(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103038
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】センシング方法、タッチパネル駆動装置、タッチパネル装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
G06F3/041 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007167
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505436106
【氏名又は名称】台湾双葉電子股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正規
(72)【発明者】
【氏名】郭 鴻雲
(72)【発明者】
【氏名】周 泰伊
(57)【要約】
【課題】タッチパネルにおいてノイズによるタッチの誤検出を低減する。
【解決手段】タッチパネルに対し、隣接する一対の送信信号線と隣接する一対の受信信号線で形成されるセルを順次選択して安定化期間とセンシング期間の静電容量の変化量に基づく検出値を取得する走査を行うタッチパネル駆動装置のセンシング方法である。タッチパネルのタッチ操作面に形成されるセルの行方向と列方向の配列における各列について列内のセルの検出値に基づく列側第1評価値を求める処理と、各行について行内のセルの検出値に基づく行側第1評価値を求める処理との少なくとも一方を行って判定エリアを設定する。そして複数セルで構成されるブロックを判定エリアに応じて選択し、選択したブロック毎にブロック内のセルの検出値に基づく第2評価値を求め、タッチ検出ポイントを判定する。そしてタッチ検出ポイントの判定に基づいて対象のセルの検出値を用いて座標演算を行ってタッチ検出情報を出力する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッチパネルに対し、隣接する一対の送信信号線と隣接する一対の受信信号線で形成されるセルを順次選択して安定化期間とセンシング期間の静電容量の変化量に基づく検出値を取得する走査を行うタッチパネル駆動装置のセンシング方法であって、
前記タッチパネルのタッチ操作面に形成される前記セルの行方向と列方向の配列における各列について列内のセルの検出値に基づく列側第1評価値を求める処理と、前記配列における各行について行内のセルの検出値に基づく行側第1評価値を求める処理との少なくとも一方を行って判定エリアを設定する判定エリア設定手順と、
複数セルで構成されるブロックを前記判定エリアに応じて選択し、選択したブロック毎にブロック内のセルの検出値に基づく第2評価値を求め、前記第2評価値に基づいてタッチ検出ポイントを判定する検出ポイント判定手順と、
前記タッチ検出ポイントの判定に基づいて対象のセルの検出値を用いて座標演算を行ってタッチ検出情報を出力する座標演算手順と
が行われるセンシング方法。
【請求項2】
前記列側第1評価値は、列内の各セルの検出値変化量の絶対値の総和に相当する値であり、
前記行側第1評価値は、行内の各セルの検出値変化量の絶対値の総和に相当する値である
請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項3】
前記ブロックは、列方向の4セルの範囲と行方向の4セルの範囲での16セルで形成されるセル群であり、
前記第2評価値は、前記ブロックに対してタッチ操作があったときに所定閾値以上の信号値が得られる計算式で求められる値であり、
前記検出ポイント判定手順では、選択したブロック毎に前記第2評価値を前記所定閾値と比較した結果により、タッチ検出ポイントとされるブロックを判定する
請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項4】
タッチパネルに対し、隣接する一対の送信信号線と隣接する一対の受信信号線で形成されるセルを順次選択して安定化期間とセンシング期間の静電容量の変化量に基づく検出値を取得する走査を行うタッチパネル駆動装置であって、
前記タッチパネルのタッチ操作面に形成される前記セルの行方向と列方向の配列における各列について、列内のセルの検出値に基づく列側第1評価値を求める処理と前記配列における各行について行内のセルの検出値に基づく行側第1評価値を求める処理との少なくとも一方を行って判定エリアを設定する処理と、
複数セルで構成されるブロックを前記判定エリアに応じて選択し、選択したブロック毎にブロック内のセルの検出値に基づく第2評価値を求め、前記第2評価値に基づいてタッチ検出ポイントを判定する処理と、
前記タッチ検出ポイントの判定に基づいて対象のセルの検出値を用いて座標演算を行ってタッチ検出情報を出力する処理と、
を行う制御装置を備える
タッチパネル駆動装置。
【請求項5】
タッチパネルと、
タッチパネルに対し、隣接する一対の送信信号線と隣接する一対の受信信号線で形成されるセルを順次選択して安定化期間とセンシング期間の静電容量の変化量に基づく検出値を取得する走査を行うタッチパネル駆動装置と、
を備え、
前記タッチパネル駆動装置は、
前記タッチパネルのタッチ操作面に形成される前記セルの行方向と列方向の配列における各列について、列内のセルの検出値に基づく列側第1評価値を求める処理と前記配列における各行について行内のセルの検出値に基づく行側第1評価値を求める処理との少なくとも一方を行って判定エリアを設定する処理と、
複数セルで構成されるブロックを前記判定エリアに応じて選択し、選択したブロック毎にブロック内のセルの検出値に基づく第2評価値を求め、前記第2評価値に基づいてタッチ検出ポイントを判定する処理と、
前記タッチ検出ポイントの判定に基づいて対象のセルの検出値を用いて座標演算を行ってタッチ検出情報を出力する処理と、
を行う制御装置を備える
タッチパネル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタッチパネルのセンシング方法、タッチパネルを駆動するタッチパネル駆動装置、及びタッチパネルとその駆動装置を有するタッチパネル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルに関して各種の技術が知られており、下記特許文献1には同時に2組(一対の送信信号線と一対の受信信号線)の信号線(電極)のセンシングを行ってタッチ操作位置の検出を行うことで解像度を向上させるセンシング技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなタッチ位置のセンシングを行う場合に、高いノイズ環境下ではノイズがタッチ検出閾値を超えた場合にゴーストタッチを出力してしまう。ゴーストタッチとは、タッチしていないのにタッチしたと判断してしまう現象のことである。このような誤って検出したタッチ位置検出出力である「座標レポート」は「異常座標レポート」と呼ばれている。
【0005】
この対策として、ノイズ信号が高い環境ではタッチ検出閾値を高く設定するという方法がある。しかしタッチ検出の閾値を高く設定すれば異常座標レポートの発生を抑制できるものの、指でタッチした時にタッチ反応性が低下する背反が生じる。
【0006】
そこで本発明では、高いノイズ環境であっても、ノイズによる異常座標レポートの発生を抑制しつつ、タッチ反応性を確保できるタッチ位置検出アルゴリズムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセンシング方法は、タッチパネルに対し、隣接する一対の送信信号線と隣接する一対の受信信号線で形成されるセルを順次選択して安定化期間とセンシング期間の静電容量の変化量に基づく検出値を取得する走査を行うタッチパネル駆動装置のセンシング方法である。このセンシング方法として、前記タッチパネルのタッチ操作面に形成される前記セルの行方向と列方向の配列における各列について、列内のセルの検出値に基づく列側第1評価値を求める処理と、前記配列における各行について、行内のセルの検出値に基づく行側第1評価値を求める処理との少なくとも一方を行って判定エリアを設定する判定エリア設定手順と、複数セルで構成されるブロックを前記判定エリアに応じて選択し、選択したブロック毎にブロック内のセルの検出値に基づく第2評価値を求め、前記第2評価値に基づいてタッチ検出ポイントを判定する検出ポイント判定手順と、前記タッチ検出ポイントの判定に基づいて対象のセルの検出値を用いて座標演算を行ってタッチ検出情報を出力する検出演算手順とが行われる。
列側第1評価値と行側第1評価値の一方又は両方に基づいて判定エリアを設定することでパネル面上のエリアを限定する。その上で判定エリアに応じたブロック毎に、主にノイズとタッチの切り分けのための第2評価値を求め、タッチ検出ポイントを判定する。タッチ検出ポイントに該当するセル群を対象として座標演算を行い、タッチ検出情報を出力する。
【0008】
本発明に係るタッチパネル駆動装置、タッチパネル装置は、上記のセンシング方法を実行する装置であり、前記タッチパネルのタッチ操作面に形成される前記セルの行方向と列方向の配列における各列について、列内のセルの検出値に基づく列側第1評価値を求める処理と前記配列における各行について行内のセルの検出値に基づく行側第1評価値を求める処理との少なくとも一方を行って判定エリアを設定する処理と、複数セルで構成されるブロックを前記判定エリアに応じて選択し、選択したブロック毎にブロック内のセルの検出値に基づく第2評価値を求め、前記第2評価値に基づいてタッチ検出ポイントを判定する処理と、前記タッチ検出ポイントの判定に基づいて対象のセルの検出値を用いて座標演算を行ってタッチ検出情報を出力する処理と、を行う制御装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タッチしていると考えられるエリアを絞り込み、そのエリアに限定してタッチ検出ポイントを選択し、タッチポイントで座標演算を行う。これにより。ノイズがある程度高い環境において、タッチしていないエリアでノイズによる異常座標レポート(ゴーストタッチ)が発生することを、抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態のタッチパネル及びタッチパネル駆動装置の構成のブロック図である。
【
図2】実施の形態のタッチパネルのセンシングのための構成の説明図である。
【
図3】実施の形態のタッチパネル駆動装置の送信回路及び受信回路の説明図である。
【
図4】実施の形態の受信回路の容量切り替えの構成の説明図である。
【
図5】実施の形態の走査に応じたタッチ信号検出のブロックの説明図である。
【
図6】実施の形態の一対の信号線の組に対するタッチ位置の説明図である。
【
図7】実施の形態のブロックにおける検出パターンの説明図である。
【
図8】実施の形態のセンシング処理のフローチャートである。
【
図12】実施の形態の判定エリアに基づくブロックの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を次の順序で説明する。
<1.タッチパネル装置の構成>
<2.センシング処理例>
<3.実施の形態の効果及び変形例>
【0012】
<1.タッチパネル装置の構成>
実施の形態のタッチパネル装置1の構成例を
図1に示す。
タッチパネル装置1は、各種機器においてユーザインターフェース装置として装着される。ここで各種機器とは、例えば電子機器、通信機器、情報処理装置、製造設備機器、工作機械、車両、航空機、建物設備機器、農業用機器、建設用機器、その他非常に多様な分野の機器が想定される。タッチパネル装置1は、これらの多様な機器製品においてユーザの操作入力に用いる操作入力デバイスとして採用される。
特に実施の形態のタッチパネル装置1は、ノイズ環境においてもゴーストタッチの発生を抑えることができるため、ノイズ環境で用いる機器への装着に適している。
【0013】
図1ではタッチパネル装置1と製品側MCU(Micro Control Unit)90を示しているが、製品側MCU90とは、タッチパネル装置1が装着される機器における制御装置を示しているものである。タッチパネル装置1は製品側MCU90に対してユーザのタッチパネル操作の情報を供給する動作を行うことになる。
【0014】
タッチパネル装置1は、タッチパネル2と、タッチパネル駆動装置3を有する。タッチパネル駆動装置3はセンサIC(Integrated Circuit)4とMCU5を有する。
【0015】
このタッチパネル駆動装置3は、タッチパネル側接続端子部31を介してタッチパネル2と接続される。この接続を介してタッチパネル駆動装置3はタッチパネル2の駆動(センシング)を行う。
また操作入力デバイスとして機器に搭載される際には、タッチパネル駆動装置3は製品側接続端子部32を介して製品側MCU90と接続される。この接続によりタッチパネル駆動装置3は製品側MCU90にセンシングした操作情報を送信する。
【0016】
タッチパネル駆動装置3におけるセンサIC4は、送信回路41、受信回路42、マルチプレクサ43、インターフェース・レジスタ回路44、電源回路45を有する。
【0017】
センサIC4の送信回路41は、マルチプレクサ43によって選択されたタッチパネル2における端子に対して送信信号を出力する。また受信回路42は、マルチプレクサ43によって選択されたタッチパネル2における端子から信号を受信し、必要な比較処理等を行う。
【0018】
図2に送信回路41、受信回路42、マルチプレクサ43とタッチパネル2の接続状態を模式的に示す。
タッチパネル2は、タッチ面を形成するパネル平面に、n本のY電極21-1からY電極21-n、m本のX電極22-1からX電極22-mが配設される。
なおY電極21-1・・・21-n、X電極22-1・・・22-mの各電極を特に区別しない場合は、総称として「Y電極21」「X電極22」と表記する。
【0019】
本実施の形態では、Y電極21は送信側の電極、つまり送信信号線として用いられ、X電極22は受信側の電極、つまり受信信号線として用いられる。
【0020】
Y電極21-1・・・21-nと、X電極22-1・・・22-mは、図示するように交差して配設される場合もあれば、いわゆるシングルレイヤ構造として、交差が生じないように配設される場合もある。いずれにしてもY電極21とX電極22が配設される範囲内でタッチ操作面が形成され、タッチ操作時の容量変化により操作位置が検出される構造となる。
【0021】
図2ではY電極21とX電極22の間で生じる容量を一部のみ例示している(容量C22,C23,C32,C33)が、タッチ操作面の全体に、Y電極21とX電極22の間で生じる容量(例えば交差位置における容量)が存在し、タッチ操作により容量変化が生じた位置が受信回路42により検出されることとなる。
【0022】
送信回路41は、マルチプレクサ43により選択された送信信号線(Y電極21-1・・・21-n)に対して送信信号を出力する。本実施の形態では、マルチプレクサ43が各タイミングで2本ずつ隣接するY電極21を選択していく走査を行う。
受信回路42は、マルチプレクサ43により選択された受信信号線(X電極22-1・・・22-m)からの受信信号を受信する。本実施の形態では、マルチプレクサ43が各タイミングで2本ずつ隣接するX電極22を選択していく。
この送信回路41、受信回路42によるセンシング動作については後述する。
【0023】
図1に戻って説明する。センサIC4のインターフェース・レジスタ回路44には、送信回路41、マルチプレクサ43、受信回路42、電源回路45に対する各種の設定情報がMCU5によって書き込まれる。
送信回路41、マルチプレクサ43、受信回路42、電源回路45は、それぞれインターフェース・レジスタ回路44に記憶された設定情報によって動作が制御される。
またインターフェース・レジスタ回路44には、受信回路42により検出された検出値(説明上「RAW値」ともいう)を記憶し、MCU5が取得できるようにしている。
【0024】
電源回路45は、駆動電圧AVCC等を生成し、送信回路41、受信回路42に供給する。後述するが、送信回路41は駆動電圧AVCC等を用いたパルスをマルチプレクサ43によって選択された送信信号線(Y電極21)に印加する。
また受信回路42は、センシング動作の際に、マルチプレクサ43によって選択された受信信号線(X電極22)に対して駆動電圧AVCC等を印加することも行う。
なお、
図1で例示する駆動電圧AVCCとは、後述する駆動電圧AVCC1,AVCC2,AVCC3,AVCC4等の総称としている。
【0025】
MCU5はセンサIC4の設定、制御を行う。具体的にはMCU5はインターフェース・レジスタ回路44に対して必要な設定情報を書き込むことで、センサIC4の各部の動作を制御する。
またMCU5は受信回路42からのRAW値をインターフェース・レジスタ回路44から読み出すことで取得する。そしてMCU5は、RAW値を用いて座標計算を行い、ユーザのタッチ操作位置情報としての座標値を製品側MCU90に送信する処理を行う。
【0026】
図1ではMCU5におけるメモリ5Mとして、RAM領域、ROM領域、不揮発性記憶領域などを総括して示している。このメモリ5Mはインターフェース・レジスタ回路44に与える設定情報の記憶に用いられる。またメモリ5Mは、検出されたRAW値やそれに応じたタッチ操作位置情報としての座標値の一時的な記憶領域としても用いられる。
【0027】
また
図1では、MCU5において判定エリア設定部5a、検出ポイント判定部5b、座標演算部5cを示している。これらはMCU5においてプログラム(ファームウェア等)により実現される処理機能の一部であり、特に本実施の形態の処理のために設けられる機能を示している。
【0028】
判定エリア設定部5aは、タッチパネル2のタッチ面に形成されるセルの行方向と列方向の配列において、各列について列の全てのセルのRAW値に基づく列側第1評価値を求める処理と、各行について行の全てのセルのRAW値に基づく行側第1評価値を求める処理との少なくとも一方を行って判定エリアを設定する処理を行う機能である。
「セル」とは、2本のY電極21と2本のX電極22の組で形成される1つのRAW値の検出領域を指す。
図2のようにY電極21とX電極22が配列されることで、セルは行方向及び列方向にマトリクス状に配置されることになる。
列側第1評価値とは各列においてその列方向(X電極22の線方向)に並ぶ全セルから計算される値であり、一例として後述するRxパワーの値である。
行側第1評価値とは各行においてその行方向(Y電極21の線方向)に並ぶ全セルから計算される値であり、一例として後述するRyパワーの値である。
【0029】
検出ポイント判定部5bは、複数セルで構成されるブロックを、判定エリア設定部5aが設定した判定エリアに応じて選択し、選択したブロックBK(
図5参照)毎にブロックBK内のセルのRAW値に基づく第2評価値を求め、第2評価値に基づいてタッチ検出ポイントを判定する処理を行う機能としている。
ブロックとは後述する4×4の16個のセルで構成されるパターン検出の単位であり、第2評価値の例は後述の4×4信号値である。
【0030】
座標演算部5cは、検出ポイント判定部5bによるタッチ検出ポイントの判定に基づいて対象のセルのRAW値を用いて座標演算を行い、ユーザのタッチ操作位置情報としての座標レポートを出力する処理を行う機能としている。
【0031】
これら判定エリア設定部5a、検出ポイント判定部5b、座標演算部5cの機能により、後述の
図8のような処理が行われる。
【0032】
以上の構成のタッチパネル装置1による第1センシングの動作について説明する。
まず
図3によりタッチパネル2に対する送信回路41,受信回路42の動作を説明する。図ではタッチパネル2において2つの送信信号線(Y電極21-2、21-3)と、2つの受信信号線(X電極22-2、22-3)を示している。
【0033】
本実施の形態のセンシングの場合、先の
図2に示したようなY電極21、X電極22に対して、送信回路41と受信回路42が、それぞれ隣接する2本ずつ送信、受信を行っていくことでタッチ操作の検出を行うものとなる。つまり一対のY電極21と一対のX電極22の2本×2本をセルとして、順次セル単位で検出走査を行う。
図3では、その1つのセルの部分を示していることになる。
【0034】
送信回路41は、2本のY電極21(図の場合ではY電極21-2とY電極21-3)に対して、ドライバ411,412から駆動電圧AVCC1を出力する。つまりドライバ411,412の出力である送信信号T+、T-がマルチプレクサ43によって選択されたY電極21-2,Y電極21-3に供給される。
なお駆動電圧AVCC1は、
図1の電源回路45が生成する電圧である。
【0035】
この場合、送信回路41は、ドライバ411からの送信信号T+を図示のように、アイドル(Idle)期間をロウレベル(以下「Lレベル」と表記)とする。例えば0Vとする。そして続くアクティブ(Active)期間にはハイレベル(以下「Hレベル」と表記)とする。この場合、Hレベルの信号として具体的には駆動電圧AVCC1の印加を行う。
【0036】
また送信回路41は、もう一つのドライバ412からの送信信号T-は、アイドル期間をHレベル(駆動電圧AVCC1の印加)とし、続くアクティブ期間はLレベルとする。
ここで、アイドル期間は受信信号R+、R-の電位を安定させる期間であり、アクティブ期間は受信信号R+、R-の電位変化をセンシングする期間となる。
【0037】
このアイドル期間、アクティブ期間において、受信回路42はマルチプレクサ43によって選択された2つのX電極22(図の場合ではX電極22-3,X電極22-2)からの受信信号R+、R-を受信する。
【0038】
受信回路42は、コンパレータ421、基準容量部422、スイッチ423,425、計測用容量部424、演算制御部426、電圧選択部427,428を備えている。
2つの受信信号線(X電極22)からの受信信号R+、R-はコンパレータ421で受信される。コンパレータ421は、受信信号R+、R-の電位を比較して、その比較結果をHレベル又はLレベルで演算制御部426に出力する。
【0039】
基準容量部422を構成するコンデンサの一端には、電圧選択部427を介して、駆動電圧VSS、AVCC4、AVCC3、AVCC2のいずれかが印加される。これらの駆動電圧は、
図1の電源回路45が生成する。
基準容量部422を構成するコンデンサの他端はスイッチ423の端子Taを介してコンパレータ421の+入力端子に接続されている。
【0040】
計測用容量部424を構成するコンデンサの一端には電圧選択部428を介して、駆動電圧VSS、AVCC4、AVCC3、AVCC2のいずれかが印加される。なお電圧選択部428では、電圧選択部427と同じ電圧が選択される。
計測用容量部424を構成するコンデンサの他端はスイッチ425の端子Taを介してコンパレータ421の-入力端子に接続されている。
【0041】
スイッチ423、425は、アイドル期間には端子Tiが選択される。従ってアイドル期間にはコンパレータ421の+入力端子(X電極22-3)、-入力端子(X電極22-2)がグランド接続され、受信信号R+、R-はグランド電位となる。
スイッチ423、425は、アクティブ期間には端子Taが選択される。従ってアクティブ期間にはコンパレータ421の+入力端子(X電極22-3)、-入力端子(X電極22-2)に駆動電圧AVCC(例えば駆動電圧AVCC2)が印加される。
【0042】
図3では当該セルが非タッチ状態の場合の受信信号R+、R-の波形を実線で示している。アイドル期間ではスイッチ423、425が端子Tiを選択していることで、受信信号R+、R-は、或る電位(グランド電位)で安定されている。
アクティブ期間となるとスイッチ423、425が端子Taを選択することで、X電極22-3,22-2に駆動電圧AVCC(例えば駆動電圧AVCC2)が印加される。これにより受信信号R+、R-の電位がΔV上昇する。非タッチの状態では、このΔVの電位上昇は、受信信号R+、R-共に発生する。
【0043】
一方、送信回路41側では、アクティブ期間となると、上述のように送信信号T+が立ち上がり、送信信号T-が立ち下がる。これにより、タッチ操作があった場合には、受信信号R+、R-の電位上昇の程度が変化する。
仮に容量C22に影響を与えるA1位置がタッチされた場合、受信信号R-の電位がアクティブ期間において破線で示すようにΔVHだけ上昇する。
また仮に容量C32が変化するA2位置がタッチされた場合、受信信号R-の電位がアクティブ期間において破線で示すΔVLだけ上昇する。
これらのように当該セルに対するタッチ操作位置に応じて、受信信号R-の電位変化量が受信信号R+の電位変化量(ΔV)よりも大きくなったり小さくなったりする。
コンパレータ421はこのような受信信号R+、R-を比較することになる。
【0044】
なお、このように変化する受信信号R+、R-の電位差分自体をRAW値(検出結果)として出力するようにしてもよいが、本実施の形態では受信回路42は、演算制御部426が受信信号R+、R-の電圧バランスがとれるように計測用容量部424の容量値の設定変更を行い、RAW値を得るようにしている。
【0045】
演算制御部426はスイッチ423,425のオン/オフ制御を行う。
また演算制御部426はビット信号BSにより計測用容量部424の容量値の切り替え制御を行う。
また演算制御部426はモード制御信号SSにより基準容量部422の容量値の切り替え制御を行うことで、タッチ信号の検出感度のモード設定を行うことができる。基準容量部422の容量は、走査時には固定値であるが、感度のモードの変更として切り替えが行われる。
【0046】
これら演算制御部426の処理は、インターフェース・レジスタ回路44に書き込まれた設定情報に従って行われる。即ちMCU5による動作設定に基づいて行われる。
また演算制御部426は、コンパレータ421の出力を監視し、RAW値を算出する。演算制御部426で算出されたRAW値はインターフェース・レジスタ回路44に書き込まれることでMCU5が取得可能とされる。
【0047】
以上の
図3において可変容量コンデンサの記号で示した計測用容量部424は、例えば
図4のように複数、この例では11個のコンデンサCM(コンデンサCM0からコンデンサCM10)と、11個のスイッチSW(スイッチSW0からスイッチSW10)を有して構成されている。また基準容量部422も、計測用容量部424と同様に11個のコンデンサCM(コンデンサCM20からコンデンサCM30)と、11個のスイッチSW(スイッチSW20からスイッチSW30)を有している。
なお「コンデンサCM」「スイッチSW」という表記は、これらのコンデンサ(CM0・・・CM30)やスイッチ(SW0・・・SW30)を総称する場合に用いる。
【0048】
この
図4は、
図3に示したスイッチ423,425が端子Taに接続された状態(アクティブ期間)での等価回路として示しており、スイッチ423,425の図示は省略している。
【0049】
計測用容量部424におけるコンデンサCM0とスイッチSW0、コンデンサCM1とスイッチSW1・・・コンデンサCM10とスイッチSW10はそれぞれ直列接続される。そして直列接続された11個のコンデンサCMとスイッチSWの組は、駆動電圧AVCC(例えば駆動電圧AVCC2)の電位とコンパレータ421の-入力端子の間に並列に接続されている。
従って、スイッチSW0からスイッチSW10のオン/オフにより、受信信号R-に影響を与える計測用容量部424の容量値を変更できる。この計測用容量部424における各スイッチSWのオン/オフはビット信号BSにより制御される。
またスイッチSW0からスイッチSW10は、それぞれ例えばFET(Field effect transistor)等のスイッチ素子を用いて構成されるが、1つのスイッチSWとして複数のスイッチ素子が設けられる場合もある。
【0050】
基準容量部422におけるコンデンサCM20とスイッチSW20、コンデンサCM21とスイッチSW21・・・コンデンサCM30とスイッチSW30も、それぞれ直列接続される。そして直列接続された11個のコンデンサCMとスイッチSWの組は、駆動電圧AVCC(例えば駆動電圧AVCC2)の電位とコンパレータ421の+入力端子の間に並列に接続されている。
従って、スイッチSW20からスイッチSW30のオン/オフにより、基準容量部422の容量値を変更できる構成である。この基準容量部422における各スイッチSWのオン/オフはモード制御信号SSにより制御される。スイッチSW20からスイッチSW30も、例えばFET等のスイッチ素子を用いて構成される。
【0051】
ここで、走査の際に、計測用容量部424では11ビットのビット信号BSのうちの8ビットにより容量値を256段階に変化させる例を考える。
図4の例では、計測用容量部424は11個のコンデンサCMとスイッチSWの組を備えている例としているが、例えば容量値を256段階に変化させる場合、8個の組があればよい。例えばビット信号BSの各ビットに対応して、スイッチSW0からスイッチSW7のそれぞれがオン/オフされるようにすれば、計測用容量部424における容量値を256段階に変化させることができる。ここで、11個の組を備えるのは、受信感度のモードを変更できるようにしたためである。
【0052】
また、基準容量部422は、256段階の中央値とした固定の容量値、例えば「128」に相当する容量値でよいため、1つのコンデンサCMで構成することが可能である。ところが図のように計測用容量部424と同様に11個の組を備えている目的の1つは、受信感度のモードの変更のためである。
【0053】
図4の上部に、ゲイン設定G0,G1,G2,G3を表記した。
ゲイン設定G0では、コンデンサCM20からコンデンサCM27が用いられる。
ゲイン設定G1では、コンデンサCM21からコンデンサCM28が用いられる。
ゲイン設定G2では、コンデンサCM22からコンデンサCM29が用いられる。
ゲイン設定G3では、コンデンサCM23からコンデンサCM30が用いられる。
【0054】
つまりゲイン設定G0,G1,G2,G3を変更することで、受信信号感度のモードを4段階に変更できる。
例えばゲイン設定G0では、基準容量部422はコンデンサCM20からコンデンサCM27を用いて「128」に相当する容量値を設定する。
実際にはモード制御信号SSとしては、スイッチSW20からスイッチSW30に対応する11ビットの信号であることが想定されるが、ゲイン設定G0の場合、モード制御信号SSにおけるスイッチSW28,SW29,SW30については常にオフ制御する論理値となる。そしてスイッチSW20からスイッチSW27に対応する各ビットが所定値に設定されることで、コンデンサCM20からコンデンサCM27を用いて「128」に相当する容量値とされる。なお、8個のコンデンサCMを用いることで、基準容量部422における容量値、即ち「128」に相当する容量値を調整することができる。
【0055】
同様に、例えばゲイン設定G1では、基準容量部422はコンデンサCM21からコンデンサCM28を用いて「128」に相当する容量値を設定する。またゲイン設定G2では、基準容量部422はコンデンサCM22からコンデンサCM29を用いて「128」に相当する容量値を設定し、ゲイン設定G3では、基準容量部422はコンデンサCM23からコンデンサCM30を用いて「128」に相当する容量値を設定する。
【0056】
このように受信感度を変更する各ゲイン設定に応じて、計測用容量部424も、コンデンサCMが次のように用いられる。
ゲイン設定G0のときはコンデンサCM0からコンデンサCM7が用いられる。
ゲイン設定G1のときはコンデンサCM1からコンデンサCM8が用いられる。
ゲイン設定G2のときはコンデンサCM2からコンデンサCM9が用いられる。
ゲイン設定G3のときはコンデンサCM3からコンデンサCM10が用いられる。
【0057】
例えばゲイン設定G0のときは、計測用容量部424はコンデンサCM0からコンデンサCM7を用いて容量値を256段階に変化させる。
実際にはビット信号BSは、スイッチSW0からスイッチSW10に対応する11ビットの信号であることが想定されるが、ゲイン設定G0の場合、ビット信号BSにおけるスイッチSW8,SW9,SW10に対応するビットは常にオフ制御する論理値となる。そしてスイッチSW0からスイッチSW7に対応する各ビットを変化させることで、コンデンサCM0からコンデンサCM7を用いて容量値を256段階に可変する。
【0058】
基準容量部422及び計測用容量部424における各コンデンサの容量値は、例えば次のようにされている。
コンデンサCM0,CM20は2fF(フェムトファラッド)、コンデンサCM1,CM21は4fF、コンデンサCM2,CM22は8fF、コンデンサCM3,CM23は16fF、コンデンサCM4,CM24は32fF、コンデンサCM5,CM25は64fF、コンデンサCM6,CM26は128fF、コンデンサCM7,CM27は256fF、コンデンサCM8,CM28は512fF、コンデンサCM9,CM29は1024fF、コンデンサCM10,CM30は2048fFである。
【0059】
なお
図4では各コンデンサCMはそれぞれ1つのコンデンサにより構成しているが、コンデンサCMの全部又は一部は、複数のコンデンサにより構成され、合成容量が上記の容量値となるようにしてもよい。
【0060】
例えばゲイン設定G0の場合、コンデンサCM0からコンデンサCM7は、ビット信号BSの11ビットのうちで、ビット“0”からビット“7”の8ビットの値で選択される。コンデンサCM0及びスイッチSW0がビット“0”、コンデンサCM1及びスイッチSW1がビット“1”、・・・コンデンサCM7及びスイッチSW7がビット“7”として機能する。
そして、この8ビットの値として0(=「00000000」)から255(=「11111111」)の容量設定値が与えられる。容量設定値はMCU5がインターフェース・レジスタ回路44に書き込む設定情報の一つである。
受信回路42では、この8ビットの容量設定値に応じてスイッチSW0~SW7がオン/オフされる。即ちスイッチSW0~SW7は対応するビットが「0」であればオフ、「1」であればオンとなる。これにより計測用容量部424の全体の容量値が0fF~510fFの範囲で256段階に可変されることになる。
【0061】
一方、受信信号R+側の基準容量部422のコンデンサCM20からコンデンサCM27により設定される容量値、即ち「128」に相当する容量値は例えば256fFとされる。
【0062】
上述のように受信信号R-は、タッチの有無及び位置によってアクティブ期間の波形の電位上昇の程度が変わる。受信信号R+の波形上昇程度(ΔV)より大きくなったり小さくなったりする。
図4の構成では、計測用容量部424の容量設定値を変更していくことで受信信号R-の波形の電位上昇程度を変化させることができ、例えば受信信号R+と同等となる計測用容量部424の容量設定値を見つけ出すことができる。
【0063】
例えば
図4の受信信号R-の破線で示す波形Sg1が初期状態であったとしたときに、計測用容量部424の容量を小さくすれば受信信号R-は波形Sg2のように波形Sg1より小さくなる。また、計測用容量部424の容量を大きくすれば受信信号R-は波形Sg3のように波形Sg1より大きくなる。
つまり、コンパレータ421で受信信号R+、R-の電圧レベルが同等となったときの計測用容量部424の容量設定値は、タッチによる受信信号R-の電圧変化に相当する値と等価となる。
【0064】
従って、コンパレータ421の出力をみながら計測用容量部424の容量設定値を順次変化させていき、受信信号R+、R-のアクティブ期間の電圧が同等となる容量設定値を探索する。すると探索された容量設定値を、タッチ操作のセンシング情報としてのRAW値とすることができる。
【0065】
以上はゲイン設定G0の例で説明したが、他のゲイン設定の場合もRAW値の検出方式を同様に考えることができる。つまり基準容量部422で「128」に相当する容量値の設定に用いる8個のコンデンサCMと、計測用容量部424で256段階の容量値変化に用いる8個のコンデンサCMが、ゲイン設定毎に上述のように異なるものとされる。
【0066】
ゲイン設定については、ゲイン設定G3、G2、G1、G0の順に従ってタッチ信号の検出を高感度化することができる。具体的には、ゲイン設定G3、G2、G1、G0の順に従って選択されるコンデンサCMの容量値は小さくなるため、1分解能当たりの電圧を細かく検出することができるようになる。そのため、より微小な静電容量(電圧)の変化を大きなRAW値の変化量として増幅して検出することが可能となる。例えば
図4の例の場合、ゲイン設定を1段階、高感度側に切り替えると、RAW値の変化量としては2倍に増幅して検出できる。
【0067】
ところで本実施の形態のセンシングでは、セルサイズよりも細かい分解能でタッチ位置座標を求めることができる。
【0068】
図5A、
図5B、
図5Cにおけるマス目の1つは、上述のセル、即ち2つの送信信号線(Y電極21)と2つの受信信号線(X電極22)の組により1つのRAW値を検出する領域を示している。
4×4の16個のセルを1つのブロックBKとして示しているが、ブロックBKの各セルのRAW値を
図5Dのように「a」から「p」で表すこととする。この「a」から「p」は、それぞれ各セルを走査したときのRAW値である。例えば、
図5AのブロックBKについていえば、「a」は斜線を付したセルのRAW値となる。
【0069】
受信回路42においては、各セルについて、上述のように256段階の分解能でRAW値を検出する走査を行うが、MCU5では、各セルのRAW値から、タッチ位置座標を求める。
その場合、このブロックBKとする16個のセルの選択を
図5A、
図5B、
図5Cのように順次切り替えながら、RAW値のパターンを判定する。
【0070】
図6には或る1つのセルと、そのセルに対するタッチ位置を「A」「B」「C」「D」として示している。
タッチ位置が「A」の場合、当該セルを含む16セルのブロックBKにおいて、
図7のAパターンのRAW値が得られる。「+」はRAW値が128より大きい値、「-」はRAW値が128より小さい値となることを示している。なお「128」はRAW値が128付近にあることを意味する。容量変化のないセルのRAW値が常に厳密に「128」となるわけではなく、若干変動するためである。
同様にタッチ位置が
図6の「B」「C」「D」のそれぞれの場合、当該セルを含むブロックBKにおけるRAW値のパターンが、
図7のBパターン、Cパターン、Dパターンとなる。
このようなパターンを検出することで、MCU5では、セルサイズよりも細かい分解能でタッチ位置座標を求めることができる。
【0071】
<2.センシング処理例>
実施の形態のセンシング処理の具体例を説明する。
以下説明する処理例は、上述のように各セルのRAW値を検出してから、座標レポートを行うまでのタッチ位置検出アルゴリズムによる処理例である。そして、このタッチ位置検出アルゴリズムは、ノイズ環境下であってもゴーストタッチを抑制することができるものである。
【0072】
図8はそのようなタッチ位置検出アルゴリズムによるMCU5の処理例を示している。この
図8の処理はMCU5における判定エリア設定部5a、検出ポイント判定部5b、座標演算部5cの機能により実行される。
図8の処理は、タッチパネル2による操作検出の終了(例えば電源オフ)となるまで繰り返される。
【0073】
ステップS101でMCU5はRAW値スキャン制御を行う。即ちMCU5は送信回路41、受信回路42に、
図3,
図4で説明した走査を実行させる。受信回路42は各セルについてのRAW値を順次検出していく。この走査の結果としてMCU5は1フレーム分の各セルのRAW値を取得する。
【0074】
ステップS102でMCU5は、セルマトリクスの各列のRxパワーの値(RxP)を算出する。
Rxパワー(Rx power)は、列内の各セルのRAW値変化量(ΔRAW)の絶対値の総和に相当する値である。RAW値変化量とは、非タッチ時のRAW値である「128」との差分である。次のように表される。
【0075】
【0076】
図9にはタッチパネル面において送信信号線と受信信号線によって形成される各セルによるセルマトリクス110を模式的に示している。1マスをセルとする。
図2のようにX電極22がm本形成され、Y電極21がn本形成されている場合を考える。セルの列は一対のX電極22で形成されるため、セルマトリクス110のセルの列はM列となる。M=m-1である。そして1つの列におけるセルの数はN個となる。N=n-1である。
この場合、第1列から第M列まで、それぞれ列内のセルのRAW値変化量(ΔRAW_1・・・ΔRAW_N)を、それぞれ2乗し、総和を計算したものが、第1列から第M列までのそれぞれのRxパワーの値(RxP1、RxP2・・・RxP(M))となる。
【0077】
図8のステップS102では、MCU5は、この第1列から第M列までのRxパワーの値(RxP1、RxP2・・・RxP(M))をそれぞれ求めることになる。
【0078】
ステップS103でMCU5は、セルマトリクス110の各行のRyパワーの値(RyP)を算出する。
Ryパワー(Ry power)は、行内の各セルのRAW値変化量(ΔRAW)の絶対値の総和に相当する値である。次のように表される。
【0079】
【0080】
図10も
図9と同様にセルマトリクス110を示しているが、セルの列は一対のY電極21で形成されるため、セルマトリクス110のセルの行はN行となる。そして1つの行におけるセルの数はM個となる。
この場合、第1行から第N行まで、それぞれ行内のセルのRAW値変化量(ΔRAW_1・・・ΔRAW_M)を、それぞれ2乗し、総和を計算したものが、第1行から第N行までのそれぞれのRyパワーの値(RyP1、RyP2・・・RyP(N))となる。
【0081】
図8のステップS103では、MCU5は、この第1行から第N行までのRyパワーの値(RyP1、RyP2・・・RyP(N))をそれぞれ求めることになる。
【0082】
ステップS104でMCU5は、求めたRxパワーとRyパワーから判定エリアを設定する。判定エリアとは、RxパワーとRyパワーが共にある程度の値になったセルの位置に基づいて設定する。このためMCU5は、Rxパワーについて設定された閾値thxと、Ryパワーについて設定された閾値thyを用いる。
【0083】
MCU5は、セルマトリクス110の第1列から第M列までのRxパワーの値(RxP1、RxP2・・・RxP(M))を、それぞれ閾値thxと比較し、閾値thxより大きい値となっているセルの列を検出する。
またMCU5は、セルマトリクス110の第1行から第N行までのRyパワーの値(RyP1、RyP2・・・RyP(N))を、それぞれ閾値thyと比較し、閾値thyより大きい値となっているセルの行を検出する。
【0084】
そしてMCU5は、Ryパワーが閾値thyより大きい値となっているセルの列と、Rxパワーが閾値thxより大きい値となっているセルの行のアンド条件を満たす領域があった場合に、ステップS104からステップS105に進み、該当の領域を判定エリア100として設定する。
【0085】
なお、今回のステップS101のRAW値スキャンの結果として、Rxパワーの値が閾値thxを越えた列であり、かつRyパワーの値が閾値thyを越えた行であるという領域が存在しなければ、MCU5はステップS104からステップS101に戻り、次のフレームのRAW値スキャンを行う。
【0086】
判定エリアの設定を
図11で説明する。
図11には1マスを1つのセルとしたセルマトリクス110を示している。セル内の円(〇)の濃さにより、当該セルのRAW値変化量(ΔRAW)を表現している。濃い円ほどRAW値変化量(ΔRAW)が大きいとする。円を付していないセルは、RAW値が「128」で、つまりRAW値変化量(ΔRAW)がゼロのセルである。
【0087】
また
図11ではセルマトリクス110の下側に、列毎のRxパワーの値(RxP1、RxP2・・・RxP(M))をそれぞれ1マスで示している。斜線を付したマスは、Rxパワーの値が閾値thxを越えた列であるとする。
またセルマトリクス110の右側に、行毎のRyパワーの値(RyP1、RyP2・・・RyP(N))をそれぞれ1マスで示している。斜線を付したマスは、Ryパワーの値が閾値thyを越えた行であるとする。
【0088】
このような場合にMCU5は、Rxパワーの値が閾値thxを越えた列と、Ryパワーの値が閾値thyを越えた行のアンド条件により、太線で囲った判定エリア100を設定する。この例では4つの判定エリア100が設定されている。
【0089】
この
図11の例のように、上記アンド条件を満たす該当の領域が存在すれば、MCU5はステップS104からステップS105に進み、該当の領域を判定エリア100として設定することになる。
その場合、MCU5は、判定エリア100に関連するブロックBKを対象として4×4信号値を計算する。
【0090】
4×4信号値は、
図5Dに示したブロックBK毎の各セルのRAW値から、次のように求める。
4×4信号値=
(a+b+e+f)+(k+l+o+p)-(c+d+g+h)-(i+j+m+n)
【0091】
つまり4×4信号値は、ブロックBK内の左上4セルのRAW値合計と右下4セルのRAW値合計から、右上4セルのRAW値合計と左下4セルのRAW値合計を減算した値である。
この4×4信号値は、
図7に示したAパターン、Bパターン、Cパターン、Dパターンが観測されるときに大きな値となるものである。上述のとおり、Aパターン、Bパターン、Cパターン、Dパターンはタッチ操作の位置(
図6参照)に応じて観測されるパターンである。従って、4×4信号値とは、ブロックBKに対してタッチ操作があったときに所定閾値以上の値が得られる信号値であるということになる。
【0092】
ステップS105においてMCU5が4×4信号値の計算の対象とするブロックBKは、例えば
図12に示されるブロックBKとする。
図12ではブロックBKを16マスの破線で示している。1つのマスが1つのセルである。実線で判定エリア100を示している。
【0093】
4×4信号値の計算対象のブロックBKは、16セルのうち1以上のセルが判定エリア100内に入るものとする。従ってブロックBK1のように右下の1つのセルが判定エリア100内のものや、ブロックBK2のように右下の2つのセルが判定エリア100内のもの、ブロックBK3のように8個のセルが判定エリア100内のもの、ブロックBK4のように全てのセルが判定エリア100内のものなどが計算対象となる。
【0094】
MCU5は、これらの例のように1以上のセルが判定エリア100内に入るブロックBKを対象のブロックBKとして、それぞれ4×4信号値を計算する。判定エリア100が複数の場合は、それぞれの判定エリア100毎に対象のブロックBKが存在することになる。
【0095】
MCU5は対象とした各ブロックBKについて4×4信号値を計算したら、ステップS106で、4×4信号値が閾値thRを越えるブロックBKがあったか否かを確認する。閾値thRは、ブロックBKとしてタッチ操作によるAパターン、Bパターン、Cパターン、Dパターンが観測される場合の4×4信号値と、ブロックBKがノイズの影響で一部のRAW値が高くなるような場合の4×4信号値を切り分けるために設定された値である。
【0096】
4×4信号値が閾値thRを越えるブロックBKがなければ、現在、タッチ操作はないと判定してMCU5はステップS101に戻る。つまり座標演算や座標レポートは行われない。
【0097】
4×4信号値が閾値thRを越えるブロックBKが存在した場合は、MCU5はステップS107に進み、タッチ検出ポイントの判定を行う。
例えば4×4信号値が閾値thRを越えるブロックBKが1つであれば、そのブロックBKをタッチ検出ポイントとする。また4×4信号値が閾値thRを越えるブロックBKが複数あった場合は、複数のブロックBKを4×4信号値でソートし、4×4信号値の高い1又は複数のブロックBKをタッチ検出ポイントとして確定する。
【0098】
MCU5はステップS108で、タッチ検出ポイントとしたブロックBKについて座標演算処理を行う。例えばパターン判定によって、セルサイズよりも細かい分解能でタッチ位置座標を求める。
そしてMCU5は、ステップS109で座標レポートを製品側MCU90に出力する。
【0099】
<3.実施の形態の効果及び変形例>
以上の実施の形態で説明したタッチパネル装置1、タッチパネル駆動装置3において行われるセンシング方法によれば、次のような効果が得られる。
【0100】
実施の形態のタッチパネル駆動装置3によるセンシングは、タッチパネル2に対し、隣接する一対の送信信号線(Y電極21)と隣接する一対の受信信号線(X電極22)で形成されるセルを順次選択して安定化期間とセンシング期間の静電容量の変化量に基づく検出値(RAW値)を取得する走査を行う。
この場合にMCU5は、タッチパネル2のタッチ面に形成されるセルマトリクス110の行方向と列方向の配列において、各列について列の全てのセルの検出値に基づくRxパワー(列側第1評価値)を求める処理と、各行について行の全てのセルの検出値に基づくRyパワー(行側第1評価値)を求め、これらに基づいて判定エリア100を設定する処理を行う。これによりタッチパネル2のタッチ面上でタッチ検出を行うエリアを絞り込むことができる。またこのときに判定エリア100外でのノイズの影響も排除できる。
【0101】
さらにMCU5は、判定エリア100から選択されるブロックBKについて4×4信号値(第2評価値)を求めることで、対象のブロックBK数を限定してノイズかタッチかを精度良く判別できる。これにより効率よくタッチ検出ポイントを判定できる。そのうえでMCU5は、パターン判定を含む座標演算を行って座標レポートを行う。
従ってノイズがある程度高い環境においても、タッチしていないエリアでノイズによる異常座標レポート(ゴーストタッチ)が発生することを抑制できる。しかも判定エリアやタッチ検出ポイントを絞ることで、効率の良い座標演算処理が可能になる。
【0102】
なお
図8のステップS102,S103,S104では、RyパワーとRxパワーの両方を用いて判定エリア100を設定したが、RyパワーとRxパワーの一方を用いて判定エリア100を設定してもよい。例えばRxパワーが閾値thxの列を判定エリア100としたり、Ryパワーが閾値thyの行を判定エリア100としたりする例である。このようにすることで
図8のステップS104までの処理を高速化できる。
【0103】
実施の形態では、列側第1評価値であるRxパワーは、列内の各セルの検出値変化量の絶対値の総和に相当する値であり、行側第1評価値であるRyパワーは、行内の各セルの検出値変化量の絶対値の総和に相当する値であるとした。
Rxパワー、Ryパワーを列又は行の各セルの検出値の絶対値の総和に相当する値とすることで、その列又は行において、ある程度のタッチ反応、つまり静電容量変化が生じたか否かを判定できる。従ってRxパワー、Ryパワーは静電容量変化の生じたエリアを絞り込むためには好適な値となる。
【0104】
実施の形態では、ブロックBKは、列方向の4セルの範囲と行方向の4セルの範囲での16セルで形成されるセル群であり、第2評価値である4×4信号値は、ブロックBKに対してタッチ操作があったときに所定閾値以上の信号値が得られる計算式で求められる値であるとした。そしてブロックBK毎に4×4信号値を閾値thRと比較した結果により、タッチ検出ポイントとされるブロックを判定するものとした。
4×4信号値は、ブロックBK内の各セルのRAW値でタッチ操作のパターンが生じたときに値が高くなるものであるため、ノイズによる反応を排除しやすい。ノイズによっては
図7の各パターンが観測されないことが多いためである。従ってタッチ検出ポイントを精度良く判定できるようになる。
【0105】
なお実施の形態のタッチパネル装置1では、実際にパネル面に触れるタッチ操作を行うものとして説明したが、本発明はタッチと同等の操作を行う、いわゆるホバーセンシング(非接触近接操作)に対応するタッチパネル装置も含むものであり、その場合も、上記同様のセンシング手法を適用できる。即ち本発明及び実施の形態でいう「タッチ」とは、非接触近接操作状態も含む。
【符号の説明】
【0106】
1 タッチパネル装置
2 タッチパネル
3 タッチパネル駆動装置
4 センサIC
5 MCU
5a 判定エリア設定部
5b 検出ポイント判定部
5c 座標演算部
5M メモリ
21 Y電極
22 X電極
41 送信回路
42 受信回路
43 マルチプレクサ
44 インターフェース・レジスタ回路
100 判定エリア
110 セルマトリクス
BK ブロック