(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102867
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20240725BHJP
B60H 1/34 20060101ALI20240725BHJP
B60H 1/32 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B60H1/00 101H
B60H1/34 671B
B60H1/32 626C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006929
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博
(72)【発明者】
【氏名】坂野 晃
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA01
3L211BA08
3L211DA12
3L211EA02
3L211EA32
3L211EA33
3L211FA35
3L211FB05
3L211GA03
3L211GA11
(57)【要約】
【課題】特定座席の快適性が損なわれることを抑制できる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車両用空調装置は、車室内に空調風を吹き出すことで車室内を空調する。前記車両用空調装置は、車室内全体を空調するための通常空調モードと、特定座席に偏重した空調を行うための偏重空調モードとを切り替えて実施可能に構成されており、前記通常空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度と、前記偏重空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度とが異なる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に空調風を吹き出すことで車室内を空調する車両用空調装置であって、
車室内全体を空調するための通常空調モードと車室内の特定座席に偏重した空調を行うための偏重空調モードとを切り替えて実施可能に構成され、
前記通常空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度と前記偏重空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度とが異なる、
車両用空調装置。
【請求項2】
前記偏重空調モードの設定指令が入力されておらず且つ前記特定座席以外の他の座席に乗員がいる場合は前記通常空調モードを実施し、前記偏重空調モードの設定指令が入力された場合又は前記他の座席に乗員がいない場合に前記偏重空調モードを実施する、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記車室内を暖房する場合、前記偏重空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度が前記通常空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度よりも高い、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記車室内を冷房する場合、前記偏重空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度が前記通常空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度よりも低い、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記通常空調モードにおいては前記特定座席側への空調風の吹き出しを行うと共に前記特定座席以外の他の座席側への空調風の吹き出しを行い、
前記偏重空調モードにおいては前記特定座席側への空調風の吹き出しを行う一方、前記他の座席側への空調風の吹き出しを停止させるか又は前記他の座席側に吹き出される空調風の風量を前記通常空調モードにおけるそれよりも減少させる、
請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記通常空調モードのときに前記特定座席側に吹き出される空調風の風量と、前記偏重空調モードのときに前記特定座席側に吹き出される空調風の風量とが同等である、請求項1~5のいずれか一つに記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内を空調する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転席以外の座席に乗員が着座している場合に運転席側吹出口及び助手席側吹出口から空調風を吹き出す標準空調モード(4席空調)を実行し、運転席以外の座席に乗員が不在の場合に助手席側吹出口を閉じて運転席側吹出口から空調風を吹き出す1席集中モードを実行する車両用空調装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らが運転者の温冷感について評価したところ、例えば前記標準空調モードで運転席側吹出口から吹き出される空調風の温度と前記1席集中モードで運転席側吹出口から吹き出される空調風の温度とが同等であっても、前記標準空調モードと前記1席集中モードとでは運転者の温冷感が異なることが確認された。つまり、特許文献1に記載された車両用空調装置では、例えば前記標準空調モードから前記1席集中モードに遷移したときに運転者に違和感や不快感を与えてしまうおそれがある。
【0005】
なお、このようなおそれは、前記1席集中モード(又はこれと同様のモード)が運転席を対象とする場合に限られるものではなく、運転席以外の座席(例えば助手席)を対象とする場合にも同様に生じ得ると考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、特定座席の快適性が損なわれることを抑制できる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、車室内に空調風を吹き出すことで車室内を空調する車両用空調装置が提供される。この車両用空調装置は、車室内全体を空調するための通常空調モードと車室内の特定座席に偏重した空調を行うための偏重空調モードとを切り替えて実施可能に構成され、前記通常空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度と前記偏重空調モードのときに前記特定座席側に吹き出される空調風の温度とが異なる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定座席の快適性が損なわれることを抑制できる車両用空調装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】実施形態に係る車両用空調装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る車両用空調装置の空調制御装置による制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図3のステップS6における処理(暖房用の制御出力)の一例を示すフローチャートである。
【
図5】送風機の目標送風量(ブロワレベル)を決定するための制御マップの一例を示す図である。
【
図6】暖房時における偏重空調モード用の目標吹出温度を示す図である。
【
図7】
図3のステップS7における処理(冷房用の制御出力)の一例を示すフローチャートである。
【
図8】冷房時における偏重空調モード用の目標吹出温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、本明細書等における「第1」、「第2」、・・・などの用語は、単に類似する要素等を区別するために用いられており、それらが付された要素等を何ら限定するものではない。
【0011】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る車両用空調装置の構成を示している。
図1は、実施形態に係る車両用空調装置1の全体構成の概略図であり、
図2は、実施形態に係る車両用空調装置1の電気的構成を示すブロック図である。実施形態に係る車両用空調装置1は、自動車などの車両に搭載され、車両の車室内に空調風を吹き出すことで車室内を空調するように構成されている。車両用空調装置1は、空調ユニット3(
図1)と空調制御装置5(
図2)とを含む。
【0012】
空調ユニット3は、図示省略の車両の車室内の前部に配置されている。空調ユニット3は、空調ケース31を含み、空調ケース31は、車室に向かう空気が流れる空気通路33を内部に有する。なお、以下では、空気流れの上流(側)、下流(側)をそれぞれ単に「上流(側)」、「下流(側)」という。
【0013】
空調ケース31の上流側には、送風機ユニット7が設けられている。送風機ユニット7は、吸込口形成部材71と、内外気切替ドア73と、送風機75とを含む。
【0014】
吸込口形成部材71には、車室内空気(以下「内気」という)を空気通路33に導入するための内気吸込口71aと、車室外空気(以下「外気」という)を空気通路33に導入するための外気吸込口71bとが形成されている。
【0015】
内外気切替ドア73は、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第1電動アクチュエータ81によって駆動され、回動位置に応じて吸込口モードを内気吸込モード、外気吸込モード又は内外気吸込モードに切り替えることが可能に構成されている。
【0016】
送風機75は、電動モータを有した電動送風機である。送風機75(電動モータ)は、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作し、内気吸込口71aから導入された内気及び/又は外気吸込口71bから導入された外気を車室内に向けて送風するように構成されている。
【0017】
空調ケース31内における送風機75の下流側には、蒸発器9が配置されている。蒸発器9は、圧縮機21、凝縮器22、液分離器23及び膨張弁24などと共に、冷媒が循環する冷媒循環路25に配置されて冷媒回路(冷凍サイクル)を構成している。そして、蒸発器9は、圧縮機21の動作に伴って、冷媒と空気通路33を流れる空気とを熱交換させることで空気通路33を流れる空気を冷却するように構成されている。つまり、蒸発器9は、空気通路33を流れる空気を冷却する冷却器として機能する。本実施形態において、圧縮機21は、電動モータを内蔵した電動圧縮機であり、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する。
【0018】
空調ケース31内における蒸発器9の下流側には、ヒータコア11が配置された加熱用通路35と、ヒータコア11をバイパスさせるバイパス通路37とが設けられている。加熱用通路35とバイパス通路37とは、仕切板38によって区画されている。ヒータコア11は、加熱用通路35を流れる空気を加熱する加熱器である。特に限定されないが、本実施形態において、ヒータコア11は、電気ヒータ26aを内蔵した熱媒体加熱装置26と共に、電動ポンプ27によって水などの熱媒体が循環する熱媒体循環路28に配置されている。そして、ヒータコア11は、熱媒体加熱装置26の電気ヒータ26aによって加熱された熱媒体と加熱用通路35を流れる空気とを熱交換させることで加熱用通路35を流れる空気を加熱するように構成されている。熱媒体加熱装置26の電気ヒータ26aと電動ポンプ27とは、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する。
【0019】
空調ケース31内における加熱用通路35及びバイパス通路37の下流側、すなわち、仕切板38の下流側には、混合空間39が設けられている。混合空間39は、加熱用通路35を通過した空気とバイパス通路37を通過した空気とが混合され得る空間である。そして、本実施形態においては、混合空間39を経た空気(流)が空調風として後述する複数の吹出口から車室内に吹き出され得るようになっている。
【0020】
ここで、混合空間39を経た空気(流)の温度、換言すれば、車室内に吹き出される空調風の温度は、加熱用通路35を通過した空気の流量(風量)とバイパス通路37を通過した空気の流量(風量)の割合(風量割合)によって変化する。つまり、加熱用通路35を通過させる空気の流量(風量)とバイパス通路37を通過させる空気の流量(風量)の割合を変化させることによって車室内に吹き出される空調風の温度を変化させる(調整する)ことが可能である。
【0021】
そのため、本実施形態においては、加熱用通路35及びバイパス通路37の入口近傍、具体的には、仕切板38の上流端にA/M(エアミックス)ドア40が設けられている。A/Mドア40は、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第2電動アクチュエータ82によって駆動され、回動位置に応じて加熱用通路35を通過させる空気の流量(風量)とバイパス通路37を通過させる空気の流量(風量)の割合(風量割合)を変化させること、すなわち、車室内に吹き出される空調風の温度を調整することが可能に構成されている。
【0022】
空調ユニット3における空調ケース31の下流側には、混合空間39を経た空気(流)を空調風として車室内に吹き出すための複数の吹出口が設けられている。複数の吹出口のそれぞれは、対応するダクトを介して空気通路33の混合空間39に連通している。本実施形態において、前記複数の吹出口は、デフロスタ吹出口41と、運転席側センタフェイス吹出口43と、運転席側サイドフェイス吹出口45と、運転席側フット吹出口47と、助手席側センタフェイス吹出口49と、助手席側サイドフェイス吹出口51と、助手席側フット吹出口53と、後席側フット吹出口55とを含む。
【0023】
デフロスタ吹出口41は、車両のフロントガラスの内側に空調風を吹き出すための吹出口である。
【0024】
運転席側センタフェイス吹出口43、運転席側サイドフェイス吹出口45及び運転席側フット吹出口47は、運転席に対応して設けられている。運転席側センタフェイス吹出口43、運転席側サイドフェイス吹出口45及び運転席側フット吹出口47は、運転席側に空調風を吹き出すための吹出口である、具体的には、運転席側センタフェイス吹出口43及び運転席側サイドフェイス吹出口45は、運転者の上半身に向けて空調風を吹き出すための吹出口であり、運転席側フット吹出口47は、運転者の足元に向けて空調風を吹き出すための吹出口である。
【0025】
助手席側センタフェイス吹出口49、助手席側サイドフェイス吹出口51及び助手席側フット吹出口53は、助手席に対応して設けられている。助手席側センタフェイス吹出口49、助手席側サイドフェイス吹出口51及び助手席側フット吹出口53は、助手席側に空調風を吹き出すための吹出口である。具体的には、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51は、助手席の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すための吹出口であり、助手席側フット吹出口53は、助手席の乗員の足元に向けて空調風を吹き出すための吹出口である。
【0026】
後席側フット吹出口55は、後席に対応して設けられている。後席側フット吹出口55は、後席側に空調風を吹き出すための吹出口である。具体的には、後席側フット吹出口55は、後席の乗員の足元に向けて空調風を吹き出すための吹出口である。
【0027】
デフロスタ吹出口41は、デフロスタダクト57を介して混合空間39に連通している。デフロスタダクト57には、デフロスタドア57aが設けられている。デフロスタドア57aは、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第3電動アクチュエータ83によって駆動され、回動位置に応じてデフロスタ吹出口41から吹き出される空調風の風量を調整することが可能に構成されている。
【0028】
運転席側センタフェイス吹出口43、運転席側サイドフェイス吹出口45、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51は、フェイスダクト59を介して混合空間39に連通している。具体的には、フェイスダクト59は、混合空間39と運転席側センタフェイス吹出口43とを連通する第1連通路61と、混合空間39と運転席側サイドフェイス吹出口45とを連通する第2連通路62と、混合空間39と助手席側センタフェイス吹出口49とを連通する第3連通路63と、混合空間39と助手席側サイドフェイス吹出口51とを連通する第4連通路64とを有する。
【0029】
第1連通路61には、運転席側センタドア61aが設けられている。運転席側センタドア61aは、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第4電動アクチュエータ84によって駆動され、回動位置に応じて運転席側センタフェイス吹出口43から吹き出される空調風の風量を調整することが可能に構成されている。
【0030】
第2連通路62には、運転席側サイドドア62aが設けられている。運転席側サイドドア62aは、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第5電動アクチュエータ85によって駆動され、回動位置に応じて運転席側サイドフェイス吹出口45から吹き出される空調風の風量を調整することが可能に構成されている。
【0031】
第3連通路63には、助手席側センタドア63aが設けられている。助手席側センタドア63aは、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第6電動アクチュエータ86によって駆動され、回動位置に応じて助手席側センタフェイス吹出口49から吹き出される空調風の風量を調整することが可能に構成されている。
【0032】
第4連通路64には、助手席側サイドドア64aが設けられている。助手席側サイドドア64aは、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第7電動アクチュエータ87によって駆動され、回動位置に応じて助手席側サイドフェイス吹出口51から吹き出される空調風の風量を調整することが可能に構成されている。
【0033】
運転席側フット吹出口47、助手席側フット吹出口53、及び後席側フット吹出口55は、フットダクト65を介して混合空間39に連通している。具体的には、フットダクト65は、混合空間39と運転席側フット吹出口47とを連通する第5連通路66と、混合空間39と助手席側フット吹出口53とを連通する第6連通路67と、混合空間39と後席側フット吹出口55とを連通する第7連通路68とを有する。
【0034】
フットダクト65には第1フットドア65a及び第2フットドア65bが設けられている。第1フットドア65aは、空調ケース31とフットダクト65の接続部近傍に設けられている。第1フットドア65aは、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第8電動アクチュエータ88によって駆動され、混合空間39と各フット吹出口47、53、55とを連通させること、混合空間39と各フット吹出口47、53、55との連通を遮断すること、及び各フット吹出口47、53、55から吹き出される風量を調整することが可能に構成されている。
【0035】
第2フットドア65bは、第1フットドア65aよりも運転席側フット吹出口47、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55に近い位置に設けられている。第2フットドア65bは、空調制御装置5からの制御信号に基づいて動作する第9電動アクチュエータ89によって駆動され、回動位置に応じて、運転席側フット吹出口47のみから空調風を吹き出させること、助手席側フット吹出口53のみから空調風を吹き出させること、又は、運転席側フット吹出口47、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55から空調風を吹き出させることが可能に構成されている。
【0036】
なお、第1フットドア65a及び第2フットドア65bに代えて、第5~第7連通路66~68のそれぞれにフットドアが設けられてもよい。
【0037】
本実施形態においては、デフロスタドア57a、運転席側センタドア61a、運転席側サイドドア62a、助手席側センタドア63a、助手席側サイドドア64a、第1フットドア65a及び第2フットドア65bの動作によって複数の吹出口モードが実現される。複数の吹出口モードは、デフロスタモード、フェイスモード及びフットモードを含む。
【0038】
前記デフロスタモードでは、デフロスタ吹出口41から空調風が吹き出される。前記デフロスタモードは、前記フロントガラスの防曇のために選択され得る。前記フェイスモードでは、運転席側センタフェイス吹出口43、運転席側サイドフェイス吹出口45、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51から空調風が吹き出される。前記フェイスモードは、主に車室内を冷房する際に選択され得る。前記フットモードでは、運転席側サイドフェイス吹出口45、運転席側フット吹出口47、助手席側サイドフェイス吹出口51、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55から空調風が吹き出される。前記フットモードは、主に車室内を暖房する際に選択され得る。
【0039】
また、本実施形態において、車両用空調装置1は、車室内を暖房する場合と車室内を冷房する場合のそれぞれで、車室内全体を暖房又は冷房するための「通常空調モード」と、特定座席(ここでは運転席とする)に偏重した暖房又は冷房を行うための「偏重空調モード」とを選択的に切り替えて実施可能に構成されている。なお、「通常空調モード」は、通常モードや標準空調モードなどと称されてもよく、「偏重空調モード」は、集中制御モード、1席集中モード又は1席優先モードなどと称されてもよい。
【0040】
次に、
図2を参照して車両用空調装置1の電気的構成について説明する。
【0041】
車両用空調装置1の空調制御装置5は、CPU、ROMやRAMなどのメモリ、及び、I/Oポートなどを含むマイクロコンピュータで構成されている。また、空調制御装置5は、ROMに記憶された空調制御プログラム、入力される各種センサの検出信号及び入力される各種スイッチの操作信号に基づいて各種の演算等を行い、空調制御装置5に電気的に接続された各種機器、例えば、圧縮機21、熱媒体加熱装置26の電気ヒータ26a、電動ポンプ27、送風機75及び第1~第9電動アクチュエータ81~89などに制御信号を出力してこれらの動作を制御するように構成されている。
【0042】
ここで、前記各種センサには、車室内温度Trを検出する内気温センサ91、外気温Tamを検出する外気温センサ92、車室内の日照量Tsを検出する日照センサ93、蒸発器9を通過した空気(蒸発器出口の空気)の温度TEを検出する空気温度センサ94、熱媒体加熱装置26の電気ヒータ26aによって加熱された熱媒体の温度TWを検出する熱媒体温度センサ95、車室内の各座席に乗員がいるか否かを検出する乗員検知センサ96などが含まれる。乗員検知センサ96は、車室内の各座席に乗員がいるか否かを検出できればよく、特に限定されないが、例えば、それぞれが車室内の複数の座席のいずれかに設置されて着座の有無を検出する複数の着座センサで構成され得る。
【0043】
また、前記各種スイッチは、乗員が操作可能なように、例えば車室内の前部に設置された操作パネル100に設けられている。前記各種スイッチは、車両用空調装置1をON/OFFするON・OFFスイッチ101、車両用空調装置1の自動制御をON/OFFするAUTOスイッチ102、暖房機能をON/OFFするHEATスイッチ103、冷房機能をON/OFFするA/Cスイッチ104、前記吸込口モードを切り替える吸込口モード切替スイッチ105、吹出口モードを切り替える吹出口モードスイッチ106、送風機75の風量を設定する風量設定スイッチ107、車室内温度Tsetを設定する温度設定スイッチ108、手動で偏重空調モードを設定するための偏重空調モード設定スイッチ109などを含む。
【0044】
次に、車両用空調装置1の動作の一例を説明する。
図3は、空調制御装置5による制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS1において、空調制御装置5は、データ処理用メモリの記憶内容などを初期化する。
【0046】
ステップS2において、空調制御装置5は、前記各種センサ91~96の検出信号及び前記各種スイッチ101~109の操作信号を読み込む。
【0047】
ステップS3において、空調制御装置5は、車室内に吹き出される空調風の目標温度(以下「基本目標吹出温度」という)TAOを算出する。空調制御装置5は、例えば、下式(1)により基本目標吹出温度TAOを算出する。
TAO=Kset×Tset-Kr×Tr-Kam×Tam-Ks×Ts+C…(1)
ここで、Tsetは温度設定スイッチ108によって設定された車室内設定温度、Trは内気温センサ91によって検出された車室内温度、Tamは外気温センサ92によって検出された外気温、Tsは日照センサ93によって検出された日照量である。また、Kset、Kr、Kam及びKsは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0048】
ステップS4において、空調制御装置5は、ステップS2で読み込まれたセンサ検出信号及びステップS3で算出された基本目標吹出温度TAO(以下「基本目標吹出温度TAO等」という)に基づいて空調運転モードを決定する。具体的には、空調制御装置5は、車室内の暖房及び車室内の冷房のいずれを行うかを決定する。
【0049】
ステップS5において、空調制御装置5は、ステップS4で決定された空調運転モードが暖房であるか否かを判定する。そして、ステップS4で決定された空調運転モードが暖房の場合(ステップS4;YES)、空調制御装置5は、ステップS6の処理に進む。他方、ステップS4で決定された空調運転モードが冷房の場合(ステップS4;NO)、空調制御装置5は、ステップS7の処理に進む。
【0050】
ステップS6において、空調制御装置5は、暖房用の制御出力を行う(
図4参照)。すなわち、空調制御装置5は、前記各種機器に対して、車室内を暖房するための制御信号を出力する。
【0051】
ステップS7において、空調制御装置5は、冷房用の制御出力を行う(
図7参照)。すなわち、空調制御装置5は、前記各種機器に対して、車室内を冷房するための制御信号を出力する。
【0052】
図4は、
図3のステップS6における処理(暖房用の制御出力)の一例を示すフローチャートである。
【0053】
ステップS11において、空調制御装置5は、前記吹出口モードを前記フットモードに決定する。
【0054】
ステップS12において、空調制御装置5は、基本目標吹出温度TAO等に基づいて前記吸込口モードを決定する。
【0055】
ステップS13において、空調制御装置5は、前記吹出口モードを前記フットモードとするためのフットモード設定信号を出力する。具体的には、空調制御装置5は、前記複数の吹出口のうちの運転席側サイドフェイス吹出口45、運転席側フット吹出口47、助手席側サイドフェイス吹出口51、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55から空調風が吹き出される一方、これら以外の吹出口から空調風が吹き出されない状態となるように、第3~第9電動アクチュエータ83~89に対して制御信号を出力する。
【0056】
ステップS14において、空調制御装置5は、ステップS12で決定された吸込口モードとなるように第1電動アクチュエータ81に対して制御信号(第1吸込口モード設定信号)を出力する。
【0057】
ステップS15において、空調制御装置5は、電動ポンプ27にポンプ駆動信号を出力する。これにより、電動ポンプ27が動作状態となり、熱媒体が熱媒体循環路28を循環する。
【0058】
ステップS16において、空調制御装置5は、特定座席である運転席に偏重した空調(暖房)を行うための偏重空調モードを実施するか否かを判定する。具体的には、本実施形態において、空調制御装置5は、偏重空調モード設定スイッチ109が操作されたか否かを判定し、及び乗員検知センサ96の検出信号に基づき運転席以外の座席に乗員がいるか否かを判定する。そして、偏重空調モード設定スイッチ109が操作されておらず且つ運転席以外の座席に乗員がいる場合、空調制御装置5は、偏重空調モードを実施しない(換言すれば、通常空調モードを実施又は継続する)と判定し(ステップS16;NO)、ステップS17の処理に進む。なお、偏重空調モード設定スイッチ109が操作されたか否かを判定することは、偏重空調モードの設定指令が入力されたか否かを判定することに相当する。
【0059】
ステップS17において、空調制御装置5は、
図3のステップS3で演算された基本目標吹出温度TAOに基づき、あらかじめ記憶された制御マップ(通常空調モード用の制御マップ)を参照して通常空調モード用の送風機75の目標送風量(ブロワレベル)を決定する。なお、通常空調モード用の制御マップについては後述する(
図5参照)。
【0060】
ステップS18において、空調制御装置5は、基本目標吹出温度TAO等に基づいてA/Mドア40の第1目標回動位置を決定する。
【0061】
ステップS19において、空調制御装置5は、基本目標吹出温度TAO等に基づいて熱媒体の第1目標温度を決定する。
【0062】
ステップS20において、空調制御装置5は、ステップS17で決定された通常空調モード用の送風機75の目標送風量(ブロワレベル)が得られるように送風機75に対して制御信号(第1ブロワ制御信号)を出力する。
【0063】
ステップS21において、空調制御装置5は、A/Mドア40の回動位置がステップS18で決定された第1目標回動位置となるように第2電動アクチュエータ82に対して制御信号(第1A/Mドア制御信号)を出力する。
【0064】
ステップS22において、空調制御装置5は、熱媒体温度センサ95によって検出される熱媒体の温度TWがステップS19で決定された第1目標温度となるように電気ヒータ26aに対して制御信号(第1ヒータ制御信号)を出力する。
【0065】
以上のステップS11~S22の処理により、車室内全体を暖房するための通常空調モードが実施される。具体的には、車両用空調装置1は、運転席側サイドフェイス吹出口45及び運転席側フット吹出口47から運転席側への空調風の吹き出しを行うと共に、助手席側サイドフェイス吹出口51、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55から助手席及び後席への空調風の吹き出し、すなわち、運転席以外の他の座席側への空調風の吹き出しを行う。なお、運転席側サイドフェイス吹出口45、運転席側フット吹出口47、助手席側サイドフェイス吹出口51、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55から車室内に吹き出される空調風の温度は、基本目標吹出温度TAO(又はそれに近い温度)である。
【0066】
他方、上述のステップS16において、偏重空調モード設定スイッチ109が操作されているか又は運転席以外の座席に乗員がいない場合、空調制御装置5は、偏重空調モードを実施すると判定し(ステップS16;YES)、ステップS23の処理に進む。
【0067】
ステップS23において、空調制御装置5は、特定座席である運転席に偏重した空調(暖房)を行うための第1偏重空調モード設定信号を出力する。具体的には、空調制御装置5は、助手席側サイドフェイス吹出口51、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55からの空調風の吹き出しを停止させるように、第7及び第9電動アクチュエータ87、89に対して制御信号を出力する。
【0068】
ステップS24において、空調制御装置5は、
図3のステップS3で演算された基本目標吹出温度TAOに基づき、あらかじめ記憶された制御マップ(偏重空調モード用の制御マップ)を参照して偏重空調モード用の送風機75の目標送風量(ブロワレベル)を決定する。
【0069】
ここで、ステップS17で用いられる通常空調モード用の制御マップとステップS24で用いられる偏重空調モード用の制御マップについて説明する。
図5は、通常空調モード用の制御マップ及び偏重空調モード用の制御マップを示している。なお、
図5の縦軸のブロワレベルは、送風機75の目標送風量、換言すれば、送風機75の電動モータの目標回転数を示しており、送風機75の電動モータに供給される電力に対応している。例えば、送風機75の電動モータが電圧制御される場合には駆動回路が送風機75の電動モータに印加する電圧値がブロワレベルに対応し、送風機75の電動モータが電流制御される場合には送風機75の電動モータのON時間とOFF時間の割合であるデューティ比がブロワレベルに対応する。
【0070】
図5に示されるように、偏重空調モード用の制御マップは、通常空調モード用の制御マップと比べて、同じ基本目標吹出温度TAOに対するブロワレベルが低くなっている。つまり、同じ基本目標吹出温度TAOに対し、偏重空調モードの場合に決定される送風機75の目標送風量は、通常空調モードの場合に決定される送風機75の目標送風量よりも少ない。これは、例えば通常空調モードから偏重空調モードに遷移したときに、特定座席である運転席側に吹き出される空調風(運転者の上半身及び足元に向けて吹き出される空調風)の風量が増加してしまうことを防止するためである。具体的には、通常空調モード用の制御マップと偏重空調モード用の制御マップとは、通常空調モードのときに特定座席である運転席側に吹き出される空調風の風量と、偏重空調モードのときに特定座席である運転席側に吹き出される空調風の風量とが同等になるように設定されている。
【0071】
図4のフローチャートに戻り、ステップS25において、空調制御装置5は、偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1を算出する。空調制御装置5は、基本目標吹出温度TAOに基づき、例えば下式(2)により偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1を算出する。
TAOD1=K
TAOD1×TAO+C
TAOD1…(2)
ここで、K
TAOD1は制御ゲインであり、C
TAOD1は補正用の定数である。
【0072】
図6は、ステップS25で算出される偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1を示している。
図6に示されるように、偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1は、基本目標吹出温度TAOに比べて高い値に算出される。好ましくは、偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1は、基本目標吹出温度TAOが低いほど基本目標吹出温度TAOとの差が大きくなるように算出され得る。なお、制御ゲインK
TAO1及び/又は補正用の定数C
TAO1は、外気温Tamや日照量などを考慮して可変設定されてもよい。
【0073】
このように、偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1が(通常空調モードで用いられる)基本目標吹出温度TAOに比べて高い値に算出されるのは、発明者らの評価結果、具体的には、暖房時においては、通常空調モードのときに車室内(特に運転席側)に吹き出される空調風の温度等と偏重空調モードのときに車室内(運転席側)に吹き出される空調風の温度等とが同等であっても、偏重空調モードでは通常空調モードと比べて運転者の温冷感が下がる(寒く感じる)傾向があるという評価結果が考慮されたものである。
【0074】
再び
図4のフローチャートに戻り、ステップS26において、空調制御装置5は、ステップS2で読み込まれたセンサ検出信号及びステップS25で算出された偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1(以下「偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1等」という)に基づいてA/Mドア40の第2目標回動位置を決定する。
【0075】
ステップS27において、空調制御装置5は、偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1等に基づいて熱媒体の第2目標温度を決定する。
【0076】
ステップS28において、空調制御装置5は、ステップS24で決定された偏重空調モード用の送風機75の目標送風量(ブロワレベル)が得られるように送風機75に対して制御信号(第2ブロワ制御信号)を出力する。
【0077】
ステップS29において、空調制御装置5は、A/Mドア40の回動位置がステップS26で決定された第2目標回動位置となるように第2電動アクチュエータ82に対して制御信号(第2A/Mドア制御信号)を出力する。
【0078】
ステップS30において、空調制御装置5は、熱媒体温度センサ95によって検出される熱媒体の温度TWがステップS27で決定された第2目標温度となるように電気ヒータ26aに対して制御信号(第2ヒータ制御信号)を出力する。
【0079】
以上のステップS11~S16、S23~S30の処理により、特定座席である運転席に偏重した暖房を行うための偏重空調モードが実施される。具体的には、車両用空調装置1は、運転席側サイドフェイス吹出口45及び運転席側フット吹出口47から運転席側への空調風の吹き出しを行う一方、助手席側サイドフェイス吹出口51、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55からの空調風の吹き出しを停止、すなわち、運転席以外の他の座席側(助手席側及び後席側)への空調風の吹き出しを停止させる。なお、運転席側サイドフェイス吹出口45及び運転席側フット吹出口47から車室内に吹き出される空調風の温度は、偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1(又はそれに近い温度)である。
【0080】
ここで、空調制御装置5は、通常空調モードにおけるブロワレベルと偏重空調モードにおけるブロワレベルとをそれぞれ別の制御マップ(
図5)を参照して決定しており、これによって、通常空調モードのときに運転席側に吹き出される空調風の風量と、偏重空調モードのときに運転席側に吹き出される空調風の風量とが同等となっている。したがって、暖房時に通常空調モードから偏重空調モードに遷移した場合であっても運転席側に吹き出される空調風の風量が変わらずに維持され得る。
【0081】
また、空調制御装置5は、偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1を通常空調モードで用いる基本目標吹出温度TAOに基づき基本目標吹出温度TAOに比べて高い値に算出しており、これによって、同じ車室内設定温度Tset等に対して、偏重空調モードのときに車室内(つまり、運転席側)に吹き出される空調風の温度が通常空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度よりも高くなっている。したがって、暖房時に通常空調モードから偏重空調モードに遷移した場合に運転者の温冷感が下がることが抑制され得る。
【0082】
図7は、
図3のステップS7における処理(冷房用の制御出力)の一例を示すフローチャートである。
【0083】
ステップS41において、空調制御装置5は、前記吹出口モードを前記フェイスモードに決定する。
【0084】
ステップS42において、空調制御装置5は、基本目標吹出温度TAO等に基づいて前記吸込口モードを決定する。
【0085】
ステップS43において、空調制御装置5は、前記吹出口モードを前記フェイスモードとするためのフェイスモード設定信号を出力する。具体的には、空調制御装置5は、前記複数の吹出口のうちの運転席側センタフェイス吹出口43、運転席側サイドフェイス吹出口45、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51から空調風が吹き出される一方、これら以外の吹出口から空調風が吹き出されない状態となるように、第3~第9電動アクチュエータ83~89に対して制御信号を出力する。
【0086】
ステップS44において、空調制御装置5は、ステップS42で決定された吸込口モードとなるように第1電動アクチュエータ81に対して制御信号(第2吸込口モード設定信号)を出力する。
【0087】
ステップS45において、空調制御装置5は、特定座席である運転席に偏重した空調(冷房)を行う偏重空調モードを実施するか否かを判定する。具体的には、空調制御装置5は、
図4のステップS16と同様、偏重空調モード設定スイッチ109が操作されたか否かを判定し、及び乗員検知センサ96の検出信号に基づき運転席以外の座席に乗員がいるか否かを判定する。そして、偏重空調モード設定スイッチ109が操作されておらず且つ運転席以外の座席に乗員がいる場合、空調制御装置5は、偏重空調モードを実施しない(換言すれば、通常空調モードを実施又は継続する)と判定し(ステップS45;NO)、ステップS46の処理に進む。
【0088】
ステップS46において、空調制御装置5は、
図3のステップS3で演算された基本目標吹出温度TAOに基づき、前記通常空調モード用の制御マップ(
図5)を参照して通常空調モード用の送風機75の目標送風量(ブロワレベル)を決定する。
【0089】
ステップS47において、空調制御装置5は、基本目標吹出温度TAO等に基づいてA/Mドア40の第3目標回動位置を決定する。
【0090】
ステップS48において、空調制御装置5は、基本目標吹出温度TAO等に基づいて蒸発器出口の空気の第1目標温度を決定する。
【0091】
ステップS49において、空調制御装置5は、ステップS46で決定された通常空調モード用の目標送風量(ブロワレベル)が得られるように送風機75に対して制御信号(第3ブロワ制御信号)を出力する。
【0092】
ステップS50において、空調制御装置5は、A/Mドア40の回動位置がステップS47で決定された第3目標回動角度となるように第2電動アクチュエータ82に対して制御信号(第3A/Mドア制御信号)を出力する。
【0093】
ステップS51において、空調制御装置5は、空気温度センサ94で検出される蒸発器出口の空気の温度がステップS48で決定された第1目標温度となるように圧縮機21に対して制御信号(第1圧縮機運転信号)を出力する。
【0094】
以上のステップS41~S51の処理により、車室内全体を冷房するための通常空調モードが実施される。具体的には、車両用空調装置1は、運転席側センタフェイス吹出口43及び運転席側サイドフェイス吹出口45から運転席側への空調風の吹き出しを行うと共に、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51から助手席側への空調風の吹き出し、すなわち、運転席以外の他の座席側への空調風の吹き出しを行う。なお、運転席側センタフェイス吹出口43、運転席側サイドフェイス吹出口45、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51から車室内に吹き出される空調風の温度は、基本目標吹出温度TAO(又はそれに近い温度)である。
【0095】
他方、上述のステップS45において、偏重空調モード設定スイッチ109が操作されているか又は運転席以外の座席に乗員がいない場合、空調制御装置5は、偏重空調モードを実施すると判定し(ステップS45;YES)、ステップS52の処理に進む。
【0096】
ステップS52において、空調制御装置5は、特定座席である運転席に偏重した空調(冷房)を行うための第2偏重空調モード設定信号を出力する。具体的には、空調制御装置5は、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51からの空調風の吹き出しを停止させるように、第6及び第7電動アクチュエータ86、87に対して制御信号を出力する。
【0097】
ステップS53において、空調制御装置5は、
図3のステップS3で演算された基本目標吹出温度TAOに基づき、偏重空調モード用の制御マップ(
図5)を参照して偏重空調モード用の送風機75の目標送風量(ブロワレベル)を決定する。
【0098】
ステップS54において、空調制御装置5は、偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2を算出する。空調制御装置5は、基本目標吹出温度TAOに基づき、例えば下式(3)により偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2を算出する。
TAOD2=KTAOD2×TAO-CTAOD2…(3)
ここで、KTAOD2は制御ゲインであり、CTAOD2は補正用の定数である。
【0099】
図8は、ステップS54で算出される偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2を示している。
図8に示されるように、偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2は、基本目標吹出温度TAOに比べて低い値に算出される。好ましくは、偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2は、基本目標吹出温度TAOが高いほど基本目標吹出温度TAOとの差が大きくなるように算出され得る。なお、制御ゲインK
TAOD2及び/又は補正用の定数C
TAOD2は、外気温Tamや日照量などを考慮して可変設定されてもよい。
【0100】
このように、偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2が(通常空調モードで用いられる)基本目標吹出温度TAOに比べて低い値に算出されるのは、発明者らの評価結果、具体的には、冷房時においては通常空調モードのときに車室内(特に運転席側)に吹き出される空調風の温度等と偏重空調モードのときに車室内(運転席側)に吹き出される空調風の温度等とが同等であっても、偏重空調モードでは通常空調モードと比べて運転者の温冷感が上がる(暑く感じる)傾向があるという評価結果が考慮されたものである。
【0101】
図7のフローチャートに戻り、ステップS55において、空調制御装置5は、ステップS2で読み込まれたセンサ検出信号及びステップS54で演算された偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2(以下「偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2等」という)に基づいてA/Mドア40の第4目標回動位置を決定する。
【0102】
ステップS56において、空調制御装置5は、偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2等に基づいて蒸発器出口の空気の第2目標温度を決定する。
【0103】
ステップS57において、空調制御装置5は、ステップS53で決定された偏重空調モード用の目標送風量(ブロワレベル)が得られるように送風機75に対して制御信号(第4ブロワ制御信号)を出力する。
【0104】
ステップS58において、空調制御装置5は、A/Mドア40の回動位置がステップS55で決定された第4目標回動位置となるように第2電動アクチュエータ82に対して制御信号(第4A/Mドア制御信号)を出力する。
【0105】
ステップS59において、空調制御装置5は、空気温度センサ94で検出される蒸発器出口の空気の温度がステップS56で決定された第2目標温度となるように圧縮機21に対して制御信号(第2圧縮機運転信号)を出力する。
【0106】
以上のステップS41~S45、S52~S59の処理により、特定座席である運転席に偏重した冷房を行うための偏重空調モードが実施される。具体的には、車両用空調装置1は、運転席側センタフェイス吹出口43及び運転席側サイドフェイス吹出口45から運転席側への空調風の吹き出しを行う一方、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51から助手席側への空調風の吹き出しを停止、すなわち、運転席以外の他の座席側への空調風の吹き出しを停止させる。なお、運転席側センタフェイス吹出口43及び運転席側サイドフェイス吹出口45から車室内に吹き出される空調風の温度は、偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2(又はそれに近い温度)である。
【0107】
ここで、空調制御装置5は、暖房の場合と同様、通常空調モードにおけるブロワレベルと偏重空調モードにおけるブロワレベルとをそれぞれ別の制御マップ(
図5)を参照して決定しており、これによって、通常空調モードのときに運転席側に吹き出される空調風の風量と、偏重空調モードのときに運転席側に吹き出される空調風の風量とが同等となっている。したがって、冷房時に通常空調モードから偏重空調モードに遷移した場合であっても運転席側に吹き出される空調風の風量が変わらずに維持され得る。
【0108】
また、空調制御装置5は、偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2を通常空調モードで用いる基本目標吹出温度TAOに基づき基本目標吹出温度TAOに比べて低い値に算出しており、これによって、同じ車室内設定温度Tset等に対して、偏重空調モードのときに車室内(つまり、運転席側)に吹き出される空調風の温度が通常空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度よりも低くなっている。したがって、冷房時に通常空調モードから偏重空調モードに遷移した場合に運転者の温冷感が上がることが抑制され得る。
【0109】
以上説明したように、実施形態に係る車両用空調装置1は、車室内全体を空調するための通常空調モードと、車室内の特定座席である運転席に偏重した空調を行うための偏重空調モードとを選択的に切り替えて実施可能に構成されている。このため、車両用空調装置1によれば、車室内の状態に合わせて効率的な空調を行うことが可能である。
【0110】
また、車両用空調装置1は、通常空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度と偏重空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度を異ならせている。具体的には、暖房時には偏重空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度が通常空調モードのときに車室内の吹き出される空調風の温度よりも高くなっており、冷房時には偏重空調モードのときに車室内に吹き出される空調風の温度が通常空調モードのときに車室内の吹き出される空調風の温度よりも低くなっている。このため、車両用空調装置1によれば、例えば通常空調モードから偏重空調モードに遷移したときに車室内の特定座席である運転席の乗員(すなわち、運転者)の温冷感が変化することが抑制される。
【0111】
さらに、車両用空調装置1は、通常空調モードのときに車室内の特定座席である運転席側に吹き出される空調風の風量と、偏重空調モードのときに車室内の特定座席である運転席側に吹き出される空調風の風量とを同等としている。このため、車両用空調装置1によれば、例えば通常空調モードから偏重空調モードに遷移した場合であっても車室内の特定座席である運転席側に吹き出される空調風、さらに言えば、特定座席である運転席の乗員(運転者)に向かって吹き出される空調風の風量が変わらずに維持される。
【0112】
その結果、車両用空調装置1によれば、従来技術に比べて、例えば通常空調モードから偏重空調モードに遷移したときに特定座席である運転席の乗員(運転者)に違和感や不快感を与えてしまうこと、すなわち、特定座席の快適性が損なわれることが抑制され得る。
【0113】
なお、上述の実施形態では特定座席が運転席とされている。しかし、これに限られるものではなく、特定座席は運転席以外の他の座席(例えば助手席)であってもよい。
【0114】
また、上述の実施形態では偏重空調モードにおいて特定座席である運転席以外の他の座席側への空調風の吹き出しが停止されている。しかし、これに限られるものではない。偏重空調モードにおいて特定座席である運転席以外の他の座席側に吹き出される空調風の風量が通常空調モードにおけるそれよりも減少されてもよい。
【0115】
この場合、空調制御装置5は、
図4のステップS23において、例えば、助手席側サイドフェイス吹出口51、助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55から吹き出される空調風の風量を減少させるように、又は、助手席側サイドフェイス吹出口51から吹き出される空調風の風量を減少させると共に助手席側フット吹出口53及び後席側フット吹出口55からの空調風の吹き出しを停止させるように、第7及び第9電動アクチュエータ87、89に対して制御信号を出力すればよい。同様に、空調制御装置5は、
図7のステップS52において、例えば、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51から吹き出される空調風の風量を減少させるように、助手席側センタフェイス吹出口49又は助手席側サイドフェイス吹出口51からの空調風の吹き出しを停止させるように、あるいは、助手席側センタフェイス吹出口49及び助手席側サイドフェイス吹出口51の一方からの空調風の吹き出しを停止させる共に他方から吹き出される空調風の風量を減少させるように、第6及び第7電動アクチュエータ86、87に対して制御信号を出力すればよい。
【0116】
また、制御出力の急激な変化等を抑制するため、必要に応じて、例えば通常空調モードから偏重空調モードへの遷移に伴う目標吹出温度の切り替え(基本目標吹出温度TAO→偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1、基本目標吹出温度TAO→偏重空調モード用の第2目標吹出温度TAOD2)が段階的に行われてもよい。この場合、好ましくは、モード遷移の前後での目標吹出温度の差、すなわち、基本目標吹出温度TAOと偏重空調モード用の第1目標吹出温度TAOD1の差又は基本目標吹出温度TAOと第2目標吹出温度TAOD2との差が大きいほど段階数が増加する。
【0117】
さらに、空調制御装置5は、「消費電力が増加しないこと」をモード遷移の条件としてもよい。この場合、空調制御装置5は、例えば、通常空調モードを継続することによる第1消費電力量と、偏重空調モードを実施することによる第2消費電力量とを予測し、
図4のステップS16及び
図7のステップS45において、第2消費電力量が第1消費電力量よりも小さいか否かをさら判定する。そして、空調制御装置5は、偏重空調モード設定スイッチ109が操作されているか又は運転席以外の座席に乗員がいない場合であって、且つ、第2消費電力量が第1消費電力量よりも小さい場合に、ステップS23又はステップS52の処理に進む。
【0118】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明は、上述の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0119】
1…車両用空調装置、3…空調ユニット、5…空調制御装置、7…送風機ユニット、9…蒸発器、11…ヒータコア、21…圧縮機、26…熱媒体加熱装置、26a…電気ヒータ、27…電動ポンプ、40…A/M(エアミックス)ドア、41…デフロスタ吹出口、43…運転席側センタフェイス吹出口、45…運転席側サイドフェイス吹出口、47…運転席側フット吹出口、49…助手席側センタフェイス吹出口、51…助手席側サイドフェイス吹出口、53…助手席側フット吹出口、55…後席側フット吹出口、57a…デフロスタドア、61a…運転席側センタドア、62a…運転席側サイドドア、63a…助手席側センタドア、64a…助手席側サイドドア、65a…第1フットドア、65b…第2フットドア、73…内外気切替ドア、75…送風機