(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103099
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池および全固体リチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240725BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240725BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240725BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240725BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/131
H01M10/0585
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007251
(22)【出願日】2023-01-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ガーネット型酸化物を用いた一体焼結電池の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA13
5G301CA16
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AK03
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】本発明は、酸化物系固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池であって、容量が大きく、電池特性に優れた全固体リチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、正極及び負極の間に固体電解質層が設けられ、固体電解質層が、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種と、を含む、全固体リチウムイオン二次電池に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極の間に固体電解質層が設けられ、
前記固体電解質層が、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種と、を含む、
全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
一体焼結型電池である、請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導性酸化物がガーネット型酸化物である、請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記リチウムイオン伝導性酸化物は少なくともO、Li、La及びZrを有する、請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記リチウムイオン伝導性酸化物は少なくともO、Li、La、Zr、Bi及びTaを有する、請求項4に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極が正極活物質を含み、前記正極活物質はNi系層状岩塩構造を含む、請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記固体電解質層におけるNiの含有量が、リチウムイオン伝導性酸化物のモル数に対して、0.01atm%以上である、請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記固体電解質層におけるNiの含有量が、リチウムイオン伝導性酸化物のモル数に対して、10atm%以下である、請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
正極、固体電解質層及び負極をこの順に有する全固体リチウムイオン二次電池の製造方法であって、
正極材料及び固体電解質材料を積層し焼結する工程を含み、
前記固体電解質材料が、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記焼結する工程における焼結温度が1000℃以下である、請求項9に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記リチウムイオン伝導性酸化物がガーネット型酸化物である、請求項9又は10に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項12】
前記リチウムイオン伝導性酸化物は少なくともO、Li、La及びZrを有する、請求項9又は10に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記正極が正極活物質を含み、前記正極活物質はNi系層状岩塩構造を含む、請求項9又は10に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池および全固体リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池は携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ・ビデオ、携帯用音楽プレイヤーを始め幅広い電子・電気機器に搭載されている。しかしながら、現在広く使用されているリチウムイオン二次電池においては、リチウムイオンが電解水を介して正極~負極間を行き来することで充放電が行われており、電解水には可燃性の有機溶媒が使用されているため、液漏れ等に対する安全性の確保が課題となっている。
【0003】
このため、正極と負極の間に固体電解質層が設けられた全固体リチウムイオン二次電池の開発が進められている。全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質としては、硫化物系固体電解質が広く用いられており、硫化物系固体電解質は、リチウムイオン伝導度が高く、電池の高出力化を図るうえで有用であると言われてきた。しかしながら、硫化物系固体電解質は、大気暴露時にH2Sを発生させるため、その安全性に課題がある。このため、近年は、固体電解質層に酸化物系固体電解質を用いることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、正極及び負極の間に固体電解質層が設けられ、正極、負極及び固体電解質層の少なくとも1つが、活物質粒子及び/又は固体電解質粒子を含むリチウム二次電池であって、正極、負極及び固体電解質層の少なくとも1つにおいて、活物質粒子及び/又は固体電解質粒子の間に、Li含有酸化物からなるLi伝導性結着材が充填され、さらにLi伝導性結着材に酸化物ナノ粒子が分散されている、リチウム二次電池が開示されている。また、特許文献2には、層状岩塩型構造を有する正極活物質を含むセラミックス焼結体からなる板状正極と、リチウムイオン伝導性を有するセラミックスからなる固体電解質と、板状正極及び固体電解質の間に介在し、所定構造を有するリチウムイオン伝導性複合酸化物からなる界面層と、を備えたセラミック正極-固体電解質複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/128982号
【特許文献2】特開2014-96350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化物系固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池は、可燃性の電解液を用いるリチウムイオン二次電池や硫化物系固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池に比べて安全性が高いが、容量が小さいといった問題があり、電池特性の改善が求められている。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、酸化物系固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池であって、容量が大きく、電池特性に優れた全固体リチウムイオン二次電池を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
【0009】
[1] 正極及び負極の間に固体電解質層が設けられ、
固体電解質層が、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種と、を含む、
全固体リチウムイオン二次電池。
[2] 一体焼結型電池である、[1]に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
[3] リチウムイオン伝導性酸化物がガーネット型酸化物である、[1]又は[2]に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
[4] リチウムイオン伝導性酸化物は少なくともO、Li、La及びZrを有する、[1]~[3]のいずれかに記載の全固体リチウムイオン二次電池。
[5] リチウムイオン伝導性酸化物は少なくともO、Li、La、Zr、Bi及びTaを有する、[1]~[4]のいずれかに記載の全固体リチウムイオン二次電池。
[6] 正極が正極活物質を含み、正極活物質はNi系層状岩塩構造を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の全固体リチウムイオン二次電池。
[7] 固体電解質層におけるNiの含有量が、リチウムイオン伝導性酸化物のモル数に対して、0.01atm%以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の全固体リチウムイオン二次電池。
[8] 固体電解質層におけるNiの含有量が、リチウムイオン伝導性酸化物のモル数に対して、10atm%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の全固体リチウムイオン二次電池。
[9] 正極、固体電解質層及び負極をこの順に有する全固体リチウムイオン二次電池の製造方法であって、
正極材料及び固体電解質材料を積層し焼結する工程を含み、
固体電解質材料が、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
[10] 焼結する工程における焼結温度が1000℃以下である、[9]に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
[11] リチウムイオン伝導性酸化物がガーネット型酸化物である、[9]又は[10]に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
[12] リチウムイオン伝導性酸化物は少なくともO、Li、La及びZrを有する、[9]~[11]のいずれかに記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
[13] 正極が正極活物質を含み、正極活物質はNi系層状岩塩構造を含む、[9]~[12]のいずれかに記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化物系固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池であって、容量が大きく、電池特性に優れた全固体リチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、焼結前後における全固体リチウムイオン二次電池の構成を説明する断面図である。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例における固体電解質の断面を走査型電子顕微鏡で観察した顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例で得られた固体電解質層のXRDパターンを重ね合わせ、2θを10~60(degree)としたXRDパターンである。
【
図4】
図4は、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池の充放電容量(Capacity)と電池電圧(Voltage)の関係を示した充電曲線および放電曲線である。
【
図5】
図5は、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池の充放電容量(Capacity)と電池電圧(Voltage)の関係を示した充電曲線および放電曲線である。
【
図6】
図6は、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池の充放電容量(Capacity)と電池電圧(Voltage)の関係を示した充電曲線および放電曲線である。
【
図7】
図7は、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池の充放電容量(Capacity)と電池電圧(Voltage)の関係を示した充電曲線および放電曲線である。
【
図8】
図8は、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池の充放電容量(Capacity)と電池電圧(Voltage)の関係を示した充電曲線および放電曲線である。
【
図9】
図9は、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池のイオン伝導率の測定結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例で得られた固体電解質にAg緩衝層を形成後、Li金属を熱圧着した対称セルについて、各電流密度でLi溶解析出試験をした際のセル電圧と時間の関係図である。
【
図11】
図11は、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池の充電電圧を変化させた場合の充放電容量(Capacity)と電池電圧(Voltage)の関係を示した充電曲線および放電曲線である。
【
図13】
図13は、例8および例9で得られた電池の25℃0.05Cにおける充電曲線および放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(全固体リチウムイオン二次電池)
本発明は、正極、固体電解質層及び負極を有する全固体リチウムイオン二次電池であって、酸化物系固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池に関する。本実施形態は、正極及び負極の間に固体電解質層が設けられ、固体電解質層が、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種と、を含む、全固体リチウムイオン二次電池である。
図1に示されるように、全固体リチウムイオン二次電池10は、正極2、固体電解質6及び負極4をこの順で備える。なお、全固体リチウムイオン二次電池10は、正極2上に正極集電体が積層されていてもよく、負極4上に負極集電体が積層されていてもよい。さらに、全固体リチウムイオン二次電池10は、電池ケースに収容されていてもよい。
【0014】
本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池は焼結体である。中でも、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池においては、固体電解質層および正極(ならびに負極)を一体焼結によるプロセスで形成することが好ましく、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池は、一体焼結型電池であることが好ましい。例えば、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池は
図1に示されるように、正極材料12と、固体電解質材料16と、負極材料14をこの順に積層し、焼結(一体焼結)することで製造される。焼結により、多少の収縮が生じ、正極2、固体電解質6及び負極4をこの順で備える全固体リチウムイオン二次電池10が得られる。なお、本明細書においては、一体焼結型電池には、少なくとも正極と固体電解質層が一体焼結され、負極は別途積層される態様も含まれる。すなわち、一体焼結型電池とは、正極と固体電解質層が一体焼結されることで形成される電池であり、好ましくは、正極と固体電解質層と負極が一体焼結されることで形成される電池である。
【0015】
本実施形態は、上記構成を有するため、従来の酸化物系固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池に比べて、その焼結性が飛躍的に改善しており、その結果、優れた電池特性を備えている。例えば、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池においては、容量が増大している。また、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池は、優れたリチウムイオン伝導性を発揮することもできる。さらに、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池は、サイクル安定性にも優れている。加えて、本実施形態においては、一体焼結温度を例えば900~950℃程度にまで下げることができ、正極活物質の反応が抑制され、電池特性に優れた全固体リチウムイオン二次電池が得られやすくなっている。
【0016】
従来、酸化物系固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池においては、正極や酸化物系固体電解質層にNiを存在させると電池特性を低下させると考えられており、正極からNiの拡散を抑制することや、そもそも、正極や固体電解質層を構成する材料にNiを用いないよう検討がなされていた。しかしながら、本実施形態においては、敢えて固体電解質層にNiO及びNiから選択される少なくとも1種を包含させることにより、焼結性を飛躍的に改善し、優れた電池特性を発揮することに成功した。これは、固体電解質層に含まれるNiO及び/又はNiがリチウムイオン伝導性酸化物中の元素の少なくとも1種を還元することで、リチウムイオン伝導性酸化物粒子表面が分解することで、液相を生成することで焼結を進行させるためであると考えられる。例えば、固体電解質層がリチウムイオン伝導性酸化物として、LLZTB(Li6La3ZrTa1-xBixO12)を主成分として含む場合、LLZTB中のBi5+を還元し、Bi3+とすることでリチウムイオン伝導性酸化物表面が分解し、LiBi酸化物が生成することで、液相を生成し、焼結が進行するものと考えられる。そして、焼結性が改善された結果、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池は優れた電池特性を発揮できるものと考えられる。また、固体電解質層に含まれるNiO及び/又はNiは、Ni2+あるいはNi3+として、LLZTBのLiサイトに置換固溶し、焼結性を改善する可能性も考えられる。
【0017】
本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池を製造する工程においては、正極及び/又は固体電解質層を構成する材料にNiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む材料を用いればよい。すなわち、本実施形態では全固体リチウムイオン二次電池を製造する工程において、正極を構成する材料にのみNiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む材料を用いてもよい。この場合、焼結後に正極からNiO及びNiから選択される少なくとも1種が拡散する。また、本実施形態においては、固体電解質層を構成する材料にのみNiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む材料を用いてもよい。このように本実施形態では、正極もしくは固体電解質層を構成する材料にNiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む材料を用いてもよいが、固体電解質層を構成する材料にNiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む材料を用いることが好ましく、正極及び固体電解質層を構成する材料にそれぞれNiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む材料を用いることが特に好ましい。固体電解質層を構成する材料にNiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む材料を用いることで、正極からのNiO及び/又はNiの拡散を抑制することができるため、容量の低下をより効果的に抑制することができる。
【0018】
<固体電解質層>
本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池は、正極及び負極の間に固体電解質層を有する。固体電解質層は、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種と、を含む。
【0019】
本実施形態において、リチウムイオン伝導性酸化物はガーネット型酸化物であることが好ましい。リチウムを伝導するガーネット型の酸化物の好ましい態様については、特開2015-041573号公報の[0017]に記載の母材を例示することができる。
【0020】
リチウムイオン伝導性酸化物は少なくともO、Li、La及びZrを有することが好ましい。少なくともO、Li、La及びZrを有するリチウムイオン伝導性酸化物としては、Li-La-Zr系材料を挙げることができ、LLZ(Li7La3Zr2O12)、LLZTB(Li6La3ZrTa1-xBixO12(xは0を超え1未満である))、Li3.957Sr1.957La0.043ZrO6等を挙げることができる。中でも、リチウムイオン伝導性酸化物は少なくともO、Li、La、Zr、Bi及びTaを有することが好ましく、LLZTB(Li6La3ZrTa1-xBixO12)であることが好ましい。なお、上記基本組成は、製造工程における組成ズレを許容する意味であり、化学量論組成ともいう。基本組成からの組成ズレは、各元素について20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
【0021】
固体電解質層はNiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む。NiO及び/又はNiは正極から拡散してきたものであってもよく、この場合、正極活物質は、少なくともLi、Ni及びOを含む化合物を含むことが好ましい。なお、正極活物質としては、例えば、Li(1-n)Ni(1-m)O2、Li(1-n)Ni(1-m)Co(1-q)O2、Li(1-n)Ni(1-m)Mn(1-p)Co(1-q)O2(0≦n<1、0≦m<1、0≦p<1、0≦q<1)等を挙げることができる。また、NiO及び/又はNiは、固体電解質層を形成するための材料に添加された物質に由来するものであってもよい。この場合、Li、Ni及びOを含む化合物が固体電解質層を形成するための材料として添加されることが好ましい。このような化合物としては、例えば、Li(1-n)Ni(1-m)O(1-x)(0≦n<1、0≦m<1、0≦x<1)、Li(1-n)Ni(1-m)O2、Li(1-n)Ni(1-m)Co(1-q)O2、Li(1-n)Ni(1-m)Mn(1-p)Co(1-q)O2(0≦n<1、0≦m<1、0≦p<1、0≦q<1)等を挙げることができる。
【0022】
本実施形態における好ましい態様では、固体電解質層がLi0.2Ni0.8O(1-x)(xは0を超え1未満である)を含む。また、本実施形態のより好ましい態様では、正極が、正極活物質として、Li(1-n)Ni(1-m)O2、Li(1-n)Ni(1-m)Co(1-q)O2及びLi(1-n)Ni(1-m)Mn(1-p)Co(1-q)O2(0≦m<1、0≦p<1、0≦q<1)よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、かつ、固体電解質層がLi(1-n)Ni(1-m)O(1-x)(0≦n<1、0≦m<1、0≦x<1)を含む。
【0023】
固体電解質層におけるNiの含有量は固体電解質層に含まれるリチウムイオン伝導性酸化物のモル数に対して、0.01atm%以上であることが好ましく、0.025atm%以上であることがより好ましく、0.05atm%以上であることがさらに好ましく、0.1atm%以上であることが特に好ましい。また、固体電解質層におけるNiの含有量は、固体電解質層に含まれるリチウムイオン伝導性酸化物のモル数に対して、10atm%以下であることが好ましく、8atm%以下であることがより好ましく、6atm%以下であることがさらに好ましく、4atm%以下であることが特に好ましい。固体電解質層におけるNiの含有量を上記下限値以上とすることにより、固体電解質層の焼結性をより効果的に改善することができ、容量を増大させることができる。また、固体電解質層におけるNiの含有量を上記上限値以下とすることにより、焼結時にNiOが析出して電池が短絡することを抑制することができる。
【0024】
固体電解質層におけるNiの含有量はチウムイオン伝導性酸化物の全モル数に対するNiのatm数を算出することで求めることができる。
Niの含有量(atm%)=Ni元素数/リチウムイオン伝導性酸化物の全モル数×100
Ni元素数の測定は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて走査型電子顕微鏡により行うことができる。Niを含まない固体電解質では、検出下限以下となるが、Niを含む試料においては、上記式でNiの含有量を算出することができる。なお、リチウムイオン伝導性酸化物の全モル数は、Li以外の構成元素より推定することができる。
【0025】
固体電解質層は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、バインダー樹脂等が挙げられる。この場合、任意成分の含有量は、固体電解質の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
固体電解質層の密度は、5.0g/cm3以上であることが好ましく、5.2g/cm3以上であることがより好ましく、5.3g/cm3以上であることが特に好ましい。また、固体電解質の密度の上限値は特に限定されるものではないが、理想密度以下であることが好ましい。焼結後の固体電解質層の相対密度はより高い方が好ましく、例えば、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0027】
固体電解質層の電気伝導度(リチウムイオン伝導率)は、1.0×10-4S/cm以上であることが好ましく、1.5×10-4S/cm以上であることがより好ましく、3.0×10-4S/cm以上であることがさらに好ましい。固体電解質層の電気伝導度(リチウムイオン伝導率)の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、1.0×10-3S/cmとすることができる。
【0028】
固体電解質層の厚みは1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、固体電解質層の厚みは、1mm以下であることが好ましい。固体電解質層の厚みを上記範囲内とすることにより、電気伝導度(リチウムイオン伝導率)を効果的に高めることができる。
【0029】
<正極>
正極活物質としては、リチウムを吸蔵・放出できる化合物が好ましい。例えば、複合酸化物やリン酸化合物などを含む、リチウムと遷移金属とを含む複合化合物などが挙げられる。リチウムと遷移金属とを含むリチウム複合化合物としてもよく、Fe、Co、Ni及びMnの少なくとも1以上を含むリチウム複合化合物としてもよい。複合化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物や、リチウムと遷移金属とを含むリン酸化合物などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、Li(1-n)MnO2、Li(1-n)Mn2O4、Li(1-n)CoO2、Li(1-n)Ni(1-m)O2、Li(1-n)MnCoO2、Li(1-n)Ni(1-m)Co(1-q)O2、Li(1-n)Ni(1-m)Mn(1-p)Co(1-q)O2(0≦n<1、0≦m<1、0≦p<1、0≦q<1)などが挙げられる。また、リン酸化合物としては、LiFePO4などが挙げられる。これらの中でも、正極活物質は、Ni系層状岩塩構造を含むことが好ましく、Ni系層状岩塩構造を有する正極活物質としてLi(1-n)Ni(1-m)O2、Li(1-n)Ni(1-m)Co(1-q)O2及びLi(1-n)Ni(1-m)Mn(1-p)Co(1-q)O2(0≦n<1、0≦m<1、0≦p<1、0≦q<1)よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。なお、上記正極活物質において、0≦m<0.6であることが特に好ましい。
【0030】
正極活物質として、Li(1-n)Ni(1-m)O2、Li(1-n)Ni(1-m)Co(1-q)O2及びLi(1-n)Ni(1-m)Mn(1-p)Co(1-q)O2(0≦n<1、0≦m<1、0≦p<1、0≦q<1)よりなる群から選択される少なくとも1種を用いた場合、焼結後の正極活物質組成のNi含有率は、焼結前の正極活物質組成に近い数値であることが好ましく、60%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
焼結後の正極活物質組成のNi含有率は、焼結後の活物質中のNi残存率であり、以下の式で算出することができる。
活物質中のNiとそれ以外の比率は、n:1-nで表され、そのうちx%のNiが活物質中に残存すると、n×x/100:1-n=(焼結後のNiの組成比):(焼結後のMn+Coの組成比)となる。
Ni含有率(x)(%)=(1-n)×(焼結後のNiの組成比)×100/n/(焼結後のMn+Coの組成比)
【0031】
正極は複合正極であることも好ましい。この場合、上述した正極活物質と固体電解質材料であるリチウムイオン伝導性酸化物を含む複合正極が形成される。なお、複合正極においては、正極活物質と固体電解質材料が略均一に混合された正極層が形成されてもよく、正極活物質と固体電解質材料が略均一に混合された層に、正極活物質を主成分として含む層が積層された構成であってもよい。
【0032】
正極におけるNiの含有量は正極に含まれる固体電解質のモル数に対して、0.01atm%以上であることが好ましく、0.025atm%以上であることがより好ましく、0.05atm%以上であることがさらに好ましく、0.1atm%以上であることが特に好ましい。また、正極におけるNiの含有量は、正極に含まれる固体電解質のモル数に対して、10atm%以下であることが好ましく、8atm%以下であることがより好ましく、6atm%以下であることがさらに好ましく、4atm%以下であることが特に好ましい。正極におけるNiの含有量を上記下限値以上とすることにより、固体電解質層の焼結性をより効果的に改善することができ、容量を増大させることができる。また、正極におけるNiの含有量を上記上限値以下とすることにより、焼結時にNiOが析出して電池が短絡することを抑制することができる。
【0033】
正極は上述した活物質の他に任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、導電助剤、ガラス等が挙げられる。この場合、任意成分の含有量は、正極の全体積に対して、20体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましい。
【0034】
<負極>
負極活物質としては、リチウムを吸蔵・放出できる化合物を挙げることができる。例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウムとスズ、アルミニウム、アンチモン等の金属との合金等)、スズ化合物などの無機化合物、炭素材料、シリコン系材料(SiやSiO)、導電性ポリマーなどが挙げられる。
【0035】
負極は上述した活物質の他に任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、バインダー樹脂、負極導電剤、固体電解質粒子等が挙げられる。この場合、任意成分の含有量は、負極の全体積に対して、10体積%以下であることが好ましく、1体積%以下であることがより好ましい。
【0036】
負極は複合負極であることも好ましい。この場合、上述した負極活物質と固体電解質材料であるリチウムイオン伝導性酸化物を含む複合負極が形成される。なお、複合負極においては、負極活物質と固体電解質材料が略均一に混合された負極層が形成されてもよく、負極活物質と固体電解質材料が略均一に混合された層に、負極活物質を主成分として含む層が積層された構成であってもよい。
【0037】
<正極集電体>
全固体リチウムイオン二次電池は、正極の上に正極集電体を有していてもよい。正極集電体は、正極に電気的に接続される。正極集電体の構成材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、チタン等を挙げることができる。また、正極集電体の形態は、金属板、金属箔、発泡金属板、エキスパンドメタル等を挙げることができる。
ることができる。
【0038】
<負極集電体>
全固体リチウムイオン二次電池は、負極の上に負極集電体を有していてもよい。負極集電体は、負極に電気的に接続される。負極集電体の構成材料としては、例えば、銅、ステンレス、チタン、ニッケルができる。また、負極集電体の形態は、金属板、金属箔、発泡金属板、エキスパンドメタル等を挙げることができる。
【0039】
<電池ケース>
電池ケースは、上述した、正極集電体、正極、固体電解質層、負極、負極集電体の積層体を収容する。電池ケースの形状は特に限定されるものではなく、各種用途に応じて適宜選択できる。電池ケースの形状としては、円筒形、偏平長円形状、扁平楕円形状、角形等の形状を例示できる。電池ケースの構成材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、各種樹脂等を挙げることができる。
【0040】
(全固体リチウムイオン二次電池の製造方法)
本実施形態は、正極、固体電解質層及び負極をこの順に有する全固体リチウムイオン二次電池の製造方法であって、正極材料及び固体電解質材料を積層し焼結する工程を含む全固体リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。ここで、固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む。本実施形態の製造方法では、少なくとも、正極材料と固体電解質材料は積層された状態で一体焼結される。すなわち、正極と固体電解質層は、一体焼結体である。
【0041】
本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法では、負極をさらに積層する工程を有していてもよい。この場合、例えば、負極活物質と固体電解質材料を混合した負極層を固体電解質層に積層してもよい。また、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法は、正極材料、固体電解質材料及び負極材料をこの順で積層し焼結する工程を含んでいてもよい。この場合、正極、固体電解質層及び負極は、一体焼結体である。
【0042】
焼結する工程における焼結温度は、700℃以上であることが好ましく、750℃以上であることがより好ましい。また、焼結温度は、1200℃以下であることが好ましく、1100℃以下であることがより好ましく、1000℃以下であることがさらに好ましく、960℃以下であることが特に好ましい。固体電解質層がリチウムイオン伝導性酸化物を含む場合、層を緻密化をするための焼結温度が一般的に高い傾向があるが、本実施形態においては、焼結温度を比較的低く抑えることができる。焼結温度を上記上限値以下とすることにより、正極活物質の反応が抑制された全固体リチウムイオン二次電池が得られやすくなり、固体電解質と正極の活物質との間に反応相が形成されることを抑制することができる。
【0043】
焼結する工程は、空気中またはO2雰囲気下で行われることが好ましく、O2雰囲気下で行われることが特に好ましい。焼結工程をO2雰囲気下で行うことにより、固体電解質と正極の活物質との間に反応相が形成されることをより効果的に抑制することができる。
【0044】
本実施形態においては、焼結温度を上記範囲のように低く抑えた場合であっても、焼結性に優れている。焼結性の評価では、焼結後の寸法、重量から嵩密度を算出し、理論密度に対する相対密度を算出し、90%以上であれば、焼結性が良好と判定できる。また、理論密度に対する相対密度は好ましくは95%以上である。また、焼結性は気孔率(理想密度-相対密度)によっても評価することができる。
【0045】
固体電解質材料を調製する方法は特に限定されるものではないが、リチウムイオン伝導性酸化物と、NiO及びNiから選択される少なくとも1種を含む粒子を混合する工程を設けることが好ましい。混合方法としては、例えば、ボールミル、遊星ボールミルを用いる方法などが挙げられる。混合工程では、リチウムイオン伝導性酸化物の結晶粒の一部を非晶質化してもよい。結晶粒の一部を非晶質化することで、粒界抵抗を低減することができ、これによりイオン伝導性を効果的に高めることができる。また、有機物や水分の影響を除去するため、600℃以下で焼成してもよい。
【0046】
正極材料を調製する方法は特に限定されるものではないが、複合正極を形成する場合には、上述した正極活物質と固体電解質材料を混合する工程を設けることが好ましい。混合方法としては、例えば、ボールミル、遊星ボールミルを用いる方法などが挙げられる。
【0047】
負極材料を調製する方法は特に限定されるものではないが、上述した活物質と必要に応じて任意成分を混合する工程を設けることが好ましい。混合方法としては、例えば、ボールミル、遊星ボールミルを用いる方法などが挙げられる。
【0048】
負極を一体焼結ではなく、別途固体電解質層に積層する場合には、上記で調製した負極材料をドクターブレード法、ディッピング法、又はスプレー法等によって負極集電体へ付着させた後、溶媒を乾燥させ、加圧成形することにより、負極を作製することができる。負極を形成する工程では、塗布から乾燥までを複数回行ってもよい。
【実施例0049】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0050】
(例1)
<固体電解質材料の調製>
LiOH・(H2O)、La(OH)3、Bi2O3、ZrO2およびTa2O5を6.63:2.97:0.1:1.5:0.15(モル比)で配合した原料組成物を、遊星型ボールミルで450rpm、15時間混合した。なお、この原料比率は、Li:La:Bi:Zr:Ta=6.63:2.97:0.2:1.5:0.3(モル比)の化学量論組成(Li6.5La3Zr1.5Ta0.3Bi0.2O12)からLiを2%過剰、Laを1%不足した組成に相当する。このようにして、Bi置換LLZT粉末を得た。得られた粉末は、遊星型ボールミルを用いて再度450rpm、30時間粉砕した。
得られたBi置換LLZT粉末にLi0.2Ni0.8O1-Xを添加し、混合した。この際、Bi置換LLZTに対し、Li0.2Ni0.8O1-Xに含まれるNiの含有量が0.075wt%となるように添加した。そして、ボールミルで650rpm、15時間混合した。このようにして、Ni含有固体電解質材料を作製した。
【0051】
<正極材料の調製>
固体電解質の作製で得られたNi未添加固体電解質材料(Bi置換LLZT粉末)と、活物質としてLiNi0.5Co0.5O2とを、ボールミルで650rpm、15時間混合し、複合正極材料とした。得られた複合正極材料(混合粉末)をイソプロパノール中に1~10wt%となるように分散し、10分間超音波処理をし、正極用スラリーを作製した。
【0052】
<一体焼結>
Ni含有固体電解質材料を一軸加圧成形を用いて直径10mmのディスクとした後、正極用スラリーを50μLコートした。乾燥後、裏面にも同様に正極用スラリーをコートした。目的とする正極層厚みになるように乾燥後、正極用スラリーのコートを繰り返した。その後、冷間等方圧プレスを用いて成形後、酸素気流下で915~955℃で5~15時間焼結した。ここで両面に正極層をコートするのは、焼結時の収縮に伴う応力を緩和するためである。
【0053】
得られた焼結体の、片面を研磨紙で研磨することで、片面の正極層を取り除いた。さらに、ディスク側面に存在するBi由来の析出物も同様に研磨紙で除去した。次いで、水、アルコール、水酸化リチウム溶液を用いて焼結体を洗浄した。その後、正極面には、DCスパッタ法を用いて厚さ1μmのAg電極を集電体として形成した。研磨した負極面には、同様のAg緩衝層を厚さ2μmとなるように形成した。Ag電極とAg緩衝層を形成した焼結体をAr循環グローブボックスに搬送し、直径5mmのリチウム箔を負極Ag緩衝層上に圧着し、ホットプレート上で200℃1~30分加熱し、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0054】
(例2)
例1の<正極材料の調製>において、活物質としてLiNi0.6Mn0.2Co0.2O2を用い、焼結温度を945℃に変更した以外は、例1と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0055】
(例3)
例1の<固体電解質材料の調製>において、Li0.2Ni0.8O1-Xを添加せず固体電解質材料を作製した以外、例1と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0056】
(例4)
例2<固体電解質材料の調製>において、Li0.2Ni0.8O1-Xを添加せず固体電解質材料を作製した以外は、例2と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0057】
(例5)
例1の<固体電解質材料の調製>において、Li0.2Ni0.8O1-Xを添加せず固体電解質材料を作製し、<正極材料の調製>において、固体電解質材料と活物質としてLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2を混合した以外は、例1と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0058】
(例6)
例1の<固体電解質材料の調製>において、Li0.2Ni0.8O1-Xを添加せず固体電解質材料を作製し、<正極材料の調製>において、正極を形成することなく、例1と同様にして焼結体を作製した。
【0059】
(例7)
例1の<正極材料の調製>において、正極を形成することなく、例1と同様にして焼結体を作製した。
【0060】
(例8)
例3の<一体焼結>の後工程において、負極にLiを貼り付けることなくAgを負極とした以外は、例3と同様にして電池を作製した。
【0061】
(例9)
例8の<正極材料の調製>において、正極材料としてNiを含まないLiCoO2を用いた以外は、例8と同様にして電池を作製した。
【0062】
(評価)
<SEM-EDSより求めた一体焼結後の活物質組成分析>
得られた焼結体の断面試料を研磨により作製し、JCM-7000 NeoScope卓上走査電子顕微鏡により、点分析法を用いて組成分析を実施した。
【0063】
<焼結性評価>
得られた焼結体の断面を研磨により作製し、JCM-7000 NeoScope卓上走査電子顕微鏡により、二次電子像を撮影した。
図2(a)の写真は955℃で固体電解質のみを焼結した後の例6の固体電解質の様子を示しており、
図2(b)の写真は955℃で焼結したNiを添加した例7の固体電解質の様子を示している。
図2(a)では多数のポアが残留しており、焼結が十分に進行しておらず、抵抗値の測定ができなかった。一方で、
図2(b)では、ポアが完全に消失しており、焼結が進行しており、抵抗値等の測定を行うことができた。したがって、Niを添加することでLLZTBの焼結が促進されることがわかった。
【0064】
<エネルギーX線回折(XRD)分析>
例4及び例5で得られた全固体リチウムイオン二次電池の正極表面について装置名Miniflex-600(RIGAKU社製)を用いてX線回折(XRD)分析を行った。得られたXRDパターンを重ね合わせ、2θを10~60(degree)としたXRDパターンを示した(
図3)。
図3に示されるように、固体電解質と正極の活物質との間に反応相が形成されていないことが確認された。
【0065】
<電池容量の評価>
充放電試験は、北斗電工社製SD8を用いて、定電流法を用いて行った。恒温槽内で電池を25℃に保持し、2Cあるいは0.1C相当の電流密度で充放電した。
図4には例1で得られた全固体リチウムイオン二次電池の2Cにおける充放電曲線を示す。
図4に示されるように、2Cというハイレートにおいても、約120mAh/gの充放電容量が得られることがわかった。
図5及び6には例4及び例5で得られた全固体リチウムイオン二次電池の0.2Cにおける充放電曲線を示す。この場合もそれぞれ約120mAh/g、約86mAh/gの充放電容量が得られることがわかった。
図7及び8には、例1と例3及び例2と例4で得られた全固体リチウムイオン二次電池の0.2Cにおける充放電曲線をそれぞれ示す。
図7は正極活物質としてLiNi
0.5Co
0.5O
2、
図8はLiNi
0.6Mn
0.2Co
0.2O
2について、固体電解質へのLi
0.2Ni
0.8O
1-xの添加効果を比較するものである。いずれの場合も、Li
0.2Ni
0.8O
1-xを添加した例1及び例2が、添加していない例3及び例4に比べて大きな容量を示すことがわかった。例3及び例4では、焼結によってNiがLLZTB中に拡散することで正味の正極活物質量が減少しているため、容量が小さくなると考えられる。一方、例1及び例2では、Li
0.2Ni
0.8O
1-xを添加し、Niの拡散を抑制することで活物質量の減少を抑制できたため、容量が増大したものと考えられる。
【0066】
【0067】
<Liイオン伝導性の評価1>
例1における一体焼結後の焼結体の両面を研磨することで、正極部分を完全に除去した。その後、洗浄し、両面にAg膜をDCスパッタ法により形成したあと、Ar循環グローブボックスに搬送した。直径5mmのLi箔を両面に圧着後、ホットプレート上で200℃で30分加熱したあと、イオン伝導率用治具にセットした。Liイオン伝導率の測定は、ACインピーダンス法を用いた。Viologic社製VSPを用いて、開回路における交流インピーダンスを測定した。振幅は10mVとし、7MHz~0.1Hzの範囲で測定した。測定は、恒温槽内、25℃で実施した。
図9は得られたLi対称セルの25℃におけるナイキスト線図である。
図9に示されるように、バルク抵抗、粒界抵抗、電極界面抵抗に帰属される円弧成分が確認された。バルク抵抗と粒界抵抗から算出される全Liイオン伝導率は、5×10
-4S/cmと見積もられた。
【0068】
<Liイオン伝導性の評価2>
Li対称セルに直流電流を印加することで、Liの溶解析出挙動を調べた。交流インピーダンスに用いたLi対称セルにViologic社製VSPを用いて、±0.35、0.70、1.10mA/cm
2の電流を印加し、その時のセル電圧の変動を調べた。
図10はLi対称セルの直流電流印可試験結果を示す。各電流値において、短絡することなく安定した電圧が確認され、固体電解質が耐Li還元耐性に優れることが確認された。
【0069】
<サイクル特性評価>
図11は、充電上限電圧を3.75V、3.85V、4.20Vとした場合の例1で得られた全固体リチウムイオン二次電池の25℃における充放電曲線を示している。また、
図12には、上限電圧3.85V及び4.20Vとした場合の、充放電容量のサイクル数依存を示している。
図11及び
図12からわかるように上限電圧を3.85V以下とすることで安定したサイクルが可能となった。
この原因は以下の3つが考えられる。
(1)3.85V以上の電位で正極活物質の体積変化が大きくなるため、物理的に界面が破壊される。
(2)高電位において活物質の構造変化がおこり抵抗が高くなった結果、正極内に反応分布が生じ、過充電領域が形成され更なる高抵抗相が形成された。
(3)固体電解質そのものが高電位で徐々に酸化分解し、高抵抗化した。
【0070】
<Niの有無が充放電特性に与える影響>
図13には、例8および例9で得られた電池の25℃0.05Cにおける充放電曲線を示す。LiNi
0.5Co
0.5O
2からのNi拡散により固体電解質層にNiを含有する例8では、初回放電容量が65.6mAh/gであったのに対し、固体電解質層にNiを含まないLiCoO
2を用いた例9では放電容量が16.8mAh/gにまで低下した。これは、充放電に伴う活物質の体積変化の影響も考慮する必要があるが、Ni拡散による固体電解質の焼結性改善の効果と考えられる。例8では、相対密度が96.8%であったが、例9では82.2%とNiを含有の有無により明らかに焼結性に違いがみられた。加えてセパレーターのイオン伝導率が例8では5.6×10
-4S/cmであったのに対し、例9では1.6×10
-4S/cmと1/3.5まで減少していた。したがって、Ni含有正極から固体電解質層中にNiが拡散することで、焼結性が改善し、電池性能が向上したものと考えられる。
【0071】
以上の結果からわかるように、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池は、焼結性が良好であり、電池容量が増大していた。また、実施例で得られた全固体リチウムイオン二次電池においては、高いリチウムイオン伝導率が達成されており、安定的なサイクル特性が得られることも確認された。