(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010305
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】インバータノイズ除去装置、移動機構、モータ装置、インバータノイズ除去方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111568
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 圭悟
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 俊一
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA18
5H505BB04
5H505BB07
5H505EE49
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505LL50
(57)【要約】
【課題】簡単かつ適切にインバータノイズを減衰させる。
【解決手段】インバータノイズ除去装置は、インバータ駆動されるモータのシャフト、モータにより移動させられる移動部材またはシャフトもしくは移動部材を支持する支持部材の加速度を計測する加速度センサから加速度の測定値を順次、受信する。インバータノイズ除去装置は、受信された加速度の測定値から、第1の時間領域の加速度データを生成する生成部と、第1の時間領域の加速度データをフーリエ変換して、第1の周波数領域の加速度データを生成するフーリエ変換部と、第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算することを含む均等化処理を行って、データ内のすべての周波数にわたって均等な加速度値を持つ第2の周波数領域の加速度データを生成する均等化部と、第2の周波数領域の加速度データを逆フーリエ変換して、第2の時間領域の加速度データを生成する逆フーリエ変換部を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータによって駆動される回転モータの回転シャフト、前記回転モータにより移動させられる移動部材または前記回転シャフトもしくは前記移動部材を移動可能に支持する支持部材の加速度を計測する加速度センサから加速度の測定値を順次、受信する受信部と、
前記受信部で受信された加速度の測定値から、第1の時間領域の加速度データを生成する生成部と、
前記生成部で生成された前記第1の時間領域の加速度データをフーリエ変換して、第1の周波数領域の加速度データを生成するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部で生成された前記第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算することを含む均等化処理を行って、データ内のすべての周波数にわたって均等な加速度値を持つ第2の周波数領域の加速度データを生成する均等化部と、
前記均等化部で生成された前記第2の周波数領域の加速度データを逆フーリエ変換して、第2の時間領域の加速度データを生成する逆フーリエ変換部と
を備えるインバータノイズ除去装置。
【請求項2】
前記逆フーリエ変換部で生成された前記第2の時間領域の加速度データをエンベロープ処理して、第3の時間領域の加速度データを生成するエンベロープ処理部をさらに備え、
前記フーリエ変換部は、前記エンベロープ処理部で生成された前記第3の時間領域の加速度データをフーリエ変換して、第3の周波数領域の加速度データを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のインバータノイズ除去装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインバータノイズ除去装置と、
前記回転モータと、
前記回転モータにより移動させられる前記移動部材と、
前記移動部材を移動可能に支持する前記支持部材と、
前記移動部材または前記移動部材を支持する前記支持部材の加速度を計測するように配置された前記加速度センサと、
を備える移動機構。
【請求項4】
請求項1または2に記載のインバータノイズ除去装置と、
前記回転モータと、
前記回転モータの回転シャフトまたは前記回転シャフトを支持する支持部材の加速度を計測するように配置された前記加速度センサと、
を備えるモータ装置。
【請求項5】
インバータによって駆動される回転モータの回転シャフト、前記回転モータにより移動させられる移動部材または前記回転シャフトもしくは前記移動部材を移動可能に支持する支持部材の加速度を計測する加速度センサから加速度の測定値を順次、受信することと、
受信された加速度の測定値から、第1の時間領域の加速度データを生成することと
前記第1の時間領域の加速度データをフーリエ変換して、第1の周波数領域の加速度データを生成することと、
前記第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算することを含む均等化処理を行って、データ内のすべての周波数にわたって均等な加速度値を持つ第2の周波数領域の加速度データを生成することと、
前記第2の周波数領域の加速度データを逆フーリエ変換して、第2の時間領域の加速度データを生成することと
を備えるインバータノイズ除去方法。
【請求項6】
前記第2の時間領域の加速度データをエンベロープ処理して、第3の時間領域の加速度データを生成することと、
前記第3の時間領域の加速度データをフーリエ変換して、第3の周波数領域の加速度データを生成することと
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載のインバータノイズ除去方法。
【請求項7】
コンピュータを請求項1に記載の前記受信部、前記生成部、前記フーリエ変換部、前記均等化部、および前記逆フーリエ変換部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータノイズ除去装置、移動機構、インバータノイズ除去方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から回転モータの駆動には、インバータが使用されている。一般に、インバータを用いてモータの回転を制御するには、PWM(pulse width modulation)が使用される。PWMインバータで生成された電流は、PWMのスイッチングの周波数(キャリア周波数)で周期的に脈動するため、この電流が供給された回転モータは、キャリア周波数で脈動した電磁力を生成する。したがって、回転モータは、キャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数で振動する。回転モータの振動は、回転モータによって移動させられる(回転モータの駆動力によって回転または直進運動させられる)移動部材に伝達される。
【0003】
一方、回転モータの回転シャフト、回転モータで移動させられる移動部材または回転シャフトもしくはこの移動部材を支持する部材の損傷を診断する技術が開発されている。例えば、回転シャフトまたは回転シャフトに連動する回転軸を支持する軸受の損傷を診断する技術は、回転に伴う周期的な衝撃、すなわち振動に基づいている。損傷がある軸受の加速度データを分析すると、回転モータの回転速度に依存する周期的な衝撃が発見される。歯車以外の移動部材またはこの移動部材を支持する支持部材についても同様である。
【0004】
しかし、PWMインバータのために発生した回転モータの振動が回転シャフトおよび移動部材の振動に加わった場合には、適切な損傷診断ができないことがある。例えば、PWMのキャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、またはこれらの側帯波周波数が、移動部材の移動周波数(例えば回転軸の回転周波数すなわち軸受の損傷周波数)と一致する場合、回転シャフトおよび移動部材の移動周波数で大きな振動が発生するため、正常な軸受を異常と判断するおそれがある。本出願において、PWMインバータのために発生した回転モータの振動成分を「インバータノイズ」と称する。
【0005】
適切な損傷診断のためには、加速度データのインバータノイズを減衰させることが望ましい。加速度からインバータノイズを除去するために、特許文献1,2に開示されているように、様々な技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-116251号公報
【特許文献2】特開2011-259624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存のインバータノイズ除去技術では、除去を実行する前にノイズ除去装置にキャリア周波数および/または側帯波周波数を入力する必要がある。しかし、キャリア周波数および/または側帯波周波数が未知である場合がある。また、キャリア周波数および/または側帯波周波数が変動する場合がある。
【0008】
また、既存のインバータノイズ除去技術では、計算処理の量が膨大であり、時間がかかる。また、ある技術では、インバータノイズ除去の処理のための閾値設定に多くのノウハウを必要とする。さらに、キャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数での加速度値を低減させる場合には、回転シャフトまたは移動部材の移動周波数がこれらの周波数のいずれかとほぼ一致すると、回転シャフトまたは移動部材の移動周波数での加速度値も低減し、適切な損傷診断ができない。
【0009】
そこで、本発明は、簡単かつ適切にインバータノイズを減衰させることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様によれば、インバータノイズ除去装置が提供される。このインバータノイズ除去装置は、インバータによって駆動される回転モータの回転シャフト、前記回転モータにより移動させられる移動部材または前記回転シャフトもしくは前記移動部材を移動可能に支持する支持部材の加速度を計測する加速度センサから前記回転シャフト、前記移動部材または前記支持部材の振動に起因する加速度の測定値を順次、受信する受信部と、前記受信部で受信された加速度の測定値から、第1の時間領域の加速度データを生成する生成部と、前記生成部で生成された前記第1の時間領域の加速度データをフーリエ変換して、第1の周波数領域の加速度データを生成するフーリエ変換部と、前記フーリエ変換部で生成された前記第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算することを含む均等化処理を行って、データ内のすべての周波数にわたって均等な加速度値を持つ第2の周波数領域の加速度データを生成する均等化部と、前記均等化部で生成された前記第2の周波数領域の加速度データを逆フーリエ変換して、第2の時間領域の加速度データを生成する逆フーリエ変換部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様においては、第1の時間領域の加速度データをフーリエ変換することによって生成された第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算することを含む均等化処理を行うことによって、第2の周波数領域の加速度データが生成される。均等化処理によって、極めて周期的に発生するインバータノイズの振動成分が減衰させられる一方、回転シャフト、移動部材または支持部材自体の振動成分はほとんど減衰させられない。回転モータの回転により、回転シャフトまたは移動部材は、周期的に振動させられるが、回転シャフト、移動部材または支持部材の振動の周期はインバータノイズの周期に比べて不安定だからである。均等化処理によって、インバータノイズの振動成分に関するフーリエ級数の各項の振幅が1になる。均等化で生成された第2の周波数領域の加速度データを逆フーリエ変換することによって生成された第2の時間領域の加速度データでは、第1の時間領域の加速度データに比べて、インバータノイズの振動成分が減衰させられており、回転シャフト、移動部材または支持部材の振動成分がほぼそのまま残存する。結果的に回転シャフト、移動部材または支持部材の振動成分が強調されることになる。
このように、フーリエ変換、均等化および逆フーリエ変換を行って、簡単かつ適切にインバータノイズを減衰させることができる。インバータノイズ除去のために、キャリア周波数および/または側帯波周波数を入力する必要はなく、インバータノイズ除去の処理のための閾値設定も必要ない。また、計算処理の量が少なくて済む。さらに、キャリア周波数および/または側帯波周波数が変動しても、インバータノイズを適切に減衰させることができる。さらにまた、回転シャフトまたは移動部材の移動周波数がキャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数のいずれかとほぼ一致していても、回転シャフト、移動部材または支持部材の振動の周期はインバータノイズの周期に比べて不安定なため、インバータノイズのみを適切に減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るインバータノイズ除去装置が設けられた移動機構を示す図である。
【
図2】
図1のインバータノイズ除去装置のプロセッサの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図1のインバータノイズ除去装置が受信する加速度の測定値から生成された第1の時間領域の加速度データセットに対応する時間領域の加速度のグラフである。
【
図4】第1の時間領域の加速度データセットからフーリエ変換で生成された第1の周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフである。
【
図5】フーリエ変換で得られた第1の周波数領域の加速度データセットから均等化処理で生成された第2の周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフである。
【
図6】均等化処理で得られた第2の周波数領域の加速度データセットから逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データセットに対応する時間領域の加速度のグラフである。
【
図7】
図1のインバータノイズ除去装置のプロセッサの動作の変形例を示すフローチャートである。
【
図8】
図1のインバータノイズ除去装置のプロセッサの動作の他の変形例を示すフローチャートである。
【
図9】逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データセットからさらにエンベロープ処理およびフーリエ変換で生成された第3の周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフである。
【
図10】第1の周波数領域の加速度データセットから均等化処理をせずに逆フーリエ変換で生成された時間領域の加速度データセットからさらにエンベロープ処理およびフーリエ変換で生成された周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフである。
【
図11】本発明の実施形態の変形例に係る移動機構の一部を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態の他の変形例に係る移動機構の一部を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態の変形例に係るモータ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るインバータノイズ除去装置が設けられた移動機構は、歯車減速機である。歯車減速機は、回転モータ1、歯車2,3、軸受4、ハウジング5、リング6、加速度センサ7、PWMインバータ8およびインバータノイズ除去装置10を備える。
【0015】
回転モータ1には、PWMインバータ8で生成された電流が供給される。歯車2は回転モータ1の回転シャフト1Aに連結された回転シャフト2Aに固定されており、回転シャフト1A,2Aとともに回転する。
【0016】
回転シャフト2Aは、軸受(支持部材)4と図示しない他の軸受によって、回転可能に支持されている。軸受4は内輪4Aと外輪4Bを有し、内輪4Aは回転シャフト2Aの端部に固定され、外輪4Bは歯車減速機のハウジング5に固定されている。図示の軸受4は玉軸受であるが、他のタイプの軸受であってよい。
【0017】
歯車3は歯車2と噛み合っており、歯車3が固定された回転シャフト3Aは、図示しない軸受で支持されている。
【0018】
リング6は、軸受4の外輪4Bに固定されて、回転シャフト2A,3Aには接触しない。リング6には、軸受4の加速度を計測する加速度センサ7が取り付けられている。加速度センサ7は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加速度センサである。加速度センサ7は、3軸(X軸、Y軸およびZ軸)のそれぞれで加速度を計測する3軸加速度センサであってよい。
【0019】
回転シャフト2Aの回転に伴い、軸受4の内輪4Aには回転シャフト2Aの回転周波数を持つ振動が与えられる。軸受4の外輪4Bに固定されたリング6に設けられた加速度センサ7も回転シャフト2Aの回転周波数で振動する。加速度センサ7は、軸受4の振動に起因する加速度を計測する。軸受4に損傷がある場合には、回転モータ1の回転周波数に依存し、軸受4の部分的なはく離に起因する周期的な衝撃が加速度センサ7に与えられる。
【0020】
回転モータ1は、PWMインバータ8で駆動されるので、PWMのキャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数で振動する。回転モータ1の振動は、回転モータ1によって回転させられる回転シャフト2Aひいては軸受4の内輪4Aに伝達される。軸受4の外輪4Bに固定されたリング6に設けられた加速度センサ7も回転モータ1の影響を受けて振動する。
【0021】
インバータノイズ除去装置10は、軸受4の損傷を診断する装置として使用され、加速度センサ7が計測した加速度データからインバータノイズを除去することが可能である。インバータノイズ除去装置10は、コンピュータ11、入力装置12およびディスプレイ13を備える。
【0022】
コンピュータ11は、例えば、パーソナルコンピュータであってよい。コンピュータ11は、プロセッサ14、加速度インタフェース15、画像インタフェース16、ROM(read only memory)17およびRAM(random access memory)18を備える。
【0023】
プロセッサ14は、例えば1つまたは複数のCPU(central processing unit)またはMPU(microprocessor unit)により構成されている。ROM17は、不揮発性のメモリであり、プロセッサ14が動作するための各種コンピュータプログラムを格納する。RAM18は、揮発性のメモリであり、プロセッサ14の主メモリ、ワークエリア等の一時記憶領域として用いられる。プロセッサ14は、ROM17に格納されるコンピュータプログラムに従い、RAM18をワークメモリとして用いて、インバータノイズ除去装置10の各部を制御する。
【0024】
入力装置12は、例えば、キーボードとマウスにより構成されている。インバータノイズ除去装置10の使用者は、入力装置12を用いてコンピュータ11に指示を与えることができる。
【0025】
ディスプレイ13は、画像インタフェース16を介して、プロセッサ14に接続されている。ディスプレイ13は、プロセッサ14の処理で生成された各種の画像(例えば軸受の損傷の診断に必要な画像)を表示する。ディスプレイ13は、タッチパネルであってもよく、この場合、入力装置12のキーボードを省略することができる。
【0026】
加速度インタフェース15は、加速度センサ7に有線または無線で接続され、プロセッサ14に有線で接続されている。加速度センサ7から供給される加速度データをプロセッサ14に供給する。
【0027】
図2はプロセッサ14の動作の一例を示すフローチャートである。この動作は、回転モータ1の駆動開始後に実行される。以下では、3軸(X軸、Y軸およびZ軸)のうち1軸に関する加速度について説明するが、加速度センサ7が3軸加速度センサである場合、
図2の動作は各軸に関する加速度について並行して実行される。後述する
図7および
図8の動作も、加速度センサ7が3軸加速度センサである場合、各軸に関する加速度について並行して実行される。
【0028】
回転モータ1が回転すると、加速度センサ7から加速度データが周期的に加速度インタフェース15を介してプロセッサ14に供給される。加速度データは計測時刻と加速度値(加速度の計測値)を有する。
【0029】
ステップS1では、プロセッサ14は、受信部として機能し、加速度センサ7から加速度データを順次、受信する。また、ステップS1では、プロセッサ14は、生成部として機能し、加速度データを蓄積して一定時間にわたる加速度値の変化を示す第1の加速度データセットを生成する。したがって、第1の加速度データセットは、軸受4の振動に起因する加速度に関する第1の時間領域の加速度データであり、軸受4の振動成分とインバータノイズの振動成分を含む。
【0030】
図3はステップS1で生成された第1の時間領域の加速度データセットに対応する時間領域の加速度のグラフであり、実際の計測データの一例である。
【0031】
ステップS2では、プロセッサ14は、フーリエ変換部として機能し、第1の時間領域の加速度データをフーリエ変換して、第1の周波数領域の加速度データを生成する。ステップS2で使用されるフーリエ変換は、高速フーリエ変換(FFT)であるが、例えば離散フーリエ変換などの他のフーリエ変換でもよい。
【0032】
図4はステップS2のフーリエ変換で生成された第1の周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフであり、実際の計測データの一例である。
【0033】
ステップS3では、プロセッサ14は、均等化部として機能し、フーリエ変換で生成された第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算することを含む均等化処理を行って、第2の周波数領域の加速度データを生成する。
【0034】
ステップS3の均等化処理の一例では、第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算するだけでよい。この場合には、第2の周波数領域の加速度データは、当該データ内のすべての周波数にわたって均等な加速度値、「1」を持つ。
【0035】
図5はステップS3の均等化処理で生成された第2の周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフであり、実際の計測データの一例である。
図5から明らかなように、第2の周波数領域の加速度データは、当該データ内のすべての周波数にわたって均等な加速度値、「1」を持つ。結果的に、第1の周波数領域の加速度データでの高い値は低減され、第1の周波数領域の加速度データでの低い値は増大させられる。すなわち、周波数スペクトルにおいて高い加速度値を持つインバータノイズの振動成分が、低い加速度値を持つ軸受4の振動成分に対して相対的に減衰され、逆に、周波数スペクトルにおいて低い加速度値を持つ軸受4の振動成分が、高い加速度値を持つインバータノイズの振動成分に対して相対的に増大(強調)されたということである。このように、均等化処理はインバータノイズと軸受4の振動成分を無くす訳でなく加速度の大きさを相対的に変えるだけなので、後述する逆フーリエ変換によって加速度データを時間波形に戻す際に何の特徴もないフラットな加速度値の波形になる訳ではない(フーリエ級数におけるインバータノイズと軸受4の振動成分に対応する各項を無くすのでなく、各項の振幅を「1」にして等しくしたにすぎない)ことに注意されたい。
【0036】
ステップS3の均等化処理の他の例では、第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算し、除算で得られた各結果に正の数値aを乗算してもよい。この場合には、第2の周波数領域の加速度データは、当該データ内のすべての周波数にわたって均等な加速度値、「a」を持つ。結果的に、第1の周波数領域の加速度データでの高い値は低減され、第1の周波数領域の加速度データでの低い値は増大させられる。
【0037】
ステップS4では、プロセッサ14は、逆フーリエ変換部として機能し、均等化処理で生成された第2の周波数領域の加速度データを逆フーリエ変換して、第2の時間領域の加速度データを生成する。ステップS4の逆フーリエ変換では、ステップS2のフーリエ変換で得られた位相情報を使用する。ステップS4で使用される逆フーリエ変換は、逆FFTであるが、ステップS2で使用されるフーリエ変換の種類に依存した他の種類の逆フーリエ変換でもよい。
【0038】
図6はステップS4の逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データセットに対応する時間領域の加速度のグラフであり、実際の計測データの一例である。
【0039】
図3と
図6の比較から明らかなように、
図3で大きい振幅を有する振動成分が
図6では小さい振幅を有する。低減された振動成分はインバータノイズの振動成分であり、
図6のグラフは、主に軸受4の振動成分に関する加速度を表す。これは、後述する
図9と
図10の比較の説明から、より明らかになるであろう。
【0040】
ステップS5では、プロセッサ14は、ステップS4の逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データセットに対応する時間領域の加速度のグラフ(
図6に例示)をディスプレイ13に表示させる。インバータノイズ除去装置10の使用者は、グラフを目視して、軸受4に損傷があるか否かを判断することが可能となる。
【0041】
このように実施形態においては、第1の時間領域の加速度データをフーリエ変換することによって生成された第1の周波数領域の加速度データの各加速度値を当該加速度値で除算することを含む均等化処理を行うことによって、第2の周波数領域の加速度データが生成される。均等化処理によって、極めて周期的に発生するインバータノイズの振動成分が減衰させられる一方、軸受4自体の振動成分はほとんど減衰させられない。回転モータ1により移動させられる回転シャフト2Aとこれを支持する軸受4は、周期的に振動させられるが、軸受4の振動の周期はインバータノイズの周期に比べて不安定だからである。均等化処理によって、インバータノイズの振動成分に関するフーリエ級数の各項の振幅が1になる。均等化で生成された第2の周波数領域の加速度データを逆フーリエ変換することによって生成された第2の時間領域の加速度データでは、第1の時間領域の加速度データに比べて、インバータノイズの振動成分が減衰させられており、軸受4の振動成分がほぼそのまま残存する。結果的に軸受4の振動成分が強調されることになる。
【0042】
このように、フーリエ変換、均等化および逆フーリエ変換を行うだけで、簡単かつ適切にインバータノイズを減衰させることができる。インバータノイズ除去のために、キャリア周波数および/または側帯波周波数を入力する必要はなく、インバータノイズ除去の処理のための閾値設定も必要ない。また、計算処理の量が少なくて済む。さらに、キャリア周波数および/または側帯波周波数が変動しても、インバータノイズを適切に減衰させることができる。さらにまた、回転シャフト2Aの回転周波数がキャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数のいずれかとほぼ一致していても、回転シャフト2Aを支持する軸受4の振動の周期はインバータノイズの周期に比べて不安定なため、インバータノイズのみを適切に減衰させることができる。
【0043】
図7はプロセッサ14の動作の変形例を示すフローチャートである。
図2と共通するステップを示すために同じ符号が使用され、それらのステップの説明を省略する。
【0044】
図7の動作は、ステップS4の後、ステップS6に進む。ステップS6では、プロセッサ14は、RMS計算部として機能し、ステップS4の逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データセットのすべての加速度値からRMS(root mean square)を計算する。
【0045】
ステップS7では、プロセッサ14は、計算されたRMSをディスプレイ13に表示させる。インバータノイズ除去装置10の使用者は、RMSを目視して、軸受4に損傷があるか否かを判断することが可能となる。これに代えてあるいはこれに加えて、プロセッサ14は、RMSを閾値と比較し、比較結果をディスプレイ13に表示させてもよい。インバータノイズ除去装置10の使用者は、比較結果を目視して、軸受4に損傷があるか否かを判断することが可能となる。
【0046】
RMSの計算の代わりに、プロセッサ14は、ステップS4の逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データセットの他の指標(例えば、最大振幅、波高率(クレストファクタ)、尖度)を選択してもよい。他の指標(例えば、最大振幅、波高率(クレストファクタ)、尖度)をディスプレイ13に表示させることにより、インバータノイズ除去装置10の使用者は、他の指標(例えば、最大振幅、波高率(クレストファクタ)、尖度)を目視して、軸受4に損傷があるか否かを判断することが可能となる。これに代えてあるいはこれに加えて、プロセッサ14は、他の指標(例えば、最大振幅、波高率(クレストファクタ)、尖度)を閾値と比較し、比較結果をディスプレイ13に表示させてもよい。インバータノイズ除去装置10の使用者は、比較結果を目視して、軸受4に損傷があるか否かを判断することが可能となる。
【0047】
さらに、ステップS7で、プロセッサ14は、ステップS4の逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データセットに対応する時間領域の加速度のグラフ(
図6に例示)をディスプレイ13に表示させてもよい。
【0048】
図8はプロセッサ14の動作の他の変形例を示すフローチャートである。
図2と共通するステップを示すために同じ符号が使用され、それらのステップの説明を省略する。
【0049】
図8の動作は、ステップS4の後、ステップS8に進む。ステップS8では、プロセッサ14は、エンベロープ処理部として機能し、ステップS4の逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データをエンベロープ処理して、第3の時間領域の加速度データを生成する。エンベロープ処理では、プロセッサ14は、絶対値変換部として機能し、ステップS4の逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データの各加速度値を絶対値に変換する。つまり、各加速度値のうち負の値については絶対値をそのままにして正の値に変換し、各加速度値のうち正の値をそのままにする。このようにエンベロープ処理は絶対値変換処理を含む。
【0050】
ステップS9では、プロセッサ14は、再びフーリエ変換部として機能し、ステップS8のエンベロープ処理で生成された第3の時間領域の加速度データをフーリエ変換して、第3の周波数領域の加速度データを生成する。
【0051】
図9はステップS9のフーリエ変換で生成された第3の周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフであり、実際の計測データの一例である。
【0052】
ステップS10では、プロセッサ14は、ステップS9のフーリエ変換で生成された第3の周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフ(
図9に例示)をディスプレイ13に表示させる。インバータノイズ除去装置10の使用者は、グラフを目視して、軸受4に損傷があるか否かを判断することが可能となる。さらに、ステップS10で、プロセッサ14は、ステップS4の逆フーリエ変換で生成された第2の時間領域の加速度データセットに対応する時間領域の加速度のグラフ(
図6に例示)をディスプレイ13に表示させてもよい。
【0053】
図7のRMSの計算(ステップS6)を
図8の動作に追加してもよい。
【0054】
図10は、ステップS2のフーリエ変換で生成された第1の周波数領域の加速度データセット(
図4に対応)から均等化処理(ステップS3)をせずに逆フーリエ変換(S4)で生成された時間領域の加速度データセットからさらにエンベロープ処理(S8)およびフーリエ変換(S9)で生成された周波数領域の加速度データセットに対応する周波数領域の加速度のグラフであり、実際の計測データの一例である。つまり、
図9と
図10の相違は、
図8の動作によって生成された
図9のデータセットが均等化処理(ステップS3)を経て生成されたのに対して、比較例に係る
図10のデータセットが均等化処理を経ていないことである。同じ
図3のデータセットに由来しながら、
図9のデータセットは
図10のデータセットと顕著に相違する。
【0055】
図10のグラフでは、約20Hzの倍数でピークが見られる。これらのピークは約20kHzのキャリア周波数を持つインバータノイズの振動成分に相当する。
【0056】
一方、
図9のグラフでは、約25Hzの倍数でピークが見られる。これらのピークは軸受4にはく離が発生した場合の特徴周波数(約25Hz)に由来する軸受4の振動成分に相当する。このように、均等化処理を行うことによって、インバータノイズの振動成分が減衰させられ、軸受4の振動成分が強調されている。
図6の時間領域のグラフでも、インバータノイズの振動成分が減衰させられ、軸受4の振動成分が強調されている。したがって、
図6または
図9のグラフを目視または演算処理(例えばRMSの計算またはエンベロープ処理)することによって、軸受4に損傷があるか否かを判断することが可能となる。
【0057】
図10のグラフでは、キャリア周波数に相当する約20Hzの倍数でピークが見られ、
図9のグラフでは、軸受4にはく離が発生した場合の特徴周波数に相当する約25Hzの倍数でピークが見られる。しかし、キャリア周波数と上記特徴周波数が一致する場合には、
図10のグラフによれば、加速度の振幅が大きい場合に、軸受に損傷があると誤って診断するおそれがある。しかし、均等化処理を行うことによって、インバータノイズの振動成分が減衰させられる。軸受の振動成分が強調された
図9のグラフによれば、加速度の振幅が大きい場合、軸受に損傷が確実に存在することが分かる。
【0058】
このように、フーリエ変換、均等化、逆フーリエ変換、エンベロープ処理および2回目のフーリエ変換を行うだけで、簡単かつ適切にインバータノイズを減衰させることができる。インバータノイズ除去のために、キャリア周波数および/または側帯波周波数を入力する必要はなく、インバータノイズ除去の処理のための閾値設定も必要ない。また、計算処理の量が少なくて済む。さらに、キャリア周波数および/または側帯波周波数が変動しても、インバータノイズを適切に減衰させることができる。さらにまた、回転シャフト2Aの回転周波数がキャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数のいずれかとほぼ一致していても、回転シャフト2Aを支持する軸受4の振動の周期はインバータノイズの周期に比べて不安定なため、インバータノイズのみを適切に減衰させることができる。
【0059】
図示しないが、回転シャフト1Aの角度位置を計測するための角度センサを、例えば軸受4の付近に設けてもよい。この場合、プロセッサ14は、角度センサの計測結果に基づいて、各時刻での回転シャフト1Aの角度位置を判断し、各時刻での加速度と角度位置に基づいて、軸受4の損傷した位置を特定してもよい。
【0060】
実施形態に係るインバータノイズ除去装置10は、軸受4の損傷を診断する装置として使用されるが、歯車(移動部材)2の損傷を診断する装置として使用してもよい。この場合、プロセッサ14は、回転シャフト1Aの角度位置を計測するための角度センサの計測結果に基づいて、各時刻での歯車の角度位置を判断し、各時刻での加速度と角度位置に基づいて、歯車の損傷した歯を特定してもよい。このような歯車診断アルゴリズムは、各時刻での加速度に基づいて、各歯の加速度指標を計算するPer-tooth法であってよい。
【0061】
図11は、本発明の実施形態の変形例に係る移動機構の一部を示す。
図11では、インバータノイズ除去装置10の図示を省略する。
【0062】
図11に示された移動機構は、ボールねじ機構である。ボールねじ機構は、回転モータ21、ねじ軸22、直動ナット23、軸受24、ハウジング25、リング26、加速度センサ7、PWMインバータ28およびインバータノイズ除去装置(図示せず)を備える。
【0063】
回転モータ21には、PWMインバータ28で生成された電流が供給される。ねじ軸(移動部材)22は回転モータ21の回転シャフト21Aに連結されており、回転シャフト21Aとともに回転する。
【0064】
ねじ軸22は、軸受(支持部材)24と図示しない他の軸受によって、回転可能に支持されている。軸受24は内輪24Aと外輪24Bを有し、内輪24Aはねじ軸22の端部に固定され、外輪24Bは軸受24のハウジング25に固定されている。図示の軸受24は玉軸受であるが、他のタイプの軸受であってよい。
【0065】
直動ナット(移動部材)23の内部には、複数のボール23Aが配置されており、ボール23Aが直動ナット23のねじ溝とねじ軸22のねじ溝に配置される形式で、直動ナット23はねじ軸22と噛み合っている。したがって、ねじ軸22が回転すると、直動ナット23はねじ軸22の長手方向に沿って直進運動する。
【0066】
リング26は、軸受24の外輪24Bに固定されている。リング26には、ねじ軸22の加速度を計測する加速度センサ7が取り付けられている。加速度センサ7は、上記の加速度センサ7と同じであってよい。
【0067】
ねじ軸22の回転に伴い、軸受24の内輪24Aにはねじ軸22の回転周波数を持つ振動が与えられる。軸受24の外輪24Bに固定されたリング26に設けられた加速度センサ7もねじ軸22の回転周波数で振動する。加速度センサ7は、ねじ軸22の振動に起因する加速度を計測する。ねじ軸22、軸受24または直動ナット23に損傷がある場合には、回転モータ21の回転周波数に依存する周期的な衝撃が加速度センサ7に与えられる。
【0068】
回転モータ21は、PWMインバータ28で駆動されるので、PWMのキャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数で振動する。回転モータ21の振動は、回転モータ21によって回転させられるねじ軸22ひいては軸受24の内輪24Aに伝達される。軸受24の外輪24Bに固定されたリング6に設けられた加速度センサ7も回転モータ21の影響を受けて振動する。
【0069】
加速度センサ7は、加速度データをインバータノイズ除去装置(図示せず)に供給する。インバータノイズ除去装置は、インバータノイズ除去装置10と同じでよい。インバータノイズ除去装置は、ねじ軸22、軸受24または直動ナット23の損傷を診断する装置として使用され、加速度センサ7が計測した加速度データからインバータノイズを除去することが可能である。インバータノイズは、例えば、
図2、
図7または
図8に示す動作を実行することによって、除去されうる。
【0070】
図11の例では、加速度センサ7はリング26に配置されているが、加速度センサ7は直動ナット23に配置されていてもよい。
【0071】
図12は、本発明の実施形態の変形例に係る移動機構の一部を示す。
図12では、インバータノイズ除去装置10の図示を省略する。
【0072】
図12に示された移動機構は、リニアガイド30を備える。リニアガイド30は、レール31、キャリッジ32、キャップ33,34、シール35,36およびテーブル37を備える。
【0073】
レール31は直線状であって、その両側部には溝31Aが形成されている。キャリッジ32は、レール31の長手方向に沿って移動可能である。キャリッジ32の内部には、図示しない複数のボールが2列をなして配置されており、各列でボールが循環可能になっている。ボールはレール31の溝31A内を転がるようになっている。
【0074】
キャリッジ32の両端にはキャップ33,34が配置され、さらにシール35,36で封止されている。キャリッジ32の上面にはテーブル37が固定されている。テーブル37は、例えば、
図11に示すボールねじ機構の直動ナット23に連結される。したがって、キャリッジ32は、直動ナット23の直進運動に伴ってレール31の長手方向に沿って直進運動する。
【0075】
したがって、リニアガイド30自体には、キャリッジ32を移動させる駆動源は設けられていないが、キャリッジ32は回転モータ(例えば
図11に示す回転モータ21)により移動させられる移動部材である場合がある。この場合、レール31はキャリッジ32を移動可能に支持する支持部材である。
【0076】
キャリッジ32またはこれに固定された部材には、キャリッジ32の加速度を計測する加速度センサ7が取り付けられている。加速度センサ7は、上記の加速度センサ7と同じであってよい。
【0077】
回転モータの回転に伴い、キャリッジ32には回転モータの回転周波数を持つ振動が与えられる。例えば、テーブル37が
図11に示すボールねじ機構の直動ナット23に連結されている場合、
図11に示す回転モータ21が回転すると、ねじ軸22から直動ナット23を介してキャリッジ32に振動が伝達され、キャリッジ32もねじ軸22の回転周波数で振動する。加速度センサ7は、キャリッジ32の振動に起因する加速度を計測する。キャリッジ32またはレール31に損傷がある場合には、回転モータ21の回転周波数に依存する周期的な衝撃が加速度センサ7に与えられる。
【0078】
回転モータ21は、PWMインバータ28で駆動されるので、PWMのキャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数で振動する。回転モータ21の振動は、回転モータ21によって回転させられるねじ軸22ひいてはキャリッジ32に伝達される。キャリッジ32に設けられた加速度センサ7も回転モータ21の影響を受けて振動する。
【0079】
加速度センサ7は、加速度データをインバータノイズ除去装置(図示せず)に供給する。インバータノイズ除去装置は、インバータノイズ除去装置10と同じでよい。インバータノイズ除去装置は、キャリッジ32またはレール31の損傷を診断する装置として使用され、加速度センサ7が計測した加速度データからインバータノイズを除去することが可能である。インバータノイズは、例えば、
図2、
図7または
図8に示す動作を実行することによって、除去されうる。
【0080】
図12の例では、加速度センサ7はキャリッジ32またはこれに固定された部材に配置されているが、加速度センサ7はレール31に配置されていてもよい。
【0081】
以上、回転モータにより移動させられる移動部材(歯車2、ねじ軸22、直動ナット23、キャリッジ32)またはこの移動部材を移動可能に支持する支持部材(軸受4,24、レール31)の加速度のデータからインバータノイズを減衰させる技術を説明した。しかし、本発明は、
図13を参照して後述する、回転モータの回転シャフトまたはこの回転シャフトを支持する支持部材である軸受の加速度のデータからインバータノイズを減衰させることも包含する。
【0082】
図13は、本発明の実施形態の変形例に係るモータ装置を示す。このモータ装置は、回転モータ40、上述のインバータノイズ除去装置10および加速度センサ7を有する。
【0083】
回転モータ40は、筐体41、回転シャフト(移動部材)42および軸受(支持部材)43,44を有する。回転モータ40は公知のコアおよびステータを有するが、それらの説明は省略する。筐体41の内部には、ステータが設けられた回転シャフト42が配置されており、回転シャフト42の両端は筐体41から突出する。筐体41の両端の孔部には、軸受43,44が固定されており、軸受43,44は回転シャフト42を回転可能に支持する。
【0084】
加速度センサ7は、図示のように、筐体41に取り付けられており、回転シャフト42および/または軸受43,44の加速度を計測する。加速度センサ7は、軸受43または44の外輪に固定されて、回転シャフト42に接触しないリング(図示せず)に取り付けてもよく、この場合、軸受43または44の加速度を計測する。加速度センサ7は、軸受43,44から離れた位置にあって回転シャフト42に摺動可能に接触するリング(図示せず)に取り付けてもよく、この場合、回転シャフト42の加速度を計測する。
【0085】
回転モータ40は、PWMインバータ8で駆動されるので、回転シャフト42および軸受43,44は、PWMのキャリア周波数、キャリア周波数の高調波周波数、およびこれらの側帯波周波数で振動する。
【0086】
インバータノイズ除去装置10は、回転シャフト42および/または軸受43,44の損傷を診断する装置として使用され、加速度センサ7が計測した加速度データからインバータノイズを除去することが可能である。インバータノイズは、例えば、
図2、
図7または
図8に示す動作を実行することによって、除去されうる。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0088】
例えば、上記の実施形態および変形例においては、回転モータにより移動させられる移動部材は、歯車、ボールねじのねじ軸、リニアガイドのキャリッジである。しかし、本発明が適用される移動部材は、他の移動部材であってもよい。
【0089】
インバータノイズ除去装置10において、プロセッサ14が実行する各機能は、プロセッサの代わりに、ハードウェアで実行してもよいし、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array),DSP(Digital Signal Processor)等のプログラマブルロジックデバイスで実行してもよい。
【符号の説明】
【0090】
1,21 回転モータ
2 歯車(移動部材)
4,24 軸受(支持部材)
7 加速度センサ
8,28 PWMインバータ
10 インバータノイズ除去装置
14 プロセッサ(受信部、生成部、フーリエ変換部、均等化部、逆フーリエ変換部、エンベロープ処理部)
22 ねじ軸(移動部材)
23 直動ナット(移動部材)
30 リニアガイド
31 レール(支持部材)
32 キャリッジ(移動部材)
40 回転モータ
42 回転シャフト(移動部材)
43,44 軸受(支持部材)