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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102961
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240725BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240725BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20240725BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240725BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240725BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013 ZBP
C08L67/00
C08K5/20
B29C45/00
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007063
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000236584
【氏名又は名称】不易糊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003465
【氏名又は名称】弁理士法人OHSHIMA&ASSOCIATES
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝也
(72)【発明者】
【氏名】神崎 智至
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4F206AA24
4F206AB07
4F206AB11
4F206AB19
4F206JA07
4F206JL02
4F206JQ81
4J002AB012
4J002AB042
4J002CF031
4J002DA036
4J002DD066
4J002DE116
4J002DE136
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002EP017
4J002EP027
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD177
4J200AA04
4J200AA16
4J200BA10
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】生分解性樹脂、フィラー及び滑剤を含有する射出成形用の樹脂組成物であって、良好な離型性と成形体の平滑性をバランスよく両立することで優れた成形性を有する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】生分解性樹脂(A)と、フィラー(B)と、滑剤(C)とを含有する樹脂組成物であって、前記フィラー(B)は、前記生分解性樹脂(A)100質量部に対して5質量部~100質量部配合され、前記滑剤(C)は、脂肪酸モノアミド(C1)と、脂肪酸ビスアミド(C2)とを質量比で(C1):(C2)=20:80~95:5の割合で含有し、前記滑剤(C)が前記樹脂組成物全体に対して0.5質量%~5.0質量%配合された構成とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂(A)と、フィラー(B)と、滑剤(C)とを含有する樹脂組成物であって、
前記フィラー(B)は、前記生分解性樹脂(A)100質量部に対して5質量部~100質量部配合され、
前記滑剤(C)は、脂肪酸モノアミド(C1)と、脂肪酸ビスアミド(C2)とを質量比で(C1):(C2)=20:80~95:5の割合で含有し、前記滑剤(C)が前記樹脂組成物全体に対して0.5質量%~5.0質量%配合された、
射出成形用の樹脂組成物。
【請求項2】
前記フィラー(B)は、有機フィラー及び無機フィラーのうち少なくとも有機フィラーを含む請求項1に記載の射出成形用の樹脂組成物。
【請求項3】
前記生分解性樹脂(A)は、脂肪族ポリエステル及び脂肪族芳香族ポリエステルのうち少なくともいずれかを含有する請求項1に記載の射出成形用の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂、フィラー及び滑剤を含有する射出成形用の樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリオレフィンやポリ塩化ビニル等のプラスチック製品は、自然環境下で分解せずに残存して環境負荷となることが問題となっている。この問題を解決するため、生分解性を備えた樹脂の開発が進んでいる。ここで、生分解性とは微生物の作用により最終的に水と二酸化炭素とに分解する性質を意味する。
【0003】
特許文献1には、生分解性樹脂に、環境負荷とならないフィラーを混合した生分解性樹脂組成物が開示されている。上記生分解性樹脂組成物においては、樹脂組成物全体に対する生分解性樹脂の含有量を低減するとともに、生分解性樹脂が微生物と接触する表面積が増大して生分解速度を向上させることが可能とされている(段落0023参照)。
【0004】
しかし、樹脂組成物中のフィラー添加量が増加すると、溶融時の流動性が低下する。特に、樹脂組成物を射出成形する場合、成形不良を起こしやすいといった問題があった。具体的には、金型からの離型性が低下したり、成形体の平滑性が低下する(成形体表面に凹凸が生じる、あるいはヒケが生じる)という問題があった。このような問題を解決するものとして、特許文献2においては、特定の生分解性樹脂に植物由来フィラーを配合した海洋資材が開示されている。上記海洋資材においては、特定の生分解性樹脂を組合せるとともに、植物由来フィラーの配合比を特定割合とすることで、成形不良を抑制可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-145600号公報
【特許文献2】特開2021-161434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2では、特定の生分解性樹脂の使用を前提としており、その他の生分解性樹脂を使用する場合に応用できるものではない。また、樹脂組成物には一般的に溶融時の流動性を高める目的で滑剤が配合されるものの、滑剤を単に配合しただけでは良好な離型性と成形体の平滑性をバランスよく両立することが難しく、より成形性に優れた組成物が求められていた。
【0007】
そこで、本発明においては、生分解性樹脂、フィラー及び滑剤を含有する射出成形用の樹脂組成物であって、良好な離型性と成形体の平滑性をバランスよく両立することで優れた成形性を有する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様としての樹脂組成物は、生分解性樹脂(A)と、フィラー(B)と、滑剤(C)とを含有し、
前記フィラー(B)は、前記生分解性樹脂(A)100質量部に対して5質量部~100質量部配合され、
前記滑剤(C)は、脂肪酸モノアミド(C1)と、脂肪酸ビスアミド(C2)とを質量比で(C1):(C2)=20:80~95:5の割合で含有し、前記滑剤(C)が前記樹脂組成物全体に対して0.5質量%~5.0質量%配合された構成とする。
【0009】
前記フィラー(B)は、有機フィラー及び無機フィラーのうち少なくとも有機フィラーを含む構成としてもよい。
【0010】
前記生分解性樹脂(A)は、脂肪族ポリエステル及び脂肪族芳香族ポリエステルのうち少なくともいずれかを含有する構成としてもよい。
【0011】
前記樹脂組成物は、射出成形することで樹脂成形体を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
上記態様によれば、滑剤として脂肪酸モノアミドと、脂肪酸ビスアミドとを所定の割合で併用することにより、優れた成形性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の射出成形用の生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂(A)と、フィラー(B)と、滑剤(C)とを含有し、フィラー(B)は、生分解性樹脂(A)100質量部に対して5質量部~100質量部配合され、滑剤(C)は、脂肪酸モノアミド(C1)と、脂肪酸ビスアミド(C2)とを質量比で(C1):(C2)=20:80~95:5の割合で含有し、滑剤(C)が前記樹脂組成物全体に対して0.5質量%~5.0質量%配合されてなる。
【0014】
本発明の生分解性樹脂組成物で用いられる生分解性樹脂(A)の種類に特に制限はないが、優れた生分解性を有するポリエステル系樹脂を用いるのが好ましい。生分解性を有するポリエステル系樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂や、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂や、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂を挙げることができる。
【0015】
脂肪族ポリエステル系樹脂は、たとえば、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを縮合重合して得ることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数2~8のアルキレンジカルボン酸であることが好ましく、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸等を挙げることができる。脂肪族ジオールとしては、炭素数2~4のアルキレングリコールであることが好ましく、具体的には、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等を挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを縮合重合して得られる脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)などが挙げられる。
【0016】
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂を構成する脂肪族オキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、6-ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。これら脂肪族オキシカルボン酸は単独でも、2種以上の混合物として使用することもできる。脂肪族オキシカルボン酸系樹脂としては、ポリ乳酸が好適に用いられる。
【0017】
脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂は、たとえば、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを重縮合して得ることができる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸や脂肪族ジオールは、脂肪族ポリエステル系樹脂の原料として説明したものと同じものを用いることができる。脂肪族芳香族ポリエステルの具体例としては、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンセバケートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレート及びポリブチレンサクシネートテレフタレートなどが挙げられ、中でもPBATが好適に用いられる。
【0018】
本発明で用いられるPBATとしては、成形性の観点からすれば、密度が1.2g/cm~1.4cmであればよい。また、PBATのMFR(190℃/2.16kgf)としては、1.0g/10分~8.0g/10分であればよく、2.0g/10分~6.0g/10分であるのが好ましく、3.0g/10分~5.0g/10分であるのがより好ましい。また、PBATの融点としては110℃~130℃であればよく、115℃~125℃であることが好ましい。
【0019】
上述のごとく、生分解性樹脂(A)として、脂肪族ポリエステル系樹脂や、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂や、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂を1種又は2種以上を用いることができる。そのなかでも、ポリ乳酸は、ジャガイモ等の植物に含まれる澱粉を発酵させることにより得られた乳酸を重合させた植物由来の製品が上市されている。従って、生分解性樹脂(A)として、植物由来のポリ乳酸を用いれば、カーボンニュートラル化が可能となる点で好ましい。
【0020】
ポリ乳酸は、グレードにより密度、融点、MFR、D体含有量の異なる種々の製品が上市されている。成形性及び成形体の強度的観点からすれば、本発明で用いられるポリ乳酸の密度は1.2g/cm~1.4cmであればよく、1.2g/cm~1.3cmであるのが好ましい。ポリ乳酸の融点は、130℃~180℃であればよく、150℃~170℃であるのが好ましく、155℃~160℃であるのがより好ましい。ポリ乳酸のMFR(190℃/2.16kgf)は、1.0g/10分~10.0g/10分であればよく、3.0g/10分~8.0g/10分であるのが好ましく、4.0g/10分~6.0g/10分であるのがより好ましい。D体含有量は10%以下であればよく、5%以下であるのが好ましく、3%以下であるのがより好ましい。
【0021】
ただ、生分解性樹脂(A)としてポリ乳酸を単独で使用した場合は、射出成形後の成形体が硬くて脆くなる傾向にある。一方、脂肪族ポリエステルや、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを重縮合して得られる脂肪族芳香族ポリエステルは伸び性が良好で加工性に優れるという特性を備えている。
【0022】
そこで、生分解性樹脂(A)として、ポリ乳酸を使用する場合は、脂肪族ポリエステル系樹脂及び脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂のうち少なくともいずれかを併用するのが好ましい。ポリ乳酸と、併用するポリエステル系樹脂との割合は質量比でポリ乳酸:ポリエステル系樹脂=80:20~95:5とするのが好ましく、50:50~90:10とするのがより好ましい。上記配合割合とすることにより、剛性及び強靭性を備えた成形体を得ることができる。樹脂組成物全体に対する生分解性樹脂(A)の配合量は、40質量%~95質量%とすればよい。
【0023】
本発明の生分解性樹脂組成物で用いられるフィラー(B)は、有機フィラー及び無機フィラーのうち少なくとも有機フィラーを含む。有機フィラーとしては、澱粉、天然繊維、セルロース粉等を挙げることができる。澱粉としては、天然澱粉のほか、加工澱粉、変性澱粉、可塑化澱粉を用いることができる。加工澱粉としては、アルファー化澱粉、湿熱澱粉、デキストリン等を挙げることができる。変性澱粉としては、各種エステル化澱粉、各種架橋澱粉、各種エーテル化澱粉、アセト酢酸エステル化澱粉、酢酸エステル化澱粉、コハク酸エステル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、リン酸架橋澱粉、ホルムアルデヒド架橋澱粉、ヒドロキシメチルエーテル化澱粉、ヒドロキシプロピルエーテル化澱粉、カルボキシメチルエーテル化澱粉、アリルエーテル化澱粉、ヒドロキシメチルエーテル化澱粉、ヒドロキシプロピルエーテル化澱粉、カルボキシメチルエーテル化澱粉等を挙げることができる。
【0024】
フィラー(B)としては、上記有機フィラーのうち少なくとも1種を含む。有機フィラー自身が生分解性を有することから、樹脂組成物全体としての生分解性を高めるとともに生分解性樹脂(A)が微生物と接触する表面積が増大するため、生分解性樹脂(A)の生分解速度を向上させることができる。有機フィラーとしては経済性の観点から天然澱粉を用いるのが好ましい。フィラー(B)としては、有機フィラーのみ用いることができるほか、環境負荷とならない無機フィラーを併用することも可能である。
【0025】
無機フィラーとしては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ケイ酸塩、カーボンブラック、モンモリロナイト、カオリン、石膏、塩化カルシウム、酸化鉄、二酸化チタン、ドロマイト、珪灰石、雲母等を挙げることができる。
【0026】
フィラー(B)の配合量は、射出成形後の成形体の強度を維持する観点から、生分解性樹脂(A)100質量部に対して100質量部以下とすればよく、70質量部以下とするのが好ましく、60質量部以下とするのがより好ましい。また、フィラー(B)配合による効果を発揮させるためには、フィラー(B)の配合量は、生分解性樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上とすればよく、15質量部以上とするのが好ましく、30質量部以上とするのがより好ましい。なお、フィラー(B)として、澱粉を用いる場合、通常、澱粉は10質量%程度の水分を含有する。本明細書では、澱粉の質量は、絶乾重量に換算した値を用いている。ただ、実際に澱粉を樹脂組成物に配合する場合、特に断りのない限り、水の添加や予備乾燥は必要としない。
【0027】
通常、フィラー(B)として澱粉を配合する場合、澱粉の分散性を向上させるためにグリコール類や多糖類等の澱粉可塑剤が用いられることが多い。澱粉可塑剤は、グリセリン・エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール系や水、尿素などが挙げられる。
【0028】
しかしながら、多価アルコール類は粘稠液体で添加量の制御が難しく、また、多糖類は水への溶出が顕著であるといった問題が生じていた。本発明の樹脂組成物では後述する滑剤(C)の配合により、澱粉可塑剤を用いなくとも、あるいは、澱粉可塑剤の配合量が少なくても澱粉の分散性が良好で、ストランドや成形物に澱粉凝集体や変色は見られないという利点を有する。その結果、溶融混錬の際に低負荷の押し出しが可能になり、樹脂組成物に対して熱劣化の軽減が期待できる。
【0029】
本発明の生分解性樹脂組成物で用いられる滑剤(C)は、脂肪酸モノアミド(C1)と、脂肪酸ビスアミド(C2)とを含有する。脂肪酸モノアミド(C1)としては、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等を挙げることができる。なかでも、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミドを好適に用いることができる。
【0030】
脂肪酸ビスアミド(C2)としては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ビスステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ビスステアリルセバチン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバチン酸アミド等を挙げることができる。なかでも、エチレンビスステアリン酸アミドを好適に用いることができる。
【0031】
滑剤(C)は、脂肪酸モノアミド(C1)と、脂肪酸ビスアミド(C2)との質量比を(C1):(C2)=20:80~95:5とすればよく、(C1):(C2)=20:80~80:20とするのが好ましく、(C1):(C2)=35:65~65:35とするのがより好ましい。上記質量比の範囲とすれば、滑剤(C)として脂肪酸モノアミド(C1)単独または脂肪酸ビスアミド(C2)単独で使用する場合に比べて、良好な離型性と成形体の平滑性をバランスよく両立することで優れた成形性を有する成形体を得ることが可能となる。
【0032】
樹脂組成物の流動性を向上させるには、樹脂組成物全体に対する滑剤(C)の含有量を0.5質量%以上とすればよく、1.0質量%以上とするのが好ましく、2.0質量%以上とするのがより好ましい。また、射出成形後の成形体の剛性を維持し、成形体表面のベタツキを抑えるには、樹脂組成物全体に対する滑剤(C)の含有量を5.0質量%以下とすればよく、4.0質量%以下とするのが好ましく、3.0質量%以下とするのがより好ましい。
【0033】
生分解性樹脂(A)として複数の樹脂を用いる場合に、異種の樹脂の相溶性を改良する目的、または、生分解性樹脂(A)とフィラー(B)の分散状態を改良する目的で、本発明の樹脂組成物に相溶化剤を配合してもよい。相溶化剤としては、極性基又は芳香族基で変性したポリマーを使用することができる。ベースとなるポリマーとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、スチレンとブタジエンからなるブロック共重合体等が挙げられる。極性基としては、酸無水物基、アミノ基等が挙げられ、芳香族基としては、フェニル基、フェニレン基等が挙げられる。相溶化剤の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。相溶化剤を配合する場合、その配合量は樹脂組成物全体に対して10質量%以下とすればよく、5質量%以下とするのが好ましい。
【0034】
本発明の樹脂組成物には、上記成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、顔料、染料、可塑剤、帯電防止剤、抗菌剤、酸化防止剤、光安定剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶化核剤、離型剤、撥水剤、摺動性改良剤、防曇剤、その他の添加剤を1種または2種以上添加してもよい。これら添加剤の配合量は、本発明の樹脂組成物の物性を損なわないために、樹脂組成物全体に対して5.0質量%以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサーなどの公知の混練機を用いて製造することができる。これらの内、混練機としては、樹脂に過度の剪断を加えることなくフィラー(B)を生分解性樹脂(A)中に分散できることから、二軸押出機が好ましい。溶融混錬時の温度は160℃~200℃が好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、滑剤(C)として脂肪酸モノアミド(C1)と、脂肪酸ビスアミド(C2)とを所定の割合で併用することにより、良好な離型性と成形体の平滑性をバランスよく両立することで優れた成形性を有する樹脂組成物を得ることができる。本発明の樹脂組成物は、たとえば、微細な構造体、刻印が必要な成形体などを射出成形するための樹脂組成物として好適に使用することができる。
【実施例0037】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本実施例では、二軸押出機を用いて樹脂組成物を製造後、製造した樹脂組成物を射出成形して評価を行った。以下、その詳細について記す。
【0038】
[樹脂組成物の製造]
樹脂組成物を構成する成分として以下のものを使用した。
<生分解性樹脂(A)>
・ポリ乳酸(PLA): D体含有量;2.5%、密度;1.2g/cm、融点;159.8℃、MFR(190℃/2.16kgf);4.9g/10分
・ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT):密度;1.2g/cm、融点;120.0℃、MFR(190℃/2.16kgf);3.3g/10分
<フィラー(B)>
・澱粉:日本食品社製コーンスターチ、品番コーンスターチW
・タルク:日本タルク社製、品番ミクロエースP-3
<滑剤(C)>
「脂肪酸モノアミド(C1)」
・エルカ酸アミド(EA)
・ステアリン酸アミド(SA)
・オレイン酸アミド(OA)
「脂肪酸ビスアミド(C2)」
・エチレンビスステアリン酸アミド(EBSA)
・エチレンビスオレイン酸アミド(EBOA)
<相溶化剤>
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(変性PP)
【0039】
表1~表3に示す内容で上記成分を配合して樹脂組成物を調製した。より具体的には、生分解性樹脂(A)として、PLA及びPBATの2種類を質量比でPLA:PBAT=10:1の割合で配合したものを使用した。フィラー(B)は、生分解性樹脂(A)100質量部に対して、表1~表3に示す質量部を配合した。相溶化剤は、樹脂組成物全体に対し、0.9質量%配合した。滑剤(C)は、樹脂組成物全体に対し、表1~表3に示す質量%で配合した。
【0040】
以上のようにして調整した樹脂組成物は、二軸押出機(テクノベル製、商品名「KZW32TW-60MG-NH(-800)」)に投入して、連続的に溶融混練(溶融温度:170℃)を行い、澱粉含有樹脂組成物のペレットを作成した。
【0041】
[成形体の作製]
製造したペレット状の樹脂組成物を用いて射出成形機により成形体を作製した。なお、成形体はJIS K7161に規定する引張試験用の試験片形状とした。成形条件は以下のとおりである。
成形温度:170℃
射出速度:30mm/S
冷却時間:30秒
金型温度:40℃
保圧:60Mpa
【0042】
[樹脂組成物の評価]
(1)MFR(メルトフローレート)
樹脂組成物のMFRをJIS K7210に準じて測定した。測定条件は以下のとおりである。測定結果を表1~表3に記す。

使用機器:インストロン社製メルトフロー試験機
測定法:A法 質量測定法
測定温度:170℃、190℃
荷重:2.16kgf
【0043】
(2)成形体の離型性
前述のごとく、本発明の樹脂組成物を射出成形した引張試験用の試験片を金型から離型する際の離型性について評価した。評価基準は以下のとおりである。測定結果を表1~表3に記す。
〇:同一樹脂組成物について40回射出成形を実施した結果、全回とも問題なく離型可能
△:同一樹脂組成物について40回射出成形を実施した結果、1~4回金型に成形体が残る等の問題が発生
×:同一樹脂組成物について40回射出成形を実施した結果、5回以上金型に成形体が残る等の問題が発生
【0044】
(3)成形体の表面平滑性
射出成形によって得られた引張試験用の試験片の表面平滑性を評価した。評価基準は以下のとおりである。測定結果を表1~表3に記す。
〇:成形体表面を手で触ってもザラツキや粗さを感じない。
×:成形体表面を手で触るとザラツキや表面の粗さを感じる。
【0045】
(4)引張呼び歪
前述のごとく、本発明の樹脂組成物を射出成形して得られた引張試験用の試験片を用いてJIS K7161に規定される方法で引張呼び歪を測定した。測定結果を表1~表2に記す。
【0046】
(5)シャルピー衝撃強さ
本発明の樹脂組成物を射出成形して得られた試験片を用いてJIS K7111に規定される方法でシャルピー衝撃強さを測定した。測定結果を表1~表2に記す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
[評価結果]
表1より、No.4~No.8は、フィラー(B)として澱粉を含むものの、滑剤(C)として脂肪酸モノアミド(C1)及び脂肪酸ビスアミド(C2)を質量比21:79~92:8の割合で、樹脂組成物全体に対して2.4質量%含有することで、成形体の離型性及び表面平滑性とも良好で優れた成形性を有していることがわかる。なお、(C)として(C1)及び(C2)を含んでいても、(C1):(C2)=20:80~95:5の範囲外であるNo.3は表面平滑性に劣る結果となった。また、本実施例では澱粉として天然澱粉を用いたが、加工澱粉等の各種澱粉を用いた場合でも樹脂組成物中での分散性は良好であることが確認されており、天然澱粉と同様に使用することが可能である。
【0051】
一方、滑剤(C)を含まないNo.1は成形体の離型性及び表面平滑性とも劣る結果となった。また、滑剤(C)として脂肪酸モノアミド(C1)のみ配合したNo.9は離型性に劣り、滑剤(C)として脂肪酸ビスアミド(C2)のみ配合したNo.2は表面平滑性に劣る結果となった。
【0052】
成形体の用途によっては耐衝撃性が要求される場合がある。耐衝撃性が良好であるためには、経験的に引張呼び歪及びシャルピー衝撃強さの両方の値が一定レベル以上必要となることがわかっている。具体的に、引張呼び歪が3.5%以上で、かつ、シャルピー衝撃強さが3.0KJ/m以上であれば良好な耐衝撃性を有していると評価することができる。その観点からいえば、No.4~No.7は良好な耐衝撃性を備えているといえる。すなわち、(C1):(C2)の質量比=20:80~80:20とすることで耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得ることができると考えられる。
【0053】
特に、No.5及びNo.6は、No.4及びNo.7に比べて著しく引張呼び歪が向上しており、より優れた耐衝撃性を備えていると思われる。この結果より、特に耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得るためには(C1):(C2)の質量比=35:65~65:35とするのが好ましく、(C1):(C2)の質量比=40:60~65:35とするのがより好ましい。
【0054】
表2より、No.6の滑剤(C)量を半分にしたNo.10も、成形体の離型性及び表面平滑性とも良好な結果となった。しかも、滑剤(C)量が少ないにもかかわらず、引張呼び歪はNo.4及びNo.7と同等の値となっており、(C1)と(C2)の質量比を特定範囲とすることで引張呼び歪が相乗的に向上することがわかった。
【0055】
表2より、No.6では(C1)としてEAを用いたが、(C1)としてEA以外のSAやOAを用いたNo.11、No.12においてもNo.6と同等の成形性を備えることが確認された。また、No.6では(C2)としてEBSAを用いたが、(C2)としてEBSA以外のEBOAを用いたNo.13においてもNo.6と同等の成形性を備えることが確認された。
【0056】
表3より、フィラー(B)として、澱粉を単独使用したNo.6に対して、フィラー(B)として、澱粉のほかにタルクを配合したNo.14は、No.6に比べてMFRは低下したものの良好な成形性であることが確認された。なお、MFRの低下に関しては、成形条件を調整することで対応可能と思われた。一方、フィラー(B)として、澱粉のほかにタルクを配合し、滑剤(C)を配合しなかったNo.15は離型性に劣る結果となった。
【0057】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。本実施形態では、生分解性樹脂(A)としてポリ乳酸とPBATを併用しているが、これに限らず、PBS、PBSA等の生分解性ポリエステル系樹脂を含めたうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0058】
なお、実施形態及び上記変形例に開示されている構成要件は互いに組合せ可能であり、組合せることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。