(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103121
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】電力変換回路制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
H02M3/28 W
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007288
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】繁内 宏治
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】杉山 義信
(72)【発明者】
【氏名】田内 豊
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA16
5H730AS01
5H730AS04
5H730AS05
5H730BB27
5H730BB37
5H730BB57
5H730BB84
5H730BB88
5H730DD03
5H730DD04
5H730DD16
5H730EE04
5H730EE13
5H730FD31
(57)【要約】
【課題】本発明は、並列接続された複数の電力変換回路を制御する装置の構成を単純化することを目的とする。
【解決手段】制御値演算部20は、並列接続された複数の電力変換回路における並列接続端に流れる電流の測定値と電流指令値との差異に基づいて、総合操作量を求める操作量決定処理と、総合操作量に対し、複数の異なる外乱信号を個別に重畳して、複数の外乱重畳信号を生成する重畳処理と、複数の異なる外乱信号に対応する1つまたは複数の成分を総合操作量から抽出し、複数の異なる外乱信号に対応する1つまたは複数の誤差成分を求める誤差抽出処理と、誤差成分に基づいて、複数の外乱重畳信号のそれぞれに対する補正係数を求める補正係数決定処理と、複数の外乱重畳信号のそれぞれに対して、補正係数を用いた補正処理を施して、複数の電力変換回路のそれぞれに対する操作量を求める操作量決定処理と、を実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続された複数の電力変換回路における並列接続端に流れる電流の測定値と電流指令値との差異に基づいて、総合操作量を求める操作量決定処理と、
前記総合操作量に対し、複数の異なる外乱信号を個別に重畳して、複数の外乱重畳信号を生成する重畳処理と、
複数の異なる前記外乱信号に対応する1つまたは複数の成分を前記総合操作量から抽出し、複数の異なる前記外乱信号に対応する1つまたは複数の誤差成分を求める誤差抽出処理と、
前記誤差成分に基づいて、複数の前記外乱重畳信号のそれぞれに対する補正係数を求める補正係数決定処理と、
複数の前記外乱重畳信号のそれぞれに対して、前記補正係数を用いた補正処理を施して、複数の前記電力変換回路のそれぞれに対する操作量を求める操作量決定処理と、
を実行することを特徴とする電力変換回路制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記外乱信号は、直交関数列で表されることを特徴とする電力変換回路制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記外乱信号は、相互に直交する複数の三角関数で表されることを特徴とする電力変換回路制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記外乱信号は、複数の外乱関数であって、1つの関数の値が活性値となり、かつ、他の関数の値が非活性値となる時間帯があり、時間経過と共に1つずつ順に活性値となる複数の外乱関数で表されることを特徴とする電力変換回路制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記外乱信号は、
複数の前記外乱関数で表される複数の信号のそれぞれに対して、低域通過フィルタ処理を施して得られる複数の信号であることを特徴とする電力変換回路制御装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の電力変換回路制御装置であって、
前記誤差抽出処理は、
前記総合操作量に基づく値に複数の前記外乱信号をそれぞれ乗算することで、各前記誤差成分を前記総合操作量から抽出する処理を含むことを特徴とする電力変換回路制御装置。
【請求項7】
請求項4または請求項5に記載の電力変換回路制御装置であって、
前記誤差抽出処理は、
前記総合操作量に基づく値に複数の前記外乱信号をそれぞれ乗算して得られた複数の乗算値の平均値を求め、複数の前記乗算値のそれぞれから前記平均値を減算することで、各前記誤差成分を求めることを特徴とする電力変換回路制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換回路制御装置であって、
前記補正係数決定処理は、
各前記誤差成分に対する時間積分を実行し、各前記誤差成分の時間積分値に基づく値を独立変数とする各単調増加関数に基づいて、各前記補正係数を求める処理を含むことを特徴とする電力変換回路制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記電力変換回路のそれぞれに対する前記操作量に基づいて、各前記電力変換回路を制御するスイッチング制御部を備え、
各前記電力変換回路は、
トランスによって結合した1次側スイッチング回路および2次側スイッチング回路を備え、
前記スイッチング制御部は、
前記操作量に基づいて、前記1次側スイッチング回路のスイッチング位相と、前記2次側スイッチング回路の位相との差異を制御することを特徴とする電力変換回路制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路制御装置に関し、特に、並列接続された複数の電力変換回路を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つのスイッチング回路をトランスによって結合した電力変換回路が広く用いられている。2次側のスイッチング回路には、例えば、電気自動車に搭載される電気回路が接続され、1次側のスイッチング回路には、例えば、商用電源が接続される。1次側のスイッチング回路と2次側のスイッチング回路とがトランスによって電気的に絶縁されているので、高出力電圧のバッテリが搭載されている場合であっても、商用電源の取り扱いが容易になる。
【0003】
このような電力変換回路には、以下の特許文献1に示されているように、1次側のスイッチング回路をスイッチングする位相と、2次側のスイッチング回路をスイッチングする位相との差異に応じて、1次側から2次側に伝送される電力が定まるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yeh Ting, Sjoerd de Haan, Jan A. Ferreira: "Modular Single-active Bridge DC-DC Converters", IEEE IAS. Magazine, Vol. 22, No. 5, pp. 43-52 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電力変換回路から負荷回路に供給される電力を大きくする場合、電力変換回路に用いられるスイッチング素子の耐電圧または許容電流を大きくする必要が生じ、電力変換回路の設計が困難となることがある。そこで、非特許文献1に記載されているように、複数の電力変換回路を並列に接続した並列型電力変換装置が考えられている。しかし、並列型電力変換装置では、各電力変換回路を制御するために、各電力変換回路に電流計を設ける必要があり、並列型電力変換装置を制御する装置の構成が複雑となってしまう場合があった。
【0007】
本発明は、並列接続された複数の電力変換回路を制御する装置の構成を単純化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、並列接続された複数の電力変換回路における並列接続端に流れる電流の測定値と電流指令値との差異に基づいて、総合操作量を求める操作量決定処理と、前記総合操作量に対し、複数の異なる外乱信号を個別に重畳して、複数の外乱重畳信号を生成する重畳処理と、複数の異なる前記外乱信号に対応する1つまたは複数の成分を前記総合操作量から抽出し、複数の異なる前記外乱信号に対応する1つまたは複数の誤差成分を求める誤差抽出処理と、前記誤差成分に基づいて、複数の前記外乱重畳信号のそれぞれに対する補正係数を求める補正係数決定処理と、複数の前記外乱重畳信号のそれぞれに対して、前記補正係数を用いた補正処理を施して、複数の前記電力変換回路のそれぞれに対する操作量を求める操作量決定処理と、を実行することを特徴とする。
【0009】
望ましくは、複数の前記外乱信号は、直交関数列で表される。
【0010】
望ましくは、複数の前記外乱信号は、相互に直交する複数の三角関数で表される。
【0011】
望ましくは、複数の前記外乱信号は、複数の外乱関数であって、1つの関数の値が活性値となり、かつ、他の関数の値が非活性値となる時間帯があり、時間経過と共に1つずつ順に活性値となる複数の外乱関数で表される。
【0012】
望ましくは、複数の前記外乱信号は、複数の前記外乱関数で表される複数の信号のそれぞれに対して、低域通過フィルタ処理を施して得られる複数の信号である。
【0013】
望ましくは、前記誤差抽出処理は、前記総合操作量に基づく値に複数の前記外乱信号をそれぞれ乗算することで、各前記誤差成分を前記総合操作量から抽出する処理を含む。
【0014】
望ましくは、前記誤差抽出処理は、前記総合操作量に基づく値に複数の前記外乱信号をそれぞれ乗算して得られた複数の乗算値の平均値を求め、複数の前記乗算値のそれぞれから前記平均値を減算することで、各前記誤差成分を求める。
【0015】
望ましくは、前記補正係数決定処理は、各前記誤差成分に対する時間積分を実行し、各前記誤差成分の時間積分値に基づく値を独立変数とする各単調増加関数に基づいて、各前記補正係数を求める処理を含む。
【0016】
望ましくは、複数の前記電力変換回路のそれぞれに対する前記操作量に基づいて、各前記電力変換回路を制御するスイッチング制御部を備え、各前記電力変換回路は、トランスによって結合した1次側スイッチング回路および2次側スイッチング回路を備え、前記スイッチング制御部は、前記操作量に基づいて、前記1次側スイッチング回路のスイッチング位相と、前記2次側スイッチング回路の位相との差異を制御する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、並列接続された複数の電力変換回路を制御する装置の構成を単純化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】3つの電力変換回路が並列接続された並列型電力変換装置の構成を示す図である。
【
図3】電力変換システムの演算モデルを示す図である。
【
図4】3つの電力変換回路を備える電力変換システムの構成例を示す図である。
【
図7】電力変換システムについて行ったシミュレーションの結果を示す図である。
【
図8】電力変換システムについて行ったシミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
各図を参照して本発明の実施形態について説明する。複数の図面に示されている同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を簡略化する。各図で定義された上、下等の方向を示す用語は、説明の便宜上のものであり、各構成要素を配置する際の姿勢を限定するものではない。
【0020】
図1には、本発明の基本技術に係る並列型電力変換装置100の構成が示されている。並列型電力変換装置100は、並列接続された複数(N個)の電力変換回路10-1~10-Nを備えている。ここで、並列接続とは、各電力変換回路10-i(i=1~N)の一対の入力端子の一方同士および他方同士がそれぞれ共通に接続され、各電力変換回路10-iの一対の出力端子の一方同士および他方同士がそれぞれ共通に接続されることをいう。
【0021】
各電力変換回路10-iの一対の入力端子の一方である正極入力端子Tp1は、並列端子TP1に共通に接続され、各電力変換回路10-iの一対の入力端子の他方である負極入力端子Tg1は、並列端子TG1に共通に接続されている。各電力変換回路10-iの一対の出力端子の一方である正極出力端子Tp2は、並列端子TP2に共通に接続され、各電力変換回路10-iの一対の出力端子の他方である負極出力端子Tg2は、並列端子TG2に共通に接続されている。
【0022】
並列端子TP1およびTG1(一対の並列接続端)には直流電力源200が接続されている。並列端子TP2およびTG2(一対の並列接続端)には負荷回路202が接続されている。各電力変換回路10-iがスイッチングをすることで、直流電力源200から出力された直流電圧が昇圧または降圧され、負荷回路202に出力される。これによって、直流電力源200から負荷回路202に直流電力が供給される。各電力変換回路10-iの昇圧または降圧によって、負荷回路202には適切な電圧が印加される。また、複数の電力変換回路10-1~10-Nが並列接続されることで、各電力変換回路10-iには、耐電圧または許容電流が小さい電気回路素子が用いられてよい。
【0023】
図2には、3つの電力変換回路10-1~10-3が並列接続された並列型電力変換装置101の構成が示されている。電力変換回路10-1~10-3のそれぞれは、1次側スイッチング回路12および2次側スイッチング回路14を備えている。1次側スイッチング回路12は、並列接続されたスイッチングブリッジX1およびY1を備えている。スイッチングブリッジX1は、直列接続されたスイッチング素子S1およびS2を備えている。スイッチングブリッジY1は、直列接続されたスイッチング素子S3およびS4を備えている。スイッチング素子S1~S4は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であってよい。2つのIGBTが直列接続されるとは、一方のIGBTのエミッタ端子と他方のIGBTのコレクタ端子とが接続されることをいう。2つのMOSFETが直列接続されるとは、一方のMOSFETのソース端子が、他方のMOSFETのドレイン端子に接続されることをいう。
【0024】
1次側スイッチング回路12は、さらに、スイッチングブリッジX1およびY1に並列接続されたコンデンサC1を備えている。スイッチングブリッジX1、スイッチングブリッジY1およびコンデンサC1の上側の並列接続端は、正極入力端子Tp1に接続され、下側の並列接続端は、負極入力端子Tg1に接続されている。
【0025】
スイッチング素子S1およびS2は交互にオンオフする。すなわち、スイッチング素子S1がオフからオンに切り替わったときに、スイッチング素子S2はオンからオフに切り替わり、スイッチング素子S1がオンからオフに切り替わったときに、スイッチング素子S2はオフからオンに切り替わる。同様に、スイッチング素子S3およびS4は交互にオンオフする。スイッチング素子S1とスイッチング素子S3は、所定の位相差、例えば180°の位相差でスイッチングをする。
【0026】
1次側スイッチング回路12は、さらに、インダクタL1を備えている。インダクタL1の一端は、スイッチング素子S1およびS2の接続点に接続され、他端は、スイッチング素子S3およびS4の接続点に接続されている。
【0027】
2次側スイッチング回路14は、スイッチングブリッジX2、スイッチングブリッジY2、コンデンサC2およびインダクタL2を備えている。2次側スイッチング回路14の回路構成は、1次側スイッチング回路12の回路構成と同様である。スイッチングブリッジX2、スイッチングブリッジY2、コンデンサC2およびインダクタL2は、それぞれ、スイッチングブリッジX1、スイッチングブリッジY1、コンデンサC1およびインダクタL1に対応する。インダクタL1およびL2は磁気的に結合し、トランス15を構成している。スイッチングブリッジX2、スイッチングブリッジY2およびコンデンサC2の上側の並列接続端は、正極出力端子Tp2に接続され、下側の並列接続端は、負極出力端子Tg2に接続されている。
【0028】
電力変換回路10-1~10-3のそれぞれが備える1次側スイッチング回路12のインダクタL1は、第1コネクタを構成してよい。電力変換回路10-1~10-3のそれぞれが備える2次側スイッチング回路14のインダクタL2は、第1コネクタに着脱自在な第2コネクタを構成してよい。第1コネクタと第2コネクタが、接近または機械的に結合することで、電力変換回路10-1~10-3のそれぞれにおいてトランス15が形成される。
【0029】
1次側スイッチング回路12から2次側スイッチング回路14に伝送される電力は、1次側スイッチング回路12のスイッチングと2次側スイッチング回路14のスイッチングとの位相差に応じて定まる。並列端子TP2には電流計13が接続されている。電流計13は、並列端子TP2に流れる電流を測定し、総合電流Ioutの測定値を出力する。ここで、総合電流Ioutは、電力変換回路10-1~10-Nの正極出力端子Tp2から流出する電流I1~INを加算合計した電流である。
【0030】
図2には、3つの電力変換回路10-1~10-3が並列接続された並列型電力変換装置101が示されているが、並列型電力変換装置101は、
図2に示されている回路構成を有する2つまたは4つ以上の電力変換回路10-iが並列接続された回路構成を有してもよい。
【0031】
この場合においても、複数の電力変換回路10-iが備える1次側スイッチング回路12のインダクタL1は、1つの第1コネクタを構成してよい。複数の電力変換回路10-iが備える2次側スイッチング回路14のインダクタL2は、1つの第2コネクタを構成してよい。第1コネクタと第2コネクタが、接近または機械的に結合することで、各電力変換回路10-iにおいてトランス15が形成される。
【0032】
また、1次側スイッチング回路12および2次側スイッチング回路14には、1次側スイッチング回路12をスイッチングする位相と、2次側スイッチング回路14をスイッチングする位相との差異に応じて、1次側から2次側に伝送される電力が定まるその他の構成を有するものが用いられてもよい。
【0033】
図3には、本発明の実施形態に係る電力変換システム104の演算モデルが示されている。電力変換システム104は、並列型電力変換装置100および電力変換回路制御装置102を備えている。並列型電力変換装置100は、電力変換回路10-1~10-Nおよび加算合計器24を備えている。電力変換回路10-1~10-Nは、それぞれ位相差δ
1~δ
Nで制御されることで、電流I
1~I
Nをそれぞれ出力する。ここで、電力変換回路10-iが位相差δ
iで制御されるとは、1次側スイッチング回路12および2次側スイッチング回路14のスイッチング位相差を位相差δ
iに近付けまたは一致させる制御が行われることをいう。加算合計器24は、演算モデル上の仮想の構成要素であり、電流I
1~I
Nを加算合計し、総合電流I
outを出力する。
【0034】
電流Iiは、位相差δiを用いて、次のように表される。
【0035】
【0036】
ただし、kは、インダクタL1およびL2の結合係数、V
inは正極入力端子Tp1および負極入力端子Tg1に印加された直流電圧、ωはスイッチング角周波数、Lは、インダクタL1およびL2のインダクタンスである。Gは、中央の式においてδの前に乗ぜられている変数をまとめて表したゲインである。(数1)におけるV
inを除く各変数は、各電力変換回路10-iについて固有の値である。V
inを除く各変数には添え字として「i」を付してもよいが、表記を簡単にするために添え字「i」は省略されている。
図3の各電力変換回路10-iに示されている関数f(δ)は、以下の(数2)で表される。
【0037】
【0038】
また、u=f(δ)とした場合、f(δ)の逆関数f-1(u)は、以下の(数3)で表される。
【0039】
【0040】
ここで、sgn(u)は、uが正であるときに+1となり、uが負であるときに-1となる符号関数である。
【0041】
電力変換回路制御装置102は、減算器16、比例積分制御器18、制御値演算部20およびスイッチング制御部22-1~22-Nを備えている。電力変換回路制御装置102は、プログラムを実行することで各構成要素(減算器16、比例積分制御器18、制御値演算部20およびスイッチング制御部22-1~22-N)の機能を実現するプロセッサを備えてよい。
【0042】
減算器16は、並列型電力変換装置100の並列端子TP2に接続された電流計13から総合電流Ioutの測定値(以下、単に総合電流Ioutという)を取得する。総合電流Ioutは、並列型電力変換装置100から流出する電流を示す。また、減算器16は、総合電流Ioutに対する目標値である電流指令値Irefを取得する。電流指令値Irefは、電力変換回路制御装置102が他の制御装置から取得してよい。
【0043】
減算器16および比例積分制御器18は、総合電流Ioutと電流指令値Irefとの差異に基づいて、総合操作量vを求める操作量決定処理を実行する。すなわち、減算器16は、電流指令値Irefから総合電流Ioutを減算した電流誤差dを求め、比例積分制御器18に出力する。比例積分制御器18は、電流誤差dを所定時間に亘って時間積分し、これによって得られた時間積分値と電流誤差dの値それぞれに所定の係数を乗じて和を取ることで総合操作量vを求め、制御値演算部20に出力する。制御値演算部20は、総合操作量vに基づいて、各電力変換回路10-iに対する操作量uiを求め、スイッチング制御部22-iに出力する。スイッチング制御部22-iは、(数3)に基づいて位相差δiを求め、電力変換回路10-iを位相差δiで制御する。
【0044】
なお、このような比例積分制御(PI制御)を行う比例積分制御器18に代えて、比例制御(P制御)行う制御器、または比例積分微分制御(PID制御)を行う制御器が用いられてもよい。P制御を行う制御器は、電流誤差dに所定の係数を乗じて総合操作量vを求め、制御値演算部20に出力する。PID制御を行う制御器は、電流誤差dを所定時間に亘って時間積分して時間積分値を得ると共に、電流誤差dに対して微分演算を行い微分値を得る。PID制御を行う制御器は、時間積分値、時間微分値および電流誤差dの値それぞれに所定の係数を乗じて和を取ることで総合操作量vを求め、制御値演算部20に出力する。
【0045】
制御値演算部20は、次に説明する処理によって、電力変換回路10-1~10-Nが出力する電流I1~INが均一となるように、所定のフィードバック周期で操作量u1~uNを繰り返し求める。
【0046】
図4には、3つの電力変換回路10-1~10-3を備える電力変換システム106の構成例が示されている。制御値演算部20aは、外乱発生部30、重畳器32-1~32-3、乗算器34-1~34-3、誤差抽出処理部36、積分処理部38、2相3相変換部40および関数処理部42を備えている。
【0047】
外乱発生部30は、(数4)に示される3つの外乱信号Δ1~Δ3を、それぞれ重畳器32-1~32-3に出力する。外乱信号Δ1~Δ3は、周波数をfとした時間tについての正弦関数または余弦関数であり、相互の位相差は120°(2π/3)である。周波数fは、その逆数である周期1/fが、操作量u1~uNが繰り返し求められるフィードバック周期よりも長くなるように決定されてよい。
【0048】
【0049】
重畳器32-1~32-3は、総合操作量vに外乱信号Δ1~Δ3をそれぞれ個別に加算(重畳)し、外乱重畳信号v1~v3を、それぞれ、乗算器34-1~34-3に出力する。
【0050】
誤差抽出処理部36は、総合操作量vに対して、(数5)で示されるような誤差抽出演算処理を実行し、ゲイン誤差率Gerror:aおよびGerror:bを求め、積分処理部38に出力する。ゲイン誤差率Gerror:aおよびGerror:bは、総合操作量vに外乱信号Δ1~Δ3が重畳されたことによって、フィードバック後の総合操作量vに含まれることとなった誤差成分に相当する。
【0051】
【0052】
なお、(数5)のGerror:aは、総合操作量vにcos(2πft)を乗じて、低域通過フィルタLPFによって直流成分を抽出することで求められる。Gerror:bは、総合操作量vにsin(2πft)を乗じて、低域通過フィルタLPFによって直流成分を抽出することで求められる。
【0053】
積分処理部38は、ゲイン誤差率
Gerror:aおよびG
error:bのそれぞれを所定時間に亘って時間積分し、これによって得られた時間積分値に所定の比例係数(ゲイン)を乗じてゲイン補正量K
aおよびK
bを求め、2相3相変換部40に出力する。
図4では、ラプラス変換におけるs領域で積分演算が表現されている。Tは比例係数で定まる定数である。2相3相変換部40は、ゲイン補正量K
aおよびK
bに対して、(数6)に示される2相3相変換を行い、3相のゲイン補正量K
c1、K
c2およびK
c3を求め、関数処理部42に出力する。
【0054】
【0055】
関数処理部42は、(数7)に従って、ゲイン補正量Kc1~Kc3に対する指数関数値として、操作量補正係数K1~K3を求める。
【0056】
【0057】
操作量補正係数K1~K3を求めるに際しては、指数関数の代わりに、ゲイン補正量Kc1~Kc3を変数とするその他の単調増加関数(導関数が正となる関数)が用いられてもよい。関数処理部42は、操作量補正係数K1~K3を、それぞれ、乗算器34-1~34-3に出力する。
【0058】
このように、積分処理部38、2相3相変換部40および関数処理部42は、外乱信号Δ1~Δ3に基づく総合操作量vの誤差成分に基づいて、3つの外乱重畳信号のそれぞれに対する補正係数を求める補正係数決定処理を実行し、操作量補正係数K1~K3を求める。
【0059】
乗算器34-1~34-3は、外乱重畳信号v1~v3に対して、操作量補正係数K1~K3を用いた補正処理を施し、操作量u1~u3を生成する。すなわち、乗算器34-1~34-3は、外乱重畳信号v1~v3に、操作量補正係数K1~K3をそれぞれ乗じて操作量u1~u3を生成し、スイッチング制御部22-1~22-3にそれぞれ出力する。スイッチング制御部22-1~22-3は、(数3)に基づいてそれぞれ位相差δ1~δ3を求める。スイッチング制御部22-1~22-3は、それぞれ、電力変換回路10-1~10-3を位相差δ1~δ3で制御する。
【0060】
制御値演算部20aは、総合電流Ioutと電流指令値Irefに基づいて、操作量u1~u3を求める処理を、所定のフィードバック周期で繰り返し実行する。スイッチング制御部22-1~22-3は、時間経過と共に順次求められた操作量u1~u3に基づいて、電力変換回路10-1~10-3を制御する。これによって、電力変換回路10-1~10-3が出力する電流I1~I3は、同一の値に収束して均一化される。
【0061】
上記のように、電力変換回路10-1~10-3のそれぞれが備える1次側スイッチング回路12のインダクタL1が第1コネクタを構成し、電力変換回路10-1~10-3のそれぞれが備える2次側スイッチング回路14のインダクタL2が第2コネクタを構成した場合、第1コネクタと第2コネクタがずれて結合してしまうことがある。本実施形態によれば、第1コネクタと第2コネクタに結合ずれが生じ、各電力変換回路におけるトランス15の結合係数等にバラツキが生じた場合であっても、各電力変換回路に入力される電流、または各電力変換回路から出力される電流は均一化される。
【0062】
電力変換回路10-1~10-3が出力する電流I1~I3が同一の値に収束する原理について説明する。総合電流Ioutが電流指令値Irefに追従している場合、(数8)が成立する。
【0063】
【0064】
(数8)を総合操作量vについて解くと(数9)が得られる。
【0065】
【0066】
ここで、K1G1、K2G2およびK3G3の平均値をGmeanとし、ゲイン誤差率Gerror1、Gerror2、およびGerror3を(数10)のように定義する。
【0067】
【0068】
3相交流信号である外乱信号Δ1、Δ2およびΔ3の総和が0となることを利用して、(数9)および(数10)からK1G1、K2G2およびK3G3を消去すると(数11)が得られる。
【0069】
【0070】
(数11)の右辺第2項はゲイン誤差率Gerror1、Gerror2、およびGerror3が0であるときに0となり、そうでないときに0でない交流成分を持つ。すなわち、右辺第2項はゲイン誤差率Gerror1、Gerror2、およびGerror3の情報を含んでいる。ここから、各ゲイン誤差率Gerror1、Gerror2、およびGerror3に下記のように関連付けられたGerror:aおよびGerror:bを推定することができる。
【0071】
ゲイン誤差率Gerror1、Gerror2、およびGerror3と、Gerror:aおよびGerror:bとの関係について説明する。ゲイン誤差率Gerror1、Gerror2、およびGerror3は、これらの総和が0である対称3相交流として解釈される。ゲイン誤差率Gerror1、Gerror2、およびGerror3は、2相3相変換の式と、ゲイン誤差率Gerror:aおよびGerror:bによって、(数12)のように表される。
【0072】
【0073】
同様にして、外乱信号Δ1~Δ3は、直交2相成分ΔaおよびΔbによって、(数13)のように表される。
【0074】
【0075】
(数12)および(数13)の左辺を、(数11)に代入することで、(数14)が得られる。
【0076】
【0077】
さらに、(数4)および(数13)から、(数15)が得られる。
【0078】
【0079】
(数15)を(数14)に代入することで、(数16)が得られる。
【0080】
【0081】
(数16)には、総合操作量vに含まれる余弦波成分および正弦波成分が、それぞれ、ゲイン誤差率Gerror:aおよびGerror:bであることが示されている。(数16)から、ゲイン誤差率Gerror:aおよびGerror:bが、(数5)によって求められることが理解される。
【0082】
ゲイン誤差率Gerror:aおよびGerror:bは、外乱信号Δ1~Δ3を3相2相変換して得られた外乱信号ΔaおよびΔbのそれぞれに対応する誤差成分に相当する。この誤差成分は、総合操作量vに外乱信号Δ1~Δ3が重畳されたことによって外乱重畳信号に含まれることとなった誤差に対応する。誤差成分としてのゲイン誤差率Gerror:aおよびGerror:bは、(数5)によって総合操作量vから抽出される。
【0083】
図4に示されている電力変換システム106では、総合操作量vから2相のゲイン誤差率G
error:aおよびG
error:bが抽出され、2相のゲイン誤差率G
error:aおよびG
error:bが時間積分されて2相のゲイン補正量K
aおよびK
bが求められる。さらに、2相3相変換部40によって、2相のゲイン誤差率G
error:aおよびG
error:bが3相のゲイン補正量K
c1~K
c3に変換され、ゲイン補正量K
c1~K
c3のそれぞれから、関数処理部42によって3相の操作量補正係数K
1~K
3が求められる。
【0084】
このように、電力変換システム106では、3相のゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:3が直接求められることはなく、2相のゲイン誤差率Gerror:a~Gerror:bが求められ、2相のゲイン誤差率Gerror:aおよびGerror:bから3相の操作量補正係数K1~K3が求められる。3相の操作量補正係数K1~K3を求める処理に対し2相分の演算処理が行われるため、演算処理が簡略化される。
【0085】
このように、直接的に求められる値が2相分の値でよい理由は、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:3の総和が0であるという制約があるためである。すなわち、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:3のうち1つは、他の2個の値によって表され、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:3は、実際には2個の値の情報を有しているためである。
【0086】
次に、電力変換システム106の動作の安定性について説明する。(数7)、(数10)および(数12)より、以下の(数17)が得られる。
【0087】
【0088】
G1exp(Kc1)=G2exp(Kc2)=G3exp(Kc3)を満たす点を中心として(数17)をテイラー展開することで(数18)が得られる。
【0089】
【0090】
(数18)に(数6)を代入してKc1~Kc3を削除し、式を整理することで(数19)が得られる。
【0091】
【0092】
積分処理部38が実行する処理によって、(数20)が成立し、(数19)および(数20)から、ゲイン補正量KaおよびKbを消去することで(数21)が得られる。
【0093】
【0094】
【0095】
この式は、Gerror:aおよびGerror:bが、時定数Tで指数関数的に0に収束することを表している。したがって、電力変換システム106の動作は安定しているといえる。
【0096】
図5には、本発明の第2実施形態に係る電力変換システム108の構成が示されている。電力変換システム108は、制御対象の電力変換回路10-iの個数をN個(Nは2以上の整数)として一般化したものである。
【0097】
電力変換システム108を構成する制御値演算部20bは、外乱発生部31、重畳器32-1~32-N、乗算器34-1~34-N、操作量調整部44、誤差抽出処理部48、積分処理部50、N-1相N相変換部52および関数処理部54を備えている。
【0098】
外乱発生部31は、N個の外乱信号Δ1~ΔNを、それぞれ重畳器32-1~32-Nに出力する。ここで、外乱信号Δ1~ΔNは、N-1個の直交関数列φ1~φN-1と、正則行列Aを用いて(数22)のように表される。
【0099】
【0100】
重畳器32-1~32-Nは、総合操作量vに外乱信号Δ1~ΔNをそれぞれ個別に加算(重畳)し、外乱重畳信号v1~vNを、それぞれ、乗算器34-1~34-Nに出力する。
【0101】
操作量調整部44は、高域通過フィルタHPFおよび係数乗算器46を備えている。高域通過フィルタHPFは、総合操作量vから直流成分を取り除いた総合操作量wacを生成する。係数乗算器46は、総合操作量wacに一定値-1/Δを乗じて、総合操作量vac=-wac/Δを、誤差抽出処理部48に出力する。
【0102】
誤差抽出処理部48は、総合操作量vacに対して、(数23)で示されるような誤差抽出演算処理を実行し、ゲイン誤差率gerror:1~gerror:N-1を求め、積分処理部50に出力する。
【0103】
【0104】
ゲイン誤差率gerror:1およびgerror:N-1は、外乱信号Δ1~ΔNを正則行列Aの逆行列によって変換して得られる直交関数列φ1~φN-1のそれぞれに対応する誤差成分に相当する。この誤差成分は、総合操作量vに外乱信号Δ1~ΔNが重畳されたことによって外乱重畳信号に含まれることとなった誤差に対応する。誤差成分としてのゲイン誤差率gerror:1~gerror:N-1は、(数23)によって総合操作量vから抽出される。
【0105】
積分処理部50は、ゲイン誤差率g
error:1~g
error:N-1のそれぞれを所定時間に亘って時間積分し、これによって得られた時間積分値に所定の比例係数を乗じてゲイン補正量K
d1~K
dN-1を求め、N-1相N相変換部52に出力する。
図5では、ラプラス変換におけるs領域で積分演算が表現されている。N-1相N相変換部52は、ゲイン補正量K
d1~K
dN-1に対して、(数24)に示されるようなN―1相N相変換を行い、N相のゲイン補正量K
c1~K
cNを求め、関数処理部54に出力する。
【0106】
【0107】
ここで、Aの右上に付されている「t」の符号は、Aの転置行列であることを示し、「-1」の符号はAtの逆行列であることを示す。
【0108】
関数処理部54は、ゲイン補正量Kc1~KcNのそれぞれを、単調増加関数h(x)の独立変数xに代入して得られる操作量補正係数K1~KNを求める。ここで、単調増加関数h(x)には、例えば、指数関数exp(x)が用いられてよい。
【0109】
このように、積分処理部50、N-1相N相変換部52および関数処理部54は、総合操作量vの誤差成分に基づいて、N個の外乱重畳信号のそれぞれに対する補正係数を求める補正係数決定処理を実行し、操作量補正係数K1~KNを求める。
【0110】
乗算器34-1~34-Nは、外乱重畳信号v1~vNに対して、操作量補正係数K1~KNを用いた補正処理を施し、操作量u1~uNを生成する。すなわち、乗算器34-1~34-Nは、外乱重畳信号v1~vNに、それぞれ操作量補正係数K1~KNを乗じて、操作量u1~uNを生成し、それぞれ、スイッチング制御部22-1~22-Nに出力する。スイッチング制御部22-1~22-Nは、(数3)に基づいてそれぞれ位相差δ1~δNを求める。スイッチング制御部22-1~22-Nは、それぞれ、電力変換回路10-1~10-Nを位相差δ1~δNで制御する。
【0111】
制御値演算部20bは、総合電流Ioutと電流指令値Irefに基づいて、操作量u1~uNを求める処理を、所定のフィードバック周期で繰り返し実行する。スイッチング制御部22-1~22-Nは、時間経過と共に順次求められた操作量u1~uNに基づいて、電力変換回路10-1~10-Nを制御する。これによって、電力変換回路10-1~10-Nが出力する電流I1~INは、同一の値に収束して均一化される。
【0112】
この制御に用いられる電流計は、総合電流Ioutを測定するもののみでよい。したがって、電力変換システム108で用いられる電流計の数が削減され、構成が単純化される。
【0113】
また、上記のように、電力変換回路10-1~10-Nのそれぞれが備える1次側スイッチング回路12のインダクタL1が1つの第1コネクタを構成し、電力変換回路10-1~10-Nのそれぞれが備える2次側スイッチング回路14のインダクタL2が1つの第2コネクタを構成した場合、第1コネクタと第2コネクタがずれて結合してしまうことがある。本実施形態によれば、第1コネクタと第2コネクタに結合ずれが生じ、各電力変換回路におけるトランス15の結合係数等にバラツキが生じた場合であっても、各電力変換回路に入力される電流、または各電力変換回路から出力される電流は均一化される。
【0114】
電力変換回路10-1~10-Nが出力する電流I1~INが同一の値に収束する原理について説明する。総合電流Ioutが電流指令値Irefに追従している場合、(数9)を一般化した式として、(数25)が成立する。
【0115】
【0116】
外乱信号Δ1~ΔNとして総和が0であるものを用いることで、(数25)の右辺第3項は0になる。また、総合操作量vに対して高域通過フィルタ処理を施す場合には、(数25)の右辺第1項は0になる。これらの条件の下では、総合操作量vacを表す式として(数26)が得られる。
【0117】
【0118】
総合操作量vacから、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nを求める方法として、外乱信号Δ1~ΔNを直交関数列で表される信号とし、あるいは、直交関数列をなす各関数に定数を加えた関数列で表される信号とするものがある。この場合、ゲイン誤差率Gerror:i(i=1~N)は、総合操作量vacに含まれる外乱信号Δiの成分として求められる。
【0119】
外乱信号Δiは、正則行列Aおよび直交関数列φ1~φN-1を用いて(数27)のように表される。
【0120】
【0121】
(数27)を(数26)に代入することで、(数28)が得られる。
【0122】
【0123】
直交関数列の性質により、総合操作量vacに含まれる直交関数列φ1~φN-1の各成分gerror:1~gerror:N-1が、次の(数29)のように表される。
【0124】
【0125】
ゲイン誤差率の総和は0であるため、正則行列AのN列目を全て等しい値としておくことで(数30)が成立する。
【0126】
【0127】
(数29)および(数30)をまとめることで、(数31)が得られる。
【0128】
【0129】
(数31)をゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nについて解くことで、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nを表す(数32)が得られる。
【0130】
【0131】
(数32)には、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nが、ゲイン誤差率gerror:1~gerror:N-1と正則行列Aを用いて表されることが示されている。(数29)および(数32)から明らかなように、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nは、N-1個の直交関数列のそれぞれの成分を、総合操作量vacから抽出したものに基づいて表される。
【0132】
図5に示されている電力変換システム108では、総合操作量v
acからN-1相のゲイン誤差率g
error:1~g
error:N-1が抽出され、N-1相のゲイン誤差率g
error:1~g
error:N-1が時間積分されてN-1相のゲイン補正量K
d1~K
dN-1が求められる。さらに、N-1相N相変換部52によって、N-1相のゲイン誤差率g
error:1~g
error:N-1がN相のゲイン補正量K
c1~K
cNに変換され、ゲイン補正量K
c1~K
cNのそれぞれから、関数処理部54によってN相の操作量補正係数K
1~K
Nが求められる。
【0133】
このように、電力変換システム108では、N相のゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nが直接求められることはなく、N-1相のゲイン誤差率gerror:1~gerror:N-1が求められ、N-1相のゲイン誤差率gerror:1~gerror:N-1からN相の操作量補正係数K1~KNが求められる。N相の操作量補正係数K1~KNを求める処理に対しN-1相分の演算処理が行われるため、演算処理が簡略化される。
【0134】
このように、直接的に求められる値がN-1相分の値でよい理由は、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nの総和が0であるという制約があるためである。すなわち、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nのうち1つは、他のN-1個の値によって表され、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:Nは、実際にはN-1個の値の情報を有しているためである。
【0135】
直交関数列φ1~φN-1は、相互に直交する複数の三角関数であってよい。電力変換回路の個数が3つである場合、直交関数φ1およびφ2と、正則行列Aは、例えば(数33)によって次のように示される。
【0136】
【0137】
電力変換回路の個数が2つである場合、関数φ1と正則行列Aは、例えば(数34)によって次のように示される。
【0138】
【0139】
この場合、外乱信号は(数35)で表され、ゲイン誤差率Gerror:1およびGerror:2は(数36)で表される。
【0140】
【0141】
【0142】
電力変換回路の個数が4つである場合、直交関数列φ1~φ3と、正則行列Aは、例えば(数37)で表される。ここで、電力変換回路の個数が4以上である場合、直交関数列には、2倍周波数以上の関数が含められる。
【0143】
【0144】
電力変換回路の個数が5つである場合、直交関数列φ1~φ4と、正則行列Aは、例えば(数38)で表される。
【0145】
【0146】
図6には、本発明の第3実施形態に係る電力変換システム110の構成が示されている。電力変換システム110が備える制御値演算部20cは、外乱発生部33、重畳器32-1~32-4、乗算器34-1~34-3、操作量調整部60、誤差抽出処理部64、積分処理部68、および関数処理部70を備えている。
【0147】
外乱発生部33は、低域通過フィルタLPF1~LPF4および係数乗算器35-1~35-4を備えている。外乱発生部33は、外乱関数信号φ1~φ4を取得し、外乱関数信号φ1~φ4のそれぞれの高域周波数成分を低域通過フィルタLPF1~LPF4によって低減して、係数乗算器35-1~35-4にそれぞれ出力する。低域通過フィルタLPF1~LPF4は、外乱関数信号φ1~φ4のスルーレートを低下させるものである。外乱関数信号φ1~φ4のスルーレートを低下させることで、操作量u1~uNが繰り返し求められる際の外乱関数信号φ1~φ4への追従性が向上する。各係数乗算器35-1~35-4は、低域通過フィルタLPFによって低域通過フィルタ処理が施された外乱関数信号φ1~φ4に、調整係数Δを乗算して外乱信号Δ1~Δ4を生成し、それぞれ、重畳器32-1~32-4に出力する。
【0148】
外乱関数信号φ1~φ4は、(数39)で表される外乱関数によって表される信号であってよい。ただし、本実施形態では、(数39)においてN=4である。(数39)で表される外乱関数信号φkは直交信号である。
【0149】
【0150】
(数39)に示される外乱関数信号φ1~φ4については、1つの外乱関数信号の値が活性値となり、かつ、他の外乱関数信号の値が非活性値となる時間帯がある。ここで、活性値は√FNまたは-√FNであり、非活性値は0である。外乱関数信号φ1~φ4は、時間経過と共に1つずつ順に活性値となる。φ1~φNが順に活性値をとる状態が一巡する周期1/fは、操作量u1~uNが繰り返し求められるフィードバック周期よりも長くなるように決定されてよい。
【0151】
外乱関数信号φ1~φ4は、(数40)で表される外乱関数によって表される信号であってもよい。ただし、本実施形態では、(数40)においてN=4である。
【0152】
【0153】
(数40)に示される外乱関数信号φ1~φ4についても、1つの外乱関数信号の値が活性値となり、かつ、他の外乱関数信号の値が非活性値となる時間帯がある。ここで、活性値は1であり、非活性値は0である。外乱関数信号φ1~φ4は、時間経過と共に1つずつ順に活性値となる。φ1~φNが順に活性値をとる状態が一巡する周期1/fは、操作量u1~uNが繰り返し求められるフィードバック周期よりも長くなるように決定されてよい。
【0154】
重畳器32-1~32-4は、総合操作量vに外乱信号Δ1~Δ4をそれぞれ個別に加算し、外乱重畳信号v1~v4を、それぞれ、乗算器34-1~34-4に出力する。
【0155】
上記のように、外乱関数信号φ1~φ4については、1つの外乱関数信号の値が活性値となり、かつ、他の外乱関数信号の値が非活性値となる時間帯がある。そして、外乱関数信号φ1~φ4は、時間経過と共に1つずつ順に活性値となる。したがって、外乱重畳信号v1~v4は、時分割で、時間経過と共に順に外乱関数信号φ1~φ4に対応した値を有する。
【0156】
操作量調整部60は、高域通過フィルタHPFおよび係数乗算器62を備えている。高域通過フィルタHPFは、総合操作量vから直流成分を取り除いた総合操作量wacを生成する。係数乗算器62は、総合操作量vacに-4/Δを乗じて、総合操作量vac=-4vac/Δを誤差抽出処理部64に出力する。
【0157】
誤差抽出処理部64は、乗算器1-1~1-4、平均値演算部66および減算器2-1~2-4を備えている。乗算器1-1~1-4は、操作量調整部60から出力された総合操作量wacに、低域通過フィルタ処理が施された外乱関数信号φ1~φ4を個別に乗じて、乗算値としてゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:4を求める。平均値演算部66は、φ1vac~φ4vacの平均値Vmeanを求める。減算器2-1~2-4は、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:4のそれぞれからVmeanを減算したゲイン誤差率Ge1~Ge4を求め、積分処理部68に出力する。
【0158】
上記のように、外乱関数信号φ1~φ4については、1つの外乱関数信号の値が活性値となり、かつ、他の外乱関数信号の値が非活性値となる時間帯がある。そして、外乱関数信号φ1~φ4は、時間経過と共に1つずつ順に活性値となる。また、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:4は、総合操作量vacに、低域通過フィルタ処理が施された外乱関数信号φ1~φ4を個別に乗じて得られる値である。したがって、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:4の瞬時値は、外乱関数信号φ1~φ4のいずれかの成分が総合操作量vacから抽出された値となる。すなわち、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:4は、時分割で、時間経過と共に1つずつ順に外乱関数信号φ1~φ4に対応する値を有する。
【0159】
ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:4は、外乱信号Δ1~Δ4のそれぞれに対応する誤差成分に相当する。この誤差成分は、総合操作量vに外乱信号Δ1~Δ4が重畳されたことによって外乱重畳信号に含まれることとなった誤差に対応する。誤差成分としてのゲイン誤差率Ge1~Ge4は、誤差抽出処理部64によって総合操作量vacから抽出される。
【0160】
また、減算器2-1~2-4が、ゲイン誤差率Gerror:1~Gerror:4からVmeanを減算している理由は、ゲイン誤差率Ge1~Ge4の総和を0とするためである。
【0161】
積分処理部68は、ゲイン誤差率Ge1~Ge4のそれぞれを所定時間に亘って時間積分し、これによって得られた時間積分値に所定の係数を乗じてゲイン補正量Kc1~Kc4を求め、関数処理部70に出力する。関数処理部70は、ゲイン補正量Kc1~Kc4に対する指数関数値として、操作量補正係数K1~K4を求め、それぞれ、乗算器34-1~34-4に出力する。
【0162】
このように、積分処理部68および関数処理部70は、総合操作量vの誤差成分に基づいて、4つの外乱重畳信号のそれぞれに対する補正係数を求める補正係数決定処理を実行し、操作量補正係数K1~K4を求める。
【0163】
乗算器34-1~34-4は、外乱重畳信号v1~v4に対して、操作量補正係数K1~K4を用いた補正処理を施し、操作量u1~u4を生成する。すなわち、乗算器34-1~34-4は、外乱重畳信号v1~v4に、それぞれ操作量補正係数K1~K4を乗じて操作量u1~u4を生成し、それぞれ、スイッチング制御部22-1~22-4に出力する。スイッチング制御部22-1~22-4は、(数3)に基づいてそれぞれ位相差δ1~δ4を求める。スイッチング制御部22-1~22-4は、それぞれ、電力変換回路10-1~10-4を位相差δ1~δ4で制御する。
【0164】
制御値演算部20cは、総合電流Ioutと電流指令値Irefに基づいて、操作量u1~u4を求める処理を、所定のフィードバック周期で繰り返し実行する。スイッチング制御部22-1~22-4は、時間経過と共に順次求められた操作量u1~u4に基づいて、電力変換回路10-1~10-4を制御する。これによって、電力変換回路10-1~10-4が出力する電流I1~I4は、同一の値に収束して均一化される。
【0165】
この制御に用いられる電流計は、総合電流Ioutを測定するもののみでよい。したがって、電力変換システム110で用いられる電流計の数が削減され、構成が単純化される。
【0166】
図7および
図8には、第3実施形態に係る電力変換システム110について行ったシミュレーションの結果が示されている。各図における横軸は時間を示し、縦軸は電流を示す。(数1)で定義される電力変換回路10-1~10-4のゲインをそれぞれG
1~G
4とし、ゲインG
2を基準とした場合について、ゲインG
1が+10%、ゲインG
3が-10%、ゲインG
4が-20%と設定された。
図7に示されているように、電力変換回路10-1~10-4の正極出力端子Tp2から流出する電流I
1~I
4は、時間経過と共に同一値に向かって収束している。
【0167】
図8には、電流I
1~I
4が収束した後における電流I
1~I
4と、総合電流I
outが示されている。
図8の縦軸は、
図7の縦軸よりも引き伸ばされている。電流I
1~I
4のリプル率は1.4%であり、電流I
1~I
4に含まれるリプル成分は、互いに抑制し合うため、総合電流I
outのリプル率は、1.4%未満に抑制されている。
【0168】
上記では、並列型電力変換回路の並列端子TP2に流れる電流を総合電流Ioutとし、総合電流Ioutの測定値に基づいて、並列型電力変換装置を制御する実施形態が示された。このような制御の他、並列端子TG2に流れる電流、並列端子TP1に流れる電流または並列端子TG2に流れる電流を総合電流Ioutとし、総合電流Ioutの測定値に基づいて、同様の制御が並列型電力変換装置に対して行われてもよい。この場合、総合電流Ioutとされる電流が流れる端子に電流計13が接続される。
【0169】
[本発明の構成]
構成1:
並列接続された複数の電力変換回路における並列接続端に流れる電流の測定値と電流指令値との差異に基づいて、総合操作量を求める操作量決定処理と、
前記総合操作量に対し、複数の異なる外乱信号を個別に重畳して、複数の外乱重畳信号を生成する重畳処理と、
複数の異なる前記外乱信号に対応する1つまたは複数の成分を前記総合操作量から抽出し、複数の異なる前記外乱信号に対応する1つまたは複数の誤差成分を求める誤差抽出処理と、
前記誤差成分に基づいて、複数の前記外乱重畳信号のそれぞれに対する補正係数を求める補正係数決定処理と、
複数の前記外乱重畳信号のそれぞれに対して、前記補正係数を用いた補正処理を施して、複数の前記電力変換回路のそれぞれに対する操作量を求める操作量決定処理と、
を実行することを特徴とする電力変換回路制御装置。
構成2:
構成1に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記外乱信号は、直交関数列で表されることを特徴とする電力変換回路制御装置。
構成3:
構成2に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記外乱信号は、相互に直交する複数の三角関数で表されることを特徴とする電力変換回路制御装置。
構成4
構成1に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記外乱信号は、複数の外乱関数であって、1つの関数の値が活性値となり、かつ、他の関数の値が非活性値となる時間帯があり、時間経過と共に1つずつ順に活性値となる複数の外乱関数で表されることを特徴とする電力変換回路制御装置。
構成5:
構成4に記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記外乱信号は、
複数の前記外乱関数で表される複数の信号のそれぞれに対して、低域通過フィルタ処理を施して得られる複数の信号であることを特徴とする電力変換回路制御装置。
構成6:
構成4または構成5に記載の電力変換回路制御装置であって、
前記誤差抽出処理は、
前記総合操作量に基づく値に複数の前記外乱信号をそれぞれ乗算することで、各前記誤差成分を前記総合操作量から抽出する処理を含むことを特徴とする電力変換回路制御装置。
構成7:
構成4または構成5に記載の電力変換回路制御装置であって、
前記誤差抽出処理は、
前記総合操作量に基づく値に複数の前記外乱信号をそれぞれ乗算して得られた複数の乗算値の平均値を求め、複数の前記乗算値のそれぞれから前記平均値を減算することで、各前記誤差成分を求めることを特徴とする電力変換回路制御装置。
構成8:
構成1から構成7のいずれか1つに記載の電力変換回路制御装置であって、
前記補正係数決定処理は、
各前記誤差成分に対する時間積分を実行し、各前記誤差成分の時間積分値に基づく値を独立変数とする各単調増加関数に基づいて、各前記補正係数を求める処理を含むことを特徴とする電力変換回路制御装置。
構成9:
構成1から構成8のいずれか1つに記載の電力変換回路制御装置であって、
複数の前記電力変換回路のそれぞれに対する前記操作量に基づいて、各前記電力変換回路を制御するスイッチング制御部を備え、
各前記電力変換回路は、
トランスによって結合した1次側スイッチング回路および2次側スイッチング回路を備え、
前記スイッチング制御部は、
前記操作量に基づいて、前記1次側スイッチング回路のスイッチング位相と、前記2次側スイッチング回路の位相との差異を制御することを特徴とする電力変換回路制御装置。
【符号の説明】
【0170】
10-1~10-N 電力変換回路、12 1次側スイッチング回路、13 電流計、14 2次側スイッチング回路、15 トランス、2-1~2-4,16 減算器、18 比例積分制御器、20,20a,20b,20c,43 制御値演算部、22-1~22-N スイッチング制御部、24 加算合計器、30,31,33 外乱発生部、32-1~32-N 重畳器、1-1~1-4,34-1~34-N 乗算器、35-1~35-4,46,62 係数乗算器、36,48,64 誤差抽出処理部、38,50,68 積分処理部、40 2相3相変換部、42,54,70 関数処理部、44,60 操作量調整部、50 N-1相N相変換部、66 平均値演算部、100 並列型電力変換装置、102 電力変換回路制御装置、104,106,108 電力変換システム。