(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102774
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】不活性化フィルター装置
(51)【国際特許分類】
A61L 9/16 20060101AFI20240724BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20240724BHJP
B01D 39/18 20060101ALI20240724BHJP
D06M 13/463 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
A61L9/16 F
B01D39/16 Z
B01D39/18
D06M13/463
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006898
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】308006254
【氏名又は名称】株式会社アモルファス
(74)【代理人】
【識別番号】100088029
【弁理士】
【氏名又は名称】保科 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 廣
(72)【発明者】
【氏名】岸原 直雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 幸一郎
【テーマコード(参考)】
4C180
4D019
4L033
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180DD09
4C180EA28Y
4C180EB15X
4C180EB16X
4C180KK01
4D019AA01
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB03
4D019BC06
4D019CB04
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA86
(57)【要約】
【課題】フィルター部材に保持した水分を有効に維持し続ける技術を提供する。
【解決手段】この発明の不活性化フィルター装置10は、捕獲のためのフィルター部材の層20と、不活性化のための不活性剤の層30を備えるだけでなく、吸気側および排気側の両方に透湿防水層40,50を備える。それら透湿防水層40,50は、防水性と通気性を併せもつ層であり、層20,30の部分に保持した水分の逸失を防ぎ、水分の維持を図ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスおよび/または細菌を捕獲可能なフィルター部材の層と、そのフィルター部材の層に配置した、前記ウイルスおよび/または細菌を不活性化する不活性化剤とを備える不活性化フィルター装置であって、
さらに、前記フィルター部材の層における、処理すべき空気を導入する吸気側、および処理すべき空気の排出側の各面に、透湿防水層を備えることを特徴とする、不活性化フィルター装置。
【請求項2】
前記フィルター部材の層は、一層構造あるいは多層構造のいずれかである、請求項1の不活性化フィルター装置。
【請求項3】
前記フィルター部材の層は湿潤し水分を含み、前記透湿防水層はその水分を前記フィルター部材の層中にとどめる、請求項1の不活性化フィルター装置。
【請求項4】
前記不活性剤は、前記フィルター部材の層の一面あるいはフィルター部材の層の層間、または、フィルター部材の層の内部のいずれかに位置する、請求項1の不活性化フィルター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気中のウイルスおよび/または細菌を捕獲し、不活性化するための不活性化フィルター装置に関し、特には、不活性化に必要な水分を装置内に維持する上で有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスおよび/または細菌による感染を防止する方策として、空気中に存在する、それらのウイルスおよび/または細菌を捕獲し、不活性化する技術が知られている。そのような技術では、フィルター部材によりウイルスおよび/または細菌を捕獲し、それら捕獲したウイルスおよび/または細菌を、フィルター部材の層に配置した不活性化剤により不活性化する。
【0003】
不活性化剤の配置について、フィルター部材の層に積層する第1のタイプと、フィルター部材の層の内部に配置する第2のタイプがある。第1のタイプとして、特許文献1は、フィルター部材の層の一面に、薬剤層(不活性化剤の層)を設け、フィルター部材の層に付着したウイルス等を、その薬剤層によって不活性化する技術を示す。また、特許文献2や3は、第2のタイプを示す。特許文献2は、フィルター部材の繊維に対し、不活性化剤を直接担持させた技術を示し、特許文献3は、フィルター部材に対し、不活性化剤の成分と一緒に吸湿材を含侵させる技術を示す。
【0004】
さらには、別の特許文献4は、不活性化剤による不活性化作用を有効に行うため、フィルター部材に対し高湿度の空気を外部から与える技術を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-25058号公報
【特許文献2】特開2005-95112号公報
【特許文献3】特開2006-21095号公報
【特許文献4】特開2005-225404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に述べた背景技術を考慮すると、フィルター部材の層に積層した部分、あるいはフィルター部材の層の内部の少なくともいずれかに不活性化剤を設けたフィルター装置は公知であり、しかもまた、不活性化作用を有効に行うため、不活性化剤を伴うフィルター部材が水分を含有しやすい状況にする考え方も公知である。
【0007】
発明者らは、不活性化作用を有効に行う上で水が大事であることに着目した。水は、ウイルスや細菌との相溶性が高く、それらウイルスや細菌を不活性化するための必須の成分であるからである。この発明の着眼点は、不活性化剤を伴うフィルター部材の周囲に水分を維持し続けることである。
【0008】
フィルター部材の周囲に水分を与えるということに関し、上に述べた公知の技術では、フィルター部材に吸湿作用をもたせるという考え方、あるいは、フィルター部材に対し外部から水分を供給するという考え方である。そのような考え方は、フィルター部材の部分に水分を供給し、あるいは、水分を保持しやすくすることを狙っている。そこには、保持した水分の減少を抑えるという考え方は見られない。フィルター部材の層は、処理すべき空気の吸気、排気に伴って水分を放出しやすい環境にある。
【0009】
そこで、この発明は、不活性化の作用あるいは機能を有効に発揮させるため、フィルター部材の層に保持した水分を有効に維持し続けるようにした技術を提供することを目的にする。この発明のさらなる目的については、今後の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による不活性フィルター装置は、基本的に、ウイルスおよび/または細菌を捕獲可能なフィルター部材の層と、そのフィルター部材の層に配置した、前記ウイルスおよび/または細菌を不活性化する不活性化剤とを備える。
【0011】
フィルター部材の層は、一層構造あるいは数層の多層構造のいずれかにすることができる。フィルター部材の材料としては、綿、混紡、紙、ガーゼ、不織布あるいはリント布、または、アクリル繊維、ポリエステル繊維、発泡ウレタンなどの化学繊維を用いることができる。それらの材料を層の形状に保つため、適度の圧縮による成形を活用することもできるし、金網あるいは樹脂製のランナー、つまりフィルターの層構造を維持するための部材を用いることもできる。
【0012】
不活性化剤については、フィルター部材の層の一面あるいは層間に配置する第1のタイプのほか、フィルター部材の繊維に付着、あるいは繊維間の空隙に配置する第2のタイプのいずれも適用することができる。また、それらの第1のタイプおよび第2のタイプを併用することもできる。なお、フィルター部材に不活性剤を付着あるいは添える手法としては、たとえば、不活性剤の水溶液を浸漬あるいは噴霧する方法を適用することができる。
【0013】
また、不活性剤としては、不活性化すべき対象のウイルスおよび/または細菌の種類に応じて適正なものを選択する。たとえば、エンベロープ型のウイルスに対しては、セチルピリジウム塩化物水和物含有のケイ素ナノ粒子組成物、陽イオン活性剤の4級アンモニウム塩、ヒビテンなどが有効であり、また、結核菌や百日咳菌に対しては、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンやアルキルポリアミノエチルグリシンなどの両性界面活性剤が有効である。
適用可能な不活性剤は、次のとおりである。
〈第4級アンモニウム塩型〉
塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルエチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ブチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、セチルピリジニウム塩化物水和物含有のケイ素ナノ粒子組成物
〈両性界面活性剤〉
塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン、コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、アルキルベタインなど
〈ビグワナイド系消毒剤〉
ヒビテン、オラネジン
【0014】
以上のような基本的な構成に加え、この発明による不活性フィルター装置は、次のような特徴的な構成を備える。すなわち、特徴的な構成とは、前記フィルター部材の層における、処理すべき空気を導入する吸気側、および処理すべき空気の排出側の各面に、透湿防水層を備えることである。
【0015】
透湿防水層とは、防水・防塵性と通気性を同時に発揮する層であり、基準となる耐水性と通気性を併せもつ層である。耐水性は、層の表面がどれだけの水圧に対して、裏面に水が漏れださずに耐えるかを数値化したものでる。また、通気性は、6.45cm2の面積当たり1.27kPaの圧力下で100ccの空気を通過させるのに要する時間(ガーレー数、sec、JISP8117記載)で示される。この通気性は、流量の逆数に相当し、ガーレー数が小さいほど透過性が高い。透湿防水の特性として、一般的には、ガーレー数が0.008~30、好ましくは0.01~10であり、耐水性は3~200kPa、好ましくは5~100kPaである。そのような透湿防止層は、たとえば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂の多孔膜で構成することができる。
【0016】
耐水性と通気性とを併せもつ透湿防水層は、不活性剤を伴うフィルター部材の層の吸気側、および排出側の両方において、処理すべき空気を通過させつつ、フィルター部材の層部分の水分を層中にとどめるように機能する。そのため、処理すべき空気の流れがあるにもかかわらず、湿気や水分を不活性剤を伴うフィルター部材の層中にとどめ、層中の水分を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の不活性フィルター装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】この発明の不活性フィルター装置の他の実施形態を示す断面図である。
【
図3】この発明の不活性フィルター装置を含む空気処理機の一例を示す概略的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、この発明の一実施形態であり、フィルター部材とは別に不活性剤の層を設けた例である。不活性化フィルター装置10は、コロナウイルスをはじめとしたウイルス、および/または結核菌などの細菌を捕獲し、不活性化するためのフィルター装置である。フィルター装置10は、捕獲あるいは捕集のための要素として、フィルター部材の層20を備える。たとえば、コロナウイルスは、粒径0.1μmのように微小であるが、フィルター部材の層20は、HEPAフィルターのように、粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集率をもつ部材で構成することができる。微小なコロナウイルスは、フィルター部材に対して何回もの接触の機会をもち、また、コロナウイルスを含む飛沫は数μmの大きさであるからである。
【0019】
フィルター部材の層20の一面側20iが処理すべき空気を導入する吸気側であり、層20の他面側20oが処理すべき空気の排出側である。ここでは、空気の排出側である層20の一面側20iに、不活性剤の層30を設ける。不活性剤の層30は、フィルター部材の層20の一面側20iに直接吹き付けることにより形成することもできるし、不活性剤を含侵させた繊維層を層20の一面側20iに貼り付けることにより形成することもできる。
【0020】
先に述べた先行例では、フィルター部材の層20と不活性剤の層30を備えるだけであったが、この発明の不活性化フィルター装置10は、吸気側および排気側の両方に透湿防水層40,50を備える。それら透湿防水層40,50は、防水性と通気性を併せもつ層であり、たとえば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂の多孔膜で構成することができる。
【0021】
不活性化フィルター装置10については、不活性剤の層30による不活性化の作用を有効に行うため、フィルター部材の層20および不活性剤の層30に充分な水分を含有させる。しかし、そのような水分は、不活性化フィルター装置10に流れる空気により失われやすい。その点、不活性化フィルター装置10においては、吸気側および排気側の両方に透湿防水層40,50を備えることから、フィルター部材の層20および不活性剤の層30の中の水分の逸失を有効に防止することができる。
【0022】
図2は、この発明の他の実施形態であり、フィルター部材の内部に不活性剤を設けた例である。他の実施形態である不活性化フィルター装置100では、ウイルスおよび/または細菌を捕獲するためのフィルター部材の層200の中に、不活性化剤を保持した形態である。不活性化剤は、フィルター部材の層200中の繊維に付着し、あるいは、繊維間の空隙に保持される。層200中の不活性化剤は、層200に捕獲されるウイルスなどに近接することから、ウイルスなどと接触しやすく、不活性化をより有効に行うことができる。
【0023】
この不活性化フィルター装置100においても、フィルター部材の層200の吸気側、排気側の両面に透湿防止層40,50を備える。それにより、処理すべき空気の流れを阻害することなく、不活性化剤を伴うフィルター部材200中の水分の逸失を有効に防止することができる。
【0024】
この発明の不活性化フィルター装置10,100は、一般的には、空気清浄機などにおける空気導入口の部分に、脱臭フィルターや集塵フィルターと組み合わせた形態で活用することができる。
【0025】
図3は、不活性化フィルター装置10,100の別の活用例を示す概略的な構成図である。タンク60は、内部に不活性化フィルター装置10(100)を備え、そのタンク下部から処理すべき空気を取り入れ、処理した空気をタンク上部から排出する構成である。
【0026】
タンク60の内部には、下方寄りに透湿防水シート62がある。透湿防水シート62は、空気の流れを許しつつ、水の漏れを防止する。そのため、透湿防水シート62上に水層64を設けることにより、下部から導入される処理すべき空気をバブリングし高湿の状態でタンク60の上方に流すことができる。タンク60の上方部分には、ウイルスを可視化するための可視化手段66およびこの発明の不活性化フィルター装置10(100)がある。前面に位置する可視化手段66は、ウイルスを可視化することにより、処理すべき空気中にコロナウイルスが含まれているか否かを検知することができる。可視化手段66としては、ダチョウ抗体フィルター、またはウイルスに結合するVHH抗体と高輝度な蛍光タンパク質を伴う融合タンパク質を担持した蛍光タンパク質担持フィルターなどがある。タンク60内に導入した空気をバブリングしつつ、一定時間流した後、それらの可視化手段66を取り出し、ウイルスの存在を検知することができる。その場合、可視化手段66がダチョウ抗体フィルターであるときには、取り出したダチョウ抗体フィルターに対し、暗所で二次抗体溶液を噴霧してからLED光あるいはブラックライトを照射する。その照射により黄緑色に光るとき、コロナウイルスの存在を知ることができる。また、可視化手段66が蛍光タンパク質担持フィルターの場合には、蛍光顕微鏡で観察することによりコロナウイルスの存在を知ることができる。
【0027】
可視化手段66の背面に位置する、この発明の不活性化フィルター装置10(100)は、それを通過する空気中のウイルスなどを有効に捕獲および不活性化し、安全な空気を排気口から外部に逃がす。
【0028】
なお、吸気側の透湿防水層40および排気側の透湿防水層50については、通常は、同様の特性のものを用いるが、上の活用例で示したように、たとえばバブリングにより高湿な空気を不活性化フィルター装置10(100)に導入する場合、吸気側の透湿防水層40の方が排気側の透湿防水層50よりも湿気を通しやすくすることもできる。それにより、処理すべき高湿な空気を不活性化フィルター装置10(100)に効率的に導入することができる。
【符号の説明】
【0029】
10,100 不活性化フィルター装置
20,200 フィルター部材の層
30 不活性剤の層
40,50 透湿防水層
60 タンク
64 水層
66 可視化手段