(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102801
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】加工システム及び加工性判定システム
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20240724BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20240724BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/38 Z
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184401
(22)【出願日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2023006494
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 純一
(72)【発明者】
【氏名】原 英夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 治也
(72)【発明者】
【氏名】湧井 宗忠
(72)【発明者】
【氏名】石黒 宏明
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 隼
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武志
(72)【発明者】
【氏名】和家 功一
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168AD11
4E168CA05
4E168CA11
4E168CB03
4E168CB07
4E168CB12
4E168CB15
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA37
4E168DA43
4E168EA17
4E168FB01
4E168FB02
4E168JA02
4E168JA03
(57)【要約】
【課題】切断加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して判定結果に基づく判断を容易にし加工不良を低減する。
【解決手段】加工システムは、レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して切断加工する加工工程と、レーザ光を被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で被加工材に照射して被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置と、被加工材に判定照射条件でレーザ光を照射したときに発生する発光スペクトルを測定する測定装置と、測定された発光スペクトルの時系列データに基づいて被加工材の加工性を判定する判定装置とを備え、第1及び第2の判定モデルを有し、発光スペクトルの時系列データから抽出された第1及び第2の波形情報を第1及び第2の判定モデルに入力して得られた被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づき被加工材の加工性の判定結果を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置と、
前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する発光スペクトルを測定する測定装置と、
前記測定装置で測定された前記発光スペクトルの時系列データに基づいて前記被加工材の加工性を判定する判定装置と、
を備え、
前記判定装置は、
第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、
前記測定装置によって測定された前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、
前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力して前記被加工材の表面品質評価を得、
前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力して前記被加工材の内部品質評価を得、
前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性の判定結果を出力する
加工システム。
【請求項2】
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程において前記レーザ光を前記判定照射条件下でスポット照射する
請求項1記載の加工システム。
【請求項3】
前記第1の判定モデルは、前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って作成され、
前記第2の判定モデルは、前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って作成された
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項4】
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程における前記レーザ光の照射開始から照射終了までの時間を第1段階及び第2段階に分け、前記判定照射条件として、前記第1段階では第1の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射し、前記第2段階では第2の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射し、
前記測定装置は、前記第1の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する第1の発光スペクトルと、前記第2の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する第2の発光スペクトルと、を測定し、
前記判定装置は、前記測定装置によって測定された前記第1の発光スペクトルの時系列データから前記第1の時間領域の第1の波形情報を抽出し、前記測定装置によって測定された前記第2の発光スペクトルの時系列データから前記第2の時間領域の第2の波形情報を抽出する
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項5】
前記判定装置は、前記測定装置によって測定された前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域で且つ第1の波長帯域及び第2の波長帯域の前記第1の波形情報と第2の時間領域で且つ前記第1の波長帯域及び前記第2の波長帯域の前記第2の波形情報とを抽出する
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項6】
前記第1の波長帯域及び前記第2の波長帯域は、前記レーザ光の発光波長帯域とは異なる
請求項5記載の加工システム。
【請求項7】
前記判定照射条件のレーザ出力は、前記加工照射条件のレーザ出力よりも小さい
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項8】
前記第1の照射条件のレーザ出力は、前記第2の照射条件のレーザ出力よりも小さい
請求項4記載の加工システム。
【請求項9】
前記第1段階は、前記第2段階よりも短い
請求項4記載の加工システム。
【請求項10】
前記判定照射条件で前記レーザ光を照射中の前記レーザ加工装置のノズルギャップは、前記加工照射条件で前記レーザ光を照射中の前記レーザ加工装置のノズルギャップよりも大きい
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項11】
前記判定装置は、前記判定結果を確認可能に報知する報知部を含み、
前記判定結果は、前記表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせにおける前記加工条件による前記被加工材への適応性を表現可能な加工性評価を含む
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項12】
前記報知部は、前記加工性評価に基づいて、前記被加工材に合わせて前記レーザ加工装置に設定される加工条件を知らせる情報、前記レーザ加工装置によるテスト加工を促す情報、並びに前記加工条件の調整、変更及び設定のいずれか一つの実行を促す情報の少なくとも一つを報知する
請求項11記載の加工システム。
【請求項13】
前記判定装置は、前記報知部により報知された情報に基づきオペレータが選択入力した入力情報を受け付けて、受け付けられた前記入力情報に応じた加工条件を前記レーザ加工装置に設定する設定部を含む
請求項12記載の加工システム。
【請求項14】
前記表面品質評価結果及び前記内部品質評価結果は、前記被加工材の前記表面品質評価及び内部品質評価を複数種の異なる数値に評点化した点数評価を含む
請求項3記載の加工システム。
【請求項15】
前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルは、前記被加工材の板厚毎に作成されている
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項16】
第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、被加工材の加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから算出された第1の波形情報及び第2の波形情報をそれぞれ前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルに入力し、前記第1の波形情報及び前記第2の波形情報に基づいて前記被加工材の加工性を判定する判定装置と、
前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルを作成する学習装置と、
を備え、
前記判定装置は、
前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、
前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力して前記被加工材の表面品質評価を得、
前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力して前記被加工材の内部品質評価を得、
前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記レーザ光を加工照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性の判定結果を出力し、
前記学習装置は、
前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って前記第1の判定モデルを作成し、
前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って前記第2の判定モデルを作成する
加工性判定システム。
【請求項17】
レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件、及び前記レーザ光を前記被加工材の素材の融点を超えない第2の判定照射条件で前記被加工材に照射して、前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置と、
前記被加工材に前記第1の判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する発光スペクトルを測定する第1の測定部と、前記被加工材に前記第2の判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する第2の測定部と、を含む測定装置と、
前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記発光スペクトルの時系列データに基づいて、前記被加工材の加工性を判定する第1の判定部と、前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の加工性を判定する第2の判定部と、前記第1の判定部により判定された第1の判定結果及び前記第2の判定部により判定された第2の判定結果の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性を判定し第3の判定結果を出力する第3の判定部と、を含む判定装置と、
を備え、
前記判定装置は、第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、
前記判定装置の前記第1の判定部は、
前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力し前記被加工材の表面品質評価を得て、前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力し前記被加工材の内部品質評価を得て、前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第1の判定結果を出力し、
前記判定装置の前記第2の判定部は、
前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出し、前記抽出された特徴量情報と、予め登録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第2の判定結果を出力する
加工システム。
【請求項18】
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程において、前記第1の判定照射条件で、前記レーザ光を前記被加工材にスポット照射し、前記第2の判定照射条件で、前記レーザ光を照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射、及び前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に繰り返し照射する
請求項17記載の加工システム。
【請求項19】
前記第1の判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含み、
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程において、前記第1の判定照射条件で前記レーザ光を照射する場合、前記レーザ光の照射開始から照射終了までの時間を第1段階及び第2段階に分け、前記第1段階では前記第1の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射し、前記第2段階では前記第2の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射し、
前記測定装置の前記第1の測定部は、前記第1の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する第1の発光スペクトルと、前記第2の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する第2の発光スペクトルと、を測定し、
前記判定装置の前記第1の判定部は、前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記第1の発光スペクトルの時系列データから前記第1の時間領域の第1の波形情報を抽出し、前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記第2の発光スペクトルの時系列データから前記第2の時間領域の第2の波形情報を抽出する
請求項17又は18記載の加工システム。
【請求項20】
前記第1の判定モデルは、前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って作成され、
前記第2の判定モデルは、前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って作成された、
請求項17又は18記載の加工システム。
【請求項21】
前記第2の判定照射条件は、第3の照射条件及び第4の照射条件を含み、
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程において、前記第2の判定照射条件で前記レーザ光を照射する場合、前記第3の照射条件で前記レーザ光を照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射し、前記第4の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に繰り返し照射し、
前記測定装置の前記第2の測定部は、前記第3の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第1の赤外線強度と、前記第4の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第2の赤外線強度と、を測定し、
前記判定装置の前記第2の判定部は、前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記第1の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の位置的変化を示す第1の特徴量情報を抽出すると共に、前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記第2の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の時間的変化を示す第2の特徴量情報を抽出し、前記第1の特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度の位置的変化が、前記基準情報に含まれる前記被加工材の基準温度範囲及び温度のバラつきの少なくとも一方に基づく第1の判定基準を満たすかどうかを判定すると共に、前記第2の特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度の時間的変化が、前記基準情報に含まれる前記被加工材の温度上昇の度合いを示す第2の判定基準を外れる温度上昇の状態か否かを判定して、その結果の組み合わせに基づき前記被加工材の加工性を判定した前記第2の判定結果を出力する
請求項17又は18記載の加工システム。
【請求項22】
前記判定装置は、前記第3の判定部により判定された前記第3の判定結果を確認可能に報知する報知部を含む
請求項17又は18記載の加工システム。
【請求項23】
第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、被加工材の加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ光を、前記被加工材を溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから抽出された第1の波形情報及び第2の波形情報を、それぞれ前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルに入力し、前記第1の波形情報及び前記第2の波形情報に基づいて前記被加工材の加工性を判定する第1の判定部と、
前記加工性判定工程において、前記レーザ光を、前記被加工材の素材の融点を超えない第2の判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する放射光の赤外線強度の時系列データから抽出された特徴量情報と、予め登録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて前記被加工材の加工性を判定する第2の判定部と、
前記第1の判定部により判定された第1の判定結果及び前記第2の判定部により判定された第2の判定結果の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性を判定し第3の判定結果を出力する第3の判定部と、を含む判定装置と、
前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルを作成する学習装置と、
を備え、
前記判定装置は、
前記第1の判定部が、
前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力し前記被加工材の表面品質評価を得て、前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力し前記被加工材の内部品質評価を得て、前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第1の判定結果を出力し、
前記第2の判定部が、
前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出し、前記抽出された特徴量情報と前記基準情報とに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第2の判定結果を出力し、
前記学習装置は、
前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って前記第1の判定モデルを作成し、
前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って前記第2の判定モデルを作成する、
加工性判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工システム及び加工性判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ加工機等のレーザ加工装置においては、一般的に被加工材の材質及び板厚に応じた加工条件が予め設定されている。従って、レーザ加工装置のオペレータは、被加工材の材質及び板厚に合致した加工条件を選択して、もしくは加工プログラムの指示する加工条件にてレーザ加工を実施する。
【0003】
しかし、同じ名称の材質及び板厚の被加工材であっても、製造国、製造メーカ、製造ロット及び保管状況等の個体差、並びに高炉材か電炉材かの相違等によって、レーザ加工装置に事前に用意されている加工条件のままでは、良好な加工品質が得られないことがある。一方、被加工材の材質及び板厚に適した加工条件を選択した上で、被加工材の実際の材質及び板厚を測定し、選択した加工条件を、測定結果に応じて修正する技術も知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された装置では、被加工材の材質及び板厚に応じて選択される加工条件を、実際に測定された材質及び板厚に基づいて修正することはできるが、選択された加工条件を修正しない場合、どの程度の加工品質が得られるのかを判定することは想定されていない。
【0006】
すなわち、上記従来技術は、選択された加工条件に基づく被加工材の加工性(切断加工に適しているかどうかの程度)そのものを、例えば製造メーカ毎、製造ロット毎、または保管状況毎に異なる実際の被加工材の個体差(品質のバラつき)に対応させて、実際の切断加工前に判定するものではなかった。
【0007】
このため、切断加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して、その判定結果に基づいて、予め設定された加工条件での切断加工を行うか、被加工材に適した加工条件に変更するか等の判断を、テスト加工(試し加工)することなくオペレータがすることはできないという問題がある。
【0008】
本発明の一態様は、切断加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して、予め設定された加工条件で切断加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更等すべきかの判定結果に基づく判断が容易で、加工不良を低減可能な加工システム及び加工性判定システムである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る加工システムは、レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置と、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する発光スペクトルを測定する測定装置と、前記測定装置で測定された前記発光スペクトルの時系列データに基づいて前記被加工材の加工性を判定する判定装置と、を備え、前記判定装置は、第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、前記測定装置によって測定された前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力して前記被加工材の表面品質評価を得、前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力して前記被加工材の内部品質評価を得、前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性の判定結果を出力する。
【0010】
本発明の一態様に係る加工性判定システムは、第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、被加工材の加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから算出された第1の波形情報及び第2の波形情報をそれぞれ前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルに入力し、前記第1の波形情報及び前記第2の波形情報に基づいて前記被加工材の加工性を判定する判定装置と、前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルを作成する学習装置と、を備え、前記判定装置は、前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力して前記被加工材の表面品質評価を得、前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力して前記被加工材の内部品質評価を得、前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記レーザ光を加工照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性の判定結果を出力し、前記学習装置は、前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って前記第1の判定モデルを作成し、前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って前記第2の判定モデルを作成する。
【0011】
本発明の一態様に係る加工システム及び加工性判定システムによれば、レーザ光を被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で被加工材に照射したときに測定装置によって測定された発光スペクトルの時系列データから抽出された第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを第1の判定モデル及び第2の判定モデルに推定用データとして入力して得られた被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材の加工性の判定結果が出力される。これにより、切断加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定することができるので、実際の切断加工に際して予め設定された加工条件での切断加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更すべきか等の判定結果に基づく判断が容易になり、加工不良を低減することが可能となる。
【0012】
本発明の他の態様に係る加工システムは、レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件、及び前記レーザ光を前記被加工材の素材の融点を超えない第2の判定照射条件で前記被加工材に照射して、前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置と、前記被加工材に前記第1の判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する発光スペクトルを測定する第1の測定部と、前記被加工材に前記第2の判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する第2の測定部と、を含む測定装置と、前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記発光スペクトルの時系列データに基づいて、前記被加工材の加工性を判定する第1の判定部と、前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の加工性を判定する第2の判定部と、前記第1の判定部により判定された第1の判定結果及び前記第2の判定部により判定された第2の判定結果の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性を判定し第3の判定結果を出力する第3の判定部と、を含む判定装置と、を備え、前記判定装置は、第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、前記判定装置の前記第1の判定部は、前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力し前記被加工材の表面品質評価を得て、前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力し前記被加工材の内部品質評価を得て、前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第1の判定結果を出力し、前記判定装置の前記第2の判定部は、前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出し、前記抽出された特徴量情報と、予め登録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第2の判定結果を出力する。
【0013】
本発明の他の態様に係る加工性判定システムは、第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、被加工材の加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ光を、前記被加工材を溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから抽出された第1の波形情報及び第2の波形情報を、それぞれ前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルに入力し、前記第1の波形情報及び前記第2の波形情報に基づいて前記被加工材の加工性を判定する第1の判定部と、前記加工性判定工程において、前記レーザ光を、前記被加工材の素材の融点を超えない第2の判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する放射光の赤外線強度の時系列データから抽出された特徴量情報と、予め登録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて前記被加工材の加工性を判定する第2の判定部と、前記第1の判定部により判定された第1の判定結果及び前記第2の判定部により判定された第2の判定結果の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性を判定し第3の判定結果を出力する第3の判定部と、を含む判定装置と、前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルを作成する学習装置と、を備え、前記判定装置は、前記第1の判定部が、前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力し前記被加工材の表面品質評価を得て、前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力し前記被加工材の内部品質評価を得て、前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第1の判定結果を出力し、前記第2の判定部が、前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出し、前記抽出された特徴量情報と前記基準情報とに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第2の判定結果を出力し、前記学習装置は、前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って前記第1の判定モデルを作成し、前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って前記第2の判定モデルを作成する。
【0014】
本発明の他の態様に係る加工システム及び加工性判定システムによれば、レーザ光を被加工材を溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件で被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから抽出された第1の波形情報及び第2の波形情報を第1の判定モデル及び第2の判定モデルに入力して得られた被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づき判定された被加工材の加工性の第1の判定結果と、レーザ光を被加工材の素材の融点を超えない第2の判定照射条件で被加工材に照射したときに発生する放射光の赤外線強度の時系列データから抽出された特徴量情報及び予め登録済みの被加工材の加工性の判定用の基準情報に基づき判定された被加工材の加工性の第2の判定結果との組み合わせに基づいて、加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材の加工性を判定し第3の判定結果が出力される。これにより、切断加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定することができるので、実際の切断加工に際して予め設定された加工条件での切断加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更すべきか等の判定結果に基づく判断が容易になり、加工不良を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、切断加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して、予め設定された加工条件で切断加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更等すべきかの判定結果に基づく判断が容易で、加工不良を低減可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る加工システムの基本的構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】
図2は、判定照射条件のレーザ光を被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルを分光器で測定した測定結果に基づく時系列データの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、レーザ光の第1の照射条件及び第2の照射条件の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の発光スペクトルの時系列データ及び第2の発光スペクトルの時系列データから第1の波長情報及び第2の波形情報を抽出するための波長軸方向及び時間軸方向の抽出ポイントを示す図である。
【
図5】
図5は、被加工材の材料毎に表面状態が異なるa領域の時系列データの時間波形と表面画像とを比較可能に表す表面品質評価結果の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、被加工材の材料毎に内部状態が異なるb領域の時系列データの時間波形を比較可能に表す内部品質評価結果の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、加工システムの概略的な機能ブロック図である。
【
図8】
図8は、軟鋼の被加工材の板厚に応じた加工条件としての標準条件及び難加工材条件を例示する図である。
【
図9】
図9は、加工システムで使用される加工性判定システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、加工性判定ユニット、学習装置及び/又は加工性判定システムの基本的なハードウェア構成を示す説明図である。
【
図11】
図11は、判定マトリックス情報を例示する図である。
【
図12】
図12は、加工システムの処理フローの一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、第1及び第2の判定モデルによる材料状態の予測結果、加工性の判定結果及び実加工検証結果を含む結果表を示す図である。
【
図14】
図14は、加工品質の品質評価基準を表す説明図である。
【
図15】
図15は、実加工結果を判定マトリックス情報において分類した結果を示す図である。
【
図16】
図16は、標準材と判定された被加工材の実加工検証結果の詳細の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、難加工材と判定された被加工材の実加工検証結果の詳細の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、難加工材(テストカット推奨材)と判定された被加工材の実加工検証結果の詳細の一例を示す図である。
【
図19】
図19は、本発明の第2の実施形態に係る加工システムの基本的構成を概略的に示す説明図である。
【
図20】
図20は、加工システムの概略的な機能ブロック図である。
【
図21】
図21は、被加工材の材料毎の熱伝導率、レーザ切断面及び切断面粗さの調査結果を示す結果表である。
【
図22】
図22は、切断面の平均粗さと熱伝導率との関係を示すグラフである。
【
図23】
図23は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
【
図24】
図24は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
【
図25】
図25は、タイプAの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
【
図27】
図27は、タイプBの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
【
図29】
図29は、タイプCの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
【
図31】
図31は、放射温度計による加工性判定処理フローの一例を示すフローチャートである。
【
図32】
図32は、放射温度計による加工性判定処理フローの一例を示すフローチャートである。
【
図33】
図33は、分光器及び放射温度計による判定結果と切断品質評価結果とを総合判定マトリックス情報において分類した結果を示す図である。
【
図34】
図34は、サンプル1~4の分光器及び放射温度計による材料状態(材料特性)の判定結果と切断面の評価結果との結果表を示す図である。
【
図35】
図35は、サンプル1~4の材料に含まれる鉄以外の化学成分(mass%)を示す図である。
【
図36】
図36は、サンプル1に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。
【
図37】
図37は、サンプル3に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。
【
図38】
図38は、サンプル1及び2にレーザ走査を行った際の温度と時間との関係を示すグラフである。
【
図39】
図39は、サンプル1を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
【
図40】
図40は、サンプル2を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
【
図41】
図41は、サンプル3及び4にレーザ走査を行った際の温度と時間との関係を示すグラフである。
【
図42】
図42は、サンプル3を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
【
図43】
図43は、サンプル4を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
【
図44】
図44は、加工システムの総合判定による処理フローの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態に係る加工システム及び加工性判定システムを詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施の形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、以下の実施の形態においては、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、実施の形態においては、各構成要素の配置、縮尺及び寸法等が誇張あるいは矮小化されて実際のものとは一致しない状態で示されている場合、並びに一部の構成要素につき記載が省略されて示されている場合があるとする。
【0018】
[第1の実施形態]
[加工システムの基本的構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る加工システムの基本的構成を概略的に示す説明図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る加工システム100は、レーザ光LBを加工照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wを切断加工する加工工程と、レーザ光LBを被加工材Wを溶融させるが貫通はしない判定照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wの加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置10と、被加工材Wに判定照射条件でレーザ光LBを照射したときに発生する発光スペクトルを測定する分光器(測定装置)30と、分光器(測定装置)30で測定された発光スペクトルの時系列データに基づいて被加工材Wの加工性を判定する加工性判定ユニット(判定装置)50と、を備える。加工性判定ユニット(判定装置)50は、第1の判定モデル5(
図9)及び第2の判定モデル6(
図9)を有し、分光器(測定装置)30によって測定された発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報3(
図9)と第2の時間領域の第2の波形情報4(
図9)とを抽出する。加工性判定ユニット(判定装置)50は、抽出された第1の波形情報3を推定用データとして第1の判定モデル5に入力して被加工材Wの表面品質評価を得る。また、加工性判定ユニット(判定装置)50は、抽出された第2の波形情報4を推定用データとして第2の判定モデル6に入力して被加工材Wの内部品質評価を得る。そして、加工性判定ユニット(判定装置)50は、得られた被加工材Wの表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材Wの加工性の判定結果9(
図9)を出力する。なお、上記「溶融させる」とは、例えば、溶融プール(溶融池)を発生させること等を意味し、「貫通はしない」とは、例えば、穴を開けないこと等を意味するものである。
【0019】
第1の判定モデル5は、第1の波形情報1(
図9)及び被加工材Wの表面品質を示す表面品質評価結果109a(
図9)を第1の教師データとして入力して機械学習を行って作成される。第2の判定モデル6は、第2の波形情報2(
図9)及び被加工材Wの内部品質を示す内部品質評価結果109b(
図9)を第2の教師データとして入力して機械学習を行って作成される。
【0020】
また、加工システム100は、レーザ加工装置10、分光器30及び加工性判定ユニット50を制御するNC(Numerical Control)装置60と、各種の情報を表示可能なディスプレイ70と、を備えている。なお、加工性判定ユニット50及びNC装置60は、レーザ加工装置10に含まれるように搭載されていてもよい。
【0021】
被加工材Wは、例えば、鉄鋼である場合、主成分として鉄(Fe)を含み、非鉄金属のアルミニウム合金鋼である場合、主成分としてアルミニウム(Al)を含む。被加工材Wは、これらの主成分の他にメーカが意図的に添加した元素、及び不純物として混入している元素を含む。なお、不純物は、ここでは、材質の主たる含有物ではない含有物のことを指し、被加工材Wの溶融時に気泡のような物理現象を誘発する物質も含むものとする。
【0022】
レーザ加工装置10は、被加工材Wの材料のレーザ切断、レーザ穴あけ等の加工(以下、「切断」及び「穴あけ」を含めて「切断加工」という。)を行う。レーザ加工装置10は、板金等の被加工材Wを載置する加工テーブル11と、加工テーブル11に対して、加工テーブル11の図中X軸方向に移動するX軸キャリッジ12と、このX軸キャリッジ12上を図中Y軸方向に移動するY軸キャリッジ13と、レーザ光LBを被加工材Wに照射して切断加工を行うレーザ加工ユニット20と、を有する。
【0023】
レーザ加工ユニット20は、レーザ光LBを生成して射出するレーザ発振器21と、Y軸キャリッジ13に搭載されX軸キャリッジ12及びY軸キャリッジ13によってX軸方向及びY軸方向に移動可能に構成されたレーザ加工ヘッド22と、レーザ発振器21で生成されたレーザ光LBをレーザ加工ヘッド22へと伝送するプロセスファイバ23と、を備える。
【0024】
また、レーザ加工装置10は、アシストガスを供給するアシストガス供給装置(図示せず)を備えている。なお、レーザ加工装置10は、レーザ加工ヘッド22が被加工材Wに対して移動する構成に限定されるものではなく、被加工材Wがレーザ加工ヘッド22に対して移動する構成も採用し得る。
【0025】
レーザ発振器21は、例えば、レーザダイオードから発せられる種光が共振器でYb(イッテルビウム:Ytterbium)などを励起させ増幅させて所定の波長のレーザ光LBを射出するタイプ、又はレーザダイオードより発せられるレーザ光LBを直接利用するタイプのレーザ発振器等が用いられる。
【0026】
レーザ発振器21は、波長900nm~1100nmの1μm帯のレーザ光LBを射出する。例えば、DDL(Direct Diode Laser)発振器は、波長910nm~950nmのレーザ光LBを射出し、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm~1080nmのレーザ光LBを射出する。
【0027】
また、青色半導体レーザは、波長400nm~460nmのレーザ光LBを射出する。グリーンレーザは、波長500nm~540nmのレーザ光LBを射出するファイバレーザ発振器またはDDL発振器でもよく、1μm帯のレーザ光LBと光合成した多波長共振器であってもよい。
【0028】
また、この他、図示はしないが、レーザ光LBを被加工材Wのどの位置に出射するかを確認するガイド光GB(例えば、波長650nm)を出射するようにしてもよい。
【0029】
レーザ発振器21は、加工工程では加工照射条件でレーザ光LBを出射し、被加工材Wの加工性を判定する加工性判定工程では判定照射条件でレーザ光LBを出射する。判定照射条件に基づき出射されるレーザ光LBは、被加工材Wを溶融させるが貫通はしないものなので、レーザ加工装置10による被加工材Wの切断加工に用いられるものではない。このような判定照射条件のレーザ光LBは、パルス発振により照射されてもよい。
【0030】
レーザ加工ヘッド22は、ビームコントロールユニット24を有する。ビームコントロールユニット24は、レーザ光LBを被加工材Wの材料に適した集光径及び発散角に制御する機能を有する。ビームコントロールユニット24は、プロセスファイバ23の出力端から射出されたレーザ光LBを入射して平行光束に変換するコリメータレンズ24aと、コリメータレンズ24aから射出されたほぼ平行光束のレーザ光LBをX軸及びY軸と直交するZ軸方向の下方に向けて反射すると共に、所定の波長の光を透過させる折り返しミラー24bと、折り返しミラー24bで反射したレーザ光LBを集束させて被加工材Wに照射する加工用の集光レンズ24cと、を有する。折り返しミラー24bには、例えば、少なくともレーザ光LB及びガイド光GBの波長(例えば、1080nm、650nm)を反射するコーティングが施されている。
【0031】
レーザ加工ヘッド22は、その先端部に、レーザ光LBを被加工材Wに照射するための円形の開口部25aを有するノズル25を備えている。ノズル25は、溶融した被加工材Wを除去するために、アシストガス供給装置から供給される所定のアシストガス圧のガス流をレーザ光LBと共に被加工材Wに噴射するノズル機能を有する。ノズル25は、レーザ加工ヘッド22に着脱自在に設けられる。
【0032】
なお、コリメータレンズ24a、折り返しミラー24b、集光レンズ24c及びノズル25は、予め光軸が調整された状態でレーザ加工ヘッド22内に固定されている。また、ビームコントロールユニット24内には、集束位置を調整するために、コリメータレンズ24aを光軸に平行な方向(X軸方向)に駆動するレンズ駆動部(図示せず)が設けられている。また、集束位置を調整するため、レーザ加工ヘッド22自体を、図示しない駆動機構によって、X軸方向及びY軸方向と直交するZ軸方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0033】
分光器30は、例えば、レーザ加工ヘッド22のハウジング上部に搭載されている。分光器30は、ハウジング上部における折り返しミラー24bの被加工材Wと対峙した透過側において、被加工材Wの加工側から折り返しミラー24bに向かう光のうち、折り返しミラー24bを透過した測定対象の光を入力し、受光部31で受光する。分光器30は、受光部31で受光した測定対象の光を回折格子等によって分光し、波長毎に光強度(スペクトル)を検出する。このように、分光器30は、被加工材Wにレーザ光LBを照射したときに発生する発光スペクトルを測定可能に構成される。そして、分光器30は、検出された波長毎の光強度(スペクトル)を、時系列データとして出力する。なお、分光器30は、レーザ加工ヘッド22のハウジングの側部に設けられてもよい。
【0034】
分光器30は、具体的には、第1の照射条件で被加工材Wに照射されたレーザ光LBにより被加工材Wにおいて発生した測定対象の光のスペクトル(第1の発光スペクトル)の時系列データを、加工性判定ユニット50に出力する。また、分光器30は、第2の照射条件で被加工材Wに照射されたレーザ光LBにより被加工材Wにおいて発生した測定対象の光のスペクトル(第2の発光スペクトル)の時系列データを、加工性判定ユニット50に出力する。なお、分光器30に代えて、例えば、バンドパスフィルタを有するフォトディテクタ等を測定装置として用いることもできる。
【0035】
次に、このように構成された加工システム100における加工性判定工程について説明する。
図2は、判定照射条件のレーザ光を被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルを分光器で測定した測定結果に基づく時系列データの一例を示す図である。
図3は、レーザ光の第1の照射条件及び第2の照射条件の一例を示す図である。
図4は、第1の発光スペクトルの時系列データ及び第2の発光スペクトルの時系列データから第1の波形情報及び第2の波形情報を抽出するための波長軸方向及び時間軸方向の抽出ポイントを示す図である。なお、
図2においては、各波長の時系列データのうち、特に800nm帯の時系列データを示しており、横軸が時間(Time:ミリ秒)を表し、縦軸が任意単位の発光強度の振幅(Amplitude)を表している。
【0036】
加工性判定工程では、レーザ加工装置10は、判定照射条件に従って被加工材Wにレーザ光LBを照射する。判定照射条件は、レーザ光LBが照射される期間中一定でもよいが、本実施形態では、
図2に示すように、レーザ光LBの照射開始から照射終了までの時間を第1段階及び第2段階に分け、判定照射条件として、第1段階では第1の照射条件101(
図3)でレーザ光LBを被加工材Wに照射し、第2段階では第2の照射条件102(
図3)でレーザ光LBを被加工材Wに照射する。なお、レーザ加工装置10は、加工性判定工程においてレーザ光LBを判定照射条件下でスポット照射する(レーザ光LBを移動させずに照射する)ようにしてもよい。第1の照射条件101は、被加工材Wの表面の品質を評価するのに適した条件であり、第2の照射条件は、被加工材Wの内部の品質(例えば、不純物の割合等)を評価するのに適した条件である。第2の照射条件102は、第1の照射条件101よりも測定時間を短縮するための条件としてもよい。レーザ光LBの第1の照射条件101及び第2の照射条件102のレーザ出力は、加工工程における加工照射条件のレーザ出力よりも小さい。また、第1の照射条件101のレーザ出力は、第2の照射条件102のレーザ出力よりも小さい。具体的には、加工照射条件のレーザ出力は、7000W~8000Wであるのに対し、第1の照射条件101のレーザ出力は、1000Wであり、第2の照射条件102のレーザ出力は、1200W~1600Wである。また、被加工材Wに照射されるレーザ光LBの第1の照射条件101のレーザ照射時間(第1段階)は、第2の照射条件102のレーザ照射時間(第2段階)よりも短い。そして、判定照射条件(第1の照射条件101及び第2の照射条件102)でレーザ光LBを照射中のレーザ加工装置10のノズルギャップは、加工照射条件でレーザ光LBを照射中のレーザ加工装置10のノズルギャップよりも大きく設定される。
【0037】
より詳しくは、例えば
図2及び
図3に示すように、第1段階におけるレーザ光LBの第1の照射条件101は、レーザ出力が1000Wでレーザ照射時間がレーザ開始(Laser ON)から0.5秒(500ms)である。また、第2段階におけるレーザ光LBの第2の照射条件102は、レーザ出力が1400Wでレーザ照射時間が500msからレーザ終了(Laser OFF)の2500msまでの2.0秒(2000ms)である。
【0038】
これら第1及び第2の照射条件101,102に共通するレーザ光LBの出力の周波数は1000Hz、デューティは100%、アシストガスのガス種は空気(Air)でガス圧は0.1MPa、及びノズルギャップは50mmである。レーザ光LBが照射される被加工材Wの材質は、例えば、軟鋼材(SS400)で板厚は19mm(t19)とした。
【0039】
次に、上記の判定照射条件のレーザ光LBが被加工材Wに照射された結果、発光し、分光器30で測定される発光スペクトルの時系列データと、この時系列データから加工性の判定に用いる第1の波形情報及び第2の波形情報を求める処理について説明する。
分光器30で測定される発光スペクトルの時系列データは、
図2に示す時系列データを、発光スペクトルを構成する波長分だけ備えた時系列データである。この時系列データを次元圧縮して、機械学習に適した特徴量を表す第1の波形情報及び第2の波形情報を抽出する。次元圧縮の手法は種々考えられるが、本実施形態では、時系列データの開始部分と終了部分の特定波長帯のデータを圧縮する。第1段階における第1の時間領域の時系列データに基づき被加工材Wの表面状態の特徴量を表す第1の波形情報1,3が生成される。また、第2段階における第2の時間領域の時系列データに基づき被加工材Wの内部状態の特徴量を表す第2の波形情報2,4が生成される。
【0040】
すなわち、第1の照射条件101によるレーザ光LBの照射時間内において、例えば、
図2に示すように、レーザ開始から約0.2秒までの間(0秒~0.23秒)のa領域の時系列データは、主にレーザ光LBと被加工材Wの表面(材料表面)との反応を示す表面状態の特徴量を含んでいる。また、約0.2秒以降の時系列データは、レーザ光LBと被加工材Wの内部(素材内部)との反応を示している。
【0041】
更に、第2の照射条件102によるレーザ光LBの照射時間内において、例えば、約1.8秒から約2.3秒までの間(1.83秒~2.35秒)のb領域の時系列データは、レーザ光LBと被加工材Wの内部との反応を示す内部状態の特徴量を含んでいる。このような特徴量は、被加工材Wの材料(材質の違い及び個体差等)によって、それぞれ異なる。
【0042】
なお、レーザ光LBの第1及び第2の照射条件101,102は、実際の製品加工に使用される加工照射条件とは大きく異なっている。一般的な製品加工においては、例えば、ノズルギャップは0.3mm~1.5mm程度であるのに対し、第1及び第2の照射条件101,102では、50mmと非常に広いギャップが設定されている。
【0043】
これは、被加工材Wの材料表面の酸化被膜の厚さが10μm~50μm程度と非常に薄いため、レーザ光LBのエネルギー密度が高すぎると照射時の発光を伴う反応による物理現象が速くなり、分光器30でこの反応を捉えることが非常に困難となるからである。従って、デフォーカスしたレーザ光LBを被加工材Wに照射して、抑制されたエネルギー密度と形成される溶融プールの大きさを確保することで、被加工材Wの表面状態を捉えるようにしている。
【0044】
本出願人の実験結果によると、ノズルギャップが10mm以下では分光器30で反応を捉えることができず、20mm程度から反応が見られるようになり、100mm程度と離し過ぎると十分な発光による光量を得ることができなくなった。このため、第1及び第2の照射条件101,102のノズルギャップは、30mm~70mm程度が適正範囲であると考えられる。このときのエネルギー密度は5kW/cm2~29kW/cm2程度であるため、この適正範囲の中間の50mmに設定した。
【0045】
一方、内部状態の測定においては、表面状態を捉える場合とは異なり、エネルギー密度を高くすることが可能である。そこで、測定時間を短縮するために、第2の照射条件102では、第1の照射条件101よりもレーザ出力を高く設定している。ただし、レーザ出力を、例えば、1800W程度と高くすると、過剰なエネルギーによって良好切断可能な標準材(良好切断材)と難加工材の時間波形の識別が困難となるため、適正なレーザ出力範囲は1200W~1600Wが望ましい。従って、第2の照射条件102のレーザ出力は、このレーザ出力範囲の中間である1400Wに設定した。
【0046】
図4に示すように、分光器30から得られた第1及び第2の発光スペクトルの時系列データから、波長方向及び時間方向に設定された4つの波長成分105~108の時系列データが抽出される。これら4つの波長成分105~108は、具体的には、波長450nm~570nmの第1の波長帯(第1の波長帯域)103と、波長720nm~850nmの第2の波長帯(第2の波長帯域)104と、において、それぞれ抽出された0秒~0.23秒の第1の時間領域の波長成分105,106及び1.83秒~2.35秒の第2の時間領域の波長成分107,108である。
【0047】
波長成分105,106は、例えば、それぞれ波長方向に66行及び100行で、時間方向に200列のサンプルを抽出したスペクトルデータからなる。また、波長成分107,108は、例えば、それぞれ波長方向に66行及び100行で、時間方向に450列のサンプルを抽出したスペクトルデータからなる。
【0048】
そして、第1の波形情報1,3及び第2の波形情報2,4は、上記の波長成分105~108から以下のように求められる。すなわち、まず、各波長成分105~108をそれぞれ波長方向に平均化した4つの時間波形を算出する。次に、第1の波長帯103の中心波長(例えば514nm)の時間波形と、第2の波長帯104の中心波長(例えば811nm)の時間波形の比を算出する。これら平均化した時間波形と中心波長の時間波形の比は、時系列データの帯域情報及び時間変化情報を含んでいる。
【0049】
こうして得られた各算出値のうち、第1の発光スペクトルのa領域の時系列データ(波長成分105,106)を平均化した時間波形を、第1の波形情報1,3として使用する。また、第2の発光スペクトルのb領域の時系列データ(波長成分107,108)を平均化した時間波形及び中心波長の時間波形の比を、第2の波形情報2,4として使用する。これら第1の波形情報1,3及び第2の波形情報2,4は、それぞれ被加工材Wの表面状態及び内部状態を的確に表すデータとして、後述する機械学習に用いられ得る。
【0050】
なお、上記のように抽出される発光スペクトルの第1及び第2の波長帯103,104は、好ましくは可視光域から近赤外域の波長帯域のうち、レーザ加工の基準となる波長(発光波長帯域)及びガイド光GBの波長を除いた波長帯であり、より好ましくは、450nm~850nmの波長帯からガイド光GBの波長を除いた波長帯であるとよい。これにより、加工性の判定に用いる第1の波形情報1,3及び第2の波形情報2,4は、レーザ光LB及びガイド光GBの反射光による影響を受けず、被加工材Wからの発光スペクトルのみを用いて算出可能になる。
【0051】
図5は、被加工材の材料毎に表面状態が異なるa領域の時系列データの時間波形と表面画像とを比較可能に表す表面品質評価結果の一例を示す図である。
図6は、被加工材の材料毎に内部状態が異なるb領域の時系列データの時間波形を比較可能に表す内部品質評価結果の一例を示す図である。なお、表面品質評価結果109a及び内部品質評価結果109bは、被加工材Wの表面品質評価及び内部品質評価を複数種の異なる数値に評点化した品質スコア(点数評価)を含む。
【0052】
図5に示すように、軟鋼材で板厚19mmの被加工材Wの表面品質評価結果109aにおいて、表面品質の品質評価の「○」、「△」及び「×」は、例えば、被加工材Wの材料表面を加工性の観点から実際に確認評価して定義したものであり、この並び順に「良」、「不良」及び「不可」を表し、それぞれ「2」、「1」及び「0」の品質スコア(点数評価)が付けられている。メーカAの被加工材Wの材料(A材)の場合、例えば、酸化被膜の密着性が良好で、表面の面粗さが低いので、品質評価は「○」で品質スコアは「2」となっている。また、a領域の時系列データの時間波形は、立ち上がりにピークが発生し、その後安定する波形となっている。
【0053】
また、メーカBの被加工材Wの材料(B材)及びメーカCの被加工材Wの材料(C材)の場合、例えば、酸化被膜が剥がれやすく、表面が粗いので、品質評価は「△」で品質スコアは「1」となっている。また、a領域の時系列データの時間波形は、例えば、品質評価が「○」のA材と比べて、立ち上がりのピークが、B材のように低めに発生したり、C材のように高めに発生したりして、その後不安定な波形となっている。
【0054】
また、メーカDの被加工材Wの材料(D材)の場合、例えば、酸化被膜が極薄であり、サビが発生していて表面が粗いので、品質評価は「×」で品質スコアは「0」となっている。また、a領域の時系列データの時間波形は、立ち上がりにピークが発生しない波形となっている。このように、表面品質評価結果109aによれば、材料の表面状態によって、a領域の時系列データの時間波形が異なっていることが把握され得る。
【0055】
一方、
図6に示すように、軟鋼材で板厚19mmの被加工材Wの内部品質評価結果109bにおいて、内部品質の品質評価の「○」、「△」及び「×」は、例えば、得られた時間波形の強度及び変動の大きさ並びにレーザ照射中の不純物の摘出程度等の観点から実際に確認評価して定義したものであり、この並び順に「良」、「不良」及び「不可」を表し、それぞれ「2」、「1」及び「0」の品質スコア(点数評価)が付けられている。
【0056】
メーカEの被加工材Wの材料(E材)の場合、メーカFの被加工材Wの材料(F材)及びメーカGの被加工材Wの材料(G材)と比べて、例えば、b領域の時系列データの時間波形の強度が低く、変動が小さい。また、レーザ照射中の溶融プールにおける不純物の摘出は少ない。このため、品質評価は「○」で品質スコアは「2」となっている。
【0057】
G材の場合、E材及びF材と比べて、例えば、b領域の時系列データの時間波形の強度が高く、変動が大きい。また、レーザ照射中の溶融プールにおける不純物の摘出は非常に多い。このため、品質評価は「×」で品質スコアは「0」となっている。なお、F材の場合、b領域の時系列データの時間波形の強度及び変動は、これらE材とG材の中間程度の状態となっており、レーザ照射中の溶融プールにおける不純物の摘出がE材よりもある程度多くG材よりもある程度少なく認められた。このため、品質評価は「△」で品質スコアは「1」となっている。
【0058】
このように、内部品質評価結果109bによれば、材料の内部状態によって、レーザ照射中の不純物の摘出の程度が異なり、摘出量が多くなるに従って、b領域の時系列データの時間波形の強度及び変動が大きくなることが把握され得る。そして、これらの強度及び変動が大きくなるに従って、レーザ加工装置10によるレーザ切断等の切断加工が困難になることが判明した。
【0059】
なお、上記の品質評価及び品質スコアにより示される被加工材Wの表面状態及び内部状態は、より細かく把握可能に分割されていてもよい。例えば、表面品質の「△」の品質評価を、時間波形のピークが高いものについては「△´」とし、ピークが低いものについては「△」としたり、時間波形の周波数成分に着目して細分化しされてもよい。
【0060】
このように、例えば、レーザ加工装置10による軟鋼材の酸素切断等の切断加工において、被加工材Wの材料の表面状態と内部状態はいずれも重要な要素である。本出願人は、
図5及び
図6の表面品質評価結果109a及び内部品質評価結果109bで示した分光器30から得られるa領域の時系列データの時間波形及びb領域の時系列データの時間波形に基づいて、材料の表面状態及び内部状態の両方を適切に把握可能であることを見出した。
【0061】
加工システム100では、これらの時間波形を含む発光スペクトルの時系列データから算出された第1の波形情報1及び第2の波形情報2を説明変数とし、品質スコアを目的変数として機械学習を行って作成された判定モデルに基づき、被加工材Wの加工性を判定する構成とした。なお、第1及び第2の照射条件101,102によりレーザ光LBを被加工材Wに照射したときの表面側と内部側では、それぞれ発生する物理現象が異なるため、判定モデルはそれぞれ分けて作成することとした。
【0062】
ここで、加工システム100の加工性判定ユニット50及びNC装置60について説明する。
図7は、加工システムの概略的な機能ブロック図である。
図7に示すように、加工性判定ユニット50は、判定モデル保存部51と、加工性演算部52と、加工性判定部53と、を備える。
【0063】
判定モデル保存部51は、被加工材Wの表面状態に応じて、加工条件を評価するための第1の判定モデル5(
図9)と、被加工材Wの内部状態に応じて、加工条件を評価するための第2の判定モデル6(
図9)と、を読み出し可能に記憶する。例えば、第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6は、被加工材Wの板厚毎に作成されている。なお、評価される加工条件は、例えば、予め後述するNC装置60の加工条件保存部62に保存されている。また、第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6は、加工性判定ユニット50の判定モデル保存部51の内部に保存せずに、外部のサーバ等に保存されるようにしてもよい。
【0064】
加工性演算部52は、例えば、被加工材Wの板厚情報に基づいて、判定モデル保存部51から読み出した第1及び第2の判定モデル5,6と、分光器30により取得された第1の波形情報及び第2の波形情報と、に基づき、被加工材Wの加工性評価としての表面状態の品質スコア及び内部状態の品質スコアの点数付けを行い、表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせとしての判定マトリックス情報を生成する。判定マトリックス情報は、判定モデル保存部51に保存され得る。
【0065】
ここで、判定マトリックス情報は、例えば、加工対象となる被加工材Wの切断加工前に、被加工材Wの表面状態と内部状態の品質の組み合わせに基づく加工性を予測するために用いられ、予測された加工性に応じて推奨する加工条件を判定可能とするための情報である。この判定マトリックス情報については、後述する。
【0066】
加工性判定部53は、加工性演算部52で生成された判定マトリックス情報に基づいて、被加工材Wの加工性(良好切断可能な標準材、難加工材)及びこれに基づき推奨される加工条件(標準条件、難加工材条件)を判定し決定する。なお、加工条件は、例えば、被加工材Wの材質(軟鋼、ステンレス鋼、高炉材、電炉材等)及び板厚(19mm、22mm等)に応じたレーザ切断の種々の加工条件(レーザ出力(ピーク出力:Peak Power、繰返し周波数:Repetition frequency、パルス幅:Pulse Width)、加工速度:Machining velocity、集束位置:Focus position、他)を含む。また、被加工材に与える時間当たりのエネルギー密度は、上記の加工条件(そのレーザ出力(レーザ平均出力)、集束位置(集束径)、及び加工速度)等のパラメータによって決定し得る。
【0067】
NC装置60は、レーザ加工装置10、分光器30及び加工性判定ユニット50に各種動作の制御指示を出力すると共に、加工性判定部53の判定結果に基づき、例えば、ディスプレイ70に判定結果を表す各種情報の表示指示を出力可能な制御部61と、被加工材Wの各種の加工条件を記憶装置等に保存する加工条件保存部62と、を備える。
【0068】
なお、加工条件は、例えば、被加工材Wの材質及び板厚等に応じて、NC装置60に予め標準仕様の標準条件及び難加工材用の加工条件(以下、「難加工材条件」という。)として複数備えられ、加工条件保存部62に保存されていてもよい。また、制御部61は、後述する出力I/F(Interface)を介してスピーカやランプに音声出力や点灯等の各種情報の報知指示も出力可能である。
【0069】
図8は、軟鋼の被加工材の板厚に応じた加工条件としての標準条件及び難加工材条件を例示する図である。
図8(a)に示す加工条件110aは、被加工材Wの板厚が19mm(t19mm)の場合の標準条件及び難加工材条件を示し、
図8(b)に示す加工条件110bは、被加工材Wの板厚が22mm(t22mm)の場合の標準条件及び難加工材条件を示している。
【0070】
図8(a)及び
図8(b)に示すように、板厚19mmの加工条件110a及び板厚22mmの加工条件110bの標準条件及び難加工材条件は、ノズル、加工速度(mm/min)、レーザ出力(ピーク出力)(W)、(パルス)周波数(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)(%)、ガス種、ガス圧(MPa)、ノズルギャップ(mm)及びACL(集光径を変更する機能)の各パラメータの項目が、それぞれ備えられている。なお、ACLはレーザ光LBをコリメート光にするときのビーム径に関するパラメータであり、数値が大きいほどコリメート光のビーム径が大きくなり、コリメート光のビーム径が大きくなるほどビームスポット径が小さくなるように作用するパラメータである。
【0071】
加工条件110aの標準条件では、上記各パラメータの項目が、type-A、1000、7000、1000、75、O2、0.06、1、及び70に設定されている。また、加工条件110aの難加工材条件では、上記各パラメータの項目のうち、ノズルとACLを除く各項目が同じに設定されているものの、ノズルがtype-Bになり、ACLが80に設定されている。
【0072】
加工条件110bの標準条件では、上記各パラメータの項目が、type-A、900、8000、1000、75、O2、0.06、1、及び70に設定されている。また、加工条件110bの難加工材条件では、上記各パラメータの項目のうち、ノズル、ガス圧及びACLを除く各項目が同じに設定されているものの、ノズルがtype-Bになり、ガス圧が0.07でACLが80に設定されている。
【0073】
図9は、加工システムで使用される加工性判定システムの概略構成を示すブロック図である。
図9に示すように、一実施形態に係る加工性判定システム90は、第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6を有し、被加工材Wの加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ光LBを被加工材Wを溶融させるが貫通はしない判定照射条件で、被加工材Wに照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから算出された第1の波形情報3及び第2の波形情報4をそれぞれ第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6に入力し、第1の波形情報3及び第2の波形情報4に基づいて被加工材Wの加工性を判定する加工性判定ユニット(判定装置)50と、第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6を作成する学習装置80と、を備える。加工性判定ユニット50は、発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報3と第2の時間領域の第2の波形情報4とを抽出し、抽出された第1の波形情報3を推定用データとして第1の判定モデル5に入力して被加工材Wの表面品質評価を得、抽出された第2の波形情報4を推定用データとして第2の判定モデル6に入力して被加工材Wの内部品質評価を得る。また、加工性判定ユニット50は、得られた被加工材Wの表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、レーザ光LBを加工照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wを切断加工する加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材Wの加工性の判定結果を出力する。学習装置80は、第1の波形情報1及び被加工材Wの表面品質を示す表面品質評価結果109aを第1の教師データとして入力して機械学習を行って第1の判定モデル5を作成し、第2の波形情報2及び被加工材Wの内部品質を示す内部品質評価結果109bを第2の教師データとして入力して機械学習を行って第2の判定モデル6を作成する。
【0074】
すなわち、加工性判定システム90は、上記のような学習装置80と、加工システム100に含まれる加工性判定ユニット50と、を備えて構成される。なお、学習装置80は、加工システム100の内部に設けられてもよいし、加工システム100の外部に設けられていてもよい。
【0075】
学習装置80は、第1の判定モデル学習部81及び第2の判定モデル学習部82を有する。第1の判定モデル学習部81には、学習過程において、2つの教師データが入力される。1つ目は、分光器30で測定された第1の発光スペクトルのa領域の時系列データに基づく、説明変数としての第1の波形情報1である。2つ目は、表面品質評価結果109aに含まれる、目的変数としての表面品質の品質スコアである。第1の判定モデル学習部81は、これら第1の波形情報1及び表面品質評価結果109aを第1の教師データとして入力し、これら第1の教師データに基づいて機械学習を行って、被加工材Wの表面状態の予測用の第1の判定モデル5を作成し出力する。
【0076】
第2の判定モデル学習部82には、学習過程において、2つの教師データが入力される。1つ目は、分光器30で測定された第2の発光スペクトルのb領域の時系列データに基づく、説明変数としての第2の波形情報2である。2つ目は、内部品質評価結果109bに含まれる、目的変数としての内部品質の品質スコアである。第2の判定モデル学習部82は、これら第2の波形情報2及び内部品質評価結果109bを第2の教師データとして入力し、これら第2の教師データに基づいて機械学習を行って、被加工材Wの内部状態の予測用の第2の判定モデル6を作成し出力する。
【0077】
一方、加工性判定ユニット50の加工性演算部52には、推定過程において、2つの推定用データが入力される。1つ目は、新たに切断加工される被加工材Wの切断加工前に分光器30で測定された第1の発光スペクトルのa領域の時系列データに基づく第1の波形情報3である。2つ目は、新たに切断加工される被加工材Wの切断加工前に分光器30で測定された第2の発光スペクトルのb領域の時系列データに基づく第2の波形情報4である。
【0078】
加工性演算部52は、これら第1及び第2の波形情報3,4を推定用データとして入力し、学習装置80で作成された第1及び第2の判定モデル5,6に基づいて、判定マトリックス情報を生成する。加工性判定部53は、判定マトリックス情報に基づいて、レーザ加工装置10でこれから行われる切断加工における被加工材Wの加工性及びこれに基づき推奨される加工条件を報知し得る判定結果9を出力する。なお、加工性判定システム90で用いられる説明変数及び目的変数は、上記例示したものに限定されるものではない。
【0079】
なお、加工性判定ユニット(判定装置)50は、判定結果9を確認可能に報知するディスプレイ(報知部)70を含み、判定結果9は、表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせにおける加工条件による被加工材Wへの適応性を表現可能な加工性評価を含んで構成されていてもよい。ディスプレイ(報知部)70は、加工性評価に基づいて、被加工材Wの材料に合わせてレーザ加工装置10に設定される加工条件を知らせる情報、レーザ加工装置10によるテスト加工を促す情報、並びに加工条件の調整、変更及び設定のいずれか一つの実行を促す情報の少なくとも一つを報知するように構成され得る。また、加工性判定ユニット(判定装置)50は、ディスプレイ(報知部)70により報知された情報に基づきオペレータが選択入力した入力情報を受け付けて、受け付けられた入力情報に応じた加工条件をレーザ加工装置10に設定する設定部を含んで構成されていてもよい。
【0080】
また、学習装置80及び加工性判定ユニット50における機械学習及び判定に際しては、ランダムフォレスト(Random Forest:RF)、回帰分析(Regression Analysis:RA)、主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)、特異値分解(Singular Value Decomposition:SVD)、線形判別分析(Linear Discriminant Analysis:LDA)、独立成分分析(Independent Component Analysis:ICA)、ガウス過程潜在変数モデル(Gaussian Process Latent Variable Model:GPLVM)、ロジスティクス回帰(Logistic Regression:LR)、サポートベクターマシン(Support Vector Machine:SVM)、判別分析(Discriminant Analysis:DA)、ランキングSVM(Ranking Support Vector Machine:RSVM)、勾配ブースティング(Gradient Boosting:GB)、ナイーブベイズ(Naive Bayes:NB)、K近接法(K-Nearest Neighbor Algorithm:K-NN)、NN(Neural Network)等の各種のアルゴリズムを利用することが可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
[ハードウェア構成]
図10は、加工性判定ユニット、学習装置及び/又は加工性判定システムの基本的なハードウェア構成を示す説明図である。
図10に示すように、加工性判定ユニット50、学習装置80及び/又は加工性判定システム90は、例えば、GPU(画像演算処理装置:Graphics Processing Unit)212と、CPU(中央演算処理装置:Central Processing Unit)201と、RAM(Random Access Memory)202と、ROM(Read Only Memory)203と、HDD(ハードディスクドライブ:Hard Disk Drive)204と、SSD(ソリッドステートドライブ:Solid State Drive)205と、メモリカード206と、を備えたハードウェアにより実現されている。
【0082】
また、加工性判定ユニット50、学習装置80及び/又は加工性判定システム90は、例えば、入力I/F(インタフェース:Interface)207と、出力I/F(インタフェース:Interface)208と、通信I/F(インタフェース:Interface)209と、を備える。ハードウェアの各構成部201~209は、それぞれバス200によって相互に接続されている。
【0083】
入力I/F207には、キーボード、トラックボール、ジョイスティック、マウス及びタッチパネル等の各種の入力デバイス、分光器30等の測定装置、及び温度センサ、光センサ、音響センサ、画像センサ、分光センサ等の各種センサを含む入力機器211が接続されている。出力I/F208には、報知部として機能するディスプレイ70、図示しないスピーカ及びランプ等を含む出力機器210が接続されている。通信I/F209は、インターネット等のネットワーク213を介して、サーバ等の外部機器214と通信を行う。上記加工性判定ユニット50、学習装置80及び/又は加工性判定システム90の各構成部は、このようなハードウェアによって構成され得る。
【0084】
図11は、判定マトリックス情報を例示する図である。
図11に示すように、判定マトリックス情報110は、例えば、縦軸に被加工材Wの表面状態の品質評価の品質スコアを表し、横軸に被加工材Wの内部状態の品質評価の品質スコアを表して、これらをマトリックス表に組み合わせたデータからなる。
【0085】
図11において、「S_score」は表面状態の品質スコアを表し、「B_score」は内部状態の品質スコアを表している。これらの品質スコアは、例えば、予め決められたしきい値に基づいて、「○」、「△」及び「×」の品質評価に対応して分類されている。例えば、「○」の品質評価は、表面状態の品質スコアが1.4以上(S_score≧1.4)及び内部状態の品質スコアが1.4以上(B_score≧1.4)となっている。また、「△」の品質評価は、表面状態の品質スコアが0.6以上1.4未満(0.6≦S_score<1.4)及び内部状態の品質スコアが0.6以上1.4未満(0.6≦B_score<1.4)となっている。また、「×」の品質評価は、表面状態の品質スコアが0.6未満(S_score<0.6)及び内部状態の品質スコアが0.6未満(B_score<0.6)となっている。
【0086】
加工性演算部52によって点数付けされた表面状態及び内部状態の品質スコアに基づく品質評価が共に「○」の被加工材Wは、判定マトリックス情報110における推奨する加工条件(Reco_cond)の変数が「1」となる第1の推奨条件(Reco_cond=1)の領域111に分類される。
【0087】
また、加工性演算部52によって点数付けされた表面状態の品質スコアに基づく品質評価が「△」及び「×」のいずれかであり、内部状態の品質スコアに基づく品質評価が「×」である被加工材Wは、判定マトリックス情報110における推奨する加工条件(Reco_cond)の変数が「3」となる第3の推奨条件(Reco_cond=3)の領域113に分類される。
【0088】
また、加工性演算部52によって点数付けされた表面状態及び内部状態の品質スコアに基づく品質評価が上記以外のいずれかの被加工材Wは、判定マトリックス情報110における推奨する加工条件(Reco_cond)の変数が「2」となる第2の推奨条件(Reco_cond=2)の領域112に分類される。
【0089】
第1の推奨条件(Reco_cond=1)の領域111に分類された被加工材Wは、加工条件として標準条件で良好なレーザ切断(切断加工)が可能な標準材であると、加工性が判定される。第2の推奨条件(Reco_cond=2)の領域112に分類された被加工材Wは、加工条件として難加工材条件で良好なレーザ切断(切断加工)が可能な難加工材であると、加工性が判定される。第3の推奨条件(Reco_cond=3)の領域113に分類された被加工材Wは、加工条件として難加工材条件を用いても良好なレーザ切断(切断加工)が困難な難加工材(テストカット推奨材)であると、加工性が判定される。すなわち、難加工材の中には、標準条件でも難加工材条件でも良好切断ができないテストカット推奨材も含まれる。
【0090】
加工性判定部53は、このような判定マトリックス情報110を用いて被加工材Wの加工性を判定し、第1~第3の推奨条件で推奨される加工条件を含む、ディスプレイ70上等で報知し得る判定結果9を出力する。具体的には、第1の推奨条件(Reco_cond=1)で推奨される加工条件は標準条件であり、オペレータに被加工材Wは標準条件で加工可能な旨を報知し得る判定結果9を出力する。また、第2の推奨条件(Reco_cond=2)で推奨される加工条件は難加工材条件であり、オペレータに被加工材Wは難加工材条件で加工すべき旨(難加工材条件への変更を含む)を報知し得る判定結果9を出力する。また、第3の推奨条件(Reco_cond=3)で推奨される加工条件は難加工材条件であるが、オペレータに対して、被加工材Wに対する材料表面の改質処理を含む表面処理加工を含めたテスト加工(テストカット)を推奨する旨(テストカット推奨材であるために加工条件の調整、変更或いは再設定等を要する旨を含む)を報知し得る判定結果9を出力する。
【0091】
[加工システムの処理フロー]
図12は、加工システムの処理フローの一例を示すフローチャートである。
図12に示すように、被加工材Wの切断加工前に、NC装置60において、例えば、加工テーブル11上の被加工材Wの板厚情報を取得して(ステップS100)、加工性判定ユニット50の判定モデル保存部51に送信する。
【0092】
次に、送信された板厚情報に基づいて、判定モデル保存部51において被加工材Wの板厚に対応する第1及び第2の判定モデル5,6が選定され(ステップS101)、加工性演算部52に送信される。また、レーザ加工ユニット20において、第1の照射条件及び第2の照射条件でレーザ光LBが被加工材Wに照射され(ステップS102)、分光器30によって発光スペクトルが測定される(ステップS103)。そして、分光器30において測定された発光スペクトルのうち、第1の発光スペクトルの時系列データから算出された第1の波形情報3及び第2の発光スペクトルの時系列データから算出された第2の波形情報4が加工性演算部52に送信される。
【0093】
加工性演算部52は、送信された第1の波形情報3及び第2の波形情報4を、選定された第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6にそれぞれ入力し、被加工材Wの表面状態及び内部状態の品質評価(表面品質評価及び内部品質評価)を示す品質スコアを算出し(ステップS104)、判定マトリックス情報110を生成する(ステップS105)。
【0094】
加工性判定部53は、加工性演算部52で算出及び生成された品質スコア及び判定マトリックス情報110に基づいて、被加工材Wの加工性の判定を行う。加工性の判定においては、まず、被加工材Wの表面状態の品質スコアが1.4以上(S_score≧1.4)、且つ内部状態の品質スコアが1.4以上(B_score≧1.4)であるか否か、すなわち、表面状態及び内部状態の品質評価が共に「○」であるか否かを判定する(ステップS106)。
【0095】
品質スコアがこの判定条件を満たしている場合(ステップS106のT:True)は、被加工材Wは判定マトリックス情報110の第1の推奨条件(Reco_cond=1)の領域111に分類され得るので、第1の推奨条件(Reco_cond=1)がフラグ立ちした(ステップS107)判定結果9が、NC装置60の制御部61に送信される。
【0096】
NC装置60の制御部61は、送信された判定結果9に基づいて、例えば、ディスプレイ70上等に被加工材Wを標準条件で加工可能である旨、表面状態の品質スコア(S_score)の数値及び内部状態の品質スコア(B-score)の数値等の加工性評価を含む判定結果9に関する情報を表示(ステップS108)等して、オペレータに報知する。このとき、例えば、バックグラウンドで加工条件保存部62から標準条件が呼び出されていてもよい。
【0097】
一方、品質スコアがステップS106の判定条件を満たしていない場合(ステップS106のF:False)は、被加工材Wの表面状態の品質スコアが1.4未満(S_score<1.4)、且つ内部状態の品質スコアが0.6未満(B_score<0.6)であるか否か、すなわち、表面状態の品質評価が「△」又は「×」であり、内部状態の品質評価が「×」であるか否かを判定する(ステップS109)。
【0098】
品質スコアがこの判定条件を満たしていない場合(ステップS109のF:False)は、被加工材Wは判定マトリックス情報110の第2の推奨条件(Reco_cond=2)の領域112に分類され得るので、第2の推奨条件(Reco_cond=2)がフラグ立ちした(ステップS110)判定結果9が、NC装置60の制御部61に送信される。
【0099】
NC装置60の制御部61は、送信された判定結果9に基づいて、例えば、ディスプレイ70上等に被加工材Wを難加工材に適した加工条件(難加工材条件)で加工可能である旨、難加工材条件への変更を促す旨、表面状態の品質スコア(S_score)の数値及び内部状態の品質スコア(B-score)の数値等の加工性評価を含む判定結果9に関する情報を表示(ステップS112)等して、オペレータに報知する。このとき、例えば、バックグラウンドで加工条件保存部62から難加工材条件が呼び出されていてもよい。
【0100】
なお、品質スコアがステップS109の判定条件を満たしている場合(ステップS109のT:True)は、被加工材Wの表面状態の品質評価が「△」又は「×」であり、内部状態の品質評価が「×」であることを意味するので、被加工材Wは判定マトリックス情報110の第3の推奨条件(Reco_cond=3)の領域113に分類され得る。従って、第3の推奨条件(Reco_cond=3)がフラグ立ちした(ステップS113)判定結果9がNC装置60の制御部61に送信される。
【0101】
NC装置60の制御部61は、送信された判定結果9に基づいて、例えば、ディスプレイ70上等に被加工材Wを難加工材条件によっても加工が困難な加工困難材(テストカット推奨材)である旨、上記のようなテスト加工の実施を推奨する旨、表面状態の品質スコア(S_score)の数値及び内部状態の品質スコア(B-score)の数値等の加工性評価を含む判定結果9に関する情報を表示(ステップS114)等して、オペレータに報知する。このとき、例えば、バックグラウンドで加工条件保存部62から難加工材条件が呼び出されていてもよい。
【0102】
なお、このように被加工材Wが難加工材であり切断加工が困難であるとの加工性の判定が行われたとしても、制御部61によって、例えば、難加工材条件に含まれるレーザ出力、加工速度及び焦点位置(集束位置)等の調整可能な各項目のパラメータの調整を行えば、加工品質の改善が見込まれたり切断自体が可能となることがある。このため、上記ステップS114の後に、例えば、タッチパネル等の入力機器211等を介したオペレータの操作入力により受け付けられた入力情報に基づいて、制御部61により、難加工材条件に基づくテスト加工が実施される(ステップS115)。
【0103】
その後、テスト加工による被加工材Wの切断面の状態等の確認が行われ、加工品質がOKであるか否かが判断される(ステップS116)。加工品質がOKではないと判断された場合(ステップS116のF:False)は、例えば、オペレータの操作入力によって、難加工材条件を中心に加工条件の各パラメータの項目を調整し(ステップS117)、再度テスト加工を実施し(ステップS115)、以降の処理を繰り返す。
【0104】
そして、加工品質がOKである場合(ステップS116のT:True)、及び判定結果9に関する情報の表示(ステップS108,S112)が行われたら、加工性が判定された被加工材Wの材料状態(表面状態及び内部状態)に合わせた加工条件を、例えば、オペレータの操作入力に基づきレーザ加工装置10に設定し(ステップS118)、設定された加工条件に基づく被加工材Wの製品加工が実施されて(ステップS119)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0105】
加工システム100は、このようにオペレータが製品加工に際して、切断加工前に被加工材Wの加工条件に基づく加工性が判定され得るので、被加工材Wの材料状態に合わせた加工条件を設定可能であり、予め設定された加工条件で切断加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更等すべきかの判定結果9を容易に把握することが可能となる。なお、上記ステップS118の設定処理は、オペレータの操作入力による手動設定の他、制御部61が判定結果9に応じて自動に設定を行うようにしてもよい。
【0106】
[実施例]
図13は、第1及び第2の判定モデルによる材料状態の予測結果、加工性の判定結果及び実加工検証結果を含む結果表を示す図である。
図14は、加工品質の品質評価基準を表す説明図である。
【0107】
本出願人は、加工システム100及び加工性判定システム90における加工性の判定について検証を行うために、例えば、板厚が19mmで、材質、生産ロット及び生産過程(電炉/高炉)が異なる27種の被加工材Wのそれぞれについて、複数個のサンプルを用意した。そして、各サンプルにおいて、第1の波形情報1及び表面品質評価結果109aに基づき機械学習によって第1の判定モデル5を作成し、第2の波形情報2及び内部品質評価結果109bに基づき機械学習によって第2の判定モデル6を作成した。
【0108】
こうして作成された第1及び第2の判定モデル5,6を有する加工性判定ユニット50を用い、機械学習に使用していない17種類(t19mm:12種、t22mm:5種)の被加工材Wに第1及び第2の照射条件のレーザ光LBを照射して、第1及び第2の波形情報3,4を測定して材料状態を予測し、判定マトリックス情報110を作成して、加工性を判定した。なお、第1及び第2の波形情報3,4の測定は、一つの被加工材Wにつき異なる5箇所で測定することで、各測定点での表面状態及び内部状態のそれぞれの品質評価を行い、品質スコアを算出した上でその平均値を求め、これを代表値として利用した。
【0109】
図13に示す結果表120において、予測結果121は材料No(No:Number)1~17の各被加工材W毎の表面状態及び内部状態の品質評価(「○」、「△」及び「×」)の予測結果を示し、判定結果122は予測結果121に基づく各被加工材W毎の加工性(良好切断(標準材)、難加工材、テストカットが推奨される難加工材(テストカット推奨材))の判定結果を示している。また、実加工検証結果123は、
図9に示した各加工条件110a,110bで実際に各被加工材Wを加工した際の標準条件及び難加工材条件の検証結果(「○」、「△」及び「×」)を表している。
【0110】
なお、実加工検証結果123における標準条件及び難加工材条件の「○」、「△」及び「×」で示す検証結果は、焦点位置の余裕度を考慮するため、焦点位置を複数変化させて各焦点位置での切断品質を、
図14に示すような加工品質の品質評価基準114に基づく品質評価をオペレータにより行って、この品質評価に基づきまとめられた評価の結果を示している。品質評価の判断要素は、例えば、加工部裏面に付着した溶融金属であるドロスの高さ、切断面に突発的に増大した粗さであるノッチの深さ、及びノッチの数等である。なお、焦点位置の余裕度とは、例えば、切断焦点を標準値から集光レンズ24c側及び/又はその反対側に離れた値に変更したときの切断品質に関して、加工条件における焦点位置の位置ずれの余裕度のことを意味し、加工条件の材料への適応余裕度の意味も含んでいる。
【0111】
すなわち、
図14に示すように、品質評価が「◎」である場合は高品位な切断であることを表し、「○」である場合は良好な切断であることを表している。また、品質評価が「○´」である場合はやや品質で劣る切断であることを表し、「○△」である場合は品質NGの切断であることを表している。更に、品質評価が「△」である場合は分断が可能な切断であることを表し、「×」である場合は切断不可であることを表している。なお、品質評価の分類は、この6つの評価範囲に限定されるものではなく、より詳細な評価が可能に分類されていてもよい。
【0112】
そして、品質評価が「◎」を2つ以上もしくは「○」以上が3つある場合は、「良好切断可能:○」と判断する。また、「良好切断可能:○」の条件を満たしていない場合で、品質評価が「○´」以上が2つ以上である場合は、「切断可能:△」と判断する。更に、品質評価が「○´」以上が2つ未満である場合は、「切断困難:×」と判断する。
【0113】
図15は、実加工結果を判定マトリックス情報において分類した結果を示す図である。
図15に示すように、No1~No17の被加工材Wのうち、材料の表面状態及び内部状態の品質評価が共に「○」と判定された被加工材W(材料No:No3,No8,No10,No13,No14)は、加工性の判定結果が「良好切断(標準材)」と判定され、第1の推奨条件(Reco_cond=1)の領域111に分類される。これらの被加工材Wは、実際に標準条件で良好切断が得られる「○」の検証結果となり、加工性を正しく判定できていることが確認された。
【0114】
なお、第2の推奨条件(Reco_cond=2)の領域112に分類された材料NoがNo6の被加工材Wについては、表面状態の品質評価が「○」であり内部状態の品質評価が「×」であるため、加工性の判定結果は「難加工材」となったが、実際には標準条件で良好切断が得られる「○」の検証結果となった。しかし、難加工材条件においても「○」の検証結果となったので、加工性を正しく判定できていることと判断され得る。
【0115】
材料の表面状態の品質評価が「△」で内部状態の品質評価が「×」と判定され、加工性の判定結果が「テストカット推奨材」と判定された被加工材W(材料No:No2,No4,No7,No9,No12,No16,No17)は、第3の推奨条件(Reco_cond=3)の領域113に分類される。これらの被加工材Wのうち、材料NoがNo2,No4,No7,No16の被加工材Wは、実際は標準条件で切断が困難な「×」であったが難加工材条件で良好切断が得られる「○」の検証結果となった。一方で、材料NoがNo2,No4,No7,No16を除く被加工材W(材料No:No9,No12,No17)は、実際は標準条件では切断が困難な「×」であり、難加工材条件でも「×」又は良好切断が得られない「△」の検証結果となった。つまり、この領域113に分類された被加工材Wは、新たに加工条件を調整するなどしたテストカットが必要となる可能性があることが確認でき、加工性を正しく判定できていることと判断され得る。
【0116】
なお、上記以外の被加工材W(材料No:No1,No5,No11,No15)は、加工性の判定結果が「難加工材」と判定され、第2の推奨条件(Reco_cond=2)の領域112に分類される。これらの被加工材Wは、実際に標準条件では切断が困難な「×」又は良好切断が得られない「△」であり、難加工材条件では良好切断が得られる「○」の検証結果となり、加工性を正しく判定できていることが確認された。
【0117】
図16は、標準材と判定された被加工材の実加工検証結果の詳細の一例を示す図である。
図17は、難加工材と判定された被加工材の実加工検証結果の詳細の一例を示す図である。
図18は、難加工材(テストカット推奨材)と判定された被加工材の実加工検証結果の詳細の一例を示す図である。
図16に示すように、例えば、加工性の判定結果が標準材と判定された材料NoがNo13の被加工材Wは、板厚22mmの加工条件110bの標準条件下にて、焦点位置が2.5mm~6.5mmの5段階の範囲で、切断面の品質評価が全て「◎」となっている。このため、第1及び第2の判定モデル5,6並びに判定マトリックス情報110を用いた加工性の判定結果9が正確であることが確認された。
【0118】
また、
図17に示すように、例えば、加工性の判定結果が難加工材と判定された材料NoがNo15の被加工材Wは、板厚19mmの加工条件110aの標準条件下では、焦点位置が2.5mm~6.5mmの5段階の範囲で、切断面の品質評価が全て「○△」となった。これに対し、難加工材条件下では、焦点位置が3.0mm~7.0mmの5段階の範囲で、切断面の品質評価が「◎」又は「○」となったので、難加工材条件を用いることにより加工品質が改善されることが示され、第1及び第2の判定モデル5,6並びに判定マトリックス情報110を用いた加工性の判定結果9が正確であることが確認された。
【0119】
また、
図18に示すように、例えば、加工性の判定結果が難加工材(テストカット推奨材)と判定された材料NoがNo17の被加工材Wは、板厚19mmの加工条件110aの標準条件下では、焦点位置が2.5mm~6.5mmの5段階の範囲で、切断面の品質評価が全て「△」となった。また、難加工材条件下においても、焦点位置が3.0mm~7.0mmの5段階の範囲で、切断面の品質評価が「○」、「○´」又は「○△」となったので、難加工材条件を用いても高品位な切断(良好切断)が得られていないことが示され、テスト加工の実施が必要となる可能性が浮き彫りとなったので、第1及び第2の判定モデル5,6並びに判定マトリックス情報110を用いた加工性の判定結果9が正確であることが確認された。
【0120】
以上のように、第1の実施形態の加工システム100及び加工性判定システム90は、切断加工前に被加工材Wの加工条件に基づく加工性を判定して、その判定結果9の内容(被加工材Wの材料状態及び推奨される加工条件)に合わせて取るべき対応(例えば、推奨された加工条件で切断加工を行うべきか、被加工材Wに適した加工条件に変更すべきか、推奨された加工条件を調整すべきか、テスト加工を実施すべきか等)の判断が容易で、加工品質の改善を図ることを迅速に行い得るので、加工不良を低減することが可能となる。
【0121】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る加工システム及び加工性判定システムは、先に説明した分光器30によりレーザ光LBを照射したときに発生する発光スペクトルを測定する第1の実施形態の加工システム及び加工性判定システムに、放射温度計(赤外線センサ)によりレーザ光LBを照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する構成を加え、上述した分光器30による被加工材Wの加工性の判定結果(第1の判定結果)と、放射温度計による被加工材Wの加工性の判定結果(第2の判定結果)と、を組み合わせて、加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材Wの加工性の判定結果(第3の判定結果)を出力可能に構成した加工システム及び加工性判定システムである。
【0122】
このため、第1の実施形態で説明した基本的構成、概略構成、機能的構成、ハードウェア構成等の各構成は全て含み得ると共に作用効果は全て実現し得るので、以下では、特に言及しない限り、第1の実施形態と重複する箇所には同一の符号を付して、既に説明した部分と重複する説明は割愛する。
【0123】
上述したように、軟鋼の被加工材Wの酸素切断は、被加工材Wの表面状態(酸化膜の状態)及び内部状態に影響される。同一の鋼種及び板厚であっても、同じレーザ切断の加工条件で、メーカ及び製造ロットの違い等の個体差により切断品質が異なる。本発明者等は、切断品質に強く影響を及ぼしている材料特性の因子を見つけ、それを測定及び解析すべく、第1の実施形態の加工システム及び加工性判定システムを構成した。
【0124】
すなわち、被加工材Wの材料表面(素材表面)の酸化膜は表面でのレーザ吸収率、酸化反応に影響する。レーザ吸収率は、酸化膜の種類によって異なり、例えば黒色のマグネタイトは、レーザ吸収率及び酸化膜の密着性が高く、切断品質は安定する。一方、ヘマタイトは、レーザ吸収率が低く、酸化膜の密着性も小さい。このため、レーザ切断中に酸化膜が剥離しやすく、剥離部分を起点としてノッチが入りやすい。
【0125】
また、酸化膜が薄くなっている部分や、酸化膜が剥離している部分は、素材表面で酸化反応しやすく、素材表面で過剰燃焼が起こりやすくなり、切断面が粗くなる。このような観点から、本発明者等は、酸化膜の密着性は、被加工材Wの表面をレーザ光LBで溶融させるときに、レーザ照射直後に発生する発光スペクトルによって判定できることを見出した。
【0126】
例えば、被加工材Wに密着性の高い酸化膜がある場合と、被加工材Wに密着性の低い酸化膜があるか、或いは酸化膜が薄いか又は剥離している場合との違いは、被加工材Wの表面(素材表面)の酸化膜が無くなるまでに発生する発光スペクトルの時間的変化によって判定が可能である。
【0127】
また、酸化膜の分布状態を評価するためには、素材表面を溶融させない範囲でレーザ光LBを照射し、素材表面に発生する熱応力で酸化膜の密着性を評価することが可能である。熱応力により酸化膜が剥離すると閃光が発生するので、赤外線スペクトルで検出することができる。また、素材表面の酸化膜の種類、粗さ(凹凸)等によってもレーザ吸収率の違いから温度が変動するので、赤外線スペクトルの変動として捉えることができる。
【0128】
また、被加工材Wの内部特性としては、素材に含まれる内部成分のうち鉄以外の元素の成分に起因した溶融挙動の安定性、及び熱の伝わり易さ(熱伝導率)が影響することが判明している。鉄以外の元素の影響について、特に炭素量が多いものは、成分偏析が発生しやく、炭素濃度分布が不均一になり、溶融温度も不均一になるために、溶融ムラにより切断面が粗れやすくなる。次いで、マンガンも成分偏析を増長する元素で溶融ムラにより、溶融挙動が不安定になりやすい。
【0129】
そのため、溶融挙動の安定性は溶融時に発生する発光スペクトルの時間的変化に影響する。例えば、炭素量が多いと鋼板内部での成分偏析が大きくなり、低融点部と高融点部の不均一性があり、発光スペクトルの時間的変化の変動が大きくなる。
また、素材に含まれる鉄以外の元素が多くなると熱伝導率が小さくなるので、レーザ切断の加工点で高熱になりやすく、同様に過剰に溶融しやすくなり、切断面が粗れやすくなる。
【0130】
以上の点を踏まえて、第1の実施形態に係る加工システム及び加工性判定システムを構成したが、第2の実施形態に係る加工システム及び加工性判定システムでは、更に判定精度を高めるため、次のような構成とした。
内部成分の熱伝導率は、材料を溶融させないレーザ照射条件で繰り返し加熱冷却を行うことで、温度上昇の大きさから熱の伝わり易さとして評価できる。なお、可視光領域では約600℃以下の温度では測定できないため、1600nm以上の波長帯の赤外線強度を測定して温度上昇の低温側の温度測定を行うようにした。
【0131】
従って、第2の実施形態の加工システム及び加工性判定システムでは、可視光での被加工材Wの加工性の判定については、上述したように機械学習を利用した判定モデル用いて判定を行い、赤外光での被加工材Wの加工性の判定については、赤外線強度の時間的又は位置的変化を特徴量とした情報(特徴量情報)をしきい値と比較することで判定を行うように構成した。
【0132】
[加工システムの基本的構成]
図19は、本発明の第2の実施形態に係る加工システムの基本的構成を概略的に示す説明図である。
図19に示すように、第2の実施形態に係る加工システム100Aは、レーザ光LBを加工照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wを切断加工する加工工程と、レーザ光LBを、被加工材Wを溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件(第1の実施形態の「判定照射条件」)、及びレーザ光LBを被加工材Wの素材の融点を超えない第2の判定照射条件で被加工材Wに照射して、被加工材Wの加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置10Aを備える。また、加工システム100Aは、被加工材Wに第1の判定照射条件でレーザ光LBを照射したときに発生する発光スペクトルを測定する分光器30(第1の測定部)と、被加工材Wに第2の判定照射条件でレーザ光LBを照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する放射温度計30A(第2の測定部)と、を含むレーザ加工ユニット20A(測定装置)を備える。また、加工システム100Aは、レーザ加工ユニット20Aの分光器30によって測定された発光スペクトルの時系列データに基づいて、被加工材Wの加工性を判定するPC(Personal Computer)50A(第1の判定部)と、レーザ加工ユニット20Aの放射温度計30Aによって測定された赤外線強度の時系列データに基づいて、被加工材Wの加工性を判定するNC装置60(第2の判定部)と、PC50Aにより判定された第1の判定結果及びNC装置60により判定された第2の判定結果の組み合わせに基づいて、加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材Wの加工性を判定し第3の判定結果を出力するNC装置60(第3の判定部)と、を含む判定装置(PC50A及びNC装置60)を備える。判定装置は、第1の判定モデル5(
図9)及び第2の判定モデル6(
図9)を有する。判定装置のPC50Aは、レーザ加工ユニット20Aの分光器30によって測定された発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報3(
図9)と第2の時間領域の第2の波形情報4(
図9)とを抽出する。判定装置のPC50Aは、抽出された第1の波形情報3を推定用データとして第1の判定モデル5に入力し被加工材Wの表面品質評価を得る。また、判定装置のPC50Aは、抽出された第2の波形情報4を推定用データとして第2の判定モデル6に入力し被加工材Wの内部品質評価を得る。そして、判定装置のPC50Aは、得られた被加工材Wの表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、被加工材の加工性を判定した前記第1の判定結果を出力する。また、判定装置のNC装置60は、レーザ加工ユニット20Aの放射温度計30Aによって測定された赤外線強度の時系列データに基づいて、被加工材Wの温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出し、抽出された特徴量情報と、図示しない記憶装置等に予め登録済みの被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、被加工材の加工性を判定した第2の判定結果を出力する。
【0133】
なお、レーザ加工装置10Aのレーザ加工ユニット20Aは、放射温度計30Aと、ダイクロイックミラー24dと、を備える点が、第1の実施形態のレーザ加工ユニット20とは相違している。放射温度計30Aは、例えばレーザ加工ヘッド22の上部に設けられている。また、PC50AはNC装置60に含まれていてもよく、NC装置60はレーザ加工装置10Aに含まれるように搭載されていてもよい。
【0134】
放射温度計30Aは、レーザ光LBにより加熱された被加工材Wの材料から発せられる広帯域の波長を有する電磁波のうち、熱輻射で放出される赤外線を含む放射光のこの赤外線を捉え、電気信号に変換する。放射温度計30Aは、1600nm以上の波長帯の赤外線強度を測定する。すなわち、放射温度計30Aは、例えば、特定帯域(1600nm以上、2500nm以下)の波長のみを透過する波長フィルタを前段に配置し、後段に光電変換素子として、例えば、InGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)を用いたフォトダイオード使用している。
【0135】
ダイクロイックミラー24dは、折り返しミラー24bの上部に設けられている。ダイクロイックミラー24dは、被加工材Wの加工側から折り返しミラー24bに向かう光に含まれる放射光のうち、折り返しミラー24bを透過した所定波長の赤外光(赤外線)を放射温度計30A側に透過し、可視光を分光器30の受光部31側に反射させる。
【0136】
ここで、加工システム100AのPC50A及びNC装置60について説明する。
図20は、加工システムの概略的な機能ブロック図である。
図20に示すように、PC50Aは、第1の実施形態の加工性判定ユニット50と同様に、判定モデル保存部51、加工性演算部52、及び加工性判定部53を備える。PC50Aは、一般的なPCと同様のハードウェア構成(CPU、RAM、ROM等)を備える。
【0137】
PC50Aの加工性判定部53は、加工性演算部52で生成された判定マトリックス情報に基づき被加工材Wの加工性(良好切断可能な標準材、難加工材)を判定した第1の判定結果をNC装置60に出力し得る。その他の各部51~53の機能及び作用等は、第1の実施形態で説明した通りであるので、ここでは説明を省略する。
【0138】
NC装置60は、切断加工を実行するレーザ加工ユニット20Aの制御の他に、機能的には、演算処理部63、加工性判定部66、総合判定部65、制御部61、及び加工条件保存部62を備える。演算処理部63は、特定の演算処理を高速で行えるハードウェア又はミドルウェアの演算処理装置等からなる。
【0139】
演算処理部63は、放射温度計30Aの出力信号の瞬時的な電圧値を赤外線の光強度に換算し、この光強度の時系列データを取得し得る。演算処理部63は、得られた光強度の時系列データに基づく温度特性の時間的遷移を表す特徴量情報を抽出する。また、演算処理部63は、例えば信号処理ユニットとしても機能する。
【0140】
すなわち、放射温度計30Aで捉えられ光電変換された電流出力の出力信号は、演算処理部63に向けて伝送される。電流転送された出力信号は、図示しない電流-電圧変換回路によって電圧信号に変換される。そして、電圧信号に変化された出力信号は、A/D変換器40によってデジタル信号に変換されて、このデジタル信号が演算処理部63に入力される。
【0141】
加工性判定部66は、演算処理部63によって抽出された特徴量情報と、例えば図示しない記憶装置等に記憶された基準情報と、に基づいて、これから行う加工の加工条件に基づく被加工材Wの加工性(予めレーザ加工装置10Aに設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材Wの加工性)を判定した第2の判定結果を出力する。なお、基準情報は、例えば実験等により選定されて定められ、予め登録された情報である。
【0142】
総合判定部65は、PC50Aの加工性判定部53からの第1の判定結果と、加工性判定部66からの第2の判定結果との組み合わせに基づいて、分光器30による可視光の測定で得られた情報(材料特性の品質スコア等)及び放射温度計30Aによる赤外線の測定で得られた情報(材料特性の品質評価等)を総合的に利用して、加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材Wの加工性を判定し、総合判定結果(第3の判定結果)を出力する。
【0143】
制御部61は、各種I/F(インタフェース:Interface)を介してレーザ加工ユニット20A(レーザ加工ヘッド22、ビームコントロールユニット24等)の動作を制御する。また、制御部61は、レーザ加工装置10A及び分光器30等に各種動作の制御指示を出力すると共に、総合判定部65の判定結果(第3の判定結果)に基づき、例えばディスプレイ70に判定結果を表す各種情報の表示指示を出力する。なお、制御部61のその他の機能及び作用等、並びに加工条件保存部62については、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0144】
ディスプレイ70は、切断加工の加工条件等の各種情報を入力する設定入力画面、判定結果等のオペレータへ確認可能に報知する各種情報の表示画面等を表示し得る。また、ディスプレイ70は、NC装置60の総合判定部65により判定された第3の判定結果を確認可能に報知する報知部として機能する。ディスプレイ70は、例えば入力部として機能するタッチパネルを備えて構成され得る。ディスプレイ70がタッチパネルを備えた場合は、オペレータは、例えばディスプレイ70を操作することにより、被加工材Wに関する各種情報等を、NC装置60の制御部61に対して入力可能となる。
【0145】
なお、第2の実施形態に係る加工性判定システム(PC50A及びNC装置60)は、第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6を有し、被加工材Wの加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ光LBを、被加工材Wを溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件(第1の照射条件、第2の照射条件)で、被加工材Wに照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから抽出(算出)された第1の波形情報3及び第2の波形情報4を、それぞれ第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6に入力し、第1の波形情報3及び前記第2の波形情報4に基づいて被加工材Wの加工性を判定する加工性判定ユニット50及び学習装置80を含むPC50A(第1の判定部)と、加工性判定工程において、レーザ光LBを、被加工材Wの素材の融点を超えない第2の判定照射条件(第3の照射条件、第4の照射条件)で、被加工材Wに照射したときに発生する放射光の赤外線強度の時系列データから抽出された特徴量情報と、予め登録済みの被加工材Wの加工性の判定用の基準情報と、に基づいて被加工材Wの加工性を判定するNC装置60(第2の判定部)と、PC50A(第1の判定部)により判定された被加工材Wの表面状態及び内部状態の判定結果(第1の判定結果)及びNC装置60(第2の判定部)により判定された被加工材Wの表面性状及び内部特性の判定結果(第2の判定結果)の組み合わせに基づいて、加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の被加工材Wの加工性を判定し材料特性の判定結果(第3の判定結果)を出力するNC装置60(第3の判定部)と、を含む判定装置と、第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6を作成するPC50A(学習装置)と、を備える。判定装置は、PC50A(第1の判定部)が、発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報3と第2の時間領域の第2の波形情報4とを抽出し、抽出された第1の波形情報3を推定用データとして第1の判定モデル5に入力し被加工材Wの表面品質評価を得て、抽出された第2の波形情報4を推定用データとして第2の判定モデル6に入力し被加工材Wの内部品質評価を得て、得られた被加工材Wの表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、被加工材Wの加工性を判定した第1の判定結果を出力する。また、NC装置60(第2の判定部)が、赤外線強度の時系列データに基づいて、被加工材Wの温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報、第2の特徴量情報)を抽出し、抽出された特徴量情報と基準情報(第1の判定基準、第2の判定基準)とに基づいて、被加工材Wの加工性を判定した第2の判定結果を出力する。PC50A(学習装置80)は、第1の波形情報1及び被加工材Wの表面品質を示す表面品質評価結果109aを第1の教師データとして入力して機械学習を行って第1の判定モデル5を作成し、第2の波形情報2及び被加工材Wの内部品質を示す内部品質評価結果109bを第2の教師データとして入力して機械学習を行って第2の判定モデル6を作成する。
【0146】
すなわち、第2の実施形態の加工性判定システムは、
図9に示された第1の実施形態の加工性判定システム90(加工性判定ユニット50及び学習装置80)を含むPC50Aと、NC装置60と、を備えた上記の加工システム100Aによって構成され得る。
【0147】
[加工性判定方法]
次に、加工システム100Aによる加工性の判定方法について説明する。
なお、上述したように分光器30で発光スペクトルを測定して被加工材Wの表面状態及び内部状態を判定する際のレーザ光LBの判定照射条件(第1の照射条件、第2の照射条件)は、以下では第1の判定照射条件として説明するが、PC50A側での分光器30による被加工材Wの加工性の判定についての全体的な説明は、第1の実施形態と同様である。従って、ここでは、総合判定において分光器30による被加工材Wの加工性の判定結果(第1の判定結果)も利用することを前提としつつも、まずは、放射温度計30Aで赤外線スペクトル(赤外線強度)を測定して、被加工材Wの表面性状及び内部特性の材料特性を判定することに主眼を置いて説明する。
【0148】
第2の実施形態においては、レーザ加工装置10Aは、加工性判定工程において、第1の判定照射条件で、レーザ光LBを被加工材Wにスポット照射し、第2の判定照射条件で、レーザ光LBを照射位置を移動させながら被加工材Wの素材表面に照射、及びレーザ光LBを被加工材Wの素材内部に繰り返し照射する。
【0149】
ここで、上述したように、第1の判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含む。レーザ加工装置10Aは、加工性判定工程において、第1の判定照射条件でレーザ光LBを照射する場合、レーザ光LBの照射開始から照射終了までの時間を第1段階及び第2段階に分け、第1の判定照射条件として、第1段階では第1の照射条件101(
図3)でレーザ光LBを被加工材Wに照射し、第2段階では第2の照射条件102(
図3)でレーザ光LBを被加工材Wに照射する。レーザ加工ユニット20Aの分光器30は、第1の照射条件でレーザ光LBが被加工材Wに照射されたときに発生する第1の発光スペクトルと、第2の照射条件でレーザ光LBが被加工材Wに照射されたときに発生する第2の発光スペクトルと、を測定する。判定装置のPC50Aは、レーザ加工ユニット20Aの分光器30によって測定された第1の発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報1,3(
図9)を抽出し、レーザ加工ユニット20Aの分光器30によって測定された第2の発光スペクトルの時系列データから第2の時間領域の第2の波形情報2,4(
図9)を抽出する。
【0150】
一方、放射温度計30Aでの測定に際しては、レーザ光LBを被加工材Wの素材の融点を超えない第2の判定照射条件で照射する。すなわち、被加工材Wの材料を溶融させない範囲でレーザ照射を行い、その赤外線スペクトルの時間的又は位置的変化から材料特性を判定する。本発明者等は、NC装置60の標準加工条件で、素材内部の成分(内部成分)及び素材表面の性状(表面性状)の異なる種々の被加工材Wを切断加工(レーザ切断)して、被加工材Wの切断面を観察した。その結果、被加工材Wの加工性(切断性)は、被加工材Wの表面性状及び内部成分の特性(内部特性)に大きく影響を受けていることが判明した。
【0151】
すなわち、被加工材Wの表面性状とは、具体的には、被加工材Wの素材表面の表層部分における酸化膜の状態及び素材表面との密着性(以下、「酸化膜の状態及び密着性」と称する。)を意味する。ここで、表層部分とは、素材表面に形成された酸化膜のレイヤーに該当する部分のことを意味し、素材表面に酸化膜がない場合は、この表層部分もないこととなる。被加工材Wの加工性は、第1に、被加工材Wの素材表面の酸化膜の状態及び密着性に大きく影響されることが判明した。以下、この要因を「表面起因」と呼ぶ。表面起因が良好とはいえない場合の切断面は、レーザ入射面側の条痕の乱れが大きい。特に、酸化膜が剥離した部分では、条痕が乱れ、ノッチが発生し易い。
【0152】
また、被加工材Wの内部特性とは、具体的には、被加工材Wの内部成分による熱伝導率の大きさを意味する。被加工材Wの加工性は、第2に、被加工材Wの内部成分に基づく熱伝導率の大きさに大きく影響されることが判明した。以下、この要因を「内部起因」と呼ぶ。例えば、軟鋼の厚板では、アシストガスとして酸素を用い、レーザ光の熱と酸化反応熱を熱源として溶融切断を行う。そのとき、熱伝導率が小さい元素が多いものは切断面が粗くなりやすい。熱伝導率が小さい元素が多いと熱が拡散しにくく、切断面の温度上昇を助長しやすいことと、熱伝導率が小さいと過剰燃焼しやすくなることと、が原因と考えられる。
【0153】
そこで、被加工材Wの材料特性として、固体状態の熱伝導率、及び素材表面の酸化膜分布状態を評価することとした。レーザ光LBの判定照射条件(第2の判定照射条件)として、素材を溶融させない(融点を超えない)温度領域で600℃以下の低温側では可視光領域が弱いため、1600nm以上の波長帯の赤外線領域の波長スペクトル強度(赤外線強度)を測定することとした。
【0154】
まず、内部起因の影響を調べるために、第1の調査を行った。第1の調査に当たっては、被加工材Wの表面状態の影響を排除するため、被加工材Wの素材表面の酸化膜を除去して表面状態を揃えた状態でレーザ切断を行った。酸化膜の除去は、表面の平均面粗さが0.8以下となるように研磨することによって行った。レーザ切断は、レーザ出力3(kW)、加工速度630(mm/min)及びアシストガスを酸素(O2)とした加工条件で行った。
【0155】
そして、熱伝導率の測定は、レーザフラッシュ法により行った。熱伝導率の測定に際しては、例えば、サンプルa~cについて板厚4mmで10mm角の矩形状の試験片を作製し、素材表面に黒鉛を塗布して片面側(素材表面側)からレーザ光LBをフラッシュ照射し、反対面側(素材裏面側)の温度上昇から熱拡散率を測定して熱伝導率を求めた。
【0156】
図21は、被加工材の材料毎の熱伝導率、レーザ切断面及び切断面粗さの調査結果を示す結果表である。
図22は、切断面の平均粗さと熱伝導率との関係を示すグラフである。なお、結果表300における各項目の品質評価の「○」、「△」及び「×」は、得られた数値及び切断面等を品質の観点から実際に観察評価して定義したものであり、それぞれ「良」、「可(不良)」及び「不可」に対応している。
【0157】
図21に示すように、結果表300においては、サンプルa、サンプルb及びサンプルcの結果301,302,303が示されている。
サンプルaについては、熱伝導率が56.7W/(m・K)で、切断面は、部分的に条痕が深くなり、ピッチも大きくなり、やや粗くなることから「△」の評価となった。レーザ光LBの入射深さが1mmでの切断面粗さ(条痕変化)は、深さにややバラつきのある結果となっていることが確認できる。
【0158】
サンプルbについては、熱伝導率が60.3W/(m・K)で、切断面は、ノッチが少なく、条痕の深さも最も浅いことから、「○」の評価となった。レーザ光LBの入射深さが1mmでの切断面粗さ(条痕変化)は、深さのバラつきが少なく全てのサンプルの中で最も浅い結果となったので、概ね切断面の評価通りの結果となっていることが確認できる。
【0159】
サンプルcについては、熱伝導率が49.5W/(m・K)で、切断面は、全てのサンプルの中で最もノッチが多くなったことから「×」の評価となった。レーザ光LBの入射深さが1mmでの切断面粗さ(条痕変化)は、深さにバラつきが多く深い結果となったので、概ね切断面の評価通りの結果となっていることが確認できる。
【0160】
そして、サンプルa、サンプルb及びサンプルcの切断面の平均粗さを算出し、算出結果を、
図22に示すように、縦軸に切断面の平均粗さ(μm)を表し、横軸に熱伝導率(W/(m・K))の大きさを表したグラフ304にプロットして回帰直線305を得た。
図22からも明らかなように、切断面の粗さは熱伝導率の大きさ順に粗くなることが分かった。従って、被加工材Wの材料の切断性と熱伝導率の大きさには相関があることが証明された。
【0161】
上述した熱伝導率をレーザ切断の加工前に評価するために、被加工材Wの内部材質と熱伝導率の違いについて分類するための第2の調査を行った。第2の調査では、被加工材Wの材料を溶融しないレーザ出力範囲(第2の判定照射条件でのレーザ出力の範囲)で、被加工材Wの素材内部にレーザ光LBによって繰り返し加熱冷却を行うことで、熱伝導率の違いを調査した。
【0162】
図23は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図23(a)は、放射温度計30Aでサンプルbを測定して、放射温度計30Aから出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形310を示している。
図23(a)において、縦軸は温度(℃)を表し、横軸は時間(ミリ秒:ms)を表している。
【0163】
第2の調査に当たっては、第2の判定照射条件として、板厚19mmの被加工材Wの素材内部に照射するレーザ光LBのレーザ出力を425W、周波数を10Hz、デューティを50%に設定し、1秒間に10回の繰り返し加熱を行った。
図23(b)は、
図23(a)の温度波形310の2周期分を、時間軸をms単位で拡大して示した温度波形311を示す図である。
【0164】
図23(a),(b)に示すように、レーザ光LBの照射開始から10秒間において、複数サイクルのレーザ照射により時間経過と共に被加工材Wの温度波形310,311が、約300℃~約750℃の間で細かく上下動(発熱及び放熱の繰り返し)することが分かる。
【0165】
図23(c)は、
図23(a)で示した繰り返し加熱冷却による温度波形310の下側の包絡線を示す波形図である。この波形図は、
図23(a)の波形図の1サイクル毎の冷却到達温度の時間的遷移を特徴量情報(第2の特徴量情報)312として抽出したものである。この特徴量情報312は、被加工材Wの熱伝導に起因した温度上昇の度合いを示し、以後の判定評価に用いることができる。この特徴量情報312に基づき、レーザ照射開始から5秒後の冷却到達温度を、被加工材Wの材料の内部特性を判定するための判定基準(第2の判定基準)として設定した。すなわち、レーザ照射開始から5秒後の冷却到達温度が550℃以上である場合は熱伝導の評価が「×」で、470℃以上550℃未満である場合は熱伝導の評価が「△」で、470℃未満である場合は熱伝導の評価が「○」と評価した。
【0166】
図23(c)に図中矢印で示すように、サンプルbについては、レーザ照射開始から5秒後の冷却到達温度が421℃であるため、熱伝導は「○」の評価となっている。これは、加工点で発生した熱が拡散しやすく、温度が上がりにくい材料であることを示している。
図21の結果表300に示したサンプルbの結果302でも熱伝導率が比較的大きくなっていることが分かるので、レーザ照射による繰り返し加熱冷却の温度解析結果と合致することが判明した。
【0167】
図24は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図24(a)は、放射温度計30Aでサンプルcを測定して、放射温度計30Aから出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形315を示している。加工条件と第2の判定照射条件については、サンプルbと共通する。また、温度波形316及び特徴量情報(第2の特徴量情報)317についても、
図23と同様である。
【0168】
図24(c)に図中矢印で示すように、サンプルcについては、レーザ照射開始から5秒後の冷却到達温度が551℃であるため、熱伝導は「×」の評価となっている。これは、加工点で発生する熱が逃げにくく、熱伝導率が小さい材料であることを示している。
図21の結果表300に示したサンプルcの結果303でも熱伝導率が比較的小さくなっていることが分かるので、レーザ照射による繰り返し加熱冷却の温度解析結果と合致することとが判明した。
【0169】
次に、表面起因について調べるために、第3の調査を行った。第3の調査に当たっては、まず、被加工材Wの素材表面の酸化膜の状態と条痕の乱れとの関係について調べることにした。
例えば、
図25に示すタイプAの被加工材Wは、素材の状態で酸化膜が剥離(斑状)しており、酸化膜の剥離率が比較的大きいタイプのものが該当する。また、
図27に示すタイプBの被加工材Wは、素材の状態で酸化膜の剥離はない(酸化膜が付着している)が、レーザ照射により酸化膜が剥離するタイプのものが該当する。これら、タイプA及びタイプBのいずれの被加工材Wでも、素材表面の酸化膜が剥離すると、表面におけるレーザ吸収率及び酸化反応のしやすさ等が変化する。このため、切断面においては、酸化膜が剥離した部分で条痕が不均一となる。従って、切断面の条痕の乱れは素材表面の酸化膜の密着性と強い相関があると考えられる。このことは、上記のように調べたタイプA及びタイプBの被加工材Wの切断面の画像において、酸化膜の剥離箇所を起点として、条痕が深くノッチとなっていたことからも明らかである。
【0170】
以上のことを踏まえ、被加工材Wは、表面性状において、上記タイプA及びタイプBの他に、
図29に示す、レーザ照射によっても、素材表面の酸化膜が全く剥離しないタイプのタイプCを加えた3つのタイプに分類することが可能であることが判明した。そこで、第3の調査に当たっては、被加工材Wの素材表面の酸化膜の密着性(酸化膜分布状態)を調べるために、例えば、第2の判定照射条件として、板厚19mmの被加工材Wの素材表面に照射するレーザ光LBのレーザ出力を125W、速度を240mm/min、周波数を100Hz、デューティを100%に設定し、80mmの走査距離でレーザ照射(レーザ走査)を行った。そのときの温度の時間的変化を調べることで、酸化膜の位置的な密着状況を調べることが可能である。被加工材Wの表面にはレーザ走査による加熱冷却により熱応力が発生するが、酸化膜の密着性が弱いと酸化膜が剥離するので、温度変化となって現れる。
【0171】
図25は、タイプAの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
図26は、
図25の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図25(a)及び
図25(b)に示すように、タイプAの被加工材Wは、その表面画像330及び素材表面の拡大画像330aからも分かるように、素材の状態で酸化膜が剥離しているところがある。
図25(c)は、タイプAの被加工材Wにレーザ走査を行ったときの検出温度の位置的変化を示す波形図を含んでいる。この波形図は、温度の位置的変化を特徴量情報(第1の特徴量情報)331として抽出したものである。素材の状態で酸化膜が剥離しているところがあるため、
図25(c)に示すように、レーザ走査をすると、波形図の横軸に表す距離(mm)において、縦軸に表す温度(℃)の位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報)331は、図示のように表される。なお、特徴量情報(第1の特徴量情報)331は、放射温度計30Aにより1.95μm~2.5μmの赤外線強度を放射率1として温度で測定した温度パターンを表している(以下、同じ)。波形図の下方における表面画像332は、波形図に対応するレーザ走査後の表面状態を表している。
【0172】
すなわち、素材表面において、レーザ光LBを照射する前から酸化膜が剥離しているところでは温度が低くなる。酸化膜が載っている(付着している)ところで、酸化膜の密着性が弱い部分はレーザ光LBの照射により酸化膜が剥離してしまう。このようなレーザ照射により酸化膜が剥離したところ(表面画像332の白っぽいところ)では、酸化膜が発光発熱し温度が高くなる。このため、特徴量情報(第1の特徴量情報)331は、高温側のピークが多く現れると共に、高温側及び低温側において波形の乱れが多く散見される結果となった。
【0173】
また、タイプAの被加工材Wの切断面画像は、
図26(a)に示す画像333のようになり、表面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び2mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、
図26(b)に示すグラフ334のようになった。タイプAの被加工材Wは、表面から1mmの深さ及び2mmの深さのいずれにおいても、面粗さは不安定で全体的にバラつきがあり、切断面の条痕の乱れも多く見られる結果となった。
【0174】
図27は、タイプBの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
図28は、
図27の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図27(a)及び
図27(b)に示すように、タイプBの被加工材Wは、その表面画像340及び素材表面の拡大画像340aからも分かるように、素材の状態で酸化膜の剥離はない(酸化膜が付着している)。
図27(c)は、タイプBの被加工材Wにレーザ走査を行ったときの検出温度の位置的変化を示す波形図を含んでいる。この波形図は、温度の位置的変化を特徴量情報(第1の特徴量情報)341として抽出したものである。素材の状態で酸化膜の剥離はないが、
図27(c)に示すように、レーザ走査をすると、波形図の横軸に表す距離(mm)において、縦軸に表す温度(℃)の位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報)341は、図示のように表され、レーザ走査後の表面状態は、波形図の下方の表面画像342のようになる。
【0175】
すなわち、素材表面において、酸化膜の密着性が弱くレーザ照射により酸化膜が剥離する箇所(表面画像342の白っぽいところ)が増える傾向にあるので、特徴量情報(第1の特徴量情報)341は、低温側ではタイプAのものに比べると安定しているが、高温側ではやはりピークが多く現れて、高温側及び低温側における波形の乱れも多少見られる結果となった。
【0176】
また、タイプBの被加工材Wの切断面画像は、
図28(a)に示す画像343のようになり、表面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び2mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、
図28(b)に示すグラフ344のようになった。タイプBの被加工材Wは、表面から2mmの深さの面粗さの方が、表面から1mmの深さの面粗さよりも安定し、タイプAのものよりも全体的にバラつきは少ないが、切断面に多少の条痕の乱れが現れる結果となった。
【0177】
図29は、タイプCの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
図30は、
図29の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図29(a)及び
図29(b)に示すように、タイプCの被加工材Wは、その表面画像350及び素材表面の拡大画像350aからも分かるように、素材の状態で素材表面の酸化膜が全く剥離していない(酸化膜がしっかり付着している)。
図29(c)は、タイプCの被加工材Wにレーザ走査を行ったときの検出温度の位置的変化を示す波形図を含んでいる。この波形図は、温度の位置的変化を特徴量情報(第1の特徴量情報)351として抽出したものである。素材の状態で酸化膜が全く剥離していないため、
図29(c)に示すように、レーザ走査をすると、波形図の横軸に表す距離(mm)において、縦軸に表す温度(℃)の位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報)351は、図示のように表される。波形図の下方の表面画像352は、波形図に対応するレーザ走査後の表面状態を表している。
【0178】
すなわち、素材表面において、酸化膜の剥離はほとんどないので、レーザ照射により極一部酸化膜が剥離するものの(表面画像352の白っぽいところ)、特徴量情報(第1の特徴量情報)351は、高温側のピークが少し現れるが、低温側において波形の乱れがほとんどなく安定している結果となった。
【0179】
また、タイプCの被加工材Wの切断面画像は、
図30(a)に示す画像353のようになり、表面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び2mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、
図30(b)に示すグラフ354のようになった。タイプCの被加工材Wは、表面から1mmの深さの面粗さの方が、表面から2mmの深さの面粗さよりも安定しているが、タイプA及びタイプBのものよりも全体的にバラつきが少なく、切断面に条痕の乱れが現れない結果となった。
【0180】
以上の観点から、軟鋼の被加工材Wの切断性(加工性)は、材料表面の酸化膜分布状態と、内部成分などによる熱伝導率の大きさ(内部特性)と、に強く依存しており、赤外線強度に基づく温度の時間的又は位置的変化によって判定可能であることが証明された。そこで、本出願人は、レーザ加工ユニット20A及び放射温度計30Aを用いて実施された上記の各調査の結果等を勘案し、被加工材Wの加工性の判定用の基準情報を設定した。
【0181】
すなわち、基準情報は、被加工材Wの表面性状の判定用の第1の判定基準(しきい値)及び被加工材Wの内部特性の判定用の第2の判定基準(しきい値)を含む。第1の判定基準は、被加工材Wの基準温度範囲及び温度のバラつきの少なくとも一方に関する情報を含み、第2の判定基準は、被加工材Wの温度上昇の度合いを示す情報を含む。
【0182】
そして、NC装置60における放射温度計30Aによる加工性の判定において、具体的には、加工システム100Aにおいては、レーザ加工装置10Aは、加工性判定工程において、第2の判定照射条件で、レーザ光LBを、照射位置を移動させながら被加工材Wの素材表面に照射する。演算処理部63は、放射温度計30Aによって測定された赤外線強度の時系列データに基づき被加工材Wの温度の位置的変化を特徴量情報として抽出する。例えば記憶装置等に記憶された基準情報は、被加工材Wの基準温度範囲及び温度のバラつきの少なくとも一方に基づく判定基準を含む。加工性判定部66は、例えば記憶装置等に記憶された特徴量情報に含まれる被加工材Wの温度の位置的変化が、判定基準を満たすかどうかによって、被加工材Wの加工性を判定する。また、加工システム100Aにおいては、レーザ加工装置10Aは、加工性判定工程において、第2の判定照射条件で、レーザ光LBを被加工材Wの素材内部に繰り返し照射する。演算処理部63は、放射温度計30Aによって測定された赤外線強度の時系列データに基づき被加工材Wの温度の時間的変化を特徴量情報として抽出する。例えば記憶装置等に記憶された基準情報は、被加工材Wの温度上昇の度合いを示す判定基準を含む。加工性判定部66は、例えば記憶装置等に記憶された特徴量情報に含まれる被加工材Wの温度の時間的変化が、判定基準を外れる温度上昇の状態か否かによって、被加工材Wの加工性を判定する。
【0183】
更に、加工システム100Aにおいては、第2の判定照射条件は、第3の照射条件及び第4の照射条件を含み、レーザ加工装置10Aは、加工性判定工程において、第3の照射条件で、レーザ光LBを、照射位置を移動させながら被加工材Wの素材表面に照射し、第4の照射条件で、レーザ光LBを被加工材Wの素材内部に繰り返し照射する。また、放射温度計30A(第2の測定部)は、第3の照射条件でレーザ光LBが被加工材に照射されたときに発生する赤外光(放射光)の第1の赤外線強度と、第4の照射条件でレーザ光LBが被加工材Wに照射されたときに発生する赤外光(放射光)の第2の赤外線強度と、を測定する。また、演算処理部63は、放射温度計30Aによって測定された第1の赤外線強度の時系列データに基づき被加工材Wの温度の位置的変化を示す第1の特徴量情報を抽出すると共に、放射温度計30Aによって測定された第2の赤外線強度の時系列データに基づき被加工材Wの温度の時間的変化を示す第2の特徴量情報を抽出する。また、加工性判定部66は、第1の特徴量情報を基準情報に含まれる第1の判定基準(しきい値)と比較して、第1の特徴量情報に含まれる被加工材Wの温度の位置的変化が、基準情報に含まれる被加工材Wの基準温度範囲及び温度のバラつきの少なくとも一方に基づく第1の判定基準(しきい値)を満たすかどうかを判定する。これと共に、加工性判定部66は、第2の特徴量情報を基準情報に含まれる第2の判定基準(しきい値)と比較して、第2の特徴量情報に含まれる被加工材Wの温度の時間的変化が、基準情報に含まれる被加工材Wの温度上昇の度合いを示す第2の判定基準(しきい値)を外れる温度上昇の状態か否かを判定して、その結果の組み合わせに基づき被加工材Wの加工性を判定する。なお、記憶装置等は、例えば、演算処理部63によって抽出された第1の特徴量情報及び第2の特徴量情報を読み書き可能に記憶する。
【0184】
なお、被加工材Wの内部特性を正確に判定するためには、好ましくは、レーザ加工装置10Aは、第4の照射条件でレーザ光LBを被加工材Wの素材内部に照射する前に、第5の照射条件でレーザ光LBを被加工材Wの素材表面に照射して被加工材Wの表面の酸化膜除去(表面改質)を行う。ここで、被加工材Wの表面の酸化膜除去は、例えば、第5の照射条件としてレーザ出力2500W、ノズルギャップ70mmと高出力でギャップを大きくすることで、酸化膜を剥離する領域(エリア)を確保する。これにより、被加工材Wの表面に深さ約1.0mm~約1.5mm、くぼみ径約6mmのクレータが生成される。
【0185】
従って、レーザ加工装置10Aにより照射されるレーザ光LBの第3の照射条件、第4の照射条件及び第5の照射条件のレーザ出力は、切断加工条件に含まれるレーザ出力よりも小さく、第3の照射条件のレーザ出力は、第4の照射条件のレーザ出力よりも小さくなるように設定される。
【0186】
具体的には、レーザ切断の加工の標準の加工条件(標準条件)は、例えば、被加工材Wの板厚に応じた、レーザ出力が3000(W)、加工速度が630(mm/min)、(パルス)周波数が2000(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が100(%)、ガス種がO2、ガス圧が0.06(MPa)、ノズルギャップが1(mm)及びACLが62等の各パラメータの項目が設定されている。
【0187】
一方、レーザ光LBの第3の照射条件は、例えば、レーザ出力が125(W)、加工速度が500(mm/min)、(パルス)周波数が100(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が100(%)、ガス圧が0.04(MPa)、ノズルギャップが50(mm)、ノズルがD2.5W、ガス種がO2、レンズ焦点距離が190(mm)、ACLが120、B軸が25(mm)及びレーザ照射径が5.9(Φ)等の各パラメータの項目が設定され、例えば、上記加工速度で80mmの距離にわたってレーザ走査を行い、被加工材Wの材料の表面状態(酸化膜の密着性又は剥離状態)を温度特性により判別するための条件である。
【0188】
また、レーザ光LBの第4の照射条件は、例えば、レーザ出力が425(W)、加工速度が0(mm/min)、(パルス)周波数が10(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が50(%)、ガス圧が0.01(MPa)、ノズルギャップが35(mm)、ノズルがD7.0AL、ガス種が空気(Air)、レンズ焦点距離が190(mm)、ACLが140、B軸が25(mm)及びレーザ照射径が4.5(Φ)等の各パラメータの項目が設定され、例えば、スポット(定点)照射によりレーザ走査を行い、被加工材Wの材料の内部状態(熱伝導率)を温度特性により判別するための条件である。
【0189】
また、レーザ光LBの第5の照射条件は、例えば、焦点位置が素材表面に位置する状態で、レーザ出力が2500(W)、加工速度が0(mm/min)、(パルス)周波数が100(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が100(%)、ガス圧が0.4(MPa)、ノズルギャップが70(mm)、ノズルがD7.0AL、ガス種が空気(Air)及びレンズ焦点距離が190(mm)等の各パラメータの項目が設定され、例えば、第3の照射条件及び第4の照射条件よりもレーザ出力が高い状態で、被加工材Wの材料の表面改質(酸化膜の除去)を行うための条件である。
【0190】
なお、第3の照射条件で照射されるレーザ光LBのエネルギー密度は、1W/mm2以上5W/mm2未満であり、第4の照射条件で照射されるレーザ光LBのエネルギー密度は、5W/mm2以上10W/mm2以下である。第3の照射条件を上記のように設定して被加工材Wの表面性状を判定するのは、次の理由による。
【0191】
すなわち、上記第1~第3の調査により、密着性の弱い酸化膜は、レーザ切断中に酸化膜が素材表面から剥離し、切断面にノッチが入りやすいことが判明している。このため、その密着性をレーザ走査による温度変化の挙動から予測することとした。被加工材Wの素材表面の状態を正確に評価するため、レーザによる熱の侵入深さを極力抑えて、被加工材Wの素材表面の酸化膜を加熱冷却することで熱応力を発生させている。照射するレーザ光LBのエネルギー密度が強すぎると、材料の内部成分による影響も現れてしまうため、熱応力を負荷させる目的で1W/mm2以上5W/mm2未満のエネルギー密度で十分に足りると想定した。そして、酸化膜がレーザ照射により剥離すると、スパッタとなって発光し高温となるため、逆に素材の状態で既に素材表面の酸化膜が剥がれている部分は、レーザ吸収率が小さくなるため温度が低くなる。本出願人の知見によると、酸化膜の素材表面への密着性がよいと、温度はある特定の温度範囲内で安定することが判明している。なお、レーザ光LBの照射エリア(レーザ照射径)が大きいと、酸化膜の状態変化がレーザ走査により平均化されてしまうので温度変化の挙動が小さくなり、表面状態の違いが見えにくくなってしまう。また、照射エリアが小さいとレーザ出力も同時に弱くする必要があるために、レーザ出力が不安定になってしまう。これらのことから、被加工材Wの表面性状の判定に際しては、例えば、レーザ出力を125(W)に設定し、照射エリア(レーザ照射径)を約5.9(Φ)と設定した。
【0192】
また、第4の照射条件を上記のように設定して被加工材Wの内部特性を判定するのは、次の理由による。
すなわち、上記第1及び第2の調査により、温度変化の挙動から材料の熱伝導率を評価することにより、被加工材Wの材質的な加工性(切断性)の品質を判定可能なことが判明している。例えば、鉄(Fe)は800℃付近の温度で磁気変態し、900℃前後での温度で相変態して、1500℃前後の温度で溶融する特性の材料であるため、これらの温度で熱伝導や比熱が変化する。そのため、被加工材Wの材料の内部における熱伝導率を解析するのに、材料が溶融するまでの温度の時間的変化で評価する。このことから、レーザ照射のエネルギー密度を5W/mm2以上10W/mm2以下となるように設定した。また、このエネルギー密度は、レーザ切断の加工に必要なレーザ照射のエネルギー密度と比べると十分に弱いため、レーザ出力(パワー)が不安定になりやすい。そのため、照射エリア(レーザ照射径)を大きめに設定しレーザ出力(パワー)を調整するようにした。
【0193】
そして、材料の熱伝導を評価するためには、レーザ照射による加熱での到達温度を評価するよりも、レーザ照射をオフにしたときの冷却温度を評価した方が、材料の熱伝導率を強く反映した結果が得られることが判明している。すなわち、レーザ照射による加熱の温度変化の挙動は、熱伝導率以外に、例えば、材料表面のレーザ吸収率の影響なども受けてしまうため、熱伝導の評価には不向きである。一方、冷却に関しては、レーザ照射のエネルギーが小さくても鋼の熱伝導率が比較的大きいので、1サイクル(100ms)程度で高温から室温近くまで冷却される。従って、材料の冷却到達温度の大きさを評価するためには、冷却時間50ms前後が適当であると想定した。また、繰り返し加熱冷却による冷却温度の温度変化の挙動を正確に評価するために、(パルス)周波数を10(Hz)とし、(パルス)デューティ(パルス幅)を50(%)と設定した。また、アシストガスのガス圧が強すぎると、冷却速度が速過ぎてしまうので、保護ガラスへのスパッタ飛散防止程度の目的でガス圧を0.01(MPa)に設定した。なお、レーザ照射による加熱温度自体が低いので酸化熱の発生量は小さくなるため、アシストガスの種類は酸素(O2)であっても窒素(N2)であってもよい。
【0194】
以上のような見解から、本出願人は、被加工材Wの表面性状を判定するための第1の判定基準(しきい値)を、例えば、所定距離のレーザ走査により取得された特徴量情報331,341,351において、450℃~800℃の温度範囲にあるデータ成分が40%以下であるか、又はその温度パターンにおける標準偏差が100℃以上であるか、に設定した。表面性状は、温度範囲に40%以下であり、又は標準偏差が100℃以上である場合は、酸化膜の状態が悪く品質が悪いとされる。また、被加工材Wの内部特性を判定するための第2の判定基準(しきい値)を、例えば、繰り返し加熱冷却によるレーザ照射開始から5秒後の冷却到達温度が470℃未満であるか、に設定した。内部特性は、レーザ照射開始から5秒後の冷却到達温度が470℃未満である場合は、熱伝導率が大きく品質が良いとされる。なお、第1及び第2の判定基準は、これらに限定されるものではない。
【0195】
例えば、第1の判定基準を、レーザ出力150(W)、照射エリア(レーサ照射径)6.5(Φ)で加工速度100(mm/s)により10秒間レーザ走査させたときの、蓄積時間1msの測定温度が450℃~800℃の範囲にある総積算時間を比べるものとしてもよい。この総積算時間が第1の判定基準と比べて、短ければ酸化膜の状態が悪く、長ければ酸化膜の密着性が良好であると判定することもできる。また、例えば、蓄積時間1msの測定温度データの標準偏差を比べるものとしてもよい。この標準偏差が、第1の判定基準と比べて、大きければ酸化膜の状態が悪く、小さければ酸化膜の密着性が良好であると判定することもできる。
【0196】
更に、例えば、第2の判定基準を、温度800℃までレーザ照射を行いスポット加熱した後にレーザ照射をオフにして冷却を開始し、冷却開始から300℃までに到達する時間を比べるものとしてもよい。この到達する時間が第2の判定基準と比べて、短ければ内部特性が良好で、長ければ切断面が粗くなると判定することもできる。また、レーザ照射をオフにしてから50ms後の冷却温度を比べるものとしてもよい。この冷却温度が第2の判定基準と比べて、低ければ内部特性が良好で、高ければ切断の品質が悪くなると判定することもできる。なお、基準情報(第1の判定基準、第2の判定基準)は、例えばオペレータにより適宜変更、設定等することが可能な情報である。
【0197】
[加工性判定処理フロー]
図31及び
図32は、放射温度計による加工性判定処理フローの一例を示すフローチャートである。
図31に示すように、加工システム100Aにおいて放射温度計30Aによる加工性判定処理がスタートすると、まず、NC装置60において、記憶装置等の加工プログラムDB(Database)390から、制御部61に必要な加工プログラムが選択されて読み出される(ステップS120)。次に、加工プログラムにより選択された加工条件が、記憶装置等の加工条件DB(Database)391から読み出される(ステップS121)と共に、加工条件が適用される被加工材Wの内部特性判定用のしきい値(第2の判定基準)及び表面性状判定用のしきい値(第1の判定基準)が、記憶装置等の内部特性判定用のしきい値DB(Database)392及び表面性状判定用のしきい値DB(Database)393からロードされて、制御部61及び演算処理部63にそれぞれ設定される。
【0198】
そして、演算処理部63において各判定用のしきい値を決定し(ステップS122)、内部(特性)判定処理においては、第5の照射条件下でレーザ光LBを被加工材Wに照射して上記のような表面改質を行った後に、表面改質部に第4の照射条件下でレーザ光LBを被加工材Wに照射して(ステップS123)、放射温度計30Aによりレーザ照射時の放射光の赤外線に基づく温度を測定する(ステップS124)。また、表面(性状)判定処理においては、第3の照射条件下でレーザ光LBを被加工材Wに照射して(ステップS125)、放射温度計30Aによりレーザ照射時の放射光の赤外線に基づく温度を測定する(ステップS126)。なお、上記内部判定処理及び表面判定処理は、並行して行われても、いずれか一方が先でいずれか他方が後に行われてもよい。
【0199】
図32に示すように、演算処理部63は、上記ステップS124で測定された温度の時系列データを入力し、被加工材Wの温度の時間的変化を示す特徴量情報(第2の特徴量情報)を抽出する。加工性判定部66は、抽出された特徴量情報(第2の特徴量情報)を、設定された内部特性判定用のしきい値と比較することにより、例えば、材料の内部特性がしきい値以下であるか否かを判定する(ステップS127)。また、演算処理部63は、上記ステップS126で測定された温度の時系列データを入力し、被加工材Wの温度の位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報)を抽出する。加工性判定部66は、抽出された特徴量情報(第2の特徴量情報)を、設定された表面性状判定用のしきい値と比較することにより、例えば、材料の表面性状がしきい値以下であるか否かを判定する(ステップS130)。
【0200】
上記ステップS127で内部特性がしきい値以下であると判定した場合(ステップS127のYES)は、被加工材Wの材料の内部特性が良好であると判定する(ステップS128)。一方、上記ステップS127で内部特性がしきい値以下ではないと判定した場合(ステップS127のNO)は、被加工材Wの材料の内部特性が不良であると判定する(ステップS129)。
【0201】
また、上記ステップS130で表面性状がしきい値以下であると判定した場合(ステップS130のYES)は、被加工材Wの材料の表面性状が良好であると判定する(ステップS131)。一方、上記ステップS130で表面性状がしきい値以下ではないと判定した場合(ステップS130のNO)は、被加工材Wの材料の表面性状が不良であると判定する(ステップS132)。
【0202】
そして、加工性判定部66は、上記ステップS128及びS129のいずれかの結果、並びに上記ステップS131及びS132のいずれかの結果に基づき、被加工材Wの加工性の判定結果処理を行う(ステップS133)。すなわち、上記ステップS128及びS131の組み合わせの場合、内部特性(内部成分による熱伝導率の大きさ)が良好であると共に表面性状(酸化膜の状態及び密着性)が良好であるので、例えば、被加工材Wの加工性は良好であるとの判定結果(第2の判定結果)を得る。また、それ以外の上記ステップS128及びS132の組み合わせの場合、内部特性は良好であるが表面性状が不良であり、上記ステップS129及びS131の組み合わせの場合、内部特性は不良であるが表面性状が良好であり、上記ステップS129及びS132の組み合わせの場合、内部特性及び表面性状が共に不良であるので、これらの場合は被加工材Wの加工性は不良であるとの判定結果(第2の判定結果)を得る。
【0203】
こうして得られた被加工材Wの加工性の判定結果(第2の判定結果)は、加工性判定部66から総合判定部65に出力されると共に、放射温度計30Aによる加工性の判定結果として、例えば、ディスプレイ70上に表示される(ステップS134)等してオペレータに報知され、本フローチャートによる一連の処理を終了する。このように、NC装置60における放射温度計30Aによる加工性判定処理は行われ得る。
【0204】
[総合判定]
次に、NC装置60の総合判定部65による分光器30及び放射温度計30Aを用いた総合判定について説明する。総合判定では、上述した分光器30による被加工材Wの加工性の判定結果(第1の判定結果)と、放射温度計30Aによる被加工材Wの加工性の判定結果(第2の判定結果)と、の組み合わせに基づき、総合判定部65で被加工材Wの加工性の総合的な判定が行われる。
図33は、分光器及び放射温度計による判定結果と実加工による切断品質(切断性)評価結果とを総合判定マトリックス情報において分類した結果を示す図である。
【0205】
図33に示すように、総合判定マトリックス情報400は、例えば、縦軸に被加工材Wの表面状態及び表面性状の分光器30及び放射温度計30Aによる表面判定の判定結果としての品質評価である「○」、「△」及び「×」を表し、横軸に被加工材Wの内部状態及び内部特性の分光器30及び放射温度計30Aによる内部判定の判定結果としての品質評価である「○」、「△」及び「×」を表して、これらをマトリックス表に組み合わせたデータからなる。
【0206】
総合判定マトリックス情報400のマトリックス領域404は、図中実線で囲むカテゴリー1の領域401と、図中破線で囲むカテゴリー2の領域402と、図中二点鎖線で囲むカテゴリー3の領域403と、に分けられている。カテゴリー1の領域401は、放射温度計30Aによる表面判定及び内部判定の品質評価がいずれも「○」で、分光器30による表面判定及び内部判定の品質評価が「○」~「×」の全ての組み合わせが該当する。
【0207】
また、カテゴリー1の領域401は、放射温度計30Aによる表面判定及び内部判定の品質評価がいずれも「○」、又は分光器30による表面判定及び内部判定の品質評価がいずれも「○」の組み合わせが該当する。
【0208】
一方、カテゴリー2の領域402は、放射温度計30Aによる表面判定の品質評価が「△」又は「×」及び内部判定の品質評価が「○」、又は分光器30による表面判定の品質評価が「△」又は「×」及び内部判定の品質評価「○」で、カテゴリー1に属さない組み合わせが該当する。
【0209】
更に、カテゴリー3の領域403は、カテゴリー1及び2に属さない組み合わせで、放射温度計30Aによる表面判定の品質評価が「○」~「×」及び内部判定の品質評価が「△」又は「×」、又は分光器30による表面判定の品質評価が「○」及び内部判定の品質評価が「△」又は「×」の組み合わせが該当する。
【0210】
なお、上記カテゴリー1~3は、単純に被加工材Wの加工性(切断性)の良否を示すものではなく、例えば、被加工材Wの切断加工前に、分光器30及び放射温度計30Aの表面判定及び内部判定の判定結果の組み合わせ基づく加工性をより精密に予測するために分類されている。従って、総合判定マトリックス情報400を用いれば、予測された加工性に応じて推奨する加工条件をより適切に判定することができる。そして、総合判定部65によって、カテゴリー1の領域401に分類された被加工材Wは、総合判定マトリックス情報400における推奨する加工条件として、標準条件で良好なレーザ切断(切断加工)が可能な被加工材(標準材)であると、加工性(切断性)が判定される。また、総合判定部65によって、カテゴリー2の領域402に分類された被加工材Wは、総合判定マトリックス情報400における推奨する加工条件として、標準条件でレーザ切断(切断加工)が可能ではあるが標準条件の調整が必要な被加工材(要テストカット実施材)であると、加工性が判定される。また、総合判定部65によって、カテゴリー3の領域403に分類された被加工材Wは、総合判定マトリックス情報400における推奨する加工条件として、標準条件を用いるとレーザ切断(切断加工)が困難な被加工材(テストカット推奨材)であると、加工性が判定される。すなわち、被加工材Wの中には、標準材、標準条件で切断は可能であるが良好切断ができない要テストカット実施材、及び標準条件では切断が困難なテストカット推奨材が含まれる。
【0211】
なお、被加工材Wの切断品質の評価に当たっては、上述した第1及び第2の判定モデル5,6の機械学習に使用していない、例えば、板厚25mmで、材質、生産ロット及び生産過程等が異なる25種(サンプル1~4、No1~No21)の軟鋼の被加工材Wを使用した。これらの被加工材Wに、第1の判定照射条件のレーザ光LBを照射して分光器30により測定を行って、上記のような被加工材Wの表面状態及び内部状態の判定結果(第1の判定結果)を得ると共に、第2の判定照射条件のレーザ光LBを照射して放射温度計30Aにより測定を行って、上記のような被加工材Wの表面性状及び内部特性の判定結果(第2の判定結果)を得て、総合判定マトリックス情報400を作成し、加工性(切断性)を総合的に判定した。
【0212】
また、
図33における切断品質(切断性)の評価に際し、レーザ切断の切断条件(加工条件)を、レーザ出力が9000(W)、加工速度が850(mm/min)、(パルス)周波数が2000(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が65(%)、ガス圧が0.09(MPa)、ノズルギャップが0.5(mm)、ノズルがDG2.5、ガス種が酸素(O
2)、レンズ焦点距離が190(mm)、及びACLが70に設定し、複数の焦点位置にて切断加工を行い、観察評価によって切断品質を評価した。
【0213】
図33における切断品質(切断性)の評価は、良好な切断品質の場合(切断性良好)は、品質スコアを「2」とし、切断品質が若干劣る場合(切断性不良)は、品質スコアを「1」とした。また、切断品質が悪い又は切断不可の場合(切断性不可)は、品質スコアを「0」とした。そして、切断品質の評価と共に、各被加工材Wの種別(サンプル1~4、No.1~21)を、総合判定マトリックス情報400のマトリックス領域404に分類して表した。
【0214】
図33に示す総合判定マトリックス情報400によれば、分光器30による判定結果(第1の判定結果)と、放射温度計30Aによる判定結果(第2の判定結果)とで、各被加工材W(サンプル1~4、No1~No21)の材料状態(材料特性)の判定結果(品質評価)がそれぞれ異なる場合があることが分かる。
【0215】
図33に示すように、例えば、材料番号(材料Number:No)がNo13とNo14の被加工材Wでは、表面判定(表面状態及び表面性状)の判定結果は、分光器30の場合と放射温度計30Aの場合とで、品質評価は共に「○」で「良」の評価となっているが、内部判定(内部状態及び内部特性)の判定結果は異なっている。すなわち、放射温度計30Aによる内部特性の判定結果は、品質評価が「△」で「可」の評価となり、熱伝導が若干悪いことを示している。一方、分光器30による内部状態の判定結果は、品質評価が「○」で「良」の評価となっているので、内部状態が良好であることを示している。また、これらNo13,No14の被加工材Wの切断加工の結果によると、切断品質はスコアが「2」で切断性が良いことが示されている。
【0216】
すなわち、上記の場合であると、例えば放射温度計30Aでは捉えきれない物理現象を分光器30側では捉えて、内部判定をしていることが分かる。一方で、分光器30側では材料状態(表面状態及び内部状態)を捉えきれずに誤った切断性を判定してしまう場合もあるが、放射温度計30Aでは材料状態(表面性状及び内部特性)を捉えて切断性を正確に判定できる場合もある。そのことを調べるために、第4の調査を行った。
【0217】
図34は、サンプル1~4の分光器及び放射温度計による材料状態(材料特性)の判定結果と切断面の評価結果との結果表を示す図である。
図34の結果表405に示すサンプル1,2及びサンプル3,4は、それぞれ同一ロットで製造された鋼材に含まれる内部成分が異なる2種の材料の被加工材Wであり、素材のままの状態がサンプル1,3で、表面改質した状態のものがサンプル2,4である。
【0218】
表面改質は、例えば、素材表面の酸化膜を研磨により除去して平均面粗さを0.8以下にした後に、水蒸気雰囲気で500℃の中に2時間加熱保持することで、素材表面に密着性の高い酸化物(マグネタイト)を生成させることにより行った。レーザ切断の切断条件は、レーザ出力3(kW)、加工速度630(mm/min)、及びアシストガスを酸素(O2)と設定した上で、切断加工を行い、切断面を観察評価により評価した。
【0219】
第4の調査では、
図34に示すように、まず、分光器30による判定では、表面品質及び内部品質のいずれもが、サンプル1~4で同じ判定結果となったが、切断面の品質評価は異なる結果(サンプル1,3が「×」で、サンプル2が「○」で、サンプル4が「△」)となった。すなわち、分光器30による判定では、サンプル1~4のいずれも、表面品質(酸化膜種類、厚さ)の判定結果は「×」で、内部品質(溶融挙動の安定性)の判定結果は「△」となった。この理由について考察する。
【0220】
図35は、サンプル1~4の材料に含まれる鉄以外の化学成分(mass%)を示す図である。
図35の成分表406には、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)及び銅(Cu)の含有量(質量百分率(mass%))が表されている。
図35の成分表406に示すように、サンプル1,2は、炭素(C)が多いのが特徴での材料あり、サンプル3,4は、炭素が少なくマンガン(Mn)が多いのが特徴の材料である。
【0221】
炭素は素材の最終凝固部に濃化しやすい元素であり、炭素が濃化した部分では溶融しやすく、炭素が少ない部分は溶融しにくい。炭素が多いと素材内部での溶融ムラが発生しやすくなる。マンガンも炭素ほど顕著ではないが同様な傾向を示す。サンプル1,2は炭素量が多く、サンプル3,4は炭素量は少ないがマンガン量が多い。そのため、サンプル1,2とサンプル3,4は、溶融状態で分光器30により測定される発光スペクトルの時間的変動はほぼ同様な結果となったと考えられる。
【0222】
一方、固体状態で熱伝導を評価する放射温度計30Aによる判定では、炭素以外に、シリコン及びマンガンの影響も強く受けるため、鉄以外のマンガン等の合金元素を多く含むサンプル3,4の内部判定では、熱伝導率が小さいものと判定されたと考えられる。レーザフラッシュ法で熱伝導率を実測した結果では、サンプル3,4の熱伝導率は48.9W/(m・K)で、サンプル1,2の熱伝導率の57.7W/(m・K)よりも小さくなったので、放射温度計30Aによる内部判定の正確性を反映しているものと考えられる。
【0223】
図36は、サンプル1に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。
図36は、放射温度計30Aでサンプル1を測定して、放射温度計30Aから出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形410を示している。
図36に示す温度波形410によると、レーザ照射開始から5秒後の冷却到達温度は、図中矢印で示す420℃で、第2の判定基準(しきい値)の470℃未満となったので、品質評価は「○」である。
【0224】
図37は、サンプル3に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。
図37は、放射温度計30Aでサンプル3を測定して、放射温度計30Aから出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形411を示している。
図37に示す温度波形411によると、レーザ照射開始から5秒後の冷却到達温度は、図中矢印で示す558℃で、第2の判定基準(しきい値)の470℃以上となったので、品質評価は「×」である。このように、放射温度計30Aによる内部判定によれば、サンプル1,2及びサンプル3,4の違いを判定可能であることが認められた。
【0225】
図38は、サンプル1及び2にレーザ走査を行った際の温度と時間との関係を示すグラフである。
図38(a)はサンプル1について素材表面にレーザ走査を行って放射温度計30Aにより得られた温度波形412を示し、
図38(b)はサンプル2について表面改質後の素材表面にレーザ走査を行って放射温度計30Aにより得られた温度波形413を示している。
図39は、サンプル1を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図40は、サンプル2を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
【0226】
上述したように、サンプル1,2は、分光器30による判定では、表面判定及び内部判定共に同じ判定結果(表面品質が「×」及び内部品質が「△」)となったが、放射温度計30Aによる判定では、表面判定の判定結果が異なる(表面品質が「×」及び「○」)ものとなった。なお、放射温度計30Aによる内部判定では、判定結果は同じ(内部品質が「○」)となっている。
【0227】
図38(a)の温度波形412に示すように、サンプル1は、レーザ照射中の温度変動が大きくて多いので、酸化膜の密着性が悪くて剥離が大きいと判定される。また、サンプル1の切断面画像は、
図39(a)に示す画像414のようになり、レーザ照射面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び15mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、それぞれ
図39(b)に示すグラフ415a及び
図39(c)に示すグラフ415bのようになった。サンプル1は、レーザ照射面から1mmの深さの面粗さはバラつきが少なく安定しているが、レーザ照射面から15mmの深さの面粗さはバラつきが多く不安定で、切断面に多少の条痕の乱れが現れる結果となった。
【0228】
これに対し、
図38(b)の温度波形413に示すように、サンプル2は、レーザ照射中の温度変動が小さくて少ないので、酸化膜が均一に密着していると判定される。また、サンプル2の切断面画像は、
図40(a)に示す画像416のようになり、レーザ照射面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び15mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、それぞれ
図40(b)に示すグラフ417a及び
図40(c)に示すグラフ417bのようになった。サンプル2は、レーザ照射面から1mmの深さの面粗さの方が、レーザ照射面から15mmの深さの面粗さよりも安定しているが、全体的にバラつきが少なく安定していて、切断面に条痕の乱れが現れない結果となった。
【0229】
そして、レーザ切断による切断面の品質評価が、熱伝導率が同じ57.7W/(m・K)であるにもかかわらず、サンプル1が「×」でサンプル2が「○」と異なっているのは、表面改質したサンプル2では切断面の面粗さが小さくなり、切断品質が大きく改善されることを表している。これは、表面改質することで、素材表面で酸化膜の密着性と均一性が高まることにより、素材表面での酸化反応が抑制され、切断性に及ぼす酸化反応の影響が小さくなったためと考えられる。
【0230】
図41は、サンプル3及び4にレーザ走査を行った際の温度と時間との関係を示すグラフである。
図41(a)はサンプル3について素材表面にレーザ走査を行って放射温度計30Aにより得られた温度波形418を示し、
図41(b)はサンプル4について表面改質後の素材表面にレーザ走査を行って放射温度計30Aにより得られた温度波形419を示している。
図42は、サンプル3を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図43は、サンプル4を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
【0231】
上記サンプル1,2と同様に、サンプル3,4は、分光器30による判定では、表面判定及び内部判定共に同じ判定結果(表面品質が「×」及び内部品質が「△」)となったが、放射温度計30Aによる判定では、表面判定の判定結果が異なる(表面品質が「×」及び「○」)ものとなった。なお、放射温度計30Aによる内部判定では、判定結果は同じ(内部品質が「×」)となっている。
【0232】
図41(a)の温度波形418に示すように、サンプル3は、レーザ照射中の温度変動が大きくて多いので、酸化膜の密着性が悪くて剥離が大きいと判定される。また、サンプル3の切断面画像は、
図42(a)に示す画像420のようになり、レーザ照射面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び15mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、それぞれ
図42(b)に示すグラフ421a及び
図42(c)に示すグラフ421bのようになった。サンプル3は、レーザ照射面から1mmの深さの面粗さはバラつきが少なく安定しているが、レーザ照射面から15mmの深さの面粗さはバラつきが多くかなり不安定で、切断面に多くの条痕の乱れが見られる結果となった。
【0233】
これに対し、
図41(b)の温度波形419に示すように、サンプル4は、レーザ照射中の温度変動が少ないので、酸化膜の均一性がサンプル3よりも改善されているものと判定される。また、サンプル4の切断面画像は、
図43(a)に示す画像422のようになり、レーザ照射面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び15mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、それぞれ
図43(b)に示すグラフ423a及び
図43(c)に示すグラフ423bのようになった。サンプル4は、レーザ照射面から1mmの深さの面粗さは安定しているものの、レーザ照射面から15mmの深さの面粗さは不安定でバラつきがあり、切断面に条痕の乱れも多く見られる結果となった。
【0234】
そして、レーザ切断による切断面の品質評価が、熱伝導率が同じ48.9W/(m・K)であるにもかかわらず、サンプル3が「×」でサンプル4が「△」と異なっているのは、表面改質したサンプル4では切断面の面粗さが小さくなり、切断品質が改善されることを表している。その理由はサンプル1,2の考察で述べた通りである。ただし、サンプル3,4はサンプル1,2と比べると熱伝導率が小さいため、切断面は粗れやすく、切断面の面粗さはやや大きくなるので、切断品質は劣るものとなる。
【0235】
以上のように、軟鋼の被加工材Wの切断性(加工性)は、被加工材Wの素材表面の酸化膜状態、内部特性と強い相関があり、酸化膜の種類及び密着性、並びに素材内部の溶融挙動の安定性は、材料の素材表面を溶融させたときに発生する発光スペクトル強度の時間的変化(時系列データ)に基づき解析が可能であることと、酸化膜分布状態及び素材内部の熱伝導の大きさは、材料の素材を溶融させないレーザ出力での温度の時間的又は位置的変化(時系列データ)に基づき解析が可能であることが証明された。これらの解析結果は、上述した第1の判定結果及び第2の判定結果に含まれる。
【0236】
従って、加工システム100Aによる総合判定では、分光器30による被加工材Wの加工性の判定結果(第1の判定結果)と、放射温度計30Aによる被加工材Wの加工性の判定結果(第2の判定結果)と、を利用して(組み合わせて)被加工材Wの加工性を総合的に判定する。これにより、分光器30による判定結果と放射温度計30Aによる判定結果の弱点部分を相互に補完可能であると共に、加工性(切断性)の判定精度をより向上させることが可能となる。
【0237】
なお、被加工材Wの表面判定において、放射温度計30Aで温度のバラつきが大きいものと判定された被加工材Wは、その判定結果を分光器30による判定結果と合わせて、酸化膜の種類、厚さを判定結果の組み合わせにより判定することで、最適な加工条件(切断条件)を設定することも可能である。
【0238】
例えば、酸化膜がヘマタイト(Fe
2O
3)主体のものであれば、酸化膜の密着性が弱く(小さく)剥離しやすいので、素材表面でレーザ光LBの集光径を絞る等の加工条件のパラメータを調整する対策が有効である。また、酸化膜の一部がマグネタイト(Fe
3O
4)で構成されているものであれば、酸化膜の密着性がやや高めであるが、その中でレーザ切断中に剥離するものについては、レーザ切断の加工前に切断経路をケガキ加工したり、表面状態を均一にする先行焼きの処理をしたりする等の対策が有効であると考えられる。このような被加工材Wは、
図23の総合判定マトリックス情報400のマトリックス領域404におけるカテゴリー2の領域402に分類され得る。
【0239】
また、被加工材Wの内部判定において、分光器30で内部状態が良くないものと判定された被加工材Wについては、燃焼反応を抑えるために、例えば、レーザ加工ヘッド22のノズル25のノズル径を大きくしてアシストガスの流速を抑える等の対策が有効である。また、放射温度計30Aで内部特性が良くないものと判定された被加工材Wについては、冷却効果を上げるために、冷却用に使用する水の水量を増やしたり、加工条件における周波数又はデューティを下げて、それに合わせて切断速度も下げたりする等の対策が有効であると考えられる。このような被加工材Wは、
図33の総合判定マトリックス情報400のマトリックス領域404におけるカテゴリー3の領域403に分類され得る。
【0240】
[総合判定による処理フロー]
図44は、加工システムの総合判定による処理フローの一例を示すフローチャートである。
図44に示すように、加工システム100Aでは、被加工材Wの切断加工前に、NC装置60において、例えば、加工テーブル11上の被加工材Wの板厚情報を取得して(ステップS150)、PC50Aの判定モデル保存部51に送信する。
【0241】
次に、送信された板厚情報に基づいて、上記のように判定モデル保存部51において板厚に対応する第1及び第2の判定モデル5,6が選定されて加工性演算部52に送信される。そして、レーザ加工ユニット20Aにおいて、分光器30用のプローブ光(レーザ光LB)が、第1の判定照射条件(第1の照射条件、第2の照射条件)で被加工材Wに照射され(ステップS151)、分光器30によって発光スペクトルの時系列データに基づくスペクトルデータが取得され(ステップS152)、上記のように第1の波形情報3及び第2の波形情報4が算出され送信される。
【0242】
加工性演算部52は、上記のように送信された第1の波形情報3及び第2の波形情報4並びに第1の判定モデル5及び第2の判定モデル6に基づき、被加工材Wの表面状態及び内部状態の品質評価を示す品質スコアを算出して判定マトリックス情報110を生成する(ステップS153)。
【0243】
そして、加工性判定部53は、算出された品質スコア及び生成された判定マトリックス情報110に基づいて、被加工材Wの表面状態及び内部状態の品質を判定(表面判定及び内部判定)して(ステップS154)、被加工材Wの加工性の第1の判定結果を総合判定部65に送信する。
【0244】
また、レーザ加工ユニット20Aにおいて、放射温度計30A用のプローブ光(レーザ光LB)が、第2の判定照射条件(第3の照射条件~第5の照射条件)で被加工材Wに照射され(ステップS155)、放射温度計30Aによって赤外線強度の時系列データに基づく温度データが取得されて(ステップS156)、演算処理部63により特徴量情報(第1の特徴量情報、第2の特徴量情報)が抽出される。
【0245】
加工性判定部66は、抽出された特徴量情報と判定基準(第1の判定基準、第2の判定基準)とに基づいて、被加工材Wの表面性状及び内部特性の品質を判定(表面判定及び内部判定)して(ステップS157)、被加工材Wの加工性の第2の判定結果を総合判定部65に出力する。
【0246】
そして、総合判定部65は、分光器30による第1の判定結果と、放射温度計30Aによる第2の判定結果との各判定結果から、総合判定マトリックス情報400を用いて被加工材Wの総合的な材料状態の品質を判定して(ステップS158)、被加工材Wの加工性を総合的に判定した総合判定結果(第3の判定結果)を得る。
【0247】
総合判定結果により、被加工材Wが総合判定マトリックス情報400のマトリックス領域404におけるカテゴリー1の領域401に分類される場合は、例えば条件Aをディスプレイ70上に表示する(ステップS159)。条件Aは、例えば、被加工材Wが標準材であるとの加工性を示す第3の判定結果に関する情報、被加工材Wを標準条件で加工可能である旨を報知する情報等を含む。
【0248】
そして、総合判定部65により加工性が判定された被加工材Wの材料状態に合わせた加工条件を、例えば、オペレータの操作入力等に基づきレーザ加工装置10Aに設定し(ステップS165)、設定された加工条件に基づく被加工材Wの製品加工が実施されて(ステップS166)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0249】
また、被加工材Wが総合判定マトリックス情報400のマトリックス領域404におけるカテゴリー2の領域402に分類される場合は、例えば条件Bをディスプレイ70上に表示する(ステップS160)。条件Bは、例えば、被加工材Wが要テストカット実施材であるとの加工性を示す第3の判定結果に関する情報、被加工材Wの加工条件を、例えば標準条件から上述したように集光径を絞る等により変更、調整等する必要がある旨を報知する情報等を含む。
【0250】
また、被加工材Wが総合判定マトリックス情報400のマトリックス領域404におけるカテゴリー3の領域403に分類される場合は、例えば条件Cをディスプレイ70上に表示する(ステップS161)。条件Cは、例えば、被加工材Wがテストカット推奨材であるとの加工性を示す第3の判定結果に関する情報、被加工材Wの加工条件を、例えば標準条件又は難加工材条件から上述したように燃焼反応を抑えるためにアシストガスの流速を抑える等により変更、調整等する必要がある旨を報知する情報等を含む。
【0251】
また、上記ステップS160で条件Bを表示、又は上記ステップS161で条件Cを表示したら、例えばオペレータの操作入力等に基づき加工条件を変更、調整等した上でテスト加工が実施され(ステップS162)、テスト加工による被加工材Wの切断面の状態等の品質(加工品質)の確認が行われ、加工品質がOKであるか否かが判断される(ステップS163)。
【0252】
ここで、加工品質がOKではないと判断された場合(ステップS163のF:False)は、例えば、オペレータの操作入力等によって、テストカット実施時の加工条件の各パラメータの項目を調整し(ステップS164)、再度テスト加工を実施して(ステップS162)、以降の処理を繰り返す。
【0253】
一方、加工品質がOKであると判断された場合(ステップS163のT:True)は、上述したようにステップS165に移行して被加工材Wの材料状態に合わせた加工条件をレーザ加工装置10Aに設定し(ステップS165)、これに基づく製品加工が実施されて(ステップS166)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。なお、上記ステップS150~S154の分光器30側の処理と、上記ステップS155~S157の放射温度計30A側の処理とは、動作順序が入れ替わってもよい。
【0254】
以上のように、第2の実施形態の加工システム(加工性判定システム)100Aは、切断加工前に被加工材Wの加工条件に基づく加工性を、分光器30による測定に基づき判定すると共に、放射温度計30Aによる測定に基づき判定して、これらの判定結果の組み合わせに基づき総合的に判定するので、判定精度をより向上させることができ、その判定結果の内容(被加工材Wの材料状態及び推奨される加工条件)に合わせて取るべき対応(例えば、推奨された加工条件で切断加工を行うべきか、被加工材Wに適した加工条件に変更、調整すべきか、推奨された加工条件を更に調整すべきか、テスト加工を実施すべきか等の各種の対応)の提示がより正確且つ判断が容易となる。これにより、加工品質の改善を図ることを正確且つ迅速に行い得るので、熟練者によるスキルが不要で、製品不良の発生及び条件調整の手間を削減することができ、加工不良をより低減することが可能となる。
【0255】
以上、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0256】
1 第1の波形情報(説明変数の教師データ)
2 第2の波形情報(説明変数の教師データ)
3 第1の波形情報(説明変数の推定用データ)
4 第2の波形情報(説明変数の推定用データ)
5 第1の判定モデル
6 第2の判定モデル
9 判定結果
10,10A レーザ加工装置
20,20A レーザ加工ユニット
30 分光器
50 加工性判定ユニット
51 判定モデル保存部
52 加工性演算部
53,66 加工性判定部
60 NC装置
61 制御部
62 加工条件保存部
63 演算処理部
65 総合判定部
70 ディスプレイ
80 学習装置
81 第1の判定モデル学習部
82 第2の判定モデル学習部
90 加工性判定システム
100,100A 加工システム
109a 表面品質評価結果(目的変数の教師データ)
109b 内部品質評価結果(目的変数の教師データ)
【手続補正書】
【提出日】2024-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置と、
前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する発光スペクトルを測定する測定装置と、
前記測定装置で測定された前記発光スペクトルの時系列データに基づいて前記被加工材の加工性を判定する判定装置と、
を備え、
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程における前記レーザ光の照射開始から照射終了までの時間を第1段階及び第2段階に分け、前記判定照射条件として、前記第1段階では第1の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射し、前記第2段階では第2の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射し、
前記測定装置は、前記第1の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する第1の発光スペクトルと、前記第2の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する第2の発光スペクトルと、を測定し、
前記判定装置は、
第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、
前記測定装置によって測定された前記第1の発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報を抽出し、前記測定装置によって測定された前記第2の発光スペクトルの時系列データから第2の時間領域の第2の波形情報を抽出し、
前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力して前記被加工材の表面品質評価を得、
前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力して前記被加工材の内部品質評価を得、
前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性の判定結果を出力する
加工システム。
【請求項2】
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程において前記レーザ光を前記判定照射条件下でスポット照射する
請求項1記載の加工システム。
【請求項3】
前記第1の判定モデルは、前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って作成され、
前記第2の判定モデルは、前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って作成された
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項4】
前記判定装置は、前記測定装置によって測定された前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域で且つ第1の波長帯域及び第2の波長帯域の前記第1の波形情報と第2の時間領域で且つ前記第1の波長帯域及び前記第2の波長帯域の前記第2の波形情報とを抽出する
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項5】
前記第1の波長帯域及び前記第2の波長帯域は、前記レーザ光の発光波長帯域とは異なる
請求項4記載の加工システム。
【請求項6】
前記判定照射条件のレーザ出力は、前記加工照射条件のレーザ出力よりも小さい
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項7】
前記第1の照射条件のレーザ出力は、前記第2の照射条件のレーザ出力よりも小さい
請求項1記載の加工システム。
【請求項8】
前記第1段階は、前記第2段階よりも短い
請求項1記載の加工システム。
【請求項9】
レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置と、
前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する発光スペクトルを測定する測定装置と、
前記測定装置で測定された前記発光スペクトルの時系列データに基づいて前記被加工材の加工性を判定する判定装置と、
を備え、
前記判定装置は、
第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、
前記測定装置によって測定された前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、
前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力して前記被加工材の表面品質評価を得、
前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力して前記被加工材の内部品質評価を得、
前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性の判定結果を出力する
加工システムであって、
前記判定照射条件で前記レーザ光を照射中の前記レーザ加工装置のノズルギャップは、前記加工照射条件で前記レーザ光を照射中の前記レーザ加工装置のノズルギャップよりも大きい
加工システム。
【請求項10】
前記判定装置は、前記判定結果を確認可能に報知する報知部を含み、
前記判定結果は、前記表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせにおける前記加工条件による前記被加工材への適応性を表現可能な加工性評価を含む
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項11】
前記報知部は、前記加工性評価に基づいて、前記被加工材に合わせて前記レーザ加工装置に設定される加工条件を知らせる情報、前記レーザ加工装置によるテスト加工を促す情報、並びに前記加工条件の調整、変更及び設定のいずれか一つの実行を促す情報の少なくとも一つを報知する
請求項10記載の加工システム。
【請求項12】
前記判定装置は、前記報知部により報知された情報に基づきオペレータが選択入力した入力情報を受け付けて、受け付けられた前記入力情報に応じた加工条件を前記レーザ加工装置に設定する設定部を含む
請求項11記載の加工システム。
【請求項13】
前記表面品質評価結果及び前記内部品質評価結果は、前記被加工材の前記表面品質評価及び内部品質評価を複数種の異なる数値に評点化した点数評価を含む
請求項3記載の加工システム。
【請求項14】
前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルは、前記被加工材の板厚毎に作成されている
請求項1又は2記載の加工システム。
【請求項15】
第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、被加工材の加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件として、前記レーザ光の照射開始から照射終了までの時間を第1段階及び第2段階に分け、前記第1段階では第1の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射したときに発生する第1の発光スペクトルの時系列データから算出された第1の波形情報、及び前記第2段階では第2の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射したときに発生する第2の発光スペクトルの時系列データから算出された第2の波形情報をそれぞれ前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルに入力し、前記第1の波形情報及び前記第2の波形情報に基づいて前記被加工材の加工性を判定する判定装置と、
前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルを作成する学習装置と、
を備え、
前記判定装置は、
前記第1の発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報を抽出し、前記第2の発光スペクトルの時系列データから第2の時間領域の第2の波形情報を抽出し、
前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力して前記被加工材の表面品質評価を得、
前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力して前記被加工材の内部品質評価を得、
前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記レーザ光を加工照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性の判定結果を出力し、
前記学習装置は、
前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って前記第1の判定モデルを作成し、
前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って前記第2の判定モデルを作成する
加工性判定システム。
【請求項16】
第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、被加工材の加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ加工装置によってレーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから算出された第1の波形情報及び第2の波形情報をそれぞれ前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルに入力し、前記第1の波形情報及び前記第2の波形情報に基づいて前記被加工材の加工性を判定する判定装置と、
前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルを作成する学習装置と、
を備え、
前記判定装置は、
前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、
前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力して前記被加工材の表面品質評価を得、
前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力して前記被加工材の内部品質評価を得、
前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記レーザ光を加工照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性の判定結果を出力し、
前記学習装置は、
前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って前記第1の判定モデルを作成し、
前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って前記第2の判定モデルを作成する
加工性判定システムであって、
前記判定照射条件で前記レーザ光を照射中の前記レーザ加工装置のノズルギャップは、前記被加工材を切断加工する加工照射条件でレーザ光を照射中の前記レーザ加工装置のノズルギャップよりも大きい
加工性判定システム。
【請求項17】
レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材を溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件、及び前記レーザ光を前記被加工材の素材の融点を超えない第2の判定照射条件で前記被加工材に照射して、前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工装置と、
前記被加工材に前記第1の判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する発光スペクトルを測定する第1の測定部と、前記被加工材に前記第2の判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する第2の測定部と、を含む測定装置と、
前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記発光スペクトルの時系列データに基づいて、前記被加工材の加工性を判定する第1の判定部と、前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の加工性を判定する第2の判定部と、前記第1の判定部により判定された第1の判定結果及び前記第2の判定部により判定された第2の判定結果の組み合わせに基づいて、前記加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性を判定し第3の判定結果を出力する第3の判定部と、を含む判定装置と、
を備え、
前記判定装置は、第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、
前記判定装置の前記第1の判定部は、
前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力し前記被加工材の表面品質評価を得て、前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力し前記被加工材の内部品質評価を得て、前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第1の判定結果を出力し、
前記判定装置の前記第2の判定部は、
前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出し、前記抽出された特徴量情報と、予め登録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第2の判定結果を出力する
加工システム。
【請求項18】
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程において、前記第1の判定照射条件で、前記レーザ光を前記被加工材にスポット照射し、前記第2の判定照射条件で、前記レーザ光を照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射、及び前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に繰り返し照射する
請求項17記載の加工システム。
【請求項19】
前記第1の判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含み、
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程において、前記第1の判定照射条件で前記レーザ光を照射する場合、前記レーザ光の照射開始から照射終了までの時間を第1段階及び第2段階に分け、前記第1段階では前記第1の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射し、前記第2段階では前記第2の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材に照射し、
前記測定装置の前記第1の測定部は、前記第1の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する第1の発光スペクトルと、前記第2の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する第2の発光スペクトルと、を測定し、
前記判定装置の前記第1の判定部は、前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記第1の発光スペクトルの時系列データから前記第1の時間領域の第1の波形情報を抽出し、前記測定装置の前記第1の測定部によって測定された前記第2の発光スペクトルの時系列データから前記第2の時間領域の第2の波形情報を抽出する
請求項17又は18記載の加工システム。
【請求項20】
前記第1の判定モデルは、前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って作成され、
前記第2の判定モデルは、前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って作成された、
請求項17又は18記載の加工システム。
【請求項21】
前記第2の判定照射条件は、第3の照射条件及び第4の照射条件を含み、
前記レーザ加工装置は、前記加工性判定工程において、前記第2の判定照射条件で前記レーザ光を照射する場合、前記第3の照射条件で前記レーザ光を照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射し、前記第4の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に繰り返し照射し、
前記測定装置の前記第2の測定部は、前記第3の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第1の赤外線強度と、前記第4の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第2の赤外線強度と、を測定し、
前記判定装置の前記第2の判定部は、前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記第1の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の位置的変化を示す第1の特徴量情報を抽出すると共に、前記測定装置の前記第2の測定部によって測定された前記第2の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の時間的変化を示す第2の特徴量情報を抽出し、前記第1の特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度の位置的変化が、前記基準情報に含まれる前記被加工材の基準温度範囲及び温度のバラつきの少なくとも一方に基づく第1の判定基準を満たすかどうかを判定すると共に、前記第2の特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度の時間的変化が、前記基準情報に含まれる前記被加工材の温度上昇の度合いを示す第2の判定基準を外れる温度上昇の状態か否かを判定して、その結果の組み合わせに基づき前記被加工材の加工性を判定した前記第2の判定結果を出力する
請求項17又は18記載の加工システム。
【請求項22】
前記判定装置は、前記第3の判定部により判定された前記第3の判定結果を確認可能に報知する報知部を含む
請求項17又は18記載の加工システム。
【請求項23】
第1の判定モデル及び第2の判定モデルを有し、被加工材の加工性を判定する加工性判定工程において、レーザ光を、前記被加工材を溶融させるが貫通はしない第1の判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する発光スペクトルの時系列データから抽出された第1の波形情報及び第2の波形情報を、それぞれ前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルに入力し、前記第1の波形情報及び前記第2の波形情報に基づいて前記被加工材の加工性を判定する第1の判定部と、
前記加工性判定工程において、前記レーザ光を、前記被加工材の素材の融点を超えない第2の判定照射条件で、前記被加工材に照射したときに発生する放射光の赤外線強度の時系列データから抽出された特徴量情報と、予め登録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて前記被加工材の加工性を判定する第2の判定部と、
前記第1の判定部により判定された第1の判定結果及び前記第2の判定部により判定された第2の判定結果の組み合わせに基づいて、前記レーザ光を加工照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材を切断加工する加工工程における予め設定された加工条件で切断加工された場合の前記被加工材の加工性を判定し第3の判定結果を出力する第3の判定部と、を含む判定装置と、
前記第1の判定モデル及び前記第2の判定モデルを作成する学習装置と、
を備え、
前記判定装置は、
前記第1の判定部が、
前記発光スペクトルの時系列データから第1の時間領域の第1の波形情報と第2の時間領域の第2の波形情報とを抽出し、前記抽出された第1の波形情報を推定用データとして前記第1の判定モデルに入力し前記被加工材の表面品質評価を得て、前記抽出された第2の波形情報を推定用データとして前記第2の判定モデルに入力し前記被加工材の内部品質評価を得て、前記得られた前記被加工材の表面品質評価及び内部品質評価の組み合わせに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第1の判定結果を出力し、
前記第2の判定部が、
前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出し、前記抽出された特徴量情報と前記基準情報とに基づいて、前記被加工材の加工性を判定した前記第2の判定結果を出力し、
前記学習装置は、
前記第1の波形情報及び前記被加工材の表面品質を示す表面品質評価結果を第1の教師データとして入力して機械学習を行って前記第1の判定モデルを作成し、
前記第2の波形情報及び前記被加工材の内部品質を示す内部品質評価結果を第2の教師データとして入力して機械学習を行って前記第2の判定モデルを作成する、
加工性判定システム。