(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102854
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 5/08 20060101AFI20240724BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240724BHJP
C23C 22/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C01F5/08
C21D9/46 501B
C23C22/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024061682
(22)【出願日】2024-04-05
(62)【分割の表示】P 2023202179の分割
【原出願日】2023-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】松川 周矢
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 大介
【テーマコード(参考)】
4G076
4K026
4K033
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB02
4G076AB06
4G076BA38
4G076CA25
4G076DA30
4K026AA03
4K026BB10
4K026CA41
4K026DA02
4K026DA11
4K033AA02
4K033JA04
4K033LA01
4K033MA00
4K033RA04
4K033SA02
4K033SA03
4K033TA02
(57)【要約】
【課題】酸化マグネシウム中の微量元素の濃度のばらつきが抑制された焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを提供する。
【解決手段】焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、ホウ素を含む。上記ホウ素の含有量は、500~1500ppmである。上記ホウ素の濃度の変動係数は、0.50以下である。したがって、上記酸化マグネシウム中の上記ホウ素の濃度のばらつきが抑制されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素の含有量は、500~1500ppmであり、かつ
前記ホウ素の濃度の変動係数は、0.50以下である、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板の製造時には焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムが鋼板に塗布される。その酸化マグネシウムに含まれる微量元素の量は、完成した方向性電磁鋼板の製品特性に影響する。例えば、特許文献1には、ホウ素を400~1500ppm、ナトリウムを1~650ppm、塩素を500ppm以下、硫黄をSO3換算で0.10~0.70質量%含有し、かつホウ素及びナトリウムの合計含有モルに対する塩素及び硫黄の合計含有モル比(Cl+S)/(B+Na)が0.50~0.80である焼鈍分離剤用酸化マグネシウム、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムにおける微量元素の含有量が規定されている。しかし、特許文献1には、酸化マグネシウム中の微量元素の濃度のばらつきについては記載されていない。
【0005】
本発明は、酸化マグネシウム中の微量元素の濃度のばらつきが抑制された焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の各開示を含むものである。
【0007】
(第1の開示)
第1の開示は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムである。上記酸化マグネシウムはホウ素を含む。上記ホウ素の含有量は、500~1500ppmである。上記ホウ素の濃度の変動係数は0.50以下である。
【0008】
(第2の開示)
第2の開示では、第1の開示において、上記酸化マグネシウムはナトリウムを更に含む。上記ナトリウムの含有量は、0.1~200ppmである。上記ナトリウムの濃度の変動係数は、0.25以下である。
【0009】
(第3の開示)
第3の開示では、第1の開示又は第2の開示において、上記酸化マグネシウムは、Cl、Mn、Fe、Cuから選択される少なくとも1種以上の元素を更に含む。
【0010】
(第4の開示)
第4の開示は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法である。上記酸化マグネシウムの製造方法は、反応工程と、形成工程と、を備える。反応工程は、ホウ素を含有する水酸化マグネシウム原料、及び、アルカリ原料を、それぞれ連続的に反応槽へ供給しながら、上記水酸化マグネシウム原料と前記アルカリ原料とを乱流が生じている状態で反応させつつ、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に上記反応槽から取り出す。形成工程は、取り出された上記水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを形成する。上記酸化マグネシウムはホウ素を含む。上記ホウ素の含有量は、500~1500ppmである。上記ホウ素の濃度の変動係数は、0.50以下である。
【0011】
(第5の開示)
第5の開示は、方向性電磁鋼板の製造方法である。上記方向性電磁鋼板の製造方法は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する塗布工程と、上記スラリーを塗布された上記鋼板を焼鈍する焼鈍工程と、を備える。上記酸化マグネシウムはホウ素を含む。上記ホウ素の含有量は、500~1500ppmである。上記ホウ素の濃度の変動係数は、0.50以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化マグネシウム中の微量元素の濃度のばらつきが特定の範囲に抑制された焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法における好適な実施形態について説明する。
【0014】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム]
本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、酸化マグネシウムを主成分とする粉体であるが、他の微量元素を含み得る。ただし、微量元素を「含む」とは、微量元素を、酸化マグネシウムの粒子の内部及び/又は外部に含むことをいう。焼鈍分離剤の酸化マグネシウムの含有量は少なくとも95質量%以上であり、好ましくは98質量%以上である。したがって、焼鈍分離剤の微量元素の含有量は5質量%未満であり、好ましくは2質量%未満である。以下では、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを、単に、酸化マグネシウムとも記す。
【0015】
酸化マグネシウムは、微量元素としてホウ素(B)を含む。焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムと鋼板表面の二酸化ケイ素との反応によりフォルステライト被膜を形成する場合には、ホウ素は、フォルステライト被膜の形成を促進する効果を有する。また、酸化マグネシウムを水酸化マグネシウムの焼成により形成する場合には、焼成時の保持温度を約1200~1300℃としたとき、ホウ素は焼成対象の物質の融点を低くする効果がある。
【0016】
酸化マグネシウムにおけるホウ素の含有量は、500~1500ppmである。酸化マグネシウムが500ppm以上のホウ素を含有することで、フォルステライト被膜が十分に形成される。酸化マグネシウムが1500ppm以下のホウ素を含有することで、フォルステライト被膜が過剰に形成されてムラができる、ということを抑制できる。ホウ素の含有量の下限としては、700ppmが好ましい。ホウ素の含有量の上限としては、1200ppmが好ましい。
【0017】
酸化マグネシウムにおけるホウ素の濃度の変動係数は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中のホウ素の含有量のばらつきを抑制する観点でから、0.50以下である。ばらつきをより抑制する観点から、その変動係数は0.40以下が好ましい。ただし、その変動係数は、酸化マグネシウムにおける複数の酸化マグネシウム粒子において、個別の酸化マグネシウム粒子が含有するホウ素の濃度のばらつきに相当する係数である。変動係数の求め方については、後述される。
【0018】
本発明により、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中の微量元素の一つであるホウ素の含有量のばらつきが抑制されているので、酸化マグネシウムを鋼板に均一に塗布することで、所定量のホウ素を鋼板に均一に分布させることができる。それにより、完成した方向性電磁鋼板の磁気特性にばらつきが生じることを抑制できる。
【0019】
酸化マグネシウムの粒子の粒子径及び形状は、微量元素の濃度のばらつきが粒子間で少なくできれば、特に限定されるものではない。粒子径としては、例えば、0.02~5μmが挙げられる。粒子径の下限は、粒子をスラリー中で凝集し難くする観点から、0.05μmが好ましい。粒子径の上限は、粒子をスラリー中で均一に分散させる観点から、1μmがより好ましい。粒子の平面形状としては、例えば、多角形、矩形、多角形状、楕円形、円形、不定形、それらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
酸化マグネシウムの粒度分布は、微量元素の濃度のばらつきが粒子間で少なくできれば、特に限定されるものではない。D10は、好ましくは、0.5~2.0μmである。D50は、好ましくは、1.5~4.0μmである。D90は、好ましくは、6.0~14μmである。体積平均径MVは、例えば、2.0~7.0μmが挙げられる。上記範囲の粒度分布とすることで、スラリー中の粒子の凝集を抑えつつ、分散性を高められる。
【0021】
酸化マグネシウムは、酸化マグネシウム及びホウ素(B)以外の他の微量元素を含んでもよい。そのような他の微量元素としては、例えば、ナトリウム(Na)が挙げられる。微量元素としてナトリウムを含む酸化マグネシウムを用いてフォルステライト被膜を形成する場合、ナトリウムは、フォルステライト被膜の形成速度を調整する効果を有する。
【0022】
酸化マグネシウムにおけるナトリウムの含有量は、0.1~200ppmが好ましい。酸化マグネシウムが0.1ppm以上のナトリウムを含有することで、フォルステライト被膜の形成速度を速めることができる。酸化マグネシウムが200ppm以下のナトリウムを含有することで、フォルステライト被膜の形成速度を低減して過剰に形成することを抑制することができる。ナトリウムの含有量の下限としては、0.5ppmが好ましい。ナトリウムの含有量の上限は、150ppmが好ましい。
【0023】
酸化マグネシウムにおけるナトリウムの濃度の変動係数は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中のナトリウムの含有量のばらつきを抑制する観点から、0.25以下が好ましい。ばらつきをより抑制する観点から、その変動係数は0.20以下がより好ましい。ただし、その変動係数は、酸化マグネシウムにおける複数の酸化マグネシウム粒子において、個別の酸化マグネシウム粒子が含有するナトリウムの濃度のばらつきに相当する係数である。変動係数の求め方については、後述される。
【0024】
酸化マグネシウム及びホウ素(B)以外の他の微量元素としては、例えば、アルミニウム(Al)が挙げられる。微量元素としてアルミニウムを含む酸化マグネシウムを用いてフォルステライト被膜を形成する場合、アルミニウムは、フォルステライト被膜の形成を促進する効果を有する。
【0025】
酸化マグネシウムにおけるアルミニウムの含有量は、20~400ppmが好ましい。酸化マグネシウムが20ppm以上のアルミニウムを含有することで、フォルステライト被膜の十分に形成することができる。酸化マグネシウムが400ppm以下のアルミニウムを含有することで、フォルステライト被膜が過剰に形成されてムラができる、ということを抑制できる。アルミニウムの含有量の下限としては、25ppmが好ましい。アルミニウムの含有量の上限は、300ppmが好ましい。
【0026】
酸化マグネシウムにおけるアルミニウムの濃度の変動係数は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中のアルミニウムの含有量のばらつきを抑制する観点でから、0.40以下が好ましい。ばらつきをより抑制する観点から、その変動係数は0.30以下がより好ましい。ただし、その変動係数は、酸化マグネシウムにおける複数の酸化マグネシウム粒子において、個別の酸化マグネシウム粒子が含有するアルミニウムの濃度のばらつきに相当する係数である。変動係数の求め方については、後述される。
【0027】
酸化マグネシウムは、方向性電磁鋼板での被膜形成の促進、被膜特性の改善及び/又は磁気特性の改善に資することが知られている種々の微量元素を含んでもよい。そのような微量元素としては、例えば、塩素(Cl)、銅(Cu)、リン(P)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、及びカルシウム(Ca)から選択される少なくとも一種以上の元素、又は、その化合物が挙げられる。例えば、塩素は、フォルステライト被膜の形成を促進する元素である。銅は、方向性電磁鋼板の被膜特性及び磁気特性を改善する元素である。リンは、フォルステライト被膜の形成を促進する元素である。
【0028】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法]
酸化マグネシウムの製造方法としては、上記構成、特に微量元素の濃度のばらつきの少ない酸化マグネシウムを製造可能であれば特に制限はない。その製造方法としては、例えば、以下の三つの方法が挙げられる。第一の方法は、目的とする微量元素の原料を水酸化マグネシウム原料に添加し、その水酸化マグネシウム原料に、アルカリ原料を連続的に反応させて水酸化マグネシウムを合成し、その水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る方法である。第二の方法は、目的とする微量元素の原料と水酸化マグネシウム原料とを同時にアルカリ原料に添加するバッチ反応にて水酸化マグネシウムを合成し、その水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る方法である。第三の方法は、目的とする微量元素の原料の粉末と水酸化マグネシウムの粉末とを混合し、焼成して、酸化マグネシウムを得る方法である。また、水酸化マグネシウム原料中に微量元素が過剰に含まれている場合、水酸化マグネシウム原料に、当該微量元素に適したキレート剤を添加してもよい。
【0029】
ただし、水酸化マグネシウム原料としては、例えば、水溶性マグネシウム塩又はその水和物が挙げられ、具体的には、塩化マグネシウム六水和物、塩化マグネシウム二水和物、塩化マグネシウム無水和物が好適である。この他、水酸化マグネシウム原料として、海水、潅水、苦汁を用いてもよい。
【0030】
目的とする微量元素の原料、すなわち目的微量元素原料としては、例えば、微量元素そのもの、及び、微量元素の化合物が挙げられる。微量元素の化合物としては、例えば、微量元素を含む酸、塩基及びそれらの塩、微量元素の酸化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩が挙げられる。微量元素がホウ素の場合、ホウ素原料であるホウ素の化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アンモニウム塩、メタホウ酸アルカリ金属塩系、及び酸化ホウ素が挙げられる。ホウ酸アルカリ金属塩としては、例えば、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、及びホウ酸ナトリウムが挙げられる。微量元素がナトリウムの場合、ナトリウム原料であるナトリウムの化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、及びホウ酸ナトリウムが挙げられる。微量元素がアルミニウムの場合、アルミニウム原料であるアルミニウムの化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、及び酸化アルミニウムが挙げられる。
【0031】
アルカリ原料としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びアンモニアが挙げられる。なお、水酸化マグネシウムを焼成するとき、その焼成雰囲気としては、例えば、空気、窒素が挙げられる。
【0032】
キレート剤としては、目的微量元素原料に対してキレート錯体を形成可能であれば、特に限定されない。微量元素がホウ素の場合、キレート剤としては、例えば、1,2-エタンジオールが挙げられる。微量元素がアルミニウムの場合、キレート剤としては、例えば、トリエタノールアミンが挙げられる。
【0033】
第一の方法では、例えば、まず、目的微量元素原料と水酸化マグネシウム原料とを脱イオン水に添加して、目的微量元素原料及び水酸化マグネシウム原料を含む水溶液、すなわち水酸化マグネシウム原料水溶液を形成する。一方、アルカリ原料を脱イオン水に添加して、アルカリ原料を含む水溶液、すなわちアルカリ原料水溶液を形成する。次に、水酸化マグネシウム原料水溶液と、アルカリ原料水溶液とを、反応槽にそれぞれ所定の流量で連続的に注加する。そして、反応槽内で、目的微量元素原料を添加された水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを、撹拌により乱流が生じている状態で反応させつつ、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に反応槽から取り出す(反応工程)。そのとき、MgとOHとの比が概ね1:2になるような流量で、水酸化マグネシウム原料水溶液とアルカリ原料水溶液とを反応槽に注加する。「概ね」とは、流量の誤差が±50%の範囲をいう。その際、必要に応じて、反応槽内を所定圧力及び所定温度に保持する。このように、目的微量元素原料を添加された水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを乱流が生じている状態で連続的に反応させることにより、目的とする微量元素を添加された水酸化マグネシウムを合成する。必要に応じて、水洗、ろ過、乾燥を行う。その後、その微量元素を添加された水酸化マグネシウムを所定温度で焼成して、微量元素を添加された酸化マグネシウムを得る(形成工程)。
【0034】
第二の方法では、例えば、まず、目的微量元素原料と水酸化マグネシウム原料とを脱イオン水に添加して、目的微量元素原料及び水酸化マグネシウム原料を含む水溶液、すなわち水酸化マグネシウム原料水溶液を形成する。一方、アルカリ原料を脱イオン水に添加して、アルカリ原料を含む水溶液、すなわちアルカリ原料水溶液を形成する。次に、反応槽内の水酸化マグネシウム原料水溶液中に、アルカリ原料水溶液を所定の流量で注加して、反応槽内で、目的微量元素原料を添加された水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを、撹拌により乱流が生じている状態で反応させる(反応工程)。その際、必要に応じて、反応槽内を所定圧力及び所定温度に保持する。このように、目的微量元素原料を添加された水酸化マグネシウム原料に、アルカリ原料を少しずつ乱流が生じている状態で反応させることにより、目的とする微量元素を添加された水酸化マグネシウムを合成する。必要に応じて、水洗、ろ過、乾燥を行う。そして、その微量元素を添加された水酸化マグネシウムを所定温度で焼成して、微量元素を添加された酸化マグネシウムを得る(形成工程)。
【0035】
第三の方法では、例えば、まず、水酸化マグネシウム原料を脱イオン水に添加して、水酸化マグネシウム原料を含む水溶液、すなわち水酸化マグネシウム原料水溶液(微量元素なし)を形成する。一方、アルカリ原料を脱イオン水に添加して、アルカリ原料を含む水溶液、すなわちアルカリ原料水溶液を形成する。次に、反応槽内の水酸化マグネシウム原料水溶液(微量元素なし)中に、アルカリ原料水溶液を所定の流量で注加して、反応槽内で、水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを反応させる。その際、必要に応じて撹拌しつつ、反応槽内を所定圧力及び所定温度に保持する。このように、水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを反応させることにより、微量元素を含まない水酸化マグネシウムを合成する(反応工程)。この微量元素を有さない水酸化マグネシウムの粉末に、目的微量元素原料の粉末を混合する。そして、目的微量元素原料が混合された水酸化マグネシウムを所定温度で焼成して、微量元素を添加された酸化マグネシウムを得る(形成工程)。
【0036】
別の製造方法の例としては、例えば、鉱物マグネサイトを焼成して得られた酸化マグネシウムを用いる方法が挙げられる。その製造方法は、まず、鉱物マグネサイトから得られた酸化マグネシウムを水和させ、水酸化マグネシウムの粉末を得る。次いで、その水酸化マグネシウムの粉末を用いて上記の第三の方法を実施して、酸化マグネシウムを得る方法である。
【0037】
ここで、本明細書で用いる、水酸化マグネシウムのサンプルの焼成に関する用語の意味は、以下のとおりである。「昇温時間」とは、サンプルを焼成する際、室温から加熱して目的とする最高温度に達するまでの時間を意味する。「保持温度」とは、サンプルを焼成する際、目的とする最高温度を意味する。焼成温度ともいう。「保持時間」とは、サンプルを焼成する際に、保持温度を維持する時間を意味する。「降温時間」とは、サンプルを焼成する際に、保持時間が経過した後に保持温度から冷却して室温に達するまでの時間を意味する。なお、冷却は、冷却手段を用いた積極的な冷却のほか、放冷のような緩やかな冷却も含む。
【0038】
<焼成条件>
酸化マグネシウムは、酸化マグネシウムを得る際の最終的な焼成の条件と、最終的な焼成に供される前駆体中に含まれる微量元素を調製することで制御できる。焼成の条件は、昇温時間、保持温度、保持時間及び降温時間を含む。
【0039】
酸化マグネシウムを得る条件としては、例えば、昇温時間は、0.5時間~3時間が好ましく、1時間~2時間がより好ましい。保持温度は、600℃~1300℃が好ましく、700℃~1200℃がより好ましい。保持時間は、0.1時間~15時間が好ましく、0.2時間~13時間がより好ましい。降温時間は、0.1時間~6時間が好ましく、0.2時間~5時間がより好ましい。
【0040】
昇温時間、保持時間及び降温時間が上記範囲より短いと、水酸化マグネシウムの焼成が完了しなかったり、フォルステライト被膜形成時に酸化マグネシウムの反応性が高すぎたりするため、フォルステライトが均一に形成されにくくなる。一方、昇温時間、保持時間及び降温時間が上記範囲より長いと、酸化マグネシウムの反応性が低くなりすぎるため、フォルステライトが形成されにくくなる。
【0041】
酸化マグネシウムに含まれるホウ素は、焼成の際の保持温度が約1200~1300℃において、焼成対象の物質の融点を低くする効果がある。酸化マグネシウムに含まれるホウ素の含有量は0.05~0.15質量%であることが好ましい。このような数値範囲のホウ素の含有量を有する酸化マグネシウムを焼鈍分離剤として用いた場合、フォルステライト被膜の特性を向上でき、方向性電磁鋼板の磁気特性と絶縁特性を良好にすることができる。
【0042】
酸化マグネシウムに含まれるナトリウムの含有量は0.1~200ppmであることが好ましい。このような数値範囲のナトリウムの含有量を有する酸化マグネシウムを焼鈍分離剤として用いた場合、フォルステライト被膜の特性を向上でき、方向性電磁鋼板の磁気特性と絶縁特性を良好にすることができる。
【0043】
<焼成雰囲気>
焼成の際の雰囲気は窒素でも空気でも良い。焼成対象の物質に熱が均一に当たればよい。焼成中に焼成対象の物質を均一に撹拌しても良い。そのような焼成を行う装置としては、例えば、ロータリーキルンが挙げられる。
【0044】
<酸化マグネシウム中の微量元素の含有量の制御>
酸化マグネシウム中の微量元素の含有量の制御は、以下のようにして行うことができる。まず、酸化マグネシウムの製造用の原料に含まれる微量元素の含有量を測定する。そして、その結果に基づいて、酸化マグネシウムに含まれる微量元素の含有量が所望の含有量になるよう、原料や中間生成物において微量元素を添加し、又は除去する。原料としては、例えば、マグネシウム原料、鉱物マグネサイト、マグネシウム原料に反応させるアルカリが挙げられる。中間生成物としては、例えば、水酸化マグネシウムが挙げられる。
【0045】
微量元素を添加する方法は、特に限定されるものではない。例えば、制限対象となる微量元素を含む化合物を原料や中間生成物に混合する方法が挙げられる。混合の方法は、湿式であっても乾式であっても良い。なお、中間生成物には上述の前駆体を含む。
【0046】
微量元素を除去する方法は、特に限定されるものではない。その方法については、例えば、原料や中間生成物を洗浄する方法、目的微量元素に対してキレート剤を添加する方法が挙げられる。洗浄の具体的な例としては、水洗が挙げられる。
【0047】
異なる組成の中間生成物を混合して微量元素の過不足を調製した後、最終焼成をして、微量元素の含有量が所望の含有量となった酸化マグネシウムを得ることもできる。又は、異なる組成の最終焼成後の酸化マグネシウムを混合し、微量元素の過不足を調製して、微量元素の含有量が所望の含有量となった酸化マグネシウムを得ることもできる。
【0048】
酸化マグネシウムの製造工程において、被膜特性、磁気特性を改善する働きが知られている種々の添加物を効果的に添加してもよい。その添加物としては、例えば、銅(Cu)、リン(P)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、及びそれらの化合物が挙げられる。
【0049】
<酸化マグネシウムの粒度分布(D10、D50、D90、MV)の制御>
酸化マグネシウムの粒度分布は、以下の方法で制御できる。
その一つの方法は、マグネシウム原料とアルカリ原料とを反応させて水酸化マグネシウムを合成するときの、反応温度、反応率、撹拌条件の少なくとも一つを調整する方法である。他の方法は、最終焼成前の前駆体を粉砕する方法である。他の方法は、水酸化マグネシウムの焼成条件を制御する方法である。他の方法は、最終焼成後の酸化マグネシウムを再焼成する又は粉砕する方法である。
【0050】
上記のような条件により、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムが製造される。この酸化マグネシウムは、上記所定の構成を有しているので、酸化マグネシウム中の微量元素の含有量のばらつきを抑制できる。
【0051】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いた方向性電磁鋼板の製造方法]
次に、上述された焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いた方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。製造方法は、上記された酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する塗布工程と、酸化マグネシウムを塗布された鋼板を焼鈍する高温焼鈍工程と、を備えている。
【0052】
<塗布工程>
上記された酸化マグネシウムを液体に均一に分散させ、酸化マグネシウムを含むスラリーを形成する。液体は、例えば、水が挙げられる。このとき、酸化マグネシウムが水和しないように、5℃のような低温でスラリーを形成する。
【0053】
酸化マグネシウムの濃度は、例えば、5~30質量%が挙げられる。酸化マグネシウムの濃度の下限は、スラリーを鋼板に斑なく塗布し易くする観点から、好ましは7質量%である。焼鈍分離剤の濃度の上限は、スラリーを塗布し易い粘度にする観点から、好ましくは25質量%である。
【0054】
5℃におけるスラリーの粘度は、例えば、2.2~5.2mPa・sが挙げられる。5℃におけるスラリーの粘度の下限は、十分な塗布量を確保する観点から、好ましくは2.6mPa・sである。5℃におけるスラリーの粘度の上限は、スラリーを塗布し易くする観点から、好ましくは4.6mPa・sである。
【0055】
そのスラリーを、ロールコーティング装置又はスプレー装置を用いて、脱炭焼鈍された鋼板に連続的に塗布する。ただし、酸化マグネシウムが水和しないように、5℃のような低温でスラリーを塗布する。このとき、上記の構成を有する酸化マグネシウムを用いているので、その酸化マグネシウムを含むスラリーを鋼板上に均一に塗布することで、塗布されたスラリー中の微量元素の含有量のばらつきを抑制できる。その後、塗布されたスラリーを、例えば、300~500℃程度の温度で乾燥させる。
【0056】
<高温焼鈍工程>
上記されたスラリーが塗布され、したがって、酸化マグネシウムが塗布された鋼板を焼鈍する。焼鈍の条件としては、例えば、1000~1200℃、10~20時間が挙げられる。それにより、鋼板の表面には、フォルステライト被膜が形成され、その後、必要に応じて公知の所定の処理を行うことにより、上述された焼鈍分離剤を用いた方向性電磁鋼板が形成される。
【0057】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法では、上記所定の構成を有しているので、酸化マグネシウムを鋼板上に均一に塗布することで、鋼板上に、微量元素の含有量のばらつきが抑制されたフォルステライト被膜を形成できる。それにより、磁気特性が改善された方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0058】
なお、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法は、上述の実施形態や後述の実施例に制限されず、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更が可能である。
【0059】
<測定方法・試験方法>
各種の測定方法・試験方法については、以下のとおりである。
【0060】
1.微量元素の濃度と、その平均値、標準偏差及び変動係数
微量元素の濃度、その平均値、標準偏差及び変動係数については以下の方法で求めた。
(1)測定対象の酸化マグネシウム(粉体)を準備した。
(2)その酸化マグネシウムを、縦4mm、横4mmのペレットに成形して、試料とした。
(3)試料を、アルバック・ファイ社製のD-SIMS(Dynamic Secondary Ion Mass Spectrometry)PHI ADEPT-1010にセットする。そして、一次加速電圧が5.0kVの条件で、試料の表面から深さ約5μmまで、深さ方向に250点の測定点での微量元素の濃度を測定した。
(4)測定された250点の微量元素の濃度に基づいて、微量元素の濃度の平均値(μ)及び標準偏差(σ)を求めた。
(5)変動係数を、標準偏差(σ)/平均値(μ)により算出した。
なお、D-SIMSの各測定点での微量元素の濃度は、粒子一個一個の微量元素の濃度とは必ずしも言えない。測定点が5μm/250=0.02μm毎に存在し、その測定間隔は概ね酸化マグネシウムの粒子径よりも小さい。したがって、各測定点での微量元素の濃度は、粒子一個一個よりも詳細な微量元素の濃度に近似できる。
【0061】
2.微量元素の含有量
微量元素の含有量については以下の方法でも求めた。測定対象の試料0.5gを30%HNO3溶液5mlに溶解した後、超純水で100mlに定容して、試験液とした。その試験液を、発光分光分析装置SPS3520-DD(株式会社 日立ハイテクサイエンス製)を用いて検量線法で測定し、微量元素の含有量を得た。
【0062】
3.粒度分布
粒度分布は、粒度分布測定装置MT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。まず、粒度分布測定装置内をエタノールで満たし、その溶媒を循環させた。そこへ、測定対象の試料を、適量、添加して、適正範囲に入っていることを確認した。その後、試料を含む溶媒を1分間循環させてから、粒度分布を測定した。測定時間は30秒間とした。
【実施例0063】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0064】
(1)試料について
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の試料は以下のようにして製造された。
【0065】
[実施例1]
塩化マグネシウム6水和物386gとホウ酸0.80gと塩化ナトリウム3.0gを脱イオン水に溶解させ、1.9Lの水溶液を得た。この水溶液及び2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lを常圧かつ25℃で、オーバーフロー容量220mLの容器にそれぞれ注加し連続的に反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度450rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を45℃に設定し、350rpmの撹拌条件下で5.0時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを900℃で1時間焼成し、酸化マグネシウムを得た 。この酸化マグネシウムの粒度分布は、D10が1.0μm、D50が2.9μm、D90が10μm、体積平均径MVが5.0μmであった。
【0066】
[実施例2]
塩化マグネシウム6水和物386gとホウ酸0.75gと塩化ナトリウム2.5gを脱イオン水に溶解させ、1.9Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃で、この水溶液に2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lを100mL/minの速度で注加し、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度600rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を40℃に設定し、400rpmの撹拌条件下で5.0時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを900℃で1時間焼成し、酸化マグネシウムを得た 。この酸化マグネシウムの粒度分布は、D10が1.1μm、D50が3.2μm、D90が12μm、体積平均径MVが5.3μmであった。
【0067】
[比較例1]
塩化マグネシウム6水和物386gとホウ酸0.50gと塩化ナトリウム3.0gを脱イオン水に溶解させ、1.9Lの水溶液を得た。常圧かつ25℃で、この水溶液に2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lを170mL/minの速度で注加し、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度450rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を40℃に設定し、400rpmの撹拌条件下で5.0時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを850℃で1時間焼成し、酸化マグネシウムを得た 。この酸化マグネシウムの粒度分布は、D10が0.9μm、D50が2.6μm、D90が9.8μm、体積平均径MVが5.0μmであった。
【0068】
[比較例2]
塩化マグネシウム6水和物386gを脱イオン水に溶解させ、1.9Lの水溶液を得た。この水溶液及び2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.7Lを常圧かつ25℃で、オーバーフロー容量220mLの容器にそれぞれ注加し連続的に反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度400rpmで撹拌を行った。次に、水溶液の温度を40℃に設定し、350rpmの撹拌条件下で5.0時間熱処理を行った。さらに、前記処理を行った水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、ケーキを得た。得られたケーキの固形分に対して重量基準で25倍の純水で洗浄を2回行い、105℃で12時間乾燥を行うことにより水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムにいずれも試薬のホウ酸及び塩化ナトリウムを混合し、950℃で1時間焼成し、酸化マグネシウムを得た。この酸化マグネシウムの粒度分布は、D10が1.3μm、D50が3.4μm、D90が11μm、体積平均径MVが5.5μmであった。
【0069】
(2)評価項目について
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の酸化マグネシウムについて、微量元素の濃度の平均値、標準偏差及び変動係数、並びに微量元素の含有量を評価した。
【0070】
(3)評価結果について
(a)実施例1
微量元素であるホウ素(B)の濃度の平均値μは、3.12×1020atoms/cm3であった。ホウ素の濃度の標準偏差σは、0.484×1020atoms/cm3であった。したがって、ホウ素の濃度の変動係数σ/μは、0.155であり、0.50以下あった。ホウ素の含有量は、1078ppmであり、500~1500ppmの範囲内であった。
【0071】
微量元素であるナトリウム(Na)の濃度の平均値μは、13.0×1017atoms/cm3であった。ナトリウムの濃度の標準偏差σは、7.79×1016atoms/cm3であった。したがって、ナトリウムの濃度の変動係数σ/μは、0.0598であり、0.25以下であった。ナトリウムの含有量は、22ppmであり、0.1~200ppmの範囲内であった。
【0072】
(b)実施例2
微量元素であるホウ素(B)の濃度の平均値μは、3.59×1020atoms/cm3であった。ホウ素の濃度の標準偏差σは、1.39×1020atoms/cm3であった。したがって、ホウ素の濃度の変動係数σ/μは、0.386であり、0.50以下あった。ホウ素の含有量は、980ppmであり、500~1500ppmの範囲内であった。
【0073】
微量元素であるナトリウム(Na)の濃度の平均値μは、9.92×1017atoms/cm3であった。ナトリウムの濃度の標準偏差σは、19.0×1016atoms/cm3であった。したがって、ナトリウムの濃度の変動係数σ/μは、0.191であり、0.25以下であった。ナトリウムの含有量は、8ppmであり、0.1~200ppmの範囲内であった。
【0074】
(c)比較例1
微量元素であるホウ素(B)の濃度の平均値μは、1.46×1020atoms/cm3であった。ホウ素の濃度の標準偏差σは、0.276×1020atoms/cm3であった。したがって、ホウ素の濃度の変動係数σ/μは、0.190であり、0.50以下あった。ホウ素の含有量は、650ppmであり、500~1500ppmの範囲内であった。
【0075】
微量元素であるナトリウム(Na)の濃度の平均値μは、25.2×1017atoms/cm3であった。ナトリウムの濃度の標準偏差σは、67.0×1016atoms/cm3であった。したがって、ナトリウムの濃度の変動係数σ/μは、0.266であり、0.25を超えていた。ナトリウムの含有量は、19ppmであり、0.1~200ppmの範囲内であった。
【0076】
(d)比較例2
微量元素であるホウ素(B)の濃度の平均値μは、0.303×1020atoms/cm3であった。ホウ素の濃度の標準偏差σは、0.288×1020atoms/cm3であった。したがって、ホウ素の濃度の変動係数σ/μは、0.951であり、0.50を超えていた。ホウ素の含有量は、540ppmであり、500~1500ppmの範囲内であった。
【0077】
微量元素であるナトリウム(Na)の濃度の平均値μは、2.30×1017atoms/cm3であった。ナトリウムの濃度の標準偏差σは、3.99×1016atoms/cm3であった。したがって、ナトリウムの濃度の変動係数σ/μは、0.173であり、0.25以下であった。ナトリウムの含有量は、26ppmであり、0.1~200ppmの範囲内であった。
【0078】
上記の(a)~(d)の結果を表1にまとめた。
【表1】
【0079】
以上のデータから分かるように、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、微量元素の含有量が所定の数値範囲内にあり、その含有量のばらつきが抑制されている。そのため、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを鋼板上に均一に塗布することで、微量元素を鋼板に均一に分布させることができる。それにより、良好な被膜特性を有するフォルステライト被膜を得ることができる。したがって、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いて製造された方向性電磁鋼板の磁気特性を改善することができる。