(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102874
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】形鋼のせん断工具、形鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23D 23/00 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
B23D23/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006937
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌士
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】堀江 純司
【テーマコード(参考)】
3C039
【Fターム(参考)】
3C039DA05
(57)【要約】
【課題】鋼矢板等の溝形状部を有する形鋼、又はZ形状部を有するZ型の形鋼をせん断する際の工具破損を抑止できる形鋼のせん断工具、及び形鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る形鋼のせん断工具51は、溝形状部101を有する形鋼10を幅方向にせん断するものであって、形鋼10の溝形状部101に沿うように形成され、底刃部5121及び底刃部5121から立ち上がる立上り刃部5122を有する固定せん断刃512と、固定せん断刃512に対してせん断方向に可動する可動せん断刃511とを備え、せん断時において、固定せん断刃512における立上り刃部5122と可動せん断刃511が最初に交差する部位における可動せん断刃511の接線5111と固定せん断刃512の接線5124との成す角度θが、形鋼の厚さによって定められる範囲を満たすものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝形状部を有する溝型の形鋼、又はZ形状部を有するZ型の形鋼を幅方向にせん断する形鋼のせん断工具であって、前記形鋼に沿うように形成され、底刃部及び該底刃部から立ち上がる立上り刃部を有する固定せん断工具と、該固定せん断工具に対してせん断方向に可動する可動刃を有する可動せん断工具とを備え、せん断時において、前記固定せん断工具における前記立上り刃部と前記可動刃が最初に交差する部位における前記可動刃の接線と前記立上り刃の接線との成す角度θが、形鋼の厚さによって定められる範囲を満たすことを特徴とする形鋼のせん断工具。
【請求項2】
前記形鋼のせん断時において、前記固定せん断工具における前記立上り刃部と前記可動刃が最初に交差する部位における前記可動刃の接線と前記立上り刃の接線との成す角度θが、45度以下でかつ下式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の形鋼のせん断工具。
θ/t≧0.83×t-0.62 ・・・(1)
ただし、t:形鋼の板厚
【請求項3】
前記固定せん断工具における前記立上り刃部にくびれ部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の形鋼のせん断工具。
【請求項4】
本発明に係る形鋼の製造方法は、溝形状部又はZ形状部を有する形鋼を所定の長さにせん断して所定長さの形鋼を製造する形鋼の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の形鋼のせん断工具を用いて、形鋼を幅方向にせん断することで所定長さの形鋼とすることを特徴とする形鋼の製造方法。
【請求項5】
本発明に係る形鋼の製造方法は、溝形状部又はZ形状部を有する形鋼を所定の長さにせん断して所定長さの形鋼を製造する形鋼の製造方法であって、
請求項3に記載の形鋼のせん断工具を用いて、形鋼を幅方向にせん断することで所定長さの形鋼とすることを特徴とする形鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板などの溝形状部を有する形鋼、又はZ形状部を有するZ型の形鋼を幅方向にせん断する形鋼のせん断工具およびこれを用いた形鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロール成形で成形される形鋼は、鋼板又は鋼帯に対して周方向に連続的な曲げ加工し、U形やハット形の鋼矢板として製造される。
形鋼の成形後には通常、ライン上に配置されているせん断機あるいは切断機で、所望の長さに切り分けられる。
【0003】
ここで、切断機は鋸刃を使用して切断部を切出す加工機のことであり、せん断機は一対のせん断工具を使用してせん断加工により切り出しを行う加工機のことである。せん断加工は切断加工よりも加工時間が短いため、切断よりも形鋼の生産性を損ねにくいという利点がある。
【0004】
しかし、せん断加工においては、工具が材料に接触して、だれが生じ、その後せん断が発生するが、せん断が発生するまでの間は工具には大きな負荷が作用し、工具の破損につながる。そのため、せん断加工機においては、適切なクリアランスの設定や工具設計を行い、せん断加工における負荷を軽減する必要がある。
【0005】
特許文献1には、せん断機に製品形状に合わせた貫通孔型を有する切断刃を設け、製品と同期して走行させながら切断する形鋼用切断機が開示されている。
この形鋼用切断機は、複数個のスライド式ガイドローラを内蔵し、かつスプリング等の弾性体にてせん断機に弾性支持したローラ式の製品案内ガイドを設置している。これにより、せん断時に生じる製品の振れによって工具が破損することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、切断(せん断)対象としてH形鋼を前提にしているが、溝形状部を有する形鋼やZ型の形鋼はH形鋼よりも断面形状が複雑であるため、特許文献1に開示の構成では工具寿命の改善には効果が期待できない。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、鋼矢板等の溝形状部を有する形鋼やZ型の形鋼をせん断する際の工具破損を抑止できる形鋼のせん断工具、及び形鋼のせん断工具を用いて形鋼を製造する形鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、せん断加工における工具の形鋼に対する接触状態について鋭意研究を行った。その結果、以下のことが明らかになった。
形鋼をせん断加工で切り出す際には、製品の切出しを行う長手方向の位置において、成形機で成形を行う前に予め鋼板又は鋼帯に穴あけ加工(プレノッチ加工)を行っており、このプレノッチ加工部を基準にせん断加工を行う。
【0010】
せん断加工で使用する一対の工具のうち、固定せん断工具は搬送中やせん断中の製品の振れを抑制するために、固定せん断工具のせん断刃の断面は製品の断面形状に沿った曲面を備えている。
他方、可動せん断工具の可動刃の断面は、曲面を有するもののその曲面は製品断面に沿うのではなく、せん断の際に前記プレノッチ部周辺から形鋼に接触するように断面寸法が設計されている。
そのため、可動刃が形鋼に接触するときは、一様に幅方向に接触して均等にせん断加工を行うわけではなく、プレノッチ部周辺を中心に接触し始め、可動刃におけるせん断方向の変位が増すにつれて接触部からせん断が始まる。せん断が始まると可動刃と形鋼との接触域は新たに幅方向に移動し、それに加えて、すぐ隣のせん断された部位からの亀裂伝播の影響も相まって、せん断が進展しやすくなる。このようなせん断は可動せん断工具が形鋼を完全に貫通するまで続く。
【0011】
せん断加工の過程において特に負荷が過大になりやすいのは、可動刃と形鋼が接触した直後である。この接触開始時点では周囲からの亀裂の伝播がないため、形鋼に破断が生じるまで、可動刃および固定せん断工具のせん断刃のいずれにおいても、該当する接触部に負荷が増加し続けるためである。
【0012】
また、鋼矢板のような溝形状部を有する形鋼やZ型の形鋼の場合、フランジ、アーム、継手に接触による過負荷が生じた場合、モーメントが発生する。そのため、接触部だけではなく、モーメントの回転中心になるような周辺部にも過負荷が作用し、せん断工具の破損の原因となる。そのため、せん断工具の寿命を向上させるためには可動せん断刃が形鋼に接触し始める位置において、せん断加工の負荷を軽減することが重要である。
本発明は上記知見に基づくものであり、具体的には以下の構成を備えたものである。
【0013】
(1)本発明に係る形鋼のせん断工具は、溝形状部を有する溝型の形鋼、又はZ形状部を有するZ型の形鋼を幅方向にせん断する形鋼のせん断工具であって、前記形鋼に沿うように形成され、底刃部及び該底刃部から立ち上がる立上り刃部を有する固定せん断工具と、該固定せん断工具に対してせん断方向に可動する可動刃を有する可動せん断工具とを備え、せん断時において、前記固定せん断工具における前記立上り刃部と前記可動刃が最初に交差する部位における前記可動刃の接線と前記立上り刃の接線との成す角度θが、形鋼の厚さによって定められる範囲を満たすことを特徴とするものである。
【0014】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記形鋼のせん断時において、前記固定せん断工具における前記立上り刃部と前記可動刃が最初に交差する部位における前記可動刃の接線と前記立上り刃の接線との成す角度θが、45度以下でかつ下式(1)を満たすことを特徴とするものである。
θ/t≧0.83×t-0.62 ・・・(1)
ただし、t:形鋼の板厚
【0015】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記固定せん断工具における前記立上り刃部にくびれ部を有することを特徴とするものである。
【0016】
(4)本発明に係る形鋼の製造方法は、溝形状部又はZ形状部を有する形鋼を所定の長さにせん断して所定長さの形鋼を製造する形鋼の製造方法であって、
上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の形鋼のせん断工具を用いて、形鋼を幅方向にせん断することで所定長さの形鋼とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る形鋼のせん断工具においては、せん断時において固定せん断工具における立上り刃部と可動せん断工具の可動刃が最初に交差する部位における可動刃の接線と立上り刃部の接線との成す角度θが所定の範囲となるように設定した。これにより、鋼矢板等の溝形状部を有する形鋼のせん断時におけるせん断開始時のせん断負荷を小さくでき、工具破損を抑止して工具寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の形態におけるせん断工具によって形鋼をせん断する際のせん断前の状態を説明する説明図である。
【
図2】本実施の形態におけるせん断工具によって形鋼をせん断する際のせん断開始時の状態を説明する説明図である。
【
図3】本実施の形態が対象とする形鋼の製造ラインの流れを説明する説明図である。
【
図4】形鋼に形成されるプレノッチ部の説明図である。
【
図5】本実施の形態におけるせん断加工実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である形鋼のせん断工具を詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0020】
まず、
図3、
図4を参照して、本実施の形態が対象とする形鋼の製造ラインの流れと、形鋼のせん断機の概略構成について説明する。
鋼板(又は鋼帯)1は、プレノッチ加工機2により所定の位置へ穴あけ加工が行われることで、
図4(b)に示すようなプレノッチ部3が形成される。その後、ロール成形機4によって連続的に矢板形状へと成形されながら溝形状部101を有する形鋼10へと成形される(
図3、
図4(c)参照)。
【0021】
その後、可動せん断刃511及び一対の固定せん断刃512からなるせん断工具51を備えたせん断機5まで形鋼10が搬送される。そして、プレノッチ部3が一対の固定せん断刃512の間隙513まで移動したとき、可動せん断刃511は固定せん断刃512の間隙513を通過するように油圧動力によって移動し、その間に形鋼10のせん断加工を行う。なお、このときの可動せん断刃511の動力源は油圧だけではなく、機械式や電気式のいずれのもの用いても良い。
【0022】
上記のせん断機5に用いられる形鋼のせん断工具51(以下、単に「せん断工具51」という)の一例について
図1~
図3に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施の形態のせん断工具51およびそれを含めたせん断前の状態を説明する図であり、成形の進行方向に対してせん断工具51と形鋼10を正面から見た状態を示している。
また、
図2は、
図1の状態から可動せん断刃511が移動し、可動せん断刃511が形鋼10と接触したときのせん断初期状態を説明するための図である。なお、
図2の拡大図においては、説明を分かりやすくするために形鋼10の図示を省略している。
【0023】
図1、
図2に示すように、本実施の形態のせん断工具51は、溝形状部101を有する形鋼10を溝形状部101の幅方向にせん断するものであって、可動せん断刃511と固定せん断刃512を備えている。以下、各構成を詳細に説明する。
【0024】
<形鋼>
本実施の形態の形鋼10は、溝形状部101を有し、溝壁の上端部にはカールする継手部102を備えている。
また、本実施の形態の形鋼10は、
図4に示したように、プレノッチ部3が鋼板1に対して左右対称にそれぞれ1か所設けられている。
もっとも、本発明がせん断対象とする形鋼10はこれに限られるものではなく、またプレノッチは左右に1か所ずつとは限らない。
【0025】
<可動せん断刃>
可動せん断刃511は、せん断方向に移動して一対の固定せん断刃512の隙間に挿入される。可動せん断刃511が形鋼10と接触する面の形状は、形鋼10のプレノッチ部3の周辺に工具が最初に接触するように設計されている。このため、可動せん断刃511は下方に向かって幅狭となるように傾斜しているが、傾斜部の形状は直線又は曲線のいずれであってもよい。
【0026】
<固定せん断刃>
固定せん断刃512は、形鋼10の製造ラインに対して前後に所定の間隙を離して一対設けられている。
各固定せん断刃512は、せん断機5へ形鋼10が進入したときに形鋼10の下面に接する部位が、形鋼10の下面とほぼ同等の形状、すなわち同じ曲率分布をもっている。このような固定せん断刃512は、形鋼10の溝形状部101に沿うように形成され、底刃部5121及び底刃部5121から立ち上がる立上り刃部5122を有している。
【0027】
また、本実施の形態の形鋼10の継手周辺は下方に向けてカールする継手部102を有しており、立上り刃部5122はカール部の内部に挿入されるようにくびれ部5123を有している。
くびれ部5123を有することで、当該部位に応力集中が生じやすいが、本実施の形態のせん断工具51によれば、後述するように、せん断時におけるせん断開始時のせん断負荷を小さくでき、過大な応力集中を抑制できる。よって、くびれ部を有していても工具寿命が短命化することを防止できる。
【0028】
<可動せん断刃と固定せん断刃の関係>
本実施の形態における可動せん断刃511と固定せん断刃512の関係は以下の要件を満たす。
せん断時において、固定せん断刃512における立上り刃部5122と可動せん断刃511が最初に交差する部位(
図2の拡大図で〇で示した部位)における可動せん断刃511の接線5111と立上り刃部5122の接線5124との成す角度θ(
図2の拡大図参照)が、45度以下でかつ下式(1)を満たす。
θ/t≧0.83×t
-0.62 ・・・(1)
ただし、t:形鋼の板厚
【0029】
可動せん断刃511と固定せん断刃512の関係を上記のように規定した理由について以下に説明する。
せん断加工のメカニズムは前述したように、立上り刃部5122と可動せん断刃511のクリアランスの間にある材料は、引張応力が作用されながらだれを形成する。さらに可動せん断刃511を押し込むと、材料にき裂が発生し、このき裂が材料の断面全体に進展することによって、せん断がなされる。せん断過程で一度き裂が発生すると、そのき裂は形鋼10の肉厚方向と幅方向へ伝播し、隣接する部位のき裂を助長するため、その箇所におけるせん断負荷はき裂発生の起点よりも小さくなる。そのため、最初に材料がせん断工具51と接触する部位のせん断負荷が最も大きくなる。
【0030】
このように、せん断工具51に作用する負荷はき裂が発生する直前が最も大きく、き裂発生後はき裂が進展して材料の分離が発生するためにせん断工具51に作用する負荷が減少する。
そのため、瞬間的に発生する工具負荷を小さくするためには、材料における幅方向でせん断によるき裂が発生する時間を分散させ、同時に広い範囲でき裂を発生させることを回避する必要がある。換言すれば、工具が材料と最初に接触する部位において、き裂が発生する時間を分散させることが重要である。
【0031】
可動せん断刃511が材料に接触し、最初にせん断加工が行われる箇所は、その周辺における可動せん断刃511と立上り刃部5122の間隙が最も小さい幅方向位置である。
この位置における可動せん断刃511の接線5111と立上り刃部5122の接線5124との成す角度をθとする(
図2の拡大図参照)。
角度θが大きくなれば、可動せん断刃511が材料と最初に接触する部位において、可動せん断刃511が立上り刃部5122に対して角度をもって材料のせん断を行うことになる。このため、広い範囲で同時にき裂を発生させることを回避できる、すなわち幅方向でせん断によるき裂が発生する時間を分散することができるため、工具負荷が小さくなる。
【0032】
角度θの好適な範囲を規定するためのせん断加工実験を行ったので以下説明する。
せん断加工実験は、種々の形鋼を用いて、せん断工具51における角度θを変更しながらせん断加工を繰り返し行い、可動せん断刃511あるいは立上り刃部5122のいずれかに破損や塑性変形が発生するか否かを確認するというものである。可動せん断刃511あるいは立上り刃部5122のいずれにおいても破損や塑性変形が発生していなければ、せん断負荷を分散できており、工具寿命が向上するとみなせる。
【0033】
図5はこのせん断加工実験結果を示すグラフであり、横軸は各形鋼の板厚t(mm)、縦軸は繰返しのせん断加工後に破損や塑性変形が認められなかったときの角度θの下限値を各形鋼の板厚tで除した値θ/tを示している。
図5中のプロットは実験値を示している。
図5に示すプロットを曲線で繋ぎ、この曲線を関数で表すと下式となる。
θ/t=0.83×t
-0.62
【0034】
上記のθは下限値であることから、せん断加工後に破損や塑性変形が発生しないためには、θの値が下限値以上であればよく、その条件式は下式(1)となる。
θ/t≧0.83×t-0.62 ・・・(1)
なお、形鋼の厚さtは製品の公称厚である。
【0035】
一方、式(1)のθ/t上限値は、可動せん断刃511の破損を抑制するために45/t以下を満たす必要がある。すなわち、角度θが45°を超えると可動せん断刃511の、材料と接触する部分が鋭利になりすぎ、当該部分が破損する。
【0036】
せん断工具51において、固定せん断刃512の底刃部5121及び立上り刃部5122は製品形状に沿う形状であるため、その表面は曲面をもつ複雑形状である場合が多い。そのため、立上り刃部5122の傾斜方向を示す線は、可動せん断刃511と立上り刃部5122の間隙が最も小さい幅方向位置における曲面上の接線5124とした。
他方、本実施の形態の可動せん断刃511は、傾斜部が直線状であり接線5111方向と傾斜方向が一致しているが、可動せん断刃511の表面が曲面の場合には曲面の接線とすればよい。
なお、可動せん断刃511と底刃部5121の間隙が最も小さい幅方向位置や、せん断工具51表面の接線5111、5124は、せん断工具51の寸法などの幾何学的関係から算出することで求めることができる。
【0037】
上記のように構成されたせん断工具51によって長尺の形鋼をせん断して所定長さの形鋼を製造する方法を概説すると以下の通りである。
図3に示すように、鋼板(又は鋼帯)1は、プレノッチ加工機2により所定の位置にプレノッチ部3が形成され、その後、ロール成形機4によって連続的に溝形状部101を有する矢板形状等の形鋼10へと成形される(
図4(c)参照)。
その後、形鋼10はせん断機5まで搬送され、上部に可動せん断刃511、下部に一対の固定せん断刃512を備えたせん断工具51により、プレノッチ部3の位置においてせん断されて所望の長さの形鋼10が製造される。
【0038】
以上のように、本実施の形態においては、せん断工具51について、せん断時において固定せん断刃512における立上り刃部5122と可動せん断刃511が最初に交差する部位における可動せん断刃511の接線5111と立上り刃部5122の接線5124との成す角度θが所定の範囲となるように設定した。これにより、鋼矢板等の溝形状部101を有する形鋼10のせん断時におけるせん断開始時のせん断負荷を小さくでき、工具破損を抑止して工具寿命を向上させることができる。
【0039】
なお、上述した実施の形態は本発明を実施するための一例に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内であれば、当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明に含まれる。
また、せん断時において、固定せん断工具における立上り刃部と可動刃が最初に交差する部位における可動刃の接線と立上り刃の接線との成す角度θは、45度以下や(1)式に限定されるものでなく、形鋼の厚さとの関係でその範囲を適宜設定することもでき、かかる範囲内であればよい。
【0040】
また、上記の説明では特に述べていないが、可動せん断刃511及び固定せん断刃512については、適切な表面処理を行うことで、より寿命を向上させることができるので、本発明において表面処理を行うことを排除するものではない。
【0041】
また、上記の説明では、溝形状部を有する溝型の形鋼を例に挙げて説明したが、本発明が対象としている形鋼はこれに限られず、Z形状部を有するZ型の形鋼をも対象としている。
【実施例0042】
本発明の効果を確認するための実験を行ったので以下説明する。
実験は、板厚を2mmから10mmまでの鋼帯を用いて、材質がSS400(JIS G 3101)のNL-2U型の軽量鋼矢板を成形し、せん断機5でせん断加工を実施するというものである。
せん断機5の構成は、
図1、2に示したものと同様に、上側が可動せん断刃511で下側が固定せん断刃512である。可動せん断刃511の表面形状は直線で形成されており、固定せん断刃512の表面形状は軽量鋼矢板の断面を沿う形状とした。
【0043】
可動せん断刃511の厚さは25mm、前後一対の固定せん断刃512の間隙513は25.8mmとし、せん断加工における可動せん断刃511と固定せん断刃512のクリアランスは前後で0.4mmずつとした。
ノッチサイズは25mm四方とし、鋼板1の両幅において、幅端部から40mmの位置にプレノッチ加工を行った。
【0044】
せん断加工において、軽量鋼矢板のプレノッチ部3と最初に接触する可動せん断刃511の傾斜部において、その斜面と垂線が成す角度をαとした。同じく、軽量鋼矢板のプレノッチ部3と可動せん断刃511が最初に接触する幅方向位置における立上り刃部5122の表面上の接線5124と、可動せん断刃511の傾斜部が成す角θを工具の図面で記載されている幾何学的関係から算出した。
また、可動せん断刃511と軽量鋼矢板が最初に接触する幅方向位置は感圧紙を用いて、染色した位置から求めた。
繰り返しせん断加工を加えた後、可動せん断刃511および固定せん断刃512のいずれにおいてもデジタル画像相関法によるひずみ測定を行い、主せん断ひずみを測定した。
実験条件及び結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
本発明の発明例に相当するせん断工具51においては、せん断ひずみが集中しやすい固定せん断刃の立上り刃部周辺のくびれ部における主せん断ひずみの最大値が0.2%未満であり、せん断加工1000回を超えても工具破損は発生していなかった。
【0047】
一方、式(1)を満たさない比較例においては、せん断ひずみが集中しやすい固定せん断刃の立上り刃部周辺のくびれ部における主せん断ひずみの最大値が0.2%を超過して塑性変形が起こっている部位が存在し、あるいは、せん断加工1000回未満で破損が発生していた。
【0048】
以上のように、せん断工具が本発明範囲内であることで、効果が得られることが確認された。