(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103081
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】重ね溶接継手、自動車骨格部品、及び重ね溶接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20240725BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20240725BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20240725BHJP
B23K 26/22 20060101ALI20240725BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240725BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K9/16 K
B23K11/11
B23K26/22
B23K26/21 G
B23K9/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007222
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】爲實 巧
(72)【発明者】
【氏名】芦田 肇
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
4E165
4E168
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001BB08
4E001BB11
4E001CA02
4E081AA08
4E081BA05
4E081CA08
4E081CA11
4E081CA14
4E081DA06
4E081FA12
4E165AA02
4E165AA03
4E165AB02
4E165AC02
4E165DA03
4E165DA04
4E168BA02
4E168BA13
4E168BA14
4E168BA16
4E168BA37
4E168BA42
4E168BA44
4E168BA85
4E168BA88
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA32
(57)【要約】
【課題】縦壁部及びフランジを有する金属部材を備え、熱ひずみが軽減されており、高い耐破断特性及び捩り剛性を有する重ね溶接継手、自動車骨格部品、及び重ね溶接継手の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の第一実施形態に係る重ね溶接継手は、平坦部を有する第一の金属部材と、第一の金属部材の平坦部に重ねられているフランジ、及びフランジから立ち上がる縦壁部を有する第二の金属部材と、第一の金属部材の平坦部及び第二の金属部材のフランジを接合する複数の点溶接部と、第一の金属部材の平坦部及び第二の金属部材のフランジを接合する線溶接部と、を備え、線溶接部は、フランジの端に設けられ、複数の点溶接部は、線溶接部と縦壁部との間に並べられており、線溶接部の長さが、点溶接部の直径以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦部を有する第一の金属部材と、
前記第一の金属部材の前記平坦部に重ねられているフランジ、及び前記フランジから立ち上がる縦壁部を有する第二の金属部材と、
前記第一の金属部材の前記平坦部及び前記第二の金属部材の前記フランジを接合する複数の点溶接部と、
前記第一の金属部材の前記平坦部及び前記第二の金属部材の前記フランジを接合する線溶接部と、
を備え、
前記線溶接部は、前記フランジの端に設けられ、
複数の前記点溶接部は、前記線溶接部と前記縦壁部との間に並べられており、
前記線溶接部の長さが、前記点溶接部の直径以上である
重ね溶接継手。
【請求項2】
前記線溶接部の個数が2以上であり、
複数の前記線溶接部は、前記フランジの前記端に沿って間隔をあけて配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手。
【請求項3】
複数の前記点溶接部を前記フランジの前記端に投影したときに、複数の前記点溶接部の投影部の中央が、複数の前記線溶接部と重なる
ことを特徴とする請求項2に記載の重ね溶接継手。
【請求項4】
複数の前記点溶接部を前記フランジの前記端に投影したときに、複数の前記点溶接部の投影部の中央が、複数の前記線溶接部の間にある
ことを特徴とする請求項2に記載の重ね溶接継手。
【請求項5】
前記線溶接部の幅が、0.5~3.0mmである
ことを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手。
【請求項6】
前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材の一方又は両方が鋼部材である
ことを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手。
【請求項7】
前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材の両方が鋼部材であり、
前記点溶接部の溶接金属の、前記線溶接部の側の硬さが、前記点溶接部の前記溶接金属の、前記線溶接部と反対側の硬さに比べて、25HV以上低い
ことを特徴とする請求項6に記載の重ね溶接継手。
【請求項8】
前記線溶接部が、レーザ溶接部又はアーク溶接部である
ことを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手。
【請求項9】
前記点溶接部が、スポット溶接部又はレーザスクリュー溶接部である
ことを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手。
【請求項10】
前記線溶接部と前記縦壁部との間隔が10.0mm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手。
【請求項11】
前記点溶接部の前記縦壁部の側の端と、前記縦壁部との間隔が10.0mm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の重ね溶接継手を備える自動車骨格部品。
【請求項13】
平坦部を有する第一の金属部材と、フランジ、及び前記フランジから立ち上がる縦壁部を有する第二の金属部材から重ね溶接継手を製造する方法であって、
前記第一の金属部材の平坦部と、前記第二の金属部材の前記フランジとを重ねる工程と、
前記第一の金属部材の前記平坦部、及び前記第二の金属部材の前記フランジを複数回にわたって点溶接する工程と、
前記第一の金属部材の前記平坦部、及び前記第二の金属部材の前記フランジを線溶接する工程と、
を備え、
前記点溶接を、前記フランジの端と、前記縦壁部との間において行い、
前記線溶接を、前記フランジの前記端において行い、
前記線溶接によって得られる線溶接部の、前記フランジの前記端に沿った長さを、前記点溶接によって得られる点溶接部の直径以上とする
重ね溶接継手の製造方法。
【請求項14】
前記点溶接を、前記線溶接より先に行う
ことを特徴とする請求項13に記載の重ね溶接継手の製造方法。
【請求項15】
前記点溶接を、スポット溶接とする
ことを特徴とする請求項13又は14に記載の重ね溶接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね溶接継手、自動車骨格部品、及び重ね溶接継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化、及び衝突安全性の向上のために、高強度鋼板を自動車部品に適用することが進められている。高強度鋼板によれば、自動車部品を構成する部材の板厚を減少させて部材の重量を削減しながら、自動車部品の耐衝突特性を確保することができる。自動車部品の耐衝突特性とは、著しい応力が加えられた際の、自動車部品の変形のし難さのことをいう。変形や破壊を自動車部品に生じさせるために必要な応力が大きいほど、その自動車部品の耐衝突特性が高いと判断される。高強度鋼板を用いた自動車部品において、破壊の起点となるのは溶接部である。従って、溶接部の耐破断特性を高めるための技術が待望されている。耐破断特性とは、著しい応力が加わった際の、溶接部の破断のし難さのことをいう。
【0003】
また、自動車部品においては、捩り剛性の向上及び熱ひずみの抑制も必要である。自動車部品の捩り剛性が高いほど、自動車のNVH(Noise,Vibration,Harshness)特性、及び自動車の走行時の安定性が高められる。しかしながら、自動車部品の軽量化のために鋼部材の厚さを低下させると、自動車部品の捩り剛性が低下する場合がある。熱ひずみは、溶接熱によって鋼部材に生じるひずみである。熱ひずみを抑制することにより、自動車部品の寸法精度を高めることができる。
【0004】
特許文献1には、折り曲げ部、および該折り曲げ部に続くフランジを有する一の鋼板と、他の一または複数の鋼板とを前記フランジで重ね合わせて構成され、該重ね合わせ部に形成された、第1のレーザ溶接部および第2のレーザ溶接部を有するレーザ溶接構造部材であって、前記第2のレーザ溶接部は、前記第1のレーザ溶接部に関して前記折り曲げ部の反対側となる前記第1のレーザ溶接部の近傍の領域に形成されるとともに、前記第1のレーザ溶接部の熱影響部の硬さは、前記第2のレーザ溶接部の熱影響部の硬さの90%以下であることを特徴とするレーザ溶接構造部材が開示されている。
【0005】
特許文献2には、複数の鋼部材同士が重ね合せ部で接合され、前記複数の鋼部材の少なくとも一つがマルテンサイト組織を含む重ね溶接部材であって、前記重ね合せ部は、ナゲットを有するスポット溶接部が形成され、前記ナゲットと前記ナゲットの端から外方に3mm以上離れた位置との間には、レーザビームの照射により前記ナゲットの端を横切り前記ナゲットの端から外方に1mm離れた位置における深さが前記マルテンサイト組織を含む鋼部材のそれぞれの板厚の50%以上とされる溶融凝固部が形成されていることを特徴とする重ね溶接部材が開示されている。
【0006】
特許文献3には、第一の鋼部材に対し、前記第一の鋼部材に重ね合わされるフランジ部、及び前記フランジ部から立ち上がる縦壁部を有する第二の鋼部材を重ねて溶接する方法であって、前記第一の鋼部材に対して前記フランジ部を重ね合わせた状態でスポット溶接することにより、前記第一の鋼部材及び前記フランジ部間にナゲットを形成するスポット溶接工程と;前記スポット溶接工程後に、前記縦壁部のR止まりと前記ナゲットとの間の領域に、レーザ溶接により溶接ビードを形成するレーザ溶接工程と;を有し、前記溶接ビードは、前記フランジ部の長手方向における寸法が前記ナゲットの直径以上でありかつ、幅寸法が0.5~3.0mmであることを特徴とする、鋼板の重ね溶接方法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、第一と第二の板状部材の端部をそれぞれ外向きに突出するよう重ねたフランジ部を、前記板状部材の長手方向にレーザー溶接することにより形成した閉断面体に対し、第3の板状部材が前記フランジ部にてスポット溶接されてなる車体構造であって、前記フランジ部は、前記長手方向と直交するフランジ部幅方向の根元側に隣接して前記長手方向に連続するレーザー溶接痕を有するとともに、該レーザー溶接痕よりフランジ部幅方向外端部側においてスポット溶接点が前記長手方向に離間して並ぶよう、前記第3の板状部材がスポット溶接され、前記フランジ部をなす前記第一、第二の板状部材の部位の少なくともいずれかにおいて、フランジ部幅方向における前記スポット溶接点と前記レーザー溶接痕との間に、厚み方向に貫通し、かつフランジ部平面方向において所定長さを有するスリット部を開穿したレーザー溶接とスポット溶接を併用した車体構造が開示されている。
【0008】
特許文献5には、断面形状が略ハット形状のフレーム部品のフランジ部と、該フランジ部に対向して配置する他のフレーム部品またはパネル部品とを溶接して閉断面を構成する自動車用骨格部品であって、溶接位置座標を、前記フランジ部と前記他のフレーム部品またはパネル部品との接触位置の端部を0とし、前記フランジ部のフランジ外端側を(-)、前記略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、前記略ハット形状の縦壁部とフランジ部を繋ぐ円弧状部の半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とする自動車用骨格部品が開示されている。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5
ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【0009】
非特許文献1の
図32には、LTSの溶接位置依存性が開示されている。LTSとは、L字継手にピール試験をすることによって得られる、L字継手の最大荷重のことである。L字継手とは、鋼板をL字状に曲げることによって製造された、フランジ部と、フランジ部から立ち上がる縦壁部とからなる2つのL字部材のフランジ部をスポット溶接して得られた継手である(
図3A、及び非特許文献1の
図5参照)。2つの鋼部材の縦壁部は同一平面上に配されており、ピール試験では、2つの鋼部材の縦壁部に、スポット溶接部を剥離させる方向に引張荷重を加える。引張軸は、縦壁部の延在方向と一致している。
【0010】
非特許文献1によれば、L字継手のR部、即ちフランジ部と縦壁部との境界部の近くを溶接すれば、LTSを上げることができるとされている。これは、引張軸から溶接止端部までの距離が短くなるほど鋼板界面の溶接部に働く応力が下がるためであると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010-12504号公報
【特許文献2】国際公開第2014/24997号
【特許文献3】国際公開第2017/47752号
【特許文献4】特開2010-158983号公報
【特許文献5】特開2012-240118号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「自動車分野における溶接・接合技術の進歩と展望」宮崎ら、新日鐵住金技報、第409号、2017、p10~22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に開示された技術においては、線状の第1のレーザ溶接部及び線状の第2のレーザ溶接部の組み合わせによって、レーザ溶接構造部材の剥離強さを高めている。しかしながら、フランジの中央部又はその近傍に配置される線状のレーザ溶接は、レーザ溶接構造部材に熱ひずみを生じさせる。レーザ溶接構造部材の寸法精度に関して、特許文献1に開示の技術には改善の余地がある。
【0014】
特許文献2に開示された技術においては、スポット溶接部のナゲットからナゲットの端を横切ってレーザビームを照射して溶融凝固部を形成することにより、スポット溶接部のHAZ軟化部が硬化されて、HAZにおける破断が抑制され、高強度鋼板やホットスタンプ材の強度を充分に発揮されている。特許文献3に開示された技術においては、ナゲットと縦壁部との間の領域に溶接ビードを形成することにより、捩り剛性及び継手強度を向上させている。しかしながら、レーザビームの照射位置などに関して、特許文献2及び3に開示の技術には改善の余地がある。
【0015】
特許文献4に開示された技術によれば、スポット溶接時にレーザー溶接痕を経由する電流経路を長くしながらも、スポット溶接点とレーザー溶接痕とを近接させてフランジ部の幅を短くすることが可能となる。しかし、特許文献4においては、継手強度及び捩り剛性について特段の検討はなされておらず、また、これらを改善可能な構成も開示されていない。
【0016】
特許文献5に開示された技術においては、溶接位置を縦壁部に近づけることによって、自動車用骨格部品の剛性が高められている。非特許文献1には、溶接位置を縦壁部に近づけることによって、L字継手の剥離強さが高められる旨が開示されている。しかしながら、L字継手の衝突時の破断のしやすさ、及びフランジの端部の構造に関し、特許文献5及び非特許文献1においては何ら検討されていない。
【0017】
以上の事情に鑑みて、本発明は、縦壁部及びフランジを有する金属部材を備え、熱ひずみが軽減されており、高い耐破断特性及び捩り剛性を有する重ね溶接継手、自動車骨格部品、及び重ね溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0019】
(1)本発明の第一実施形態に係る重ね溶接継手は、平坦部を有する第一の金属部材と、前記第一の金属部材の前記平坦部に重ねられているフランジ、及び前記フランジから立ち上がる縦壁部を有する第二の金属部材と、前記第一の金属部材の前記平坦部及び前記第二の金属部材の前記フランジを接合する複数の点溶接部と、前記第一の金属部材の前記平坦部及び前記第二の金属部材の前記フランジを接合する線溶接部と、を備え、前記線溶接部は、前記フランジの端に設けられ、複数の前記点溶接部は、前記線溶接部と前記縦壁部との間に並べられており、前記線溶接部の長さが、前記点溶接部の直径以上である。
(2)好ましくは、上記(1)に記載の重ね溶接継手では、前記線溶接部の個数が2以上であり、複数の前記線溶接部は、前記フランジの前記端に沿って間隔をあけて配置されている。
(3)好ましくは、上記(2)に記載の重ね溶接継手では、複数の前記点溶接部を前記フランジの前記端に投影したときに、複数の前記点溶接部の投影部の中央が、複数の前記線溶接部と重なる。
(4)好ましくは、上記(2)に記載の重ね溶接継手では、複数の前記点溶接部を前記フランジの前記端に投影したときに、複数の前記点溶接部の投影部の中央が、複数の前記線溶接部の間にある。
(5)好ましくは、上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の重ね溶接継手では、前記線溶接部の幅が、0.5~3.0mmである。
(6)好ましくは、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の重ね溶接継手では、前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材の一方又は両方が鋼部材である。
(7)好ましくは、上記(6)に記載の重ね溶接継手では、前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材の両方が鋼部材であり、前記点溶接部の溶接金属の、前記線溶接部の側の硬さが、前記点溶接部の前記溶接金属の、前記線溶接部と反対側の硬さに比べて、25HV以上低い。
(8)好ましくは、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の重ね溶接継手では、前記線溶接部が、レーザ溶接部又はアーク溶接部である。
(9)好ましくは、上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の重ね溶接継手では、前記点溶接部が、スポット溶接部又はレーザスクリュー溶接部である。
(10)好ましくは、上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の重ね溶接継手では、前記線溶接部と前記縦壁部との間隔が10.0mm以上である。
(11)好ましくは、上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の重ね溶接継手では、前記点溶接部の前記縦壁部の側の端と前記縦壁部との間隔が10.0mm以下である。
【0020】
(12)本発明の第二実施形態に係る自動車骨格部品は、上記(1)~(11)のいずれか一項に記載の重ね溶接継手を備える。
【0021】
(13)本発明の第三実施形態に係る重ね溶接継手の製造方法は、平坦部を有する第一の金属部材と、フランジ、及び前記フランジから立ち上がる縦壁部を有する第二の金属部材から重ね溶接継手を製造する方法であって、前記第一の金属部材の平坦部と、前記第二の金属部材の前記フランジとを重ねる工程と、前記第一の金属部材の前記平坦部、及び前記第二の金属部材の前記フランジを複数回にわたって点溶接する工程と、前記第一の金属部材の前記平坦部、及び前記第二の金属部材の前記フランジを線溶接する工程と、を備え、前記点溶接を、前記フランジの端と、前記縦壁部との間において行い、前記線溶接を、前記フランジの前記端において行い、前記線溶接によって得られる線溶接部の、前記フランジの前記端に沿った長さを、前記点溶接によって得られる点溶接部の直径以上とする。
(14)好ましくは、上記(13)に記載の重ね溶接継手の製造方法では、前記点溶接を、前記線溶接より先に行う。
(15)好ましくは、上記(13)又は(14)に記載の重ね溶接継手の製造方法では、前記点溶接を、スポット溶接とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、縦壁部及びフランジを有する金属部材を備え、熱ひずみが軽減されており、高い耐破断特性及び捩り剛性を有する重ね溶接継手、自動車骨格部品、及び重ね溶接継手の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3A】縦壁部に引張応力が加えられたL字継手の断面模式図である。
【
図3B】縦壁部に圧縮応力が加えられたL字継手の断面模式図である。
【
図4A】フランジの一例の断面図、及び点溶接部の硬さ分布図である。
【
図5A】軸圧壊のシミュレーションのために用いられた、両ハット部材のモデルの斜視図である。
【
図5B】軸圧壊のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図5C】捩りのシミュレーションの方法を示す斜視図である。
【
図6】3点曲げのシミュレーションのために用いられた、片ハット部材、支点、及びインパクターのモデルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施形態について詳細に説明する。
【0025】
(1.重ね溶接継手1)
まず、
図1等を参照しながら、本発明の第一実施形態に係る重ね溶接継手1について説明する。第一実施形態に係る重ね溶接継手1は、平坦部111を有する第一の金属部材11と、第一の金属部材11の平坦部111に重ねられているフランジ121、及びフランジ121から立ち上がる縦壁部122を有する第二の金属部材12と、第一の金属部材11の平坦部111及び第二の金属部材12のフランジ121を接合する複数の点溶接部13と、第一の金属部材11の平坦部111及び第二の金属部材12のフランジ121を接合する線溶接部14と、を備え、線溶接部14は、フランジ121の端1211に設けられ、複数の点溶接部13は、線溶接部14と縦壁部122との間に並べられており、線溶接部14の長さが、点溶接部の直径D以上である。
【0026】
(第一の金属部材11)
重ね溶接継手1は、第一の金属部材11及び第二の金属部材12を接合することにより得られたものである。第一の金属部材11は平坦部111を有する。平坦部111は、重ね溶接継手1の接合部となる。
【0027】
第一の金属部材11の最も単純な例は、
図1に例示される平板部材である。第一の金属部材11が平板部材である場合、平坦部111は、第一の金属部材11の全体に設けられているとみなすことができる。一方、第一の金属部材11を、後述する第二の金属部材12と同様に、フランジ121及び縦壁部122を有するものとし、このフランジ121を平坦部111としてもよい。例えば、第一の金属部材11が、L字部材又はハット部材であってもよい。この場合、第一の金属部材11のフランジを、平坦部111とみなすことができる。
【0028】
(第二の金属部材12)
第二の金属部材12は、少なくともフランジ121、及びフランジ121から立ち上がる縦壁部122を有する。フランジ121は、重ね溶接継手1の接合部となる。縦壁部122は、重ね溶接継手1に立体的形状を付与する。また、重ね溶接継手1が自動車骨格部品である場合、自動車の衝突時に、縦壁部122はフランジ121の溶接部に応力を加える。
【0029】
第二の金属部材12の最も単純な例は、
図3A等に例示されるL字部材である。L字部材とは、金属板を折り曲げることによって得られる、1つの平坦なフランジ121、及びフランジ121から略垂直に立ち上がる1つの平坦な縦壁部122を有する部材である。第二の金属部材12の別の例は、
図1に例示されるようなハット部材である。ハット部材とは、金属板を折り曲げることによって得られる、一対のフランジ121と、これら一対のフランジ121から略垂直に立ち上がる一対の縦壁部122と、これら一対の縦壁部122を接続して且つフランジ121に平行な横壁部123と、を備える部材である。
【0030】
重ね溶接継手1が、縦壁部122とフランジ121とを有する金属部材を複数備えている場合、任意の金属部材を第二の金属部材12とみなすことができる。そして、本実施形態に係る重ね溶接継手1の要件を満たす第二の金属部材12が1以上含まれる継手は、本実施形態に係る重ね溶接継手1であるとみなされる。例えば、
図4A及び
図4Bの重ね溶接継手1は、縦壁部122とフランジ121とを有する金属部材を2つ備えている。これらの金属部材のうち、紙面下側に配された金属部材では、線溶接部14がフランジ121の端1211に設けられていない。これを第二の金属部材12とみなした場合、
図4A及び
図4Bの重ね溶接継手1は本実施形態に係る重ね溶接継手1の要件を満たさない。しかしながら、紙面上側に配された金属部材では、線溶接部14がフランジ121の端1211に設けられている。これを第二の金属部材12とみなした場合、
図4A及び
図4Bの重ね溶接継手1は本実施形態に係る重ね溶接継手1の要件を満たす。
図4A及び
図4Bの重ね溶接継手1は、本実施形態に係る重ね溶接継手1の要件を満たす第二の金属部材12を1以上含むので、本実施形態に係る重ね溶接継手1である。また、
図4A及び
図4Bの重ね溶接継手1においては、紙面下側に配された金属部材は第一の金属部材11とみなされる。
図4Cの重ねすみ肉継手は、紙面上側の金属部材、及び紙面下側の金属部材のいずれを第二の金属部材12とみなした場合であっても、本実施形態に係る重ね溶接継手1に該当する。
【0031】
なお、金属部材の個数が3つ以上であってもよい。金属部材の個数が3つ以上である重ねすみ肉継手の例を
図4Dに示す。
図4Dの重ねすみ肉継手は、紙面上側の金属部材を第二の金属部材12とみなし、その他の金属部材を第一の金属部材11とみなした場合に、本実施形態に係る重ね溶接継手1に該当する。
【0032】
(点溶接部13、及び線溶接部14)
複数の点溶接部13は、第一の金属部材11の平坦部111及び第二の金属部材12のフランジ121を接合する溶接部である。点溶接部13は、平坦部111又はフランジ121を平面視した場合に、略円形形状を有する。点溶接部13の例として、
図4Aに示されるスポット溶接部、及び
図4Bに示されるレーザスクリュー溶接部等が挙げられる。点溶接部の位置は縦壁部に近いほど好ましいが、点溶接部が縦壁部から離隔され、線溶接部と若干接触していてもよい。
【0033】
線溶接部14は、点溶接部13とともに、第一の金属部材11の平坦部111及び第二の金属部材12のフランジ121を接合する溶接部である。線溶接部14は、平坦部111又はフランジ121を平面視した場合に、フランジ121の端に沿って延在する線形状を有する。線溶接部14の例として、レーザ溶接部、及びアーク溶接部等が挙げられる。
【0034】
線溶接部14は、フランジ121の端1211に設けられる。従って、線溶接部14はフランジ121の端1211を第一の金属部材11の平坦部111に接合している。
図1に例示される重ね溶接継手1において、線溶接部14は、フランジ121の端面と平坦部111の表面とを接合する重ねすみ肉溶接部とされている。一方、複数の点溶接部13は、線溶接部14と縦壁部122との間に並べられている。従って、点溶接部13はフランジ121の中央部を平坦部111に接合している。
【0035】
線溶接部14の長さLは、点溶接部の直径D以上である。ここで、線溶接部14の長さLとは、
図2Aの平面図に示されるように、フランジ121の端1211に沿って測定される線溶接部14の寸法のことである。点溶接部の直径Dは、点溶接部13の中心を通り且つフランジ121の表面に垂直な断面において測定される溶接金属の幅のことである。点溶接部13がスポット溶接部である場合も、レーザスクリュー溶接部である場合も、点溶接部13の幅はフランジ121及び平坦部111の合わせ面に沿って測定される。
図4Dに例示されるように、部材の枚数が3以上であり、合わせ面が2以上である場合は、それぞれの合わせ面で測定される点溶接部13の幅の最大値を、点溶接部13の幅とみなす。
【0036】
なお、線溶接部14の長さLは、第一の金属部材11の平坦部111で測定するか、第二の金属部材12のフランジ121で測定するかに応じて、その値が変わる場合がある。この場合、両側で線溶接部14の長さLを測定し、少なくとも一方の側においてL≧Dが満たされていればよい。また、線溶接部及び点溶接部の個数が2以上であり、且つ、その大きさが一様ではない場合がある。この場合、点溶接部の直径と線溶接部の長さの関係性の判断は、任意の点溶接部と、その任意の点溶接部に最も近傍の線溶接部とを対象として判断すればよく、一組でも関係性が満たされていればよい。
【0037】
(作用効果)
第一実施形態に係る重ね溶接継手1においては、線溶接部14がフランジ121の端1211に設けられており、且つ、その長さLが点溶接部の直径D以上とされている。これにより、第一実施形態に係る重ね溶接継手1では、溶接部の耐破断特性が高められている。また、第一実施形態に係る重ね溶接継手1においては、線溶接部14と縦壁部122との間に複数の点溶接部13が並べられている。これにより、第一実施形態に係る重ね溶接継手1は、高い捩り剛性を有し、且つ熱ひずみが軽減されている。この理由について、以下に説明する。
【0038】
まず、フランジ121の端1211に設けられた線溶接部14の作用効果について説明する。従来技術においては、自動車骨格部品の耐衝突特性を高めるためには、フランジ121を接合する溶接部を、縦壁部122に近づけたほうがよいと考えられてきた。例えば上述の非特許文献1には、
図3Aに示されるようなL字継手の剥離試験結果が開示されている。この剥離試験では、2つの部材それぞれの縦壁部122に対して引張荷重を加えることによって、溶接部を剥離させる。非特許文献1では、溶接部を縦壁部122に近づけるほど、溶接部が剥離し難いと報告されている。しかしながら、本発明者らが縦壁部122を有する重ね溶接継手1に対して様々な形態の衝突評価を実施したところ、溶接部が縦壁部122から離れるほど、重ね溶接継手1の耐破断特性が高められることが明らかとなった。
【0039】
重ね溶接継手1の耐破断特性と溶接部位置との関係について、本発明者らは従来とは異なる知見を得た。溶接部を縦壁部から離隔させることが好ましい理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0040】
図3Aの剥離試験では、縦壁部122に引張応力が加えられる。この際、フランジ121は梃子として機能する。ここでは、溶接部13が作用点lとなり、フランジ121の端が支点fとなり、縦壁部122とフランジ121との間の曲げ部124が力点eとなる。従って、
図3Aのように縦壁部122に引張応力が加えられる場合は、作用点lである溶接部13が支点fであるフランジ121の端1211から離れるほど、溶接部13は破断し難くなる。
【0041】
一方、
図3Bに示されるように縦壁部122に圧縮応力が加わった場合は、曲げ部124が支点fとなり、溶接部13が作用点lとなる。従って、
図3Bのように縦壁部122に圧縮応力が加えられる場合は、作用点lである溶接部13が支点fである曲げ部124から離れるほど、溶接部13が破断し難くなる。
【0042】
重ね溶接継手1が軸圧壊、又は曲げ圧壊される際には、縦壁部122とフランジ121との間の曲げ部124が梃子の支点fとして機能する場合が多く、これにより、溶接部を曲げ部124から離すことが有利に働くと推定される。
【0043】
以上の理由により、第一実施形態に係る重ね溶接継手1では、線溶接部14がフランジ121の端1211に設けられている。フランジ121の端1211は、縦壁部122から最も離れた場所である。これにより、重ね溶接継手1の耐破断特性を高めることができる。ただし、線溶接部14が短すぎると、線溶接部14の耐破断特性が担保できない。従って、線溶接部14の長さは、点溶接部の直径D以上とされている。
【0044】
なお、フランジ121の端1211を点溶接部13によって接合することは好ましくない。点溶接部13によって接合される範囲は狭いので、点溶接部13によれば、十分な耐破断特性を確保することができない。また、点溶接部13をスポット溶接部とした場合、溶接作業が難しくなる。フランジ121の端1211から散りが飛散しやすいからである。以上の理由により、フランジ121の端1211を接合する溶接部は、線溶接部14とされる。
【0045】
次に、縦壁部122と線溶接部14の間に並べられた点溶接部13の作用効果について説明する。重ね溶接継手1の捩り剛性は、溶接部が縦壁部122に近いほど高くなる。従って第一実施形態に係る重ね溶接継手1では、フランジ121の端1211に線溶接部14を設けることに加えて、縦壁部122に近い箇所、即ち線溶接部14と縦壁部122との間にも溶接部を設ける。
【0046】
ただし、本発明者らの実験結果によれば、縦壁部122に近い箇所を線溶接することは好ましくないことがわかった。本発明者らのシミュレーション結果によれば、フランジの中央部又はその近傍を断続的に線溶接した重ね溶接継手1においては、耐破断特性の向上効果が得られなかった。また、フランジの中央部又はその近傍を連続的に線溶接すると、フランジ121の熱ひずみが著しくなり、重ね溶接継手1の寸法精度が損なわれた。加えて、フランジの中央部又はその近傍の線溶接は、板隙の影響を受けやすいので、溶接不良を生じさせやすい。一方、点溶接は板隙の影響を受け難く、且つ、点溶接が生じさせる熱ひずみの量は小さい。従って、縦壁部122に近い箇所における溶接部は、点溶接部13とされる。
【0047】
以上、第一実施形態に係る重ね溶接継手1の最も基本的な態様について説明した。次に、第一実施形態に係る重ね溶接継手1の一層好ましい態様について説明する。
【0048】
(線溶接部14の個数及び配置)
線溶接部14の個数は、
図2Cに示されるように、1つであってもよい。
図2Cのような長い単一の線溶接部14は、重ね溶接継手1の溶接部の破断を最も強力に抑制することができる。一方、
図2A又は
図2Bに示されるように、線溶接部14の個数を2以上とし、且つ、線溶接部14をフランジ121の端1211に沿って間隔をあけて配置してもよい。これにより、フランジ121及び平坦部111の熱ひずみを一層抑制することができる。
【0049】
線溶接部14の個数を2以上とする場合、
図2Aに示されるように、点溶接部13及び線溶接部14を並べて配置してもよい。具体的には、複数の点溶接部13をフランジ121の端1211に投影したときに、複数の点溶接部の投影部13Pの中央が複数の線溶接部14と重なるように、線溶接部14及び点溶接部13を配列してもよい。
図2Aの配列によれば、後述する点溶接部の焼戻し効果を得ることができる。
【0050】
一方、
図2Bに示されるように、点溶接部13及び線溶接部14を互い違いに配置してもよい。具体的には、複数の点溶接部13をフランジ121の端1211に投影したときに、複数の点溶接部の投影部13Pの中央が複数の線溶接部14の間にあるように、線溶接部14及び点溶接部13を配列してもよい。
図2Bの配列によれば、
図2Aの配列よりも高い捩り剛性を確保することができる。
【0051】
(線溶接部14の幅)
線溶接部14の幅は特に限定されないが、例えば0.5~3.0mmの範囲内とすることが好ましい。線溶接部14の幅を0.5mm以上とすることにより、継手強度を一層向上させることができる。線溶接部14の幅を0.6mm以上、0.8mm以上、又は1.0mm以上としてもよい。一方、線溶接部14の幅を3.0mm以下とすることにより、線溶接部14の製造の際の溶け落ちや熱ひずみを防止することができる。線溶接部14の幅を2.8mm以下、2.5mm以下、又は2.0mm以下としてもよい。なお線溶接部14の幅Wとは、線溶接部14が重ねすみ肉溶接部の場合は、
図2Aに示されるように、フランジ121の平面視における、フランジ121の端1211と垂直な方向に沿った線溶接部14の寸法のことであり、線溶接部14がへり溶接部の場合は、
図4Cに示されるように、フランジ121の断面視における、フランジ121の表面と垂直な方向に沿った線溶接部14の寸法のことである。
【0052】
(点溶接部13の焼戻し)
第一の金属部材11及び第二の金属部材12の両方が鋼部材である場合、
図4Aに示されるように、点溶接部13の溶接金属の、線溶接部14の側の硬さが、点溶接部13の溶接金属の、線溶接部14と反対側の硬さに比べて、25HV以上低いことが好ましい。
図4Aの上部に示される断面図は、重ね溶接継手1の、線溶接部14の溶接線方向に垂直かつ点溶接部13の中心を通る断面図であり、
図4Aの下部に示されるグラフは、点溶接部13の硬さを紙面横方向に連続的に測定することによって得られる、点溶接部13の硬さ分布グラフである。点溶接部13の硬さ分布は、通常は一様である。しかし、例えば線溶接部14を形成する際の溶接熱によって点溶接部13を焼戻すことにより、点溶接部13を部分的に軟化させることができる。この場合、
図4Aの下部のグラフに示されるように、点溶接部13の硬さは、線溶接部14に近いほど小さくなる。溶接部の溶接金属の、線溶接部14の側の硬さを、点溶接部13の溶接金属の、線溶接部14と反対側の硬さよりも25HV以上小さくすることにより、点溶接部13の靭性を高めることができる。点溶接部13の溶接金属の、線溶接部14の側の硬さと、線溶接部14と反対側の硬さとの差を、30HV以上、35HV以上、又は40HVとしてもよい。
【0053】
点溶接部13の焼戻しは、第一の金属部材11及び第二の金属部材12の一方又は両方が高強度鋼板である場合に、特に有効である。一般に、鋼板の引張強さが高いほど、その溶接部の剥離強さも高い。しかし、引張強さが980MPaを超える場合、鋼板の引張強さが高いほど、その溶接部は脆化し、剥離強さは低くなる。点溶接部13を焼戻すことにより、点溶接部13の靭性を向上させて、重ね溶接継手1の耐破断特性を一層高めることができる。
【0054】
点溶接部13の溶接金属の、線溶接部14の側の硬さと、線溶接部14と反対側の硬さとの差は、以下の手順により求められる。まず、重ね溶接継手1を切断し、断面を研磨する。断面は、線溶接部14の溶接線方向に垂直かつ点溶接部13の中心を通るものとする。次に、第二の金属部材12のフランジ121の、継手内部に配された表面に沿って、点溶接部13のビッカース硬さを連続的に測定する。荷重は500gfとし、測定間隔は0.20mmとする。これにより、
図4Aの下部に示されるような、点溶接部13の硬さ分布を得る。そして、点溶接部13の中心より線溶接部14に近い側における硬さの最小値と、点溶接部13の中心より線溶接部14に遠い側における硬さの最大値とを特定し、両者の差を算出する。
【0055】
(線溶接部14の種類)
線溶接部14は、好ましくは、レーザ溶接部又はアーク溶接部である。レーザ溶接部は、小さい入熱量で製造することができるので、フランジ121及び平坦部111の熱ひずみを一層抑制することができる。アーク溶接部は、製造の際の入熱量が大きいので、点溶接部13の焼戻しを容易に実施することができる。重ね溶接継手1の形状、用途、及び材質等に応じて、線溶接部14の種類を適宜選択することができる。線溶接部14の数が2以上である場合、レーザ溶接部及びアーク溶接部の両方が線溶接部14として採用されてもよい。また、線溶接部が、レーザとアークのハイブリッド溶接やアーク溶接の一種であるプラズマ溶接、TIG溶接、又はMIGブレージングによって形成されたもの(プラズマ溶接部、TIG溶接部、又はMIGブレージング部)であってもよい。
【0056】
(点溶接部13の種類)
点溶接部13は、好ましくは、抵抗スポット溶接部又はレーザスクリュー溶接部である。スポット溶接部は、短時間で形成可能である。また、スポット溶接部は、フランジ121と平坦部111との間に隙間があっても容易に形成可能である。加えて、スポット溶接部を形成してから線溶接部14を形成する場合、フランジ121の端1211と平坦部111との隙間を閉じた状態で線溶接を行うことができるので、線溶接部14の形成が容易となる。従って、点溶接部13をスポット溶接部とした場合、重ね溶接継手1の製造が一層容易になる。一方、点溶接部13をレーザスクリュー溶接部とした場合、スポット溶接よりもさらに短時間で溶接部を形成可能である。また、スポット溶接と異なり分流が起きないため、溶接部間の間隔を小さくすることができる。また、円周状、C字状のレーザ溶接も点溶接部に含まれる。
【0057】
(線溶接部14と縦壁部122と間隔)
線溶接部14と縦壁部122との間隔は、例えば10.0mm以上とすることが好ましい。線溶接部14と縦壁部122との間隔が大きいほど、重ね溶接継手1の溶接部が圧壊時に破断し難くなる。線溶接部14と縦壁部122との間隔を、12.0mm以上、14.0mm以上、又は16.0mm以上としてもよい。一方、線溶接部14と縦壁部122との間隔が小さいほど、フランジ121の幅を小さくして、重ね溶接継手1の重量を削減することができる。従って、例えば線溶接部14と縦壁部122との間隔を40.0mm以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、線溶接部14と縦壁部122との間隔は35.0mm以下、30.0mm以下、又は25.0mm以下である。なお、線溶接部14と縦壁部122との間隔は、溶接前のフランジ121の幅と概ね等しい。
【0058】
(点溶接部13と縦壁部122との間隔)
点溶接部13の縦壁部の側の端と縦壁部122との間隔は、例えば10.0mm以下であることが好ましい。点溶接部13と縦壁部122との間隔が小さいほど、重ね溶接継手1の捩り剛性が高められる。さらに好ましくは、点溶接部13と縦壁部122との間隔は、9.0mm以下、7.0mm以下、又は5.0mm以下である。一方、点溶接部13の製造を容易にする観点からは、点溶接部13と縦壁部122との間隔が大きい方が好ましい。従って、点溶接部13と縦壁部122との間隔を、例えば2.0mm以上、3.0mm以上、又は4.0mm以上とすることが好ましい。
【0059】
(2.自動車骨格部品)
次に、本発明の第二実施形態に係る自動車骨格部品について説明する。第二実施形態に係る自動車骨格部品は、第一実施形態に係る重ね溶接継手1を備える。そのため、第二実施形態に係る自動車骨格部品は、自動車の衝突の際に溶接部が破断し難い。従って、第二実施形態に係る自動車骨格部品は、自動車の衝突安全性を高めることができる。また、第二実施形態に係る自動車骨格部品は、捩り剛性が高い。従って、第二実施形態に係る自動車骨格部品によれば、NVH(Noise,Vibration,Harshness)特性、及び自動車の走行時の安定性を高めることができる。加えて、第二実施形態に係る自動車骨格部品は、熱ひずみの影響が抑制されている。従って、第二実施形態に係る自動車骨格部品は、高い寸法精度を有する。
【0060】
自動車骨格部品とは、例えばバンパー、Aピラー、Bピラー、サイドシル、ルーフレール、フロアメンバー、フロントサイドメンバー、フロントサイドメンバーキック部、リアサイドメンバー、フロントサスタワー、トンネルリンフォース、ダッシュパネル、トルクボックス、シート骨格、シートレール、バッテリーケースのフレーム、及びこれらの結合部である。結合部とは、例えばBピラーとサイドシルとの結合部、Bピラーとルーフレールとの結合部、ルーフクロスメンバーとルーフレールとの結合部、サイドシルとAピラーとの結合部、ダッシュパネルとトンネルとの結合部、及びフロントサイドメンバーの付け根部等である。
【0061】
(3.重ね溶接継手1の製造方法)
次に、本発明の第三実施形態に係る重ね溶接継手1の製造方法について説明する。第三実施形態に係る重ね溶接継手1の製造方法は、平坦部111を有する第一の金属部材11と、フランジ121、及びフランジ121から立ち上がる縦壁部122を有する第二の金属部材12から重ね溶接継手1を製造する方法であって、第一の金属部材11の平坦部111と、第二の金属部材12のフランジ121とを重ねる工程と、第一の金属部材11の平坦部111、及び第二の金属部材12のフランジ121を複数回にわたって点溶接する工程と、第一の金属部材11の平坦部111、及び第二の金属部材12のフランジ121を線溶接する工程と、を備え、点溶接を、フランジ121の端1211と、縦壁部122との間において行い、線溶接を、フランジ121の端1211において行い、線溶接によって得られる線溶接部14の、フランジ121の端1211に沿った長さを、点溶接によって得られる点溶接部の直径D以上とする。
【0062】
まず、第一の金属部材11の平坦部111と、第二の金属部材12のフランジ121とを重ねる。次に、平坦部111及びフランジ121に、点溶接及び線溶接の両方を行う。点溶接は、フランジ121の端1211と、縦壁部122との間において行い、線溶接を、フランジ121の端1211において行う。これにより、フランジ121の端1211に設けられた線溶接部14と、線溶接部14と縦壁部122との間に並べられた複数の点溶接部13が得られる。
【0063】
線溶接及び点溶接においては、線溶接によって得られる線溶接部14の、フランジ121の端1211に沿った長さを、点溶接によって得られる点溶接部の直径D以上とする。点溶接部の直径Dは、点溶接の条件を介して任意に制御することができる。線溶接部14の長さは、溶接トーチの移動距離及びレーザ照射長さ等を介して任意に制御することができる。
【0064】
点溶接及び線溶接を行う順番は特に限定されないが、点溶接を先に行うことが好ましい。線溶接は、平坦部111とフランジ121との間の隙間(板隙)の影響を受けやすいが、点溶接は板隙の影響をあまり受けない。また、点溶接を行うことにより、板隙を減少させることができる。従って、点溶接を行ってから線溶接を行うことにより、線溶接の安定性を一層向上させることができる。
【0065】
点溶接は、例えばスポット溶接、及びレーザスクリュー溶接等である。線溶接の際の板隙を減少させる観点からは、スポット溶接が好ましい。線溶接は、例えばレーザ溶接、及びアーク溶接等である。熱ひずみを抑制する観点からは、入熱量が小さいレーザ溶接が好ましい。点溶接部13を焼戻して点溶接部13の靭性を向上させる観点からは、入熱量が大きいアーク溶接が好ましい。
【0066】
また、上述された第一実施形態に係る重ね溶接継手1の好ましい態様を、第三実施形態に係る重ね溶接継手1に適用することができる。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下に、本発明の変形例について説明する。なお、特に断りが無い限り、以下に説明される態様は、第一実施形態、第二実施形態、及び第三実施形態の全てに適用可能なものである。
【0068】
(金属部材の材料)
第一の金属部材11、及び第二の金属部材12の材質については、金属であれば限定されず、鋼、アルミなどを適用することができる。強度及び剛性の観点からは、第一の金属部材11及び第二の金属部材12の一方又は両方が鋼部材であることが好ましく、軽量性の観点からは、第一の金属部材11及び第二の金属部材12の一方又は両方がアルミ部材であることが好ましい。第一の金属部材11、及び第二の金属部材12は、例えば鋼板から構成される。第一の金属部材11、及び第二の金属部材12の一方又は両方が、引張強さが780MPa以上の鋼板から構成されることが望ましい。これにより、重ね溶接継手1、及び自動車骨格部品の強度及び剛性を一層高めることができる。なお、高強度鋼板の溶接部は脆化しやすい。しかしながら本実施形態に係る重ね溶接継手1、及び自動車骨格部品においては、線溶接部14の位置及び大きさを最適化することによって、耐破断特性が高められている。
【0069】
高強度鋼板の例として、DP鋼板、TRIP鋼板、複合組織鋼板、マルテンサイト鋼板、及びホットスタンプ鋼板等があげられる。鋼板の引張強さは、1100MPa以上とすることが好ましく、1700MPa以上とすることが最適である。鋼板は、冷延鋼板であっても、熱延鋼板であっても良い。
【0070】
鋼板は、めっき鋼板であっても、非めっき鋼板であってもよい。めっき鋼板が有するめっきの例として、GIめっき、GAめっき、Zn-Niめっき、Zn-Alめっき、Zn-Mgめっき、Zn-Mg-Alめっき等が挙げられる。第一の金属部材11、及び/又は第二の金属部材12を構成する鋼板が亜鉛系ホットスタンプ鋼板である場合、Fe-ZnもしくはFe-Zn-Niの固溶相の表層に亜鉛酸化物が含まれていても良い。鋼板がアルミ系ホットスタンプ鋼板である場合、Al-Fe-Si系の複数の金属間化合物層が形成されていても良く、さらに金属間化合物層の上にZnOや黒色被膜が形成されていても良い。鋼板が非めっきのホットスタンプ鋼板である場合、ホットスタンプ工程中のスケールを除去するために、鋼板の表面にショットブラスト処理がなされていることが好ましい。
【0071】
高強度鋼板の板厚について、特に制限はない。一般に、自動車骨格部品または車体で使用される鋼板の板厚は0.6~3.2mmである。この板厚を、第一の金属部材11及び/又は第二の金属部材12を構成する鋼板に適用してもよい。
【0072】
(フランジ121の形状)
溶接前の第二の金属部材12のフランジ121の幅は、破断抑制効果を一層高める観点から、8mm以上であることが好ましく、更に望ましくは10mm以上である、一方、重ね溶接継手1の軽量化の観点から、フランジ121の幅を40mm以下とすることが好ましく、より望ましくは30mm以下である。なお、溶接前のフランジ121の幅は、溶接後の線溶接部14と縦壁部122との間隔と概ね等しい。従って、上述したフランジ121の幅を、線溶接部14と縦壁部122との間隔に適用してもよい。
【0073】
(スポット溶接条件)
点溶接として行われるスポット溶接の条件は、特に限定されるものではないが、以下に好適な例を示す。スポット溶接用の電極の先端は、DR型で直径16mm程度、先端5mm~10mm、先端曲率12mm~300mmとすることができる。加圧力は250~700kgfとし、通電時間は0.2~1.0秒とし、通電電流は5~11kAとし、保持時間は0.02秒~1.0秒とすることができる。また、電流は、直流電流および交流電流のいずれであってもよい。電流波形は、単通電および2段以上の多段通電やアップスロープ、ダウンスロープを有する多段通電のいずれであってもよい。多段通電によりスポット溶接部の凝固偏析を緩和する偏析緩和後通電を行っても、スポット溶接部の硬化を抑制するテンパー通電を行っても良い。これによりスポット溶接部の継手強度向上や耐水素脆性の向上が得られる。
【0074】
(レーザスクリュー溶接条件)
点溶接として行われるレーザスクリュー溶接の条件も、特に限定されるものではないが、以下に好適な例を示す。溶接装置は、リモートレーザ溶接装置とすることが好ましい。発振器としてファイバーレーザもしくは半導体レーザを用いて、ビーム径を0.15mm~2.5mmとして、出力を2kW~20kWとして、複数の円周状に溶接することができる。このときの点溶接部13の形状は円状であっても、楕円状であってもよい。楕円状にすることで接合部の応力集中を軽減し継手強度向上や遅れ破壊リスク軽減につながる。点溶接部13が楕円の場合は、点溶接部13をフランジ端に投影した長さを、点溶接部13の直径と定義する。
【0075】
(線溶接部14の形状)
フランジ121の端1211に設けられる線溶接部14は、
図4A及び
図4Bに示されるような、フランジ121の端面と平坦部111の表面とを接合する重ねすみ肉溶接部としてもよい。一方、線溶接部14を、
図4Cに示されるような、フランジ121の端面と平坦部111の端面とを接合するへり溶接部としてもよい。いずれの場合であっても、線溶接部14を縦壁部122から離れた位置に配して、重ね溶接継手1の耐破断特性を向上させることができる。
【0076】
(レーザ溶接条件)
線溶接の手段の好ましい一例は、レーザ溶接である。レーザ溶接の条件は特に限定されないが、以下に好ましい例を示す。レーザ溶接は、リモートレーザ溶接装置を用いて行うことができる。リモートレーザ溶接装置は、ロボットアームの先端に取り付けたガルバノミラーにより、レーザ光を溶接打点の間を高速で移動させるものである。リモートレーザ溶接装置によれば、溶接の作業時間を大幅に短縮することが可能になる。CO2レーザ、YAGレーザ、ファイバーレーザ、DISKレーザ、または半導体レーザなどのレーザを、レーザ溶接の手段として用いることができる。レーザ溶接は、例えば、レーザ出力2~20kW、集光面のビーム径0.15~2.5mm、溶接速度0.1~20m/minの条件で行うことができる。レーザ溶接ではビームを揺動させるWobblingしてもよい。Wobblingにより、第一の金属部材及び第二の金属部材の隙間が大きい場合でも、両者を接合可能である。レーザ溶接時にフィラーワイヤを用いてもよい。鉄系のフィラーワイヤを用いることで、フランジ121と平坦部111との間に隙間があっても、線溶接が可能となる。また、Cu-AlやCu-Siなどの銅合金のフィラーワイヤを用いて、レーザろう付けを行ってもよい。ろう付け部は、溶接部の一種であるとみなされる。フィラーを用いた接触式トラッキングで溶接を行っても良い。クレータ割れや引け巣、穴あき等を防止するために、レーザ溶接の終端に対して、クレータ処理や終端を伸ばす捨てビード処理を行ってもよい。また、線溶接は、レーザアークハイブリッド溶接でもよい。レーザアークハイブリッド溶接は、金属板間の隙間が大きい場合でも両者を接合可能である。
【実施例0077】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0078】
(実施例1:両ハット部材の軸圧壊及び捩りのシミュレーション)
引張強さ1180MPa、及び板厚1.6mmの鋼板から構成されるハット部材のフランジを接合して得られる両ハット部材のモデルに関して、軸圧壊及び捩りのシミュレーションを実施した。シミュレーションに供したモデルの詳細な構成は表1の通りである。
【0079】
【0080】
軸圧壊のシミュレーションでは、
図5Aに示されるように、両ハット部材の両端から、両ハット部材の軸方向(Z軸方向)に沿って、両ハット部材に圧縮荷重を加えた。両ハット部材の変位と、変位を生じさせるために要した応力との関係のグラフを、
図5Bに示す。また、
図5Bのグラフを変位で積分する(積分区間は0~200mm)ことにより得られる値を、吸収エネルギーとして算出した。従来例である比較例2の吸収エネルギーを基準とした、各モデルの吸収エネルギーの比率を、表1に示す。
【0081】
捩りのシミュレーションでは、
図5Cに示されるように、両ハット部材の一端を固定し、他端に捩り応力を加えた。0.05radの捩りを生じさせるために必要なモーメントを、捩り剛性として算出した。従来例である比較例2の捩り剛性を基準とした、各モデルの捩り剛性の比率を、表1に示す。
【0082】
【0083】
点溶接部のみが設けられた比較例2に対し、点溶接部及び線溶接部の両方が設けられた発明例1は、軸圧壊時の吸収エネルギー、及び捩り剛性の両方で優れていた。
【0084】
(実施例2:片ハット部材の3点曲げ及び捩りのシミュレーション)
引張強さ1800MPa、及び板厚1.6mmのホットスタンプ鋼板から構成されるハット部材及び平板部材を接合して得られる片ハット部材のモデルに関して、静的3点曲げ及び捩りのシミュレーションを実施した。シミュレーションに供したモデルの詳細な構成は表3の通りである。
【0085】
【0086】
3点曲げのシミュレーションでは、
図6に示されるように、片ハット部材の両端を支持して、片ハット部材の中央部において平板に荷重を加え、最大荷重を測定した。従来例である比較例1の最大荷重を基準とした、各モデルの最大荷重の比率を、表4に示す。
【0087】
また、捩りのシミュレーションでは、片ハット部材の一端を固定し、他端に捩り応力を加えた。0.05radの捩りを生じさせるために必要なモーメントを、捩り剛性として算出した。従来例である比較例1の捩り剛性を基準とした、各モデルの捩り剛性の比率を、表4に示す。
【0088】
【0089】
比較例2は、比較例1と同じくフランジの中央にスポット溶接部を配し、さらに、縦壁部とスポット溶接部の間に線状のレーザ溶接部を配したものである。比較例2では、基準となる比較例よりも捩り剛性が高められていた。一方、最大荷重に関して、比較例2と比較例1はほぼ同じであった。比較例2に設けられた線状のレーザ溶接部は、衝突時に溶接部の破断を抑制する効果をほぼもたらさなかった。
【0090】
発明例3、及び発明例4は、比較例1と同じくフランジの中央にスポット溶接部を配し、さらに、フランジの端に線状のレーザ溶接部を配したものである。発明例3及び発明例4では、最大荷重及び捩り荷重の両方が高められていた。
【0091】
発明例5は、フランジの中央にレーザスクリュー溶接部を配し、さらに、フランジの端に線状のレーザ溶接部を配したものである。発明例5は、発明例3のスポット溶接部をレーザスクリュー溶接部に置き替えたものである。発明例5においても、最大荷重及び捩り荷重の両方が高められていた。
【0092】
発明例6は、フランジの中央からフランジの端に向かって4mm離れた場所にスポット溶接部を配し、さらに、フランジの端に線状のレーザ溶接部を配したものである。
発明例6は、発明例3のスポット溶接部を、フランジの端に向けて4mm近づけたものである。発明例6でも、最大荷重及び捩り荷重の両方が高められていた。なお、発明例6では、点溶接部の溶接金属の、線溶接部の側の硬さが、点溶接部の溶接金属の、線溶接部と反対側の硬さに比べて、30HV以上低かった。
【0093】
比較例7は、フランジの中央に線状のレーザ溶接部を配し、さらに、縦壁部とスポット溶接部の間に線状のレーザ溶接部を配したものである。比較例7は、発明例3のスポット溶接部を、線状のレーザ溶接部に置き替えたものである。比較例7の最大荷重は、発明例3よりも著しく劣り、また、基準となる比較例1よりも劣った。比較例7に設けられた2本の線状のレーザ溶接部は、衝突時に溶接部の破断を抑制する効果をもたらさなかった。比較例7においては、フランジの中央に設けられたレーザ溶接部が容易に破断した。これは、フランジの中央に設けられたレーザ溶接部のエッジ部に荷重が集中したからであると推定される。