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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102818
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240724BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20240724BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20240724BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/3477
C08K5/521
C08K5/524
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214688
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2023006644
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】福間 智彦
(72)【発明者】
【氏名】長尾 厚史
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG001
4J002EU196
4J002EW067
4J002FD067
4J002FD136
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】芳香族ポリカーボネート樹脂本来の耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等を極力損なうことなく、ハロゲン等を使用なくても高い難燃性と耐トラッキング性などの電気特性をバランス良く兼備する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径が0.1~9μmの(イソ)シアヌル酸誘導体(B)1.0~20質量部、リン酸エステル系難燃剤(C)0.1~1.0質量部、および、亜リン酸エステル化合物(D)0.01~3質量部を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径が0.1~9μmの(イソ)シアヌル酸誘導体(B)0.1~20質量部、リン酸エステル系難燃剤(C)0.1~1.0質量部、および、亜リン酸エステル化合物(D)0.01~3質量部を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記(イソ)シアヌル酸誘導体(B)が、シアヌル酸メラミンである請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン酸エステル系難燃剤(C)が、下記式1で表されるリン酸エステル、または、下記式2で表されるリン酸エステルである請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式中、kは0~5の整数であり、Xは二価のアリーレン基を示し、p、q、rおよびsはそれぞれ0または1を表し、R、R、RおよびRは炭素数1~6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を示す。)
【化2】

(式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記式3で表される芳香族置換アルキル基である。)
【化3】

(式中、ALは炭素数1~5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、nは1~3の整数を示し、ArはALの任意の炭素原子に結合することができる。)
【請求項4】
前記リン酸エステル系難燃剤(C)が、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート、2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,または、3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイドである請求項3に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚さ0.4mmのシート試験片を用いてUL94試験方法に基づき測定した難燃性がV-1またはV-0等級であり、
IEC112に準拠した比較トラッキング指数300V以上である請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
ABS樹脂を含まない請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
カーボンブラックを含まない請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含む成形体。
【請求項9】
電気・電子部品、自動車部品または機械機構部品用である請求項8に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂などは、機械的特性、電気的特性、耐候性、耐水性、耐薬品性や耐溶剤性を有するため、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品など種々の用途に利用されている。一方、前記ポリカーボネート樹脂には、利用分野が拡大するにつれ、例えば、優れた耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等の特性の向上とともに、安全上、難燃性であることが要求されるようになってきている。この要求に対しては、一般的には、ポリカーボネート樹脂に、ハロゲン系難燃剤や、リン系化合物、窒素含有化合物などの非ハロゲン系難燃剤を添加することにより、難燃化する方法が知られている。ハロゲン系難燃剤は、非ハロゲン系難燃剤に比べ、難燃性が高く、少量で樹脂を難燃化することが可能である。そして、近年では、このような熱可塑性樹脂組成物について、難燃性に加えて、用途に応じて、高い電気的特性が要求される場合もある。
【0003】
難燃性と電気的特性を改善するため、例えば、引用文献1には、ポリエステル系の熱可塑性樹脂100質量部に対し、ポリリン酸アンモニウム、およびハロゲン系高分子難燃剤からなることを特徴とする耐トラッキング特性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物が開示されている。しかし、ポリカーボネート樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物においては、難燃性と耐トラッキング性などの電気特性を兼備する技術の報告は殆ど知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-251528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等を極力損なうことなく、ハロゲン等を使用なくても高い難燃性と耐トラッキング性などの電気特性をバランス良く兼備する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を行った結果、芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、特定の(イソ)シアヌル酸誘導体とリン酸エステル系難燃剤と亜リン酸エステル化合物を配合した樹脂組成物が、ポリカーボネート樹脂本来の耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等を大きく損なうことなく、ハロゲン等を使用なくても高い難燃性を有するとともに耐トラッキング性などの電気特性も兼備できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明(1)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径が0.1~9μmの(イソ)シアヌル酸誘導体(B)0.1~20質量部、リン酸エステル系難燃剤(C)0.1~1.0質量部、および、亜リン酸エステル化合物(D)0.01~3質量部を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0008】
本発明(2)は、前記(イソ)シアヌル酸誘導体(B)が、シアヌル酸メラミンである本発明(1)に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0009】
本発明(3)は、前記リン酸エステル系難燃剤(C)が、下記式1で表されるリン酸エステル、または、下記式2で表されるリン酸エステルである本発明(1)または(2)に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【化1】

(式中、kは0~5の整数であり、Xは二価のアリーレン基を示し、p、q、rおよびsはそれぞれ0または1を表し、R、R、RおよびRは炭素数1~6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を示す。)
【化2】

(式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記式3で表される芳香族置換アルキル基である。)
【化3】

(式中、ALは炭素数1~5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、nは1~3の整数を示し、ArはALの任意の炭素原子に結合することができる。)
【0010】
本発明(4)は、前記リン酸エステル系難燃剤(C)が、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート、2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,または、3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイドである本発明(3)に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0011】
本発明(5)は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚さ0.4mmのシート試験片を用いてUL94試験方法に基づき測定した難燃性がV-1またはV-0等級であり、
IEC112に準拠した比較トラッキング指数が300V以上である本発明(1)~(4)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0012】
本発明(6)は、ABS樹脂を含まない本発明(1)~(5)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0013】
本発明(7)は、カーボンブラックを含まない本発明(1)~(6)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0014】
本発明(8)は、本発明(1)~(7)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含む成形体である。
【0015】
本発明(9)は、電気・電子部品、自動車部品または機械機構部品用である本発明(8)に記載の成形体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂に特定の(イソ)シアヌル酸誘導体と、特定の芳香族縮合リン酸エステルと特定のリン系安定剤を併用して含有するため、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等を損なうことなく、ハロゲン等を使用なくても高い難燃性と耐トラッキング性などの電気特性をバランス良く兼備でき、工業的価値が高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは当業者が本発明を充分に理解するために以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0018】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径が0.1~9μmの(イソ)シアヌル酸誘導体(B)0.1~20質量部、リン酸エステル系難燃剤(C)0.1~1.0質量部、および、亜リン酸エステル化合物(D)0.01~3質量部を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0020】
ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類が挙げられる。
【0021】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′-ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0022】
さらに、上記ジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタンおよび2,2-ビス-〔4,4-(4,4′-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル〕-プロパンなどが挙げられる。
【0023】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000~100000、より好ましくは16000~30000、さらに好ましくは19000~26000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0024】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の形態は特に限定されず、たとえばペレット状物、フレーク状物、ビーズ状物等が挙げられる。なかでも、均質な分散性を得られる点で、フレーク状物が好ましく、多孔質フレーク状物がより好ましい。ポリカーボネートの嵩密度も特に限定されないが、0.1~0.9が好ましく、0.1~0.7がより好ましい。ここで、嵩密度とは、JISK7370の固め見かけ嵩密度に準拠して測定される値をいう。ポリカーボネートの大きさは特に制限されないが、5mm以下が好ましい。
【0025】
本願発明においては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を極力含まないようにする方が良い場合がある。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂としては、例えばABS樹脂、PS樹脂等が挙げられる。これらの樹脂を含むことにより、芳香族ポリカーボネート樹脂が発揮できる難燃性が損なわれる要因となったり、シートフィルムへの加工性が低下する要因ともなり好ましくない場合がある。このような場合は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を芳香族ポリカーボネート樹脂からなる樹脂成分(A)と読み替えることができるものとし、樹脂成分(A)は、実質的に芳香族ポリカーボネート樹脂からなる樹脂成分(A)の意味となる。
【0026】
熱可塑性樹脂以外に、難燃性向上の観点から、ポリテトラフルオロエチレンなどのアンチドリップ剤を含まないことが好ましい。
【0027】
本発明で使用する(イソ)シアヌル酸誘導体(B)としては、シアヌル酸メラミン、シアヌル酸ベンゾグアミン、シアヌル酸アセトグアナミン等が挙げられ、中でもシアヌル酸メラミンが好ましい。これらの化合物としては、例えば、シアヌル酸メラミン(日本合成化学工業株式会社製MX44、PRESAFER社製MCA-15、日産化学工業株式会社製MC-4000、MC-4500、MC-6000)等が挙げられる。
【0028】
(イソ)シアヌル酸誘導体(B)の平均粒径は0.1~9μmであり、1~7μmが好ましく、2~4μmがより好ましい。9μmを超えると著しく機械強度が低下する。
【0029】
(イソ)シアヌル酸誘導体(B)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.1~20質量部であるが、0.5~14質量部が好ましく、1~8質量部がより好ましい。0.1質量部未満では、難燃性が不充分となる傾向がある。
【0030】
本発明で使用するリン酸エステル系難燃剤(C)としては、下記式1で表されるリン酸エステル、または、下記式2で表されるリン酸エステルが挙げられる。
【化4】

(式中、kは0~5の整数であり、Xは二価のアリーレン基を示し、p、q、rおよびsはそれぞれ0または1を表し、R、R、RおよびRは炭素数1~6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を示す。)
【化5】

(式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記式3で表される芳香族置換アルキル基である。)
【化6】

(式中、ALは炭素数1~5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、nは1~3の整数を示し、ArはALの任意の炭素原子に結合することができる。)
【0031】
式1で表されるリン酸エステルについて、kが異なる数を有する化合物の混合物であってもよく、その場合、kは混合物の平均値となる。kは、通常0~5の整数であり、混合物の場合、0.5~2が好ましく、0.6~1.5がより好ましく、0.8~1.2がさらに好ましい。
【0032】
、R、RおよびRは炭素数1~6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基である。このようなアリール基としては、フェニル基、クレジル基、キシリル基、イソプロピルフェニル基、ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、ジ-tert-ブチルフェニル基、p-クミルフェニル基などがあげられる。なかでも、フェニル基、クレジル基、キシリル基がより好ましい。
【0033】
は、二価のアリーレン基であり、たとえばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、2,3’-ジヒドロキシビフェニル、2,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシ化合物から誘導される二価の基である。なかでも、レゾルシノール、ビスフェノールA、3,3’-ジヒドロキシビフェニルから誘導される二価の基が好ましい。
【0034】
式2で表されるリン酸エステルについて、式3中のALは、炭素数1~5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基である。
【0035】
リン酸エステル系難燃剤(C)としては、たとえばトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート(EHDP)、tert-ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(tert-ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス-(tert-ブチルフェニル)ホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェート等の芳香族リン酸エステル類;レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート(RDP)、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート(RDX)、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(BDP)、ビフェニルビス-ジフェニルホスフェート等の縮合リン酸エステル類などが挙げられる。これらの中でも、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート(RDP)、2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,または、3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイドが好ましい。
【0036】
レゾルシノールビスジキシレニルホスフェートは、大八化学工業株式会社製PX-200、PX-202等として商業的に入手可能である。4,4‘-ビス(ジフェニルホスホリル)-1,1’-ビフェニルは、株式会社ADEKA製アデカスタブFP-900L等として、2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイドは、帝人株式会社製ファイヤガードFCX210等として商業的に入手可能である。
【0037】
リン酸エステル系難燃剤(C)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.1~1.0質量部である。1.0質量部を超えると、耐トラッキング性能性が低下することとなり、0.1質量部未満では、難燃性が不充分となる傾向がある。
【0038】
本発明で使用する亜リン酸エステル化合物(D)としては、例えば、下記式(4)、(5)、(6)、(7)または(8)で表わされる化合物が挙げられる。
【0039】
【化7】
【0040】
【化8】

(式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
【0041】
式(5)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基であるが、炭素数1~10のアルキル基が好ましい。
【0042】
式(5)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好ましく、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0043】
【化9】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0044】
式(6)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0045】
炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0046】
、R及びRとしては、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基が好ましい。特に、R及びRとしては、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基が好ましい。特に、Rとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基が好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基がより好ましい。
【0047】
としては、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基がより好ましい。
【0048】
は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、Rとしては、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0049】
Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-で表される基を示す。ここで、式:-CHR-中のRは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xとしては、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基が好ましく、単結合であることがより好ましい。
【0050】
Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR-におけるRは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。Rを示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。Rは、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0051】
Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0052】
式(6)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野にポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0053】
【化10】

(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0054】
式(7)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトは、(株)ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0055】
【化11】

(式中、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基またはアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19~R22は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す。d~gは、それぞれ独立して、0~5の整数である。X~Xは、それぞれ独立に、単結合または炭素原子を示す。X~Xが単結合である場合、R11~R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は式(5)から除外される)
【0056】
式(8)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。これは、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標)S-9228」、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-45」(ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)として商業的に入手可能である。
【0057】
また、上記式(4)~(8)で表される化合物に代えて、または、上記式(4)~(8)で表される何れかの化合物に加えて、下記式(9)で表される化合物を使用しても良い。
【0058】
【化12】

(式中、R23~R26は炭素数1~20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
【0059】
式(9)で表される化合物の具体例としては、例えば、[1,1´-ビフェニル]-4,4-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)フォスフィン]等が挙げられる。例えば、BASF社製のイルガフォスP-EPQ(商品名)、クラリアントジャパン(株)製のサンドスタブP-EPQ(商品名)が商業的に入手可能である。
【0060】
亜リン酸エステル化合物(D)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.01~3質量部であるが、上限は1質量部以下が好ましく、0.02~0.8質量部がさらに好ましい。亜リン酸エステル化合物の配合量が3質量部を超えると、衝撃強度が低下する可能性がある。また、亜リン酸エステル化合物の配合量が0.01質量部未満では、色相の向上効果が不十分となる可能性がある。
【0061】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、効果を損なわない範囲で、前述した成分以外の熱安定剤、着色剤、離型剤、軟化剤、帯電防止剤、衝撃性改良剤、紫外線吸収剤、顔料、充填剤、流動改良剤等の添加剤を配合しても良い。
【0062】
充填剤としては、カーボンブラック、ガラス繊維、マイカ等が挙げられる。ただし、色材としても使用されるカーボンブラックは含まないことが好ましい。
【0063】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、該組成物を成形してなる厚さ0.4mmのシート試験片を用いてUL94試験方法に基づき測定した難燃性がV-0等級であり、ASTM D3638に準拠した比較トラッキング指数が300V以上であることが好ましく、600V以上がより好ましい。
【0064】
本発明の成形体は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含むことを特徴とする。本発明の成形体は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用い、押出成形や射出成形方法によって作製することができる。押出成形については押出機を用いたシートや異形押出といった成形や、射出成形は該成形品が成形出来るような金型と100~200Тクラスの射出成形機が用いられる。成形加工温度は260~320℃が好ましい。成形品がシートまたはフィルムの場合、厚みは0.1~0.8μmが好ましい。
【0065】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、成型収縮率が低く、反りの少ない成形品を与えることができる。そのため、電気・電子部品、自動車部品または機械機構部品用に好適に適用することができる。なかでも、VRゴーグルの液晶フレームや筐体などの表示デバイス部品用途に好適に適用することができる。
【実施例0066】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特にことわりがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ質量基準である。
【0067】
原料として以下のものを使用した。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂:住化ポリカーボネート株式会社製SDポリカ200-20、粘度平均分子量28000
(B)シアヌル酸メラミン
(B1):シアヌル酸メラミン(MC-6000、日産化学株式会社製、粒径:2μm)
(B2):シアヌル酸メラミン(MC-4500、日産化学株式会社製、粒径:10μm))
(B3):シアヌル酸メラミン(MCA-15、PRESAFER社製、粒径:3μm)
(C)リン酸エステル系難燃剤
(C1):レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート、大八化学株式会社製PX-200
(C2):2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイド、ファイヤガード、FCX210、帝人株式会社製
(D)亜リン酸エステル化合物:
[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)フォスフィン]、クラリアントジャパン社製Sandstab PEPQ
【0068】
実施例1~8および比較例1~4
表2に示す配合成分および配合比率にて、各種配合成分をタンブラーで混合し、37mm径の二軸押出機(芝浦機械株式会社製TEM37SS)を用いて、シリンダー温度280℃にて溶融混練し、各種ペレットを得た。各種試験片はファナック株式会社製射出成型機S-2000i100Aを使用してシリンダー温度280℃で成形した。以下に示す方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0069】
<機械物性>
各試験片の脆さに関しては、厚み0.4mm試験片を180°折り曲げた際に割れるかを確認した。割れなければ合格、割れれば不合格とした。
【0070】
<燃焼性>
アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めるUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠して難燃性の評価を行った。UL94によるV試験のクラスをそれぞれ表1に示す。評価の基準として、0.4mm厚みにおけるV試験でV-0を合格とした。
【0071】
【表1】
【0072】
V試験:幅13.0mm、長さ125mm、厚み0.4mm試験片を用いて、着火時間は1試験片で2回、各10秒間行った。
残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の試験片が、有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。
【0073】
<トラッキング指数(CTI)>
成物の成形品について、耐トラッキング性の評価を行った。詳細には、作製した縦×横×厚さ=20mm×20mm×3mmの成形品を用い、ASTM D3638(使用電解液:溶液A、滴下数:50滴)に準拠した測定方法により、当該成形品のトラッキング破壊が発生しない最大電圧、すなわちCTI値(単位:V)を測定した。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示したように、実施例1~8の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物では、ハロゲン系の難燃剤等を使用しなくても高い難燃性と耐トラッキング性などの電気特性をバランス良く兼備できた。一方、比較例1~4の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物では、難燃性、機械物性、耐トラッキング性のいずれかに劣る成形品しか作製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物により、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等を極力損なうことなく、ハロゲン等を使用しなくても高い難燃性と耐トラッキング性などの電気特性をバランス良く兼備でき、工業的価値が高いものである。