(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102956
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240725BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240725BHJP
F16C 19/08 20060101ALI20240725BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16C19/08
B60B35/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007054
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 拓真
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC24
3J216CC25
3J216CC26
3J216CC33
3J216CC41
3J216CC68
3J216DA01
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701FA13
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】シールリングが正規の位置に組み付けられているか否かを容易にかつ正確に確認することができる、ハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】シールリング5を、芯金28とシール材29とから構成する。芯金28を構成する外向鍔部31を、軸方向に貫通した芯金側通孔34を有するものとし、シール材29のうちで外向鍔部31の軸方向外側面を覆った外側覆い部38を、円周方向に関する位相が芯金側通孔34と一致する部分に、軸方向に貫通したシール側通孔42を有するものとする。シール材29のうちで外向鍔部31の軸方向内側面を覆った内側覆い部39を、円周方向に関する位相が芯金側通孔34及びシール側通孔42のそれぞれと一致する部分に、自由状態で軸方向内側に向けて膨らんでおり、かつ、外輪2の軸方向外側の端面7との接触により弾性的に潰れる、形状変化部45を有するものとする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
前記外輪の軸方向外側の端部に固定された金属製で円環状の芯金と、該芯金に結合固定された弾性材製のシール材とを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ、シールリングと、を備え、
前記芯金は、前記外輪の軸方向外側の端面に沿って径方向に伸長した外向鍔部と、前記外向鍔部の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長した補強筒部と、を有し、
前記シール材は、前記外向鍔部の軸方向外側面を覆った外側覆い部と、前記外向鍔部の軸方向内側面を覆った内側覆い部と、前記外輪の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出し、かつ、前記補強筒部により補強されるとともに、内周面の少なくとも一部を前記外輪の軸方向外側の端部外周面に接触させた堰部と、を有し、
前記外向鍔部は、軸方向に貫通した芯金側通孔を有しており、
前記外側覆い部は、円周方向に関する位相が前記芯金側通孔と一致する部分に、軸方向に貫通したシール側通孔を有しており、
前記内側覆い部は、円周方向に関する位相が前記芯金側通孔及び前記シール側通孔のそれぞれと一致する部分に、自由状態で軸方向内側に向けて膨らんでおり、かつ、前記外輪の軸方向外側の端面との接触により弾性的に潰れる、形状変化部を有している、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記シール材は、前記形状変化部の軸方向外側面から軸方向外側に向け突出し、かつ、前記芯金側通孔及び前記シール側通孔のそれぞれを挿通した、確認用突起部を有する、請求項1に記載したハブユニット軸受。
【請求項3】
前記補強筒部は、軸方向内側部に、切り欠き部を有する、請求項1に記載したハブユニット軸受。
【請求項4】
請求項1に記載したハブユニット軸受の製造方法であって、
前記外側覆い部の軸方向外側面から前記形状変化部の軸方向外側面までの距離を測定することにより、前記外輪に対する前記シールリングの組み付け位置が適正か否かを確認する工程を備える、
ハブユニット軸受の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載したハブユニット軸受の製造方法であって、
前記外側覆い部の軸方向外側面に対する前記確認用突起部の軸方向外側の端面の軸方向位置を確認することにより、前記外輪に対する前記シールリングの組み付け位置が適正か否かを確認する工程を備える、
ハブユニット軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。外輪は、懸架装置に支持固定される。ハブの回転フランジには、車輪のホイール及び制動用回転体が結合固定される。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向外側をいい、軸方向内側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向中央側をいう。
【0004】
ハブユニット軸受は、外部からの泥水などの侵入を防止するため、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置をさらに備える。従来、このようなシール装置として、外輪の軸方向外側の端部に支持固定され、かつ、それぞれの先端部をハブの軸方向中間部外周面又は回転フランジの軸方向内側面に全周にわたり摺接させた複数のシールリップを有するシールリングが広く知られている。
【0005】
また、外輪の外周面に付着した泥水などの水分が、外輪の外周面を伝って転動体設置空間に侵入することを防止するために、転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシールリングに、外輪の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出した堰部を設けることも行われている。堰部による異物の侵入防止効果を高めるためには、堰部の内周面を、外輪の軸方向外側の端部外周面に全周にわたり接触させることが好ましい。
【0006】
特開2022-128126号公報(特許文献1)には、堰部の内周面の一部を、外輪の軸方向外側の端部外周面に全周にわたり接触させた構造が開示されている。
【0007】
図10は、特開2022-128126号公報に記載された従来構造のハブユニット軸受100に組み込まれた、転動体設置空間101の軸方向外側の開口を塞ぐシールリング102を示している。
【0008】
シールリング102は、外輪103の内周面とハブ104の外周面との間に存在する転動体設置空間101の軸方向外側(
図10の左側)の開口を塞ぐ。
【0009】
シールリング102は、外輪103の軸方向外側の端部に固定された金属製で円環状の芯金105と、該芯金105に結合固定された弾性材製のシール材106とを有する。
【0010】
芯金105は、全体が円環状に構成されており、外輪103の軸方向外側の端部内周面に圧入により支持固定されている。
【0011】
芯金105は、シール嵌合筒部107と、外向鍔部108と、補強筒部109と、支持板部110とを備える。
【0012】
シール嵌合筒部107は、外輪103の軸方向外側の端部内周面に締り嵌めで内嵌固定されている。外向鍔部108は、シール嵌合筒部107の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がり、外輪103の軸方向外側の端面に沿って径方向外側に伸長している。補強筒部109は、円筒形状を有し、外向鍔部108の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長している。支持板部110は、略クランク形の断面形状を有し、径方向外側の端部がシール嵌合筒部107の軸方向内側の端部につながっている。
【0013】
シール材106は、全体が円環状に構成されており、芯金105の表面に加硫成形接着されている。
【0014】
シール材106は、4本のシールリップ111a~111dと、堰部112と、庇リップ113とを備える。
【0015】
4本のシールリップ111a~111dのうち、最も径方向外側に配置されたシールリップ111aは、シール材106のうちで、外向鍔部108の軸方向外側面を覆った外側覆い部114の径方向内側部に備えられている。シールリップ111aの先端部は、ハブ104に備えられた回転フランジ115の軸方向内側面に全周にわたり摺接している。
【0016】
残り3本のシールリップ111b~111dは、支持板部110により補強されたシール材106の径方向内側部に備えられている。3本のシールリップ111b~111dは、それぞれの先端部が、回転フランジ115の軸方向内側面又はハブ104の軸方向中間部外周面に全周にわたり摺接している。
【0017】
堰部112は、シール材106の径方向外側の端部に備えられており、外輪103の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出している。堰部112は、外輪103の軸方向外側の端面よりも軸方向外側に配置された円環状の堰部本体116と、該堰部本体116から軸方向内側(
図9の右側)に向けて伸長した、略円筒形状の堰部張出体117とを有する。
【0018】
堰部本体116は、外向鍔部108の径方向外側の端部により補強されている。堰部張出体117は、補強筒部109により補強されている。堰部張出体117は、外輪103の外周面の軸方向外側の端部を覆っている。堰部張出体117の内周面には、径方向内側に向けて突出した円環形状のリップ部118が備えられている。リップ部118の先端部は、外輪103の外周面に対し締め代を持って接触している。
【0019】
庇リップ113は、円筒形状を有している。庇リップ113の軸方向内側の端面は、堰部本体116の軸方向外側の端面につながっている。庇リップ113の軸方向外側の端面は、回転フランジ115の軸方向内側面に全周にわたり近接対向している。
【0020】
車両の走行中、外輪103の周囲には、車輪及び制動用回転体の回転に起因して、回転気流が発生する。路面から跳ね上げられた泥水は、その回転気流に取り込まれて、水滴の状態で外輪103の周囲を周回する。車両が停止し、回転気流が収まると、回転気流とともに外輪103の周囲を周回していた水滴は、ハブユニット軸受100の上部において、外輪103の外周面及び回転フランジ115の軸方向内側面に落下する。
【0021】
堰部112は、外輪103の外周面に落下し、かつ、該外周面に沿って軸方向外側に流れてきた水滴を堰き止めることで、該水滴が外輪103の軸方向外側の端面と回転フランジ115の軸方向内側面との間に侵入することを防ぐ。
【0022】
庇リップ113は、路面から跳ね上げられた泥水などの異物が、外輪103の軸方向外側の端面と回転フランジ115の軸方向内側面との間に直接侵入することを防ぐ。これにより、シールリップ111a~111dを保護し、シールリップ111a~111dの耐久性の向上を図る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシールリングは、保持器に転動体を保持してなる組立体を外輪の外輪軌道の内径側に配置した後、外輪とハブを構成するハブ輪とを組み合わせる前に、外輪に対して軸方向外側から圧入により組み付けられている。
【0025】
従来構造のシールリング102は、補強筒部109によって、内周面にリップ部118を備えた堰部張出体117が補強されている。このため、外輪103にシールリング102を圧入により組み付ける際に、リップ部118が径方向外側にめくれ上がるといったリップ部118の反転を生じさせずに済むが、シール嵌合筒部107の外周面と外輪103の軸方向外側の端部内周面との間に圧入抵抗が生じるだけでなく、堰部張出体117のリップ部118を含む内周面と外輪103の軸方向外側の端部外周面との間にも圧入抵抗が生じるため、組み付けに際して大きな力が必要になる。
【0026】
また、シールリング102を組み付ける際には、外向鍔部108の軸方向内側面と外輪103の軸方向外側の端面との間に溜まった空気を、シール嵌合筒部107の外周面と外輪103の軸方向外側の端部内周面との間、及び、堰部張出体117の内周面と外輪103の軸方向外側の端部外周面との間から少しずつ外部に逃がす必要があるため、外向鍔部108の軸方向内側面が外輪103の軸方向外側の端面に突き当たる正規の位置まで、シールリング102が組み付けられていないケースが発生することも考えられる。
【0027】
シールリング102が正規の位置に組み付けられずに、外向鍔部108の軸方向内側面と外輪103の軸方向外側の端面との間に隙間が存在している場合には、シールトルクの増大や密封性能の低下といった問題が生じるだけでなく、嵌合力不足に起因して、シールリング102が外輪103に対し、クリープしたり、軸方向位置がずれたりするといった問題を生じる可能性がある。
【0028】
このため、ハブユニット軸受100の製造工程においては、シールリング102が正規の位置に組み付けられたことを確認する必要があるが、外向鍔部108の軸方向内側面及び外輪103の軸方向外側の端面は外部から視認できないため、外観検査によって、シールリング102が正規の位置に組み付けられているか否かを確認することはできない。
【0029】
例えば、外輪103の軸方向内側の端面からシールリング102のシール材106の軸方向外側面までの距離を測定することで、シールリング102が正規の位置に組み付けられているか否かを確認することも考えられるが、シール材106の各部の寸法公差自体が大きいため、シールリング102が正規の位置に組み付けられているか否かを正確に確認することは難しい。
【0030】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、シールリングが正規の位置に組み付けられているか否かを容易にかつ正確に確認することができる、ハブユニット軸受及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シールリングとを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有する。
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定された金属製で円環状の芯金と、該芯金に結合固定された弾性材製のシール材とを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
前記芯金は、前記外輪の軸方向外側の端面に沿って径方向に伸長した外向鍔部と、前記外向鍔部の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長した補強筒部と、を有している。
前記シール材は、前記外向鍔部の軸方向外側面を覆った外側覆い部と、前記外向鍔部の軸方向内側面を覆った内側覆い部と、前記外輪の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出し、かつ、前記補強筒部により補強されるとともに、内周面の少なくとも一部を前記外輪の軸方向外側の端部外周面に接触させた堰部と、を有している。
前記外向鍔部は、軸方向に貫通した芯金側通孔を有している。
前記外側覆い部は、円周方向に関する位相が前記芯金側通孔と一致する部分に、軸方向に貫通したシール側通孔を有している。
前記内側覆い部は、円周方向に関する位相が前記芯金側通孔及び前記シール側通孔のそれぞれと一致する部分に、自由状態で軸方向内側に向けて膨らんでおり、かつ、前記外輪の軸方向外側の端面との接触により弾性的に潰れる、形状変化部を有している。
【0032】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記シール材を、前記形状変化部の軸方向外側面から軸方向外側に向け突出し、かつ、前記芯金側通孔及び前記シール側通孔のそれぞれを挿通した、確認用突起部を有するものとすることができる。
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記補強筒部の軸方向内側部に、切り欠きを設けることができる。
【0033】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受の製造方法は、本発明の一態様にかかるハブユニット軸受の製造方法であり、前記外側覆い部の軸方向外側面から前記形状変化部の軸方向外側面までの距離を測定することにより、前記外輪に対する前記シールリングの組み付け位置が適正か否かを確認する工程を備える。
【0034】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受の製造方法は、本発明の一態様にかかるハブユニット軸受の製造方法であり、前記外側覆い部の軸方向外側面に対する前記確認用突起部の軸方向外側の端面の軸方向位置を確認することにより、前記外輪に対する前記シールリングの組み付け位置が適正か否かを確認する工程を備える。
【発明の効果】
【0035】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受及びその製造方法によれば、シールリングが正規の位置に組み付けられているか否かを容易にかつ正確に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例のハブユニット軸受に組み込まれるシールリングを取り出し、各部の形状を自由状態で示す、断面図である
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例のハブユニット軸受に組み込まれるシールリングを製造するための加硫成形工程の1例を示す部分断面図である。
【
図5】
図5(A)及び
図5(B)は、実施の形態の第1例のハブユニット軸受の製造工程のうち、シールリングを外輪に組み付ける工程を工程順に示す断面図である。
【
図6】
図6(A)及び
図6(B)は、実施の形態の第1例に関して、シールリングが正規の位置に組み付けられているか否かを確認する工程を示す断面図であり、
図6(A)は正規の位置に組み付けられている場合を示し、
図6(B)は正規の位置に組み付けられていない場合を示す。
【
図7】
図7は、実施の形態の第2例を示す、
図3に相当する図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第2例を示す、
図5に相当する図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の第2例を示す、
図6に相当する図である。
【
図10】
図10は、従来構造のハブユニット軸受に組み込まれたシールリングを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図6を用いて説明する。
【0038】
本発明のハブユニット軸受は、各種構造のハブユニット軸受に適用可能であるが、本例では、駆動輪用のハブユニット軸受に適用した場合について説明する。
【0039】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シールリング5とを備える。
【0040】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側に位置する
図1~
図3、
図5及び
図6の左側を、軸方向外側といい、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側に位置する
図1~
図3、
図5及び
図6の右側を、軸方向内側という。
【0041】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有する。外輪2は、軸方向外側を向いた端面7を有する。本例では、外輪2の軸方向外側の端面7は、外輪2の中心軸に直交する円輪状の平面により構成されている。
【0042】
さらに、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ8を有する。静止フランジ8は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔9を有する。本例では、支持孔9は、ねじ孔により構成されている。
【0043】
外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ8の支持孔9に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0044】
ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道10a、10bを有する。さらに、ハブ3は、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に突出した回転フランジ11を有する。また、ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部12を有し、かつ、中心部に、軸方向に貫通したスプライン孔13を有する。ハブ3は、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。
【0045】
ハブ3は、外周面のうち、回転フランジ11と軸方向外側の内輪軌道10aとの間に位置する部分に、溝肩部14を有する。溝肩部14は、回転フランジ11の軸方向内側面の径方向内側の端部に直接つながっており、かつ、軸方向外側の内輪軌道10aに直接つながっている。溝肩部14は、円筒面状に構成されている。
【0046】
回転フランジ11は、軸方向内側面に、径方向内側から順に、曲面部15と、内径側平面部16と、段部17と、外径側平面部18とを有する。
【0047】
曲面部15は、回転フランジ11の軸方向内側面の径方向内側の端部に備えられており、凹円弧形の断面形状を有する。曲面部15は、ハブ3の外周面に備えられた溝肩部14につながっている。内径側平面部16は、回転フランジ11の軸方向内側面の径方向内側部に備えられており、ハブ3の中心軸に直交する円輪状の平面により構成されている。段部17は、回転フランジ11の軸方向内側面の径方向中間部に備えられている。段部17は、内径側平面部16の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて伸長する、径方向外側を向いた略円すい筒面により構成されている。外径側平面部18は、回転フランジ11の軸方向内側面の径方向外側部に備えられており、ハブ3の中心軸に直交する円輪状の平面により構成されている。
【0048】
回転フランジ11は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔19を有する。取付孔19には、図示しないスタッドが圧入される。
【0049】
ブレーキディスクなどの制動用回転体及び車輪のホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、パイロット部12を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、取付孔19に圧入されたスタッドを挿通した状態で、スタッドの先端部に不図示のハブナットを螺合することにより、回転フランジ11に結合固定される。
【0050】
なお、回転フランジの取付孔を、ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に軸方向外側から螺合することにより、制動用回転体及び車輪を回転フランジに結合固定する。
【0051】
回転フランジ11は、円周方向に関して取付孔19から外れた部分に、ねじ孔20を有する。ねじ孔20は、回転フランジ11から制動用回転体を取り外す際に、図示しない押しボルトが螺合される。
【0052】
スプライン孔13には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動する駆動軸の先端部がスプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ3を回転駆動することで、ハブ3の回転フランジ11に結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0053】
本例では、ハブ3は、内輪21とハブ輪22とを組み合わせてなる。
【0054】
内輪21は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪21は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道10bを有する。
【0055】
ハブ輪22は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪22は、軸方向外側の内輪軌道10aと、回転フランジ11と、パイロット部12と、スプライン孔13と、溝肩部14とを備える。
【0056】
さらに、ハブ輪22は、軸方向外側の内輪軌道10aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪21が外嵌される小径段部23を有する。さらに、ハブ輪22は、小径段部23の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面24を有し、かつ、小径段部23の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部25を有する。
【0057】
ハブ3は、ハブ輪22の小径段部23に内輪21を外嵌し、かつ、ハブ輪22の段差面24とかしめ部25との間で内輪21を軸方向両側から挟持することにより、内輪21とハブ輪22とを結合固定することで構成されている。なお、ハブ輪からかしめ部を省略し、スプライン孔13に挿入される駆動軸を備えたジョイント外輪と、段差面24との間で、内輪21を軸方向両側から挟持することもできる。
【0058】
本例のハブユニット軸受1は、駆動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔13を備えている。ただし、本発明の一態様のハブユニット軸受は、中実状のハブを備えた従動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0059】
転動体4a、4bは、軸受鋼などの鉄合金製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道10a、10bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器26a、26bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0060】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備える。ただし、本発明の一態様のハブユニット軸受は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径よりも大きい又は小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0061】
シールリング5は、外輪2の軸方向外側の端部に取り付けられ、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間27の軸方向外側の開口を塞いでいる。
【0062】
シールリング5は、外輪2の軸方向外側の端部に固定された金属製で円環状の芯金28と、該芯金28に結合固定された弾性材製のシール材29とを有する。
【0063】
芯金28は、軟鋼板などの金属板をプレス加工により曲げ形成することで、全体を円環状に構成されている。
【0064】
芯金28は、シール嵌合筒部30と、外向鍔部31と、補強筒部32と、支持板部33とを有する。
【0065】
シール嵌合筒部30は、円筒形状を有しており、外輪2の軸方向外側の端部内周面に圧入により内嵌固定されている。外向鍔部31は、円輪形状を有しており、シール嵌合筒部30の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がり、外輪2の軸方向外側の端面に沿って径方向外側に伸長している。補強筒部32は、略円筒形状を有しており、外向鍔部31の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長している。支持板部33は、略クランク形の断面形状を有し、径方向外側の端部がシール嵌合筒部30の軸方向内側の端部につながっている。
【0066】
本例では、外向鍔部31は、軸方向に貫通した芯金側通孔34を有する。図示の例では、外向鍔部31は、径方向中間部の円周方向1箇所に、芯金側通孔34を有している。芯金側通孔34は、軸方向内側から見た形状が円形の円孔である。
【0067】
芯金側通孔34の中心軸O34は、外輪2の軸方向外側の端面7と対向する位置に配置されている。図示の例では、芯金側通孔34の中心軸O34は、外輪2の軸方向外側の端面7の径方向中間部と対向している。また、芯金側通孔34の内径d34は、外輪2の軸方向外側の端面7の径方向幅よりも小さい。図示の例では、芯金側通孔34の内径d34は、外輪2の軸方向外側の端面7の径方向幅の1/3程度の大きさを有する。
【0068】
芯金側通孔の形状は、円孔に限定されず、例えば、楕円孔、長円孔、多角形孔、又は、シールリング5の中心軸を中心とする円弧孔などとすることができる。また、芯金側通孔の数は、1つに限定されず、複数設けることもできる。芯金側通孔を複数設ける場合には、複数の芯金側通孔を、円周方向に関して等間隔に配置することができる。
【0069】
補強筒部32は、軸方向内側部の円周方向1乃至複数箇所に、切り欠き部35を有する。切り欠き部35は、シールリング5を加硫成形する際に、芯金28と加硫成形型との位相決めに利用される。
【0070】
シール材29は、ゴムの如きエラストマーなどの弾性材料により構成(例えば加硫成形)されており、芯金28に結合固定されている。
【0071】
シール材29は、シール基部36と、シールリップ37a、37b、37cと、外側覆い部38と、内側覆い部39と、堰部40と、庇リップ41とを備える。なお、
図3には、シール材29の各部の形状を、シールリング5を外輪2とハブ3との間に組み付ける以前の自由状態で示している。
【0072】
シール基部36は、芯金28の表面のうち、シール嵌合筒部30の内周面と、支持板部33の軸方向外側面、内周面、及び軸方向内側面の径方向内側部とを覆うように、芯金28に結合固定されている。
【0073】
シールリップ37a、37b、37cのそれぞれは、先端部を、回転フランジ11の軸方向内側面又はハブ3の外周面の軸方向中間部に摺接させている。本例では、シール材29は、3本のシールリップ37a、37b、37cを有する。ただし、シールリップの本数は、3本よりも少なくあるいは多くすることもできる。
【0074】
3本のシールリップ37a、37b、37cのうち、最も径方向外側のシールリップ37aは、シール基部36のうちで支持板部33の径方向中間部の軸方向外側面を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、回転フランジ11の内径側平面部16に先端部を摺接させている。径方向外側から2番目のシールリップ37bは、シール基部36のうちで支持板部33の内周面を覆う部分から軸方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、回転フランジ11の曲面部15に先端部を摺接させている。最も径方向内側のシールリップ37cは、シール基部36のうちで支持板部33の内周面を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、溝肩部14の外周面に先端部を摺接させている。
【0075】
外側覆い部38は、芯金28の表面のうち、外向鍔部31の軸方向外側面を覆うように、芯金28に結合固定されている。図示の例では、外側覆い部38は、外向鍔部31の軸方向外側面の径方向内側の端部から径方向中間部にわたる範囲を覆っている。外側覆い部38の径方向内側の端部は、シール基部36につながっている。
【0076】
外側覆い部38の軸方向厚さt38は、芯金28を構成する外向鍔部31の軸方向厚さt31と同じかよりもそれよりも大きい(t38≧t31)。
【0077】
本例では、外側覆い部38は、円周方向に関する位相が芯金側通孔34と一致する部分に、軸方向に貫通したシール側通孔42を有する。シール側通孔42は、芯金側通孔34と同数備えられている。このため、図示の例では、外側覆い部38は、シール側通孔42を1つ有している。シール側通孔42は、軸方向内側から見た形状が円形の円孔である。
【0078】
シール側通孔42の中心軸O
42は、芯金側通孔34の中心軸O
34と同軸に配置されており、外輪2の軸方向外側の端面7と対向する位置に配置されている。また、
図4に示すように、加硫成形時に、上型54と芯金28の外向鍔部31との間に画成される外側覆い部38を形成するための第1キャビディ55と、下型56と芯金28の外向鍔部31との間に画成される内側覆い部39を形成する第2キャビティ57とを連続させる必要があることから、シール側通孔42の内径d
42は、芯金側通孔34の内径d
34よりも小さくなる(d
42<d
34)。ただし、芯金側通孔34の内周面は、加硫成形後にシール材29により被覆される。そして、シール材29により芯金側通孔34の内周面を被覆した部分の内径は、シール側通孔内径d
42の内径と同じになり、外輪2の軸方向外側の端面7の径方向幅よりも小さくなる。
【0079】
シール側通孔の形状は、円孔に限定されず、例えば、楕円孔、長円孔、多角形孔、又は、シールリング5の中心軸を中心とする円弧孔などとすることができる。また、シール側通孔の数は、1つに限定されず、芯金側通孔と同様に複数設けることもできる。シール側通孔を複数設ける場合には、複数のシール側通孔を、円周方向に関して等間隔に配置することができる。
【0080】
内側覆い部39は、芯金28の表面のうち、外向鍔部31の軸方向内側面を覆うように、芯金28に結合固定されている。図示の例では、内側覆い部39は、外向鍔部31の軸方向内側面の径方向中間部を覆っている。
【0081】
内側覆い部39は、基部43と、ガスケット部44と、形状変化部45とを有している。
【0082】
基部43は、矩形状の断面形状を有しており、全体が円環平板状に構成されている。
【0083】
基部43の軸方向厚さt43は、径方向にわたりほぼ一定であり、外側覆い部38の軸方向厚さt38よりも十分に小さい(t43<t38)。具体的には、内側覆い部39の基部43の軸方向厚さt43は、外側覆い部38の軸方向厚さt38の1/6以上1/4以下である。
【0084】
図2及び
図6(A)に示すように、シールリング5を外輪2に対し正規の位置に組み付けた状態で、基部43の軸方向内側面は、外輪2の軸方向外側の端面7に面接触する。
【0085】
ガスケット部44は、基部43の軸方向内側面の径方向内側部に備えられており、基部43の軸方向内側面から軸方向内側に向けて突出している。ガスケット部44は、中実状で、全体が円環状に構成されている。ガスケット部44は、
図3に示すように、自由状態で、軸方向内側に向かうほど径方向幅が小さくなる、略三角形の断面形状を有する。
【0086】
ガスケット部44は、シールリング5を外輪2に対し正規の位置に組み付けた状態で、外輪2の軸方向外側の端面7に対し締め代を持って接触する。これにより、外輪2の軸方向外側の端面7と内側覆い部39の軸方向内側面との間部分を通じて、外部空間から転動体設置空間27に泥水などの異物が侵入することを防ぐとともに、転動体設置空間27内に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防ぐ。
【0087】
形状変化部45は、基部43のうちで、円周方向に関する位相が芯金側通孔34及びシール側通孔42のそれぞれと一致する部分に備えられている。形状変化部45は、芯金側通孔34及びシール側通孔42のそれぞれと同数備えられている。このため、図示の例では、形状変化部45は、1つ備えられている。形状変化部45は、基部43の径方向中間部に備えられており、ガスケット部44よりも径方向外側に位置している。
【0088】
形状変化部45は、
図3に示すように、自由状態で、軸方向内側に向け膨らんでおり、基部43の軸方向内側面よりも軸方向内側に突出している。図示の例では、形状変化部45は、自由状態で、シールリング5の中心軸を含む断面の断面形状が、軸方向内側に凸となり、かつ、軸方向外側に凹となった円弧板形(扇形)である。また、自由状態で、形状変化部45の軸方向内側の端部の軸方向位置は、ガスケット部44の軸方向内側の端部の軸方向位置と、ほぼ同じである。基部43の軸方向内側面からの形状変化部45の突出量は、0.3mm以上0.8mm以下、好ましくは0.4mm以上0.6mm以下である。
【0089】
図示の例では、形状変化部45は、自由状態で、部分球殻形状(略半球殻形状)を有しており、軸方向から見た輪郭形状が円形である。また、形状変化部45の軸方向内側面は、部分球状凸面であり、形状変化部45の軸方向外側面(底面)は、部分球状凹面である。形状変化部45の曲率中心は、芯金側通孔34及びシール側通孔42のそれぞれの中心軸O34、O42上に位置している。形状変化部45の軸方向内側の開口部の内径d45は、シール側通孔42の内径d42、及び、シール材29により芯金側通孔34の内周面を被覆した部分の内径とほぼ同じである(d45=d42)。
【0090】
形状変化部45は、自由状態で軸方向内側に膨らんだ形状を有しているが、外輪2の軸方向外側の端面7との接触により弾性的に潰れる。具体的には、形状変化部45は、シールリング5の組み付け作業時に、外輪2の軸方向外側の端面7に接触することで、当該接触した部分の断面形状が端面7に沿って略平板状に弾性変形する。
【0091】
本例では、形状変化部45は、
図2及び
図6(A)に示すように、シールリング5を外輪2に対し正規の位置に組み付けた状態で、全体が弾性的に潰れて略平板状になる。この状態で、形状変化部45の軸方向外側面は、外向鍔部31の軸方向内側面とほぼ同一平面上に位置する。
【0092】
これに対し、
図6(B)に示すように、シールリング5が外輪2に対し正規の位置に組み付けられておらず、外輪2の軸方向外側の端面7と内側覆い部39を構成する基部43の軸方向内側面との間に隙間が存在している場合には、形状変化部45は、端面7に接触した部分のみが弾性的に潰れて略平板状になる。このため、形状変化部45の軸方向外側面の中央に位置する平面部は、外向鍔部31の軸方向外側面よりも軸方向内側に位置する。
【0093】
図示の例では、形状変化部45の軸方向厚さt
45は、基部43の軸方向厚さt
43とほぼ同じである(
図3及び
図4参照)。ただし、形状変化部の軸方向厚さは、基板部の軸方向厚さよりも薄くしても良い。
【0094】
形状変化部の自由状態での形状(断面形状を含む)は、図示の形状に限定されず、自由状態で、軸方向内側に向けて膨らんでおり、かつ、外輪の軸方向内側の端面との接触により弾性的に潰れるものであれば、その他の形状を採用できる。
【0095】
堰部40は、シールリング5の径方向外側部に備えられている。堰部40は、外輪2の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出している。堰部40は、外輪2の外周面に沿って軸方向外側に流れてきた泥水を堰き止めることで、該泥水が外輪2の軸方向外側の端面と回転フランジ11の軸方向内側面との間に侵入することを防止する。
【0096】
堰部40は、外輪2の軸方向外側の端面よりも軸方向外側に配置された円環状の堰部本体46と、外輪2の軸方向外側の端部の径方向外側に配置された略円筒状の堰部張出体47とを有する。
【0097】
堰部本体46は、外向鍔部31の径方向外側の端部に結合固定されており、外向鍔部31の軸方向外側面の径方向外側の端部、及び外周面を覆っている。このため、堰部本体46は、外向鍔部31の径方向外側の端部によって補強されている。
【0098】
堰部張出体47は、外向鍔部31の径方向外側の端部、及び、補強筒部32に結合固定されている。そして、堰部張出体47は、外向鍔部31の軸方向内側面の径方向外側の端部、及び、補強筒部32の内外両周面を覆っている。このため、堰部張出体47は、外向鍔部31の径方向外側の端部及び補強筒部32によって補強されている。
【0099】
堰部張出体47は、内周面にリップ部48を有する。リップ部48の先端部は、外輪2の軸方向外側の端部外周面に対して締め代を持って接触している。
【0100】
庇リップ41は、堰部本体46の外周面から軸方向外側に向けて伸長し、かつ、回転フランジ11の軸方向内側面に備えられた外径側平面部18に先端部を近接対向させている。庇リップ41は、軸方向外側に向かうほど径方向幅が小さくなる、略三角形の断面形状を有している。また、庇リップ41は、略円筒面状の外周面を有しており、堰部40を構成する堰部張出体47よりも大きな外径を有する。
【0101】
本例では、上述のようなシールリング5を設置することで、外輪2の軸方向外側の端面7と回転フランジ11の軸方向内側面との間を通じて、外部空間から泥水などの異物が転動体設置空間27に侵入したり、転動体設置空間27に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0102】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間27の軸方向内側の開口部を塞ぐ組み合わせシールリング49(
図1参照)をさらに備える。これにより、該開口部を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間27に侵入したり、転動体設置空間27に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0103】
本例のハブユニット軸受1を組み立てる際には、
図5(A)→(B)に示すように、外輪2の内周面に備えられた外輪軌道6aの径方向内側に、転動体4aを保持器26aにより保持してなる組立体50を配置した後、外輪2とハブ輪22(
図1参照)とを組み合わせる前に、シールリング5を外輪2に対して軸方向外側から圧入により組み付ける。
【0104】
具体的には、シールリング5と外輪2とを同軸に配置した状態で、円環形状を有する押圧治具51により、外側覆い部38の軸方向外側面を軸方向内側に向けて押圧することで、シール嵌合筒部30の外周面と堰部張出体47の内周面との間に、外輪2の軸方向外側の端部を圧入する。
【0105】
シールリング5と外輪2に対し組み付けたならば、
図6に示すように、シールリング5に備えられた芯金側通孔34及びシール側通孔42に、軸方向外側から確認用治具52を挿入する。そして、確認用治具52の軸方向内側の端面を形状変化部45の軸方向外側面(底面)に当接させる。
【0106】
確認用治具52は、円柱形状を有しており、シール側通孔42の内径d42よりもわずかに小さい外径D52を有する。また、確認用治具52は、平面状の軸方向内側の端面(先端面)を有する。なお、確認用治具の軸方向内側の端部を、先細形状とすることもできる。
【0107】
確認用治具52の軸方向内側の端面が形状変化部45の軸方向外側面に当接したならば、確認用治具52の外周面に備えられた目盛などを利用して、確認用治具52の挿入量、すなわち、外側覆い部38の軸方向外側面から形状変化部45の軸方向外側面までの距離Lを測定する。
【0108】
そして、
図6(A)に示したように、測定距離Lが、外側覆い部38の軸方向厚さt
38と外向鍔部31の軸方向厚さt
31との和に略一致した場合(L≒t
38+t
31)には、シールリング5が、外輪2に対し、内側覆い部39を構成する基部43の軸方向内側面が外輪2の軸方向外側の端面7に接触する正規の位置に組み付けられていると判定する。
【0109】
これに対し、
図6(B)に示すように、測定距離Lが、外側覆い部38の軸方向厚さt
38と外向鍔部31の軸方向厚さt
31との和よりも大きい場合(L>t
38+t
31)には、内側覆い部39を構成する基部43の軸方向内側面と外輪2の軸方向外側の端面7との間に隙間が存在し、シールリング5は正規の位置に組み付けられていないと判定する。具体的には、例えば、測定距離Lが、外側覆い部38の軸方向厚さt
38と外向鍔部31の軸方向厚さt
31との和よりも、0.2mm以上、好ましくは0.1mm以上、大きい場合には、シールリング5は正規の位置に組み付けられていないと判定することができる。
【0110】
シールリング5が正規の位置に組み付けられていないと判定した場合には、押圧治具51を用いた組み付け作業(押圧作業)を再開する。そして、測定距離Lが、外側覆い部38の軸方向厚さt38と外向鍔部31の軸方向厚さt31との和に略一致するまで、確認用治具52を用いた確認作業と押圧治具51を用いた組み付け作業とを繰り返す。
【0111】
本例のハブユニット軸受1によれば、シールリング5が正規の位置に組み付けられているか否かを、容易にかつ正確に確認することができる。
すなわち、本例では、シールリング5を構成する弾性材製の内側覆い部39に、自由状態で軸方向内側に向けて膨らんでおり、かつ、外輪2の軸方向外側の端面7との接触により弾性的に潰れる形状変化部45を設けるとともに、外向鍔部31及び外側覆い部38のうちで、円周方向に関する位相が形状変化部45と一致する部分に、芯金側通孔34及びシール側通孔42をそれぞれ設けている。このため、シールリング5を外輪2に組み付けた後に、芯金側通孔34及びシール側通孔42を利用して、外側覆い部38の軸方向外側面から形状変化部45の軸方向外側面までの距離を容易に測定することができる。
【0112】
外側覆い部38の軸方向外側面から形状変化部45の軸方向外側面までの距離は、シールリング5が正規の位置に組み付けられている場合には、外側覆い部38の軸方向厚さt38と外向鍔部31の軸方向厚さt31との和に略一致するのに対し、シールリング5が正規の位置に組み付けられていない場合には、外側覆い部38の軸方向厚さt38と外向鍔部31の軸方向厚さt31との和よりも大きくなる。したがって、外側覆い部38の軸方向外側面から形状変化部45の軸方向外側面までの距離を測定することで、シールリング5が正規の位置に組み付けられているか否かを容易にかつ正確に確認することができる。
【0113】
この結果、本例のハブユニット軸受1によれば、シールトルクの増大や密封性能の低下といった問題が生じることを防止できるとともに、嵌合力不足に起因して、シールリング5が外輪2に対し、クリープしたり、軸方向位置がずれたりするといった問題が生じることも防止できる。
【0114】
また、本例では、シールリング5と外輪2との間に生じる圧入抵抗や、外向鍔部31と外輪2の軸方向外側の端面7との間に溜まる空気の影響で、シールリング5の組み付けに際して大きな力が必要になるが、形状変化部45を利用することで、外輪2に対するシールリング5の軸方向の相対位置を正確に把握できる。このため、シールリング5の軸方向位置に応じて押圧治具51による押圧力を変化させるなどの管理が可能になり、シールリング5の損傷を防止できるとともに、シールリング5の組み付け作業の作業効率の向上を図れる。
【0115】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図7~
図9を用いて説明する。
【0116】
本例は、実施の形態の第1例の変形例であり、シールリング5aの構造を、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0117】
本例のシールリング5aは、内側覆い部39を構成する形状変化部45の軸方向外側面に、確認用突起部53を有する。確認用突起部53は、形状変化部45の軸方向外側面の中央部から軸方向外側に向けて突出し、かつ、芯金側通孔34及びシール側通孔42のそれぞれを挿通している。
【0118】
確認用突起部53は、略円柱形状を有している。確認用突起部53の軸方向寸法L53は、外側覆い部38の軸方向厚さt38と芯金28の外向鍔部31の軸方向厚さt31との和に略一致する(L53≒t38+t31)。また、確認用突起部53は、シール側通孔42の内径d42よりも小さい外径D53を有する(D53<d42)。また、確認用突起部53は、平面状の軸方向外側の端面(先端面)を有する。
【0119】
本例の場合には、
図8(A)→(B)に示すようにして、シールリング5aを外輪2に対し軸方向外側から圧入により組み付けた後、
図9に示すようにして、外側覆い部38の軸方向外側面に対する確認用突起部53の軸方向外側の端面の軸方向位置を確認する。具体的には、外側覆い部38の軸方向外側面と確認用突起部53の軸方向外側の端面との軸方向に関する位置関係を、外観することにより、又は、作業者が手で触れることにより確認する。
【0120】
そして、
図9(A)に示すように、外側覆い部38の軸方向外側面と確認用突起部53の軸方向外側の端面とが、略同一平面上に位置している(略面一である)場合には、シールリング5aが正規の位置に組み付けられていると判定する。
【0121】
これに対し、
図9(B)に示すように、確認用突起部53の軸方向外側の端面が、外側覆い部38の軸方向外側面よりも軸方向内側に位置している場合には、内側覆い部39を構成する基部43の軸方向内側面と外輪2の軸方向外側の端面7との間に隙間が存在し、シールリング5aは正規の位置に組み付けられていないと判定する。具体的には、例えば、確認用突起部53の軸方向外側の端面が、外側覆い部38の軸方向外側面よりも、0.2mm以上、好ましくは0.1mm以上、軸方向内側に位置している場合には、シールリング5aは正規の位置に組み付けられていないと判定することができる。
【0122】
シールリング5aが正規の位置に組み付けられていないと判定した場合には、押圧治具51を用いた組み付け作業を再開する。そして、外側覆い部38の軸方向外側面と確認用突起部53の軸方向外側の端面とが略同一平面上に位置するまで、押圧治具51を用いた組み付け作業と確認作業とを繰り返す。
【0123】
以上のような本例の場合にも、シールリング5aが正規の位置に組み付けられているか否かを、容易にかつ正確に確認することができる。しかも、本例の場合には、実施の形態の第1例で使用する確認用治具52(
図6参照)を使用せずに、外観検査又は触覚検査により、シールリング5aが正規の位置に組み付けられているか否かを確認できるため、作業工数の低減を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0124】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術思想は、実施の形態で説明した構造に限定されない。例えば、シールリングを構成する芯金の形状、堰部の形状及びシールリップの本数などについては、適宜変更することができる
【符号の説明】
【0125】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5、5a シールリング
6a、6b 外輪軌道
7 端面
8 静止フランジ
9 支持孔
10a、10b 内輪軌道
11 回転フランジ
12 パイロット部
13 スプライン孔
14 溝肩部
15 曲面部
16 内径側平面部
17 段部
18 外径側平面部
19 取付孔
20 ねじ孔
21 内輪
22 ハブ輪
23 小径段部
24 段差面
25 かしめ部
26a、26b 保持器
27 転動体設置空間
28 芯金
29 シール材
30 シール嵌合筒部
31 外向鍔部
32 補強筒部
33 支持板部
34 芯金側通孔
35 切り欠き部
36 シール基部
37a、37b、37c シールリップ
38 外側覆い部
39 内側覆い部
40 堰部
41 庇リップ
42 シール側通孔
43 基部
44 ガスケット部
45 形状変化部
46 堰部本体
47 堰部張出体
48 リップ部
49 組み合わせシールリング
50 組立体
51 押圧治具
52 確認用治具
53 確認用突起部
54 上型
55 第1キャビティ
56 下型
57 第2キャビティ
100 ハブユニット軸受
101 転動体設置空間
102 シールリング
103 外輪
104 ハブ
105 芯金
106 シール材
107 シール嵌合筒部
108 外向鍔部
109 補強筒部
110 支持板部
111a、111b、111c、111d シールリップ
112 堰部
113 庇リップ
114 外側覆い部
115 回転フランジ
116 堰部本体
117 堰部張出体
118 リップ部