(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103041
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】エルゴチオネインの葉面散布による害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 43/50 20060101AFI20240725BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20240725BHJP
A01N 63/20 20200101ALI20240725BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240725BHJP
A01G 22/15 20180101ALI20240725BHJP
【FI】
A01N43/50 N
A01P17/00
A01N63/20
A01G7/06 A
A01G22/15 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007170
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(74)【代理人】
【識別番号】110003432
【氏名又は名称】弁理士法人シアラシア
(72)【発明者】
【氏名】大津 厳生
(72)【発明者】
【氏名】河野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB11
2B022EA10
4H011AB04
4H011AC06
4H011BA07
4H011BB09
4H011DA13
4H011DD03
4H011DE15
(57)【要約】
【課題】エルゴチオネインを含有する植物活力剤を植物に葉面散布する害虫防除方法、及びエルゴチオネインを含有する葉面散布用植物活力剤を提供する。
【解決手段】本発明の課題は、エルゴチオネインを含有する植物活力剤を植物に葉面散布する害虫防除方法によって解決される。前記葉面散布は、前記植物の上方からの空中散布、前記植物の葉面への直接噴霧及び前記植物の葉面への直接塗布からなる群より選択される少なくとも1つであると好ましい。前記植物は葉菜類が好ましく、ホウレンソウが特に好ましい。本発明の課題は、エルゴチオネインを含有する葉面散布用植物活力剤を提供することによっても解決される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴチオネインを含有する植物活力剤を植物に葉面散布する害虫防除方法。
【請求項2】
前記葉面散布が前記植物の上方からの空中散布、前記植物の葉面への直接噴霧及び前記植物の葉面への直接塗布からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1に記載の害虫防除方法。
【請求項3】
前記植物がホウレンソウである請求項1又は2に記載の害虫防除方法。
【請求項4】
エルゴチオネインを含有する葉面散布用植物活力剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エルゴチオネインを含有する植物活力剤を植物に葉面散布する害虫防除方法、及びエルゴチオネインを含有する葉面散布用植物活力剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エルゴチオネインは含硫アミノ酸の一種であり、一部の微生物でのみ生合成されることが知られる。エルゴチオネインは抗酸化作用に優れ、その作用はビタミンEの6,000倍ともいわれる。そのため、健康・美容の分野等において、非常に利用価値の高い化合物である。
【0003】
一方で、市販のエルゴチオネインは高価であり、健康・美容の分野等における普及の妨げとなっているところ、特許文献1には、エルゴチオネインを含有する植物体、培養物、肥料、及び該植物体の製造方法が記載され、エルゴチオネインを含む水耕培養液でアブラナ科の植物であるミズナ、ノザワナ、コマツナを水耕栽培すると、エルゴチオネインが植物体内に蓄積されることが開示されている。エルゴチオネインを植物に適用する他の例としては、植物細胞を所定濃度のL-エルゴチオネイン又はL-エルゴチオネイン類縁体と接触させることで植物細胞への細菌の感染を抑制する方法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-130091号公報
【特許文献2】特開2021-023256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、路地栽培やハウス栽培等で土壌を用いて作物を栽培すると、害虫による虫食い被害が発生するという課題がある。この課題は、室内の管理された環境で行う水耕栽培では認識出来なかった課題である。
【0006】
このような状況から、植物に薬害等をもたらさず、植物に対して優れた害虫防除効果を誘導する植物活力剤が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エルゴチオネインを含む植物活力剤を作物に葉面散布することで、葉から吸収されたエルゴチオネインにより作物の栄養機能性が向上するだけでなく、優れた害虫防除効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)エルゴチオネインを含有する植物活力剤を植物に葉面散布する害虫防除方法。
(2)前記葉面散布が前記植物の上方からの空中散布、前記植物の葉面への直接噴霧及び前記植物の葉面への直接塗布からなる群より選択される少なくとも1つである(1)に記載の害虫防除方法。
(3)前記植物がホウレンソウである(1)は(2)に記載の害虫防除方法。
(4)エルゴチオネインを含有する葉面散布用植物活力剤。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い抗酸化作用を有するエルゴチオネインが多く含まれる作物を栽培し、且つ植物に対して優れた害虫防除効果を誘導する植物活力剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で使用したpDESプラスミドのコンストラクトを示す模式図である。
【
図2】比較例1の虫食い率を100とした場合における、比較例1と実施例1の虫食い率の相対値を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同様の意味を有する。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。
【0012】
(エルゴチオネイン)
本発明において、「エルゴチオネイン」は、下記の式(1)で表される化合物及びその誘導体を指す。下記式1の構造式を有する全ての立体異性体が包含される。ここでいう誘導体としては、金属塩、水和物等が挙げられるが、下記の式(1)の骨格を有する限り、特に限定されない。
【0013】
エルゴチオネインは、希少アミノ酸誘導体に分類される天然成分であり、一部のキノコや麹菌、放線菌などの微生物によって作られる。エルゴチオネインが多く含まれるキノコとしては、タモギタケ、ヒラタケ、エリンギ、ハナビラタケ、エノキタケ、シイタケ等が挙げられ、特にタモギタケに多く含まれる。人間はエルゴチオネインを体内で合成することができないため、エルゴチオネインが含まれる食品を経口摂取することで体に取り込むことができる。エルゴチオネインは、非常に強い抗酸化活性を示すことが知られている。人間の体内に最も多い抗酸化物質であるグルタチオンと比較すると、最大で30倍ほども高い活性酸素種消去能を持つともいわれている。
【0014】
本発明におけるエルゴチオネインには、エルゴチオネインを含有するキノコ類等の原料から精製された天然由来のエルゴチネイン及び化学合成品由来のエルゴチオネインが含まれる。また、本発明におけるエルゴチオネインは、エルゴチオネインを含有するキノコ類等の原料の未精製の細砕物、乾燥粉末、濃縮エキス等として、本発明の植物活力剤に含有させることもできる。さらには、エルゴチオネインを生産するように形質転換された遺伝子組換え微生物を培養した上清、沈殿物、濃縮物、培養液から単離精製されたエルゴチオネインを本発明の植物活力剤に含有させることもできる。
【0015】
本発明の植物活力剤中におけるエルゴチオネインの含有量は0.1 mg/L~100 mg/L、好ましくは0.3 mg/L~50 mg/L、より好ましくは0.5 mg/L~10 mg/Lである。エルゴチオネインを0.1 mg/L以上含有させることで十分な害虫防除効果を発揮できるため好適であり、エルゴチオネインを100 mg/L以下で含有させることで高価なエルゴチオネインを経済的に用いることができるため好適である。
【0016】
(葉面散布)
本発明において、「葉面散布」とは、植物活力剤等を対象植物の葉面に付着させる方法のことである。葉面に付着した植物活力剤は、その葉面から吸収され植物に利用される。葉面散布は葉面に付着させることが目的ではあるが、茎や花、土壌等の他の部分にも付着することを排除するものではない。本発明では、特に植物活力剤中の主要な有効成分としてエルゴチオネインがその対象となる。
【0017】
葉面散布の方法は、植物活力剤が葉面に直接接触するように散布できる方法であれば当該分野で公知の方法を用いればよく、特に限定されない。具体的には、航空機、ドローン等を用いた植物の上方からの空中散布、噴霧機等を用いた対象植物の葉面への直接噴霧、刷毛等で葉面への直接塗布をする方法等が挙げられる。
【0018】
(植物活力剤)
本発明において、「植物活力剤」とは、任意の物質群・微生物を含有し、植物体やその根系に施用された場合に、植物体の生理学的プロセスを刺激することによって、植物体の養分吸収を向上させたり、植物体に対する施肥効率を高めたり、植物体にストレス耐性を付与し、品質を向上させることができるものをいう。「植物活性剤」はバイオスティミュラントとも称され、病害虫に対して直接の作用は示さず、いかなる殺虫・殺菌剤にも分類されない。すなわち、自然界に存在する成分(微生物を含む)であって、植物ホルモンや栄養分ではないが、ごく少量でも植物の活力を刺激し、生育を促進する物質を指す。一般的に、植物活力剤を植物に施用することにより、植物の養分吸収と養分利用率を高め、生育が促進され、農作物の収量と品質が良くなるとされている。植物活力剤には、植物の生理学的プロセスを制御・強化するために、植物又は土壌に施用される化合物、物質及び他の製品等の多様な製剤が含まれる。植物活力剤は、作物の活力、収量、品質及び収穫後の保存性を改善するために、栄養素とは異なる経路を通じて植物生理に作用する。本発明の植物活力剤の形態は、固体、液体、いずれでもよいが、液体が好ましい。
【0019】
(任意の添加剤)
本発明における植物活力剤には、本発明の効果を損なわない範囲で任意の添加剤を含ませることができりる。任意の添加剤としては、特に限定されないが、化学肥料、有機肥料、防腐剤、展着剤、キレート剤等が挙げられる。化学肥料としては、特に限定されないが、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素、グアニジン、メラニン、硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。有機肥料としては、特に限定されないが、油粕、鶏糞、魚粉、骨粉、米ぬか、草木灰等が挙げられる。防腐剤としては、特に限定されないが、安息香酸,安息香酸ナトリウム,ソルビン酸,デヒドロ酢酸ナトリウム等が挙げられる。展着剤としては、特に限定されないが、ロウ(パラフィン)、植物油脂等が挙げられる。キレート剤としては、特に限定されないが、EDTA(エチレンジアミン四酢酸、Ethylendiaminetetraacetic acid)、DTPA(ジエチレントリアミンペンタアセテート酸、Diethylenetriamine pentaacetic acid)、NTA(ニトリロ三酢酸、Nitrilotriacetic acid)、EDDS(エチレンジアミン-N,N'-ジコハク酸、Ethylenediamine-N,N’-disuccinic acid)等が挙げられる。
【0020】
(植物)
本発明の植物活力剤を適用できる植物としては、ウリ科、ナス科、トウガラシ科、バラ科、アオイ科、マメ科、イネ科、アブラナ科、ネギ科、ヒガンバナ科、キク科、ヒユ科、セリ科、ショウガ科、シソ科、サトイモ科、ヒルガオ科、ヤマノイモ科、ハス科等が挙げられる。具体的には、果菜類では、キュウリ、カボチャ、スイカ、メロン、トマト、ナス、ピーマン、イチゴ、オクラ、サヤインゲン、ソラマメ、エンドウ、エダマメ、トウモロコシ等が挙げられる。葉菜類では、ハクサイ、ツケナ類、チンゲンサイ、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、メキャベツ、タマネギ、ネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ、アスパラガス、レタス、サラダナ、セルリー、ホウレンソウ、シュンギク、パセリ、ミツバ、セリ、ウド、ミョウガ、フキ、シソ等が挙げられる。根菜類としては、ダイコン、カブ、ゴボウ、ニンジン、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモ、ヤマイモ、ショウガ、レンコン等が挙げられる。その他に、稲、麦類、花卉類等にも使用が可能であるが、本発明の植物活力剤を適用する植物としては、散布する面積が広い葉菜類が好ましく、ホウレンソウが特に好ましい。
【0021】
(害虫)
本発明において「害虫」とは、植物の葉を食べ(虫食い)、病気を運ぶ等の有害な作用をもたらす虫をいい、主に無脊椎動物である小動物、特に昆虫類などの節足動物類をいう。具体的には、特に限定されないが、バッタ、ウンカ、ミバエ、アオムシ、ヨトウムシ、メイガ、カメムシ、アブラムシ、カイガラムシ、アザミウマ、ハダニ、フシダニ、ウリハムシ、ナメクジ、カタツムリ、スクミリンゴガイ、コクゾウムシ、シバンムシ、キクイムシ、カツオブシムシ等が挙げられる。
【0022】
(害虫防除)
本発明において「害虫防除」とは、害虫を殺すこと、害虫に植物を忌避させること、害虫が葉の上で滑りやすくなり葉を食べにくくすること等が含まれる。本発明の植物活力剤を散布しない場合と本発明の植物活力剤を土壌に散布する場合は虫食いを防止することはできないが、本発明の植物活力剤を葉面に散布することで、虫食いを防止することができる。本発明における植物活力剤を植物の葉面に散布することで生じる害虫防除効果のメカニズムは、葉面に散布されたエルゴチオネインが植物の活力を刺激し、植物に本来備わっている害虫抵抗性が増強されることによって食害をもたらすアオムシ、ヨトウムシ等が植物を忌避するためであると推定される。
【実施例0023】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[実施例1:エルゴチオネイン葉面散布区]
<エルゴチオネイン高発現大腸菌株の作製>
本実施例1及び下記の比較例2で用いたエルゴチオネイン発酵液は、エルゴチオネインを生産するよう改変され、かつエルゴチオネインの生産能が増大するよう改変された大腸菌株(pDES pQE88-Ms-egtABCDE)の培養液を用いた。大腸菌株(pDES pQE88-Ms-egtABCDE)の作成は、特許文献(特開2018-130091号公報)に記載の方法に沿って実施した。具体的には、大腸菌のmetJ遺伝子破壊株に、pDESプラスミド(WO2012/137689)を形質転換により保持させ、さらにpQE88-Ms-egtABCDEプラスミドを形質転換により保持させ、作製した。
【0025】
pDESプラスミドのコンストラクトを
図1に示す。pDESプラスミドは、強発現プロモーター(ompA)に、フィードバック阻害感受性変異型SerA、フィードバック阻害感受性変異型CysE、野生型のYdeD(システイン排出担体)がそれぞれ連結された3つの遺伝子を有しており、これらを強制発現させることで、システインを細胞外に大量生産させることができる。
【0026】
プラスミドpQE88-Ms-egtABCDEは、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)由来のegtABCDE遺伝子オペロンをコードしている。これらの遺伝子は、ヒスチジン・S-アデノシルメチオニン・システインなどの基質からエルゴチオネインを生合成するのに必要な遺伝子群である。このオペロン遺伝子は、IPTG添加で発現誘導が可能なプロモーターに連結させた。egtABCDE遺伝子は、大腸菌は持たないため、今回使用した大腸菌でのエルゴチオネイン合成には必須の遺伝子群である。
上記のMycobacterium smegmatisのegtABCDE遺伝子オペロンの塩基配列を配列番号1に、pQE88-Ms-egtABCDEの塩基配列を配列番号2に示す。
【0027】
<エルゴチオネイン高発現大腸菌の培養>
上記で作製した大腸菌株(pDES pQE88-Ms-egtABCDE)を以下に示す培養条件にてジャーファーメンター培養した。
温度:30℃
攪拌:攪拌翼490 rpm
pH:6.9~7.0
通気:1 L/min
植菌:前培養は、抗生物質を含むLB培地で、バッフル付き三角フラスコ内で、30℃で旋回攪拌しながら一晩(16時間)培養を行った。この前培養液のうち、「O.D.660=1として400 mL分に相当する菌体量」を含む量の培養液を遠心し、上清を捨て、得られた菌体ペレットを新たな20 mLのLB培地で再懸濁し、その全量を基本培地に投入した。
基本培地:水1.3Lに基本成分(Yeast extract 50g、K2HPO4 4.8 g、KH2PO4 1.2 g、(NH4)2SO4 6 g、MgSO4・7H2O 1 g、Methionine 24 g、Histidine・HCl・H2O 6 g、100 mg/ml Ampicillin 2 ml、100 mg/ml Tetracycline 2 ml、100 mg/ml Streptomycin 2 ml、消泡剤 3 ml、40%(w/v) Glucose溶液 100 ml)を添加し、計1.4 Lの基本培地とした。
培養:植菌後の培養は以下のpH調整と成分添加を行い、上記条件で144時間培養した。培養液がpH 7.0を越えた場合、pH調整剤として40 %(w/v)Glucose溶液を培養開始後30~72時間にかけて断続的に一定のペースで、合計500 ml程を培養液に添加した。0.1 M IPTG 2 ml、10 mg/ml Pyrydoxine・HCl 2 ml、400 mg/ml Ammonium Iron(III) Citrate, brown 1mlを培養開始2時間後に培養液に添加した。
【0028】
<エルゴチオネイン発酵液の調製>
培養後の培養液は121℃、20分の条件でオートクレーブ滅菌を行い、7,200 rpm、4℃、3分間の条件で遠心分離を行った。得られた遠心上清はろ紙(ブロッティング用濾紙角型 3MMCHR、ワットマン社製)を用いてろ過したろ液をエルゴチオネイン発酵液とした。
【0029】
<エルゴチオネイン発酵液のエルゴチオネイン濃度の定量>
エルゴチオネイン発酵液を、LC-MS/MS解析に供し、エルゴチオネインに相当するm/zかつ溶出時間におけるマスクロマトグラフィーのピークのエリアを測定した。一定濃度のエルゴチオネイン標品を投入したサンプルも同様に解析し、得られた検量線の数式を用いて、エルゴチオネイン含量を表すピークエリア値をエルゴチオネイン濃度へと換算した。測定の結果、エルゴチオネイン発酵液に2 g/Lのエルゴチオネインが含まれることを確認した。
【0030】
<ハウス内プランターを用いた作物の栽培>
農場のビニールハウス内にプランター(大和技研工業タフ型プランター18型、容量30 L)を5個設置し、プランター1個につき土壌として金の土(有限会社カネア)を30 L用いた。プランターは一列に並べ、ホウレンソウの種子を株間が8 cmとなるように75株を播種した。日々の水やりは自動潅水ホースを設置して行った。播種後35日目から8日間の間、1,000倍希釈したエルゴチオネイン発酵液3 Lを毎日葉面に散布した。エルゴチオネイン発酵液のエルゴチオネイン含有量は2 g/Lであるため、1,000倍希釈したエルゴチオネイン発酵液のエルゴチオネイン含有量は2 mg/Lとなる。葉面への散布は背負動力噴霧機(株式会社丸山製作所製)を用いて行った。
【0031】
<エルゴチオネイン量の測定>
播種後54日目に、異なる株からホウレンソウの葉を1枚ずつ、計3枚採取した。採取した葉1 mgに、抽出液10μL(超純水で希釈した終濃度5 μμMのD-ショウノウ-10-スルホン酸0.1 μL、終濃度99 %(w/w)のメタノール9.9μL)を加えて、乳鉢及び乳棒を用いてすり潰した後、これを15,000 rpm、4℃、3分の条件で遠心分離した。回収した上清100 μLに、2トリス-塩酸緩衝液(pH 8.8)を10 μμL加え、更に20 mM Monobromobimane(mBBr)を10 μμL加えて、10分間の撹拌操作を行い、15,000 rpm、4℃、3分の条件で遠心分離した。上清80 μμLを回収し、遠心型エバポレーターで2時間程度乾燥処理し、上清を乾固させた。乾固した上清に超純水60 μLを加えて再懸濁させた後、15,000 rpm、4℃、3分の条件で遠心分離し、得られた上清50 μLをサンプルカップへ移し、そのうちの5 μLを用いてLC-MS/MS解析を行い、エルゴチオネインの量を測定した。
【0032】
超純水を溶媒とするエルゴチオネインサンプルを用いて、上記と同様のLC-MS/MS解析によりエルゴチオネインの測定を行い、相対ピークエリア値を求め、独立した3回の測定による平均値をプロットした近似直線の検量線を作成した。得られた相対ピークエリア値から、エルゴチオネイン含量(μg)を推定した。ホウレンソウ150 g当たりのエルゴチオネイン平均含有量に換算した結果を表1に示す。
【0033】
<虫食い率の測定>
実施例1の全株について、播種後54日目の虫食いの有無を調査した。虫食いの有無の判定は目視で行い、一か所でも虫食いがあれば虫食いのある株としてカウントした。本発明において、全株数に対する虫食いありの株数の割合を「虫食い率」と定義した。結果を表2及び
図2に示す。
【0034】
[比較例1:未処理区]
上記の実施例1において、播種したホウレンソウは64株であり、播種後35日目から8日間の間にエルゴチオネイン発酵液を葉面散布しなかったこと以外は上記の実施例1と同様にしてエルゴチオネイン量の測定(表1)と虫食い率の測定(表2、
図2)を行った。
【0035】
[比較例2:エルゴチオネイン土壌散布区]
上記の実施例1において、播種したホウレンソウは94株であり、播種後35日目から8日間の間、1,000倍希釈したエルゴチオネイン発酵液10 Lを毎日(計8回)土壌に散布したこと以外は上記の実施例1と同様にしてエルゴチオネイン量の測定(表1)を行った。
【0036】
【0037】
表1によると、エルゴチオネインを散布しなかったホウレンソウは18.5 μg/150 gであったのに対し、エルゴチオネインを土壌散布した比較例2では58.5 μg/150 g、エルゴチオネインを葉面散布した実施例1では61.6 μ/150 gと、3倍以上のエルゴチオネインが含まれていた。この結果から、土壌散布によりエルゴチオネインが根から吸収されること、及び葉面散布によりエルゴチオネインが葉から吸収されることが示された。
【0038】
【0039】
表2によると、比較例1は64株中35株で虫食いが見られた。一方、エルゴチオネイン発酵液を1,000倍希釈して、葉面散布をすると虫食いが75株中6株しか見られなかった。全株数に対する虫食いありの株数の割合を算出すると、比較例1が54.7 %、実施例1が8.0 %であった(表2、
図2)。この結果及び表1の結果から、エルゴチオネイン発酵液を葉面散布することで、吸収されたエルゴチオネイン発酵液由来のエルゴチオネインがホウレンソウの葉に蓄積して栄養機能性が向上するだけでなく、虫食いの防止にもなることが示された。
表1によると、エルゴチオネインを散布しなかったホウレンソウは18.5 μg/150 gであったのに対し、エルゴチオネインを土壌散布した比較例2では58.5 μg/150 g、エルゴチオネインを葉面散布した実施例1では61.6 μg/150 gと、3倍以上のエルゴチオネインが含まれていた。この結果から、土壌散布によりエルゴチオネインが根から吸収されること、及び葉面散布によりエルゴチオネインが葉から吸収されることが示された。