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特開2024-102954端子付き電線、及び、端子付き電線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102954
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】端子付き電線、及び、端子付き電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/18 20060101AFI20240725BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20240725BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20240725BHJP
   H01R 43/048 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R4/02 C
H01R43/02 B
H01R43/048 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007052
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤木 匡
【テーマコード(参考)】
5E051
5E063
5E085
【Fターム(参考)】
5E051LA01
5E051LA10
5E063CB20
5E063CC05
5E063XA01
5E085BB03
5E085DD03
5E085DD14
5E085FF01
5E085HH11
5E085HH40
5E085JJ03
5E085JJ06
(57)【要約】
【課題】端子と電線との接続強度の向上及び電気抵抗の低減が可能であると共に、電線の導体が整った状態とする。
【解決手段】端子付き電線は、導体及び前記導体を覆う絶縁被膜を有する電線と、前記電線の端部と接続する端子と、を有する。前記導体は、前記絶縁被膜から露出する導体端部を有する。前記端子は、前記導体端部と接する端子基部と、前記端子基部に前記導体端部を圧着するためのカシメ部と、を有する。前記端子基部は、前記導体端部と接する第一端子面と、前記第一端子面と反対側の第二端子面と、を有する。前記第二端子面は、圧痕を有する。前記第一端子面は、前記圧痕の板厚方向反対側の位置に前記導体端部側に隆起している隆起面を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体及び前記導体を覆う絶縁被膜を有する電線と、前記電線の端部と接続する端子と、を有し、
前記導体は、前記絶縁被膜から露出する導体端部を有し、
前記端子は、前記導体端部と接する端子基部と、前記端子基部に前記導体端部を圧着するためのカシメ部と、を有し、
前記端子基部は、前記導体端部と接する第一端子面と、前記第一端子面と反対側の第二端子面と、を有し、
前記第二端子面は、圧痕を有し、
前記第一端子面は、前記圧痕の板厚方向反対側の位置に前記導体端部側に隆起している隆起面を有する、
端子付き電線。
【請求項2】
前記圧痕は、前記導体端部側に凹む凹部を有し、
前記凹部の底は、前記端子基部の板厚範囲内に位置している、
請求項1に記載の端子付き電線。
【請求項3】
前記圧痕と前記カシメ部とは、前記電線の長手方向について同じ位置にある、
請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項4】
前記端子基部と前記導体端部との間の接合部の少なくとも一部は、固相接合部を有する、請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項5】
前記電線は、アルミ電線であり、
前記端子は、銅端子である、
請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項6】
前記導体は、複数の芯線が撚られた撚り線である、
請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項7】
前記導体は、単芯線である、
請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項8】
導体及び前記導体を覆う絶縁被膜を有する電線と、前記電線の端部と接続する端子と、を有する端子付き電線の製造方法であって、
前記絶縁被膜から前記導体の端部を露出させた状態で前記導体の端部を前記端子に重ねる準備工程と、
前記端子が有するカシメ部により、前記導体の端部を前記端子に圧着する圧着工程と、
前記端子のうち、前記カシメ部と反対側の面に対してツールを接触させて前記導体の端部と前記端子とを摩擦攪拌スポット接合する接合工程と、
を含み、
前記摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、前記導体の端部に及ばないで前記端子の範囲で行われる、
端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、端子付き電線、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、電線と、その電線の端部に接続される端子とを有する端子付き電線が開示されている。端子が相手端子に固定されている状態で、電線を湾曲させると、端子から電線の端部を引き剥がす力が作用する。端子付き電線において、端子と電線との接続力が前記のような引き剥がす力に抗することが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-28112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば電気自動車などの車両において大電流化が進むと、これに対応すべく、用いられる端子付き電線は大径化する。一般的に、電線が大径化すると、例えばその電線を湾曲させた際に、端子から電線の端部を引き剥がす力が大きくなる。このため、端子と電線との接続強度を高めることが必要とされる。さらに、端子付き電線における電気抵抗を低減することが必要とされる。なお、端子と電線との接続のために超音波溶接が用いられるが、その溶接のみであると、引き剥がし強度が弱い場合がある。
【0005】
前記特許文献1の場合、端子は、導体(電線の端部)が配置される底壁部と、塑性変形させて導体を端子に圧着するためのカシメ部とを有する。底壁部及びカシメ部の双方を、導体と共に塑性流動させ、導体と端子とを接続する。前記特許文献1の場合、摩擦撹拌接合により、導体が塑性流動する。このため、導体は乱れ、製品価値が低下する可能性がある。特に、導体が撚り線である場合、大きく乱れる。
【0006】
そこで、本開示は、端子と電線との接続強度の向上及び電気抵抗の低減が可能であると共に、電線の導体を整った状態とする端子付き電線、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態に係る端子付き電線は、導体及び前記導体を覆う絶縁被膜を有する電線と、前記電線の端部と接続する端子と、を有し、前記導体は、前記絶縁被膜から露出する導体端部を有し、前記端子は、前記導体端部と接する端子基部と、前記端子基部に前記導体端部を圧着するためのカシメ部と、を有し、前記端子基部は、前記導体端部と接する第一端子面と、前記第一端子面と反対側の第二端子面と、を有し、前記第二端子面は、圧痕を有し、前記第一端子面は、前記圧痕の板厚方向反対側の位置に前記導体端部側に隆起している隆起面を有する。
【0008】
本開示の実施形態に係る端子付き電線の製造方法は、導体及び前記導体を覆う絶縁被膜を有する電線と、前記電線の端部と接続する端子と、を有する端子付き電線の製造方法であって、前記絶縁被膜から前記導体の端部を露出させた状態で前記導体の端部を前記端子に重ねる準備工程と、前記端子が有するカシメ部により、前記導体の端部を前記端子に圧着する圧着工程と、前記端子のうち、前記カシメ部と反対側の面に対してツールを接触させて前記導体の端部と前記端子とを摩擦攪拌スポット接合する接合工程と、を含み、前記摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、前記導体の端部に及ばないで前記端子の範囲で行われる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、端子と電線との接続強度の向上及び電気抵抗の低減が可能であると共に、電線の導体が整った状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、端子付き電線の第一実施形態を示す平面図である。
図2図2は、図1に示す端子付き電線の底面図である。
図3図3は、図1のIII-III矢視の断面図である。
図4図4は、端子付き電線の第二実施形態を示す平面図である。
図5図5は、図4に示す端子付き電線の底面図である。
図6図6は、摩擦撹拌スポット接合、及び、そのツールの説明図である。
図7図7は、端子付き電線の製造方法(準備工程及び圧着工程)の説明図である。
図8図8は、圧着工程を終えた後の端子付き電線の断面図である。
図9図9は、端子付き電線の製造方法(接合工程)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
(1)本実施形態の端子付き電線は、導体及び前記導体を覆う絶縁被膜を有する電線と、前記電線の端部と接続する端子と、を有し、前記導体は、前記絶縁被膜から露出する導体端部を有し、前記端子は、前記導体端部と接する端子基部と、前記端子基部に前記導体端部を圧着するためのカシメ部と、を有し、前記端子基部は、前記導体端部と接する第一端子面と、前記第一端子面と反対側の第二端子面と、を有し、前記第二端子面は、圧痕を有し、前記第一端子面は、前記圧痕の板厚方向反対側の位置に前記導体端部側に隆起している隆起面を有する。
【0012】
前記端子付き電線によれば、導体端部と端子基部とはカシメ部により機械的に接続され、接続強度が向上する。更に、例えば摩擦撹拌スポット接合により、端子基部の第二端子面に圧痕を生じさせることで、端子基部と導体端部との間の少なくとも一部で金属間接合が得られる。このため、端子基部と導体端部との間の電気抵抗を低減することが可能となる。
例えば摩擦撹拌スポット接合により、第一端子面は隆起面を有しており、その摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、第一端子面を越えて導体端部に及ばない。このため、導体は整った状態となる。
【0013】
(2)好ましくは、前記圧痕は、前記導体端部側に凹む凹部を有し、前記凹部の底は、前記端子基部の板厚範囲内に位置している。
前記構成によれば、凹部は端子基部を貫通しない。つまり、摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、第一端子面を越えて導体端部に及ばない。
【0014】
(3)前記(1)又は(2)の端子付き電線において、端子と電線との接続強度を高めるために、好ましくは、前記圧痕と前記カシメ部とは、前記電線の長手方向について同じ位置にある。
【0015】
(4)前記(1)から(3)のいずれか一つの端子付き電線において、好ましくは、前記端子基部と前記導体端部との間の接合部の少なくとも一部は、固相接合部を有する。
端子基部と導体端部との間の少なくとも一部で金属間接合が得られる。長期にわたって、端子基部と導体端部との間の電気抵抗が低減する。
【0016】
(5)前記(1)から(4)のいずれか一つの端子付き電線において、好ましくは、前記電線は、アルミ電線であり、前記端子は、銅端子である。
前記導体は、アルミニウム合金からなり、前記端子は、銅合金からなる。このような異種材料の組み合わせであっても、導体端部の少なくとも一部は、酸化皮膜が破壊されて接合されることが期待される。
【0017】
(6)前記(1)から(5)のいずれか一つの端子付き電線において、好ましくは、前記導体は、複数の芯線が撚られた撚り線である。
芯線はばらつかず、纏まった状態に維持される。
(7)前記(1)から(5)のいずれか一つの端子付き電線において、前記導体は、単芯線であってもよい。
【0018】
(8)本実施形態の端子付き電線の製造方法は、導体及び前記導体を覆う絶縁被膜を有する電線と、前記電線の端部と接続する端子と、を有する端子付き電線の製造方法であって、前記絶縁被膜から前記導体の端部を露出させた状態で前記導体の端部を前記端子に重ねる準備工程と、前記端子が有するカシメ部により、前記導体の端部を前記端子に圧着する圧着工程と、前記端子のうち、前記カシメ部と反対側の面に対してツールを接触させて前記導体の端部と前記端子とを摩擦攪拌スポット接合する接合工程と、を含み、前記摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、前記導体の端部に及ばないで前記端子の範囲で行われる。
【0019】
前記製造方法によれば、導体の端部と端子とはカシメ部により機械的に接続され、接続強度が向上する。摩擦撹拌スポット接合により、端子と導体の端部との間の少なくとも一部で金属間接合が得られる。このため、端子と導体との間の電気抵抗を低減することが可能となる。摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、端子を越えて導体の端部に及ばない。このため、導体は整った状態となる。
【0020】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、図面を参照して、本開示の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0021】
〔端子付き電線の全体構成について〕
図1は、端子付き電線の第一実施形態を示す平面図である。図2は、図1に示す端子付き電線の底面図である。図3は、図1のIII-III矢視の断面図である。端子付き電線10は、電力供給用の電線として自動車等の様々な装置に用いられ、本実施形態では電気自動車に用いられる。端子付き電線10は、例えばバッテリから車載機器に電力を供給する経路に用いられる。
【0022】
端子付き電線10は、電線11と、電線11の端部と接続する端子12とを有する。端子12は、相手端子(図示せず)と機械的及び電気的に接続される。
電線11は、導体13と、導体13を覆う絶縁被膜14とを有する。導体13は、電線11の端部で露出している。つまり、導体13は、絶縁被膜14に囲われている導体本体部15と、絶縁被膜14から露出する導体端部16とを有する。図1に示す導体13は、複数の芯線13aが撚られた撚り線である。導体13は、導体端部16において端子12と接続されている。なお、導体13は、1本の線で構成される単芯線であってもよい。
【0023】
端子12及び導体13は、導電性の優れる材料により構成されている。本実施形態の場合、端子12は銅合金からなり、導体13はアルミニウム合金からなる。つまり、端子12は銅端子であり、電線11はアルミ電線である。絶縁被膜14は、難燃性に優れる絶縁性材料により構成されていて、例えば、架橋ポリエチレン(PE)又はポリ塩化ビニル(PVC)が用いられる。なお、端子12、導体13、及び絶縁被膜14の材質は他であってもよい。端子12及び導体13は、異種材料である他に、同じ材料であってもよい。
【0024】
本開示の端子付き電線10の各方向について定義する。端子付き電線10の長手方向は、電線11の長手方向と一致する。電線11を直線状として配置した場合に、その電線11の長手方向を「前後方向」と定義し、端子12の先端12a側を「前」と定義する。
端子12は、後に説明するが、一対の第一カシメ部34を有する。一対の第一カシメ部34が並ぶ方向は、前後方向に直交する方向であり、この方向を「幅方向」と定義する。
【0025】
前後方向及び幅方向の双方に直交する方向を「上下方向」と定義する。なお、この上下方向は、本開示の端子付き電線10の構成を説明するために、仮想の水平面に沿って端子付き電線10を直線状として配置した場合の方向である。言うまでもないが、端子付き電線10が実際に使用される際、前記上下方向は鉛直方向と一致しない場合がある。
【0026】
〔端子12について〕
端子12は、端子先部18と、端子基部17と、第一カシメ部34とを有する。本実施形態の場合、端子12は、第二カシメ部36を有する。端子12は、板状の金属部材(銅合金による板材)を加工して構成される。
【0027】
端子先部18は、相手端子(図示せず)と電気的に接続可能となる部分であり、板状であって、平坦形状を有する。端子基部17は、端子先部18と前後方向に連続する部分である。端子基部17は、導体端部16と接する。第一カシメ部34及び第二カシメ部36は、電線11を端子12に機械的に接続するための部分である。
【0028】
端子基部17は(図2参照)、端子先部18と前後方向に連続する第一底壁部33と、第一底壁部33と前後方向に連続する第二底壁部35とを有する。端子基部17は、第一底壁部33において(図3参照)、導体端部16と接する第一端子面31と、第一端子面31と上下方向について反対側の第二端子面32とを有する。
【0029】
第二端子面32は、圧痕40を有する。本実施形態の場合、第二端子面32は、圧痕40の範囲内で、前後方向の中央及び幅方向の中央で凹んでいる。具体的に説明すると、圧痕40は、導体端部16側に凹む凹部44を有する。つまり、第二端子面32は、その中央に、導体端部16側に凹んでいる凹部44を含む圧痕40を有する。
第一端子面31は、その前後方向の中央及び幅方向の中央で隆起している。つまり、第一端子面31は、その中央に、隆起面37を有する。隆起面37は、圧痕40の反対側の位置において、導体端部16側に隆起している。「反対側の位置」とは、端子基部17の板厚方向(つまり、上下方向)について反対側の位置である。
【0030】
第一カシメ部34は、端子基部17の一部(第一底壁部33)から延びて設けられており、電線11と端子12との接続のために塑性変形させる部分である。第一カシメ部34は、導体端部16に対してカシメられることで、端子基部17に導体端部16を圧着する部分である。
【0031】
第一カシメ部34は、第一底壁部33の幅方向両側それぞれから立ち上がるようにして設けられている側壁部38と、側壁部38から幅方向の中央に向かって延びる先部39とを有する。導体端部16を端子基部17に圧着させるために、第一カシメ部34は、塑性変形して構成され、先部39は、第一底壁部33との間で導体端部16を挟んだ状態にある。第一底壁部33、左右の側壁部38、及び、左右の先部39それぞれは、導体端部16に密に接触した状態にある。
【0032】
第二底壁部35は(図1及び図2参照)、第一底壁部33から後方に延びて設けられている部分であり、絶縁被膜14と接する。
第二カシメ部36は、第二底壁部35から延びて設けられており、電線11と端子12との接続のために塑性変形させる部分である。第二カシメ部36は、第二底壁部35の幅方向両側から上に延びて設けられ、絶縁被膜14に対してカシメられることで、端子12に電線11を固定する。第二カシメ部36は、インシュレーションバレルとも呼ばれる。第二カシメ部36は、電線11のうち絶縁被膜14を有する部分を、第二底壁部35との間で挟むことで、端子12を電線11に固定する。
【0033】
端子先部18に錫メッキが付されていてもよい。錫メッキは、端子基部17を含む端子12の全体に付されていてもよい。この場合、端子12に錫メッキを付する作業において、マスキングが不要となり生産効率が高い。端子先部18にのみ錫メッキが付されていてもよい。
【0034】
〔電線11について〕
電線11が有する導体端部16についてさらに説明する。前後方向に直交する横断面において(図3参照)、導体端部16は、第一底壁部33並びに第一カシメ部34(左右の側壁部38及び左右の先部39)の形状に沿った形状を有する。導体端部16は、端子基部17の第一底壁部33と接する第一導体面21と、第一導体面21と上下方向について反対側の第二導体面22とを有する。第一導体面21は、その中央で隆起面37に沿って窪んでいる。第二導体面22に、第一カシメ部34の先部39が食い込んだ状態にある。
【0035】
〔電線11と端子12との接続構造について〕
第一端子面31と第一導体面21とは接合されている。第一端子面31と第一導体面21との接合部の少なくとも一部に、固相接合部41が含まれる。つまり、導体端部16と第一底壁部33とは部分的に固相接合されている。固相接合されている範囲では、導体端部16と端子基部17とが金属接合されており、導体端部16と端子基部17との接合界面が無くなっている。
【0036】
固相接合は、第一底壁部33(第一端子面31)と導体端部16(第一導体面21)との全体で成されているのが好ましいが、部分的に成されていればよい。つまり、端子基部17は、第一端子面31側の少なくとも一部に固相接合部41を有していればよい。
導体端部16と、第一カシメ部34の側壁部38とは固相接合されていない。導体端部16と、第一カシメ部34の先部39とは固相接合されていない。
【0037】
前記のとおり、導体端部16と端子基部17とは部分的に固相接合されている。これらの間で固相接合を得るために、本実施形態では、第一カシメ部34によって端子基部17と導体端部16とが一体となる状態で、端子基部17に対して摩擦撹拌スポット接合が行われる(図6参照)。摩擦撹拌スポット接合では、回転するツール50を、第二端子面32に接触させ押し付ける。これにより、第二端子面32に圧痕40が形成され(図2及び図3参照)、その圧痕40の直上位置の少なくとも一部が固相接合される。
【0038】
ツール50は、円柱状のショルダ51と、ショルダ51から突出する円柱状のピン52とを有する。ピン52はショルダ51よりも外径が小さい。回転するツール50を端子基部17に押し付け、ピン52を端子基部17に圧入する。回転するツール50と端子基部17との間で生じる摩擦熱によって、導体端部16及び端子基部17は加熱され、第一導体面21と第一端子面31との間の一部が金属結合され、導体端部16と端子基部17とは一部において固相接合される。
【0039】
治具53は、ツール50による端子基部17への押し付け力を支える。導体端部16及び第一カシメ部34の先部39は、端子基部17と治具53とによって挟まれた状態となる。
【0040】
前記のとおり、導体端部16は撚り線からなる。その撚り線に含まれ隣り合う芯線13a同士においても密着する(図3参照)。
摩擦撹拌スポット接合による加熱と圧力とによって、撚り線に含まれ隣り合う芯線13a同士も部分的に固相接合されるのが好ましいが、芯線13a同士は固相接合されていなくてもよい。
【0041】
回転するツール50を端子基部17に押し付けることで、ツール50の回転接触面の形状が第二端子面32に転写され、圧痕40が形成される。図3に示すように、ピン52によって、圧痕40は、導体端部16側に凹む凹部44を有する。本実施形態では(図6参照)、ピン52の突出長さLは、端子基部17が有する第一底壁部33の厚さtよりも小さい。このため、図3に示すように、凹部44の底44bは、ピン52により押し潰された第一底壁部33により構成されている。より具体的に説明すると、底44bは、端子基部17(第一底壁部33)の板厚範囲内に位置している。つまり、底44bは、変形した第一底壁部33の一部である端子層17aにより構成されている。
【0042】
第一端子面31は導体端部16側に部分的に隆起している。隆起面37は、圧痕40の直上位置を含む範囲で形成されている。隆起面37の隆起形状に応じて、導体端部16は窪んでいる。
【0043】
圧痕40は、その中央に深い凹部44を有し、その凹部44の周囲に押圧部43を有する。凹部44は、ツール50のピン52が接触することで形成され、図2に示すように、円形となる。押圧部43は、ツール50のショルダ51が接触することで形成され、円環状である。
本実施形態の場合、ツール50は、第二端子面32の全体にわたって接触するのではなく、部分的に接触する。ツール50は、第二端子面32の前後方向の中央及び幅方向の中央を含む領域に対して接触する。
【0044】
圧痕40と第一カシメ部34とは、電線11の長手方向(前後方向)について同じ位置にある(図1参照)。圧痕40は、端子12の下側に位置し、第一カシメ部34の先部39は、端子12の上側に位置しており、圧痕40は、第一カシメ部34の先部39の上下方向の反対側に位置する。
【0045】
〔第二実施形態〕
図4は、端子付き電線10の第二実施形態を示す平面図である。図5は、図4に示す端子付き電線10の底面図である。図4及び図5に示す端子付き電線10は、図1及び図2に示す第一実施形態と比較すると、第二底壁部35及び第二カシメ部36を有していない点で異なるが、その他については同じである。第一実施形態と第二実施形態とで、同じ構成については、同じ符号を付しており、ここでは、その説明を省略する。第二実施形態の場合、端子基部17は、電線11の絶縁被膜14と離れて位置する。
【0046】
第二実施形態の場合においても、圧痕40が形成されている端子基部17及び第一カシメ部34における断面形状は、第一実施形態(図3)と同じである。つまり、端子基部17の第二端子面32は、圧痕40を有する。端子基部17の第一端子面31は、圧痕40の反対側の位置に、導体端部16側に隆起している隆起面37を有する。
【0047】
〔端子付き電線10の製造方法について〕
端子付き電線10の製造方法について説明する。その製造方法は、準備工程と、圧着工程と、接合工程とを含む。
圧着工程のために、例えば、台座46及び金型47を有する圧着装置(図7参照)が用いられる。
【0048】
準備工程では、絶縁被膜14から導体端部16を露出させた状態で、電線11の導体端部16が端子12の端子基部17に重ねられる。図7に示す形態の場合、台座46の上に、端子12の端子基部17と電線11の導体端部16とが重ねられる。
圧着工程では、台座46上の端子12及び電線11に対して、金型47を加圧装置により押圧する。金型47は、一対の第一カシメ部34を塑性変形させる。以上より、圧着工程では、端子12が有する第一カシメ部34により、導体端部16を端子基部17に圧着する(図8参照)。
【0049】
端子12が第二カシメ部36を有する場合(図1参照)、前記圧着工程において、第一カシメ部34と同時に、又は、第一カシメ部34とは別のタイミングで、前記圧着装置と同様の動作によって、第二カシメ部36を塑性変形させる。
【0050】
圧着工程の後、接合工程では、図6及び図9に示すように、第一カシメ部34の先部39を治具53によって受ける。接合工程では、端子12のうち、第一カシメ部34の先部39と反対側の面である第二端子面32に対して、ツール50を接触させて導体端部16と端子基部17とを摩擦攪拌スポット接合する。
【0051】
この際、摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、導体端部16に及ばないで端子12(端子基部17)の板厚の範囲で行われる。摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、端子基部17を越えて導体端部16に及ばない。このため、導体13は整った状態にある。
【0052】
前記各形態の場合、導体13は、複数の芯線(素線)13aが撚られた撚り線である。この場合であっても、摩擦撹拌スポット接合によって、芯線13aは、ばらつかず、これら芯線13aは纏まった状態に維持される。導体13は整った状態にある。
導体13が撚り線である場合、撚り線の芯線13aと端子基部17との間に隙間が生じやすくなる。しかし、端子基部17と導体端部16との接続は圧痕40を伴う力に基づくため、前記隙間が無くなり、密に接した状態となる。更に、隣り合う芯線13a同士の間の隙間も無くなり、密に接した状態となる。
【0053】
圧着工程において塑性変形させた第一カシメ部34の先部39は、導体端部16と離れる側に向かって凸となる円弧形状を有する。そこで、図9に示すように、治具53は、第一カシメ部34の先部39の形状に対応する凹円弧形状を有していてもよい。
第二端子面32をツール50が押圧することで、端子基部17と第一カシメ部34の先部39に挟まれる導体端部16は幅方向に広がろうとする。第一カシメ部34が有する幅方向両側の側壁部38は、導体端部16の幅方向の広がりを規制することができる。
前記治具53により、第一カシメ部34の形状を保った状態で、摩擦撹拌スポット接合を行うことが可能となる。
【0054】
〔前記各形態の端子付き電線10について〕
以上のように、前記各形態の端子付き電線10は、電線11と、電線11の端部と接続する端子12とを有する。電線11の導体13は、絶縁被膜14から露出する導体端部16を有する。端子12は、導体端部16と接する端子基部17と、端子基部17に導体端部16を圧着するための第一カシメ部34とを有する。端子基部17は、導体端部16と接する第一端子面31と、第一端子面31と反対側の第二端子面32とを有する。第二端子面32は、圧痕40を有する。第一端子面31は、圧痕40の板厚方向反対側の位置に導体端部16側に隆起している隆起面37を有する。
【0055】
前記各形態の端子付き電線10によれば、導体端部16と端子基部17とは第一カシメ部34により機械的に接続され、接続強度が向上する。
摩擦撹拌スポット接合により、端子基部17の第二端子面32に圧痕40を生じさせる。これにより、端子基部17と導体端部16との間の少なくとも一部で金属間接合が得られる。その結果、端子基部17と導体端部16との間の電気抵抗を低減することが可能となる。超音波溶接しなくても、導体端部16と端子基部17との接続強度が向上し、導体端部16と端子基部17との間の電気抵抗を低減することが可能となる。
摩擦撹拌スポット接合により、第一端子面31は隆起面37を有しており、その摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、第一端子面31を越えて導体端部16に及ばない。このため、導体13は整った状態となる。
【0056】
前記のとおり、摩擦撹拌スポット接合による塑性流動は、第一端子面31を越えて導体端部に及ばない。このために、図3に示すように、凹部44は端子基部17を貫通しない。つまり、圧痕40は、導体端部16側に凹む凹部44を有し、その凹部44の底44bは、端子基部17の板厚範囲内に位置している。
【0057】
端子基部17と導体端部16との間の接合部の少なくとも一部は、固相接合部41を有する。例えば、サーマルショックを付与して行う耐久試験によれば、固相接合部41を有しない場合、やがて接続不良が生じ、電気抵抗値が増加する場合がある。前記各形態のように、端子基部17と導体端部16との間の少なくとも一部で金属間接合が得られることで、長期にわたって、端子基部17と導体端部16との間の電気抵抗が低減する。
【0058】
前記各形態の場合、電線11はアルミ電線であり、端子12は銅端子である。
前記各形態の端子付き電線10の場合、第一カシメ部34による圧着によって、電線11と端子12との機械的な接続の強度は確保される。この圧着のみでは、導体端部16における電線11の酸化皮膜は除去されない。そこで、前記各形態の場合、端子基部17の第二端子面32側から摩擦撹拌スポット接合が行われることで、第二端子面32は圧痕40を有する。これにより、導体端部16が有する第一導体面21の一部において酸化皮膜が破壊される。その結果、導体端部16と端子基部17との接触抵抗は低減され、しかも、長期にわたって接触抵抗を安定化させることが可能となる。
【0059】
摩擦撹拌スポット接合は、複動式であってもよい。この場合、図6を参考に説明すると、ピン52を導体端部16に圧入したあと、ピン52によって形成された凹部が、回転するショルダ51によって埋め戻される。このため、圧痕40は、図3に示すような凹部44を有さない場合、又は、図3に示すような凹部44よりも小さい凹部となる場合がある。
【0060】
図1に示す第一実施形態の場合、端子12は、絶縁被膜14に圧着する第二カシメ部36を有する。この場合、電線11を端子12に近い部分で曲げた際に生じる、導体端部16を端子基部17から引き剥がそうとする力が低減される。端子12と電線11との接続強度がより一層高まる。
【0061】
以上のように、前記各形態の端子付き電線10によれば、電線11と端子12との接続について、機械的及び電気的に高い信頼性が得られる。
【0062】
〔その他について〕
前記各形態では、電線11はアルミ電線であり、端子12は銅端子である。電線11は銅電線であってもよい。銅電線の場合、錫メッキ素線を使用して接触抵抗を安定化させることができる。銅電線を銅端子に接続する場合、前記各形態のように、第一カシメ部34による圧着と、摩擦撹拌スポット接合とによる端子付き電線10が採用されることで、素線の錫メッキを不要とすることが可能となる場合がある。
特に、径寸法の大きい太物銅電線であっても、接触抵抗を安定化させることが可能となる。
【0063】
前記各形態では、第二端子面32に圧痕40が一つのみ形成されている。圧痕40の数は制限がなく、例えば大径化した端子付き電線10の場合、圧痕40は複数設けられていてもよい。例えば、複数の圧痕40は前後方向に並んで設けられる。
前記各形態では、圧痕40が有する凹部44は、平面視において円形の穴である。この「円形」は、真円であってもよいが、長円であってもよい。例えば、摩擦撹拌スポット接合の際、回転するツール50を前後方向に沿って移動させてもよく、この場合、形成される凹部44の形状は長円となる。
【0064】
前記実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、前記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0065】
10 端子付き電線
11 電線
12 端子
13 導体
13a 芯線
14 絶縁被膜
15 導体本体部
16 導体端部
17 端子基部
17a 端子層
18 端子先部
21 第一導体面
22 第二導体面
31 第一端子面
32 第二端子面
33 第一底壁部
34 第一カシメ部
35 第二底壁部
36 第二カシメ部
37 隆起面
38 側壁部
39 先部
40 圧痕
41 固相接合部
43 押圧部
44 凹部
44b 底
46 台座
47 金型
50 ツール
51 ショルダ
52 ピン
53 治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9