミングから第2タイミングまでの時間幅は、1つの部分波形の時間幅である。つまり、この第2タイミングは、この第1タイミングよりも後の第2タイミングであって、この第1タイミングと隣接する第2タイミングである。従って、第1タイミングから第2タイミングまでの時間幅は、複数の第1タイミングのうち特定の第1タイミングから、複数の第2タイミングのうち、この特定の第1タイミングの直後の第2タイミングまでの時間幅である。
【0030】
第1個数は、所定の時間内における第1タイミングと第2タイミングとのうち少なくとも一方の個数である。つまり、第1個数は、所定の時間内における第1タイミングの個数でもよいし、所定の時間内における第2タイミングの個数でもよいし、所定の時間内における第1タイミングの個数と所定の時間内における第2タイミングの個数との和でもよい。所定の時間は、例えば、直近の2秒間である。
【0031】
ここで、部分波形の時間幅であるT1が基準範囲に収まることが、部分波形が歩行又は走行に起因する波形であると判別されるための1つの条件である。つまり、
図5に示すように、T1がTth1からTth2までの基準範囲に収まる場合、部分波形が歩行又は走行に起因する波形であると判別される可能性がある。一方、T1がTth1からTth2までの基準範囲に収まらない場合、部分波形が歩行又は走行に起因する波形でないと判別される。
【0032】
Tth1は、基準範囲の下限値であり、適宜、下限閾値という。Tth2は、基準範囲の上限値であり、適宜、上限閾値という。T1がTth1に満たない場合、部分波形は、ノイズに起因する波形であると判別される。また、T1がTth2を超える場合、部分波形は、他の要因に起因する波形であると判別される。このように、本実施の形態では、合成加速度波形に含まれる部分波形が歩行又は走行に起因する波形である場合、この部分波形の時間幅が基準範囲内に収まることを前提としている。
【0033】
ところで、部分波形の時間幅は、ユーザの状態により変動すると考えられる。例えば、ユーザが歩行しているときの部分波形の時間幅は、ユーザが走行しているときの部分波形の時間幅よりも大きいことが一般的である。そこで、ユーザの状態を推定し、ユーザの状態に応じて、部分波形の時間幅に対する基準範囲を調整することが好適である。本実施の形態では、基準範囲の下限値である下限閾値がユーザの状態に応じて調整され、基準範囲の上限値である上限閾値が固定値である。
【0034】
ユーザの状態を推定する手法は、適宜、調整することができる。例えば、加速度波形の振幅、より詳細には、直流成分が除去された合成加速度波形の振幅から、ユーザの状態を推定することができる。しかしながら、合成加速度波形の振幅のみからユーザの状態を完全に特定することは容易ではない。そこで、本実施の形態では、合成加速度波形の振幅に加え、上述した第1個数を考慮して、ユーザの状態を推定する。
【0035】
図6に、部分波形の時間幅と合成加速度波形の振幅とユーザの状態との対応関係を示す。
図6において、横軸は、部分波形の時間幅であるT1を示し、縦軸は、合成加速度波形の振幅であるA1を示す。
図6には、ユーザの状態として、走行状態と、早歩き状態と、歩行状態と、階段下降走行状態とが示されている。なお、階段下降走行状態は、階段を下降して走行する状態である。
図7に、ユーザの状態毎に合成加速度波形の振幅と部分波形の時間幅と時間幅の下限閾値とを示す。
【0036】
図6に示すように、ユーザの状態から部分波形の時間幅を推定可能である。また、
図6に示すように、階段下降走行状態を考慮しない場合、合成加速度波形の振幅からユーザの状態を推定可能である。つまり、階段下降走行状態を考慮しない場合、合成加速度波形の振幅から部分波形の時間幅を推定可能である。この場合、合成加速度波形の振幅が大きいほど、部分波形の時間幅が小さい。
【0037】
例えば、合成加速度波形の振幅が大きい場合、ユーザの状態が走行状態であると判別可能であり、部分波形の時間幅が小さいと判別可能である。また、例えば、合成加速度波形の振幅が中程度である場合、ユーザの状態が早歩き状態であると判別可能であり、部分波形の時間幅が中程度であると判別可能である。また、例えば、合成加速度波形の振幅が小さい場合、ユーザの状態が歩行状態であると判別可能であり、部分波形の時間幅が大きいと判別可能である。
【0038】
一方、階段下降走行状態を考慮する場合、合成加速度波形の振幅からユーザの状態を推定することが困難である。つまり、階段下降走行状態を考慮する場合、合成加速度波形の振幅からユーザの状態を推定することが困難であるため、合成加速度波形の振幅から部分波形の時間幅を推定することが困難である。例えば、合成加速度波形の振幅が小さい場合、ユーザの状態が歩行状態と階段下降走行状態との何れの状態であるのか判別することが困難であり、部分波形の時間幅を推定することが困難である。
【0039】
このように、合成加速度波形の振幅のみからユーザの状態を完全に推定することは困難である。そこで、本実施の形態では、合成加速度波形の振幅に加えて、上述した第1個数を考慮して、ユーザの状態を推定する。つまり、歩行又は走行による加速度の変動が大きいほど合成加速度波形の振幅が大きいことを考慮して、合成加速度波形の振幅からユーザの状態を絞り込む。また、歩行又は走行のピッチが速いほど第1個数が多いことを考慮して、第1個数からユーザの状態を更に絞り込む。
【0040】
例えば、ユーザの状態が歩行状態である場合、歩行による加速度の変動は小さく、合成加速度波形の振幅は小さいと考えられる。また、ユーザの状態が階段下降走行状態である場合、階段下降走行による加速度の変動は小さく、合成加速度波形の振幅は小さいと考えられる。このため、ユーザの状態が歩行状態と階段下降走行状態との何れの状態であるのかを、合成加速度波形の振幅のみから判別することが困難である。
【0041】
ここで、ユーザの状態が歩行状態である場合、歩行のピッチは遅く、第1個数は小さいと考えられる。また、ユーザの状態が階段下降走行状態である場合、歩行のピッチは速く、第1個数は大きいと考えられる。このため、ユーザの状態が歩行状態と階段下降走行状態との何れの状態であるのかを、第1個数から判別することが可能である。つまり、本実施の形態では、合成加速度波形の振幅と第1個数とからユーザの状態を推定し、推定したユーザの状態から部分波形の時間幅を推定する。
【0042】
基準範囲決定部104は、推定された時間幅に応じて、下限閾値を設定する。具体的には、
図7に示すように、基準範囲決定部104は、推定された時間幅が大きいほど、下限閾値を大きくする。例えば、基準範囲決定部104は、ユーザの状態が走行状態であると推定した場合、下限閾値を小さくして、走行に起因する部分波形がノイズに起因する部分波形であると見做されることを抑制する。また、基準範囲決定部104は、ユーザの状態が歩行状態であると推定した場合、下限閾値を大きくして、ノイズに起因する部分波形が歩行に起因する部分波形であると見做されることを抑制する。
【0043】
図8を参照して、合成加速度波形の振幅と第1個数とから決定される下限閾値について説明する。合成加速度波形の振幅を求める手法は、適宜、調整することができる。本実施の形態では、直流成分が除去された時系列の合成加速度のうち直近の1秒間における最大の合成加速度である最大加速度を、合成加速度波形の振幅と見做す。つまり、この最大加速度であるAmaxが合成加速度波形の振幅であるA1と見做される。
図8において、横軸は、最大加速度であるAmaxを示し、縦軸は、下限閾値であるTth1を示す。また、
図8において、太い実線はユーザの状態が走行状態と早歩き状態と歩行状態との何れかの状態であるときの下限閾値を示し、太い破線はユーザの状態が階段下降走行状態であるときの下限閾値を示す。
【0044】
基準範囲決定部104は、最大加速度であるAmaxがAc3以上である場合、ユーザの状態が走行状態であると推定し、下限閾値であるTth1をTc1に設定する。Tc1は、例えば、63msecである。基準範囲決定部104は、AmaxがAc3未満且つAc1を超える場合、ユーザの状態が早歩き状態であると推定し、Tth1をTc1からTc2までの何れかの値に設定する。Ac1は、Ac3よりも小さい。Tc2は、Tc1よりも大きく、例えば、125msecである。なお、基準範囲決定部104は、ユーザの状態が早歩き状態であると推定した場合、Amaxが大きいほどTth1を小さくする。
【0045】
基準範囲決定部104は、AmaxがAc1以下であり、且つ、第1個数が個数閾値未満である場合、又は、AmaxがAc2未満である場合、ユーザの状態が歩行状態であると推定し、Tth1をTc2に設定する。Ac2は、Ac1よりも小さい。個数閾値は、歩行又は走行のピッチが3Hz以上である場合と、このピッチが3Hz未満である場合とを区別可能な程度の値に設定される。
【0046】
例えば、第1個数が直近の2秒間における第1タイミングの個数である場合、個数閾値は6に設定される。例えば、第1個数が直近の2秒間における第1タイミング又は第2タイミングの個数である場合、個数閾値は12に設定される。基準範囲決定部104は、AmaxがAc1以下且つAc2以上であり、且つ、第1個数が個数閾値以上である場合、ユーザの状態が階段下降走行状態であると推定し、Tth1をTc1に設定する。
【0047】
以上説明したように、基準範囲決定部104は、加速度波形の振幅と第1個数とに基づいてユーザの状態を推定し、推定したユーザの状態に基づいて基準範囲を決定する。例えば、基準範囲決定部104は、加速度波形の振幅が第1基準値未満且つ第1基準値よりも小さい第2基準値以上である場合において、第1個数が個数閾値以上である場合、ユーザの状態が階段を走行して下降する状態である階段下降走行状態であると推定する。Ac2は、第2基準値の一例である。また、基準範囲決定部104は、加速度波形の振幅が第1基準値未満である場合において、第1個数が個数閾値未満である場合、又は、加速度波形の振幅が第2基準値未満である場合、ユーザの状態が歩行状態であると推定する。
【0048】
基準範囲決定部104は、ユーザの状態が階段下降走行状態であると推定した場合、基準範囲の下限値を第1下限値に決定する。Tc1は、第1下限値の一例である。基準範囲決定部104は、ユーザの状態が歩行状態であると推定した場合、基準範囲の下限値を第1下限値よりも大きい第2下限値に決定する。Tc2は、第2下限値の一例である。基準範囲決定部104は、基準範囲決定手段の一例である。
【0049】
時間幅判別部105は、第1タイミングから第2タイミングまでの時間幅が、基準範囲決定部104が決定した基準範囲内に収まるか否かを判別する。具体的には、時間幅判別部105は、時間幅であるT1が下限閾値であるTth1から上限閾値であるTth2までの範囲内に収まるか否かを判別する。つまり、時間幅判別部105は、部分波形から想定されるピッチが、歩行又は走行に起因するピッチであるか否かを判別する。時間幅判別部105は、時間幅判別手段の一例である。
【0050】
振幅閾値決定部106は、加速度波形の振幅に基づいて、振幅閾値を決定する。振幅閾値は、部分波形の振幅に対する閾値である。本実施の形態では、直流成分が除去された時系列の合成加速度のうち直近の1秒間における最大加速度であるAmaxと最小加速度であるAminとの差である最大差分値であるAdifに基づいて、振幅閾値を決定する。なお、この最大差分値であるAdifは、合成加速度波形の振幅であるA1の倍程度の値であると見做すことができる。
【0051】
図9を参照して、最大差分値から決定される振幅閾値について説明する。
図9において、横軸は、最大差分値であるAdifを示し、縦軸は、振幅閾値であるAthを示す。振幅閾値決定部106は、最大差分値であるAdifがAc11未満である場合、ユーザが歩行又は走行している可能性が低いと推定し、振幅閾値であるAthをAc21からAc22までの何れかの値に設定する。具体的には、振幅閾値決定部106は、この場合、歩数の誤認識が抑制されるように、Adifが小さいほどAthを大きくする。Ac22はAc21よりも大きい。
【0052】
振幅閾値決定部106は、AdifがAc11以上且つAc12以下である場合、ユーザが加速度の変動が少ない歩行又は走行をしている可能性が高いと推定し、AthをAc21に設定する。つまり、振幅閾値決定部106は、計数漏れを軽減するため、Athを比較的小さい値であるAc21にする。加速度の変動が少ない歩行又は走行は、例えば、早歩きでない歩行、階段を下降して下る等である。なお、Ac12はAc11よりも大きい。
【0053】
振幅閾値決定部106は、AdifがAc12よりも大きく且つAc13未満である場合、ユーザが加速度の変動が中程度の歩行又は走行をしている可能性が高いと推定し、AthをAc21からAc23までの何れかの値に設定する。具体的には、振幅閾値決定部106は、Adifが大きいほどAthを大きくする。なお、Adifが大きいほど、Athを大きくしても、計数漏れは起きにくいと考えられる。加速度の変動が中程度の歩行又は走行は、例えば、早歩き、ジョギング等である。Ac23はAc22よりも大きい。
【0054】
振幅閾値決定部106は、AdifがAc13以上である場合、ユーザが走行している可能性が高いと推定し、AthをAc23に設定する。なお、この場合、Adifが十分に大きいため、Athを大きくしても、計数漏れは起きにくいと考えられる。このように、振幅閾値決定部106は、加速度波形の振幅に基づいて、振幅閾値を決定する。振幅閾値決定部106は、振幅閾値決定手段の一例である。
【0055】
振幅判別部107は、部分波形の振幅が振幅閾値以上であるか否かを判別する。例えば、振幅判別部107は、部分波形を表す直流成分が除去された時系列の合成加速度の中に、振幅閾値以上の合成加速度が含まれるか否かを判別する。例えば、
図4においては、白抜きの三角で示す2つのポイントに対応する合成加速度が振幅閾値であるAth以上である。この場合、振幅判別部107は、部分波形の振幅が振幅閾値以上であると判別する。振幅判別部107は、振幅判別手段の一例である。
【0056】
計数部108は、時間幅判別部105が時間幅が基準範囲内に収まると判別し、且つ、振幅判別部107が部分波形の振幅が振幅閾値以上であると判別した場合、部分波形に対して一歩分を計数する。つまり、計数部108は、部分波形の時間幅が歩行又は走行のピッチに対応した時間幅であり、部分波形の振幅が歩行又は走行に伴う加速度の変動量に対応した振幅であると判別した場合、部分波形が歩行又は走行に起因した波形であると見做し、歩数をカウントアップする。計数部108は、計数手段の一例である。
【0057】
表示制御部109は、計数部108による計数結果を表示する。例えば、表示制御部109は、計数部108が求めた歩数を表示するように表示部13を制御する。
【0058】
次に、
図10のフローチャートを参照して、計測装置100が実行する歩数計測処理について説明する。歩数計測処理は、例えば、計測装置100がユーザから歩数計測処理の開始指示を受け付けたことに応答して実行される。
【0059】
まず、計測装置100が備える制御部11は、規定時間分の加速度データを取得する(ステップS101)。例えば、制御部11は、1秒分のX軸方向の加速度データと1秒分のY軸方向の加速度データと1秒分のZ軸方向の加速度データとを検出部16から取得する。制御部11は、ステップS101の処理を完了すると、合成加速度データを生成する(ステップS102)。例えば、制御部11は、各時刻における3方向分の加速度データについて二乗和の平方根を求めて、1秒分の合成加速度データを算出する。
【0060】
制御部11は、ステップS102の処理を完了すると、フィルタ処理を実行する(ステップS103)。つまり、制御部11は、1秒分の合成加速度データをローパスフィルタにかけて、高周波成分が除去された1秒分の合成加速度データを取得する。制御部11は、ステップS103の処理を完了すると、オフセット処理を実行する(ステップS104)。つまり、制御部11は、高周波成分が除去された1秒分の合成加速度の平均値を求め、高周波成分が除去された1秒分の合成加速度のそれぞれから平均値を除算することにより、直流成分が除去された1秒分の合成加速度データを取得する。
【0061】
制御部11は、ステップS104の処理を完了すると、第1タイミングを特定する(ステップS105)。例えば、制御部11は、直流成分が除去された1秒分の合成加速度データが示す合成加速度波形において、負の値から正の値になるポイントを全て特定する。制御部11は、ステップS105の処理を完了すると、第2タイミングを特定する(ステップS106)。例えば、制御部11は、直流成分が除去された1秒分の合成加速度データが示す合成加速度波形において、正の値から負の値になるポイントを全て特定する。
【0062】
制御部11は、ステップS106の処理を完了すると、基準範囲決定処理を実行する(ステップS107)。基準範囲決定処理については、
図11に示すフローチャートを参照して、詳細に説明する。
【0063】
まず、制御部11は、合成加速度波形の振幅が第3基準値以上であるか否かを判別する(ステップS201)。例えば、制御部11は、
図8において、AmaxがAc3以上であるか否かを判別する。制御部11は、合成加速度波形の振幅が第3基準値以上であると判別すると(ステップS201:YES)、走行時用の下限閾値を採用する(ステップS202)。例えば、制御部11は、
図8において、Tc1を基準範囲の下限値として採用する。
【0064】
制御部11は、合成加速度波形の振幅が第3基準値以上でないと判別すると(ステップS201:NO)、合成加速度波形の振幅が第1基準値以上であるか否かを判別する(ステップS203)。例えば、制御部11は、
図8において、AmaxがAc1以上であるか否かを判別する。制御部11は、合成加速度波形の振幅が第1基準値以上であると判別すると(ステップS203:YES)、早歩き時用の下限閾値を採用する(ステップS204)。例えば、制御部11は、
図8において、Tc1からTc2までの何れかの値を基準範囲の下限値として採用する。
【0065】
制御部11は、合成加速度波形の振幅が第1基準値以上でないと判別すると(ステップS203:NO)、合成加速度波形の振幅が第2基準値以上であるか否かを判別する(ステップS205)。例えば、制御部11は、
図8において、AmaxがAc2以上であるか否かを判別する。制御部11は、合成加速度波形の振幅が第2基準値以上であると判別すると(ステップS205:YES)、所定の時間内のゼロクロス回数が回数閾値以上であるか否かを判別する(ステップS206)。所定の時間内のゼロクロス回数は、上述した第1個数に対応する。回数閾値は、上述した個数閾値に対応する。
【0066】
制御部11は、所定の時間内のゼロクロス回数が回数閾値以上であると判別すると(ステップS206:YES)、階段下降走行時用の下限閾値を採用する(ステップS207)。例えば、制御部11は、
図8において、Tc1を基準範囲の下限値として採用する。制御部11は、合成加速度波形の振幅が第2基準値以上でないと判別した場合(ステップS205:NO)、又は、所定の時間内のゼロクロス回数が回数閾値以上でないと判別した場合(ステップS206:NO)、歩行時用の下限閾値を採用する(ステップS208)。例えば、制御部11は、
図8において、Tc2を基準範囲の下限値として採用する。
【0067】
制御部11は、ステップS202、ステップS204、ステップS207又はステップS208の処理を完了すると、予め定められた上限閾値を採用する(ステップS209)。制御部11は、ステップS209の処理を完了すると、基準範囲決定処理を完了する。
【0068】
制御部11は、ステップS107の基準範囲決定処理を完了すると、振幅閾値決定処理を実行する(ステップS108)。例えば、制御部11は、
図9を参照して説明したように、最大差分値から振幅閾値を決定する。制御部11は、ステップS108の処理を完了すると、未選択の部分波形があるか否かを判別する(ステップS109)。つまり、制御部11は、1秒分の合成加速度波形に含まれる部分波形のうちステップS110で選択されていない部分波形があるか否かを判別する。なお、部分波形は、1秒分の合成加速度波形における第1タイミングから第2タイミングまでの波形である。1秒分の合成加速度波形には、1つ以上の部分波形が含まれることもあるし、部分波形が含まれていないこともある。
【0069】
制御部11は、未選択の部分波形がないと判別すると(ステップS109:NO)、ステップS101に処理を戻す。ここで、1秒分の合成加速度波形において、最新の第2タイミングよりも後のタイミングに第1タイミングが含まれている場合、この最新の第2タイミング以降の合成加速度データが、以後の処理に持ち越される。かかる構成によれば、部分波形の検出漏れが抑制され、計数漏れが抑制される。
【0070】
制御部11は、未選択の部分波形があると判別すると(ステップS109:YES)、部分波形を選択する(ステップS110)。例えば、制御部11は、1秒分の合成加速度波形に含まれる1つ以上の部分波形から未選択の部分波形を選択する。なお、部分波形を選択することは、第1タイミングとこの第1タイミングの後に続く第2タイミングとの組を選択することに対応する。
【0071】
制御部11は、ステップS110の処理を完了すると、部分波形の時間幅が基準範囲内であるか否かを判別する(ステップS111)。例えば、制御部11は、
図5に示す例において、T1がTth1からTth2までの範囲内にあるか否かを判別する。制御部11は、部分波形の時間幅が基準範囲内であると判別すると(ステップS111:YES)、部分波形の振幅が振幅閾値以上であるか否かを判別する(ステップS112)。例えば、制御部11は、
図4に示す例において、部分波形を構成する時系列の合成加速度の中にAthを超える合成加速度があるか否かを判別する。
【0072】
制御部11は、部分波形の振幅が振幅閾値以上であると判別すると(ステップS112:YES)、部分波形に対して一歩分を計数する(ステップS113)。制御部11は、部分波形の時間幅が基準範囲内でないと判別した場合(ステップS111:NO)、部分波形の振幅が振幅閾値以上でないと判別した場合(ステップS112:NO)、又は、ステップS113の処理を完了した場合、ステップS109に処理を戻す。
【0073】
次に、
図12を参照して、計測装置100による歩数計測の誤差について説明する。
図12には、計測装置100と比較例に係る計測装置とのそれぞれを用いて、各種の歩き方又は走り方について歩数計測を実施したときの計測誤差を示している。歩数計数の計測誤差は、歩数計測により得られた歩数をM,真の歩数をTとして、(M-T)/Tのパーセント表示で表している。
【0074】
図12では、比較例に係る計測装置による計測誤差を白抜きの四角で示し、計測装置100による計測誤差を黒色の四角で示している。なお、計測装置100は第1個数を考慮した歩数計測を実施し、比較例に係る計測装置は第1個数を考慮しない歩数計測を実施する。つまり、計測装置100は、合成加速度波形の振幅と第1個数とからユーザの状態を推定し、ユーザの状態から部分波形の時間幅に対する基準範囲を決定する。一方、比較例に係る計測装置は、合成加速度波形の振幅からユーザの状態を推定し、ユーザの状態から部分波形の時間幅に対する基準範囲を決定する。
【0075】
計測装置100による計測誤差と比較例に係る計測装置による計測誤差とを比較すると、腕振り走行で階段を下る場合に大きな差異が見られ、他の歩き方又は走り方では大きな差違は見られない。具体的には、腕振り走行で階段を下る場合、計測装置100による計測誤差は-9.9±13.0%であり、比較例に係る計測装置による計測誤差は-22.5±19.5%である。また、計測装置100による全体の計測誤差は0.9±6.4%であり、比較例に係る計測装置による全体の計測誤差は-1.7±6.3%である。このように、腕振り走行で階段を下る場合、第1個数を考慮した歩数計測を実施することにより、計測誤差を小さくすることが確認できた。
【0076】
なお、第1個数を考慮しない歩数計測では、合成加速度波形の振幅のみからユーザの状態が推定されるため、ユーザの状態が適切に推定されない可能性がある。例えば、第1個数を考慮しない歩数計測では、実質的に、合成加速度波形の振幅が小さいほど、部分波形の時間幅が大きく推定され、時間幅の下限閾値が大きく設定される。ここで、階段を走行して下る場合、合成加速度波形の振幅は小さいが、部分波形の時間幅も小さい。このため、第1個数を考慮しない歩数計測では、階段を走行して下る場合、時間幅の下限閾値が不当に大きく設定される。その結果、階段下降走行に起因した部分波形がノイズに起因した波形であると見做されて計数漏れが発生し、真の歩数よりも小さい歩数が計測される。
【0077】
一方、第1個数を考慮する歩数計測では、合成加速度波形の振幅と第1個数とからユーザの状態が推定されるため、ユーザの状態が適切に推定される。従って、第1個数を考慮する歩数計測では、部分波形の時間幅が適切に推定され、時間幅の下限閾値が適切に設定される。このため、第1個数を考慮しない歩数計測では、例えば、階段を走行して下る場合、時間幅の下限閾値が適切に小さく設定される。その結果、階段下降走行に起因した部分波形が歩行又は走行に起因した波形であると適切に見做されて、真の歩数に近い歩数が計測される。
【0078】
本実施の形態では、加速度波形の振幅と第1個数とに基づいて基準範囲が決定され、部分波形の時間幅が基準範囲内に収まると判別された場合、部分波形に対して一歩分が計数される。従って、本実施の形態によれば、部分波形が歩行又は走行に起因した波形であるか否かが適切に判別され、歩数計測の精度を向上させることができる。
【0079】
また、本実施の形態では、加速度波形の振幅と第1個数とに基づいて加速度センサを装着しているユーザの状態が推定され、推定されたユーザの状態に基づいて基準範囲が決定される。従って、本実施の形態によれば、ユーザの状態に応じた適切な基準範囲を設定することができる。
【0080】
また、本実施の形態では、加速度波形の振幅が第1基準値未満且つ第1基準値よりも小さい第2基準値以上である場合において、第1個数が個数閾値以上である場合、ユーザの状態が階段を下降して走行する状態である階段下降走行状態であると推定される。また、加速度波形の振幅が第1基準値未満である場合において、第1個数が個数閾値未満である場合、又は、加速度波形の振幅が第2基準値未満である場合、ユーザの状態が歩行状態であると推定される。従って、本実施の形態によれば、ユーザの状態が階段下降走行状態と歩行状態との何れの状態であるのかを適切に判別することができる。
【0081】
また、本実施の形態では、ユーザの状態が階段下降走行状態であると推定された場合、基準範囲の下限値が第1下限値に決定され、ユーザの状態が歩行状態であると推定された場合、基準範囲の下限値が第1下限値よりも大きい第2下限値に決定される。従って、本実施の形態によれば、階段下降走行状態又は歩行状態に応じた適切な基準範囲を設定することができる。
【0082】
また、本実施の形態では、部分波形の時間幅が基準範囲内に収まると判別され、且つ、部分波形の振幅が振幅閾値以上であると判別された場合、部分波形に対して一歩分が計数される。従って、本実施の形態によれば、部分波形が歩行又は走行に起因した波形であるか否かを更に適切に判別し、歩数計測の精度を更に向上させることができる。
【0083】
また、本実施の形態では、加速度波形の振幅に基づいて振幅閾値が決定される。従って、本実施の形態によれば、部分波形が歩行又は走行に起因した波形であるか否かを更に適切に判別し、歩数計測の精度を更に向上させることができる。
【0084】
(変形例)
以上、実施の形態を説明したが、種々の形態による変形及び応用が可能である。上記実施の形態において説明した構成、機能、動作のどの部分を採用するのかは任意である。また、上述した構成、機能、動作のほか、更なる構成、機能、動作が採用されてもよい。また、上記実施の形態において説明した構成、機能、動作は、自由に組み合わせることができる。
【0085】
実施の形態では、加速度波形の振幅が第1基準値未満である場合、加速度波形の振幅と第1個数との双方に基づいて、ユーザの状態が階段下降走行状態と歩行状態との何れであるのかを判別する例について説明した。加速度波形の振幅が第1基準値未満である場合、第1個数のみに基づいて、ユーザの状態が階段下降走行状態と歩行状態との何れであるのかを判別してもよい。この場合、基準範囲決定部104は、加速度波形の振幅が第1基準値未満である場合において、第1個数が個数閾値以上である場合、ユーザの状態が階段を下って走行する状態である階段下降走行状態であると推定する。また、基準範囲決定部104は、加速度波形の振幅が第1基準値未満である場合において、第1個数が個数閾値未満である場合、ユーザの状態が歩行状態であると推定する。
【0086】
実施の形態では、部分波形の時間幅と部分波形の振幅との双方から部分波形が歩行又は走行に起因した波形であるか否かを判別する例について説明した。部分波形の時間幅のみから部分波形が歩行又は走行に起因した波形であるか否かを判別してもよい。
【0087】
実施の形態では、二乗和の平方根の算出により、3軸の加速度データから合成加速度データを算出する例について説明した。二乗平均平方根の算出により、3軸の加速度データから合成加速度データを算出してもよい。実施の形態では、計測装置100は、3軸の加速度データを取得し、3軸の加速度データから合成加速度データを求める例について説明した。計測装置100は、2軸の加速度データを取得し、2軸の加速度データから合成加速度データを求めてもよいし、1軸の加速度データを取得し、1軸の加速度データから合成加速度データを求めてもよい。なお、計測装置100は、二乗和の平方根又は二乗平均平方根の算出により、合成加速度データを求めることができる。
【0088】
実施の形態では、時系列の合成加速度のうち、負の値から正の値に変化した合成加速度に対応するt1を第1タイミングと見做し、時系列の合成加速度のうち、正の値から負の値に変化した合成加速度に対応するt2を第2タイミングと見做す例について説明した。時系列の合成加速度のうち、負の値から正の値に変化する直前の合成加速度に対応するタイミングであるt21を第1タイミングと見做し、時系列の合成加速度のうち、正の値から負の値に変化した合成加速度に対応するタイミングであるt22を第2タイミングと見做してもよい。また、合成加速度が上昇中にゼロクロスするタイミングであるt11を第1タイミングと見做し、合成加速度が下降中にゼロクロスするタイミングであるt12を第2タイミングと見做してもよい。なお、t11及びt12は、周知の補間処理により算出することができる。例えば、t21とt1との平均値をt11として算出し、t22とt2との平均値をt12として算出してもよい。
【0089】
実施の形態では、基準範囲の下限値である下限閾値を可変値とし、基準範囲の上限値である上限閾値を固定値とする例について説明した。下限閾値と上限閾値との双方を可変値としてもよい。実施の形態では、早歩き用の下限閾値は、最大加速度に応じた可変値である例について説明した。早歩き用の下限閾値は、Tc1よりも大きくTc2よりも小さい固定値でもよい。
【0090】
実施の形態では、直近の1秒間における合成加速度の最大値、又は、直近の1秒間における合成加速度の最大値と最小値との差である最大差分値を、合成加速度波形の振幅と見做す例について説明した。直近の1秒間における合成加速度の直流成分の値を、合成加速度波形の振幅と見做してもよい。
【0091】
実施の形態では、階段下降走行状態と歩行状態との判別に第1個数を用いる例について説明した。他の状態の判別に第1個数を用いてもよい。実施の形態では、合成加速度波形の振幅と第1個数とからユーザの状態を推定し、ユーザの状態から部分波形の時間幅に対する基準範囲を決定する例について説明した。ユーザの状態を推定せずに、合成加速度波形の振幅と第1個数とから基準範囲を決定してもよい。
【0092】
上記実施の形態では、制御部11において、CPUがROM又は記憶部12に記憶されたプログラムを実行することによって、
図2に示した各部として機能した。しかしながら、本開示において、制御部11は、専用のハードウェアであってもよい。専用のハードウェアとは、例えば単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらの組み合わせ等である。制御部11が専用のハードウェアである場合、各部の機能それぞれを個別のハードウェアで実現してもよいし、各部の機能をまとめて単一のハードウェアで実現してもよい。また、各部の機能のうち、一部を専用のハードウェアによって実現し、他の一部をソフトウェア又はファームウェアによって実現してもよい。このように、制御部11は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又は、これらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0093】
本開示に係る計測装置100の動作を規定する動作プログラムを既存のパーソナルコンピュータ又は情報端末装置等のコンピュータに適用することで、当該コンピュータを、本開示に係る計測装置100として機能させることも可能である。また、このようなプログラムの配布方法は任意であり、例えば、CD-ROM(Compact Disk ROM)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto Optical Disk)、又は、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布してもよいし、インターネット等の通信ネットワークを介して配布してもよい。
【0094】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして特許請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、本開示の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0095】
11 制御部、12 記憶部、13 表示部、14 操作受付部、15 通信部、16 検出部、100 計測装置、101 データ取得部、102 データ処理部、103 タイミング特定部、104 基準範囲決定部、105 時間幅判別部、106 振幅閾値決定部、107 振幅判別部、108 計数部、109 表示制御部