(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010276
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート体の作製方法およびコンクリート検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20240117BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
G01N1/28 E
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111517
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩史
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA16
2G052AD12
2G052AD52
2G052BA02
2G052BA15
2G052BA28
2G052EB11
2G052EC01
2G052EC08
2G052FD12
2G052GA02
2G052GA19
2G052GA28
(57)【要約】
【課題】供試体となる部分をコンクリートの側面から外側に突出させる必要のないプレキャストコンクリート体の作製方法およびコンクリート検査方法を提供する。
【解決手段】プレキャストコンクリート体の作製方法は、プレキャストコンクリート体1の作製型枠5内に、コンクリートの線膨張係数よりも大きな線膨張係数を有する材料からなる管部材2を、当該管部材2の空洞方向がプレキャストコンクリート体1の側面に直交する方向に一致するように配置し、当該管部材2内を含めて作製型枠5内にフレッシュコンクリート110を投入する段階と、水蒸気を利用した高温養生によってフレッシュコンクリート110を硬化させてコンクリート部11を得る段階と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート体の作製型枠内に、コンクリートの線膨張係数よりも大きな線膨張係数を有する材料からなる管部材を、当該管部材の空洞方向がプレキャストコンクリート体の側面に直交する方向に一致するように配置し、当該管部材内を含めて上記作製型枠内にフレッシュコンクリートを投入する段階と、水蒸気を利用した高温養生によって上記フレッシュコンクリートを硬化させる段階と、を含むことを特徴とするプレキャストコンクリート体の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレキャストコンクリート体の作製方法において、上記作製型枠内に鉄筋が配置されており、上記管部材は、上記鉄筋から、必要なかぶり厚に相当する距離をおいて配置されることを特徴とするプレキャストコンクリート体の作製方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプレキャストコンクリート体の作製方法において、当該プレキャストコンクリート体の立ち上がりの方向が水平方向となるように上記作製型枠を配置して上記フレッシュコンクリートを投入することを特徴とするプレキャストコンクリート体の作製方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプレキャストコンクリート体の作製方法において、上記管部材は樹脂管であることを特徴とするプレキャストコンクリート体の作製方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のプレキャストコンクリート体の作製方法により作製されたプレキャストコンクリート体を用いて施工を行い、後年、上記プレキャストコンクリート体から上記管部材ごと当該管部材内のコンクリート柱体を取り出し、このコンクリート柱体をコンクリート供試体として、破壊検査を行うことを特徴とするコンクリート検査方法。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のプレキャストコンクリート体の作製方法により作製されたプレキャストコンクリート体を用いて施工を行い、後年、上記プレキャストコンクリート体から上記管部材ごと当該管部材内のコンクリート柱体を取り出し、このコンクリート柱体をコンクリート供試体として、非破壊検査を行い、この非破壊検査後に上記管部材および上記コンクリート柱体を上記プレキャストコンクリート体内に戻すことを特徴とするコンクリート検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレキャストコンクリート体の作製方法およびコンクリート検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コンクリート硬化後における構造体からの供試体の切取り作業を不要にし、構造体型枠の脱型後も、供試体型枠を構造体から突出させた状態に自立させて、所定の材齢まで養生することができるようにした構造体コンクリート強度管理用供試体採取治具が開示されている。この技術を用いれば、構造体コンクリートからコア抜き機でコアを抜く作業を行わずに、上記供試体採取治具により得た供試体を圧縮試験にかけて強度検査を行うこと、および、上記供試体を割裂してフェノールフタレイン溶液で中性化深さを測定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、構造体コンクリートの側面から外側に突出するように供試体の型枠が作成されているため、この供試体の型枠が建物施工の障害となるおそれがある。
【0005】
この発明は、供試体の型枠をコンクリートの側面から外側に突出させる必要のないプレキャストコンクリート体の作製方法およびコンクリート検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のプレキャストコンクリート体の作製方法は、プレキャストコンクリート体の作製型枠内に、コンクリートの線膨張係数よりも大きな線膨張係数を有する材料からなる管部材を、当該管部材の空洞方向がプレキャストコンクリート体の側面に直交する方向に一致するように配置し、当該管部材内を含めて上記作製型枠内にフレッシュコンクリートを投入する段階と、水蒸気を利用した高温養生によって上記フレッシュコンクリートを硬化させる段階と、を含むことを特徴とする。
【0007】
これによれば、当該方法により作製されたプレキャストコンクリート体を用いて建物施工を行い、後年、上記プレキャストコンクリート体から上記管部材ごと当該管部材内のコンクリート柱体を取り出し、このコンクリート柱体をコンクリート供試体として、強度検査や中性化深さ測定を行うことができる。すなわち、上記プレキャストコンクリート体からコア抜き機でコアを抜く作業は不要になる。また、強度検査としてシュミットハンマー方式を採る必要もなく、中性化深さ測定としてドリル方式を採る必要もない。そして、上記管部材はプレキャストコンクリート体内に存在するので、当該管部材がプレキャストコンクリート体から突出して搬送や建物施工の障害になるといったこともない。
【0008】
上記方法において、上記作製型枠内に鉄筋が配置されており、上記管部材は、上記鉄筋から、必要なかぶり厚に相当する距離をおいて配置されてもよい。これによれば、上記鉄筋に対するコンクリートのかぶり不足を防止することができる。
【0009】
上記方法において、当該プレキャストコンクリート体の立ち上がりの方向が水平方向となるように上記作製型枠を配置して上記フレッシュコンクリートを投入してもよい。これによれば、上記管部材を安定的に位置させることが容易になる。
【0010】
上記方法において、上記管部材は樹脂管であってもよい。樹脂の線膨張係数はコンクリートの線膨張係数に比べて差異が大きいので、上記プレキャストコンクリート体から上記管部材ごと当該管部材内のコンクリート柱体を取り出すことが容易になる。
【0011】
また、この発明のコンクリート検査方法は、上記作製方法により作製されたプレキャストコンクリート体を用いて施工を行い、後年、上記プレキャストコンクリート体から上記管部材ごと当該管部材内のコンクリート柱体を取り出し、このコンクリート柱体をコンクリート供試体として、破壊検査を行うことを特徴とする。破壊検査により、上記プレキャストコンクリート体には、コンクリート柱体の抜け痕が生じるが、上記プレキャストコンクリート体を例えば間仕切り部に用いれば、建物外観の美観低下は生じない。
【0012】
また、この発明のコンクリート検査方法は、上記作製方法により作製されたプレキャストコンクリート体を用いて施工を行い、後年、上記プレキャストコンクリート体から上記管部材ごと当該管部材内のコンクリート柱体を取り出し、このコンクリート柱体をコンクリート供試体として、非破壊検査を行い、この非破壊検査後に上記管部材および上記コンクリート柱体を上記プレキャストコンクリート体内に戻すことを特徴とする。かかる方法であれば、上記プレキャストコンクリート体内に戻した上記コンクリート柱体を、さらに後年において取り出し、このコンクリート柱体をコンクリート供試体として、再度の検査を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明であれば、供試体となるコンクリート部分はプレキャストコンクリート体の側面から外側に突出しないので、プレキャストコンクリート体の搬送や建物施工を円滑に行うことができる。そして、コンクリート検査のために当該プレキャストコンクリート体からコア抜き機でコアを抜く作業が不要になり、また、強度検査としてシュミットハンマー方式を採る必要もなく、中性化深さ測定としてドリル方式を採る必要もないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の方法により作製されたプレキャストコンクリート体の概略の正面視と側面視を示した説明図である。
【
図2】
図1のプレキャストコンクリート体およびその作製型枠の断面を示した説明図である。
【
図3】実施形態のプレキャストコンクリート体の作製方法を示した説明図である。
【
図4】
図1のプレキャストコンクリート体の管部材の膨張と収縮による隙間形成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一態様に係る実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態にかかる作製方法により作製されたプレキャストコンクリート体1を例示している。このプレキャストコンクリート体1におけるコンクリート部11(仮想線で示している)内には、上端筋12と、腹筋13と、縦筋(あばら筋)14の下部側以外の部分とが存在している。そして、コンクリート部11の下側には、縦筋14の下部側および下端筋15が露出している。このプレキャストコンクリート体1は、コンクリート基礎の立ち上がり部となる部位であり、施工現場のコンクリート基礎のフーチング部が形成される箇所の上側位置に配置され、上記フーチング部となる打設コンクリートの硬化によって当該フーチング部と一体化し、布基礎となることができる。ただし、プレキャストコンクリート体1が用いられる基礎部分は、建物の内側に位置する間仕切り基礎部分としている。
【0016】
そして、プレキャストコンクリート体1のコンクリート部11内には、円筒状の管部材2が存在している。この管部材2の肉厚は、例えば、1~2mm程度としている。また、この管部材2は、当該管部材2の空洞方向がプレキャストコンクリート体1の側面に直交する方向(プレキャストコンクリート体1の厚さ方向)に一致するように位置している。また、管部材2内にも、コンクリート部11と同一のフレッシュコンクリートによるコンクリート柱体11Aが存在している。管部材2の端面は、コンクリート部11の側面と略面一に存在している。また、管部材2は、コンクリートの線膨張係数(約1×10-5(1/℃))よりも大きな線膨張係数を有する材料からなる。樹脂管の材料とされるポリプロピレン、ポリエチレン等の線膨張係数は、約11×10-5(1/℃)である。
【0017】
プレキャストコンクリート体1の作製には、
図2に示している作製型枠5が用いられる。この作製型枠5は、基礎の立ち上がり部となるプレキャストコンクリート体1の立ち上がりの方向が水平方向とされており、この作製型枠5の高さ(深さ)方向は、プレキャストコンクリート体1の厚み方向に一致する。すなわち、プレキャストコンクリート体1の作製方法は、平打ち式とされる。
【0018】
例えば、
図3に示すように、作製型枠5内に、上端筋12と腹筋13と縦筋14の組体を水平配置するとともに、管部材2を、当該管部材2の空洞方向がプレキャストコンクリート体の厚さ方向(作製型枠5における高さ方向)に一致するように配置する。また、各管部材2は、腹筋13および縦筋14等に対して、コンクリートの必要なかぶり厚に相当する距離をおいて配置される。そして、管部材2内を含めて作製型枠5内にフレッシュコンクリート110を投入する。
【0019】
次に、水蒸気を利用した60℃程度の高温下の養生(水蒸気養生)によって、フレッシュコンクリート110を硬化させてコンクリート部11とする。
【0020】
ここで、上記のように、フレッシュコンクリート110に対して蒸気養生が行われると、
図4に示すように、フレッシュコンクリート110は、管部材2が大きく膨張した状態で硬化してコンクリート部11となる。管部材2の常温時の外径をR1とすると、蒸気養生時の管部材2の外径は、R1+ΔRで表される。
【0021】
そして、コンクリート部11が常温に戻ると、管部材2は大きく縮んで外径がR1に戻るため、管部材2の外周面と当該外周面に対向するコンクリート部11の部位との間に隙間(ΔR/2)が発生する。例えば、室温が20℃、蒸気養生の温度が60℃、外形Φが60mmの樹脂の管部材2の線膨張係数が10×10-5(1/℃)であるとすると、上記隙間(ΔR/2)は0.1mm程度となる。また、管部材2が縮むと、この管部材2の内周面とコンクリート柱体11Aの外周面とが密着するので、コンクリート柱体11Aの外周面(界面)の中性化は生じ難くなる。
【0022】
作製されたプレキャストコンクリート体1は、建築現場に搬送され、建物の布基礎として施工される。
【0023】
実施形態のコンクリート検査方法は、建築から数十年経過後、上記のように施工されたプレキャストコンクリート体1から管部材2ごと当該管部材2内のコンクリート柱体11Aを取り出し、このコンクリート柱体11Aをコンクリート供試体として、コンクリート検査を行う。
【0024】
ここで、建築から数十年経過すると、プレキャストコンクリート体1において一定の収縮が発生している。例えば、プレキャストコンクリート体1の長さが4P(4×910mm=3640mm)で収縮率が0.03%であるとすると、3640mm×0.03%=1.1mmとなる。そして、管部材2を水平方向に3本備えている場合であれば、管部材2の周囲に約0.2mmの隙間が発生する。よって、プレキャストコンクリート体1の作製時の隙間0.1mmを足し合わせると、管部材2の周囲に約0.3mmの隙間が存在することになり、プレキャストコンクリート体1から容易に管部材2ごとコンクリート柱体11Aを取り出すことができる。
【0025】
コンクリート柱体11Aをコンクリート供試体として破壊検査により強度確認を行う場合には、管部材2をカッター等によって除去し、コンクリート柱体11Aのみに対して圧縮機により圧力を加える。また、コンクリート柱体11Aをコンクリート供試体として破壊検査により中性化深さ測定を行う場合には、同様に管部材2を除去し、割裂したコンクリート柱体11Aにフェノールフタレイン溶液を噴霧して測定を行う。
【0026】
一方、コンクリート柱体11Aをコンクリート供試体として非破壊検査により中性化深さ測定を行う場合には、管部材2を除去せず、この管部材2ごとコンクリート柱体11AをX線CT装置等の非破壊検査機で中性化深さ測定を行う。非破壊検査後には、管部材2ごとコンクリート柱体11Aをプレキャストコンクリート体1に戻す。そして、数年後に再び中性化深さ測定を行うときには、同様に管部材2ごとコンクリート柱体11Aをプレキャストコンクリート体1から取り出し、非破壊検査後に、管部材2ごとコンクリート柱体11Aをプレキャストコンクリート体1に戻す。
【0027】
以上説明したように、この作製方法により作製されたプレキャストコンクリート体1であれば、コンクリート検査時には、管部材2とコンクリート部11との間に例えば0.3mm程度の隙間が形成されることになるので、例えば、管部材2の箇所を木槌等で叩いて、管部材2ごとコンクリート柱体11Aを取り出すことができる。すなわち、プレキャストコンクリート体1からコア抜き機でコアを抜く作業が不要になる。プレキャストコンクリート体1は現場打設のコンクリートよりも強度が高いのが通例であり、プレキャストコンクリート体1に対するコア抜き作業には困難を伴う。また、強度検査としてシュミットハンマー方式を採る必要もなく、中性化深さ測定としてドリル方式を採る必要もない。そして、管部材2はプレキャストコンクリート体1内に存在するので、当該管部材2がプレキャストコンクリート体1から突出して搬送や建物施工の障害になるといったこともない。
【0028】
また、管部材2が縦筋14等から、必要なかぶり厚に相当する距離をおいて配置されていると、縦筋14等に対するコンクリートのかぶり不足を防止することができる。
【0029】
また、上記の平打ち式によってプレキャストコンクリート体1を作製すると、管部材2を安定的に位置させることが容易になる。
【0030】
なお、管部材2の外径を60mm以上とする場合は、プレキャストコンクリート体1に補強筋を設けるのが望ましい。一方、管部材2の外径を60mm未満とする場合には、プレキャストコンクリート体1に補強筋を設けることを不要とすることができる。
【0031】
管部材2がポリプロピレン等の樹脂からなる場合、この樹脂の線膨張係数はコンクリートの線膨張係数に比べて数倍大きいので、プレキャストコンクリート体1から管部材2ごと当該管部材2内のコンクリート柱体11Aを取り出すことが容易になる。
【0032】
ただし、管部材2は樹脂からなるものに限らない。アルミニウム金属の線膨張係数は、2.4×10-5(1/℃)であるので、このアルミニウム金属で管部材2を作製してもよい。また、管部材2は単層のものに限らず、外側が金属管で内側が樹脂管、或いは、外側が樹脂管で内側が金属管、或いは、外側も内側も樹脂管とする複層構造を採用できる。また、管部材2の外周面に、当該管部材2がコンクリート部11から離脱するのを補助する被膜やフィルムを設けてもよいものである。
【0033】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 :プレキャストコンクリート体
2 :管部材
5 :作製型枠
11 :コンクリート部
11A :コンクリート柱体
12 :上端筋
13 :腹筋
14 :縦筋
15 :下端筋
110 :フレッシュコンクリート