(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103207
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ウインドシールド、ヘッドアップディスプレイ、移動体、自動車、及びウインドシールドの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20240725BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20240725BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20240725BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240725BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
G02B5/32
B32B7/023
C03C27/12 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007413
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】市川 信彦
【テーマコード(参考)】
2H199
2H249
3D344
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA15
2H199DA26
2H199DA42
2H199DA43
2H249CA01
2H249CA06
2H249CA07
2H249CA15
2H249CA22
3D344AA03
3D344AA21
3D344AB01
3D344AC24
3D344AC25
4F100AK01C
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA41B
4F100DD05
4F100DD05B
4F100GB33
4F100GB48
4F100JL11C
4F100JN01
4F100JN01A
4F100JN30
4F100JN30B
4F100YY00B
4G061AA02
4G061AA26
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB19
4G061CD18
(57)【要約】
【課題】ヘッドアップディスプレイにおいて投射装置を小型化する。
【解決手段】ウインドシールドは、投射装置から画像光を投射される。ウインドシールドは、透明板と、透明板に保持されたホログラム素子と、を含む。ホログラム素子は、画像光に対し、水平方向に湾曲した凹面鏡として機能する。凹面鏡の水平方向における光学設計上の曲率半径は、透明板の水平方向における曲率半径よりも小さい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
投射装置から画像光を投射されるウインドシールドであって、
透明板と、
前記透明板に保持されたホログラム素子と、を備え、
前記ホログラム素子は、前記画像光に対し、水平方向に湾曲した凹面鏡として機能し、
前記凹面鏡の水平方向における光学設計上の曲率半径は、前記透明板の水平方向における曲率半径よりも小さい、ウインドシールド。
【請求項2】
前記ウインドシールにおける前記画像光の正反射光は、アイボックスに入射しない、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項3】
前記ウインドシールドに組み込まれた前記ホログラム素子での回折効率は10%以上である、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項4】
前記ホログラム素子は、前記画像光を回折することによって、平面上に虚像を表示する、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項5】
前記ホログラム素子は、前記透明板の2%以上の領域に重ねられたホログラム記録層を含み、
前記ホログラム記録層は、前記画像光を回折する回折領域と、前記回折領域に隣接する非回折領域と、を含む、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項6】
前記ウインドシールドは、第1領域及び第2領域に区分けされ、前記第2領域は、前記透明板の縁部に沿って延びる領域であり、
前記透明板は、前記第1領域及び前記第2領域のうちの前記第2領域のみに位置する着色層を含み、
前記ホログラム素子は、前記第1領域の全域に重ねられたホログラム記録層を含み、
前記ホログラム記録層は、前記前記第1領域内に位置し前記画像光を回折する回折領域と、前記回折領域に隣接する非回折領域と、を含む、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項7】
前記透明板は、基板と、熱可塑性樹脂を含む接合層と、を含み、
前記接合層は、前記ホログラム素子を前記基板に接合し、
前記ホログラム素子は、前記画像光を回折するホログラム記録層と、前記ホログラム記録層及び前記接合層との間に位置する保護層と、を含み、
前記保護層は、前記接合層に含まれる可塑剤から前記ホログラム記録層を保護する、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項8】
10mmの間隔をあけて一直線上に並ぶ5つの位置での回折効率のうちの、2番目に大きい回折効率(%)と4番目に大きい回折効率(%)との差の、3番目に大きい回折効率(%)に対する割合は、13%以下である、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項9】
同一の方向から入射する光の前記ホログラム素子で回折する方向と前記ウインドシールドで正反射する方向との間の角度は60°以下である、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項10】
前記ホログラム素子は、前記画像光に対して鉛直方向に湾曲した凹面鏡として機能し、
前記凹面鏡の鉛直方向における光学設計上の曲率半径は、前記透明板の鉛直方向における曲率半径よりも小さい、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項11】
画像光を放出する投射装置と、
前記画像光を投射される請求項1~10のいずれか一項に記載のウインドシールドと、を備える、ヘッドアップディスプレイ。
【請求項12】
請求項11に記載のヘッドアップディスプレイを備える、移動体。
【請求項13】
請求項11に記載のヘッドアップディスプレイを備える、自動車。
【請求項14】
凹面鏡として機能するホログラム素子を作製する工程と、
湾曲した基板に前記ホログラム素子を接合する工程と、を備え、
前記接合する工程において、前記基板の湾曲の向きと前記凹面鏡の湾曲の向きとが揃えられる、ウインドスクリーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインドシールド、ヘッドアップディスプレイ、移動体、自動車、及びウインドシールドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウインドシールドを利用したヘッドアップディスプレイが知られている。ウインドシールドは、例えば、移動体を操作する使用者の前方に位置する。ウインドシールドを利用したヘッドアップディスプレイでは、投射装置から投射された画像光が、ウインドシールドで反射されて、使用者に向かう。使用者は、ウインドシールドよりも前方に、画像の虚像を観察する。使用者は、移動体の移動時に、前方を向いたまま虚像を観察できる。
【0003】
特許文献1に記載されたヘッドアップディスプレイでは、合わせガラスに含まれる中間膜が楔状となっている。この中間膜により、合わせガラスの厚みが変化する。ウインドシールドの同じ位置に入射して、ウインドシールドの一方の面で反射した光と、ウインドシールドの他方の面で反射した光は、同一の光路をたどって、ウインドシールドから使用者に向かう。これにより、二重像の発生を抑制できる。特許文献1のように、ウインドシールドの表面での反射を利用する場合、虚像を十分明るく表示できない。
【0004】
特許文献2では、誘電体多層膜をウインドシールドに貼り合わせている。特許文献2のヘッドアップディスプレイによれば、誘電体多層膜の設計により、画像光の反射率を調節できる。これにより、虚像を明るく表示できる。
【0005】
近年、ウインドスクリーンへの画像光が入射する領域は水平方向に広がる傾向にある。表示範囲が水平方向に広がると、道路等の背景に関連した情報を背景に対応した位置に表示できる。このような情報として、移動体の進路、施設や建物名称が例示される。しかしながら、特許文献1及び特許文献2のヘッドアップディスプレイでは、ウインドシールドでの正反射により、画像光を使用者に向けている。したがって、ウインドシールドに画像光を投射する投射装置は大型化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2019/189741A
【特許文献2】JP2022-23551A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、ヘッドアップディスプレイにおいて投射装置を小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施の形態によるウインドシールドは、
投射装置から画像光を投射されるウインドシールドであって、
透明板と、
前記透明板に保持されたホログラム素子と、を備え、
前記ホログラム素子は、前記画像光に対し、水平方向に湾曲した凹面鏡として機能し、
前記凹面鏡の水平方向における光学設計上の曲率半径は、前記透明板の水平方向における曲率半径よりも小さい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ヘッドアップディスプレイにおいて投射装置を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、一実施の形態を説明する図であって、移動体、自動車、ヘッドアップディスプレイ、及びウインドシールドの一具体例を示す側面図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1に示された移動体、自動車、ヘッドアップディスプレイ、及びウインドシールドを、使用している状態にて示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたヘッドアップディスプレイを示す縦断面図である。
【
図3A】
図3Aは、
図2に示されたヘッドアップディスプレイに含まれ得るウインドシールドの層構成の一例を示す縦断面図である。
【
図3B】
図3Bは、
図2に示されたヘッドアップディスプレイに含まれ得るウインドシールドの層構成の他の例を示す縦断面図である。
【
図3C】
図3Cは、
図2に示されたヘッドアップディスプレイに含まれ得るウインドシールドの層構成の更に他の例を示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、
図2に示されたヘッドアップディスプレイを示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、
図2に示されたヘッドアップディスプレイを示す横断面図である。
【
図7】
図7は、
図2に示されたヘッドアップディスプレイを示す縦断面図である。
【
図8】
図8は、
図5に示されたウインドシールドに含まれ得るホログラム素子の製造方法の一例を示す縦断面図である。
【
図9】
図9は、
図5に示されたウインドシールドに含まれ得るホログラム素子の製造方法の一例を示す横断面図である。
【
図10】
図10は、
図8に対応する図であって、ホログラム素子の製造方法の他の例を示す縦断面図である。
【
図11】
図11は、
図5に対応する図であって、ウインドシールドの一変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施の形態は、次の[1]~[19]に関する。
【0012】
[1] 投射装置から画像光を投射されるウインドシールドであって、
透明板と、
前記透明板に保持されたホログラム素子と、を備え、
前記ホログラム素子は、前記画像光に対し、水平方向に湾曲した凹面鏡として機能し、
前記凹面鏡の水平方向における光学設計上の曲率半径は、前記透明板の水平方向における曲率半径よりも小さい、ウインドシールド。
【0013】
[2] 前記ウインドシールにおける前記画像光の正反射光は、アイボックスに入射しない、[1]に記載のウインドシールド。
【0014】
[3] 前記ウインドシールドに組み込まれた前記ホログラム素子での回折効率は10%以上である、[1]又は[2]に記載のウインドシールド。
【0015】
[4] 前記ホログラム素子は、前記画像光を回折することによって、平面上に虚像を表示する、[1]~[3]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0016】
[5] 前記ホログラム素子は、前記透明板の2%以上の領域に重ねられたホログラム記録層を含み、
前記ホログラム記録層は、前記画像光を回折する回折領域と、前記回折領域に隣接する非回折領域と、を含む、[1]~[4]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0017】
[6] 前記ウインドシールドは、第1領域及び第2領域に区分けされ、前記第2領域は、前記透明板の縁部に沿って延びる領域であり、
前記透明板は、前記第1領域及び前記第2領域のうちの前記第2領域のみに位置する着色層を含み、
前記ホログラム素子は、前記第1領域の全域に重ねられたホログラム記録層を含み、
前記ホログラム記録層は、前記前記第1領域内に位置し前記画像光を回折する回折領域と、前記回折領域に隣接する非回折領域と、を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0018】
[7] 前記透明板は、基板と、熱可塑性樹脂を含む接合層と、を含み、
前記接合層は、前記ホログラム素子を前記基板に接合し、
前記ホログラム素子は、前記画像光を回折するホログラム記録層と、前記ホログラム記録層及び前記接合層との間に位置する保護層と、を含み、
前記保護層は、前記接合層に含まれる可塑剤から前記ホログラム記録層を保護する、[1]~[6]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0019】
[8] 10mmの間隔をあけて一直線上に並ぶ5つの位置での回折効率のうちの、2番目に大きい回折効率(%)と4番目に大きい回折効率(%)との差の、3番目に大きい回折効率(%)に対する割合は、13%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0020】
[9] 同一の方向から入射する光の前記ホログラム記録層で回折する方向と前記ウインドシールドで正反射する方向との間の角度は60°以下である、[1]~[8]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0021】
[10] 前記ホログラム素子は、前記画像光に対して鉛直方向に湾曲した凹面鏡として機能し、
前記凹面鏡の鉛直方向における光学設計上の曲率半径は、前記透明板の鉛直方向における曲率半径よりも小さい、[1]~[9]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0022】
[11] 前記透明板及び前記ホログラム記録層に含まれた隣り合う二つの層の屈折率差は、0.2以下である、[1]~[10]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0023】
[12] 前記透明板は、第1基板、接合層、及び第2基板を、この順で含み、
前記ホログラム素子は、前記第1基板及び前記第2基板の間に位置し、前記接合層によって前記第1基板及び前記第2基板に接合している、[1]~[11]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0024】
[13] 前記ホログラム素子は、前記透明板の一方の面に接合している、[1]~[11]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0025】
[14] 前記ホログラム素子は、複数の色の光を回折する単一のホログラム記録層を含む、[1]~[13]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0026】
[15] 前記ホログラム素子は、互いに異なる色の光を回折する複数のホログラム記録層を含む、[1]~[13]のいずれかに記載のウインドシールド。
【0027】
[16] 画像光を放出する投射装置と、
前記画像光を投射される[1]~[15]のいずれかに記載のウインドシールドと、を備える、ヘッドアップディスプレイ。
【0028】
[17] [16]に記載のヘッドアップディスプレイを備える、移動体。
【0029】
[18] [16]に記載のヘッドアップディスプレイを備える、自動車。
【0030】
[19] 凹面鏡として機能するホログラム素子を作製する工程と、
湾曲した基板に前記ホログラム素子を接合する工程と、を備え、
前記接合する工程において、前記基板の湾曲の向きと前記凹面鏡の湾曲の向きとが揃えられる、ウインドスクリーンの製造方法。
【0031】
以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。一部の図において示された構成等が、他の図において省略されていることもある。図面間で、縮尺および縦横の寸法比等が異なることもある。光路等を明瞭に示すため、断面図においてハッチングを省略することもある。
【0032】
本明細書において、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に限定されることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈する。
【0033】
本明細書において、「シート」、「フィルム」及び「板」等の用語は、呼称の違いのみに基づいて互いから区別されない。例えば「透明板」は、透明フィルム又は透明シートと呼ばれる部材等と呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
【0034】
方向の関係を図面間で明確にするため、いくつかの図面には、共通する符号を付した矢印により第1方向D1、第2方向D2、第3方向D3、法線方向NDを共通する方向として示している。矢印の先端側が各方向の第1側となる。矢印の後端側が各方向の第2側となる。図示された例において、第1方向D1及び第2方向D2は水平方向と平行であり、第3方向D3は鉛直方向と平行である。第2方向D2は、前後方向または移動体の進行方向である。第3方向D3は、第2方向D2に直交する方向であり、幅方向である。図面の紙面に垂直な方向に沿って紙面から手前に向かう矢印を、例えば
図1に示すように、円の中に点を設けた記号により示す。図面の紙面に垂直な方向に沿って紙面の奥に向かう矢印を、例えば
図4に示すように、円の中に×を設けた記号により示した。
【0035】
本明細書において、板状(シート状、フィルム状)の部材の法線方向とは、対象となる板状(シート状、フィルム状)の部材の板面への法線または垂線と平行な方向のことを指す。また、「板面(シート面、フィルム面)」とは、対象となる板状(シート状、フィルム状)の部材を全体的且つ大局的に見た場合において対象となる板状部材(シート状部材、フィルム状部材)と一致する面のことを指す。
【0036】
本明細書において、「抑制」とは、実現や発生等をおさえとどめることや、実現や発生等を妨げることを意味する。「抑制」とは、実現や発生等を完全に防止することだけでなく、実現や発生等の可能性を低減することや実現や発生等を起こりにくくすること等も意味する。
【0037】
本明細書において、あるパラメータに関して複数の上限値の候補及び複数の下限値の候補が挙げられている場合、そのパラメータの数値範囲は、任意の1つの上限値の候補と任意の1つの下限値の候補とを組み合わせることによって構成されてもよい。一例として、「パラメータBは、A1以上でもよく、A2以上でもよく、A3以上でもよい。パラメータBは、A4以下でもよく、A5以下でもよく、A6以下でもよい。」との記載について検討する。この例において、パラメータBの数値範囲は、A1以上A4以下でもよく、A1以上A5以下でもよく、A1以上A6以下でもよく、A2以上A4以下でもよく、A2以上A5以下でもよく、A2以上A6以下でもよく、A3以上A4以下でもよく、A3以上A5以下でもよく、A3以上A6以下でもよい。
【0038】
図1A~
図11は、一実施の形態を説明するための図である。
図1A、
図1B及び
図2に示すように、ヘッドアップディスプレイ20は、投射装置25及びウインドシールド40を含む。投射装置25は、画像光を放出する。ウインドシールド40は、画像光を投射される。ウインドシールド40は、透明板45及びホログラム素子60を含む。ウインドシールド40は、その背後を観察可能な程度の可視光透過性を有する。ウインドシールド40は、ホログラム素子60での回折により、画像光の光路を調節する。ウインドシールド40は、画像光を使用者5に向ける。ヘッドアップディスプレイ20において、使用者5は、ウインドシールド40の背後に、画像光によって形成される虚像90を観察できる。
【0039】
なお、「Xの背後」とは、ヘッドアップディスプレイ20の観察者である使用者5を基準としたXの後ろを意味する。すなわち、Xの背後となる領域等と使用者5との間にXが位置する。したがって、ヘッドアップディスプレイ20において、虚像90と使用者5との間にウインドシールド40が位置する。使用者5は、ヘッドアップディスプレイ20越しに、虚像90を観察する。
【0040】
ウインドシールド40は、使用者5に対面してもよい。ウインドシールド40は、使用者5に対し、風除けとして機能してもよい。ウインドシールド40は、移動体10に適用されてもよい。移動体10は、移動可能な装置である。移動体10は、使用者5が乗った状態で移動可能としてもよい。移動体10として、船、飛行機、ドローン、鉄道車両、図示された自動車12等が例示される。
図1A及び
図1Bに示すように、ウインドシールド40は、自動車12のフロントウインドウ15でもよい。
図1A及び
図1Bに示された例において、使用者5は、移動体10及び自動車12の搭乗者でもよいし、移動体10及び自動車12の操縦者又は運転者でもよい。
図1Bに示すように、使用者5は、移動体10及び自動車12の進行方向前方を向いたまま、ヘッドアップディスプレイ20によって表示される虚像90を、ウインドシールド40の先に観察できる。使用者5は、顔の向きや目線を大きく変更することなく、虚像90から情報を取得できる。
【0041】
本実施の形態では、ヘッドアップディスプレイ20において投射装置25を小型化できる。以下、図面に示された具体例を参照して、一実施の形態を説明する。
【0042】
投射装置25は、画像を形成する画像光を放出する。使用者5は、画像光を受光することによって画像を観察する。投射装置25は、特に限定されない。投射装置25は、画像を形成可能な種々の装置でもよい。
図1A及び
図1Bに示すように、投射装置25は、自動車12のダッシュボード内に配置されてもよい。投射装置25は、ダッシュボードによって隠蔽されてもよい。
【0043】
図2に示すように、投射装置25は、画像形成装置30及び投射光学系35を含んでもよい。画像形成装置30は、画像を形成する画像光を放出する。画像形成装置30は、特に限定されない。
【0044】
画像形成装置30は、複数の画素を含んでもよい。画像形成装置30は、画素毎に発光状態を制御することによって、所望の画像を形成してもよい。画像形成装置30として、透過型の液晶表示装置、反射型の液晶表示装置、デジタルミラーデバイスを含むレーザー表示装置、EL表示装置とも呼ばれるエレクトロルミネッセンス表示装置等が例示される。図示された例において、画像形成装置30は、光放出部31及びスクリーン32を含む。光放出部31は、レーザー発振器及びデジタルミラーデバイスの組合せでもよい。スクリーン32は、結像素子として機能してもよい。スクリーン32は、透過型スクリーンでもよいし、反射型スクリーンでもよい。
【0045】
図2に示された例において、スクリーン32は、散乱板として機能する。スクリーン32は、光放出部31から放出された光から、画像を観察可能な画像光を生成する。スクリーン32での散乱によって、画像光がアイボックス22内の各位置に向けられる。スクリーン32での散乱によって、画像光がアイボックス22内の各位置で結像し、アイボックス22内の各位置で画像を観察できる。アイボックス22は、ヘッドアップディスプレイ20の観察者である使用者5の目の位置として想定された領域である。
【0046】
投射光学系35は、画像形成装置30からウインドシールド40へ画像光を誘導する。投射光学系35は、ミラー、レンズ、プリズム、回折光学素子、および、これらの組合せを含んでもよい。
図2に示すように、投射光学系35は画像光を反射する反射部材36を含んでもよい。
図2に示された例において、反射部材36は、鉛直方向において凹面鏡として機能する凹面反射鏡37である。凹面反射鏡37は、光放出部31からの画像光の発散の程度を弱める。
図2及び
図5に示すように、凹面反射鏡37は、鉛直方向に沿った面への投影において(図示された例において、第1方向D1に直交する面への投影において)、画像光を発散光から収れん光に整形してもよい。
【0047】
ウインドシールド40は板状でもよい。ウインドシールド40は第1面41及び第2面42を含んでもよい。第1面41及び第2面42は、板状のウインドシールド40の主面でもよい。ウインドシールド40は湾曲してもよい。ウインドシールド40は、水平方向に湾曲してもよい。ウインドシールド40は、鉛直方向に湾曲してもよい。板状のウインドシールド40は法線方向NDを有する。第1面41及び第2面42は法線方向NDに対面してもよい。第1面41及び第2面42は、法線方向NDに直交する方向に広がっている。
【0048】
水平方向に湾曲するとは、水平方向に沿った断面において対象となる部材の断面が湾曲していることを意味する。
図6は、水平方向に沿ったウインドシールド40の断面の一例である。
図6に示された例において、ウインドシールド40、透明板45、及びホログラム素子60は、水平方向に湾曲している。鉛直方向に湾曲するとは、鉛直方向に沿った断面において対象となる部材の断面が湾曲していることを意味する。
図5は、鉛直方向に沿ったウインドシールド40の断面の一例である。
図5に示された例において、ウインドシールド40、透明板45、及びホログラム素子60は、鉛直方向に湾曲している。
【0049】
ヘッドアップディスプレイ20、ヘッドアップディスプレイ20に含まれる構成要素や部分等に対して用いる「鉛直方向」や「水平方向」は、ヘッドアップディスプレイ20等を移動体10等の適用対象に組み込んだ状態を基準としている。
【0050】
ウインドシールド40は、透明板45及びホログラム素子60を含む。透明板45は、透明な板状の部材である。透明板45は第1面46及び第2面47を含んでもよい。第1面46及び第2面47は、板状の透明板45の主面でもよい。透明板45は湾曲してもよい。透明板45は水平方向に湾曲してもよい。透明板45は鉛直方向に湾曲してもよい。第1面46及び第2面47は、透明板45の法線方向に対面してもよい。第1面46及び第2面47は、法線方向NDに直交する方向に広がっている。透明板45の法線方向は、ウインドシールド40の法線方向と一致してもよい。透明板45の第1面46は、少なくとも部分的にウインドシールド40の第1面41を構成してもよい。透明板45の第2面47は、少なくとも部分的にウインドシールド40の第2面42を構成してもよい。
【0051】
透明とは、全光線透過率が50%以上であることを意味し、60%以上でもよく、70%以上でもよく、80%以上でもよい。透明板45の全光線透過率の上限は特にない。透明板45の全光線透過率は100%以下でもよい。全光線透過率は、JIS K7361:1997に準拠して測定される。
【0052】
図3A~
図3Cは、ウインドシールド40の層構成のいくつかの具体例を模式的に示している。
図3Aに示すように、ホログラム素子60は、透明板45の間に位置してもよい。
図3B及び
図3Cに示すように、ホログラム素子60は、透明板45の一方の面46に接合してもよい。
図3A及び
図3Bに示すように、透明板45は積層体でもよい。
図3Aに示すように、透明板45は、第1面46から第2面47に向けた順で、第1基板51、接合層53、及び第2基板52を含んでもよい。
図3Bに示すように、透明板45は、第1面46から第2面47に向けた順で、第1基板51、接合層53、第2基板52、及び接合層53Aを含んでもよい。
図3Cに示すように、透明板45は、第1面46から第2面47に向けた順で、基板50及び接合層53Aを含んでもよい。
図3A~
図3Cに示すように、ウインドシールド40及び透明板45は、法線方向NDに沿った一定の厚みを有してもよい。
【0053】
図3Aに示された例において、第1基板51が第1面46を構成し、第2基板52が第2面47を構成している。第1基板51及び第2基板52は、法線方向NDに重ねられている。接合層53は、法線方向NDにおいて第1基板51及び第2基板52の間に位置している。接合層53は、第1基板51及び第2基板52に接触している。接合層53は、第1基板51及び第2基板52に接合している。結果として、接合層53は、第1基板51及び第2基板52を互いに接合している。
【0054】
図3Aに示された例において、ホログラム素子60は、法線方向NDにおいて第1基板51及び第2基板52の間に位置している。ホログラム素子60は、少なくとも部分的に接合層53に接触している。図示された例において、ホログラム素子60は、法線方向NDにおいて第1基板51及び第2基板52の両方から離れている。ホログラム素子60と第1基板51との間に、接合層53が位置している。ホログラム素子60と第2基板52との間に、接合層53が位置している。ホログラム素子60は、その全ての外表面において接合層53と接触している。
【0055】
図3Bに示された例において、透明板45は、第1基板51、接合層53及び第2基板52に加えて、ホログラム素子60を第1基板51に接合するための接合層53Aを含む。
図3Cに示された例において、透明板45は、基板50及び接合層53Aを含む。接合層53Aは、基板50又は第1基板51と、ホログラム素子60と、に接触している。接合層53Aは、ホログラム素子60を基板50又は第1基板51に接合している。基板50は、
図3A及び
図3Bに示された透明板45の第1基板51及び第2基板52の一方と同一に構成されてもよい。接合層53Aは、
図3A及び
図3Bに示された接合層53と同一に構成されてもよい。
【0056】
基板50、第1基板51および第2基板52は、透明な板である。基板50、第1基板51及び第2基板52は、ホログラム素子60を支持する基板として機能する。基板50、第1基板51及び第2基板52の材料として、ソーダライムガラスや青板ガラス等のガラスを用いてもよい。
図3A及び
図3Bに示された例において、透明板45は合わせガラスでもよい。基板50、第1基板51及び第2基板52の材料として、アクリル樹脂やポリカーボネート等の樹脂を用いてもよい。基板50、第1基板51及び第2基板52の法線方向NDに沿った厚みを、1mm以上5mm以下としてもよい。基板50、第1基板51及び第2基板52は、同一の材料で同一に構成されてもよいし、異なる材料で構成されてもよいし、異なる構成を有してもよい。
【0057】
基板50、第1基板51及び第2基板52は、複数の層を含んでもよい。基板50、第1基板51及び第2基板52は、反射防止層を含んでもよい。反射防止層が、ウインドシールド40の最表面である第1面41及び第1面46を構成してもよい。反射防止層が、ウインドシールド40の最表面である第2面42及び第2面47を構成してもよい。反射防止層を設けることにより、二重像を目立たなくできる。
【0058】
正反射光によるゴースト像91や、後述のノイズ像96を目立たなくする観点から、反射防止層によって構成されるウインドシールド40の表面での反射率を、1%以下としてもよく、0.5%以下としてもよい。反射率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」、JISK0115準拠品)を用いて、測定波長400nm以上700nm以下の範囲内で1nm毎に測定したときの、正反射率の最大値として特定される。反射率を測定する際の入射角は、ホログラム素子60での回折効率が最大値をとるようになるウインドシールド40への入射角とする。ただし、ホログラム素子60での回折効率が最大値をとるようになるウインドシールド40への入射角が5°未満の場合、反射率の測定が困難となるので、反射率を測定する際の入射角は5°とする。入射角は、入射面への法線方向に対して入射光の進行方向がなす角度(°)であり、90°未満の値となる。ウインドシールド40の反射率は、ウインドシールド40の入射面とは反対側の表面に黒色シートを貼り合わせた状態で、測定する。黒色シートは、分光測色計(コニカミノルタ製「CM-700d」)を用いて特定されたL*a*b*表色系における明度L*の値が30であるシートを用いる。
【0059】
基板50、第1基板51及び第2基板52は、図示された例に限られず、特定の機能を発揮することを期待されたその他の機能層を含んでもよい。1つの機能層が2つ以上の機能を発揮してもよい。第1基板51および第2基板52に付与され得る機能として、耐擦傷性を有したハードコート(HC)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能等が例示される。
【0060】
接合層53は、第1基板51及び第2基板52を接合する。接合層53Aは、基板50,51及びホログラム素子60を接合する。接合層53,53Aは透明な層である。接合層53,53Aとして、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いてもよい。一例として、接合層53,53Aの材料は熱可塑性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂を含む接合層53,53Aは、接合対象間で加熱および加圧されることによって、接合対象間に接合する。接合層53,53Aを構成する熱可塑性樹脂は、ポリビニルブチラール(PVB)でもよい。接合層53,53Aの法線方向NDへの厚さは、20μm以上1000μm以下でもよい。接合層53,53Aは、種々の機能を付与されてもよい。種々の機能としては、帯電防止機能、紫外線吸収機能等が例示される。
【0061】
図4は、
図1A及び
図1Bに示されたウインドシールド40を、移動体10から取り出して示す平面図である。
図4のウインドシールド40は、
図3Aに示された層構成を有している。ウインドシールド40は、第1領域40Z1及び第2領域40Z2を含んでもよい。
図4及び
図3Aに示すように、ウインドシールド40は、その板面に沿って、第1領域40Z1及び第2領域40Z2に区分けされてもよい。第2領域40Z2は、透明板45の縁部に沿って延びてもよい。第2領域40Z2は、透明板45の周縁に沿って延びてもよい。第2領域40Z2は、周状の領域でもよい。透明板45は、第2領域40Z2に位置する着色層54を含んでもよい。着色層54は、第1領域40Z1及び第2領域40Z2のうちの第2領域40Z2のみに位置している。着色層54は、黒色等の暗色を有してもよい。着色層54は、ウインドシールド40を移動体10及び自動車12に固定するためのシーラーを隠蔽してもよい。着色層54上に設けられたシーラーによって、ウインドシールド40が移動体10及び自動車12に固定されてもよい。着色層54によって隠蔽されるシーラーは、接着材として機能してもよい。着色層54は、黒色のセラミックでもよい。着色層54は塗膜でもよい。
【0062】
ホログラム素子60は、特定の入射方向から入射する特定波長の光を、高い回折効率で回折して、特定の方向に向ける。ホログラム素子60は、ブラッグ条件を満たす入射光を高い回折効率で回折して、特定の方向に向ける。ホログラム素子60は、投射装置25からの画像光を、高効率で回折する。投射装置25は、画像光がホログラム素子60のブラッグ条件を満たすように、ウインドシールド40に対して位置決めされる。すなわち、画像形成装置30からウインドシールド40の各位置に入射する光は、ホログラム素子60の当該位置でのブラッグ条件を満たす。
【0063】
図3A~
図4に示すように、ホログラム素子60はシート状でもよい。ウインドシールド40に透明性を付与するため、ホログラム素子60は、ブラッグ条件を満たさない入射角の光に対して透過性を有してもよい。ブラッグ条件を満たさない入射角で測定されたウインドシールド40の全光線透過率は50%以上でもよい。
【0064】
回折機能を実現するためのホログラム素子60の構成は、特に限定されない。ホログラム素子60は、回折機能を実現するための干渉縞を含んでもよい。干渉縞に関する情報は、種々の形態として、ホログラム素子60に記録され得る。ホログラム素子60は、位相型のホログラムであってもよいし、振幅型のホログラムであってもよい。ホログラム素子60は、表面レリーフ型ホログラムであってもよい。ホログラム素子60は、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)としての表面レリーフ型ホログラムであってもよい。ホログラム素子60は、大面積化が容易である点において、体積ホログラムでもよい。ホログラム素子60は、波長選択性や角度選択性の鋭い反射型体積ホログラムでもよい。
【0065】
図4に示すように、ホログラム素子60は、回折領域60Z1及び非回折領域60Z2を含んでもよい。回折領域60Z1は、投射された画像光を回折する。回折領域60Z1は、回折機能を発現するための干渉縞を記録されていてもよい。回折領域60Z1は、投射された画像光により、虚像90の表示に寄与する部分である。非回折領域60Z2は、虚像90の表示に寄与しない部分である。非回折領域60Z2は、回折機能を発現するための干渉縞を記録されていなくてもよい。非回折領域60Z2は、回折領域60Z1よりも低い回折機能を発現するための干渉縞を記録されていてもよい。投射装置25からの画像光の有効利用の観点から、画像光は、回折領域60Z1と対面するウインドシールド40の領域のみに入射してもよい。
図2に示すように、回折領域60Z1は、アイボックス22と虚像90との間に位置する。虚像90は、アイボックス22から観察した回折領域60Z1の延長上に位置する。回折領域60Z1は、アイボックス22と第2方向D2に対面してもよい。
【0066】
ホログラム素子60が回折領域60Z1及び非回折領域60Z2を含むことにより、ホログラム素子60を大型化することができる。ホログラム素子60は、透明板45の面積の2%以上の領域に重ねられてもよいし、透明板45の面積の5%以上の領域に重ねられてもよいし、透明板45の面積の8%以上の領域に重ねられてもよい。ホログラム素子60は、透明板45の面積の100%以下の領域に重ねられてもよい。透明板45の面積に対してホログラム素子60の面積を大きく確保することにより、ホログラム素子60の周縁を目立たなくできる。使用者5は、ウインドシールド40の背後を、
図1A及び
図1Bに示された例においてウインドシールド40の移動方向前方を、明瞭に観察できる。
【0067】
図4に示すように、ホログラム素子60は、ウインドシールド40の第1領域40Z1の全域に広がってもよい。ウインドシールド40の第1領域40Z1は、着色層54に覆われていない透明な領域でもよい。回折領域60Z1は、第1領域40Z1の内部に位置してもよい。この例において、ホログラム素子60の周縁は、ウインドシールド40の第2領域40Z2内に位置してもよい。ホログラム素子60の周縁が着色層54と重なることにより、ホログラム素子60の周縁を目立たなくできる。使用者5は、ウインドシールド40の背後を、
図1A及び
図1Bに示された例においてウインドシールド40の移動方向前方を、明瞭に観察できる。
【0068】
図5及び
図6に示すように、ホログラム素子60は、反射型のホログラムでもよい。ホログラム素子60は、投射装置25からの画像光に対し、鏡として機能してもよい。ホログラム素子60は、アイボックス22に向けて画像光が進むように、画像光を回折する。
図2に示すように、スクリーン32を含んだ画像形成装置30からの画像光が散乱光であることに起因して、ホログラム素子60は、アイボックス22内の各位置に向けて画像光を回折してもよい。これにより、アイボックス22内の各位置にて、画像光の虚像90を観察できる。
図2では、実線の光に対して散乱した光を点線及び二点鎖線にて示している。
図2に示すように、実線が収束するアイボックス22内の中心位置C22と、点線が収束するアイボックス22内の位置と、二点鎖線が収束するアイボックス22内の位置とにおいて、概ね同一の虚像90が概ね同一位置に観察され得る。
【0069】
上述したように、アイボックス22は、ヘッドアップディスプレイ20の観察者である使用者5の目の位置として想定された領域である。使用者5の体型や使用者5が着座する座席の可動範囲等を考慮して、アイボックス22の大きさや位置が決定される。目がアイボックス22内に位置する間、使用者5は概ね同一の虚像90を概ね同一位置に観察できる。投射装置25からの画像光を有効に活用して画像を明るく表示する観点から、ウインドシールド40の回折領域60Z1からの回折光は、アイボックス22のみに向かうことが好ましい。
【0070】
その一方で、
図5に示すように、ウインドシールド40における正反射光L5Xは、アイボックス22に入射しないようにしてもよい。ウインドシールド40における正反射光L5Xは、アイボックス22から逸れた方向に進んでもよい。ウインドシールド40の第1面41及び第2面42や、ウインドシールド40に含まれる隣接する二つの層の界面で、画像光は正反射し得る。
図2に示すように、ウインドシールド40で正反射した正反射光L2Xは、ゴースト像91を表示する。正反射光L2Xの出射方向から、ゴースト像91が観察される。虚像90とは別途にゴースト像91が観察されると、すなわち二重像の問題が生じると、虚像90を明瞭に観察できない。また、虚像90による情報表示に支障をきたす。ウインドシールド40における正反射光L2X,L5Xがアイボックス22に入射しないことにより、二重像の問題を抑制できる。
【0071】
二重像を目立たなくする観点から、透明板45及びホログラム素子60に含まれた隣り合う二つの層の屈折率差に上限を設けてもよい。透明板45及びホログラム素子60に含まれた隣り合う二つの層の屈折率差は、0.2以下でもよく、0.15以下でもよく、0.1以下でもよい。透明板45及びホログラム素子60に含まれた隣り合う二つの層の屈折率差の下限は特に設定されない。透明板45及びホログラム素子60に含まれた隣り合う二つの層の屈折率差は0以上でもよい。
【0072】
図6に示すように、ホログラム素子60は、画像光に対し、水平方向に湾曲した凹面鏡65として機能してもよい。
図6には、ホログラム素子60が機能を摸倣する仮想の凹面鏡65が、二点鎖線で模式的に示されている。ホログラム素子60が同一の反射機能を有する凹面鏡65は、水平方向に沿った
図6の断面において、湾曲している。この凹面鏡65は、現物ではないので物理的な曲率半径は有さないが、水平方向における光学設計上の曲率半径を有する。ホログラム素子60が同一の反射機能を有する凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、透明板45の水平方向における曲率半径R40Hよりも小さい。透明板45は水平方向に湾曲していてもよい。正反射機能を有する平坦な反射面を透明板45に沿って湾曲することによって得られる湾曲した反射面の曲率半径は、透明板45の水平方向における曲率半径R40Hと一致する。したがって、ホログラム素子60は、積極的に凹面鏡65としての機能を付与されている。このような構成によれば、後述するように、投射装置25を小型化できる。
【0073】
なお、透明板45は、水平方向に湾曲していなくてもよい。湾曲していない透明板45の水平方向における曲率半径R45Rは、無限大となる。
【0074】
ところで、ホログラム素子60での回折により、太陽や外灯等の外部光源95の虚像が、ノイズ像96として、観察され得る。ノイズ像96の出現は次の理由と考えられる。
図7に示すように、外部光源95からのノイズ光L72は、画像光L71とは異なり、第2面42からウインドシールド40に入射する。ノイズ光L72は、第1面41に到達して第1面41で反射する。その後、ノイズ光L72は、ホログラム素子60に入射する。ノイズ光L72の光路がホログラム素子60のブラッグ回折条件を満たす場合、ノイズ光L72は、ホログラム素子60にて高効率で回折されて、使用者5に向かう。使用者5は、ウインドシールド40の背後にノイズ像96を観察する。
【0075】
ノイズ光L72は、画像光L71の入射角θと同一の入射角で、ホログラム素子60のブラッグ条件を満たす。ノイズ光L72は、画像光L71と同一の回折角θ2にて、回折される。
図7に示すように、入射角θ1及び回折角θ2との差が大きいと、ノイズ像96は、外部光源95が実際に観察される方向に大きく傾斜した方向に観察される。このようなノイズ像96の出現は、ヘッドアップディスプレイ20の表示品質を低下させ、且つホログラム素子60の背後を観察しにくくする。
【0076】
ノイズ像96を目立たなくさせる観点から、同一の方向から入射する光のホログラム素子60で回折する方向とウインドシールド40で正反する方向との間の角度に、上限を設定してもよい。同一の方向から入射する光のホログラム素子60で回折する方向とウインドシールド40での正反射する方向との間の角度は、60°以下でもよく、50°以下でもよく、40°以下でもよい。
【0077】
図2、
図5及び
図7に示すように、ウインドシールド40で正反射する正反射方向は、ウインドシールド40での正反射光L2X、L5X、L7Xがウインドシールド40から出射する方向である。正反射方向とウインドシールド40の法線方向NDとの間の正反射角θ1は、入射角θ1と同一となる。ホログラム素子60で回折する回折方向は、ウインドシールド40に入射した画像光が、ホログラム素子60で一次回折して、ウインドシールド40から出射する方向である。すなわち、回折方向は、一次回折光の出射方向である。回折方向とウインドシールド40の法線方向NDとの間の角度は、回折角θ2となる。正反射角θ1及び回折角θ2は、0°以上90°未満となる。同一の方向から入射する光のホログラム素子60で回折する方向とウインドシールド40で正反射する方向との間の角度は、正反射角θ1及び回折角θ2の角度差と一致する。
【0078】
同一の方向から入射する光のホログラム素子60で回折する方向とウインドシールド40で正反射する方向との間の角度、入射角θ1、正反射角θ1、及び回折角θ2は、ブラッグ条件を満たす入射光により特定される。特に説明がない場合、これらの角度は、ホログラム素子60における画像光の回折を意図された回折領域60Z1の重心となる位置に、当該位置でのブラッグ条件を満たす入射角で入射する光によって、特定される。
【0079】
図3A~
図3Cに示すように、ホログラム素子60は、支持フィルム61及びホログラム記録層62を含んでもよい。ホログラム記録層62は回折機能を付与される層である。支持フィルム61は、ホログラム記録層62を支持する基材として機能する。支持フィルム61は、ホログラム記録層62を保護する保護層としても機能し得る。支持フィルム61は透明なフィルムである。支持フィルム61の材料として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等が例示される。支持フィルム61の法線方向NDに沿った厚みを10μm以上100μm以下としてもよい。
【0080】
図3A~
図3Cに示された例において、ホログラム素子60は、保護層64を更に含んでいる。ホログラム記録層62は、法線方向NDにおいて、保護層64及び支持フィルム61の間に位置する。保護層64は、法線方向NDにおいて、ホログラム記録層62及びホログラム素子60の接合層53,53Aの間に位置する。接合層53は、ポリビニルブチラール(PVB)等の熱可塑性樹脂を含む。接合層53は、例えば可塑剤等の低分子量成分を含み、この低分量成分は、ホログラム記録層62に浸透し得る。低分子量成分が浸透したホログラム記録層62は、膨張することによって干渉縞のピッチを変化させる。干渉縞のピッチが変化したホログラム記録層62は、予定された回折特性を発揮できない。保護層64は、接合層53に含まれる可塑剤等の低分子量成分に対してバリア性を有する層である。保護層64は、接合層53に含まれる可塑剤等の低分子量成分のホログラム記録層62への浸透を抑制する。
【0081】
バリア層は、反応性官能基を含む側鎖を有するビニルアルコール系重合体に由来する構造と、反応性官能基同士が架橋剤を介して結合して形成された架橋構造と、を有する硬化膜でもよい。バリア層は、反応性官能基を含む側鎖を有するビニルアルコール系重合体と、前記架橋剤と、の硬化物を含んでもよい。このような硬化膜により、例えば、低分子量成分のホログラム記録層62への侵入を良好に抑制でき、加温または経時によるホログラム層の変色を抑制できる。ビニルアルコール系重合体は、反応性官能基を含む側鎖として、ジアセトン基およびアセトアセチルオキシ基から選択される少なくとも1種を有してもよい。架橋剤は、ヒドラジン化合物、アミン化合物、アルデヒド基含有化合物、メチロール基含有化合物および多価金属化合物から選択される少なくとも1種でもよい。
【0082】
また、
図3B及び
図3Cに示された例において、ホログラム素子60は、表面層66を更に含んでいる。表面層66は、種々の機能を有してもよい。表面層66に付与され得る機能として、耐擦傷性を有したハードコート(HC)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能等が例示される。
【0083】
ホログラム記録層62は、感光性材料層63を露光することによって、作製され得る。ホログラム記録層62の原材料となる感光性材料層63として、銀塩感材、重クロム酸ゼラチン、架橋性ポリマー、フォトポリマー等の層が例示される。感光性材料層63及び得られるホログラム記録層62の法線方向NDに沿った厚みを、1μm以上100μm以下としてもよく、5μm以上40μm以下としてもよい。
【0084】
図8及び
図9は、感光性材料層63の露光方法の一例を示している。単一の光源から放出されたコヒーレント光を、参照光LAおよび物体光LBに分割する。物体光LB及び参照光LAは、感光性材料層63の異なる面に照射される。物体光LB及び参照光LAが、干渉することによって、感光性材料層63上に干渉パターンが生成される。干渉パターンが感光性材料層63に干渉縞として記録される。架橋性ポリマーを用いた感光性材料層63では、屈折率変化のパターンとして干渉縞が記録される。干渉縞を記録した感光性材料層63を、全面露光によって不感化することによって、回折領域60Z1におけるホログラム記録層62が得られ得る。なお、ホログラム素子60の非回折領域60Z2に含まれる部分は、その全域を全面露光により不感化されることによって、得られ得る。
【0085】
作製されたホログラム記録層62は、参照光LAと同一の方向から入射する照明光LC(
図5参照)を高回折効率で回折する。すなわち、参照光LAと同一の方向から入射する照明光LCが、ホログラム記録層62のブラッグ条件を満たし得る。参照光LAの光路を、画像光の光路と一致又は対応させておくことによって、ホログラム記録層62に所望の角度依存性を付与できる。作製されたホログラム記録層62で回折された再生光LDは、感光性材料層63を透過した物体光LBの光路に沿って進む。物体光LBの光路を、ウインドシールド40からアイボックス22に進む光路と一致又は対応させておくことによって、ホログラム記録層62に所望の角度依存性を付与できる。
【0086】
図8及び
図9に示された例において、参照光LA及び物体光LBの二光束が感光性材料層63に照射されている。この例に代えて、
図10に示すように、参照光LAの一光束のみを感光性材料層63に向けて照射し、物体光LBとして、参照光LAの反射光を用いてもよい。
図10に示された露光方法において、感光性材料層63に反射鏡70が重ねられている。参照光LAは、感光性材料層63を透過した後、感光性材料層63の背後の反射鏡70で反射する。反射鏡70での反射光は、物体光LBとして、参照光LAとは反対側から感光性材料層63に入射する。この露光方法により作製されたホログラム素子60は、参照光LAの光路に沿って入射する光に対し、反射鏡70と同様の反射特性を発揮する。したがって、反射鏡70は、水平方向に沿って湾曲した凹面鏡としてもよい。
【0087】
上述したように、二重像の原因となるゴースト像91を抑制する観点から、入射角θ1は、回折角θ2と異なっている。正反射光L2X,L5X,L7Xは、アイボックス22からずれた位置に進んでもよい。このような回折特性を付与するため、反射鏡70の反射面は、感光性材料層63に対して傾斜している。これにより、参照光LAの感光性材料層63への入射角と、物体光LBの感光性材料層63への入射角は相違する。
【0088】
作製されたホログラム記録層62は、参照光LAおよび物体光LBと同一の波長の光を高効率で回折する。すなわち、参照光LA及び物体光LBと同一の波長の光が、ホログラム記録層62のブラッグ条件を満たし得る。参照光LA及び物体光LBの波長を、画像光の中心波長に一致又は対応させておくことによって、ホログラム記録層62に所望の波長依存性を付与できる。画像光が青色光である場合、430nm以上490nm以下の波長のレーザー光を感光性材料層63の露光に用いてもよい。画像光が緑色光である場合、490nm以上550nm以下の波長のレーザー光を感光性材料層63の露光に用いてもよい。画像光が赤色光である場合、600nm以上660nm以下の波長のレーザー光を感光性材料層63の露光に用いてもよい。
【0089】
なお、
図8及び
図9に示された例において、感光性材料層63は、湾曲しておらず、平坦に維持されている。湾曲した透明板45に積層されるホログラム素子60の作製においては、作製すべきホログラム素子60と同様に感光性材料層63を湾曲した状態で、露光してもよい。あるいは、ホログラム記録層62が湾曲して用いられることを考慮して照明光LCの光路を補正し、補正された照明光LCの光路に基づいて参照光LAの光路を決定してもよい。ホログラム記録層62が湾曲して用いられることを考慮し、再生光LDの光路を補正して、補正された再生光LDの光路に基づいて物体光LBの光路を決定してもよい。光路の補正に、非球面レンズ等の光学素子を用いてもよい。
【0090】
以上により、露光された感光性材料層63からホログラム記録層62が得られる。支持フィルム61上にて感光性材料層63を露光することにより、支持フィルム61及びホログラム記録層62を含むホログラム素子60が得られる。
【0091】
また、作製されたホログラム素子60を用いて、ウインドシールド40を作製できる。ウインドシールドの製造方法は、凹面鏡65として機能するホログラム素子60を作製する工程と、湾曲した透明な基板50,51,52にホログラム素子60を接合する工程と、を含む。接合する工程において、透明板45の湾曲の向きと、ホログラム素子60が機能する凹面鏡65の湾曲の向きとが揃えられる。すなわち、すなわち、接合する工程において、透明板45の湾曲の内側と凹面鏡65の湾曲の内側とが同じ側を向き、透明板45の湾曲の外側と凹面鏡65の湾曲の外側とが同じ側を向くよう、透明板45と当該凹面鏡65として機能するホログラム素子60とが重ねられる。湾曲の内側とは、湾曲の曲率半径の中心が位置する側である。このように製造されたウインドシールド40において、ホログラム素子60は、画像光に対し、水平方向に湾曲した凹面鏡65として機能する。そして、凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、透明板45の水平方向における曲率半径R45Hよりも小さくなる。
【0092】
ホログラム素子60は、複数のホログラム記録層62を含んでもよい。複数のホログラム記録層62は、互いに異なる波長の光を高効率で回折してもよい。すなわち、ホログラム素子60は、互いに異なる色の光を高効率で回折する複数のホログラム記録層を含んでもよい。例えば、投射装置25からの画像光は、青色の光、緑色の光、および赤色の光を含み得る。この例において、ホログラム素子60は、青色の光を高効率で回折するホログラム記録層62、緑色の光を高効率で回折するホログラム記録層62、及び赤色の光を高効率で回折するホログラム記録層62を含んでもよい。
【0093】
ホログラム素子60は、互いに異なる複数の色の光を高効率で回折する単一のホログラム記録層62を含んでもよい。ホログラム記録層62が体積ホログラムである場合には、多重記録によって、単一のホログラム記録層62が複数の波長域の光を高効率で回折してもよい。
【0094】
ウインドシールド40は、着色層54が設けられていない第1領域40Z1において、その背後を観察可能な程度の可視光透過性を有している。ウインドシールド40は、ホログラム素子60の回折領域60Z1と重なる領域において、その背後を観察可能な程度の可視光透過性を有している。回折領域60Z1は、その背後に虚像90が観察される領域である。背後を観察可能な程度の可視光透過性は、50%以上の全光線透過率でもよく、60%以上の全光線透過率でもよく、70%以上の全光線透過率でもよく、80%以上の全光線透過率でもよい。背後を観察可能な程度の可視光透過性の上限は特に設定されない。背後を観察可能な程度の可視光透過性は、100%以下の全光線透過率でもよい。この全光線透過率の測定時、アイボックス22の中心C22とウインドシールド40の測定箇所とを結ぶ方向に進んで当該測定箇所に入射する測定光を用いる。
【0095】
虚像90を明るく観察する観点から、ウインドシールド40に組み込まれたホログラム素子60での回折効率、すなわち、ウインドシールド40について測定された回折効率に、下限を設定してもよい。ウインドシールド40に組み込まれたホログラム素子60での回折効率は、10%以上でもよく、15%以上でもよく、20%以上でもよい。
【0096】
ウインドシールド40に組み込まれたホログラム素子60での回折効率の上限は特に設定されない。ウインドシールド40の回折効率が高くなり過ぎると、ホログラム素子60の厚みが厚くなり透過性が劣化する、高効率が得られる照明光の入射角度範囲が狭くなる等の不具合が生じ得る。そこで、ウインドシールド40に組み込まれたホログラム素子60での回折効率は、50%以下でもよく、45%以下でもよく、40%以下でもよい。
【0097】
ウインドシールド40の回折効率は、JISZ8791:2011に準拠したいずれか一つの適切な測定方法にて測定される。ウインドシールド40の回折効率(%)は、ウインドシールド40への入射光の放射束(ワット;W)に対する一次回折光の放射束(ワット)の割合(%)である。特に限定されていない場合、回折効率を測定する際の入射光は、ウインドシールド40の測定位置へ入射する画像光の光路うちの、最も画像光の強度が高くなる光路に沿って、ウインドシールド40の当該測定位置へ照射する。特に限定されていない場合、ウインドシールド40における回折効率の測定位置は、回折領域60Z1の重心と重なる位置とする。
【0098】
露光条件や材料選択等に起因して、ホログラム記録層62に大きなうねりが発生することがある。ホログラム記録層62に大きなうねりが発生すると、ウインドシールド40に対してブラック条件を満たすべき画像光が入射したとしても、実際には当該画像光はブラック条件を満たさない。うねりが発生した領域では、期待した回折効率が得られない。このようなうねりは、数mm単位のピッチで生じ、明暗のむらとして使用者5に感知され得る。この場合、虚像90の表示品位が低下し、使用者5が虚像90から所定の情報を把握できない可能性もある。このような観点から、10mmの間隔をあけて一直線上に並ぶ5つの位置での回折効率のうちの、2番目に大きい回折効率(%)と4番目に大きい回折効率(%)との差の、3番目に大きい回折効率(%)に対する割合(|「2番目に大きい回折効率」-「4番目に大きい回折効率」|/「3番目に大きい回折効率」)に、上限を設定してもよい。この割合は、13%以下でもよく、12%以下でもよく、10%以下でもよい。この割合の下限は、特に設定されない。この割合は、0%以上でもよい。この割合は、一例として、露光強度や露光時間等の露光条件や、各層の厚みを調節することによって、制御できることが確認された。
【0099】
次に、図示されたヘッドアップディスプレイ20の作用について説明する。
【0100】
図2、
図5、
図6に示すように、投射装置25は、画像光L21,L51,L61をウインドシールド40に投射する。画像光L21,L51,L61は、第1面41からウインドシールド40に入射する。画像光L21,L51,L61は、ホログラム素子60の回折領域60Z1に向かう。回折領域60Z1に向かう画像光L21,L51,L61は、回折領域60Z1でのブラック条件を満たす。すなわち、画像光L21,L51,L61は、照明光LCとして、ホログラム素子60に入射する。ホログラム素子60のホログラム記録層62は、照明光LCとしての画像光L21,L51,L61を高効率で回折する。
【0101】
ホログラム素子60で回折された画像光L21,L51,L61は、再生光LDとして、ホログラム素子60で反射して使用者5に向かう。使用者5は、画像光L21,L51,L61によって形成される画像を観察できる。使用者5は、画像を画像形成装置30の位置ではなく、再生光LDの光路と平行な方向に沿ったウインドシールド40の背後となる位置に虚像90を観察する。すなわち、ヘッドアップディスプレイ20によれば、使用者5を基準としたウインドシールド40の背後に、使用者5によって観察される虚像90を表示できる。
【0102】
ウインドシールド40での画像光の光路調節は、ホログラム素子60での回折を利用している。一方、従来の従来のウインドシールド(特許文献1:WO2019/189741A)と比較では、屈折率界面での反射を利用している。従来の従来のウインドシールドでの反射率の合計は、せいぜい10%程度である。したがって、回折効率を調節することにより、屈折率界面での正反射を利用した従来のウインドシールド(特許文献1:WO2019/189741A)と比較して、虚像90を明るく表示できる。
【0103】
また、ホログラム素子60はP偏光も高効率で回折できる。この点、屈折率界面での正反射を利用した従来のウインドシールド(特許文献1:WO2019/189741A)は、ブリュースター角の影響により、P偏光の反射率が著しく低下する。したがって、従来のウインドシールドと異なり、S偏光を吸収する偏光サングラスを装着した使用者5も、虚像90を明るく観察できる。
【0104】
本実施の形態において、ホログラム素子60は、画像光に対し、水平方向に湾曲した凹面鏡65として機能してもよい。
図6には、ホログラム素子60が機能を摸倣する仮想の凹面鏡65が、二点鎖線で模式的に示されている。ホログラム素子60が機能する凹面鏡65は、水平方向に沿った
図6の断面において、湾曲している。凹面鏡65は、投射装置25からの画像光の発散の程度を弱めることができる。更には、
図6に示すように、凹面鏡65は、水平方向に沿った面への投影において発散光束となる画像光L61を、水平方向に沿った面への投影において収れん光束に整形できる。
【0105】
ホログラム素子60が機能する凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、透明板45の水平方向における曲率半径R40Hよりも小さい。透明板45は水平方向に湾曲していてもよい。正反射機能を有する平坦な反射面を透明板45に沿って湾曲することによって得られる湾曲した反射面の曲率半径は、透明板45の水平方向における曲率半径R40Hと一致する。したがって、ホログラム素子60は、積極的に凹面鏡65としての機能を付与されている。
【0106】
図6に示すように、水平方向に湾曲した凹面鏡65として機能するホログラム素子60によれば、投射装置25からホログラム素子60の回折領域60Z1に入射する画像光を、アイボックス22内に向けることができる。回折領域60Z1に入射する画像光は、水平面への投影において発散光となっている。ウインドシールド40は、この発散光としての画像光を、アイボックス22内に誘導する。すわなち、正反射によって画像光の光路調節を行う従来のウインドシールド(特許文献1:WO2019/189741A)や特許文献2:P2022-23551A)と異なり、投射装置25からウインドシールド40へ発散光としての画像光を投射することが許容される。したがって、投射装置25の水平方向への長さを短くできる。すなわち、投射装置25を小型化できる。
【0107】
また、投射装置25を小型化しながら、回折領域60Z1の水平方向に沿った長さを長くできる。したがって、
図1B及び
図6に示すように、水平方向に広がった領域に、虚像90を表示できる。例えば、ウインドシールド40の背後に広がる環境や風景に対応した情報を、当該環境や当該風景に重ねて、表示できる。自動車12等の移動体10に適用されるウインドシールド40は、通常、水平方向に長い。使用者5は、水平方向に広い視野を有する。したがって、水平方向に沿った回折領域60Z1の長さを長くできることは、情報を表示する手段としてのヘッドアップディスプレイ20に好適である。
【0108】
ホログラム素子60に付与される凹面鏡65の機能を高い自由度で設計できる。投射装置25の大きさや配置、ウインドシールド40の構成や配置、アイボックス22の大きさや位置等を考慮した上で適切な凹面鏡65としての機能を、ホログラム素子60に付与できる。例えば、
図6に示すように、ホログラム素子60は、画像光に対して、非対称な凹面鏡65として機能してもよいし、曲率半径が変化する凹面鏡65として機能してもよい。
【0109】
背景技術の欄で記載した従来のヘッドアップディスプレイ(特許文献1:WO2019/189741A)や特許文献2:P2022-23551A)においてウインドシールドは画像光を正反射する。したがって、投射装置の水平方向に沿った長さは、ウインドシールドの画像光の入射領域の水平方向に沿った長さよりも長くなるか、複数の投射装置が、ウインドシールドの画像光の入射領域の水平方向に沿った長さより長い範囲に、分散して配置される。凹面鏡65として機能するホログラム素子60を用いることによれば、投射装置25の大きさを、従来と比較して、大幅に小型化できる。
【0110】
ここで、凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65H、及び透明板45の水平方向における曲率半径R40Hは、ウインドシールド40の水平方向に沿った断面にて評価される。曲率半径R40H及び曲率半径R65Hの大小は、同一の水平方向に沿ったウインドシールド40の断面における同一位置にて特定された曲率半径により評価される。なお、凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、ホログラム素子60にてブラッグ条件で回折された回折光の光路から特定される。
【0111】
凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、透明板45の水平方向における曲率半径R40Hよりも、ウインドシールド40の一部の領域において小さくなっていればよい。このような例においても、投射装置25を小型化できる。ただし、凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、透明板45の水平方向における曲率半径R40Hよりも、いずれか一つの水平断面の任意の位置において、小さくなっていてもよい。凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、透明板45の水平方向における曲率半径R40Hよりも、ウインドシールド40の半分の領域において小さくなっていてもよい。凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、透明板45の水平方向における曲率半径R40Hよりも、ウインドシールド40の全領域において小さくなっていてもよい。
【0112】
なお、ホログラム素子60が凹面鏡65として機能する場合、表示される虚像90に歪が生じ得る。この歪みは、表示すべき画像を補正しておくことによって、虚像90の歪を目立たなくできる。表示したい虚像90に生じる歪みを事前に計算し、且つ歪に基づいて補正された画像を画像形成装置30によって形成することによって、
図1Bに示すように、虚像90の歪を目立たなくできる。
図1B及び
図6に示すように、ホログラム素子60は、画像光を回折することによって、仮想の平面上に広がる虚像90を表示してもよい。平面上に広がる虚像90は観察され易く、使用者5は虚像90から情報を容易且つ正確に読み取ることができる。
図1Bに示された例において、虚像90は、矢印を表す記号と、文字と、を表示している。これらの表示により、走向速度が時速80kmである、直進するとA市に向かう、右折するとB県に向かう、左折するとC町に向かう、といった情報を提供している。
【0113】
以上に説明してきた一実施の形態において、投射装置25から画像光を投射されるウインドシールド40は、透明板45と、透明板45に保持されたホログラム素子60と、を含む。ホログラム素子60は、画像光に対し、水平方向に湾曲した凹面鏡65として機能する。凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Hは、透明板45の水平方向における曲率半径R45Hよりも小さい。本実施の形態によれば、投射装置25の水平方向への長さを短くできる。これにより、投射装置25を小型化できる。
【0114】
具体例を参照しながら一実施の形態を説明してきたが、上述の具体例が一実施の形態を限定しない。上述した一実施の形態は、その他の様々な具体例で実施でき、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、追加等を行うことができる。
【0115】
以下、図面を参照しながら、変形の一例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した具体例と同様に構成され得る部分について、上述の具体例における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用い、重複する説明を省略する。
【0116】
上述した具体例では、
図5に示すように、ホログラム素子60は、画像光に対し、鉛直方向に湾曲した凹面鏡65として機能しない。
図5に示すように、透明板45は、鉛直方向に湾曲していない。しかしながら、これらの例に限られない。
図11に示すように、ホログラム素子60は、画像光に対し、鉛直方向に湾曲した凹面鏡65として機能してもよい。
図11には、ホログラム素子60が機能を摸倣する仮想の凹面鏡65が、二点鎖線で模式的に示されている。ホログラム素子60は、画像光に対し、水平方向及び鉛直方向の両方に湾曲した凹面鏡65として機能してもよい。
図11に示すように、凹面鏡65の鉛直方向における光学設計上の曲率半径R65Vは、透明板45の鉛直方向における曲率半径R40Vより小さくてもよい。
【0117】
図11に示された例において、投射装置25からウインドシールド40に向かう画像光は、第3方向D3及び第2方向D2の両方と平行な面への投影において、発散光となっている。そして、鉛直方向に湾曲した凹面鏡65として機能するホログラム素子60によれば、投射装置25からホログラム素子60の回折領域60Z1に入射する発散光としての画像光を、アイボックス22内に向けることができる。すわなち、正反射による画像光の光路調節を行う従来のウインドシールド(特許文献1:WO2019/189741A)や特許文献2:P2022-23551A)と異なり、投射装置25からウインドシールド40へ発散光としての画像光を投射することが許容される。したがって、投射装置25を更に小型化できる。また、投射装置25を小型化しながら、回折領域60Z1の鉛直方向に沿った長さを長くできる。したがって、鉛直方向に広がった領域に、虚像90を表示できる。
【0118】
ここで、凹面鏡65の鉛直方向における光学設計上の曲率半径R65V、及び透明板45の鉛直方向における曲率半径R40Vは、ウインドシールド40の鉛直方向に沿った断面にて評価される。曲率半径R40V及び曲率半径R65Vの大小は、同一の鉛直方向に沿ったウインドシールド40の断面における同一位置にて特定された曲率半径により評価される。なお、凹面鏡65の水平方向における光学設計上の曲率半径R65Vは、ホログラム素子60にてブラッグ条件で回折された回折光の光路から特定される。
【0119】
凹面鏡65の鉛直方向における光学設計上の曲率半径R65V、透明板45の鉛直方向における曲率半径R40Vよりも、ウインドシールド40の一部の領域において小さくなっていればよい。このような例においても、投射装置25を小型化できる。ただし、凹面鏡65の鉛直方向における光学設計上の曲率半径R65Vは、透明板45の鉛直方向における曲率半径R40Vよりも、いずれか一つの鉛直断面の任意の位置において、小さくなっていてもよい。凹面鏡65の鉛直方向における光学設計上の曲率半径R65Vは、透明板45の鉛直方向における曲率半径R40Vよりも、ウインドシールド40の半分の領域において小さくなっていてもよい。凹面鏡65の鉛直方向における光学設計上の曲率半径R65Vは、透明板45の鉛直方向における曲率半径R40Vよりも、ウインドシールド40の全領域において小さくなっていてもよい。
【符号の説明】
【0120】
D1:第1方向、D2:第2方向、D3:第3方向、ND:法線方向、5:使用者、10:移動体、12:自動車、15:フロントウインドウ、20:ヘッドアップディスプレイ、22:アイボックス、22C:中心、25:投射装置、30:画像形成装置、31:光放出部、32:スクリーン、35:投射光学系、36:反射部材、37:凹面反射鏡、40:ウインドシールド、40Z1:第1領域、40Z2:第2領域、41:第1面、42:第2面、45:透明板、46:第1面、47:第2面、50:基板、51:第1基板、52:第2基板、53:接合層、54:着色層、60:ホログラム素子、60Z1:回折領域、60Z2:非回折領域、61:支持フィルム、62:ホログラム記録層、63:感光性材料層、64:保護層、66:表面層、65:凹面鏡、70:反射鏡、90:虚像、91:ゴースト像、95:外部光源、96:ノイズ像