(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103168
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】真空排気装置、及びプラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20240725BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20240725BHJP
F04D 29/64 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H05H1/46 M
F04D19/04 G
F04D29/64 Z
F04D19/04 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007355
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【テーマコード(参考)】
2G084
3H130
3H131
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084BB27
2G084BB30
2G084BB35
2G084BB37
2G084CC12
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD14
2G084DD67
2G084FF29
2G084FF33
3H130AA12
3H130AB28
3H130AB52
3H130AC02
3H130BA97J
3H130DG02X
3H131AA02
3H131BA03
3H131CA37
3H131CA38
(57)【要約】
【課題】小型化が容易な真空排気装置を提供する。
【解決手段】ターボ分子ポンプと、プラズマ発生装置210とを備えた真空排気装置であって、プラズマ発生装置210は、変位可能な電極214を有し、プラズマを発生させない非運転時に、電極214を変位させて、プラズマ連通口228を封止可能である。プラズマ発生装置210に、プラズマを発生させるための原料ガスの供給用配管が接続され、原料ガスが電極214の変位に利用される。プラズマ発生装置210には、ピストン220が配設され、ピストン220に作用する圧力差により電極214が変位する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプと、プラズマ発生装置とを備えた真空排気装置であって、
前記プラズマ発生装置は、
変位可能な電極を有し、
プラズマを発生させない非運転時に、前記電極を変位させて、プラズマ連通口を封止可能であることを特徴とする真空排気装置。
【請求項2】
前記プラズマ発生装置に、プラズマを発生させるための原料ガスの供給用配管が接続され、前記原料ガスが前記電極の変位に利用されることを特徴とする請求項1に記載の真空排気装置。
【請求項3】
前記プラズマ発生装置には、ピストンが配設され、前記ピストンに作用する圧力差により前記ピストンが移動して前記電極が変位することを特徴とする請求項1に記載の真空排気装置。
【請求項4】
前記プラズマ発生装置には、ダイアフラムが配設され、前記ダイアフラムに生じる圧力差により前記ダイアフラムが変形して前記電極が変位することを特徴とする請求項1に記載の真空排気装置。
【請求項5】
前記プラズマ発生装置には、
磁性体からなる電磁石ターゲットと、
前記電磁石ターゲットの近傍に配設された電磁石と、が配設され、
前記電磁石ターゲットと、前記電磁石との間に生じる磁力を前記電極に作用させて、前記電極が変位することを特徴とする請求項1に記載の真空排気装置。
【請求項6】
前記真空ポンプと、前記プラズマ発生装置とが、前記プラズマ発生装置から前記真空ポンプへの伝熱可能に固定されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の真空排気装置。
【請求項7】
前記電極が、前記真空ポンプのケーシングに対向することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の真空排気装置。
【請求項8】
プラズマ発生用で且つプラズマ連通口封止用の、変位可能な電極を備えたことを特徴とするプラズマ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプを備えた真空排気装置、及び、真空ポンプとの組み合わせが可能なプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプは、例えば、半導体やフラットパネル等の製造装置における排気のために用いられる。ターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子(ガス分子)を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、ポンプ内の温度を適切に管理するために、ヒータや冷却管を備えたタイプのものがある。
【0003】
ターボ分子ポンプのような真空ポンプにおいては、半導体等の製造過程で生じる反応生成物が真空ポンプ内に堆積する場合がある。後掲の特許文献1には、反応生成物への対策として、真空ポンプにプラズマ発生装置を設置し、内部をプラズマ洗浄する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明において、プラズマ源は、真空ポンプの側面に配設された導入ポートに対し、バルブを介して設置されている。そのため、真空ポンプ及びプラズマ発生装置の組み合わせた真空排気装置として、全体的に、張り出し寸法が大きくなる場合がある。
【0006】
一方、真空ポンプの周囲には、真空ポンプの吸気口に接続されるコンダクタンスバルブのアクチュエータ、各種配管やフレームなどが設置される場合がある。その場合、真空ポンプの周囲には、プラズマ発生装置を設置するのに充分なスペースが無いことがある。そして、プラズマ発生装置を設置するために、真空ポンプやその周囲に対して、大掛かりな改造が必要となる場合があった。
【0007】
本発明の目的とするところは、小型化が容易な真空排気装置、及び、プラズマ発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために本発明に係る真空排気装置は、
真空ポンプと、プラズマ発生装置とを備えた真空排気装置であって、
前記プラズマ発生装置は、
変位可能な電極を有し、
プラズマを発生させない非運転時に、前記電極を変位させて、プラズマ連通口を封止可能であることを特徴とする。
(2)上記目的を達成するために本発明に係るプラズマ発生装置は、
プラズマ発生用で且つプラズマ連通口封止用の、変位可能な電極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記発明によれば、小型化が容易な真空排気装置、及び、プラズマ発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る真空排気装置の構成を模式的に示す説明図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】第1実施形態に係るプラズマ発生装置とその周辺部を拡大して示す説明図である。
【
図6】プラズマ発生装置の電力供給の流れを模式的に示す説明図である。
【
図7】原料ガスの供給ラインを模式的に示すブロック図である。
【
図8】(a)はターボ分子ポンプの運転時におけるプラズマ発生装置の状態を示す説明図、(b)はターボ分子ポンプの待機時におけるプラズマ発生装置の状態を示す説明図である。
【
図10】(a)は本発明の第2実施形態に係るプラズマ発生装置とその周辺部を拡大して示す説明図、(b)は本発明の第3実施形態に係るプラズマ発生装置とその周辺部を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態に係る真空排気装置10の基本構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係る真空排気装置10を示している。真空排気装置10は、真空ポンプであるターボ分子ポンプ100と、プラズマ発生装置210とを備えている。詳細は後述するが、ターボ分子ポンプ100は真空排気を行い、プラズマ発生装置210は、ターボ分子ポンプ100に発生した反応生成物をプラズマ洗浄する。
【0012】
より具体的には、真空排気装置10には、少なくとも3つの運転モード(運転モード1~3)が備えられている。運転モード1は通常運転モードである。通常運転モードによる通常運転時には、ターボ分子ポンプ100は定格速度で運転され、プラズマ発生装置210は、プラズマ洗浄OFFの状態(洗浄OFF状態)となる。
【0013】
運転モード2は洗浄モードである。洗浄モードによる洗浄時には、ターボ分子ポンプ100は、低速運転、又は、停止(運転停止)の状態となる。プラズマ発生装置210は、プラズマ洗浄ONの状態(洗浄ON状態)となる。
【0014】
運転モード3は待機モードである。待機モードによる待機時には、ターボ分子ポンプ100は、運転モード2と同様に、低速運転、又は、停止(運転停止)の状態となる。プラズマ発生装置210は、運転モード1と同様に、プラズマ洗浄OFFの状態(洗浄OFF状態)となる。
【0015】
本実施形態において、「非運転時」の用語を用いる場合がある。真空排気装置10に関して、プラズマを発生させない状態を「非運転時」とする。上述の運転モード1、運転モード3は「非運転時」に含まれる。これに対して、プラズマを発生させる状態を「運転時」と称することが可能である。上述の運転モード2は「運転時」に含まれる。なお、各運転モード時(特に洗浄時及び待機時)におけるプラズマ発生装置210の動作については後述する。
【0016】
<ターボ分子ポンプ100>
図1は、本発明の第1実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100を示している。このターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0017】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0018】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応させて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0019】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0020】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0021】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク(「アーマチャディスク」ともいう)111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0022】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0023】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0024】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0025】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0026】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙(所定の間隔)を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0027】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0028】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0029】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)が形成された回転体本体103aの下部には回転体下部円筒部103bが垂下されている。この回転体下部円筒部103bの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。このように、ネジ付スペーサ131と、これに対向する回転体下部円筒部103bは、ホルベック型排気機構部204を構成する。ホルベック型排気機構部204は、ネジ付スペーサ131に対する回転体下部円筒部103bの回転により、排気ガスに方向性を与え、ターボ分子ポンプ100の排気特性を向上する。
【0030】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0031】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子(ガス分子)などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0032】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0033】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の回転体下部円筒部103bの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に回転体下部円筒部103bの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0034】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0035】
この場合には、ベース部129にはパージガスポート132が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、回転翼102の内周側円筒部(回転体下部円筒部103b)とステータコラム122やベース部129との間の隙間134を通じて排気口133へ送出される。
【0036】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0037】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0038】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133の付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0039】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;TemperatureManagement System)が行われている。本実施形態では、ネジ付スペーサ131に埋め込まれたヒータ(図示略)によりネジ付スペーサ131が加熱され、底蓋145に埋め込まれた水冷管149によりベース部129が冷却される。
【0040】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路の回路図を
図2に示す。
【0041】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0042】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0043】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0044】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0045】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0046】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0047】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0048】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0049】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0050】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0051】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0052】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0053】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、
図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気ポート135に繋がる排気口133が図中の左側に突出するよう設けられたベース部129の側)が、図示を省略する補助ポンプ(バックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、
図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0054】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127とベース部129とが組み合わさって1つのケース(以下では両方を合わせて「本体ケーシング」などと称する場合がある)を構成している。また、ターボ分子ポンプ100は、箱状の電装ケース(図示略)と電気的(及び構造的)に接続されており、電装ケースには前述の制御装置200が組み込まれている。
【0055】
ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、回転体下部円筒部103bやネジ付スペーサ131等により構成されるネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部)に分けて考えることができる。
【0056】
また、前述のパージガス(保護ガス)は、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0057】
例えば、ベース部129の所定の部位(排気口133に対して90度や120度等離れた位置など)に、径方向に直線状に延びる前述のパージガスポート132を設ける。そして、このパージガスポート132に対し、ベース部129の外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。
【0058】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0059】
なお、ターボ分子ポンプ100や回転体103の構造を示す
図1では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため省略している。
【0060】
<プラズマ発生装置210の基本構成>
前出したように、ターボ分子ポンプ100内部には、生成物が堆積する場合がある。本実施形態では、
図5(a)に示すようなプラズマ発生装置210を用いて、生成物の洗浄が行われる。
【0061】
プラズマ発生装置210は、シリンダ212の内部に、電極214、絶縁スペーサ216、可動軸218、及び、ピストン220等を備えている。シリンダ212は、例えば、アルミニウムやステンレスなどの金属を、外周及び内周に段差を有する円筒状に加工して形成されている。
【0062】
シリンダ212は、複数(例えば6個など)の六角穴付きボルト222により、ターボ分子ポンプ100における外筒127の座面127aに固定されている。座面127aは平坦面を有している。シリンダ212と、外筒127との間は、Oリング224により気密的にシールされている。シリンダ212の、外筒127の座面127aへの固定は、シリンダ212と外筒127との間での伝熱が可能な状態で行われている。
【0063】
シリンダ212における軸方向(
図5(a)の左右方向)の両端部には、開口部212a、212bが形成されている。一方(
図5(a)の右側)の開口部212aは、蓋体226により閉じられている。蓋体226は、複数(例えば6個など)の六角穴付きボルト227により、シリンダ212に固定されている。
【0064】
他方(
図5(a)の左側)の開口部212bは、ターボ分子ポンプ100の外筒127に形成された開口部127bと空間的に繋がっている。シリンダ212の開口部212bと、外筒127の開口部127bとにより、プラズマ発生装置210からターボ分子ポンプ100へプラズマを導入するプラズマ連通口228が形成されている。
【0065】
本実施形態において、プラズマ連通口228は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、回転体下部円筒部103bやネジ付スペーサ131等により構成されるネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部204)と、の境界部に臨んで開口している。
【0066】
シリンダ212の内部において、電極214は、円板状に形成されている。電極214は、可動軸218における前端部(
図5(a)の左側の端部、ターボ分子ポンプ100の側の端部)に、六角ナット230を介して、同心的に固定されている。電極214の素材としては、プラズマ電極等の素材として公知な種々のものを採用できる。
【0067】
可動軸218は、段付きな円柱状に形成されており、円筒状の絶縁スペーサ216に挿入されている。可動軸218における軸方向の中間部は、絶縁スペーサ216の内側に入り込んでいる。可動軸218の素材として、例えば、アルミニウムやステンレスなどの金属が採用されている。
【0068】
絶縁スペーサ216は、フランジ部216aを有する円筒状に加工されている。絶縁スペーサ216は、シリンダ212内において、シリンダ212と同心的に配置されている。絶縁スペーサ216の素材として、電気的な絶縁性を有するもの(例えば絶縁性樹脂等)が採用されている。
【0069】
絶縁スペーサ216のフランジ部216aには、六角穴付きボルト232が差し込まれている。六角穴付きボルト232は、シリンダ212にねじ込まれており、絶縁スペーサ216は、六角穴付きボルト232により、シリンダ212に固定されている。絶縁スペーサ216と、シリンダ212との間は、Oリング234により機密的にシールされている。
【0070】
絶縁スペーサ216の外周面には、原料ガス導入溝236が全周に亘り形成されている。原料ガス導入溝236は、プラズマを発生させるための原料ガスを流動させるのに用いられるが、電極214を変位させるための構成については後述する。
【0071】
可動軸218の後端部(
図5(a)の右側の端部、ターボ分子ポンプ100とは逆側の端部)には、ピストン220が、六角ナット238を介して、同心的に固定されている。ピストン220は、円筒状に形成されるとともに、ヘッド部220aを有している。ピストン220の素材としては、電気的な絶縁性を有するもの(例えば絶縁性樹脂等)が採用されている。ピストン220の機能については後述する。
【0072】
ピストン220と可動軸218との間は、Oリング235により気密的にシールされている。ピストン220とシリンダ212との間は、Oリング237により気密的にシールされている。可動軸218と絶縁スペーサ216との間は、Oリング239により気密的にシールされている。
【0073】
電極214、可動軸218、及び、ピストン220は、一体化されており、導電性を有する可動体240を構成している。可動体240は、絶縁スペーサ216により支持されながら、軸方向に進退変位可能である。可動体240は、絶縁スペーサ216(及びシリンダ212)に対して、相対的に変位する。
【0074】
図5(a)は、可動体240が後退して(
図5(a)の右側に変位して)、電極214が、絶縁スペーサ216に干渉している状態を示している。この状態では、電極214が、外筒127の座面127aに対して離間している。これに対して
図5(b)は、可動体240が前進して(
図5(b)の左側に変位して)、電極214が、外筒127の座面127aに干渉して、プラズマ連通口228を封止している状態を示している。
【0075】
このような可動軸218や電極214の変位は、シリンダ212内に形成された第1室242、第2室244、及び、第3室246における内圧の相違により制御される。
図5(a)、(b)に示すように、第1室242は、電極214が配置されている空間である。第2室244は、絶縁スペーサ216のフランジ部216aと、ピストン220のヘッド部220aとにより区画された空間である。第3室246は、ピストン220と蓋体226とにより区画された空間である。
【0076】
シリンダ212には、第1ガス供給通路248と、第2ガス供給通路250とが、1本ずつ設けられている。第1ガス供給通路248、及び、第2ガス供給通路250は、シリンダ212の径方向に延びるよう形成された、断面が円形の通路である。
【0077】
第1ガス供給通路248は、絶縁スペーサ216の外周面に形成された原料ガス導入溝236に面して開口しており、原料ガス導入溝236に空間的に繋がっている。原料ガス導入溝236と、第1室242との間の部位において、気密的なシールは行われておらず、原料ガス導入溝236と、第1室242とは、空間的に繋がっている。本実施形態では、原料ガス導入溝236と、第1室242との間の部位は、絶縁スペーサ216の全周に亘り流路を狭める絞り部252となっている。
【0078】
第2ガス供給通路250は、第2室244に面して開口している。第2ガス供給通路250と、第2室244とは、空間的に繋がっている。
【0079】
図5(a)に示すように、ピストン220を可動軸218に固定する六角ナット238は、ピストン220との間に環状の圧着端子254を挟んでいる。圧着端子254は、可動軸218を介して、電極214に、電気的に接続されている。また、圧着端子254には、
図6に模式的に示すように、電源256が接続されており、電源256により、電極214に、プラズマ発生のための高電圧が印加される。本実施形態においては、シリンダ212が接地されている。
【0080】
<電極214を変位させるための構成>
第1ガス供給通路248、及び、第2ガス供給通路250には、原料ガスが供給される。原料ガスとして、例えば、NF3(三フッ化窒素)、CF4(四フッ化メタン)等といったガスが用いられている。なお、これに限定されず、原料ガスに代えて、例えば、他のガス(空気など)を圧縮して、可動体240の変位に利用することも可能である。
【0081】
図7は、第1ガス供給通路248、及び、第2ガス供給通路250に供給される原料ガスの供給ライン258を概略的に示している。供給ライン258には、ガスタンク260、圧力調整弁262、ON/OFFバルブ264、フローリストリクタ266、供給用配管267、269(矢印で示す)等が備えられている。
【0082】
ガスタンク260は、所定の圧力(例えば、10[MPa])の原料ガスを、プラズマ発生装置210に向けて供給する。圧力調整弁262は、原料ガスを減圧する。原料ガスは、圧力調整弁262によって、例えば、10[MPa]から0.1[MPa]に減圧される。ON/OFFバルブ264は、例えば常閉式のものであり、ONに制御されることで、流路を開放して原料ガスを通過させる。
【0083】
原料ガスの流路は、ON/OFFバルブ264の後段に設けられた分岐点268で2系統に分けられ、プラズマ発生装置210の、第1ガス供給通路248と、第2ガス供給通路250とに接続されている。フローリストリクタ266は、分岐点268と第1ガス供給通路248との間に設置されている。
【0084】
フローリストリクタ266には、公知のフローリストリクタを採用できる。フローリストリクタ266としては、図示は省略するが、例えば、多孔質の金属体(流量規制部)を内蔵して、ガス流路に所定の配管抵抗を与えるものを採用可能である。
【0085】
本実施形態において、フローリストリクタ266は、流入側と流出側との間に圧力差を発生させる。そして、フローリストリクタ266は、0.1[MPa]の原料ガスの流量を、例えば、50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、20℃又は0℃)に低下させる。
【0086】
ON/OFFバルブ264をONとした場合、第1ガス供給通路248には、フローリストリクタ266を経由した低圧の原料ガスが導入される。第1ガス供給通路248に導入された原料ガスは、
図8(a)に矢印Aで示すように、絶縁スペーサ216の原料ガス導入溝236、及び、絞り部252を通って、第1室242に導入される。
【0087】
第1室242内において、原料ガスは、電極214の裏側から表側に回り込み、プラズマ連通口228に流入する。ここでは、ターボ分子ポンプ100の側を電極214の表側とし、反対側を電極214の裏側とする。原料ガスの圧力は、電極214の表裏の板面に作用する。
【0088】
一方、第2ガス供給通路250には、フローリストリクタ266を経由していない(流量規制されていない)原料ガスが導入される。以下では、第2ガス供給通路250に導入される原料ガスを「ピストン駆動用ガス」と称する。
【0089】
ピストン駆動用ガスは、フローリストリクタ266を通っていないことから、フローリストリクタ266を経由して第1ガス供給通路248に導入される原料ガスよりも高圧である。第2ガス供給通路250は、第2室244に繋がっており、ピストン駆動用ガスは、
図8(a)に矢印Bで示すように、第2室244に導入される。
【0090】
第2室244には、ピストン220のヘッド部220aが臨んでいる。このため、ピストン駆動用ガスが、ヘッド部220aの一方の板面(ターボ分子ポンプ100側の板面)220bに作用し、ピストン220は、ピストン駆動用ガスによる力を受ける。
【0091】
ピストン駆動用ガスによる力は、ピストン220を、ターボ分子ポンプ100から離れる側の向きに作用する。このため、ピストン220が、ターボ分子ポンプ100から離れる側に押され、可動体240が、
図8(a)の右側に向かって直線的に後退する。
【0092】
図5(a)及び
図8(a)に示すように、可動体240が後退して、電極214が、絶縁スペーサ216に干渉すると、可動体240は停止する。このように、絶縁スペーサ216は、可動体240の後退時におけるストッパとして機能する。
【0093】
ON/OFFバルブ264をOFFとした場合、原料ガスの供給ライン258による原料ガスの供給は行われない。そして、第2室244へのピストン駆動用ガスの供給は行われず、原料ガスは、ターボ分子ポンプ100内にのみ供給される。また、前述の補助ポンプ(バックポンプ)が、ターボ分子ポンプ100内を排気(粗引き)している。この粗引きにより、プロセスガス等がターボ分子ポンプ100内に留まり、化学反応や腐食が生じる原因になることが防止される。これらのことから、第1室242及び第2室244の圧力は同じになる。
【0094】
これに対し、第3室246は、外気に対するシールが行われておらず、第3室246の圧力は大気圧に等しい。さらに、第1室242及び第2室244の圧力は、前述の補助ポンプ(バックポンプ)により粗引きされており、第3室246の圧力(大気圧)よりも低い。この結果、
図8(b)に矢印Pで示すように、ピストン220が、ターボ分子ポンプ100に近付く側に押され、可動体240が、
図8(b)の左側に向かって直線的に前進する。
【0095】
図5(b)及び
図8(b)に示すように、可動体240が前進して、電極214が、ターボ分子ポンプ100の外筒127に干渉すると、可動体240は停止する。このように、ターボ分子ポンプ100の外筒127は、可動体240の前進時におけるストッパとして機能する。
【0096】
また、電極214が、ターボ分子ポンプ100の外筒127に干渉した際には、電極214は外筒127に面接触する。このため、プラズマ連通口228が電極214により封止され(塞がれ)、ターボ分子ポンプ100とプラズマ発生装置210との間の、空間的な接続が遮断される。
【0097】
このような構成の真空排気装置10においては、ターボ分子ポンプ100の洗浄時(前述の運転モード2の場合)には、ON/OFFバルブ264(
図7)がONされる。そして、
図5(a)及び
図8(a)に示すように、プラズマ発生装置210の第1ガス供給通路248に原料ガスが供給され、第2ガス供給通路250にピストン駆動用ガスが供給される。この結果、電極214が後退し、電極214が、ターボ分子ポンプ100の外筒127から離間する。
【0098】
電極214には、プラズマ発生のための電圧が印加される。電極214と外筒127との間の電位差、及び、電極214とシリンダ212との間の電位差により、原料ガスが電離され、原料ガスのラジカルな原子が発生する。
【0099】
また、ターボ分子ポンプ100の待機時(前述の運転モード3の場合)には、ON/OFFバルブ264(
図7)がOFFされ、
図5(b)及び
図8(b)に示すように、第2ガス供給通路250へのピストン駆動用ガスの供給は行われない。そして、第3室246と、第2室244との圧力差により、電極214が前進し、プラズマ連通口228が封止される。
【0100】
ここで、原料ガスの供給ライン258を、プラズマ発生装置210に含まれるものとすることが可能である。また、供給ライン258とプラズマ発生装置210とを併せて、例えば、「プラズマ発生システム」等として捉えることも可能である。
【0101】
<真空排気装置10のメリット>
以上説明したような真空排気装置10によれば、プラズマ発生装置210のシリンダ212内に設けられえた電極214により、ターボ分子ポンプ100とプラズマ発生装置210との間のプラズマ連通口228を開閉できる。そして、プラズマ連通口228の開閉のための機構を、プラズマ発生装置210に集約することが可能である。したがって、真空排気装置10を小型化できる。そして、プラズマ洗浄機能付きの真空排気装置10の設置場所が、その大きさによって制約されるのを防止できる。
【0102】
また、真空排気装置10によれば、ON/OFFバルブ264により原料ガスの供給をON/OFFでき、簡便な機構により、電極214を変位させることが可能である。
【0103】
また、プラズマ発生装置210は、プラズマを発生させることで高温になる。しかし、シリンダ212が、ターボ分子ポンプ100の外筒127に伝熱可能な状態で固定されていることから、プラズマ発生装置210に生じた熱を、ターボ分子ポンプ100の外筒127に逃がすことができる。
【0104】
また、真空排気装置10によれば、プラズマ発生装置210の内部に、反応生成物が堆積するのを防止できる。したがって、ターボ分子ポンプ100内のみでなく、プラズマ発生装置210の内部も清浄に保つことが可能である。
【0105】
また、電極214は、六角ナット230を外すことにより、可動軸218から分離される。したがって、電極214の脱着が可能であり、電極214の交換が容易である。
【0106】
なお、本実施形態では、シリンダ212が接地されているが、これに限定されず、例えば、蓋体226を導電性の素材により形成し、蓋体226を固定するいずれかの六角穴付きボルト227に圧着端子を装着し、蓋体226を介して接地を行うようにしてもよい。
【0107】
また、プラズマ発生装置210をターボ分子ポンプ100に組付け、真空排気装置10を流通経路(販売経路)に乗せることが可能である。また、これに限らず、プラズマ発生装置210をターボ分子ポンプ100から分離し、プラズマ発生装置210とターボ分子ポンプ100とを個別に流通経路に乗せることも可能である。ターボ分子ポンプ100をプラズマ発生装置210と別に移動させる場合には、ターボ分子ポンプ100の外筒127に、開口部127bに塞ぐ蓋(図示略)を装着することが可能である。
【0108】
さらに、
図9に変形例を示すように、プラズマ発生装置210を、連結板280を介して、ターボ分子ポンプ100に装着するようにしてもよい。
図9の例において、連結板280は、ターボ分子ポンプ100の外筒127との間にOリング282を介在させて、外筒127の座面127aに、シリンダ212と共締めされる。
【0109】
図9の矢印Gは、連結板280が、プラズマ発生装置210とともに、外筒127の座面127aに固定されることを示している。ここで、連結板280を、プラズマ発生装置210の一部とし、プラズマ発生装置210に含めることも可能である。
【0110】
連結板280は、板面の中央部に、厚さ方向に貫通する連結孔284を有している。連結孔284は、電極214を隠し、可動軸218の先端部を覗かせる程度の大きさに形成されている。連結孔284は、外筒127の開口部127bや、シリンダ212の開口部212bとともに、プラズマ連通口228を構成している。
【0111】
このように連結板280を設けることにより、電極214を露出しないように隠すことができる。さらに、連結板280を設けることにより、電極214を、外筒127の座面127aに直接的に対向させる必要がなくなり、外筒127の加工が容易になる。
【0112】
詳述すれば、連結板280を設けない場合、外筒127の座面127aを、プラズマ発生装置210の装着のため、及び、電極214との距離を一定に保つため、十分に大きく確保し、且つ、平坦に加工する(平取り加工する)必要がある。そして、Oリング282として、電極214の外形寸法よりも大きいサイズのものを用いる必要がある。
【0113】
これに対し、連結板280を設ける場合には、電極214と連結板280とが対向するため、外筒127における座面127aの大きさを、電極214に合わせて設定する必要がなくなる。そして、Oリング282として、よりサイズの小さいものを採用することが可能となる。さらに、座面127aの平坦に加工すべき範囲(面積)を小とすることが可能となる。この結果、平取り加工すべき面積を、必要最小限の範囲に削減できる。そして、相対的に大きいサイズの部品である外筒127の加工が容易となる。
【0114】
<第2実施形態に係るプラズマ発生装置310>
図10(a)は、第2実施形態の真空排気装置に係るプラズマ発生装置310と、その周辺部を示している。なお、第2実施形態の説明にあたり、第1実施形態と同様の部分については同一符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0115】
第2実施形態に係るプラズマ発生装置310においては、電極214を変位させるために、第1実施形態のピストン220(
図5(a)等)に変えて、ダイアフラム370が備えられている。ダイアフラム370は、シリンダ312の開口部312aを塞ぐように、六角穴付きボルト327を介して、シリンダ312に取り付けられている。
【0116】
さらに、ダイアフラム370は、可動軸318の後端部(
図10(a)の右側の端部、ターボ分子ポンプ100とは逆側の端部)に、六角ナット338を介して、同心的に固定されている。ダイアフラム370の両板面は、第2室344と、プラズマ発生装置310の外部とに面している。
【0117】
このような第2実施形態においては、ターボ分子ポンプ100の洗浄時(前述の運転モード2の場合)には、第1実施形態と同様に、ON/OFFバルブ264(
図7)がONされる。そして、プラズマ発生装置310の第1ガス供給通路248に原料ガスが供給され、第2ガス供給通路250にピストン駆動用ガスが供給される。
【0118】
ダイアフラム370は、第2室344のピストン駆動用ガスにより、ターボ分子ポンプ100から離れる側に押され、可動体340が、
図10(a)の右側に向かって直線的に後退する。この結果、電極214が後退し、
図10(a)に示すように、電極214が、ターボ分子ポンプ100の外筒127から離間する。
【0119】
また、ターボ分子ポンプ100の待機時(前述の運転モード3の場合)には、ON/OFFバルブ264(
図7)がOFFされ、第2ガス供給通路250へのピストン駆動用ガスの供給は行われない。そして、図示は省略するが、大気圧の外気と、第2室344との圧力差により、ダイアフラム370が、ターボ分子ポンプ100の側に押されて変形し、ターボ分子ポンプ100の側に突出した形状となる。この結果、電極214が前進し、プラズマ連通口228が封止される。
【0120】
このような第2実施形態によっても、第1実施形態と同様な発明の効果を奏することが可能となる。
【0121】
<第3実施形態に係るプラズマ発生装置410>
図10(b)は、第3実施形態の真空排気装置に係るプラズマ発生装置410と、その周辺部を示している。なお、第3実施形態の説明にあたり、第1実施形態と同様の部分については同一符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0122】
第3実施形態に係るプラズマ発生装置410においては、電極214を変位させるために、第1実施形態のピストン220(
図5(a)等)に変えて、円板状の磁石ターゲット420が備えられている。磁石ターゲット420は磁性体であり、可動軸418の後端部(
図10(b)の右側の端部、ターボ分子ポンプ100とは逆側の端部)に、六角ナット438を介して、同心的に固定されている。
【0123】
シリンダ412の一方(
図10(b)の右側)の開口部412aは、電磁石保持ケース426により閉じられている。電磁石保持ケース426は、シリンダ412の開口部412aを塞ぐように、六角穴付きボルト427を介して、シリンダ412に取り付けられている。
【0124】
電磁石保持ケース426は、内側に電磁石470を保持している。電磁石470は、1つの環状のものであっても、或いは、複数の円弧状の電磁石を環状に組み合わせであってもよい。電磁石470は、電磁石ターゲットの近傍に配設されている。ここでいう「近傍」は、例えば、電極214を変位させるのに十分な磁力が作用する程度に近い位置を意味している。
【0125】
電磁石保持ケース426の内側の中央部には、コイルばね472が収容されている。コイルばね472の一端(
図10(b)の右側の端)は、電磁石保持ケース426に当接しており、コイルばね472の多端(
図10(b)の左側の端)は、磁石ターゲット420に当接している。
【0126】
シリンダ412には、第1実施形態及び第2実施形態に設けられていた第2ガス供給通路250は設けられておらず、電極214の変位は、磁石ターゲット420と電磁石470を用いて行われる。
【0127】
このような第3実施形態においては、ターボ分子ポンプ100の洗浄時(前述の運転モード2の場合)には、電磁石470がONされる。磁石ターゲット420に電磁石470の磁力が作用し、磁石ターゲット420が、電磁石470により吸引される。コイルばね472は収縮した状態にあり、磁石ターゲット420は、電磁石保持ケース426に干渉している。可動体440は、
図10(b)に示すように後退した位置にあり、電極214は、ターボ分子ポンプ100の外筒127から離間している。
【0128】
また、ターボ分子ポンプ100の待機時(前述の運転モード3の場合)には、電磁石470がOFFされ、磁石ターゲット420が、電磁石470から解放される。図示は省略するが、コイルばね472が伸長した状態になり、磁石ターゲット420が、ターボ分子ポンプ100の側へ移動する。この結果、電極214が前進し、プラズマ連通口228が封止される。
【0129】
このような第3実施形態によっても、第1実施形態と同様な発明の効果を奏することが可能となる。また、第2ガス供給通路250が不要になり、原料ガスの供給ライン258を簡略化できる。
【0130】
<各実施形態から抽出可能な発明>
以上説明した各実施形態から、以下のような発明を抽出することが可能である。
(1)真空ポンプ(ターボ分子ポンプ100など)と、プラズマ発生装置(プラズマ発生装置210、310、410など)とを備えた真空排気装置(真空排気装置10など)であって、
前記プラズマ発生装置は、
変位可能な電極(電極214など)を有し、
プラズマを発生させない非運転時(
図5(b)に示すプラズマ洗浄OFFの状態であり、電極に高電圧を印可せず、電極側にプラズマを発せさせるための原料ガスを供給しない状態)に、前記電極を変位させて、プラズマ連通口(プラズマ連通口228など)を封止可能であることを特徴とする真空排気装置。
(2)前記プラズマ発生装置に、プラズマを発生させるための原料ガスの供給用配管(供給用配管267、269など)が接続され、前記原料ガスが前記電極の変位に利用されることを特徴とする上記(1)に記載の真空排気装置。
(3)前記電極には、ピストン(ピストン220など)が配設され、前記ピストンに作用する圧力差により前記電極が変位することを特徴とする上記(2)に記載の真空排気装置。
(4)前記プラズマ発生装置には、ダイアフラム(ダイアフラム370など)が配設され、前記ダイアフラムに生じる圧力差により前記ダイアフラムが変形して前記電極が変位することを特徴とする上記(2)に記載の真空排気装置。
(5)前記プラズマ発生装置には、
磁性体からなる電磁石ターゲット(磁石ターゲット420など)と、
前記電磁石ターゲットの近傍に配設された電磁石(電磁石470など)と、が配設され、
前記電磁石ターゲットと、前記電磁石との間に生じる磁力を前記電極に作用させて、前記電極が変位することを特徴とする上記(1)に記載の真空排気装置。
(6)前記真空ポンプと、前記プラズマ発生装置とが、前記プラズマ発生装置から前記真空ポンプへの伝熱可能に固定されていることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の真空排気装置。
(7)前記電極が、前記真空ポンプのケーシング(外筒127など)に対向することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の真空排気装置。
(8)プラズマ発生用で且つプラズマ連通口(プラズマ連通口228など)封止用の、変位可能な電極(電極214など)を備えたことを特徴とするプラズマ発生装置(プラズマ発生装置210、310、410など)。
【0131】
<その他>
なお、本発明は、上述の各実施形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々に変形や各実施形態の組合せをすることが可能である。
【符号の説明】
【0132】
10 :真空排気装置
100 :ターボ分子ポンプ
127 :外筒
210、310、410 :プラズマ発生装置
212 :シリンダ
214 :電極
216 :絶縁スペーサ
218 :可動軸
220 :ピストン
226 :蓋体
228 :プラズマ連通口
240、340、440 :可動体
248 :第1ガス供給通路
250 :第2ガス供給通路
267、269 :供給用配管
370 :ダイアフラム
420 :磁石ターゲット
470 :電磁石
【手続補正書】
【提出日】2024-01-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、
図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気ポート135に繋がる排気口133が図中の
右側に突出するよう設けられたベース部129の側)が、図示を省略する補助ポンプ(バックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、
図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0069
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0069】
絶縁スペーサ216のフランジ部216aには、六角穴付きボルト232が差し込まれている。六角穴付きボルト232は、シリンダ212にねじ込まれており、絶縁スペーサ216は、六角穴付きボルト232により、シリンダ212に固定されている。絶縁スペーサ216と、シリンダ212との間は、Oリング234により気密的にシールされている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】