(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102831
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】電源装置、その制御方法及び電源システム
(51)【国際特許分類】
G05F 1/10 20060101AFI20240724BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20240724BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G05F1/10 301B
H01G13/00 371J
H01G9/00 290D
G05F1/10 R
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002822
(22)【出願日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】202310078334.X
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202311757053.3
(32)【優先日】2023-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】511268432
【氏名又は名称】台達電子企業管理(上海)有限公司
【氏名又は名称原語表記】Delta Electronics (Shanghai) Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】1F&2F&7F&8F, Building 1, No.1675, Huadong Road, Pudong, Shanghai, 201209, P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】謝毅聡
(72)【発明者】
【氏名】張偉強
(72)【発明者】
【氏名】周子穎
【テーマコード(参考)】
5E082
5H410
【Fターム(参考)】
5E082AB09
5E082BC38
5E082BC40
5E082LL25
5H410BB04
5H410BB05
5H410DD02
5H410FF03
5H410FF05
5H410FF25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アルミニウム電解コンデンサの比容量を増大する電源装置、その制御方法及び電源システムを提供する。
【解決手段】電源システム1として、作用電極32、参照電極33、及び補助電極31を含む電気化学三電極システム3を用意し、電源装置のパワーユニット2の2つの出力端子22、23をそれぞれ作用電極及び補助電極に接続し、パワーユニットから作用電極を分極するための電流を出力する。電源装置の制御ユニット5は、作用電極と参照電極との間の電圧を反映する信号を検出し、その信号に基づいて出力電流を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源装置に適用される制御方法であって、
(a)作用電極、参照電極、及び補助電極を含む電気化学三電極システムを用意するステップと、
(b)前記電源装置のパワーユニットの2つの出力端子をそれぞれ前記作用電極及び前記補助電極に接続し、前記パワーユニットは、前記作用電極を分極するための出力電流を出力するステップと、
(c)前記電源装置の制御ユニットは、前記作用電極と前記参照電極との間の電圧を反映する信号を検出し、前記信号に基づいて前記出力電流を調整するステップとを含む、
制御方法。
【請求項2】
前記ステップ(c)は、前記信号を所定の電圧区間と比較し、比較結果に応じて、前記信号を所定の前記電圧区間内に維持するように、前記出力電流を所定の電流区間内で調整することをさらに含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記信号が前記電圧区間の下限値以下である場合、前記制御ユニットは前記出力電流が降下するように制御し、
前記信号が前記電圧区間の上限値以上である場合、前記制御ユニットは前記出力電流が上昇するように制御する、請求項2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記電圧区間の前記上限値は、前記作用電極の分極曲線の臨界不動態化電位を反映し、前記電圧区間の前記下限値は、前記分極曲線の過不動態化電位を反映している、請求項3に記載の制御方法。
【請求項5】
前記信号は、前記作用電極と前記参照電極との間の電圧であり、前記電圧区間の前記上限値は、前記作用電極の前記分極曲線の前記臨界不動態化電位であり、前記電圧区間の前記下限値は、前記分極曲線の前記過不動態化電位である、請求項4に記載の制御方法。
【請求項6】
前記電流区間は、前記作用電極の分極曲線の安定不動態化領域に対応する、請求項2に記載の制御方法。
【請求項7】
前記出力電流は、前記信号に対してヒステリシス効果を有する、請求項1に記載の制御方法。
【請求項8】
前記ステップ(a)と前記ステップ(b)との間には、前記作用電極の一部と腐食性液体を遮断するために、前記作用電極上に腐食抑制剤を設けるステップをさらに含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項9】
前記作用電極は金属箔、前記補助電極はチタン板、前記参照電極は飽和カロメル電極である、請求項1に記載の制御方法。
【請求項10】
作用電極、参照電極、及び補助電極を含む電気化学三電極システムに使用される電源装置であって、
前記作用電極及び前記補助電極にそれぞれ接続される2つの出力端子を備え、前記作用電極を分極するための出力電流を出力する、パワーユニットと、
前記作用電極と前記参照電極との間の電圧を反映する信号を検出し、前記信号に基づいて前記出力電流を調整する、制御ユニットとを含む、
電源装置。
【請求項11】
前記制御ユニットは、前記信号を所定の電圧区間と比較し、比較結果に応じて、前記信号を所定の前記電圧区間内に維持するように、前記出力電流を所定の電流区間内で調整する、請求項10に記載の電源装置。
【請求項12】
前記信号が前記電圧区間の下限値以下である場合、前記制御ユニットは前記出力電流が降下するように制御し、
前記信号が前記電圧区間の上限値以上である場合、前記制御ユニットは前記出力電流が上昇するように制御する、請求項11に記載の電源装置。
【請求項13】
前記電圧区間の前記上限値は、前記作用電極の分極曲線の臨界不動態化電位を反映し、前記電圧区間の前記下限値は、前記分極曲線の過不動態化電位を反映している、請求項12に記載の電源装置。
【請求項14】
前記信号は、前記作用電極と前記参照電極との間の電圧値であり、前記電圧区間の前記上限値は、前記作用電極の前記分極曲線の前記臨界不動態化電位の値であり、前記電圧区間の前記下限値は、前記分極曲線の前記過不動態化電位の値である、請求項13に記載の電源装置。
【請求項15】
前記電流区間は、前記作用電極の分極曲線の安定不動態化領域に対応する、請求項11に記載の電源装置。
【請求項16】
前記出力電流は、前記信号に対してヒステリシス効果を有する、請求項10に記載の電源装置。
【請求項17】
前記作用電極には、前記作用電極の一部と腐食性液体を遮断するために、腐食抑制剤が設けられている、請求項10に記載の電源装置。
【請求項18】
前記作用電極は金属箔、前記補助電極はチタン板、前記参照電極は飽和カロメル電極である、請求項10に記載の電源装置。
【請求項19】
請求項10~18のいずれか1項に記載の電源装置と、電気化学三電極システムとを備える電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置、その制御方法及び電源システムに関し、特に比容量を増大する電源装置、その制御方法及び電源システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサは、少なくとも正極、負極、及び電解液を含む。電極箔は、アルミニウム電解コンデンサの正極と負極を製造するのに使われる材料で、主に電荷を蓄えるために使用される。電極箔は、高純度のアルミニウム箔を主原料とし、腐食や化成などの一連の加工工程を経て形成される。アルミニウム電解コンデンサの製造工程をさらに詳しく説明すると、腐食して誘電体層(すなわち、酸化皮膜)で覆われた陽極アルミニウム箔、腐食した陰極アルミニウム箔、及び電解紙を巻回した後、電解液に浸漬させ、アルミニウムケース内に封入することにより製造するものである。
【0003】
電極箔の品質はアルミニウム電解コンデンサの全体的な性能に決定的な影響を与え、電極箔の腐食プロセスと化成プロセスは、アルミニウム電解コンデンサの容量、リーク電流、損失、寿命、信頼性、体積などの性能を直接決定する。例えば、電極箔の比容量が大きいほど、電極箔の単位帯電量が高くなり、同じ電圧で製造可能なアルミニウム電解コンデンサの体積が小さくなる。従って、電極箔は、アルミニウム電解コンデンサの中で最も技術内容が高く、付加価値が高い部分である。
【0004】
電極箔の比容量を増大するには、通常、腐食プロセスを改良して表面積率を高める方法(第1の方法)と、動作電圧下での平均誘電体厚さを減少する方法(第2の方法)と、誘電体層の特性を改善して誘電率を高める方法(第3の方法)の3つの方法が考えられる。第2の方法では、誘電体層の厚さは動作電圧に依存し、動作電圧が通常固定値であるため、改善することができない。第3の方法では、誘電体層の誘電率も固定値であるため、改善することができない。従って、電極箔の比容量を増大するには、腐食プロセスを改良して表面積率を高めることが最良の方法であり、当業者の研究課題となっている。
【0005】
そこで、上記の欠点を克服する電源装置、その制御方法及び電源システムをいかに開発するかが現在急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電源装置、その制御方法及び電源システムを提供することである。制御ユニットにより、電気化学三電極システムの作用電極と参照電極との間の電圧を反映する信号を検出し、信号を所定の電圧区間と比較し、比較結果に応じて、信号を電圧区間内(すなわち、臨界不動態化電位と過不動態化電位の間)に維持し、すなわち、出力電流を不動態電流近くに維持するように、パワーユニットの出力電流を電流区間内で調整する。これにより、エッチング初期に発生した腐食孔が成長し続けることができ、孔拡大の生産効率を高めるとともに、低い不動態電流の動特性をリアルタイムに調整することで、腐食孔の内面の不動態皮膜の形成及び腐食を促進し、腐食孔を深さ方向に効果的に発達させ、作用電極の生産効率を高め、腐食孔の均一性を向上させ、全体の比容量を向上させる。同時に、腐食後の作用電極の残厚が均一に維持され、作用電極の屈曲特性が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、以下のステップを含む、電源装置に適用される制御方法を提供する。まず、作用電極、参照電極、及び補助電極を含む電気化学三電極システムを用意する。次に、電源装置のパワーユニットの2つの出力端子をそれぞれ作用電極及び補助電極に接続し、パワーユニットは、作用電極を分極するための出力電流を出力する。その後、電源装置の制御ユニットは、作用電極と参照電極との間の電圧を反映する信号を検出し、その信号に基づいて出力電流を調整する。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の別の実施形態は、作用電極、参照電極、及び補助電極を含む電気化学三電極システムに使用される電源装置を提供する。電源装置は、パワーユニットと制御ユニットを含む。パワーユニットは、作用電極及び補助電極にそれぞれ接続される2つの出力端子を備え、作用電極を分極するための出力電流を出力する。制御ユニットは、作用電極と参照電極との間の電圧を反映する信号を検出し、その信号に基づいて出力電流を調整するために使用される。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の別の実施形態は、上記の電源装置と電気化学三電極システムを含む電源システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2A】
図1に示す電源システムの作用電極に形成された腐食孔の構造を示す部分拡大模式図である。
【
図2B】
図1に示す電源システムの作用電極に形成された酸化皮膜の構造を示す部分拡大模式図である。
【
図3】
図2Aに示す腐食孔の同軸容量の簡略化した模式図である。
【
図4】パワー電圧がオープンループ制御下にあるときの電源システムの作用電極の分極曲線の模式図である。
【
図5】本発明の電源システムの制御方法のフローチャートである。
【
図6】
図1に示す電源システムの第三段階における出力電流と電圧信号を示す電圧信号-電流波形図である。
【
図7A】
図1に示す電源システムの作用電極に腐食孔を形成する別の実施形態の構造を示す部分拡大模式図である。
【
図7B】
図1に示す電源システムの作用電極に腐食孔を形成する別の実施形態の構造を示す部分拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴と利点を示すいくつかの典型的な実施形態について、後述の説明において詳細に記述する。本発明は異なる態様において様々な変化を有することができ、いずれも本発明の範囲から逸脱することなく、かつその説明及び図面は本質的に例示するために用いられものであり、本発明を限定する意図はないことを理解されたい。
【0012】
図1を参照する。
図1は、本発明の電源システムの構造模式図である。
図1に示すように、本発明の電源システム1は、パワーユニット2、電気化学三電極システム3、腐食性液体4、及び制御ユニット5を含む。パワーユニット2は、出力端子22及び23を備える。電気化学三電極システム3は、補助電極31、作用電極32、及び参照電極33を含む。補助電極31は、チタン板で形成することができ、パワーユニット2の出力端子22に接続される。作用電極32は、アルミニウム箔などの高純度の金属箔で形成することができ、パワーユニットの出力端子23に接続され、パワーユニット2から供給される出力電流を受けることで、作用電極32は、パワーユニット2から供給される出力電流に従って分極される。参照電極33の材質は、腐食性液体4のイオン系に関連しており、例えば、腐食性液体が塩酸や硫酸溶液の場合、電極33は、飽和カロメル電極(Saturated Calomel Electrode、SCE)で構成することができる。作用電極32及び補助電極31は、腐食性液体4中に配置されており、パワーユニット2から供給される出力電流は、作用電極32、腐食性液体4、及び補助電極31を順に通過し、参照電極33は、少なくとも一部が腐食性液体4中に配置される。作用電極32と参照電極33との間に電圧が存在する。実際の工程では、作用電極32、補助電極31、及び参照電極33は、腐食槽内の腐食性液体4に浸漬されるが、
図1では腐食性液体4のみを示し、腐食槽の構造の図示を省略している。制御ユニット5は、パワーユニット2と共に電源装置を構成する。制御ユニット5は、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号に基づいてパワーユニット2を制御する。例えば、制御ユニット5は、電気化学三電極システム3の作用電極32及び参照電極33に接続され、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号を検出し、この信号に応じて、制御端子21を介してパワーユニット2が出力する出力電流を調整する。作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号は、パワーユニット2から供給される出力電流と相関関係があり、この相関関係については後述する。
【0013】
図1と併せて
図2A及び
図2Bを参照する。
図2Aは、
図1に示す電源システムの作用電極に形成された腐食孔の構造を示す部分拡大模式図であり、
図2Bは、
図1に示す電源システムの作用電極に形成された酸化皮膜の構造を示す部分拡大模式図である。
図2A及び
図2Bは、いずれも
図1の点線枠内の構造の一部、例えば、異なる条件下での作用電極32と腐食性液体4との間の接触面の構造の一部を示す。作用電極32の腐食プロセスとしては、まず、
図1に示すように、作用電極32と補助電極31を腐食性液体4中に配置する。次に、パワーユニット2は、作用電極32に出力電流を供給し、このとき、腐食性液体4中の電子・イオンが消費され、作用電極32上の金属イオンが腐食性液体4中に進入することで、作用電極32に腐食孔32aが形成され(
図2Aに示すように)、作用電極32の表面積が増加する。その後、パワーユニット2は作用電極32に出力電流を供給し続けることで、作用電極32の表面に酸化反応が生じて、酸化皮膜32bが形成される(
図2Bに示すように)。次いで、腐食性液体4は酸化皮膜32bをさらに腐食し、腐食孔32aを拡大する。
【0014】
アルミニウム電解コンデンサの単位面積当たりの静電容量(すなわち、比容量)は、作用電極32上に形成された腐食孔32aの状態と相関関係がある。
図1及び
図2Aと併せて
図3を参照する。
図3は、
図2Aに示す腐食孔の同軸容量の簡略化した模式図である。図中の分布容量C1、C2、...、Cnのコレクタ容量は、となる。この式から、アルミニウム電解コンデンサの単位面積当たりの静電容量は、腐食孔32aの深さL及び腐食孔32aの半径r1と相関関係があることが分かる。腐食孔32aの深さLが大きいほど、アルミニウム電解コンデンサの単位面積当たりの静電容量は大きくなり、腐食孔32aの半径r1が大きいほど、アルミニウム電解コンデンサの単位面積当たりの静電容量は大きくなる。
【0015】
作用電極32が腐食性液体4中に配置されると、作用電極32の表面に表面電位が形成され、作用電極32の表面電位は、金属の性質、腐食性液体4の組成、濃度及び温度と相関関係がある。パワーユニット2から供給される出力電流が作用電極32を通過すると、作用電極32が分極され、その結果、電極電位が変化する。すなわち、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号は、パワーユニット2から供給される出力電流と相関関係があり、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号と、パワーユニット2から供給される出力電流との間の相関関係により、分極曲線をさらに形成することができる。また、電気化学反応速度論の2つの公式、つまり、バトラー・ボルマー式とアレニウス式によると、電解腐食速度に影響を与える要因は、分極電位または分極電流、電解液の組成、電解液の温度、濃度、腐食時間、電極表面状態及び結晶構造を含むことが分かる。その中で、最大の影響は、分極電位または分極電流、すなわち、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号またはパワーユニット2から供給される出力電流である。そこで、以下では、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号と出力電流との相関関係をさらに確認して、その相関関係に基づいて作用電極32の腐食速度を把握する。
図1、
図2A及び2Bと併せて
図4を参照する。
図4は、パワー電圧がオープンループ制御下にあるときの電源システムの作用電極の分極曲線の模式図である。
図4に示すように、分極曲線のX軸は、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号であり、分極曲線のY軸は、パワーユニット2から供給される出力電流である。分極曲線における作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号は、例えば、
図4に示す第一区間、第二区間、第三区間、及び第四区間の4つの区間を含む。第一区間では、パワーユニット2が出力電流の供給を開始し、作用電極32に腐食孔32aが形成され始めるとともに、作用電極32と腐食性液体4との間でも化学反応が起こり、徐々に酸化皮膜32bが生成される。パワーユニット2から供給される出力電流は、第一電流ipから第二電流ibまで上昇し、その結果、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号は、A点からB点まで上昇する。作用電極32の腐食速度は、出力電流が増加するにつれて増加し、パワーユニット2から供給される出力電流が第二電流ibまで上昇すると、作用電極32の腐食速度は最大値に達し、出力電流は上昇し続けることができないため、第二電流ibを臨界不動態化電流として定義する。第二区間では、作用電極32の腐食速度が減少し、すなわち、パワーユニット2から供給される出力電流が第二電流ibから第一電流ipまで減少し始め、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号はB点からC点まで上昇し、出力電流が減少するにつれて作用電極32の腐食速度は減少する。作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号がC点まで上昇すると、パワーユニット2から供給される出力電流は減少し、第一電流ipに維持されるので、C点の電圧信号を臨界不動態化電位Epとして定義する。第三区間では、パワーユニット2から供給される出力電流は第一電流ipに維持され、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号はC点からD点まで上昇する。このとき、作用電極32の腐食速度と酸化皮膜32bの形成速度は動的平衡に達するため、この時点で出力電流が安定している状態、すなわち、この区間は安定不動態化領域であるため、この区間の出力電流(すなわち、第一電流ip)を不動態電流として定義する。パワーユニットはオープンループ制御下にあるため、この区間での出力電流は基本的に固定値である。第四区間では、パワーユニット2から供給される出力電流は第一電流ipから上昇し続け、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号はD点からE点まで上昇し、作用電極32には引き続き他の腐食孔32aが形成され、このときの腐食反応が激しくなるため、この区間を過不動態化領域として定義する。
【0016】
孔拡大反応過程は出力電流に非常に敏感であるため、出力電流が減少すると、腐食孔32aの形成が停止したり、腐食孔32aの形成界面が不連続になったりする可能性がある。上記の分極曲線の説明及び
図4から、第三区間は腐食孔の安定成長期であり、このときの出力電流は低く穏やかであり、第三区間では、作用電極32の腐食速度と酸化皮膜32bの形成速度は動的平衡に達することができ、その結果、腐食孔32aは安定して成長することができる。従って、より良好な腐食孔拡大効果を達成するために、本発明の電源システム1は、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号と出力電流が分極曲線における腐食孔の安定成長期にあるように、制御ユニット5により出力電流を動的に調整し、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号を監視する。
図1に示すように、制御ユニット5は、電気化学三電極システム3の作用電極32及び参照電極33に電気的に接続されており、制御ユニット5内に、所定の電圧区間及び電流区間があり、例えば電圧区間は、
図4に示す第三区間(すなわち、C点とD点との間)である。制御ユニット5は、電気化学三電極システム3の作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号を検出し、その信号に基づいて出力電流を調整する。例えば、信号を所定の電圧区間と比較し、例えば、信号が電圧区間内にあるかどうかを確認する。制御ユニット5は、比較結果に応じて、信号を電圧区間に維持し、すなわち、電気化学三電極システム3の作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号を
図4に示す第三区間内に維持するように、パワーユニット2の出力電流を電流区間内で調整する。
【0017】
上記から分かるように、本発明の電源システム1は、制御ユニット5により、電気化学三電極システム3の作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号を検出し、信号を所定の電圧区間と比較し、比較結果に応じて、信号を電圧区間内(すなわち、臨界不動態化電位と過不動態化電位の間)に維持し、出力不動態電流も一定の区間内に維持するように、パワーユニット2の出力電流を電流区間内で調整する。これにより、エッチング初期に発生した腐食孔32aが成長し続けることができ、孔拡大の生産効率を高めるとともに、不動態電流をリアルタイムに調整することで、腐食孔32aの内面の不動態皮膜の形成及び腐食を促進し、腐食孔32aを深さ方向に効果的に発達させ、作用電極32の生産効率を高め、腐食孔32aの均一性を向上させ、全体の比容量を向上させる。同時に、腐食後の作用電極32の残厚が均一に維持され、作用電極32の屈曲特性が向上する。
【0018】
図5を参照する。
図5は、本発明の電源システムの制御方法のフローチャートである。まず、ステップS1において、作用電極32、参照電極33、及び補助電極31を含む電気化学三電極システム3を用意する。次に、ステップS2において、パワーユニット2の2つの出力端子23及び22を、それぞれ作用電極32及び補助電極31に接続し、パワーユニット2は、作用電極32を分極するための出力電流を出力する。その後、ステップS3において、制御ユニット5は、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号を検出し、その信号に基づいて出力電流を調整する。
【0019】
以下では、信号を所定の電圧区間に維持する方法についてさらに詳しく説明する。
図1及び
図4と併せて
図6を参照する。
図6は、
図1に示す電源システムの第三段階における出力電流と電圧信号を示す電圧信号-電流波形図である。
図6のY軸は、パワーユニット2から供給される出力電流であり、X軸は、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号である。
図4と比較すると、
図6の不動態電流は、動的に調整可能な区間であるのに対し、
図4の不動態電流は基本的に固定値である。本実施形態では、制御ユニット5内の所定の電流区間には、上限値と下限値があり、電流区間の上限値は、電流区間の下限値はであり、はと等しくも異なってもよく、imは中間値であり、この電流区間は、
図4に示す分極曲線における安定不動態化領域に対応する。制御ユニット5が作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号を検出し、その信号を電圧区間と比較して、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号が電圧区間の下限値以下であることを確認すると、制御ユニット5はパワーユニット2から供給される出力電流が降下するように制御し、出力電流を高い電流値からimに戻るように減少させる(
図6の「電流降下」に示すように)ことで、過電流下で継続する腐食反応が速すぎるのを防ぐ。電圧区間の下限値は、作用電極の分極曲線の過不動態化電位を反映している。制御ユニット5が作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号を検出し、その信号を電圧区間と比較して、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号が電圧区間の上限値以上であることを確認すると、制御ユニット5は、パワーユニット2から供給される出力電流が上昇するように制御し、出力電流を低い電流値からimに戻るように上昇させる(
図6の「電流上昇」に示すように)ことで、作用電極32の状態は金属活性化と不動態化の間の遷移領域に向けてシフトする。すなわち、低電流下で作用電極32が完全に不動態化されて、酸化皮膜32bの腐食速度に影響を与えるのを防ぐことができる。電圧区間の上限値は、作用電極の分極曲線の臨界不動態化電位を反映している。上記から分かるように、パワーユニット2から供給される出力電流は電流区間内にあり、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号の検出結果に従って動的に調整されることで、本発明の作用電極32の腐食孔32aの腐食状態は、分極曲線の不動態電流作用領域内にあり、全体の比容量を増加させる効果が得られる。もちろん、一実施形態において、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号は、作用電極32と参照電極33との間の電圧値であってもよく、このとき、電圧区間の下限値は、作用電極の分極曲線の過不動態化電位の値であり、電圧区間の上限値は、作用電極の分極曲線の臨界不動態化電位の値である。
【0020】
いくつかの実施形態では、パワーユニット2から供給される出力電流は、作用電極32と参照電極33との間の電圧を反映する信号に対してヒステリシス効果を有する。
図6に示すように、例として、制御ユニット5がパワーユニット2から供給される出力電流の上昇を制御する場合、出力電流は可変デューティサイクルと可変電流変化率を持ち、出力電流は連続電流波形または離散電流波形にすることができる。出力電流が上昇状態にあるときの対応する電圧は、出力電流が降下状態にあるときの対応する電圧と異なり、電圧差値Vdを有することができる。
【0021】
図1と併せて
図7A及び
図7Bを参照する。
図7A及び
図7Bは、
図1に示す電源システムの作用電極に腐食孔を形成する別の実施形態の構造を示す部分拡大模式図である。
図7Aに示すように、作用電極32には、作用電極32の一部と腐食性液体4を遮断する腐食抑制剤32cがさらに設けられており、それによって、作用電極32の表面の過度の腐食を緩和し、孔併合現象を効果的に制御し、作用電極32の表面上の腐食孔32aの均一な分布に有利であり、腐食孔32aの孔壁損傷を軽減し、腐食トンネルを深くする。また、パワーユニット2から供給される出力電流における一部の電流成分(i2)は、腐食孔32aを介して作用電極32を直接腐食し、出力電流における他の電流成分(i1)は、腐食抑制剤32cを経て作用電極32を腐食する必要がある。すなわち、パワーユニット2から供給される出力電流における電流成分i2が電流成分i1よりも大きくなり、腐食性液体4が腐食孔32aを正確に腐食して、腐食効率を高め、さらに、腐食孔32aの体積を増加させ、つまり、
図7Aの腐食孔32aの大きさから
図7Bに示す腐食孔32aの大きさに変更することで、全体の比容量を向上させる効果が得られる。腐食孔32aの形状は、円錐形、円筒形、壺形などであってもよい。
【0022】
上記のように、本発明の電源システムは、制御ユニットにより、電気化学三電極システムの作用電極と参照電極との間の電圧を反映する信号を検出し、その信号を所定の電圧区間と比較し、比較結果に応じて、信号を電圧区間内(すなわち、臨界不動態化電位と過不動態化電位の間)に維持し、すなわち、出力電流を不動態電流近くに維持するように、パワーユニットの出力電流を電流区間内で調整する。これにより、エッチング初期に発生した腐食孔が成長し続けることができ、孔拡大の生産効率を高めるとともに、低い不動態電流の動特性をリアルタイムに調整することで、腐食孔の内面の不動態皮膜の形成及び腐食を促進し、腐食孔を深さ方向に効果的に発達させ、作用電極の生産効率を高め、腐食孔の均一性を向上させ、全体の比容量を向上させる。同時に、腐食後の作用電極の残厚が均一に維持され、作用電極の屈曲特性が向上する。
【符号の説明】
【0023】
1:電源システム
2:パワーユニット
21:制御端子
22、23:出力端子
3:電気化学三電極システム
31:補助電極
32:作用電極
32a:腐食孔
32b:酸化皮膜
32c:腐食抑制剤
33:参照電極
4:腐食性液体
5:制御ユニット
L:深さ
r1:半径
ip:第一電流
ib:第二電流
S1、S2、S3:ステップ