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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103154
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240725BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240725BHJP
   C21C 7/06 20060101ALN20240725BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21C7/06
C21D9/46 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007337
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】金子 農
(72)【発明者】
【氏名】菊地 辰
【テーマコード(参考)】
4K013
4K037
【Fターム(参考)】
4K013BA08
4K013EA19
4K013EA20
4K013EA26
4K013EA28
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA21
4K037EA22
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA26
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA29
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB06
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB14
4K037FA01
4K037FA02
4K037FB00
4K037FF03
4K037FG00
4K037FJ07
4K037HA05
(57)【要約】
【課題】製造性に優れ、良好な表面性状を有するステンレス鋼を提供する。
【解決手段】所定の化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼または二相系ステンレス鋼であって、SおよびOのうち、少なくとも一種以上を含み、かつ短径が3μm以上である介在物を含み、介在物の個数密度が5個/mm以下であり、介在物のうち短径が15μm以上の介在物の個数密度が0.05個/mm以下であり、介在物のうち下記[CaO+Al+MgO+RO+Ta≧90%]および[Al/MgO≦1.25]を満足する介在物をMgO系介在物とするとき、MgO系介在物の前記介在物に対する個数割合が、75%以上である、ステンレス鋼。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
介在物を含む、オーステナイト系ステンレス鋼または二相系ステンレス鋼であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.005~0.15%、
Si:0.05~4.0%、
Mn:12.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.0050%以下、
Ni:1.0~28.0%、
Cr:14.0~28.0%、
N:0.005~0.40%、
O:0.0001~0.0060%、
Al:0.20%以下、
Ca:0.0035%以下、
Mg:0.010%以下、
Mo:0~8.0%、
Cu:0~4.0%、
REM:0~0.050%、
Ta:0~0.10%、
B:0~0.004%、
W:0~4.0%、
V:0~1.0%、
Ti:0~0.40%、
Nb:0~0.60%、
Sn:0~0.1%、
Sb:0~0.30%、
Co:0~1.0%、
Zr:0~0.005%、
Ga:0~0.010%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記介在物は、SおよびOのうち、少なくとも一種以上を含み、かつ短径が3μm以上であり、
前記介在物の個数密度が、5個/mm以下であり、
前記介在物のうち、短径が15μm以上の介在物の個数密度が、0.05個/mm以下であり、
前記介在物のうち、下記(i)および(ii)式を満足する介在物をMgO系介在物とするとき、
前記MgO系介在物の前記介在物に対する個数割合が、75%以上である、ステンレス鋼。
CaO+Al+MgO+RO+Ta≧90% ・・・ (i)
Al/MgO≦1.25 ・・・ (ii)
但し、(i)式中のROは、REM酸化物を示し、(i)および(ii)式中のCaO、Al、MgO、RO、Taは、介在物中におけるそれぞれの酸化物の質量%を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項2】
オーステナイト系ステンレス鋼であって、
前記化学組成が、質量%で、
C:0.005~0.15%、
Si:0.2~4.0%、
Mn:0.1~12.0%、
P:0.04%以下、
S:0.0050%以下、
Ni:1.0~28.0%、
Cr:14.0~28.0%、
N:0.005~0.40%、
O:0.0001~0.0060%、
Al:0.20%以下、
Ca:0.0035%以下、
Mg:0.010%以下、
Mo:0~8.0%、
Cu:0~4.0%、
REM:0~0.050%、
Ta:0~0.10%、
B:0~0.004%、
W:0~2.0%、
V:0~1.0%、
Ti:0~0.40%、
Nb:0~0.60%、
Sn:0~0.1%、
Sb:0~0.30%、
Co:0~1.0%、
Zr:0~0.005%、
Ga:0~0.010%、
を含有する、請求項1に記載のステンレス鋼。
【請求項3】
オーステナイト系ステンレス鋼であって、
前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.01~8.0%、
Cu:0.01~4.0%、
REM:0.0005~0.050%、
Ta:0.001~0.10%、
B:0.0001~0.004%、
W:0.05~2.0%、
V:0.05~1.0%、
Ti:0.001~0.40%、
Nb:0.001~0.60%、
Sn:0.01~0.1%、
Sb:0.005~0.30%、
Co:0.03~1.0%、
Zr:0.0001~0.005%、および
Ga:0.0001~0.010%、
から選択される一種以上を含有する、請求項2に記載のステンレス鋼。
【請求項4】
二相系ステンレス鋼であって、
前記化学組成が、質量%で、
C:0.005~0.08%、
Si:0.05~1.0%、
Mn:6.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.0050%以下、
Ni:1.0~14.0%、
Cr:16.0~28.0%、
N:0.005%超0.35%以下、
O:0.0001~0.0060%、
Al:0.20%以下、
Ca:0.0035%以下、
Mg:0.010%以下、
Mo:0.05~5.5%、
Cu:0~2.0%、
REM:0~0.050%、
Ta:0~0.10%、
B:0~0.004%、
W:0~4.0%、
V:0~1.0%、
Ti:0~0.40%、
Nb:0~0.10%、
Sn:0~0.1%、
Sb:0~0.30%、
Co:0~1.0%、
Zr:0~0.005%、
Ga:0~0.010%、
を含有する、請求項1に記載のステンレス鋼。
【請求項5】
二相系ステンレス鋼であって、
前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.05~2.0%、
REM:0.0005~0.050%、
Ta:0.001~0.10%、
B:0.0001~0.004%、
W:0.05~4.0%、
V:0.05~1.0%、
Ti:0.001~0.40%、
Nb:0.001~0.10%、
Sn:0.01~0.1%、
Sb:0.005~0.30%、
Co:0.03~1.0%、
Zr:0.0001~0.005%、および
Ga:0.0001~0.010%、
から選択される一種以上を含有する、請求項4に記載のステンレス鋼。
【請求項6】
前記介在物のうち、下記(i)および(iii)式を満足する介在物をMgO系介在物とするとき、
前記MgO系介在物の前記介在物に対する個数割合が、75%以上である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のステンレス鋼。
CaO+Al+MgO+RO+Ta≧90% ・・・ (i)
Al/MgO≦0.75 ・・・ (iii)
但し、上記(i)式中のROは、REM酸化物を示し、上記(i)および(iii)式中のCaO、Al、MgO、RO、Taは、介在物中におけるそれぞれの酸化物の質量%を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項7】
前記介在物のうち、下記(i)、(ii)および(iv)式を満足する介在物をMgO系介在物とするとき、
前記MgO系介在物の前記介在物に対する個数割合が、90%以上である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のステンレス鋼。
CaO+Al+MgO+RO+Ta≧90% ・・・ (i)
Al/MgO≦1.25 ・・・ (ii)
CaO>20% ・・・ (iv)
但し、(i)式中のROは、REM酸化物を示し、(i)、(ii)および(iv)式中のCaO、Al、MgO、RO、Taは、介在物中におけるそれぞれの酸化物の質量%を表し、含有されない場合はゼロとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、MgO・Alスピネルのような非金属介在物が形成しやすい。このような非金属介在物は、圧延等の加工で、破砕、または延伸されにくい。このため、加工中に表面に露出して、表面疵を発生させることがある。そこで、例えば、特許文献1には、上述した介在物の組成を制御し、スリバー疵といった表面疵の発生を抑制したステンレス鋼が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、スラグ成分を適切な範囲に制御することで、表面性状を低下させるMgO・Alスピネルを無害化したステンレス鋼が開示している。同様に、特許文献3には、スラグの塩基度を制御するとともに、鋼中のAlを低減することで、MgO・Alスピネルの形成を抑制したステンレス鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-104950号公報
【特許文献2】特開平9-256028号公報
【特許文献3】特開2015-74807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上述した特許文献1~3に開示されたステンレス鋼は、以下の点で改善の余地がある。具体的には、特許文献1で開示されたステンレス鋼は、介在物の組成を制御する上で、溶鋼組成を所定の範囲に制御する必要があるが、溶鋼組成を安定的に制御するのは、難しい。
【0006】
また、特許文献2に開示されたステンレス鋼は、MgO・Alスピネルを無害化するために、スラグ中のSiOを低くする必要がある。このため、Si合金の使用に際し、制約が生じることがある。さらに、特許文献3に開示されたステンレス鋼は、実際の製造時に液相率が低くなることが考えられ、精錬効率が低下しやすい。
【0007】
このように、上記特許文献1~3に開示されたステンレス鋼は、製造性の観点から、さらに改善の余地がある。また、表面性状についても、さらに改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決し、製造性に優れ、良好な表面性状を有するステンレス鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のステンレス鋼および製造方法を要旨とする。
【0010】
(1)介在物を含む、オーステナイト系ステンレス鋼または二相系ステンレス鋼であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.005~0.15%、
Si:0.05~4.0%、
Mn:12.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.0050%以下、
Ni:1.0~28.0%、
Cr:14.0~28.0%、
N:0.005~0.40%、
O:0.0001~0.0060%、
Al:0.20%以下、
Ca:0.0035%以下、
Mg:0.010%以下、
Mo:0~8.0%、
Cu:0~4.0%、
REM:0~0.050%、
Ta:0~0.10%、
B:0~0.004%、
W:0~4.0%、
V:0~1.0%、
Ti:0~0.40%、
Nb:0~0.60%、
Sn:0~0.1%、
Sb:0~0.30%、
Co:0~1.0%、
Zr:0~0.005%、
Ga:0~0.010%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記介在物は、SおよびOのうち、少なくとも一種以上を含み、かつ短径が3μm以上であり、
前記介在物の個数密度が、5個/mm以下であり、
前記介在物のうち、短径が15μm以上の介在物の個数密度が、0.05個/mm以下であり、
前記介在物のうち、下記(i)および(ii)式を満足する介在物をMgO系介在物とするとき、
前記MgO系介在物の前記介在物に対する個数割合が、75%以上である、ステンレス鋼。
CaO+Al+MgO+RO+Ta≧90% ・・・ (i)
Al/MgO≦1.25 ・・・ (ii)
但し、上記(i)式中のROは、REM酸化物を示し、上記(i)および(ii)式中のCaO、Al、MgO、RO、Taは、介在物中におけるそれぞれの酸化物の質量%を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0011】
(2)オーステナイト系ステンレス鋼であって、
前記化学組成が、質量%で、
C:0.005~0.15%、
Si:0.2~4.0%、
Mn:0.1~12.0%、
P:0.04%以下、
S:0.0050%以下、
Ni:1.0~28.0%、
Cr:14.0~28.0%、
N:0.005~0.40%、
O:0.0001~0.0060%、
Al:0.20%以下、
Ca:0.0035%以下、
Mg:0.010%以下、
Mo:0~8.0%、
Cu:0~4.0%、
REM:0~0.050%、
Ta:0~0.10%、
B:0~0.004%、
W:0~2.0%、
V:0~1.0%、
Ti:0~0.40%、
Nb:0~0.60%、
Sn:0~0.1%、
Sb:0~0.30%、
Co:0~1.0%、
Zr:0~0.005%、
Ga:0~0.010%、
を含有する、上記(1)に記載のステンレス鋼。
【0012】
(3)オーステナイト系ステンレス鋼であって、
前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.01~8.0%、
Cu:0.01~4.0%、
REM:0.0005~0.050%、
Ta:0.001~0.10%、
B:0.0001~0.004%、
W:0.05~2.0%、
V:0.05~1.0%、
Ti:0.001~0.40%、
Nb:0.001~0.60%、
Sn:0.01~0.1%、
Sb:0.005~0.30%、
Co:0.03~1.0%、
Zr:0.0001~0.005%、および
Ga:0.0001~0.010%、
から選択される一種以上を含有する、上記(2)に記載のステンレス鋼。
【0013】
(4)二相系ステンレス鋼であって、
前記化学組成が、質量%で、
C:0.005~0.08%、
Si:0.05~1.0%、
Mn:6.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.0050%以下、
Ni:1.0~14.0%、
Cr:16.0~28.0%、
N:0.005%超0.35%以下、
O:0.0001~0.0060%、
Al:0.20%以下、
Ca:0.0035%以下、
Mg:0.010%以下、
Mo:0.05~5.5%、
Cu:0~2.0%、
REM:0~0.050%、
Ta:0~0.10%、
B:0~0.004%、
W:0~4.0%、
V:0~1.0%、
Ti:0~0.40%、
Nb:0~0.10%、
Sn:0~0.1%、
Sb:0~0.30%、
Co:0~1.0%、
Zr:0~0.005%、
Ga:0~0.010%、
を含有する、上記(1)に記載のステンレス鋼。
【0014】
(5)二相系ステンレス鋼であって、
前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.05~2.0%、
REM:0.0005~0.050%、
Ta:0.001~0.10%、
B:0.0001~0.004%、
W:0.05~4.0%、
V:0.05~1.0%、
Ti:0.001~0.40%、
Nb:0.001~0.10%、
Sn:0.01~0.1%、
Sb:0.005~0.30%、
Co:0.03~1.0%、
Zr:0.0001~0.005%、および
Ga:0.0001~0.010%、
から選択される一種以上を含有する、上記(4)に記載のステンレス鋼。
【0015】
(6)前記介在物のうち、下記(i)および(iii)式を満足する介在物をMgO系介在物とするとき、
前記MgO系介在物の前記介在物に対する個数割合が、75%以上である、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載のステンレス鋼。
CaO+Al+MgO+RO+Ta≧90% ・・・ (i)
Al/MgO≦0.75 ・・・ (iii)
但し、上記(i)式中のROは、REM酸化物を示し、上記(i)および(iii)式中のCaO、Al、MgO、RO、Taは、介在物中におけるそれぞれの酸化物の質量%を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0016】
(7)前記介在物のうち、下記(i)、(ii)および(iv)式を満足する介在物をMgO系介在物とするとき、
前記MgO系介在物の前記介在物に対する個数割合が、90%以上である、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載のステンレス鋼。
CaO+Al+MgO+RO+Ta≧90% ・・・ (i)
Al/MgO≦1.25 ・・・ (ii)
CaO>20% ・・・ (iv)
但し、(i)式中のROは、REM酸化物を示し、(i)、(ii)および(iv)式中のCaO、Al、MgO、RO、Taは、介在物中におけるそれぞれの酸化物の質量%を表し、含有されない場合はゼロとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造性に優れ、良好な表面性状を有するステンレス鋼を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、表面性状を低下させる介在物について検討を行い、以下の(a)~(c)の知見を得た。
【0019】
(a)ステンレス鋼の製造する際に、MgO・Alスピネルが生成すると、表面疵が発生することがある。この理由として、MgO・Alスピネルが圧延といった加工で、破砕、伸展しにくいため、鋼材の厚さの減少に伴い、表面に露出することが挙げられる。この結果、表面疵が形成する。このため、表面疵の発生を抑制し、表面性状を向上させるためには、MgO・Alスピネルの生成を抑制することが望ましい。
【0020】
(b)そこで、MgO・Alスピネルの生成を抑制する一方、MgO系介在物を優先的に形成させることが望ましい。MgOが多く含まれるMgO系介在物とすることで、加工時に破砕しやすくなり、表面疵の発生が抑制されるからである。優先的に、MgO系介在物を形成させるためには、MgO、その他酸化物のスラグ中の活量を所定の範囲に制御することが有効である。
【0021】
(c)加えて、介在物自体の大きさを制御することも、表面疵の抑制には有効である。具体的には、表面疵の原因となりやすい短径が3μm以上の介在物の個数密度を制御するのが有効である。また、特に表面疵の原因となりやすい短径が15μm以上の介在物の個数密度も同様に制御するのが有効である。
【0022】
本発明の一実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態の各要件について詳しく説明する。
【0023】
1.ステンレス鋼種
本実施形態のステンレス鋼は、後述する介在物を含む。また、ステンレス鋼の種類は、オーステナイト系ステンレス鋼または二相系ステンレス鋼である。なお、上記二相系ステンレス鋼とは、オーステナイト相とフェライト相とが同程度混在する金属組織を有するステンレス鋼のことである。一般的な二相系ステンレス鋼であればよい。
【0024】
2.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0025】
本実施形態のステンレス鋼の化学組成は、質量%で、C:0.005~0.15%、Si:0.05~4.0%、Mn:12.0%以下、P:0.04%以下、S:0.0050%以下、Ni:1.0~28.0%、Cr:14.0~28.0%、N:0.005~0.40%、O:0.0001~0.0060%、Al:0.20%以下、Ca:0.0035%以下、Mg:0.010%以下、Mo:0~8.0%、Cu:0~4.0%、REM:0~0.050%、Ta:0~0.10%、B:0~0.004%、W:0~4.0%、V:0~1.0%、Ti:0~0.40%、Nb:0~0.60%、Sn:0~0.1%、Sb:0~0.30%、Co:0~1.0%、Zr:0~0.005%、Ga:0~0.010%、残部:Feおよび不純物である。
【0026】
オーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は、質量%で、C:0.005~0.15%、Si:0.2~4.0%、Mn:0.1~12.0%、P:0.04%以下、S:0.0050%以下、Ni:1.0~28.0%、Cr:14.0~28.0%、N:0.005~0.40%、O:0.0001~0.0060%、Al:0.20%以下、Ca:0.0035%以下、Mg:0.010%以下、Mo:0~8.0%、Cu:0~4.0%、REM:0~0.050%、Ta:0~0.10%、B:0~0.004%、W:0~2.0%、V:0~1.0%、Ti:0~0.40%、Nb:0~0.60%、Sn:0~0.1%、Sb:0~0.30%、Co:0~1.0%、Zr:0~0.005%、Ga:0~0.010%、残部:Feおよび不純物であるのが好ましい。
【0027】
二相系ステンレス鋼の化学組成は、質量%で、C:0.005~0.08%、Si:0.05~1.0%、Mn:6.0%以下、P:0.04%以下、S:0.0050%以下、Ni:1.0~14.0%、Cr:16.0~28.0%、N:0.005%超0.35%以下、O:0.0001~0.0060%、Al:0.20%以下、Ca:0.0035%以下、Mg:0.010%以下、Mo:0.05~5.5%、Cu:0~2.0%、REM:0~0.050%、Ta:0~0.10%、B:0~0.004%、W:0~4.0%、V:0~1.0%、Ti:0~0.40%、Nb:0~0.10%、Sn:0~0.1%、Sb:0~0.30%、Co:0~1.0%、Zr:0~0.005%、Ga:0~0.010%、残部:Feおよび不純物であるのが好ましい。
【0028】
以下、オーステナイト系ステンレス鋼と二相系ステンレス鋼とに分け、各元素の限定理由を説明する。
【0029】
2-1.オーステナイト系ステンレス鋼の化学組成
C:0.005~0.15%
Cは、Crの炭化物を生成することで耐食性を低下させる。また、加工性も低下させる。このため、C含有量は、0.15%以下とするのが好ましい。C含有量は、0.10%以下とするのがより好ましく、0.08%以下とするのがさらに好ましい。一方、Cを過剰に低減すると、脱炭後の脱酸負荷が高まり、Al系の介在物が増加する。このため、C含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。C含有量は、0.015%以上とするのがより好ましく、0.035%以上とするのがさらに好ましい。
【0030】
Si:0.2~4.0%
Siは、ステンレス鋼の溶製時に脱酸剤として作用する元素である。このため、Si含有量は、0.2%以上とするのが好ましい。Si含有量は、0.3%以上とするのがより好ましく、0.4%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Siを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Si含有量は、4.0%以下とするのが好ましい。Si含有量は、2.0%以下とするのがより好ましく、0.8%以下とするのがさらに好ましい。
【0031】
Mn:0.1~12.0%
Mnは、脱酸剤であるとともに、SをMnSとして固定することで熱間加工性を高める効果を有する。また、オーステナイトの安定化に作用する元素でもある。このため、Mn含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。Mn含有量は、0.5%以上とするのがより好ましく、0.7%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Mn含有量は、12.0%以下とするのが好ましい。Mn含有量は、4.0%以下とするのがより好ましく、2.0%以下とするのがさらに好ましい。
【0032】
P:0.04%以下
Pは、鋼中に含有される不純物元素であり、靱性、熱間加工性、および耐食性を低下させる。このため、P含有量は、0.04%以下とするのが好ましい。P含有量は、0.03%以下とするのがより好ましい。P含有量は、極力低減するのが好ましいが、Pを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、P含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0033】
S:0.0050%以下
Sは、鋼中に含有される不純物元素であり、靱性、熱間加工性、および耐食性を低下させる。このため、S含有量は、0.0050%以下とするのが好ましい。S含有量は、0.0030%以下とするのがより好ましい。S含有量は、極力低減するのが好ましいが、Sを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、S含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0034】
Ni:1.0~28.0%
Niは、耐食性を高める効果を有する。また、オーステナイト相を安定化する作用も有する。このため、Ni含有量は、1.0%以上とするのが好ましい。Ni含有量は、4.0%以上とするのがより好ましく、6.0%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Niは、高価な元素であり、過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、Ni含有量は、28.0%以下とするのが好ましい。Ni含有量は、16.0%以下とするのがより好ましく、12.0%以下とするのがさらに好ましい。
【0035】
Cr:14.0~28.0%
Crは、耐食性を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、14.0%以上とするのが好ましい。Cr含有量は、17.0%以上とするのがより好ましく、17.5%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Crを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Cr含有量は、28.0%以下とするのが好ましい。Cr含有量は、24.0%以下とするのがより好ましく、23.0%以下とするのがさらに好ましい。
【0036】
N:0.005~0.40%
Nは、強度および耐食性を向上させる効果を有する。このため、N含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。N含有量は、0.010%以上とするのがより好ましく、0.020%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Nを過剰に含有させると、鋭敏化に起因した粒界腐食が生じやすくなる。このため、N含有量は、0.40%以下とするのが好ましい。N含有量は、0.25%以下とするのがより好ましく、0.23%以下とするのがさらに好ましい。
【0037】
O:0.0001~0.0060%
Oは、鋼中に含有される不純物元素である。また、Oは、表面欠陥の原因となる介在物を構成する。このため、O含有量は、0.0060%以下とするのが好ましい。O含有量は、0.0030%以下とするのがより好ましく、0.0015%以下とするのがさらに好ましい。一方、Oを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、O含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。O含有量は、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0038】
Al:0.20%以下
Alは、ステンレス鋼の脱酸剤として作用する元素である。また、耐食性を向上させる効果を有する。しかしながら、Alを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Al含有量は、0.20%以下とするのが好ましい。Al含有量は、0.15%以下とするのがより好ましく、0.10%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.02%以上とするのが好ましい。
【0039】
Ca:0.0035%以下
Caは、表面疵の原因となるMgO・Alスピネルの生成を抑制する。しかしながら、Caを過剰に含有させると、耐食性が低下する。このため、Ca含有量は、0.0035%以下とするのが好ましい。Ca含有量は、0.0025%以下とするのがより好ましく、0.0020%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0003%以上とするのが好ましい。
【0040】
Mg:0.010%以下
Mgは、MgOを構成する元素である。しかしながら、Mgを過剰に含有させると、介在物が過剰に形成しやすくなり、特性低下の一因となる。このため、Mg含有量は、0.010%以下とするのが好ましい。Mg含有量は、0.008%以下とするのがより好ましく、0.005%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0005%以上とするのが好ましい。
【0041】
上記の元素に加えて、さらに、Mo、Cu、REM、Ta、B、W、V、Ti、Nb、Sn、Sb、Co、Zr、およびGaから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0042】
Mo:0~8.0%
Moは、耐食性を高める効果が有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moを過剰に含有させると、シグマ相を形成し、加工性が低下する。そのため、Mo含有量は、8.0%以下とするのが好ましい。Mo含有量は、6.0%以下とするのがより好ましく、3.0%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0043】
Cu:0~4.0%
Cuは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuを過剰に含有させると、熱間加工性が低下する。そのため、Cu含有量は、4.0%以下とするのが好ましい。Cu含有量は、3.0%以下とするのがより好ましく、2.0%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0044】
REM:0~0.050%
REM(希土類金属:Rare-Earth Metal)は、Oと親和性が高く、表面疵の原因となるMgO・Alスピネルを抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMを過剰に含有させると、鋳造時のノズル閉塞の原因となり、製造性が低下する。また、表面疵が発生しやすくなる。そのため、REM含有量は、0.050%以下とするのが好ましい。REM含有量は、0.025%以下とするのがより好ましく、0.010%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.0005%以上とするのが好ましい。
【0045】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0046】
Ta:0~0.10%
Taは、Oと親和性が高いため、表面疵の原因となるMgO・Alスピネルの形成を抑制する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taを過剰に含有させると、常温延性および靭性の低下が生じる。そのため、Ta含有量は、0.10%以下とするのが好ましい。Ta含有量は、0.05%以下とするのがより好ましく、0.01%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0047】
B:0~0.004%
Bは、粒界の強度を高める効果を有する。また、加工性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bを過剰に含有させると、延性が低下し、却って加工性が低下する。そのため、B含有量は、0.004%以下とするのが好ましい。B含有量は、0.0025%以下とするのがより好ましく、0.002%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0048】
W:0~2.0%
Wは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wは、高価な元素であり、Wを過剰に含有させると、製造コストが増加する。そのため、W含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。W含有量は、1.5%以下とするのがより好ましく、1.0%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0049】
V:0~1.0%
Vは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vを過剰に含有させると、靭性が低下する。そのため、V含有量は、1.0%以下とするのが好ましい。V含有量は、0.5%以下とするのがより好ましく、0.25%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0050】
Ti:0~0.40%
Tiは、フェライト相率に影響を与える元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiを過剰に含有させると、鋳造前にTiNが生成し、ノズル閉塞を助長し、製造性が低下する。また、表面性状が低下することがある。そのため、Ti含有量は、0.40%以下とするのが好ましい。Ti含有量は、0.10%以下とするのがより好ましく、0.05%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0051】
Nb:0~0.60%
Nbは、成形性および耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、靭性が低下する。そのため、Nb含有量は、0.60%以下とするのが好ましい。Nb含有量は、0.10%以下とするのがより好ましく、0.08%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0052】
Sn:0~0.1%
Snは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snを過剰に含有させると、加工性が低下する。そのため、Sn含有量は、0.1%以下とするのが好ましい。Sn含有量は、0.05%以下とするのがより好ましく、0.02%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0053】
Sb:0~0.30%
Sbは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbを過剰に含有させると、TiN生成を助長して表面疵を発生させることがあるため、Sb含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。Sb含有量は、0.10%以下とするのがより好ましく、0.05%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。
【0054】
Co:0~1.0%
Coは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coは、非常に高価な元素であるため、Coを過剰に含有させると、製造コストが増加する。そのため、Co含有量は、1.0%以下とするのが好ましい。Co含有量は、0.7%以下とするのがより好ましく、0.4%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.03%以上とするのが好ましい。
【0055】
Zr:0~0.005%
Zrは、Sを固定することで、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrを過剰に含有させると、溶鋼中で粗大な硫化物を形成し、却って耐食性が低下する。そのため、Zr含有量は、0.005%以下とするのが好ましい。Zr含有量は、0.003%以下とするのがより好ましく、0.002%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0056】
Ga:0~0.010%
Gaは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaを過剰に含有させると、Ga含有量は、0.010%以下とするのが好ましい。Ga含有量は、0.005%以下とするのがより好ましく、0.003%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0057】
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態の鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0058】
2-2.二相系ステンレス鋼の化学組成
C:0.005~0.08%
Cは、Crの炭化物を生成することで耐食性を低下させる。また、加工性も低下させる。このため、C含有量は、0.08%以下とするのが好ましい。C含有量は、0.065%以下とするのがより好ましく、0.025%以下とするのがさらに好ましい。一方、Cを過剰に低減すると、脱炭後の脱酸負荷が高まり、Al系の介在物が増加する。このため、C含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。C含有量は、0.010%以上とするのがより好ましく、0.015%以上とするのがさらに好ましい。
【0059】
Si:0.05~1.0%
Siは、ステンレス鋼の溶製時に脱酸剤として作用する元素である。このため、Si含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。Si含有量は、0.2%以上とするのがより好ましく、0.5%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Siを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Si含有量は、1.0%以下とするのが好ましい。Si含有量は、0.9%以下とするのがより好ましく、0.8%以下とするのがさらに好ましい。
【0060】
Mn:6.0%以下
Mnは、脱酸剤であるとともに、SをMnSとして固定することで熱間加工性を高める効果を有する。また、オーステナイトの安定化に作用する元素でもある。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Mn含有量は、6.0%以下とするのが好ましい。Mn含有量は、5.5%以下とするのがより好ましく、3.5%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.5%以上とするのが好ましく、1.0%以上とするのがより好ましい。
【0061】
P:0.04%以下
Pは、鋼中に含有される不純物元素であり、靱性、熱間加工性、および耐食性を低下させる。このため、P含有量は、0.04%以下とするのが好ましい。P含有量は、0.03%以下とするのがより好ましい。P含有量は、極力低減するのが好ましいが、Pを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、P含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0062】
S:0.0050%以下
Sは、鋼中に含有される不純物元素であり、靱性、熱間加工性、および耐食性を低下させる。このため、S含有量は、0.0050%以下とするのが好ましい。S含有量は、0.0030%以下とするのがより好ましい。S含有量は、極力低減するのが好ましいが、Sを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、S含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0063】
Ni:1.0~14.0%
Niは、耐食性を高める効果を有する。また、オーステナイト相を安定化する効果も有する。このため、Ni含有量は、1.0%以上とするのが好ましい。Ni含有量は、2.0%以上とするのがより好ましく、4.0%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Niは、高価な元素であり、過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、Ni含有量は、14.0%以下とするのが好ましい。Ni含有量は、10.0%以下とするのがより好ましく、7.0%以下とするのがさらに好ましい。
【0064】
Cr:16.0~28.0%
Crは、耐食性を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、16.0%以上とするのが好ましい。Cr含有量は、20.0%以上とするのがより好ましく、22.0%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Crを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Cr含有量は、28.0%以下とするのが好ましい。Cr含有量は、26.0%以下とするのがより好ましく、25.5%以下とするのがさらに好ましい。
【0065】
N:0.005%超0.35%以下
Nは、強度および耐食性を向上させる効果を有する。このため、N含有量は、0.005%超とするのが好ましい。N含有量は、0.010%以上とするのがより好ましく、0.10%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Nを過剰に含有させると、鋭敏化に起因した粒界腐食が生じやすくなる。このため、N含有量は、0.35%以下とするのが好ましい。N含有量は、0.25%以下とするのがより好ましく、0.18%以下とするのがさらに好ましい。
【0066】
O:0.0001~0.0060%
Oは、鋼中に含有される不純物元素である。また、Oは、表面欠陥の原因となる介在物を構成する。このため、O含有量は、0.0060%以下とするのが好ましい。O含有量は、0.0030%以下とするのがより好ましく、0.0015%以下とするのがさらに好ましい。一方、Oを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、O含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。O含有量は、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0005%以上とするのがさらに好ましい。
【0067】
Al:0.20%以下
Alは、ステンレス鋼の脱酸剤として作用する元素である。また、耐食性を向上させる効果を有する。しかしながら、Alを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Al含有量は、0.20%以下とするのが好ましい。Al含有量は、0.10%以下とするのがより好ましく、0.08%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0068】
Ca:0.0035%以下
Caは、表面疵の原因となるMgO・Alスピネルの生成を抑制する。しかしながら、Caを過剰に含有させると、耐食性が低下する。このため、Ca含有量は、0.0035%以下とするのが好ましい。Ca含有量は、0.0025%以下とするのがより好ましく、0.0020%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0003%以上とするのが好ましい。
【0069】
Mg:0.010%以下
Mgは、MgOを構成する元素である。しかしながら、Mgを過剰に含有させると、介在物が過剰に形成しやすくなり、特性低下の一因となる。このため、Mg含有量は、0.010%以下とするのが好ましい。Mg含有量は、0.008%以下とするのがより好ましく、0.005%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0070】
Mo:0.05~5.5%
Moは、耐食性を高める効果が有する。このため、Mo含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。Mo含有量は、0.3%以上とするのがより好ましく、1.5%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Moを過剰に含有させると、シグマ相を形成し、加工性が低下する。そのため、Mo含有量は、5.5%以下とするのが好ましい。Mo含有量は、4.0%以下とするのがより好ましく、Mo含有量は、3.0%以下とするのがさらに好ましい。
【0071】
上記の元素に加えて、さらに、Cu、REM、Ta、B、W、V、Ti、Nb、Sn、Sb、Co、Zr、およびGaから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0072】
Cu:0~2.0%
Cuは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuを過剰に含有させると、熱間加工性が低下する。そのため、Cu含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。Cu含有量は、1.0%以下とするのがより好ましく、0.8%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0073】
REM:0~0.050%
REM(希土類金属:Rare-Earth Metal)は、Oと親和性が高く、表面疵の原因となるMgO・Alスピネルの形成を抑制する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMを過剰に含有させると、鋳造時のノズル閉塞の原因となり、製造性が低下する。そのため、REM含有量は、0.050%以下とするのが好ましい。REM含有量は、0.025%以下とするのがより好ましく、0.010%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.0005%以上とするのが好ましい。
【0074】
Ta:0~0.10%
Taは、Oと親和性が高いため、表面疵の原因となるMgO・Alスピネルの形成を抑制する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taを過剰に含有させると、常温延性の低下および靭性の低下が生じる。そのため、Ta含有量は、0.10%以下とするのが好ましい。Ta含有量は、0.05%以下とするのがより好ましく、0.01%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0075】
B:0~0.004%
Bは、粒界の強度を高める効果を有する。また、加工性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bを過剰に含有させると、延性が低下し、却って加工性が低下する。そのため、B含有量は、0.004%以下とするのが好ましい。B含有量は、0.0025%以下とするのが好ましく、0.002%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0076】
W:0~4.0%
Wは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wは、高価な元素であり、Wを過剰に含有させると、製造コストが増加する。そのため、W含有量は、4.0%以下とするのが好ましい。W含有量は、2.0%以下とするのがより好ましく、1.0%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0077】
V:0~1.0%
Vは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vを過剰に含有させると、靭性が低下する。そのため、V含有量は、1.0%以下とするのが好ましい。V含有量は、0.5%以下とするのがより好ましく、0.25%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0078】
Ti:0~0.40%
Tiは、フェライト相率に影響を与える元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiを過剰に含有させると、鋳造前にTiNが生成し、ノズル閉塞を助長し、製造性が低下する。また、表面性状が低下することがある。そのため、Ti含有量は、0.40%以下とするのが好ましい。Ti含有量は、0.10%以下とするのがより好ましく、0.05%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0079】
Nb:0~0.10%
Nbは、成形性および耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、靭性が低下する。そのため、Nb含有量は、0.10%以下とするのが好ましい。Nb含有量は、0.05%以下とするのがより好ましく、0.04%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0080】
Sn:0~0.1%
Snは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snを過剰に含有させると、加工性が低下する。そのため、Sn含有量は、0.1%以下とするのが好ましい。Sn含有量は、0.05%以下とするのがより好ましく、0.02%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0081】
Sb:0~0.30%
Sbは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbを過剰に含有させると、TiN生成を助長して表面疵を発生させることがあるため、Sb含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。Sb含有量は、0.10%以下とするのがより好ましく、0.05%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。
【0082】
Co:0~1.0%
Coは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coは、非常に高価な元素であるため、Coを過剰に含有させると、製造コストが増加する。そのため、Co含有量は、1.0%以下とするのが好ましい。Co含有量は、0.7%以下とするのがより好ましく、0.4%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.03%以上とするのが好ましい。
【0083】
Zr:0~0.005%
Zrは、Sを固定することで、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrを過剰に含有させると、溶鋼中で粗大な硫化物を形成し、却って耐食性が低下する。そのため、Zr含有量は、0.005%以下とするのが好ましい。Zr含有量は、0.003%以下とするのがより好ましく、0.002%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0084】
Ga:0~0.010%
Gaは、耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaを過剰に含有させると、Ga含有量は、0.010%以下とするのが好ましい。Ga含有量は、0.005%以下とするのがより好ましく、0.003%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
【0085】
本実施形態の二相系ステンレス鋼の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0086】
3.介在物
本実施形態のステンレス鋼は、表面性状に影響を与える介在物について、以下のように制御する。一般的な介在物については、種々の分類があるが、本実施形態のステンレス鋼では、介在物は、SおよびOのうち、少なくとも一種以上を含み、かつ短径が3μm以上である化合物とする。
【0087】
3-1.介在物の個数密度
大きな介在物が多数形成していると、表面疵が発生しやすくなる。このため、上述した介在物の個数密度は、5個/mm以下とする。介在物の個数密度が5個/mm超であると、表面疵が発生しやすくなり、表面性状が低下する。このため、介在物の個数密度は、5個/mm以下とし、3個/mm以下とするのが好ましい。なお、介在物の個数密度の下限は、特に限定しないが、通常、0.8個/mm以上となる場合が多い。
【0088】
また、上述した介在物のうち、短径が15μm以上の介在物が増加すると、表面疵がさらに発生しやすくなる。このため、短径が15μm以上の介在物の個数密度は、0.05個/mm以下とする。短径が15μm以上の介在物の個数密度は、0.03個/mm以下とするのが好ましい。なお、短径が15μm以上の介在物の個数密度の下限は、特に限定しないが、通常、0.005個/mm以上となる場合が多い。
【0089】
ここで、上述した介在物の個数密度は、以下の手順で測定する。圧延面(圧延方向と平行で鋼板の板厚方向と垂直な断面)を観察した際に、SおよびOの少なくとも一方が含まれ、3μm以上のものについて、介在物として特定する。特定した介在物で、無作為に100個以上を抽出し、総視野数から観察領域(mm)を特定する。続いて、抽出された全ての介在物の数と、観察領域から、個数密度を算出する。同様に、短径が15μm以上の介在物については、上記観察領域から、短径が15μm以上の介在物をさらに抽出し、個数密度を算出する。なお、介在物の短径とは、介在物の長径と直角をなす方向の長さのうち、最も短くなる長さをいう。なお、介在物の長径は、介在物の外周上の2点を結んだ際に、最も長くなる直線の長さのことをいう。
【0090】
3-2.MgO系介在物
本実施形態のステンレス鋼では、表面疵の原因となるMgO・Alスピネルの形成を抑制し、MgO系介在物を優先的に形成させる。このMgO系介在物を優先的に形成させることで、表面疵を抑制し、表面性状を良好にできる。ここで、MgO系介在物とは、上述した介在物のうち、下記(i)および(ii)式を満足する介在物、または下記(i)および(iii)式を満足する介在物、または下記(i)、(ii)および(iv)式を満足する介在物である。
【0091】
CaO+Al+MgO+RO+Ta≧90% ・・・ (i)
Al/MgO≦1.25 ・・・ (ii)
(i)式中のROは、REM酸化物を示し、(i)および(ii)式中のCaO、Al、MgO、RO、Taは、介在物中におけるそれぞれの酸化物の質量%を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0092】
MgO系介在物は、(i)式を満足する、すなわちCaO、Al、MgO、RO、およびTaの合計量が、質量%で、90%以上である。なお、(i)式を満足しない場合、SiO、MnO等の低級酸化物が多数存在していることを示し、加工時の表面欠陥および内部欠陥の生成に繋がるような酸化物が増加しやすくなる。
【0093】
MgO系介在物は、通常、Ca、Al、Mgの酸化物から構成されることが多いが、例えば、REM、Ta等を含有させる場合、REMの酸化物(RO)、および/またはTaの酸化物を含んでもよい。REMおよびTaの酸化物は、通常、上述したような欠陥発生の一因とはなりにくいからである。
【0094】
また、MgO系介在物は、(ii)を満足する、すなわちMgOに対するAlの割合が、1.25以下であることを満足する。MgOに対するAlの割合が、1.25以下であれば、MgO・Alスピネルと比較し、MgOが連続鋳造時の晶出相として形成しやすいからである。
【0095】
上述した(i)および(ii)式を満足するMgO系介在物の個数割合は、上述の介在物に対して、75%以上とする。(i)および(ii)式を満足するMgO系介在物の個数割合が75%未満であると、MgOを主体とした晶出相ではなく、AlMgOスピネルを主体とした晶出相が形成しているため、表面疵が発生しやすくなるからである。MgO系介在物の個数割合は、85%以上とするのが好ましく、90%以上とするのがより好ましい。
【0096】
上記(i)および(ii)式に加え、さらに下記(iii)式を満足するMgO系介在物であるのが好ましく、このMgO系介在物の上述した介在物に対する個数割合が、75%以上であるのが好ましい。ここで、(iii)式を満足するMgO系介在物は、(ii)式を必然的に満足することになるため、このMgO系介在物は(i)および(iii)式を満足することになる。
Al/MgO≦0.75 ・・・ (iii)
但し、上記(iii)式中のAlおよびMgOは、介在物中におけるAl、MgOそれぞれの質量%を表す。
【0097】
(i)および(iii)式を満足したMgO系介在物の介在物に対する個数割合が75%以上になることで、さらに、MgO・Alスピネルの形成が抑制されるからである。
【0098】
また、(i)および(ii)式に加え、さらに下記(iv)式を満足するMgO系介在物であるのが好ましく、このMgO系介在物の上述した介在物に対する個数割合が、90%以上であるのが好ましい。
CaO>20% ・・・ (iv)
但し、上記(iv)式中のCaOは、介在物中におけるCaOの質量%を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0099】
(i)、(ii)および(iv)式を満足したMgO系介在物の介在物に対する個数割合が90%以上とすることで、さらに、MgO・Alスピネルの形成が抑制されるからである。
【0100】
なお、各MgO系介在物の個数割合の算出方法は、以下のとおりである。上述した介在物の個数密度の算出の際と同様の条件で、観察を行い、介在物を無作為に100個以上選択する。これを母集団とし、母集団の化合物に含まれる元素をSEM-EDSで分析する。この際、介在物のなかで、MgO系介在物を判定する。判定に際しては、(i)および(ii)式を満足するもの、(i)および(iii)式を満足するもの、(i)、(ii)および(iv)式を満足するものをMgO系介在物とする。
【0101】
また、介在物の各元素の含有量を特定し、特定した元素分析値を用い、Ca、Al、Mg、REM、TaがいずれもすべてCaO、Al、MgO、RO、TaOであるとして、酸化物中のCaO、Al、MgO、RO、TaO含有量(質量%)とする。なお、ROは、上述したように、REM酸化物のことであり、例えば、REMがCeの場合は、Ceのように、含有されるREM元素の酸化物の含有量のことを示す。また、各MgO系介在物について、母集団中の100個以上の介在物に対する割合を、それぞれのMgO系介在物の個数割合(%)として算出する。
【0102】
4.製造方法
本実施形態に係るステンレス鋼の好ましい製造方法について説明する。本実施形態に係るステンレス鋼は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
【0103】
最初に、鉄鉱石といった主原料を溶解し、一次精錬を行うのが好ましい。溶解および一次精錬の条件については、特に限定しない。常法に従えばよい。続いて、二次精錬を行うのが好ましい。本実施形態のステンレス鋼では、通常の脱酸の前に、予備脱酸を行うのが好ましい。予備脱酸は、Si、Mn、およびAlから選択される一種以上を脱酸剤として使用するのが好ましい。この予備脱酸により、初期段階において、溶鋼中のO濃度を、0.006%以下とするのが好ましい。この結果、介在物の個数密度および短径15μm以上の介在物の個数密度を上述した範囲に制御することができる。
【0104】
続いて、二次精錬の終盤に、Al、Si、Ti、REMのうち、いずれかの合金を投入し、脱酸をする。この際、上記元素の合金を複数投入することもできるが、通常、いずれか一つの元素の合金を投入することが多い。ここで、脱酸の際に、スラグ中のMgOの活量および上記二次精錬の終盤に脱酸剤に使用した元素(Al、Si、Ti、REM)の酸化物の活量を制御するのが好ましい。また、この際、介在物を多成分系化する通常の目的でCaを添加してもよい。
【0105】
具体的には、スラグ中のMgOの活量を、純固体MgO基準で、0.9以上とするのが好ましい。スラグ中のMgOの活量が、純固体MgO基準で、0.9未満であると、MgO系介在物の個数割合が低下し、表面性状が不良になるからである。また、上記脱酸に使用した元素の酸化物の活量は、それぞれ、Alの活量が0.005以下、SiOの活量が0.0005以下、Tiの活量が0.0005以下、ROの活量が0.5以下とするのが好ましい。なお、上記ROの活量において、例えば、複数のREMを添加した場合は、代表的な元素の活量を制御すればよい。このような、活量の制御により、MgO系介在物の個数割合を上述した範囲に制御することができるからである。
【0106】
この際、スラグ中のMgOおよびその他酸化物の活量は、スラグの組成を測定し、熱力学データ集、および商用の熱力学計算ソフトを用いて、算出すればよい。スラグ中のMgOおよびその他酸化物が上述した範囲を満足しない場合には、以下の方法で活量を調整すればよい。MgOの活量を高めるためには、例えば、CaOおよび/またはMgOを溶鋼に投入するのが好ましい。また、MgO以外の上記酸化物の活量を低下させるためには、例えば、CaOを溶鋼中に投入するのが好ましい。
【0107】
なお、溶鋼中のMg濃度を高める上で、Mg合金を投入する、Tiを投入するといった方法も考えられるが、化学組成を本実施形態の範囲内に調整することが困難になることがあるため、留意する。また、上記の条件以外は、二次精錬の条件は、特に限定しない。常法に従えばよく、本実施形態の鋼の化学組成の範囲を満足するように調整すればよい。
【0108】
二次精錬の際、溶鋼の攪拌を行うのが好ましい。また、二次精錬終盤の脱酸剤の投入から、鋳造完了までの時間は、20~240分の範囲とするのが好ましい。また、(i)および(iii)式を満足するMgO系介在物の個数割合を90%以上とするためには、当該時間が150分以下であるのが好ましい。
【0109】
本実施形態のステンレス鋼では、脱酸剤は、主として、Alを使用するのが好ましい。すなわち、予備脱酸または、二次精錬の終盤での脱酸を通じ、全体の工程において、脱酸に寄与するのが、Alとなるようにするのが望ましい。なお、これは、上述したように、Al以外の脱酸剤を使用することを妨げない。
【0110】
その後、適宜、連続鋳造等により鋳片またはスラブを製造すればよい。得られた鋳片またはスラブに必要な加工、熱処理、冷却、酸洗等を行い、所望する組織、具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼、または、二相系ステンレス鋼とすればよい。また、鋼の形状については、特に限定しないが、考えられる形状として、例えば、鋼線材、線材、棒鋼、鋼板、その他型鋼等が挙げられる。所望する形状ごとに必要な加工、熱処理、冷却、酸洗等を行えばよい。
【0111】
以下、実施例によって本実施形態に係るステンレス鋼をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0112】
表1に示す化学組成を有する溶鋼を、タンディッシュに注入し、連続鋳造機により鋳造し、鋳片を得た。なお、溶鋼を製造する際には、以下のように脱酸を行った。すなわち、二次精錬においてAl、Si、Mn、のうちの一種以上を用いて予備脱酸を行い、溶鋼中のO濃度を0.006%以下とした。次に、スラグ組成を制御してスラグ中の成分の活量を表2に記載するように制御した後に、Al、Si、Ti、REMのいずれかによる脱酸を行った。この際、活量を制御するスラグの成分は、表2に記載しているように、MgOを必須とし、その他は、最後(二次精錬終盤)に投入した脱酸剤に対応する成分の酸化物とした。
【0113】
つまり、Siの場合はSiO、Alの場合はAl、Tiの場合はTi、REMの場合は、使用したREMの酸化物の活量の制御を行った。複数のREMを同時に添加した場合は代表的な成分について、活量の調整を行った。ここで、各例中のスラグ中の活量は、後述する表2に示すとおりであり、表中の活量は、それぞれ純固体基準で、熱力学平衡計算ソフトを用いて算出した。その他、条件については、適宜、調整し、ステンレス鋼を製造した。なお、表1中に示した化学組成は、各元素の成分範囲の調整が完全に終了した後の化学組成であり、各例について、オーステナイト系ステンレス鋼の場合は、γと記載し、二相系ステンレス鋼の場合は、DPと記載している。
【0114】
【表1】
【0115】
得られた鋳片について、1200~900℃で加熱し、熱間圧延を行い、980~1100℃で、0~60秒、熱延板焼鈍を行い、その後、酸洗を行った。得られた熱延板について、圧延率80%で、冷間圧延し、1000~1100℃で、0~60秒冷延板焼鈍を行い、酸洗し、1.0mm厚の鋼板を得た。得られた鋼板について、介在物の測定と表面疵の評価を以下の手順で行った。
【0116】
(介在物の評価)
圧延面を観察面とし、SおよびOの少なくとも一方が含まれ、かつ3μm以上の化合物について、介在物として特定した。特定した介在物で、ついて、無作為に100個以上選択し、総視野数から観察領域(mm)を特定し、所定の大きさの介在物の個数密度について、算出した。なお、短径については、観察を行い、測定した。観察には、SEM-EDSを用い、分析を行う。分析の際の倍率は、およそ1000倍程度であった。
【0117】
上記の個数密度を測定しながら、介在物の組成を付属するEDSを用いて測定した。上述した無作為に選択した100個以上の介在物を母集団として、介在物がどのMgO系介在物であるか判定を行い、MgO系介在物の個数割合(%)を算出した。なお、個数割合は、母集団中の100個以上の介在物に対する各MgO系介在物の割合とした。その他、測定条件は、上述した通りである。
【0118】
(表面疵の評価)
表面疵の評価は、得られた鋼板の全長を1m間隔で区切って目視で検査した。そして、長さ10mm以上の表面疵が認められた領域が、全領域の1.0%以下である場合を◎、全領域の1.0超~2.0%である場合を○、2.0~5.0%である場合を△、5.0%超である場合を×とした。そして、○および◎である場合を表面性状が良好であると評価した。
【0119】
【表2】
【0120】
本実施形態の要件を満足するB1~B21は、良好な表面性状を有していた。その一方、本実施形態の要件を満足しないNo.b1~b5は、表面性状が不良であった。b1はMgO活量が0.9よりも低かったため、MgO系介在物の割合が少なく、表面疵が発生した。
【0121】
b2はSiO活量が0.0005よりも高かったため、MgO系介在物の割合が少なく、表面疵が発生した。b3はO濃度が高く、短径が3μm以上の介在物および15μm以上の介在物の個数密度が高く、表面疵が発生した。b4はO濃度が高く、15μm以上の介在物の個数密度が高かった。加えて、SiO活量が0.0005よりも高かったため、MgO系介在物の割合が少なく、表面疵が発生した。b5はAl活量が0.005よりも高かったためMgO系介在物の割合が少なく、表面疵が発生した。
【実施例0122】
実施例1と同様、二次精錬を行い、所定の化学組成を有する鋳片を得た。なお、二次精錬において、脱酸剤を最後に投入したブローのタイミングから、連続鋳造完了までの時間が表4に記載のように90~240分の範囲に調整した。その他の製造条件については、表4に記載したとおりであり、実施例1と同様、二次精錬で、スラグ中の成分の活量を調整した。得られた鋳片に、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗を施した後、冷間圧延、冷延板焼鈍、酸洗を行い、鋼板を得た。得られた鋼板について、実施例1と同様の基準で、介在物および表面疵の評価を行った。なお、表3に各鋼板の化学組成を示す。また、表4に、スラグの活量、介在物および表面疵の評価結果を示す。
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
F1~F5は、本実施形態の要件を満足するため、良好な表面性状を有していた。加えて、本実施形態の好ましい範囲を満足するF1~F3は、他の例と比較し、極めて良好な表面性状を有していた。
【実施例0126】
実施例1と同様、二次精錬を行い、所定の化学組成を有する鋳片を得た。なお、溶鋼を製造する際には、介在物中のCaO含有量を高めるために、Ca合金を添加した。その他の製造条件については、表6に記載したとおりであり、実施例1と同様、二次精錬で、スラグ中の成分の活量を調整し、攪拌から鋳造までを行った。得られた鋳片に、実施例1と同様の条件で、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗を施した後、冷間圧延、冷延板焼鈍、酸洗を行い、鋼板を得た。得られた鋼板について、実施例1と同様の基準で、介在物および表面疵の評価を行った。なお、表5に各鋼板の化学組成を示す。また、表6に、スラグの活量、介在物および表面疵の評価結果を示す。
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
D1~D4は、本実施形態の要件を満足するため、良好な表面性状を有していた。加えて、本実施形態の好ましい範囲を満足するD3は、他の例と比較し、極めて良好な表面性状を有していた。