(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103124
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】打ち込み工具
(51)【国際特許分類】
B25C 5/06 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
B25C5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007293
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 聖展
(72)【発明者】
【氏名】寺本 真輝人
【テーマコード(参考)】
3C068
【Fターム(参考)】
3C068AA04
3C068BB01
3C068CC02
3C068CC07
3C068EE06
(57)【要約】
【課題】ガス圧でドライバを移動させてU字形のステープルを打ち込む打ち込み工具において、打ち込み時の反動によりドライバがステープルの頭部から外れていわゆるスキップオフを生じやすい。この場合、十分な打ち込みがなされず、被打ち込み材の傷つきが発生する。本開示ではスキップオフの発生を抑制して確実な打ち込み動作がなされ、被打ち込み材の傷つきが防止されるようにする。
【解決手段】打ち込み通路17に打ち込み方向に沿って設けられ、U字形の打ち込み具tの頭部thを摺動可能に案内する頭部案内面41と、頭部案内面41から工具本体の第1端面側に凹みかつ打ち込み方向に延出して打ち込み具tの両脚部tfが挿入される左右の脚部案内溝40を有する。脚部案内溝40に脚部tfを挿入した傾斜姿勢で打ち込み具tが打ち込まれることで反動時のスキップオフが回避される。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち込み工具であって、
工具本体の第1端面に沿って打ち込み方向に延出し、かつ前記第1端面と反対側からU字形の打ち込み具が供給される打ち込み通路と、
前記打ち込み通路に沿って移動して前記打ち込み具を押すドライバと、
前記打ち込み通路に前記打ち込み方向に沿って設けられ、前記打ち込み具の頭部を摺動可能に案内する頭部案内面と、
前記頭部案内面から前記工具本体の前記第1端面側に凹みかつ前記打ち込み方向に延出して、前記打ち込み具の2つの脚部が挿入される一対の脚部案内溝を有する打ち込み工具。
【請求項2】
請求項1記載の打ち込み工具であって、
前記脚部案内溝は、前記打ち込み具が射出される射出口から前記打ち込み通路に供給される最短の打ち込み具の脚部の先端の供給位置を超えて延出する打ち込み工具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の打ち込み工具であって、
前記脚部案内溝の深さが、前記打ち込み具の厚みの25%~200%である打ち込み工具。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記打ち込み通路に前記打ち込み具を供給するマガジンを備え、
前記マガジンに内装されて前記打ち込み具を前記打ち込み通路側に押すプッシャに、前記打ち込み具の前記頭部が当接することを回避する逃がし部を設けた打ち込み工具。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記一対の脚部案内溝の間に、前記ドライバに設けた突部が係合されて前記ドライバを前記打ち込み方向に案内する案内溝を設けた打ち込み工具。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
ガス圧により前記打ち込み方向に移動するピストンを有し、前記ピストンに前記ドライバが連結されており、
前記ドライバは、前記打ち込み方向に並ぶ複数の係合部を有し、
電動モータにより回転するリフタが前記複数の係合部に順次係合されて前記ドライバが初期位置に戻される打ち込み工具。
【請求項7】
請求項6記載の打ち込み工具であって、
前記ドライバは、前記打ち込み具を打撃する打撃部材と、前記複数の係合部を有しかつ前記打撃部材に対して重なるように接合される係合部材を有する打ち込み工具。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記脚部案内溝は、平坦な底面を有する断面矩形を有する打ち込み工具。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記工具本体に結合した基台部の前記第1端面側にドライバガイドが結合されて、前記ドライバガイドと前記基台部との間に前記打ち込み通路が形成されており、
前記ドライバガイドの前記基台部に対する対向面に前記頭部案内面と前記脚部案内溝が形成されている打ち込み工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、打ち込み具を被打ち込み材に打ち込むための打ち込み工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、圧縮エア駆動式のタッカが開示されている。タッカでは、圧縮エアのエア圧によりピストンが下動する。ピストンに打撃用のドライバが結合されている。ピストンの下動によりドライバが打ち込み通路内を移動してU字形の打ち込み具(ステープル)が打撃される。打撃された打ち込み具が打ち込み通路の先端(射出口)から打ち出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
U字形のステープルを射出するタッカでは、棒形の釘を射出する釘打機に比して打ち込み時の反動が大きく、いわゆるスキップオフ(打ち込み具の姿勢が不安定になって射出時にドライバが打ち込み具の頭部から外れる現象)を生じやすい。スキップオフが発生すると打ち込み力が不十分となって打ち込み不良を発生する。また、ドライバが押圧されることで被打ち込み材の傷つきが発生する。従来、打ち込み具が棒形の釘である打ち込み工具については打ち込み通路内の姿勢を傾かせることで射出時のスキップオフを抑制することが行われている。本開示では、ステープルを射出する打ち込み工具において、スキップオフが抑制されるようにすることでより安定した打ち込み動作を実現するとともに、被打ち込み材の傷つきを防止する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの局面によれば、打ち込み工具は、例えば工具本体の第1端面に沿って打ち込み方向に延出し、かつ第1端面と反対側からU字形の打ち込み具が供給される打ち込み通路を有する。打ち込み工具は、例えば打ち込み通路に沿って移動して打ち込み具を押すドライバと、打ち込み通路に打ち込み方向に沿って設けられ、打ち込み具の頭部を摺動可能に案内する頭部案内面を有する。打ち込み工具は、例えば頭部案内面から工具本体の第1端面側に凹みかつ打ち込み方向に延出して、打ち込み具の2つの脚部が挿入される一対の脚部案内溝を有する。
【0006】
従って、打ち込み具は脚部の先端側を第1端面側に変位させた傾斜姿勢で射出される。これにより射出時の反動により射出口が第1端面側に変位してドライバの下動方向が打ち込み具の傾斜姿勢にほぼ一致する状態となってスキップオフが発生しにくくなる。スキップオフが発生しにくくなることで確実な打ち込み力が発揮されて打ち込み動作の安定化が図られる。また、ドライバの打撃による被打ち込み材の傷つきが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】打ち込みノーズ部を
図1中矢印II方向から見た前面図である。本図は、ドライバが上方の待機位置に位置する状態を示している。
【
図3】打ち込みノーズ部を
図1中矢印II方向から見た前面図である。本図は、ドライバが下動端に位置する状態を示している。
【
図5】
図4中V-V線断面矢視図であって、工具本体及び打ち込みノーズ部の縦断面図である。
【
図8】ドライバガイドの斜視図である。本図は下斜め後方から見た状態を示している。
【
図9】打ち込みノーズ部の縦断面図である。本図は、打ち込み具の射出当初であって、脚部の先端が被打ち込み材に進入し始めた状態を示している。
【
図10】打ち込みノーズ部の縦断面図である。本図は、打ち込み時の反動により打ち込みノーズ部が矢印D方向に変位した打ち込み工具の傾斜姿勢を示している。
【
図11】打ち込みノーズ部の縦断面図である。本図は、傾斜姿勢の打ち込み工具により打ち込み具が完全に打ち込まれた状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば脚部案内溝は、打ち込み具が射出される射出口から打ち込み通路に供給される最短の打ち込み具の脚部の先端の供給位置を超えて延出する。従って、全てのサイズの打ち込み具について脚部が脚部案内溝に進入した傾斜姿勢で射出される。これにより全てのサイズの打ち込み具についてスキップオフの発生が抑制される。
【0009】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば脚部案内溝の深さが、打ち込み具の厚みの25%~200%である。従って、種々厚みの打ち込み具について脚部が脚部案内溝に進入されて十分な角度の傾斜姿勢で射出される。これによりスキップオフの抑制が確実になされる。
【0010】
1つ又はそれ以上の実施態様において、打ち込み工具は、例えば打ち込み通路に打ち込み具を供給するマガジンを備える。例えば、マガジンに内装されて打ち込み具を打ち込み通路側に押すプッシャに、打ち込み具の頭部が当接することを回避する逃がし部を設けた。従って、頭部がプッシャで押されないことで打ち込み具の脚部を第1端面側に変位させた確実な傾斜姿勢が得られる。
【0011】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば一対の脚部案内溝の間に、ドライバに設けた突部が係合されてドライバを打ち込み方向に案内する案内溝を設けた。従って、ドライバが案内溝により打ち込み方向に案内される。案内溝の配置がコンパクトになされる。
【0012】
1つ又はそれ以上の実施態様において、打ち込み工具は、例えばガス圧により打ち込み方向に移動するピストンを有し、ピストンにドライバが連結されている。例えばドライバは、打ち込み方向に並ぶ複数の係合部を有し、電動モータにより回転するリフタが複数の係合部に順次係合されてドライバが初期位置に戻される。従って、空気バネ式の充電タッカについてスキップオフが抑制される。
【0013】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えばドライバは、打ち込み具を打撃する打撃部材と、複数の係合部を有しかつ打撃部材に対して重なるように接合される係合部材を有する。従って、空気バネ式の充電タッカにおいて、ドライバの製作コストを抑制しつつ打撃部材の幅広化を図ってより幅広のステープを打ち込み可能とすることが容易になる。
【0014】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば脚部案内溝は、平坦な底面を有する断面矩形を有する。従って、脚部案内溝の加工コストの低減が図られる。
【0015】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば工具本体に結合した基台部の第1端面側にドライバガイドが結合されて、ドライバガイドと基台部との間に打ち込み通路が形成されている。ドライバガイドの基台部に対する対向面に頭部案内面と脚部案内溝が形成されている。従って、頭部案内面と脚部案内溝が打ち込みノーズ部にコンパクトに配置される。打ち込みノーズ部の構成の簡略化が図られる。
【実施例0016】
本開示の実施例では、打ち込み工具1の一例として、シリンダ上方の蓄圧室14のガス圧を打ち込み具tを打ち込むための推力として利用するガスばね式の充電式タッカを例示する。
図2,3に示すように打ち込み具tには例えばU字形のステープルが適用される。打ち込み具tは、頭部thと、2つの脚部tfを有する。2つの脚部tfは頭部thの両端から同じ方向へ相互にほぼ平行に延びている。後述するドライバ20により頭部thを打撃されて脚部tfから被打ち込み材Wに打ち込まれる。
【0017】
以下の説明では、打ち込み具tの打ち込み方向を下方向とし、反打ち込み方向を上方向とする。打ち込み工具1の使用者は、
図1において打ち込み工具1の右側(グリップ3側)に位置する。使用者の手前側を後方向(使用者側)、手前側と反対側を前方向とする。左右方向についてはグリップ3を把持した使用者を基準とする。
【0018】
図1~3に示すように打ち込み工具1は、工具本体10を有する。工具本体10は前端面10aを有する。工具本体10は、概ね角筒形の本体ハウジング11にシリンダ12を収容した構成を有する。シリンダ12内にはピストン13が上下に往復動可能に収容される。ピストン13よりも上方のシリンダ12の上部は、蓄圧室14に連通される。蓄圧室14には、例えば空気等の圧縮ガスが封入される。蓄圧室14のガス圧は、ピストン13の上面に下動させる推力として作用する。
【0019】
工具本体10の下部に打ち込みノーズ部15が設けられている。打ち込みノーズ部15はドライバガイド16とコンタクトアーム16aを備える。ドライバガイド16は、工具本体10の下面に支持した基台部16bの前面に重ね合わせるようにねじ結合されている。ドライバガイド16と基台部16bとの間に打ち込み通路17が設けられている。打ち込み通路17はシリンダ12の内周側に連通されている。打ち込み通路17は工具本体10の前端面10a(第1端面)に沿って延在される。打ち込み通路17内を長尺のドライバ20が上下に往復動可能に進入される。コンタクトアーム16aを被打ち込み材Wに押し付けて相対的に上動させることでスイッチレバー4の引き操作が有効になる。
【0020】
打ち込みノーズ部15の後面側(工具本体10の前端面10aとは反対側)にマガジン2が結合されている。マガジン2に多数本の打ち込み具tが装填される。
図4に示すように多数本の打ち込み具tは相互に並列に仮止めされた連結打ち込み具として装填される。多数本の打ち込み具tは、圧縮ばね2bにより付勢されたプッシャ2aにより打ち込み通路17側に押される。プッシャ2aの上部には、打ち込み具tの頭部thに当接することを回避するための逃がし部2cが設けられている。このため打ち込み具tはプッシャ2aにより主として脚部tfを押されることで打ち込み通路17に供給される。ドライバ20が上方の待機位置に戻されると、打ち込み通路17内に1つの打ち込み具tが供給される。打ち込み通路17内に供給された1つの打ち込み具tの頭部thが下動するドライバ20で打撃される。
【0021】
工具本体10の後面側に使用者が把持するグリップ3が設けられる。グリップ3の前部下面には、使用者が指先で引いて操作する起動用のスイッチレバー4が設けられる。グリップ3の後部にバッテリ取付部5が設けられている。バッテリ取付部5の後面に、バッテリパック6が装着される。バッテリパック6は上下にスライドさせることでバッテリ取付部5に対して着脱できる。バッテリパック6は、バッテリ取付部5から取り外して別途用意した充電器で充電することで繰り返し使用できる。バッテリパック6は、他の電動工具の電源としても利用できる汎用性を有する。バッテリパック6の電力を電源として後述するリフト機構30の電動モータ31が動作する。
【0022】
図2,3に示すようにシリンダ12の下部に、ピストン13の下動端での衝撃を吸収するための下動端ダンパ19が配置される。ピストン13の下面中心にドライバ20が結合されている。ドライバ20はピストン13の下面から下方へ長く延びている。ドライバ20の打ち込み方向の先端側(下部側)は下動端ダンパ19の内周側を経て打ち込み通路17内に進入している。ドライバ20は、ピストン13の上面に作用する蓄圧室14のガス圧によって打ち込み通路17内を下動する。打ち込み通路17内を下動するドライバ20の先端(下端)が打ち込み通路17内に供給された1本の打ち込み具tの頭部thを打撃する。打撃された打ち込み具tが射出口18から射出される。射出された打ち込み具tは被打ち込み材Wに打ち込まれる。
【0023】
図1に示すようにグリップ3の下方にリフト機構30が設けられる。工具本体10の後面とバッテリ取付部5の下部との間に跨ってリフト機構30が設けられている。リフト機構30は駆動源として電動モータ31を有する。電動モータ31の前方に減速ギア列32を介して1つのリフタ33が支持されている。減速ギア列32の出力軸35にリフタ33が支持されている。減速ギア列32の出力軸35は軸受を介してリフタハウジング38に回転可能に支持されている。リフタハウジング38内にリフタ33が支持されている。
【0024】
ドライバ20の右側部に、複数(図では6個)の係合部22aが設けられている。各係合部22aは、右方に突き出すラック歯形状を有している。複数の係合部22aはドライバ20の長手方向(上下方向)に一定の間隔で配置される。複数の係合部22aに、リフト機構30のリフタ33が順次係合される。
【0025】
ドライバ20の右側方にリフタ33が配置されている。リフタ33は、ドライバ20の係合部22aに順次係合される複数(例えば6個)の係合ピン34を有する。各係合ピン34には、円柱形の軸部材が用いられている。複数の係合ピン34は、リフタ33の外周縁に沿って一定間隔をおいて配置されている。回転方向の最初の係合ピン34と最終の係合ピン34との間には回転方向の大きな間隔(係合ピン34が存在しない領域)が設けられている。この間隔がドライバ20側に向けられると、ドライバ20の係合部22aに対するリフタ33の係合状態が解除される。
図2は、係合状態が解除される直前の待機状態を示している。
図3は係合状態が解除された打ち込み状態を示している。
【0026】
電動モータ31の起動によりリフタ33が矢印Rの方向(
図2,3において反時計回り方向)に回転する。
図3に示すようにドライバ20が下動端に至った後、リフタ33の矢印R方向の回転により、係合ピン34が順次ドライバ20の係合部22aに下方から係合されることでドライバ20が上方へ戻される。リフト機構30によりピストン13が上方へ戻されることで、蓄圧室14のガス圧が高められる。ドライバ20が
図2に示す待機位置に戻されると、電動モータ31が停止して一連の打ち込み動作が終了する。
【0027】
再度スイッチレバー4が引き操作されると、リフト機構30が再起動する。これによりリフタ33が矢印R方向に回転してドライバ20の係合部22aに対するリフタ33の係合が外れる。これによりドライバ20がピストン13に作用する蓄圧室14のガス圧により下動する。ドライバ20が打ち込み通路17を下動することで、打ち込み具tが打撃されて被打ち込み材Wに打ち込まれる。
【0028】
ドライバ20は、打撃部材21と係合部材22を接合して一体化した2部材接合構造を有する。打撃部材21と係合部材22は例えば銅ロウ接や溶接により強固に接合されている。係合部材22の上部にピストン13に対する結合部22bが設けられている。ピストン13の下面中央に二股状の連結部13aが設けられている。連結部13aに結合部22bが挿入されて連結ピン13bが差し込まれることで係合部材22がピストン13の下面に結合されている。係合部材22の右側部に前記した6つの係合部22aが設けられている。
【0029】
打撃部材21は係合部材22の長手方向中程から打ち込み方向の先端側に突き出す長さを有している。打撃部材21は、係合部材22の係合部22aを除く幅よりも小さい幅の帯板形状を有する。打撃部材21の前面には突部21aが設けられている。突部21aは幅方向中央に沿って打撃部材21の長手方向に長く延在されている。打撃部材21の先端の打撃面20aで打ち込み具tの頭部thが打撃される。
【0030】
図2,3に示すように打ち込み通路17内には、打撃部材21を通過させる案内壁部17aと、係合部材22を通過させる逃がし通路17bが設けられている。逃がし通路17bは、打ち込み通路17(案内壁部17a)の右側部に沿って設けられている。
【0031】
図6~8に示すように打ち込み通路17の前面に、打ち込み具tの脚部tfを案内するための脚部案内溝40が設けられている。脚部案内溝40は、打ち込み具tの2つの脚部tfを進入させるため左右一対に設けられている。2つの脚部案内溝40は、工具本体10の前端面10a(第1端面)側に凹んで設けられている。2つの脚部案内溝40は、それぞれ平坦な底面を有する断面矩形を有して、相互に平行に設けられている。脚部案内溝40は、マガジン2に装填可能な最短の打ち込み具tの供給位置に対応して上側の起点が設定されている。このため、マガジン2に装填可能な長短全てのサイズの打ち込み具tについて両脚部tfの先端が脚部案内溝40に進入される。2つの脚部案内溝40の下側の終点は射出口18に至っている。
【0032】
図7に示すように2つの脚部案内溝40の間に一段高い頭部案内面41が設けられている。頭部案内面41は左右方向に一定の間隔をおいて打ち込み通路17の全領域に沿って設けられている。左右2つの頭部案内面41は相互に平行に設けられている。マガジン2から打ち込み通路17内に供給された打ち込み具tの頭部thが2つの頭部案内面41に跨って摺動可能に当接される。本実施例では、ドライバガイド16の基台部16bに対する対向面(後面)に脚部案内溝40と頭部案内面41が設けられている。
【0033】
打ち込み具tは、頭部thを頭部案内面41に当接させ、両脚部tfの先端を脚部案内溝40内に進入させた状態で打ち込み通路17に供給される。従って、
図6に示すように打ち込み具tは、脚部tfの先端側を頭部thよりも前方へ変位させた傾斜姿勢で打ち込み通路17内に供給される。プッシャ2aの上部に逃がし部2cが設けられていることから、打ち込み具tは頭部thではなく脚部tfをプッシャ2aにより直接押されて打ち込み通路17内に供給される。これにより、打ち込み通路17内における打ち込み具tの傾斜姿勢が確実に得られる。打ち込み具tはこの傾斜姿勢でドライバ20により打撃されて打ち出される。
【0034】
頭部案内面41からの脚部案内溝40の深さは、打ち込み具tの厚みの例えば100パーセントに設定されている。これにより打ち込み具tのドライバ20の下動方向に対する明確な傾斜姿勢が得られるようになっている。
【0035】
2つの頭部案内面41の間には一段低いドライバ案内溝42が設けられている。ドライバ案内溝42には打撃部材21の前面に設けた突部21aが進入される。これによりドライバ20の打撃部材21が打ち込み通路17内を上下に案内される。
【0036】
打ち込み具tの傾斜姿勢は、ドライバ20の下動方向(打ち込み方向)に対して脚部tfの先端側を前方(工具本体10の前端面側)へ変位させた傾斜姿勢に相当する。このため打ち込み具tは
図9に示すようにドライバ20の下動方向に対して傾斜姿勢で打ち出される。
【0037】
図10に示すように打ち込み具tの打ち込みが進行すると、反動により打ち込み工具1が浮き上がる方向に変位する。この場合打ち込み工具1は打ち込みノーズ部15を前方へ変位させる方向(図中矢印D方向)に僅かに傾きながら浮き上がる。
図10は、浮き上がる前の状態を示している。従って、
図10では脚部案内溝40の底面の延長線(図中一点鎖線)に対して打ち込み具tが依然として傾斜姿勢であることが示されている。
図10中の一点鎖線はドライバ20の下動方向に平行である。従ってドライバ20の下動方向に対して傾斜した姿勢で打ち込み具tの打ち込みが進行する。
【0038】
図10に示す反動発生時には打ち込み具tの頭部th側が打ち込み通路17に案内された状態となっている。打ち込み時の反動により打ち込み工具1が矢印D方向に傾くことにより傾斜姿勢で射出された打ち込み具tの打ち込み方向にドライバ20の下動方向がほぼ一致した状態となって、両者の傾きが概ね解消された状態となる。
図11はこの状態を示している。このため、ドライバ20の下動方向が打ち込み具tの脚部tfの長手方向に概ね一致した状態で打ち込みが進行する。
【0039】
図11に示すように打ち込みノーズ部15が僅かに傾いた状態でドライバ20が下動端まで移動して打ち込み具tが被打ち込み材Wに打ち込まれる。ドライバ20の下動方向が打ち込み具tの脚部tfの長手方向(打ち込み方向)に一致していることから、打ち込み完了時点においてドライバ20の打撃面20aが打ち込み具tの頭部thから外れる現象(いわゆるスキップオフ)が回避される。これにより、打ち込み具tが最後まで確実に打ち込まれるとともに、ドライバ20による被打ち込み材Wの傷つきが防止される。
【0040】
以上説明した実施例によれば、打ち込み通路17の前面に打ち込み具tの脚部tfが挿入される左右一対の脚部案内溝40と、打ち込み具tの頭部thが摺動可能に当接される頭部案内面41を有する。このため、打ち込み通路17内に供給された1つの打ち込み具tは、射出当初の段階では脚部tfの先端側を前面側(工具本体10の第1端面側)に変位させた傾斜姿勢で射出される。
【0041】
その後射出時の反動により射出口18が第1端面側(
図10中矢印Dで示す方向)に変位する。この反動発生時では、打ち込み具tの頭部th側が打ち込み通路17に保持されている。その結果、ドライバ20の下動方向が打ち込み具tの脚部tfの長手方向に概ね一致した状態で打ち込みが進行することでスキップオフが発生しにくくなる。スキップオフが発生しにくくなることで確実な打ち込み力が発揮されて打ち込み動作の安定化が図られる。また、被打ち込み材の傷つきが防止される。
【0042】
実施例によれば、脚部案内溝40は、打ち込み具tが射出される射出口18から打ち込み通路17に供給される最短の打ち込み具tの両脚部tfの先端より上方位置を起点とする。従って、全てのサイズの打ち込み具tについて脚部tfが脚部案内溝40に進入した傾斜姿勢で射出される。これにより全てのサイズの打ち込み具tについてスキップオフの発生が抑制される。
【0043】
実施例によれば、脚部案内溝40の深さが、打ち込み具tの厚みの25%~200%である。従って、種々厚みの打ち込み具tについて脚部tfが脚部案内溝40に進入されて十分な角度の傾斜姿勢で射出される。これによりスキップオフの抑制が確実になされる。
【0044】
実施例によれば、マガジン2のプッシャ2aに、打ち込み具tの頭部thが当接することを回避するための逃がし部2cが設けられている。従って、頭部thがプッシャ2aで押されないことで打ち込み具tの脚部tfを打ち込み通路17の前面側(第1端面側)に変位させた確実な傾斜姿勢が得られる。
【0045】
実施例によれば、左右の脚部案内溝40の間にドライバ20を打ち込み方向に案内するドライバ案内溝42が設けられている。従って、ドライバ20がドライバ案内溝42により打ち込み方向に案内される。ドライバ案内溝42の配置がコンパクトになされる。
【0046】
実施例によれば、打ち込み工具1は、ガス圧により打ち込み方向に移動するピストン13を有し、ピストン13にドライバ20が連結されている。従って、ガス圧により打ち込み具tを打ち込む空気バネ式の例えば充電タッカやエアタッカについてスキップオフが抑制される。
【0047】
実施例によれば、ドライバ20は、打ち込み方向に並ぶ複数の係合部22aを有し、電動モータ31により回転するリフタ33が複数の係合部22aに順次係合されてドライバ20が初期位置に戻される。従って、空気バネ式の充電タッカについてスキップオフが抑制される。
【0048】
実施例によれば、ドライバ20は、打ち込み具tを打撃する打撃部材21と、複数の係合部22aを有しかつ打撃部材21に対して重なるように接合される係合部材22を有する。従って、空気バネ式の充電タッカにおいて、ドライバ20の製作コストを抑制しつつ打撃部材21の幅広化を図ってより幅広のステープルを打ち込み可能とすることが容易になる。
【0049】
実施例によれば、脚部案内溝40は、平坦な底面を有する断面矩形を有する。従って、脚部案内溝40の加工コストの低減が図られる。
【0050】
実施例によれば、工具本体10の下面に結合した基台部16bの前面側(第1端面側)にドライバガイド16が重ね合わされて、ドライバガイド16と基台部16bとの間に打ち込み通路17が形成されている。ドライバガイド16の重ね合わせ面(打ち込み通路17の前面)に脚部案内溝40と頭部案内面41とが形成されている。従って、脚部案内溝40と頭部案内面41とが打ち込みノーズ部15にコンパクトに配置される。これにより打ち込みノーズ部15の構成の簡略化が図られる。
【0051】
実施例には種々変更を加えることができる。例えば打撃部材21の前面側に係合部材22を接合した2部材接合構造のドライバ20を例示したが、打撃部材の側部に複数の係合部を設けた一体形のドライバについても例示した打ち込み具tの案内構造を適用できる。
【0052】
打ち込み工具1としてガス圧を打撃のための推力として利用するガスバネ式の充電式タッカを例示したが、圧縮ばねの付勢力を打撃のための推力として利用する機械バネ式の充電式タッカについても例示した打ち込み工具1の案内構造を適用できる。
【0053】
ドライバ案内溝42は省略してもよい。
【0054】
脚部案内溝40の頭部案内面41からの深さは、打ち込み具tの厚みの25~200パーセントの範囲で変更可能である。打ち込み時の反動の大きさにより脚部案内溝40の深さを適切に設定することでスキップオフがより確実に抑制される。
【0055】
実施例の打ち込み工具1が本開示の1つの局面における打ち込み工具の一例である。実施例の工具本体10が本開示の1つの局面における工具本体の一例である。実施例の前端面10aが本開示の第1端面の一例である。実施例の打ち込み具tが本開示の1つの局面における打ち込み具の一例である。実施例の打ち込み通路17が本開示の1つの局面における打ち込み通路の一例である。
【0056】
実施例のドライバ20が本開示の1つの局面におけるドライバの一例である。実施例の頭部thが本開示の1つの局面における頭部の一例である。実施例の頭部案内面41が本開示の1つの局面における頭部案内面の一例である。実施例の脚部tfが本開示の1つの局面における脚部の一例である。実施例の脚部案内溝40が本開示の1つの局面における脚部案内溝の一例である。