(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102763
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ダイレクトAC-ACコンバータの電力制御回路及び電力制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 5/27 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
H02M5/27 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006876
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】三島 智和
(72)【発明者】
【氏名】董 貴義
(72)【発明者】
【氏名】大森 英樹
【テーマコード(参考)】
5H750
【Fターム(参考)】
5H750AA01
5H750BA01
5H750BA06
5H750CC07
5H750CC11
5H750DD02
(57)【要約】
【課題】固定周波数による高周波電力制御が可能で、負荷変動に対する広範囲なソフト転流を実現でき、負荷インピーダンスの大幅な変化に対しても安定した動作を実現し、シームレスな駆動モードの切り替えが可能で、多彩なモード割合調整が適用できる電力制御方法を提供する。
【解決手段】共振タンクと双方向スイッチから構成される誘導加熱の高周波電力変換回路における電力制御回路であって、入力電源の正半サイクルで双方向スイッチの一方が主スイッチ、他方が副スイッチで、負半サイクルで主スイッチと副スイッチの対応を入れ変え、副スイッチを常時オフする第1モードと、副スイッチを常時オンする第2モードの2つの動作パターンの割合を誘導加熱負荷に応じて調整し、双方向スイッチの駆動周波数を固定したまま、高周波出力電力をほぼ線形に制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振タンクと双方向スイッチから構成される誘導加熱の高周波電力変換回路における電力制御回路であって、
入力電源の正半サイクルで前記双方向スイッチの一方が主スイッチ、他方が副スイッチで、負半サイクルで主スイッチと副スイッチの対応を入れ変え、副スイッチを常時オフする第1モードと、副スイッチを常時オンする第2モードの2つの動作パターンの割合を誘導加熱負荷に応じて調整し、前記双方向スイッチの駆動周波数を固定したまま、高周波出力電力をほぼ線形に制御することを特徴とするダイレクトAC-ACコンバータの電力制御回路。
【請求項2】
前記入力電源から得る電力と設定された電力指令値の偏差によるデューティ比に基づいてセレクタ信号を出力する追従制御部と、
前記双方向スイッチの電圧のゼロクロスのタイミングを判定し、前記タイミングから時間幅が一定の主スイッチ制御信号を生成する主スイッチ制御信号生成部と、
前記主スイッチ制御信号と前記入力電源電圧の極性に基づいて、前記双方向スイッチの前記第1及び第2モードの割合を調整してモード選択信号を出力するモード割合調整部と、
前記セレクタ信号と前記モード選択信号を入力して主回路における前記双方向スイッチのゲートを駆動するスイッチ駆動部、を備えることを特徴とする請求項1に記載のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御回路。
【請求項3】
第1モードと第2モードの2つのモードの切り替わり時における前記双方向スイッチの副スイッチのゲート駆動信号に一定の遅延を与えるために、前記追従制御部が出力する前記セレクタ信号の後段に、前記双方向スイッチの主スイッチのターンオン及びターンオフのタイミングを遅延させる遅延回路を更に備えたことを特徴とする請求項2に記載のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御回路。
【請求項4】
前記追従制御部における前記デューティ比は、一定周期内の第1モードと第2モードを前記電力指令値に応じてその割合を連続的に調整することを特徴とする請求項2に記載のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御回路。
【請求項5】
第1モードでは、前記双方向スイッチの主スイッチのターンオフにより、前記共振タンクのキャパシタ電圧が上昇し、誘導加熱負荷のインダクタンスと共に共振し、主スイッチの電圧はゼロから上昇してゼロ電圧ターンオフとなり、前記双方向スイッチの電圧がピーク値に達した後に下降し負電圧へ反転し、前記負電圧は副スイッチの逆並列ダイオードに印加され、主スイッチの両端はゼロ電圧を保持する、
第2モードは、主スイッチのターンオフに合わせて副スイッチをオンし、前記共振タンクのキャパシタ電圧が上昇し、誘導加熱負荷のインダクタンスと共に共振し、主スイッチの電圧はゼロから上昇してゼロ電圧ターンオフとなり、前記双方向スイッチの電圧がピーク値に達した後に下降しゼロになると同時に副スイッチおよび主スイッチの逆並列ダイオードを経由して電流が逆流し、副スイッチは、主スイッチのオンタイミングに合わせオフする、
ことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御回路。
【請求項6】
前記電力制御回路の制御周期を20kHz以上に調整することにより、前記入力電源の電流における低周波の階段状脈動が低減されることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御回路。
【請求項7】
共振タンクと双方向スイッチから構成される誘導加熱の高周波電力変換回路における電力制御方法であって、
入力電源の正半サイクルで前記双方向スイッチの一方が主スイッチ、他方が副スイッチで、負半サイクルで主スイッチと副スイッチの対応を入れ変えるステップと、
前記双方向スイッチの駆動周波数を固定したままで、副スイッチを常時オフする第1モードと、副スイッチを常時オンする第2モードの2つの動作パターンの割合を誘導加熱負荷に応じて調整するステップ、を備え、高周波出力電力をほぼ線形に制御することを特徴とするダイレクトAC-ACコンバータの電力制御方法。
【請求項8】
前記入力電源から得る電力と設定された電力指令値の偏差によるデューティ比に基づいてセレクタ信号を出力する追従制御ステップと、
前記双方向スイッチの電圧のゼロクロスのタイミングを判定し、前記タイミングから時間幅が一定の主スイッチ制御信号を生成する主スイッチ制御信号生成ステップと、
前記主スイッチ制御信号と前記入力電源電圧の極性に基づいて、前記双方向スイッチの前記第1及び第2モードの割合を調整してモード選択信号を出力するモード割合調整ステップと、
前記セレクタ信号と前記モード選択信号を入力して主回路における前記双方向スイッチのゲートを駆動するスイッチ駆動ステップ、を備えることを特徴とする請求項7に記載のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用電源から単相高周波交流を直接に生成できるダイレクト方式周波数変換回路(ダイレクトAC-ACコンバータ)の電力制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱(IH;Induction Heating)システムは、多くの工業用、家庭用、および医療用アプリケーションで選択されている。高周波電力変換インバータは、整流回路により商用電源を一旦整流化して、それを直流パルス電力にし、インバータ回路によって高周波電流に変換している。高周波電力変換インバータは、通常、整流器ステージ、ブーストPFC(力率改善)ステージ、およびDC/HFAC(直流/高周波交流)インバータで構成されており、これらの構成要素はIHシステムのコアコンポーネントである。一方で、パルス周波数変調(PFM)を使用する電力変換デバイスの性能を簡素化し、さらに最適化するようにし、商用電源から単相高周波交流を直接生成可能なダイレクトAC-ACコンバータが提案されている(特許文献1,非特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、従来のダイレクトAC-ACコンバータの場合、異なる周波数で動作する複数のIHデバイスの間には、動作周波数の偏差により可聴音ノイズ(干渉音)が発生しやすい。そのため、複数のIHデバイス間の干渉音を低減するように、周波数一定(固定周波数)で電力制御を行うことが必要とされている。また、パルス周波数変調(PFM)による電力制御のため、家庭用IH調理器の場合においては、日本の電波法の制約により90kHzがスイッチング周波数の上限とされ出力範囲に制限がある一方で、それ以外の金属加熱などの産業工業用IH機器では、90kHzを超えるスイッチング周波数を適用可能で出力範囲に制限がない。さらに、高出力の場合、パワー半導体スイッチのソフト転流動作(ソフトスイッチング)が行えず、電力損失と電磁ノイズの増大を招いてしまうといった問題もある。加えて、負荷インピーダンスが大きく変動し、ソフトスイッチングの範囲から逸脱した場合に、回路動作が安定しないといった問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】三島智和ら,"高周波誘導加熱応用三相-単相ダイレクトAC-ACコンバータの実証評価″,電気学会全国大会,4-056,2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、従来技術の欠点として以下の4点が挙げられる。
1)パルス周波数変調(PFM)による電力制御のため、複数のIHバーナを備えた調理器(複数のIH負荷をもつ金属熱処理装置も含む)の場合には、動作周波数の差が要因となって可聴音ノイズ(干渉音)を発生する点。
2)同じくPFMによる電力制御のため、負荷によっては電波法で定められた上限周波数を超えることができず、出力範囲に制限がある点。
3)出力によってはパワー半導体スイッチのソフトスイッチングが実現せず、電力損失と電磁ノイズの増大を招く点。
4)負荷インピーダンスが大きく変動し、ソフトスイッチングの範囲から逸脱すると回路動作が安定せず、出力停止をせざるを得ない点。
【0007】
上記1)~4)に挙げられる従来技術の欠点を解決すべく、本発明は、固定周波数による高周波電力制御が可能で、負荷変動に対する広範囲なソフト転流を実現でき、負荷インピーダンスの大幅な変化に対しても安定した動作を実現し、シームレスな駆動モードの切り替えが可能で、多彩なモード割合調整が適用できる電力制御方法及び電力制御回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御方法は、共振タンクと双方向スイッチから構成される誘導加熱の高周波電力変換回路における電力制御回路であって、入力電源の正半サイクルで双方向スイッチの一方が主スイッチ、他方が副スイッチで、負半サイクルで主スイッチと副スイッチの対応を入れ変え、副スイッチを常時オフする第1モードと、副スイッチを常時オンする第2モードの2つの動作パターンの割合を誘導加熱負荷に応じて調整し、双方向スイッチの駆動周波数を固定したまま、高周波出力電力をほぼ線形に制御する。
【0009】
本発明のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御方法は、具体的には、次の1)~4)を備える。
1)入力電源から得る電力と設定された電力指令値の偏差によるデューティ比に基づいてセレクタ信号を出力する追従制御部と、2)双方向スイッチの電圧のゼロクロスのタイミングを判定し、タイミングから時間幅が一定の主スイッチ制御信号を生成する主スイッチ制御信号生成部と、3)主スイッチ制御信号と入力電源電圧の極性に基づいて、双方向スイッチの第1及び第2モードの割合を調整してモード選択信号を出力するモード割合調整部と、4)セレクタ信号とモード選択信号を入力して主回路における前記双方向スイッチのゲートを駆動するスイッチ駆動部。
【0010】
本発明の電力制御方法は、非接触・ワイヤレス給電や誘導加熱など高周波電力伝送システムにて適用するダイレクトAC-ACコンバータの新規な電力制御方法である。電力制御回路を構成する双方向スイッチの駆動パターンを切り替えることにより、固定周波数ながら高周波電力を広範囲に調整できる。システム構成も比較的シンプルであり、高い実用性を有することから、単相の非接触式高周波エネルギー伝送装置への応用に好適である。また、負荷変動に対する優れた安定性、パワー半導体スイッチの低損失動作など、ロバスト性と高効率性に優れた高周波電力制御を可能とする。
【0011】
双方向スイッチが持つ2つの動作パターン、すなわち、高電力逆阻止モード(以下では「RBモード」という)と、小中出力逆導通モード(以下では「RCモード」という)とを、出力目標値(設定値)に応じて、その割合を連続的に調整する。すなわち、上記1)の追従制御部におけるデューティ比は、一定周期内のRBモードとRCモードを電力指令値に応じてその割合を連続的に調整する。ここで、電力指令値は予め設定するか、加熱対象が変わり出力インピーダンスが変わると指令値も変わる。いずれも動作周波数が一定(固定周波数動作)である。
また、本発明において、RBモードとRCモードの2つのモードの切り替わり時における双方向スイッチの副スイッチのゲート駆動信号に一定の遅延を与えるために、上記1)の追従制御部が出力するセレクタ信号の後段に、双方向スイッチの主スイッチのターンオン及びターンオフのタイミングを遅延させる遅延回路を設けることが好ましい。双方向スイッチの副スイッチが蓄えるサージ電流を回避するためである。
【0012】
このとき、RBモードとRCモードは、それぞれにゼロ電圧ソフトスイッチングを達成することから、常時パワー半導体デバイスの低損失および低電磁ノイズの特性を実現できる。
具体的には、RBモードでは、双方向スイッチの主スイッチのターンオフにより、共振タンクのキャパシタ電圧が上昇し、誘導加熱負荷のインダクタンスと共に共振し、主スイッチの電圧はゼロから上昇してゼロ電圧ターンオフとなる。そして、双方向スイッチの電圧がピーク値に達した後に下降し負電圧へ反転し、負電圧は副スイッチの逆並列ダイオードに印加され、主スイッチの両端はゼロ電圧を保持する。
一方、RCモードは、主スイッチのターンオフに合わせて副スイッチをオンし、共振タンクのキャパシタ電圧が上昇し、誘導加熱負荷のインダクタンスと共に共振し、主スイッチの電圧はゼロから上昇してゼロ電圧ターンオフとなる。そして、双方向スイッチの電圧がピーク値に達した後に下降しゼロになると同時に副スイッチおよび主スイッチの逆並列ダイオードを経由して電流が逆流し、副スイッチは、主スイッチのオンタイミングに合わせオフする。
なお、RCモードにおいて、主スイッチと副スイッチのオン・オフを論理反転しても電力制御することは可能である。
【0013】
負荷インピーダンスが大きく逸脱する場合であっても、動作周波数がより高いRCモードへ切り替えることにより、回路停止させることなく安定して連続運転が可能である。RB/RCモードの割合調整法については、1)バーストモード、2)デルタシグマ変調などがある。なお、より電磁ノイズを低減する方法としては、スペクトル拡散方式を組み入れることも可能である。
本発明において、電力制御回路の制御周期((制御周波数)を20kHz以上に調整することにより、入力電源の電流における低周波の階段状脈動を低減することが可能である。制御周期が可聴音域の上限周波数である20kHz以上で設定される。この場合、固定周波数は200kHzに設定されることになる。
【0014】
次に、本発明のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御方法について説明する。
ダイレクトAC-ACコンバータの電力制御方法は、共振タンクと双方向スイッチから構成される誘導加熱の高周波電力変換回路における電力制御方法であって、入力電源の正半サイクルで双方向スイッチの一方が主スイッチ、他方が副スイッチで、負半サイクルで主スイッチと副スイッチの対応を入れ変えるステップと、双方向スイッチの駆動周波数を固定したままで、副スイッチを常時オフする第1モードと、副スイッチを常時オンする第2モードの2つの動作パターンの割合を誘導加熱負荷に応じて調整するステップを備える。これにより、高周波出力電力をほぼ線形に制御する。
具体的には、入力電源から得る電力と設定された電力指令値の偏差によるデューティ比に基づいてセレクタ信号を出力する追従制御ステップと、双方向スイッチの電圧のゼロクロスのタイミングを判定し、タイミングから時間幅が一定の主スイッチ制御信号を生成する主スイッチ制御信号生成ステップと、主スイッチ制御信号と入力電源電圧の極性に基づいて、双方向スイッチの第1及び第2モードの割合を調整してモード選択信号を出力するモード割合調整ステップと、セレクタ信号とモード選択信号を入力して主回路における双方向スイッチのゲートを駆動するスイッチ駆動ステップを備える。
本発明のダイレクトAC-ACコンバータの電力制御方法における第1モードと第2モードは、それぞれ上述のRBモードとRCモードに該当する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電力制御方法または電力制御回路によれば、固定周波数による高周波電力制御が可能であるといった効果がある。
また、本発明の電力制御方法または電力制御回路によれば、負荷変動に対する広範囲なソフト転流を実現でき、負荷インピーダンスの大幅な変化に対しても安定した動作(優れたロバスト性)を実現するといった効果がある。
【0016】
さらに、本発明の電力制御方法または電力制御回路によれば、シームレスな駆動モードの切り替えが可能で、多彩なモード割合調整が適用可能であり、これにより高精度かつ電磁ノイズ強度を抑えた高周波電力制御を達成できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ダイレクトAC-ACコンバータシステムの主回路の一例
【
図2】ダイレクトAC-ACコンバータシステムの主回路と制御回路の機能ブロック図
【
図3】ダイレクトAC-ACコンバータシステムの主回路と制御回路の制御ブロック図
【
図4】入力電源電圧・電流に対する高周波電圧・電流の波形
【
図5】主回路のRBモードとRCモードを含めた回路状態遷移図
【
図7】主スイッチおよび副スイッチのZVS達成状態での原理波形図
【
図8】RB/RCモードの切替時点における各ロジック波形および関連する回路波形図
【
図10】2つの動作モードにおける電流有効値の差異の説明図
【
図11】本発明の電力制御方法におけるパルスパターンの例
【
図13】電源電圧および電流を含む商用周期での動作波形図
【
図14】モード切り替え信号のデューティ比に対する電力特性図
【
図15】無負荷時のRCモードのみの回路動作波形のシミュレーション結果
【
図16】無負荷時のRCモードのみの電源電圧・電流を含む商用周期での動作波形図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0019】
本発明の第一の実施形態のダイレクトAC-ACコンバータシステムの主回路と制御回路の構成を、それぞれ
図1と
図2に示す。主回路1は、
図1に示すように、商用電源1aに接続される共振タンク1bとパワーデバイス(パワー半導体)から成る双方向スイッチ1cで構成される。
図1における共振タンク1bは、変圧器モデルで示されており、変圧器の一次側がインダクタンスL
pと共振キャパシタC
rで表され、変圧器の二次側がインダクタンスL
sと抵抗R
0で表される。また、
図1における双方向スイッチ1cは、例えば、ドレイン接続にて2直列にしたSiC-MOSFETのパワートランジスタで構成され、ゲートでドライブされる。各々のスイッチには並列にダイオードが接続されている。
【0020】
図2に示すように、ダイレクトAC-ACコンバータシステムの主回路とその制御回路は、1組の双方向スイッチを用いた単相ダイレクトAC-ACコンバータ、入力電圧センサ2、双方向スイッチ電圧センサ3、電流モニタ4、および、電力制御回路5から構成される。ここで、電力制御回路5は、商用電源1a側から得た電力と電力指令値の追従制御を行う追従制御部6と、モード割合調整部7と、スイッチ駆動部8と、主スイッチ制御信号生成部9から構成される。追従制御部6は、主回路の入力電源電圧(商用電源電圧)V
inと主回路に流れる電流値i
inを入力電流センサ4から入力し、電力を電力指令値に追従させるように制御する。また、モード割合調整部7は、双方向スイッチ1cの両端の電圧V
swを入力し、双方向スイッチの電圧状態を判定し、主回路の入力電源電圧V
inの極性とから、副スイッチを常時オフする逆阻止(RB)モードと常時オンする逆導通(RC)モードの2種類のモード割合の調整を行う。また、スイッチ駆動部8は、追従制御部6の出力信号と、モード割合調整部7の出力信号とから駆動するスイッチ(Q1、Q2)を選択し、該当するスイッチのパワートランジスタのゲートを駆動する。スイッチ駆動部8を通じて、主スイッチQ1及び副スイッチQ2を高速にオン・オフ動作する。
【0021】
主スイッチ制御信号生成部9は、双方向スイッチ電圧センサ3で検出したスイッチ電圧Vswのゼロクロス(正から負)のタイミングから、時間幅が一定のオン(ON)パルスを生成する。これが、主スイッチ制御信号SWmainになる。
【0022】
モード割合調整部7は、入力電源電圧Vinの極性を表現するデジタル信号をSWmain信号と正理論積の計算を行い、RBモードの2つの制御信号を生成し、正論理積の否定計算をしてRCモードの2つの制御信号を生成する。
同じ周波数で動作する2つのモードの出力電流の有効値に差が存在することから、セレクタ信号のデューティ比は、一定周期内のRCモードとRBモードを出力目標値(設定値)に応じてその割合を連続的に調整することができる。いずれも動作周波数が一定(固定周波数動作)である。
【0023】
追従制御部6は、電流モニタ4で検出した入力電流Iinと入力電圧Vinを用いて、出力電力Poutを算出し、設定電力Psetとの偏差をPI制御器(比例積分器)で計算することによりコントロールデューティ比を決定する。また、追従制御部6では、PI制御器からの信号を鋸波信号と比較することで、セレクタ信号を生成し出力する。
追従制御部6が出力するセレクタ信号(Sel)によって、スイッチ駆動部8のマルチプレクサを介して、モード割合調整部7の出力のRBモードの信号とRCモードの信号が選択され、スイッチ(Q1、Q2)のゲートを駆動してモードの切り替えが行われる。
【0024】
図3に示すように、本発明のダイレクトAC-ACコンバータには、単相商用電源とIH負荷が接続される。ダイレクトAC-ACコンバータは、2つのパワー半導体で構成される双方向スイッチ(Q
1、Q
2)を備え、双方向スイッチを介して接続されたIH負荷には、並列にキャパシタC
rが接続されており、スイッチオフ時にはワークコイルの自己インダクタンスおよび加熱負荷の等価インダクタクスを含むIH負荷の等価インダクタンスと共振回路を形成する。ここでは、電源V
inが正半サイクルではQ
1が主スイッチ、Q
2が副スイッチであり、負半サイクルではその対応が入れ変わる。主スイッチの高速動作により、入力V
inからの交流電圧は、
図4に示すようにIH負荷に包絡線を含みながら高周波交流へと直接変換される。本発明のダイレクトAC-ACコンバータには、副スイッチを常時オフするRBモードと常時オンするRCモードの2つの動作パターンが存在する。
【0025】
次に、RB/RCモードを含めた回路状態遷移図と理論動作波形を、
図5および
図6にそれぞれ示し、以下にそれぞれの回路動作を説明する。
【0026】
RBモードにおいては、主スイッチのターンオフによりキャパシタCrの電圧VCrが徐々に上昇し、IH負荷の等価インダクタンスLrと共に共振する。これより、主スイッチの電圧はVCrと電源電圧Vinが加算され、ゼロから徐々に上昇して、ZVSターンオフを達成する。双方向スイッチ電圧VSWがピーク値に達した後、徐々に下降し、負電圧へ反転する。この負電圧は、副スイッチの逆並列ダイオードに印加されており、主スイッチの両端はゼロ電圧を保持する。故に、ゲート信号を印加すると主スイッチはゼロ電圧ターンオンを実現する。なお、このとき、スイッチには負荷電流が流れ込むが、前述のゼロ電圧ターンオンにより、スイッチング損失は発生しない。その後、電流が線形的に上昇する。
【0027】
<RBモード>
(1-1)モード1:共振状態正半周
主スイッチを夕一ンオフすると、IHコイルLPの電流はIH負荷に並列に接続されたキャパシタCrに流れ込み、下記式1のようにLPCrの共振状態になる。
【0028】
【0029】
(1-2)モードB2:共振状態負半周(Q1夕一ンオン前)
遮断期間における双方向スイッチVswが正方向に共振した後、ゼロ電圧クロスを経て負の励振を開始する。このとき、Vswの全電圧は副スイッチに現れる。
【0030】
(1-3)モードB3:共振状態負半周(Q1夕一ンオン後)
時刻t2にて主スイッチS1をオンすると、Q1はZVSターンオンを得る。この間、副スイッチS2がオフのままであり、双方向スイッチには電流が流れない。
【0031】
(1-4)モードB4:主スイッチの導通期間
スイッチQ1の電圧Vswの負極性の励振が終わった後、副スイッチに印加される電圧は反転し、S1-D2を経由して導通を始める。これよりLPにはVinが印加され、下記式2よりiswは直線的に上昇する。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
一方、RCモードでは、主スイッチのターンオフに合わせて副スイッチをオンする。これより、キャパシタCrの電圧VCrが徐々に上昇し、IH負荷の等価インダクタンスLrともに共振する。その結果、主スイッチの電圧はVCrと電源電圧Vinが加算されゼロから徐々に上昇して、ZVSターンオフを達成する。双方向スイッチ電圧VSWはピークに達した後、徐々に下降し、ゼロになると同時に副スイッチおよび主スイッチの逆並列ダイオードを経由して電流が逆流する。その間に、主スイッチのゲートを駆動すると、ゼロ電圧・ゼロ電流のターンオンが実現する。一方、副スイッチは、主スイッチのオンタイミングに合わせオフする。副スイッチは、ゼロ電圧オン、ゼロ電圧オフである。
【0036】
<RCモード>
(2-1)モード1:共振区間
主スイッチS1を夕一ンオフすると、IHコイルLP電流はIH負荷に並列に接続されたキャパシタCrに流れ込み、上記式1にあるようにLP-Crでの共振を始める。
【0037】
(2-2)モードC2:夕一ンオン前
遮断期間において共振電圧Vswが増大した後、再び零に達すると副スイッチが自動的に導通して、主スイッチの導通期間中は、IHコイルLPに定電圧が印加されて、上記式2よりiSWは直線的に増加する。
【0038】
(2-3)モードC3:夕一ンオン後
双方スイッチが導通する区間に主スイッチS1をオンすると、ZVSターンオンを得る。
【0039】
(2-4)モードC4:電流iSW正の期間
時刻t3にて双方スイッチの導通電流が順方向に切り替わると、電源からパワー供給区間となり、回路動作は非共振区間へ戻りiSWは直線的に上昇する。
【0040】
主回路は、RBモードとRCモードの2種類の動作パターンで動作するが、RBモードでは、主スイッチの導通期間(モードB4)中はLPに商用電源電圧が印加され、Iswはほぼ直線的に増加する。ターンオフすると共振タンクは共振状態(モード1、B2、B3)になる。遮断期間における共振電圧Vswが正の共振状態(モード1)の弧を描いた後、零を通過の時点から、負に励振して再び零に達した時点までに主スイッチをターンオンすると共に、ゼロ電圧ソフトスイッチング(ZVS)を達成する。
再び零に達した時点から、Iswが最初の導通期間の状態に戻り、1周期の動作が完了する。RCモードでは遮断期間(モード1)において共振電圧Vswが増大した後、初めて零に達するとIswは負からほぼ直線的に増大する(モードC2、C3、C4)。ZVSを達成するために、0Aになる前に主スイッチをターンオンする。
【0041】
<ソフトスイッチングの条件>
図7は、主スイッチおよび副スイッチのZVS達成状態での原理波形を示している。RBモードでのZVS達成に要する必要条件は、V
SWが負に励振する区間(モードB2、B3)に、副スイッチのオフ状態を維持することである。
一方、RCモードでは遮断期間(モードC1)において共振電圧V
SWが上昇後ゼロに達すればi
SWは負から線形的に上昇する(モードC2-C4)。この区間、主スイッチをターンオンするとZVSが得られる。さらに、i
SWの極性が負である期間(モードC2-C3)に、副スイッチをオンすることが前提となる。
【0042】
<モード切替タイミング>
図8は、上述のRB/RCモードの切替時点における各制御ロジック波形および関連する回路波形を示している。RBモードからRCモードへと切り替わる時に、副スイッチの駆動信号となる制御信号S
PWMに対して一定の遅延を与え、RCモードの開始となる主スイッチのターンオンのタイミングを1クロック後のSel(SW
sub)にて与える。これにより、副スイッチの寄生容量に電荷が蓄積された状態でのターンオフすることによるサージ電流を回避する。また、RCモードからRBモードへと切り替わるタイミングも同様に1クロック分遅延させ、副スイッチの順方向電流がゼロまで減少した後にオフするよう調整している。これにより、ターンオフ時のサージ電圧の発生を防いでいる。
【0043】
以上の原理について、
図9に示す1ビットの情報を記憶するDフリップフロップ15(D-FF)を用いて構成している。フリップフロップを用いたことで、汎用ロジック回路にて実現できる。
なお、Dフリップフロップ15は、RBモードとRCモードの切り替え時に、PI制御器の出力信号をそのままパルスパターンとして利用すれば、パワー半導体スイッチに電流が流れた状態でスイッチングを開始する。その結果、電流のサージ現象を引き起こすことになるため、これを防ぐために、制御PWM信号から1パルス遅れのタイミングでスイッチングさせる。そして、制御PWM信号を「Set period」分だけ遅らせて、直後のSW
mainのハイレベルのタイミングでモードを切り替える。
【0044】
<高周波電力制御について>
電力制御手段として、検出した入力電流i
inと入力電圧V
inを使って、出力電力P
oを算出し、設定電力P
setとの偏差をPI制御器13で計算することでセレクタ信号のデューティ比D
cを決定する。PI制御器13からの信号を鋸波信号と比較し、セレクタ信号を生成する。さらに、マルチプレクサ(24a,24b)に通してRBモードを表すRB信号とRCモードを表すRC信号とをV
inの極性に応じて選択する。
これら2つの動作モードには、
図10に図示するように電流有効値に差異がある。この差異に基づき、モード切り替え信号のデューティ比D
c(ロジック信号Selのオン時比率)は一定の制御周期内(1/f
c)のRCモードとRBモードを出力目標値(設定値)に応じてその割合を連続的に調整する。本電力制御方法におけるパルスパターンの例を
図11に示す。
【0045】
<シミュレーション結果について>
本発明の電力制御回路および方法の有効性をシミュレーションにより検証する。回路パラメータ条件を下記表1に表す。
【0046】
【0047】
図12は、定格6.5kW、動作周波数f
s=200kHz、モード切り替え周波数f
cを20kHzに設定し、電源周波数60Hzの条件下での回路動作波形のシミュレーション結果を示している。この結果より、電源電圧の極性に応じて双方向スイッチ内の2つアクティブスイッチQ
1、Q
2の主従関係が効果的に入れ替わり、逆導通モード(RCモード)と逆阻止モード(RBモード)が、モード切り替え周波数(20kHz)に従い、達成されている。まずRBモードが2サイクル続いた後、3サイクル目からRCモードへとスムーズに移行している。主スイッチはソフトスイッチング(ZVS)を得ている。モードの切り替え時においても、ソフトスイッチングに達成できる。
【0048】
また、
図13は、電源電圧および電流を含む商用周期での動作波形を示している。電源のPFC(力率改善)を達成すると同時に、負荷電流および共振キャパシタ電圧の波形には電源と同期した低周波成分が包絡線に現れながら、高周波スイッチング周波数成分を含むことが確認できる。したがって、PFCを達成しつつダイレクト周波数変換が可能であることが分かる。
【0049】
図14は、RBモードとRCモードの2つの動作パターンの割合であるモード切り替え信号のデューティ比D
cを0%から100%まで変化させた場合の電力特性を示している。
図14のグラフによれば、出力電力とモード切り替え信号のデューティ比D
cの間には近似的に線形性を有しており、制御器パラメータ設計も容易となり、比較的簡素な論理にて高周波電力制御が可能であることが分かる。
【0050】
本発明のダイレクトAC-ACコンバータは、異常運転における回路のロバスト性も特徴の1つである。すなわち、無負荷および負荷短絡でも回路が正常かつ簡易的な制御で運転を継続できるかということである。ここでいう無負荷とは、理論上0%負荷に相当する。
本発明のダイレクトAC-ACコンバータでは、無負荷の場合であっても、電力制御方法をRCモードのみに切り替えることにより、双方向スイッチのスイッチング周波数の調整・パルス幅変調(PWM)などを行わずとも動作を維持することが可能である。RCモードのみのため、スイッチ電流i
swが正/負で同程度流れる。入力電源から送った電力(正区間)が、そのまま入力電源へ帰っている電力(負区間)に相当する。
図15は、無負荷時のRCモードのみの回路動作波形のシミュレーション結果を示し、また、
図16は、無負荷時のRCモードのみの電源電圧・電流を含む商用周期での動作波形図を示している。無負荷(負荷インピーダンス無限大)を検知することにより、RCモード単独運転のみを選択して回路動作を維持できる。
なお、短絡については、元々、ワークコイルの自己インダクタンスを利用して大電流を抑制しているため、ロバスト性は確保されている。
【0051】
以上のとおり、高周波IH応用ダイレクトAC-ACコンバータにおける固定周波数による高周波電力制御ができる電力制御方法と電力制御回路を示し、シミュレーションによりその有効性を示した。
本発明は、家庭用高周波誘導加熱装置(例えば、IH流水加熱装置、IH電磁調理器など)、家庭用EV(Electric Vehicle)普通充電システム、産業工業用IH機器に有用である。