IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ロータ 図1
  • 特開-ロータ 図2
  • 特開-ロータ 図3
  • 特開-ロータ 図4
  • 特開-ロータ 図5
  • 特開-ロータ 図6
  • 特開-ロータ 図7
  • 特開-ロータ 図8
  • 特開-ロータ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102866
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/28 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
H02K1/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006925
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】亀山 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】北尾 拓也
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601AA09
5H601CC01
5H601EE18
5H601EE34
5H601GA02
5H601GA33
5H601GA40
5H601JJ05
5H601KK13
(57)【要約】
【課題】ロータコアに対するシャフトの常温での圧入と、シャフトとロータコアとが滑ることの防止と、を両立することが可能な技術の提供。
【解決手段】軸方向に延びるシャフト挿入孔が形成されたロータコアと、前記シャフト挿入孔に挿入される中空のシャフトと、を備え、前記シャフトは、軸方向における異なる位置に形成された2個以上のスリットを有する、ロータが構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びるシャフト挿入孔が形成されたロータコアと、
前記シャフト挿入孔に挿入される中空のシャフトと、を備え、
前記シャフトは、軸方向における異なる位置に形成された2個以上のスリットを有する、
ロータ。
【請求項2】
2個以上の前記スリットは、
前記シャフトの周方向における同じ位置に形成されている、
請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
2個以上の前記スリットは、
前記シャフトの周方向における異なる位置に形成されている、
請求項1または請求項2に記載のロータ。
【請求項4】
前記周方向における異なる位置は、
予め決められた一定の角度ずつ周方向に離間した位置である、
請求項3に記載のロータ。
【請求項5】
前記周方向における異なる位置は、
N(Nは2以上の整数)個存在し、
前記シャフトの軸を中心とした周方向の角度において、互いに360°/Nずつ離間している、
請求項3に記載のロータ。
【請求項6】
前記周方向における異なる位置は、特定の径方向を0°とした場合に、0°,90°,180°,270°の位置であり、
前記軸方向における異なる位置は、軸方向の一方の端部から順に合計4個存在し、
周方向における前記0°の位置および前記180°の位置においては、軸方向において前記端部から数えて1番目および3番目の位置に前記スリットが形成され、
周方向における前記90°の位置および前記270°の位置においては、軸方向において前記端部から数えて2番目および4番目の位置に前記スリットが形成されている、
請求項3に記載のロータ。
【請求項7】
前記シャフトの軸方向における一方の端部にはフランジ部が形成されており、
前記フランジ部の外径は前記フランジ部以外の部分の外径より大きく、
軸方向において前記ロータコアと、前記フランジ部と、の間には隙間が存在する、
請求項1に記載のロータ。
【請求項8】
前記フランジ部に最も近い位置に形成された前記スリットの少なくとも一部は、軸方向において前記隙間に重なる、
請求項7に記載のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータコアに形成されたシャフト挿入孔にシャフトが挿入され、摩擦固定されたロータが知られている。例えば、特許文献1には、焼き嵌めによってシャフトをロータコアに固定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-186298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータは使用過程において回転するが、回転時には、径方向外側に向けた遠心力がロータに作用し、モータの回転数が大きくなるほど遠心力は大きくなる。一般に、シャフトよりも径が大きく体積も大きいロータコアの方が、遠心力の影響が大きく、径方向外側方向への変形量が大きい。このため、モータの回転数が増加すると、シャフトとロータコアとの間に作用する面圧が小さくなる。そこで、モータが回転してもシャフトとロータコアとが滑らないようにするため、従来は、特許文献1に開示されたようにシャフトとロータコアとの間に充分な大きさの締め代が設けられていた。
従来技術のようにシャフトとロータコアとの間に充分な大きさの締め代を設けた場合、常温でシャフトをロータコアに圧入することは困難になる。そこで、従来は、特許文献1のように焼き嵌めによってシャフトとロータコアとを組み付ける構成が採用されている。
【0005】
一方、中空のシャフトにスリットを1つ形成すると、径方向の弾性変形が可能になるため、常温でシャフトをロータコアに圧入することが可能になる。しかし、シャフトをロータコアに圧入するためには、シャフトが軸方向のほぼ全長にわたって弾性変形する必要がある。このため、1つのスリットでシャフトを変形させ、圧入可能にする場合、スリットは、シャフトの軸方向のほぼ全長にわたって存在することになる。しかし、圧入後の状態においてスリットが存在する部位は、シャフトとロータコアとが接触しない部位となり、この部位の周辺においてシャフトとロータコアとの間に作用する面圧は小さくなる。従って、シャフトの軸方向のほぼ全長にわたる大きいスリットが1つ存在する場合、モータの回転数が増加すると充分な面圧を確保することが困難になり、シャフトとロータコアとが滑ってしまう。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、ロータコアに対するシャフトの常温での圧入と、シャフトとロータコアとが滑ることの防止と、を両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、ロータは、軸方向に延びるシャフト挿入孔が形成されたロータコアと、前記シャフト挿入孔に挿入される中空のシャフトと、を備え、前記シャフトは、軸方向における異なる位置に形成された2個以上のスリットを有する。
【0007】
シャフトにスリットが形成されると、スリットが形成されない場合と比較して変形が容易になる。このため、シャフトをロータコアに挿入(圧入)する際にシャフトが変形可能になり、スリットが形成されないシャフトを挿入する場合と比較して摩擦力を低減することができる。この結果、常温でロータコアに対してシャフトを圧入することが可能になり、摩擦固定のための昇温工程を廃止することが可能である。さらに、スリットが軸方向に2個以上形成される場合、スリットを軸方向に分散して配置することができる。スリットが軸方向に分散して配置されると、スリットが存在しない部位も軸方向に分散して配置される。スリットおよびその周囲においては、シャフトとロータコアとの間に大きい面圧を作用させることができないが、スリットが存在しない部位であれば、シャフトとロータコアとの間に大きい面圧を作用させることができる。従って、スリットが存在しない部位が軸方向に分散して配置されることにより、シャフトとロータコアとの間の面圧が過度に低下することを防ぎ、ロータ回転時にシャフトとロータコアとが滑ることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aはロータの断面図あり、図1Bはシャフトの斜視図である。
図2図2Aはシャフトに形成されたスリットの位置を説明するための図であり、図2Bはシャフトをフランジ部側から軸方向に沿って眺めた状態を示す図である。
図3】回転数と平均面圧との関係を示す模式図である。
図4図4Aは、シャフトの変形量を示す図であり、図4Bは、シャフトに作用する面圧を示す図である。
図5図5A図5Bはスリットの位置を説明するための図である。
図6図6A図6Bはスリットの位置を説明するための図である。
図7図7A図7Bはスリットの位置を説明するための図である。
図8図8A図8Bはスリットの位置を説明するための図である。
図9図9A図9Bはスリットの位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)ロータの構成:
(1-2)シャフトの構成:
(2)他の実施形態:
【0010】
(1)ロータの構成:
図1Aは発明の一実施形態にかかるロータ1を示す断面図である。ロータ1は図示しないモータに組み込まれ、軸を中心に回転する。本明細書においては、ロータ1の軸に沿った方向を軸方向と呼び、軸に垂直な方向を径方向と呼ぶ。また、径方向における軸側を径方向内側と呼び、径方向における軸と反対側を径方向外側と呼ぶ。さらに、軸を中心とした回転方向、すなわち、軸を中心とした円の周に沿った方向を周方向と呼ぶ。図1Aは、ロータ1の軸Axを含む切断面でロータ1を切断した状態を示している。従って、図1Aの左右方向は軸方向であり、図1Aの上下方向は径方向である。なお、図1Aにおいては、締め代などの細部が省略され、簡略化されている場合がある。
【0011】
ロータ1は、ロータコア10とシャフト20とを備えている。ロータコア10は、複数の電磁鋼板が軸方向に積層されることによって形成される。本実施形態において、ロータコア10は円筒形である。すなわち、ロータコア10は、円柱状の外形を有している。また、ロータコア10には、軸Axを含み、軸Axに平行な方向に延びる円柱状の貫通孔が形成されている。当該貫通孔は、シャフト20が圧入されるシャフト挿入孔10aである。
【0012】
さらに、ロータコア10は、磁石挿入孔10bを備え、当該磁石挿入孔10bに永久磁石が挿入される。磁石挿入孔10bは、ロータコア10を軸方向から見た場合に略長方形の孔であり、周方向および径方向に対して傾斜した孔である。磁石挿入孔10bは、ロータコア10に複数個設けられ、各磁石挿入孔10bに永久磁石が配置される。すなわち、本実施形態にかかるロータ1は、埋込永久磁石型モータ(IPMモータ:Interior Permanent Magnet Motor)に用いられる。
【0013】
(1-2)シャフトの構成:
図1Bは、シャフト20の斜視図である。シャフト20は、シャフト挿入孔10aに挿入されて摩擦固定される挿入部20aと、シャフト20の外周面より径方向に突出したフランジ部20bと、を有している。シャフト20は、中空であり、シャフト20の内部には、軸Axを含み、軸Axに平行な方向に延びる円柱状の貫通孔が形成されている。
【0014】
フランジ部20bは、シャフト20の軸方向における一方の端部側に形成されている。軸方向においてフランジ部20bと異なる部分は、挿入部20aである。挿入部20aの軸方向の長さはシャフト挿入孔10aの軸方向の長さより大きい。挿入部20aとフランジ部20bとのそれぞれにおいて外径は一定であるが、挿入部20aの外径とフランジ部20bの外径とは異なっている。すなわち、フランジ部20bの外径は挿入部20aの外径よりも大きい。
【0015】
シャフト20の挿入部20aには、複数のスリット20cが形成されている。スリット20cは、軸方向における異なる位置に形成されていればよい。本実施形態においては、合計8個のスリット20cが挿入部20aに形成されている。スリット20cの形状は限定されないが、本実施形態においては、径方向に沿ってスリット20cを見た場合に、軸方向に長い矩形である。また、本実施形態において、スリット20cは、径方向に挿入部20aを貫通している。さらに、本実施形態においては、複数のスリット20cの形状が同一の大きさおよび形状である。
【0016】
本実施形態において、スリット20cは、軸方向および周方向にずれた位置に形成される。図2Aはスリット20cの位置を説明するための図であり、シャフト20の挿入部20aを仮想的に切断し、環状の部分を平面状に延ばした状態を示している。なお、図2Aにおいては、各スリット20cをスリット20c11~20c44のように区別して表記している。図2Aにおいては、左右方向が軸方向であり、上下方向が周方向に相当する。また、図2Aにおいては、フランジ部20bを省略しているが、フランジ部20b側の端部が図2Aの左側、フランジ部20bと逆側の端部が図2Aの右側になるように図示されている。
【0017】
本実施形態においては、複数のスリット20cの形状および大きさが同一であるため、スリット20cの矩形の重心によってスリット20cの位置を定義する。本実施形態においては、軸方向における4カ所のいずれかにスリット20cの位置が存在する。本実施形態においては、これらの4カ所をフランジ部20b側の端部から順に軸方向第1位置Pa1,軸方向第2位置Pa2,軸方向第3位置Pa3,軸方向第4位置Pa4と呼ぶ。
【0018】
本実施形態においては、スリット20c11,20c13が軸方向第1位置Pa1に存在し、スリット20c22,20c24が軸方向第2位置Pa2に存在する。また、スリット20c31,20c33が軸方向第3位置Pa3に存在し、スリット20c42,20c44が軸方向第4位置Pa4に存在する。すなわち、本実施形態においては、軸方向の同一の位置に2個のスリット20cが配置されている。また、軸方向の異なる4カ所の位置にスリット20cが配置されている。
【0019】
さらに、本実施形態において、軸方向第1位置Pa1,軸方向第2位置Pa2,軸方向第3位置Pa3,軸方向第4位置Pa4の間の軸方向の距離Lapは同一であり、かつ、スリット20cの軸方向の長さLasと同一である。従って、スリット20cの軸方向の端部は、軸方向第2位置Pa2,軸方向第3位置Pa3,軸方向第4位置Pa4の中間の位置に存在する。例えば、図2Aに示すスリット20c11の端部E11と、スリット20c22の端部E22との軸方向の位置は一致する。以上のように、本実施形態においては、軸方向の位置が異なるスリット20c同士は軸方向において重なっていないが、軸方向においてスリット20c同士が離間しないように配置されている。
【0020】
図2Bは、シャフト20をフランジ部20b側から軸方向に沿って眺めた状態を示している。また、図2Bにおいては、軸Axを中心とした角度によって周方向の位置を示すことが想定されており、図2Aに示すスリット20c11,20c31が形成された周方向の位置を角度0°とみなし、時計回り方向への角度θで周方向の位置を示すこととする。図2Bにおいては、周方向における角度0°、90°、180°、270°の位置に、スリット20cが存在するようにシャフト20が図示されている。
【0021】
すなわち、本実施形態において、スリット20cは、周方向において4カ所に形成され、シャフト20の軸Axを中心とした周方向の角度において、互いに90°(=360°/4)ずつ離間している。このため、スリット20cは、予め決められた一定の角度である90°ずつ周方向に離間した位置に配置されている。
【0022】
なお、本実施形態において、スリット20cが設けられる周方向の位置は90°ずつ離間しているとともに、軸方向において同一の位置に形成されたスリット20c同士が周方向において離間する角度も一定である。例えば、軸方向第1位置Pa1に形成されたスリット20c11,20c13が周方向で離間する角度は180°であり、軸方向第2位置Pa2に形成されたスリット20c22,20c24が周方向で離間する角度も180°である。
【0023】
図2Aにおいては、周方向の位置が示されている。すなわち、図2Aに示す挿入部20aの左側には、周方向の位置である角度0°、90°、180°、270°が示されている。本実施形態においては、これらの周方向の4カ所を角度が小さい順に周方向第1位置Pc1,周方向第2位置Pc2,周方向第3位置Pc3,周方向第4位置Pc4と呼ぶ。
【0024】
本実施形態においては、スリット20c11,20c31が周方向第1位置Pc1に存在し、スリット20c22,20c42が周方向第2位置Pc2に存在する。また、スリット20c13,20c33が周方向第3位置Pc3に存在し、スリット20c24,20c44が周方向第4位置Pc4に存在する。さらに、本実施形態において、スリット20cは軸方向に長く、周方向に短い長方形であり、周方向において異なる位置に存在するスリット20c(例えば、スリット20c11とスリット20c22)は、周方向において重なっておらず、周方向においてスリット20cが互いに離間するように配置されている。
【0025】
以上のように、本実施形態においては、特定の径方向を0°とした場合に、周方向の角度が0°,90°,180°,270°の位置にスリット20cが存在する。また、軸方向においてスリット20cが存在する位置は、軸方向のフランジ部20b側の端部から順に、軸方向第1位置Pa1,軸方向第2位置Pa2,軸方向第3位置Pa3,軸方向第4位置Pa4の合計4個存在する。そして、周方向における0°の位置および180°の位置においては、軸方向においてフランジ部20b側の端部から数えて1番目および3番目の位置である軸方向第1位置Pa1および軸方向第3位置Pa3にスリット20cが形成されている。さらに、周方向における90°の位置および270°の位置においては、軸方向においてフランジ部20b側の端部から数えて2番目および4番目の位置である軸方向第2位置Pa2および軸方向第4位置Pa4にスリット20cが形成されている。
【0026】
以上の構成により、本実施形態においては、シャフト20の周方向における同じ位置に2個のスリット20cが形成されている。例えば、スリット20c11,20c31は、周方向における同じ位置である周方向第1位置Pc1に形成されている。さらに、本実施形態においては、シャフト20の周方向における異なる位置に4個のスリット20cが形成されている。例えば、スリット20c11,20c22,20c13,20c24は、周方向における異なる位置である周方向第1位置Pc1,周方向第2位置Pc2,周方向第3位置Pc3,周方向第4位置Pc4に形成されている。
【0027】
以上の構成において、シャフト挿入孔10aの内径は、シャフト20の挿入部20aの外径よりも僅かに小さくなっている。すなわち、シャフト20はロータコア10に対して摩擦固定されるため、両者を摩擦固定するための締め代が設けられている。ロータコアに対するシャフトの固定方法として、従来は焼き嵌めが用いられていたが、本実施形態においては、スリット20cによってシャフト20を弾性変形させることが可能であるため、昇温工程が不要である。
【0028】
すなわち、本実施形態にかかるシャフト20の挿入部20aは、常温(例えば25℃)でシャフト挿入孔10aに圧入される。上述のように、シャフト挿入孔10aの内径は、シャフト20の挿入部20aの外径よりも僅かに小さいが、挿入部20aは圧入の際に弾性変形するため、シャフト20の挿入部20aをシャフト挿入孔10aに挿入することが可能である。
【0029】
圧入が行われると、ロータコア10とシャフト20とは摩擦固定によって固定される。本実施形態にかかるロータ1は、モータに組み込まれて使用される。従って、使用過程において、ロータ1は軸Axを中心に回転する。ロータ1がモータの部品として適正であるためには、モータの使用過程において、ロータコア10とシャフト20とが滑らないことが必要である。
【0030】
このため、ロータコア10とシャフト20との間に作用する力が、基準を満たすように設計される必要がある。本実施形態においては、シャフト20に作用する平均面圧が閾値以上になるという基準が決められている。平均面圧は、ロータコア10とシャフト20とが接触する領域における圧力である。また、ロータ1は使用過程において回転するため、回転を伴う使用過程においても平均面圧が閾値以上になることが要求される。
【0031】
一般に、ロータコア10とシャフト20との間に作用する平均面圧は、ロータ1の回転数が増加するほど小さくなる。図3は、回転数と平均面圧との関係を示す模式図である。図3においては、回転数と、本実施形態にかかるシャフト20に作用する平均面圧と、の関係を実線で示している。また、本実施形態のロータ1と形状および素材が同一であるが、スリットが形成されておらず、かつ、中空ではなく丸棒であるシャフトにおける回転数と平均面圧との関係を一点鎖線で示している。ここでは、この例を丸棒シャフトと呼ぶ。
【0032】
これらの例で示すように、モータの回転数が上がると、平均面圧は下がる。これは、回転数の増加に伴って、遠心力が作用し、シャフト20よりも径が大きく体積も大きいロータコア10の方が、遠心力によって径方向外側に作用する力の影響が大きいからである。但し、回転数の低下に伴う平均面圧の増加度合いは、丸棒シャフトの方がシャフト20よりも大きい。丸棒シャフトはシャフト20より剛性が高く、シャフト20と比較して、径方向への弾性変形の程度が小さい。この結果、丸棒シャフトはシャフト20よりも回転による影響を受けにくい。
【0033】
すなわち、スリット20cが形成されたシャフト20は、回転数が大きくなると弾性変形してシャフト20の外径が大きくなりやすく、回転数の増加に伴ってシャフト20の外周面がロータコア10のシャフト挿入孔10aの内周面に押しつけられる力が強くなる。一方、丸棒シャフトにおいては、回転数が増加しても外径がほとんど変化しない。このため、丸棒シャフトの外周面がロータコアのシャフト挿入孔の内周面に押しつけられる力は回転数の増加に伴ってあまり変化しない。この結果、回転数の増加による平均面圧の低下度合いは、丸棒シャフトにおいて急激である一方、シャフト20は緩やかである。
【0034】
平均面圧は、モータの回転数の増加とともに低下するため、モータの使用過程において、ロータコア10とシャフト20とが滑らないようにするためには、モータの使用過程において想定される最高回転数Rmaxで平均面圧が閾値以上であればよい。すなわち、最高回転数Rmaxにおいて平均面圧が閾値Pth以上であれば、想定されるどのような回転数においてもロータコア10とシャフト20との固定が充分であると見なすことができる。
【0035】
ここでは、最高回転数Rmaxで平均面圧が閾値Pthと一致する状態を考える。シャフト20、丸棒シャフトの双方において最高回転数Rmaxで平均面圧が閾値Pthとなるように設計された場合、モータの回転数が最高回転数Rmaxから低下するほど平均面圧が大きくなる。そして、モータの回転数が0である状態で平均面圧が最大となる。
【0036】
ロータコア10とシャフト20とを固定するためには、閾値Pth以上の平均面圧が必要とされるが、平均面圧が過度に大きいと、ロータコア10に悪影響が発生し得る。例えば、本実施形態のようなIPMモータにおいて、ロータコア10は、永久磁石が挿入される複数の磁石挿入孔10bを有している。磁石挿入孔10bは、周方向において並んでおり、周方向において隣接する磁石挿入孔10b同士の距離は、一般的に短く、最短距離の部分はブリッジ部と呼ばれる。当該ブリッジ部は、他の部分と比較して応力に弱いため、ロータコア10とシャフト20との間で作用する平均面圧が過度に大きいと、ブリッジ部に歪みが生じ得る。
【0037】
このため、無回転時の平均面圧を抑制できないのであれば、ロータコア10の剛性を高める、磁石挿入孔10b同士の距離を離す、などの設計変更が必要になってしまう。しかし、本実施形態のシャフト20のように、スリット20cが設けられ、容易に弾性変形し得る構成であれば、無回転時の平均面圧が、閾値Pthより過度に大きくなることがない。従って、ブリッジ部に必要とされる剛性は、丸棒シャフトよりも小さくて良い。このため、本実施形態においては、丸棒シャフトと比較して磁石挿入孔10bの数を少なくする等の制約が生じにくい。
【0038】
図4Aは、本実施形態にかかるシャフト20の変形量を示す図である。図4Aにおいては、シャフト20をロータコア10に挿入した状態におけるシャフト20の変形量を形状および色で示している。ここでは、シャフト20をロータコア10に挿入する前と、挿入した後と、における変位量をシャフト20の表面の各位置について特定し、変位量を強調した上で形状に反映させて示している。また、変位量の大きさを等高線で区切られた色によって示している。
【0039】
図4Aにおいては、基準P0が変位量0または変位量がほぼ0の部分であり、変位量が負(すなわち、挿入前よりへこんでいる)である部分を、基準P0より濃いグレーで示している。また、変位量が正であり、基準P0よりも変位量が大きい部分は、基準P0より薄いグレーで示している。図4Aに示すように、シャフト20がシャフト挿入孔10aと接触している接触範囲においては、概ね変位量が負であり、弾性変形して径が小さくなっていることがわかる。また、スリット20cは、周方向に歪むように変形しており、スリット20cの周囲においてシャフト20の負の変位量が特に大きくなっていることがわかる。すなわち、本実施形態においては、スリット20cが設けられていることによって、弾性変形が容易になり、この結果、締め代を有するシャフト挿入孔10aに対してシャフト20が挿入可能であることがわかる。
【0040】
図4Bは、シャフト20をロータコア10に挿入した状態においてシャフト20に作用する面圧を示す図である。図4Bにおいては、シャフト20とロータコア10とが接触する部位において、シャフト20に作用する面圧を色で示している。ここでは、面圧が小さいほど濃いグレーとなり、面圧が大きいほど薄いグレーとなるように着色している。
【0041】
図4Bにおいては、4カ所のスリット20cの位置Psが見えるような角度でシャフト20を眺めた状態が想定されている。スリット20cは貫通する孔であり、図4Aに示すようにスリット20cの周辺においては容易に弾性変形する。このため、図4Bに示されるように、スリット20cが存在する位置Psにおいては、面圧が相対的に小さくなっている。一方、軸方向においても周方向においても、スリット20cの位置Psの間の部分では、面圧が相対的に高くなっている。このような面圧の特性は、モータの回転数が上がっても同様である。
【0042】
以上の構成により、本実施形態においては、スリット20cが存在しない部分で高い面圧を確保することが可能であり、ロータコア10とシャフト20とが滑らないように固定することが可能である。以上のように、本実施形態においては、スリット20cによって弾性変形が可能になり、常温でシャフト20をシャフト挿入孔10aに圧入することが可能になる。従って、本実施形態においては、焼き嵌めではなく、常温での圧入による固定が可能になる。このため、本実施形態によれば、常温でロータ1を製造することが可能になり、摩擦固定のための昇温工程を廃止することが可能である。
【0043】
さらに、本実施形態においては、軸方向における異なる位置にスリット20cが形成される。従って、弾性変形を可能にするスリット20cと、シャフト20の面圧を確保するための部位とを、軸方向に分散させることができる。具体的には、本実施形態においては、図2Aに示すように、軸方向に異なる位置である軸方向第1位置Pa1~軸方向第4位置Pa4のいずれかにスリット20cが形成されている。このため、スリット20cは、軸方向に分散して配置された状態になる。
【0044】
さらに、軸方向にスリット20cが分散して配置されると、軸方向におけるスリット20cの間、例えば、スリット20c11,20c31の間には、距離Lapにわたってスリット20cが存在しない部分が存在する。このため、この部分にスリット20c部分より大きい面圧を作用させることが可能である。従って、本実施形態においては、相対的に高い面圧を作用させることが可能な部位が軸方向に分散して配置された状態になる。この結果、弾性変形可能な部位と、相対的に高い面圧を作用させることが可能な部位との双方、を軸方向に分散させることができる。
【0045】
シャフト20を弾性変形させて常温での圧入を可能にするためには、シャフト20において軸方向のほぼ全長にわたるスリットをシャフトに設けても良い。しかし、この場合、面圧が過度に低下する。具体的には、図4Bに示すように、スリット20cが存在する位置Psの周囲は面圧が小さい部位となる。従って、シャフト20のように軸方向の2カ所にスリット20cを設けるのではなく、軸方向のほぼ全長にわたってスリットを設けると、軸方向のほぼ全長にわたる広い範囲で面圧が低下する。この結果、特にモータの回転数が上がった状態において、充分な面圧を確保することが困難になり、シャフトとロータコアとが滑ってしまうことがある。
【0046】
しかし、本実施形態においては、スリット20cを軸方向に2個以上形成するため、スリット20cが形成されていない部位を軸方向に分散して配置させることができる。従って、本実施形態においては、スリット20cが存在しても面圧が過度に低下することなく、モータの回転数が上がった状態においても、充分に大きい面圧を容易に確保することができる。
【0047】
さらに、本実施形態においては、周方向における同じ位置にスリット20cが形成される。例えば、図2Aに示すスリット20c11,20c31は、周方向における同じ位置である周方向第1位置Pc1に形成されている。従って、スリット20c11,20c31が軸方向に離間しており、弾性変形可能な部位が軸方向に分散して配置された状態になる。また、この配置により、スリット20c11,20c31の間には、距離Lapにわたってスリット20cが存在しない部分が存在する。このため、この部分にスリット20c部分より大きい面圧を作用させることが可能である。従って、本実施形態においては、相対的に高い面圧を作用させることが可能な部位が軸方向に分散して配置された状態になる。この結果、弾性変形可能な部位と、相対的に高い面圧を作用させることが可能な部位との双方、を軸方向に分散させることができる。
【0048】
さらに、本実施形態においては、周方向における異なる位置にスリット20cが形成される。例えば、図2Aにおける軸方向第1位置Pa1においては、周方向に異なる位置である周方向第1位置Pc1,周方向第3位置Pc3にスリット20c11,20c13が存在する。この構成によれば、弾性変形を可能にするスリット20cと、シャフト20の面圧を確保するための部位とを、周方向に分散させることができる。
【0049】
さらに、周方向にスリット20cが分散して配置されると、周方向におけるスリット20cの間、例えば、スリット20c11,20c13の間には、角度180°に相当する位置の離間が生じ、この部分にはスリット20cが存在しない。このため、この部分にスリット20c部分より大きい面圧を作用させることが可能である。従って、本実施形態においては、相対的に高い面圧を作用させることが可能な部位が周方向に分散して配置された状態になる。この結果、弾性変形可能な部位と、相対的に高い面圧を作用させることが可能な部位との双方、を周方向に分散させることができる。
【0050】
さらに、本実施形態においては、周方向においてスリット20cが存在し得る位置が、4個存在し、各位置は周方向の角度において、互いに90°(=360°/4)ずつ離間している。このため、スリット20cは、図2Bに示されるように、周方向に均等に分散されている。この構成によれば、弾性変形可能な部位と、相対的に高い面圧を作用させることが可能な部位との双方、周方向に均等に分散させることができる。
【0051】
さらに、本実施形態においては、周方向においてスリット20cが存在し得る位置が、0°,90°,180°,270°の位置である。また、軸方向においてスリット20cが存在し得る位置が、フランジ部20b側の端部から順に合計4個存在する。そして、周方向における0°の位置および180°の位置においては、軸方向においてフランジ部20b側の端部から数えて1番目および3番目の位置、すなわち、軸方向第1位置Pa1および軸方向第3位置Pa3にスリット20cが形成される。さらに、周方向における90°の位置および270°の位置においては、軸方向においてフランジ部20b側の端部から数えて2番目および4番目の位置、すなわち、軸方向第2位置Pa2および軸方向第4位置Pa4にスリット20cが形成される。この構成によれば、周方向と軸方向との双方に均等に弾性変形可能な部位と、相対的に高い面圧を作用させることが可能な部位との双方、を周方向に分散させることができる。
【0052】
さらに、本実施形態においては、シャフト20にスリット20cが存在することによって、シャフト20が弾性変形することを可能にしている。このため、本実施形態においては、ロータコア10とシャフト20とが接触している部分の全域にわたって弾性変形できるように、スリット20cの位置が工夫されている。
【0053】
具体的には、軸方向においてロータコア10と、フランジ部20bと、の間には隙間Gが存在するように、シャフト20がロータコア10に対して固定される(図1A参照)。フランジ部20bは、シャフト20の挿入部20aよりも径が大きい部分である。このため、当該フランジ部20bが存在することにより、フランジ部20bの周辺の挿入部20aは、他の部位と比較して剛性が高くなる。剛性が過度に高くなっていると、弾性変形させることが困難になり、シャフト20をロータコア10に挿入することが困難になり得る。そこで、本実施形態においては、軸方向においてロータコア10と、フランジ部20bとが最も近い部分は、隙間Gに相当する距離だけ離間されている。この結果、フランジ部20bの影響で剛性が高くなっている部位がロータコア10と接触していない状態にすることができる。このため、シャフト20がフランジ部20bを有していても、挿入部20aにおいて弾性変形する部位をロータコア10に接触させることができる。
【0054】
本実施形態においては、さらに、フランジ部20bに最も近い位置に形成されたスリット20cの一部が、軸方向において隙間Gに重なるように構成されている。すなわち、フランジ部20bに最も近い位置に形成されたスリット20cの端部Eは、図1Aに示すように、軸方向において隙間G内に存在する。従って、本実施形態においては、隙間Gに存在する部分の剛性がスリット20cによって低減され、ロータコア10とシャフト20とが接触する部位の剛性は低下し、弾性変形することが可能な状態となっている。
【0055】
(2)他の実施形態:
以上の実施形態は、本発明を実施するための一例であり、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、スリット20cの大きさ、形状、数、スリット20c同士の配置の関係等は、上述の実施形態に限定されない。上述の実施形態においては、図2Aに示されるように軸方向に隣り合うスリット20cの端部同士、例えばスリット20c11,20c22の端部E11と端部E22は、軸方向において同一の位置であったがこのような構成に限定されない。また、90°毎の間隔で周方向に異なる位置はこのような角度間隔に限定されない。
【0056】
図5Aは、周方向に隣接するスリットの角度が40°である構成例にかかるシャフトを図2Aと同様の態様で示した図である。この例において、シャフト20に形成されたスリットは合計9個である。軸方向においては、異なる3カ所の位置Pa11~Pa13のいずれかにスリットが形成される。周方向においては、異なる9カ所の位置Pc11~Pc19のいずれかにスリットが形成される。
【0057】
また、本例において、周方向における同じ位置にスリットは形成されていない。例えば、位置Pc11にスリット21c11が形成されているが、当該位置Pc11に他のスリットは形成されていない。さらに、本例において、軸方向における同じ位置にスリットが3個形成されている。例えば、軸方向における位置Pa11にスリット21c11,21c14,21c19が形成されている。さらに、本例において、軸方向に最も近いスリットの端部同士は一致していない。例えば、スリット21c11、21c22の端部Ed11,Ed22は一致しておらず、離間している。他のスリットも同様であり、軸方向において最も近いスリット同士の離間距離は一定である。
【0058】
周方向において隣り合う位置同士の間隔は40°である。例えば、位置Pc11,Pc12の角度は40°である。当該角度は周方向の各位置Pc11~Pc19において一定であり、周方向に隣接するスリットの角度が40°である。このため、軸方向において同じ位置に存在し、周方向において隣接するスリット、例えば、スリット21c11,21c14同士の角度は、120°である。以上の構成によれば、9個のスリットを軸方向および周方向に均等に分散させてシャフトに配置することができる。また、各スリットの間の部位には、スリット部分より大きい面圧を作用させることが可能であり、当該部位も、軸方向および周方向に均等に分散配置される。
【0059】
図5Bは、周方向に隣接するスリットの角度が60°である構成例にかかるシャフトを図2Aと同様の態様で示した図である。この例において、シャフト20に形成されたスリットは合計6個である。軸方向においては、異なる3カ所の位置Pa21~Pa23のいずれかにスリットが形成される。周方向においては、異なる9カ所の位置Pc21~Pc26のいずれかにスリットが形成される。
【0060】
また、本例において、周方向における同じ位置にスリットは形成されていない。さらに、本例において、軸方向における同じ位置にスリットが2個形成されている。さらに、本例において、軸方向に最も近いスリットの端部同士は一致していない。周方向において隣り合う位置同士の間隔は60°であり、軸方向において同じ位置に存在し、周方向において隣接するスリット同士の角度は、180°である。以上の構成によれば、6個のスリットを軸方向および周方向に均等に分散させてシャフトに配置することができる。また、各スリットの間の部位には、スリット部分より大きい面圧を作用させることが可能であり、当該部位も、軸方向および周方向に均等に分散配置される。
【0061】
さらに、スリットは、軸方向および周方向の双方において均等に分散されていてもよいが、少なくとも一方の方向において均等でない構成が採用されてもよい。図6Aは、周方向に隣接するスリットの角度が一定ではない構成例にかかるシャフトを図2Aと同様の態様で示した図である。この例において、シャフト20に形成されたスリットは合計6個である。軸方向においては、異なる3カ所の位置Pa31~Pa33のいずれかにスリットが形成される。周方向においては、異なる4カ所の位置Pc31~Pc34のいずれかにスリットが形成される。
【0062】
また、本例において、周方向における同じ位置にスリットは形成され得る。例えば、位置Pc31においては、スリット23c11,23c31が形成されている。さらに、本例においては、軸方向における同じ位置にスリットが2個形成されている。例えば、位置Pa31においては、スリット23c11,23c13が形成されている。さらに、本例において、軸方向に最も近いスリットの端部同士は一致していないが、周方向に最も近いスリットの端部同士が一致している場合がある。例えば、スリット23c11の端部Ed31とスリット23c12の端部Ed32とは、周方向において一致している。軸方向において異なる位置に存在し、周方向において隣接する位置同士の間隔は27°であり、軸方向において同じ位置に存在し、周方向において隣接するスリット同士の角度は、180°である。以上の構成によれば、6個のスリットの中の3個ずつ2つのグループにグループ化し、同一グループを近い位置に配置し、異なるグループを分散させて配置することができる。また、異なるグループを180°の間隔で対向配置させることができる。以上の構成によれば、スリットがグループ毎に偏在するため、スリット部分より大きい面圧を作用させることが可能な部位を、周方向に広く確保することができる。
【0063】
図6Bは、図5Aに示す構成において、一部の位置でスリットが形成されていないことによって、周方向にスリットが均等に分散されていない状態となっている例である。すなわち、図5Aに示す構成において、周方向における位置Pc14~Pc19においてスリットを形成せず、周方向における位置Pc11~Pc13においてスリットを形成すると、図6Bに示す構成となる。この構成によれば、周方向における0°~80°の範囲にスリットが偏在するため、スリット部分より大きい面圧を作用させることが可能な部位を、周方向に広く確保することができる。
【0064】
また、図6Aに示す構成において、一部の位置でスリットが形成されていないように構成されても良い。図6Aに示す構成において、周方向における位置Pc33~Pc34においてスリットが形成されておらず、周方向における位置Pc31~Pc32においてスリットが形成されると、図7Aに示す構成となる。この構成によれば、周方向における0°~27°の範囲にスリットが偏在するため、スリット部分より大きい面圧を作用させることが可能な部位を、周方向に広く確保することができる。
【0065】
周方向にスリットを偏在させる構成は、他にも種々の構成を採用可能である。周方向における同じ位置であり、かつ、軸方向において異なる3カ所の位置のそれぞれにスリットを形成すれば、例えば、図7Bのような構成となる。また、周方向における同じ位置であり、かつ、軸方向において異なる2カ所の位置のそれぞれにスリットを形成すれば、例えば、図8Aのような構成となる。
【0066】
さらに、図8Aのようにスリットが2個形成される構成において、スリットが形成される位置を周方向にも均等に分散させると、例えば、図8Bに示すように、スリットが周方向において180°異なる位置に形成された構成となる。以上の各例において、スリットの大きさ、軸方向および周方向における距離や角度は限定されない。例えば、図8Bにおけるスリットの大きさを調整することにより、図9Aに示すように、軸方向においてスリットの端部が一致する構成とすることができる。また、図9Bに示すように、軸方向においてスリットの一部が重なる構成とすることができる。
【0067】
さらに、上述の実施形態においては、スリット20cが存在し得る位置が、軸方向および周方向のそれぞれに各4カ所であったが、この数は2以上の任意の数であってもよい。具体的には、軸方向において、互いに一定距離離間するとともに、軸方向の一方の端部から軸方向第1位置~軸方向第X位置の順に合計X個(Xは2以上の自然数)、スリット20cが存在し得る位置を設ける。また、周方向において、互いに一定角度離間するとともに、周方向の特定の位置から時計回りに周方向第1位置~周方向第Y位置の合計Y個(Yは2以上の自然数)、スリット20cが存在し得る位置を設ける。この場合において、xを1~Xの自然数、yを1~Yの自然数とし、x,yがともに奇数またはともに偶数である場合の軸方向第x位置かつ周方向第y位置にスリット20cが形成される構成としても良い。
【0068】
ロータコアは、軸方向に延びるシャフト挿入孔が形成されていればよい。すなわち、ロータコアは、シャフトが挿入され、摩擦固定される構造であればよい。従って、ロータコアは、種々の構造であって良い。例えば、電磁鋼板が積層された構造に限定されないし、IPM以外の構造、例えば、SPM(Surface Permanent Magnet)のロータコアであっても良い。
【0069】
シャフト挿入孔は、ロータコアにおいて軸方向に延びる孔であり、シャフトが挿入され、摩擦固定される孔であれば良い。従って、シャフト挿入孔の形状は上述のような、軸を中心とした円柱状の空間に限定されず、軸を中心とした多角形状の空間であっても良い。
【0070】
また、シャフトは、弾性変形しながらシャフト挿入孔に圧入されるため、中空である。シャフトの外径及び内径等の寸法は、シャフト挿入孔の内径や軸方向長さ、シャフト及びロータコアの材料等に応じて適宜調整されて良い。いずれにしても、中空のシャフトにスリットが形成されることにより、締め代のあるシャフト挿入孔にシャフトを圧入することができればよい。
【0071】
スリットは、軸方向における異なる位置に形成され、2個以上存在すれば良い。すなわち、軸方向の少なくとも2カ所にスリットが形成されており、これにより、複数の位置でシャフトの弾性変形が容易になっていれば良い。スリットは、軸方向における異なる位置に形成されるため、軸方向の少なくとも2カ所で弾性変形が容易であり、この結果、軸方向においてシャフト全体がシャフト挿入孔に圧入可能となればよい。むろん、スリットの個数は3個以上であっても良い。また、シャフトの周方向におけるスリットの位置は限定されない。
【0072】
スリットは、シャフトが弾性変形できるように形成されるため、シャフトの径方向に貫通していることが好ましい。また、スリットは、軸方向に長い孔であることが好ましい。スリットの形状は限定されない。従って、上述のような矩形の孔であっても良いし、他の形状、例えば、楕円、多角形、多角形の角が曲線状になっている形状等であっても良い。
【0073】
スリットの位置は、種々の態様で定義されて良い。例えば、径方向に沿ってスリットを見た場合の重心の位置がスリットの位置であると定義されても良いし、スリットの端部や予め決められた基準の位置がスリットの位置であると定義されても良い。このように各スリットに対して位置を定義するための点が1点ずつ定義され、当該点の位置が異なるか否かでスリットの位置が異なるか否か特定されても良い。また、スリットが重なるか否かによって位置が異なるか否か定義されても良い。例えば、スリットが完全に重なるか、一方のスリットが他方に含まれる場合に位置が同一とされ、少なくとも一部が重なるが、重なっていない部分を含む場合には位置が異なるとされても良い。
【0074】
さらに、スリットの位置を特定の方向において記述した場合、当該特定の方向と異なる方向については考慮されない。例えば、軸方向において2個のスリットの位置が同一であるという場合、当該2個のスリットの位置が周方向において異なっていてもよい。当該2個のスリットの位置が周方向において異なっていれば、当該2個のスリットはシャフト上に別個のスリットとして存在し得る。
【符号の説明】
【0075】
1…ロータ、10…ロータコア、10a…シャフト挿入孔、10b…磁石挿入孔、20…シャフト、20a…挿入部、20b…フランジ部、20c…スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9