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  • 特開-ターポリン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102777
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ターポリン
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/28 20060101AFI20240724BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B32B27/28 101
B32B27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023015674
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000109037
【氏名又は名称】ダイニック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石橋 一樹
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA01C
4F100AA20A
4F100AA20C
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK41B
4F100AK68A
4F100AK68C
4F100AL05A
4F100AL05C
4F100BA03
4F100BA06
4F100DG11B
4F100DG12B
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100GB90
4F100JA04A
4F100JA04C
4F100JK07A
4F100JK07C
4F100YY00A
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】樹脂層の樹脂成分としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を主に用い、適度な柔軟性と高周波ウェルダー加工性を有している耐熱性に優れたターポリンであって、特に耐熱クリープ性に優れたターポリンを提供する。
【解決手段】基布2の両面に樹脂層3を設けたターポリン1であって、前記樹脂層3が、樹脂成分と含水無機化合物とを含有し、前記樹脂層3が、樹脂成分として、融点80℃以上95℃未満の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と融点95℃以上110℃以下の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とを含有し、樹脂層中のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の総含有量が樹脂層全体の70.0質量%以上95.0質量%以下の範囲であって、前記樹脂層3が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が11.0質量%以上18.0質量%以下の範囲であるターポリン1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の両面に樹脂層を設けたターポリンであって、
前記樹脂層が、樹脂成分と含水無機化合物とを含有し、
前記樹脂層が、樹脂成分として、融点80.0℃以上95.0℃未満の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と融点95.0℃以上110.0℃以下の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とを含有し、樹脂層中のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の総含有量が樹脂層全体の70.0質量%以上95.0質量%以下の範囲であって、前記樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が11.0質量%以上18.0質量%以下の範囲であるターポリン。
【請求項2】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の融点と、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点との差が絶対値で5.0℃以上である請求項1に記載のターポリン。
【請求項3】
ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の加重平均値が86.0℃以上である請求項1に記載のターポリン。
【請求項4】
ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の加重平均値が86.0℃以上である請求項2に記載のターポリン。
【請求項5】
ターポリンの樹脂層が、含水無機化合物としてシリカゲル微粒子を樹脂成分100.0質量部に対し1.0質量部以上20.0質量部以下の範囲で含有する請求項1~請求項4のいずれかに記載のターポリン。
【請求項6】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の曲げ弾性率が30.0Mpa以上80.0MPa以下の範囲で且つエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の曲げ弾性率が90.0MPa以上150.0MPa以下の範囲である請求項1~請求項4のいずれかに記載のターポリン。
【請求項7】
ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均値が110.0MPa以下である請求項1~請求項4のいずれかに記載のターポリン。
【請求項8】
樹脂層がエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)100.0質量部に対してエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を33.3質量部以上150.0質量部以下の範囲の割合で含有する請求項1~請求項4のいずれかに記載のターポリン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層の樹脂成分としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いたターポリンであって、耐熱性に優れたターポリンに関する。
【背景技術】
【0002】
織編物からなる基布の両面に樹脂層を設けたターポリンは、防水性・耐久性に優れる為に、フレキシブルコンテナ、テント、構造物の膜屋根、垂れ幕の他、各種建築用資材、各種工業用資材、各種土木工事用資材等の幅広い用途で従来から用いられている。
【0003】
ターポリンの樹脂層に使用する樹脂成分としては、安価で柔軟性や耐久性に優れた軟質塩化ビニル樹脂が主に用いられているが、軟質塩化ビニル樹脂には多量の可塑剤が含まれている為に、廃棄や焼却処理に伴う環境汚染の問題や、フレキシブルコンテナに使用した場合などに可塑剤が内容物に移行する懸念があることなどから、その様な問題が発生する恐れの少ないエチレン系共重合体、特にエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂層の樹脂成分として用いたターポリンの要望が年々増加してきている。
【0004】
この様な、エチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂層の樹脂成分として用いたターポリンは、軟質塩化ビニル樹脂を樹脂層の樹脂成分として用いたターポリンに比べて、上述したような環境汚染の問題や可塑剤の内容物に対する移行の懸念が少なく、軽量であるという利点がある一方で、耐熱性や柔軟性や高周波ウェルダー加工性の面で劣るという問題があった。
【0005】
例えばターポリンを用いたフレキシブルコンテナにおいては、まずターポリンを所定のサイズに裁断してフレキシブルコンテナのパーツを作製し、各パーツ同士を高周波ウェルダー加工によって溶着して接合する事によってJIS Z1651(2017)に規定されている様なフレキシブルコンテナを作製する事などから、高周波ウェルダー溶着部の強度の観点やフレキシブルコンテナの製造効率を考える上で、ターポリンの高周波ウェルダー加工性は重要な要素となる。
【0006】
次に出来上がったフレキシブルコンテナには、熱を帯びた内容物が充填される事もある事などから、ターポリン自体が熱による変形や破断や自己融着を起こし難いような耐熱性を有している事が必要なのはもちろんであるが、特に上述した高周波ウェルダー加工によって溶着された部分に関して耐熱性評価の一つである耐熱クリープ性が比較的脆弱になり易い事が経験上知られており、ターポリンの高周波ウェルダー溶着部の耐熱クリープ性はターポリンを評価する上で非常に重要な要素となっている。高周波ウェルダー溶着部の耐熱クリープ性が劣ると、熱を帯びた内容物を充填した際にフレキシブルコンテナの高周波ウェルダー溶着部が破断する事によってフレキシブルコンテナが破袋し、内容物が大量に漏れ出すといった重大事故が発生しやすくなる。
【0007】
また、充填された内容物が取り出された後のフレキシブルコンテナは、再利用する為に折り畳まれて回収されるが、その際にターポリンの柔軟性がないと、折り畳む作業が困難になる為にターポリンの柔軟性もまたターポリンを評価する上で重要な要素となる。
【0008】
しかしながら上記の各特性は、ターポリンの樹脂層の樹脂成分として使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体の性状の影響を大きく受ける為に、例えばターポリンの耐熱性を向上させる意図をもって、ターポリンの樹脂層の樹脂成分として比較的軟化点の高い酢酸ビニル単位含有量の少ないエチレン-酢酸ビニル共重合体を単独で用いると、ターポリンの耐熱性は向上するものの、高周波ウェルダー加工性や柔軟性が悪化する傾向にあり、その逆に高周波ウェルダー加工性と柔軟性を向上させる意図をもって、ターポリンの樹脂層の樹脂成分として酢酸ビニル単位含有量の多いエチレン-酢酸ビニル共重合体を単独で用いると、ターポリンの高周波ウェルダー加工性や柔軟性は向上するものの、ターポリンの耐熱性が悪化する傾向にあるといったトレードオフの関係にある事が知られている。
【0009】
上記問題点を改善する為に、特許文献1では、酢酸ビニル単位含有量が10~30重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマー5~40重量部、誘電率と誘電損失との積が0.1以上の高周波発熱性の良い無機物5~30重量部、およびリン酸エステル系液状滑剤0.5~5.0重量%をそれぞれ配合した組成物を樹脂層として用いたターポリンが提案されている。
【0010】
また、特許文献2では、酢酸ビニル単位含有量が10~20重量%でメルトフローレートが0.1~10g/10分のエチレン-酢酸ビニル共重合体60~90重量%と酢酸ビニル単位含有量が22~35重量%でメルトフローレートが0.1~10g/分のエチレン-酢酸ビニル共重合体10~40重量%とからなり、かつ平均酢酸ビニル単位含有量が15~22重量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂層の樹脂成分として用いたターポリンが提案されている。
【0011】
また、特許文献3では、酢酸ビニル単位含有量が25~50重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体10~90重量%と、酢酸ビニル単位含有量が25重量%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体10~90重量%とからなるエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂層の樹脂成分として用いたターポリンが提案されている。
【0012】
しかしながら上述したターポリンに関しては、適度な耐熱性と柔軟性と高周波ウェルダー加工性を有したターポリンを得る事は出来るものの、ターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性といった耐熱性が依然不充分なものであり、特に耐熱性評価の一つである耐熱クリープ性において、高周波ウェルダー溶着部の耐熱クリープ性については特に不充分である事などから、近年顧客からはターポリンの耐熱クリープ性の更なる向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10-76610号公報
【特許文献2】特開平1-301247号公報
【特許文献3】特開2010-215762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はこの様な状況に鑑みてなされたものであり、樹脂層の樹脂成分としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を主に用い、適度な柔軟性と高周波ウェルダー加工性を有している耐熱性に優れたターポリンであって、特に耐熱クリープ性に優れたターポリンを提供する事が主たる課題である。より具体的には、60℃の大気雰囲気中で荷重負荷40kgfという条件のクリープ試験において、ターポリンの高周波ウェルダー溶着部の耐熱クリープ性が優れているターポリンを供給する事を本発明課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決する為に、本発明者が検討を行った結果、基布の両面に樹脂層を設け、前記樹脂層が樹脂成分と含水無機化合物とを含有し、前記樹脂層が、樹脂成分として、融点80.0℃以上95.0℃未満の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と融点95.0℃以上110.0℃以下の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とを含有し、樹脂層中のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の総含有量が樹脂層全体の70.0質量%以上95.0質量%以下の範囲であって、前記樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が11.0質量%以上18.0質量%以下の範囲であるターポリンを用いる事によって、適度な柔軟性と高周波ウェルダー加工性を維持したまま、優れた耐熱性を得る事ができ、さらに60℃の大気雰囲気中で荷重負荷40kgfという条件のクリープ試験において、ターポリンの高周波ウェルダー溶着部においても優れた耐熱クリープ性を示す事を見出した。
【0016】
本発明者が検討した結果、ターポリンの樹脂層が樹脂成分と含水無機化合物を含有し、さらに樹脂成分として上述した異なる特定の融点を有した2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂層中に特定量含有させる事によって、ターポリンの耐熱性(耐融着性と耐熱クリープ性)を向上させつつも、適度なターポリンの柔軟性と高周波ウェルダー加工性が得られる事を見出した。発明者がさらに検討を重ねた結果、前記樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が11.0質量%以上であれば適度なターポリンの柔軟性と高周波ウェルダー加工性が得られ、18.0質量%以下であればターポリンに優れた耐融着性と耐熱クリープ性が得られる事を見出した。この様な優れた効果は、単独のエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂層に用いただけでは得る事が困難であった。
【0017】
また、特許文献2や特許文献3に記載されている発明では、酢酸ビニル単位含有量の異なる2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いた樹脂層を使ったターポリンが提案されているが、従来発明のように使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量を限定する方法を用いて検討を進めても同じ酢酸ビニル単位含有量を有したエチレン-酢酸ビニル共重合体であってもその各種性状にばらつきがある為に、使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量をただ限定しただけでは本発明の課題を必ずしも達成する事が出来なかった。そのため、本発明者らがさらに鋭意検討した結果、ターポリンの樹脂層に樹脂成分と含水無機化合物とを含有させ、さらにターポリンの樹脂層の樹脂成分として使用する2種のエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の範囲と樹脂層中の前記2種のエチレン-酢酸ビニル共重合体の総含有量を限定した上で、さらにターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量の範囲を限定する事によって、本発明の課題を確実に達成する事が可能となる事を見出した。
【発明の効果】
【0018】
本発明のターポリンを用いれば、例えば屋外の炎天下で用いられるような各種資材において充分な耐熱性を担保する事が可能となる。特にターポリン同士を高周波ウェルダー溶着する事によって接合したような資材、例えばフレキシブルコンテナ、テント、構造物の膜屋根といった資材に使用した時に、屋外の炎天下においてターポリンの変形や高周波ウェルダー溶着部の破断を抑制する事が可能となり、またフレキシブルコンテナにおいては、60℃程度の内容物を充填した際に、高周波ウェルダー溶着部の破断を起因とする破袋などの重大問題の発生を抑制する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のターポリンの実施形態の一例を示す模式的断面図。
図2】耐熱クリープ試験に用いられる供試体を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明におけるターポリン及び各構成体の詳細を下記に示す。
【0021】
<<ターポリン>>
本発明のターポリン1は、基本的に図1に示すように、繊維織編物からなる基布2と、基布2の両面に基布の全面を被覆するように積層してそれぞれ設けられた樹脂層A3aと樹脂層B3bとを少なくとも有した基本構造をしている。
【0022】
本発明のターポリンの厚みは、用途や要求品質に応じて適宜任意に決定されれば良く特に限定はされないが、強度や柔軟性や耐久性やコストの観点から、300μm以上2000μm以下の範囲である事が好ましい。
【0023】
<<基布>>
本発明のターポリンの基布としては、従来この用途に使用されている繊維織編物であれば組織や構造は特に限定されず、平織、綾織、朱子織等の織物、及び各種編物等が使用可能だが、縦横方向の強度や伸縮性のバランスや寸法安定性やコストの観点から平織物を使用する事がより好ましい。また基布の素材に関しては、綿や麻などの各種天然繊維や、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂等の合成繊維などからなるスパン糸、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、混紡糸、芯鞘糸等が使用可能であり、繊維の材質や糸の構造は特に限定されないが、基布の耐熱性や強度やコストの観点や、ターポリンにした時の柔軟性や樹脂層との密着性の観点などからポリエステルのマルチフィラメント糸を使用する事がより好ましい。
【0024】
基布に用いられる糸の太さは、ターポリンの強度や柔軟性を考慮して適宜任意に選定を行えばよいが、例えば基布としてポリエステルのマルチフィラメント糸を使用した平織物を使用する場合には、200dTex以上1200dTex以下の範囲の太さの糸を、より好ましくは500dTex以上1000dTex以下の範囲の太さの糸を使用し、さらに経糸と緯糸のそれぞれの密度が、10本/inch以上35本/inch以下の範囲、より好ましくは20本/inch以上35本/inch以下の範囲の密度となるように織り上げた平織物を使用する事が好ましい。また基布の単位表面積中に占める空隙部分の比率(空隙率)は、ターポリンの柔軟性、基布の両面に設けられた樹脂層同士のブリッジ融着性、ターポリンの強度や寸法安定性などを考慮して、5%以上30%以下の範囲の空隙率の基布を使用する事が好ましい。また基布の厚みは、適宜任意に選定を行えばよく特に限定はされないが、ターポリンの強度や柔軟性や耐久性やコストを考慮して100μm以上1000μm以下の範囲の厚みの基布を使用する事が好ましい。
【0025】
<<樹脂層>>
本発明のターポリンの樹脂層は、図1に示されるように、基布の両面に、基布の全面を被覆するように積層させてそれぞれ設けられた層(樹脂層A、樹脂層B)の事である。樹脂層は、後述する樹脂層組成物を、各種ブレンダーや各種ミキサー等の各種公知の混合装置によって均一に混合した後、混錬押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等の各種公知の混錬装置によって溶融混錬して調整した物を、カレンダー加工、カレンダーラミネート加工、押出しラミネート加工等の各種公知の方法によって基布の上に積層される。樹脂層の厚みは、ターポリンの用途や要求品質に応じて適宜任意に決めればよく特に限定はされないが、ターポリンの強度や柔軟性や耐久性やコストを考慮して、100μm以上600μm以下の範囲である事が好ましく、200μm以上500μm以下の範囲である事がより好ましい。基布の両面に設けられたそれぞれの樹脂層の厚みは、厚みが同じでも異なっていてもよい。なお必要に応じて樹脂層を基布に積層させた後に、熱ロールによる熱プレス加工やエンボスロールによるエンボス加工やコロナ処理などの表面処理等を行ってもよい。
【0026】
<樹脂層組成物>
本発明のターポリンにおける樹脂層は、樹脂成分と含水無機化合物とを少なくとも含有し、樹脂層が樹脂成分として、融点80.0℃以上95.0℃未満の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と、融点95.0℃以上110.0℃以下の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点が異なる2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有し、樹脂層中のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の総含有量が樹脂層全体の70.0質量%以上95.0質量%以下の範囲であり、さらに前記樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が11.0質量%以上18.0質量%以下の範囲である事を特徴としている。
【0027】
本発明においては、樹脂層組成物のJIS K7210(2014)によるメルトフローレート(MFR)が、温度190℃、負荷荷重21.18Nの測定条件において、0.1g/10min以上20.0g/10min以下である事が好ましく、0.5g/10min以上10g/10min以下の範囲である事が好ましい。この範囲であれば樹脂層の加工性が適切となる。
【0028】
次に樹脂層組成物の主要な各構成成分について詳細に説明をする。
【0029】
<樹脂成分>
本発明のターポリンの樹脂層中の樹脂成分とは、室温(25℃)で固体の有機高分子である各種熱可塑性樹脂や各種エラストマー樹脂等の事を指し、ターポリンの各種強度や基本的な性状に大きく影響を与える樹脂層の主要成分の事である。
【0030】
本発明のターポリンの樹脂層中の樹脂成分の含有量は、ターポリンの各種強度や基本的な性状に与える影響を考慮して、樹脂層全体の70.0質量%以上である事が好ましく、75.0質量%以上である事がより好ましい。また樹脂層中の樹脂成分の含有量の上限は特に限定されないが、樹脂層の他の構成成分との関係から、樹脂層全体の95.0質量%以下である事が好ましく、90.0質量%以下である事がより好ましい。
【0031】
本発明のターポリンは、樹脂層の樹脂成分として少なくとも異なる特定の融点を有した2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有している事を特徴としている。本発明者が、ターポリンの樹脂層中の樹脂成分としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を単独で用いてターポリンの耐熱クリープ性の向上について検討を行った結果、ターポリンの耐熱性を向上させる事は可能であっても、一方でターポリンの柔軟性やターポリンの高周波ウェルダー加工性が急激に悪化したり、ターポリンを用いたフレキシブルコンテナの一般物性評価である耐もみ試験において樹脂層と基布が剥離したり、樹脂層に割れが生じたりするなどの不具合も発生して、全ての要求品質を同時に満足させる事が出来なかった。しかしながら本発明者が鋭意検討した結果、ターポリンの樹脂層に樹脂成分と含水無機化合物を含有させた上で、異なる特定の融点を有した2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂層中に特定量含有させる事によって、ターポリンの柔軟性や高周波ウェルダー加工性の急激な悪化を抑制し、耐もみ試験における不具合の発生を抑制し、ターポリンの耐熱性を大幅に向上させる事が可能である事を見出した。さらに本発明者が検討を続けた結果、樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量を特定の範囲で限定する事によって、適度な柔軟性と高周波ウェルダー加工性を有しながらも、優れた耐熱性を有し、特に耐熱クリープ性に優れたターポリンを提供する事が可能である事を見出した。
【0032】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体)
本発明のターポリンの樹脂層中の樹脂成分の必須成分である異なる特定の融点を有した2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体の詳細について下記で説明する。なお、本発明における融点とは、JIS K7121(1987)の示差走査熱量測定法によって測定した融解ピーク温度の事を意味する。本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分に用いられる第1のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の融点は、80.0℃以上95.0℃未満の範囲である事が好ましく、80.0℃以上90.0℃以下の範囲である事がより好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の融点が前記範囲であれば、ターポリンの耐熱性や耐熱クリープ性の悪化を抑制すると同時に、ターポリンの柔軟性や高周波ウェルダー加工性や耐もみ性を適切なレベルに維持する事が可能となる。エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の融点が前記範囲の下限を下回ると、ターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性などの耐熱性が急激に悪化する傾向がある。逆に、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の融点が前記範囲の上限を超えると、実質的に後述する第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)と変わらなくなる為に、ターポリンの柔軟性や高周波ウェルダー加工性や耐もみ性などが悪化する傾向がある。
【0033】
本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分に用いられる第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点は、95.0℃以上110.0℃以下の範囲である事が好ましく、95.0℃以上105.0℃以下の範囲である事がより好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点が前記範囲であれば、ターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性などの耐熱性を適切なレベルに維持する事が可能となる。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点が前記範囲の下限を下回ると、実質的にエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と変わらなくなる為に、ターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性などの耐熱性が悪化する傾向がある。なおエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点の上限については、110℃程度が市販されているエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の上限と考えられるので考慮する必要はないが、傾向としてはエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点が高くなればなる程、ターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性などの耐熱性は向上する傾向があるものの、逆にターポリンの柔軟性や高周波ウェルダー加工性や耐もみ性は悪化する傾向にある。
【0034】
本発明の課題を達成する為には、少なくとも上述した異なる特定の融点を有したエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とをターポリンの樹脂層の樹脂成分として共に含有する事が少なくとも必要であり、いずれか一方のエチレン-酢酸ビニル共重合体が含有されなかったり、上述した特定の融点範囲からいずれかのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点が逸脱したりすると、上述したターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性や柔軟性や高周波ウェルダー加工性のいずれかが少なくとも悪化する為に、本発明の課題を達成することが出来ない。
【0035】
また上述した本発明のターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の融点とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点との差は、絶対値で少なくとも5.0℃以上であることが好ましく、絶対値で10.0℃以上であることがより好ましい。前記融点の差の絶対値の上限は特に限定はされないが、各々のエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の範囲から絶対値で30.0℃以下であればよい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の融点とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の融点との差が5.0℃未満であると、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が実質的に同性状のエチレン-酢酸ビニル共重合体となってしまうために、異なる特定の融点を有した2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体をターポリンの樹脂層に含有させる事によって得られる上述した本発明の有益な効果が充分に得られにくくなる。
【0036】
さらに本発明のターポリンは、ターポリンの耐熱性、特に耐融着性を向上する観点から、ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の加重平均値が86.0℃以上である事が好ましく、87.0℃以上である事がより好ましい。ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の加重平均値が前記範囲であればターポリンの耐融着性は良好な性能を示す。一方で、高周波ウェルダー溶着部の耐熱クリープ性に関しては、ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の加重平均値が前記範囲であれば良好になる傾向はあるものの、高周波ウェルダー溶着部の耐熱クリープ性に関してはターポリンの樹脂層の含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の影響のみならず、樹脂層と基布との密着性や、樹脂層同士のブリッジ融着性や、高周波ウェルダー加工性、さらにはエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量や曲げ弾性率などの影響もあるので、単純にターポリンの樹脂層の樹脂成分として高融点のエチレン-酢酸ビニル共重合体を選択して使用しただけでは、高周波ウェルダー溶着部の耐熱クリープ性が必ずしも良好になるわけではない。なお、ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の加重平均値の上限は特に限定されないが、105.0℃以下であればよい。
【0037】
なおターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の加重平均値に関しては、例えばターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体が「エチレン-酢酸ビニル共重合体(a):樹脂層中の含有量がX質量部、融点がA℃」と「エチレン-酢酸ビニル共重合体(b):樹脂層中の含有量がY質量部、融点がB℃」と「エチレン-酢酸ビニル共重合体(c):樹脂層中の含有量がZ質量部、融点がC℃」の3種類であった場合には、
『「ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の加重平均値(℃)」=((X×A)+(Y×B)+(Z×C))/(X+Y+Z)』
という式で表すことが出来る。
【0038】
本発明のターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の樹脂成分中の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)自体の融点や酢酸ビニル単位含有量などの各種性状のみならず、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の各種性状によっても適正な含有量が変動する為に、特に限定はされないが、少なくとも樹脂成分全体の40.0質量%以上含有されている事が好ましい。同様の理由からエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の樹脂成分中の適切な含有量も特に限定はされないが、少なくとも樹脂成分全体の25.0質量%以上含有されている事が好ましい。樹脂成分中のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の含有量がそれぞれ前記含有量以上であれば、それぞれのエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂成分に含有させた際に得られる本発明の有益な効果が充分に発現する傾向がある。
【0039】
本発明のターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の割合は、それぞれのエチレン-酢酸ビニル共重合体の性状による影響によって適正な割合が変動する為に特に限定はされないが、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)100.0質量部に対するエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の量は、33.3質量部以上150.0質量部以下の範囲である事が好ましい。樹脂成分中に含まれるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の割合が前記割合の範囲であれば、それぞれのエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂成分に含有させた際に得られる本発明の有益な効果が充分に発現する傾向がある。
【0040】
本発明のターポリンの樹脂層中におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の総含有量は、ターポリンの各種機械的強度や耐久性の観点や、上述したエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とをターポリンの樹脂層の樹脂成分として含有させた際の本発明の有益な効果を充分に発現させる観点などから、樹脂層全体の70.0質量%以上が好ましく、75.0質量%以上である事がより好ましい。一方でターポリンの樹脂層に含まれるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)との総含有量の上限は、特に限定されないが、樹脂層の他の構成成分との関係から、樹脂層全体の95.0質量%以下である事が好ましく、90.0質量%以下である事がより好ましい。
【0041】
なお本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体以外に本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じてその他の樹脂等を含有させてもよく、例えば不飽和エステル単位を有する各種オレフィン系共重合体や、エチレン-α-オレフィン共重合体や、各種ポリオレフィンや、その他の各種熱可塑性樹脂や、各種エラストマー樹脂や、各種ゴム類等を少量添加する事が出来るが、不飽和エステル単位を有する各種エチレン系共重合体や、各種エチレン-α-オレフィン共重合体や、ポリエチレンなどを使用する事がより好ましい。しかしながら、本発明のターポリンの各種性能を効果的に発現させる為には、樹脂成分がエチレン-酢酸ビニル共重合体だけを含有している事が好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)だけを含有している事がより好ましい。なお上記その他の樹脂には軟質塩化ビニル樹脂は含まれない。
【0042】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とをターポリンの樹脂層の樹脂成分として含有させた際の各種性能を効果的に発現させる観点などから、樹脂成分中のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の総含有量は、樹脂成分全体の90.0質量%以上100.0質量%以下の範囲である事が好ましく、95.0質量%以上100.0質量%以下の範囲である事がより好ましく、100.0質量%である事が最も好ましい。樹脂成分中に、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)以外の他の樹脂等を樹脂成分全体の10質量%を超えて含有させると、本発明の有益な効果を全て効果的に発現させる事が困難になったり悪化させたりする場合がある。
【0043】
ターポリンの樹脂層の樹脂成分が、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)以外に、第3のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)をさらに含有する場合に、エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)の性状については特に限定はされないが、ターポリンの耐熱性の悪化を抑制する観点からエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)の融点は少なくとも80.0℃以上である事が好ましい。その際にエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)の融点が80.0℃以上95.0℃未満であった場合には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)はエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と同じとみなされ、同様にエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)の融点が95.0℃以上110.0℃以下であった場合には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)と同じとみなされる。
【0044】
さらに本発明者が検討した結果、上述したようにターポリンの樹脂層に樹脂成分と含水無機化合物とを含有させ、樹脂成分として上述した異なる特定の融点を有した2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を特定量含有させるだけでは本発明の課題を確実に達成するには不充分であり、具体的には、ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が11.0質量%以上18.0質量%以下の範囲である事が必要であり、12.0質量%以上17.0質量%以下の範囲である事がより好ましい事を見出した。ここで「ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量」とは、ターポリンの樹脂層が樹脂成分として複数のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する時に、それら全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量を加重平均したものの事であり、より具体的にはターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体中に含まれる全ての酢酸ビニル単位の総質量を全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量で割った時の百分率の事であり、実質的にターポリンの樹脂層に含まれる全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体を一つのエチレン-酢酸ビニル共重合体とみなした際の、そのエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量といえる。例えばターポリンの樹脂層が含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体が「エチレン-酢酸ビニル共重合体(a):樹脂層中の含有量がX質量部、酢酸ビニル単位含有量がA質量%」と「エチレン-酢酸ビニル共重合体(b):樹脂層中の含有量Y質量部、酢酸ビニル単位含有量がB質量%」と「エチレン-酢酸ビニル共重合体(c):樹脂層中の含有量がZ質量部、酢酸ビニル単位含有量がC質量%」の3種類であった場合には、
『「ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量(質量%)」=((X×A)+(Y×B)+(Z×C))/(X+Y+Z)』
という式で表すことが出来る。
【0045】
ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有するそれぞれのエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量が既知の場合には、上述した式を用いてターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が適切になるように調整する事が可能である。なお本発明における「エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量」は、JIS K6924-2(1997)の付属書の「エチレン・酢酸ビニル樹脂試験方法」で規定されている「酢酸ビニル含量」の事であり、同方法によって測定する事が出来る。同様に本発明における「ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量(質量%)」もJIS K6924-2(1997)に規定された方法で測定する事が出来る。
【0046】
すなわち、本発明者が鋭意検討した結果、ターポリンの樹脂層が樹脂成分と含水無機化合物とを少なくとも含有し、樹脂成分として上述した異なる特定の融点を有した2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂層中に特定量含有させ、且つターポリンの樹脂層が含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が上記範囲であれば、本発明の課題である、適度な柔軟性と高周波ウェルダー加工性を有していて、特に耐熱クリープ性に優れたターポリンを得る事が出来る事を発明者は見出した。
【0047】
ターポリンの樹脂層が含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が上記範囲の下限を下回ると、ターポリンの柔軟性や高周波ウェルダー加工性が急激に悪化したり、さらには耐もみ性試験を行った際にターポリンの樹脂層に異常が発生し易くなったりする傾向がある。逆にターポリンの樹脂層が含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が上記範囲の上限を上回ると、樹脂層自体の耐熱性が低下する事等が原因で、ターポリンの高周波ウェルダー溶着部の耐熱クリープ性が急激に悪化したり、耐融着性が悪化したりする傾向がある。
【0048】
本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分に用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のそれぞれの酢酸ビニル単位含有量は特に限定されず、その理由としては上述したように本発明に用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体は基本的にエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点によって選択されるが、その際にエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点と酢酸ビニル単位含有量との間には大まかな相関関係はあるものの、必ずしも特定の酢酸ビニル単位含有量を有するエチレン-酢酸ビニル共重合体を選択しても特定の融点を示さず、一定程度のばらつきを有している事が分かっており、さらに本願発明の課題を確実に達成する為には、ターポリンの樹脂層の樹脂成分として使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体を融点で規定する必要性があった為である。しかしながら本発明者が本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分に用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とを検討した結果、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)として使用に適するエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量は13.0質量%以上21.0質量%以下の範囲、より好ましくは14.0質量%以上20.0質量%以下の範囲であり、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)として使用に適するエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量は4.0質量%以上13.0質量%未満の範囲、より好ましくは5.0質量%以上12.0質量%以下である事を見出した。エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量が少なくとも前記範囲内であれば、本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分として使用するのに好適なエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)もしくはエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のいずれかに相当すると考えらえる。
【0049】
本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分に用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量は、多くなればなるほど融点が低下する傾向がある為にターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性が悪化する傾向があり、一方で樹脂が柔らかくなる傾向がある為にターポリンの柔軟性は向上し、また高周波ウェルダー加工性も向上する傾向が見られる。その逆にエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量は、少なくなればなるほど融点が上昇する傾向がある為にターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性が向上する傾向があり、一方で樹脂が硬くなる傾向がある為にターポリンの柔軟性は悪化し、また高周波ウェルダー加工性も悪化する傾向が見られる。
【0050】
本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分に用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のJIS K7210(2014)によるメルトフローレート(MFR)は、温度190℃、負荷荷重21.18Nの測定条件において、それぞれ0.1g/10min以上5.0g/10min以下の範囲である事が好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のメルトフローレートがそれぞれ前記範囲内であれば、ターポリンの各種機械的強度や樹脂層の加工性が良好であり、さらに上述した本発明の課題を達成するのに有益な各種効果を適切に発現させることが可能となる。
【0051】
本発明のターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均値は、ターポリンの柔軟性やターポリンの耐もみ性の観点から110.0Mpa以下である事が好ましく、100.0MPa以下である事がより好ましい。一方でターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均の下限値は特に限定はされないが、ターポリンの各種機械的強度や耐熱性(耐融着性)や耐熱クリープ性の観点から少なくとも60.0MPa以上である事が好ましい。ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均値が前記範囲であれば、ターポリンが適度な柔軟性を有していて、さらに耐もみ性に優れたターポリンを得る事が可能となる。一方でターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均値が110.0MPaを超えるとターポリンの柔軟性が急激に損なわれ、さらに耐もみ性が悪化しターポリンの樹脂層が破損したりする不具合が発生し易くなる傾向がある。全体の傾向としては、ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均値が大きくなればなるほど、高周波ウェルダー加工性が悪化する傾向があり、曲げ弾性率の加重平均値が小さくなればなるほど、耐融着性や耐熱クリープ性が悪化する傾向がある。
【0052】
ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均値に関しては、例えばターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体が「エチレン-酢酸ビニル共重合体(a):樹脂層中の含有量がX質量部、曲げ弾性率がAMPa」と「エチレン-酢酸ビニル共重合体(b):樹脂層中の含有量がY質量部、曲げ弾性率がBMPa」と「エチレン-酢酸ビニル共重合体(c):樹脂層中の含有量がZ質量部、曲げ弾性率がCMPa」の3種類であった場合には、
『「ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均値(MPa)」=((X×A)+(Y×B)+(Z×C))/(X+Y+Z)』
という式で表すことが出来る。
【0053】
ターポリンの樹脂層の樹脂成分として用いる予定のエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率が既知の場合には、上述した式を用いてターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率の加重平均値が適切になるように調整する事が可能である。なお本発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体の曲げ弾性率は、JIS K6924-2(1997)に規定された方法によって測定する事が可能である。
【0054】
本発明のターポリンの樹脂層の樹脂成分として用いるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のそれぞれの曲げ弾性率に関しては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の曲げ弾性率が30.0MPa以上80.0MPa以下の範囲で、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の曲げ弾性率が90.0MPa以上150.0MPa以下の範囲であるものを使用する事が好ましい。発明者が単独のエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いてターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性を向上させる検討を行った際に、融点の高いエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いると曲げ弾性率が高くなる傾向があるが、曲げ弾性率が90.0MPa以上になると特にターポリンの耐もみ性が急激に悪化し樹脂層が破断してしまう事があった為に、それ以上の高融点のエチレン-酢酸ビニル共重合体を検討する事が出来なかった。しかしながら本発明のターポリンのように、ターポリンの樹脂層の樹脂成分として、異なる上記特定の範囲の曲げ弾性率を有するエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を併用する事によって、曲げ弾性率が90.0MPaを超えるような樹脂を使用しても、耐もみ性試験において樹脂層の破断が発生する事が無くなり、さらにターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の曲げ弾性率の加重平均値が110.0MPa以下であれば耐もみ性試験において樹脂層の破断が発生する事が無くなった。またこの事によって、ターポリンの樹脂層の樹脂成分として用いる事のできるエチレン-酢酸ビニル共重合体の選択の幅が広がる事によって、ターポリンの耐熱クリープ性をさらに向上させる事が可能になっただけでなく、高融点で酢酸ビニル単位含有量が少なく曲げ弾性率が高いエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を用いても、同時に上記範囲の曲げ弾性率を有したエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)を併用する事によって、耐もみ試験の悪化の抑制だけでなく、ターポリンの柔軟性や高周波ウェルダー加工性の悪化を抑制する事が出来るという効果も得られる事を発明者は見出した。
【0055】
<含水無機化合物>
本発明のターポリンは高周波ウェルダー加工性を改善する為に、ターポリンの樹脂層は含水無機化合物を含有している。本発明の課題を達成する為には、比較的融点の高いエチレン-酢酸ビニル共重合体をターポリンの樹脂層に含有させる事が条件の一つとなってくるが、融点が高くなればなるほどエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量は少なくなる傾向があり、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位含有量が少なくなればなるほど、高周波ウェルダー機を用いて溶着をしようとした時のエチレン-酢酸ビニル共重合体の内部発熱量が低下する事が分かった。溶着する樹脂層に含まれるエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点が高い事と、その様な樹脂を樹脂層に使用すると高周波ウェルダー加工時に樹脂層の内部発熱量が低下する事等が原因となり、高周波ウェルダー加工に時間がかかったり、高周波ウェルダーによって溶着される部分の強度が不足したりするなど高周波ウェルダー加工性が悪化する傾向があった。その為本発明のターポリンの樹脂層には、高周波ウェルダー加工性を改善する為に、含水無機化合物を少なくとも含有させる事が必要となる。
【0056】
本発明で使用する含水無機化合物とは、結合水を有する無機化合物の事であり、この様な含水無機化合物は高周波ウェルダー加工の際にターポリンの樹脂層の発熱に寄与するため、高周波ウェルダー加工性を改善させる事が出来る。この様な含水無機化合物としては、例えばシリカゲル(SiO・nHO)、水和アルミナ(Al・nHO)、含水珪酸アルミニウム(Al・mSiO・nHO)、含水珪酸カルシウム(CaO・mSiO・nHO)、含水珪酸マグネシウム(MaO・mSiO・nHO)等が挙げられるが、シリカゲルを使用する事がより好ましい。これらの含水無機化合物は単独もしくは2種以上を併用して使用する事が出来る。
【0057】
上述した含水無機化合物は、高周波ウェルダー加工の際に均質な発熱作用を発現させる為に、微粉末状に加工された物をターポリンの樹脂層へ含有させることが好ましく、その粒子径は特に限定はされないが、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径が1.0μm以上30.0μm以下の範囲の物を使用する事が好ましく、3.0μm以上25.0μm以下の範囲の物を使用する事がより好ましい。含水無機化合物の堆積平均粒子径が前記範囲の下限を下回るとターポリンの柔軟性が悪化する傾向があり、逆に前記範囲の上限を超えるとターポリンの樹脂層中で均質な発熱作用が得られなかったり、樹脂表面の平滑性が損なわれたりする傾向がある。
【0058】
本発明のターポリンの樹脂層における含水無機化合物の含有量は、樹脂層の樹脂成分100.0質量部に対し、1.0質量部以上20.0質量部以下の範囲で含有している事が好ましく、5.0質量部以上15.0質量部以下の範囲で含有している事がより好ましい。含水無機化合物の樹脂層中の含有量が前記範囲内であれば、ターポリンの他の各種性能に悪影響を与えずに高周波ウェルダー性を適切に改善させる事が可能である。含水無機化合物の樹脂層中の含有量が前記範囲の下限を下回ると、高周波ウェルダー加工性の改善効果が得られず、逆に前記範囲の上限を上回ると、ターポリンの柔軟性や樹脂層の加工性が悪化する等、ターポリンの他の各種性能に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0059】
(その他添加剤)
本発明に使用する樹脂層組成物は、樹脂層の主成分となる有機高分子からなる樹脂成分と、高周波ウェルダー加工性を改善するための含水無機化合物とを少なくとも含有している事が必須であるが、その他に本発明の効果を損なわない範囲で一般的な加工助剤として、樹脂層の加工性を向上させる為の滑剤や、樹脂層組成物を溶融混錬したり樹脂層を加工したりする時の熱によって樹脂層組成物が酸化劣化する事を防止するための酸化防止剤を含んでいてもよく、さらにターポリンを着色する場合には顔料等の着色成分などを含んでいてもよい。またターポリンの用途や要求品質に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、抗菌剤等の各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
【実施例0060】
次に実施例・比較例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。なお、以下の実施例等の説明をする上で便宜上、「エチレン-酢酸ビニル共重合体」の略称として「EVA」を、「酢酸ビニル単位」の略称として「VAc」を使用する事がある。
【0061】
<ターポリンの作製方法について>
以下に本発明の実施例・比較例で使用するターポリンの作製方法等について具体的に説明する。
【0062】
(ターポリンの基布)
本発明の実施例・比較例のターポリンに使用する基布としては、繊維径が830dTexのポリエステルのマルチフィラメント糸を用い、打ち込み本数密度が経糸21本/inch、緯糸21本/inchで、厚みが約350μmのポリエステル平織物を用いた。
【0063】
(樹脂層組成物)
本発明の実施例・比較例のターポリンを作製する上で使用する樹脂層組成物の配合や使用する各種原料について以下で説明する。
【0064】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体)
本発明の実施例・比較例のターポリンの樹脂層の樹脂成分として使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体としては以下のものを用い、各々を表1及び表2に示す配合比率で樹脂層組成物に添加した。
【0065】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体(B))
本発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)として、以下の2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を使用した。
・「EVA(B)1」・・・融点:104.0℃、酢酸ビニル単位含有量:5.5質量%、MFR:1.0g/10min、曲げ弾性率:140.0MPa。
・「EVA(B)2」・・・融点:96.0℃、酢酸ビニル単位含有量:10.0質量%、MFR:4.0g/10min、曲げ弾性率:100.0MPa。
【0066】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体(A))
本発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)として、以下の2種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を使用した。
・「EVA(A)3」・・・融点:86.0℃、酢酸ビニル単位含有量:20.0質量%、MFR:1.0g/10min、曲げ弾性率:50.0MPa。
・「EVA(A)4」・・・融点:82.0℃、酢酸ビニル単位含有量:20.0質量%、MFR:2.5g/10min、曲げ弾性率:35.0MPa。
【0067】
(その他のエチレン-酢酸ビニル共重合体)
その他のエチレン-酢酸ビニル共重合体として、以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体を使用した。
・「EVA5」・・・融点:72.0℃、酢酸ビニル単位含有量:28.0質量%、MFR:1.0g/10min、曲げ弾性率:15.0MPa。
【0068】
(含水無機化合物)
本発明の実施例・比較例のターポリンの樹脂層に使用する含水無機化合物として、体積平均粒子径12.0μmのシリカゲル微粒子を、樹脂成分100.0質量部に対して12.5質量部の割合で樹脂層組成物に添加した。
【0069】
(滑剤)
本発明の実施例・比較例のターポリンの樹脂層に使用する滑剤として、有機リン酸エステル系の液状滑剤を、樹脂成分100.0質量部に対して2.0質量部の割合で樹脂組成物に添加した。
【0070】
(酸化防止剤)
本発明の実施例・比較例のターポリンの樹脂層に使用する酸化防止剤として、フェノール系の酸化防止剤を、樹脂成分100.0質量部に対して0.2質量部の割合で樹脂組成物に添加した。
【0071】
[実施例1~11、比較例1~10]
上述した各樹脂層組成物の原料を、表1及び表2に示す配合比率で容器に計量し、さらによく混合撹拌した後、トクデン株式会社製のテストロール機を用いて165±5℃で10分間均一に溶融混錬した後、約280μmのシート状とした物を上述したポリエステル平織物からなる基布上に積層し貼り合わせて樹脂層Aを形成した。得られた前記基布と樹脂層Aからなる積層体を、シートプレス機を用いて、面圧30kgf/cm、温度140℃という条件で1分間熱プレス加工を行った。
【0072】
続けて上記積層体の基布の樹脂層Aが設けられた面の反対側の面に、上記テストロール機を用いて上記樹脂組成物を厚み約280μmのシート状とした物を積層し貼り合せて樹脂層Bを形成した。それによって得られた基布と樹脂層Aと樹脂層Bからなる積層体を、シートプレス機を用いて、面圧30kgf/cm、温度140℃という条件で1分間熱プレス加工を行う事によって、本発明の実施例・比較例の評価に使用するターポリンを作製した。なお作製した実施例・比較例のターポリンの総厚は680±20μmの範囲であった。
【0073】
<各種評価方法について>
上述した内容で作成した実施例・比較例で使用するターポリンを、以下に示す方法で各種の評価を行い、結果を表1及び表2に示した。なお下記各評価において、A評価又はB評価である事が本発明の課題を解決する上で望ましい。
【0074】
(耐熱クリープ性の評価)
ターポリンを切り取り、巾9cm×長さ25cmの長方形のターポリン供試体を2枚作製する。図2に示すように、2枚のターポリン供試体(4a、4b)の末端部を、長さ方向に8cmずつ直線上に重ね合わせ、重ね合せ部6の中央に非溶着部を長さ方向に2cm設けた上で、前記非溶着部の上下にそれぞれ長さ方向3cmで幅方向全域にわたって、高周波ウェルダー機のウェルダー刃をあてて溶着を行い、それぞれ高周波ウェルダー溶着部5aと高周波ウェルダー溶着部5bを設けた。その後前記供試体加工物を巾3cmとなるように切り分け、実施例・比較例の耐熱クリープ性の評価に用いる耐熱クリープ試験用供試体7を作製した。なお高周波ウェルダー加工機としては、山本ビニター株式会社製「YO-5A型」を使用し、溶着時間10秒、冷却時間4秒、定盤温度60℃、陽極電流0.38±0.01Aの条件で溶着を行った。
【0075】
上述した方法で作成した耐熱クリープ試験用供試体を、クリープ試験機にセットし、60℃の大気雰囲気中にて40kgfの負荷荷重をかけて耐熱クリープ試験を行った。耐熱クリープ試験用供試体の高周波ウェルダー溶着部やその周辺部で樹脂層等が破断するなどの異常が発生するまでの時間を測定し、以下に示す評価基準で耐熱クリープ性について評価した。
A・・・耐熱クリープ試験開始から24時間以上異常が発生しない。
B・・・耐熱クリープ試験開始から8時間以上24時間未満で異常が発生する。
C・・・耐熱クリープ試験開始から4時間以上8時間未満で異常が発生する。
D・・・耐熱クリープ試験開始から4時間未満で異常が発生する。
【0076】
(耐融着性の評価)
ターポリンを切り取り、巾20mm×長さ30mmの長方形のターポリン供試体を4枚作製する。2枚を1組として、2枚のターポリン供試体同士の全面が互いに向かい合うようにして重ね合わせて評価用サンプルを2組作製する。評価用サンプル1組を評価用サンプルより大きい平滑な2枚のガラス板で挟み、その上に質量1kgのおもりを載せたものを2組用意する。それらを85℃に設定した恒温槽の大気雰囲気中に1時間静置した後に、恒温槽から取り出して1時間以上自然冷却する。その後評価用サンプルについて重ね合わせたターポリン供試体同士の剥離を行った時の状態を観察し、以下に示す評価基準で耐融着性について評価した。
A・・・抵抗なく剥離が出来た。
B・・・軽い抵抗があるが剥離出来た。
C・・・強い抵抗があり剥離は出来るが、ターポリン表面に変形・破損が散見される。
D・・・剥離する事が困難。
なお上記評価に用いた試験方法は、試験の評価温度以外はJIS Z1651(2017)に記載されている耐熱性試験の方法と同じ方法で行った。JIS Z1651(2017)で規定されている評価温度が70±3℃であるのに対して、上記試験方法の評価温度は85℃である事から、より厳しい耐熱性の評価となっている。
【0077】
(柔軟性の評価)
ターポリンを、JIS L1096(2010)の8.22「曲げ反発性」A法剛軟度(ガーレー法)に規定されている方法によってガーレー式試験機を用いて縦方向の剛軟度と横方向の剛軟度を測定し、得られた剛軟度(mN)に応じて以下に示す評価基準で柔軟性について評価した。
A・・・縦方向・横方向の剛軟度がいずれも17mN未満。
B・・・縦方向・横方向の剛軟度がいずれも17mN以上20mN未満。
C・・・縦方向・横方向の剛軟度がいずれも20mN以上。
なお本評価に先立ち官能評価と剛軟度を比較する事によって適切な剛軟度の閾値を設けた。
【0078】
(高周波ウェルダー加工性の評価)
上記耐熱クリープ性の評価で用いた、耐熱クリープ試験用供試体を作製する際の条件のうち、陽極電流の値を固定しない点を除いては全て同じ条件で高周波ウェルダー加工性評価用サンプルを作製した。まず実施例1のターポリンを高周波ウェルダー加工する際に同調調整器のダイヤルを8に設定して高周波ウェルダー加工を行い、高周波ウェルダー加工性評価用サンプルを作製した。その結果、高周波ウェルダー溶着部はしっかり溶着されており、その際の陽極電流の値は0.43Aであった。続けて、そのまま同調調整期のダイヤルを動かさずに他の実施例や比較例のターポリンについても高周波ウェルダー加工を行って高周波ウェルダー加工性評価用サンプルを作製し、その時の陽極電流値を記録した。さらに高周波ウェルダー加工性評価用サンプルの高周波ウェルダー溶着部に残されたウェルダー刃の溶着痕を目視で確認した。得られた陽極電流値と溶着痕の情報を元に、以下に示す評価基準で高周波ウェルダー加工性について評価を行った。
A・・・陽極電流値が0.40A以上で、溶着痕が深く入っている。
B・・・陽極電流値が0.37A以上0.40A未満で、溶着痕が深く入っている。
C・・・陽極電流値が0.37A未満で、溶着痕が浅い。
【0079】
(耐もみ性の評価)
ターポリンを、JIS Z1651(2017)付属書JFに規定されている方法によってスコット形試験機を用いて耐もみ性試験を行い、試験後のサンプルの状態を目視で確認し、以下に示す評価基準で評価した。なお、測定サンプルにタルクを塗布した上で測定を行い、もみ回数は1000回とした。
A・・・ターポリンの樹脂層の亀裂・破損・ひび割れ・剥離等の異常が全くなかった。
C・・・ターポリンの樹脂層の亀裂・破損・ひび割れ・剥離等の異常が見られた。
【0080】
上述した方法によって各実施例及び比較例のターポリンを作製し、上述した各種評価を行った結果を下記表1と表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表1と表2の結果から、実施例1~11のターポリンのように、基布の両面に樹脂層を設けたターポリンであって、前記樹脂層が、樹脂成分と含水無機化合物とを含有し、前記樹脂層が、樹脂成分として、融点80.0℃以上95.0℃未満の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と融点95.0℃以上110.0℃以下の範囲であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とを含有し、樹脂層中のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の総含有量が樹脂層全体の70.0質量%以上95.0質量%以下の範囲であって、前記樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が11.0質量%以上18.0質量%以下の範囲であるターポリンであれば、ターポリンが適度に柔軟で、高周波ウェルダー加工性にも問題がなく、さらに優れた耐融着性と耐熱クリープ性を示した。特に60℃の大気雰囲気中で荷重負荷40kgfという条件のクリープ試験において、ターポリンの高周波ウェルダー溶着部は少なくとも8時間以上も破断する等の不具合が発生しなかった。また耐もみ性試験においても樹脂層に異常が全く発生しなかった。
【0084】
また、比較例1や比較例2のように、ターポリンの樹脂層の樹脂成分として、融点が比較的高いエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)に相当する樹脂を単独で使用した場合には、ターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性などの耐熱性は優れた性能を示すものの、一方で柔軟性や高周波ウェルダー加工性が悪化していく傾向が見られ、特に比較例1においてはターポリンが非常に硬くなってしまった。さらに耐もみ性試験においては比較例1と比較例2の両方で、ターポリンの樹脂層が割れる不具合が発生した。
【0085】
また、比較例3や比較例4のように、ターポリンの樹脂層の樹脂成分として、融点が中程度のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)に相当する樹脂を単独で使用した場合には、ターポリンの柔軟性や高周波ウェルダー加工性や耐もみ性は優れているものの、一方でターポリンの耐融着性や耐熱クリープ性が悪化する傾向が見られ、比較例3においては耐熱クリープ性が不充分となり、比較例4においては耐融着性と耐熱クリープ性が共に不充分となった。
【0086】
また、比較例5や比較例6のように、ターポリンの樹脂層が樹脂成分としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)に相当する樹脂又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)に相当する樹脂のいずれか一方を含まない場合には、ターポリンの耐熱性が悪化し、耐融着性と耐熱クリープ性が共に不充分となった。なお比較例5は特許文献2及び特許文献3の発明の範囲に含まれるターポリンである。
【0087】
また、比較例7や比較例8のように、ターポリンの樹脂層が樹脂成分としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)に相当する樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)に相当する樹脂を含んでいても、ターポリンの樹脂層が樹脂成分として含有する全てのエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位含有量が11.0質量%未満の場合、つまりは比較例7のターポリンにおいては、ターポリンの柔軟性や高周波ウェルダー性や耐もみ性が不充分となり、逆に前記酢酸ビニル単位含有量が18.0質量%を超えた場合、つまりは比較例8のターポリンにおいては、耐熱クリープ性が不充分となった。
【0088】
また、比較例9のように、ターポリンの樹脂層に含水無機化合物が含まれない場合には、含水無機化合物を含む点を除いては同一配合比である実施例1と比較して高周波ウェルダー加工性が悪化し、耐熱クリープ性も不充分となった。この際、樹脂層が含水無機化合物を含んでいない事が、何らかの挙動に影響して基布と樹脂層の密着性を低下させたと考えられ、耐もみ性試験において基布と樹脂層が剥離する不具合が発生した。この事が影響して、耐熱クリープ性が予想以上に悪化している可能性があるが、ターポリンの樹脂層が含水無機化合物を含まないと、高周波ウェルダー加工性が悪化傾向になる事は間違いなかった。
【0089】
また、比較例10のように、ターポリンの樹脂層が樹脂成分として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)以外のその他のエチレン-酢酸ビニル共重合体を樹脂成分の10質量%を超えて含有すると、耐熱クリープ性が不充分となった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のターポリンは、従来から用いられている一般的な用途、例えばテント、フレキシブルコンテナ、構造物の膜屋根、垂れ幕、養生用シート、防水シート、遮水シート、ビニールカーテン、間仕切りシートの他、各種建築用資材、各種工業用資材、各種土木工事用資材として使用する事が可能であるが、特に可塑剤不使用であり且つ耐熱性が必要とされる用途のフレキシブルコンテナに使用する事が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1;ターポリン
2;基布
2a;基布の緯糸
2b;基布の経糸
3;樹脂層
3a;樹脂層A
3b;樹脂層B
4a;ターポリン供試体
4b;ターポリン供試体
5a,5b;高周波ウェルダー溶着部
6;重ね合せ部
7;耐熱クリープ試験用供試体
図1
図2