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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010319
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】電源装置、インバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240117BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111587
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 洸一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA02
5H770CA02
5H770DA11
5H770DA41
5H770EA13
5H770HA03W
(57)【要約】
【課題】低負荷時であっても損失を低減できる電源装置等を提供する。
【解決手段】一対の放電電極を含むレーザ共振器を駆動する電源装置は、高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される少なくとも二つのスイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって高電位ラインと低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点から一対の放電電極に印加するインバータと、少なくとも一つのスイッチング素子の制御端子に対して、当該スイッチング素子がオン状態となるオンレベルVONと、当該スイッチング素子がオフ状態となるオフレベルVOFFと、当該スイッチング素子が少なくとも部分的にオン状態となるオンレベルVONとオフレベルVOFFの間の中間レベルVと、を取る制御信号を印加可能な制御信号印加部と、を備える。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の放電電極を含むレーザ共振器を駆動する電源装置であって、
高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される少なくとも二つのスイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって前記高電位ラインと前記低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点から前記一対の放電電極に印加するインバータと、
少なくとも一つの前記スイッチング素子の制御端子に対して、当該スイッチング素子がオン状態となるオンレベルと、当該スイッチング素子がオフ状態となるオフレベルと、当該スイッチング素子が少なくとも部分的にオン状態となる前記オンレベルと前記オフレベルの間の中間レベルと、を取る制御信号を印加可能な制御信号印加部と、
を備える電源装置。
【請求項2】
前記スイッチング素子は、前記高電位ラインと前記低電位ラインの間に直列に接続される第1高電位側スイッチング素子と第1低電位側スイッチング素子からなる第1スイッチング素子対と、前記高電位ラインと前記低電位ラインの間に直列に接続される第2高電位側スイッチング素子と第2低電位側スイッチング素子からなる第2スイッチング素子対と、を備え、
前記制御信号印加部は、前記第1高電位側スイッチング素子の制御端子に印加する第1高電位側制御信号と、前記第2低電位側スイッチング素子の制御端子に印加する第2低電位側制御信号が、共に前記オンレベルまたは前記中間レベルとなる第1重複期間、および、前記第2高電位側スイッチング素子の制御端子に印加する第2高電位側制御信号と、前記第1低電位側スイッチング素子の制御端子に印加する第1低電位側制御信号が、共に前記オンレベルまたは前記中間レベルとなる第2重複期間、の少なくともいずれかを前記レーザ共振器の負荷に応じて変化させる、
請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記制御信号印加部は、実質的に同じ波形の前記第1高電位側制御信号と第2低電位側制御信号の相対的な位相を変化させることで前記第1重複期間を変化させ、および/または、実質的に同じ波形の前記第2高電位側制御信号と第1低電位側制御信号の相対的な位相を変化させることで前記第2重複期間を変化させる、請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記制御信号印加部は、
前記第1重複期間および/または前記第2重複期間が所定の閾値以上の場合は、前記第1高電位側制御信号と前記第2低電位側制御信号および/または前記第2高電位側制御信号と前記第1低電位側制御信号を、前記オフレベルと前記オンレベルの間で切り替え、
前記第1重複期間および/または前記第2重複期間が前記閾値未満の場合は、前記第1高電位側制御信号と前記第2低電位側制御信号および/または前記第2高電位側制御信号と前記第1低電位側制御信号を、前記オフレベル、前記中間レベル、前記オンレベルの間で切り替える、
請求項2または3に記載の電源装置。
【請求項5】
前記中間レベルを取る場合の前記制御信号は、前記オフレベルから前記中間レベルに遷移し、当該中間レベルから前記オンレベルに遷移し、当該オンレベルから前記中間レベルに遷移し、当該中間レベルから前記オフレベルに遷移する、請求項1から3のいずれかに記載の電源装置。
【請求項6】
前記制御信号が前記オフレベルから前記オンレベルに遷移する際の前記中間レベルの期間の長さと、当該制御信号が前記オンレベルから前記オフレベルに遷移する際の前記中間レベルの期間の長さは実質的に等しい、請求項5に記載の電源装置。
【請求項7】
前記中間レベルは、前記オフレベル側の少なくとも一つの第1中間レベルと、前記オンレベル側の少なくとも一つの第2中間レベルと、を含み、
前記各中間レベルを取る場合の前記制御信号は、前記オフレベルから前記第1中間レベルに遷移し、当該第1中間レベルから前記第2中間レベルに遷移し、当該第2中間レベルから前記オンレベルに遷移し、当該オンレベルから前記第2中間レベルに遷移し、当該第2中間レベルから前記第1中間レベルに遷移し、当該第1中間レベルから前記オフレベルに遷移する、
請求項5に記載の電源装置。
【請求項8】
前記第1中間レベルおよび前記第2中間レベルを含む複数の前記中間レベルは実質的に連続的に設けられ、
前記各中間レベルを取る場合の前記制御信号は、連続的な前記各中間レベルを介して前記オフレベルと前記オンレベルの間で連続的に遷移する、
請求項7に記載の電源装置。
【請求項9】
前記第1重複期間と前記第2重複期間の長さは実質的に等しい、請求項2または3に記載の電源装置。
【請求項10】
高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される少なくとも二つのスイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって前記高電位ラインと前記低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点から出力するインバータと、
少なくとも一つの前記スイッチング素子の制御端子に対して、当該スイッチング素子がオン状態となるオンレベルと、当該スイッチング素子がオフ状態となるオフレベルと、当該スイッチング素子が少なくとも部分的にオン状態となる前記オンレベルと前記オフレベルの間の中間レベルと、を取る制御信号を印加可能な制御信号印加部と、
を備えるインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の加工ツールとして、レーザ加工装置が広く普及している。レーザ加工装置には、COレーザなどの高出力のガスレーザが使用される。図1は、レーザ加工装置またはレーザ装置100Rの機能ブロック図である。レーザ装置100Rは、レーザ共振器200および電源装置250Rを備える。レーザ共振器200は、一対の放電電極202、204と、全反射鏡206と、部分反射鏡208を備える。
【0003】
一対の放電電極202、204は、COなどのレーザ媒質ガスが充填されたガスチャンバ内に設けられる。一対の放電電極202、204の間には、静電容量Cが存在する。この静電容量CとインダクタL(インダクタ素子あるいは寄生インダクタ)は、共振周波数FRESを有する共振回路210を形成する。
【0004】
レーザ共振器200を駆動する電源装置250Rは、高周波電圧VRFを共振回路210に印加する。高周波電圧VRFの周波数FRF(以下では同期周波数ともいう)は、共振回路210の共振周波数FRESの近傍に設定される。高周波電圧VRFが印加されることで、一対の放電電極202、204の間に放電電流が流れる。この放電電流がレーザ媒質ガスを励起し、レーザ発振または誘導放出のための反転分布を形成する。反転分布からの誘導放出光は、全反射鏡206と部分反射鏡208が形成する光共振器内を往復し、励起状態のレーザ媒質ガスを通過することで増幅される。増幅された誘導放出光の一部が部分反射鏡208から出力(レーザ光)として取り出される。
【0005】
電源装置250Rは、安定化された直流電圧VDCを生成する直流電源300と、直流電圧VDCを高周波電圧VRFに変換して共振回路210に印加する高周波電源400を備える。高周波電源400には、直流電圧VDCを交流電圧である高周波電圧VRFに変換するインバータが設けられる。一般的なインバータは、相補的にスイッチング制御される一または複数のトランジスタ対を備える。各トランジスタは、例えば、制御信号としてのPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)信号によって、オン状態とオフ状態の間で切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-192715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザ共振器200の負荷が小さい場合には、PWM信号のデューティ比を小さくすることで高周波電圧VRFを小さくできる。しかし、本発明者の独自の検討の結果、特にレーザ共振器200の負荷が小さい場合において、オフレベルとオンレベルの間で急峻に切り替わる制御信号の影響で、オフ状態とすべきトランジスタが誤ってオン状態になってしまう現象が確認された。この結果、トランジスタ対を構成する高電位側トランジスタと低電位側トランジスタが共にオン状態となってしまい、直流電圧VDCを供給する高電位ラインおよび低電位ラインの間で瞬間的に電流が流れて大きな損失が発生してしまう。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、低負荷時であっても損失を低減できる電源装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電源装置は、一対の放電電極を含むレーザ共振器を駆動する電源装置であって、高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される少なくとも二つのスイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって高電位ラインと低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点から一対の放電電極に印加するインバータと、少なくとも一つのスイッチング素子の制御端子に対して、当該スイッチング素子がオン状態となるオンレベルと、当該スイッチング素子がオフ状態となるオフレベルと、当該スイッチング素子が少なくとも部分的にオン状態となるオンレベルとオフレベルの間の中間レベルと、を取る制御信号を印加可能な制御信号印加部と、を備える。
【0010】
この態様では、インバータにおけるスイッチング素子の制御端子に印加される制御信号が、オフレベルとオンレベルの間の中間レベルを取れる。この結果、オフレベルとオンレベルの間の遷移における制御信号の変化が緩やかになるため、オフ状態とすべきトランジスタが誤ってオン状態になることが効果的に防止される。従って、この電源装置によれば、低負荷時であっても損失を低減できる。
【0011】
本発明の別の態様は、インバータ装置である。この装置は、高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される少なくとも二つのスイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって高電位ラインと低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点から出力するインバータと、少なくとも一つのスイッチング素子の制御端子に対して、当該スイッチング素子がオン状態となるオンレベルと、当該スイッチング素子がオフ状態となるオフレベルと、当該スイッチング素子が少なくとも部分的にオン状態となるオンレベルとオフレベルの間の中間レベルと、を取る制御信号を印加可能な制御信号印加部と、を備える。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低負荷時であっても損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】レーザ装置の機能ブロック図である。
図2】レーザ装置の機能ブロック図である。
図3図2の電源装置の主な回路構成の一例を示す。
図4】インバータの位相シフト制御の例を模式的に示す(軽負荷時)。
図5】インバータの位相シフト制御の例を模式的に示す(重負荷時)。
図6】軽負荷時にトランジスタ対のゲート/ソース間に現れる電圧の例を示す。
図7】位相シフト量とインバータで発生する損失の関係の例を示す。
図8】凸状の制御信号を模式的に示す。
図9】インバータの位相シフト制御の例を模式的に示す(軽負荷時)。
図10】軽負荷時にトランジスタ対のゲート/ソース間に現れる電圧の例を示す。
図11】位相シフト量とインバータで発生する損失の関係の例を示す。
図12】中間レベルを取る制御信号の第1の変形例である。
図13】中間レベルを取る制御信号の第2の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
図2は、本発明の実施形態に係るレーザ装置100の機能ブロック図である。レーザ装置100は、商用電源10と、直流電源300と、高周波電源400と、共振インダクタLと、レーザ共振器200を備える。レーザ共振器200の構成は図1と同様である。但し、図1におけるインダクタLは、図2では共振インダクタLとしてレーザ共振器200外に示されている。
【0017】
直流電源300および高周波電源400によって電源装置250が構成される。電源装置250の機能ブロックのうちソフトウェア制御を伴うものは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0018】
直流電源300は、AC-DC変換部310と、LCフィルタ320と、DCリンク電圧検出部330を備える。AC-DC変換部310は、商用電源10から供給される三相交流等の交流電圧を直流電圧に変換する。LCフィルタ320は、インダクタ(L)とコンデンサ(C)を含むローパスフィルタまたはバンドパスフィルタであり、AC-DC変換部310によって変換された直流電圧に含まれる主に高周波成分を除去して平滑化する。以下では、LCフィルタ320によって平滑化された直流電圧を、直流電圧VDCやDCリンク電圧VDCとも表す。DCリンク電圧検出部330は、LCフィルタ320によって生成されたDCリンク電圧VDCを検出して、後述する位相シフト量決定部460に提供する。また、LCフィルタ320によって生成されたDCリンク電圧VDCは、DCリンク電圧検出部330による検出結果(データ)と共に、後述するDC-RF変換部410に供給される。
【0019】
高周波電源400は、DC-RF変換部410と、高周波信号生成部420と、高周波電圧検出部430と、高周波電圧演算部440と、高周波電圧指令演算部450と、位相シフト量決定部460を備える。DC-RF変換部410は、直流電源300によって生成されたDCリンク電圧VDCを、同期周波数FRFの高周波電圧VRFに変換する。後述する図3に示されるように、DC-RF変換部410は、DCリンク電圧VDCを交流電圧VACに変換するインバータ412と、当該交流電圧VACを昇圧して高周波電圧VRFを生成する昇圧トランス413を備える。
【0020】
制御信号印加部を構成する高周波信号生成部420は、インバータ412のトランジスタ群をスイッチング制御するための制御信号としての高周波信号を生成する。この高周波信号の周波数であるスイッチング周波数FSWは、高周波電圧VRFの同期周波数FRFと実質的に等しい。また、同期周波数FRFは共振回路210の共振周波数FRESの近傍に設定されるため、スイッチング周波数FSWも共振周波数FRESの近傍に設定される。本実施形態は高周波数で動作する電源装置250に好適であり、スイッチング周波数FSW、同期周波数FRF、共振周波数FRESは例えば1 MHz以上であるのが好ましい。また、レーザ装置100がレーザ加工装置である場合の高周波電源400の出力(高周波電圧VRF)は1 kW以上であるのが好ましい。
【0021】
高周波電圧検出部430は、DC-RF変換部410によって生成された交流電圧VACおよび/または高周波電圧VRFを検出して位相シフト量決定部460にフィードバックする。具体的には、高周波電圧検出部430は、図3における昇圧トランス413の1次側(1次コイル413A)の交流電圧VACおよび/または2次側(2次コイル413B)の高周波電圧VRFを検出する。高周波電圧演算部440は、高周波電圧検出部430によって検出された交流電圧VACおよび/または高周波電圧VRFに基づいて、DC-RF変換部410が生成した高周波電圧VRFを演算して位相シフト量決定部460にフィードバックする。なお、高周波電圧検出部430が高周波電圧VRFを直接的に検出する場合は、それを演算するための高周波電圧演算部440は設けられなくてもよい。
【0022】
高周波電圧指令演算部450は、レーザ共振器200の動作および/または状態を示す情報のフィードバックに基づいて、高周波電源400が生成すべき高周波電圧VRFについての指令を演算する。レーザ共振器200から高周波電圧指令演算部450にフィードバックされる情報としては、レーザ共振器200が発振するレーザ光の強度や、一対の放電電極202、204および/または共振インダクタLを流れる電流が例示される。
【0023】
高周波信号生成部420と共に制御信号印加部を構成する位相シフト量決定部460は、高周波電圧検出部430および/または高周波電圧演算部440から提供された高周波電圧VRF(データ)、高周波電圧指令演算部450によって演算された高周波電圧指令、DCリンク電圧検出部330によって検出されたDCリンク電圧VDCに基づいて、高周波信号生成部420が生成すべき高周波信号の位相シフト量を決定する。高周波信号生成部420は、位相シフト量決定部460によって決定された位相の制御信号または高周波信号を生成してDC-RF変換部410のインバータ412の各トランジスタに印加する。位相シフト量決定部460および高周波信号生成部420による処理の詳細については後述する。
【0024】
図3は、図2の電源装置250(特に高周波電源400)の主な回路構成の一例を示す。高周波電源400におけるDC-RF変換部410は、充電コンデンサ411と、インバータ412と、昇圧トランス413を備える。バンクコンデンサとも呼ばれる充電コンデンサ411は、LCフィルタ320(図3では不図示)の後段において、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に接続される。このため、充電コンデンサ411は、充電回路として機能するAC-DC変換部310およびLCフィルタ320が生成したDCリンク電圧VDCによって充電される。電極間にDCリンク電圧VDCが現れる充電コンデンサ411は、DCリンク電圧検出部330としても機能しうる。
【0025】
インバータ412は、充電コンデンサ411の電極間の直流電圧VDCを交流電圧VACに変換して、昇圧トランス413の1次コイル413Aに印加する。インバータ412は、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に直列に接続される少なくとも二つのスイッチング素子を備え、高周波信号生成部420による当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間の直流電圧VDCを交流電圧VACに変換し、当該各スイッチング素子の接続点から昇圧トランス413を介してレーザ共振器200の一対の放電電極202、204に印加する。本実施形態では、インバータ412におけるスイッチング素子がトランジスタ412A~412Dによって構成される。トランジスタ412A~412Dの種類は任意であり、電界効果トランジスタ(FET: Field effect transistor)でもよいし、バイポーラトランジスタでもよいし、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)でもよい。
【0026】
図3の例におけるインバータ412は、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に直列に接続される第1高電位側スイッチング素子としての第1高電位側トランジスタ412Aと第1低電位側スイッチング素子としての第1低電位側トランジスタ412Bからなる第1スイッチング素子対としての第1トランジスタ対412A/412Bと、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に直列に接続される第2高電位側スイッチング素子としての第2高電位側トランジスタ412Cと第2低電位側スイッチング素子としての第2低電位側トランジスタ412Dからなる第2スイッチング素子対としての第2トランジスタ対412C/412Dを備える。第1高電位側トランジスタ412Aと第1低電位側トランジスタ412Bの接続点(中点)は、昇圧トランス413の1次コイル413Aの一端(図3における上端)に接続されている。同様に、第2高電位側トランジスタ412Cと第2低電位側トランジスタ412Dの接続点(中点)は、昇圧トランス413の1次コイル413Aの他端(図3における下端)に接続されている。
【0027】
高周波信号生成部420(図2)は、これらの二組のトランジスタ対(412A/412Bおよび412C/412D)に対して、互いに相補的な高周波信号を印加することで、昇圧トランス413の1次コイル413Aに交流電圧VACを発生させる。具体的には、第1トランジスタ対412A/412Bの一方のトランジスタの制御端子に印加される高周波信号が「ON」の時は、他方のトランジスタの制御端子に印加される高周波信号が「OFF」になっている。すなわち、第1トランジスタ対412A/412Bは、同時に「ON」となることがないように制御される。図3において、第1高電位側トランジスタ412Aの制御端子への入力が「420」と示されているのに対し、第1低電位側トランジスタ412Bの制御端子への入力が「420′」と示されているのは、このことを便宜的に表す趣旨である。
【0028】
同様に、第2トランジスタ対412C/412Dの一方のトランジスタの制御端子に印加される高周波信号が「ON」の時は、他方のトランジスタの制御端子に印加される高周波信号が「OFF」になっている。すなわち、第2トランジスタ対412C/412Dは、同時に「ON」となることがないように制御される。図3において、第2高電位側トランジスタ412Cの制御端子への入力が「420′」と示されているのに対し、第2低電位側トランジスタ412Dの制御端子への入力が「420」と示されているのは、このことを便宜的に表す趣旨である。
【0029】
図3における同一の符号「420」で表されるように、第1高電位側トランジスタ412Aおよび第2低電位側トランジスタ412Dの制御端子には、当該各トランジスタ412A、412Dが同時に「ON」となるような制御信号が高周波信号生成部420によって印加される。但し、後述するように、それぞれの制御信号の位相は、位相シフト量決定部460によって決定される位相シフト量に基づいてシフトされている(ずれている)。トランジスタ412A、412Dが同時に「ON」となっている間は、これらと相補的に制御されるトランジスタ412B、412Cは「OFF」となっており、図3における上から下に1次コイル413Aに電流が流れる。
【0030】
同様に、図3における同一の符号「420′」で表されるように、第1低電位側トランジスタ412Bおよび第2高電位側トランジスタ412Cの制御端子には、当該各トランジスタ412B、412Cが同時に「ON」となるような制御信号が高周波信号生成部420によって印加される。但し、後述するように、それぞれの制御信号の位相は、位相シフト量決定部460によって決定される位相シフト量に基づいてシフトされている(ずれている)。トランジスタ412B、412Cが同時に「ON」となっている間は、これらと相補的に制御されるトランジスタ412A、412Dは「OFF」となっており、図3における下から上に1次コイル413Aに電流が流れる。
【0031】
昇圧トランス413は、インバータ412によって生成された交流電圧VACを昇圧して高周波電圧VRFを生成する。具体的には、1次コイル413Aの交流電圧VACが昇圧された高周波電圧VRFが2次コイル413Bに現れる。
【0032】
図4および図5は、制御信号印加部を構成する位相シフト量決定部460および高周波信号生成部420によるインバータ412の位相シフト制御の例を模式的に示す。図4は、レーザ共振器200の負荷が比較的軽い場合を示し、図5は、レーザ共振器200の負荷が比較的重い場合を示す。
【0033】
位相シフト量決定部460は、第1高電位側トランジスタ412Aのゲートに印加する第1高電位側制御信号としての第1高電位側ゲート信号Gaと、第2低電位側トランジスタ412Dのゲートに印加する第2低電位側制御信号としての第2低電位側ゲート信号Gdが、共にオンレベルとなる第1重複期間(図4および図5における左から1番目および3番目の「φ」で表される期間)、および、第2高電位側トランジスタ412Cのゲートに印加する第2高電位側制御信号としての第2高電位側ゲート信号Gcと、第1低電位側トランジスタ412Bのゲートに印加する第1低電位側制御信号としての第1低電位側ゲート信号Gbが、共にオンレベルとなる第2重複期間(図4および図5における左から2番目および4番目の「φ」で表される期間)、の少なくともいずれかをレーザ共振器200の負荷に応じて変化させる。
【0034】
また、位相シフト量決定部460は、実質的に同じ波形(図4および図5では矩形状)の第1高電位側ゲート信号Gaと第2低電位側ゲート信号Gdの相対的な位相を変化させることで第1重複期間を変化させ、および/または、実質的に同じ波形(図4および図5では矩形状)の第2高電位側ゲート信号Gcと第1低電位側ゲート信号Gbの相対的な位相を変化させることで第2重複期間を変化させる。
【0035】
具体的には、位相シフト量決定部460は、図4のような軽負荷時には「φ」で表される位相シフト量を比較的小さくし、図5のような重負荷時には「φ」で表される位相シフト量を比較的大きくする。この結果、図4のような軽負荷時には位相シフト量φと等価な第1重複期間(トランジスタ対412A/412Dが共にオン状態となり「正」の交流電圧VACが生成される)および/または第2重複期間(トランジスタ対412B/412Cが共にオン状態となり「負」の交流電圧VACが生成される)が比較的短くなる。図4に示されるように、「正」および「負」の交流電圧VACの持続時間が比較的短いため、昇圧トランス413を介して最終的に生成される高周波電圧VRFの振幅がレーザ共振器200の軽い負荷に応じて小さくされる。同様に、図5のような重負荷時には位相シフト量φと等価な第1重複期間および/または第2重複期間が比較的長くなる。図5に示されるように、「正」および「負」の交流電圧VACの持続時間が比較的長いため、昇圧トランス413を介して最終的に生成される高周波電圧VRFの振幅がレーザ共振器200の重い負荷に応じて大きくされる。
【0036】
なお、図4および図5では便宜的に位相シフト量φを一律としているが、それぞれの位相シフト量φは位相シフト量決定部460によって独立に決定される(但し、0≦φ≦180)。従って、位相シフト量φによって決定される第1重複期間および第2重複期間の長さも、位相シフト量決定部460によって可変である。なお、レーザ共振器200の負荷が安定している場合には、図4および図5に示されるように位相シフト量φを一定とすることで、第1重複期間と第2重複期間の長さを実質的に等しくするのが好ましい。
【0037】
図6は、図4のような軽負荷時において、第1トランジスタ対412A/412Bまたは第2トランジスタ対412C/412Dにおける高電位側トランジスタ(412Aまたは412C)と低電位側トランジスタ(412Bまたは412D)のそれぞれのゲート/ソース間に現れる電圧の例を示す。本図の例におけるスイッチング周波数FSWは2 MHzである。実線は高電位側トランジスタのゲート/ソース間電圧を表し、破線は低電位側トランジスタのゲート/ソース間電圧を表す。
【0038】
前述のように各トランジスタ対は同時にオン状態となることがないように制御されるが、図6に示される遷移期間T1では、低電位側トランジスタがオフ状態からオン状態に遷移する際に、本来であればオフ状態に維持されるべき高電位側トランジスタが瞬間的にオン状態に遷移してしまっている。更に、高電位側トランジスタが瞬間的にオン状態になると、低電位側トランジスタのゲート/ソース間電圧が瞬間的に低下してオフ状態に遷移してしまう。同様に、図6に示される遷移期間T2では、高電位側トランジスタがオフ状態からオン状態に遷移する際に、本来であればオフ状態に維持されるべき低電位側トランジスタが瞬間的にオン状態に遷移してしまっている。更に、低電位側トランジスタが瞬間的にオン状態になると、高電位側トランジスタのゲート/ソース間電圧が瞬間的に低下してオフ状態に遷移してしまう。
【0039】
このような軽負荷時におけるインバータ412の望ましくない挙動は、レーザ共振器200を流れる負荷電流IRFが軽負荷時には小さくなり、以下のZVS(Zero Voltage Switching)条件を満たさなくなる結果、インバータ412がいわゆるハードスイッチング状態となっているためである。
RF≧VDC×√(2×COSS/Lleak
ここで、COSSはトランジスタ412A~412D等のスイッチング素子の出力容量であり、Lleakは昇圧トランス413のリーケージインダクタンスである。
【0040】
ハードスイッチング状態では、トランジスタのオンオフ切替えの際に電圧および電流が急峻に変化し、大きなスイッチング損失が発生する。また、1 MHz以上の高周波数帯で動作することが好ましい本実施形態のインバータ412は、ハードスイッチング状態になると各トランジスタ412A~412Dのドレイン/ソース間電流の変化率(時間微分係数)が大きくなる結果、図6に示されるように各トランジスタ412A~412Dが誤って瞬間的にオン状態に遷移してしまう(以下では「ゲート誤点弧」や「誤点弧」ともいう)。
【0041】
図7は、位相シフト量決定部460によって決定される位相シフト量φとインバータ412で発生する損失の関係の例を示す。前述のように、位相シフト量φはレーザ共振器200の負荷と相関するため、位相シフト量φが小さい本図の左側が軽負荷状態に対応する。本図の例では、位相シフト量φが「40度」以下の軽負荷時に、図6のようなゲート誤点弧が頻発してインバータ412の損失が顕著に大きくなっていることが分かる。
【0042】
以上のような軽負荷時におけるインバータ412の望ましくない挙動を抑えるため、高周波信号生成部420は、図4および図5における矩形状の制御信号(ゲート信号Ga~Gd)に代えて、図8に模式的に示される凸状の制御信号(ゲート信号Ga~Gd)を、インバータ412の少なくとも一つのトランジスタ412A~412Dのゲートに対して印加可能である。
【0043】
この制御信号は、トランジスタ412A~412Dがオン状態となるオンレベルVONと、トランジスタ412A~412Dがオフ状態となるオフレベルVOFFと、トランジスタ412A~412Dが少なくとも部分的にオン状態となるオンレベルVONとオフレベルVOFFの間の中間レベルVの実質的に三通りの電圧レベルを取る。具体的には、図8の例の制御信号の電圧レベルは、オフレベルVOFFから中間レベルVに遷移し、当該中間レベルVからオンレベルVONに遷移し、当該オンレベルVONから中間レベルVに遷移し、当該中間レベルVからオフレベルVOFFに遷移する。中間レベルVはトランジスタ412A~412Dの閾値電圧VTHより大きく設定されるため、中間レベルVの制御信号が印加されたトランジスタ412A~412Dは少なくとも部分的にオン状態となる。従って、トランジスタ412A~412Dは、中間レベルVまたはオンレベルVONの制御信号が印加されるオン期間TONの間に、少なくとも部分的にオン状態となる。
【0044】
図4および図5における矩形状の制御信号では、図8と実質的に等しい長さのオン期間TONの間にオンレベルVONの制御信号がトランジスタ412A~412Dに印加され続けるのに対し、図8における凸状の制御信号では、オン期間TONの開始時には電圧レベルがオフレベルVOFFから中間レベルVを経てオンレベルVONまで徐々に増加し、オン期間TONの終了時には電圧レベルがオンレベルVONから中間レベルVを経てオフレベルVOFFまで徐々に減少する。このように、図8のような中間レベルVを取る制御信号によれば、各トランジスタ412A~412Dのドレイン/ソース間電流の変化率(時間微分係数)を、図4および図5における矩形状の制御信号より小さくできるため、図10に関して後述するように各トランジスタ412A~412Dの誤点弧を抑制できる。
【0045】
制御信号がオフレベルVOFFからオンレベルVONに遷移する際(オン期間TON開始時)の中間レベルVの第1中間期間TM1の長さと、制御信号がオンレベルVONからオフレベルVOFFに遷移する際(オン期間TON終了時)の中間レベルVの第2中間期間TM2の長さは、異なっていてもよいが実質的に等しくするのが好ましい(以下では第1中間期間TM1および第2中間期間TM2を中間期間Tと総称する)。後述する図9に示されるように、中間期間Tの長さは、位相シフト量決定部460によって決定される位相シフト量φ(第1重複期間および/または第2重複期間の長さ)以下の範囲で任意に設定可能である。なお、中間期間Tの長さを位相シフト量φより大きくしてもよいが、トランジスタ対412A/412D、412B/412Cがそれぞれ導通状態となるのは、位相シフト量φによって定まる第1重複期間、第2重複期間であるため、中間期間Tの長さを位相シフト量φより大きくしても実際的な効果は得られない。
【0046】
なお、少なくとも一つのトランジスタ412A~412Dにおいて、中間レベルVを取らない図4および図5のような矩形状の制御信号が利用されてもよいし、第1中間期間TM1および第2中間期間TM2の一方が設けられず他方側のみが階段状になっている制御信号が利用されてもよいし、第1中間期間TM1における中間レベルVと第2中間期間TM2における中間レベルVが異なる非対称な制御信号が利用されてもよい。但し、図8のように、互いに等しい第1中間期間TM1および第2中間期間TM2において同じ電圧レベル(中間レベルV)を取る対称的な制御信号は汎用性が高く、少数のパラメータ(中間期間Tおよび中間レベルV)を指定するだけで各トランジスタ412A~412Dに合わせた柔軟な設定を行える。
【0047】
図9は、図4と同様の軽負荷時に、図4における矩形状の制御信号(ゲート信号Ga~Gd)に代えて、図8における凸状の制御信号(ゲート信号Ga~Gd)が、インバータ412の各トランジスタ412A~412Dのゲートに対して印加された例である。
【0048】
図4の例と同様に、位相シフト量決定部460は、第1高電位側ゲート信号Gaと第2低電位側ゲート信号Gdが、共にオンレベルVONまたは中間レベルVとなる第1重複期間(図9における左から1番目および3番目の「φ」で表される期間)、および、第2高電位側ゲート信号Gcと第1低電位側ゲート信号Gbが、共にオンレベルVONまたは中間レベルVとなる第2重複期間(図9における左から2番目および4番目の「φ」で表される期間)、の少なくともいずれかをレーザ共振器200の負荷に応じて変化させる。
【0049】
図4と異なり、第1重複期間および/または第2重複期間の少なくとも一部において、少なくとも一つのゲート信号Ga~Gdが中間レベルVを取るが、前述の通り中間レベルVはトランジスタ412A~412Dの閾値電圧VTHより大きく設定されるため、中間レベルVのゲート信号Ga~Gdが印加されたトランジスタ412A~412Dはオン状態となる。従って、図4と同様に、第1重複期間ではトランジスタ対412A/412Dが共にオン状態となって「正」の交流電圧VACが生成され、第2重複期間ではトランジスタ対412B/412Cが共にオン状態となって「負」の交流電圧VACが生成される。このように、ゲート信号Ga~Gdの形状の変更による、インバータ412および/または高周波電源400の出力VACおよび/またはVRFへの有意な影響はない。
【0050】
図6と同様の図10は、軽負荷時の図9の例において、第1トランジスタ対412A/412Bまたは第2トランジスタ対412C/412Dにおける高電位側トランジスタ(412Aまたは412C)と低電位側トランジスタ(412Bまたは412D)のそれぞれのゲート/ソース間に現れる電圧の例を示す。図6と同様に、実線は高電位側トランジスタのゲート/ソース間電圧を表し、破線は低電位側トランジスタのゲート/ソース間電圧を表す。
【0051】
図10では、中間レベルVが設けられることでオフレベルVOFFとオンレベルVONの間の遷移におけるゲート信号Ga~Gdの変化が緩やかになった結果、図6で発生していたゲート誤点弧が効果的に抑制されている。具体的には、図10に示される遷移期間T1では、低電位側トランジスタがオフ状態から閾値電圧VTHより高いオン状態に遷移する際に、高電位側トランジスタのゲート/ソース間電圧も僅かに上昇するものの閾値電圧VTHを超えないため当該高電位側トランジスタは所期のオフ状態に維持される。同様に、図10に示される遷移期間T2では、高電位側トランジスタがオフ状態から閾値電圧VTHより高いオン状態に遷移する際に、低電位側トランジスタのゲート/ソース間電圧も僅かに上昇するものの閾値電圧VTHを超えないため当該低電位側トランジスタは所期のオフ状態に維持される。このように、図8のような制御信号(ゲート信号Ga~Gd)を利用することで、軽負荷時に発生しやすいトランジスタ412A~412Dの誤点弧を抑制でき、インバータ412の損失を低減できる。
【0052】
図11は、図7と同様に、位相シフト量決定部460によって決定される位相シフト量φとインバータ412で発生する損失の関係の例を示す。この例では、位相シフト量φが「約100度」より大きい重負荷時には、インバータ412が前述のZVS条件を満たすソフトスイッチング状態となっておりゲート誤点弧の影響が無視できるため、図5における矩形状の制御信号(ゲート信号Ga~Gd)がトランジスタ412A~412Dの制御端子(ゲート)に印加される。一方、位相シフト量φが「約100度」以下の軽負荷時には、インバータ412が前述のZVS条件を満たさないハードスイッチング状態となっておりゲート誤点弧の影響が無視できないため、図8における凸状の制御信号(ゲート信号Ga~Gd)がトランジスタ412A~412Dの制御端子(ゲート)に印加される。図7では位相シフト量φが「40度」以下の時にゲート誤点弧が頻発してインバータ412の損失が顕著に大きくなっていたが、図11では位相シフト量φが「40度」以下でもインバータ412の損失の増加が抑制されていることが分かる。このように、図8のような中間レベルVを取る制御信号(ゲート信号Ga~Gd)を利用することで、特に軽負荷時におけるゲート誤点弧を効果的に抑制できる。
【0053】
なお、図11の例では、ZVS条件に基づく「約100度」を閾値として、トランジスタ412A~412Dに印加する制御信号を矩形状(図5)と凸状(図9)で切り替えていたが、他の閾値に基づいて制御信号の形状を切り替えてもよい。例えば、位相シフト量決定部460によって決定される位相シフト量φ(第1重複期間および/または第2重複期間の長さ)についての閾値が設定されてもよい。例えば、図11の例では「40度」を閾値として、位相シフト量φが「40度」以上の重負荷時はオフレベルVOFFとオンレベルVONの間で切り替わる矩形状の制御信号を利用し、位相シフト量φが「40度」未満の軽負荷時はオフレベルVOFF、中間レベルV、オンレベルVONの間で切り替わる凸状の制御信号を利用する。
【0054】
また、ゲート誤点弧を抑制するためには、図10に関して説明したように、オフ状態に維持されるべきトランジスタのゲート/ソース間電圧が閾値電圧VTHを超えなければよい。そこで、各トランジスタのゲート/ソース間電圧と閾値電圧VTHを連続的または間欠的に比較し、各トランジスタがオフ状態に維持されるべき期間のゲート/ソース間電圧が閾値電圧VTHを超えないように、可能な限り小さい位相シフト量φの閾値を適応的に設定するようにしてもよい。なお、以上のような閾値を設けずに、位相シフト量φやレーザ共振器200の負荷によらず、常に図8のような中間レベルVを取る制御信号(ゲート信号Ga~Gd)が利用されてもよい。
【0055】
図12は、中間レベルVを取る制御信号の第1の変形例である。この制御信号は、複数の中間レベルVを取る。図12の例では、オフレベルVOFF側の少なくとも一つの第1中間レベルVM1と、オンレベルVON側の少なくとも一つの第2中間レベルVM2が設けられる。具体的には、図12の例の制御信号の電圧レベルは、オフレベルVOFFから第1中間レベルVM1に遷移し、当該第1中間レベルVM1から第2中間レベルVM2に遷移し、当該第2中間レベルVM2からオンレベルVONに遷移し、当該オンレベルVONから第2中間レベルVM2に遷移し、当該第2中間レベルVM2から第1中間レベルVM1に遷移し、当該第1中間レベルVM1からオフレベルVOFFに遷移する。ここで、トランジスタ412A~412Dを少なくとも部分的にオン状態とするために、第1中間レベルVM1および第2中間レベルVM2は、いずれもトランジスタ412A~412Dの閾値電圧VTHより大きく設定される。
【0056】
図13は、中間レベルVを取る制御信号の第2の変形例である。この制御信号は、連続的な中間レベルVを取る。図13の例では、図12における第1中間レベルVM1および第2中間レベルVM2を含む多数の中間レベルVが実質的に連続的に設けられる。ここで、第1中間レベルVM1は、オフレベルVOFFとの間の切替えの前後においてオンレベルVONと連続的に繋がる端点であるが、第2中間レベルVM2は、第1中間レベルVM1とオンレベルVONの間の多数の中間レベルVの一つに過ぎない。図13の例の制御信号の電圧レベルは、オフレベルVOFFから第1中間レベルVM1に遷移し、当該第1中間レベルVM1から第2中間レベルVM2を含む多数の中間レベルVを経由してオンレベルVONに連続的に遷移し、当該オンレベルVONから第2中間レベルVM2を含む多数の中間レベルVを経由して第1中間レベルVM1に連続的に遷移し、当該第1中間レベルVM1からオフレベルVOFFに遷移する。なお、第1中間レベルVM1とオンレベルVONの間は、図13とは異なる態様の曲線状に接続されてもよいし、直線状に接続されてもよい。
【0057】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0058】
実施形態ではレーザ装置100における電源装置250について具体的に説明したが、これらに限られない任意のインバータ装置に本発明は適用できる。例えば、バッテリーの充電システムや電動の建設機械に設けられるインバータ装置に本発明を適用してもよい。
【0059】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0060】
100 レーザ装置、200 レーザ共振器、250 電源装置、400 高周波電源、410 DC-RF変換部、412 インバータ、420 高周波信号生成部、460 位相シフト量決定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13