(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102877
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 3/089 20060101AFI20240725BHJP
F16H 3/10 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
F16H3/089
F16H3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006944
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三上 和洋
【テーマコード(参考)】
3J528
【Fターム(参考)】
3J528EA03
3J528EA04
3J528EB37
3J528EB62
3J528EB78
3J528EB93
3J528FB05
3J528FC33
3J528FC42
3J528FC59
3J528FC63
3J528GA02
3J528HA23
3J528HB02
3J528JE04
3J528JJ04
(57)【要約】
【課題】動力遮断状態とされた変速ギヤ列からの異音の発生を抑制する。
【解決手段】複数の駆動ギヤが設けられた入力軸と、入力軸に並列配置されるとともに複数の駆動ギヤとそれぞれ常時噛み合って複数の変速ギヤ列を構成する複数の従動ギヤが設けられた出力軸と、それぞれの変速ギヤ列を動力伝達状態と動力遮断状態とに切り替える切替機構と、を備え、少なくとも一つの変速ギヤ列を構成する駆動ギヤ及び従動ギヤのうちの駆動ギヤが入力軸に空転自在に設けられ、少なくとも一つの変速ギヤ列を構成する駆動ギヤ及び従動ギヤのうちの従動ギヤと出力軸との間にワンウェイクラッチを設けた。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源から出力される動力を駆動輪に伝達する変速機において、
複数の駆動ギヤが設けられて前記駆動力源から出力される前記動力が入力される入力軸と、
前記入力軸に並列配置されるとともに前記複数の駆動ギヤとそれぞれ常時噛み合って複数の変速ギヤ列を構成する複数の従動ギヤが設けられ、所定方向に回転して前記動力を前記駆動輪側へ出力する出力軸と、
それぞれの前記変速ギヤ列を、前記入力軸の動力を前記出力軸へ伝達する状態と動力の伝達を遮断する状態とに切り替える切替機構と、を備え、
少なくとも一つの前記変速ギヤ列を構成する前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤのうちの前記駆動ギヤが前記入力軸に空転自在に設けられ、
少なくとも一つの前記変速ギヤ列を構成する前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤのうちの前記従動ギヤと前記出力軸との間に、前記従動ギヤに対して前記所定方向への前記出力軸の相対回転を許容する一方、前記従動ギヤに対して前記所定方向とは逆方向への前記出力軸の相対回転を禁止するワンウェイクラッチを設けた、
変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の変速ギヤ列を備える変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば平行軸式の自動変速機や手動変速機は、複数の駆動ギヤを備える入力軸と、複数の従動ギヤを備える出力軸とを有している。対をなす駆動ギヤと従動ギヤとは常時噛み合って複数の変速ギヤ列を構成する。このうち、例えば従動ギヤや出力軸に固定される一方、駆動ギヤは入力軸に空転自在に設けられ、それぞれの変速ギヤ列の駆動ギヤと入力軸とはシンクロメッシュ機構等によって動力伝達状態及び動力遮断状態に切り替えられる。具体的に、シンクロメッシュ機構のシンクロスリーブを、駆動ギヤや従動ギヤのスプラインに向けてスライドさせることにより、所望の変速ギヤ列を動力伝達状態に切り替えることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、入力軸が回転する間、動力遮断状態とされた変速ギヤ列の駆動ギヤは空転状態となる。従来の変速機では、空転状態の駆動ギヤの対となる従動ギヤが出力軸に固定されているため、車両の走行中にいずれかの変速ギヤ列が動力伝達状態とされると、動力遮断状態とされた変速ギヤ列の従動ギヤも回転する。駆動ギヤと従動ギヤとは常時噛み合っていることから、結局のところ動力遮断状態とされた変速ギヤ列の駆動ギヤ及び従動ギヤも回転した状態となる。
【0005】
このとき、エンジンから入力軸に入力される回転変動が大きくなると、空転状態の駆動ギヤと従動ギヤとが短い時間間隔で繰り返し接触する異音(歯打ち音)が発生するおそれがある。また、車両のアイドル停車中においても、すべての変速ギヤ列が動力遮断状態とされたニュートラル状態で、エンジンから出力される動力が入力軸に入力されると、回転変動により駆動ギヤ及び従動ギヤが加振し、異音(歯打ち音)が発生するおそれがある。
【0006】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、動力遮断状態とされた変速ギヤ列からの異音の発生を抑制可能な変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、
駆動力源から出力される動力を駆動輪に伝達する変速機において、
複数の駆動ギヤが設けられて上記駆動力源から出力される上記動力が入力される入力軸と、
上記入力軸に並列配置されるとともに上記複数の駆動ギヤとそれぞれ常時噛み合って複数の変速ギヤ列を構成する複数の従動ギヤが設けられ、所定方向に回転して上記動力を上記駆動輪側へ出力する出力軸と、
それぞれの上記変速ギヤ列を、上記入力軸の動力を上記出力軸へ伝達する状態と動力の伝達を遮断する状態とに切り替える切替機構と、を備え、
少なくとも一つの上記変速ギヤ列を構成する上記駆動ギヤ及び上記従動ギヤのうちの上記駆動ギヤが上記入力軸に空転自在に設けられ、
少なくとも一つの上記変速ギヤ列を構成する上記駆動ギヤ及び上記従動ギヤのうちの上記従動ギヤと上記出力軸との間に、上記従動ギヤに対して上記所定方向への上記出力軸の相対回転を許容する一方、上記従動ギヤに対して上記所定方向とは逆方向への上記出力軸の相対回転を禁止するワンウェイクラッチを設けた、
変速機が提供される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本開示によれば、動力遮断状態となる変速ギヤ列からの異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る変速機の構成を示すスケルトン図である。
【
図2】比較例の変速機による車両走行時に生じる異音を説明するための図である。
【
図3】比較例の変速機によるアイドル停車時に生じる異音を説明するための図である。
【
図4】本実施形態の変速機による車両走行時の作用を説明するための図である。
【
図5】本実施形態の変速機によるアイドル停車時の作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
まず、本開示の実施の形態に係る変速機の基本構成を説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る変速機の構成を示すスケルトン図である。
図1に矢印で示した前方及び後方は、それぞれ車両前方及び車両後方を示す。
【0013】
図示したように、変速機10は、入力軸11とこれに平行となる出力軸12とを備えている。入力軸11は、入力クラッチ13を介してエンジン14と連結されている。出力軸12は、デファレンシャル機構15を介して図示しない駆動輪と連結されている。なお、図示する変速機10は、車両に縦置きに搭載される変速機である。
【0014】
入力軸11には、駆動ギヤ21a~26aが設けられている。このうち駆動ギヤ21a,22aは入力軸11に固定され、その他の駆動ギヤ23a~26aは入力軸11に空転自在に設けられている。また、出力軸12には、従動ギヤ21b~26bが設けられている。このうち従動ギヤ21b,22bは出力軸12に空転自在に設けられ、その他の従動ギヤ23b~26bはワンウェイクラッチ23d~26dを介して出力軸12に支持されている。
【0015】
入力軸11の駆動ギヤ21a~26aと、出力軸12の従動ギヤ21b~26bとは、それぞれ対を成して互いに噛み合い、複数の変速ギヤ列21~26を構成している。すなわち、駆動ギヤ21aと従動ギヤ21bとによって第1速の変速ギヤ列21がされており、駆動ギヤ22aと従動ギヤ22bとによって第2速の変速ギヤ列22が構成されている。また、駆動ギヤ23aと従動ギヤ23bとによって第3速の変速ギヤ列23が構成されており、駆動ギヤ24aと従動ギヤ24bとによって第4速の変速ギヤ列24が構成されている。さらに、駆動ギヤ25aと従動ギヤ25bとによって第5速の変速ギヤ列25が構成されており、駆動ギヤ26aと従動ギヤ26bとによって第6速の変速ギヤ列26が構成されている。
【0016】
出力軸12には1つの切替機構31が設けられており、入力軸11には2つの切替機構32,33が設けられている。切替機構31を用いることにより、第1速又は第2速の変速ギヤ列21,22を動力伝達状態及び動力遮断状態に切り替えることができる。また、切替機構32を用いることにより、第3速又は第4速の変速ギヤ列23,24を動力伝達状態及び動力遮断状態に切り替えることができる。さらに、切替機構33を用いることにより、第5速又は第6速の変速ギヤ列25,26を動力伝達状態及び動力遮断状態に切り替えることができる。なお、切替機構31~33は、シンクロメッシュ機構として構成されている。
【0017】
切替機構31は、出力軸12に固定されるシンクロハブ31aと、これに噛み合うシンクロスリーブ31bとを有している。また、従動ギヤ21bにはスプライン21cが固定されており、従動ギヤ22bにはスプライン22cが固定されている。そして、シンクロスリーブ31bを従動ギヤ21b側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ31bとスプライン21cとが噛み合い、第1速の変速ギヤ列21が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第1速の変速ギヤ列21を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。一方、シンクロスリーブ31bを従動ギヤ22b側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ31bとスプライン22cとが噛み合い、第2速の変速ギヤ列22が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第2速の変速ギヤ列22を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。なお、シンクロスリーブ31bをいずれのスプライン21c,22cにも噛み合わない中立位置に移動させると、第1速と第2速との変速ギヤ列21,22は動力を伝達しない動力遮断状態に切り替えられる。
【0018】
切替機構32は、入力軸11に固定されるシンクロハブ32aと、これに噛み合うシンクロスリーブ32bとを有している。また、駆動ギヤ23aにはスプライン23cが固定されており、駆動ギヤ24aにはスプライン24cが固定されている。そして、シンクロスリーブ32bを駆動ギヤ23a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ32bとスプライン23cとが噛み合い、第3速の変速ギヤ列23が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第3速の変速ギヤ列23を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。一方、シンクロスリーブ32bを駆動ギヤ24a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ32bとスプライン24cとが噛み合い、第4速の変速ギヤ列24が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第4速の変速ギヤ列24を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。なお、シンクロスリーブ32bをいずれのスプライン23c,24cにも噛み合わない中立位置に移動させると、第3速と第4速との変速ギヤ列23,24は動力を伝達しない動力遮断状態に切り替えられる。
【0019】
切替機構33は、入力軸11に固定されるシンクロハブ33aと、これに噛み合うシンクロスリーブ33bとを有している。また、駆動ギヤ25aにはスプライン25cが固定されており、駆動ギヤ26aにはスプライン26cが固定されている。そして、シンクロスリーブ33bを駆動ギヤ25a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ33bとスプライン25cとが噛み合い、第5速の変速ギヤ列25が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第5速の変速ギヤ列25を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。一方、シンクロスリーブ33bを駆動ギヤ26a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ33bとスプライン26cとが噛み合い、第6速の変速ギヤ列26が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第6速の変速ギヤ列26を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。なお、シンクロスリーブ33bをいずれのスプライン25c,26cにも噛み合わない中立位置に移動させると、第5速と第6速との変速ギヤ列25,26は動力を伝達しない動力遮断状態に切り替えられる。
【0020】
また、変速機10には、入力軸11及び出力軸12に平行となるアイドラ軸40が設けられている。アイドラ軸40には、後退用の伝達ギヤ27a,27bが回転自在に設けられている。一方の伝達ギヤ27aは、第1速の駆動ギヤ21aに噛み合っており、他方の伝達ギヤ27bは、出力軸12に固定される従動ギヤ27cに噛み合っている。このように、変速機10には、駆動ギヤ21a、伝達ギヤ27a,27b、従動ギヤ27cからなる後退用の変速ギヤ列27が設けられている。また、アイドラ軸40には、後退用の変速ギヤ列27を動力伝達状態に切り替えるための切替機構34が設けられている。切替機構34は、伝達ギヤ27bに固定されるシンクロハブ34aと、これに噛み合うシンクロスリーブ34bとを有している。また、伝達ギヤ27aにはスプライン27dが固定されている。そして、シンクロスリーブ34bを伝達ギヤ27a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ34bとスプライン27dとが噛み合い、後退用の変速ギヤ列27が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、後退用の変速ギヤ列27を介して、入力軸11から出力軸12に回転方向を逆転させて動力が伝達される。なお、シンクロスリーブ34bをスプライン27dに噛み合わない中立位置に移動させると、後退用の変速ギヤ列27は動力を伝達しない動力遮断状態に切り替えられる。
【0021】
前述した切替機構31~34を操作するため、各シンクロスリーブ31b~34bにはシフトフォーク41~44が取り付けられている。これらのシフトフォーク41~44には、後述するシフターアーム及びリンク機構等を介してシフトレバーが連結されている。運転手がシフトレバーを操作することにより、切替機構31~34を選択して動作させることができ、所望の変速ギヤ列21~27を動力伝達状態に切り替えることが可能となる。
【0022】
上述のとおり、駆動ギヤ21a~26aのうちの駆動ギヤ21a,22aは入力軸11に固定され、従動ギヤ21b~26bのうちの従動ギヤ23b~26bはワンウェイクラッチ23d~26dを介して出力軸12に支持されている。つまり、それぞれの変速ギヤ列23~26を構成する一対の駆動ギヤ及び従動ギヤのうち、駆動ギヤ23a~26aは入力軸11に固定られ、従動ギヤ23b~26bはワンウェイクラッチ23d~26dを介して出力軸12に支持されている。
【0023】
ここで、本実施形態に係る変速機10に対応する従来の変速機の構成では、それぞれの変速ギヤ列を構成する一対の駆動ギヤ及び従動ギヤのうち、いずれか一方のギヤは入力軸又は出力軸に空転自在に設けられ、他方のギヤはワンウェイクラッチを介することなく入力軸又は出力軸に固定されている。
【0024】
従来の構成では、車両の走行中、クラッチが締結され、いずれかの変速ギヤ列が動力伝達状態となると、動力を伝達する変速ギヤ列だけでなく、すべての変速ギヤ列の駆動ギヤ及び従動ギヤが回転する。このとき、エンジンから入力軸に伝達される回転変動成分のうち、駆動系の固有振動数と同じ周波数の変動成分が増幅される。増幅された回転変動成分により、入力軸又は出力軸に固定されているギヤの回転速度も変動するが、この固定されたギヤに常時噛み合っているギヤは空転状態のため、二つのギヤが短い時間間隔で繰り返し接触することによる異音(歯打ち音)が発生する。
【0025】
図2は、車両の走行中に発生する異音(歯打ち音)を説明するための模式図である。
図2では、入力軸51に駆動ギヤ53a,54a,55aが空転自在に設けられ、出力軸52に従動ギヤ53b,54b,55bが固定されている。駆動ギヤ53aと従動ギヤ53b、駆動ギヤ54aと従動ギヤ54b、及び駆動ギヤ55aと従動ギヤ55bにより3つの変速ギヤ列53,54,55が構成されている。3つの変速ギヤ列53~55のうちの中央の変速ギヤ列54が動力伝達状態にされ、左右の変速ギヤ列53,55が動力遮断状態にされている。
【0026】
入力軸51に入力される動力は、中央の変速ギヤ列54を介して出力軸52に伝達され、図示しない駆動輪へと出力される。この場合、左右の変速ギヤ列53,55を構成する駆動ギヤ53a,55aは空転状態であり、駆動ギヤ53a,55aを介して従動ギヤ53b,55bへと動力が伝達されることはない。しかしながら、従動ギヤ53b,55bは出力軸52に固定されていることから、従動ギヤ53b,55bは回転する。入力軸51に入力される回転変動成分のうち駆動系の固有振動数と同じ周波数の変動成分は増幅される。従動ギヤ53b,55bの回転速度が変動すると、従動ギヤ53b,55bに噛み合う駆動ギヤ53a,55aは空転状態であることから、駆動ギヤ53a,55aと従動ギヤ53b,55bとが短い時間間隔での接触を繰り返し、異音が発生する。この異音は、変速機から車体を透過して車室内の乗員に到達する。
【0027】
また、従来の構成では、エンジンをアイドル状態として車両を停止させる間、すべての変速ギヤ列を動力遮断状態とし、クラッチを締結した状態とすると、エンジンから入力軸に伝達される回転変動が変速機内の駆動ギヤ及び従動ギヤを加振する。このとき、入力軸に対して空転自在に設けられている駆動ギヤは加振を受けにくい一方、出力軸に固定された従動ギヤは加振を受けやすい。その結果、駆動ギヤ及び従動ギヤが短い時間間隔で繰り返し接触することによる異音(歯打ち音)が発生する。
【0028】
図3は、エンジンをアイドル状態として車両を停止させる間に発生する異音(歯打ち音)を説明するための模式図である。
図3も同様に、入力軸51に駆動ギヤ53a,54a,55aが空転自在に設けられ、出力軸52に従動ギヤ53b,54b,55bが固定されている。駆動ギヤ53aと従動ギヤ53b、駆動ギヤ54aと従動ギヤ54b、及び駆動ギヤ55aと従動ギヤ55bにより3つの変速ギヤ列53,54,55が構成されている。3つの変速ギヤ列53~55はいずれも動力遮断状態にされ、駆動ギヤ53a~55aは、いずれも空転状態となっている。
【0029】
すべての変速ギヤ列53~55が動力遮断状態とされた、いわゆるニュートラル状態で、入力軸51に入力される比較的低回転領域での回転変動は、駆動ギヤ53a~55a及び従動ギヤ53b~55bを加振する。入力軸51に対して空転自在に設けられている駆動ギヤ53a~55aは加振を受けにくい一方、出力軸52に固定された従動ギヤ53b~55bは加振を受けやすい。したがって、駆動ギヤ53a~55a及び従動ギヤ53b~55bが短い時間間隔で繰り返し接触することによる異音(歯打ち音)が発生する。この異音も、変速機から車体を透過して停車状態の車室内の乗員に到達する。
【0030】
これに対して、本実施形態に係る変速機10では、それぞれの変速ギヤ列21~26を構成する一対の駆動ギヤ21a~26a及び従動ギヤ21b~26bのうち、変速ギヤ列23~26の駆動ギヤ23a~26aは入力軸11に固定され、変速ギヤ列23~26の従動ギヤ23b~26bはワンウェイクラッチ23d~26dを介して出力軸12に支持されている。
【0031】
エンジン14から入力される回転トルクが入力軸11を介して出力軸12に伝達された状態での出力軸12の回転方向を所定方向としたときに、ワンウェイクラッチ23d~26dは、従動ギヤ23b~26bに対して上記所定方向への出力軸12の相対回転を許容する。一方、当該ワンウェイクラッチ23d~26dは、従動ギヤ23b~26bに対して上記所定方向とは逆方向への出力軸12の相対回転を禁止する。つまり、切替機構32により動力伝達状態とされたいずれかの変速ギヤ列23~26のワンウェイクラッチ23d~26dは、従動ギヤ23b~26bとともに出力軸12を回転可能にする。一方、切替機構32により動力遮断状態とされたそれぞれの変速ギヤ列23~26のワンウェイクラッチ23d~26dは、出力軸12が回転する場合であっても従動ギヤ23b~26bを空転状態とする。
【0032】
ワンウェイクラッチ23d~26dを備えることにより、車両の走行中、入力クラッチ13が締結され、いずれかの変速ギヤ列21~26が動力伝達状態となった場合、動力を伝達する変速ギヤ列以外の変速ギヤ列の従動ギヤは空転状態となる。このため、エンジンから入力軸に伝達される回転変動成分のうち、駆動系の固有振動数と同じ周波数の変動成分が増幅された場合であっても、動力遮断状態とされた変速ギヤ列の従動ギヤの回転変動を抑制することができる。したがって、この従動ギヤに常時噛み合う駆動ギヤが空転状態であるとしても、二つのギヤが短い時間間隔で繰り返し接触することによる異音(歯打ち音)を抑制することができる。
【0033】
図4は、車両の走行中における、本実施形態に係る変速機の回転状態を説明するための模式図である。
図4に示す構成では、
図2に示した従来の構成のうち、出力軸52と従動ギヤ53b~55bとの間にワンウェイクラッチ53c~55cが設けられている。
図4では、3つの変速ギヤ列53~55のうちの中央の変速ギヤ列54が動力伝達状態にされ、左右の変速ギヤ列53,55が動力遮断状態にされている。
【0034】
入力軸51に入力される動力は、中央の変速ギヤ列54を介して出力軸52に伝達され、図示しない駆動輪へと出力される。変速ギヤ列54のワンウェイクラッチ54cは、従動ギヤ54bとともに出力軸52を回転させる。この場合、左右の変速ギヤ列53,55を構成する駆動ギヤ53a,55aは空転状態であり、駆動ギヤ53a,55aを介して従動ギヤ53b,55bへと動力が伝達されることはない。また、従動ギヤ53b,55bはワンウェイクラッチ53c~55cを介して出力軸52に支持されていることから、従動ギヤ53b,55bも空転状態となっている。入力軸51に入力される回転変動成分のうち駆動系の固有振動数と同じ周波数の変動成分は増幅された場合であっても、従動ギヤ53b,55bが大きな回転変動を生じることがなく、駆動ギヤ53a,55aと従動ギヤ53b,55bとの接触による異音の発生を抑制することができる。
【0035】
また、エンジン14をアイドル状態として車両を停止させる間、すべての変速ギヤ列21~26を動力遮断状態とし、入力クラッチ13を締結した状態とすると、エンジン14から入力軸11に伝達される回転変動が変速機内の駆動ギヤ及び従動ギヤを加振する。このとき、入力軸11に対して空転自在に設けられている駆動ギヤ23a~26aが加振を受けにくいだけでなく、ワンウェイクラッチ23d~26dを介して出力軸12に支持された従動ギヤ23b~26bも加振を受けにくくなる。その結果、駆動ギヤと従動ギヤとの接触による異音の発生を抑制することができる。
【0036】
図5は、エンジンをアイドル状態として車両を停止させる間における、本実施形態に係る変速機の回転状態を説明するための模式図である。
図5も同様に、出力軸52と従動ギヤ53b~55bとの間にワンウェイクラッチ53c~55cが設けられている。3つの変速ギヤ列53~55はいずれも動力遮断状態にされている。すべての変速ギヤ列53~55が動力遮断状態とされた、いわゆるニュートラル状態で、入力軸51に入力される比較的低回転領域での回転変動は、駆動ギヤ53a~55a及び従動ギヤ53b~55bを加振する。
【0037】
本実施形態の構成では、入力軸51に対して空転自在に設けられている駆動ギヤ53a~55aが加振を受けにくいだけでなく、ワンウェイクラッチ53c~55cを介して出力軸52に支持された従動ギヤ53b~55bも加振を受けにくくなっている。したがって、駆動ギヤ53a~55aと従動ギヤ53b~55bとの接触による異音(歯打ち音)の発生を抑制することができる。
【0038】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0039】
例えば上記実施形態では、駆動ギヤ23a~26aが入力軸11に対して空転自在に設けられるすべての変速ギヤ列23~26の従動ギヤ23b~26bと出力軸12との間にワンウェイクラッチ23d~26dが設けられていたが、本開示の技術はかかる例に限定されない。一部の変速ギヤ列の従動ギヤと出力軸との間にワンウェイクラッチを設けた構成も本開示の技術的範囲に属する。
【0040】
例えばそれぞれの変速機の固有振動数によって、異音(歯打ち音)が発生しやすい変速ギヤ列が異なる場合が考えられる。また、車速あるいはギヤ段によって、車室内の乗員への異音(歯打ち音)の聞こえやすさが異なる場合が考えられる。したがって、異音(歯打ち音)の影響が大きい一つ又は複数の変速ギヤ列を選択し、従動ギヤと出力軸との間にワンウェイクラッチを設けてもよい。これにより、ワンウェイクラッチの数を減らすことができる分、変速機を軽量化することができ、車両のエネルギ効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0041】
10:変速機、11:入力軸、12:出力軸、13:入力クラッチ、14:エンジン、21・22・23・24・25・26:変速ギヤ列、21a・22a・23a・24a・25a・26a:駆動ギヤ、21b・22b・23b・24b・25b・26b:従動ギヤ、21c・22c・23c・24c・25c・26c:スプライン、27:変速ギヤ列、27a・27b:伝達ギヤ、27c:従動ギヤ、27d:スプライン、31・32・33・34:切替機構、31a・32a・33a・34a:シンクロハブ、31b・32b・33b・34b:シンクロスリーブ、40:アイドラ軸、41・42・43・44:シフトフォーク、51:入力軸、52:出力軸、53・54・55:変速ギヤ列、53a・54a・55a:駆動ギヤ、53b・54b・55b:従動ギヤ、53c・54c・55c:ワンウェイクラッチ