(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102821
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】疲労亀裂の補修方法、及びそれに用いる補修用部材、並びに補修用部材の取り外し方法
(51)【国際特許分類】
B23P 6/04 20060101AFI20240724BHJP
B63B 43/00 20060101ALI20240724BHJP
B63B 81/00 20200101ALI20240724BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B23P6/04
B63B43/00 Z
B63B81/00
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218116
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2023006574
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一比古
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059GG39
(57)【要約】
【課題】ストップホールにはめ込んだ際のくさび部材の突出寸法を斜面型くさび部材よりも小さくすることにより、適応型のくさび部材を用いた補修の適用対象を拡大する。
【解決手段】疲労亀裂の補修方法は、母板1に長穴又は円孔のストップホール10,100を加工するストップホール加工ステップと、ストップホール10,100に楕円柱形を含むカム形のカム形くさび部材20,200をはめ込むくさび部材はめ込みステップと、カム形くさび部材20,200に回転付勢力を所定の範囲で作用させる回転付勢力発生ステップと、母板1に作用する繰り返し引張荷重Fによるストップホール10,100の伸長変形にカム形くさび部材20,200を自動的に適応させてくさび荷重Wを発生させるくさび荷重発生ステップを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の母板に生じた疲労亀裂にストップホールを設けくさび部材をはめ込んで疲労亀裂を補修する疲労亀裂の補修方法であって、前記母板に長穴又は円孔の前記ストップホールを加工するストップホール加工ステップと、前記ストップホールに楕円柱形を含むカム形のカム形くさび部材をはめ込むくさび部材はめ込みステップと、前記カム形くさび部材に回転付勢力を所定の範囲で作用させる回転付勢力発生ステップと、前記母板に作用する繰り返し引張荷重による前記ストップホールの伸長変形に前記カム形くさび部材を自動的に適応させてくさび荷重を発生させるくさび荷重発生ステップとを有することを特徴とする疲労亀裂の補修方法。
【請求項2】
前記ストップホール加工ステップにおいて、前記母板の前記疲労亀裂の先端部に、直径が前記カム形くさび部材の短径より大きく長径より小さい円孔を加工した後、前記疲労亀裂の側もしくは反対側の円孔壁をグラインダーを含む切削手段で切削して滑らかな長穴として、前記ストップホールを形成することを特徴とする請求項1に記載の疲労亀裂の補修方法。
【請求項3】
前記ストップホールが円孔の場合、前記ストップホール加工ステップと前記くさび部材はめ込ステップとの間で、円孔壁にスペーサーを装着することを特徴とする請求項1に記載の疲労亀裂の補修方法。
【請求項4】
前記スペーサーが、上側スペーサーと、下側スペーサーと、前記上側スペーサーと前記下側スペーサーを一体的に連結する可撓性連結手段から成る場合に、前記上側スペーサーの上端と前記下側スペーサーの下端を押して前記円孔にはめ込んで装着することを特徴とする請求項3に記載の疲労亀裂の補修方法。
【請求項5】
前記回転付勢力発生ステップにおいて、 前記カム形くさび部材の回転角度を初期位置からπ/2までの範囲になるように前記回転付勢力を調節して所定の範囲で作用させることを特徴とする請求項1に記載の疲労亀裂の補修方法。
【請求項6】
構造物の母板に生じた疲労亀裂にストップホールを設けくさび部材をはめ込んで疲労亀裂を補修する疲労亀裂の補修用部材であって、前記母板に加工された長穴又は円孔の前記ストップホールにはめ込む楕円柱形を含むカム形のカム形くさび部材と、前記カム形くさび部材に回転付勢力を作用させる回転付勢力発生手段と、前記カム形くさび部材の回転を所定の範囲で作用するように制限する回転停止手段を備え、前記母板に作用する繰り返し引張荷重による前記ストップホールの伸長変形に前記カム形くさび部材を自動的に適応させてくさび荷重を発生させることを特徴とする疲労亀裂の補修用部材。
【請求項7】
前記カム形くさび部材の前記楕円柱形を含むカム形は、前記カム形くさび部材の短軸から長軸に向かってなだらかに径が増していく形状であることを特徴とする請求項6に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項8】
前記ストップホールが長穴の場合、前記カム形くさび部材の長径が前記長穴の長穴長径よりも小さく、かつ前記長穴の長穴短径よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項6に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項9】
前記ストップホールが円孔の場合、前記カム形くさび部材が、前記回転付勢力の作用するカム形の第一くさび部品と、前記ストップホールにはめ込まれ前記第一くさび部品と前記ストップホールの円孔壁との空隙を埋める第二くさび部品としてのスペーサーから成ることを特徴とする請求項6に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項10】
前記スペーサーが、上側スペーサーと、下側スペーサーと、前記上側スペーサーと前記下側スペーサーを一体的に連結する可撓性を有した可撓性連結手段から成ることを特徴とする請求項9に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項11】
前記上側スペーサー及び前記下側スペーサーの板厚方向断面形状が円弧及び弦からなる板厚方向に同一の断面形状であり、前記可撓性連結手段が略円弧形をした板バネであることを特徴とする請求項10に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項12】
前記回転付勢力発生手段が渦巻きばねであることを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項13】
前記渦巻きばねの前記回転付勢力及び回転角度の範囲を調節する調節手段を備え、前記調節手段を前記カム形くさび部材の前記回転角度がπ/2で前記回転付勢力を略ゼロに調節することを可能にすることにより前記回転停止手段を兼ねて構成することを特徴とする請求項12に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項14】
前記カム形くさび部材の板厚を前記母板の板厚よりも小さく設定し、板厚差により生ずる前記ストップホールの前記母板と前記カム形くさび部材の空隙に前記回転付勢力発生手段と前記回転停止手段を臨ませたことを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項15】
前記母板の表面及び裏面の少なくとも一方に前記カム形くさび部材、前記回転付勢力発生手段、及び前記回転停止手段を覆う柔軟性を有した密閉手段を設けたことを特徴とする請求項14に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項16】
前記回転停止手段が、前記母板に設けたストッパーと、前記ストッパーに当接可能な前記カム形くさび部材に形成した凸部により構成されることを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項17】
前記ストッパーが前記疲労亀裂と直交する方向に前記ストップホールを跨いで設けられていることを特徴とする請求項16に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項18】
前記ストッパーを前記母板の表裏両側に設け、これらに当接可能な前記凸部を前記カム形くさび部材の表裏両側にそれぞれ設けたことを特徴とする請求項16に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項19】
前記ストッパーを前記母板の裏側に設け、これに当接可能な前記凸部を前記カム形くさび部材の裏側に設け、前記回転付勢力発生手段を前記母板の表側に設けたことを特徴とする請求項16に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項20】
前記回転付勢力発生手段を前記カム形くさび部材の中心部に形成したプーリーと、前記プーリーに係止されたワイヤーを含む線材と、前記線材の先端に設けた錘をもって構成し、前記回転停止手段を前記錘を受ける台をもって構成したことを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項21】
前記回転付勢力発生手段を前記カム形くさび部材の中心部に形成したプーリーと、前記プーリーに係止されたワイヤーを含む線材と、前記線材に接続した弾性体をもって構成し、前記回転停止手段を前記弾性体の張力を調整する調整手段をもって構成したことを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項22】
前記母板の面の方向が鉛直もしくは鉛直±π/4の範囲の場合に、前記回転付勢力発生手段を前記カム形くさび部材の中心部から略水平な方向に延出し重力により回転トルクを発生させるレバーウェイトをもって構成し、前記回転停止手段を前記レバーウェイトが前記略水平な方向と直交し前記母板の表面と略平行な方向の前記母板の下部にまで回転し停止することをもって構成したことを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項23】
前記カム形くさび部材の中心部に六角柱形を含む凸型嵌合部を形成し、前記レバーウェイトを前記凸型嵌合部に嵌合させたことを特徴とする請求項22に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項24】
前記カム形くさび部材の材質を前記母板のヤング率と略同等もしくはそれ以上のヤング率を有する金属及びセラミックスを含む材質から選定することを特徴とする請求項6に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項25】
請求項1に記載の疲労亀裂の補修方法におけるくさび荷重が発生しているカム形くさび部材をストップホールから取り外す疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法であって、前記カム形くさび部材に作用させている回転付勢力とは反対の方向にトルク発生手段によりトルクを加え、前記カム形くさび部材を弛緩させた後、前記カム形くさび部材を取り外すことを特徴とする疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法。
【請求項26】
前記トルク発生手段が取り外し用工具であり、前記くさび荷重が小さい場合、前記カム形くさび部材に設けた凸型嵌合部に前記取り外し用工具をはめ込んで、前記回転付勢力とは反対の方向に前記トルクを加えることを特徴とする請求項25に記載の疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法。
【請求項27】
前記取り外し用工具を請求項22に記載の疲労亀裂の補修用部材におけるレバーウェイトで代用し、前記回転付勢力とは反対の方向に前記トルクを加えることを特徴とする請求項26に記載の疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法。
【請求項28】
前記トルク発生手段が逆回転力付勢機構であり、前記くさび荷重が大きい場合、前記逆回転力付勢機構により反対の方向に逆回転付勢力を作用させて、大きな引張外荷重の負荷時に前記カム形くさび部材が通常時とは逆方向に回転するようにし、一定期間の経過をみることを特徴とする請求項25又は請求項26に記載の疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、海洋構造物、橋梁、道路、車両、航空機、又は輸送・工作機械等といった各種構造物の母板に生じた疲労亀裂に対して設けたストップホールにくさび部材をはめ込んでくさび荷重を付与することにより孔端部の応力変動幅を抑制して、孔端からの亀裂の再発防止と再発亀裂の進展抑制を行う疲労亀裂の補修方法、当該補修方法に用いる疲労亀裂の補修用部材、及び当該補修方法に用いた補修用部材の取り外し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海洋構造物、橋梁等の金属製構造物において疲労亀裂が発見された場合には、そのまま亀裂が進展し続けて重大な損傷事故に至ることがないよう、適切な対策を講じる必要がある。
しかし、稼働中又は供用中の構造物において大がかりな恒久的対策を講じることは困難な場合が多い。特に溶接やガウジング等の火気を伴う作業が禁じられた区域等においては、とりあえず施工が容易な応急処置を施しておき、次回の入渠時や大規模補修時等、恒久的対策が可能となるタイミングまで経過を見ながら何とか持たせるというのが現実的な対処方法となっている。
そのような応急処置として最も一般的に用いられるのは、亀裂先端部に貫通ドリル孔(ストップホール)を開けて応力集中を低減する方法だが、亀裂が長い場合や施工及び仕上げが不適切な場合など、ストップホールから亀裂が再発してしまう場合もある。
このストップホールからの亀裂の再発を防ぐため、特許文献1-2、及び非特許文献1-2には、ストップホールに専用の斜面型くさび部材をはめ込んでくさび荷重を付与することにより孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端からの亀裂再発を防いだり、再発き裂の進展を抑制する方法と、それに用いる適応型の斜面型くさび部材が開示されている(例えば特許文献2の
図8)。この適応型の斜面型くさび部材を用いる補修方法によれば、補修後に作用する過大荷重による孔部の開口変位に追随して斜面型くさび部材を自動的に調節して適応させ、くさび部材の緩みを防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、実際に作用する繰り返し荷重に応じて適切なくさび荷重が自動的に付与され、構造物中を進展する疲労亀裂を片側からでも簡便かつ効果的に補修することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6703280号公報
【特許文献2】特許第6864203号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高橋一比古,“くさび補強型ストップホールを用いた疲労き裂の簡易補修法”,溶接学会論文集,2019,第37巻,第2号,p.81-97
【非特許文献2】高橋一比古,“くさび補強型ストップホールを用いた疲労き裂の簡易補修法 -再発き裂への適用性と耐疲労スマートペーストの効果-”,溶接学会論文集,2020,第38巻,第4号,p.335-350
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1-2、及び非特許文献1-2に開示されている適応型の斜面型くさび部材は、作動方向が母板の面外方向となるため、母板の表裏面における突出寸法がやや大きくなる。このため、母板の表裏面近傍に十分なスペースが取れない場合や、ストップホールに一定の気密性又は水密性が求められる場合には適用し難い。
そこで本発明は、ストップホールにはめ込んだ際のくさび部材の突出寸法を斜面型くさび部材よりも小さくすることにより、適応型のくさび部材を用いた補修の適用対象を拡大することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した疲労亀裂の補修方法においては、構造物の母板に生じた疲労亀裂にストップホールを設けくさび部材をはめ込んで疲労亀裂を補修する疲労亀裂の補修方法であって、母板に長穴又は円孔のストップホールを加工するストップホール加工ステップと、ストップホールに楕円柱形を含むカム形のカム形くさび部材をはめ込むくさび部材はめ込みステップと、カム形くさび部材に回転付勢力を所定の範囲で作用させる回転付勢力発生ステップと、母板に作用する繰り返し引張荷重によるストップホールの伸長変形にカム形くさび部材を自動的に適応させてくさび荷重を発生させるくさび荷重発生ステップとを有することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、カム形くさび部材を用いることにより、ストップホールにはめ込んだ際のくさび部材の突出寸法を斜面型くさび部材よりも小さくすることが可能となるため、回転付勢力を作用させることと相まって、斜面型くさび部材では適用が困難であったスペースの小さい箇所などにも適応型のくさび部材を用いた補修の適用対象を拡大することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、ストップホール加工ステップにおいて、母板の疲労亀裂の先端部に、直径がカム形くさび部材の短径より大きく長径より小さい円孔を加工した後、疲労亀裂の側もしくは反対側の円孔壁をグラインダーを含む切削手段で切削して滑らかな長穴として、ストップホールを形成することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、長穴のストップホールを、切削手段を用いて適切に形成することができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、ストップホールが円孔の場合、ストップホール加工ステップとくさび部材はめ込ステップとの間で、円孔壁にスペーサーを装着することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、加工が容易な円孔のストップホールに対して、スペーサーを利用して適切にくさび荷重を付与することが可能となる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、スペーサーが、上側スペーサーと、下側スペーサーと、上側スペーサーと下側スペーサーを一体的に連結する可撓性連結手段から成る場合に、上側スペーサーの上端と下側スペーサーの下端を押して円孔にはめ込んで装着することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、ストップホールを円孔に比べて加工に手間と時間がかかる長穴とせずとも、可撓性連結手段を撓ませて円孔に上下一体型のスペーサーをはめ込むことで擬似的な長穴とすることができるため、現場における施工性を向上させることができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、回転付勢力発生ステップにおいて、 カム形くさび部材の回転角度を初期位置からπ/2までの範囲になるように回転付勢力を調節して所定の範囲で作用させることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、回転付勢力の調節により、カム形くさび部材が回り過ぎてくさびとしての機能が低下してしまうことを防止できる。
【0011】
請求項6記載に対応した疲労亀裂の補修用部材においては、構造物の母板に生じた疲労亀裂にストップホールを設けくさび部材をはめ込んで疲労亀裂を補修する疲労亀裂の補修用部材であって、母板に加工された長穴又は円孔のストップホールにはめ込む楕円柱形を含むカム形のカム形くさび部材と、カム形くさび部材に回転付勢力を作用させる回転付勢力発生手段と、カム形くさび部材の回転を所定の範囲で作用するように制限する回転停止手段を備え、母板に作用する繰り返し引張荷重によるストップホールの伸長変形にカム形くさび部材を自動的に適応させてくさび荷重を発生させることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、くさび部材がカム形であることにより、ストップホールにはめ込んだ際のくさび部材の突出寸法を斜面型くさび部材よりも小さくすることが可能となるため、回転付勢力を作用させることと相まって、斜面型くさび部材では適用が困難であったスペースの小さい箇所などにも適応型のくさび部材を用いた補修の適用対象を拡大することができる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、カム形くさび部材の楕円柱形を含むカム形は、カム形くさび部材の短軸から長軸に向かってなだらかに径が増していく形状であることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、カム形くさび部材を滑らかに回転が可能な適切な形状に形成することができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、ストップホールが長穴の場合、カム形くさび部材の長径が長穴の長穴長径よりも小さく、かつ長穴の長穴短径よりも大きく形成されていることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、長穴のストップホール内で回転するカム形くさび部材を、ストップホールの長穴壁に適切な範囲内で接触させて、くさび荷重を発生させることができる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、ストップホールが円孔の場合、カム形くさび部材が、回転付勢力の作用するカム形の第一くさび部品と、ストップホールにはめ込まれ第一くさび部品とストップホールの円孔壁との空隙を埋める第二くさび部品としてのスペーサーから成ることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、加工が容易な円孔のストップホールに対して、スペーサーを利用して適切にくさび荷重を発生させることが可能となる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、スペーサーが、上側スペーサーと、下側スペーサーと、上側スペーサーと下側スペーサーを一体的に連結する可撓性を有した可撓性連結手段から成ることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、ストップホールを円孔に比べて加工に手間と時間がかかる長穴とせずとも、可撓性連結手段を撓ませて円孔に上下一体型のスペーサーをはめ込むことで擬似的な長穴とすることができるため、現場における施工性を向上させることができる。
【0016】
請求項11記載の本発明は、上側スペーサー及び下側スペーサーの板厚方向断面形状が円弧及び弦からなる板厚方向に同一の断面形状であり、可撓性連結手段が略円弧形をした板バネであることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、ストップホールの上下端部と第二くさび部品である上下一体型のスペーサーとの間には板バネの付勢力によりそれぞれ押圧力が作用し、これにより上下端部に生じる摩擦力によって上下一体型のスペーサーを安定的に設置し、位置のずれや脱落を防止することができる。
【0017】
請求項12記載の本発明は、回転付勢力発生手段が渦巻きばねであることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、渦巻きばねにより母板の表裏面における突出を少なくして、カム形くさび部材に回転付勢力を安定して作用させることができる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、渦巻きばねの回転付勢力及び回転角度の範囲を調節する調節手段を備え、調節手段をカム形くさび部材の回転角度がπ/2で回転付勢力を略ゼロに調節することを可能にすることにより回転停止手段を兼ねて構成することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、回転角度がπ/2で回転付勢力を略ゼロになるように調節することにより、調節手段と回転停止手段を分けて設ける場合に比べて構成を簡素化することができる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、カム形くさび部材の板厚を母板の板厚よりも小さく設定し、板厚差により生ずるストップホールの母板とカム形くさび部材の空隙に回転付勢力発生手段と回転停止手段を臨ませたことを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、母板の表裏面からの補修用部材の突出を完全になくすことが可能となる。
【0020】
請求項15記載の本発明は、母板の表面及び裏面の少なくとも一方にカム形くさび部材、回転付勢力発生手段、及び回転停止手段を覆う柔軟性を有した密閉手段を設けたことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、ストップホールが密閉手段により塞がれるため、ストップホールに一定の気密/水密性が求められる場合にも適用することが可能となる。また、密閉手段は、柔軟性を有することにより、繰り返し引張荷重によって開閉口する疲労亀裂や変形するストップホールに柔軟に追随して変形し、気密/水密性を維持することが可能となる。
【0021】
請求項16記載の本発明は、回転停止手段が、母板に設けたストッパーと、ストッパーに当接可能なカム形くさび部材に形成した凸部により構成されることを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、カム形くさび部材は所定の範囲回転したとき凸部がストッパーに当接して停止するため、カム形くさび部材が所定の範囲を超えて回転することが制限できる。
【0022】
請求項17記載の本発明は、ストッパーが疲労亀裂と直交する方向にストップホールを跨いで設けられていることを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、ストッパーが単体でしっかり固定されるため、凸部がストッパーに当接したカム形くさび部材の回転を確実に停止することができる。また、カム形くさび部材がストップホールから脱落するのをストッパーで防止することができる。
【0023】
請求項18記載の本発明は、ストッパーを母板の表裏両側に設け、これらに当接可能な凸部をカム形くさび部材の表裏両側にそれぞれ設けたことを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、回転停止手段が表裏両側に設けられているため、凸部がストッパーに当接したカム形くさび部材の回転をより確実に停止することができ、また、カム形くさび部材がストップホールから脱落するのを表裏両側のストッパーで防止することができる。
【0024】
請求項19記載の本発明は、ストッパーを母板の裏側に設け、これに当接可能な凸部をカム形くさび部材の裏側に設け、回転付勢力発生手段を母板の表側に設けたことを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、回転停止手段としてのストッパーを裏側に設け回転付勢力発生手段を表側に設けることで、両手段を同じ側に設けて空間的に競合してしまうことを回避できる。
【0025】
請求項20記載の本発明は、回転付勢力発生手段をカム形くさび部材の中心部に形成したプーリーと、プーリーに係止されたワイヤーを含む線材と、線材の先端に設けた錘をもって構成し、回転停止手段を錘を受ける台をもって構成したことを特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、回転付勢力発生手段をプーリーを用いた構成とすることにより、カム形くさび部材に回転付勢力を安定して作用させることができる。また、カム形くさび部材が所定の範囲を超えて回転することを台が錘を受けることによって制限できる。
【0026】
請求項21記載の本発明は、回転付勢力発生手段をカム形くさび部材の中心部に形成したプーリーと、プーリーに係止されたワイヤーを含む線材と、線材に接続した弾性体をもって構成し、回転停止手段を弾性体の張力を調整する調整手段をもって構成したことを特徴とする。
請求項21に記載の本発明によれば、回転付勢力発生手段をプーリーと弾性体を用いた構成とすることにより、カム形くさび部材に回転付勢力を安定して作用させることができる。また、カム形くさび部材が所定の範囲を超えて回転することを調整手段で弾性体の張力を調整することによって制限できる。
【0027】
請求項22記載の本発明は、母板の面の方向が鉛直もしくは鉛直±π/4の範囲の場合に、回転付勢力発生手段をカム形くさび部材の中心部から略水平な方向に延出し重力により回転トルクを発生させるレバーウェイトをもって構成し、回転停止手段をレバーウェイトが略水平な方向と直交し母板の表面と略平行な方向の母板の下部にまで回転し停止することをもって構成したことを特徴とする。
請求項22に記載の本発明によれば、レバーウェイトにより、カム形くさび部材に回転付勢力を安定して作用させ、また、カム形くさび部材の所定の範囲を超えた回転を制限できる。
【0028】
請求項23記載の本発明は、カム形くさび部材の中心部に六角柱形を含む凸型嵌合部を形成し、レバーウェイトを凸型嵌合部に嵌合させたことを特徴とする。
請求項23に記載の本発明によれば、レバーウェイトによる回転付勢力を凸型嵌合部を介してカム形くさび部材に作用させることができる。
【0029】
請求項24記載の本発明は、カム形くさび部材の材質を母板のヤング率と略同等もしくはそれ以上のヤング率を有する金属及びセラミックスを含む材質から選定することを特徴とする。
請求項24に記載の本発明によれば、カム形くさび部材のヤング率が大きいことにより、繰り返し引張荷重の負荷及び除荷に伴うストップホールの変形量をより抑制することができる。
【0030】
請求項25記載に対応した疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法においては、疲労亀裂の補修方法におけるくさび荷重が発生しているカム形くさび部材をストップホールから取り外す疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法であって、カム形くさび部材に作用させている回転付勢力とは反対の方向にトルク発生手段によりトルクを加え、カム形くさび部材を弛緩させた後、カム形くさび部材を取り外すことを特徴とする。
請求項25に記載の本発明によれば、回転付勢力とは反対方向のトルクを加えることにより、カム形くさび部材を安全かつ確実に取り外すことができる。
【0031】
請求項26記載の本発明は、トルク発生手段が取り外し用工具であり、くさび荷重が小さい場合、カム形くさび部材に設けた凸型嵌合部に取り外し用工具をはめ込んで、回転付勢力とは反対の方向にトルクを加えることを特徴とする。
請求項26に記載の本発明によれば、凸型嵌合部を有するカム形くさび部材をトルク発生手段を兼ねた取り外し用工具で安全かつ確実に取り外すことができる。
【0032】
請求項27記載の本発明は、取り外し用工具を請求項19に記載の疲労亀裂の補修用部材におけるレバーウェイトで代用し、回転付勢力とは反対の方向にトルクを加えることを特徴とする。
請求項27に記載の本発明によれば、取り外し用工具を別途用意することなく、凸型嵌合部を有するカム形くさび部材をレバーウェイトで安全かつ確実に取り外すことができる。
【0033】
請求項28記載の本発明は、トルク発生手段が逆回転力付勢機構であり、くさび荷重が大きい場合、逆回転力付勢機構により反対の方向に逆回転付勢力を作用させて、大きな引張外荷重の負荷時にカム形くさび部材が通常時とは逆方向に回転するようにし、一定期間の経過をみることを特徴とする。
請求項28に記載の本発明によれば、くさび荷重が大きいことにより取り外し難くなっているカム形くさび部材を、大きな引張外荷重が作用してくさび荷重が弛緩したときに自動的に逆方向に回転させて、安全かつ確実に取り外すことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の疲労亀裂の補修方法によれば、カム形くさび部材を用いることにより、ストップホールにはめ込んだ際のくさび部材の突出寸法を斜面型くさび部材よりも小さくすることが可能となるため、回転付勢力を作用させることと相まって、斜面型くさび部材では適用が困難であったスペースの小さい箇所などにも適応型のくさび部材を用いた補修の適用対象を拡大することができる。
【0035】
また、ストップホール加工ステップにおいて、母板の疲労亀裂の先端部に、直径がカム形くさび部材の短径より大きく長径より小さい円孔を加工した後、疲労亀裂の側もしくは反対側の円孔壁をグラインダーを含む切削手段で切削して滑らかな長穴として、ストップホールを形成する場合には、長穴のストップホールを、切削手段を用いて適切に形成することができる。
【0036】
また、ストップホールが円孔の場合、ストップホール加工ステップとくさび部材はめ込ステップとの間で、円孔壁にスペーサーを装着する場合には、加工が容易な円孔のストップホールに対して、スペーサーを利用して適切にくさび荷重を付与することが可能となる。
【0037】
また、スペーサーが、上側スペーサーと、下側スペーサーと、上側スペーサーと下側スペーサーを一体的に連結する可撓性連結手段から成る場合に、上側スペーサーの上端と下側スペーサーの下端を押して円孔にはめ込んで装着する場合には、ストップホールを円孔に比べて加工に手間と時間がかかる長穴とせずとも、可撓性連結手段を撓ませて円孔に上下一体型のスペーサーをはめ込むことで擬似的な長穴とすることができるため、現場における施工性を向上させることができる。
【0038】
また、回転付勢力発生ステップにおいて、 カム形くさび部材の回転角度を初期位置からπ/2までの範囲になるように回転付勢力を調節して所定の範囲で作用させる場合には、回転付勢力の調節により、カム形くさび部材が回り過ぎてくさびとしての機能が低下してしまうことを防止できる。
【0039】
また、疲労亀裂の補修用部材によれば、くさび部材がカム形であることにより、ストップホールにはめ込んだ際のくさび部材の突出寸法を斜面型くさび部材よりも小さくすることが可能となるため、回転付勢力を作用させることと相まって、斜面型くさび部材では適用が困難であったスペースの小さい箇所などにも適応型のくさび部材を用いた補修の適用対象を拡大することができる。
【0040】
また、カム形くさび部材の楕円柱形を含むカム形は、カム形くさび部材の短軸から長軸に向かってなだらかに径が増していく形状である場合には、カム形くさび部材を滑らかに回転が可能な適切な形状に形成することができる。
【0041】
また、ストップホールが長穴の場合、カム形くさび部材の長径が長穴の長穴長径よりも小さく、かつ長穴の長穴短径よりも大きく形成されている場合には、長穴のストップホール内で回転するカム形くさび部材を、ストップホールの長穴壁に適切な範囲内で接触させて、くさび荷重を発生させることができる。
【0042】
また、ストップホールが円孔の場合、カム形くさび部材が、回転付勢力の作用するカム形の第一くさび部品と、ストップホールにはめ込まれ第一くさび部品とストップホールの円孔壁との空隙を埋める第二くさび部品としてのスペーサーから成る場合には、加工が容易な円孔のストップホールに対して、スペーサーを利用して適切にくさび荷重を発生させることが可能となる。
【0043】
また、スペーサーが、上側スペーサーと、下側スペーサーと、上側スペーサーと下側スペーサーを一体的に連結する可撓性を有した可撓性連結手段から成る場合には、ストップホールを円孔に比べて加工に手間と時間がかかる長穴とせずとも、可撓性連結手段を撓ませて円孔に上下一体型のスペーサーをはめ込むことで擬似的な長穴とすることができるため、現場における施工性を向上させることができる。
【0044】
また、上側スペーサー及び下側スペーサーの板厚方向断面形状が円弧及び弦からなる板厚方向に同一の断面形状であり、可撓性連結手段が略円弧形をした板バネである場合には、ストップホールの上下端部と第二くさび部品である上下一体型のスペーサーとの間には板バネの付勢力によりそれぞれ押圧力が作用し、これにより上下端部に生じる摩擦力によって上下一体型のスペーサーを安定的に設置し、位置のずれや脱落を防止することができる。
【0045】
また、回転付勢力発生手段が渦巻きばねである場合には、渦巻きばねにより母板の表裏面における突出を少なくして、カム形くさび部材に回転付勢力を安定して作用させることができる。
【0046】
また、渦巻きばねの回転付勢力及び回転角度の範囲を調節する調節手段を備え、調節手段をカム形くさび部材の回転角度がπ/2で回転付勢力を略ゼロに調節することを可能にすることにより回転停止手段を兼ねて構成する場合には、回転角度がπ/2で回転付勢力を略ゼロになるように調節することにより、調節手段と回転停止手段を分けて設ける場合に比べて構成を簡素化することができる。
【0047】
また、カム形くさび部材の板厚を母板の板厚よりも小さく設定し、板厚差により生ずるストップホールの母板とカム形くさび部材の空隙に回転付勢力発生手段と回転停止手段を臨ませた場合には、母板の表裏面からの補修用部材の突出を完全になくすことが可能となる。
【0048】
また、母板の表面及び裏面の少なくとも一方にカム形くさび部材、回転付勢力発生手段、及び回転停止手段を覆う柔軟性を有した密閉手段を設けた場合には、ストップホールが密閉手段により塞がれるため、ストップホールに一定の気密/水密性が求められる場合にも適用することが可能となる。また、密閉手段は、柔軟性を有することにより、繰り返し引張荷重によって開閉口する疲労亀裂や変形するストップホールに柔軟に追随して変形し、気密/水密性を維持することが可能となる。
【0049】
また、回転停止手段が、母板に設けたストッパーと、ストッパーに当接可能なカム形くさび部材に形成した凸部により構成される場合には、カム形くさび部材は所定の範囲回転したとき凸部がストッパーに当接して停止するため、カム形くさび部材が所定の範囲を超えて回転することが制限できる。
【0050】
また、ストッパーが疲労亀裂と直交する方向にストップホールを跨いで設けられている場合には、ストッパーが単体でしっかり固定されるため、凸部がストッパーに当接したカム形くさび部材の回転を確実に停止することができる。また、カム形くさび部材がストップホールから脱落するのをストッパーで防止することができる。
【0051】
また、ストッパーを母板の表裏両側に設け、これらに当接可能な凸部をカム形くさび部材の表裏両側にそれぞれ設けた場合には、回転停止手段が表裏両側に設けられているため、凸部がストッパーに当接したカム形くさび部材の回転をより確実に停止することができ、また、カム形くさび部材がストップホールから脱落するのを表裏両側のストッパーで防止することができる。
【0052】
また、ストッパーを母板の裏側に設け、これに当接可能な凸部をカム形くさび部材の裏側に設け、回転付勢力発生手段を母板の表側に設けた場合には、回転停止手段としてのストッパーを裏側に設け回転付勢力発生手段を表側に設けることで、両手段を同じ側に設けて空間的に競合してしまうことを回避できる。
【0053】
また、回転付勢力発生手段をカム形くさび部材の中心部に形成したプーリーと、プーリーに係止されたワイヤーを含む線材と、線材の先端に設けた錘をもって構成し、回転停止手段を錘を受ける台をもって構成した場合には、回転付勢力発生手段をプーリーを用いた構成とすることにより、カム形くさび部材に回転付勢力を安定して作用させることができる。また、カム形くさび部材が所定の範囲を超えて回転することを台が錘を受けることによって制限できる。
【0054】
また、回転付勢力発生手段をカム形くさび部材の中心部に形成したプーリーと、プーリーに係止されたワイヤーを含む線材と、線材に接続した弾性体をもって構成し、回転停止手段を弾性体の張力を調整する調整手段をもって構成した場合には、回転付勢力発生手段をプーリーと弾性体を用いた構成とすることにより、カム形くさび部材に回転付勢力を安定して作用させることができる。また、カム形くさび部材が所定の範囲を超えて回転することを調整手段で弾性体の張力を調整することによって制限できる。
【0055】
また、母板の面の方向が鉛直もしくは鉛直±π/4の範囲の場合に、回転付勢力発生手段をカム形くさび部材の中心部から略水平な方向に延出し重力により回転トルクを発生させるレバーウェイトをもって構成し、回転停止手段をレバーウェイトが略水平な方向と直交し母板の表面と略平行な方向の母板の下部にまで回転し停止することをもって構成した場合には、レバーウェイトにより、カム形くさび部材に回転付勢力を安定して作用させ、また、カム形くさび部材の所定の範囲を超えた回転を制限できる。
【0056】
また、カム形くさび部材の中心部に六角柱形を含む凸型嵌合部を形成し、レバーウェイトを凸型嵌合部に嵌合させた場合には、レバーウェイトによる回転付勢力を凸型嵌合部を介してカム形くさび部材に作用させることができる。
【0057】
また、カム形くさび部材の材質を母板のヤング率と略同等もしくはそれ以上のヤング率を有する金属及びセラミックスを含む材質から選定する場合には、カム形くさび部材のヤング率が大きいことにより、繰り返し引張荷重の負荷及び除荷に伴うストップホールの変形量をより抑制することができる。
【0058】
また、本発明の疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法によれば、回転付勢力とは反対方向のトルクを加えることにより、カム形くさび部材を安全かつ確実に取り外すことができる。
【0059】
また、トルク発生手段が取り外し用工具であり、くさび荷重が小さい場合、カム形くさび部材に設けた凸型嵌合部に取り外し用工具をはめ込んで、回転付勢力とは反対の方向にトルクを加える場合には、凸型嵌合部を有するカム形くさび部材をトルク発生手段を兼ねた取り外し用工具で安全かつ確実に取り外すことができる。
【0060】
また、取り外し用工具をレバーウェイトで代用し、回転付勢力とは反対の方向にトルクを加える場合には、取り外し用工具を別途用意することなく、凸型嵌合部を有するカム形くさび部材をレバーウェイトで安全かつ確実に取り外すことができる。
【0061】
また、トルク発生手段が逆回転力付勢機構であり、くさび荷重が大きい場合、逆回転力付勢機構により反対の方向に逆回転付勢力を作用させて、大きな引張外荷重の負荷時にカム形くさび部材が通常時とは逆方向に回転するようにし、一定期間の経過をみる場合には、くさび荷重が大きいことにより取り外し難くなっているカム形くさび部材を、大きな引張外荷重が作用してくさび荷重が弛緩したときに自動的に逆方向に回転させて、安全かつ確実に取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】本発明の第1の実施形態による長穴のストップホールにカム形くさび部材を挿入した状態を示す図
【
図4】本発明の第1-1の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図5】本発明の第1-2の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図7】本発明の第1-3の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図8】同カム形くさび部材の適応動作が完了した状態を示す図
【
図9】本発明の第1-4の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図10】本発明の第1-5の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図11】本発明の第1-6の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図12】本発明の第1-7の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図13】本発明の第1-8の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図14】本発明の第1-9の実施形態においてカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図
【
図15】同カム形くさび部材の適応動作が完了した状態を示す図
【
図16】本発明の第2の実施形態による円孔のストップホールにカム形くさび部材を挿入した状態を示す図
【
図17-1】同カム形くさび部材の適応動作を示す図
【
図17-2】同カム形くさび部材の適応動作を示す図
【
図18】本発明の第2-1の実施形態による第二くさび部品としてのスペーサーを示す図
【
図19】同スペーサーを装着したストップホールに第一くさび部品を挿入した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明の実施形態による疲労亀裂の補修方法、疲労亀裂の補修用部材、及び疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法について説明する。
本実施形態の疲労亀裂の補修方法は、船舶、海洋構造物又は橋梁等の構造物の母板に疲労亀裂が生じた場合に、疲労亀裂の先端部等にストップホールを設け、そのストップホールに補修用部材に含まれるカム形のカム形くさび部材をはめ込み、母板に作用する繰り返し引張荷重によるストップホールの伸長変形にカム形くさび部材を自動的に適応動作(回転)させることにより構造物の応力変動幅を抑制する。
ストップホールは、挿入するカム形くさび部材の形状寸法に合わせて、適応動作としてのカム形くさび部材の回転が円滑に行われるような形状寸法とする。ストップホールの形状は長穴又は円孔(正円形)とするが、長穴に形成する場合と円孔に形成する場合とで用いるカム形くさび部材が異なるため、それぞれの場合に分けて以下に説明する。
【0064】
第1の実施形態として、長穴のストップホールを形成する場合における疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。
図1は長穴のストップホールにカム形くさび部材を挿入した状態を示す図であり、
図1(a)は正面図、
図1(b)は中央断面図である。
図2はカム形くさび部材の形状の例を示す図である。
補修用部材は、断面形状が楕円となった楕円柱形のカム形くさび部材20と、カム形くさび部材20に回転付勢力Rを作用させる回転付勢力発生手段(
図1では図示略)と、カム形くさび部材20の回転を所定の範囲で作用するように制限する回転停止手段(
図1では図示略)を備える。
カム形くさび部材20の板厚は、母板1の板厚と同等以下とすることが好ましい。カム形くさび部材20は、必ずしも楕円柱形である必要はなく、例えば中心角に比例して径が増大していく渦巻き形など、短軸から長軸に向かってなだらかに径が増していくような任意の形状とすることが可能である。これにより、カム形くさび部材を滑らかに回転が可能な適切な形状に形成できる。
図2においては、楕円柱形のカム形くさび部材20の場合を実線で示し、渦巻き形のカム形くさび部材20の場合を点線で示している。このうち渦巻き形のカム形くさび部材20については、第I~第IVの各象限において短径から長径に向かって中心角θ(0≦θ≦π/2)に比例して径が増大しており、各象限の形状はX、Y軸に関して対象な形状となっている。
カム形くさび部材20の材質は任意だが、繰り返し引張荷重(外荷重、引張外力)Fの負荷及び除荷に伴うストップホール10の変形量を抑制するという本補強方法(補修方法)の原理から、その剛性、特にヤング率はできるだけ高いことが好ましく、少なくとも母板1と略同等もしくはそれ以上のヤング率を有する材質を選定することが好ましい。なお、「母板1と略同等」の基準としては、例えば、母板1のヤング率との差が、母板1のヤング率の-10%以内とする。また、カム形くさび部材20は稼働中に大きな繰り返し圧縮荷重を受けるため、金属やセラミックス等の圧縮強度に優れた材質が適している。
【0065】
本実施形態の補修方法においては、まず、対象とする母板1に生じた疲労亀裂2の先端部に、長穴のストップホール10を加工する(ストップホール加工ステップ)。ストップホール10の形状寸法は、カム形くさび部材20と互いに適合するように設定する。長穴のストップホール10を形成する場合は、母板1に生じた疲労亀裂2の先端部に、直径がカム形くさび部材20の短径20bよりも僅かに大きく長径20aよりも小さい正円形の円孔をドリルで加工した後、疲労亀裂2の側もしくは反対側の円孔壁をグラインダー等の切削手段で切削して、ストップホール10となる滑らかな長穴を形成する。これにより、長穴のストップホール10を、切削手段を用いて適切に形成することができる。
このとき、長穴のストップホール10の長径である長穴長径は、カム形くさび部材20の長径20aよりも十分大きくなるようにし、適応動作に伴うカム形くさび部材20の回転を妨げることのないよう留意する。なお、円孔の加工後に切削手段で削る際は、疲労亀裂2の側を削る方が、孔も含めた疲労亀裂2の全長を抑えるという点において、反対側の円孔壁を削るよりも若干有利である。
また、これにより、カム形くさび部材20の長径20aは、長穴長径よりも小さく長穴短径よりも大きく形成されていることとなるため、長穴のストップホール10内で回転するカム形くさび部材20を、ストップホール10の長穴壁(内壁)に適切な範囲内で接触させて、くさび荷重Wを発生させることができる。
【0066】
ストップホール加工ステップの後、ストップホール10にカム形くさび部材20をはめ込む(くさび部材はめ込みステップ)。カム形くさび部材20は、断面における楕円の長径20aが疲労亀裂2の進展方向と略平行となり、短径20bが疲労亀裂2の進展方向と略垂直となるように設置する。
カム形くさび部材20の板厚を母板1の板厚と略同一としているので、
図1(b)に示すように、ストップホール10にはめ込まれたカム形くさび部材20はストップホール10から殆ど突出しない。
【0067】
くさび部材はめ込みステップの後、カム形くさび部材20に回転付勢力Rを所定の範囲で作用させる(回転付勢力発生ステップ)。カム形くさび部材20には、
図1に示すように、楕円断面のほぼ中心を軸とする時計回りの回転付勢力Rが作用するようになっている。
回転付勢力Rを発生させる機構は任意であり、例えば、渦巻きばね、引張/圧縮コイルばね、捩りコイルばね、永久磁石、ゴム等の弾性体、楕円軸に取り付けたプーリー及び糸・錘などを利用することができる。また、回転付勢力Rの方向も、一定方向であれば任意である。
【0068】
回転付勢力発生ステップの後、母板1に作用する繰り返し引張荷重によるストップホール10の伸長変形にカム形くさび部材20を自動的に適応させてくさび荷重Wを発生させる(くさび荷重発生ステップ)。
図3-1及び
図3-2はカム形くさび部材の適応動作を示す図であり、母板1に繰り返しの引張荷重Fが作用して長穴のストップホール10が変形した場合、カム形くさび部材20がどのように適応していくかを逐次的に示している。以下、順を追って説明するが、説明中における「右回り」や「上」、「下」等の方向は、図中におけるものである。
【0069】
i)
図3-1(a)は、長穴のストップホール10にカム形くさび部材20を挿入した状態である。回転付勢力Rはまだ作用させておらず、ストップホール10の上端部とカム形くさび部材20の間には僅かな隙間が存在する。
ii)カム形くさび部材20に右回り(時計回り)の回転付勢力Rを作用させると、カム形くさび部材20は、右回りに僅かに回転し、
図3-1(b)に点線円で示した二箇所でストップホール10の上端部及び下端部と接触し、回転を止める。このとき、二箇所の接触部においては若干の接触圧力(微小なくさび荷重)が生じている。
【0070】
iii)母板1に疲労亀裂2を開く方向の引張荷重F
1が作用すると、疲労亀裂2が広がると同時にストップホール10が上下方向に引張変形(伸長変形)し、
図3-1(c)に示すように、ストップホール10の上端部とカム形くさび部材20の間には僅かな隙間が生じる。なお、ここでは簡単のため隙間はストップホール10の上端部側のみに生じると仮定しているが、実際にはストップホール10の下端部側にも微小な隙間が生じうる。
iv)カム形くさび部材20には回転付勢力Rが作用しているため、カム形くさび部材20は、“iii”で生じたストップホール10とカム形くさび部材20との隙間を埋めるように右回りに回転し、
図3-1(d)に点線円で示した二箇所でストップホール10の上端部及び下端部と接触し、回転を止める。このとき、二箇所の接触部においては若干の接触圧力(微小なくさび荷重)が生じている。
v)引張荷重F
1が除荷されると、上下方向に伸長していたストップホール10は元に戻ろうとするが、“iv”における適応動作(回転)により二箇所で接しているカム形くさび部材20がくさびとなっているため自由に収縮変形できず、
図3-1(e)に示すように、結果としてストップホール10の上下端部には大きなくさび荷重W
1及びW
2がそれぞれ生じる。このとき、くさび荷重W
1及びW
2の作用方向は、
図1における楕円短軸方向とは僅かにずれているが、実際のずれ角度は僅かであり、引張荷重F
1の除荷時には接触箇所において大きな摩擦力が働くため、カム形くさび部材20がストップホール10の孔壁上を滑って回転したりすることはない。
【0071】
vi)母板1に引張荷重F
1よりも大きい引張荷重F
2(F
2>F
1)が作用すると、ストップホール10は更に上下方向に引張変形(伸長変形)し、
図3-1(f)に示すように、ストップホール10の上端部とカム形くさび部材20の間には再び隙間が生じる。
vii)カム形くさび部材20には回転付勢力Rが作用しているため、カム形くさび部材20は、“vi”で生じたストップホール10とカム形くさび部材20との隙間を埋めるように右回りに回転し、
図3-1(g)に点線円で示した二箇所でストップホール10の上端部及び下端部と接触し、回転を止める。このとき、二箇所の接触部においては若干の接触圧力(微小なくさび荷重)が生じている。
viii)引張荷重F
2が除荷されると、“v”と同様の原理により、
図3-1(h)に示すように、ストップホール10の上下端部には大きなくさび荷重W
1及びW
2がそれぞれ生じる(但し、くさび荷重W
1及びW
2の値は“v”の時点と同じとは限らない)。
【0072】
ix)~xi)“vi”~“viii”と同様に、
図3-2(i)に示すように母板1に対してより大きな引張荷重F
3が作用し、ストップホール10の上端部とカム形くさび部材20の間に隙間が生じる毎に、
図3-2(j)に示すようにカム形くさび部材20が回転して適応動作を行い、
図3-2(k)に示すように除荷時にはストップホール10の上下端部に適切なくさび荷重W
1及びW
2が生じる(但し、くさび荷重W
1及びW
2の値は“v”、“viii”の時点と同じとは限らない)。
【0073】
xii)母板1に引張荷重F
3よりも大きい引張荷重F
4(F
4>F
3)が作用すると、ストップホール10は更に上下方向に引張変形(伸長変形)し、
図3-2(l)に示すように、ストップホール10の上端部とカム形くさび部材20の間には再び隙間が生じる。
xiii)カム形くさび部材20には回転付勢力Rが作用しているため、カム形くさび部材20は、“xii”で生じたストップホール10とカム形くさび部材20との隙間を埋めるように右回りに回転し、楕円の短径20bが疲労亀裂2の進展方向とちょうど平行になった状態で回転を停止する。即ち、カム形くさび部材20が“i”の初期位置(初期状態)からπ/2だけ回転して
図3-2(m)に示すような位置関係になったら、それ以上は回転付勢力Rが作用しないように予めストッパー等の回転停止手段により機構的な制限を施しておき、カム形くさび部材20の適応動作はそこで完了とする。よって、
図3-2(m)の場合、カム形くさび部材20は図中に点線円で示した二箇所でストップホール10の上端部及び下端部とちょうど接触した状態となっているが、仮にカム形くさび部材20の上端とストップホール10の上端部との間に更なる隙間が生じていても、カム形くさび部材20がそれ以上回転することはない。
xiv)引張荷重F
4が除荷されると、“v”と同様の原理により、
図3-2(n)に示すように、ストップホール10の上下端部には大きなくさび荷重W
1及びW
2がそれぞれ生じる(但し、くさび荷重W
1及びW
2の値は“v”、“viii”及び“xi”の場合と同じとは限らない)。
【0074】
このように、母板1に作用する繰り返し引張荷重Fによるストップホール10の伸長変形にカム形くさび部材20を自動的に適応させてくさび荷重Wを発生させることにより、ストップホール10の孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端部からの疲労亀裂の再発及び進展を防ぐことができる。特に、くさび部材をカム形とすることにより、ストップホール10にはめ込んだ際のくさび部材の突出寸法が斜面型くさび部材よりも小さくなるため、スペースの都合で斜面型くさび部材が設置し難い箇所にも適用することができるなど、適応型のくさび部材を用いた補修の適用対象を拡大することができる。
【0075】
次に、第1の実施形態の派生形態として、第1-1の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図4は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図であり、
図4(a)は正面図、
図4(b)は中央断面図である。但し、分かり易いように渦巻きばね30と調節手段40は見取り図としている。
本実施形態における補修用部材の基本的な構成や動作原理は第1の実施形態と同じであるが、カム形くさび部材20の表側中央部に設けた円柱形の付勢用凸部(ばね基端固定部31A)に、回転付勢力発生手段としての渦巻きばね30の一端を連結することにより回転付勢力Rを発生させる点に特徴がある。回転付勢力発生手段を渦巻きばね30とすることにより、母板1の表裏面における突出を少なくして、カム形くさび部材20に回転付勢力Rを安定して作用させることができる。
ばね基端固定部31Aには、
図4(a)に示すような所謂Dカット32を設けておくことが好ましい。これにより、ストップホール10に嵌まった状態のカム形くさび部材20を取り外す際に、ばね基端固定部31A及びDカット32に嵌合するような専用の工具を用いて回転付勢力Rとは逆方向のトルクを加え、確実に取り外すことが可能となる。
【0076】
本実施形態の補修用部材は、渦巻きばね30の回転付勢力R及び回転角度の範囲を調節する調節手段40を備える。調節手段40は、ストップホール10よりも若干下方の位置において母板1に設けられている。渦巻きばね30は、他端が調節手段40を介して母板1の表面に固定されており、渦巻きばね30がカム形くさび部材20に及ぼす回転付勢力Rの大きさや、回転付勢力Rを付与されたカム形くさび部材20の回転角度の範囲は、調節手段40によって巻き締め具合を変えることで適切に調節可能である。
例えば、
図3-2(m)に示す状態(初期位置からの回転角度π/2)となった時点で回転付勢力Rが略ゼロとなるように(それ以上回転しないように)調節手段40で調節しておくことが可能である。この場合は、調節手段40が回転停止手段を兼ねた構成となり、回転角度がπ/2で回転付勢力Rを略ゼロになるように調節することにより、カム形くさび部材20の回転を停止させる機構(回転停止手段)を調節手段40とは別に設けなくて済むため、両手段を分けて設ける場合に比べて構成を簡素化することができる。
他方、補修用部材が調節手段40とは別に回転停止手段を有する場合には、
図3-2(m)に示す状態となった時点でも一定の回転付勢力Rが作用し続けるように調節手段40で調節することができる。
【0077】
次に、第1の実施形態の他の派生形態として、第1-2の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図5は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図であり、
図5(a)は正面図、
図5(b)は中央断面図である。但し、分かり易いように渦巻きばね30と調節手段40は見取り図としている。
本実施形態における補修用部材の基本的な構成や動作原理は第1-1の実施形態と同じであるが、カム形くさび部材20の板厚を減じて、母板1の板厚よりも小さくしている点に特徴がある。これにより、
図5(b)に示す通り、長穴のストップホール10にカム形くさび部材20を挿入し、母板1の裏面にカム形くさび部材20の裏面を揃え面一にした場合、カム形くさび部材20の前面側には板厚差分の空隙α(
図5(b)において点線で囲んだ部分)が形成される。この空隙αを利用して、回転付勢力Rの発生機構である渦巻きばね30と調節手段40をストップホール10内に埋め込んでいる。
このように、カム形くさび部材20の板厚を母板1の板厚よりも小さく設定し、板厚差により生ずるストップホール10の母板1とカム形くさび部材20の空隙αに回転付勢力発生手段と回転停止手段を臨ませることにより、母板1の表裏面からの補修用部材の突出を完全になくすことが可能となる。
【0078】
本実施形態における補修用部材は、第1-1の実施形態と同様に、ばね基端固定部31Aを設けたカム形くさび部材20と、回転付勢力発生手段としての渦巻きばね30と、回転停止手段を兼ねることが可能な調節手段40を有するが、母板1の表裏面からの補修用部材の突出を完全になくすために、調節手段40がストップホール10の円孔壁に設けられ、渦巻きばね30の他端は、調節手段40を介してストップホール10の円孔壁に固定されている。
本実施形態においても、渦巻きばね30がカム形くさび部材20に及ぼす回転付勢力Rの大きさや、回転付勢力Rが生じるカム形くさび部材20の回転角度範囲は、調節手段40によって適切に調節することが可能である。
例えば、
図3-2(m)に示す状態(回転角度π/2)となった時点で回転付勢力Rが略ゼロとなるように(それ以上回転しないように)調節手段40で調節しておくことが可能である。この場合は、調節手段40が回転停止手段を兼ねた構成となり、カム形くさび部材20の回転を停止させる機構(回転停止手段)を調節手段40とは別に設けなくて済むため、両手段をそれぞれ設ける場合に比べて構成を簡素化することができる。
他方、補修用部材が調節手段40とは別に回転停止手段を有する場合には、
図3-2(m)に示す状態となった時点でも一定の回転付勢力Rが作用し続けるように調節手段40で調節することができる。
【0079】
ここで、
図6は第1-2の実施形態において密閉手段を設けた例を示す図である。
補修用部材が母板1の表裏面から突出しないことのメリットは種々あるが、メリットの一例として、
図6に示すように、ストップホール10及び疲労亀裂2の母板表面側開口部を、密閉手段50により塞ぎ易くなることが挙げられる。なお、ストップホール10及び疲労亀裂2の母板裏面側開口部のみを密閉手段50で塞ぐこと、又は母板表面側開口部と母板裏面側開口部の両方を密閉手段50で塞ぐことも可能である。
密閉手段50は、ある程度柔軟性のある樹脂、又はシーラント等により形成されており、繰り返し引張荷重Fによってストップホール10が変形したり疲労亀裂2が開閉口したりしても柔軟に追随して変形することが可能となっている。また、密閉手段50とストップホール10内に位置するばね基端固定部31Aや渦巻きばね30との間には間隙が設けられており、密閉手段50がカム形くさび部材20の回転を阻害することはない。
このように、母板1の表面及び裏面の少なくとも一方にカム形くさび部材20、回転付勢力発生手段、及び回転停止手段又は調節手段40兼回転停止手段を覆う柔軟性を有した密閉手段50を設けた構成とすることにより、ストップホール10及び疲労亀裂2の開口部が塞がれるため、ストップホール10に一定の気密/水密性が求められる場合にも本補修方法を適用することが可能となる。また、密閉手段50は上記のように柔軟性を有し疲労亀裂2の開閉口やストップホール10の変形に柔軟に追従して変形するため、気密/水密性を維持することが可能である。
【0080】
次に、第1の実施形態の更に他の派生形態として、第1-3の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図7は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図、
図8は本実施形態においてカム形くさび部材の適応動作が完了した状態を示す図であり、
図7(a)及び
図8(a)は正面図、
図7(b)及び
図8(b)は中央断面図である。但し、分かり易いように回転停止手段は見取り図としている。
本実施形態では、回転停止手段が、母板1に設けた二つのストッパー60Aと、ストッパー60Aに当接可能な二つの凸部(止め用凸部)61により構成されている。
ストッパー60Aは、長さがストップホール10の短径(長穴短径)の半分よりも短く、ストップホール10の上端部側と下端部側のそれぞれにおいて母板1に固定されている。各ストッパー60Aは、長さの半分ほどがストップホール10側へ突出している。ストッパー60Aの固定方法は接着やビス止め等、任意であるが、母板1が磁性体の場合にはネオジム磁石等の強力磁石を用いると着脱が容易となり便利である。但し、強力磁石を用いる場合は、磁力がカム形くさび部材20の回転運動を阻害しないように留意する。また、ストッパー60Aがストップホール10側に迫り出す部分には、
図7(b)に示すように適度の凹みを設け、カム形くさび部材20と接触してその回転運動を阻害することのないようにしている。
凸部61は、円柱形であり、カム形くさび部材20の表側において二箇所に形成されている。凸部61同士はカム形くさび部材20の回転軸周りに180度離れており、初期状態(
図7の状態)において、一方の凸部61がストップホール10の上端部に設けたストッパー60Aから左方に90度離れた位置となり、他方の凸部61がストップホール10の下端部に設けたストッパー60Aから右方に90度離れた位置となるように、二つの凸部61の形成箇所が設定されている。
これにより、カム形くさび部材20は、
図7に示す状態からπ/2回転すると、
図8に示すように凸部61がストッパー60Aに当接して停止した状態となり、カム形くさび部材20が所定の範囲を超えて回転することを制限できる。
【0081】
次に、第1の実施形態の更に他の派生形態として、第1-4の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図9は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図であり、
図9(a)は正面図、
図9(b)は中央断面図である。但し、分かり易いように回転停止手段は見取り図としている。
本実施形態では、回転停止手段が、母板1に設けた一つのストッパー60Bと、ストッパー60Bに当接可能な二つの凸部(止め用凸部)61により構成されている。
ストッパー60Bは、長さがストップホール10の長穴短径よりも長く、ストップホール10の長穴短径に沿ってストップホール10に上下方向に架け渡されており、一端がストップホール10の上端部側において母板1に固定され、他端がストップホール10の下端部側において母板1に固定されている。このように両端を固定することでストッパー60Bを母板1に単体でしっかり留めることができる。固定方法は接着やビス止め等、任意であるが、母板1が磁性体の場合にはネオジム磁石等の強力磁石を用いると着脱が容易となり便利である。但し、強力磁石を用いる場合は、磁力がカム形くさび部材20の回転運動を阻害しないように留意する。
また、ストッパー60Bとの接触によりカム形くさび部材20の回転運動が阻害されないように、ストッパー60Bがストップホール10と重なる部分には、
図9(b)に示すように適度の凹みを設け、カム形くさび部材20と接触してその回転運動を阻害することのないようにしている。
凸部61は、円柱形であり、カム形くさび部材20の表側において二箇所に形成されている。凸部61同士はカム形くさび部材20の回転軸周りに180度離れており、初期状態(
図9の状態)において、一方の凸部61がストッパー60Bの上部左端から左方に90度離れた位置となり、他方の凸部61がストッパー60Bの下部右端から右方に90度離れた位置となるように、二つの凸部61の形成箇所が設定されている。
これにより、カム形くさび部材20は、
図9に示す状態からπ/2回転すると、凸部61がストッパー60Bに当接することにより停止した状態となるので、カム形くさび部材20が所定の範囲を超えて回転することを確実に防止することができる。さらに、表側においてストッパー60Bが疲労亀裂2と直交する方向にストップホール10を跨いで設けられているので、カム形くさび部材20が表側へ脱落するのを防止することができる。
【0082】
次に、第1の実施形態の更に他の派生形態として、第1-5の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図10は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図であり、
図10(a)は正面図、
図10(b)は中央断面図である。但し、分かり易いように回転停止手段は見取り図としている。
本実施形態では、ストッパー60Bを母板1の表裏両側に設け、これらに当接可能な凸部61をカム形くさび部材20の表裏両側にそれぞれ設けている。
二つのストッパー60Bは、ストップホール10の長穴短径に沿ってストップホール10に上下方向に架け渡されており、一端がストップホール10の上端部側において母板1に固定され、他端がストップホール10の下端部側において母板1に固定されている。
凸部61は、円柱形であり、カム形くさび部材20の表側と裏側のそれぞれにおいて二箇所ずつ形成されている。同じ側における凸部61同士はカム形くさび部材20の回転軸周りに180度離れており、初期状態(
図10の状態)において、一方の凸部61がストッパー60Bの上部左端から左方に90度離れた位置となり、他方の凸部61がストッパー60Bの下部右端から右方に90度離れた位置となるように、各凸部61の形成箇所が設定されている。
これにより、カム形くさび部材20は、
図10に示す状態からπ/2回転すると、凸部61がストッパー60Bに当接することにより停止した状態となるので、カム形くさび部材20が所定の範囲を超えて回転することを防止することができる。特に、回転停止手段が表裏両側に設けられているため、より確実に回転を停止することができる。さらに、表裏両側においてストッパー60Bが疲労亀裂2と直交する方向にストップホール10を跨いで設けられているので、カム形くさび部材20が表側及び裏側へ脱落するのをストッパー60Bで防止することができる。
【0083】
次に、第1の実施形態の更に他の派生形態として、第1-6の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図11は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図であり、
図11(a)は正面図、
図11(b)は中央断面図である。但し、分かり易いように回転停止手段は見取り図としている。
本実施形態は、表側において、カム形くさび部材20の表側中央部に設けた円柱形のばね基端固定部31Aに、回転付勢力発生手段としての渦巻きばね30の一端を連結することにより、回転付勢力Rを発生させる構成とし、一方で、母板1の裏側において、ストップホール10の長穴短径に沿ってストッパー60Bを上下方向に架け渡し、カム形くさび部材20の裏側において、初期位置(初期状態)からπ/2回転するとストッパー60Bに当接する円柱形の凸部61を二箇所に形成した構成としている。
回転付勢力発生手段(本実施形態では渦巻きばね30及びばね基端固定部31A)と回転停止手段(本実施形態ではストッパー60B及び凸部61)を同じ側に設けると空間的に競合してしまう場合には、本実施形態のように、両者のうちの一方を表側に、他方を裏側に設けることができる。これにより、回転付勢力発生手段と回転停止手段の構成の自由度を高めることができる。また、裏側においてストッパー60Bが疲労亀裂2と直交する方向にストップホール10を跨いで設けられているので、カム形くさび部材20が裏側へ脱落するのを防止することができる。なお、回転付勢力発生手段を裏側に設け、回転停止手段を表側に設けた場合は、カム形くさび部材20が表側へ脱落するのを、表側においてストップホール10を跨いで設けられたストッパー60Bによって防止することができる。
【0084】
次に、第1の実施形態の更に他の派生形態として、第1-7の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図12は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図であり、
図12(a)は正面図、
図12(b)は中央断面図である。但し、分かり易いように線材33、錘34及び台62は見取り図としている。
本実施形態では、回転付勢力発生手段を、カム形くさび部材20の表側中心部に形成した回転可能な付勢用凸部(プーリー31C)と、プーリー31Cに係止されたワイヤーや糸等の線材33と、線材33の先端に設けた錘34をもって構成し、回転停止手段を、錘34を受ける台62をもって構成している。台62は錘34の鉛直下方に配置されている。
回転付勢力発生手段をプーリー31Cを用いた構成とすることにより、カム形くさび部材20に回転付勢力Rを安定して作用させることができる。
線材33の長さは、引張荷重Fに適応して回転するカム形くさび部材20の回転角度がπ/2となった時点で、下がった錘34がちょうど台62に載って停止するように調節しておく。これにより、回転角度がπ/2となり、カム形くさび部材20の長径20aが疲労亀裂2の進行方向に対して垂直となったところで回転付勢力Rがゼロとなり、それ以上カム形くさび部材20が余分に回転することを制限できる。
なお、回転停止手段は、例えば、線材33の適当な箇所にナット又は結び目を設けておき、このナット等が別途設けた線材33の案内穴に引っ掛かることにより、カム形くさび部材20の回転が停止するような機構とするなど、台62を用いる以外の構成とすることもできる。
【0085】
次に、第1の実施形態の更に他の派生形態として、第1-8の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図13は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図であり、
図13(a)は正面図、
図13(b)は中央断面図である。但し、分かり易いように線材33、弾性体35及び調整手段38は見取り図としている。
本実施形態では、回転付勢力発生手段を、カム形くさび部材20の中心部に形成した付勢用凸部(プーリー31C)と、プーリー31Cに係止されたワイヤーや糸等の線材33と、線材33に接続した引張ばねやゴム等の弾性体35をもって構成し、回転停止手段を、弾性体35の張力を調整する調整手段38をもって構成している。
回転付勢力発生手段をプーリー31Cと弾性体35を用いた構成とすることにより、カム形くさび部材20に回転付勢力Rを安定して作用させることができる。
本実施形態の補修用部材は、上記したストッパー60A,60Bや台62など、機械的な回転停止手段を有さないので、引張荷重Fに適応して回転するカム形くさび部材20の回転角度がπ/2となったところで弾性体35の張力が弛緩するように線材33の長さや調整手段38を調整しておく。これにより、回転角度がπ/2となり、カム形くさび部材20の長径20aが疲労亀裂2の進行方向に対して垂直となったところで回転付勢力Rがゼロとなり、それ以上カム形くさび部材20が余分に回転することを制限できる。
一方、仮に機械的な回転停止手段が設けられている場合は、引張荷重Fに適応して回転するカム形くさび部材20の回転角度がπ/2となっても一定の張力が作用するように線材33の長さや調整手段38を調整しておく。これにより、回転角度がπ/2となり長径20aが疲労亀裂2の進展方向と垂直になる瞬間まで、カム形くさび部材20に対して回転付勢力Rを作用させられるため、カム形くさび部材20の適応動作をより確実なものとすることができる。
【0086】
次に、第1の実施形態の更に他の派生形態として、第1-9の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図14は本実施形態のカム形くさび部材を長穴のストップホールに挿入した状態を示す図、
図15は本実施形態においてカム形くさび部材の適応動作が完了した状態を示す図であり、
図14(a)及び
図15(a)は正面図、
図14(b)及び
図15(b)は中央断面図である。但し、
図14及び
図15において、分かり易いようにレバーウェイト37は見取り図としている。
本実施形態では、回転付勢力発生手段を、カム形くさび部材20の中心部に形成した回転可能な付勢用凸部(凸型嵌合部31B)と、レンチ係合部に連結してカム形くさび部材20の中心部から略水平な方向に延出し重力wにより回転トルクを発生させるレバーウェイト37をもって構成し、回転停止手段を、レバーウェイト37が略水平な方向と直交し母板1の表面と略平行な方向の母板1の下部にまで回転し停止することをもって構成している。
【0087】
本実施形態における補修用部材の基本的な構成や動作原理は第1の実施形態と同じであるが、カム形くさび部材20の表側中央部に六角柱形等の凸型嵌合部31Bを設け、これと丁度嵌合するめがねレンチ部37aを一端に有するレバーウェイト37を連結して回転付勢力Rを発生させる点に特徴がある。回転付勢力発生手段にレバーウェイト37を用いることにより、カム形くさび部材20に回転付勢力Rを安定して作用させることができる。また、レバーウェイト37を凸型嵌合部31Bに嵌合させることにより、レバーウェイト37による回転付勢力Rを凸型嵌合部31Bを介してカム形くさび部材20に作用させることができる。
なお、本実施形態では回転付勢力Rの発生源として母板面に沿う方向の重力wを用いているので、適用対象とする疲労亀裂2は、母板面の方向が鉛直もしくは鉛直±π/4程度の場合に限られる。
レバーウェイト37の先端部37bは、
図14に示すように、めがねレンチ部37aよりも膨らんだ形状として重量を増し、凸型嵌合部31Bにトルクが効率的に発生するようにすることが好ましい。なお、
図14ではレバーウェイト37の先端部37bの中央に重力wが集中しているように示しているが、レバーウェイト37は金属製で一体に成型されており、めがねレンチ部37aと先端部37bを結ぶレバー部分37cの重量もトルクの発生に一定の寄与をしている。
凸型嵌合部31Bとめがねレンチ部37aの嵌合角度は30度刻みで変えることが可能だが、円柱形の凸型嵌合部31Bと固定用キーボルトを用いる等の手段により、嵌合角度を自在に変更可能な構成とすることもできる。
【0088】
本実施形態では、ストップホール10にカム形くさび部材20を挿入した初期状態(
図14の状態)においてレバーウェイト37の長手方向が水平又は水平よりも若干上側となるように、めがねレンチ部37aを凸型嵌合部31Bに嵌合する。嵌合後は、めがねレンチ部37aに別途設けた固定用ボルト等によりレバーウェイト37を凸型嵌合部31Bに固定し、レバーウェイト37の脱落を防止することが好ましい。
上述した通り、レバーウェイト37のレバー部分37cや先端部37bには下向きの重力wが作用するため、めがねレンチ部37aを介して凸型嵌合部31Bには時計回りの回転付勢力Rが生じる。以後、母板1に繰り返し引張荷重Fが作用すると、カム形くさび部材20が順次適応(回転)していくが、
図15の状態(回転角度π/2)となった時点で、レバーウェイト37に作用する重力wの方向はレバーウェイト37の長手方向と一致するため、回転付勢力Rがゼロとなり、カム形くさび部材20の適応動作は完了する。これにより、カム形くさび部材20が所定の範囲を超えて回転することを制限できる。
なお、補修用部材がストッパー60A,60B等の回転停止手段を有する場合には、初期状態におけるレバーウェイト37の角度を水平よりもπ/6~π/4程度上側に持ち上げておき、
図15の状態となるまで一定の回転付勢力Rが確実に作用し続けるようにすることが好ましい。
【0089】
次に、第2の実施形態として、円孔のストップホールを形成する場合における疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図16は円孔のストップホールにカム形くさび部材を挿入した状態を示す図であり、
図16(a)は正面図、
図16(b)は中央断面図である。
円孔のストップホール100に挿入する本実施形態の補修用部材は、断面形状が楕円となった楕円柱形のカム形くさび部材200と、カム形くさび部材200に回転付勢力Rを作用させる回転付勢力発生手段(
図16では図示略)と、カム形くさび部材200の回転を所定の範囲で作用するように制限する回転停止手段(
図16では図示略)を備える。
第1の実施形態と同様に、カム形くさび部材200の板厚は、母板1の板厚と同等以下とすることが好ましい。
【0090】
カム形くさび部材200は、回転付勢力Rの作用するカム形の第一くさび部品201と、ストップホール100にはめ込まれ第一くさび部品201とストップホール100の円孔壁(内壁)との空隙を埋める第二くさび部品202としてのスペーサーから成る。これにより、加工が容易な円孔のストップホール100に対して、スペーサーを利用して適切にくさび荷重Wを発生させることが可能となる。
第一くさび部品201は、本実施形態では断面形状が楕円となった楕円柱形としているが、第1の実施形態と同様に第一くさび部品201の断面形状が必ずしも楕円である必要はなく、短軸から長軸に向かってなだらかに径が増していくような任意の形状とすることが可能である。これにより、カム形くさび部材を適切な形状に形成できる。
第二くさび部品202は、ストップホール100及び第一くさび部品201の形状寸法に合わせて、適応動作(第一くさび部品201の回転)が円滑に行われるような形状寸法とする。本実施形態における第二くさび部品202は、断面形状が矩形となった四角柱形をしている(但し、角部は丸く面取りしてある)。
【0091】
第一くさび部品201及び第二くさび部品202の形状寸法は、ストップホール100の寸法と互いに適合するように設定されており、両部品を重ねてストップホール100に挿入したとき、円孔壁との間に僅かな隙間が生じるようにし、また、適応動作に伴う第一くさび部品201の回転が妨げられることのないよう留意する。
第一くさび部品201及び第二くさび部品202の材質は任意だが、繰り返し引張荷重Fの負荷及び除荷に伴うストップホール100の変形量を抑制するという本補強方法(補修方法)の原理から、その剛性、特にヤング率はできるだけ高いことが好ましく、少なくとも母板1と略同等もしくはそれ以上のヤング率を有する材質を選定することが好ましい。また、第一くさび部品201及び第二くさび部品202は稼働中に大きな繰り返し圧縮荷重を受けるため、金属やセラミックス等の圧縮強度に優れた材質が適している。
【0092】
本実施形態の補修方法においては、まず、対象とする母板1に生じた疲労亀裂2の先端部に、ドリル及びグラインダー等の切削手段を用いて滑らかな円孔(正円形)のストップホール100を加工する(ストップホール加工ステップ)。ストップホール100の寸法は、カム形くさび部材200と互いに適合するように設定し、適応動作に伴うカム形くさび部材200の回転を妨げることのないよう留意する。
ストップホール加工ステップの後、ストップホール100の円孔壁にスペーサー(第二くさび部品202)を装着し、その上に第一くさび部品201を挿入することにより、ストップホール100にカム形くさび部材200をはめ込む(くさび部材はめ込みステップ)。これにより、加工が容易な円孔のストップホール100に対して、スペーサーを利用して適切にくさび荷重Wを付与することが可能となる。この際、楕円柱形の第一くさび部品201は、長軸の方向が疲労亀裂2の進展方向と平行となり、短軸の方向が疲労亀裂2の進展方向と垂直となるようにする。
カム形くさび部材200の板厚を母板1の板厚と略同一としているので、
図16(b)に示すように、ストップホール100にはめ込まれたカム形くさび部材200はストップホール100から殆ど突出しない。
【0093】
くさび部材はめ込みステップの後、カム形くさび部材200に回転付勢力Rを所定の範囲で作用させる(回転付勢力発生ステップ)。第一くさび部品201には、
図16(a)に示すように楕円断面のほぼ中心を軸とする時計回りの回転付勢力Rが作用するようになっている。第1の実施形態と同様に、回転付勢力Rを発生させる機構は任意であり、回転付勢力Rの方向も、一定の方向であれば任意である。
【0094】
回転付勢力発生ステップの後、母板1に作用する繰り返し引張荷重Fによるストップホール100の伸長変形にカム形くさび部材200を自動的に適応させてくさび荷重Wを発生させる(くさび荷重発生ステップ)。
図17-1及び
図17-2はカム形くさび部材の適応動作を示す図であり、母板1に繰り返しの引張荷重Fが作用して円孔のストップホール100が変形した場合、カム形くさび部材がどのように適応していくかを逐次的に示している。以下、順を追って説明するが、説明中における「右回り」や「上」、「下」等の方向は、図中におけるものである。
【0095】
i)
図17-1(a)は、円孔のストップホール100に第一くさび部品201及び第二くさび部品202を挿入した状態である。回転付勢力Rはまだ作用させておらず、ストップホール100の上端部と第一くさび部品201の間には僅かな隙間が存在する。
ii)第一くさび部品201に右回り(時計回り)の回転付勢力Rを作用させると、第一くさび部品201は、右回りに僅かに回転し、
図17-1(b)に点線円で示した二箇所でストップホール100の上端部及び第二くさび部品202の上端と接触し、回転を止める。このとき、第一くさび部品201の二箇所の接触部、及び第二くさび部品202の下端とストップホール100との接触部(二箇所)においては若干の接触圧力(微小なくさび荷重)が生じている。
【0096】
iii)母板1に疲労亀裂2を開く方向の引張荷重F
1が作用すると、疲労亀裂2が広がると同時にストップホール100が上下方向に引張変形(伸長変形)し、
図17-1(c)に示すように、ストップホール100の上端部と第一くさび部品201の間には僅かな隙間が生じる。なお、ここでは簡単のため隙間はストップホール100の上端部側のみに生じると仮定しているが、実際には第一くさび部品201の下端と第二くさび部品202の上端との接触部や、第二くさび部品202の下端とストップホール100との接触部(二箇所)にも微小な隙間が生じうる。
iv)第一くさび部品201には回転付勢力Rが作用しているため、第一くさび部品201は、“iii”で生じた僅かな隙間を埋めるように右回りに回転し、
図17-1(d)に点線円で示した二箇所でストップホール100の上端部及び第二くさび部品202の上端と接触し、回転を止める。このとき、第一くさび部品201の二箇所の接触部、及び第二くさび部品202の下端とストップホール100との接触部(二箇所)においては若干の接触圧力(微小なくさび荷重)が生じている。
v)引張外力F
1が除荷されると、上下方向に伸長していたストップホール100は元に戻ろうとするが、“iv”における適応動作(回転)によりストップホール100の上端部に当接した第一くさび部品201とストップホール100の下端部に当接した第二くさび部品202がくさびとなっているため自由に収縮変形できず、
図17-1(e)に示すように、結果としてストップホール100の上下端部には大きなくさび荷重W
1及びW
2がそれぞれ生じる(但し、くさび荷重W
2は第二くさび部品202の下端の二箇所の接触部における接触圧力の合力である)。このとき、くさび荷重W
1及びW
2の作用方向は、
図1における楕円短軸方向とは僅かにずれているが、実際のずれ角度は僅かであり、引張外力F
1の除荷時には接触箇所において大きな摩擦力が働くため、第一くさび部品201がストップホール100の孔壁上や第二くさび部品202の上端を滑って回転したり、第二くさび部品202がストップホール100の孔壁上で滑ったり倒れたりすることはない。
【0097】
vi)母板1にF
1よりも大きい引張荷重F
2(F
2>F
1)が作用すると、ストップホール100は更に上下方向に引張変形(伸長変形)し、
図17-1(f)に示すように、ストップホール100の上端部と第一くさび部品201の間には再び隙間が生じる。
vii)第一くさび部品201には回転付勢力Rが作用しているため、第一くさび部品201は、“vi”で生じた隙間を埋めるように右回りに回転し、
図17-1(g)に点線円で示した二箇所でストップホール100の上端部及び第二くさび部品202の上端と接触し、回転を止める。このとき、第一くさび部品201の二箇所の接触部、及び第二くさび部品202の下端とストップホール100との接触部(二箇所)においては若干の接触圧力(微小なくさび荷重)が生じている。
viii)引張外力F
2が除荷されると、“v”と同様の原理により、
図17-1(h)に示すように、ストップホール100の上下端部には大きなくさび荷重W
1及びW
2がそれぞれ生じる(但し、くさび荷重W
1及びW
2の値は“v”の場合と同じとは限らない)。
【0098】
ix)~xi)“vi”~“viii”と同様に、
図17-2(i)に示すように母板1に対してより大きな引張荷重F
3が作用し、ストップホール100の上端部とカム形くさび部材200の間に隙間が生じる毎に、
図17-2(j)に示すように第一くさび部品201が回転して適応動作を行い、
図17-2(k)に示すように除荷時にはストップホール100の上下端部に適切なくさび荷重W
1及びW
2が生じる(但し、くさび荷重W
1及びW
2の値は“v”、“viii”の時点と同じとは限らない)。
【0099】
xii)母板1に引張荷重F
3よりも大きい引張荷重F
4(F
4>F
3)が作用すると、ストップホール100は更に上下方向に引張変形(伸長変形)し、
図17-2(l)に示すように、ストップホール100の上端部と第一くさび部品201の間には再び隙間が生じる。
xiii)第一くさび部品201には回転付勢力Rが作用しているため、第一くさび部品201は、“xii”で生じた隙間を埋めるように右回りに回転し、楕円の短軸が疲労亀裂2の進展方向とちょうど平行になった状態で回転を停止する。即ち、第一くさび部品201が“i”の初期位置(初期状態)からπ/2だけ回転して
図17-2(m)に示すような位置関係になったら、それ以上は回転付勢力Rが作用しないように予めストッパー60A,60B等の回転停止手段により機構的な制限を施しておき、カム形くさび部材200の適応動作はそこで完了とする。よって、
図17-2(m)の場合、第一くさび部品201は図中に点線円で示した二箇所でストップホール100の上端部及び第二くさび部品202の上端とちょうど接触した状態となっているが、仮に第一くさび部品201の上端とストップホール100の上端部との間に更なる隙間が生じていても、第一くさび部品201がそれ以上回転することはない。このように、回転付勢力Rの調節により、第一くさび部品201が回り過ぎてくさび部材としての機能が低下してしまうことを防止できる。
xiv)引張荷重F
4が除荷されると、“v”と同様の原理により、
図17-2(n)に示すように、ストップホール100の上下端部には大きなくさび荷重W
1及びW
2がそれぞれ生じる(但し、くさび荷重W
1及びW
2の値は“v”及び“viii”の場合と同じとは限らない)。
【0100】
このように、母板1に作用する繰り返し引張荷重Fによるストップホール10,100の伸長変形にカム形くさび部材20,200を自動的に適応させてくさび荷重Wを発生させることにより、ストップホール10,100の孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端部からの疲労亀裂の再発及び進展を防ぐことができる。特に、カム形くさび部材20,200を用いることにより、ストップホール10,100にはめ込んだ際のくさび部材の突出寸法を斜面型くさび部材よりも小さくすることが可能となるため、回転付勢力を作用させることと相まって、斜面型くさび部材では適用が困難であったスペースの小さい箇所などにも適応型のくさび部材を用いた補修の適用対象を拡大することができる。
なお、図示は省略するが、第1の実施形態と第2の実施形態とでは、ストップホール10,100の形状(長穴or円孔)及びスペーサー(第二くさび部品202)の有無が異なるだけであり、第1-1~第1-9の実施形態で説明した回転付勢力発生手段や回転停止手段等に関する諸々の構成及び方法は、すべてそのまま第2の実施形態にも適用できる。
【0101】
次に、第2の実施形態の派生形態として、第2-1の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図18は本実施形態の第二くさび部品としてのスペーサーを示す図であり、
図18(a)はストップホールに挿入する前の自然状態のスペーサーを示し、
図18(b)は円孔のストップホールに装着した状態のスペーサーを示している。
図19はスペーサーを装着したストップホールに第一くさび部品を挿入した状態を示す図であり、
図19(a)は正面図、
図19(b)は中央断面図である。
本実施形態においても、ストップホール100は円孔に形成する。円孔のストップホール100に挿入する補修用部材は、カム形くさび部材200と、カム形くさび部材200に回転付勢力Rを作用させる回転付勢力発生手段(
図19では図示略)と、カム形くさび部材200の回転を所定の範囲で作用するように制限する回転停止手段(
図19では図示略)を備える。
第2の実施形態と同様に、カム形くさび部材200の板厚は、母板1の板厚と同等以下とすることが好ましい。
【0102】
カム形くさび部材200は、回転付勢力Rの作用するカム形の第一くさび部品201と、ストップホール100にはめ込まれ第一くさび部品201とストップホール100の円孔壁(内壁)との空隙を埋める第二くさび部品202としてのスペーサーから成る。
第一くさび部品201は、断面形状が楕円となった楕円柱形としているが、第2の実施形態と同様に第一くさび部品201の断面形状が必ずしも楕円である必要はなく、短軸から長軸に向かってなだらかに径が増していくような任意の形状とすることが可能である。
【0103】
スペーサー(第二くさび部品202)は、ストップホール100及び第一くさび部品201の形状寸法に合わせて、適応動作(第一くさび部品201の回転)が円滑に行われるような形状寸法とする。本実施形態におけるスペーサー202は、ストップホール100に装着したときに円孔壁の上側と接する上側スペーサー202Aと、円孔壁の下側と接する下側スペーサー202Bと、上側スペーサー202Aと下側スペーサー202Bを一体的に連結している可撓性を有した可撓性連結手段202Cから成る。
上側スペーサー202A及び下側スペーサー202Bは、板厚方向断面(板厚方向に対して垂直に切断したときの断面)が円弧及び弦からなる形状となっており、この板厚方向断面形状は、板厚方向に同一の断面形状、すなわちどの切断面でも同一形状である。また、可撓性連結手段202Cには、略円弧形の板バネを用いている。
上側スペーサー202A及び下側スペーサー202Bの円弧の曲率半径は、適用する円孔のストップホール100の半径よりも僅かに小さく設定されている。
なお、可撓性連結手段202Cとしては、略円弧形の板バネの他、ねじりコイルバネや棒バネ、また装着時に変形可能な可撓性樹脂等であってもよい。
【0104】
第2の実施形態と同様に、第一くさび部品201及び第二くさび部品202の材質は任意だが、その剛性、特にヤング率はできるだけ高いことが好ましく、少なくとも母板1と略同等もしくはそれ以上のヤング率を有する材質を選定することが好ましい。また、金属やセラミックス等の圧縮強度に優れた材質が適している。
【0105】
本実施形態の補修方法においても、まず、対象とする母板1に生じた疲労亀裂2の先端部に滑らかな円孔(正円形)のストップホール100を加工する(ストップホール加工ステップ)。ストップホール100の寸法は、カム形くさび部材200と互いに適合するように設定し、適応動作に伴う第一くさび部品201の回転を妨げることのないよう留意する。
ストップホール加工ステップの後、ストップホール100の円孔壁に上下一体型のスペーサー202を装着し、さらに第一くさび部品201を挿入することにより、ストップホール100にカム形くさび部材200をはめ込む(くさび部材はめ込みステップ)。これにより、加工が容易な円孔のストップホール100に対して、スペーサー202を利用して適切にくさび荷重Wを付与することが可能となる。この際、楕円柱形の第一くさび部品201は、長軸の方向が疲労亀裂2の進展方向と平行となり、短軸の方向が疲労亀裂2の進展方向と垂直となるようにする。
カム形くさび部材200の板厚は母板1の板厚と略同一としているので、
図19(b)に示すように、ストップホール100にはめ込まれたカム形くさび部材200はストップホール100から殆ど突出しない。
【0106】
スペーサー202は、外力が加わっていない自然状態では、
図18(a)に示す通りストップホール100(図中の点線円)よりも若干外側にはみ出す形状となっており、くさび部材はめ込みステップにおいてストップホール100の円孔壁に装着する際には、上側スペーサー202Aの上端と下側スペーサー202Bの下端を両者が近付く方向に押し、可撓性連結手段202Cを適宜曲げ変形させた状態ではめ込む。
円孔のストップホール100にはめ込むことにより、可撓性連結手段202Cは疲労亀裂2の反対側の円孔壁に沿う形となる。なお、本実施形態では、可撓性連結手段202Cである略円弧形の板バネの曲率が、スペーサー202を円孔のストップホール100にはめ込んだ状態において、ストップホール100の曲率よりも大きくなるようにしている。
図18(b)は、そのようにしてスペーサー202をストップホール100にはめ込んだ状態を示しており、ストップホール100の上下端部とスペーサー202の上下端との間には可撓性連結手段202Cである板バネの付勢力によりそれぞれ押圧力fが作用し、これにより上下端に生じる摩擦力によってスペーサー202を安定的に設置し、位置のずれや脱落を防止することができる。
このとき、上述したように上側スペーサー202A及び下側スペーサー202Bの円弧となっている部分の曲率半径は適用するストップホール100の半径よりも僅かに小さく設定されているため、上側スペーサー202Aの上端及び下側スペーサー202Bの下端とストップホール100との接触域は、ストップホール100の上下端部近傍の狭い領域に限られ、それ以外の箇所では、
図18(b)に示すように微小な隙間が生じている。これにより、カム形の第一くさび部品201が作動した時に生じるくさび荷重Wが分散することなく集中荷重としてストップホール100の上下端部近傍に作用するため、効果的な補強を行うことが可能となる。
【0107】
図18(b)から分かる通り、スペーサー202をはめ込んだ後のストップホール100の空隙部分は、第1の実施形態と同様の長穴とみなすことができるため、この擬似的な長穴に
図19に示す如く第一くさび部品201をはめ込んだ後の適応動作は、
図3-1~
図3-2とまったく同様である。また、第1-1~第1-9の実施形態で説明した回転付勢力発生手段や回転停止手段等に関する諸々の構成及び方法は、すべてそのまま本実施形態にも適用することができる。
このように、本実施形態によれば、ストップホール100を円孔に比べて加工に手間と時間がかかる長穴とせずとも、可撓性連結手段202Cを撓ませて円孔に上下一体型のスペーサーをはめ込むことで擬似的な長穴とすることができるため、現場におけるストップホール加工ステップの施工性を向上させることができる。また、スペーサー202として、第2の実施形態のように四角柱形のものを用いる場合は、スペーサー202の位置決めや脱落防止対策等に少々手間がかかることもあるが、本実施形態のように板バネ付きの上下一体型のものを用いる場合は、円孔に加工したストップホール100にはめ込んで装着するだけで位置決めと脱落防止対策が完了するため、現場におけるくさび部材はめ込みステップの施工性の向上と、くさび部材設置後の安全性を向上させることができる。
【0108】
次に、第3の実施形態として、ストップホールにはめ込んだ疲労亀裂の補修用部材の取り外し方法について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
ストップホール10,100にカム形くさび部材20,200を挿入し、その後の繰り返し引張荷重Fの作用によってカム形くさび部材20(第2の実施形態及び第2―1の実施形態では第一くさび部品201)が適応して回転し、引張荷重Fの除荷時にストップホール10の上下端部とカム形くさび部材20の間(第2の実施形態及び第2―1の実施形態ではストップホール100の上下端部と第一くさび部品201及び第二くさび部品202との間)にくさび荷重Wが発生した後、急な工程変更など現場の状況によっては、カム形くさび部材20,200をいったん取り外す必要が生じることがある。本実施形態は、そのような場合におけるカム形くさび部材20,200の取り外し方法に関する。
下表1に、取り外し時の状況に応じた、カム形くさび部材20,200の取り外し方法及び取り外しのタイミングをまとめて示す。
【表1】
【0109】
表1に示すように、本実施形態の取り外し方法は、疲労亀裂2の補修方法におけるくさび荷重Wが発生しているカム形くさび部材20,200をストップホール10,100から取り外すため、カム形くさび部材20,200に回転付勢力発生手段により作用させている回転付勢力Rとは反対の方向にトルク発生手段によりトルクを加え、カム形くさび部材20,200を弛緩させた後、カム形くさび部材20,200を取り外す。トルク発生手段は、例えば、凸型嵌合部31Bと嵌合するレンチ等、専用の取り外し用工具である。
【0110】
表1の上段は、設置時に誤ってカム形くさび部材20,200がストップホール10,100に嵌まってしまったようなケースであり、発生しているくさび荷重Wは比較的小さい。この場合は、例えば、カム形くさび部材20,200に設けた凸型嵌合部31Bに取り外し用工具をはめ込んで、回転付勢力Rとは反対の方向にトルクを加える。これにより、凸型嵌合部31Bを有するカム形くさび部材20,200を安全かつ確実に取り外すことができる。
表1の下段は、カム形くさび部材20,200をストップホール10,100に適切に設置して一定期間が経過した後、工程変更によりカム形くさび部材20,200を取り外すことになったようなケースであり、発生しているくさび荷重Wは比較的大きい。この場合は、トルク発生手段を逆回転力付勢機構として用い、逆回転力付勢機構により逆回転付勢力(回転付勢力発生手段による回転付勢力Rとは反対方向の回転付勢力)をカム形くさび部材20,200に作用させて、大きな引張外荷重(引張荷重F)の負荷時にカム形くさび部材20,200が通常時とは逆方向に回転するようにし、一定期間の経過をみる。これにより、くさび荷重Wが大きいことにより取り外し難くなっているカム形くさび部材20,200を、大きな引張外荷重Fが作用してくさび荷重Wが弛緩したときに自動的に逆方向に回転させられるため、安全かつ確実に取り外すことができる。
なお、引張外荷重には、引張荷重Fも含むが、必ずしも稼働時の繰り返し荷重である必要はない。例えば、カム形くさび部材20,200をはずす目的のため、一時的に構造物に作用させる静的荷重(重量、圧力など)でもよい。また、要は取り外し用工具が無理なく回ればよいので、カム形くさび部材20,200が強固に嵌まった時の稼働時最大荷重より小さな静的荷重でもよい。
くさび荷重Wの大小は、例えば、取り外し用工具を使用したとき、カム形くさび部材20,200を逆方向に無理なく回転させることができる場合はくさび荷重Wが小さいと判断し、できない場合はくさび荷重Wが大きいと判断するなど、感覚的な目安で判断することが可能である。なお、くさび荷重Wの大小を、例えば100kgfを境界値とするなど、数値的な基準で判断することもあり得るが、適正なくさび荷重Wの値は母板1の板厚により種々変化するので、そのような数値を明示することは困難な場合が多い。
【0111】
なお、第1-9の実施形態におけるレバーウェイト37は、以下のように疲労亀裂2の補修用部材の取り外し方法にそのまま利用することが可能である。
<表1の「くさび荷重が小さい場合」>
「取り外し用工具」としてレバーウェイト37を用い、カム形くさび部材20を弛緩させた後、すぐに取り外す。
<表1の「くさび荷重が大きい場合」>
「通常時の回転付勢力Rとは反対の方向に回転付勢力を作用させる」手段、すなわち「取り外し用工具」としてレバーウェイト37を用いる。
図14のレバーウェイト37の位置から角度πだけ回転させた位置にレバーウェイト37を嵌合させることにより、容易に通常時の回転付勢力Rとは反対の方向に回転付勢力を作用させることができる。この状態で一定期間経過をみて、カム形くさび部材20が弛緩していることが確認できた場合はカム形くさび部材20を取り外し、弛緩していないことが確認された場合は、レバーウェイト37に更に力を加えて弛緩させて取り外すか、そのまま経過観察を続行する。
このように、取り外し用工具をレバーウェイト37で代用し、回転付勢力Rとは反対の方向にトルクを加えることにより、取り外し用工具を別途用意することなく、凸型嵌合部31Bを有するカム形くさび部材20をレバーウェイト37で安全かつ確実に取り外すことができる。
【0112】
なお、上記各実施形態においては、補修用部材を疲労亀裂2の先端部に設けたストップホール10,100に適用するものとして説明したが、補修用部材は、疲労亀裂2の基部及び先端部以外の亀裂経路上に設けたドリル孔であるウェッジホールについても同様に使用することができ、また、ストップホール10,100とウェッジホールを併設して両方に使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、補修後に作用する引張荷重によるストップホールの伸長変形に追随してカム形くさび部材を自動的に適応させ、カム形くさび部材の緩みを防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、実際に作用する繰り返し引張荷重に応じて適切なくさび荷重が自動的に付与され、船舶、海洋構造物、橋梁、道路、車両、航空機、又は輸送・工作機械等の各種構造物について、母板に生じた疲労亀裂に対して設けたストップホールの孔端部からの亀裂再発の防止や再発亀裂の進展抑制に利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 母板
2 疲労亀裂
10、100 ストップホール
20、200 カム形くさび部材
20a カム形くさび部材の長径
20b カム形くさび部材の短径
201 第一くさび部品
202 第二くさび部品(スペーサー)
202A 上側スペーサー
202B 下側スペーサー
202C 可撓性連結手段
30 渦巻きばね
31A、31B 凸型嵌合部
31C プーリー
33 線材
34 錘
35 弾性体
37 レバーウェイト
38 調整手段
40 調節手段
50 密閉手段
60A、60B ストッパー
61 凸部
62 台
α 空隙
F 引張荷重
R 回転付勢力
W くさび荷重
w 重力