(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102857
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】車両整備用リフトのアーム装置
(51)【国際特許分類】
B66F 7/28 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
B66F7/28 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006903
(22)【出願日】2023-01-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テレスコ
(71)【出願人】
【識別番号】390018326
【氏名又は名称】株式会社スギヤス
(74)【代理人】
【識別番号】100110744
【弁理士】
【氏名又は名称】藤川 敬知
(72)【発明者】
【氏名】榊原 寛則
(57)【要約】
【課題】スライドアームのスライド力を簡単な構造で軽減でき且つ強度向上が可能な車両整備用リフトのアーム装置を提供する。
【解決手段】車両整備用リフトのアーム装置1は、アーム軸方向の基端側で昇降可能に設けられるリフトアーム10と、リフトアーム10に嵌合してアーム軸方向にスライドされる第1スライドアーム20とを備えて構成されるものであって、車両整備用リフトのアーム装置1において、リフトアーム10は、第1スライドアーム20を支持する支持板部12の上面に、塑性変形により形成された少なくとも1つの突起部15を備え、突起部15は、第1スライドアーム20への無負荷時において、第1スライドアーム20の下面に当接して第1スライドアーム20をリフトアーム10に対してスライド可能に支持する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーム軸方向の基端側で昇降可能に設けられる昇降アームと、前記昇降アームに嵌合するスライドアームとを備えて構成される車両整備用リフトのアーム装置であって、
前記昇降アームは、前記スライドアームを支持する支持板部の上面に、塑性変形により形成された少なくとも1つの突起部を備え、
前記突起部は、前記スライドアームへの無負荷時において、前記スライドアームの下面に当接して前記スライドアームを前記昇降アームに対して前記アーム軸方向へスライド可能に支持する、車両整備用リフトのアーム装置。
【請求項2】
前記支持板部は、前記スライドアームへの荷重負荷により撓むことで、前記支持板部における前記突起部以外の部位が前記スライドアームの下面に当接する、請求項1に記載の車両整備用リフトのアーム装置。
【請求項3】
前記突起部は、前記支持板部における前記アーム軸方向の先端から所定範囲内に設けられる、請求項2に記載の車両整備用リフトのアーム装置。
【請求項4】
前記支持板部の撓み量をt、前記突起部の頂の高さをhとしたとき、t>hの関係を満たす、請求項2又は3に記載の車両整備用リフトのアーム装置。
【請求項5】
前記突起部は、プレス加工により形成されたものである、請求項1に記載の車両整備用リフトのアーム装置。
【請求項6】
前記突起部は、ハーフパンチ加工により形成されたものである、請求項5に記載の車両整備用リフトのアーム装置。
【請求項7】
前記突起部は、断面円弧状に形成されたものである、請求項1乃至3、5又は6の何れか一項に記載の車両整備用リフトのアーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両整備用リフトのアーム装置に関し、特にスライドアームのスライド力軽減に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両整備用リフトには、リフトアームと、リフトアームに嵌合されると共に先端に受け台を備えるスライドアームとで構成されるアーム装置を備えるものが用いられている。また、アーム装置として、リフトアームの内側下面に接触して回動するローラを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。このようなアーム装置は、スライドアームへの無負荷時には、リフトアームとスライドアームとの間にローラが介在しているため、スライドアームを軽い力でスライドさせることができる。一方、スライドアームへの負荷時には、ローラがスライドアームへの支持位置から孔内に退避してリフトアームとスライドアームとが当接して両部材間に大きな摩擦抵抗が生じ、スライドアームがスライドすることなく安定的に支持可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-289586号公報
【特許文献2】特開2002-128481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術のアーム装置では、スライドアームにローラを回動自在に設ける構成であるため、構造が複雑になるという課題がある。また、スライドアームにローラを退避させるための孔を開ける必要があり、強度向上を図る場合に障害になるという課題もある。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、スライドアームのスライド力を簡単な構造で軽減でき且つ強度向上が可能な車両整備用リフトのアーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両整備用リフトのアーム装置は、アーム軸方向の基端側で昇降可能に設けられる昇降アームと、前記昇降アームに嵌合して前記アーム軸方向にスライドされるスライドアームとを備えて構成される車両整備用リフトのアーム装置であって、前記昇降アームは、前記スライドアームを支持する支持板部の上面に、塑性変形により形成された少なくとも1つの突起部を備え、前記突起部は、前記スライドアームへの無負荷時において、前記スライドアームの下面に当接して前記スライドアームを前記昇降アームに対してスライド可能に支持する。
【0007】
この構成によれば、昇降アームは、スライドアームを支持する支持板部の上面に、塑性変形により形成された少なくとも1つの突起部を備えているので、スライドアームの下面に当接してスライドアームを昇降アームに対してスライド可能に支持することができる。
【0008】
そして、昇降アームとスライドアームとの間にスライド力低減用のローラを設ける従来構成に比べて、アーム装置の高さサイズを小さくできるため、近年の車両の低床化に伴う装置高さの低減化に対する要求への対応が可能となる。
【0009】
また、支持板部にピンを立設して突起部を設ける場合はピンを立設するために支持板部に穴を開ける必要があるが、上述した構成では支持板部自体の塑性変形により突起部が形成され、支持板部に穴が開いていないため、昇降アームにおいて強度確保を図る上で有利である。
【0010】
従って、上記構成によれば、スライドアームのスライド力を簡単な構造で軽減でき且つ強度向上が可能な車両整備用リフトのアーム装置を提供することができるという効果を奏する。
【0011】
また、前記支持板部は、前記スライドアームへの荷重負荷により撓むことで、前記支持板部における前記突起部以外の部位が前記スライドアームの下面に当接する。
【0012】
この構成によれば、スライドアームで車体を支持するときは、車体の荷重負荷により支持板部が撓み、支持板部における突起部以外の部位がスライドアームの下面に当接してスライド抵抗が増大するので、車体を支持している間はスライドアームのスライドを防止して安全性を確保することができる。
【0013】
また、前記突起部は、前記支持板部における前記アーム軸方向の先端から所定範囲内に設けられる。
【0014】
この構成によれば、支持板部において撓みが生じ易いアーム軸方向の先端から所定範囲内に突起部が設けられているので、荷重負荷による支持板部の撓みによって支持板部における突起部以外の部位をスライドアームの下面に当接させることができる。
【0015】
また、前記支持板部の撓み量をt、前記突起部の頂の高さをhとしたとき、t>hの関係を満たす。
【0016】
この構成によれば、スライドアームへの荷重負荷により撓むことで、支持板部における突起部以外の部位がスライドアームの下面に当接する構造を確実に実現することができる。
【0017】
また、前記突起部は、プレス加工により形成されたものである。
【0018】
この構成によれば、突起部がプレス加工により形成されているので、簡単且つ確実に塑性変形により突起部を形成することができる。
【0019】
また、前記突起部は、ハーフパンチ加工により形成されたものである。
【0020】
この構成によれば、突起部がハーフパンチ加工により形成されているので、穴開けに伴う昇降アームの強度低下を生じることがない。
【0021】
また、前記突起部は、断面円弧状に形成されたものである。
【0022】
この構成によれば、突起部が断面円弧状に形成されているので、突起部の頂でスライドアームの下面に点接触させてスライド抵抗の軽減を図りつつ、突起部において必要な強度や耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両整備用リフトのアーム装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】アーム装置の内部を透視して示す斜視図である。
【
図4】アーム装置を示す幅方向一方側から示す側面図である。
【
図5】アーム装置をアーム軸方向先端側から示す正面図である。
【
図6】アーム装置のアーム軸方向中央部周辺を拡大して示す拡大側面図である。
【
図7】
図6のVII-VII線矢視断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図8】
図7において荷重負荷前の突起部周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図9】
図7において荷重負荷後の突起部周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図10】
図6のX-X線矢視断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図11】
図10において荷重負荷前の突起部周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図12】
図10において荷重負荷後の突起部周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図13】他の突起部を追加した変形例に係るアーム装置の内部を透視して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る車両整備用リフトのアーム装置を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
<車両整備用リフトのアーム装置1の構成>
最初に、本発明の実施形態に車両整備用リフトのアーム装置1の構成について、
図1乃至
図6を参照しつつ説明する。
図1は本発明の実施形態に係る車両整備用リフトのアーム装置1の全体構成を示す斜視図である。
図2はアーム装置1の内部を透視して示す斜視図である。
図3はアーム装置1を示す平面図、
図4は幅方向一方側から示す側面図、
図5はアーム軸方向先端側から示す正面図である。
図6はアーム装置1のアーム軸方向中央部周辺を拡大して示す拡大側面図である。尚、
図1乃至
図6の各図は、いずれも第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30を伸長した状態を示している。また、
図1では受金アタッチメント40において受具50を最も高い位置に調整した状態を示し、
図1以外では受金アタッチメント40の図示を省略している。
【0026】
車両整備用リフトのアーム装置1は、整備対象である車両の昇降を行う車両整備用リフトに設けられる装置である。車両整備用リフトには、1柱式、2柱式又はXリンク式等の各種があり、これらの車両整備用リフトには、アーム装置1が図示しない昇降台(キャリッジとも称される)の4カ所に装備され、4つのジャッキポイントで車体を支持するようになっている。昇降台にはアーム支持部材2が固着され、アーム装置1はアーム支持部材2に回動軸(図示せず)を介して水平回動自在に軸着されている。以下、昇降台に近い側を基端側、遠い方を先端側と称し、基端側と先端側とを結ぶ方向をアーム軸方向、アーム軸方向と直交する水平方向を幅方向とそれぞれ称する。
【0027】
車両整備用リフトのアーム装置1(以下、単にアーム装置1とも称する)は、
図1乃至
図6に示すように、リフトアーム10と、第1スライドアーム20と、第2スライドアーム30と、受具50が取付けられる受金アタッチメント40と、を備えて構成される。アーム装置1は、第1スライドアーム20がリフトアーム10に対して重ねて配置されてアーム軸方向にスライド可能であり、且つ第2スライドアーム30が第1スライドアーム20に対して重ねて配置されてアーム軸方向にスライド可能な2段のテレスコ式の構造によって、アーム軸方向に伸縮可能に構成されている。
【0028】
リフトアーム10は、アーム軸方向に延びる筒状部材であり、先端側は先端面から上面にかけて開口している。リフトアーム10は、断面上向きコ字状の下部材11と、下部材11の上側に配置される平板状の上部材16とを備えて構成される。下部材11は、水平な支持板部12と、支持板部12の幅方向両端から上向きに折れ曲がって垂直に延びる側板部13,13とを有している。リフトアーム10は、側板部13,13の上端面に上部材16が水平に配置されて接合されることで、断面長方形の筒状が形成されている。リフトアーム10の基端側には上部材16を上下に貫通する軸孔16aが形成されている。この軸孔16aに図示しない回動軸が垂直に挿入されることで、リフトアーム10を介してアーム装置1全体が昇降台に対して水平回動自在となっている。
【0029】
支持板部12の上面には、アーム軸方向先端寄りの部位に幅方向に所定の間隔を隔てて2つの突起部15,15が設けられている。各突起部15は、支持板部12の内周面である上面から上方に向かって突出する。各突起部15のアーム軸方向の位置は、加工強度や受具50を介した車体による第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30への荷重負荷に伴う支持板部12の撓みを考慮して設定され、例えば支持板部12の先端縁から10~100mmの範囲内に設定される。また、2つの突起部15,15の幅方向の位置は、アーム軸方向の中心線を挟んで線対称となる位置に、荷重負荷に伴う支持板部12の撓みや他部位との配置上の制約等を考慮して設定される。
【0030】
各突起部15は、直径が例えば5~20mm程度(好ましくは10mm程度)の平面視円形状に形成される。また、各突起部15は、断面円弧状の輪郭を有し、頂の高さが例えば1~2mm程度に設定される。各突起部15は、支持板部12を構成する鋼板の塑性変形によって形成されたものであり、具体的には、プレス加工の一種であるハーフパンチ加工によって形成されている。ハーフパンチ加工は、パンチとダイとを有する金型を用いて突起を形成する加工方法である。各突起部15直下の支持板部12の裏側(下面側)には、ハーフパンチ加工の加工痕として凹部が形成されている。
【0031】
第1スライドアーム20は、筒状部材であるリフトアーム10の内周に嵌入されてアーム軸方向にスライド動作可能な可動体である。第1スライドアーム20は、アーム軸方向においてリフトアーム10よりもやや短い長さに延びると共に、幅方向においてリフトアーム10よりも一回り小さく形成された筒状部材であり、先端側は先端面から上面にかけて開口している。
【0032】
第1スライドアーム20は、断面上向きコ字状を呈する下部材21と、断面下向きコ字状を呈する上部材26とを備えて構成される。下部材21は、水平な支持板部22と、支持板部22の幅方向両端から上向きに折れ曲がって垂直に延びる側板部23,23とを有している。上部材26は、下部材21よりも幅の狭い水平な板状の上板部27と、上板部27の幅方向両端から下向きに折れ曲がって垂直に延びる側板部28,28とを有している。第1スライドアーム20は、下部材21の内側に上部材26が配置されて、幅方向に対向して接する各側板部23及び各側板部28どうしが接合されることで、断面長方形の筒状が形成されている。
【0033】
支持板部22の上面には、アーム軸方向先端寄りの部位に幅方向に所定の間隔を隔てて2つの突起部25,25が設けられている。各突起部25は、支持板部22の内周面である上面から上方に向かって突出する。各突起部25のアーム軸方向の位置は、加工強度や受具50を介した車体による第2スライドアーム30への荷重負荷に伴う支持板部22の撓みを考慮して設定され、例えば支持板部22先端縁から10~100mmの位置に設定される。また、2つの突起部25,25の幅方向位置は、アーム軸方向に沿う中心線を挟んで線対称と関係となるように、荷重負荷に伴う支持板部22の撓みや他部位との配置上の制約等を考慮して設定される。
【0034】
各突起部25は、直径が例えば5~20mm程度の平面視円形状に形成される。また、各突起部25は、断面円弧状の輪郭を有し、頂の高さが例えば1~2mm程度に設定される。各突起部25は、支持板部22を構成する鋼板の塑性変形によって形成されたものであり、具体的には、プレス加工の一種であるハーフパンチ加工によって形成されている。各突起部25直下の支持板部22の裏側(下面側)には、ハーフパンチ加工の加工痕として凹部が形成される。
【0035】
第2スライドアーム30は、筒状部材である第1スライドアーム20の内周に嵌入されてアーム軸方向にスライド動作可能な可動体である。第2スライドアーム30は、アーム軸方向に細長い平面視長方形状を呈する板状部材であり、先端部はアタッチメント用台座部39となっている。
【0036】
アタッチメント用台座部39は、受金アタッチメント40を着脱自在に装着するための台座部である。アタッチメント用台座部39は、装着穴39aが平面視中央に形成されている。装着穴39aは、上下方向に貫通する円筒状の穴であって、受金アタッチメント40のベース41における小径の下半部が上方から挿入される。そして、ベース41の大径の上半部において、下半部より径外方向に張り出した部分の下面がアタッチメント用台座部39の上面に載置されることで、受金アタッチメント40が着脱自在に装着される。
【0037】
受金アタッチメント40は、受具50を垂直方向に(すなわち垂直軸に沿って)昇降させるテレスコ式の受金装置であって、アタッチメント用台座部39に着脱自在に装着される。受金アタッチメント40は、ベース41と、調整ラック42と、ガイド部材(図示せず)と、係止爪レバー44と、を備えて構成される。
【0038】
ベース41は、アタッチメント用台座部39に対して取付け可能な筒状体である。調整ラック42は、ベース41内で上下移動する部材であって、外周に多条の鋸歯が形成されており、上端に受具50を備える。係止爪レバー44は、調整ラック42外周の鋸歯に解除可能に係止されることで、受具50を所望の高さに保持する。受具50は、車体下面のリフトポイントに当接して車体を支持する平面視長方形状の部材である。
【0039】
<スライドアームのスライド構造について>
次に、アーム装置1における第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30のスライド構造について、
図7乃至
図12を参照しつつ説明する。
図7は
図6のVII-VII線矢視断面を拡大して示す拡大断面図である。
図8は
図7において荷重負荷前の突起部15,15周辺を拡大して示す拡大断面図、
図9は荷重負荷後の突起部15,15周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図10は
図6のX-X線矢視断面を拡大して示す拡大断面図である。
図11は
図10において荷重負荷前の突起部25,25周辺を拡大して示す拡大断面図、
図12は
図10において荷重負荷後の突起部25,25周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図9は荷重負荷に伴う突起部15,15周辺の形状変化を模式的に表したものであり、必ずしも実際の形状を正確に表すものではない。同様に、
図12は荷重負荷に伴う突起部25,25周辺の形状変化を模式的に表したものであり、必ずしも実際の形状を正確に表すものではない。
【0040】
まず、リフトアーム10と第1スライドアーム20との間のスライド構造について、
図7乃至
図9を参照しつつ説明する。受具50に車体の荷重負荷が加わっていない無負荷時の場合、すなわち第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30(受金アタッチメント40を含む)の自重のみの場合、
図7及び
図8に示すように、リフトアーム10の下部材11には撓みが殆ど生じない。このため、第1スライドアーム20の下部材21(具体的には支持板部22)は、リフトアーム10の支持板部12において突起部15,15が当接する点接触となることによりスライド抵抗が低減される。よって、無負荷時には第1スライドアーム20をリフトアーム10に対して円滑にスライドさせることが可能となる。
【0041】
一方、受具50に車体の荷重負荷が加わる負荷時の場合、すなわち第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30(受金アタッチメント40を含む)の自重に加えて車体の大きな重量が加わった荷重の場合、
図9に示すように、リフトアーム10(具体的には下部材11)は幅方向中央を中心に下方へ僅かに膨出する撓みが生じる。このため、第1スライドアーム20の下部材21(具体的には支持板部22)は、リフトアーム10の支持板部12に対し、突起部15,15に加えて幅方向両端近傍の部位においても当接することで大きなスライド抵抗が発生する。よって、負荷時には第1スライドアーム20はリフトアーム10に対してスライド不可、換言すれば実質的に固定されることになる。
【0042】
続いて、第1スライドアーム20と第2スライドアーム30との間のスライド構造について、
図10乃至
図12を参照しつつ説明する。受具50に車体の荷重負荷が加わっていない無負荷時の場合、すなわち第2スライドアーム30(受金アタッチメント40を含む)の自重のみの場合、
図11及び
図12に示すように、第1スライドアーム20の下部材21には撓みが殆ど生じない。このため、第2スライドアーム30は、第1スライドアーム20の支持板部22において突起部25,25を介して当接する点接触によりスライド抵抗が低減される。よって、無負荷時には第2スライドアーム30を第1スライドアーム20に対して円滑にスライドさせることが可能となる。
【0043】
一方、受具50に車体の荷重負荷が加わる負荷時の場合、すなわち第2スライドアーム30(受金アタッチメント40を含む)の自重に加えて車体の大きな重量が加わった荷重の場合、
図12に示すように、第1スライドアーム20(具体的には下部材21)は幅方向中央を中心に下方へ僅かに膨出する撓みが生じる。このため、第2スライドアーム30は、第1スライドアーム20の支持板部22に対し、突起部15,15に加えて幅方向両端近傍の部位においても当接することで大きなスライド抵抗が発生する。よって、負荷時には第2スライドアーム30は第1スライドアーム20に対してスライド不可、換言すれば実質的に固定されることになる。
【0044】
つまり、アーム装置1は、リフトアーム10と第1スライドアーム20との間及び第1スライドアーム20と第2スライドアーム30との間にそれぞれ上述したスライド構造が設けられることにより、無負荷時には第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30を円滑にスライド自在とする一方、負荷時には第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30をスライド不可とすることができる。
【0045】
<アーム装置1の操作手順について>
次に、上述した構成を有するアーム装置1の操作手順について説明する。まず昇降台を下段まで降ろし、リフトに車両を乗り込ませる。そして、アーム装置1を旋回させ、第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30を伸縮操作し、受具50を車体のリフトポイントの位置に合わせ、さらに受金アタッチメント40の調整ラック42を用いて受具50をリフトポイントの高さとなるよう調整する。
【0046】
このとき、受具50を介して第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30に車体の荷重負荷が加わっていないので、リフトアーム10の下部材11には撓みが殆ど生じず、第1スライドアーム20の下部材21が突起部15,15において点接触となることによりスライド抵抗が低減され、第1スライドアーム20を円滑にスライドさせることができる。同様に、第1スライドアーム20の下部材21にも撓みが殆ど生じず、第2スライドアーム30が突起部25,25において点接触となることによりスライド抵抗が低減され、第2スライドアーム30を円滑にスライドさせることができる。
【0047】
他のリフトポイントにも、同様にしてそれぞれ受具50を合わせた後、昇降台を上昇させる。このとき、受具50を介して第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30に車体の荷重負荷が加わるので、リフトアーム10(下部材11)は幅方向中央を中心に下方へ僅かに膨出する撓みが生じる。このため、第1スライドアーム20の下部材21(支持板部22)は、リフトアーム10の支持板部12に対し、突起部15,15に加えて幅方向両端近傍の部位においても当接することで大きなスライド抵抗が発生し、第1スライドアーム20はリフトアーム10に対してスライド不可とされる。同様に、第1スライドアーム20(下部材21)は幅方向中央を中心に下方へ僅かに膨出する撓みが生じる。このため、第2スライドアーム30は、第1スライドアーム20の支持板部22に対し、突起部15,15に加えて幅方向両端近傍の部位においても当接することで大きなスライド抵抗が発生し、第2スライドアーム30は第1スライドアーム20に対してスライド不可とされる。
【0048】
作業が終了したら昇降台を下降させ、受具50を車体から外す。すると、リフトアーム10の下部材11は、無負荷となることで撓みが無くなり、第1スライドアーム20の下部材21が突起部15,15において点接触となってスライド抵抗が低減され、第1スライドアーム20を再び円滑にスライドさせることができるようになる。同様に、第1スライドアーム20の下部材21の撓みも無くなり、第2スライドアーム30が突起部25,25において点接触となってスライド抵抗が低減され、第2スライドアーム30を再び円滑にスライドさせることができるようになる。このようにして、第2スライドアーム30を第1スライドアーム20内に、第1スライドアーム20をリフトアーム10内にそれぞれ収容し、アーム装置1を旋回させて元の位置に戻すことで一連の作業が完了する。
【0049】
<実施形態のまとめ>
以上詳述したことから明らかなように、本実施形態に係る車両整備用リフトのアーム装置1は、アーム軸方向の基端側で昇降可能に設けられる昇降アームと、昇降アームに嵌合してアーム軸方向にスライドされるスライドアームとを備えて構成される車両整備用リフトのアーム装置である。ここで、第1スライドアーム20を本発明の「スライドアーム」に対応させた場合、リフトアーム10が「昇降アーム」に対応することになる。一方、第2スライドアーム30を本発明の「スライドアーム」に対応させた場合、リフトアーム10及び第1スライドアーム20が本発明の「昇降アーム」に対応することになる。以下の説明では、前者の場合における各部の名称を示すと共に、後者の場合における各部の名称を括弧内に併記することとする。
【0050】
すなわち、車両整備用リフトのアーム装置1は、アーム軸方向の基端側で昇降可能に設けられるリフトアーム10(第1スライドアーム20)と、リフトアーム10(第1スライドアーム20)に嵌合してアーム軸方向にスライドされる第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)とを備えて構成されるものであって、リフトアーム10(第1スライドアーム20)は、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)を支持する支持板部12(支持板部22)の上面に、塑性変形により形成された少なくとも1つ(本実施形態では2つ)の突起部15(突起部25)を備え、突起部15(突起部25)は、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)への無負荷時において、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)の下面に当接して第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)をリフトアーム10(第1スライドアーム20)に対してスライド可能に支持する。
【0051】
この構成によれば、リフトアーム10(第1スライドアーム20)は、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)を支持する支持板部12(支持板部22)の上面に、塑性変形により形成された少なくとも1つの突起部15(突起部25)を備えているので、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)の下面に当接して第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)を第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)に対してスライド可能に支持することができる。
【0052】
そして、昇降アームとスライドアームとの間にスライド力軽減用のローラを設ける従来構成に比べて、アーム装置1の高さサイズを小さくできるため、近年の車両の低床化に伴う装置高さの低減化に対する要求への対応が可能となる。
【0053】
また、支持板部12(支持板部22)にピンを立設して突起部を設けようとした場合はピンを立設するために支持板部12(支持板部22)に穴を開ける必要があるが、上述した構成では支持板部12(支持板部22)自体の塑性変形により突起部15(突起部25)が形成され、支持板部12(支持板部22)に穴が開いていないため、リフトアーム10(第1スライドアーム20)において強度確保を図る上で有利である。
【0054】
従って、上記構成によれば、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)のスライド力を簡単な構造で軽減でき且つ強度向上が可能な車両整備用リフトのアーム装置1を提供することができるという効果を奏する。
【0055】
また、支持板部12(支持板部22)は、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)への荷重負荷により撓むことで、支持板部12(支持板部22)における突起部15(突起部25)以外の部位が第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)の下面に当接する。
【0056】
この構成によれば、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)で車体を支持するときは、車体の荷重負荷により支持板部12(支持板部22)が撓み、支持板部12(支持板部22)における突起部15(突起部25)以外の部位が第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)の下面に当接してスライド抵抗が増大するので、車体を支持している間は第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)のスライドを防止して安全性を確保することができる。
【0057】
また、突起部15(突起部25)は、支持板部12(支持板部22)におけるアーム軸方向の先端から所定範囲内に設けられる。
【0058】
この構成によれば、支持板部12(支持板部22)において撓みが生じ易いアーム軸方向の先端から所定範囲内に突起部15(突起部25)が設けられているので、荷重負荷による支持板部12(支持板部22)の撓みによって支持板部12(支持板部22)における突起部15(突起部25)以外の部位を第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)の下面に当接させることができる。
【0059】
また、支持板部12(支持板部22)の撓み量をt、突起部15(突起部25)の頂の高さをhとしたとき、t>hの関係を満たす。
【0060】
この構成によれば、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)への荷重負荷により撓むことで、支持板部12(支持板部22)における突起部15(突起部25)以外の部位が第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)の下面に当接する構造を確実に実現することができる。
【0061】
また、突起部15(突起部25)は、プレス加工により形成されたものである。
【0062】
この構成によれば、突起部15(突起部25)がプレス加工により形成されているので、簡単且つ確実に塑性変形により突起部15(突起部25)を形成することができる。
【0063】
また、突起部15(突起部25)は、ハーフパンチ加工により形成されたものである。
【0064】
この構成によれば、突起部15(突起部25)がハーフパンチ加工により形成されているので、穴開けに伴うリフトアーム10(第1スライドアーム20)の強度低下を生じることがない。
【0065】
また、突起部15(突起部25)は、断面円弧状に形成されたものである。
【0066】
この構成によれば、突起部15(突起部25)が断面円弧状に形成されているので、突起部15(突起部25)の頂で第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)の下面に点接触させてスライド抵抗の軽減を図りつつ、突起部15(突起部25)において必要な強度や耐久性を確保することができる。
【0067】
<変形例>
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々に変更を施すことが可能である。例えば、上記実施形態では、第1スライドアーム20及び第2スライドアーム30を備え、リフトアーム10に対してアーム軸方向に二段階に伸縮可能な構成に本発明を適用した例を示したが、スライドアームを1つ備えて一段階にのみを伸縮可能な構成に本発明を適用してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、リフトアーム10(第1スライドアーム20)は、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)を支持する支持板部12(支持板部22)の上面に、塑性変形により形成された2つの突起部15(突起部25)を備える構成としたが、これには限られない。突起部15(突起部25)は1つでもよく、3つ以上でも構わない。いずれの場合も、各突起部15(突起部25)を、アーム軸方向中心線に対して線対称に配置することが好ましい。
【0069】
また、上記実施形態では、アーム軸方向における支持板部12(支持板部22)の先端寄り位置にのみ突起部15、15(突起部25,25)を設ける構成としたが、支持板部12(支持板部22)における先端寄り位置以外にも突起部を設ける構成としてもよい。
図13は、他の突起部15’,15’(他の突起部25’,25’)を追加した変形例に係るアーム装置1の内部を透視して示す斜視図である。本変形例では、
図13に示すように、支持板部12(支持板部22)において突起部15,15(突起部25,25)よりも基端側の位置にこれらと同様の他の突起部15’,15’(他の突起部25’,25’)を設ける構成としている。本変形例によれば、突起部15,15(突起部25,25)よりも基端側の位置においても支持板部12(支持板部22)に対して点接触とされることで、第1スライドアーム20(第2スライドアーム30)のスライド力をより一層軽減することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 車両整備用リフトのアーム装置
10 リフトアーム(昇降アーム)
12 支持板部
15 突起部
15’ 他の突起部
20 第1スライドアーム(スライドアーム、昇降アーム)
22 支持板部
25 突起部
25’ 他の突起部
30 第2スライドアーム(スライドアーム)