(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010286
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】苗の順化・移植方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/05 20180101AFI20240117BHJP
【FI】
A01G22/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111531
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】597024681
【氏名又は名称】第一実業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】鬼丸 浩典
(72)【発明者】
【氏名】野間 貴文
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB15
(57)【要約】
【課題】インビトロ苗の順化を管理するための特別な装置を必要とすることなく、高い作業効率で、インビトロ苗を順化・移植できる方法を提供する。
【解決手段】インビトロ苗を培養容器内で網の上で培養し、培養したインビトロ苗を根のついた塊のまま網ごと取り出し、前記網の下に突出している根の下方部分を切断して網から分離し、洗浄し、洗浄したインビトロ苗をさらに幾つかの小さい塊に分割し、水及び/又は養液を溜めた容器に移して順化させて、幼苗まで生育させ、かつ、前記幼苗を育苗容器に移植することを含む、インビトロ苗の順化及び移植方法により解決される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロ苗の順化及び移植方法であって、インビトロ苗を培養容器内で網の上で培養し、培養したインビトロ苗を根のついた塊のまま網ごと取り出し、前記網の下に突出している根の下方部分を切断して網から分離し、洗浄し、洗浄したインビトロ苗をさらに幾つかの小さい塊に分割し、水及び/又は養液を溜めた容器に移して順化させて、幼苗まで生育させ、かつ、前記幼苗を育苗容器に移植することを含む、インビトロ苗の順化及び移植方法。
【請求項2】
前記小さい塊が、20本以下であるか、あるいは5~10本の植物体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記小さい塊が、未発達の植物体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記順化を、水又は養液を溜めた容器内で、湿度40~60%、温度20~30℃の閉鎖された空間でおこなう、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水又は養液を溜めた容器が、バット状の容器又は水耕栽培装置である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記インビトロ苗が、イチゴのインビトロ苗である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養されたインビトロ苗を順化させてからポット等の育苗容器に移植する苗の順化・移植方法に関する。本発明の方法は、特にイチゴ苗の順化・移植に適している。
【背景技術】
【0002】
苗の順化とは、無菌状態の培養容器内で培養された苗(「インビトロ苗」ともいう。以下、本明細書中において同じ。)を、ポット等の育苗容器に移植可能な苗に生育させることを意味する。一般に、インビトロ苗の培養環境は無菌状態で自然環境よりも湿度が高いので、培養されたインビトロ苗は耐菌性、耐候性等が低い。そこで、インビトロ苗に耐菌性、耐候性をもたせるべく順化させてから、自然環境下で生育させることが必要となる。
従来の苗の順化・移植方法では、インビトロ苗を培養容器内で金網の上で培養し、インビトロ苗を金網ごと培養容器から取り出して、根を切って金網から外した塊から、苗を一本ずつ取り出して順化装置内に移植し、ここで一定期間管理して苗の生育を確認してから、さらに育苗容器に移植して育苗段階に移行することがおこなわれてきた。
イチゴ苗の培養を行なう培養容器として、上方開口であり、深さ方向途中のくびれ部分に金網が着脱可能にセットされており、金網より下方に培養液を収容可能な形の容器などが知られている。特許文献1では、苗の生長点を含み、葉や根を有しない断片(「シュート」ともいう。以下、本明細書中において同じ。)を複数個準備し、この種の培養容器を使用して、前記金網の上に置いて培養し、作製されたインビトロ苗を金網ごと培養容器から取り出して株分けし、セルトレーやポット等の育苗容器に移植して、インビトロ苗を湿度70%~90%に調整された順化装置内に置いて、順化させる方法が開示されている。
また、特許文献2では、インビトロ苗を培養容器内で培養し、インビトロ苗を金網ごと培養容器から取り出し、水耕栽培装置に移し、かつ、シートで覆って保湿しながら順化させた後に、金網の下方部分を切断してインビトロ苗を分離し、分離された苗をポット等の育苗容器に移植する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、従来の苗の順化・移植方法には、以下のような課題があった。
(i)植物体が互いに絡み合っているインビトロ苗から一本ごとピンセットで植物体を抜き取り、セルトレーに移植する工程を含む方法の場合、未発達の植物体の生長点を見極める熟練度と集中力、さらに200本以上の植物体が互いに絡み合ったインビトロ苗の移植作業を継続する忍耐力が必要であるため、作業能率が上がらなかった。
(ii)無菌状態で、高湿度条件で培養されたインビトロ苗を順化するため、自然条件から隔離された空間を作り、ミストなどで徐々に湿度を下げるように順化環境を厳しく管理することが必要であった。
(iii)培養容器から取り出して金網ごとインビトロ苗をそのまま順化させると、作業能率は上がるものの、培養中に生成され植物体に付着した老廃物及び培養液の残渣がカビや腐りの原因になって、歩留まりの向上がみられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-220022号公報
【特許文献2】特開2004-229598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前記課題に鑑み、インビトロ苗の順化を管理するための特別な装置を必要とすることなく、高い作業効率で、インビトロ苗を順化・移植できる方法を提供することにある。また、前記方法は、従来の方法における集中力と忍耐力を伴う作業を省略しても、歩留まりを向上させることを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]インビトロ苗の順化及び移植方法であって、インビトロ苗を培養容器内で網の上で培養し、培養したインビトロ苗を根のついた塊のまま網ごと取り出し、網の下に突出している根の下方部分を切断して網から分離し、洗浄し、洗浄したインビトロ苗をさらに幾つかの小さい塊に分割し、水及び/又は養液を溜めた容器に移して順化させて、幼苗まで生育させ、かつ、前記幼苗を育苗容器に移植することを含む、前記方法。
[2]前記小さい塊が、20本以下であるか、あるいは5~10本の植物体を含む、[1]に記載の方法。
[3]前記小さい塊が、未発達の植物体を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記順化を、水又は養液を溜めた容器内で、湿度40~60%、温度20~30℃の閉鎖された空間でおこなう、[1]から[3]までのいずれか1つに記載の方法。
[5]前記水又は養液を溜めた容器が、バット状の容器又は水耕栽培装置である、[1]から[4]までのいずれか1つに記載の方法。
[6]前記インビトロ苗が、イチゴのインビトロ苗である、[1]から[5]までのいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により、インビトロ苗の順化・移植を、高い作業効率及び高い歩留まりで実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】インビトロ苗の培養状態を示す説明図。(a)は、培養容器内に置かれたシュートの状態を示す部分図であり、(b)は、培養容器内で成長したインビトロ苗の状態を示し、(c)は、1本の植物体を示す。
【
図2】インビトロ苗の分離状態を示す説明図。(a)は、培養容器から取り出されたインビトロ苗の塊と切断すべき根の位置を示し、(b)は、順化のためにさらに小さい塊に分割される洗浄したインビトロ苗を示す。
【
図3】インビトロ苗の移植状態を示す説明図。(a)は、順化により生育させた幼苗を示し、(b)は、前記幼苗を育苗容器内に移植した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を図に基づいて説明する。以下は、培養したイチゴ苗を順化・移植する方法の一例である。
【0010】
(インビトロ苗の作製)
複数のシュート(7)を、無菌環境下で、相対湿度80~100%、温度23~25℃に調整された培養容器(1)内で培養し、インビトロ苗(5)を作製する。このようなインビトロ苗(5)の培養状態を
図1(b)に示す。このインビトロ苗(5)から得られる植物体(「植物体」とは、独立して幼苗に成長することができる植物の単位を意味する。以下、本明細書中において同じ。)の本数は、培養容器の大きさによっても異なるが、通常270~280本である。
前記培養容器(1)は、蓋を備えた有底の透明容器であり、深さ方向の途中にくびれ部(3)があり、そのくびれ部に金網(4)を係止させてセット可能する。
前記培養容器(1)内に培養液を入れて液体培地(6)を形成するが、このとき、液体培地(6)の液面は金網(4)より下とし、シュート(7)が気液両方に接触可能としておく。
前記金網(4)は、合成樹脂製の網や多数の通孔を備えた金属板、プラスチック板などに変更されてもよい。言い換えれば、前記金網(4)は、培養容器(1)内のシュート(7)を気液両方に接触可能に支持可能であれば如何なる形状及び材料からなるものであってもよい。また、液体培地(6)は、寒天培地に変更することもできる。
【0011】
(洗浄)
培養容器(1)内のインビトロ苗(5)を金網(4)ごと取り出し、
図2(a)に示すように金網(4)の下方に伸びた根をはさみなどで切って、前記インビトロ苗(5)を金網(4)から取り外す。前記インビトロ苗は、通常、植物体が互いに絡み合った状態で塊を形成しているので、前記塊に含まれる未発達の植物体を完全に取り除くことのない程度にほぐしながら、培養の際に生じた植物体に付着する老廃物及び培養液の残渣などを水でよく洗い流し、かつ、枯れた植物体を取り除く。この作業は、雑菌などの侵入を抑えた閉鎖された室内でおこなうことが好ましい。
【0012】
(順化管理)
引き続いて、洗浄されたインビトロ苗を、さらに小さい塊(5a)に分割して順化管理をおこなう。このようにして順化管理をおこなうことで、前記インビトロ苗の塊に含まれる未発達な植物体の生育が進み、植物体(5b)を1本ずつ分離しやすくなる。また、この目的のために、前記インビトロ苗は20本以下であるか、あるいは5~10本程度の植物体を含む小さい塊(5a)に分割することが好ましい。
また、このような作業はいずれも、熟練度が問われる作業でないことから、作業効率及び歩留まりを著しく向上させることができる。
具体的には、洗浄したインビトロ苗を、
図2(b)に示すように小さい塊(5a)に分割した後、水及び/又は養液(8)を溜めた容器、たとえばバット状の容器(9)に移して順化をおこなう。ここで使用される養液(液体肥料)は、従来使用されているものであってよい。
順化環境は、雑菌などの侵入を抑えた閉鎖された室内であればよく、また、これに限定されるものでないが、人工光下で、室内を湿度40~60%、温度20℃~30℃の範囲に保つことが好ましい。
順化期間は、
図3(a)に示すように、個々の植物体の生長点から展葉と発根が認められる幼苗(5c)の段階までとし、植物の種類及び順化環境に依存するが、通常は14~15日である。また、前記容器に代えて、市販の水耕栽培装置を使用することもできる。
【0013】
(移植)
順化が完了したインビトロ苗は、塊になっている部分があればこれをよくほぐした後に、分割した幼苗(5c)の形で育苗容器(11)に移植する。前記育苗容器としては、ポットやセルトレーなどが挙げられるが、育苗容器として一般に使用されるものであればよく、これに限定されるものではない。また、ここで使用される移植用の支持体(10)は、バーミキュライト、ウレタン、ロックウールなどを使用することができるが、これに限定されるものではない。
移植された幼苗は、約6週間で出荷可能な大きさに成長し、完成された苗となる。
本発明の方法は、イチゴ苗に限らず、他の植物の苗の順化・移植にも利用可能である。
【0014】
一つの培養容器内で作製されたインビトロ苗に対して、最終的には、約250本の苗が得られた。これは、インビトロ苗からの製品率がほぼ100%に近いことを意味する。従来の方法では、最終的に苗として製品化できるのは120~200本程度であることから、その歩留まりは従来の方法を大きく上回り、約2倍に達する場合もある。このような歩留まりの著しい向上は、植物体に付着する老廃物や培養液の残渣などをあらかじめ洗浄除去することにより、順化中のインビトロ苗におけるカビ及び腐りの発生を抑制できたこと、さらには、順化前にインビトロ苗を小さな塊に分割することで、未発達の植物体の生長が促されたことによるものと考えられる。
また、従来の方法では、順化から苗の完成まで約12週間を要するのに対し、本発明の方法では、約8週間で完成するため、育苗期間を大幅に短縮することができ、生産能率を向上させることができることも大きなメリットである。
さらに、従来の方法では、外気をコントロールするためにシートで被うこと、あるいは特別な水耕栽培順化装置が必要であるのに対し、本発明の方法では、インビトロ苗の順化を作業者が通常作業している環境下でおこなうことができることから、作業効率の向上のみならず、大幅なコストダウンにつながることが期待される。
【符号の説明】
【0015】
1.培養容器
2.培養容器の蓋
3.培養容器のくびれ部
4.金網
5.インビトロ苗
6.液体培地
7.シュート
8.水及び/又は養液
9.バット
10.支持体
11.育苗容器
5a.小さな塊に分割されたインビトロ苗
5b.植物体
5c.幼苗