(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103204
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240725BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B41J2/165 211
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007409
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087000
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 淳一
(72)【発明者】
【氏名】安形 和晃
(72)【発明者】
【氏名】夏目 正尊
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EA20
2C056EB15
2C056EB25
2C056EB34
2C056EB54
2C056EC24
2C056EC31
2C056EC35
2C056EC57
2C056FA10
2C056JA01
2C056JA04
2C056JA13
2C056JA27
2C056JC13
2C056KA04
2C056KB35
2C056KC02
(57)【要約】
【課題】インクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引を適切に検出できるようにする。
【解決手段】インクジェットヘッドのインクジェットノズル面から離隔した空吸引位置とインクジェットノズル面に装着された吸引位置との間を相対的に移動自在であって、空吸引位置は動作状況に応じて異なる位置となるキャップ部材と、キャップ部材が動作状況に応じた異なる空吸引位置のときにインク供給経路のインクを吸引する吸引手段と、吸引手段によるインクの吸引に伴い変動するインク供給経路の圧力値を検知する圧力検知手段と、圧力検知手段が検知した圧力値が、動作状況に応じて設定された検出閾値に到達したか否かを判定する検出閾値判定手段と、検出閾値判定手段により圧力値が検出閾値に到達したと判定されたとき、動作状況に応じて設定された判定基準に基づいて、吸引手段によるインクの吸引が誤吸引であるか否かを判定する誤吸引判定手段とを有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク供給経路に供給されたインクをインクジェット技術を利用して吐出するインクジェットプリンタにおいて、
インクジェットノズル面に開口するとともにインク供給経路に供給されたインクを吐出するインクジェットノズルを備えたインクジェットヘッドと、
前記インクジェットノズル面から離隔した空吸引位置と前記インクジェットノズル面に装着された吸引位置との間を相対的に移動自在であって、前記空吸引位置は動作状況に応じて異なる位置となるキャップ部材と、
前記キャップ部材に接続されて、前記キャップ部材が前記動作状況に応じた異なる前記空吸引位置のときに、前記インク供給経路の前記インクを吸引する吸引手段と、
前記吸引手段による前記インクの吸引に伴い変動する前記インク供給経路の圧力値を検知する圧力検知手段と、
前記圧力検知手段が検知した前記圧力値が、前記動作状況に応じて設定された検出閾値に到達したか否かを判定する検出閾値判定手段と、
前記検出閾値判定手段により前記圧力値が前記検出閾値に到達したと判定されたとき、前記動作状況に応じて設定された判定基準に基づいて、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であるか否かを判定する誤吸引判定手段と
を有することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記動作状況に応じて異なる位置となる前記空吸引位置には、通常空吸引位置と前記通常空吸引位置よりも前記キャップ部材が前記インクジェットノズル面に近接した微小開放空吸引位置とがあり、
前記検出閾値の検出感度は、前記通常空吸引位置よりも前記微小開放空吸引位置の方が高い
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項3】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記動作状況に応じて異なる位置となる前記空吸引位置には、通常空吸引位置と前記通常空吸引位置よりも前記キャップ部材が前記インクジェットノズル面に近接した微小開放空吸引位置とがあり、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記通常空吸引位置と前記微小開放空吸引位置とで異なる
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項4】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
2経路以上の複数経路の前記インク供給経路を備え、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記検出閾値判定手段により2経路以上の複数の前記インク供給経路における前記圧力値が前記検出閾値に到達したと判定されたときに、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項5】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記検出閾値判定手段により同一の前記インク供給経路における前記圧力値が2回以上の複数回前記検出閾値に到達したと判定されたときに、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項6】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記検出閾値判定手段が制御不能状態を示す圧力値を検知したときに、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項7】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
2経路以上の複数経路の前記インク供給経路を備え、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記検出閾値判定手段が2経路以上の複数の前記インク供給経路において制御不能状態を示す圧力値を検知したときに、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項8】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
2経路以上の複数経路の前記インク供給経路を備え、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記検出閾値判定手段により2経路以上の複数の前記インク供給経路における前記圧力値が前記検出閾値に到達したと判定されたとき、または、前記検出閾値判定手段により同一の前記インク供給経路における前記圧力値が2回以上の複数回前記検出閾値に到達したと判定されたときに、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項9】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
2経路以上の複数経路の前記インク供給経路を備え、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記検出閾値判定手段により2経路以上の複数の前記インク供給経路における前記圧力値が前記検出閾値に到達したと判定されたとき、かつ、前記検出閾値判定手段により同一の前記インク供給経路における前記圧力値が2回以上の複数回前記検出閾値に到達したと判定されたときに、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項10】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
2経路以上の複数経路の前記インク供給経路を備え、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記検出閾値判定手段により前記インク供給経路の全経路における前記圧力値が前記検出閾値に到達したと判定されたとき、または、前記検出閾値判定手段が制御不能状態を示す圧力値を検知したときに、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項11】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
2経路以上の複数経路の前記インク供給経路を備え、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記検出閾値判定手段により前記インク供給経路の全経路における前記圧力値が前記検出閾値に到達したと判定されたとき、かつ、前記検出閾値判定手段が制御不能状態を示す圧力値を検知したときに、前記吸引手段による前記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項12】
インク供給経路に供給されたインクをインクジェット技術を利用して吐出するインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法において、
キャップ部材がインク供給経路に供給されたインクを吐出するインクジェットヘッドのインクジェットノズル面から離隔した位置であるとともに動作状況に応じて異なる位置となる空吸引位置にあるときに、前記インク供給経路のインクを吸引する第1の処理と、
前記第1の処理によって前記インク供給経路の圧力値が前記動作状況に応じて設定された検出閾値に到達したか否かを判定する第2の処理と、
前記第2の処理によって前記圧力値が前記検出閾値に到達したと判定されたとき、前記動作状況に応じて設定された判定基準に基づいて、前記インクの吸引が誤吸引であるか否かを判定する第3の処理と
を有することを特徴とするインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法。
【請求項13】
請求項12に記載のインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法において、
前記動作状況に応じて異なる位置となる前記空吸引位置には、通常空吸引位置と前記通常空吸引位置よりも前記キャップ部材が前記インクジェットノズル面に近接した微小開放空吸引位置とがあり、
前記検出閾値の検出感度は、前記通常空吸引位置よりも前記微小開放空吸引位置の方が高い
ことを特徴とするインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法。
【請求項14】
請求項12に記載のインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法において、
前記動作状況に応じて異なる位置となる前記空吸引位置には、通常空吸引位置と前記通常空吸引位置よりも前記キャップ部材が前記インクジェットノズル面に近接した微小開放空吸引位置とがあり、
前記誤吸引判定手段の判定基準は、前記通常空吸引位置と前記微小開放空吸引位置とで異なる
ことを特徴とするインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法に関する。
【0002】
さらに詳細には、本発明は、インクジェット技術を利用してインクジェットノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドにおける、当該インクジェットノズルの吐出性能を維持するためのクリーニング処理に用いるキャップユニットを備えたインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法に関する。
【0003】
なお、本明細書ならびに本特許請求の範囲において、「インクジェットプリンタ」とは、例えば、二値偏向方式あるいは連続偏向方式などの各種の連続方式や、サーマル方式あるいは圧電素子方式などの各種のオンデマンド方式を含む、従来より公知の各種の手法によるインクジェット技術を用いた印刷方法を利用した各種のプリンタ全般を意味するものとする。
【0004】
また、本明細書ならびに本特許請求の範囲において、「インクジェットプリンタ」には、メディアに向けて印刷用のインクを吐出して当該メディア上に2次元の画像を印刷する、所謂、2次元プリンタと、粉末材料などにバインダーや水などを吐出することにより当該粉末材料を硬化させて3次元造形物を造形する、所謂、3次元プリンタ(3次元造形装置)との双方が含まれるものとする。
【0005】
さらに、本明細書ならびに本特許請求の範囲において、「メディア」には、普通紙などの紙類よりなる各種の記録媒体は勿論のこと、ポリ塩化ビニル(PVC:polyvinyl chloride)やポリエチレンテレフタラート(PET:polyethylene terephthalate)などの樹脂材料、織物、布、アルミ、鉄あるいは木材などのような各種材料などからなる種々の媒体が含まれるものとする。
【0006】
さらにまた、本明細書ならびに本特許請求の範囲において、「インク」とは、例えば、溶剤系顔料インク、水性顔料インク、水性染料インク、紫外線硬化型顔料インクなどのような各種の印刷用のインクはもとより、三次元造形の際に用いるバインダーや水などのような液体なども含むものであって、「インク」の用語によりインクジェットヘッドへ送液される各種の液体全般を意味するものとする。
【背景技術】
【0007】
一般に、インクジェットヘッドに形成されたインクジェットノズルから、メディアに向けてインクジェット技術を用いてインクを吐出することにより、当該メディア上に画像を形成する印刷動作を行うインクジェットプリンタが広く知られている。
【0008】
こうしたインクジェットプリンタにおいては、例えば、特開2020-138344号公報に開示されているように、インクジェットヘッドにおけるインクジェットノズルの吐出性能を良好に維持するためのクリーニング処理に用いる装置として、所謂、キャップユニットが設けられている。
【0009】
ここで、キャップユニットとは、印刷待機時において、インクジェットヘッドのインクジェットノズルが開口した面(インクジェットノズル面)を覆うように装着されるキャップ部材と、当該キャップ部材に接続された吸引ポンプとを有して構成され、吸引ポンプを動作させてインクジェットヘッドのインクジェットノズルなどからインクを吸引するものである。こうした吸引ポンプは、例えば、キャップチューブなどを介してキャップ部材に接続されていてもよい。
【0010】
吸引ポンプにより吸引されたインクは、別途設けられた廃液タンクへ送出される。なお、こうした廃液タンクは、例えば、廃液チューブなどを介して吸引ポンプに接続されていてもよい。
【0011】
従って、インクジェットプリンタにおけるキャップ部材の下流側には、キャップ部材および吸引ポンプなどを有して構成されるインク吸引経路と、吸引ポンプおよび廃液チューブなどを有して構成される廃液経路との、2系統のインク経路が設けられていることになる。
【0012】
これらインク吸引経路と廃液経路などのように、キャップ部材の下流側に位置するインク経路を総称して、本明細書および本特許請求の範囲においては「キャップ部材下流側インク経路」と適宜に称することとする。
【0013】
上記したような従来のインクジェットプリンタにおいては、インクジェットヘッドにおけるインクジェットノズルの吐出性能を維持するためのクリーニング処理として、「吸引処理」と「空吸引処理」とが行われる。
【0014】
即ち、上記したような従来のインクジェットプリンタにおいては、インクジェットプリンタの印刷待機時において、インクジェットノズル面にキャップ部材が装着されることで、インクジェットノズル面とキャップ部材との間に密閉空間が形成される。
【0015】
この密閉空間が形成された状態で吸引ポンプを動作させることによりキャップ部材内を減圧すると、それに伴い上記した密閉空間が減圧されて、インクヘッド内のインクがインクジェットノズルからキャップ部材へ吸引されて排出され、これによりインクジェットノズルの吐出性能を良好に維持することができる。
【0016】
このように、インクジェットノズル面にキャップ部材が装着した状態である「吸引位置」で吸引ポンプを動作させて、インクヘッド内のインクをインクジェットノズルからキャップ部材へ吸引して排出するための処理が、クリーニング処理などにおける、所謂、「吸引処理」である。
【0017】
また、上記した吸引処理の後に、キャップ部材内に溜まったインクを吸引する場合やインクジェットヘッドのインクジェットノズル面に付着したインクを除去するために、インクジェットノズル面に対するキャップ部材の装着を解除して、キャップ部材をインクジェットノズル面から離隔することによりキャップ部材内および密閉空間を大気圧に開放した状態とし、吸引ポンプを動作させることが行われている。
【0018】
このように、このキャップ部材内および密閉空間を大気圧に開放した状態である「空吸引位置」で吸引ポンプを動作させることにより、キャップ部材内に残留したインクを吸引して排出したり、インクジェットヘッドのインクジェットノズル面に付着したインクを除去することができ、このキャップ部材内に残留したインクを吸引して排出したり、インクジェットヘッドのインクジェットノズル面に付着したインクを除去したりするための処理が、クリーニング処理などにおける、所謂、「空吸引処理」である。
【0019】
上記した「空吸引処理」には、インクジェットノズル面とキャップ部材との間に比較的大きな空間を設けた「空吸引位置」である「通常空吸引位置」における通常の空吸引処理(本明細書ならびに本特許請求の範囲において、「インクジェットノズル面とキャップ部材との間に比較的大きな空間を設けた通常空吸引位置における通常の空吸引処理」を「通常空吸引処理」と適宜に称する。)と、インクジェットノズル面とキャップ部材とをできるだけ近接させて両者の間に微小空間を設けた「空吸引位置」である「微小開放空吸引位置」における空吸引処理(本明細書ならびに本特許請求の範囲において、「インクジェットノズル面とキャップ部材とをできるだけ近接させた微小開放空吸引位置における空吸引処理」を「微小開放空吸引処理」と適宜に称する。)とがある。
【0020】
即ち、通常空吸引位置よりも微小開放空吸引位置の方が、キャップ部材がインクジェットノズル面に近接している。
【0021】
ここで、通常空吸引処理は、キャップ部材内に溜まったインクを吸引する場合などに実施される。一方、微小開放空吸引処理は、通常空吸引処理の直後などにおいて、インクジェットヘッドのインクジェットノズル面に付着したインクの除去などを目的として実施される。
【0022】
こうした通常空吸引処理ならびに微小開放空吸引処理は、従来より公知の技術であるので、その詳細な説明は省略する。
【0023】
なお、本明細書ならびに本特許請求の範囲において、「通常空吸引処理」と「微小開放空吸引処理」とを特段区別する必要がないときは、単に「空吸引処理」と称することとする。
【0024】
ところで、上記したような従来のインクジェットプリンタにおける空吸引処理において、インクジェットノズル面からキャップ部材を隔離できていないときには、吸引ポンプの吸引によりインクジェットヘッドのインクジェットノズル面にキャップ部材が貼り付いてしまうなどの動作不良が発生していた。
【0025】
このため、空吸引処理においてインクジェットノズル面からキャップ部材を隔離できずに予め設定された以上の吸引力が発生している状況などの際に、吸引ポンプの動作を停止するため、こうした状況を「誤吸引」であるとして適切に検知する手法の提案が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、従来の技術に対する上記したような要望に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、空吸引処理における誤吸引を適切に検出するようにしたインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するために、本発明によるインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法は、インクジェットプリンタの動作状況に応じて、空吸引処理の際に誤吸引とする際の基準を随時変更するようにしたものである。
【0029】
従って、本発明によるインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法によれば、インクジェットプリンタにおける動作状況毎に、空吸引処理における誤吸引を適切に検知することができるようになる。
【0030】
即ち、本発明によるインクジェットプリンタは、インク供給経路に供給されたインクをインクジェット技術を利用して吐出するインクジェットプリンタにおいて、インクジェットノズル面に開口するとともにインク供給経路に供給されたインクを吐出するインクジェットノズルを備えたインクジェットヘッドと、上記インクジェットノズル面から離隔した空吸引位置と上記インクジェットノズル面に装着された吸引位置との間を相対的に移動自在であって、上記空吸引位置は動作状況に応じて異なる位置となるキャップ部材と、上記キャップ部材に接続されて、上記キャップ部材が上記動作状況に応じた異なる上記空吸引位置のときに、上記インク供給経路の上記インクを吸引する吸引手段と、上記吸引手段による上記インクの吸引に伴い変動する上記インク供給経路の圧力値を検知する圧力検知手段と、上記圧力検知手段が検知した上記圧力値が、上記動作状況に応じて設定された検出閾値に到達したか否かを判定する検出閾値判定手段と、上記検出閾値判定手段により上記圧力値が上記検出閾値に到達したと判定されたとき、上記動作状況に応じて設定された判定基準に基づいて、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であるか否かを判定する誤吸引判定手段とを有するようにしたものである。
【0031】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、上記動作状況に応じて異なる位置となる上記空吸引位置には、通常空吸引位置と上記通常空吸引位置よりも上記キャップ部材が上記インクジェットノズル面に近接した微小開放空吸引位置とがあり、上記検出閾値の検出感度は、上記通常空吸引位置よりも上記微小開放空吸引位置の方が高いようにしたものである。
【0032】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、上記動作状況に応じて異なる位置となる上記空吸引位置には、通常空吸引位置と上記通常空吸引位置よりも上記キャップ部材が上記インクジェットノズル面に近接した微小開放空吸引位置とがあり、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記通常空吸引位置と上記微小開放空吸引位置とで異なるようにしたものである。
【0033】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、2経路以上の複数経路の上記インク供給経路を備え、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記検出閾値判定手段により2経路以上の複数の上記インク供給経路における上記圧力値が上記検出閾値に到達したと判定されたときに、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準であるようにしたものである。
【0034】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記検出閾値判定手段により同一の上記インク供給経路における上記圧力値が2回以上の複数回上記検出閾値に到達したと判定されたときに、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準であるようにしたものである。
【0035】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記検出閾値判定手段が制御不能状態を示す圧力値を検知したときに、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準であるようにしたものである。
【0036】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、2経路以上の複数経路の上記インク供給経路を備え、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記検出閾値判定手段が2経路以上の複数の上記インク供給経路において制御不能状態を示す圧力値を検知したときに、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準であるようにしたものである。
【0037】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、2経路以上の複数経路の上記インク供給経路を備え、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記検出閾値判定手段により2経路以上の複数の上記インク供給経路における上記圧力値が上記検出閾値に到達したと判定されたとき、または、上記検出閾値判定手段により同一の上記インク供給経路における上記圧力値が2回以上の複数回上記検出閾値に到達したと判定されたときに、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準であるようにしたものである。
【0038】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、2経路以上の複数経路の上記インク供給経路を備え、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記検出閾値判定手段により2経路以上の複数の上記インク供給経路における上記圧力値が上記検出閾値に到達したと判定されたとき、かつ、上記検出閾値判定手段により同一の上記インク供給経路における上記圧力値が2回以上の複数回上記検出閾値に到達したと判定されたときに、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準であるようにしたものである。
【0039】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、2経路以上の複数経路の上記インク供給経路を備え、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記検出閾値判定手段により上記インク供給経路の全経路における上記圧力値が上記検出閾値に到達したと判定されたとき、または、上記検出閾値判定手段が制御不能状態を示す圧力値を検知したときに、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準であるようにしたものである。
【0040】
また、本発明によるインクジェットプリンタは、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおいて、2経路以上の複数経路の上記インク供給経路を備え、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記検出閾値判定手段により上記インク供給経路の全経路における上記圧力値が上記検出閾値に到達したと判定されたとき、かつ、上記検出閾値判定手段が制御不能状態を示す圧力値を検知したときに、上記吸引手段による上記インクの吸引が誤吸引であると判定する判定基準であるようにしたものである。
【0041】
また、本発明によるインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法は、インク供給経路に供給されたインクをインクジェット技術を利用して吐出するインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法において、キャップ部材がインク供給経路に供給されたインクを吐出するインクジェットヘッドのインクジェットノズル面から離隔した位置であるとともに動作状況に応じて異なる位置となる空吸引位置にあるときに、上記インク供給経路のインクを吸引する第1の処理と、上記第1の処理によって上記インク供給経路の圧力値が上記動作状況に応じて設定された検出閾値に到達したか否かを判定する第2の処理と、上記第2の処理によって上記圧力値が上記検出閾値に到達したと判定されたとき、上記動作状況に応じて設定された判定基準に基づいて、上記インクの吸引が誤吸引であるか否かを判定する第3の処理とを行うようにしたものである。
【0042】
また、本発明によるインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法は、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法において、上記動作状況に応じて異なる位置となる上記空吸引位置には、通常空吸引位置と上記通常空吸引位置よりも上記キャップ部材が上記インクジェットノズル面に近接した微小開放空吸引位置とがあり、上記検出閾値の検出感度は、上記通常空吸引位置よりも上記微小開放空吸引位置の方が高いようにしたものである。
【0043】
また、本発明によるインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法は、上記した本発明によるインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法において、上記動作状況に応じて異なる位置となる上記空吸引位置には、通常空吸引位置と上記通常空吸引位置よりも上記キャップ部材が上記インクジェットノズル面に近接した微小開放空吸引位置とがあり、上記誤吸引判定手段の判定基準は、上記通常空吸引位置と上記微小開放空吸引位置とで異なるようにしたものである。
【発明の効果】
【0044】
本発明は、以上説明したように構成されているので、空吸引処理における誤吸引を適切に検出することができるようになるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタを示す概略構成斜視説明図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すインクジェットプリンタにおけるインクカートリッジから廃液タンクに至るインク経路を模式的に示す構成説明図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すインクジェットプリンタにおけるマイクロコンピューターの本発明の実施に関連する機能的構成をあらわすブロック構成説明図である。
【
図4】
図4は、空吸引処理における誤吸引検知の処理の際における誤検出の一例の説明図である。
【
図5】
図5は、空吸引処理における誤吸引検知の処理の際における誤検出の他の例の説明図である。
【
図6】
図6は、第1モード処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1モードにおいて誤吸引が発生した判定する場合の一例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、第1モードにおいて誤吸引が発生していないと判定する場合の一例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、第2モード処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第2モードにおいて誤吸引が発生した判定する場合の一例を示す説明図である。
【
図11】
図11は、第2モードにおいて誤吸引が発生していないと判定する場合の一例を示す説明図である。
【
図12】
図12は、第3モード処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、第3モードにおいて誤吸引が発生した判定する場合の一例を示す説明図である。
【
図14】
図14は、第3モードにおいて誤吸引が発生していないと判定する場合の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明によるインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0047】
(I) 本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタの構成の説明
図1には、本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタを示す概略構成斜視説明図があらわされている。
【0048】
図2には、
図1に示すインクジェットプリンタにおけるインクカートリッジから廃液タンクに至るインク経路を模式的に示す構成説明図があらわされている。
【0049】
本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタ10は、基台部材12に支持され主走査方向に延長して配設された固定系のベース部材14を備えている。
【0050】
ベース部材14の左右両端には側方部材16L、16Rが配設され、側方部材16R側には側方ユニット18が配設されている。
【0051】
インクジェットプリンタ10は、左右2つの側方部材16L、16Rを連結する中央壁20を備え、中央壁20の壁面には主走査方向に延長してガイドレール22が配設されている。
【0052】
符号24は、中央壁20の壁面に平行して主走査方向に移動自在に配設されたタイミングベルトである。キャリッジ26は、タイミングベルト24に固定的に配設されるとともにガイドレール22に摺動自在に装着されている。キャリッジ26には、ベース部材24上に位置するメディアたる記録紙28と対向するようにしてインクジェットヘッド30が搭載されるとともに、インクジェットヘッド30と接続されたダンパー装置32A、32B、32C、32Dが搭載されている。
【0053】
なお、上記したダンパー装置とは、従来より公知の技術であり、インクジェットヘッドにおけるインクの圧力変動を小さく抑えるために、インク供給源であるインクカートリッジとインクジェットヘッドとをつなぐインク供給経路において、インクジェットヘッドの前段に配置されたサブタンクであり、大型のインクジェットプリンタのインク供給経路には一般的に配設されている。
【0054】
ここで、インクジェットヘッド30には、インクジェットノズル面30aに開口している4列のインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dが配設されている(
図2を参照する。)。
図2を参照しながら後述するように、インクジェットプリンタ10においては、インクカートリッジ36A、36B、36C、36Dにそれぞれ貯留されているインクが、ダンパー装置32A、32B、32C、32Dをそれぞれ介して、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dへそれぞれ供給され、当該供給されたインクがインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dからそれぞれ吐出される。
【0055】
なお、こうしたインクジェットプリンタ10の全体の動作は、マイクロコンピューター34によって制御されている。マイクロコンピューター34の本発明の実施に関連する機能的構成については、
図3に示すブロック構成説明図を参照しながら後に詳述する。
【0056】
また、インクジェットプリンタ10においては、上記したようにメディアとして記録紙28を用いるものとする。この記録紙28は、幅方向たる主走査方向において所定の長さを有するとともにロール状に巻回されたメディアであって、給紙装置(図示せず。)によって引き出されてベース部材14上に供給され、主走査方向と直交する方向、即ち、記録紙28の長手方向に搬送される。なお、主走査方向と直交する方向、即ち、記録紙28の搬送方向、かつ、記録紙28の長手方向を「副走査方向」と称する。
【0057】
そして、このインクジェットプリンタ10においては、マイクロコンピューター34の制御に従って記録紙28上に印刷が行われる。
【0058】
即ち、マイクロコンピューター34の制御に従って、タイミングベルト24の巻き取りによりタイミングベルト24が移動すると、このタイミングベルト24の移動に伴って、キャリッジ26が主走査方向における行き方向(往路)および帰り方向(復路)に往復移動する。これにより、キャリッジ26に搭載されたダンパー装置32A、32B、32C、32Dおよびインクジェットヘッド30が、給紙装置によってベース部材14上に供給された記録紙28上を主走査方向における行き方向(往路)および帰り方向(復路)に一体的に往復移動し、記録紙28上に印刷が行われる。
【0059】
インクジェットプリンタ10においては、ベース部材14に廃液タンク42が配設されており、側方ユニット18に着脱可能に配設されるインクカートリッジ36A、36B、36C、36Dから廃液タンク42へ至るインク経路が形成されている(
図2を参照する。)。
【0060】
インクジェットプリンタ10には、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aをクリーニングするクリーニング処理動作において、インクジェットヘッド30に形成されたインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dの開口部が位置するインクジェットノズル面30aをキャッピングするキャップユニット38が設けられている。
【0061】
なお、符号40は、作業者がインクジェットプリンタ10の動作を制御するための操作子40aを備えた操作パネルである。操作パネル40には、インクジェットプリンタ10の動作状態を表示するための表示装置40bが設けられている。
【0062】
次に、側方ユニット18に着脱可能に配設されるインク供給源であるインクカートリッジ36A、36B、36C、36Dからダンパー装置32A、32B、32C、32Dを通過してインクジェットヘッド30へ至る4経路のインク供給経路(送液経路)100、200、300、400について説明する。
【0063】
なお、これら4経路のインク供給経路100、200、300、400は互いに同様な構成を備えているので、以下の説明においては、主にインク供給経路100について説明するものとし、インク供給経路200、300、400においてインク供給経路100と同一あるいは相当する構成については、インク供給経路100に用いた符号と同一の符号を付すことにより、それらの詳細な説明は適宜に省略する。
【0064】
インク供給経路100、200、300、400は、一方の端部102aにインクカートリッジ36A、36B、36C、36Dが連通するように接続されるとともに他方の端部102bにダンパー装置32A、32B、32C、32Dがそれぞれ連通するように接続された可撓性のインク供給チューブ102をそれぞれ備えている。
【0065】
インクカートリッジ36A、36B、36C、36Dは、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dへそれぞれ供給するためのインクを貯留しており、インクカートリッジ36A、36B、36C、36D内に貯留されたインクの容量を検知するセンサー(図示せず。)が設けられている。
【0066】
インク供給チューブ102における一方の端部102aと他方の端部102bとの間には、インク供給経路100、200、300、400内のインクをそれぞれ加圧してダンパー装置32A、32B、32C、32Dへそれぞれ送液するための送液手段として、送液ポンプ101A、101B、101C、101Dがそれぞれ配設されている。この送液ポンプ101A、101B、101C、101Dとしては、例えば、従来より公知の回転ポンプとして知られているチューブポンプやトロコイドポンプ、あるいは、ダイヤフラムポンプなどのような、従来より公知の種々の加圧ポンプを用いることができるのでその詳細な説明は省略する。
【0067】
ここで、チューブポンプやトロコイドポンプなどの回転ポンプは、ポンプ内のコロや歯車を回転することによりインクを加圧して送液する。チューブポンプやトロコイドポンプにおいては、設計上の理論値として、コロや歯車の単位回転量(単位作動量)当たりの送液容量が単位送液容量として設定されている。
【0068】
ダンパー装置32A、32B、32C、32Dはインクジェットヘッド30とともにキャリッジ26に搭載されており、インク供給チューブ102を通過したインクを一時的に貯留するインク貯留室を備えている。このダンパー装置32A、32B、32C、32Dにより、キャリッジ26が記録紙28に対して往復動する際におけるインク供給経路100内のインクの圧力変動を吸収している。
【0069】
ダンパー装置32A、32B、32C、32Dは、例えば、インク貯留室内におけるインクの貯留容量の変化に伴い変動する負圧を検知する負圧検知部材たる検知レバーを備えている。こうした検知レバーを備えたダンパー装置32A、32B、32C、32Dは、例えば、特許第5951091号公報に開示されているように従来より公知の技術であるので、その詳細な説明は省略する。
【0070】
インクジェットプリンタ10には、例えば、上記した検知レバーの変位を常時監視していてインク貯留室内におけるインクの圧力値を常時検知したり、あるいは、インク貯留室内のインクの圧力値を常時監視していてインク貯留室内におけるインクの圧力値を常時検知したりする、所謂、インク供給経路(送液経路)100、200、300、400におけるインクの圧力をそれぞれ検知する圧力検知手段としての圧力センサー118A、118B、118C、118Dがそれぞれ設けられている。
【0071】
この圧力センサー118A、118B、118C、118Dは、インク貯留室内のインクの圧力値を常時検知して、検知結果をマイクロコンピューター34に常時出力する。
【0072】
なお、圧力センサー118A、118B、118C、118Dとしては、例えば、光により検知レバーの変位を検出して圧力値を検知する光センサーや、検知レバーの接触状態から検知レバーの変位を検出して圧力値を検知する接触センサーや、インクの圧力値を直接的に検知する液体圧力センサーなど、各種のセンサーを適宜に用いることができる。
【0073】
圧力センサー118A、118B、118C、118Dにより検知された圧力値はマイクロコンピューター34に出力され、マイクロコンピューター34は圧力センサー118A、118B、118C、118Dにより検知された圧力値に応じて、送液ポンプ101A、101B、101C、101Dならびに吸引ポンプ114(後述する。)の作動開始や作動停止を含む動作を制御する。
【0074】
ダンパー装置32A、32B、32C、32Dには、ダンパー装置32A、32B、32C、32Dのインク貯留室とそれぞれ連通するインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dを備えたインクジェットヘッド30が接続されており、インクカートリッジ36A、36B、36C、36Dに貯留されたインクは、ダンパー装置32A、32B、32C、32Dを介してインクジェットヘッド30のインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dへそれぞれ供給される。
【0075】
より詳細には、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル31Aは、ダンパー装置32Aを含むインク供給経路100と連通しており、同様に、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル31Bは、ダンパー装置32Bを含むインク供給経路200と連通しており、同様に、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル31Cは、ダンパー装置32Cを含むインク供給経路300と連通しており、同様に、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル31Dは、ダンパー装置32Dを含むインク供給経路400と連通している。
【0076】
インクジェットヘッド30のインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dへそれぞれ供給されたインクは、インクジェットノズル面30aに配置されたインクジェットヘッドノズル31A、31B、31C、31Dの開口部から吐出される。
【0077】
ここで、ダンパー装置32A、32B、32C、32Dにおいて、インク供給経路(送液経路)100、200、300、400を構成するインク貯留室内のインクの圧力値は、当該インク貯留室内のインク貯留量に応じて変位するので、圧力検知手段としての圧力センサー118A、118B、118C、118Dが検知した圧力値に基づいて、インク貯留室内のインク貯留量を判定することができる。例えば、インク貯留室内のインク貯留量が所定の下限値(所定量)に到達したか否かや、インク貯留量が所定の上限値(満タン)に到達したか否かなどを判定することができる。
【0078】
後述するように、本発明の実施に関連しては、圧力検知手段としての圧力センサー118A、118B、118C、118Dが検知した圧力値に基づいて、インク供給経路(送液経路)100、200、300、400を構成するインク貯留室内のインクの現在の圧力値について、予め設定された検出閾値に到達したか否かを判定する。
【0079】
この検出閾値とは、空吸引処理における誤吸引を検知するための閾値であって、インクジェットプリンタ10における空吸引処理の動作状況に応じた値に設定されている。
【0080】
上記構成を備えたインクジェットプリンタ10によれば、ダンパー装置32A、32B、32C、32D内のインク貯留量に応じて送液ポンプ101A、101B、101C、101Dならびに吸引ポンプ114(後述する。)を動作させることができる。これにより、インクジェットプリンタ10によるメディア28への印刷時においても、インク貯留室内に所定量のインクを維持することができ、インクジェットヘッド30に安定的にインクを供給することができる。
【0081】
また、上記において説明したように、インクジェットプリンタ10においては、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aをクリーニングするクリーニング処理動作において、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aに形成されたインクジェットノズル周りをキャッピングするキャップユニット38が設けられている。
【0082】
このキャップユニット38は、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aに装着して封止するキャップ部材112と、キャップ部材112内を減圧してインクジェットヘッド30を含むインク供給経路100内のインクを吸引可能な吸引ポンプ114とを有して構成されている。吸引ポンプ114は、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aをクリーニングするクリーニング処理動作の際に、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aに形成されたインクジェットノズルの開口部を封止したキャップ部材112に負圧を供給し、インク供給経路100内のインクを吸引する。
【0083】
符号116はキャップチューブであり、一方の端部116aをキャップ部材112に接続するとともに、他方の端部116bを吸引ポンプ114に接続している。インクジェットプリンタ10においては、キャップ部材112とキャップチューブ116と吸引ポンプ114とにより、キャップ部材下流側インク経路を形成するインク吸引経路140が構成される。
【0084】
また、符号117は、廃液チューブであり、一方の端部117aを吸引ポンプ114に接続するとともに、他方の端部117bを廃液タンク42に接続している。インクジェットプリンタ10においては、吸引ポンプ114と廃液チューブ117とにより、キャップ部材下流側インク経路を形成する廃液経路150が構成される。
【0085】
ここで、吸引ポンプ114としては、例えば、従来より公知のチューブポンプやトロコイドポンプなどの回転ポンプあるいは真空ポンプなどの種々の構成のものを用いることが可能である。
【0086】
ここで、チューブポンプやトロコイドポンプなどの回転ポンプは、ポンプ内のコロを移動したり歯車を回転させたりして吸引力を発生させている状態と、所定の位置でポンプ内のコロの移動を停止したり歯車の回転を停止して吸引力が解除されて外気に開放された状態(リリース状態)と、所定の位置でポンプ内のコロの移動を停止したり歯車の回転を停止して吸引力が解除されて外気に対して閉鎖された状態とを選択的に制御可能なポンプである。
【0087】
具体的には、吸引ポンプ114としては、特許第4857798号などに開示されたチューブポンプと同様な構成のチューブポンプを用いることができる。
【0088】
吸引ポンプ114を動作させることにより、インクジェットヘッド30から廃液タンク42側へインクが吸引される。吸引ポンプ114は、インクの吸引速度や廃液の送液速度を変化させることができる。
【0089】
インクジェットプリンタ10は、キャップ部材112とインクジェットヘッド30との位置関係が、予め設定されている基準位置(吸引処理ならびに空吸引処理を行わない位置であり、キャップ部材112とインクジェットヘッド30との位置関係を測定する際の原点位置となる位置であって、キャップ部材112とインクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aとが離隔している位置である。)から、吸引処理を行う際の吸引位置と、通常空吸引処理を行う際の通常空吸引位置と、微小開放空吸引処理を行う際の微小開放空吸引とに、それぞれ相対的に移動自在に変化することができるように、ステッピングモーター111によりキャップ部材112を移動する。
【0090】
キャップ部材112とインクジェットヘッド30との位置関係を移動自在に相対的に変化させるために、キャップ部材112をステッピングモーター111の作動により移動させる機構については、例えば、特許第6437687号公報などに開示された従来より公知の技術を適用することができるので、その詳細な説明は省略する。
【0091】
ステッピングモーター111の回転によるキャップ部材112の位置制御は、マイクロコンピューター34により制御される。
【0092】
(II) 本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタにおけるマイクロコンピューターの本発明の実施に関連する機能的構成の説明
図3には、
図1に示すインクジェットプリンタにおけるマイクロコンピューターの本発明の実施に関連する機能的構成をあらわすブロック構成説明図が示されている。
【0093】
マイクロコンピューター34は、本発明の実施に関連する機能的構成として、記憶部34aと、モード判定部34bと、検出閾値判定部34cと、誤吸引判定部34dとを有して構築される。
【0094】
記憶部34aは、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aをクリーニングするクリーニング処理動作の際などにおける空吸引処理中の誤吸引を検知するための誤吸引検知プログラムを記憶している。
【0095】
この誤吸引検知プログラムは、後に詳述するが、インクジェットプリンタ10における空吸引処理の動作状況に応じた動作モードとして第1モードと第2モードと第3モードとを設定しており、インクジェットプリンタ10における空吸引処理の動作状況毎に、空吸引処理における誤吸引を適切に検知することができるようにしている。
【0096】
また、記憶部34aは、上記した第1モードと第2モードと第3モードと毎に、それぞれの動作モードに適するように予め設定された検出閾値と判定基準(後述する。)とをそれぞれ記憶している。
【0097】
モード判定部34bは、インクジェットプリンタ10において空吸引する際のモードが第1モードであるか、第2モードであるか、あるいは、第3モードであるかを判定する。
【0098】
検出閾値判定部34cは、圧力センサー118A、118B、118C、118Dから出力された圧力値に基づいて、圧力センサー118A、118B、118C、118Dから出力された現在の圧力値が上記した検出閾値に到達したか否かを判定する。
【0099】
誤吸引判定部34dは、記憶部34aに記憶された誤吸引検知プログラムに従って、検出閾値判定部34cによる判定結果に基づいて、第1モードと第2モードと第3モードとにそれぞれ応じた誤吸引の判定を行う。
【0100】
なお、誤吸引判定部34cの判定結果は、マイクロコンピューター34へ送られて、吸引ポンプ114の動作の制御などに用いられる。
【0101】
ここで、第1モードとは、インクジェットプリンタ10の動作状況として微小開放空吸引処理を実施する際のモードである。この第1モードにおいては、検出感度が高くなるように検出閾値が設定されていて、こうした検出閾値により微小開放空吸引処理の誤吸引を検知する。そして、この第1モードにおいては、誤吸引を検知すると通常空吸引処理へ移行する。
【0102】
なお、従来よりインクジェットプリンタにおいては、微小開放空吸引は誤吸引が発生し易い設計となっており、誤吸引が日常的に発生し得る前提で動作のシーケンスを作成しているため、検出感度が高くなるように検出閾値を設定することに伴い発生する恐れのある誤吸引の誤検出による影響が少ない。
【0103】
次に、第2モードとは、インクジェットプリンタ10の動作状況として通常空吸引処理を実施する際のモードである。この第2モードにおいては、検出感度が低くなるように検出閾値が設定されていて、こうした検出閾値により通常空吸引処理の誤吸引を検知する。そして、この第2モードにおいては、誤吸引を検知したときは、吸引ポンプ緊急リリース(「吸引ポンプ緊急リリース」とは、吸引ポンプ114を瞬時にリリース状態にする処理である。)を実施するなどのような、インクジェットプリンタ10における異常時処理動作を行う。
【0104】
ここで、異常が有る状態でインクジェットプリンタ10を動作させたくはないものではあるが、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aへのキャップ部材112の貼り付きなどが発生していると復旧作業が困難になるため、そのままの位置で吸引ポンプ緊急リリースを実施する。
【0105】
なお、吸引ポンプ緊急リリースにおいては、キャップ部材112からインクが溢れたり、インクジェットヘッド30のインクジェットノズルからインクが逆流するリスクがある。
【0106】
なお、従来よりインクジェットプリンタにおいては、通常空吸引では誤吸引が発生しない設計となっており、検出感度が低くなるように検出閾値が設定することに伴い誤吸引の検知が遅れても、誤吸引検出時には「リスクはあるが最悪の事態を回避する動作」を実施するため、誤吸引の誤検出による影響の方が遙かに大きい。
【0107】
次に、第3モードとは、インクジェットプリンタ10の動作状況としてエラー時動作中において通常空吸引処理を実施する際のモードである。
【0108】
上記したエラー時動作とは、インクカートリッジのエンド検出(インクカートリッジに貯留されているインクが空になったことの検出)時に、動作中のシーケンスをキャンセルするための動作である。このエラー時動作中においては、第3モードとして、送液制御を停止した状態(エンド検出時は、インクカートリッジ内のインクが空であるので送液制御はできない。)で通常空吸引処理を実施する。こうした第3モードにおいては、送液動作を利用しない方法で誤吸引検知を実施する。
【0109】
(III) 本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおけるインクの加圧制御方法における動作の説明
図4乃至
図12の構成において、インクジェットプリンタ10においては、マイクロコンピューター34の制御により、インクカートリッジ36A、36B、36C、36Dからインク供給チューブ102へインクを供給しながら、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dから記録紙28に対してインクを吐出して、記録紙28への印刷処理を行う。
【0110】
ここで、本発明によるインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法は、以下に説明する本願発明者による研究に基づいてなされたものである。
【0111】
即ち、上記した構成を備えたインクジェットプリンタ10においては、空吸引処理時に吸引ポンプ114を動作させることにより、インク供給経路100、200、300、400からインクを吸引することになる。
【0112】
この際に、キャップ部材112とインクジェットノズル面30aとの空間が微小の場合には、吸引ポンプ114の動作によりダンパー装置32A、32B、32C、32Dに貯留されたインクの圧力値が低下する影響を受ける。
【0113】
従って、圧力センサー118A、118B、118C、118Dの検出閾値としての圧力値を予め設定しておき、空吸引処理時に圧力センサー118A、118B、118C、118Dが検知した現在の圧力値が予め設定された検出閾値に到達すると、空吸引処理中の誤吸引であると判定して、空吸引処理中の誤吸引を検出することが可能である。
【0114】
しかしながら、本願発明者の研究によると、インクジェットプリンタ10においては、キャップ部材112をインクジェットノズル面30aから離隔する際におけるダンパー装置32A、32B、32C、32Dに貯留されたインクの微減圧や、機体の動作や外乱による振動に伴うダンパー装置32A、32B、32C、32Dに貯留されたインクの圧力変動などに起因して、圧力センサー118A、118B、118C、118Dが本来的には誤吸引でない状態を誤吸引であると検知する場合があることが判明した。
【0115】
具体的には、キャップ部材112をインクジェットノズル面30aから離隔する際におけるダンパー装置32A、32B、32C、32Dに貯留されたインクの微減圧や、機体の動作や外乱による振動に伴うダンパー装置32A、32B、32C、32Dに貯留されたインクの圧力変動などに起因して、
図4に示すように、圧力センサー118A、118B、118Dについては検知した圧力値が検出閾値に到達してはいないが、圧力センサー118Cのみは検知した圧力値が検出閾値に到達し、空吸引処理中の誤吸引であるとして検知されることがある。
【0116】
しかしながら、この圧力センサー118Cによる空吸引処理中の誤吸引の検知は、その検知自体が誤検出となっているという問題点があった。
【0117】
なお、こうしたことは、空吸引処理の開始直前におけるダンパー装置32A、32B、32C、32Dに貯留されたインクの圧力状態が、検出閾値に僅かに到達していない状況のときに発生する。
【0118】
一方、
図4を参照しながら上記において説明した検知自体が誤検出となってしまうというような状況の発生を避けるために、本願発明者は、
図5に示すように、圧力センサー118A、118B、118Dの全てにおいて検知した圧力値が検出閾値に到達した場合にのみ空吸引処理中の誤吸引であるとして検知される場合について検討した。
【0119】
しかしながら、こうした処理を行った場合には、4個のインクジェットノズル31A、31B、31C、31Dのいずれかに重度の目詰まりが発生しているなどして、4経路のインク供給経路100、200、300、400のいずれかに目詰まりによる不具合が発生しているインク供給経路があるときに、その目詰まりによる不具合に伴う誤吸引の検知が遅れたり、あるいは、誤吸引を検知できなかったりする。
【0120】
なお、このように目詰まりなどの不具合に伴う誤吸引の検知が遅れたり、あるいは、誤吸引を検知できなかったりすると、目詰まりなどの不具合の生じていないインク供給経路はいつまでも減圧され続けてしまい、インクジェットヘッド30のインクジェットノズル面30aにキャップ部材112が吸い付いて貼り付いてしまうなどの復旧作業が困難な動作不良が発生する。
【0121】
また、本願発明者の研究によると、インクジェットプリンタ10においては、空吸引処理の動作状況毎に、誤吸引の検出感度、即ち、検出閾値を異ならせる方が好ましいことが判明した。
【0122】
例えば、キャップ部材112とインクジェットノズル面30aとの空間が微小空間である微小開放空吸引処理などのように、誤吸引が発生し易い条件のときには、多少の誤吸引の誤検出は許容するようにして、可能な限り早い段階で誤吸引を検知するようにした方が好ましいものであった。
【0123】
一方、インクジェットプリンタ10におけるエラー動作処理中の空吸引処理などのように、誤吸引が発生しない状況のときには、多少の誤吸引の発生は許容するようにして、可能な限り誤吸引の誤検出を無ようにすることが好ましいものであった。
【0124】
上記において説明した本願発明者の研究に鑑みて、インクジェットプリンタ10は以下に説明する処理を実行するようにしたものである。
【0125】
まず、空吸引処理における誤吸引検知プログラムの処理ルーチンについて説明する。このインクジェットプリンタ10においては、作業者により操作パネル40に設けられた操作子40aが操作されて、インクジェットヘッド30におけるインクジェットヘッドノズル面30aをクリーニングするクリーニング処理動作の開始が指示された時や、マイクロコンピューター34によるエラー検出時などのように、マイクロコンピューター34の制御により空吸引処理を実施する際に、記憶部34aに記憶されている空吸引処理における誤吸引検知プログラムの処理ルーチンが起動して実行される。
【0126】
この空吸引処理における誤吸引検知プログラムの処理ルーチンが起動すると、まず、モード判定部34bによって、空吸引する際のモードが第1モードであるか、空吸引する際のモードが第2モードであるか、あるいは、空吸引する際のモードが第3モードであるかが判定される。
【0127】
空吸引する際のモードが第1モードであると判定された場合には、第1モードにおける誤吸引検知処理を実施するための第1モード処理ルーチン(
図6を参照する。)を実行する。
【0128】
ここで、
図6を参照しながら第1モード処理ルーチンを説明すると、第1モード処理ルーチンにおいては、微小開放空吸引処理を行い(ステップS702)、検出閾値判定部34cは、ステップS702の処理による微小開放空吸引処理中に圧力センサー118A、118B、118C、118Dから出力された圧力値が検出閾値に到達したか否かを判定する(ステップS704)。
【0129】
ステップS704の判定処理において、「検出閾値に到達した」(Yes)と判定された場合には、ステップS706へ進み、誤吸引判定部34dにより誤吸引が発生したか否かが判定される。
【0130】
ここで、第1モードにおける微小開放空吸引処理において、誤吸引判定部34dが誤吸引が発生したか否かを判定する基準、換言すれば、誤吸引判定部34dが微小開放空吸引処理のときに誤吸引が発生したと判定する際の判定基準について説明すると、誤吸引判定部34dは、「全てのインク供給経路のなかのいずれか2経路以上で少なくとも1回以上検出閾値に到達した場合」のみ誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しない。
【0131】
具体的には、例えば、
図7に示すように、「圧力センサー118Aを有するインク供給経路100で1回検出閾値に到達するとともに圧力センサー118Dを有するインク供給経路400で1回検出閾値に到達した場合」には、上記した判定基準に合致するので、誤吸引判定部34dは誤吸引が発生したと判定する。
【0132】
一方、例えば、
図8に示すように、「圧力センサー118Cを有するインク供給経路300のみで2回検出閾値に到達した場合」には、上記した判定基準には合致しないので、誤吸引判定部34dは誤吸引が発生していないと判定する、換言すれば、誤吸引ではないと判定する。
【0133】
ステップS706の判定処理において、「誤吸引が発生した」(Yes)と判定された場合には、通常空吸引へ移行して(ステップS708)、通常空吸引における処理を行うようにする。
【0134】
このステップS708の処理を終了すると、第1モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0135】
一方、ステップS704の判定処理において、「検出閾値に到達していない」(No)と判定された場合には、第1モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0136】
また、ステップS706の判定処理において、「誤吸引が発生していない」(No)と判定された場合には、第1モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0137】
次に、空吸引する際のモードが第2モードであると判定された場合には、第2モードにおける誤吸引検知処理を実施するための第2モード処理ルーチン(
図9を参照する。)を実行する。
【0138】
ここで、
図9を参照しながら第2モード処理ルーチンを説明すると、第2モード処理ルーチンにおいては、通常空吸引処理を行い(ステップS1002)、検出閾値判定部34cは、ステップS1002の処理による通常空吸引処理中に圧力センサー118A、118B、118C、118Dから出力された圧力値が検出閾値に到達したか否かを判定する(ステップS1004)。
【0139】
ステップS1004の判定処理において、「検出閾値に到達した」(Yes)と判定された場合には、ステップS1006へ進み、誤吸引判定部34dにより誤吸引が発生したか否かが判定される。
【0140】
ここで、第2モードにおける通常空吸引処理において、誤吸引判定部34dが誤吸引が発生したか否かを判定する基準、換言すれば、誤吸引判定部34dが通常空吸引処理のときに誤吸引が発生したと判定する際の判定基準について説明すると、誤吸引判定部34dは、「全てのインク供給経路のなかのいずれか2経路以上で少なくとも1回以上検出閾値に到達した場合」かつ「同一のインク供給経路で少なくとも2回以上検出閾値に到達した場合」のみ誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しない。
【0141】
具体的には、例えば、
図10に示すように、「圧力センサー118Aを有するインク供給経路100で1回検出閾値に到達するとともに圧力センサー118Dを有するインク供給経路400で2回検出閾値に到達した場合」には、上記した判定基準に合致するので、誤吸引判定部34dは誤吸引が発生したと判定する。
【0142】
一方、例えば、
図11に示すように、「圧力センサー118Aを有するインク供給経路100で1回検出閾値に到達するとともに圧力センサー118Dを有するインク供給経路400で1回検出閾値に到達した場合」には、上記した判定基準には合致しないので、誤吸引判定部34dは誤吸引が発生していないと判定する、換言すれば、誤吸引ではないと判定する。
【0143】
ステップS1006の判定処理において、「誤吸引が発生した」(Yes)と判定された場合には、吸引ポンプ114を瞬時にリリース状態にする処理などのような異常時処理動作を行う(ステップS1008)。
【0144】
このステップS1008の処理を終了すると、第2モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0145】
一方、ステップ1004の判定処理において、「検出閾値に到達していない」(No)と判定された場合には、第2モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0146】
また、ステップS1006の判定処理において、「誤吸引が発生していない」(No)と判定された場合には、第2モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0147】
次に、空吸引する際のモードが第3モードであると判定された場合には、第3モードにおける誤吸引検知処理を実施するための第3モード処理ルーチン(
図12を参照する。)を実行する。
【0148】
ここで、
図12を参照しながら第3モード処理ルーチンを説明すると、第3モード処理ルーチンにおいては、通常空吸引処理を行い(ステップS1302)、検出閾値判定部34cは、ステップS1302の処理による通常空吸引処理中に圧力センサー118A、118B、118C、118Dから出力された圧力値が検出閾値に到達したか否かを判定する(ステップS1304)。
【0149】
ステップS1304の判定処理において、「検出閾値に到達した」(Yes)と判定された場合には、ステップS1306へ進み、誤吸引判定部34dにより誤吸引が発生したか否かが判定される。
【0150】
ここで、第3モードにおける通常空吸引処理において、誤吸引判定部34dが誤吸引が発生したか否かを判定する基準、換言すれば、誤吸引判定部34dが通常空吸引処理のときに誤吸引が発生したと判定する際の判定基準について説明すると、誤吸引判定部34dは、「全てのインク供給経路で少なくとも1回以上検出閾値に到達した場合」かつ「インクジェットノズルにおけるインクジェットノズル面の圧力値が-3kPa以下のインク供給経路がある場合」のみ誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しない。
【0151】
ここで、「インクジェットノズル面の圧力値が-3kPa以下」になる場合とは、インクジェットプリンタ10の制御範囲から大きく外れた減圧が発生した状態(本明細書ならびに本特許請求の範囲において、「インクジェットプリンタ10の制御範囲から大きく外れた減圧が発生した状態」を「制御不能状態」と適宜に称する。)となる場合の一例を示すものである。
【0152】
具体的には、例えば、
図13に示すように、「圧力センサー118A、118B、118C、118Dをそれぞれ有するインク供給経路100、200、300、400の全ての経路で1回検出閾値に到達するとともに圧力センサー118Dを有するインク供給経路400のインクジェットノズル31Dにおけるインクジェットノズル面30aの圧力値が-3kPa以下の場合」には、上記した判定基準に合致するので、誤吸引判定部34dは誤吸引が発生したと判定する。
【0153】
一方、例えば、
図14に示すように、「圧力センサー118A、118B、118C、118Dをそれぞれ有するインク供給経路100、200、300、400の全ての経路で1回検出閾値に到達しているが、インクジェットノズルにおけるインクジェットノズル面30aの圧力値が-3kPa以下のインク供給経路がない場合」には、上記した判定基準には合致しないので、誤吸引判定部34dは誤吸引が発生していないと判定する、換言すれば、誤吸引ではないと判定する。
【0154】
ステップS1306の判定処理において、「誤吸引が発生した」(Yes)と判定された場合には、動作中のシーケンスを即時にキャンセルする(ステップS1308)。
【0155】
このステップS1308の処理を終了すると、第3モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0156】
一方、ステップ1304の判定処理において、「検出閾値に到達していない」(No)と判定された場合には、第3モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0157】
また、ステップS1306の判定処理において、「誤吸引が発生していない」(No)と判定された場合には、第3モード処理ルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0158】
メインルーチンにおいては、第1モード処理、第2モード処理あるいは第3モード処理を終了すると、空吸引処理における誤吸引検知プログラムの処理ルーチンを終了する。
【0159】
なお、上記した空吸引処理における誤吸引検知プログラムの処理ルーチンを除くその他の種々の処理については、従来より公知の技術を適宜に用いればよいのでそれらの詳細な説明は省略する。
【0160】
(IV) 本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける空吸引処理中の誤吸引検出方法における作用効果の説明
上記において説明したように、本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタ10およびインクジェットプリンタ10における空吸引処理中の誤吸引検出方法によれば、インクジェットプリンタ10における動作状況に応じて、検出閾値や判定基準などの空吸引処理の際に誤吸引とする際の基準を変更するようにしている。
【0161】
従って、本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタ10およびインクジェットプリンタ10における空吸引処理中の誤吸引検出方法によれば、インクジェットプリンタにおける動作状況毎に、通常空吸引処理と微小開放空吸引処理とにおける誤吸引の誤検出発生率を低減することが可能となり、これにより空吸引処理の誤吸引を適切に検知することができるようになる。
【0162】
さらに、本発明の実施の形態の一例によるインクジェットプリンタ10およびインクジェットプリンタ10における空吸引処理中の誤吸引検出方法によれば、検出閾値や判定基準を変更することにより空吸引処理における誤吸引の検出感度がインクジェットプリンタ10の動作状況、即ち、インクジェットプリンタ10の動作シーケンスによって変更されるので、誤検出時のリスクを懸念して従来は実装できなかった動作シーケンスへ誤吸引検出を適用することができるようになる。
【0163】
また、こうしたことにより、異常な状態でインクジェットプリンタの動作が継続して、それによりデバイスが破損するなどのリスクを低減することができるようになる。
(V) その他の実施の形態および変形例の説明
上記した実施の形態は例示に過ぎないものであり、本発明は他の種々の形態で実施することができる。即ち、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。
【0164】
例えば、上記した実施の形態は、以下の(V-1)乃至(V-7)に示すように変形するようにしてもよい。
【0165】
(V-1) 上記した実施の形態においては、インク供給経路として4経路のインク供給経路(インク供給経路100、200、300、400)を備えたインクジェットプリンタ10について説明したが、インク供給経路の経路数はこれに限られるものではないことは勿論である。即ち、インクジェットプリンタにおけるインク供給経路(送液経路)の経路数は、単数の1経路でもよいし、2経路、3経路あるいは5経路以上の複数の経路数でもよい。
【0166】
(V-2) 上記した実施の形態においては、第1モードにおける判定基準として、「全てのインク供給経路のなかのいずれか2経路以上で少なくとも1回以上検出閾値に到達した場合」のみ誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しないという判定基準を用いたが、第1モードにおける判定基準はこれに限られるものではないことは勿論である。即ち、第1モードにおける判定基準として、例えば、「全てのインク供給経路のなかのいずれか2経路以上で少なくとも1回以上検出閾値に到達した場合」または「同一のインク供給経路で少なくとも2回以上検出閾値に到達した場合」に誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しない判定基準を用いてもよい。
【0167】
(V-3) 上記した実施の形態においては、第2モードにおける判定基準として、「全てのインク供給経路のなかのいずれか2経路以上で少なくとも1回以上検出閾値に到達した場合」かつ「同一のインク供給経路で少なくとも2回以上検出閾値に到達した場合」のみ誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しないという判定基準を用いたが、第2モードにおける判定基準はこれに限られるものではないことは勿論である。即ち、第2モードにおける判定基準として、例えば、「全てのインク供給経路で少なくとも1回以上検出閾値に到達した場合」または「インクジェットノズルにおけるインクジェットノズル面の圧力値が-3kPa以下のインク供給経路がある場合」に誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しない判定基準を用いてもよい。
【0168】
(V-4) 上記した実施の形態においては、第3モードにおける判定基準として、「全てのインク供給経路で少なくとも1回以上検出閾値に到達した場合」かつ「インクジェットノズルにおけるインクジェットノズル面の圧力値が-3kPa以下のインク供給経路がある場合」のみ誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しないという判定基準を用いたが、第3モードにおける判定基準はこれに限られるものではないことは勿論である。即ち、第3ードにおける判定基準として、例えば、「インクジェットノズルにおけるインクジェットノズル面の圧力値が-3kPa以下のインク供給経路がある2経路以上ある場合」に誤吸引が発生したと判定し、その以外の場合には誤吸引が発生したとは判定しない判定基準を用いてもよい。
【0169】
(V-5) 上記した実施の形態においては、第1モードと第2モードと第3モードとのそれぞれに適するように予め設定された検出閾値と判定基準とを記憶部34aに記憶しておき、空吸引処理中の誤吸引を検知するための誤吸引検知プログラムの実行に際しては、記憶部34aに記憶された予め設定された検出閾値と判定基準とを用いるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。即ち、検出閾値と判定基準とは、ユーザーが操作パネル40の操作子40aなどを用いて任意の値に設定することができるようにしておき、ユーザーが任意に設定した検出閾値と判定基準とを記憶部34aに記憶させ、空吸引処理中の誤吸引を検知するための誤吸引検知プログラムの実行に際しては、記憶部34aに記憶されたユーザーが設定した検出閾値と判定基準とを用いるようにしてもよい。
【0170】
(V-6) 上記した実施の形態においては、インクジェットプリンタ10の制御範囲から大きく外れた減圧が発生した状態(制御不能状態)として、「インクジェットノズル面の圧力値が-3kPa以下」とした場合について説明したが、制御不能状態とする圧力値は、これに限られるものではないことは勿論である。即ち、「インクジェットノズル面の圧力値」として示した「-3kPa以下」は単なる例示に過ぎないものであって、設計条件などに応じて「-3kPa未満」の圧力値や「-3kPa」を超えた圧力値を採用してもよい。
【0171】
(V-7) 上記した実施の形態ならびに上記した(V-1)乃至(V-6)に示す各種の他の実施の形態や変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明は、メディアに向けて印刷用のインクを吐出して当該メディア上に2次元の画像を印刷する、所謂、2次元プリンタたるインクジェットプリンタや、粉末材料などにバインダーや水などを吐出することにより当該粉末材料を硬化させて3次元造形物を造形する、所謂、3次元プリンタ(3次元造形装置)たるインクジェットプリンタに利用することができる。
【符号の説明】
【0173】
10 インクジェットプリンタ
12 基台部材
14 ベース部材
16L 側方部材
16R 側方部材
18 側方ユニット
20 中央壁
22 ガイドレール
24 タイミングベルト
26 キャリッジ
28 記録紙
30 インクジェットヘッド
30a インクジェットノズル面
31A、31B、31C、31D インクジェットノズル
32A、32B、32C、32D ダンパー装置
34 マイクロコンピューター
34a 記憶部
34b モード判定部
34c 検出閾値判定部(検出閾値判定手段)
34d 誤吸引判定部(誤吸引判定手段)
36A、36B、36C、36D インクカートリッジ
38 キャップユニット
40 操作パネル
40a 操作子
40b 表示装置
42 廃液タンク
100、200、300、400 インク供給経路
101A、101B、101C、101D 101 送液ポンプ
102 インク供給チューブ
102a 端部
102b 端部
111 ステッピングモーター
112 キャップ部材
114 吸引ポンプ(吸引手段)
116 キャップチューブ
116a 端部
116b 端部
117 廃液チューブ
117a 端部
117b 端部
118A、118B、118C、118D 圧力センサー(圧力検知手段)
140 インク吸引経路
150 廃液経路