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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102938
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】電気ピッツァ窯
(51)【国際特許分類】
   A47J 37/00 20060101AFI20240725BHJP
   F24C 7/06 20060101ALI20240725BHJP
   A21B 5/00 20060101ALI20240725BHJP
   A21B 1/02 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A47J37/00 301
F24C7/06 A
F24C7/06 Z
A21B5/00
A21B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007026
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】592181440
【氏名又は名称】株式会社マルゼン
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】石川 智行
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】小澤 高廣
【テーマコード(参考)】
3L087
4B040
【Fターム(参考)】
3L087AA01
3L087CA03
3L087CB02
3L087CB07
3L087CC01
3L087DA24
4B040AA03
4B040AA08
4B040AB02
4B040AB11
4B040AC03
4B040AD04
4B040AE05
4B040CA05
4B040CA17
4B040CB21
(57)【要約】
【課題】100V電源を用いた場合でも庫内をむらなく温度400℃以上に昇温可能な電気ピッツァ窯を提供する。
【解決手段】ピッツァ窯1は、ピッツァPを焼く焼成室3を有する。焼成室3の天井には下面が熱線反射性を有する天板91と、下方に熱線を放射する熱線放射ヒーター5F・5Bとが配設されている。また、焼成室3の炉床32の下面32bを加熱する下部電熱ヒーター8と、各部の断熱層70・77・78を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
400℃以上でピッツァ(P)を焼く焼成室(3)を有し、電圧100V・定格電流15A・定格容量1500Wの家庭用電源に接続される電気ピッツァ窯(1)であって、
前記焼成室(3)の天井に配設された、下方に熱線を放射する熱線放射ヒーター(5F・5B)と、
前記焼成室(3)の炉床(32)の下面(32b)を加熱する下部電熱ヒーター(8)と、
前記天板(91)の上面に配設された上断熱層(77)、前記炉床(32)の下に配設された下断熱層(70)、及び、前記焼成室(3)の側壁及び奥壁の外側に配設された側断熱層(78)と、
前記焼成室(3)を開閉する扉(6)と、
を備えることを特徴とする電気ピッツァ窯(1)。
【請求項2】
400℃以上でピッツァ(P)を焼く焼成室(3)を有する電気加熱式のピッツァ窯(1)であって、
前記焼成室(3)の天井に配設された、下面が熱線反射性を有する天板(91)と、
該天板(91)の下に配設された、下方に熱線を放射する熱線放射ヒーター(5F・5B)と、
前記焼成室(3)の炉床(32)の下面(32b)を加熱する下部電熱ヒーター(8)と、
前記天板(91)の上面に配設された上断熱層(77)、前記炉床(32)の下に配設された下断熱層(70)、及び、前記焼成室(3)の側壁及び奥壁の外側に配設された側断熱層(78)と、
前記焼成室(3)を開閉する扉(6)と、
を備えることを特徴とするピッツァ窯(1)。
【請求項3】
全ヒーターの電力容量のうち、前記熱線放射ヒーター(5F・5B)の容量が70~90%、前記下部電熱ヒーター(8)が10~30%を占めることを特徴とする請求項1又は2記載のピッツァ窯(1)。
【請求項4】
前記熱線反射性天板(91)の、前記熱線放射ヒーター(5F・5B)の上の部分に、上凹の熱気溜まり(93F・93B)が形成されていることを特徴とする請求項2記載のピッツァ窯(1)。
【請求項5】
前記熱線放射ヒーター(5F・5B)が前記焼成室(3)の奥手前方向に二列配設されており、
前記焼成室(3)の前記扉(6)により開閉される手前開口(38)から一列目のヒーター(5F)の中心までの距離をL1とし、一列目のヒーター(5F)と二列目のヒーター(5B)の中心間距離をL2とし、二列目のヒーター(5B)の中心から焼成室(3)の奥端までの距離をL3とした場合、
L1:L2:L3=1:1.8~2.2:1.5~1.9
の比、であることを特徴とする請求項1又は2記載のピッツァ窯(1)。
【請求項6】
前記下部電熱ヒーター(8)がシーズヒーターであり、その上面が平らな面(8b)となっていて前記炉床(32)を構成するセラミック板(32)の下面に接しており、
該シーズヒーター(8)がセラミックウール断熱材の層によって上方に押されていることを特徴とする請求項1又は2記載のピッツァ窯(1)。
【請求項7】
前記扉(6)に、前記焼成室(3)の内部を透視可能な、焼いているピッツァPの全体の状態が確認できる程度の小寸法の窓(65)が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のピッツァ窯(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッツァ(ピザ)を焼くピッツァ窯に関する。特には、100Vの一般家庭用電源を用いた場合にも、庫内を400~500℃に昇温可能で、いわゆるナポリピッツァに相当するピッツァを良好に焼き上げることのできる電気ピッツァ窯に関する。さらに具体的には、ピッツァの底面までよく焼けるよう、ヒーター配置や底面の断熱構造などに改良を加えた電気ピッツァ窯に関する。
【背景技術】
【0002】
ピッツァは、日本人にも人気のあるイタリア料理である。ピッツァの大分類には、ローマピッツァとナポリピッツァがある。ローマピッツァは薄くてクリスピー(パリパリ)なピッツァである。ナポリピッツァは、「コルニチョーネ(ピッツァの縁の部分、額縁)」の膨らんだ形態と、焼き色のついた焼き上がり具合に、特徴がある。ナポリピッツァのコルニチョーネは、内部の水分や空気が熱で膨張して、風船のように膨らみ、適当な焼き色が付いてパリッとした食感のものが良いとされている。
【0003】
表面が少し焦げるくらいにパリっとしていて、中はふんわり・もっちりとした本格的なナポリピッツァは、高温・短時間で焼くことにより得られる。伝統的なナポリピッツァを守るために1984年にナポリで創設された「真のナポリピッツァ協会」では、その規約文書に、ピッツァの材料や焼き方などが細かく規定されている。ピッツァ窯内の温度は、炉床の温度が約485℃、窯の天井の温度が約430℃、焼成時間 60~90 秒と規定されている。なお、「日本ナポリピッツァ職人協会」では、「1分ちょっとで理想的なコルニチョーネやピッツァの完璧な焼け方のためには、窯の中の温度が450度で炉床が少なくとも400度は必要。」としている。ちなみに、ローマピッツァは、炉床温度約250℃・2分程度で焼く。
【0004】
近年、ナポリピッツァを焼ける、庫内温度400℃以上に昇温可能な電熱式のピッツァ窯が販売されている。本願出願人も、特開2021-122196において、そのような性能を有し、庫内の観察も容易な電熱式のピッツァ窯を公開している。また、200V電源のピッツァ窯を製造販売している。
100Vの一般家庭用電源の容易な設備で、本格ナポリピッツァが誰でも簡単においしく焼くことができる電気ピッツァ窯が求められている。
【0005】
100V電源で「400℃以上可能」という電気ピッツァ窯も、近年、市販されている。しかしながら、100V電源の一般的なコンセントの容量は電流15Aまで、電力1500Wまでであるので、加熱能力が不足気味である。上記市販の100V電気ピッツァ窯も、ピッツァの底面の焼きが不十分で、生焼け・焼き色不良が問題とされることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-122196
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ナポリピッツァを焼成可能な電気ピッツァ窯であって、以下の特長の一以上を有するピッツァ窯を提供することを目的とする。
(ア)100V電源でも庫内を温度400℃以上に昇温可能である。
(イ)扉を閉じている状態でも窯内がよく見えて、ピッツァの焼き上がり状態を容易に確認できる。それでいて、断熱性がよい。
(ウ)庫内底面の加熱もでき、ピッツァの底面もしっかりと焼ける。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この「課題を解決するための手段」、及び、「特許請求の範囲」においては、添付図各部の参照符号を括弧書きして示すが、これは単に参考のためであって、権利範囲を添付図のものに限定する意図はない。
【0009】
本発明の電気ピッツァ窯(1)は、 400℃以上でピッツァ(P)を焼く焼成室(3)を有し、電圧100V・定格電流15A・定格容量1500Wの家庭用電源に接続される電気ピッツァ窯(1)であって、 前記焼成室(3)の天井に配設された、下方に熱線を放射する熱線放射ヒーター(5F・5B)と、 前記焼成室(3)の炉床(32)の下面(32b)を加熱する下部電熱ヒーター(8)と、 前記天板(91)の上面に配設された上断熱層(77)、前記炉床(32)の下に配設された下断熱層(70)、及び、前記焼成室(3)の側壁及び奥壁の外側に配設された側断熱層(78)と、 前記焼成室(3)を開閉する扉(6)と、を備えることを特徴とする。ここで、全ヒーターの電力容量のうち、前記熱線放射ヒーター(5F・5B)の容量が70~90%、前記下部電熱ヒーター(8)が10~30%を占めることが好ましい。
【0010】
本発明の他の電気ピッツァ窯(1)は、 400℃以上でピッツァ(P)を焼く焼成室(3)を有する電気加熱式のピッツァ窯(1)であって、 前記焼成室(3)の天井に配設された、下面が熱線反射性を有する天板(91)と、 該天板(91)の下に配設された熱線放射ヒーター(5F・5B)と、 前記焼成室(3)の炉床(32)の下面(32b)を加熱する下部電熱ヒーター(8)と、 前記天板(91)の上面に配設された上断熱層(77)、前記炉床(32)の下に配設された下断熱層(70)、及び、前記焼成室(3)の側壁及び奥壁の外側に配設された側断熱層(78)と、 前記焼成室(3)を開閉する扉(6)と、を備えることを特徴とする。
【0011】
熱線放射ヒーター(5F・5B)の発する熱を、熱線反射性天板(91)により炉床(32)に効率よく放射するとともに、炉床(32)の下面を下部電熱ヒーター(8)で加熱することにより、100V家庭用電源を用いた場合にも、焼成室(3)内を400℃以上に昇温可能である。また、炉床(32)においてピッツァの底面も焼き色が付くように短時間(例えば90秒)で焼き上げることができる。
【0012】
「熱線」とは、電磁波の一部で、波長λが可視光線の赤端部(λ=0.75μm)から長波長の領域に向かって、λ≒1くらいまでのものをいう。この部分の電磁波が熱線とよばれるのは、それが物体に吸収されておもに熱作用を与えることからであろう。加熱手段の主力として下方に熱線を放射する熱線放射ヒーター(5F・5B)とすることにより、トータルの電力容量が制限されている場合にも、ナポリ風ピッツァの焼けるピッツァ窯(1)を実現できる。
【0013】
上記熱線放射ヒーター(5F・5B)としては、赤外線カーボンランプヒーターが好ましく、特に、反射板も封止管(石英ガラス管など)に内蔵したもの(一例で「ミラヒーター」(登録商標、メトロ電気工業(株)製)が好ましい。
【0014】
上記熱線反射性天板(91)としては、アルミニウムメッキ鋼板製のものが好ましく、一例で「アルシート」(溶融アルミメッキ鋼板、登録商標、日本製鉄(株)製、高温耐変色用)が好ましい。同「アルシート」は、大気中で400~500℃に加熱した場合にも変色せず、赤外線の反射効率が高い。なお、材料入手性の高いステンレス鋼板では、庫内温度が300℃以上になると茶褐色に焼色が付き、赤外線の反射効率の低下が懸念される。
【0015】
上記ピッツァ窯(1)においては、前記熱線反射性天板(91)の、前記熱線放射ヒーター(5F・5B)上の部分に、上凹の熱気溜まり(93F・93B)が形成されていることが好ましい。ピッツァ生地の投入や焼成後のピッツァの取出しを行うため、扉の開閉操作を行うことによる庫内温度が一時的に低下することがある。この庫内温度の一時的低下を抑制する手段として、庫内天板の手前上部になど熱気溜まりを設け、且つカーボンランプヒーターの配置を手前付近に配置した。
【0016】
本発明のピッツァ窯(1)においては、前記熱線放射ヒーターを、入口寄り(前記扉寄り)に設置することにより扉や窓ガラスからの放熱を補い、ピッツァの焼きムラの無いよう、加熱バランスを取ることが好ましい。その観点から、前記熱線放射ヒーター(5F・5B)が前記焼成室(3)の奥手前方向に二列配設されており、 前記焼成室(3)の前記扉(6)により開閉される手前開口(38)から一列目のヒーター(5F)の中心までの距離をL1とし、一列目のヒーター(5F)と二列目のヒーター(5B)の中心間距離をL2とし、二列目のヒーター(5B)の中心から焼成室(3)の奥端までの距離をL3とした場合、
L1:L2:L3=1:1.8~2.2:1.5~1.9
の比であることが好ましい。
【0017】
本発明のピッツァ窯(1)においては、前記下部電熱ヒーター(8)がシーズヒーターであり、その上面が平らな面(8b)となっていて前記炉床(32)を構成するセラミック板(32)の下面に接しており、 該シーズヒーター(8)がセラミックウール断熱材の層によって上方に押されていることが好ましい。
【0018】
下部電熱ヒーター(8)(下火焼成)には、炉床(セラミック板)の裏面に、一例として円形状のシーズヒーターを設置するが、ヒーターから炉床への熱伝導率を向上させる手法として、ヒーター全面にプレス加工を行い、炉床との密着性を向上させることが好ましい。なお、庫内炉床にセラミック板(32、コーディエライトやや溶岩石・石材などなど)を採用した理由として、セラミックは熱の蓄熱性や遠赤外線放射性が高く、即ち可能な限りピッツァの連続焼成を可能にするためである。
【0019】
前記扉(6)には、前記焼成室(3)の内部を透視可能な、最小限の寸法の窓(65)が設けられていることが好ましい。扉に、ピッツァの焼成具合を確認する為の窓(耐熱ガラスなど製)を設置すると、窓からの放熱性が高いのが難点である。よって、窓の面積はピッツァ焼成の確認を行える必要最小限の面積として設計を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、100V電源を用いた場合でも庫内を温度400℃以上に昇温可能な電気ピッツァ窯を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係るピッツァ窯1の構造を模式的に示す側面断面図である。なお、薄肉の板の部分のハッチングは省略してある(その他の図においても同様)。
図2図2(A)は、図1のピッツァ窯1の下部ヒーター8及び下断熱層70の詳細を示す側面断面図である。図2(B)は、下部ヒーター8の断面形状と炉床板32にセラミックウール71で押し当てている状態(断熱兼用)を説明するための拡大断面図である。
図3図1のピッツァ窯1の下部ヒーター(シーズヒーター)8の図であって、(A)はシーズヒーター8全体の平面形状を表す図であり、(B)は上下つぶしのためのプレス加工の様子を模式的に表す図である。
図4図4(A)は、従来のピッツァ窯101の模式的正面図である。図4(B)は、図1のピッツァ窯1の模式的正面図である。
【符号の説明】
【0022】
P;ピッツァ、1;ピッツァ窯、2;窯本体、3;焼成室
5F・5B;熱線放射ヒーター、
6;扉、61;取手、65;ガラス窓(透視可能な部分)
8;下火ヒーター(下部電熱ヒーター、シーズヒーター)、8t;上平面
9;電装部、21;化粧板、29;四隅の台
31;セラミック板、32;炉床(セラミック板)、32b;下面、
34;手前側板(構造物)、35;天板(構造物)、36;奥側板(構造物、奥壁)、
37;中天板、38;手前開口
70;下断熱層、71;セラミックウール断熱材の層、72;ヒーターカバー、
73;セラミックボードの層、75;セラミックウールウールの層
77;上断熱層、78;側断熱層(厚いセラミックウールの層)
91;天板、91f・91b;天井凹部、
93F・93B;熱気溜まり
【発明の実施の形態】
【0023】
以下、添付図を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。まず、図1を参照しつつ、本発明の実施形態に係るピッツァ窯1の構造の概要を説明する。ピッツァ窯1は、内部に焼成室3を有する窯本体2や、前記焼成室3を開閉する扉6(窓ガラス付き)、窯本体2の下に配置された電装部9(窯本体2を置く台を兼ねる)などからなる。
【0024】
図中に示されている方向の意味は次のとおりである。「手前」は、図1でピッツァ窯1の左側に立つ調理人から見て手前側であり、焼成室3の扉6のある側である。「奥」は、「手前」の反対方向であり、調理人から見て、焼くピッツァを焼成室3に入れる方向である。「下」は、通常は、地球重力の方向に沿う地面の方向であり、「上」は下の反対方向である。「奥手前方向」及び「上下方向」に直交する方向を「横手方向」あるいは「左右方向」という。
【0025】
窯本体2は、略直方体の箱状の構造体であり、その内部に焼成室3を有している。焼成室3は、比較的平たい直方体状の空間であり、その中(庫内あるいは窯内ともいう)にピッツァPの生地を入れて焼成する。焼成室3の手前側は開口部38となっており、同開口部38には、スイング式に開閉可能な扉6(窓ガラス付き)が取り付けられている。窯本体2の下面は、四隅の台29を介して、電装部9の上に載っている。なお、電装部9の側面は、ルーバー状の通気口が開けられており、ゴミの落ち込みを防止しつつ通気性を確保している。窯本体2は上下に積み重ね可能であり、狭い調理室内・店内に複数のピッツァ窯を配置できるようになっている。
【0026】
焼成室3の奥の壁面にはセラミック板31が貼られて(立てられて)おり、焼成室3の底(下)の面にはセラミック板(炉床板)32が敷かれている。両セラミック板31・32は、コーディエライトなどのセラミックスからなる、比較的厚い板である(厚さは一例で14mm)。これらのセラミック板は、保熱や断熱、遠赤外線放射の作用を有する。底のセラミック板32の平らな上面には、被焼成物であるピッツァ生地Pを載せる。なお、図示省略されているが、焼成室3の左右の壁面にも同様のセラミック板が貼られている。
【0027】
焼成室3の天井には、下面が熱線反射性を有する天板91が、天井面に広がるように配設されている。この実施形態の天板91は、「アルシート」(溶融アルミメッキ鋼板、登録商標、日本製鉄(株)製、高温耐変色用)製である。同「アルシート」は、大気中で400~500℃に加熱した場合にも変色せず、赤外線の反射効率が高い。熱線放射ヒーター5F・5B(後述)の発する熱線を、熱線反射性天板91により炉床32に効率よく放射することができる。
【0028】
焼成室天井の天板91は、リベットにより焼成室3の上部の構造物34・35・36に取り付けられている。具体的には、天板91の手前側部分は、焼成室3の手前側板34の上部にリベット止めされている。天板91の奥手前方向の中央部分(天井凹部91f・91b、後述)は、焼成室3の天板35の下面にリベット止めされている。天板91の奥側部分は、焼成室3の奥側板36の上部にリベット止めされている。
【0029】
焼成室3の天板35と、焼成室3の中天板37との間は、上断熱層77となっており、セラミックウールやセラミックボードが充填されている。中天板37と窯本体2上面の化粧板21との間は、空気断熱層となっている。空気断熱層の基本的構成は、特開2021-122196と同様であり、詳しくはその図4と段落0053~0062を参照されたい。
【0030】
この実施形態における熱線反射性天板91の材料である「アルシート」は、メッキ材質であることから、溶接性に乏しいため、リベット固定で組立てる手法を採用した。リベット固定は生産性が高くないが、赤外線の反射効率を優先したという事情がある。なお、次述する熱気溜まり93F・93Bを形成するための天井凹部91f・91bは、斜め折りを複数施していることで、剛性・強度を高める作用・効果もある。
【0031】
焼成室天井の天板91には、熱線放射ヒーター5F・5Bの上方の部分に、熱気溜まり93F・93B形成用の、上凹の天井凹部91f・91bが二列形成されている。各天井凹部91f・91bの寸法例は、深さ17mm、幅80mm、長さ(図1の紙面垂直方向)400mmである。奥手前方向の位置は、手前開口38から一列目の天井凹部91fの中心までの距離(図1のL1)が85mm、一列目の天井凹部91fと二列目の天井凹部91b中心までの距離(図1のL2)が170mm、二列目の天井凹部91bの中心から焼成室3の奥端(セラミック板31手前面)までの距離(図1のL3)が145mmである。
【0032】
天板91の下面の下には、二本の棒状の熱線放射ヒーター5F・5Bが配設されている。同ヒーター5F・5Bは、この実施形態では、赤外線カーボンランプヒーターの一種であり、反射板も封止管(石英ガラス管)に内蔵した「ミラヒーター」(登録商標、メトロ電気工業(株)製)を用いている。同ヒーターは、各々、出力600W、径31mm、発熱部長さ350mmである。内蔵反射板は、フィラメントの上に位置するように配置されている。なお、内蔵反射板の他に、前記の熱線反射性を有する天板91をも配置しているのは、乱反射した熱線を効率よくピッツァに当てるためである。
【0033】
二本の棒状の熱線放射ヒーター5F・5Bは、長手方向が焼成室3の横手方向(図1の紙面垂直方向、図2の左右方向)に延びるように、間を開けて2本配置されている。ヒーター5F・5Bの窯本体2に対する固定方法は、特開2021-122196の図3、段落0044~0048に説明した方法と、本質的に同様である。
【0034】
ヒーターの焼成室3内における配置位置は、前述の焼成室天井の熱気溜まり93F・93Bの奥手前方向中心位置と同じである。すなわち、手前開口38から一本目のヒーター5Fの中心までの距離(図1のL1)が85mm、一本目のヒーター5Fと二本目のヒーター5Bの中心間距離(図1のL2)が170mm、二本目のヒーター5Bの中心から焼成室3の奥端(セラミック板31手前面)までの距離(図1のL3)が145mmである。ヒーター5F・5B(外側の保護管)の上縁と熱気溜まり93F・93Bを形成するための天井凹部91f・91bとの間の間隔は17mmである。
【0035】
ピッツァ生地の投入や焼成後のピッツァの取出しを行う為、扉の開閉操作を行うことによって、庫内温度が一時的に低下する。その温度低下の抑制手段として、庫内天板の手前上部に熱気溜まりを設け、且つカーボンランプヒーターの配置を手前付近に寄るように配置した。
【0036】
焼成室3の炉床(セラミック板)32の下には、図2に拡大して示すように、その下面32bを加熱する電熱ヒーター8(下部ヒーター)が配設されている。同下ヒーター8は、この実施形態では、棒状のシーズヒーター(市販のインコロイ線のものなど、出力は一例で200W)である。同下ヒーター8の平面形状は、図3(A)に示すように、手前がほぼ円形(径は一例で184mm)で、奥側(給電部側)が直線状に延びる形状である。下ヒーター8の円形部は、ちょうど、焼くピッツァPが位置する部分あたりにくる。
【0037】
下ヒーター8の断面形状は、図3(B)の右側に示すように、その上面が平らな面(上平面8t)となっている。具体的には、購入品において丸い断面(径7mm)であったシーズヒーターを、上下にプレスすることにより、炉床との接触面積を約3倍に増やして加熱効率の向上を図っている。また、図2(B)に示すように、上平面8tをセラミック板(炉床)32の下面に密着させることにより、炉床32への伝熱を促進している。
【0038】
下ヒーター8は、図2(B)に示すように、炉床(セラミック板)32の下において、セラミックウール断熱材の層71によって上方に押されている。これにより、下ヒーター8の上平面8tが、炉床(セラミック板)32の下面に密着し易くなっている。セラミックウールの層71の下には、セラミックボードの層73、及び、さらにその下のセラミックウールウールの層75が設けられている(下断熱層70)。断熱層の間のヒーターカバー72は、セラミックボードの層73やその上のセラミックウールの層71、シーズヒーター8を支える。下部ヒーター8の下方を断熱材で覆うことで、ヒーター周りからの放熱を抑え、炉床32に伝える余熱効果を図った。
【0039】
焼成室3の側壁や奥壁36の外側に配設された側断熱層78は、厚いセラミックウールの層78である。同断熱層78の外側は、空気断熱層となっている。空気断熱層の基本的構成は、特開2021-122196と同様であり、詳しくはその図4と段落0053~0062を参照されたい。
【0040】
図4(A)は、従来のピッツァ窯101の模式的正面図である。図4(B)は、図1の実施形態のピッツァ窯1の模式的正面図である。本発明の実施形態においては、従来と比べて、扉6の窓65(耐熱ガラス製)が小さくなっている。具体的には、従来が幅B1=280mm×高さH1=52mm、面積130cm2あったのが、本発明の実施形態では、幅B2=65mm×高さH2=40mm、面積53cm2になっている。この実施形態は、径355mmの標準的なピッツァを焼く仕様であるが、上記窓の寸法は、焼いているピッツァPの全体の状態が確認できる寸法である。
【0041】
扉6は、フレーム68や、ガラス窓65、取手61などから構成されている。扉6の窓以外の部分の基本的構成(空気断熱構造を含む)は、特開2021-122196の図2図4、及びその説明した構成と、本質的に同様である。
図1
図2
図3
図4