(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102995
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
H01B7/02 G
H01B7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007106
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】太田 槙弥
【テーマコード(参考)】
5G309
【Fターム(参考)】
5G309MA02
(57)【要約】
【課題】耐変形性に優れる絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体と、上記導体を被覆する絶縁層とを備え、上記絶縁層がポリイミドを主成分とする樹脂マトリックスと複数の気孔とを含有し、上記絶縁層における気孔率が25体積%以上であり、上記絶縁層の平均厚みが45μm以上であり、上記絶縁層の横断面における上記複数の気孔間の厚み方向の平均距離が0.2μm超であり、上記複数の気孔の扁平度が1.5以下である絶縁電線。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
上記導体を被覆する絶縁層と
を備え、
上記絶縁層がポリイミドを主成分とする樹脂マトリックスと複数の気孔とを含有し、
上記絶縁層における気孔率が25体積%以上であり、
上記絶縁層の平均厚みが45μm以上であり、
上記絶縁層の横断面における上記複数の気孔間の厚み方向の平均距離が0.2μm超であり、
上記複数の気孔の扁平度が1.5以下である絶縁電線。
【請求項2】
上記気孔の平均径が0.1μm以上10μm以下である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
上記気孔の扁平度が0.5以上1.5以下である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項4】
上記気孔率が40体積%以下である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項5】
上記絶縁層の平均厚みが45μm以上200μm以下である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項6】
上記気孔が熱分解性樹脂含有粒子に由来する請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項7】
上記絶縁層の厚み変形率が10%未満である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項8】
上記絶縁電線がマグネットワイヤである請求項1に記載の絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、塗膜構成樹脂と、上記塗膜構成樹脂の焼付温度よりも低い温度で分解する熱分解性樹脂とを含む絶縁ワニス、および上記絶縁ワニスの加熱硬化膜を有する絶縁電線であって、上記加熱硬化膜には熱分解性樹脂の熱分解に基づく空孔が形成されている絶縁電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る絶縁電線は、導体と、上記導体を被覆する絶縁層とを備え、上記絶縁層がポリイミドを主成分とする樹脂マトリックスと複数の気孔とを含有し、上記絶縁層における気孔率が25体積%以上であり、上記絶縁層の平均厚みが45μm以上であり、上記絶縁層の横断面における上記複数の気孔間の厚み方向の平均距離が0.2μm超であり、上記複数の気孔の扁平度が1.5以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る絶縁電線を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
本開示が解決しようとする課題は、耐変形性に優れる絶縁電線を提供することである。
【0007】
[本開示の効果]
本開示の一態様に係る絶縁電線は、耐変形性に優れる。
【0008】
[本開示の実施態様の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
項1.
導体と、
上記導体を被覆する絶縁層と
を備え、
上記絶縁層がポリイミドを主成分とする樹脂マトリックスと複数の気孔とを含有し、
上記絶縁層における気孔率が25体積%以上であり、
上記絶縁層の平均厚みが45μm以上であり、
上記絶縁層の横断面における上記複数の気孔間の厚み方向の平均距離が0.2μm超であり、
上記複数の気孔の扁平度が1.5以下である絶縁電線。
項2.
上記気孔の平均径が0.1μm以上10μm以下である上記項1に記載の絶縁電線。
項3.
上記気孔の扁平度が0.5以上1.5以下である上記項1または上記項2に記載の絶縁電線。
項4.
上記気孔率が40体積%以下である上記項1から上記項3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
項5.
上記絶縁層の平均厚みが45μm以上200μm以下である上記項1から上記項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
項6.
上記気孔が熱分解性樹脂含有粒子に由来する上記項1から上記項5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
項7.
上記絶縁層の厚み変形率が10%未満である上記項1から上記項6のいずれか1項に記載の絶縁電線。
項8.
上記絶縁電線がマグネットワイヤである上記項1から上記項7のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【0009】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一態様に係る絶縁電線について図面を参照しつつ説明する。
【0010】
<絶縁電線>
図1に示す絶縁電線1は、導体2と、上記導体2を被覆する絶縁層3とを備える。上記絶縁層3はポリイミドを主成分とする樹脂マトリックスと複数の気孔4とを含有する。
【0011】
絶縁電線1の断面形状としては特に制限されず、例えば円形状(丸線)、楕円形状、正方形状(角線)、長方形状(平角線)が挙げられる。絶縁電線1の断面形状が長方形状、換言すると平角線であるとよい。この場合、コイル加工の際に絶縁電線1を高密度に巻き付けることができる。また、絶縁電線1の断面形状と後述する導体2の断面形状とは同種の形状であるとよい。
【0012】
絶縁電線1は、マグネットワイヤとして好適に用いることができる。
【0013】
〔導体〕
導体2の断面形状としては、例えば円形状(丸線)、楕円形状、正方形状、長方形状が挙げられる。絶縁電線1を平角線とする場合、導体2の断面形状が長方形状であるとよい。
【0014】
導体2の材質は、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属であるとよい。上記金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼が挙げられる。導体2は、上記金属を線状に形成した材料や、線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線を用いることができる。
【0015】
導体2の平均断面積の下限としては、0.01mm2であってもよく、0.1mm2であってもよい。この場合、当該絶縁電線における導体2に対する絶縁層3の体積を適度なものとすることができ、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率を向上させることができる。導体2の平均断面積の上限としては、20mm2であってもよく、10mm2であってもよい。この場合、比誘電率を十分に低下させるために絶縁層3を厚く形成する必要性を低くすることができ、当該絶縁電線の不必要な大径化を回避することができる。
【0016】
〔絶縁層〕
絶縁層3は、導体2を被覆するように導体2の外周面に積層される。絶縁層3は、1または複数の層から構成される。例えば、絶縁層3を後述する方法(樹脂ワニスの塗工および焼き付けを複数回繰り返す方法)で形成する場合、同種の樹脂ワニスを用いて形成した絶縁層は同一の絶縁層とみなす。
【0017】
絶縁層3は、ポリイミドを主成分とする樹脂マトリックスと、上記樹脂マトリックス中に散在する複数の気孔4とを含有する。
【0018】
絶縁層3の気孔率は25体積%以上である。絶縁層3の気孔率は25体積%以上であることにより、絶縁層の低誘電率化を図ることができる。当該絶縁電線は、後述する、絶縁層3の平均厚みが45μm以上であることと、絶縁層3の横断面における複数の気孔4間の厚み方向の平均距離が0.4μm以上であることと、後述する複数の気孔4の扁平度が1.5以下であることとが相まって、絶縁層3の気孔率が25体積%以上という高い気孔率である場合であっても優れた耐変形性を発揮することができる。絶縁層3の気孔率の下限としては30体積%であってもよい。絶縁層3の気孔率の上限としては、50体積%であってもよく、40体積%であってもよい。絶縁層3の気孔率が40体積%以下であると、絶縁層の靱性を維持しつつ加工性を向上できる。「気孔率」とは、樹脂マトリックスおよび気孔4を含む絶縁層3の体積に対する気孔4の体積の百分率を意味する。
【0019】
絶縁層3の厚み変形率は10%未満であるとよい。この場合、耐変形性に優れる絶縁電線とすることができる。「厚み変形率」とは、絶縁層のプレス前の平均厚みに対するプレス後の平均厚みの減少率を意味する。
【0020】
上記樹脂マトリックスの主成分は、ポリイミドである。ポリイミドであることにより、当該絶縁電線の強度および耐熱性を向上させることができる。樹脂マトリックスは、ポリイミド以外の合成樹脂を含有することができる。
【0021】
ポリイミドとしては、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応生成物であるポリイミド前駆体に由来するポリイミドであるとよい。ポリイミド前駆体は、ポリアミック酸(ポリアミド酸)とも称される化合物である。ポリイミド前駆体は、脱水環化反応により環状イミドを形成し、ポリイミドとなる。
【0022】
絶縁層3の平均厚みは45μm以上である。絶縁層3の平均厚みが45μm以上であることと、後述する絶縁層3の横断面における複数の気孔4間の厚み方向の平均距離が0.4μm以上であることと、後述する複数の気孔4の扁平度が1.5以下であることとが相まって、優れた耐変形性を発揮することができる。限定的な解釈を望むものではないが、優れた耐変形性を発揮できる理由の一つとしては、絶縁層3の平均厚みが45μm以上であることにより絶縁層3にかかる応力集中を抑制しやすくなることが挙げられる。絶縁層3の平均厚みの下限は50μmであってもよい。絶縁層3の平均厚さの上限は、200μmであってもよく、150μmであってもよく、100μmであってもよい。この場合、絶縁電線1を用いて形成されるコイル等の体積効率を向上させることができる。
【0023】
絶縁層3は、上記成分以外の他の成分を含有することができる。上記他の成分としては、絶縁電線の絶縁層に配合される添加剤であれば特に制限されず、例えばフィラー、酸化防止剤、レベリング剤、硬化剤、接着助剤が挙げられる。
【0024】
〔気孔〕
気孔4は、熱分解性樹脂含有粒子に由来するとよい。上記熱分解性樹脂含有粒子の熱分解によりガス化し、絶縁層3内の熱分解性樹脂含有粒子が存在していた部分に気孔4が形成される。この場合、絶縁層3を形成する樹脂マトリックスの海相に微小粒子の島相となって均等分布でき、独立気孔を形成することができる。限定的な解釈を望むものではないが、当該絶縁電線は、絶縁層3が複数の気孔4を含有することにより比誘電率を低減することができる。
【0025】
絶縁層3の横断面における複数の気孔4間の厚み方向の平均距離は0.2μm超である。上述の通り、複数の気孔4間の厚み方向の平均距離が0.2μm超であることと、上述の絶縁層3の平均厚みが45μm以上であることと、後述する複数の気孔4の扁平度が1.5以下であることとが相まって、優れた耐変形性を発揮することができる。限定的な解釈を望むものではないが、優れた耐変形性を発揮できる理由の一つとしては、絶縁層3の横断面における複数の気孔4間の厚み方向の平均距離は0.2μm超であることにより、複数の気孔4間の応力集中を抑制しやすくなることが挙げられる。「複数の気孔4間の厚み方向の平均距離」とは、絶縁層3の横断面において厚み方向に隣接する2つの気孔4間の距離の平均値を意味する。
【0026】
気孔4の平均径の下限は0.1μmであると絶縁層3の機械特性を向上できる。気孔4の平均径の上限は10μmであると絶縁層3の絶縁性を向上できる。気孔4の平均径は、細孔直径分布測定装置(例えばPorous Materials社の「多孔質材料自動細孔径分布測定システム」)により絶縁電線1の断面を測定することにより得られる値である。
【0027】
気孔4の扁平度は1.5以下である。上述の通り、複数の気孔4の扁平度が1.5以下であることと、複数の気孔4間の厚み方向の平均距離が0.2μm超であることと、上述の絶縁層3の平均厚みが45μm以上であることとが相まって、優れた耐変形性を発揮することができる。限定的な解釈を望むものではないが、優れた耐変形性を発揮できる理由の一つとしては、複数の気孔4の扁平度が1.5以下であることにより、複数の気孔4間の応力集中をより抑制しやすくなることが挙げられる。気孔4の扁平度の下限は0.5であると絶縁層3の機械特性を向上できる。気孔4の扁平度は、気孔4の断面における水平方向の長さに対する垂直方向の長さの比を意味する。
【0028】
熱分解性樹脂含有粒子が含有する熱分解性樹脂は、絶縁層3の樹脂マトリックスの主成分のポリイミドの焼付温度よりも低い温度で熱分解する樹脂であるとよい。上記焼付温度は、ポリイミドの種類に応じて適宜設定されるが、通常200℃以上600℃以下程度である。熱分解性樹脂の熱分解温度の下限は200℃であってもよく、上限としては400℃であってもよい。「熱分解温度」とは、空気雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。熱分解温度は、熱重量測定-示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)の「TG/DTA」)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。
【0029】
熱分解性樹脂としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端または一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化またはエポキシ化した化合物、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体、ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物、ポリ(メタ)アクリル酸、これらの架橋物、ポリスチレン、架橋ポリスチレンが挙げられる。炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体であると、上記焼付温度で熱分解しやすく絶縁層3に気孔4を形成させやすい。上記(メタ)アクリル酸エステルの重合体としては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。「(メタ)アクリル酸」との表記は、「アクリル酸」および「メタクリル酸」の両方を包含するものである。
【0030】
上記熱分解性樹脂含有粒子は球状であるとよい。上記熱分解性樹脂含有粒子の平均粒子径の下限は、0.1μmであってもよく、0.5μmであってもよく、1μmであってもよい。この場合、絶縁層3に気孔4を形成しやすくなる。上記熱分解性樹脂含有粒子の平均粒子径の上限は、100μmであってもよく、50μmであってもよく、30μmであってもよく、10μmであってもよい。この場合、絶縁層3表面に凹凸が生じるのを抑制することができる。「熱分解性樹脂含有粒子の平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い含有割合を示す粒径を意味する。
【0031】
上記熱分解性樹脂含有粒子としては、上記熱分解性樹脂のみからなる粒子であってもよく、上記熱分解性樹脂を主成分とするコアと、上記熱分解性樹脂の熱分解温度よりも高い熱分解温度を有する樹脂を主成分とするシェルとを有するコアシェル構造の粒子であってもよい。上記熱分解性樹脂含有粒子が上記コアシェル構造の粒子であると、気孔4の連通を抑制することができ、気孔4の大きさのばらつきを小さくすることができる。
【0032】
上記熱分解性樹脂含有粒子が上記コアシェル構造の粒子である場合、気孔4は周縁部にコアシェル構造の粒子のシェルに由来する外殻を備える。
【0033】
上記シェルの主成分としては、上記コアよりも熱分解温度が高い材料であれば特に制限されず、比誘電率が低く、耐熱性が高い合成樹脂が好ましい。例えばポリスチレン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリイミド等が挙げられる。シリコーンであると、弾性を高めやすく、絶縁層3中の気孔4の分散性を向上しやすく、絶縁性および耐熱性に優れる。「フッ素樹脂」とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子またはフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状または分岐状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等を挙げることができる。外殻には絶縁性を損なわない範囲で金属が含まれてもよい。
【0034】
外殻は内外を貫通する欠損を一部に有するとよい。絶縁電線1では、ガス化したコアがこの欠損を通って外部に放出されることで外殻内に気孔4を形成することができる。この欠損の形状は、シェルの材質や形状によって変化するが、外殻による気孔4の連通防止効果を高める観点から、亀裂、割れ目または孔であるとよい。絶縁層3は、欠損のない外殻を含んでいてもよい。ガス化したコアのシェル外部への放出条件によってはシェルに欠損が形成されない場合もある。
【0035】
絶縁層3は、気孔4の分散性を向上する点から全ての気孔4の周縁部に外殻を有していてもよく、一部に外殻に被覆されない気孔4を含んでいてもよい。絶縁層3における全気孔4の存在個数に対する外殻を有する気孔4の存在個数の割合の下限としては、70%が好ましく、90%がより好ましく、100%が最も好ましい。この場合、絶縁層3中における気孔4の分散性を向上させることができ、複数の気孔4の連通を抑制することができる。
【0036】
外殻は、上記粒子のコアが除去されて中空となったシェルで構成される。つまり、気孔4は上記コアシェル構造の粒子のコアに由来し、外殻は上記コアシェル構造の粒子のシェルに由来する。
【0037】
熱分解性樹脂含有粒子のCV値の上限としては、30%であってもよく、20%であってもよい。この場合、気孔サイズの違いで生じる気孔部分での電荷集中による絶縁性低下や加工応力の集中による絶縁層3の強度低下を抑制できる。上記CV値の下限としては特に制限されず、例えば1%とすることができる。「CV値」とは、JIS-Z8825(2013)に規定される変動変数を意味する。
【0038】
<絶縁電線の製造方法>
絶縁電線1は、導体2の外周側に、熱分解性樹脂含有粒子を含有する樹脂ワニスを塗工する工程(塗工工程)と、上記塗工工程で塗工された樹脂ワニスを硬化する工程(硬化工程)とを備える方法により製造することができる。
【0039】
〔塗工工程〕
上記塗工工程では、後述する樹脂ワニスを導体2の外周側に塗工する。上記樹脂ワニスを塗工する方法としては、例えば上記樹脂ワニスを貯留した貯留槽と塗工ダイスとを備える塗工装置を用いた方法等が挙げられる。この塗布装置によれば、導体2が貯留槽内を挿通することで樹脂ワニスが導体2の外周側に付着し、その塗工ダイスを通過することでこの樹脂ワニスが略均一な厚さで塗布される。
【0040】
〔硬化工程〕
上記硬化工程では、上記塗工工程で塗布された樹脂ワニスを加熱する。上記硬化工程において上記樹脂ワニスを導体2の外周側に焼き付けることで、導体2の外周側に絶縁層3が積層される。上記焼き付ける方法としては、特に限定されないが、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱、UV照射等の従来公知の方法が挙げられる。焼き付け温度としては、通常200℃以上600℃以下である。
【0041】
上記塗工工程および上記硬化工程を複数回繰り返して行うことよい。つまり、絶縁層3は、複数の焼付層の積層体として構成されるとよい。絶縁層3が複数の焼付層の積層体として構成されると焼付層毎に気孔4が形成されるため、気孔4の分散性を高めることができる。上記塗工工程および上記硬化工程を複数回繰り返して行う際、上記塗工工程における上記樹脂ワニスの1回あたりの塗工厚みを気孔4の平均径よりも小さい厚みとすると、気孔4の分散性をより高めることができる。
【0042】
<樹脂ワニス>
樹脂ワニスは、ポリイミド前駆体と、熱分解性樹脂含有粒子と、有機溶媒とを含有する。樹脂ワニスは、上記成分以外の他の成分を含有していてもよい。
【0043】
ポリイミド前駆体は、絶縁層3の樹脂マトリックスの主成分であるポリイミドを形成する成分である。ポリイミドは、上記<絶縁電線>の項において説明している。
【0044】
熱分解性樹脂含有粒子は、上記<絶縁電線>の項において説明している。
【0045】
溶媒としては、絶縁電線の絶縁層形成用樹脂ワニスとして従来より用いられている公知の有機溶媒を用いることができる。具体的には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ-ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類が挙げられる。有機溶媒は、1種単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度の下限は15質量%であってもよく、20質量%であってもよく、30質量%であってもよい。この場合、樹脂ワニスを用いて絶縁層を形成する際に所望の厚さの絶縁層を得るために製造工程全体で必要となる樹脂ワニス量を低下させることや、塗工工程および加熱工程の回数を低減させることができる。上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度の上限は、50質量%であってもよく、40質量%であってもよい。この場合、樹脂ワニスの粘度を適度に調節することができ、保存安定性や塗工性を向上させることができる。
【0047】
[その他の実施形態]
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0048】
上記実施形態においては、1層の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線について説明したが、複数の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線としてもよい。つまり、
図1の導体2と絶縁層3との間に1または複数の絶縁層が積層されてもよいし、
図1の絶縁層3の外周面に1または複数の絶縁層が積層されてもよいし、
図1の絶縁層3の外周面および内周面の両方に1または複数の絶縁層が積層されてもよい。
【0049】
当該絶縁電線において、導体と絶縁層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
【0050】
導体と絶縁層との間にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステルおよびフェノキシ樹脂の中の一種または複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することで、導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
【0051】
プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、メラミン樹脂を含んでもよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
【0052】
プライマー処理層の平均厚さの下限は、1μmであってもよく、2μmであってもよい。プライマー処理層の平均厚さの上限は、30μmであってもよく、20μmであってもよい。
【実施例0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
<樹脂ワニスの調製および絶縁電線の作製>
[No.1]
(樹脂ワニスの調製)
合成樹脂としてのポリイミド前駆体を溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンで希釈した。次いで、ポリイミド前駆体100質量部に対し、絶縁層の気孔率が計算値で30体積%となる量の熱分解性樹脂含有粒子を添加し、樹脂ワニスNo.1を調製した。ポリイミド前駆体として、芳香族テトラカルボン酸二無水物としてのピロメリット酸二無水物(PMDA)と、芳香族ジアミンとしての4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)との反応生成物(PMDAとODAとの混合比(モル比)が100:100)を用いた。熱分解性樹脂含有粒子として、コアがポリメチルメタクリレート粒子であり、シェルがシリコーンであるコアシェル粒子(平均粒子径:3μm、扁平度:1.0)を用いた。
【0055】
(絶縁電線の作製)
導体として、平均直径1mmの丸線状の銅線を用いた。樹脂ワニスNo.1を上記導体の表面に塗工し、上記樹脂ワニスNo.1を塗工した導体を加熱炉の設定温度500℃で加熱する工程を繰り返し行うことで平均厚さ150μmの絶縁層を形成し、絶縁電線No.1を作製した。
【0056】
[No.2からNo.5、No.7、No.9およびNo.10]
下記表1に示す扁平度のコアシェル粒子(平均粒子径:3μm)を用いたこと以外はNo.1と同様にして樹脂ワニスNo.2からNo.5、No.7、No.9およびNo.10を調製した。樹脂ワニスNo.2からNo.5、No.7、No.9およびNo.10を用い、下記表1に示す平均厚さの絶縁層を形成し、絶縁電線No.2からNo.5、No.7、No.9およびNo.10を作製した。
【0057】
[No.6]
ポリイミド前駆体として、芳香族テトラカルボン酸二無水物としてのピロメリット酸二無水物(PMDA)および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA)と、芳香族ジアミンとしての4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)との反応生成物(PMDAとBPDAとODAとの混合比(モル比)が30:70:100)を用いたこと以外はNo.1と同様にして樹脂ワニスNo.6を調製した。樹脂ワニスNo.6を用い、下記表1に示す平均厚さの絶縁層を形成したこと以外はNo.1と同様にして絶縁電線No.6を作製した。
【0058】
[No.8]
マトリックス樹脂としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いたこと以外はNo.1と同様にして樹脂ワニスNo.8を調製した。樹脂ワニスNo.8を用い、下記表1に示す平均厚さの絶縁層を形成したこと以外はNo.1と同様にして絶縁電線No.8を作製した。
【0059】
<評価>
上記作製した絶縁電線No.1からNo.10について、下記の方法に従い、気孔間距離および厚み変形率の測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0060】
[気孔間距離の測定]
上記作製した絶縁電線No.1からNo.10について、横断面を走査型電子顕微鏡にて観察し、厚み方向における気孔間距離を測定した。より具体的には、範囲の異なる40視野について、視野内で厚み方向に隣接する2つの気孔間距離の最小値を測定し、その平均値を測定値とした。
【0061】
[厚み変形率の測定]
上記作製した絶縁電線No.1からNo.10について、圧子で垂直方向に120MPaでプレスした。プレス前後の絶縁電線の平均厚みを測定し、下記式により厚み変形率を算出した。厚み変形率が10%未満であるものを耐変形性に優れると評価した。
厚み変形率(%)=(プレス前平均厚み-プレス後平均厚み)÷プレス前平均厚み
【0062】
【0063】
表1から、絶縁電線No.1からNo.6は、絶縁電線No.7からNo.10と比較して、耐変形性に優れることが分かる。