(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103000
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】共重合体、親水撥油組成物、親水撥油膜、親水撥油積層体、及び物品
(51)【国際特許分類】
C08G 77/24 20060101AFI20240725BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240725BHJP
C08G 77/46 20060101ALI20240725BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240725BHJP
B32B 27/30 20060101ALN20240725BHJP
B32B 17/10 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
C08G77/24
C09K3/00 R
C08G77/46
B32B27/00 101
B32B27/30 D
B32B17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007112
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 健
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 亮介
【テーマコード(参考)】
4F100
4J246
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AG00B
4F100AH03A
4F100AK17A
4F100AK52A
4F100AL01A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100EH46A
4F100EJ423
4F100JA07A
4F100JB05A
4F100JB06A
4F100JL06
4F100JL07
4J246AA03
4J246AB01
4J246AB12
4J246BA02X
4J246BA12X
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA12X
4J246CA14X
4J246CA47X
4J246CA56X
4J246EA15
4J246EA17
4J246FA071
4J246FA131
4J246FA431
4J246FB081
4J246GA01
4J246GB04
4J246GC07
4J246GC48
4J246GC49
4J246GD08
4J246HA36
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れ、成膜後の通常の使用環境では非親水性撥油性を示し、水の滴下、水中、高湿度条件では撥油性を維持したまま非親水性から親水性へスイッチングして親水撥油性を発現し、ひいては親水性を長く保つことができる親水撥油膜を形成することができる共重合体、親水撥油組成物、及び親水撥油膜の提供。
【解決手段】親水性トリアルコキシシラン及び撥油性トリアルコキシシランからなる共重合体である。前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位が50モル%以上90モル%以下であり、前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位が10モル%以上50モル%以下である態様が好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性トリアルコキシシラン及び撥油性トリアルコキシシランからなることを特徴とする共重合体。
【請求項2】
前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位が50モル%以上90モル%以下であり、
前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位が10モル%以上50モル%以下である請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
数平均分子量が、1,000~10,000である請求項1に記載の共重合体。
【請求項4】
下記一般式(1)で表される請求項1に記載の共重合体。
【化1】
前記一般式(1)中、k及びlは、0以上の整数を示し、n及びmは、1以上の整数を示し、ORは、炭素数1以上のアルコキシ基及び水酸基の少なくともいずれかであり、Hyは、親水性を有する有機基であり、Rfは、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルキルエーテル基の少なくともいずれかである。
【請求項5】
前記Hyが、下記一般式(A1)で表されるポリアルキレングリコール基、及び下記一般式(A2)で表される4級アンモニウム塩構造の少なくともいずれかである請求項4に記載の共重合体。
【化2】
前記一般式(A1)中、e及びfは、1以上の整数を示す。
前記一般式(A2)中、X
1、X
2及びX
3は、それぞれ独立に炭素数1以上のアルキル基、又は有機酸の陰イオンであり、Y1は、1価の陰イオンである、又はXが有機酸の陰イオンの場合は、Y1を含まない。
【請求項6】
前記Rfが、下記一般式(B1)で表されるパーフルオロアルキル基、及び下記一般式(B2)で表されるパーフルオロアルキルエーテル基の少なくともいずれかである請求項4に記載の共重合体。
【化3】
前記一般式(B1)中、iは、1以上の整数を示す。
前記一般式(B2)中、h及びgは、1以上の整数を示す。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の共重合体と、
溶媒と、
を含むことを特徴とする親水撥油組成物。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の共重合体を含む親水撥油膜であって、
ガラス基材上に設けた前記親水撥油膜が、下記(a)、(b1)、(c1)、及び(d)をすべて満たすことを特徴とする親水撥油膜。
(a)水滴下直後において、水接触角が60°以上である
(b1)水滴下後30分間経過後において、水接触角が40°以下である
(c1)水中に浸漬させた環境において、気泡の接触角が130°以上である、又は気泡が付着しない
(d)ヘキサデカンの接触角が50°以上である
【請求項9】
ガラス基材上に設けた前記親水撥油膜が、下記(a)、(b2)、(c2)、及び(d)をすべて満たす請求項8に記載の親水撥油膜。
(a)水滴下直後において、水接触角が60°以上である
(b2)水滴下後30分間経過後において、水接触角が30°以下である
(c2)水中に浸漬させた環境において、気泡の接触角が150°以上である、又は気泡が付着しない
(d)ヘキサデカンの接触角が50°以上である
【請求項10】
基材と、前記基材上に表面が平滑な親水撥油層と、を有し、
前記親水撥油層が、請求項1から6のいずれかに記載の共重合体を含むことを特徴とする親水撥油積層体。
【請求項11】
前記基材が、無機材料を表面に有する基材である請求項10に記載の親水撥油積層体。
【請求項12】
前記親水撥油層の平均厚みが、100nm以下である請求項10に記載の親水撥油積層体。
【請求項13】
請求項8に記載の親水撥油膜を表面に有することを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体、親水撥油組成物、親水撥油膜、親水撥油積層体、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚性を発現する表面コーティング剤として、親水性コーティング剤や撥油性コーティング剤が市販されている。
【0003】
親水性コーティング剤は、水酸基などの親水基で表面を改質したものであり、水膜が濡れ広がるため、油汚れが付着した際に水を流すだけで洗浄できるセルフクリーニング性や、防曇性も付与できることが特徴となっている。しかしながら、親水性表面は親油性でもあることから、油汚れが濡れ広がるため、防汚性は不十分である。
【0004】
一方、撥油性コーティング剤は、フルオロアルカンやフルオロエーテルなどの化学構造で表面を改質したものである。油の付着エネルギーが低下するため、汚れそのものが付きにくくふき取りが容易になる。しかし、防曇性を示さず、残った水滴で光が散乱して視認性を低下させることや、微小な水滴が付着してウォータースポットができやすい欠点がある。
【0005】
基材の防汚性、防曇性を向上させる目的として、親水撥油剤が提案されている。具体的には、親水性アルコキシシランと撥油性アルコキシシランと架橋剤としてチタンアルコキシドを配合し、ガラスに塗布できる親水撥油剤が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、保存安定性に優れ、成膜後の通常の使用環境では非親水かつ撥油性を示し、水の滴下、水中、及び高湿度のいずれかの条件では撥油性を維持したまま非親水から親水性へスイッチングして親水撥油性を発現し、ひいては親水性を長く保つことができる親水撥油膜を形成することができる共重合体、親水撥油組成物、及び親水撥油膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、親水性トリアルコキシシラン及び撥油性トリアルコキシシランからなる共重合体が、保存安定性に優れ、成膜後の通常の使用環境では非親水撥油性を示し、水の滴下、水中、及び高湿度のいずれかの条件では撥油性を維持したまま非親水から親水性へスイッチングして親水撥油性を発現し、ひいては親水性を長く保つことができる親水撥油膜を形成することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 親水性トリアルコキシシラン及び撥油性トリアルコキシシランからなることを特徴とする共重合体である。
<2> 前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位が50モル%以上90モル%以下であり、
前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位が10モル%以上50モル%以下である前記<1>に記載の共重合体である。
<3> 数平均分子量が、1,000~10,000である前記<1>から<2>のいずれかに記載の共重合体である。
<4> 下記一般式(1)で表される請求項1に記載の共重合体である。
【化1】
前記一般式(1)中、k及びlは、0以上の整数を示し、n及びmは、1以上の整数を示し、ORは、炭素数1以上のアルコキシ基及び水酸基の少なくともいずれかであり、Hyは、親水性を有する有機基であり、Rfは、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルキルエーテル基の少なくともいずれかである。
<5> 前記Hyが、下記一般式(A1)で表されるポリアルキレングリコール基、及び下記一般式(A2)で表される4級アンモニウム塩構造の少なくともいずれかである前記<4>に記載の共重合体である。
【化2】
前記一般式(A1)中、e及びfは、1以上の整数を示す。
前記一般式(A2)中、X1、X2及びX3は、それぞれ独立に炭素数1以上のアルキル基、又は有機酸の陰イオンであり、Y1は、1価の陰イオンである、又はXが有機酸の陰イオンの場合は、Y1を含まない。
<6> 前記Rfが、下記一般式(B1)で表されるパーフルオロアルキル基、及び下記一般式(B2)で表されるパーフルオロアルキルエーテル基の少なくともいずれかである前記<4>に記載の共重合体である。
【化3】
前記一般式(B1)中、iは、1以上の整数を示す。
前記一般式(B2)中、h及びgは、1以上の整数を示す。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の共重合体と、
溶媒と、
を含むことを特徴とする親水撥油組成物である。
<8> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の共重合体を含む親水撥油膜であって、
ガラス基材上に設けた前記親水撥油膜が、下記(a)、(b1)、(c1)、及び(d)をすべて満たすことを特徴とする親水撥油膜。
(a)水滴下直後において、水接触角が60°以上である
(b1)水滴下後30分間経過後において、水接触角が40°以下である
(c1)水中に浸漬させた環境において、気泡の接触角が130°以上である、又は気泡が付着しない
(d)ヘキサデカンの接触角が50°以上である
<9> ガラス基材上に設けた前記親水撥油膜が、下記(a)、(b2)、(c2)、及び(d)をすべて満たす請求項8に記載の親水撥油膜。
(a)水滴下直後において、水接触角が60°以上である
(b2)水滴下後30分間経過後において、水接触角が30°以下である
(c2)水中に浸漬させた環境において、気泡の接触角が150°以上である、又は気泡が付着しない
(d)ヘキサデカンの接触角が50°以上である
<10> 基材と、前記基材上に表面が平滑な親水撥油層と、を有し、
前記親水撥油層が、請求項1から6のいずれかに記載の共重合体を含むことを特徴とする親水撥油積層体である。
<11> 前記基材が、無機材料を表面に有する基材である前記<10>に記載の親水撥油積層体である。
<12> 前記親水撥油層の平均厚みが、100nm以下である前記<10>から<11>のいずれかに記載の防曇防汚積層体である。
<13> 前記<8>から<9>のいずれかに記載の親水撥油膜を表面に有することを特徴とする物品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、保存安定性に優れ、成膜後の通常の使用環境では非親水撥油性を示し、水の滴下、水中、及び高湿度のいずれかの条件では撥油性を維持したまま非親水から親水性へスイッチングして親水撥油性を発現し、ひいては親水性を長く保つことができる親水撥油膜を形成することができる共重合体、親水撥油組成物、及び親水撥油膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態の親水撥油積層体の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の親水撥油層の表面に水を滴下した直後、10分間、20分間、及び30分間経過後の水滴の様子を示す写真である。
【
図3】
図3は、実施例1の親水撥油層の表面に水を滴下した直後、及び1分間~30分間経過後の、水接触角、及びヘキサデカン接触角を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(共重合体)
本発明の共重合体は、親水性トリアルコキシシラン及び撥油性トリアルコキシシランからなる共重合体である。
【0013】
本発明の共重合体は、従来技術の問題点を本発明者らが知見したことに基づくものである。
すなわち、親水撥油材料は、水がぬれる性質と油をはじく性質の両面から防汚性を発揮することが期待される。しかし、従来技術の親水撥油材料は、一般的に、親水性シランと撥油性シランは互いに混ざり合わず、単に配合するだけでは、親水撥油性を発現することができなかった。
具体的には、特許文献1(特開平5-331455号公報)の技術では、親水撥油性を発現するコーティング薄膜を実際に作製するには架橋剤としてのチタンアルコキシドが必須になる。チタンアルコキシドは、水分の混入で急速に加水分解重縮合反応を起こし、極めて不安定な化合物であることから、実用性が極めて低いという問題がある。また、コーティング液配合後の保存履歴の違いにより親水性シランと撥油性シランの縮合度合いが変化し、コーティング薄膜の特性再現性が低下することから、安定した性能を発揮できないという問題がある。また、当該コーティング薄膜では、ガラスコーティング膜が通常の使用環境で親水撥油性を示すため、経時で親水性の低下を招きやすく、コーティング後でも性能が長続きしないという問題がある。
【0014】
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、親水性シランと撥油性シランは、モノマー同士では非相溶であるが、親水性トリアルコキシシラン及び撥油性トリアルコキシシランからなる共重合体とすることにより、均一な系を形成できることを見出した。これにより、化学的に不安定なチタンアルコキシド系の架橋剤を使用することなく、保存安定性に優れる親水撥油膜を形成することができることを見出した。加えて、成膜後の通常の使用環境では非親水撥油性を示し、水の滴下、水中、及び高湿度のいずれかの条件では撥油性を維持したまま非親水性から親水性へスイッチングして親水撥油性を発現し、ひいては親水性を長く保つことができる親水撥油膜を形成することができることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0015】
[特徴]
前記共重合体は、ガラス基材上に前記共重合体を含む親水撥油膜を設けたときに、前記親水撥油膜が、下記(a)、(b1)、(c1)、及び(d)の特徴を兼ね備える。
(a)水滴下直後において、水接触角が60°以上である
(b1)水滴下後30分間経過後において、水接触角が40°以下である
(c1)水中に浸漬させた環境において、気泡の接触角が130°以上である、又は気泡が付着しない
(d)ヘキサデカンの接触角が50°以上である
ここで、前記共重合体を含む親水撥油膜は、固形分5質量%の濃度になるよう共重合体をメタノールに完全溶解させて調製した親水撥油組成物を、スピンコートにてガラス基材上に塗布及び製膜し、120℃で2時間熱処理することにより形成する。
前記(a)は、成膜後の通常の使用環境では非親水撥油性を示すことを意味し、前記(b1)、(c1)、及び(d)は、撥油性を維持したまま、水の滴下、水中、及び高湿度の条件で非親水性から親水性へスイッチングして親水撥油性を発現することを意味する。これらの特性により、親水性を長く保つことができる。
【0016】
前記親水撥油膜が、下記(a)、(b2)、(c2)、及び(d)をすべて満たすことが好ましい。
(a)水滴下直後において、水接触角が60°以上である
(b2)水滴下後30分間経過後において、水接触角が30°以下である
(c2)水中に浸漬させた環境において、気泡の接触角が150°以上である、又は気泡が付着しない
(d)ヘキサデカンの接触角が50°以上である
【0017】
前記(b1)に関し、水が滴下した条件で共重合体乃至共重合体を含む親水撥油膜が非親水性から親水性にスイッチングする特性の観点から、水滴下後30分間経過後における水接触角は、40°以下であり、35°以下が好ましく、30°以下がより好ましい。
前記(c1)に関し、水中に浸漬した条件で共重合体が非親水性から親水性にスイッチングする特性の観点から、水中に浸漬させた環境における気泡の接触角は、130°以上であり、140°以上が好ましく、150°以上がより好ましく、気泡が付着しないことが更に好ましい。
前記(d)に関し、経過時間によらず、共重合体乃至共重合体を含む親水撥油膜が撥油性を有する観点から、ヘキサデカンの接触角は、50°以上であり、55°以上が好ましく、60°以上がより好ましい。
【0018】
前記共重合体は、親水性トリアルコキシシラン及び撥油性トリアルコキシシランからなり、言い換えると、モノマーとしての親水性トリアルコキシシラン及び撥油性トリアルコキシシランが互いに加水分解重縮合した共重合体である。
前記共重合体は、下記一般式(1)で表される共重合体であることが好ましい。
【化4】
前記一般式(1)中、k及びlは、0以上の整数を示し、n及びmは、1以上の整数を示し、ORは、炭素数1以上のアルコキシ基及び水酸基の少なくともいずれかであり、Hyは、親水性を有する有機基であり、Rfは、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルキルエーテル基の少なくともいずれかである。
【0019】
ここで、前記一般式(1)中、左側の構造単位が、前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位であり、右側の構造単位が、前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位である。
前記共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよいが、系内均一性が優れる点で、ランダム共重合体であることが好ましい。また、前記共重合体は、任意の前記OR部分が互いに加水分解重縮合して線状構造を形成していても架橋構造を形成していてもよいが、成膜性が優れる点で、線状構造であることが好ましい。
【0020】
前記k及びlは、0以上の整数であればよいが、2~3が好ましい。
前記n及びmは、1以上の整数であればよいが、n及びmの合計が5~50であることが好ましい。
前記ORは、炭素数1以上のアルコキシ基及び水酸基の少なくともいずれかであり、炭素数1のメトキシ基及び炭素数2のエトキシ基のいずれかが好ましく、メトキシ基がより好ましい。なお、合成材料である親水性トリアルコキシシラン、及び撥油性トリアルコキシシランにおけるORも同様に炭素数1以上のアルコキシ基及び水酸基の少なくともいずれかであり得る。
【0021】
前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位に関し、前記Hyが、下記一般式(A1)で表されるポリアルキレングリコール基、及び下記一般式(A2)で表される4級アンモニウム塩構造の少なくともいずれかであることが好ましい。
【化5】
前記一般式(A1)中、e及びfは、1以上の整数を示す。
前記一般式(A2)中、X
1、X
2及びX
3は、それぞれ独立に炭素数1以上のアルキル基、又は有機酸の陰イオンであり、Y1は、1価の陰イオンである、又はXが有機酸の陰イオンの場合は、Y1を含まない。
【0022】
前記e及びfは、1以上の整数であればよいが、eが2であることが好ましく、また、fが12~14であることが好ましい。
前記X1、X2及びX3は、それぞれ独立に炭素数1以上のアルキル基、又は有機酸の陰イオンである。炭素数1以上のアルキル基としては、前記炭素数が1であることが好ましい。
前記有機酸の陰イオンとしては、例えば、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオンなどが挙げられ、これらはベタイン構造となっていてもよい。Xが有機酸の陰イオンの場合は、Y1を含まない。
前記Y1における1価の陰イオンとしては、例えば、Cl-、Br-、I-、F-、NO3
-、NO2
-、BF4
-、PF6
-、CF3COO-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、(C2F5SO2)2N-、(CN)2N-、CH3COO-、CH3SO3
-、C3H7SO3
-、HOOC(CH)2COO-などが挙げられる。これらの中でも、塩化物イオン(Cl-)が好ましい。
【0023】
前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位に関し、前記Rfが、下記一般式(B1)で表されるパーフルオロアルキル基、及び下記一般式(B2)で表されるパーフルオロアルキルエーテル基の少なくともいずれかであることが好ましい。
【化6】
前記一般式(B1)中、iは、1以上の整数を示す。
前記一般式(B2)中、h及びgは、1以上の整数を示す。
前記iは、1以上の整数であればよいが、4~8が好ましく、6がより好ましい。
前記h及びgは、1以上の整数であればよいが、hが2~3が好ましく、また、gが1~4が好ましい。
【0024】
前記共重合体の数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000~10,000が好ましく、2,000~8,000がより好ましい。
前記数平均分子量が1,000以上であると、成膜した際に相分離することを防ぐことができ、優れた基材密着性と親水撥油性能とを発揮することができる。前記数平均分子量が10,000以下であると、共重合体に対するアルコキシ基又は水酸基の残基が少なくなることによる基材との密着性や薄膜の物性の低下を防ぐことができ、優れた基材密着性と親水撥油性能とを発揮することができる。
前記共重合体の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)により標準ポリスチレン換算値として測定することができる。
【0025】
前記共重合体における構造単位の比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位が50モル%以上90モル%以下であり、前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位が10モル%以上50モル%以下であることが好ましく、前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位が70モル%以上90モル%以下であり、前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位が10モル%以上30モル%以下であることがより好ましく、前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位が70モル%超90モル%以下であり、前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位が10モル%以上30モル%未満であることが更に好ましい。
前記の好ましい数値範囲を満たすことで、成膜後の通常の使用環境では非親水撥油性を示し、水の滴下、水中、及び高湿度のいずれかの条件では撥油性を維持したまま非親水から親水性へスイッチングして親水撥油性を発現し、ひいては親水性を長く保つことができる。また、前記のより好ましい数値範囲を満たすと、防曇性、及びスイッチング後の親水性能が優れる点で有利であり、前記の更に好ましい数値範囲を満たすと、防曇性、及びスイッチング後の親水性能がより優れる点で有利である。
一方、前記親水性トリアルコキシシランに由来する構造単位が50モル%未満であると、水接触角が上がってしまい十分な親水性が得られないことがある。前記撥油性トリアルコキシシランに由来する構造単位が10モル%未満であると撥油性能が発現しないことがある。
【0026】
-親水性トリアルコキシシラン-
前記親水性トリアルコキシシランは、親水性を有する有機基を有するトリアルコキシシランであり、下記一般式(A)で表されるトリアルコキシシランであることが好ましい。
【化7】
前記一般式(A)中、kは、0以上の整数を示し、ORは、それぞれ独立に炭素数1以上のアルコキシ基及び水酸基の少なくともいずれかであり、Hyは、親水性を有する有機基である。
複数の前記ORとしては、互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
前記k、OR及びHyの好適な態様としては、前記一般式(1)において説明した事項を適宜選択することができる。
前記親水性トリアルコキシシランは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
-撥油性トリアルコキシシラン-
前記撥油性トリアルコキシシランは、撥油性を有する有機基を有するトリアルコキシシランであり、下記一般式(B)で表されるトリアルコキシシランであることが好ましい。
【化8】
前記一般式(B)中、lは、0以上の整数を示し、ORは、それぞれ独立に炭素数1以上のアルコキシ基及び水酸基の少なくともいずれかであり、Rfは、パーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルキルエーテル基の少なくともいずれかである。
複数の前記ORとしては、互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
前記l、OR及びRfの好適な態様としては、前記一般式(1)において説明した事項を適宜選択することができる。
前記撥油性トリアルコキシシランは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
[共重合体の製造方法]
前記共重合体の製造方法としては、特に制限はなく目的に応じて、公知のシランカップリング剤の加水分解重縮合反応に基づき適宜選択することができ、例えば、溶媒に前記親水性トリアルコキシシラン及び前記撥油性トリアルコキシシランを目的とするモル比で溶解し、水(加水分解反応の求核剤として機能)、及び触媒を添加して、加水分解重縮合反応により前記共重合体を製造することができる。
具体的には、前記親水性トリアルコキシシラン及び前記撥油性トリアルコキシシランをモル比で好ましくは5:5~9:1の割合で投入し、溶液濃度10質量%~30質量%になるように溶媒を加え、窒素気流下にして攪拌し、5℃~10℃の溶液を調製する。次に、蒸留水をモノマーに対し1当量~5当量、触媒をモノマーに対し0.1当量~0.5当量を滴下し、攪拌した後、溶液を室温にする。続いてオイルバスを設置して昇温し、溶媒の沸点に応じた温度にて還流下で1時間~5時間反応させる。その後、溶液を室温に戻し、エバポレーターにて常温で1時間~5時間減圧濃縮した後、室温の真空オーブンで減圧乾燥して共重合体を製造することができる。
【0029】
前記反応に用いる溶媒としては、前記親水性トリアルコキシシラン及び前記撥油性トリアルコキシシランの両方を完全に溶解可能な溶媒を、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエーテルエステル系溶媒、塩素系溶媒、エーテル系溶媒、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、アルコール系溶媒が好ましく、アルコール系溶媒が使用できない場合には、エーテル系溶媒が好ましい。
アルコール系溶媒としては、前記一般式(1)におけるOR基と炭素数が同数であるアルコール(R-OH)が好ましい。エーテル系溶媒としては、低沸点で溶解性に優れるテトラヒドロフランが好ましい。
前記触媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ギ酸、塩酸などが挙げられる。
【0030】
前記GPCによる前記共重合体の数平均分子量の測定により、重合体が得られたことにより確認できる。また、共重合体の反応後の液が透明な均一系であることにより、ランダム共重合体が合成されたことを確認でき、共重合体の反応後の液が懸濁していることにより、ブロック共重合体が合成されたことを確認できる。
前記共重合体の同定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)法陽子核磁気共鳴(1H-NMR)法、炭素13核磁気共鳴(13C-NMR)法などにより、共重合体を分析する方法が挙げられる。
また、前記共重合体のシロキサン結合をオルトギ酸メチルにより選択的に化学的に分解し、得られた分解産物を分析することにより、モノマー種、及びモノマー組成比等を同定することができる。また、2~数個のモノマーが連結したコモノマーの連鎖分布(モノマーシーケンス)を分析することにより、共重合体種の定性、及びモノマーシーケンス分率、モノマー組成比等の定量分析を行うことができる。前記分析方法としては、例えば、1H-NMR、13C-NMR法、29Si-NMR法、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)法、赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)法などが挙げられる。
【0031】
(親水撥油組成物)
本発明の親水撥油組成物は、上記した本発明の共重合体と、溶媒と、を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
前記親水撥油組成物に含まれる親水撥油性能を示す有効成分乃至固体成分が、前記共重合体からなることが好ましい。
【0032】
<共重合体>
前記共重合体としては、上記した本発明の共重合体において説明した事項を適宜選択することができる。
前記共重合体は、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
<溶媒>
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機溶媒が挙げられる。
前記有機溶媒としては、例えば、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエーテルエステル系溶媒、塩素系溶媒、エーテル系溶媒、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、アルコール系溶媒が好ましく、メタノール、エタノールなどがより好ましい。
【0034】
前記共重合体の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記親水撥油組成物の総量に対し、1質量%~20質量%が好ましく、2.5質量%~10質量%が好ましい。
【0035】
(親水撥油膜)
本発明の親水撥油膜は、上記した本発明の共重合体を含む親水撥油膜である。
前記共重合体としては、上記した本発明の共重合体において説明した事項を適宜選択することができる。前記共重合体は、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
ガラス基材上に設けた前記親水撥油膜が、下記(a)、(b1)、(c1)、及び(d)をすべて満たし、下記(a)、(b2)、(c2)、及び(d)をすべて満たすことが好ましい。
(a)水滴下直後において、水接触角が60°以上である
(b1)水滴下後30分間経過後において、水接触角が40°以下である
(c1)水中に浸漬させた環境において、気泡の接触角が130°以上である、又は気泡が付着しない
(d)ヘキサデカンの接触角が50°以上である
(a)水滴下直後において、水接触角が60°以上である
(b2)水滴下後30分間経過後において、水接触角が30°以下である
(c2)水中に浸漬させた環境において、気泡の接触角が150°以上である、又は気泡が付着しない
(d)ヘキサデカンの接触角が50°以上である
【0036】
(親水撥油積層体)
本発明の親水撥油積層体は、基材と、前記基材上に表面が平滑な親水撥油層と、を有し、前記親水撥油層が、上記した本発明の共重合体を含む、乃至上記した本発明の親水撥油膜である。
前記共重合体、及び前記親水撥油層としては、上記した本発明の共重合体、及び上記した本発明の親水撥油膜において説明した事項を適宜選択することができる。
【0037】
図1は、本実施形態の親水撥油積層体の一例を示す概略断面図である。
図1の親水撥油積層体10は、基材1と、基材1上に表面が平滑な親水撥油膜(親水撥油層)2とを有する。
【0038】
<基材>
前記基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、無機材料を表面に有する基材が好ましく、例えば、金属酸化物で構成される無機基材、金属酸化物や金属等の無機材料を表面に有する樹脂基材などが好適に挙げられる。
前記基材は、例えば、水廻りに使用される基材である。そのような基材が使用される水廻り用機器としては、給水機能、排水機能、給排水機能などを備え、衛生に保たれることが求められている機器であって、例えば、水洗便器、食器洗浄機、洗濯機、キッチンシンク、手洗器、洗面器、浴槽などが挙げられる。
また、前記基材としては、例えば、ガラス窓、冷蔵・冷凍ショーケース、間仕切り、自動車のウインドウ等の窓材、浴室内の鏡、自動車サイドミラー等の鏡、浴室の床及び壁、太陽電池パネル、液晶や有機EL等のディスプレイ基材、防犯監視カメラ、眼鏡、ゴーグル、ヘルメット、レンズ、マイクロレンズアレイ、自動車のヘッドライトカバー、フロントパネル、サイドパネル、リアパネルなどが挙げられる。
【0039】
前記共重合体がアルコキシシリル基を有し、直接、無機基材上に設けることができ、プライマー層を設ける必要がない点で、前記基材が無機基材であることが好ましい。
樹脂基材を対象とする場合、スパッタ等で金属酸化物等の無機層を製膜し、無機層上に共重合体を有する親水撥油膜を形成することができる。
【0040】
<<無機基材>>
前記無機基材としては、例えば、金属基材、ガラス基材、金属酸化物などが挙げられる。これらの中でも、金属酸化物基材が好ましい。
前記金属基材の金属としては、例えば、酸化銅、酸化亜鉛、酸化鉄などを含む酸化合金などが挙げられる。
前記金属酸化物基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケイ酸ガラス(ケイ酸塩ガラス)、ソーダ石灰ガラス、カリガラスなどが挙げられる。
また、前記金属酸化物基材は、強化ガラス、合せガラス、耐熱ガラスなどであってもよい。
前記金属酸化物基材の形状は、通常、板状であるが、シート状、湾曲状等のどのような形状であってもよい。
【0041】
<<樹脂基材>>
前記樹脂基材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、PC/ABSアロイなどが挙げられる。
【0042】
前記基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記基材の表面(前記親水撥油層側の表面)は、光沢を有していてもよい。
また、前記基材の表面には、梨地模様、ヘアライン、スピン、ダイアカットが施されていてもよい。
【0043】
<親水撥油層>
前記親水撥油層は、上記した本発明の共重合体を含む、乃至上記した本発明の親水撥油膜である。
前記親水撥油層は、表面が平滑である。ここで、表面が平滑であるとは、意図的に形成された凸部又は凹部を表面に有さないことを意味する。例えば、前記親水撥油積層体においては、前記親水撥油層を形成する際に、物理的な加工による微細な凸部又は凹部が表面に形成されていない。
前記親水撥油層が表面に微細な凸部又は凹部を有さないことで、マジックインキ、指紋、汗、化粧品(ファンデーション、UVプロテクターなど)等の水性汚れ及び/又は油性汚れが付着し難い。また、例えそれらの汚れが付着した場合でもティッシュなどで水拭きすることで容易に除去できる。
【0044】
前記親水撥油層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100nm以下が好ましく、1nm~100nmがより好ましく、1nm~20nmが更に好ましい。
前記平均厚みとしては、前記親水撥油層の任意の3点以上の厚みを測定し、その平均を算出することにより求めることができる。
【0045】
[親水撥油膜の製造方法]
前記親水撥油膜の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、形成対象となる基材の表面に前記親水撥油組成物を塗布し、80℃~140℃で30分間~3時間熱処理する、乃至は減圧下で脱溶媒して、基材上に前記親水撥油膜を製造する方法などが挙げられる。
前記親水撥油組成物を塗布する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、マイクログラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトグラビアコート法、ダイコート法、ディップ法、スプレーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、コンマコート法、ナイフコート法などが挙げられる。
【0046】
(物品)
本発明の物品は、上記した本発明の親水撥油膜を表面に有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
前記親水撥油膜は、前記物品の表面の一部に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。
【0047】
前記物品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水洗便器、食器洗浄機、洗濯機、キッチンシンク、手洗器、洗面器、浴槽等の水廻りに使用される物品;ガラス窓、冷蔵・冷凍ショーケース、間仕切り、自動車のウインドウ等の窓材、浴室内の鏡、自動車サイドミラー等の鏡、浴室の床及び壁、太陽電池パネル、液晶や有機EL等のディスプレイ基材、防犯監視カメラ、眼鏡、ゴーグル、ヘルメット、レンズ、マイクロレンズアレイ、自動車のヘッドライトカバー、フロントパネル、サイドパネル、リアパネルなどが挙げられる。
【0048】
前記物品の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記した親水撥油膜の製造方法を含むことが好ましい。
【実施例0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0050】
(共重合体1の合成)
氷浴内に設置した三口フラスコに親水性トリアルコキシシランとしてポリオール型トリメトキシシラン(X-12-641、信越化学工業株式会社製、式中、f=13.6)と、撥油性トリアルコキシシランとしてフッ化ヘキシルトリメトキシシラン(TDF-TMS、東京化成工業株式会社製)とをモル比で9:1の割合で投入し、溶液濃度20質量%になるようにテトラヒドロフランを加え、200mL/minの流量でフラスコ内を窒素気流下にして10分攪拌し、8℃の溶液を調製した。次に、蒸留水をモノマーに対し3当量、ギ酸をモノマーに対し0.2当量を滴下し、10分攪拌したのち氷浴を撤去して30分攪拌し、溶液を室温にした。続いてオイルバスを設置して昇温し、65℃還流下で3時間反応させた。その後、オイルバスを撤去して30分間攪拌し、溶液を室温に戻した。三口フラスコから試料瓶に溶液を移し、エバポレーターにて常温で3時間減圧濃縮した後、室温の真空オーブンで18時間減圧乾燥して共重合体1を得た。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置(GPC-101、Shodex社製)を用いて共重合体1の数平均分子量を測定した結果、2,887と算出された。
なお、GPCによる数平均分子量の測定により、重合体の形成を確認し、共重合体1の反応後の液が透明な均一系であることにより、ランダム共重合体が合成されたことを確認した。
【0051】
【0052】
(共重合体2の合成)
X-12-641とTDF-TMSとをモル比で8:2の割合で投入したこと以外は、合成例1と同じ操作を実施し、共重合体2を得た。
GPC測定の結果、共重合体2の数平均分子量は、2,851と算出された。
【0053】
(共重合体3の合成)
X-12-641とTDF-TMSとをモル比で7:3の割合で投入したこと以外は、合成例1と同じ操作を実施し、共重合体3を得た。
GPC測定の結果、共重合体3の数平均分子量は、2,760と算出された。
【0054】
(共重合体4の合成)
X-12-641とTDF-TMSとをモル比で5:5の割合で投入したこと以外は、合成例1と同じ操作を実施し、共重合体4を得た。
GPC測定の結果、共重合体4の数平均分子量は、2,370と算出された。
【0055】
(実施例1)
共重合体1を固形分5質量%の濃度になるよう、メタノールを混合し、完全溶解させ親水撥油組成物1を調製した。親水撥油組成物1を常温で30日間保存したところ、変化が確認されなかった。
親水撥油組成物1をスピンコートにてスライドガラス上に親水撥油膜1を塗布し、120℃で2時間熱処理し、ガラス基材上に表面が平滑な親水撥油層が形成された親水撥油積層体1を作製した。
共重合体のモノマー組成及びモル比を表1に示し、親水撥油組成物の固形分(5質量%)における成分及び割合を表2に示す。
【0056】
<評価>
作製した親水撥油組成物、及び親水撥油膜について、以下のように評価した。結果を表3に示す。
【0057】
<<親水撥油組成物の保存安定性>>
親水撥油組成物を常温で30日間保存した後の組成物の外観を観察し、下記評価基準に従って評価を行った。
[評価基準]
〇:長期保存後の親水撥油組成物の外観に変化が確認されなかった。
×:長期保存後の親水撥油組成物に、白色の固形沈殿物が生じていた。
【0058】
<<親水撥油膜の表面の水接触角の測定>>
接触角計(DM-501、協和界面化学株式会社製)を用いて、下記条件で測定した。蒸留水をプラスチックシリンジに入れて、その先端にステンレス製の針を取り付けて評価面(親水撥油膜表面)に滴下した。
水の滴下量:2μL
測定温度:25℃
水を滴下して3秒間経過後の接触角を、親水撥油膜表面の任意の10か所で測定し、その平均値を水滴下直後の水接触角とした。
加えて、水を滴下して10分間、20分間、及び30分間経過後の水の接触角を、親水撥油膜表面の任意の10か所でそれぞれ測定し、その平均値を水接触角とした。
実施例1における、親水撥油膜表面上の水滴の写真を
図2に示す。
【0059】
実施例1では、接触角の経時的変化を確認するために、水滴下直後、及び水を滴下して1分間毎に1分間経過後~30分間経過後の水の接触角を測定した。結果を
図3に示す。
【0060】
<<親水撥油膜の表面の水中気泡接触角の測定>>
接触角計(DM-501、協和界面化学株式会社製)を用いて、下記条件で測定した。親水撥油膜を表面に有する親水撥油積層体を25℃の水中に浸漬し、水中に3μLの空気の気泡を付与して、気泡が付着するか否かを確認し、気泡が付着した場合には、親水撥油膜表面の任意の10か所の気泡について接触角を測定し、その平均値を水中気泡接触角とした。
【0061】
<<親水撥油膜の表面のヘキサデカン接触角の測定>>
接触角計(DM-501、協和界面化学株式会社製)を用いて、下記条件で測定した。
評価面(親水撥油膜表面)として、成膜して乾燥状態の親水撥油膜表面を準備し、ヘキサデカンをプラスチックシリンジに入れて、その先端にテフロン(登録商標)コートステンレス製の針を取り付けて評価面(親水撥油膜表面)に滴下した。
ヘキサデカンの滴下量:2μL
測定温度:25℃
ヘキサデカンを滴下して3秒間経過後から1分間隔で30分間経過後までの接触角を、親水撥油膜表面の任意の10か所で測定し、その平均値をヘキサデカン接触角とした。
【0062】
実施例1では、親水撥油膜の表面におけるヘキサデカンの接触角の経時的変化を確認するために、ヘキサデカンの接触角を測定した。結果を
図3に示す。
なお、
図3の結果より、実施例1におけるヘキサデカンの接触角は、経過時間によって変化しないことが分かった。
代表的な測定値として、滴下3秒間経過後に測定したヘキサデカンの接触角の測定値を表3に示した。
【0063】
<<防曇試験(蒸気試験)>>
親水撥油膜を表面に有する親水撥油積層体を、水浴に水を入れて80℃に加熱することにより発生した蒸気(高温高湿環境)に3分間暴露した。高温高湿環境へ暴露している間、親水撥油膜表面の外観の経時的変化を目視で観察し、下記評価基準により防曇性を評価した。
[評価基準]
5: 親水撥油膜表面が曇らない、又は5秒以内に曇りがクリアになる
4: 親水撥油膜表面が透明に濡れる
3: 親水撥油膜表面の曇りが5秒以上かつ30秒以内にクリアになる
2: 親水撥油膜表面の曇りが30秒以上かつ1分以内にクリアになる
1.5: 親水撥油膜表面の曇りが1分以上かつ3分以内にクリアになる
1: 3分以上経過しても親水撥油膜表面が曇ったままである
【0064】
<<親水撥油膜の可逆性の確認>>
水中気泡接触角を測定した親水撥油膜を取り出して、ふき取り後乾燥させた状態で、水接触角及びヘキサデカン接触角を測定し、親水撥油膜の可逆性の有無を確認した。
実施例1において、水接触角を測定した結果、滴下3秒後に60°以上を示し、ヘキサデカン接触角を測定した結果、滴下3秒後に60°以上を示した。
この結果から、水浸漬にて親水にスイッチングした表面状態は、乾燥を経て再度、非親水の状態に可逆的にスイッチングしたことを確認した。
【0065】
実施例1において接触角を測定した結果、水滴下3秒後において、水接触角が60°以上を示し、水滴下して30分間経過後において、水接触角が30°以下を示した。ヘキサデカン接触角は経時的変化によらず、60°以上であった。このことから、実施例1の親水撥油膜1は、撥油性を維持したまま、水の滴下により非親水性から親水性へ変化することが確認できた。また、水中における気泡接触角を測定した結果、気泡は付着しなかったことから、通常の使用環境では非親水性であったが、水中では親水性を示すことが確認できた。
さらに、防曇試験(蒸気試験)を実施した結果、5段階中4点と評価され、通常の使用環境では非親水性であったが、高湿度条件で非親水性から親水性へスイッチングしたことにより、十分な防曇性が得られることが分かった。また、親水化後、乾燥すると再度、非親水の状態に可逆的にスイッチングすることが確認できた。
【0066】
(実施例2)
共重合体1に代えて共重合体2を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、親水撥油組成物2、親水撥油膜2、及び親水撥油積層体2を作製した。親水撥油組成物2を長期で常温保存したところ、変化が確認されなかった。
接触角を測定した結果、水滴下3秒後において、水接触角が60°以上を示し、水滴下して30分間経過後において、水接触角が30°以下を示した。ヘキサデカン接触角は経時的変化によらず、60°以上であった。このことから、実施例2の親水撥油膜2は、撥油性を維持したまま、水の滴下により非親水性から親水性へ変化することが確認できた。また、水中気泡接触角を測定した結果、気泡は付着しなかったことから、通常の使用環境では非親水性であったが、水中では親水性を示すことが確認できた。
さらに、防曇試験(蒸気試験)を実施した結果、5段階中4点と評価され、通常の使用環境では非親水性であったが、高湿度下で親水性に変化したことにより、十分な防曇性を確認した。また、親水化後、乾燥すると再度、非親水の状態に可逆的にスイッチングすることが確認できた。
【0067】
(実施例3)
共重合体1に代えて共重合体3を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、親水撥油組成物3、親水撥油膜3、及び親水撥油積層体3を作製した。親水撥油組成物3を長期で常温保存したところ、変化が確認されなかった。
接触角を測定した結果、水滴下3秒後において、水接触角が60°以上を示し、水滴下して30分間経過後において、水接触角が40°以下30°超を示した。ヘキサデカン接触角は経時的変化によらず、60°以上であった。このことから、実施例3の親水撥油膜3は、撥油性を維持したまま、水の滴下により非親水性から親水性へ変化することが確認でき、親水性の程度は実施例1~2ほどではないが親水性が確認できた。また、水中気泡接触角を測定した結果、130°以上150°未満だったことから、通常の使用環境では非親水性であったが、水中では親水性を示すことが確認できた。親水性の程度は実施例1~2のレベルに満たなかった。
さらに、防曇試験(蒸気試験)を実施した結果、5段階中3点と評価され、防曇性が確認された。また、親水化後、乾燥すると再度、非親水の状態に可逆的にスイッチングすることが確認できた。
【0068】
(実施例4)
共重合体1に代えて共重合体4を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、親水撥油組成物4、親水撥油膜4、及び親水撥油積層体4を作製した。親水撥油組成物4を長期で常温保存したところ、変化が確認されなかった。
接触角を測定した結果、水滴下3秒後において、水接触角が60°以上を示し、水滴下して30分間経過後において、水接触角が40°以下30°超を示した。ヘキサデカン接触角は経時的変化によらず、60°以上であった。このことから、撥油性を維持したまま、水の滴下により非親水性から親水性へ変化することが確認でき、親水性の程度は実施例1~2ほどではないが親水性が確認できた。また、水中気泡接触角を測定した結果、130°以上150°未満だったことから、通常の使用環境では非親水性であったが、水中では親水性を示すことが確認できた。親水性の程度は実施例1~2のレベルに満たなかった。
さらに、防曇試験(蒸気試験)を実施した結果、5段階中1点と評価され、防曇性は不十分だった。また、親水化後、乾燥すると再度、非親水の状態に可逆的にスイッチングすることが確認できた。
【0069】
(比較例1)
共重合体1に代えて、X-12-641とTDF-TMSとのモル比8:2の混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、親水撥油組成物a、親水撥油膜a、及び親水撥油積層体aを作製した。親水撥油組成物aを長期で常温保存したところ、変化が確認されなかった。
接触角を測定した結果、ヘキサデカンの接触角が50°未満だったことから親水撥油性能は示さなかった。また、水の滴下3秒後、水接触角が30°以下であったため、非親水性から親水性へ変化することを確認できなかった。
【0070】
(比較例2)
共重合体1に代えて、X-12-641とTDF-TMSとをモル比8:2で含み、モノマーの架橋剤として下記構造式で表されるチタンテトラnブトキシドをモノマー比で5質量%配合した混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、親水撥油組成物b、親水撥油膜b、及び親水撥油積層体bを作製した。親水撥油組成物bを長期で常温保存したところ、白色の固形沈殿物を確認した。
接触角を測定した結果、30分間経過後の水接触角が30°以上だったことから親水撥油性能は示さなかった。また、水の滴下により非親水性から親水性へ変化することを確認できなかった。
【0071】
【0072】
(比較例3)
共重合体1に代えて、親水性トリアルコキシシランとして下記構造式で表される4級アンモニウム塩構造を有するトリアルコキシシラン(TMAC-TMS、東京化成工業株式会社製)と、TDF-TMSとのモル比8:2の混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、親水撥油組成物c、親水撥油膜c、及び親水撥油積層体cを作製した。親水撥油組成物cを長期で常温保存したところ、変化が確認されなかった。
接触角を測定した結果、ヘキサデカンの接触角が50°未満だったことから親水撥油性能は示さなかった。また、水の滴下3秒後、水接触角が30°以下であったため、非親水性から親水性への変化を確認できなかった。
【0073】
【0074】
(比較例4)
共重合体1に代えて、TMAC-TMSとTDF-TMSとをモル比8:2で含み、モノマーの架橋剤としてチタンテトラnブトキシドをモノマー比で5質量%配合した混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、親水撥油組成物d、親水撥油膜d、及び親水撥油積層体dを作製した。親水撥油組成物dを長期で常温保存したところ、白色の固形沈殿物を確認した。
接触角を測定した結果、親水撥油性を示したが、水の滴下3秒後、水接触角が30°以下であったため、非親水性から親水性への変化を確認できなかった。
【0075】
【0076】
【0077】