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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102739
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】マウント装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 5/12 20060101AFI20240724BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240724BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240724BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20240724BHJP
   F16F 1/387 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B60K5/12 J
F16F15/02 C
F16F15/08 W
F16F15/08 K
F16F1/38 Z
F16F15/02 D
F16F1/387 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006829
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 正樹
(72)【発明者】
【氏名】桑野 祐希
(72)【発明者】
【氏名】乗越 真
(72)【発明者】
【氏名】田中 将志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔太
【テーマコード(参考)】
3D235
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB18
3D235BB23
3D235CC12
3D235EE04
3D235EE09
3D235EE10
3D235EE14
3D235EE20
3J048AA01
3J048AD07
3J048AD11
3J048BA19
3J048BB06
3J048BF02
3J048CB07
3J048CB30
3J048DA07
3J048EA36
3J059AA04
3J059BA42
3J059BB03
3J059BC06
3J059DA14
3J059GA09
3J059GA28
(57)【要約】
【課題】電気モータを含むパワーユニットを自動車の車体に支持させるマウント装置において、高周波振動の伝達を抑制する。
【解決手段】マウント装置1は、車体に固定される第1ブラケット2と、パワーユニット8が取り付けられる第2ブラケット4と、を備え、第2ブラケットは、第1ブラケットに固定されるスリーブ41と、スリーブに外挿される挿入孔56を有する中間マス5と、スリーブと中間マスとの間に充填される第1弾性体42と、内側に中空部7を有すると共に、外側に取付部62を有する枠体6と、枠体と中間マスとを連結する第2弾性体43と、を有し、枠体は、中間マスに対して対向する第1対向面63を有し、第2ブラケットは、第1対向面と中間マスとの間に介在する第1ストッパ44を有し、第1ストッパは、第2ブラケットが第1ブラケットに対して相対変位する場合に、第1対向面又は中間マスに対して当たる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体に取り付けられかつ、電気モータを含むパワーユニットを前記車体に支持させるマウント装置であって、
前記車体にリジッドに固定されると共に、ボルトの締結孔を有する第1ブラケットと、
前記パワーユニットが取り付けられると共に、前記第1ブラケットに支持される第2ブラケットと、を備え、
前記第2ブラケットは、
前記締結孔に螺合される前記ボルトによって前記第1ブラケットに固定されるスリーブであって、前記第1ブラケットから車幅方向に延びるスリーブと、
前記スリーブに外挿される挿入孔を有する中間マスと、
前記スリーブと前記中間マスとの間の筒状の空間に充填されかつ、前記スリーブと前記中間マスとを連結する第1弾性体と、
前記車幅方向に直交する上下方向及び前後方向について、前記中間マスの上下及び前後を囲む枠体であって、内側に前記中間マスが収容される中空部を有すると共に、外側に前記パワーユニットが取り付けられる取付部を有する枠体と、
前記枠体の内面と前記中間マスとを連結する第2弾性体であって、前記枠体を通じて前記パワーユニットを支持すると共に、前記パワーユニットの振動を前記枠体から前記中間マスへ伝達させる第2弾性体と、を有し、
前記枠体は、前記中空部の一部を形成する面であって、前記中間マスの前後それぞれにおいて、前記中間マスに対して前記前後方向に対向する第1対向面を有し、
前記第2ブラケットは、前記第1対向面と前記中間マスとの間に介在しかつ、前記第1対向面又は前記中間マスに対して第1隙間を空けている第1ストッパを有し、
前記第1ストッパは、前記パワーユニットの駆動又は制動に起因して、前記第2ブラケットが前記第1ブラケットに対して前記前後方向に相対変位する場合に、前記第1対向面又は前記中間マスに対して前記前後方向に当たる、マウント装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマウント装置において、
前記第1ブラケットは、前記車幅方向に延びかつ、少なくとも先端部が前記中空部内に位置する、少なくとも1のバーを有し、
前記枠体は、前記中空部の一部を形成する面であって、前記バーの前又は後において、前記バーに対して前記前後方向に対向する第2対向面を有し、
前記バーと前記第2対向面との間には、前記第2ブラケットが前記第1ブラケットに対して前記前後方向に相対変位する場合に、前記バー又は前記第2対向面に対して前記前後方向に当たる第2ストッパが介在し、
前記第2ストッパは、前記バー又は前記第2対向面に対して、前記第1隙間よりも大きい第2隙間を空けている、マウント装置。
【請求項3】
請求項2に記載のマウント装置において、
前記第1ブラケットは、前記中間マスの前後それぞれに位置する二つのバーを有し、
前記二つのバーは共に、前記中間マスに対して前記上下方向に重なる位置に位置し、
前記中空部は、前記中間マスが収容される中央部と、前記中央部の前後それぞれにおいて前記バーが収容される二つの拡張部と、有し、
前記中央部と前記二つの拡張部とは互いに連通していて、前記中空部は、前記車幅方向の軸に沿って見た場合に、逆T字状を成している、マウント装置。
【請求項4】
請求項3に記載のマウント装置において、
前記枠体は、前記中空部の一部を形成する面であって、前記各バーの上下それぞれにおいて、前記バーに対して前記上下方向に対向する第3対向面を有し、
前記バーと前記第3対向面との間には、前記第2ブラケットが前記第1ブラケットに対して前記上下方向に相対変位する場合に、前記バー又は前記第3対向面に対して前記上下方向に当たる第3ストッパが介在している、マウント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、マウント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マウント装置としてのブッシュ装置が記載されている。従来のブッシュ装置は、電動車両のフレームに取り付けられ、走行用の電気モータを含む被支持体を支持する。従来のブッシュ装置は、二重ラバーマウントシステムを採用している。
【0003】
より具体的に、従来のブッシュ装置は、外筒と、内筒と、外側弾性体と、内側弾性体と、中間板と、マス部材とを備えている。外筒は、円筒形であって、被支持体に取り付けられる。内筒も、円筒形であって、外筒の内側に位置している。内筒は、フレームに取り付けられる。外側弾性体は、外筒と内筒との間において、外筒側に位置している。内側弾性体は、外筒と内筒との間において、内筒側に位置している。中間板は、円筒形であって、外筒及び内筒と同心となるように、外側弾性体と内側弾性体との間に位置している。中間板の両端は、ブッシュ装置の軸方向について、外筒よりも外方に突出している。マス部材は、中間板の両端それぞれに取り付けられている。中間板及びマス部材は、二重ラバーマウントシステムの中間マスである。
【0004】
電動車両において電気モータは高速回転する。電気モータによって生じる高周波振動は、フレームに伝達することによって車室内の騒音になる。二重ラバーマウントシステムは、電気モータによって生じた高周波振動のフレームへの伝達を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-178854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば車両に搭載する電気モータの定格出力がさらに大きくなる、及び/又は、車室内の騒音レベルの目標値がさらに低下する(つまり、車室内の騒音をさらに小さくすることが要求される)場合、マウント装置は、高周波振動の伝達をさらに抑制しなければならない。二重ラバーマウントシステムを採用するマウント装置においては、(1)中間マスの質量を大きくする、及び/又は、(2)中間マスと車体側の部材とを連結する弾性体のばね定数を小さくすることが、高周波振動の伝達率をさらに下げる。
【0007】
従来のブッシュ装置において中間マスの質量を大きくしようとすれば、外筒の外に位置しているマス部材を大きくしなければならない。ブッシュ装置が大型化してしまうという問題がある。
【0008】
一方、従来のブッシュ装置において、中間板と内筒とを連結する内側弾性体のばね定数を小さくすれば、高周波振動の伝達を抑制できる。内側弾性体のばね定数を小さくすると、当該ブッシュ装置は、被支持体と車体側の部材との間の相対変位を規制する構造を必要とする。従来のブッシュ装置は、中間板に取り付けられるマス部材がリング形状であり、マス部材の中心孔に、内筒の両端部が内挿されている。内筒と外筒との相対変位が大きくなると、マス部材と内筒との干渉によって、内筒と外筒との相対変位が規制される。
【0009】
ところが、従来のブッシュ装置においてマス部材と内筒とが干渉すれば、マス部材と内筒との間に介在する内側弾性体の弾性変形が妨げられるため、マス部材と内筒との間のばね定数が大きくなってしまう。内側弾性体の小ばね定数により高周波振動の伝達を抑制する効果が得られなくなる。
【0010】
ここに開示する技術は、電気モータを含むパワーユニットを自動車の車体に支持させるマウント装置において、高周波振動の伝達を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここに開示する技術は、自動車の車体に取り付けられかつ、電気モータを含むパワーユニットを前記車体に支持させるマウント装置に係る。このマウント装置は、
前記車体にリジッドに固定されると共に、ボルトの締結孔を有する第1ブラケットと、
前記パワーユニットが取り付けられると共に、前記第1ブラケットに支持される第2ブラケットと、を備え、
前記第2ブラケットは、
前記締結孔に螺合される前記ボルトによって前記第1ブラケットに固定されるスリーブであって、前記第1ブラケットから車幅方向に延びるスリーブと、
前記スリーブに外挿される挿入孔を有する中間マスと、
前記スリーブと前記中間マスとの間の筒状の空間に充填されかつ、前記スリーブと前記中間マスとを連結する第1弾性体と、
前記車幅方向に直交する上下方向及び前後方向について、前記中間マスの上下及び前後を囲む枠体であって、内側に前記中間マスが収容される中空部を有すると共に、外側に前記パワーユニットが取り付けられる取付部を有する枠体と、
前記枠体の内面と前記中間マスとを連結する第2弾性体であって、前記枠体を通じて前記パワーユニットを支持すると共に、前記パワーユニットの振動を前記枠体から前記中間マスへ伝達させる第2弾性体と、を有し、
前記枠体は、前記中空部の一部を形成する面であって、前記中間マスの前後それぞれにおいて、前記中間マスに対して前記前後方向に対向する第1対向面を有し、
前記第2ブラケットは、前記第1対向面と前記中間マスとの間に介在しかつ、前記第1対向面又は前記中間マスに対して第1隙間を空けている第1ストッパを有し、
前記第1ストッパは、前記パワーユニットの駆動又は制動に起因して、前記第2ブラケットが前記第1ブラケットに対して前記前後方向に相対変位する場合に、前記第1対向面又は前記中間マスに対して前記前後方向に当たる。
【0012】
このマウント装置は、第1ブラケットと第2ブラケットとを備えている。第2ブラケットは、スリーブと、中間マスと、第1弾性体と、枠体と、第2弾性体とを備えている。第1ブラケットに固定されるスリーブと、パワーユニットが取り付けられる枠体との間には、第1弾性体、中間マス、及び、第2弾性体が介在している。振動源であるパワーユニットと、振動源を支持する車体との間の振動の伝達経路は、第2弾性体、中間マス、及び、第1弾性体によって形成される。マウント装置は、二重ラバーマウントシステムを採用している。マウント装置は、高周波振動の伝達抑制に有利である。
【0013】
高周波振動の伝達抑制を高めるために、第1弾性体のばね定数は小さいことが有利である。その一方で、第2ブラケットと第1ブラケットとの間の相対変位が大きくなり過ぎないように規制しなければならない。
【0014】
このマウント装置の枠体は、第1対向面を有している。第1対向面は、中間マスを収容する中空部の一部を形成する面であって、中間マスの前後それぞれにおいて、中間マスに対して前後方向に対向する。パワーユニットの駆動又は制動に起因して、第2ブラケットが第1ブラケットに対して前後方向に相対変位する場合に、第1対向面と中間マスとは干渉し合う。
【0015】
第2ブラケットは、第1ストッパを有している。第1ストッパは、第1対向面と中間マスとの間に介在している。第1ストッパは、中間マスに固定され、第1対向面に対して第1隙間を空けて位置していてもよい。第1ストッパは、第1対向面に固定され、中間マスに対して第1隙間を空けて位置していてもよい。
【0016】
第2ブラケットが第1ブラケットに対して前後方向に相対変位すると、第1ストッパは、第1対向面又は中間マスに対して前後方向に当たる。枠体と中間マスとの相対変位がそれ以上に大きくなることが規制される。第1ストッパは、中間マスとスリーブとの間の相対変位は規制しない。第1ストッパが相対変位を規制した後も、第1弾性体によって連結されている中間マスとスリーブとの間のばね定数は、小さいばね定数を維持できる。マウント装置における、中間マスの慣性効果による高周波振動の伝達抑制効果が損なわれない。マウント装置は、パワーユニットと車体との間の大きな相対変位を抑制しながら、高周波振動の伝達を抑制できる。
【0017】
ここで、第1弾性体を硬質ゴム製とした場合に、第1弾性体のばね定数を小さくする目的で第1弾性体の厚みを薄くすることが考えられる。しかし、厚みが薄い第1弾性体は、荷重の繰り返し作用に対する耐久性が著しく劣るようになる。第1ストッパは、第1弾性体に大きな荷重が作用して内部に歪が発生する頻度を低減できる。二重ラバーマウントシステムである前記のマウント装置は、ばね定数が小さい第1弾性体と第1ストッパとの組み合わせによって、高周波振動の伝達抑制と、マウント装置としての耐久性とを両立できる。
【0018】
前記第1ブラケットは、前記車幅方向に延びかつ、少なくとも先端部が前記中空部内に位置する、少なくとも1のバーを有し、
前記枠体は、前記中空部の一部を形成する面であって、前記バーの前又は後において、前記バーに対して前記前後方向に対向する第2対向面を有し、
前記バーと前記第2対向面との間には、前記第2ブラケットが前記第1ブラケットに対して前記前後方向に相対変位する場合に、前記バー又は前記第2対向面に対して前記前後方向に当たる第2ストッパが介在し、
前記第2ストッパは、前記バー又は前記第2対向面に対して、前記第1隙間よりも大きい第2隙間を空けている、としてもよい。
【0019】
第1ストッパは、中間マスとスリーブとの間の相対変位は規制しないため、パワーユニットと車体との間の相対変位がさらに大きくなった場合に、その相対変位を規制することができない。第2ストッパは、第1ブラケットと第2ブラケットとの相対変位を規制できるから、パワーユニットと車体との間の相対変位を規制できる。
【0020】
つまり、第1ブラケットは、第2ブラケットの枠体の第2対向面に、前後方向に対向するバーを有している。第1ブラケットのバーと、第2ブラケットの第2対向面との間の第2ストッパは、第2ブラケットが第1ブラケットに対して前後方向に相対変位する場合に、バー又は第2対向面に対して前後方向に当たる。第2ストッパの第2隙間は、第1ストッパの第1隙間よりも大きいため、基本的には、第1ストッパが先に第1対向面又は中間マスに当たり、その後、第2ストッパが第2対向面又はバーに当たる。
【0021】
尚、第2ストッパは、第2対向面に固定され、バーに対して第2隙間を空けて位置していてもよい。第2ストッパは、バーに固定され、第2対向面に対して第2隙間を空けて位置していてもよい。
【0022】
マウント装置は、中間マスとスリーブとの間の第1弾性体による小さいばね定数を維持して、高周波振動の伝達を抑制しながら、第1ストッパ及び第2ストッパによって、パワーユニットと車体との間の相対変位を抑制できる。
【0023】
前記第1ブラケットは、前記中間マスの前後それぞれに位置する二つのバーを有し、
前記二つのバーは共に、前記中間マスに対して前記上下方向に重なる位置に位置し、
前記中空部は、前記中間マスが収容される中央部と、前記中央部の前後それぞれにおいて前記バーが収容される二つの拡張部と、有し、
前記中央部と前記二つの拡張部とは互いに連通していて、前記中空部は、前記車幅方向の軸に沿って見た場合に、逆T字状を成している、としてもよい。
【0024】
中間マスよりも前側のバーは、第2ブラケットが第1ブラケットに対して相対的に後方へ大きく変位することを規制する。中間マスよりも後側のバーは、第2ブラケットが第1ブラケットに対して相対的に前方へ大きく変位することを規制する。
【0025】
二つのバーは、中間マスに対して上下方向に重なる位置に位置しているため、マウント装置は上下方向に小型化する。
【0026】
前記枠体は、前記中空部の一部を形成する面であって、前記各バーの上下それぞれにおいて、前記バーに対して前記上下方向に対向する第3対向面を有し、
前記バーと前記第3対向面との間には、前記第2ブラケットが前記第1ブラケットに対して前記上下方向に相対変位する場合に、前記バー又は前記第3対向面に対して前記上下方向に当たる第3ストッパが介在している、としてもよい。
【0027】
第3ストッパは、第2ブラケットが第1ブラケットに対して上下方向に相対変位することを規制する。二つのバーは、前後方向の相対変位と、上下方向の相対変位との両方を規制する。機能の共用化は、マウント装置の大型化を抑制する。
【発明の効果】
【0028】
前記のマウント装置は、高周波振動の伝達を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、パワーユニットが搭載された自動車のパワーユニットルームを示している。
図2図2は、パワーユニットを支持するマウント装置を示している。
図3図3は、マウント装置の分解図である。
図4図4は、車幅方向の軸に沿って見たマウント装置である。
図5図5は、図4のV-V断面図である。
図6図6は、図5のVI-VI断面図である。
図7図7は、マウント装置の振動伝達率の特性を示している。
図8図8は、パワーユニットの駆動時に、第1ストッパ及び第2ストッパが当たる方向を示している。
図9図9は、マウント装置の変形例を示している。
図10図10は、図9のX-X断面図である。
図11図11は、マウント装置の変形例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、マウント装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するマウント装置は例示である。
【0031】
(全体構造)
図1は、ここに開示するマウント装置が取り付けられた自動車のパワーユニットルーム9を示している。尚、以下の説明においては、自動車を基準に、前後方向、左右方向、及び、上下方向を定める。つまり、図1における紙面下側が前(FR)、紙面上側が後(RR)、紙面左側が右(RT)、紙面右側が左(LT)であり、紙面に直交する方向が上下方向(UP,LW)である。自動車の左右方向は車幅方向と言い換えることができ、前後方向及び上下方向はそれぞれ、車幅方向に直交する方向である。
【0032】
パワーユニットルーム9は、自動車の前部に位置している。ダッシュパネル91は、前後方向について、パワーユニットルーム9と車室90とを隔てている。
【0033】
パワーユニットルーム9には、フロントサイドフレーム92が、位置している。フロントサイドフレーム92は、ダッシュパネル91の前側において車両前後方向に延びている。フロントサイドフレーム92は、車室90のフロア下に位置するフレームに接続されている。フロントサイドフレーム92は、車幅方向の左と右とのそれぞれに位置している。
【0034】
パワーユニット8は、パワーユニットルーム9内に位置している。パワーユニット8は、電気モータ81を含んでいる。電気モータ81は、自動車が走行するための駆動力を発生する。自動車は、電動車両である。
【0035】
電気モータ81は、右のフロントサイドフレーム92の近くに位置している。電気モータ81のシャフトは、車幅方向に沿って延びる(図8も参照)。
【0036】
電気モータ81のシャフトは、減速機82に接続されている。減速機82は、電気モータ81の左隣に位置している。減速機82は、右のフロントサイドフレーム92と左のフロントサイドフレーム92との中間に位置している。
【0037】
電気モータ81と減速機82とは、互いに結合されて一体化している。減速機82は、パワーユニット8に含まれる。減速機82は、電気モータ81の回転出力を減速して、駆動輪へ出力する。この自動車の駆動輪は、前輪である。
【0038】
パワーユニット8は、二つのフロントサイドフレーム92と、サスペンションクロスメンバ93とに支持されている。サスペンションクロスメンバ93は、パワーユニット8の後側において、車幅方向に延びている。サスペンションクロスメンバ93は、左右のフロントサイドフレーム92に固定されている。
【0039】
パワーユニット8の支持タイプは、いわゆるペンデュラムタイプである。二つのマウント装置1と、一つのトルクロッド10と、が、パワーユニット8を支持している。マウント装置1は、防振装置の一例である。フロントサイドフレーム92は、車体又は車体側の部材の一例である。
【0040】
二つのマウント装置1はそれぞれ、右のフロントサイドフレーム92と、左のフロントサイドフレーム92とに取り付けられている。
【0041】
右のマウント装置1は、電気モータ81の右端の上部に固定されている(図2も参照)。左のマウント装置1は、接続部材83の左端に固定されている。接続部材83は、減速機82と左のフロントサイドフレーム92とを互いに接続している。接続部材83は、パワーユニット8に含まれる。二つのマウント装置1はそれぞれ、パワーユニット8の上部における右端及び左端を吊り下げるように支持している。
【0042】
トルクロッド10は、サスペンションクロスメンバ93に取り付けられている。トルクロッド10は、サスペンションクロスメンバ93から前方へ延びている。図8にも示すように、トルクロッド10の前端は、パワーユニット8の後部の下部に固定されている。
【0043】
二つのマウント装置1は、パワーユニット8を支持すると共に、パワーユニット8から車体側の部材への振動伝達を抑制する。また、パワーユニット8の駆動によって自動車が加速する際に、図8に白抜きの矢印で示すように、パワーユニット8の上端は、回転反力により、後方へ変位しようとするのに対し、パワーユニット8の下端は、前方へ変位しようとする。二つのマウント装置1は、パワーユニット8の上端の後方への変位に対抗する。また、トルクロッド10は、パワーユニット8の下端の前方への変位に対抗する。また、パワーユニット8の制動によって自動車が減速する際に、図8の矢印とは逆に、パワーユニット8の上端は、前方へ変位しようとするのに対し、パワーユニット8の下端は、後方へ変位しようとする。二つのマウント装置1は、パワーユニット8の上端の前方への変位に対抗する。また、トルクロッド10は、パワーユニット8の下端の後方への変位に対抗する。
【0044】
尚、図1の例において、二つのマウント装置1は同じ構造を有している。右のマウント装置1の構造と、左のマウント装置の構造とは異なっていてもよい。以下においては、右のフロントサイドフレーム92に取り付けられたマウント装置1について、その構造を詳細に説明する。
【0045】
(マウント装置の構造)
図2は、マウント装置1の斜視図である。図3は、マウント装置1の分解図である。図4は、マウント装置1を車幅方向の軸に沿って見た側面図である。図5は、マウント装置1の断面図(図4のV-V断面)であり、図6は、マウント装置1の断面図(図5のVI-VI断面)である。マウント装置1は、二重ラバーマウントシステムを採用している。
【0046】
マウント装置1は、第1ブラケット2を備えている。第1ブラケット2は、フロントサイドフレーム92にリジッドに固定される。マウント装置1はまた、第2ブラケット4を備えている。第2ブラケット4は、第1ブラケット2に支持される。パワーユニット8は、第2ブラケット4に取り付けられる。
【0047】
第1ブラケット2は、支持部21を有している。支持部21は、フロントサイドフレーム92に対して、車幅方向の内側に位置している。支持部21は、フロントサイドフレーム92の上面に対応する位置から、下方に広がっている。図3又は5に示すように、支持部21は、締結孔211を有している。締結孔211には、取付ボルト30が螺合する。取付ボルト30は、第2ブラケット4を第1ブラケット2に取り付けるためのボルトである。取付ボルト30は、車幅方向に延びる。締結孔211は、支持部21の中央部に位置している。締結孔211は、車幅方向の内方に向かって開口している。
【0048】
第1ブラケット2は、固定部を有している。より詳細に、第1ブラケット2は、第1固定部22及び第2固定部23を有している。第1固定部22は、支持部21の上部から前方に向かって延びており、第2固定部23は、支持部21の上部から後方に向かって延びている。第1固定部22及び第2固定部23はそれぞれ、フロントサイドフレーム92の上面に、ボルト221、231によってリジッドに固定される。
【0049】
第1ブラケット2はまた、第3固定部24を有している。第3固定部24は、支持部21から上方に向かって延びている。第3固定部24の上端部は、サスペンションハウジング94に、ボルト241によってリジッドに固定される。第3固定部24の位置は、前後方向については第1固定部22及び第2固定部23の間でかつ、車幅方向については、第1固定部22及び第2固定部23よりも外側である(図4及び5も参照)。尚、サスペンションハウジング94は、図1に示すように、フロントサイドフレーム92と、エプロンレインフォースメント95との間に位置しかつ、フロントサイドフレーム92及びエプロンレインフォースメント95の両方に固定されている。エプロンレインフォースメント95は、フロントサイドフレーム92よりも車幅方向の外側で、前後方向に延びている。サスペンションハウジング94は、車体又は車体側の部材の一例である。
【0050】
第1ブラケット2は、第1バー25と第2バー26との二つのバーを有している。第1バー25は、締結孔211よりも前側に位置し、第2バー26は、締結孔211よりも後側に位置している。第1バー25及び第2バー26は、前後方向に間隔を空けて位置している。
【0051】
第1バー25及び第2バー26はそれぞれ、支持部21の下部から、車幅方向の内方に向かって延びている。第1バー25及び第2バー26は、上下方向について同じ位置に位置している。第1バー25及び第2バー26は、締結孔211よりも低い位置に位置している。
【0052】
第1バー25は、横断面が四角形である。第1バー25は、第1前面31、第1後面32、第1上面33及び第1下面34を有している。第2バー26は、横断面が四角形である。第2バー26は、第2前面35、第2後面36、第2上面37及び第2下面38を有している。
【0053】
第2ブラケット4は、スリーブ41を有している。図例のスリーブ41は、円筒である。スリーブ41の横断面形状は、円に限定されない。スリーブ41の中心孔には、取付ボルト30が挿入される。スリーブ41は、取付ボルト30が締結孔211に螺合されることによって、第1ブラケット2の支持部21に固定される。図5に示すように、スリーブ41の端面は、支持部21に当たる。スリーブ41は、支持部21から車幅方向に延びる。
【0054】
第2ブラケット4は、中間マス5を有している。中間マス5は、二重ラバーマウントシステムにおいて、振動源と振動源を支持する支持部材との間に介在する中間マスを構成する。中間マス5は、例えば金属製である。中間マス5は、図5に示すように、車幅方向について所定の厚みを有している。
【0055】
中間マス5は、図4に示すように、車幅方向の軸に沿って見たときに矩形状を有している。より詳細に、中間マス5は、前面51と後面52とを有している。前面51は、前方を向く面であって、上下方向及び車幅方向に広がっている。図例の前面51は、平面であるが、前面51は平面に限らない。前面51は、例えば前方に向かって膨らんだ曲面であってもよい。後面52は、後方を向く面であって、上下方向及び車幅方向に広がっている。車幅方向の軸に沿って見たときに、後面52は、前面51に対して平行である。図例の後面52は、平面であるが、後面52は平面に限らない。後面52は、例えば後方に向かって膨らんだ曲面であってもよい。
【0056】
中間マス5は、下面53を有している。下面53は、下方を向く面であって、前後方向及び車幅方向に広がっている。下面53と前面51、及び、下面53と後面52はつながっている。中間マス5において、下面53と前面51との間、及び、下面53と後面52との間は、車幅方向の軸に沿って見たときに湾曲している。尚、図例の下面53は、平面であるが、下面53は平面に限らない。下面53は、例えば下方に向かって膨らんだ曲面であってもよい。また、後述の上面54のように、下面53は傾斜していてもよい。
【0057】
中間マス5は、上面54を有している。上面54は、上方を向く面であって、前後方向及び車幅方向に広がっている。上面54と前面51、及び、上面54と後面52はつながっている。上面54は、前面51との接続位置から後方に向かうに従い次第に高くなるよう傾斜している。上面54はまた、後面52との接続位置から前方に向かうに従い次第に高くなるよう傾斜している。上面54は、前後方向の中央部が最も高い。
【0058】
尚、図例の中間マス5は、車幅方向の軸に沿って見た場合に、上下方向の長さが前後方向の長さよりも長い。中間マス5の形状は、任意である。
【0059】
図5及び6に示すように、中間マス5は、突起部55を有している。突起部55は、上面54の中央から上方に突出している。突起部55は、中間マス5の質量調整を行う。突起部55の大きさは、適宜設定される。
【0060】
中間マス5は、挿入孔56を有している。挿入孔56は、中間マス5の中心部に位置している。挿入孔56は、中間マス5を車幅方向に貫通している。挿入孔56は、スリーブ41に外挿される。挿入孔56は、断面円形状であり、スリーブ41の外径よりも大きい内径を有している。挿入孔56がスリーブ41に外挿された状態において、スリーブ41の外周面と挿入孔56の内周面とは、車幅方向に延びる円筒状の空間を形成する。尚、挿入孔56の形状は、断面円形状に限定されない。挿入孔56の形状は、スリーブ41の形状に応じて定めることができる。
【0061】
第2ブラケット4は、第1弾性体42を有している。第1弾性体42は、図5及び6に示すように、スリーブ41の外周面と挿入孔56の内周面との間の円筒状の空間に充填されている。第1弾性体42は、スリーブ41と中間マス5とを連結している。第1弾性体42の、車幅方向に直交する方向の厚み、言い換えると、円筒状の第1弾性体42の径方向の厚みT1は、比較的薄い(図5参照)。第1弾性体42は、例えば硬質ゴム製である。
【0062】
第2ブラケット4は、枠体6を有している。枠体6は、中間マス5の上下及び前後を囲む。枠体6は、本体部61を有している。枠体6はまた、二つの取付部62を有している。本体部61は、前後方向の中央に位置している。二つの取付部62は、本体部61から前方及び後方へ突出するように、本体部61と一体化している。図6に示すように、二つの取付部62はそれぞれ、上下方向に貫通するボルト孔621を有している。二つの取付部62は、ボルト622によって、パワーユニット8の上面に取り付けられる(図2及び3も参照)。
【0063】
本体部61は、中空部7を有している。中空部7は、本体部61を車幅方向に貫通している。中間マス5は、中空部7に収容される。図例の中空部7は、中央部71と、二つの拡張部72とを有している。
【0064】
中央部71は、本体部61における前後方向の中央に位置している。中間マス5は、中央部71に収容される。中央部71は、車幅方向の軸に沿って見た場合に、矩形状の中間マス5に対応して、矩形状を有している(図6の二点鎖線参照)。
【0065】
本体部61は、中央部71の一部を形成する面として、二つの第1対向面63を有している。第1対向面63の一つは、中間マス5の上部において、前面51に対し前後方向に対向している。もう一つの第1対向面63は、中間マス5の上部において、後面52に対し前後方向に対向している。二つの第1対向面63は共に、上下方向及び車幅方向に広がる平面である。第1対向面63と前面51とは平行であって、第1対向面63と前面51との間には、所定の隙間が設けられている。同様に、第1対向面63と後面52とは平行であって、第1対向面63と後面52との間には、所定の隙間が設けられている。尚、第1対向面63は、上下方向に広がる平面に限らない。
【0066】
本体部61はまた、中央部71の一部を形成する面として、二つの連結面64と接合面65とを有している(図6参照)。各連結面64は、各第1対向面63と接合面65とを連結する。前側の連結面64は、前側の第1対向面63から上方に向かうに従って前方に傾斜している。後側の連結面64は、後側の第1対向面63から上方に向かうに従って後方に傾斜している。
【0067】
接合面65は、中間マス5の上方に位置している。接合面65は、前側の連結面64から後方に向かうに従って上向きに傾斜した第1傾斜面と、後側の連結面64から前方に向かうに従って上向きに傾斜した第2傾斜面と、第1傾斜面と第2傾斜面との間において前後方向に水平に延びる面と、を含んでいる。第1傾斜面、第2傾斜面、及び、水平面を含む接合面65は、傾斜した上面54と突起部55とを有する中間マス5との間に、所定以上の隙間の確保を可能にする。
【0068】
第2ブラケット4は、第2弾性体43を有している。第2弾性体43は、本体部61の接合面65と、中間マス5の上面54とを、上下方向に連結する。第2弾性体43は、例えば硬質ゴムからなる。第2弾性体43は、枠体6を通じてパワーユニット8を支持すると共に、パワーユニット8の振動を、枠体6から中間マス5へ伝達させる。前述したように、接合面65と上面54との隙間は、所定以上である。第2弾性体43の、車幅方向に直交する方向(例えば上下方向)の厚みT2は、第1弾性体42の厚みT1よりも大きい(図5参照)。十分な厚みを有する第2弾性体43は、パワーユニット8を支持するための高い剛性を確保できる。
【0069】
第2ブラケット4はまた、第1ストッパ44を有している。第1ストッパ44は、例えば硬質ゴム製である。第1ストッパ44は、枠体6の第1対向面63と中間マス5の前面51との間、及び、第1対向面63と後面52との間に介在している。図例の第2ブラケット4において、第1ストッパ44は、前面51及び後面52に取り付けられている。第1ストッパ44は、第2弾性体43と連続している。第1ストッパ44は、前面51から前方に突出している。第1ストッパ44はまた、後面52から後方に突出している。図4の拡大図に示すように、第1ストッパ44と第1対向面63との隙間は、例えばL1(第1隙間)である。尚、後側の第1ストッパ44と第1対向面63との隙間も、第1隙間L1である。後述するように、第2ブラケット4が第1ブラケット2に対して前後方向に相対変位した際に、第1ストッパ44は、第1対向面63に当たる場合がある。第1ストッパ44は、第1ブラケット2と第2ブラケット4との間のメタルタッチを抑制する。
【0070】
枠体6の二つの拡張部72は、中央部71の下部において、中央部71の前側及び後側のそれぞれに位置している。二つの拡張部72はそれぞれ、中央部71に連通している。中空部7は、車幅方向の軸に沿って見た場合に、逆T字状を成している。
【0071】
第2ブラケット4が第1ブラケット2に支持されている状態において、前側の拡張部72には、第1バー25の先端部が挿入され、後側の拡張部72には、第2バー26の先端部が挿入される。
【0072】
前側の拡張部72は、車幅方向の軸に沿って見て矩形状である。前側の拡張部72は、第2対向面73を有している。第2対向面73は、第1バー25の第1前面31に対して、前後方向に対向する。第2対向面73と第1前面31との間には、所定の隙間が形成される。
【0073】
第2ブラケット4は、第2ストッパ74を有している。第2ストッパ74は、例えば硬質ゴム製である。第2ストッパ74は、第1バー25と第2対向面73との間に介在している。図例のマウント装置1において、第2ストッパ74は、第2対向面73に取り付けられている。第2ストッパ74は、第2対向面73から後方に突出している。図4の拡大図に示すように、第2ストッパ74と第1バー25の第1前面31との隙間は、例えばL2(第2隙間)である。第2隙間L2は、前述した第1隙間L1よりも大きい。後述するように、第2ブラケット4が第1ブラケット2に対して相対的に後方へ変位した際に、第2ストッパ74は、第1前面31に当たる場合がある。第2ストッパ74は、第1ブラケット2と第2ブラケット4との間のメタルタッチを抑制する。
【0074】
前側の拡張部72は、二つの第3対向面75を有している。第3対向面75の一つは、第1バー25の第1上面33に対して、上下方向に対向する。もう一つの第3対向面75は、第1下面34に対して、上下方向に対向する。第3対向面75と第1上面33との間、及び、第3対向面75と第1下面34との間には、所定の隙間が形成される。
【0075】
第2ブラケット4は、第3ストッパ76を有している。第3ストッパ76も、例えば硬質ゴム製である。第3ストッパ76は、第1バー25と第3対向面75との間に介在している。図例のマウント装置1において、第3ストッパ76は、二つの第3対向面75のそれぞれに取り付けられている。第3ストッパ76は、第3対向面75から下方又は上方に突出している。図4の拡大図に示すように、第3ストッパ76と第1上面33又は第1下面34との隙間は、例えばL3である。L3はL2と同じであってもよいし、L2と異なっていてもよい。後述するように、第2ブラケット4が第1ブラケット2に対して上下方向に相対変位した際に、第3ストッパ76は、第1上面33又は第1下面34に当たる場合がある。第3ストッパ76も、第1ブラケット2と第2ブラケット4との間のメタルタッチを抑制する。
【0076】
後側の拡張部72は、前側の拡張部72に対して、前後方向に対称に形成されている。後側の拡張部72は、車幅方向の軸に沿って見て矩形状である。後側の拡張部72は、第2対向面73を有している。第2対向面73は、第2バー26の第2後面36に対して、前後方向に対向する。第2対向面73と第2後面36との間には、所定の隙間が形成される。
【0077】
第2ブラケット4は、第2ストッパ74を有している。第2ストッパ74は、例えば硬質ゴム製である。第2ストッパ74は、第2バー26と第2対向面73との間に介在している。図例のマウント装置1において、第2ストッパ74は、第2対向面73に取り付けられている。第2ストッパ74は、第2対向面73から前方に突出している。第2ストッパ74と第2後面36との隙間は、例えばL2である。後述するように、第2ブラケット4が第1ブラケット2に対して相対的に前方へ変位した際に、第2ストッパ74は、第2後面36に当たる場合がある。
【0078】
後側の拡張部72も、二つの第3対向面75を有している。第3対向面75の一つは、第2バー26の第2上面37に対して、上下方向に対向する。もう一つの第3対向面75は、第2下面38に対して、上下方向に対向する。第3対向面75と第2上面37との間、及び、第3対向面75と第2下面38との間には、所定の隙間が形成される。
【0079】
第2ブラケット4は、第3ストッパ76を有している。第3ストッパ76は、例えば硬質ゴム製である。第3ストッパ76は、第2バー26と第3対向面75との間に介在している。図例のマウント装置1において、第3ストッパ76は、二つの第3対向面75のそれぞれに取り付けられている。第3ストッパ76は、第3対向面75から下方又は上方に突出している。第3ストッパ76と第2上面37又は第2下面38との隙間は、例えばL3である。後述するように、第2ブラケット4が第1ブラケット2に対して上下方向に相対変位した際に、第3ストッパ76は、第2上面37又は第2下面38に当たる場合がある。
【0080】
第2ブラケット4は、例えば、加硫接着により一体成形することができる。つまり、スリーブ41、中間マス5、及び、枠体6をそれぞれ金型に入れると共に、金型内に硬質ゴムを充填して加熱することにより、スリーブ41、中間マス5、第1弾性体42、枠体6、第2弾性体43、第1ストッパ44、第2ストッパ74、及び、第3ストッパ76を含む第2ブラケット4を製造できる。
【0081】
(マウント装置の特性)
マウント装置1は、前述したように、二重ラバーマウントシステムを採用している。つまり、パワーユニット8からの振動は、枠体6、第2弾性体43、中間マス5、第1弾性体42、及び、スリーブ41を経て、車体側の部材にリジッドに固定された第1ブラケット2に伝達する。パワーユニット8と車体側の部材との間に、第2弾性体43及び第1弾性体42を間に挟んで中間マス5が介在している。中間マス5は、その慣性効果によって、車体側への振動伝達を抑制する。
【0082】
図7は、マウント装置の特性を例示している。図7の横軸は周波数であり、縦軸はパワーユニット8から車体への振動伝達率である。振動伝達率が1を下回ると、パワーユニット8から車体への振動伝達が抑制される。
【0083】
図7の左下に示されるマウント装置は、中間マスを備えない従来のマウント装置である。従来のマウント装置の特性は、図7において実線で示される。
【0084】
図7の右上に示されるマウント装置は、中間マスを備えるマウント装置であり、図1~6及び8に示されるマウント装置1(及び、後述の図9~11に示されるマウント装置100、101)を含む。中間マスを備えるマウント装置の特性は、図7において破線又は二点鎖線で示される。中間マスを備えるマウント装置は、第2次の共振点を有する。しかし、白抜きの矢印で示すように、中間マスを備えるマウント装置は、高周波振動の伝達を、従来のマウント装置よりも抑制できる。
【0085】
電動車両において電気モータ81は高速回転する。パワーユニット8によって生じる高周波振動が車体に伝達すると、車室内の騒音になる。中間マス5を備えるマウント装置1は、パワーユニット8によって生じた高周波振動の、車体への伝達を抑制できる。マウント装置1は、電動車両において、電気モータ81を含むパワーユニット8のマウント装置に適している。
【0086】
二重ラバーマウントシステムにおいて、(1)中間マスの質量を大きくする、及び/又は、(2)中間マスと車体側の部材とを連結する弾性体(つまり、第1弾性体42に対応)の、ばね定数を小さくすることによって、マウント装置の特性は、図7の破線から二点鎖線へと変化する。(1)及び/又は(2)を実現するマウント装置は、高周波振動の伝達をさらに抑制できる。
【0087】
図1~6のマウント装置1では、第1弾性体42の厚みT1が相対的に薄い。第1弾性体42のばね定数は小さい。マウント装置1では、前述した(2)中間マスと車体側の部材とを連結する弾性体のばね定数を小さくすることが実現されている。
【0088】
また、マウント装置1は、枠体6が非円形である。中間マス5が収容される中空部7の中央部71は、車幅方向の軸に沿って見て矩形状を有している。マウント装置1は、従来のブッシュ装置のような円筒形状の制約がない。マウント装置1の中間マス5は、従来のブッシュ装置の中間マスに比べて大型である。マウント装置1では、前述した(1)中間マスの質量を大きくすることも実現されている。
【0089】
従って、マウント装置1は、高周波振動の伝達を抑制できる。マウント装置1は、例えば電気モータ81の定格出力が大きくても、車室内の騒音レベルを低く抑えることができる。
【0090】
マウント装置1は、前述した(2)中間マスと車体側の部材とを連結する弾性体のばね定数を小さくすることが実現されているため、中間マス5の質量を大幅に大きくしなくても、所望の特性を確保することができる。(1)及び(2)の両方の実現は、マウント装置1全体の小型化に有利である。
【0091】
マウント装置1において第1弾性体42のばね定数が小さいだけでは、マウント装置1は、パワーユニット8の支持剛性を確保できない。しかし、マウント装置1は、中空部7の中央部71が矩形状であるため、パワーユニット8の重量を支える方向について、第2弾性体43の厚みT2を分厚くできる。マウント装置1は、十分な支持剛性を確保できる。
【0092】
マウント装置1はまた、パワーユニット8をペンデュラムタイプによって支持する。図8に示すように、パワーユニット8の駆動によって自動車が加速する際に、パワーユニット8の上端は、回転反力により、後方へ変位しようとする。パワーユニット8の制動によって自動車が減速する際に、パワーユニット8の上端は、前方へ変位しようとする。マウント装置1の第2ブラケット4は、パワーユニット8の駆動又は制動に起因して、第1ブラケット2に対して前後方向に相対変位する。マウント装置1において、パワーユニット8の重量を支える方向と、パワーユニット8の駆動又は制動に起因する振動を抑制する方向とは、異なる。
【0093】
第2ブラケット4が第1ブラケット2に対して後方へ相対変位すると、図8の拡大図に白抜きの矢印で示すように、枠体6における前側の第1対向面63が、前側の第1ストッパ44に当たる。第2ブラケット4が、それ以上に相対変位することが抑制される。また、第2ブラケット4が第1ブラケット2に対して前方へ相対変位すると、後側の第1ストッパ44が、後側の第1対向面63に当たる。第2ブラケット4が、それ以上に相対変位することが抑制される。
【0094】
第1ストッパ44は、第2ブラケット4の枠体6と中間マス5との間に介在しているため、枠体6と中間マス5との間の相対変位を規制する一方で、中間マス5とスリーブ41との間の相対変位は規制しない。第1ストッパ44が相対変位を規制した後も、第1弾性体42によって連結されている中間マス5とスリーブ41との間のばね定数は、小さいばね定数のままである。小さいばね定数を維持することは、二重ラバーマウントシステムにおいて、中間マスの慣性効果を損なわない。マウント装置1は、第2ブラケット4と第1ブラケット2との間の大きな相対変位を抑制しながら、中間マス5の慣性効果によって、高周波振動の伝達を抑制できる。
【0095】
ここで、内燃機関を搭載しない電動車両においては、内燃機関のアイドル振動が発生しないため、第1隙間L1は小さくできる。尚、電動車両においては、第1隙間L1を無くすことも可能である。この場合、第2弾性体43が、接合面65から、連結面64及び第1対向面63まで拡大することによって、枠体6の第1対向面63と中間マス5の前面51及び後面52とが連結される。しかし、第2弾性体43が拡大すると、枠体6と中間マス5との間において振動も伝達しやすくなる。その結果、自動車の走行中に、路面不整等に起因する振動が車体側の部材に伝わりやすくなるという不都合が生じる。第2弾性体43は、接合面65と中間マス5の上面54とのみを連結、換言すれば、パワーユニット8の重量を支える方向について枠体6と中間マス5とを連結し、枠体6と中間マス5との間の、パワーユニット8の振動方向についての第1隙間L1を確保した方が、自動車のNVH性能には有利である。
【0096】
また、第1隙間L1は大きくすることもできる。第1隙間L1と第2隙間L2とは同じであってもよい。しかし、第1隙間L1を小さくすることは、ドライバーのペダル操作に対する車両のレスポンスの向上に有利である。つまり、第1隙間L1が小さいと、ドライバーがアクセルペダルを踏み込んだ加速初期時に、パワーユニット8の回転反力によって枠体6が中間マス5と速やかに当接する。枠体6と中間マス5との当接は、枠体6と中間マス5との間の第2弾性体43のばね定数を、実質的に大きくする。加速初期時にマウント装置1のばねが硬くなったことと等価になるから、加速レスポンスが向上する。
【0097】
小さい第1隙間L1は、中間マス5とスリーブ41との間の小さなばね定数を維持することによる高周波振動の伝達抑制と、自動車のNVH性能の向上と、枠体6と中間マス5との間の大きなばね定数による車両のレスポンスの向上と、を全て達成する。
【0098】
例えば悪路走行時、及び/又は、急加速又は急減速時により、第2ブラケット4と第1ブラケット2との間の、前後方向についての相対変位がさらに大きくなった場合、第1ストッパ44は、その相対変位を規制することができない。これに対し、第2ストッパ74は、第2ブラケット4と第1ブラケット2との間の、前後方向についての大きな相対変位を規制できる。
【0099】
つまり、第2ブラケット4が第1ブラケット2に対して前後方向に相対変位する場合に、図8の拡大図に黒い矢印で示すように、第2ストッパ74が、第1バー25に対して前後方向に当たる。または、第2ストッパ74が、第2バー26に対して前後方向に当たる。第2ブラケット4は、それ以上に第1ブラケット2に対して前後方向に相対変位することが規制される。第2ストッパ74の第2隙間L2は、第1ストッパ44の第1隙間L1よりも大きいため、基本的には、第1ストッパ44が先に第1対向面63に当たり、その後、第2ストッパ74が第1バー25又は第2バー26に当たる。尚、パワーユニット8の変位によっては、第1ストッパ44が第1対向面63に当たらないが、第2ストッパ74が第1バー25又は第2バー26に当たる場合もある。
【0100】
また、第2ブラケット4と第1ブラケット2とが、上下方向について相対変位した場合、図8の拡大図に黒い矢印で示すように、第3ストッパ76が、第1バー25に対して上下方向に当たる。または、第3ストッパ76が、第2バー26に対して上下方向に当たる。第2ブラケット4は、それ以上に第1ブラケット2に対して上下方向に相対変位することが規制される。第1バー25及び第2バー26は、前後方向の相対変位と、上下方向の相対変位との両方を規制する。機能の共用化は、マウント装置1の大型化を抑制する。
【0101】
従って、マウント装置1は、中間マス5とスリーブ41との間の第1弾性体42による小さいばね定数を維持して、高周波振動の伝達を抑制しながら、第1ストッパ44、第2ストッパ74及び第3ストッパ76によって、パワーユニット8と車体側の部材との間の大きな相対変位を抑制できる。つまり、複数種類のストッパは、マウント装置1において、中間マス5の慣性効果による高周波振動の伝達抑制と、第2ブラケット4と第1ブラケット2との間の大きな相対変位の抑制とを両立させる。
【0102】
ばね定数が小さい第1弾性体42は、厚みが薄いため、荷重の繰り返し作用に対する耐久性が著しく劣るようになる。マウント装置1の第1ストッパ44、第2ストッパ74及び第3ストッパ76は、第1弾性体42に大きな荷重が作用して内部に歪が発生する頻度を低減させる。
【0103】
ここで、第1ストッパ44と第2ストッパ74とは、上下方向に位置がずれている。第1ストッパ44及び第2ストッパ74は、それぞれの機能を独立して発揮できる。また、図6に示すように、第1バー25と第2バー26とは、中間マス5に対して上下方向に重なる位置に位置している。この構造は、マウント装置1を上下方向に小型化させる。
【0104】
(マウント装置の変形例)
図9及び10は、中間マスに関する変形例を示している。図9及び10のマウント装置100の中間マス50は、マウント装置1の中間マス5よりも質量が大きい。具体的に、第2ブラケット4の枠体6は、中間マス5の上側の上壁66及び下側の下壁67を有している。貫通孔68が、上壁66を上下方向に貫通して形成されている。
【0105】
中間マス50の突起部550は、上方へ大きく延びている。突起部550の先端部は、貫通孔68を通って、枠体6の外側へ突出している。中間マス50は、その質量が、図5等の中間マス5よりも大きい。中間マス50は、枠体6の内側に収まる形状であることに限らない。中間マス50の一部が枠体6からはみ出ることによって、マウント装置100の全体形状を大きく変更することなく、中間マス50の質量を大きく変更することができる。
【0106】
尚、下壁67に、貫通孔が形成されてもよい。中間マスは、その貫通孔を通って下方へ突出する突起部を有してもよい。また、上壁66及び下壁67の両方に、貫通孔が形成されてもよい。中間マスは、それらの貫通孔を通って、上方及び下方へ突出する突起部を有してもよい。
【0107】
図11は、第1ストッパに関する変形例を示している。図11のマウント装置101の第1ストッパ440は、中間マス5ではなく、枠体6の第1対向面63に取り付けられている。前側の第1ストッパ440は、第1対向面63から後方に突出し、後側の第1ストッパ440は、第1対向面63から前方に突出している。第1ストッパ440は、中間マス5の前面51又は後面52に対して、所定の隙間を空けて対向している。このマウント装置1の第1ストッパ440も、図6のマウント装置1の第1ストッパ44と同じ機能を発揮する。
【0108】
尚、第2ストッパは、第1バー25の第1前面31及び第2バー26の第2後面36に取り付けられてもよい。また、第3ストッパは、第1バー25の第1上面33及び第1下面34、並びに、第2バー26の第2上面37及び第2下面38に取り付けられてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1 マウント装置(防振装置)
100 マウント装置
101 マウント装置
2 第1ブラケット
211 締結孔
25 第1バー
26 第2バー
30 取付ボルト
4 第2ブラケット
41 スリーブ
42 第1弾性体
43 第2弾性体
44 第1ストッパ
440 第1ストッパ
5 中間マス
50 中間マス
550 突起部
56 挿入孔
6 枠体
62 取付部
63 第1対向面
66 上壁
67 下壁
68 貫通孔
7 中空部
71 中央部
72 拡張部
73 第2対向面
74 第2ストッパ
75 第3対向面
76 第3ストッパ
8 パワーユニット
81 電気モータ
92 フロントサイドフレーム(車体)
94 サスペンションハウジング(車体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11