IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アンリツ株式会社の特許一覧

特開2024-103137導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ
<>
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図1
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図2
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図3
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図4
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図5
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図6
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図7
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図8
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図9
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図10
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図11
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図12
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図13
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図14
  • 特開-導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103137
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/04 20060101AFI20240725BHJP
   H01P 3/123 20060101ALI20240725BHJP
   H01P 1/12 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H01P5/04 601D
H01P3/123
H01P1/12
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007313
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武元 佑紗
(72)【発明者】
【氏名】待鳥 誠範
(57)【要約】
【課題】標準導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑える。
【解決手段】標準的な第1導波管10とギャップ導波管40との導波管接続構造であり、ギャップ導波管40の固定ブロック20は、上面20cにて導波路形成溝21を挟んで導波路形成溝21の両側に複数の第1金属ピン22が周期的に配列され、可動ブロック30は、複数の第1金属ピンと導波路形成溝の上を覆う下面30cとを有し、第1導波管の第1端面には、第1導波路の開口11aを取り囲む環状凹部19が設けられ、環状凹部において開口から離間して開口を取り囲むように複数の第2金属ピン14が周期的に配列され、開口と複数の第2金属ピンの間のエリア17に開口を挟んで開口の長辺側に対向して配置された一対の長辺側突部15,15と開口を挟んで開口の短辺側に対向して配置された一対の短辺側突部16,16とが形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導波管(10)と第2導波管(40)との導波管接続構造(100)であって、
前記第1導波管は、第1端面(10a)から該第1端面に対向する第2端面(10b)に貫通した第1導波路(11)が形成され、
前記第2導波管は、固定ブロック(20)と可動ブロック(30)とを含み、
前記固定ブロックは、前記第1導波管の前記第1端面に対して所定の間隔(G)を開けて平行に対向する第3端面(20a)と該第3端面に対向する第4端面(20b)とを有し、上面(20c)に前記第3端面から前記第4端面に至る導波路形成溝(21)が設けられ、前記上面にて前記導波路形成溝を挟んで前記導波路形成溝の両側に複数の第1金属ピン(22)が周期的に配列され、
前記可動ブロックは、前記第1導波管の前記第1端面に対して前記所定の間隔(G)を開けて平行に対向する第5端面(30a)と、該第5端面に対向する第6端面(30b)と、前記固定ブロックの前記複数の第1金属ピンの上面から離間して前記複数の第1金属ピンと前記導波路形成溝の上を覆う下面(30c)とを有し、前記導波路形成溝上に第2導波路(41)を有する前記第2導波管を形成し、
前記第1導波管の前記第1端面には、前記第1導波路の開口(11a)を取り囲む環状凹部(19)が設けられ、前記環状凹部において前記開口から離間して前記開口を取り囲むように複数の第2金属ピン(14)が周期的に配列され、前記開口と前記複数の第2金属ピンの間のエリア(17)に前記開口を挟んで前記開口の長辺側に対向して配置された一対の長辺側突部(15,15)と前記開口を挟んで前記開口の短辺側に対向して配置された一対の短辺側突部(16,16)とが形成されている、導波管接続構造。
【請求項2】
前記複数の第2金属ピンと前記一対の長辺側突部と前記一対の短辺側突部は、各々、漏出防止対象周波数帯の中心周波数に対応する中心波長の1/4に相当する同一の高さを有する、請求項1に記載の導波管接続構造。
【請求項3】
前記長辺側突部は、前記第1導波路の前記開口の長辺に隣接する開口隣接面(15b)と、前記第1導波路の長手方向から見た平面視で前記開口隣接面の両端部から前記長辺に対して所定角度傾斜した傾斜面(15a,15a)とを有する、請求項2に記載の導波管接続構造。
【請求項4】
前記環状凹部の前記エリアにおいて、前記第1導波路の前記開口の角部に対応して開放空間(17a)が形成されている、請求項3に記載の導波管接続構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の導波管接続構造(100)と、
前記固定ブロックの前記第4端面及び前記可動ブロックの前記第6端面に対して所定の間隔(G)を開けて平行に対向する第7端面(50a)と該第7端面に対向する第8端面(50b)とを有し、前記第7端面(50a)から前記第8端面(50b)に貫通した第3導波路(51)が形成された第3導波管(50)と、
前記可動ブロックをスライド移動させる駆動装置(60)と、
を備え、
前記可動ブロックの前記下面(30c)には、前記複数の第1金属ピンの列間を移動可能なサイズの突起部(31)が設けられ、
前記駆動装置は、前記可動ブロックの前記突起部が前記第2導波路を基準に前記複数の第1金属ピンより外側の格納領域に位置するON状態と、前記可動ブロックの前記突起部が前記第2導波路内に位置するOFF状態との間で切り替え可能なように、前記可動ブロックをスライド移動させる、導波管スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
今後更なる増大が予想されるモバイルトラフィックに対応するため、数十Gbps級の伝送速度を実現することが可能なミリ波・テラヘルツ波帯を無線通信に利用することが強く求められており、例えばIEEE802.15.3dでは、252~325GHzの使用が検討されている。
【0003】
例えば、WR-3帯域(220~325GHz)の電磁波を伝搬させる伝搬経路としては、内寸が0.864mm×0.432mmの方形導波管が用いられる。このような方形導波管を用いた各種装置では、入出力の導波管の間に、少なくとも1つの導波路を備えた可動部を配置し、これをスライドさせて電磁波の伝搬経路を切り替えるようになっている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に開示された従来のスライド式導波管スイッチにおいては、入出力の導波管と可動部との間に、機械的な摩耗を抑制するための隙間がそれぞれ設けられており、入出力の導波管の開口と可動部の導波路の開口には、これらの隙間からの電磁波の漏洩を低減するための長方形のチョーク溝が設けられている。
【0005】
また、特許文献2に開示された従来のスライド式導波管スイッチにおいては、入出力の導波管の間に設けられる可動部に、導波路の両側に金属ピンが周期的に配置されたいわゆるギャップ導波管(Gap Waveguide)が採用され、可動部での機械的な摩耗を抑制する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6185455号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0381793号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された従来のスライド式導波管スイッチでは、広帯域のチョーク溝が設けられていても、可動部の導波路の位置が所定の停止位置からずれると、このずれに起因した意図しない反射点が生じてしまう。その結果、わずかな導波路の位置ずれによって反射特性及び透過特性が敏感に変化し、例えば透過特性に落ち込みが発生するなど、広帯域性が著しく損なわれ得るという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された従来のスライド式導波管スイッチでは、可動部にギャップ導波管が用いられているものの、可動部の導波路が所定の停止位置からずれ得るという、特許文献1と同様の問題を抱えている上に、入出力の導波管とギャップ導波管の接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることに関して考慮されていなかった。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、標準的な入出力の導波管と可動部のギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる導波管接続構造及びこれを用いた広帯域性に優れた導波管スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る導波管接続構造は、第1導波管(10)と第2導波管(40)との導波管接続構造(100)であって、前記第1導波管は、第1端面(10a)から該第1端面に対向する第2端面(10b)に貫通した第1導波路(11)が形成され、前記第2導波管は、固定ブロック(20)と可動ブロック(30)とを含み、前記固定ブロックは、前記第1導波管の前記第1端面に対して所定の間隔(G)を開けて平行に対向する第3端面(20a)と該第3端面に対向する第4端面(20b)とを有し、上面(20c)に前記第3端面から前記第4端面に至る導波路形成溝(21)が設けられ、前記上面にて前記導波路形成溝を挟んで前記導波路形成溝の両側に複数の第1金属ピン(22)が周期的に配列され、前記可動ブロックは、前記第1導波管の前記第1端面に対して前記所定の間隔(G)を開けて平行に対向する第5端面(30a)と、該第5端面に対向する第6端面(30b)と、前記固定ブロックの前記複数の第1金属ピンの上面から離間して前記複数の第1金属ピンと前記導波路形成溝の上を覆う下面(30c)とを有し、前記導波路形成溝上に第2導波路(41)を有する前記第2導波管を形成し、前記第1導波管の前記第1端面には、前記第1導波路の開口(11a)を取り囲む環状凹部(19)が設けられ、前記環状凹部において前記開口から離間して前記開口を取り囲むように複数の第2金属ピン(14)が周期的に配列され、前記開口と前記複数の第2金属ピンの間のエリア(17)に前記開口を挟んで前記開口の長辺側に対向して配置された一対の長辺側突部(15,15)と前記開口を挟んで前記開口の短辺側に対向して配置された一対の短辺側突部(16,16)とが形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る導波管接続構造は、方形導波管などの標準的な第1導波管と導波路の両側に金属ピンが周期的に配置された第2導波管(ギャップ導波管という)との接続構造において、第1導波管の第1端面には、第1導波路の開口を取り囲む環状凹部が設けられ、環状凹部において開口から離間して開口を取り囲むように複数の第2金属ピンが周期的に配列され、開口と複数の第2金属ピンの間のエリアに開口を挟んで開口の長辺側に対向して配置された一対の長辺側突部と開口を挟んで開口の短辺側に対向して配置された一対の短辺側突部とが形成されている。この構成により、標準的な第1導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0012】
また、本発明に係る導波管接続構造において、前記複数の第2金属ピンと前記一対の長辺側突部と前記一対の短辺側突部は、各々、漏出防止対象周波数帯の中心周波数に対応する中心波長の1/4に相当する同一の高さを有する構成が好ましい。
【0013】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、第1導波路と第2金属ピンの間に生じる不要な共振モードを取り除いて、標準的な第1導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出をより効果的に抑えることができる。
【0014】
また、本発明に係る導波管接続構造において、前記長辺側突部は、前記第1導波路の前記開口の長辺に隣接する開口隣接面(15b)と、前記第1導波路の長手方向から見た平面視で前記開口隣接面の両端部から前記長辺に対して所定角度傾斜した傾斜面(15a,15a)とを有する構成であってもよい。
【0015】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、第1導波路と第2金属ピンの間に生じる不要な共振モードをより効果的に取り除いて、標準的な第1導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0016】
また、本発明に係る導波管接続構造は、前記環状凹部の前記エリアにおいて、前記第1導波路の前記開口の角部に対応して開放空間(17a)が形成されている構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、第1導波路と第2金属ピンの間に生じる不要な共振モードをより効果的に取り除いて、標準的な第1導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0018】
上述の構成の全て又はいくつかを適宜に備えた本発明に係る導波管接続構造は、漏出防止対象周波数帯の中心周波数に対応する中心波長の1/20程度までの導波管接続箇所の隙間に対して、標準的な方形導波管の動作周波数範囲全体(比帯域40%)にわたり、電磁波の漏出を-30dB以下に抑えることができる。
【0019】
また、本発明に係る導波管スイッチは、上記いずれかに記載の導波管接続構造(100)と、前記固定ブロックの前記第4端面及び前記可動ブロックの前記第6端面に対して所定の間隔(G)を開けて平行に対向する第7端面(50a)と該第7端面に対向する第8端面(50b)とを有し、前記第7端面(50a)から前記第8端面(50b)に貫通した第3導波路(51)が形成された第3導波管(50)と、前記可動ブロックをスライド移動させる駆動装置(60)と、を備え、前記可動ブロックの前記下面(30c)には、前記複数の第1金属ピンの列間を移動可能なサイズの突起部(31)が設けられ、前記駆動装置は、前記可動ブロックの前記突起部が前記第2導波路を基準に前記複数の第1金属ピンより外側の格納領域に位置するON状態と、前記可動ブロックの前記突起部が前記第2導波路内に位置するOFF状態との間で切り替え可能なように、前記可動ブロックをスライド移動させることを特徴とする。ここで、ON状態とは、導波管スイッチが第1導波路と第3導波路との間の電磁波の透過を可能にする接続状態をいい、OFF状態とは、導波管スイッチが第1導波路と第3導波路との間の電磁波の伝搬の遮断を可能にする非接続状態をいう。
【0020】
上述のように、本発明に係る導波管スイッチは、標準的な入出力導波管に相当する第1導波管及び第3導波管と、ギャップ導波管本体を構成する固定ブロックとを所定の位置関係に固定し、突起部が設けられた可動ブロックだけをスライド可能としている。この構成により、周期的に並んだ第1金属ピンの隙間よりも薄い突起部を第1金属ピンが設けられていない格納領域とギャップ導波管の導波路とのいずれかに配置することが可能であるため、電磁波の透過及び遮断を切り替えるSPST(Single-Pole Single-Throw)スイッチとして機能することができる。
【0021】
このように、本発明に係る導波管スイッチは、第1導波路と第3導波路を接続するギャップ導波管の導波路の位置が固定されているため、従来のスライド式導波管スイッチで見られたような、導波路同士のずれに起因した意図しない反射点が生じない。これにより、本発明に係る導波管スイッチは、広帯域性に優れた導波管スイッチとして機能することができる。
【0022】
また、本発明に係る導波管スイッチは、上述した本発明の導波管接続構造を導波管スイッチの可動部に用いることで、入出力ポート間で導波管接続箇所の隙間からの意図しない電磁波の漏出を抑えることができ、広帯域にてスイッチの透過損失を低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、標準的な入出力の導波管と可動部のギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる導波管接続構造及びこれを用いた広帯域性に優れた導波管スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る導波管スイッチ及び導波管接続構造を斜め上方から見た分解斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る導波管スイッチ及び導波管接続構造を斜め下方から見た分解斜視図である(駆動装置は省略)。
図3】本発明の実施形態に係るチョーク構造の構成の一例を示す部分拡大図である。
図4】(a)本発明の実施形態に係るチョーク構造の平面図であり、(b)はチョーク構造の拡大平面図であり、(c)は(a)のA-A矢視断面図であり、(d)は第2金属ピンの斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係る導波管スイッチのON状態の構成を示す図であって、(a)は第3導波管を取り除いた状態での正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は平面図である。
図6】本発明の実施形態に係る導波管スイッチのOFF状態の構成を示す図であって、(a)は第3導波管を取り除いた状態での正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は平面図である。
図7】(a)は直方体形状の第1金属ピンが固定ブロックの上面に無限周期配列されたシミュレーションモデルを示しており、(b)はこのシミュレーションモデルにおける直方体形状の第1金属ピンの1つ当たりのサイズを示している。
図8図7(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルにおいて、第1金属ピンの側面に垂直に電磁波を照射した際の分散特性を示すグラフである。
図9】本発明の実施形態に係る導波管スイッチの反射特性及び透過特性のシミュレーション結果を示すグラフであって、(a)はON状態の反射特性及び透過特性を示しており、(b)はOFF状態の反射特性及び透過特性を示している。
図10】(a)は比較例1の導波管接続構造を示す斜視図であり、(b)は(a)の導波管接続構造の隙間における電界の面内分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11】(a)は比較例2の導波管接続構造を示す斜視図であり、(b)は(a)の導波管接続構造の隙間における電界の面内分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図12】本発明の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク構造のシミュレーションモデルを示す図であり、(a)は電磁波の進行方向(Z軸方向)から見た図であり、(b)は電磁波の進行方向に直交する方向(Y軸方向)から見た図である。
図13】本発明の実施形態に係る導波管接続構造において通過・反射電力特性をシミュレーションした結果を示し、(a)は反射損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は挿入損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(c)は導波管接続構造の隙間からの電磁波の漏出のシミュレーション結果を示すグラフである。
図14】(a)は比較例3の導波管接続構造におけるチョーク構造のシミュレーションモデルを示す図であり、(b)は反射特性及び透過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
図15】(a)は比較例4の導波管接続構造におけるチョーク構造のシミュレーションモデルを示す図であり、(b)は反射特性及び透過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の導波管スイッチ及び導波管接続構造の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る導波管接続構造100を用いた導波管スイッチ1の分解斜視図である。なお、図2では、駆動装置60の図示を省略している。
【0027】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、第1導波管10と、固定ブロック20及び可動ブロック30により構成される第2導波管(ギャップ導波管ともいう)40と、第3導波管50と、駆動装置60と、を備える。第1導波管10と、ギャップ導波管40を構成する固定ブロック20及び可動ブロック30と、第3導波管50は、例えば、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。これらの金属材料のうち、アルミニウムは、加工がしやすくコストが安い上に表面粗さを小さくできるため、特に好ましい。
【0028】
導波管スイッチ1は、第1導波管10に形成された第1導波路11と、第3導波管50に形成された第3導波路51との間の電磁波の透過と遮断とを切り替えるためのSPSTスイッチである。
【0029】
<第1導波管>
図1及び図2に示すように、第1導波管10は、第1端面10aと第1端面10aに対向した第2端面10bとを有して直方体状に形成されている。第1導波管10には、第1端面10a及び第2端面10bに直交する方向で第1端面10aから第2端面10bに貫通した第1導波路11が形成されている。第1導波路11は、第1端面10a及び第2端面10bにおいて、幅a、高さbの矩形の開口11aを有し、導波路内部が金属壁で囲まれた標準的な矩形導波管である(図3図4参照)。
【0030】
第1導波管10とギャップ導波管40との接続部分の隙間からの電磁波の漏出を低減するために、第1導波管10の第1端面10aには、第1導波路11の開口11aを取り囲む環状凹部19において開口11aを取り囲むように複数の第2金属ピン14が周期的に配列されたチョーク構造12が形成されている。なお、後で説明するように、金属ピンが適切な間隔で周期的に配列された構造は電磁波の伝搬を妨げるため,これをチョーク(導波管の接続部分の隙間からの電磁波の漏出を低減する構造)として使用できる。
【0031】
<固定ブロック>
図1及び図2に示すように、ギャップ導波管40は、固定ブロック20と可動ブロック30とを含む。固定ブロック20は、直方体状に形成され、固定ブロック20の上で第1導波管10と第3導波管50の間にて、可動ブロック30がスライド自在に配置される。
【0032】
固定ブロック20は、第1導波管10の第1端面10aに対して所定の間隔Gを開けて平行に対向する第3端面20aと該第3端面20aに対向する第4端面20bとを有し、上面20cに第3端面20aから第4端面20bに至る導波路形成溝21が設けられている。上面20cには、導波路形成溝21を挟んで導波路形成溝21の両側に複数の第1金属ピン22が周期的に配列されている。導波路形成溝21は、浅い溝であるが、上面20cと面一でもよい。
【0033】
図1及び図7(b)に示すように、本実施形態では、導波路形成溝21の両側にそれぞれ、複数の第1金属ピン22が等ピッチp1で3行3列に配列されているが、列数及び行数はこれに限定されない。第1金属ピン22間のピッチp1は、導波路形成溝21の両側で等しい。なお、上面20cの導波路形成溝21には、第1金属ピン22は設けられていない。上面20cにおいて複数の第1金属ピン22の外側には、複数の第1金属ピン22と端部の凸部23との間に、平坦な格納エリア25aが設けられている(図5(c)参照)。
【0034】
複数の第1金属ピン22は、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。複数の第1金属ピン22は、例えば、半田付けや導電性の接着剤による接着により、固定ブロック20の上面20c上に取り付けられていてもよい。あるいは、複数の第1金属ピン22は、固定ブロック20の一部として一体形成されたものであってもよい。第1金属ピン22の形状は、任意の柱形状であってよく、例えば、直方体形状、円柱形状、又は、六角柱などの多角柱形状のいずれかであってよい。
【0035】
固定ブロック20の上面20cは、可動ブロック30とともに第2導波路(ギャップ導波路ともいう)41を有するギャップ導波管(第2導波管)40を形成する。固定ブロック20は、ギャップ導波管本体ともいう。
【0036】
<可動ブロック>
図1及び図2に示すように、可動ブロック30は、直方体状に形成されており、第1導波管10の第1端面10aに対して所定の間隔Gを開けて平行に対向する第5端面30aと、第5端面30aに対向する第6端面30bと、固定ブロック20の複数の第1金属ピン22の上面22aから離間して複数の第1金属ピン22と導波路形成溝21の上を覆う下面30cとを有し、導波路形成溝21上にギャップ導波路41を有するギャップ導波管40を形成している。可動ブロック30は、固定ブロック20の上面20cと、第1導波管10の第1端面10aと、第3導波管50の第7端面50aに対して、平行にスライド移動可能に構成されている。
【0037】
可動ブロック30の下面30cには、複数の第1金属ピン22の列間をギャップ導波路41の長手方向に直交する方向(X軸方向)に移動可能なサイズの突起部31が設けられている。具体的には、可動ブロック30は、電磁波の伝搬方向(Z軸方向)に隣り合う第1金属ピン22間の隙間よりも小さい厚さの突起部31を下面30cに有する。ここで、「突起部31の厚さ」とは、導波管スイッチ1における電磁波の伝搬方向(Z軸方向)の厚さを指す。突起部31は、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。突起部31は、例えば、半田付けや導電性の接着剤による接着により、下面30cに配置されていてもよい。あるいは、突起部31は、可動ブロック30の一部として一体形成されることにより、下面30cに配置されていてもよい。
【0038】
図2図5及び図6に示すように、突起部31は、例えば、直方体形状を成しており、導波管スイッチ1における電磁波の伝搬方向(Z軸方向)に垂直な面の幅w4及び高さh4と、電磁波の伝搬方向(Z軸方向)の厚さt4は、導波管スイッチ1において不要な共振モードが発生しない値に適宜設定可能である。
【0039】
次に、導波路の両側に第1金属ピン22が設けられたギャップ導波管40における電磁波の伝搬特性分布のシミュレーション結果について説明する。図7(a)は、直方体形状の第1金属ピン22が固定ブロック20に無限周期配列されたシミュレーションモデルを示している。図7(b)は、図7(a)のシミュレーションモデルにおける直方体形状の第1金属ピン22の1つ当たりのサイズを示している。
【0040】
可動ブロック30の下面30cと第1金属ピン22の上面22aとのギャップ幅g1、第1金属ピン22のピッチp1、第1金属ピン22の高さh1、第1金属ピン22の幅w1は、例えば以下のような値である。
・ギャップ幅g1=λ/20=0.06245mm
・第1金属ピン22のピッチp1=λ/3=0.4163mm
・第1金属ピン22の高さh1=λ/4=0.3123mm
・第1金属ピン22の幅w1=λ/6=0.2082mm
ここで、λは、理想とする伝搬阻止帯域の中心周波数に対応する自由空間波長であり、例えば中心周波数を240GHzとするとき、λ=1.249mmである。
【0041】
図8は、図7(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルにおいて、上記の第1金属ピン22に関するパラメータを用いて、第1金属ピン22の側面に垂直に電磁波を照射した際の分散特性を示している。このシミュレーション結果は、146~366GHzの伝搬阻止帯域においては、いかなる伝搬モードも発生せず、電磁波の伝搬が遮断されることを示している。WR-3帯域はこの伝搬阻止帯域内に収まっているため、上記の第1金属ピン22に関するパラメータを用いれば、WR-3導波管として機能するギャップ導波管を構成できることが分かる。
【0042】
本実施形態では、固定ブロック20と可動ブロック30とにより、ギャップ導波管40が構成される。ギャップ導波管40は、複数の第1金属ピン22と、固定ブロック20の上面20cの導波路形成溝21と、可動ブロック30の下面30cとで囲まれて形成されたギャップ導波路41を有する。複数の第1金属ピン22が周期的に配置された領域では、電磁波の伝搬が阻止され、電磁界エネルギーが閉じ込められる一方、複数の第1金属ピン22が配置されていないギャップ導波路41においては、電磁波が伝搬できるようになっている。
【0043】
ギャップ導波路41の長手方向に直交する断面の形状及びサイズは、第1導波路11と第3導波路51の断面形状及びサイズと同一である。ギャップ導波路41は、第1導波路11と第3導波路51の中心を通過する線上に形成されている。すなわち、固定ブロック20の上面20cの導波路形成溝21の底面と、可動ブロック30の下面30cとの距離は、第1導波路11及び第3導波路51の長方形の開口の短辺方向の幅に等しい。また、複数の第1金属ピン22が設けられていない導波路形成溝21の幅は、第1導波路11及び第3導波路51の長方形の開口の長辺方向の幅に等しい。
【0044】
本実施形態におけるギャップ導波管40は、標準的な金属導波管の導波路の側面部が導体壁ではなく、周期的に配置された複数の第1金属ピン22に置き換わった構造を有している。第1金属ピン22の上面22aは、ギャップ導波路41上部と同様に空気ギャップを挟んで可動ブロック30の下面30cと対向しているため、固定ブロック20と可動ブロック30との金属接触はない。
【0045】
すなわち、本実施形態の導波管スイッチ1は、固定ブロック20と可動ブロック30との金属接触を必要としないという特徴を有する。このため、通常の入出力導波管である第1導波管10及び第3導波管50と、ギャップ導波管40を所定の位置関係に固定して、機械的摩耗なく可動ブロック30だけをスライドすることが可能となる。
【0046】
加えて、ギャップ導波路41の電磁波の伝搬方向(Z軸方向)に沿った管壁に相当する部分は、複数の第1金属ピン22が周期的に並んだ構造であるから、隣り合う第1金属ピン22間の隙間よりも薄い構造物である突起部31を、その隙間を通して挿抜することが可能である。
【0047】
<第3導波管>
図1及び図2に示すように、第3導波管50は、第1導波管10と同様に、第7端面50aと第7端面50aに対向した第8端面50bとを有して直方体状に形成されている。第3導波管50の第7端面50aは、固定ブロック20の第4端面20b及び可動ブロック30の第6端面30bに対して所定の間隔Gを開けて平行に対向している。第3導波管50は、第7端面50a及び第8端面50bに直交する方向で第7端面50aから第8端面50bに貫通した第3導波路51が形成されている。第3導波路51は、その長手方向の断面の形状及びサイズが、第1導波路11の断面形状及びサイズと同じである。第3導波路51は、第7端面50a及び第8端面50bにおいて、幅a、高さbの矩形の開口を有し、第1導波路11の開口と形状及びサイズが同一であり、第3導波管50は、導波路内部が金属壁で囲まれた標準的な矩形導波管である。第3導波路51は、第1導波路11の中心を通過する線上に形成されている。例えば、第1導波路11及び第3導波路51は、内寸が0.864mm×0.432mmであり、WR-3帯域(220~325GHz)を透過帯域とするWR-3導波管を構成する。
【0048】
第3導波管50の第7端面50aにも、第1導波管10と同一のチョーク構造12が設けられているが、チョーク構造を設けない構成であってもよい。
【0049】
<駆動装置>
次に、可動ブロック30をスライド移動させる駆動装置60について説明する。
【0050】
図5(a)~(c)は、固定ブロック20の上面20cにおいて第1金属ピン22が設けられていない格納エリア25aと可動ブロック30の下面30cとに挟まれた格納領域25に、可動ブロック30の突起部31が配置された状態を示している。図5(a)は第3導波管50を取り外して見た正面図であり、図5(b)は左側面図であり、図5(c)は平面図である。図5(a)~(c)に示す状態は、導波管スイッチ1が、第1導波路11と第3導波路51との間の電磁波の透過を可能にする接続状態(ON状態)である。
【0051】
図6(a)~(c)は、ギャップ導波路41の位置に突起部31が配置されて、第1導波路11又は第3導波路51から入力された電磁波が突起部31で反射される状態を示している。図6(a)は第3導波管50を取り外して見た正面図であり、図6(b)は左側面図であり、図6(c)は平面図である。すなわち、図6(a)~(c)に示す状態は、導波管スイッチ1が、第1導波路11と第3導波路51との間の電磁波の伝搬の遮断を可能にする非接続状態(OFF状態)である。
【0052】
図1に示す駆動装置60は、可動ブロック30の突起部31がギャップ導波路41を基準に複数の第1金属ピン22より外側の格納領域25に位置するON状態と、可動ブロック30の突起部31がギャップ導波路41内に位置するOFF状態との間で切り替え可能なように、可動ブロック30をスライド移動させるようになっている。
【0053】
可動ブロック30は、駆動装置60によって固定ブロック20に対してスライド移動可能に支持されている。駆動装置60の構造は任意であるが、可動ブロック30の位置と移動距離をセンサやエンコーダ等で検出して、ON状態及びOFF状態を実現する位置に可動ブロック30を選択的に移動できるように構成されていればよい。このようにして、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、第1導波路11と第3導波路51との間の電磁波の透過と遮断とを切り替えるためのSPSTスイッチとして機能する。
【0054】
<導波管接続構造>
次に、導波管スイッチ1に用いられる導波管接続構造100について説明する。
【0055】
導波管接続構造100は、第1導波管10とギャップ導波管40とを接続する構造、あるいは第3導波管50とギャップ導波管40とを接続する構造である。以下では、簡単のため、第1導波管10とギャップ導波管40とを接続する構造について説明するが、第3導波管50とギャップ導波管40とを接続する構造についても同様である。
【0056】
図1~2及び図5~6に示すように、本発明の実施形態に係る導波管接続構造100は、標準的な第1導波管10の第1端面10aと、ギャップ導波管40を構成する固定ブロック20の第3端面20a及び可動ブロック30の第5端面30aとが、所定の隙間Gを開けて平行に対向する構造である。
【0057】
第1導波管10とギャップ導波管40との接続部分の隙間Gからの電磁波の漏出を低減するために、第1導波管10の第1端面10aには、第1導波路11の開口11aを取り囲む環状凹部19において開口11aを取り囲むように複数の第2金属ピン14が周期的に配列されたチョーク構造12が形成されている。
【0058】
(比較例1)
図10(a)は、比較例1のシミュレーションモデルを示し、標準的な導波管70と標準的な導波管80とを、所定の隙間Gを開けて平行に対向させた導波管接続構造を示す斜視図である。導波管70において、電磁波の伝搬方向に直交しかつ導波管80に対向する側の端面には、複数の第2金属ピン14が周期的に配列されたチョーク構造12が設けられている。導波管70及び導波管80は、WR-3帯域を透過帯域とするWR-3導波管に相当する。図10(b)は、図10(a)のシミュレーションモデルにおいて、使用周波数を280GHzとし、隙間Gを50μmとした場合の電界の面内分布のシミュレーション結果を示している。
【0059】
図10(b)のシミュレーション結果によれば、チョーク構造12が設けられた標準的な導波管70と標準的な導波管80との接続では、WR-3全域において反射特性S11が-15dB未満であり、透過特性S21が-0.1dBより大きいという良好な結果が得られた。
【0060】
(比較例2)
図11(a)は、比較例2のシミュレーションモデルを示し、標準的な導波管70とギャップ導波管81とを、所定の隙間Gを開けて平行に対向させた導波管接続構造を示す斜視図である。導波管70において、電磁波の伝搬方向に直交しかつギャップ導波管81に対向する側の端面には、複数の第2金属ピン14が周期的に配列されたチョーク構造12が設けられている。導波管70及びギャップ導波管81は、WR-3帯域を透過帯域とするWR-3導波管に相当する。図11(b)は、図11(a)のシミュレーションモデルにおいて、使用周波数を280GHzとし、隙間Gを50μmとした場合の電界の面内分布のシミュレーション結果を示している。
【0061】
図11(b)のシミュレーション結果によれば、チョーク構造12が設けられた標準的な導波管70とギャップ導波管81との接続では、250GHz付近に大きな落ち込みが見られ、WR-3全域において良好な反射・透過特性を確保することはできないことが確認された。
【0062】
(導波管接続構造の検討)
比較例1及び比較例2のシミュレーション結果を受け、チョーク構造12において標準的な導波管70の導波路開口周りの構造の検討を行い、ギャップ導波管81との接続による影響を受けないチョーク構造を見出した。
【0063】
図3及び図4に示すように、本実施形態に係るチョーク構造12において、第1導波管10の第1端面10aには、第1導波路11の開口11aを取り囲む環状凹部19が設けられ、環状凹部19において開口11aから離間して開口11aを取り囲むように複数の第2金属ピン14が周期的に配列されている。環状凹部19において、開口11aと複数の第2金属ピン14の間のエリア17には、開口11aを挟んで開口11aの長辺側に対向して配置された一対の長辺側突部15,15と開口11aを挟んで開口11aの短辺側に対向して配置された一対の直方体状の短辺側突部16,16とが形成されている。図4(a)に示すように、環状凹部19は、開口11aと複数の第2金属ピン14の間のエリア17と、エリア17の外側を取り囲む環状のエリア18とを含み、複数の第2金属ピン14は、エリア18に配置され、長辺側突部15と短辺側突部16はエリア17に配置されている。本実施形態では、環状凹部19は、第1導波路11の長手方向(Z軸方向)から見た平面視で矩形の外形形状を有し、エリア17は、Z軸方向から見た平面視で矩形の外形形状を有しているが、これらの外形形状は、隙間Gからの電磁波の漏出を抑制可能な任意の形状にできる。
【0064】
複数の第2金属ピン14と一対の長辺側突部15,15と一対の短辺側突部16,16は、各々、漏出防止対象周波数帯の中心周波数に対応する中心波長の1/4に相当する同一の高さを有している。本実施形態において、漏出防止対象周波数帯がWR-3帯域(220~325GHz)とすると、その中心周波数は272.5GHzである。このとき、中心波長λは、約1.10mmである。ここで、中心波長λの1/4に相当する深さとは、中心波長λの1/4の±20%の範囲の深さを指すものとする。本明細書及び特許請求の範囲において、「中心波長λの1/4」というときは、中心波長λの1/4の±20%の範囲をいうものとする。なお、漏出防止対象周波数帯の中心周波数は、上記の値に限定されるものではなく、第1導波管10及びギャップ導波管40のサイズに応じたWR-3帯域又はそれ以外の所望の周波数帯域内の任意の周波数であってもよい。
【0065】
また、長辺側突部15は、第1導波路11の開口11aの長辺に隣接する開口隣接面15bと、第1導波路11の長手方向から見た平面視で開口隣接面15bの両端部から長辺に対して所定の傾斜角度θだけ傾斜した傾斜面15a,15aとを有している。傾斜角度θは、短辺側突部16のサイズにも依るが、10°以上60°以下、好ましくは20°以上45°以下、より好ましくは30°あるいは30°±20%の範囲である。長辺側突部15は、開口隣接面15bに対向する側に、第1導波路11の長手方向(Z軸方向)から見た平面視で円弧状の側面を有している。また、環状凹部19のエリア17において、第1導波路11の開口11aの角部に対応して長辺側突部15と短辺側突部16の間に開放空間17a(エリア17と同一レベルの底面上で長辺側突部15と短辺側突部16の間の隙間を含む開放された空間)が形成されている。
【0066】
図12は、本実施形態に係るチョーク構造12を用いた導波管接続構造100のシミュレーションモデルを示す図であり、(a)は電磁波の進行方向(Z軸方向)から見た図であり、(b)は電磁波の進行方向に直交する方向(Y軸方向)から見た図である。
【0067】
シミュレーションでは、チョーク構造12の第2金属ピン14について、固定ブロック20の第3端面20aと第2金属ピン14の上面14aとのギャップ幅g2、第2金属ピン14のピッチp2、第2金属ピン14の高さh2、第2金属ピン14の幅w2は、以下のような値とした(図4(d)参照)。
・ギャップ幅g2=0.045mm
・第2金属ピン14のピッチp2=0.361mm
・第2金属ピン14の高さh2=0.277mm
・第2金属ピン14の幅w2=0.167mm
【0068】
また、チョーク構造12の諸寸法は以下のような値とした(図3図4図12参照)。
・長辺側突部15の開口隣接面15bの幅(w3):0.264mm
・長辺側突部15の傾斜面15aの傾斜角度(θ):30°
・短辺側突部16の幅(w7):0.26mm
・短辺側突部16の厚み(t7):0.1mm
・第1環状凹部17の開口長辺側部分の幅(w5):0.4185mm
・第1環状凹部17の開口短辺側部分の幅(w6):0.206mm
・環状凹部19の深さ(d):0.277mm
・第1端面10aと第3端面20aとの隙間(G):0.045mm
・第1端面10aと第5端面30aとの隙間(G):0.045mm
【0069】
図13は、図12のシミュレーションモデルを用いて、導波管接続構造100における第1導波路11とギャップ導波路41の間の反射特性S11、透過特性S21、及び電磁波の漏れ率のシミュレーション結果を示している。標準的な第1導波管10とギャップ導波管40間の隙間Gは0.045mm(45μm)設けている。
【0070】
このシミュレーションでは、ギャップ導波管40から第1導波管10に向かって電磁波が入射するとしている。ここで、漏出(Leak)は、下記の式(1)で表される。
Leak (dB) = 10log{1-(|S11|+|S21)} ・・・(1)
【0071】
図13(a)に示すように、WR-3帯域(220~325GHz、比帯域約40%)を含む広い周波数範囲にわたって、反射損失S11が-20dB未満に抑えられることが確認できた。また、図13(b)に示すように、挿入損失S21については、WR-3帯域にわたって、-0.1dBよりも高い(0dBに近い)良好な値を示すことが確認できた。さらには図13(c)に示すように、第1導波路11とギャップ導波路41の間からの電磁波の漏出については、WR-3帯域にわたって、-30dB未満に抑えられることが確認できた。
【0072】
上述のように、本実施形態に係る導波管接続構造100は、漏出防止対象周波数帯の中心周波数に対応する中心波長λの1/20程度までの所定の隙間Gに対して、WR-3導波管の動作周波数範囲全体(比帯域約40%)にわたり、反射損失S11を-20dB未満に抑え、挿入損失S21の絶対値を0.1dB未満に抑え、電磁波の漏出を-30dB未満に抑えることができる。
【0073】
(比較例3)
図14(a)は、比較例3に係る導波管接続構造において、第1導波管10に設けられたチョーク構造12のシミュレーションモデルを示す図である。第1導波管10の第1端面10aに設けられたチョーク構造12において、長辺側突部115の側面115aが、第1導波路11の開口11aの長辺に対して傾斜せず、長辺に対して垂直になっている点で、本実施形態の長辺側突部15の傾斜面15aと異なっている。
【0074】
図14(b)は、図14(a)のシミュレーションモデルにおける反射特性及び透過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。本実施形態の導波管接続構造100の反射特性及び透過特性のシミュレーション結果(図13(a)及び(b))と比較すると、傾斜面15aを有する本実施形態の導波管接続構造100の方が、反射特性S11及び透過特性S21が優れていることが確認できた。
【0075】
(比較例4)
図15(a)は、比較例4に係る導波管接続構造において、第1導波管10に設けられたチョーク構造12のシミュレーションモデルを示す図である。第1導波管10の第1端面10aに設けられたチョーク構造12において、第1導波路11の開口11aの周りを薄い壁部117(厚さ50μm)で囲んでいる点で、環状凹部19において開口11aに隣接した周囲のエリア17で長辺側突部15と短辺側突部16以外の領域は開放空間17aになっている本実施形態と相違している。
【0076】
図15(b)は、図15(a)のシミュレーションモデルにおける反射特性及び透過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。本実施形態の導波管接続構造100の反射特性及び透過特性のシミュレーション結果(図13(a)及び(b))と比較すると、反射特性S11及び透過特性S21において230GHz付近に落ち込みが見られた。よって、第1導波管10の開口11aの周りを薄い壁部117で囲む構造よりも、環状凹部19において開口11aに隣接した周囲のエリア17で長辺側突部15と短辺側突部16以外の領域は開放空間17aにする方が、230GHz付近での特性の落ち込みを抑制するのに効果的であると推測できる。
【0077】
<スイッチ動作のシミュレーション>
次に、本実施形態に係る導波管接続構造100を用いた導波管スイッチ1について、スイッチ動作のシミュレーション結果を説明する。
【0078】
図9(a)は、図5(a)~(c)に示したON状態の構成における第1導波路11とギャップ導波路41の間の反射特性S11及び透過特性S21のシミュレーション結果を示している。また、図9(b)は、図6(a)~(c)に示したOFF状態の構成における第1導波路11とギャップ導波路41の間の反射特性S11及び透過特性S21のシミュレーション結果を示している。これらのシミュレーションでは、第1導波路11からギャップ導波路41に向かって電磁波が伝搬するとしている。
【0079】
シミュレーション条件は以下のとおりである。なお、第1金属ピン22に関するサイズは、図7(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルと同一である。また、チョーク構造12に関するサイズは、図12に関して上述したサイズと同じである。
・突起部31の幅(w4):0.4mm
・突起部31の高さ(h4):0.3mm
・突起部31の厚さ(t4):0.1mm
・突起部31の下面と格納エリア25aの上面との距離(g3):0.045mm
・第1導波路11の幅(a):0.864mm
・第1導波路11の高さ(b):0.432mm
・第1金属ピン22の上面22aと可動ブロック30の下面30cとの距離(g1):0.045mm
・凸部23の上面と可動ブロック30の下面30cとの距離(g4):0.045mm
・格納エリア25aの上面と可動ブロック30の下面30cとの距離(g5):0.322mm
・第1端面10aと第3端面20aとの隙間(G):0.045mm
・第1端面10aと第5端面30aとの隙間(G):0.045mm
【0080】
図9(a)及び(b)に示すように、WR-3帯域(220~325GHz)において、ON状態で-1dBよりも高い透過特性S21が得られたのに対し、OFF状態では-11dBよりも低い透過特性S21が得られた。一方、ON状態で-12dBよりも低い反射特性S11が得られたのに対し、OFF状態では-1dBよりも高い反射特性S11が得られた。すなわち、図9(a)及び(b)のシミュレーション結果から、本実施形態の導波管スイッチ1が、ON状態とOFF状態とで電磁波の透過及び遮断を切り替えられるSPSTスイッチとして機能することが確認できた。
【0081】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る導波管接続構造100は、方形導波管などの標準的な第1導波管10と導波路の両側に複数の第1金属ピン22が周期的に配置されたギャップ導波管40との接続構造において、第1導波管10の第1端面10aには、第1導波路11の開口11aを取り囲む環状凹部19が設けられ、環状凹部19において開口11aから離間して開口11aを取り囲むように複数の第2金属ピン14が周期的に配列され、開口11aと複数の第2金属ピン14の間のエリア17には、開口11aを挟んで開口11aの長辺側に対向して配置された一対の長辺側突部15,15と開口11aを挟んで開口11aの短辺側に対向して配置された一対の直方体状の短辺側突部16,16とが形成されている。この構成により、標準的な第1導波管10とギャップ導波管40との接続箇所の隙間Gからの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0082】
また、本実施形態に係る導波管接続構造100において、複数の第2金属ピン14と一対の長辺側突部15,15と一対の短辺側突部16,16は、各々、漏出防止対象周波数帯の中心周波数に対応する中心波長の1/4に相当する同一の高さを有している。この構成により、第1導波路11と第2金属ピン14の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、標準的な第1導波管10とギャップ導波管40との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0083】
また、本実施形態に係る導波管接続構造100において、長辺側突部15は、第1導波路11の開口11aの長辺に隣接する開口隣接面15bと、第1導波路11の長手方向から見た平面視で開口隣接面15bの両端部から長辺に対して所定角度θだけ傾斜した傾斜面15a,15aとを有している。また、環状凹部19のエリア17において、第1導波路11の開口11aの角部に対応して長辺側突部15と短辺側突部16の間に開放空間17aが形成されている。この構成により、第1導波路11と第2金属ピンの間に生じる不要な共振モードをより効果的に取り除いて、標準的な第1導波管10とギャップ導波管40との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0084】
本実施形態に係る導波管接続構造100は、漏出防止対象周波数帯の中心周波数に対応する中心波長λの1/20程度までの隙間Gに対して、標準的な方形導波管の動作周波数範囲全体(比帯域40%)にわたり、電磁波の漏出を-30dB以下に抑えることができる。
【0085】
本実施形態に係る導波管スイッチ1は、標準的な入出力導波管に相当する第1導波管10及び第3導波管50と、ギャップ導波管本体を構成する固定ブロック20とを所定の位置関係に固定し、突起部31が設けられた可動ブロック30だけをスライド可能としている。この構成により、周期的に並んだ第1金属ピン22の隙間よりも薄い突起部31を第1金属ピン22が設けられていない格納領域25とギャップ導波管40の導波路41とのいずれかに配置することが可能であるため、電磁波の透過及び遮断を切り替えるSPSTスイッチとして機能することができる。
【0086】
このように、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、第1導波路11と第3導波路51を接続するギャップ導波管40のギャップ導波路41の位置が固定されているため、従来のスライド式導波管スイッチで見られたような、導波路同士のずれに起因した意図しない反射点が生じない。これにより、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、広帯域性に優れた導波管スイッチとして機能することができる。
【0087】
また、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、上述した導波管接続構造100を導波管スイッチ1の可動部に用いることで、入出力ポート間で導波管接続箇所の隙間Gからの意図しない電磁波の漏出を抑えることができ、広帯域にてスイッチの透過損失を低減することができる。
【0088】
一般に、導波管スイッチなどの可動部には必ず隙間が必要であるが、機械加工精度の制約から許容される隙間には下限がある。また、可動部を支持している機構の摺動部の摩耗などによって隙間が広がることもある。周波数が高い(波長が短い)ほど、同じ隙間でも波長に対しては広くなるため、電磁波の漏出は増加する。したがって、本実施形態に係る導波管接続構造100及び導波管スイッチ1は、高い周波数帯の漏出防止に対して特に有用となり、また、可動部に許容される隙間を広く取れるため、機械加工精度が緩和され、経年変化への耐性も高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明は、標準的な入出力の導波管と可動部のギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができかつ広帯域性に優れているという効果を有し、導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチの全体に有用である。
【符号の説明】
【0090】
1 導波管スイッチ
10 第1導波管
10a 第1端面
10b 第2端面
11 第1導波路
11a 開口
12 チョーク構造
14 第2金属ピン
14a 上面
15 長辺側突部
15a 傾斜面
15b 開口隣接面
16 短辺側突部
17a 開放空間
20 固定ブロック
20a 第3端面
20b 第4端面
20c 上面
21 導波路形成溝
22 第1金属ピン
23 凸部
25 格納領域
25a 格納エリア
30 可動ブロック
30a 第5端面
30b 第6端面
30c 下面
31 突起部
40 第2導波管(ギャップ導波管)
41 第2導波路(ギャップ導波路)
50 第3導波管
50a 第7端面
50b 第8端面
51 第3導波路
60 駆動装置
70、80 導波管
81 ギャップ導波管
100 導波管接続構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15