(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103208
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】水性組成物、抗炎症剤、保湿剤、抗炎症用又は保湿用の食品組成物及び水性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/715 20060101AFI20240725BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240725BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240725BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240725BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240725BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240725BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240725BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20240725BHJP
【FI】
A61K31/715
A61P17/00
A61P17/02
A61K8/73
A61Q19/08
A61Q19/00
A61P29/00
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007414
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐佳
(72)【発明者】
【氏名】中島 綾香
(72)【発明者】
【氏名】石井 慧
(72)【発明者】
【氏名】鵜瀬 和秀
(72)【発明者】
【氏名】三輪 由布子
(72)【発明者】
【氏名】安田 光佑
(72)【発明者】
【氏名】阿閉 耕平
(72)【発明者】
【氏名】横山 一樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD01
4B018MD47
4B018MD89
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF10
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD211
4C083AD212
4C083BB51
4C083CC02
4C083DD27
4C083EE10
4C083EE12
4C083EE13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA63
4C086NA05
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZC52
(57)【要約】
【課題】パラミロンの有効成分の効果を発現可能な新規な水性組成物を提供する。
【解決手段】少なくともパラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有し、前記パラミロン繊維(A)が下記条件(a)、及び(b)を満たす水性組成物である。(a)アニオン性官能基を有する。(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。本発明の水性組成物は、経時安定性及び熱安定性が良く、1週間放置しても黄変を抑制でき、粘度が低下しない良好な物性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともパラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有し、前記パラミロン繊維(A)が下記条件(a)、及び(b)を満たす水性組成物。
(a)アニオン性官能基を有する。
(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。
【請求項2】
前記パラミロン繊維(A)が、下記条件(c)、及び(d)を満たす請求項1に記載の水性組成物。
(c)数平均繊維幅が1.0nm~100nm。
(d)数平均繊維長が50nm~2000nm。
【請求項3】
前記条件(a)のアニオン性官能基がカルボキシル基である請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
前記パラミロン繊維(A)のアニオン性官能基の含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5~3.0mmol/gである請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項5】
少なくともパラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有し、前記パラミロン繊維(A)が下記条件(a)、及び(b)を満たす水性組成物からなることを特徴とする抗炎症剤。
(a)アニオン性官能基を有する。
(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。
【請求項6】
皮膚創傷治癒促進剤、皮膚外用剤、化粧品、皮膚の老化防止剤又は皮膚の老化改善剤として用いられる請求項5に記載の抗炎症剤。
【請求項7】
少なくともパラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有し、前記パラミロン繊維(A)が下記条件(a)、及び(b)を満たす水性組成物からなることを特徴とする保湿剤。
(a)アニオン性官能基を有する。
(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。
【請求項8】
少なくともパラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有し、前記パラミロン繊維(A)が下記条件(a)、及び(b)を満たす水性組成物からなることを特徴とする抗炎症用又は保湿用の食品組成物。
(a)アニオン性官能基を有する。
(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。
【請求項9】
パラミロンを、N-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させる酸化反応工程と、
前記酸化反応工程後、還元剤を用いて酸化された前記パラミロンを還元させて、下記条件(a)、及び(b)を満たすパラミロン繊維(A)を得る還元工程と、
前記還元工程で得た前記パラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有する水性組成物を精製する精製工程と、を含むことを特徴とする水性組成物の製造方法。
(a)アニオン性官能基を有する。
(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性組成物、抗炎症剤、保湿剤、抗炎症用又は保湿用の食品組成物及び水性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類ユーグレナの貯蔵多糖であるパラミロンは、β-1,3-グルカンの一種であって、免疫賦活効果やある種の腫瘍に対する抗腫瘍効果など、生体に対する体質改善効果や疾患治療・予防効果を有するとの報告がされている。
ユーグレナから抽出したパラミロンは、水や熱水には不溶性である。従って、生体に摂取・投与されたときにより高い効果を奏するよう、アルカリ処理,化学修飾,架橋結合等の処理を施した処理パラミロンが、種々提案されている(例えば特許文献1,2)。
【0003】
特許文献1は、パラミロンの水酸基がエピクロロヒドリンとの反応によって架橋修飾された水溶性パラミロン誘導体であって、マウスの腰部にサルコーマ180固形腫瘍を皮下移植したときに、延命効果が認められたことが記載されている。
また、特許文献2は、パラミロンをアルカリ処理後酸で中和処理をすることにより、パラミロンよりも結晶化度の低いアモルファスパラミロンが得られ、このアモルファスパラミロンがパラミロンよりも高いアレルギー抑制効果を備えることが記載されている。
さらに、特許文献3は、パラミロンを酵素処理又は酸による加水分解処理することにより、この処理パラミロンが免疫賦活作用を備えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-252601号公報
【特許文献2】特許第5612875号公報
【特許文献3】特開平3-227939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1~3のような従来の処理パラミロンは、ある特定の疾患治療・予防効果やある特定の体質改善効果を、生体のある特定の組織に対して示すことが報告されている反面、すべての疾患及び生体の組織に対して万能に有効ではなく、他の疾患や組織に対して、効果が得られないことが多かった。
処理パラミロンの種類が増えれば、改善できる体質や治療・予防できる疾患の種類も増えることが予想される。生体組織において、疾患の治療・予防や体質改善等の新たな効果を発現できる新規な処理パラミロンの開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、パラミロンの有効成分の効果を発現可能な新規な水性組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、パラミロンの有効成分の効果を発現可能な新規な水性組成物からなる抗炎症剤及び抗炎症用の食品組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、パラミロンの有効成分の効果を発現可能な新規な水性組成物からなる保湿剤又は保湿用の食品組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、パラミロンの有効成分の効果を発現可能な新規な水性組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定の酸化処理を行ったパラミロン繊維を含有する新規な水性組成物を得た。また、この特定の酸化処理を行ったパラミロン繊維が抗炎症効果及び保湿効果を呈することを見出し、本発明をするに至った。
前記目的を達成するために、本発明の水性組成物、抗炎症剤、保湿剤、及び抗炎症用又は保湿用の食品組成物は、少なくともパラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有し、前記パラミロン繊維(A)が下記条件(a)、及び(b)を満たす水性組成物により解決される。(a)アニオン性官能基を有する。(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。
また、前記目的を達成するために、本発明の水性組成物の製造方法は、パラミロンを、N-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させる酸化反応工程と、前記酸化反応工程後、還元剤を用いて酸化された前記パラミロンを還元させて、下記条件(a)、及び(b)を満たすパラミロン繊維(A)を得る還元工程と、前記還元工程で得た前記パラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有する水性組成物を精製する精製工程と、を含むことにより解決される。(a)アニオン性官能基を有する。(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。
【0008】
このように、パラミロン繊維(A)が、アニオン性官能基を有し、アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下であることで、パラミロンの有効成分の効果を発現可能な水性組成物を得ることができる。
上記のパラミロン繊維(A)を含有する水性組成物は、経時安定性及び熱安定性が良く、1週間放置しても黄変を抑制でき、粘度が低下しない良好な物性を有する。また、本発明の水性組成物は、抗炎症作用及び保湿作用を有するため、ヒトの皮膚に適用した場合に、炎症が沈静化する又は更なる炎症を抑えること、及び、肌免疫を介してヒアルロン酸の合成を促進させて、皮膚の乾燥、弾力の低下、シワの発生を抑制することが可能となる。従って、皮膚に良好に適用でき、皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤又は皮膚の老化改善剤として皮膚に適用した場合も、速やかに炎症を抑え、保湿効果を高めることにより皮膚バリア機能を回復させ、肌状態悪化を抑制することができる。
【0009】
さらに、本発明の水性組成物は、抗炎症効果及び保湿効果を有するため、抗炎症剤又は保湿剤として利用できる。
経時安定性及び熱安定性が良く、皮膚の抗炎症効果及び保湿効果を発揮するため、皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤及び皮膚の老化改善剤として利用できる。
【0010】
前記パラミロン繊維(A)が、下記条件(c)、及び(d)を満たす水性組成物であると良い。(c)数平均繊維幅が1.0nm~100nm。(d)数平均繊維長が50nm~2000nm。
前記条件(a)のアニオン性官能基がカルボキシル基であると良い。
前記パラミロン繊維(A)のアニオン性官能基の含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5~3.0mmol/gであると良い。
前記抗炎症剤又は前記保湿剤は、皮膚創傷治癒促進剤、皮膚外用剤、化粧品、皮膚の老化防止剤又は皮膚の老化改善剤として用いられても良い。
【0011】
さらに、本発明の水性組成物は、抗炎症効果及び保湿効果を有するため、抗炎症用又は保湿用の食品組成物として利用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パラミロン繊維(A)が、アニオン性官能基を有し、アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下であることで、パラミロンの有効成分の効果を発現可能な水性組成物を得ることができる。
上記のパラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有する水性組成物は、経時安定性及び熱安定性が良く、1週間放置しても黄変を抑制でき、粘度が低下しない良好な物性を有する。また、本発明の水性組成物は、抗炎症作用及び保湿作用を有するため、ヒトの皮膚に適用した場合に、炎症が沈静化する又は更なる炎症を抑えること、及び、肌免疫を介してヒアルロン酸の合成を促進させて、皮膚の乾燥、弾力の低下、シワの発生を抑制することが可能となる。従って、皮膚に良好に適用でき、皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤又は皮膚の老化改善剤として皮膚に適用した場合も、速やかに炎症を抑え、保湿効果を高めることにより皮膚バリア機能を回復させ、肌状態悪化を抑制することができる。
【0013】
さらに、本発明の水性組成物は、抗炎症効果及び保湿効果を有するため、抗炎症剤又は保湿剤として利用できる。経時安定性及び熱安定性が良く、皮膚の抗炎症効果及び保湿効果を発揮するため、皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤及び皮膚の老化改善剤として利用できる。
さらに、本発明の水性組成物は、抗炎症効果及び保湿効果を有するため、抗炎症用又は保湿用の食品組成物として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る水性組成物の製造方法のフロー図である。
【
図2A】試験1の抗炎症作用試験において、本発明の実施例1に係る水性組成物のNO産生量を示すグラフである。
【
図2B】試験1の抗炎症作用試験において、比較例1に係る水性組成物のNO産生量を示すグラフである。
【
図3A】試験2の抗炎症作用試験において、本発明の実施例1に係る水性組成物のNO産生量を示すグラフである。
【
図3B】試験2の抗炎症作用試験において、本発明の実施例2に係る水性組成物のNO産生量を示すグラフである。
【
図3C】試験2の抗炎症作用試験において、比較例3に係る水性組成物のNO産生量を示すグラフである。
【
図4】試験3の安定性試験において、本発明の実施例2に係る水性組成物と比較例2に係る水性組成物の粘度保持率を示すグラフである。
【
図5】試験4の耐滅菌性試験において、本発明の実施例2に係る水性組成物と比較例2に係る水性組成物の粘度を示すグラフである。
【
図6】試験5の分散性試験において、本発明の実施例2に係る水性組成物と比較例2に係る水性組成物の粘度を示すグラフである。
【
図7】試験6の肌免疫を介したヒアルロン酸合成試験において、本発明の実施例1及び比較例1に係る水性組成物のHAS2遺伝子発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る水性組成物、抗炎症剤及び保湿剤について説明する。
本実施形態の水性組成物は、少なくともパラミロン繊維(A)と、水(B)の成分を含有し、前記パラミロン繊維(A)が下記条件(a)、及び(b)を満たす水性組成物。(a)アニオン性官能基を有する。(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下。
【0016】
<パラミロン>
パラミロン(Paramylon)は、約700個のグルコースがβ-1,3-結合により重合した高分子体(β-1,3-グルカン)であり、ユーグレナ属が含有する貯蔵多糖である。パラミロン粒子は、扁平な回転楕円体粒子であり、β-1,3-グルカン鎖がらせん状に絡まりあって形成されている。
【0017】
パラミロンは、すべての種,変種のユーグレナ細胞内に顆粒として存在し、その個数,形状,粒子の均一性は、種により特徴がある。
パラミロンは、グルコースのみからなり、E. gracilis Zの野生株と葉緑体欠損株SM-ZKから得られたパラミロンの平均重合度は、グルコース単位で約700である。
パラミロンは、水,熱水には不溶性であるが、希アルカリ,濃い酸,ジメチルスルホキシド,ホルムアルデヒド,ギ酸に溶ける。
パラミロンの平均密度は、E. gracilis Zでは、1.53、E. gracilis var. bacillaris SM-L1では、1.63である。
【0018】
パラミロンは、粉末図形法を用いたX線解析によれば、3本の直鎖状β-グルカンが右巻きの縄のように捻じれあったゆるやかならせん構造をとっている。このグルカン分子がいくつか集まってパラミロン顆粒を形成する。パラミロン顆粒は、結晶構造部分が非常に多く約90%を占め、多糖類の中で最も結晶構造率の高い化合物である。また、パラミロンは、水を含みにくい(ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、(株)学会出版センター))。
なお、パラミロン((株)ユーグレナ製)の粒度分布は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定したときのメジアン径が、1.5~2.5μmである。
【0019】
パラミロン粒子は、培養されたユーグレナ属から任意の適切な方法で単離および微粒子状に精製され、通常粉末体として提供されている。
例えば、パラミロン粒子は、(1)任意の適切な培地中でのユーグレナ細胞の培養;(2)当該培地からのユーグレナ細胞の分離;(3)分離されたユーグレナ細胞からのパラミロンの単離;(4)単離されたパラミロンの精製;および必要に応じて(5)冷却およびその後の凍結乾燥により得ることができる。
パラミロンの単離は、例えば、大部分が生物分解される種類の非イオン性または陰イオン性の界面活性剤を用いて行われ得る。パラミロンの精製は、実質的には単離と同時に行われ得る。
【0020】
なお、ユーグレナからのパラミロンの単離および精製は周知であり、例えば、E. Ziegler, "Die naturlichen und kunstlichen Aromen" Heidelberg, Germany, 1982, Chapter 4.3 "Gefriertrocken"、DE 43 28 329、または特表2003-529538号公報に記載されている。
【0021】
<パラミロン繊維>
パラミロン繊維は、(a)アニオン性官能基を有し、かつ(b)アルデヒド基、及びケトン基の合計した含有量が、パラミロン繊維の乾燥質量あたり、0.5mmol/g以下である。パラミロン繊維は、(c)数平均繊維幅が1.0nm~100nmであり、かつ(d)数平均繊維長が50nm~2000nmである。
アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
本明細書において、カルボキシル基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念である。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念である。
【0022】
例えば、上記パラミロン繊維は、パラミロンをN-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することにより、カルボキシル基を導入したパラミロン(以下、「酸化パラミロン」とも呼ぶ。)を得ることができる。
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-オキシラジカル(T以下、「TEMPO」という。)は好ましい。また、4-ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4-ヒドロキシTEMPO誘導体、あるいは4-アミノTEMPOのアミノ基をアセチル化し、適度な疎水性を付与した4-アセトアミドTEMPOは、安価であり、かつ均一な酸化パラミロンを得ることができるため、好ましい。
【0023】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。
【0024】
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など公知のものを使用できる。
【0025】
パラミロン繊維は、パラミロン分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的にカルボキシル基に酸化変性された、微細な繊維である。これは、上記パラミロン繊維が、結晶構造を有するパラミロン原料を表面酸化し微細化した繊維であることを意味する。すなわち、パラミロンの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成するが、上記ミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その水酸基(パラミロン分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基)の一部が酸化され、カルボキシル基やアルデヒド基やケトン基に変換されている。また、上記酸化変性後、還元剤により還元させていることから、アルデヒド基およびケトン基の一部ないし全部は還元され(水酸基に戻る。カルボキシル基は還元されない。)、その結果、セミカルバジド法による測定でのアルデヒド基とケトン基の合計含量が0.5mmol/g以下となっている。これにより、従来のように単に酸化変性させたものよりも、増粘性、分散安定性が増し、気温等に左右されず長期にわたり分散安定性に優れるようになる。
【0026】
パラミロン繊維を構成するパラミロンが結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=20°付近の位置に典型的なピークをもち、その他にも数本のピーク(7°、12°、14°、24°付近)をもつことから同定することができる。
【0027】
また、パラミロン繊維は、数平均繊維長が50nm~2000nmである。上記数平均繊維長は、好ましくは50nm~1000nmであり、特に好ましくは50nm~500nmである。
また、上記パラミロン繊維は、数平均繊維幅が1.0nm~100nmである。上記数平均繊維幅は、好ましくは1.0nm~50nmであり、特に好ましくは1.0nm~5nmである。
すなわち、上記数平均繊維長及び数平均繊維幅が上記範囲未満であると、本質的に分散媒体に溶解してしまい、逆に上記数平均繊維長及び数平均繊維幅が上記範囲を超えると、パラミロン繊維が沈降してしまい、パラミロン繊維を配合することによる機能性を発現することができないからである。
【0028】
パラミロン繊維の数平均繊維長及び数平均繊維幅は、例えば、つぎのようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.005~0.0001重量%の微細パラミロンの水分散体を調製し、その分散体を、マイカ基板上にキャストし、乾燥させたものを原子間力顕微鏡(AFM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維長及び繊維幅の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維長及び繊維幅を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維長及び繊維幅の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維長及び繊維幅の情報が得られる)。このようにして得られた繊維長及び繊維幅のデータにより、数平均繊維長及び数平均繊維幅を算出する。
【0029】
そして、パラミロン繊維は、パラミロン分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性されており、それによってカルボキシル基の割合が0.5~3.0mmol/gになっている。上記カルボキシル基の含量は、保形性能、分散安定性の点から、好ましくは0.5~1.8mmol/gの範囲である。なお、上記カルボキシル基量が上記範囲未満であると、パラミロン繊維の分散安定性に乏しく、沈降を生じる場合があり、逆に上記カルボキシル基量が上記範囲を超えると、保形性能が低下する傾向がみられるようになる。
【0030】
上記特定のパラミロン繊維のカルボキシル基量の測定は、例えば、乾燥重量を精秤したパラミロン試料から0.5~1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、次の式(1)に従いカルボキシル基量を求めることができる。
【0031】
カルボキシル基量 (mmol/g)=V(ml)×〔0.05/パラミロン重量〕…(1)
【0032】
なお、カルボキシル基量の調整は、後述するように、パラミロン繊維の酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより行うことができる。
【0033】
また、先に述べたように、上記特定のパラミロン繊維の、セミカルバジド法による測定でのアルデヒド基とケトン基の合計含量は0.5mmol/g以下であることから、従来のように単に酸化変性させたものよりも、増粘性、分散安定性が増し、気温等に左右されず長期にわたり分散安定性に優れるようになる。同様の観点から、上記アルデヒド基とケトン基の合計含量は、好ましくは0~0.3mmol/gの範囲であり、より好ましくは実質的に0mmol/gである。なお、アルデヒド基とケトン基の合計が0.5mmol/gを超えると、水分散体の粘度が時間経過と共に著しく低下する。また、上記官能基量の調整は、パラミロン繊維の酸化工程の後、還元剤により還元させて、制御することができる。すなわち、酸化処理だけでは、アルデヒド基とケトン基の合計が0.5mmol/gを超えるようになるが、後述するように、所定の条件で還元工程を行うことにより、カルボキシル基は還元されないが、アルデヒド基およびケトン基は還元され(水酸基に戻り)、上記のように、その合計含量が減少するようになる。
【0034】
そして、上記(A)成分のパラミロン繊維が、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TEMPO)等のN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化され、アルデヒド基およびケトン基が還元剤により還元されると、上記特定のパラミロン繊維(A)を容易に得ることができるようになり、水性組成物として、より良好な結果を得ることができるようになるため、好ましい。また、上記還元剤による還元が、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)によるものであると、上記観点から、より好ましい。
【0035】
ところで、セミカルバジド法による、アルデヒド基とケトン基との合計含量の測定は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、まず、乾燥させた試料に、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうする。ついで、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌する。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えて、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式(2)に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めることができる。なお、セミカルバジドは、アルデヒド基やケトン基と反応しシッフ塩基(イミン)を形成するが、カルボキシル基とは反応しないことから、上記測定により、アルデヒド基とケトン基のみを定量できると考えられる。
【0036】
カルボニル基量(mmol/g)=(D-B)×f×〔0.125/w〕……(2)
D:サンプルの滴定量(ml)
B:空試験の滴定量(ml)
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター(-)
w:試料量(g)
【0037】
上記特定のパラミロン繊維(A成分)は、繊維表面上のパラミロン分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基に酸化されている。このパラミロン繊維表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基に酸化されているかどうかは、例えば、13C-NMRチャートにより確認することができる。すなわち、酸化前のパラミロンの13C-NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmに、カルボキシル基に由来するピークが現れる。このようにして、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基に酸化されていることを確認することができる。
【0038】
また、上記特定のパラミロン繊維(A成分)におけるアルデヒド基の検出は、フェーリング試薬により行われる。すなわち、例えば、乾燥させた試料に、フェーリング試薬(酒石酸ナトリウムカリウムと水酸化ナトリウムとの混合溶液と、硫酸銅五水和物水溶液)を加えた後、80℃で1時間加熱したとき、上澄みが青色、パラミロン繊維部分が紺色を呈するものは、アルデヒド基は検出されなかったと判断することができ、上澄みが黄色、パラミロン繊維部分が赤色を呈するものは、アルデヒド基は検出されたと判断することができる。
【0039】
<製造工程>
図1は、本実施形態に係る水性組成物の製造方法のフロー図である。
パラミロン繊維は、例えば、(1)酸化反応工程、(2)還元工程、(3)精製工程を行うことにより得ることができる。以下、各工程を順に説明し、最後に、他の工程として(4)分散工程(微細化処理工程)、(5)他の添加剤の添加等について説明する。
【0040】
(1)酸化反応工程(ステップS1)
パラミロン粒子と、N-オキシル化合物とを水(分散媒体)に分散させた後、共酸化剤を添加して、反応を開始する。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10~11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なす。ここで、共酸化剤とは、直接的にパラミロン水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN-オキシル化合物を酸化する物質のことである。
【0041】
反応水溶液中のパラミロン濃度は、パラミロン粒子の充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。通常は、反応水溶液の重量に対して約5%以下であるが、機械的攪拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
【0042】
また、上記N-オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が挙げられる。上記N-オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、中でもピペリジンニトロキシオキシラジカルが好ましく、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。上記N-オキシル化合物の添加は、触媒量で充分であり、好ましくは0.1~4mmol/l、さらに好ましくは0.2~2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
【0043】
上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N-オキシル化合物に対して約1~40倍モル量、好ましくは約10~20倍モル量である。
【0044】
上記反応水溶液のpHは約8~11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4~40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0045】
目的とするカルボキシル基量を得るために、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御する。通常、反応時間は約5~120分、長くとも240分以内に完了する。
【0046】
(2)還元工程(ステップS2)
上記特定のパラミロン繊維(A成分)は、上記酸化反応後、さらに還元反応を行うことにより得ることができる。具体的には、酸化反応後の微細酸化パラミロン精製水に分散し、水分散体のpHを約10に調整し、各種還元剤により還元反応を行う。本発明に使用する還元剤としては、一般的なものを使用することが可能であるが、好ましくは、LiBH4、NaBH3CN、NaBH4があげられる。なかでも、NaBH4は、コスト及び利用可能性という観点から特に好ましい。
【0047】
微細酸化パラミロンを基準として、還元剤の量は、0.1~4重量%の範囲が好ましく、特に好ましくは1~3重量%の範囲内である。反応条件は室温または室温より若干高い温度で、10分~10時間、好ましくは30分~2時間行なわれる。
【0048】
上記の反応終了後、各種の酸により反応混合物のpHを約2に調整し、精製水をふりかけながら遠心分離機で固液分離を行い、ケーキ状の微細酸化パラミロンを得る。固液分離は濾液の電気伝導度が5mS/m以下となるまで行う。
【0049】
(3)精製工程(ステップS3)
つぎに、未反応の共酸化剤(次亜塩素酸等)や、各種副生成物等を除く目的で、適宜、精製を行う。反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99重量%以上)の反応物繊維と水の分散体とする。
【0050】
上記精製工程における精製方法は、遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどのような装置を利用しても構わない。こうして得られる反応物繊維の水分散体は、絞った状態で固形分(パラミロン)濃度としておよそ10重量%~50重量%の範囲にある。この後の分散工程を考慮すると、50重量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0051】
(4)分散工程(ステップS4)
本発明の水性組成物は、分散処理をさらに行っても良い。本分散工程(微細化処理工程)では、上記精製工程にて得られる水を含浸した反応物繊維(水分散体)を、水等の分散媒体中に分散させ分散処理を行う。処理に伴って粘度が上昇し、微細化処理されたパラミロン繊維の分散体を得ることができる。その後、上記パラミロン繊維の分散体を乾燥することによって、特定のパラミロン繊維を得ることができる。なお、上記パラミロン繊維の分散体を乾燥することなく、分散体の状態で用いても差し支えない。
【0052】
上記分散工程で使用する分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となり、経済的に有利に分散体を得ることができる点で好ましい。なお、上記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等を用いても差し支えない。
【0053】
上記パラミロン繊維の分散体の乾燥法としては、例えば、分散媒体が水である場合は、スプレードライ、凍結乾燥法等が用いられ、分散媒体が水と有機溶媒の混合溶液である場合は、ドラムドライヤーによる乾燥法、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法等が用いられる。
【0054】
(5)他の添加剤の添加
また、本発明の抗炎症剤は、上記特定のパラミロン繊維及び分散媒体のほかに、他の成分材料として、機能性添加剤を用いることも可能である。上記機能性添加剤としては、例えば、増粘促進剤、無機塩類、有機塩類、界面活性剤、オイル類、保湿剤、防腐剤、有機微粒子、無機微粒子、消臭剤、香料、有機溶媒等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0055】
増粘促進剤としては、カルボキシビニルポリマー,(メタ)アクリル酸アルキル共重合体が用いられる。(メタ)アクリル酸アルキル共重合体とは、アクリル酸アルキル共重合体あるいはメタクリル酸アルキル共重合体等を用いることができる。そして、本発明において、これらの増粘促進剤は、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0056】
無機塩類としては、水に溶解・分散できるものが好ましく、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属と、ハロゲン化水素、硫酸、炭酸等からなる塩類があげられ、具体的には、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、(NH4)2SO4、Na2CO3等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0057】
有機塩類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の水酸化物や、有機アミンと分子中に存在するカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等を中和することにより実質的に水溶性、水分散性を示す物質であるものが好ましい。
【0058】
界面活性剤としては、水に溶解・分散できるものが好ましく、例えば、アルキルスルホコハク酸ソーダ,アルキルスルホン酸ソーダ,アルキル硫酸エステル塩等のスルホン酸系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル等のリン酸エステル系界面活性剤、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物,アルキルアリールフェノールのアルキレンオキサイド付加物等の非イオン系界面活性剤等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0059】
オイル類としては、例えば、メチルポリシロキサン,シリコーンポリエーテルコポリマー等のシリコンオイル、オリーブ油,ひまし油等の植物油、動物油、ラノリン、流動パラフィン、スクワラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0060】
保湿剤としては、例えば、ヒアルロン酸、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、ジプロピレングリコール等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0061】
有機微粒子としては、例えば、スチレン-ブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0062】
無機微粒子としては、例えば、酸化チタン、シリカ化合物、カーボンブラック等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0063】
防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0064】
消臭剤・香料としては、例えば、Dリモネン、デシルアルデヒド、メントン、プレゴン、オイゲノール、シンナムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メントール、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、植物(例えば、カタバミ、ドクダミ、ツガ、イチョウ、クロマツ、カラマツ、アカマツ、キリ、ヒイラギモクセイ、ライラック、キンモクセイ、フキ、ツワブキ、レンギョウ等)の各器官から水、親水性有機溶剤で抽出された消臭有効成分等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0065】
有機溶媒としては、例えば、水に可溶するアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0066】
また、機能性添加剤の配合量は、機能性添加剤が目的とする効果を発現するために必要な配合量で用いられる。
【0067】
<水性組成物>
パラミロン繊維を含む水性組成物は、特定のパラミロン繊維(A成分)と水(B成分)、さらに、必要に応じ機能性添加剤を配合し、混合処理等することにより得ることができる。
【0068】
混合処理としては、例えば、真空ホモミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー等の各種混練器、各種粉砕機、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー等を用いた混合処理があげられる。なお、上記混合処理は、先に述べたように常温で行うことが可能であるが、必要に応じ、加熱することも可能であり、その温度範囲は、好ましくは、5~95℃の範囲内であり、より好ましくは10~30℃の範囲内である。
【0069】
<抗炎症剤>
本実施形態のパラミロン繊維を含む水性組成物は、さらに、抗炎症作用を有することから、抗炎症剤としても用いることができる。本実施形態のパラミロン繊維は、パラミロンのC6位の水酸基が選択的にカルボキシル基に変換されており、還元処理によってアルデヒド基の一部又は全部が還元されることで、抗炎症作用を有するため、皮膚や粘膜などにおける炎症を治療、改善、予防するために用いることが可能である。
【0070】
抗炎症活性の指標として、M1型マクロファージの一酸化窒素(NO)産生を測定することができる。マクロファージは、白血球の一種で体内に侵入した病原菌等の異物を捕食し、生体暴露に対して生体防御機構の中心的割合を果たす免疫細胞の一種である。マクロファージが活性化されるとM1型マクロファージとなり、NOやプロスタグランジンE2、TNF-αなどのサイトカインをはじめとする炎症性メディエーターを産生する。マクロファージは、免疫細胞を活性化させる一方、炎症性メディエーターの産生亢進により、炎症を悪化させる。従って、リポ多糖(LPS)で活性化させたM1型マクロファージによるNO産生が、本発明の特定のパラミロン繊維によって抑制されるか否かを確認し、NO産生が抑制された場合、特定のパラミロン繊維は抗炎症効果を有する可能性が高い、又は抗炎症効果を有すると判断することができる。
【0071】
本実施形態の抗炎症剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等として適用することができる。これらの中で、本実施形態の抗炎症剤は皮膚外用剤や化粧品として皮膚表面(表皮)に塗布されることが好ましい。本実施形態の抗炎症剤を皮膚外用剤、化粧品、及び飲食品として適用する場合は、従来品と区別するために、上記作用・効果、例えば皮膚や粘膜などにおける炎症を治療、改善、予防する作用等の効果を得ることを目的とする旨の表示を付すことが好ましい。
【0072】
本実施形態の抗炎症剤を化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状などのいずれであってもよい。このような化粧品を肌に適用することにより、抗炎症作用を得ることができる。化粧品基剤は、一般に化粧品に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
【0073】
本実施形態の抗炎症剤を医薬用素材又は医薬品として使用する場合は、皮膚への塗布、服用(経口摂取)により投与する場合の他、皮下注射、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0074】
<保湿剤>
本実施形態のパラミロン繊維を含む水性組成物は、さらに、肌免疫を介してヒアルロン酸の合成を促進させる作用を有することから、保湿剤としても用いることができる。本実施形態のパラミロン繊維は、パラミロンのC6位の水酸基が選択的にカルボキシル基に変換されており、還元処理によってアルデヒド基の一部又は全部が還元されることで、皮膚の保湿成分の1つであるヒアルロン酸の合成を促進させるため、皮膚の乾燥、弾力の低下、シワの発生を抑制することが可能である。
【0075】
ヒアルロン酸の合成能力の指標として、HAS2遺伝子の発現を測定することができる。ヒト単球系白血病細胞株THP-1はPhorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)で刺激を受けると、マクロファージ細胞に分化し、線維芽細胞の増殖を促進する因子を分泌し、線維芽細胞におけるヒアルロン酸の合成も促進する。従って、PMAで分化させたM1型マクロファージと本発明の特定のパラミロン繊維の培養上清添加により線維芽細胞のHAS2遺伝子の発現量が増加されるか否かを確認し、HAS2遺伝子の発現量が増加された場合、特定のパラミロン繊維は肌免疫を介してヒアルロン酸の合成も促進し、保湿効果を有する可能性が高い、又は保湿効果を有すると判断することができる。
【0076】
本実施形態の保湿剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等として適用することができる。これらの中で、本実施形態の保湿剤は皮膚外用剤や化粧品として皮膚表面(表皮)に塗布されることが好ましい。本実施形態の保湿剤を皮膚外用剤、化粧品、及び飲食品として適用する場合は、従来品と区別するために、上記作用・効果、例えば皮膚の乾燥、弾力の低下、シワの発生を抑制する作用等の効果を得ることを目的とする旨の表示を付すことが好ましい。
【0077】
本実施形態の保湿剤を化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状などのいずれであってもよい。このような化粧品を肌に適用することにより、保湿作用を得ることができる。
【0078】
<食品組成物>
本実施形態のパラミロン繊維を含む水性組成物は、さらに、抗炎症作用及び保湿作用を有することから、抗炎症用又は保湿用の食品組成物しても用いることができる。本実施形態のパラミロン繊維は、パラミロンのC6位の水酸基が選択的にカルボキシル基に変換されており、還元処理によってアルデヒド基の一部又は全部が還元されることで、抗炎症作用及び保湿作用を有するため、皮膚や粘膜などにおける炎症を治療、改善、予防することや、肌免疫を介してヒアルロン酸の合成を促進して保湿効果を高めることに用いることが可能である。
【0079】
本実施形態の抗炎症剤又は保湿剤を飲食品に適用する場合、抗炎症剤又は保湿剤を飲食品そのものとして、又は種々の食品素材又は飲料品素材に配合して使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【実施例0080】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本発明の水性組成物として、実施例1、実施例2を調製し、各実施例の水性組成物の対比例として、比較例1、比較例2、比較例3を調整した。
【0081】
(実施例1:アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロン)
実施例1では、(A)成分の、下記合成例に基づいて合成したTEMPO酸化パラミロン1.0重量%と、(B)成分の水99.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整し、実施例1の水性組成物を調製した。実施例1のTEMPO酸化パラミロンは、不透明のゲル状(水性組成物を封入した容器を上下逆さにしても水性組成物は落下せずに界面が動く状態)であった。なお、アルデヒド基が還元されたとは、全部又は一部のアルデヒド基が還元されたものをいう。
【0082】
合成例:
(1)酸化工程
TEMPO0.25g(0.080mmol/g)と、臭化ナトリウム2.5g(1.2mmol/g)とを、精製水2000gに溶解させ、10℃に冷却した。この溶液に、乾燥重量で20g相当分のパラミロンを分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、固形分換算で8.9g(6.0mmol/g)を加えて反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するので、24%NaOH水溶液を適宜加えながらpH=10~11となるように調整し1間反応させた。
【0083】
(2)還元工程
上記反応物を遠心分離機で固液分離した後、精製水を加え固形分濃度1%に調整した。その後、24%NaOH水溶液にてスラリーのpHを10.0に調整した。スラリーの温度を30℃としてNaBH4を0.3g(0.40mmol/g)を加え3時間反応させた。
【0084】
(3)精製工程
上記反応物をガラスフィルターにてろ過した後、充分な量のイオン交換水による水洗、ろ過を行い、得られたろ液の電気伝導度を測定した。水洗を繰り返しても、ろ液の電気伝導度に変化がなくなった時点で精製工程を終了した。このようにして、水を含んだ固形分量10重量%のTEMPO酸化パラミロンを得た。
【0085】
(実施例2:アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンを高圧分散処理)
実施例2では、(A)成分の、上記実施例1の合成例に基づいて合成したTEMPO酸化パラミロン1.0重量%と、(B)成分の水99.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整し、高圧分散処理をして実施例2の水性組成物を調製した。実施例2のTEMPO酸化パラミロンは、透明のゲル状(水性組成物を封入した容器を上下逆さにしても水性組成物は落下せずに界面が動く状態)であった。
【0086】
(比較例1:アルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロン)
比較例1では、上記実施例1の合成例において、還元工程を行わなかった以外は、上記実施例1のTEMPO酸化パラミロンの水性組成物の作製に準じて作製した。比較例1として、上記合成例において還元工程を行わないことで、アルデヒド基を含んだTEMPO酸化パラミロンを得た。
【0087】
(比較例2:アルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンを高圧分散処理)
比較例2では、上記比較例1と同様に合成したTEMPO酸化パラミロン1.0重量%と、(B)成分の水99.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整し、高圧分散処理をして比較例2の水性組成物を調製した。比較例2のTEMPO酸化パラミロンは、透明のゲル状(水性組成物を封入した容器を上下逆さにしても水性組成物は落下せずに界面が動く状態)であった。
【0088】
(比較例3:TEMPO酸化セルロース)
比較例3では、(A)成分として、TEMPO酸化セルロース(セルロースナノファイバー)0.2重量%と、(B)成分の水を99.8重量%,をそれぞれ含む混合液を調整した。ホモディスパーを用いて回転数3000rpm、25℃で5分間攪拌し、比較例3の水性組成物を調製した。
【0089】
本発明の実施例及び比較例について、表1に、カルボキシル基の含有量、アルデヒド基及びケトン基の合計した含有量、数平均繊維幅、及び数平均繊維長の測定結果を示す。
【表1】
【0090】
<評価試験1:抗炎症作用試験1>
本発明の水性組成物の一実施例として、実施例1のTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の抗炎症作用を試験した。
また比較例として、比較例1のアルデヒド基が還元されていない(アルデヒド基を含む)TEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の抗炎症作用を試験した。
【0091】
抗炎症作用試験1(一酸化窒素(NO)産生抑制試験)では、マウスマクロファージ細胞RAW264.7(200,000cells/well)に、実施例1及び比較例1のTEMPO酸化パラミロンをそれぞれ1%(100μg/mL)、2%(200μg/mL)、4%(400μg/mL)添加して、2時間培養した。培養後、リポポリサッカライド(LPS)を500ng/mL加え、翌日に上清中のNO産生量をGriess法により測定した。
【0092】
(結果)
実施例1及び比較例1についての試験結果を、
図2A及び
図2Bに示す。
図2A及び
図2Bは、TEMPO酸化パラミロンにおいて、還元工程の有無(アルデヒド基が還元されているか)で抗炎症効果を比較した結果を示す。
図2Aの実施例1-1は、アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンを1%(100μg/mL)添加、実施例1-2は、2%(200μg/mL)添加、実施例1-3は、4%(400μg/mL)添加した結果を示す。
図2Bの比較例1-1は、アルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンを1%(100μg/mL)添加、比較例1-2は、2%(200μg/mL)添加、比較例1-3は、4%(400μg/mL)添加した結果を示す。
なお対照として、TEMPO酸化パラミロンを添加しなかったリポポリサッカライド(LPS)500ng/mLを示す。
【0093】
図2A及び
図2Bの結果の通り、実施例1-1~実施例1-3のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンは、対照(LPS)よりもNO産生量が減少した。したがって、アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、LPSにより惹起したマクロファージでの炎症反応を抑制し、抗炎症作用が大きいことが明らかになった。また、アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、添加濃度が高いほうが、抗炎症作用が大きいことが明らかになった。
比較例1-1~比較例1-3のアルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンでは、NO産生量はほとんど減少せず、抗炎症作用が小さいことが明らかになった。
【0094】
<評価試験2:抗炎症作用試験2>
本発明の水性組成物の一実施例として、実施例1及び実施例2のTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の抗炎症作用を試験した。
また比較例として、比較例3のTEMPO酸化セルロースを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の抗炎症作用を試験した。
【0095】
抗炎症作用試験2(一酸化窒素(NO)産生抑制試験)では、マウスマクロファージ細胞RAW264.7(200,000cells/well)に、実施例1及び実施例2TEMPO酸化パラミロン、比較例3のTEMPO酸化セルロースをそれぞれ1%(100μg/mL)、5%(500μg/mL)、10%(1000μg/mL)添加して、2時間培養した。培養後、リポポリサッカライド(LPS)を500ng/mL加え、翌日に上清中のNO産生量をGriess法により測定した。
【0096】
(結果)
実施例1、実施例2及び比較例3についての試験結果を、
図3A~
図3Cに示す。
図3A及び
図3Bは、TEMPO酸化パラミロンにおける高圧分散処理の有無で抗炎症効果を比較した結果を示す。
図3B及び
図3Cは、TEMPO酸化パラミロンとTEMPO酸化セルロースで抗炎症効果を比較した結果を示す。
図3Aの実施例1-4は、高圧分散処理をしないTEMPO酸化パラミロンを1%(100μg/mL)添加、実施例1-5は、5%(500μg/mL)添加、実施例1-6は、10%(1000μg/mL)添加した結果を示す。
図3Bの実施例2-1は、高圧分散処理をしたTEMPO酸化パラミロンを1%(100μg/mL)添加、実施例2-2は、5%(500μg/mL)添加、実施例2-3は、10%(1000μg/mL)添加した結果を示す。
図3Cの比較例3-1は、高圧分散処理をしたTEMPO酸化セルロースを1%(100μg/mL)添加、比較例3-2は、5%(500μg/mL)添加、比較例3-3は、10%(1000μg/mL)添加した結果を示す。
なお対照として、TEMPO酸化パラミロン及びTEMPO酸化セルロースを添加しなかったリポポリサッカライド(LPS)500ng/mLを示す。
【0097】
図3Aの結果の通り、実施例1-4~実施例1-6の高圧分散処理をしないTEMPO酸化パラミロンは、NO産生量が減少した。したがって、高圧分散処理をしないTEMPO酸化パラミロンは、LPSにより惹起したマクロファージでの炎症反応を抑制し、抗炎症作用が大きいことが明らかになった。
また、
図3B結果の通り、実施例2-1~実施例2-3の高圧分散処理をしたTEMPO酸化パラミロンは、NO産生量が減少した。したがって、高圧分散処理をしたTEMPO酸化パラミロンは、LPSにより惹起したマクロファージでの炎症反応を抑制し、抗炎症作用が大きいことが明らかになった。
このことより、高圧分散処理の有無によらず、本発明のTEMPO酸化パラミロンは抗炎症作用が大きいことが明らかになった。また、高圧分散処理の有無によらず、TEMPO酸化パラミロンの添加濃度が高いほうが、抗炎症作用が大きいことが明らかになった。
【0098】
また、
図3Cの結果の通り、比較例3-1~比較例3-3のTEMPO酸化セルロースでは、低濃度ではNO産生量がほとんど減少せず、高濃度にして初めて抗炎症作用が見られることが明らかになった。
このことより、本発明のTEMPO酸化パラミロンはTEMPO酸化セルロースよりも抗炎症作用が大きいことが明らかになった。つまり、TEMPO酸化パラミロンはTEMPO酸化セルロースとは異なる性質を有することが明らかになった。
【0099】
なお、免疫細胞賦活化作用について、実施例1-4~実施例1-6の高圧分散処理をしないTEMPO酸化パラミロンは、免疫細胞賦活化作用が確認されている。一方で、実施例2-1~実施例2-3の高圧分散処理をしたTEMPO酸化パラミロン及び、比較例3-1~比較例3-3の高圧分散処理をしたTEMPO酸化セルロースでは、実施例1-4~実施例1-6の高圧分散処理をしないTEMPO酸化パラミロンよりも免疫細胞賦活化作用が小さいことが確認されている。
【0100】
<評価試験3:安定性試験>
本発明の水性組成物の一実施例として、実施例2のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の安定性を試験した。
また比較例として、比較例2のアルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の安定性を試験した。
【0101】
各水性組成物を透明ガラス管に入れ、1日静置した。25℃1気圧の条件下において、BM型粘度計(英弘精機社製、BROOKFIELD、B型粘度計、アナログ粘度計LVT型)を用いて3rpmで3分間攪拌させた後のサンプルの粘度を、「初期粘度」とした。さらに、このサンプルを、60℃の恒温槽で2週間静置した。一定期間ごとに取り出し1日静置させ、25℃1気圧の条件下において、BM型粘度計を用いて3rpmで3分間攪拌させた後のサンプルの粘度を、「一定保管後粘度」とした。
また、一定保管後粘度と、初期粘度と、以下の式(3)とを用いて、「粘度保持率」を算出した。
粘度保持率(%)=〔一定保管後粘度/初期粘度〕×100 ……(3)
【0102】
(結果)
実施例2及び比較例2についての試験結果を、
図4に示す。
図4は、TEMPO酸化パラミロンにおいて、還元工程の有無(アルデヒド基が還元されているか)で粘度保持率を比較した結果を示す。
【0103】
図4の結果の通り、実施例2のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、粘度保持率は低下せず、所定期間経過しても黄変しなかった。比較例2のアルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンは、所定期間経過すると粘度保持率は低下し、10日経過時から黄変した。
このことより、アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、経時安定性、熱安定性が高いことが明らかになった。
【0104】
<評価試験4:耐滅菌性試験>
本発明の水性組成物の一実施例として、実施例2のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の耐滅菌性を試験した。
また比較例として、比較例2のアルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の耐滅菌性を試験した。
【0105】
各水性組成物を透明ガラス管に入れ、1日静置した。滅菌処理として、121℃で20分間オートクレーブ処理を行い、BM型粘度計(英弘精機社製、BROOKFIELD、B型粘度計、アナログ粘度計LVT型)を用いて3rpmで3分間攪拌させた後のサンプルの粘度を測定した。
【0106】
(結果)
実施例2及び比較例2についての試験結果を、
図5に示す。
図5は、TEMPO酸化パラミロンにおいて、還元工程の有無(アルデヒド基が還元されているか)で滅菌処理前後の粘度を比較した結果を示す。
【0107】
図5の結果の通り、実施例2のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンは、滅菌処理前後で粘度は低下しなかった。比較例2のアルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンは、滅菌処理前と比較して滅菌処理後は粘度が約50%に低下した。
このことより、アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、耐滅菌性が高いことが明らかになった。
【0108】
<評価試験5:分散性試験>
本発明の水性組成物の一実施例として、実施例2のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の分散性を試験した。
また比較例として、比較例2のアルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の分散性を試験した。
【0109】
1日静置した各水性組成物のレオロジーをレオメーター(アントンパール社製、MCR302)を用いて測定した。測定部を25℃に温調し、せん断速度を0.1~150s-1について連続的にせん断粘度を測定した。
また、各水性組成物を透明ガラス管に入れ、1日静置し、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、U-3900H)を用いてサンプルの波長660nmの光透過率を測定した。
【0110】
(結果)
実施例2及び比較例2についての試験結果を、
図6に示す。
図6は、TEMPO酸化パラミロンにおいて、還元工程の有無(アルデヒド基が還元されているか)でせん断速度に対する粘度を比較した結果を示す。また、表2に、TEMPO酸化パラミロンにおいて、還元工程の有無(アルデヒド基が還元されているか)で透過度を比較した結果を示す。
【表2】
【0111】
図6の結果の通り、実施例2のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、比較例2のアルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンよりも粘度が高かった。
また、表2の結果の通り、実施例2のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、比較例2のアルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンよりも透過度が高かった。
このことより、アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、高粘度かつ高透明度であり、分散性に優れることが明らかになった。
【0112】
<評価試験6:肌免疫を介したヒアルロン酸合成試験>
本発明の水性組成物の一実施例として、実施例1のTEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の保湿作用を試験した。
また比較例として、比較例1のアルデヒド基が還元されていない(アルデヒド基を含む)TEMPO酸化パラミロンを含有した水性組成物を使用し、水性組成物の保湿作用を試験した。
【0113】
ヒアルロン酸合成試験(HAS2遺伝子の発現量増加試験)では、ヒト単球由来細胞THP-1(1.5×106cells/5mL)に、細胞刺激試薬であるPhorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)を10ng/mL添加して、2日間培養し、マクロファージを分化誘導した。
細胞培養培地であるRPMI1640培地によってPMAを除去し、実施例1及び比較例1のTEMPO酸化パラミロンをそれぞれ4%(400μg/mL)添加して、24時間後に培養上清を回収した。
線維芽細胞にマクロファージ培養上清、または各原料で刺激したマクロファージ培養上清を添加して、3日後に線維芽細胞を回収して、遺伝子発現量レベルを測定した。
【0114】
(結果)
実施例1及び比較例1についての試験結果を、
図7に示す。
図7は、TEMPO酸化パラミロンにおいて、還元工程の有無(アルデヒド基が還元されているか)でHAS2遺伝子の発現量を比較した結果を示す。
図7の実施例1は、アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンを4%(400μg/mL)添加した結果を示す。
図7の比較例1は、アルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンを4%(400μg/mL)添加した結果を示す。
なおcontrol(対照)として、TEMPO酸化パラミロンを添加しなかったマクロファージの結果を示す。
【0115】
図7の結果の通り、実施例1、比較例1のTEMPO酸化パラミロンは、controlよりもHAS2遺伝子の発現量が増加した。また、アルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンの方が、アルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンよりも増加レベルが高かった。
したがって、TEMPO酸化パラミロンは、肌免疫を介して線維芽細胞のHAS2遺伝子の発現量を高め、線維芽細胞のヒアルロン酸合成能力を高めることが明らかになった。
また、特にアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンは、アルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンよりも肌免疫を介した線維芽細胞のヒアルロン酸合成能力を高め、保湿作用が大きいことが明らかになった。
【0116】
以上の試験結果より、TEMPO酸化したパラミロンを還元し、少なくとも一部のアルデヒド基が還元されたTEMPO酸化パラミロンでは、抗炎症効果及び保湿効果が得られ、アルデヒド基が還元されていないTEMPO酸化パラミロンと比較して、優れた物性(経時安定性、熱安定性、耐滅菌性、分散性)を有することが分かった。