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特開2024-103101リチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法
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  • 特開-リチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法 図1
  • 特開-リチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103101
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】リチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20240725BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240725BHJP
【FI】
C01G51/00 A
H01M4/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007253
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千紘
(72)【発明者】
【氏名】菊池 政博
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AB03
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】焼結温度の低温化及び焼結性の向上が可能であり、また、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化も可能となるリチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】SEM観察による平均粒子径が0.10~2.00μmである微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウム化合物と、からなり、前記水溶性リチウム化合物が前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の少なくとも一部に付着していること、を特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEM観察による平均粒子径が0.10~2.00μmである微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウム化合物と、からなり、
前記水溶性リチウム化合物が前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の少なくとも一部に付着していること、
を特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項2】
前記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウムであること、
を特徴とする請求項1に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項3】
前記水溶性リチウム化合物の含有量が、前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子に対してリチウム原子換算で0.01~10.0質量%であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項4】
SEM観察による平均粒子径が0.10~2.50μmであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項5】
BET比表面積が2.0m/g以上であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項6】
前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子は、850℃で加熱した際の重量減少率が1.5質量%以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項7】
SEM観察による平均粒子径が0.10~2.00μmである微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウム化合物とを含む水性スラリーを調製し、該水性スラリーを噴霧乾燥処理する表面処理工程を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が、少なくともリチウム化合物と、SEM観察による平均粒子径が0.05~1.00μmであるコバルト化合物と、を含有する原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、該原料混合物を、500~850℃で焼成する本焼成工程と、を含む工程を行い得られたものであること、
を特徴とする請求項7に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウムであること、
を特徴とする請求項7に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
前記水溶性リチウム化合物と、前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、を前記水溶性リチウム化合物の含有量が前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子に対してリチウム原子換算で0.01~10.0質量%となるように添加し水性スラリーを調製すること、
を特徴とする請求項7又は8に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系リチウム二次電池、全固体電池等の正極材として有用なリチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、ノート型パソコン、電気自動車、及び産業用ロボットなどの電源として非水系リチウム二次電池が利用されている。また、近年では、可燃性の有機溶媒を含む電解質を使用する非水系リチウム二次電池に代えて、安全性の高い固体電解質を使用した全固体電池の開発が盛んに進められている。
【0003】
全固体電池の製造方法について、例えば、特許文献1において、正極層、固体電解質層、及び負極層の各材料の粉末をペースト化し、塗布乾燥してグリーンシートを作製し、係るグリーンシートを積層し、作製した積層体を好ましくは700~1100℃の温度で同時焼成し焼結する工程を経て製造する方法が記載されている。
【0004】
このため、全固体電池で用いる正極活物質粉末として、700~1100℃で焼結するようなリチウムコバルト系複合酸化物が求められている。
正極層の活物質としてリチウムコバルト系複合酸化物を用い、1000℃を超えない比較的低温で焼結する方法として、例えば、特許文献2において、正極活物質としてのコバルト酸リチウム及び焼結助剤としてのリン酸リチウムを含む成形体を900℃で3時間焼成して焼結体を作製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-220099号公報
【特許文献2】特開2010-177024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば900℃以下で焼成した場合において、一層焼結反応を促進させつつ低温での焼結を可能とすることが望まれていた。
【0007】
また、最近では、非水系リチウム二次電池も全固体電池も、用途により更なる軽量化、薄型化が求められている。電池の軽量化、薄型化には、電池を構成する部材を小型化する必要があり、例えば、正極材を小型化することができれば、電池の軽量化、薄型化に繋がる一つの要因となる。
【0008】
従って、本発明の目的は、焼結温度の低温化及び焼結性の向上が可能であり、また、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化も可能となるリチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、SEM観察による平均粒子径が0.10~2.00μmである微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の少なくとも一部に水溶性リチウム化合物が付着したものが、焼結温度の低温化及び焼結性の向上が可能となり、また、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化も可能になること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、SEM観察による平均粒子径が0.10~2.00μmである微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウム化合物と、からなり、
前記水溶性リチウム化合物が前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の少なくとも一部に付着していること、
を特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、前記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウムであること、
を特徴とする(1)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、前記水溶性リチウム化合物の含有量が、前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子に対してリチウム原子換算で0.01~10.0質量%であること、
を特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0013】
また、本発明(4)は、SEM観察による平均粒子径が0.10~2.50μmであること、
を特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0014】
また、本発明(5)は、BET比表面積が2.0m/g以上であること、
を特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0015】
また、本発明(6)は、前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子は、850℃で加熱した際の重量減少率が1.5質量%以下であること、
を特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0016】
また、本発明(7)は、SEM観察による平均粒子径が0.10~2.00μmである微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウム化合物とを含む水性スラリーを調製し、該水性スラリーを噴霧乾燥処理する表面処理工程を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(8)は、前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が、少なくともリチウム化合物と、SEM観察による平均粒子径が0.05~1.00μmであるコバルト化合物と、を含有する原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、該原料混合物を、500~850℃で焼成する本焼成工程と、を含む工程を行い得られたものであること、
を特徴とする(7)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(9)は、前記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウムであること、
を特徴とする(7)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明(10)は、前記水溶性リチウム化合物と、前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、を前記水溶性リチウム化合物の含有量が前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子に対してリチウム原子換算で0.01~10.0質量%となるように添加し水性スラリーを調製すること、
を特徴とする(7)又は(8)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、焼結温度の低温化及び焼結性の向上が可能となり、また、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化も可能なリチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】参考例1で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM像。
図2】実施例1で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき説明する。
【0023】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウム化合物と、からなり、水溶性リチウム化合物が微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の少なくとも一部に付着していることを特徴とする。
【0024】
なお、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子において、付着した水溶性リチウム化合物は、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面全体を満遍なく連続して被覆していてもよく、或いは該微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子表面の一部のみを被覆していてもよい。前者の場合、リチウムコバルト系複合酸化物粒子は、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面全域が水溶性リチウム化合物によって完全に被覆されて、該微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面が露出していない状態になっている。後者の場合、リチウムコバルト系複合酸化物粒子は、その粒子表面が下地である微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子からなる部位と、水溶性リチウム化合物からなる部位とから構成される。水溶性リチウム化合物が微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の一部のみを被覆している場合、被覆部位が連続していてもよく、海島状に不連続に被覆していてもよく、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0025】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子は、少なくとも、リチウムとコバルトを含有する複合酸化物からなる粒子である。
【0026】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子は、微粒リチウムコバルト複合酸化物の一次粒子からなるか、あるいは、微粒リチウムコバルト複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子からなるか、あるいは、微粒子リチウムコバルト複合酸化物の一次粒子及び二次粒子の混合体からなる。
【0027】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子において、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径は、0.10~2.00μm、好ましくは0.10~1.00μmである。微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径が、上記範囲にあることにより、一層焼結反応を促進させつつ低温での焼結が可能になり、また、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能となる。
【0028】
なお、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から求められる一次粒子の平均粒子径であり、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に微粒リチウムコバルト複合酸化物の一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値から求める。
【0029】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子において、レーザー回折・散乱法により、測定溶媒として水を用いて測定される体積換算50%の粒子径(D50)が、0.10~2.00μm、好ましくは0.20~1.00μmである。微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のD50が、上記範囲にあることにより、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に付着して存在する水溶性リチウム化合物との相乗効果で、900℃以下で焼成した場合において、一層焼結反応を促進させつつ低温での焼結を可能とすることができ、また、正極材を軽量化、薄型化しやすくなるため、電池の小型化を図りやすくなる。一方、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のD50が、上記範囲未満だと、正極活物質粒子の粉体としての取り扱いが難しくなるだけでなく、正極材作製工程の不具合を生じさせる可能性が高くなり、また、上記範囲を超えると、900℃以下で焼成した場合において、一層焼結反応を促進させつつ低温での焼結が難しくなり、また、正極活物質粒子の粗大化により、正極の薄型化が難しくなる。
【0030】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子中、Coに対するLiの原子換算のモル比(Li/Co)は、好ましくは0.90~1.20、特に好ましくは0.95~1.15である。微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子中のCoに対するLiの原子換算のモル比(Li/Co)が、上記範囲にあることにより、正極活物質のエネルギー密度が高くなる。
【0031】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子は、性能又は物性を向上させることを目的として、必要に応じて、M元素を含有することができる。M元素は、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na、K、Ni、及びMnから選ばれる1種又は2種以上の金属元素である。
【0032】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子中、Coに対するM元素の原子換算のモル%((M/Co)×100)は、好ましくは0.01~5.00モル%、特に好ましくは0.05~2.00モル%である。微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子がM元素を含有する場合において、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子中のCoに対するM元素の原子換算のモル%((M/Co)×100)が、上記範囲にあることにより、充放電容量を損なうことなく電池特性を向上させることができる。なお、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が2種以上のM元素を含有する場合は、上記モル%の算出の基礎となる原子換算のM元素のモル数は、各M元素のモル数の合計を指す。
【0033】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子がM元素を含有する場合、M元素は、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子内部に存在していてもよく、あるいは、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に存在していてもよく、あるいは、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子内部及び表面の両方に存在していてもよい。
【0034】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面にM元素が存在する場合、M元素は、酸化物、複合酸化物、硫酸塩、リン酸塩等の形態として存在していてもよい。
【0035】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子は、850℃で加熱した際の重量減少率が、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であることが好ましい。
微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を製造するときの焼成温度を低くすることにより、焼成時の粒成長を抑えることができるものの、粒成長を抑えようとし過ぎて、焼成温度を低くし過ぎると、原料の反応が十分でなくなる。そして、そのような原料の反応が十分でない微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を用いると、未反応原料により正極材作製工程の不具合を生じさせるだけでなく、リチウムコバルト系複合酸化物に期待される充放電容量が減少してしまう。
本発明において、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子は、850℃で加熱した際の重量減少率が、上記範囲にあることにより、これらの不都合も抑制することができる。
【0036】
なお、本発明において、850℃で加熱した際の重量減少率は、以下の式にて算出される値である。
重量減少率(%)=((X-Y)/X)×100
Xは、850℃で加熱する前の微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の質量(g)を指す。
Yは、昇温速度100℃/時で850℃まで昇温し、850℃に到達後、5時間保持し、次いで、室温まで自然降温により冷却した微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の質量(g)を指す。
【0037】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のBET比表面積は、好ましくは2.0m/g以上、特に好ましくは3.0~15.0m/gである。微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のBET比表面積が、上記範囲にあることにより、一層焼結反応を促進させつつ低温での焼結が可能になり、また、正極材を軽量化、薄型化しやすくなるため、電池の小型化を図りやすくなる。
【0038】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る水溶性リチウム化合物は、水に対する溶解度が5g/100ml以上のリチウム化合物を指す。水溶性リチウム化合物の水に対する溶解度は、好ましくは10g/100ml以上である。水溶性リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硫酸リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられ、好ましくは水酸化リチウム、硝酸リチウムである。そして、水溶性リチウム化合物としては、溶解しやすく、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子表面に付着させやすい点、及び、低温で焼結した場合に焼結性の向上が可能となる点から水酸化リチウムがより好ましい。
【0039】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係る水溶性リチウム化合物の含有量は、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子に対してリチウム原子換算で0.01~10.0質量%、好ましくは0.05~5.0質量%である。水溶性リチウム化合物の含有量が、上記範囲にあることにより、一層低温での焼結が可能になる観点から好ましい。
【0040】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の少なくとも一部に水溶性リチウム化合物が付着した微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と水溶性リチウム化合物が一体化した粒子である。
【0041】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径は、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の少なくとも一部に水溶性リチウム化合物が付着した微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と水溶性リチウム化合物が一体化した粒子のSEM観察による平均粒子径を示す。
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径は、0.10~2.50μm、好ましくは0.10~1.50μmである。リチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径が、上記範囲にあることにより、一層焼結反応を促進させつつ低温での焼結が可能になり、また、正極材を軽量化、薄型化しやすくなるため、電池の小型化を図りやすくなる。
【0042】
なお、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から求められる平均粒子径であり、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と水溶性リチウム化合物が一体化した粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値から求める。
【0043】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子のBET比表面積は、2.0m/g以上、特に好ましくは3.0~15.0m/gである。リチウムコバルト系複合酸化物粒子のBET比表面積が、上記範囲にあることにより、一層焼結反応を促進させつつ低温での焼結が可能になり、また、正極材を軽量化、薄型化しやすくなるため、電池の小型化を図りやすくなる。
【0044】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の焼結に必要な温度は、900℃以下、好ましくは700~800℃である。
【0045】
全固体電池の製造方法として、多くの場合、例えば正極層、固体電解質層、及び負極層の各材料の粉末をペースト化し、塗布乾燥してグリーンシートを作製し、係るグリーンシートを積層し、作製した積層体を好ましくは700~1100℃の温度、好ましくは900℃以下で同時焼成し焼結する焼結工程を経て製造する方法等が知られている(特開2015-220099号公報の0017~0022段落、特開2015-220106号公報の0017~0022段落、WO2019/181909号パンフレットの0088~0106段落等参照)。
この際に、正極層は、リチウムイオン伝導性を向上させるため、緻密な正極活物質とする必要があり、正極活物質粉末として、一次粒子が微粒であり、900℃以下で容易に焼結するものが要望されている。
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、900℃以下、好ましくは700~800℃の低温で焼結できることから全固体電池の正極活物質粉末として特に有用である。例えば、正極層、固体電解質層、及び負極層から積層体を作製し、該積層体を同時焼成することにより全固体電池を製造する際に、正極層と固体電解質層との間で不純物を生成する等の望まぬ反応を抑制することが可能となる点で有用である。
【0046】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、非水系リチウム二次電池、全固体電池等の正極活物質として好適に利用される。
【0047】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法は、下記表面処理工程工程を有する。また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法は、下記A工程を有してもよい。
表面処理工程;SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μmの微粒リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子表面に水溶性リチウム化合物を付着させる工程。
A工程;SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μmの微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を調製する工程。
【0048】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法に係る表面処理工程において、水溶性リチウム化合物を付着させる対象は、SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μmの微粒リチウムコバルト系複合酸化物粒子である。
【0049】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法に係る表面処理工程に用いられるSEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μmの微粒リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得る方法は、特に制限されないが、好ましくは以下に述べるA工程を行なう方法が好ましい。
【0050】
A工程は、少なくともリチウム化合物と、SEM観察による平均粒子径が0.05~1.00μmであるコバルト化合物と、を含有する原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、原料混合物調製工程により得られた原料混合物を、500~850℃で焼成する本焼成工程と、を含む工程である。A工程により微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を製造することが、一層焼結反応を促進させつつ低温での焼結が可能になり、また、正極材を軽量化、薄型化しやすくなるため、電池の小型化を図りやすくなる観点から好ましい。
【0051】
A工程において、原料混合物調製工程は、少なくともリチウム化合物と、コバルト化合物と、を含有する原料混合物を調製する工程である。
【0052】
原料混合物調製工程に係るリチウム化合物は、微粒リチウムコバルト複合酸化物の製造用の原料として用いられるリチウム化合物であれば、特に制限されず、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、及び有機酸塩等が挙げられる。
【0053】
原料混合物調製工程に係るリチウム化合物の平均粒子径は、特に制限されず、リチウム化合物としては、一般的に入手可能なものを用いることができ、例えば1~100μmの範囲の粒子径が一般的なものである。
【0054】
原料混合物調製工程に係るコバルト化合物は、リチウムコバルト系複合酸化物の製造用の原料として用いられるコバルト化合物であれば、特に制限されず、コバルトの酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、及び有機酸塩等が挙げられる。
【0055】
原料混合物調製工程に係るコバルト化合物において、SEM観察による平均粒子径が、好ましくは0.05~1.00μm、特に好ましくは0.10~0.50μmである。コバルト化合物のSEM観察による平均粒子径が、上記範囲にあることにより、SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μm、好ましくは0.10~1.00μmである微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得ることができる。
【0056】
なお、原料混合物調製工程に係るコバルト化合物において、SEM観察による平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から求められる一次粒子の平均粒子径であり、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値から求める。
【0057】
原料混合物調製工程において、原料混合物中のリチウム化合物とコバルト化合物の含有割合は、原子換算で、Coのモル数に対するLiのモル数の比(Li/Coモル比)が、好ましくは0.90~1.20、特に好ましくは0.95~1.15となる含有割合である。原料混合物中のリチウム化合物とコバルト化合物の含有割合が、上記範囲にあることにより、単一相の微粒リチウムコバルト複合酸化物が得られやすくなる。
【0058】
原料混合物調製工程において、原料混合物に、必要によりM元素を含有する化合物を含有させてもよい。M元素を含有する化合物としては、M元素を含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、フッ化物、及び有機酸塩等が挙げられる。M元素を含有する化合物として、M元素を2種以上含有する化合物を用いてもよい。M元素としては、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na、K、Ni又はMn等が挙げられる。
【0059】
なお、原料のリチウム化合物、コバルト化合物、及びM元素を含有する化合物は、製造履歴は問われないが、高純度の微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得るために、可及的に不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0060】
原料混合物調製工程では、リチウム化合物と、コバルト化合物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合することにより、原料混合物を調製する。このとき、原料混合物中のコバルト化合物のSEM観察による平均粒子径が、好ましくは0.05~1.00μm、特に好ましくは0.10~0.50μmとなるように存在させ、リチウム化合物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物とを、撹拌、粉砕等の処理により混合する。この混合により、リチウム化合物、コバルト化合物、及び必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物との接触が容易なものとなる。原料混合物中のコバルト化合物のSEM観察による平均粒子径が、上記範囲にあることにより、本焼成工程に係る原料の反応性を高めることができ、500~850℃と低温焼成しても、十分に反応が進行し、本焼成工程を経て得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下の微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が得られる。リチウム化合物と、コバルト化合物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合する方法は、乾式であっても、湿式であってもよい。
【0061】
原料混合物を調製する方法としては、特に制限されず、例えば、(i)コバルト化合物とリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合する前に、コバルト化合物を粉砕処理し、粒子径を調節してから、粉砕処理後のコバルト化合物とリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合する方法、(ii)コバルト化合物とリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合する前に、コバルト化合物を粉砕処理し、更に、リチウム化合物及び/又はM元素を含有する化合物を粉砕処理して、粉砕処理後のコバルト化合物とリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合する方法、(iii)コバルト化合物とリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合し、これらを混合粉砕処理する方法等が挙げられる。コバルト化合物、リチウム化合物又はM元素を含有する化合物の粉砕処理、及びコバルト化合物、リチウム化合物、及び必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物の混合粉砕処理は、乾式であってもよいし、湿式であってもよい。
【0062】
原料混合物調製工程において、コバルト化合物として水酸化コバルトを使用する場合、原料混合物を調製する方法としては、例えば、水酸化コバルトと、リチウム化合物と、必要に応じてM元素を含有する化合物を、混合粉砕処理して、水酸化コバルトのSEM観察による平均粒子径が、0.05~1.00μm、特に好ましくは0.10~0.50μmの原料混合物を調製する方法が挙げられる。水酸化コバルトは、一般的に単粒子としての粒子径が小さいため、予め粉砕処理をして粒子径を小さく調節しなくても、リチウム化合物及び必要に応じてM元素を含有する化合物と共に、混合粉砕処理することにより、前記範囲のSEM観察による平均粒子径を有する原料混合物を得ることができる。
【0063】
乾式の粉砕処理又は混合粉砕処理を行うための装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。湿式の粉砕処理又は混合粉砕処理を行うための装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0064】
湿式で原料混合物の調製を行った場合は、原料混合物を乾燥することが好ましい。乾燥方法には、常法が用いられるが、湿式で粉砕処理を行った場合には、例えば、噴霧乾燥機を用いる方法を適用することができる。
【0065】
A工程において、本焼成工程は、原料混合物調製工程を行い得られる原料混合物を焼成することにより、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得る工程である。
【0066】
本焼成工程に係る焼成温度は、500~850℃、好ましくは550~830℃である。本焼成工程に係る焼成温度が、上記範囲にあることにより、SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μm、好ましくは0.10~1.00μmであり、且つ、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が得られる。一方、本焼成工程に係る焼成温度が、上記範囲未満だと、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下の微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が得られず、また、上記範囲を超えると、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が粗大化し、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の薄型化が難しくなる。
【0067】
また、本焼成工程に係る焼成温度が、500~850℃、好ましくは550~830℃であることが、SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μm、好ましくは0.10~1.00μmであり、且つ、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下であり、且つ、微粒リチウムコバルト複合酸化物由来の六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相のない微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が得られる点で、特に好ましい。
【0068】
本焼成工程に係る焼成時間は、1~30時間、好ましくは5~20時間である。また、焼成工程に係る焼成雰囲気は、空気、酸素ガス等の酸化性雰囲気である。また、焼成工程では、1回目の焼成で得られた焼成物を、必要に応じて複数回、焼成してもよい。
【0069】
A工程では、必要に応じて、原料混合物から発生する分解生成ガスを効率的に排除することを目的として、原料混合物調製工程と本焼成工程の間に、原料混合物調製工程を行い得られる原料混合物を、250~400℃で仮焼する仮焼成工程を行うことができる。仮焼成工程に係る仮焼温度は、250~400℃、好ましくは280~380℃である。また、仮焼成工程に係る仮焼時間は、1~10時間、好ましくは2~5時間である。
【0070】
A工程では、必要に応じて、本焼成工程を行い得られる微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を粉砕処理する粉砕処理工程を行うことができる。
【0071】
粉砕処理工程に係る粉砕処理は、乾式の粉砕処理であっても、湿式の粉砕処理であってもよい。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乾式粉砕装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の粉砕装置が挙げられる。
【0072】
このようにして、A工程を行い、下記表面処理工程に用いる微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子、すなわち、SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μmの微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得る。
【0073】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法において、表面処理工程は、SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μmの微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子、例えば、前述したA工程を行い得られる微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウム化合物を含む水性スラリーを調製し、該水性スラリーを噴霧乾燥して、前記水溶性リチウム化合物を前記微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の少なくとも一部に付着させる工程である。本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法は、このような表面処理工程を有することが、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に水溶性リチウム化合物を均一に、且つ強固に付着できる観点から好ましい。
【0074】
表面処理工程における水溶性リチウム化合物は、水に対する溶解度が5g/100ml以上のリチウム化合物を指す。水溶性リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硫酸リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられ、好ましくは水酸化リチウム、硝酸リチウムである。そして、水溶性リチウム化合物としては、溶解しやすく、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子表面に付着させやすい点、及び、低温で焼結した場合に焼結性の向上が可能となる点から水酸化リチウムがより好ましい。
【0075】
表面処理工程において、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウム化合物と、を水溶性リチウム化合物の含有量が微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子に対してリチウム原子換算で0.01~10.0質量%、好ましくは0.05~5.0質量%となるように水等の水性溶媒に添加して水性スラリーを調製する。水溶性リチウム化合物の添加量が、上記範囲にあることにより、一層焼結反応を促進させることができ、低温での焼結が可能になる観点から好ましい。
水性スラリーにおける固形分の濃度は、5~60質量%、好ましくは10~50質量%とすることが、水性スラリーの調整を簡便に行えるだけでなく、その後の乾燥工程も負荷なく実施が可能になる観点から好ましい。
【0076】
また、水性スラリーの調製は、固形分を均一に分散させることを目的として微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水溶性リチウムとを含む水性スラリーを、例えば、ボールミルや撹拌羽による攪拌機、ビーズミル、スターラー、3本ロール、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター、強力撹拌機等の装置で混合処理を行ってもよい。
【0077】
噴霧乾燥装置における乾燥温度は、100~400℃、好ましくは110~350℃になるように調整することが、粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0078】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、必要に応じて、表面処理工程の後に、表面処理工程を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を解砕、粉砕、分級等の処理を行うことができる。
【0079】
表面処理工程後に行う解砕、粉砕、分級等の処理は、乾式であっても、湿式であってもよいが、表面処理工程において水溶性リチウム化合物が溶出することを防ぐという観点から乾式が望ましい。乾式により解砕、粉砕、分級等を行う装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乾式により解砕、粉砕、分級等を行う装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0080】
このようにして、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行いリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得る。本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、900℃以下、好ましくは700~800℃の低温で焼結できることから全固体電池の正極活物質粉末として特に有用である。また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、微粒であることから非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化も可能となる点で有用である。
【実施例0081】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
<微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子>
(1)850℃で加熱した際の重量減少率
次式により求めた。
重量減少率(%)=((X-Y)/X)×100
X:850℃で加熱する前の微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の質量(g)
Y:昇温速度100℃/時で850℃まで昇温し、850℃に到達後、5時間保持し、次いで、室温まで自然降温により冷却した微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の質量(g)
(2)微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の比表面積
BET法により求めた。
(3)微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に微粒リチウムコバルト複合酸化物の一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値から求めた。
(4)微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のD50
レーザー回折・散乱法により、測定溶媒として水を用いて微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒度分布を測定し、得られる粒度分布の体積換算50%から求めた。
(5)原料混合物中のリチウム化合物及び原料混合物中のコバルト化合物のSEM観察による平均粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値から求めた。
(6)結晶相
線源としてCu-Kα線を用いてX線回折装置(リガク社製、UltimaIV)により測定した。
【0083】
(参考例1)
(原料混合物調製工程)
水酸化コバルト(SEM観察による平均粒子径0.18μm)及び炭酸リチウム(SEM観察による平均粒子径7.0μm)をLi/Co比が1.00となるように秤量し、市販の卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、原料混合物10.5gを得た。
(仮焼成工程、本焼成工程)
得られた原料混合物を300℃で3時間仮焼し、次いで、700℃にて5時間本焼成し、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(粉砕処理工程)
得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行い、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の諸物性を表1に示す。また、得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子をX線回析分析した結果、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相は観察されなかった。また、得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のSEM写真を図1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
<リチウムコバルト系複合酸化物粒子>
(1)水溶性リチウム化合物、炭酸リチウム、リチウムコバルト系複合酸化物粒子、及び微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子あるいは微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と水溶性リチウム化合物が一体化した粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値から求めた。
(2)焼結試験
微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子、もしくはリチウムコバルト系複合酸化物粒子0.5gを、5kN/cmの圧力で、φ15mm円形状薄板に成型して成型体を得た。得られた成型体を、700℃または800℃で5時間焼成し焼結体を得た。焼結体の重さ、厚み、及び直径より焼結体の体積密度を算出した。
また、別途、900℃で5時間焼成し焼結体を得、800℃での焼結体の体積密度と増減を確認し、焼結温度を確認した。
【0086】
(実施例1)
(原料混合物調製工程、仮焼成工程、本焼成工程、粉砕処理工程)
参考例1と同じ方法で行い、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(表面処理工程)
得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、水酸化リチウム(SEM観察による平均粒子径25μm)と、純水と、を水酸化リチウムの含有量が微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子に対してリチウム原子換算で2質量%、スラリー濃度20質量%となるよう加えて攪拌し、水性スラリーを得た。得られた水性スラリーをスプレードライヤー(大河原化工機社製、L-8)にて、入口温度250℃、出口温度120℃に設定し、60g/分の投入速度にて噴霧乾燥することにより乾燥粉を得た。
得られた乾燥粉をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行うことにより、SEM観察による平均粒子径が0.30μmのリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM像を図2に示す。図2から、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の一部に水酸化リチウムが付着していることを確認した。
【0087】
(参考例2)
(原料混合物調製工程、仮焼成工程、本焼成工程、粉砕処理工程)
参考例1と同じ方法で行い、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(表面処理工程)
得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子と、炭酸リチウム(SEM観察による平均粒子径7.0μm)と、純水と、を炭酸リチウムの含有量が微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子に対してリチウム原子換算で2質量%、スラリー濃度20質量%となるよう加えて攪拌し、水性スラリーを得た。得られた水性スラリーをスプレードライヤー(大河原化工機社製、L-8)にて、入口温度250℃、出口温度120℃に設定し、60g/分の投入速度にて噴霧乾燥することにより乾燥粉を得た。
得られた乾燥粉をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行うことにより、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察をしたところ、炭酸リチウムは、微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子表面を覆うように存在しておらず、炭酸リチウムと微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子が別々の粒子として存在していることが確認された。
【0088】
(焼結試験)
実施例1で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を用いて焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果を表2に示す。また、800℃と900℃での焼結体の体積密度は殆ど変化しなかったことから、焼結温度は800℃であることを確認した。
また、参考例1で得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を用いて同様な焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果も表2に併記した。また、800℃と900℃での焼結体の体積密度が変化したことから、焼結温度は900℃以上であることを確認した。
また、参考例2で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を用いて同様な焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果も表2に併記した。800℃と900℃での焼結体の体積密度は殆ど変化しなかったことから、焼結温度は800℃であることを確認した。
【0089】
(相対密度)
表2の相対密度はリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物の理論密度5.1g/cmを100%としたときの相対値である。
【0090】
【表2】
【0091】
1)微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子、又はリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径
2)700℃又は800℃で焼結する前の体積密度
3)700℃又は800℃で焼結する前の相対密度
【0092】
表2の結果から、実施例1で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、900℃での体積密度と、800℃での体積密度もほとんど差が無いことから800℃程度の低温でも焼結が可能であることが確認された。また、実施例1で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を700℃で焼成した際に得られた焼結体は、参考例1で得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を700℃で焼成した際に得られた焼結体に比べて、体積密度が高かった。また、800℃で焼成した場合においても同様の結果が得られたため、微粒リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子表面に水溶性リチウム化合物である水酸化リチウムを付着したものは、より焼結反応が進行し焼結性が向上することが確認された。
参考例2で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、900℃での体積密度と、800℃での体積密度もほとんど差が無いことから800℃程度の低温でも焼結が可能であることが確認された。また、実施例1で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を700℃で焼成した際に得られた焼結体は、参考例2で得られた微粒リチウムコバルト複合酸化物粒子を700℃で焼成した際に得られた焼結体に比べて、体積密度が高かった。また、800℃で焼成した場合においても同様の結果が得られたため、微粒リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子表面に水溶性リチウム化合物である水酸化リチウムを付着したものは、より焼結反応が進行し焼結性が向上することが確認された。
図1
図2