IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧 ▶ 山本化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-一重項酸素生成材料 図1
  • 特開-一重項酸素生成材料 図2
  • 特開-一重項酸素生成材料 図3
  • 特開-一重項酸素生成材料 図4
  • 特開-一重項酸素生成材料 図5
  • 特開-一重項酸素生成材料 図6
  • 特開-一重項酸素生成材料 図7
  • 特開-一重項酸素生成材料 図8
  • 特開-一重項酸素生成材料 図9
  • 特開-一重項酸素生成材料 図10
  • 特開-一重項酸素生成材料 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102820
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】一重項酸素生成材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20240724BHJP
   A61K 31/555 20060101ALI20240724BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240724BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20240724BHJP
【FI】
C07D487/22
A61K31/555
A61P39/06
C07F15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217427
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2023006851
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000179904
【氏名又は名称】山本化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津賀 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 由之
【テーマコード(参考)】
4C050
4C086
4H050
【Fターム(参考)】
4C050PA13
4C086AA03
4C086CB14
4C086DA31
4C086MA70
4C086ZC37
4H050AA01
4H050AB20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】一重項酸素の発生効率に優れるフタロシアニン化合物を含む一重項酸素生成材料の提供。
【解決手段】具体例として、下記のフタロシアニン化合物(2)が挙げられる。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1-1)~下記式(1-4)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む一重項酸素生成材料。
【化1】

[式(1-3)において、各6員環に結合するR及びR毎に独立して、R又はRの一方が(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基を表し、他方が水素原子を表す。式(1-3)で表される化合物は、位置異性体の混合物であってもよい。
式(1-4)において、各6員環に結合するR~R毎に独立して、R又はRの一方が(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基を表し、R~Rにおける(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基ではない基のうちの一つが臭素原子を表し、その他が水素原子を表す。式(1-4)で表される化合物は、位置異性体の混合物であってもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一重項酸素生成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一重項酸素は活性酸素の一種であり、高い反応活性を持つ。一重項酸素の高い反応活性を利用して、病気の治療薬や新薬の開発、環境分野への応用などが検討されている。
一重項酸素を発生させる材料の一つとして、フタロシアニン化合物が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-064284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フタロシアニン化合物は可視光領域に吸収ピークを有し、この領域の光をフタロシアニン化合物に照射することで、一重項酸素が発生する。フタロシアニン化合物による一重項酸素の発生効率は、高いことが好ましい。
本開示は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、本開示の一態様は、一重項酸素の発生効率に優れるフタロシアニン化合物を含む一重項酸素生成材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記式(1-1)~下記式(1-4)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む一重項酸素生成材料。
【0006】
【化1】
【0007】
[式(1-3)において、各6員環に結合するR及びR毎に独立して、R又はRの一方が(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基を表し、他方が水素原子を表す。式(1-3)で表される化合物は、位置異性体の混合物であってもよい。
式(1-4)において、各6員環に結合するR~R毎に独立して、R又はRの一方が(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基を表し、R~Rにおける(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基ではない基のうちの一つが臭素原子を表し、その他が水素原子を表す。式(1-4)で表される化合物は、位置異性体の混合物であってもよい。]
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、一重項酸素の発生効率に優れるフタロシアニン化合物を含む一重項酸素生成材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】化合物(1-1)の吸収スペクトルである。
図2】化合物(1-2)の吸収スペクトルである。
図3】化合物(1-3)の吸収スペクトルである。
図4】化合物(1-4)の吸収スペクトルである。
図5】化合物(2)の吸収スペクトルである。
図6】DPBF及び化合物(1-1)の混合溶液に660nmの励起光を照射したときに観察された、各照射時間で得られた吸収スペクトルを示す図である。
図7】DPBF及び化合物(1-1)の混合溶液に660nmの励起光を照射したときに観察された、410nmの吸光度変化を照射時間に対してプロットした図である。
図8】DPBF及び化合物(2)の混合溶液に660nmの励起光を照射したときに観察された、410nmの吸光度変化を照射時間に対してプロットした図である。
図9】DPBF及び化合物(1-2)の混合溶液に660nmの励起光を照射したときに観察された、410nmの吸光度変化を照射時間に対してプロットした図である。
図10】DPBF及び化合物(1-3)の混合溶液に660nmの励起光を照射したときに観察された、410nmの吸光度変化を照射時間に対してプロットした図である。
図11】DPBF及び化合物(1-4)の混合溶液に660nmの励起光を照射したときに観察された、410nmの吸光度変化を照射時間に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に
各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0012】
<一重項酸素生成材料>
本開示の一重項酸素生成材料は、下記式(1-1)~下記式(1-4)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。本開示の一重項酸素生成材料は、下記式(1-1)~下記式(1-4)で表される化合物以外のその他の成分を含んでもよい。
【0013】
【化2】
【0014】
式(1-3)において、各6員環に結合するR及びR毎に独立して、R又はRの一方が(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基を表し、他方が水素原子を表す。式(1-3)で表される化合物は、位置異性体の混合物であってもよい。
式(1-4)において、各6員環に結合するR~R毎に独立して、R又はRの一方が(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基を表し、R~Rにおける(2,4-ジメチルペンタン-3-イル)オキシ基ではない基のうちの一つが臭素原子を表し、その他が水素原子を表す。式(1-4)で表される化合物は、位置異性体の混合物であってもよい。
【0015】
式(1-3)で表される化合物の位置異性体としては、下記具体例が挙げられる。式(1-3)で表される化合物は、下記具体例で表される位置異性体の混合物であってもよい。
【0016】
【化3】
【0017】
式(1-4)で表される化合物の位置異性体としては、下記具体例が挙げられる。式(1-4)で表される化合物は、下記具体例で表される位置異性体の混合物であってもよい。
【0018】
【化4】
【0019】
式(1-1)~式(1-4)で表される化合物は、定法により製造可能である。式(1-1)~式(1-4)で表される化合物は、例えば、特開平3-62878号公報、特開平3-215466号公報及び特開平4-226390号公報に記載されている方法を参照して合成することができる。
式(1-3)で表される化合物及び式(1-4)で表される化合物は、上記方法により、上述した具体例で表される位置異性体の混合物として得ることができる。
【0020】
後述の化合物2を基準として算出した、式(1-1)~式(1-4)で表される化合物についての一重項酸素生成量子収率は、0.4以上であることが好ましく、0.45以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。式(1-1)~式(1-4)で表される化合物についての一重項酸素生成量子収率は、1.0以下であってもよい。
本開示において、一重項酸素生成量子収率は、1,3-ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)を一重項酸素検出剤(single oxygen quencher)として用いる下記方法により測定した値をいう。
ジメチルホルムアミド中、DPBF濃度を5×10-5Mとし、一重項酸素生成量子収率の測定対象物の濃度を励起波長における吸光度が0.2付近になるよう調整した混合溶液を、1cm×1cmの石英セルに入れ、この溶液入り石英セルに励起光を照射する。一定の光照射時間毎に、溶液の吸収スペクトルを測定し、DPBF由来の410nmの吸光度の変化を追跡する。具体的には、照射時間0秒における410nmの吸光度を基準とし、各照射時間における410nmの吸光度と照射時間0秒における410nmの吸光度との差分(410nmの吸光度変化)を照射時間に対してプロットし、プロットの傾きを求める。
一重項酸素生成量子収率ΦΔが既知の基準化合物でも同様の測定を行い、プロットから得られる傾きを式(1)に代入することで、測定対象物についての一重項酸素生成量子収率ΦΔを算出する。
ΦΔ=ΦΔ std×(m×Fstd/mstd×F)・・・式(1)
式中、stdは基準化合物についての値であり、mはプロットの傾きであり、Fは吸光度補正因子(1-10-Absであり、Absは励起波長における吸光度)である。
DPBFを用いた一重項酸素生成量子収率の測定は、A. Blacha-Grzechnik et al., J.Photochem. Photobiol. A: Chem. 2020, 388, 112161.に詳しい。
本開示では、基準化合物として後述の化合物(2)を用いた。化合物(2)についての一重項酸素生成量子収率(ΦΔ std)は、特開2001-064284号公報の第1表によれば、0.36(36SΔ%)である。
【0021】
本開示の一重項酸素生成材料は、式(1-1)~式(1-4)で表される化合物以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、式(1-1)~式(1-4)で表される化合物以外のフタロシアニン化合物、有機溶剤、無機充填材、有機充填剤等が挙げられる。
本開示の一重項酸素生成材料がその他の成分を含有する場合、本開示の一重項酸素生成材料全体に占める式(1-1)~式(1-4)で表される化合物の合計の割合は、90質量%以上100質量%未満が好ましく、99質量%以上100質量%未満がより好ましく、99.9質量%以上100質量%未満がさらに好ましい。本開示の一重項酸素生成材料は、式(1-1)~式(1-4)で表される化合物からなる(つまり、その他の成分を含有しない)ものであってもよい。
本開示の一重項酸素生成材料は、式(1-1)~式(1-4)で表される化合物を一種単独で含有しても、二種以上の化合物を併用してもよい。
【実施例0022】
以下に、実施例により本開示を更に詳細に説明するが、本開示は下記実施例に限定されるものではない。なお、本開示の実施例において用いた評価方法、材料は以下の通りである。
【0023】
-化合物の準備-
特開平3-62878号公報、特開平3-215466号公報及び特開平4-226390号公報に記載されている方法を参照して、式(1-1)で表される化合物(以下、化合物(1-1)と称することがある。)、式(1-2)で表される化合物(以下、化合物(1-2)と称することがある。)、式(1-3)で表される化合物(以下、化合物(1-3)と称することがある。)及び式(1-4)で表される化合物(以下、化合物(1-4)と称することがある。)を得た。また、特開2001-064284号公報の実施例に則って下記化合物(2)を得た。化合物(1-1)及び化合物(1-2)は実施例1及び実施例2に、化合物(1-3)及び化合物(1-4)は実施例3及び実施例4に、化合物(2)は比較例に各々該当する。なお、化合物(2)におけるPhはフェニル基を表す。また、化合物(1-3)及び化合物(1-4)は、各々、位置異性体の混合物であった。
【0024】
【化5】
【0025】
-吸収スペクトル測定-
化合物(1-1)、化合物(1-2)、化合物(1-3)、化合物(1-4)及び化合物(2)を、各々ジメチルホルムアミドに溶解させて溶液を調整し、吸収スペクトルを分光光度計(V-770、日本分光株式会社製)で測定した。この場合、化合物(1-1)、化合物(1-2)、化合物(1-4)及び化合物(2)の濃度を5×10-6Mとした。化合物(1-3)の濃度を、2.5×10―6Mとした。
化合物(1-1)の吸収スペクトルを図1に、化合物(1-2)の吸収スペクトルを図2に、化合物(1-3)の吸収スペクトルを図3に、化合物(1-4)の吸収スペクトルを図4に、化合物(2)の吸収スペクトルを図5に、各々示す。
【0026】
-一重項酸素生成量子収率の測定-
一重項酸素生成量子収率は、DPBFを一重項酸素検出剤として用い、下記方法に則って測定した。
ジメチルホルムアミド中、DPBF濃度を5×10-5Mとし、化合物(1-1)濃度を励起波長(660nm)における吸光度が0.2付近になるよう調整した混合溶液を準備した。この溶液を1cm×1cmの石英セルに入れ、この溶液入り石英セルに660nmの励起光をLED(M660FP1、ソーラボジャパン株式会社製)で照射した。この時、LEDの光射出部から5cmの距離に石英セルを配置した。石英セルを配置した位置での励起光強度を光パワーメーター(8230E+82311B、株式会社エーディーシー製)で測定したところ、2.9×10-5W/cmであった。
照射時間5秒毎に溶液の吸収スペクトルを測定した。各照射時間で得られた吸収スペクトルを図6に示す。DPBF由来の410nmの吸光度の変化を追跡した。照射時間0秒における410nmの吸光度を基準とし、各照射時間における410nmの吸光度と照射時間0秒における410nmの吸光度との差分(410nmの吸光度変化)を、照射時間に対してプロットした。結果を図7に示す。
【0027】
一重項酸素生成量子収率ΦΔが既知(ΦΔ=0.36)の化合物(2)でも同様の測定を行い、プロットを得た。結果を図8に示す。
図7から得られる傾きm及び図8から得られる傾きmstdを各々式(1)に代入することで、化合物(1-1)についての一重項酸素生成量子収率ΦΔを算出したところ、0.53という値が得られた。この値は、化合物(2)についての一重項酸素生成量子収率ΦΔ stdよりも高い値を示した。この結果から、化合物(1-1)は、化合物(2)に比較して、優れた一重項酸素生成能を持つことが示された。
ΦΔ=ΦΔ std×(m×Fstd/mstd×F)・・・式(1)
式中、stdは基準化合物についての値であり、mはプロットの傾きであり、Fは吸光度補正因子(1-10-Absであり、Absは励起波長(660nm)における吸光度)である。
【0028】
化合物(1-1)に代えて化合物(1-2)を用いた以外は同様にして、化合物(1-2)についての一重項酸素生成量子収率ΦΔを算出した。化合物(1-2)を用いた場合における410nmの吸光度変化を照射時間に対してプロットしたものを、図9に示す。その結果、ΦΔ=0.48という値が得られた。この値は、化合物(2)についての一重項酸素生成量子収率ΦΔ stdよりも高い値を示した。この結果から、化合物(1-2)は、化合物(2)に比較して、優れた一重項酸素生成能を持つことが示された。
【0029】
化合物(1-1)に代えて化合物(1-3)を用いた以外は同様にして、化合物(1-3)についての一重項酸素生成量子収率ΦΔを算出した。化合物(1-3)を用いた場合における410nmの吸光度変化を照射時間に対してプロットしたものを、図10に示す。その結果、ΦΔ=0.47という値が得られた。この値は、化合物(2)についての一重項酸素生成量子収率ΦΔ stdよりも高い値を示した。この結果から、化合物(1-3)は、化合物(2)に比較して、優れた一重項酸素生成能を持つことが示された。
【0030】
化合物(1-1)に代えて化合物(1-4)を用いた以外は同様にして、化合物(1-4)についての一重項酸素生成量子収率ΦΔを算出した。化合物(1-4)を用いた場合における410nmの吸光度変化を照射時間に対してプロットしたものを、図11に示す。その結果、ΦΔ=0.46という値が得られた。この値は、化合物(2)についての一重項酸素生成量子収率ΦΔ stdよりも高い値を示した。この結果から、化合物(1-4)は、化合物(2)に比較して、優れた一重項酸素生成能を持つことが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11