(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102815
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】空調システムおよびその検出方法
(51)【国際特許分類】
F25B 49/02 20060101AFI20240724BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20240724BHJP
F24F 11/36 20180101ALI20240724BHJP
【FI】
F25B49/02 520K
F25B49/02 570Z
F25B1/00 371B
F24F11/36
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023206557
(22)【出願日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】63/439,992
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】202311010545.6
(32)【優先日】2023-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】596039187
【氏名又は名称】台達電子工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】DELTA ELECTRONICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 冠龍
(72)【発明者】
【氏名】游 象麟
(72)【発明者】
【氏名】呉 建樟
(72)【発明者】
【氏名】謝 斌尭
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AB01
3L260BA52
3L260CB04
3L260CB13
3L260CB78
3L260DA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】空調システムの圧縮機の消費電力が所定閾値よりも高いか否かを検出する工程を含む空調システムの検出方法を提供する。
【解決手段】消費電力が所定閾値よりも低いとき、空調システムの蒸発器の蒸発飽和温度を取得すると共に、空調システムの凝縮器の凝縮飽和温度を取得する。蒸発飽和温度が凝縮飽和温度よりも高いときに、相変化の異常が発生したと判断し、圧縮機が全速運転に入るように動作する工程を含む。圧縮機が全速運転に入ったときに、圧縮機が第1所定時間に達するまで全速運転を維持しているか否かを検出する工程を含む。圧縮機が第1所定時間に達するまで全速運転を維持していた場合に、空調システムの冷媒に漏洩が発生したと判断する工程も含む。
【選択図】
図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調システムの冷媒漏洩検知方法であって、
前記空調システムの圧縮機の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出する工程と、
前記消費電力が前記所定閾値よりも低いとき、前記空調システムの蒸発器の蒸発飽和温度を取得すると共に、前記空調システムの凝縮器の凝縮飽和温度を取得する工程と、
前記蒸発飽和温度が前記凝縮飽和温度よりも高いことを検出したとき、冷媒の相変化の異常が発生したと判断し、かつ前記圧縮機が全速運転に入るよう動作する工程と、
前記圧縮機が前記全速運転に入ったときに、第1所定時間に達するまで前記圧縮機が前記全速運転を維持しているか否かを検出する工程と、
前記第1所定時間に達するまで前記圧縮機が前記全速運転を維持していた場合、前記空調システムの冷媒が漏洩していると判断する工程と、
を含む空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項2】
前記圧縮機が前記全速運転に入ったとき、第2所定時間おきに前記蒸発飽和温度が前記凝縮飽和温度よりも低いか否かを検出する工程と、
前記蒸発飽和温度が前記凝縮飽和温度よりも低いことを検出した場合、前記冷媒の相変化の異常が過渡状態であると判断する工程と、
をさらに含む請求項1に記載の空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項3】
前記冷媒の相変化の異常が過渡状態であると判断した後に、前記空調システムの前記圧縮機の前記消費電力が前記所定閾値よりも高いか否かを検出する工程と、
前記空調システムの前記圧縮機の前記消費電力が前記所定閾値よりも高いことを検出した場合、前記空調システムの前記冷媒に漏洩が発生していないと判断する工程と、
をさらに含む請求項2に記載の空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項4】
前記空調システムのコントローラーに電流センサーを設置する工程と、
前記電流センサーが前記圧縮機の入力電流を検出し、かつ前記コントローラーが前記電流センサーの検出した前記入力電流により前記消費電力を算出する工程と、
前記コントローラーが、前記空調システムの前記圧縮機の前記消費電力が前記所定閾値よりも低いか否かを検出する工程と、
をさらに含む請求項1に記載の空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項5】
前記第2所定時間が3分から5分である、請求項2に記載の空調システム冷媒漏洩検知方法。
【請求項6】
前記第1所定時間が10分から30分である、請求項1に記載の空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項7】
前記全速運転が、前記圧縮機の無負荷時の最大回転速度である、請求項1に記載の空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項8】
前記所定閾値が100Wから400Wである、請求項1に記載の空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項9】
前記圧縮機が前記全速運転に入った後、前記蒸発飽和温度が前記凝縮飽和温度よりも高いか否かを前記第1所定時間に達するまで検出し続ける工程をさらに含む請求項1に記載の空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項10】
前記空調システムの冷媒に漏洩が発生したと判断した後に、冷媒漏洩警報を発する工程をさらに含む請求項1に記載の空調システムの冷媒漏洩検知方法。
【請求項11】
空調システムであって、
冷媒を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機の消費電力を検知する検出器と、
前記圧縮機の出力端に接続され、凝縮飽和温度を検知するための凝縮温度センサーを備えた凝縮器と、
前記圧縮機の入力端に接続され、蒸発飽和温度を検知するための蒸発温度センサーを備えた蒸発器と、
前記凝縮器および前記蒸発器に接続された膨張弁と、
前記検出器、前記凝縮温度センサーおよび前記蒸発温度センサーに電気的に接続されたコントローラーと、
を備え、
前記コントローラーは、前記圧縮機の前記消費電力が所定閾値以下であり、かつ前記蒸発飽和温度が前記凝縮飽和温度よりも高いことを前記検出器によって検知すると、前記圧縮機を全速運転させ、所定時間内前記圧縮機が全速運転を続けていると、冷媒漏洩警報を発する
空調システム。
【請求項12】
前記コントローラーが前記蒸発飽和温度が前記凝縮飽和温度よりも低いことを検知したとき、前記コントローラーは前記圧縮機の全速運転を解除する、請求項11に記載の空調システム。
【請求項13】
前記コントローラーは一定の時間間隔で前記蒸発飽和温度が前記凝縮飽和温度よりも高いか否かを検知し、かつ前記時間間隔は3分から5分である、請求項11に記載の空調システム。
【請求項14】
前記所定時間が10分から30分である、請求項11に記載の空調システム。
【請求項15】
前記所定閾値が100Wから400Wである、請求項11に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は空調システムおよびその検出方法に関し、特に蒸発飽和温度および凝縮飽和温度を検出して冷媒の漏洩を判断する空調システムおよびその検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化がより一層進み、屋外の環境温度が日増しに高まっていくのに伴い、空調システムの利用は益々普及し、そしてすでに欠くことのできない日常生活の一部となっている。中でも屋外型の電力設備、例えば通信電源システムでは特に、電力設備の損壊が生じるのを回避するため電力設備稼働時の温度を維持するのに空調システムに頼らなければならない。これら空調システムでは、冷媒が相変化することで電力設備の温度を適した温度範囲内に保っている。よって、冷媒に漏洩が生じると、空調システムはその本来の性能を維持できなくなってしまう。
【0003】
従来の空調システムでは、空調システム内の気体冷媒に漏洩が生じたか否かを検出するために圧力センサーを設置する必要がある。しかしながら、屋外型の電力設備の設計はモジュール化が進んでおり、空調システムの体積もこれに伴って縮小されていることから、圧力センサーの設置が困難となっている。また、圧力センサーの設置は空調システムの生産コストを大幅に増加させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、屋外型の電力設備に用いられる空調システムの多くは冷媒漏洩を能動的に検出することができず、しかも検出を行うための他の圧力検出手段を配置させるスペースが確保されていない場合も多い。故に、ユーザーが冷媒漏洩の状況をリアルタイムで知ることができないということが多々あり、空調システムの使用品質に影響が出る。よって、空調システムに関し、如何にして有効に冷媒漏洩をリアルタイムで検出するか、および如何にして検出コストを下げるかは、喫緊の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のいくつかの実施形態は空調システムの検出方法を提供し、当該方法は、空調システムの圧縮機の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出する工程を含む。当該方法は、消費電力が所定閾値よりも低いとき、空調システムの蒸発器の蒸発飽和温度を取得すると共に、空調システムの凝縮器の凝縮飽和温度を取得する工程を含む。当該方法は、蒸発飽和温度が凝縮飽和温度よりも高いことを検出したとき、相変化の異常が発生したと判断し、かつ圧縮機が全速運転に入るよう動作する工程を含む。当該方法は、圧縮機が全速運転に入ったときに、第1所定時間に達するまで圧縮機が全速運転を維持しているか否かを検出する工程を含む。当該方法はまた、第1所定時間に達するまで圧縮機が全速運転を維持していた場合、空調システムの冷媒に漏洩が生じたと判断する工程も含む。
【0006】
本開示のいくつかの実施形態は空調システムを提供し、当該空調システムは圧縮機、検出器、凝縮器、蒸発器、膨張弁およびコントローラーを含む。圧縮機は冷媒を受けると共に、受け取った冷媒に圧力を加えるのに用いられる。検出器は圧縮機運転時の電力を検知するように構成されている。凝縮器は圧縮機の出力端に接続され、かつ凝縮飽和温度を検知するための凝縮温度センサーを備える。蒸発器は圧縮機の入力端に接続され、かつ蒸発飽和温度を検知するための蒸発温度センサーを備える。膨張弁は凝縮器および蒸発器に接続されている。コントローラーは、検出器、凝縮温度センサーおよび蒸発温度センサーに電気的に接続されている。コントローラーは、圧縮機運転時の電力が所定値より低く、同時に蒸発温度が凝縮温度よりも高いことを検出器によって検知すると、圧縮機を所定時間だけ全速運転させ、かつこの時間内に検知された圧縮機の全てが全速運転を続けている場合に、冷媒漏洩警報を発する。
【0007】
添付の図面と対応させることで、以下の詳細な説明により本開示の実施形態の概念をより充分に理解することができる。なお、当該分野の業界の標準的な慣例に基づき、図面中の各特徴は正確な比率で描かれるとは限らないという点に留意されたい。実際、説明を明確とするために、各特徴のサイズは任意に拡大または縮小されることがある。明細書および図面全体を通し、類似する符号は類似する特徴に付されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態による空調システムの説明図を示している。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による空調システムに用いられる冷媒の圧力-比エンタルピー線図を示している。
【
図3A】本開示のいくつかの実施形態による空調システムの検出方法のフローチャートを示している。
【
図3B】本開示のいくつかの実施形態による空調システムの検出方法のフローチャートを示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施形態に係る空調システムおよびその検出方法について説明する。ただし、本開示の実施形態は、多数の適した創造コンセプトを提供し、広範にわたる各種特定のバックグラウンドにおいて実施できるものであるということが、容易に理解されよう。開示された特定の実施形態は、単に特定の方法で本開示を使用する場合を説明するに過ぎず、本開示の範囲を限定するものではない。
【0010】
また、実施形態においては相対的な用語、例えば「下方」または「下部」および「上方」または「上部」を用いて、図面中の1つの構成要素の別の構成要素に対する相対関係を表すことがある。図面の装置を回転させて上下逆とした場合、「下方」側に位置すると説明された構成要素が「上方」側に位置する構成要素となる、ということが理解できる。
【0011】
「第1」、「第2」等の用語を用いて各種構成要素、材料および/または部分を説明しているが、これら構成要素、材料および/または部分はこれら用語によって限定されるべきではなく、かつこれら用語は異なる構成要素、材料および/または部分を区別するためだけに用いられる、という点が理解されなければならない。よって、以下に言及される第1構成要素、材料および/または部分は、本開示のいくつかの実施形態の開示から逸脱していなければ、第2構成要素、材料および/または部分と称されてもよく、かつ特段の定義がない限り、特許請求の範囲に記述された第1または第2構成要素、材料および/または部分は、特許請求の範囲の記載に合致しているならば、明細書中のいずれかの任意の構成要素、材料および/または部分であると理解される。
【0012】
別途定義されていない限り、ここで使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。これらの用語、例えば通常使用する辞書に定義されている用語は、本明細書において特段の定義がない限り、関連技術および本開示の背景または文脈と一致する意味を有すると解されるべきであり、理想化して、または過度に厳密に解されるべきではないということが理解されよう。また、本明細書中では「大体」、「およそ」または「約」等の用語も記載されるが、これらはほぼ一致および完全に一致する場合または範囲を包含することを意味する。なお、特段の定義がない限り、文中に上述の用語が記載されていなくても、上述の概数的な用語が記載されているのと同じ意味に解されるべきであるという点に留意されたい。
【0013】
先ず、
図1を参照されたい。
図1は、本開示のいくつかの実施形態による空調システム100の説明図を示している。
図1に示されるように、空調システム100は圧縮機110、蒸発器120、膨張弁130および凝縮器140を含む。いくつかの実施形態において、凝縮器140は圧縮機110の出力端110Bに接続され、蒸発器120は圧縮機110の入力端110Aに接続されている。これにより、圧縮機110は蒸発器120から冷媒(図示せず)を受け取ると共に、受け取った冷媒に圧力を加えることで、冷媒を高温の気体の形式で凝縮器140へ送ることができるようになっている。本実施形態において、検出器115は圧縮機110に接続され、かつ圧縮機110運転時の電力を検知するように構成されている。また、膨張弁130が凝縮器140および蒸発器120に接続されて、冷媒が圧縮機110、蒸発器120、膨張弁130および凝縮器140間を循環できるようになっている。
【0014】
いくつかの実施形態において、冷媒は、蒸発器120中にあるときに、熱量を吸収して蒸発し、凝縮器140にあるときに、熱量を放出して凝縮し得る。いくつかの実施形態において、蒸発器120は蒸発温度センサー125を備え、冷媒の蒸発飽和温度を検知し、凝縮器140は凝縮温度センサー145を備え、冷媒の凝縮飽和温度を検知する。また、膨張弁130は、蒸発器120に流れ込む冷媒の量を制御して少量の冷媒を通過させることにより、それ自体が膨張して冷媒の圧力および温度を低下させることができ、これによって空調システム100の性能が有効に制御され得る。
【0015】
例えば、ある空間(つまり室内)の温度を下げたい場合、蒸発器120および膨張弁130をその空間内に設置し(つまり、室内機中に設置する)、圧縮機110および凝縮器140はその空間の外部に設置する(つまり、室外機中に設置する)ことができる。こうすることで、冷媒は蒸発器120中で室内の空気と熱交換を行うことができ、蒸発し気体となって室内の空気の温度を下げる。蒸発し気体となった冷媒は、室外にある圧縮機110および凝縮器140へと送られる。冷媒は凝縮器140中で室外の空気と熱交換を行うことができ、凝縮し液体となって熱エネルギーを室外に排出する。凝縮し液体となった冷媒は、膨張弁130を経由して再び室内にある蒸発器120に戻り、空調システム100の冷媒循環および降温効果が達成される。
【0016】
また、空調システム100は、検出器115に電気接続され、検出器115を介して圧縮機110運転時の電力を検知するコントローラー150を含む。いくつかの実施形態において、コントローラー150は、蒸発温度センサー125および凝縮温度センサー145に電気接続され、冷媒の蒸発飽和温度および凝縮飽和温度を検出する。コントローラー150が、圧縮機110運転時の電力が所定閾値よりも低く、かつ蒸発飽和温度が凝縮飽和温度よりも高いことを検知すると、コントローラー150は圧縮機110を全速運転させて冷媒漏洩の検出を行う。空調システム100が冷媒漏洩しているか否かを検出する方法については、下記において
図3を参照し、詳細に説明する。
【0017】
図1では空調システム100の各構成要素を説明のために示したが、本開示は、空調システム100について考えられる各種の実際の要素の構成を包含することを意図している、という点が理解されなければならない。冷媒を圧縮機110、蒸発器120、膨張弁130および凝縮器140中で循環させることのできる構成であれば、いずれも本開示の範囲内に入る。
【0018】
図2は、本開示のいくつかの実施形態による空調システムに用いられる冷媒の圧力-比エンタルピー線図を示している。例として、空調システム100に用いられるこの冷媒は、例えば1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a冷媒とも称される)であるが、本実施形態は説明としての例に過ぎず、本開示を限定することを意図しない。つまり、空調システム100に適用できるその他の冷媒でもよく、かつ考えられる全ての冷媒の構成が本開示の範囲内に含まれる。
図2に示されるように、冷媒は飽和液線L1および飽和蒸気線L2を有し、かつ飽和液線L1と飽和蒸気線L2とは臨界点Kで交わっている。具体的には、飽和液線L1の左側は冷媒が液体であることを表し、飽和蒸気線L2の右側は冷媒が気体であることを表し、飽和液線L1と飽和蒸気線L2との間は、冷媒が相変化を進行中で、気液が共存する両相の状態であることを表す。理想的な状態において、凝縮器140および蒸発器120中の気体冷媒と液体冷媒との体積比は1対1である。
【0019】
いくつかの実施形態において、空調システム100の冷媒はA点、B点、C点、D点間を循環する。具体的には、冷媒が蒸発器120を出て圧縮機110に入ろうとするとき、冷媒はA点が示す状態となる。そして、冷媒が圧縮機110を出て凝縮器140に入ろうとするとき、冷媒は圧力が上がり、B点が示す状態となる。冷媒が凝縮器140を出て膨張弁130に入ろうとするとき、冷媒はC点に示す状態となる。B点とC点との間で冷媒は気体から液体に変わり、このとき温度は一定、即ち凝縮温度センサー145(
図1参照)により検出された凝縮飽和温度Tcに保たれる。冷媒が膨張弁130を出て蒸発器120に入ろうとするとき、冷媒は温度および圧力が下がり、D点が示す状態となる。このとき、冷媒の一部は蒸発して気液が共存する両相の状態になる。D点とA点との間にある残りの冷媒は液体から気体に変わる。このとき温度は一定、即ち蒸発温度センサー125(
図1参照)により検出された蒸発飽和温度Teに保たれる。上述からわかるように、正常な循環においては、凝縮飽和温度Tcは蒸発飽和温度Teよりも高い。このため、検出された蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高い場合、冷媒の相変化の異常、即ち冷媒漏洩が生じた可能性が非常に高いと判断され得る。
【0020】
図3Aは、本開示のいくつかの実施形態による空調システム100の検出方法200のフローチャートを示している。
図3Aに示されるように、ステップ202において、例えばコントローラー150が検出器115に対し、空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出するよう指示する。この所定閾値は、冷媒がほぼ無いときの圧縮機110の無負荷状態の消費電力である。例として、上記所定閾値は約100Wから約400Wであってよいが、本開示はこれに限定されない。任意の適した所定閾値がすべて本開示の範囲内に含まれる。具体的には、空調システム100のコントローラー150に電流センサー(図示せず)を設けることができる。こうすることで、電流センサーにより圧縮機110の入力電流が検出され得ることとなり、かつ、電流センサーに検出された入力電流によりコントローラー150が消費電力を算出することができるようになる、即ち、コントローラー150によって空調システム100の圧縮機110の消費電力が上記所定閾値よりも低いか否かが検出され得るようになる。空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出することによって、冷媒が漏洩しているか否かの可能性を初期判断することができる。
【0021】
検出された圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも低いとき、コントローラー150は空調システム100の蒸発器120の蒸発飽和温度Teを取得すると共に、空調システム100の凝縮器140の凝縮飽和温度Tcを取得する。ステップ204において、コントローラー150は、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高いことを検出すると、空調システム100に相変化の異常が生じたと判断する。一方、コントローラー150が蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高くないことを検出すると、コントローラー150は検出器115に対し、空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出するよう指示する。空調システム100に相変化の異常が生じたとき、凝縮器140および蒸発器120中の気体冷媒と液体冷媒との体積比は1対1に保たれなくなる。
【0022】
ステップ206において、空調システム100に相変化の異常が生じた(つまり、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高い)と判断された後、圧縮機110が第2所定時間内に全速運転に入ったか否かを検出する。具体的に全速運転とは、圧縮機110の無負荷状態時の最大回転速度のことである。いくつかの実施形態において、第2所定時間は例えば3分から5分であるが、本開示はこれに限定されない。いくつかの実施形態において、圧縮機110が第2所定時間内に全速運転に入った場合、ステップ208に進み、圧縮機110が第1所定時間に達するまで全速運転を維持しているか否かを検出する。例として、第1所定時間は例えば10分から30分であるが、本開示はこれに限定されない。圧縮機110に第1所定時間に達するまで全速運転を維持させることで、冷媒漏洩を誤判断するリスクを下げることができ、かつ圧縮機110が全速運転を維持し第1所定時間に達するまでに、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高いか否かをさらに確認することができる。
【0023】
以下の点についてここで特に説明しておく。正常な空調システム100の内部気圧は外部環境の大気圧(例えば:1気圧)より大きいのが通常であるという点である。空調システム100に配管破裂が生じると、空調システム100内の気体冷媒は大部分が短時間のうちに外部環境に漏洩する。このため、圧縮機が無負荷時の最大回転速度を維持しているか否かを検出することで、冷媒が漏洩しているか否かを判断することができる。しかし、圧縮機がその他の原因で無負荷時の最大回転速度となったことによって誤判断が生じるのを回避するために、圧縮機が無負荷時の最大回転速度を第1所定時間に達するまで維持しているか否かをさらに検出する必要がある。
【0024】
いくつかの実施形態において、圧縮機110が第2所定時間内に全速運転に入った後、圧縮機110が全速運転を維持して第1所定時間に達するときまで、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcより高いか否かを継続して検出することができる(例えばリアルタイム検出)。別のいくつかの実施形態では、コントローラー150は、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcより高いか否かを一定の時間間隔で検知する。上記時間間隔は例えば3分から5分である。
【0025】
一方、圧縮機110が第2所定時間内に全速運転に入らなかったときは、ステップ204に戻り、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いか否かが検出される。蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いことが検出された場合、相変化の異常は過渡状態であると判断される。相変化の異常が過渡状態であると判断された後は、ステップ202に戻り、空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも高い否かが検出される。空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも高いことが検出されると、ステップ212に示されるように、空調システム100の冷媒に漏洩は生じていないと判断される。いくつかの実施形態において、コントローラー150は、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いことを検知すると、圧縮機110の全速運転を解除することができる。
【0026】
ステップ208において、コントローラー150が、圧縮機110が第1所定時間に達するまで全速運転を維持していることを検出する。圧縮機110が第1所定時間に達するまで全速運転を維持していた場合、相変化の異常が過渡状態である可能性は排除され、ステップ210に進み、空調システム100の冷媒に漏洩が発生したと判断され得る。いくつかの実施形態において、空調システム100の冷媒に漏洩が発生したと判断された後、コントローラーは冷媒漏洩警報を発して、空調システム100の冷媒に漏洩が生じている状態であることをユーザーに提示することができる。こうして、ユーザーは冷媒に漏洩が発生したことを知り得、空調システム100のメンテナンスを適時に行うことができるようになる。一方、圧縮機110が第1所定時間に達するまで全速運転を維持していなかった場合は、ステップ204に戻り、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いか否かが検出される。
【0027】
図3Bは、本開示のいくつかの実施形態による空調システムの検出方法300のフローチャートを示している。
図3Bに示されるように、ステップ302において、例えばコントローラー150が検出器115に対し、空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出するよう指示する。この所定閾値は、冷媒がほぼ無いときの圧縮機110の無負荷状態の電力である。例として、上記所定閾値は約100Wから約400Wであってよいが、本開示はこれに限定されない。任意の適した所定閾値がすべて本開示の範囲内に含まれる。具体的には、空調システム100のコントローラー150に電流センサー(図示せず)を設けることができる。こうすることで、電流センサーにより圧縮機110の入力電流が検出され得ると共に、電流センサーに検出された入力電流によりコントローラー150が消費電力を算出することができる、即ち、コントローラー150によって空調システム100の圧縮機110の消費電力が上記所定閾値よりも低いか否かが検出され得るようになる。空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出することによって、冷媒が漏洩しているか否かの可能性を初期判断することができる。
【0028】
検出された圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも低いとき、コントローラー150は空調システム100の蒸発器120の蒸発飽和温度Teを取得すると共に、空調システム100の凝縮器140の凝縮飽和温度Tcを取得する。ステップ304において、コントローラー150は、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高いことを検出すると、空調システム100に相変化の異常が生じたと判断する。一方、コントローラー150が、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高くないことを検出すると、コントローラー150は検出器115に対し、空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出するよう指示する。空調システム100に相変化の異常が生じたとき、凝縮器140および蒸発器120中の気体冷媒と液体冷媒との体積比は1対1に保たれなくなる。
【0029】
ステップ306において、例えば、圧縮機110が全速運転に入ったとき、第2所定時間おきに蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いか否かが検出され得るようになる。コントローラー150が蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いことを検出した場合、相変化の異常は過渡状態であると判断され(例えばステップ314)、ステップ302に戻って上述の検出ステップが引き続き行われる。一方、コントローラー150が、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高いことを検出した場合、圧縮機110に全速運転を維持させると共に、ステップ308に進み、圧縮機110が第1所定時間に達するまで全速運転を維持しているか否かを検出する。例として、第1所定時間は例えば10分から30分であるが、本開示はこれに限定されない。圧縮機110に第1所定時間に達するまで全速運転を維持させることによって、冷媒漏洩を誤判断するリスクが低減し、かつ圧縮機110が全速運転を維持して第1所定時間に達するまでに、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも高いか否かをさらに確認することができる。
【0030】
ステップ308において、コントローラー150が、圧縮機110が第1所定時間に達するまで全速運転を維持しているかを検出する。圧縮機110が第1所定時間に達するまで全速運転を維持していなかったとき、ステップ304に戻り、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いか否かを検出する。蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いことが検出された場合、相変化の異常は過渡状態であると判断される。相変化の異常が過渡状態であると判断された後、ステップ302に戻り、空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも高いか否かが検出される。空調システム100の圧縮機110の消費電力が所定閾値よりも高いことが検出された場合、ステップ312に示されるように、空調システム100の冷媒に漏洩が発生していないと判断される。いくつかの実施形態において、コントローラー150は、蒸発飽和温度Teが凝縮飽和温度Tcよりも低いことを検知したとき、圧縮機110の全速運転を解除することができる。
【0031】
圧縮機110が第1所定時間に達するまで全速運転を維持していた場合、相変化の異常が過渡状態である可能性は排除され、ステップ310に進み、空調システム100の冷媒に漏洩が発生したと判断され得る。いくつかの実施形態において、空調システム100の冷媒に漏洩が発生したと判断された後、コントローラーは冷媒漏洩警報を発して、空調システム100の冷媒に漏洩が生じている状態であることをユーザーに提示することができる。こうして、ユーザーは冷媒に漏洩が発生したことを知り得、空調システム100のメンテナンスを適時行うことができるようになる。
【0032】
以上まとめると、本開示は、蒸発飽和温度および凝縮飽和温度を検出することにより冷媒漏洩を判断する空調システムおよびその検出方法を提供する。具体的には、空調システムのコントローラーが、空調システムの圧縮機の消費電力が所定閾値よりも低いか否かを検出し、かつ空調システムの蒸発飽和温度が凝縮飽和温度よりも高いか否かを検出することができる。これらの状況が同時に検出された場合、圧縮機を所定時間まで全速運転させ、これによって冷媒の漏洩発生を判断し、かつ冷媒漏洩を誤判断するリスクを低減することができる。かかる構成により、既存の温度センサーおよび電流センサーを温度判断プログラムと組み合わせて用いることで、別途ハードウェアにコストをかけることなく、ユーザーにリアルタイムで冷媒漏洩を判断させる機能を実現できる他、空調システム内に冷媒漏洩を検出するための他の構成要素を設けるスペースをセーブすることもできる。
【0033】
本開示の実施形態およびその利点を上記のように開示したが、当該分野において通常の知識を有する者であれば本開示の精神および範囲を逸脱しない限りにおいて当然に変更、置換および修飾を加えることができる、という点が理解されなければならない。また、本開示の保護範囲は、本明細書中で記載されている特定の実施形態におけるプロセス、機器、製造、物質の組成、装置、方法およびステップに限定されず、当該分野において通常の知識を有する者であれば、本開示の開示内容から、既存のまたは将来開発されるプロセス、機器、製造、物質の組成、装置、方法およびステップを理解することができ、本明細書に記載した実施形態中でおおよそ同じ機能を実施できる、またはおおよそ同じ結果を得ることができさえすれば、それらはいずれも本開示に基づいて使用可能である。よって、本開示の保護範囲は上述のプロセス、機器、製造、物質の組成、装置、方法およびステップを含み、かつ各実施形態において、特徴が創作のコンセプトに反するまたは矛盾するということがなければ、任意に組み合わせて使用することができる。また、各請求項は個別の実施形態を構成し、かつ本開示の保護範囲は各請求項および実施形態の組み合わせも含む。
【符号の説明】
【0034】
100:空調システム
110:圧縮機
110A:入力端
110B:出力端
115:検出器
120:蒸発器
125:蒸発温度センサー
130:膨張弁
140:凝縮器
145:凝縮温度センサー
150:コントローラー
200:方法
202、204、206、208、210、212:ステップ
300:方法
302、304、306、308、310、312、314:ステップ
A、B、C、D:点
K:臨界点
L1:飽和液線
L2:飽和蒸気線
Tc:凝縮飽和温度
Te:蒸発飽和温度