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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102933
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】放射線検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/172 20060101AFI20240725BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20240725BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20240725BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G01T1/172
G01T1/20 B
G01T1/20 E
G01T1/24
G01T1/161 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007015
(22)【出願日】2023-01-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイト掲載日:令和4年1月20日 掲載アドレス:https://kekcloud.kek.jp/index.php/s/wKdD9AYiDdQqP44(現在は閉鎖) 2.研究集会名:第36回「放射線検出器とその応用」研究会 開催日:令和4年1月25日(オンライン開催) 3.研究集会名:第8回室温動作化合物半導体検出器研究会 開催日:令和4年5月20日 4.ウェブサイト掲載日:令和4年8月26日 掲載アドレス:https://meeting.jsap.or.jp/jsap2022a/program https://meeting.jsap.or.jp/jsap2022a/idpw 5.研究集会名:第83回応用物理学会秋季学術講演会 開催日:令和4年9月20日(オンライン開催) 6.研究集会名:2022 IEEE Nuclear Science Symposium,Medical Imaging Conference and Room Temperature Semiconductor Detector Conference 開催日:令和4年11月9日
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北山 佳治
(72)【発明者】
【氏名】人見 啓太朗
(72)【発明者】
【氏名】野上 光博
【テーマコード(参考)】
2G188
4C188
【Fターム(参考)】
2G188AA01
2G188AA19
2G188AA25
2G188AA27
2G188BB02
2G188BB04
2G188BB09
2G188BB15
2G188BB18
2G188CC12
2G188CC18
2G188CC23
2G188CC28
2G188DD01
2G188DD30
2G188EE07
2G188EE08
2G188EE12
2G188EE17
2G188EE22
2G188EE29
2G188EE39
4C188FF04
4C188GG21
4C188JJ01
4C188KK21
(57)【要約】
【課題】視野が広く、放射線エネルギーの適用範囲が広く、且つ、小型軽量化を図ることが可能な新しい放射線検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】放射線検出装置1は、放射線を検出する複数の検出素子12が3次元的に配置された検出素子群11を備える放射線検出装置である。検出素子群11の構造は、任意の仮想面S上に検出素子12が敷き詰められた仮想検出素子群から任意の位置の検出素子12を取り除いて形成された空乏13を有する構造である。空乏13は、任意の方向に沿って配置された一の検出素子12a及び他の検出素子12bの各検出値の差分が、当該方向を入射方向とする放射線が入射する場合と当該方向の逆方向を入射方向とする放射線が入射する場合とにおいて、異なる値を示す位置に設けられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出する複数の検出素子が3次元的に配置された検出素子群を備える放射線検出装置であって、
前記検出素子群の構造は、任意の仮想面上に検出素子が敷き詰められた仮想検出素子群から任意の位置の検出素子を取り除いて形成された空乏を有する構造であり、
前記空乏は、任意の方向に沿って配置された一の検出素子及び他の検出素子の各検出値の差分が、当該方向を入射方向とする前記放射線が入射する場合と当該方向の逆方向を入射方向とする前記放射線が入射する場合とにおいて、異なる値を示す位置に設けられる
ことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
前記空乏の少なくとも一部には、前記放射線を遮蔽する遮蔽部材が配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記仮想面は、第1仮想平面と、前記第1仮想平面に対向して配置された第2仮想平面と、を含み、
前記検出素子群は、前記検出素子及び前記空乏が前記第1仮想平面上に配置された第1検出素子群と、前記検出素子及び前記空乏が前記第2仮想平面上に配置された第2検出素子群と、を含んで構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記第1仮想平面及び前記第2仮想平面は、互いに略平行に配置され、
前記第1仮想平面及び前記第2仮想平面は、互いに略同一の正方形状である
ことを特徴とする請求項3に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記第1検出素子群内の少なくとも1つの前記検出素子と、前記第2検出素子群内の少なくとも1つの前記検出素子とは、前記第1仮想平面及び前記第2仮想平面の法線方向から視て互いに異なる位置に配置されている
ことを特徴とする請求項3に記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記仮想面は、半球面状の仮想曲面を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出装置。
【請求項7】
演算処理装置を更に備え、
前記演算処理装置は、前記複数の検出素子の各検出値に基づいて前記検出素子群内における前記放射線の空間的な強度分布を取得する処理部と、前記強度分布の取得結果に基づいて前記放射線の線源位置を推定する推定部と、を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出装置。
【請求項8】
前記推定部は、前記強度分布の前記取得結果から前記線源位置を推定する推定モデルを有し、
前記推定モデルは、前記検出素子群への前記放射線の入射角度毎に取得された前記強度分布と、当該強度分布を取得時の前記線源位置とが紐付けられた教師データに基づく機械学習によって予め生成されたモデルである
ことを特徴とする請求項7に記載の放射線検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンマ線等の放射線を検出して可視する放射線検出装置(例えばガンマ線イメージャー)が知られている。この種の放射線検出装置の代表例としては、コンプトンカメラ、ピンホールカメラ又はコーデッドマスク型カメラ等が挙げられる。
【0003】
コンプトンカメラは、2つの異なる検出素子同士で信号の検出タイミングを揃える(コインシデンスをとる)必要があるので、信号の検出レートが高い箇所では処理が追い付かず、適用が困難である。コンプトンカメラは、非常に多くの検出素子数が必要であるので、回路が複雑になり、価格も高価である。コンプトンカメラの視野は、カメラの前方において立体角が2πsr以下の範囲の製品が一般的であり、当該製品を使用した場合、全方向(立体角が4πsr)の放射線検出及びイメージングを行うには多数回の測定を実施するか、複数のコンプトンカメラを用いる必要がある。
【0004】
ピンホールカメラは、鉛又はタングステン等の重く大型な遮蔽体が必要であるので、装置の重量が数十kgを超える。ピンホールカメラは、持ち運びが容易ではなく、小型の探索ロボットに搭載するといった用途には適さない。更に、ピンホールカメラは、遮蔽体に形成された小さなピンホールを通過した放射線のみを検出対象とするので、検出感度が低く、視野も狭い。
【0005】
コーデッドマスク型カメラは、高エネルギーのガンマ線に対してはコーデッドマスクを透過してくるイベントが増加して結像精度が大幅に悪化するので、検出可能な放射線のエネルギー範囲が制限される。更に、コーデッドマスク型カメラは、検出素子前方以外からも放射線が入射してくるような環境では、ノイズが大きくなり使用に適さない。コーデッドマスク型カメラは、コンプトンカメラ及びピンホールカメラと比較しても視野が狭く、広い領域の放射線検出及びイメージングを行う用途にも適さない。
【0006】
非特許文献1には、全方向の視野を確保できる新しい放射線検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】https://indico.cern.ch/event/731980/contributions/3312342/attachments/1830590/2997828/Vacheret-nFacet-NuSec-Workshop-2019.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に開示された放射線検出装置は、全方向の視野を確保できるものの、依然として多くの検出素子数が必要であり、装置の重量も大きい。したがって、非特許文献1に開示された放射線検出装置は、コンプトンカメラ等の従来の放射線検出装置と同様に改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、視野が広く、放射線エネルギーの適用範囲が広く、且つ、小型軽量化を図ることが可能な新しい放射線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の放射線検出装置は、放射線を検出する複数の検出素子が3次元的に配置された検出素子群を備える放射線検出装置であって、前記検出素子群の構造は、任意の仮想面上に検出素子が敷き詰められた仮想検出素子群から任意の位置の検出素子を取り除いて形成された空乏を有する構造であり、前記空乏は、任意の方向に沿って配置された一の検出素子及び他の検出素子の各検出値の差分が、当該方向を入射方向とする前記放射線が入射する場合と当該方向の逆方向を入射方向とする前記放射線が入射する場合とにおいて、異なる値を示す位置に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、視野が広く、放射線エネルギーの適用範囲が広く、且つ、小型軽量化を図ることが可能な新しい放射線検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の放射線検出装置の構成を示す図。
図2図1に示す検出素子群の構造を説明する図。
図3図2に示す空乏に遮蔽部材が配置された検出素子群の構造を説明する図。
図4図3に示す検出素子群の詳細構造を説明する図。
図5図3及び図4に示す検出素子群を備える放射線検出装置によって線源位置を推定したシミュレーション結果を示す図。
図6】従来の放射線検出装置によって線源位置を推定した結果を示す図。
図7】放射線検出器の一例を示す斜視図。
図8図7に示す放射線検出器の分解斜視図。
図9図7及び図8に示す放射線検出器によって線源位置を推定した実験結果を示す図。
図10】検出素子群の他の構造例を説明する図。
図11】検出素子群の他の構造例を説明する図。
図12】検出素子群の他の構造例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。各実施形態において同一の符号を付された構成については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の機能を有し、その説明を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態の放射線検出装置1の構成を示す図である。図2は、図1に示す検出素子群11の構造を説明する図である。
【0015】
放射線検出装置1は、放射線を検出して可視化する装置である。放射線検出装置1は、数keV程度のX線から数十MeVのガンマ線に至るまで、幅広い放射線エネルギー範囲に適用可能である。更に、放射線検出装置1は、数uSv/h程度以下の低線量場から数Sv/hといった超高線量場まで、様々な線量率の環境に適用可能である。例えば、放射線検出装置1は、福島第一原子力発電所建屋内部の放射能汚染調査に用いられるガンマ線イメージャー、圧力容器等の超高線量場に用いられるガンマ線イメージャー、天文学用衛星に搭載されるX線若しくはガンマ線イメージャー、屋外環境中の放射能汚染調査に用いられるガンマ線イメージャー、放射線治療用医療機器に搭載されるガンマ線イメージャー、大型イベント等における核セキュリティ用検出器等に適用可能である。
【0016】
放射線検出装置1は、放射線を検出する複数の検出素子12によって構成された検出素子群11を備えた放射線検出器10と、放射線検出器10に接続され放射線検出器10の検出結果を処理する演算処理装置50と、を備える。
【0017】
検出素子12は、検出対象の放射線を検出可能な素子であれば、特に限定されない。検出対象の放射線がガンマ線である場合、検出素子12は、例えば、シンチレータ、半導体型検出素子、又は、積分型検出素子等、様々なものが考えられる。本実施形態では、検出対象の放射線がガンマ線であり、検出素子12が立方体状のシンチレータであるとして説明する。
【0018】
検出素子群11は、複数の検出素子12によって構成される。検出素子群11を構成する複数の検出素子12は、3次元的に配置されている。検出素子群11の構造は、任意の仮想面S上に検出素子12が敷き詰められた仮想検出素子群から任意の位置の検出素子12を取り除いた空乏13(空間)を有する構造である。例えば、図2には、検出素子群11の外形が立方体によって構成された検出素子群11が図示されている。図2には、仮想面Sとして、xy平面に沿ったボトム側の外表面が図示されている。図2の例では、xy平面に沿ったボトム側の外表面の仮想面Sに対して、検出素子12が1つしか配置されておらず、検出素子12が当該仮想面Sに対して均一に敷き詰められていない。すなわち、図2の例で、xy平面に沿ったボトム側の外表面の仮想面Sに対して正方形状に9つ敷き詰められた仮想検出素子群から、8つの検出素子12を取り除いて8つの空乏13が形成されていると解釈することができる。
【0019】
なお、図2の例では、xy平面に沿ったボトム側の外表面だけを仮想面Sとして図示しているが、仮想面Sは、この外表面以外にも定義される。図2の例では、図示を省略しているが、xy平面に沿ったトップ側の外表面や、xy平面に沿って検出素子12aと検出素子12bとの間を通過する面も、仮想面Sとして定義される。仮想面Sは、検出素子群11の外形を構成する立体の外表面や当該立体に交差する面であれば、任意に定義され得る。仮想面Sの数も任意に定義され得る。
【0020】
空乏13は、検出素子群11の外形に交差する任意の方向に沿って配置された一の検出素子12a及び他の検出素子12bの各検出値の差分が、当該方向から放射線が入射する場合と当該方向の逆方向から放射線が入射する場合とにおいて異なる値を示す位置に設けられる。図2の例では、検出素子群11の外形に交差する+z軸方向に沿って配置された一の検出素子12a及び他の検出素子12bの各検出値の差分は、+z軸方向を入射方向とする放射線が検出素子群11に入射する場合と、当該方向の逆方向である-z軸方向を入射方向とする放射線が検出素子群11に入射する場合とにおいて、異なる値を示す。
【0021】
これにより、検出素子群11は、放射線の任意の入射方向に対する複数の検出素子12の相対的な位置関係を、全方向(立体角が4πsr)において異なる位置関係とすることができる。したがって、検出素子群11では、複数の検出素子12の各検出値から取得される検出素子群11内の放射線の強度分布(具体的には放射線フラックスの強度分布)を、全方向において異なる分布とすることができる。言い換えると、放射線検出装置1は、放射線の入射方向に応じて異なる放射線フラックス強度の勾配を検出素子群11内に能動的に作り出すことができる。図2の例では、+z軸方向を入射方向とする放射線を検出した場合の検出素子群11内の放射線の強度分布と、-z軸方向を入射方向とする放射線を検出した場合の検出素子群11内の放射線の強度分布とは、異なる分布となる。
【0022】
放射線検出装置1は、放射線の入射方向に応じて異なる検出素子群11内の放射線の強度分布を利用して、放射線の線源位置を推定する。放射線検出装置1は、どの方向から放射線が入射すると検出素子群11内の放射線の強度分布がどのような分布になるのかを紐付けた情報を予め記憶しておき、実際の測定時に取得された放射線の強度分布から、当該放射線の線源位置を推定する。
【0023】
具体的には、放射線検出装置1の演算処理装置50は、複数の検出素子12の各検出値に基づいて検出素子群11内における放射線の空間的な強度分布を取得する処理部51と、放射線の強度分布の取得結果に基づいて当該放射線の線源位置を推定する推定部52と、を含む。また、演算処理装置50は、CPU、ROM及びRAM等によって構成され、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、処理部51及び推定部52を含む放射線検出装置1の各種機能を実現する。なお、処理部51は、放射線検出器10の内部に組み込まれていてもよい。
【0024】
推定部52は、強度分布の取得結果から線源位置を推定する推定モデル52aを有していてもよい。推定モデル52aは、検出素子群11への放射線の入射角度毎(すなわち放射線の入射方向毎)に取得された強度分布と、当該強度分布を取得時の線源位置とが紐付けられた教師データに基づく機械学習によって予め生成されたモデルである。
【0025】
機械学習の手法は、アンフォールディング又はニューラルネットワーク等であってもよい。アンフォールディングは、放射線検出の技術分野においてよく用いられている逆計算手法である。
【0026】
ここで、放射線検出器10の応答関数を行列Rとし、求める対象である重み関数を行列Wとし、強度分布の取得結果を行列Sとして、次式(1)が成り立つと考えることができる。
S=RW …(1)
応答関数Rは、一般に非正規行列であるので逆行列を定義できない。したがって、次式(2)に示す目的関数σを最小化するような重み関数Wを探索する。本実施形態では、行列Sは、取得結果である放射線フラックスの強度分布に相当する。行列Rは、放射線の入射角度毎の放射線フラックス強度のパターンに相当する。行列Wは、各入射角度の強度に相当する。
σ=(S-RW) …(2)
【0027】
このように、放射線検出装置1は、放射線の入射方向に応じて異なる検出素子群11内の放射線の強度分布を利用して放射線の線源位置を推定することができるので、放射線検出器10が簡易な構成でありながらも、全方向において放射線の線源位置を推定することができる。更に、放射線検出装置1は、機械学習によって生成された推定モデル52aを用いることによって、放射線検出器10が簡易な構成でありながらも、放射線の線源位置を精度良く推定することができる。
【0028】
図3は、図2に示す空乏13に遮蔽部材14が配置された検出素子群11の構造を説明する図である。図4は、図3に示す検出素子群11の詳細構造を説明する図である。
【0029】
空乏13には、図3及び図4に示すように、放射線を遮蔽する遮蔽部材14が配置されていてもよい。遮蔽部材14は、空乏13の全てに配置される必要はなく、検出対象の放射線のエネルギー範囲又は線量率に応じて任意に配置可能である。すなわち、空乏13の少なくとも一部(空乏13の少なくとも1つ)には、遮蔽部材14が配置されていてもよい。遮蔽部材14は、検出素子12と同様に立方体状に形成されていてもよい。検出対象の放射線が中性子線である場合、遮蔽部材14は、軽元素の材料である水又はホウ素等によって形成されることが好ましい。検出対象放射線がガンマ線又はX線といった透過性の高い放射線である場合、遮蔽部材14は、重元素の材料である鉛又はタングステン等によって形成されることが好ましい。すなわち、遮蔽部材14の配置、形状及び材料の選択については、放射線の入射方向に応じて異なる放射線フラックス強度の勾配を検出素子群11内に能動的に作り出すという観点で、任意に設計変更することができる。
【0030】
また、検出素子12の体積又は密度についても任意に設計変更することができる。例えば、放射線の入射方向に対して、一の検出素子12aと他の検出素子12bとの間に体積又は密度の差異が生じるよう設計変更することによって、放射線フラックス強度の勾配を検出素子群11内に能動的に作り出すことができる。また、検出素子12の種類についても任意に設計変更することができる。例えば、一の検出素子12aをベータ線用検出素子とし、他の検出素子12bをアルファ線用検出素子とする等、一の検出素子12aと他の検出素子12bとの間に放射線検出感度の差異が生じるよう設計変更することによって、放射線フラックス強度の勾配を検出素子群11内に能動的に作り出すことができる。
【0031】
遮蔽部材14が空乏13に配置されることにより、放射線検出装置1は、検出素子群11内の複数の検出素子12における各検出値の差分を大きくすることができる。これにより、放射線検出装置1は、複数の検出素子12の各検出値から取得される検出素子群11内の放射線の強度分布に対して、放射線の入射方向に応じて大きな差分を付与することができる。よって、放射線検出装置1は、放射線の入射方向を精度良く推定することができ、放射線の線源位置を精度良く推定することができる。特に、福島第一原子力発電所建屋内部のような高線量場においては、検出素子12の信号の検出レートが高くなって処理が追い付かない(パイルアップする)だけでなく、放射線が検出素子12を透過してしまい、放射線フラックス強度の勾配を検出素子群11内に作り出すことができず、検出素子群11内の放射線の強度分布を精度良く取得できないことがある。放射線検出装置1は、遮蔽部材14が空乏13に配置されることにより、高線量場においても当該強度分布を精度良く取得することができ、放射線の線源位置を精度良く推定することができる。
【0032】
なお、遮蔽部材14が空乏13に配置されていない場合、複数の検出素子12のそれぞれに入射する放射線数も多くなるので、検出素子群11全体において光子のカウント数を多く稼げる構成となる。これにより、放射線検出装置1は、遮蔽部材14が空乏13に配置されている場合よりも、放射線の検出効率を大幅に向上させることができる。検出効率の向上は測定時間の短縮化に繋がる。測定時間の短縮化は、放射線検出装置1が放射線治療用医療機器に搭載される場合に、放射性医薬品の投与量を少なくできるので、患者の被曝量を低減できる効果を奏する。したがって、遮蔽部材14が空乏13に配置されていない放射線検出装置1は、測定時間の短縮化が必要な放射線治療用医療機器等に搭載される場合に有効である。
【0033】
図3及び図4に示す検出素子群11において、仮想面Sは、第1仮想平面Saと、第2仮想平面Sbと、第3仮想平面Scと、を含む。第2仮想平面Sbは、第1仮想平面Saに対向して配置される。第3仮想平面Scは、第2仮想平面Sbに対向して配置される。
【0034】
図3及び図4の例では、第1仮想平面Saは、xy平面に沿ったボトム側の外表面である。図3及び図4の例では、第2仮想平面Sbは、検出素子群11の外形を構成する立体に交差する面であって検出素子12bと遮蔽部材14aとの間を通過する平面である。図3及び図4の例では、第3仮想平面Scは、検出素子群11の外形を構成する立体に交差する面であって検出素子12aと検出素子12bとの間を通過する平面である。
【0035】
図3及び図4の例では、第1仮想平面Sa、第2仮想平面Sb及び第3仮想平面Scは、xy平面に沿った面を基準としてxy平面の法線方向に積層されるように定義されている。しかしながら、第1仮想平面Sa、第2仮想平面Sb及び第3仮想平面Scは、xy平面の法線方向に積層されるだけでなく、xz平面及びyz平面に沿った面を基準としてxy平面及びyz平面の法線方向にも積層されるように定義されてもよい。このように、図3及び図4に示す検出素子群11の仮想面Sは、検出素子群11の外形を構成する立体の外表面や当該立体に交差する面であれば、任意に定義され得る。仮想面Sの数も任意に定義され得る。
【0036】
図3及び図4に示す検出素子群11は、検出素子12及び空乏13又は遮蔽部材14が第1仮想平面Sa上に配置された第1検出素子群11aと、検出素子12及び空乏13又は遮蔽部材14が第2仮想平面Sb上に配置された第2検出素子群11bと、検出素子12及び空乏13又は遮蔽部材14が第3仮想平面Sc上に配置された第3検出素子群11cと、を含んで構成される。
【0037】
これにより、放射線検出装置1は、検出素子12の3次元的な配置を容易に実現することができると共に、検出素子群11の外形を比較的単純な多面体とすることができる。したがって、放射線検出装置1は、検出素子群11の外形が部分的に突出する形状になることを防止することができる。よって、放射線検出装置1は、放射線検出器10を省スペース化することができ、小型化することができる。
【0038】
更に、図3及び図4に示す検出素子群11において、第1仮想平面Sa、第2仮想平面Sb及び第3仮想平面Scは、互いに略平行に配置される。第1仮想平面Sa、第2仮想平面Sb及び第3仮想平面Scは、互いに等間隔を空けて配置される。第1仮想平面Sa、第2仮想平面Sb及び第3仮想平面Scは、互いに略同一の正方形状である。
【0039】
これにより、放射線検出装置1は、検出素子12の3次元的な配置を更に容易に実現することができると共に、検出素子群11の外形を単純な立方体とすることができる。したがって、放射線検出装置1は、放射線検出器10を更に省スペース化することができ、更に小型化することができる。
【0040】
更に、図3及び図4に示す検出素子群11において、第1検出素子群11a内の少なくとも1つの検出素子12と、第2検出素子群11b内の少なくとも1つの検出素子12と、第3検出素子群11c内の少なくとも1つの検出素子12とは、第1仮想平面Sa、第2仮想平面Sb及び第3仮想平面Scの法線方向から視て、互いに異なる位置に配置されている。
【0041】
これにより、放射線検出装置1は、当該法線方向に直交する方向を入射方向とする放射線に対して、複数の検出素子12の各検出値の差分を確実に大きくすることができる。したがって、放射線検出装置1は、第1仮想平面Sa、第2仮想平面Sb及び第3仮想平面Scに沿った方向から入射する放射線の線源位置を精度良く推定することができる。
【0042】
第1検出素子群11a内の少なくとも1つの検出素子12と、第2検出素子群11b内の少なくとも1つの検出素子12と、第3検出素子群11c内の少なくとも1つの検出素子12とは、xy平面の法線方向だけなく、xz平面の法線方向及びyz平面の法線方向から視ても、互いに異なる位置に配置されることが好ましい。
【0043】
これにより、放射線検出装置1は、各法線方向に直交する方向を入射方向とする各放射線に対して、複数の検出素子12の各検出値の差分を確実に大きくすることができる。したがって、放射線検出装置1は、全方向から入射する放射線の線源位置を更に精度良く推定することができる。
【0044】
図5は、図3及び図4に示す検出素子群11を備える放射線検出装置1によって線源位置を推定したシミュレーション結果を示す図である。
【0045】
まず、シミュレーション条件について説明する。検出素子群11のジオメトリに係る条件は、次の通りである。すなわち、検出素子12、空乏13及び遮蔽部材14のそれぞれの形状及びサイズは、10mm×10mm×10mmの立方体とした。検出素子12としては、GAGG(Gadolinium Aluminum Gallium Garnet)シンチレータを8個設けた。遮蔽部材14としては、鉛ブロックを18個設けた。空乏13を1個設けた。検出素子12、空乏13及び遮蔽部材14の各配置は、図4に示す配置とした。
【0046】
線源位置のイメージングに係る条件は、次の通りである。すなわち、推定モデル52aを生成する機械学習の手法は、ニューラルネットワーク(隠れ層は1層)とした。教師データとしては、662keVのガンマ線を、方位角φ及び仰角θともに10度刻みの入射角度毎に検出素子群11に照射した。1つの入射角度において、10分間の放射線照射を10回行った。各入射角度から検出素子群11に入射した放射線に対する検出素子12のフォトンカウント数を測定した。
【0047】
テストデータに係る条件は、次の通りである。すなわち、放射線源は、137Cs(10MBq)とした。光子数は、102,708個とした。この光子数は、検出素子群11から3m離れた線源位置からガンマ線が10分間照射されることに相当する。放射線の線源位置は、P1~P3の3パターンを用意した。
【0048】
次に、シミュレーション結果について説明する。図5の横軸は放射線の入射角度の方位角φを示し、図5の縦軸は放射線の入射角度の仰角θを示す。図5では、シミュレーション結果としてマッピングされた色が濃いほど、検出された放射線の強度が高く、線源位置の存在確率が高いことを示している。図5において、P1~P3の矢印の先端は真の線源位置を示している。図5に示すように、P1~P3の3パターンともに、シミュレーション結果は真の線源位置を再現できていることが分かる。したがって、図5に示すシミュレーション結果から、放射線検出装置1が放射線の線源位置を精度良く推定可能であることが分かる。
【0049】
図6は、従来の放射線検出装置によって線源位置を推定した結果を示す図である。
【0050】
まず、測定条件について説明する。本測定では、従来の放射線検出装置としてコンプトンカメラ(製造者:株式会社千代田テクノル、製品名:ガンマ・キャッチャー)を用いた。放射線源は137Cs(10MBq)とした。当該コンプトンカメラから8m離れた線源位置からガンマ線を1時間照射した。
【0051】
次に、線源位置の推定結果について説明する。図6の横軸は放射線の入射角度の方位角φを示し、図6の縦軸は放射線の入射角度の仰角θを示す。なお、従来の放射線検出装置における実際の視野はカメラ中心から±70°の角度範囲であるが、図6では、図5と比較し易いよう、4πsrの視野に換算している。図6において、P4の矢印の先端は真の線源位置を示している。
【0052】
図6に示すように、従来の放射線検出装置によれば、真の線源位置以外にも余分なイメージが出現していることが分かる。これは、コンプトンカメラが、1回の検出につき1つのコンプトンコーンをイメージングし、沢山のイベントを取得した後に、最もコンプトンコーンが重なり合った位置を、線源位置の存在確率が最も高い位置としてイメージングするからである。したがって、従来の放射線検出装置によれば、無数のコンプトンコーンが出現することになり、線源位置の推定に際してはノイズ成分となり得る。一方、図5に示すシミュレーション結果では、図6に示すようなノイズ成分が少なく、本実施形態の放射線検出装置1が放射線の線源位置を精度良く推定可能であることが分かる。
【0053】
図7は、放射線検出器10の一例を示す斜視図である。図8は、図7に示す放射線検出器10の分解斜視図である。
【0054】
図7及び図8に示す放射線検出器10は、検出素子群11と、検出素子群11を保持するホルダ21と、検出素子12の信号処理を行って検出値を取得する回路基板22と、を備える。
【0055】
図7及び図8に示す検出素子群11は、図3及び図4に示す検出素子群11と同様の多層構造を有し、第1検出素子群11aと、第2検出素子群11bと、第3検出素子群11cとによって構成される。第1検出素子群11a、第2検出素子群11b及び第3検出素子群11cは、それぞれの外形が正方形の平板状に形成され、xy平面の法線方向に沿って積層されている。
【0056】
ホルダ21及び回路基板22は、第1~第3検出素子群11a~11cのそれぞれに対して設けられている。ホルダ21は、検出素子12及び遮蔽部材14を保持する。ホルダ21の少なくとも検出素子12を保持する部分には、シンチレータである検出素子12から発せられた光を透過させる孔等の光透過部21aが設けられている。ホルダ21は、回路基板22に対向して配置され、ねじ等によって固定されている。回路基板22には、検出素子12の発光を検出及び増幅するSiPM(Silicon Photomultipliers)23が実装されている。SiPM23は、回路基板22の実装面において、少なくとも検出素子12に対応する位置に配置されている。回路基板22には、SiPM23以外にも、検出素子12の検出値を取得するために必要な各種電子部品が実装されている。
【0057】
なお、光透過部21aが面する回路基板22の各領域の全てにSiPM23を配置すれば、測定環境に適した検出素子12の種類又は配置等を任意に変更可能となる。これにより、例えば、放射線治療用医療機器に放射線検出装置1が搭載される場合には、放射線の検出効率を向上させることができるので、放射線検出装置1は、検出素子12の体積又は密度を変更したり、放射線検出感度の良い検出素子12に変更したりするといった設計変更を容易に実行することができる。
【0058】
第1検出素子群11aに対応するホルダ21及び回路基板22と、第2検出素子群11bに対応するホルダ21及び回路基板22と、第3検出素子群11cに対応するホルダ21及び回路基板22とは、スペーサ24を介して、互いに間隔を空けて配置されている。
【0059】
図9は、図7及び図8に示す放射線検出器10によって線源位置を推定した実験結果を示す図である。
【0060】
まず、実験条件について説明する。検出素子群11のジオメトリに係る条件は、次の通りである。すなわち、検出素子12、空乏13及び遮蔽部材14のそれぞれの形状及びサイズは、10mm×10mm×10mmの立方体とした。検出素子12としては、GAGGシンチレータを8個設けた。遮蔽部材14としては、鉛ブロックを18個設けた。空乏13を1個設けた。検出素子12、空乏13及び遮蔽部材14の各配置は、図8に示す配置とした。
【0061】
線源位置のイメージングに係る条件では、方位角φ(0度~350度)について10度刻みの入射角度毎にガンマ線を検出素子群11に照射する条件での応答関数を用意した。
【0062】
テストデータに係る条件は、次の通りである。すなわち、放射線源は、137Cs(10MBq)とした。放射線検出器10から152.4mm(6inch)離れた線源位置からガンマ線を3分間照射した。放射線の線源位置は、P5及びP6の2パターンを用意した。放射線源及び放射線検出器10を同じテーブルに載置し、放射線の入射角度の方位角φだけを変化させた。
【0063】
次に、実験結果について説明する。図9に示す円の中心は、放射線検出器10の位置を示している。図9に示す円の周方向に記載された数値は方位角φを示す。図9では、実験結果としてマッピングされた黒い棒グラフの長さが長いほど、検出された放射線の強度が高く、線源位置の存在確率が高いことを示している。図9において、P5の真の線源位置の方位角φは0度であり、P6の真の線源位置の方位角φは225度である。図9に示すように、P5及びP6の2パターンともに、実験結果は真の線源位置を概ね再現できていることが分かる。したがって、図9に示す実験結果から、放射線検出装置1が放射線の線源位置を精度良く推定可能であることが分かる。
【0064】
図10は、検出素子群11の他の構造例を説明する図である。図11は、検出素子群11の他の構造例を説明する図である。図12は、検出素子群11の他の構造例を説明する図である。
【0065】
上記の実施形態では、検出素子群11は、図3及び図4に示すように、第1検出素子群11a~第3検出素子群11cを積層させた多層構造を有する立方体状に形成されていた。しかしながら、検出素子群11の形状及び構造は、検出素子群11内の放射線の強度分布が線源位置によって一意に決まるのであれば、どのような形状及び構造であってもよい。
【0066】
例えば、図10に示すように、検出素子群11は、中空構造を有する半球殻状に形成されていてもよい。図10に示す検出素子群11の仮想面Sは、半球面状の仮想曲面を含む。これにより、放射線検出装置1は、要求される視野が2πsrで足りる場合には、検出素子群11を多層構造としなくて済むので、部品点数を削減することができ、低コスト化及び軽量化することができる。
【0067】
また、例えば、図11に示すように、検出素子群11は、L字型の板状に形成されていてもよい。図11に示す検出素子群11の仮想面Sは、L字型に屈折する仮想屈折面を含む。これにより、放射線検出装置1は、放射線の入射方向が特定の方向に限定される場合には、検出素子群11を多層構造としなくて済むので、部品点数を削減することができ、低コスト化及び軽量化することができる。
【0068】
また、上記の実施形態では、検出素子群11を構成する複数の検出素子12が3次元的に配置されていた。しかしながら、放射線の入射方向が特定の方向に限定される場合には、検出素子群11を構成する複数の検出素子12は、図12に示すように、2次元的に配置されていてもよい。これにより、放射線検出装置1は、部品点数を更に削減することができ、更に低コスト化及び軽量化することができる。
【0069】
以上のように、本実施形態の放射線検出装置1は、放射線を検出する複数の検出素子12が3次元的に配置された検出素子群11を備える放射線検出装置である。検出素子群11の構造は、任意の仮想面S上に検出素子12が敷き詰められた仮想検出素子群から任意の位置の検出素子12を取り除いて形成された空乏13を有する構造である。空乏13は、任意の方向に沿って配置された一の検出素子12a及び他の検出素子12bの各検出値の差分が、当該方向を入射方向とする放射線が入射する場合と当該方向の逆方向を入射方向とする放射線が入射する場合とにおいて、異なる値を示す位置に設けられる。
【0070】
これにより、本実施形態の放射線検出装置1は、主に、従来の放射線検出装置では得られない以下の4つの利点を得ることができる。
【0071】
第1の利点は、放射線検出装置1の視野が全方向という点である。検出素子群11内に生じる放射線の強度分布は、全方向から入射する放射線の寄与を含んでいるので、当該強度分布を取得することによって、放射線検出装置1は、1回の測定で全方向を対象としたイメージングを行うことができる。
【0072】
第2の利点は、放射線のエネルギー及び線量率に関する放射線検出装置1の適用範囲が広いという点である。コンプトンカメラであれば、検出対象となる光子のエネルギーはコンプトン散乱が主たる相互作用となるエネルギー範囲に限られる。コーデッドマスク型カメラであれば、コーデッドマスクの遮蔽能力には限界があるので、高エネルギーの光子に対するイメージング精度は大幅に悪化する。また、コンプトンカメラは、多数の検出素子の信号に対してコインシデンスをとる必要があるので、検出値を取得するための信号処理回路が複雑になると共に、検出レートが高い高線量場には適用が困難である。これに対して、放射線検出装置1は、対象とする光子のエネルギーに適した、検出素子12、空乏13及び遮蔽部材14のそれぞれの種類若しくは配置等を選定することによって、様々な放射線に適用可能である。また、検出素子12、空乏13及び遮蔽部材14のそれぞれのサイズ及び個数を適切に選定することによって、屋外環境中のような低線量場から原子炉内部のような超高線量場まで適用可能である。
【0073】
第3の利点は、装置構成が簡易であり、小型軽量化が可能という点である。ピンホールカメラは、ピンホール以外からの放射線の入射を遮蔽するために、分厚い遮蔽体で検出器全体を囲う必要がある。これにより、ピンホールカメラの全重量は数十kg以上になる。これ対して、放射線検出装置1は、上記のような空乏13を有していれば遮蔽部材14は必須ではない。遮蔽部材14を用いる場合であっても、放射線検出装置1は、対象とする放射線のエネルギーの光子に対して検出素子群11内において放射線フラックス強度の勾配が生じるだけの最低限の遮蔽部材14だけでよい。したがって、放射線検出装置1は、遮蔽部材14を用いる場合であっても、放射線検出器10の重量を数百gから数kg以下に抑えることができる。この程度の重量であれば、放射線検出装置1は小型ロボットやドローンに搭載することが容易であり、応用の幅が大きく拡大する。更に、人工衛星等の検出器重量が非常に重要になる応用先においても、放射線検出装置1は極めて有利となる。しかも、放射線検出装置1は、検出素子12が数個でも十分であるので、装置構成が簡易であり、検出素子12の検出値を取得するための信号処理回路も簡易な回路で済む。放射線検出装置1は、安価に製作することができる。
【0074】
第4の利点は、検出素子群11の形状及び構造を問わないという点である。通常、ガンマ線イメージャーは、検出器の形状及び構造によって視野、検出効率及び空間分解能が大きく変わるので、一般的な形状及び構造から大きく変更できない。これに対し、放射線検出装置1は、検出素子群11内の放射線の強度分布から放射線の線源位置を推定するので、線源位置によって当該強度分布が一意に決まるのであれば、検出素子群11がどのような形状及び構造であってもよい。この利点は、放射線検出装置1の設置場所が限られている場合に有効である。
【0075】
このように、本実施形態によれば、視野が広く、放射線エネルギーの適用範囲が広く、且つ、小型軽量化を図ることが可能な新しい放射線検出装置1を提供することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。本発明は、或る実施形態の構成を他の実施形態の構成に追加したり、或る実施形態の構成を他の実施形態と置換したり、或る実施形態の構成の一部を削除したりすることができる。
【符号の説明】
【0077】
1…放射線検出装置、10…放射線検出器、11…検出素子群、11a…第1検出素子群、11b…第2検出素子群、11c…第3検出素子群、12…検出素子、12a…一の検出素子、12b…他の検出素子、13…空乏、14…遮蔽部材、50…演算処理装置、51…処理部、52…推定部、52a…推定モデル、S…仮想面、Sa…第1仮想平面、Sb…第2仮想平面、Sc…第3仮想平面
図1
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