(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103209
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】複層塗膜の形成方法、および複層塗膜の製造に用いられるクリヤ塗料
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20240725BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240725BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240725BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20240725BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240725BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240725BHJP
【FI】
B05D1/36 B
B05D7/24 302P
B05D7/24 302T
B05D7/24 303E
B05D3/00 D
C09D133/14
C09D175/04
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007416
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 越美
(72)【発明者】
【氏名】角田 剛
(72)【発明者】
【氏名】中島 久之
(72)【発明者】
【氏名】山下 秀樹
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA09
4D075AE06
4D075BB25X
4D075BB25Z
4D075BB26Z
4D075BB60Z
4D075BB75X
4D075BB89X
4D075BB92Y
4D075BB93Z
4D075CA04
4D075CA13
4D075CA18
4D075CA38
4D075CA44
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA27
4D075DB02
4D075DC11
4D075DC12
4D075DC13
4D075EA06
4D075EA43
4D075EB14
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB35
4D075EB37
4D075EB38
4D075EB39
4D075EB43
4D075EB51
4D075EB52
4D075EB55
4D075EB56
4D075EC07
4D075EC10
4D075EC30
4D075EC33
4D075EC37
4D075EC54
4J038CC022
4J038CG012
4J038CG032
4J038CG141
4J038DG112
4J038GA09
4J038GA11
4J038JC32
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA12
4J038PA01
4J038PA19
4J038PB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低温硬化でも優れた塗膜性能を有する複層塗膜の形成方法、及びそれに用いるクリヤ塗料組成物の提供。
【解決手段】被塗物上に水性第1着色塗料組成物(BC1)を塗装する工程(1)と、その塗膜上に水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)を塗装する工程(2)と、さらにその塗膜上にクリヤ塗料組成物(CC)を塗装する工程(3)を含み、クリヤ塗料組成物(CC)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)とイソシアネート硬化剤(A2)と1分子中に少なくとも2つの水酸基を有する不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)を含み、
水酸基含有アクリル樹脂(A1)と不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターの距離Raが4.0以下であり、工程(1)~(3)で形成された3層の塗膜を70~100℃の加熱で同時に硬化させる工程(4)を含む複層塗膜の形成方法、及び上記のクリヤ塗料組成物(CC)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、水性第1着色塗料組成物(BC1)を塗装して未硬化の第1着色塗膜を形成する工程(1)と、
工程(1)で得られた前記未硬化の第1着色塗膜上に水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)を塗装して未硬化の第2着色塗膜を形成する工程(2)と、
工程(2)で得られた前記未硬化の第2着色塗膜上にクリヤ塗料組成物(CC)を塗装して未硬化のクリヤ塗膜を形成する工程(3)と、を含み、
前記クリヤ塗料組成物(CC)が、
水酸基含有アクリル樹脂(A1)と、
イソシアネート硬化剤(A2)と、
1分子中に少なくとも2つの水酸基を有する不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上の溶解度パラメーターと前記不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターとの距離Raが4.0以下であり、
工程(1)~(3)で形成された前記未硬化の第1着色塗膜、前記未硬化の第2着色塗膜、および前記未硬化のクリヤ塗膜を、70~100℃ に加熱することによって同時に硬化させる工程(4)を含むことを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)の配合量(固形分)が、前記クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、3~20質量%である、請求項1記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記水酸基含有アクリル樹脂(A1)の水酸基価が、80~200mgKOH/gの範囲内である、請求項1または請求項2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記水酸基含有アクリル樹脂(A1)の質量平均分子量が3000~30000である、請求項1または請求項2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記クリヤ塗料組成物(CC)がウレタン硬化触媒(E)を含む、請求項1または請求項2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項6】
前記第1着色塗膜の乾燥膜厚が、4~30μmである、請求項1または請求項2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項7】
前記水性第1着色塗料組成物(BC1)が、カルボキシル基含有樹脂(B1)及びカルボジイミド基含有硬化剤(B2)を含み、
前記クリヤ塗料組成物(CC)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基1当量に対し、イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基を0.8~1.5当量となる割合で含有する請求項1または請求項2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項8】
前記クリヤ塗料組成物(CC)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基1当量に対し、前記イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基を1.5~3.0当量となる割合で含有し、かつイソシアネート硬化剤(A2)が、ジイソシアネートの2量体(A2-1)とジイソシアネートの3量体以上の化合物(A2-2)とを固形分質量比で10/90~40/60の範囲内で含む請求項1または請求項2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項9】
前記クリヤ塗料組成物(CC)が、3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)を含む請求項1または請求項2記載の複層塗膜形成方法。
【請求項10】
前記3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)の配合量(固形分)が、前記クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、2~50質量%である請求項9記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項11】
水性第1着色塗料組成物(BC1)から形成された未硬化の第1着色塗膜と、
前記未硬化の第1着色塗膜上に設けられた、水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)から形成された未硬化の第2着色塗膜と、
前記未硬化の第2着色塗膜上に設けられた未硬化のクリヤ塗膜と、を同時に硬化させて複層塗膜を形成するために用いられる、前記クリヤ塗膜を形成するクリヤ塗料組成物(CC)であって、
前記クリヤ塗料組成物(CC)は、
水酸基含有アクリル樹脂(A1)と、
イソシアネート硬化剤(A2)と、
1分子中に少なくとも2つの水酸基を有する不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上の溶解度パラメーターと前記不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターとの距離Raが4.0以下であり、
前記未硬化の第1着色塗膜、前記未硬化の第2着色塗膜、および前記未硬化のクリヤ塗膜は、70~100℃ における加熱で硬化することを特徴とするクリヤ塗料組成物(CC)。
【請求項12】
前記不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)の配合量(固形分)が、前記クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、3~20質量%である、請求項11記載のクリヤ塗料組成物(CC)。
【請求項13】
前記水性第1着色塗料組成物(BC1)が、カルボキシル基含有樹脂(B1)及びカルボジイミド基含有硬化剤(B2)を含み、
前記クリヤ塗料組成物(CC)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基1当量に対し、イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基を0.8~1.5当量となる割合で含有する請求項11または請求項12記載のクリヤ塗料組成物(CC)。
【請求項14】
前記クリヤ塗料組成物(CC)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基1当量に対し、前記イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基を1.5~3.0当量となる割合で含有し、かつイソシアネート硬化剤(A2)が、ジイソシアネートの二量体(A2-1)とジイソシアネートの3量体以上の化合物(A2-2)とを固形分質量比で10/90~40/60の範囲内で含む請求項11または請求項12記載のクリヤ塗料組成物(CC)。
【請求項15】
前記クリヤ塗料組成物(CC)が、3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)を含む請求項11または請求項12記載のクリヤ塗料組成物(CC)。
【請求項16】
前記3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)の配合量(固形分)が、前記クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、2~50質量%である請求項15記載のクリヤ塗料組成物(CC)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜の形成方法、およびこれに用いられるクリヤ塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体等の被塗物には、被塗物を保護し、同時に美しい外観を与えるために、複数層の塗膜が形成される。このような自動車車体の塗装においては、第1水性ベース塗料組成物、第2水性ベース塗料組成物及びクリヤ塗料組成物を順次塗装し、その後、これら3層を同時に焼き付け硬化させる3コート1ベーク方式の複層塗膜形成方法が主流になりつつある。そして、近年、省エネルギー、環境対応の観点より、3層を塗装した後の焼き付け温度をより低くすることが求められている。しかしながら、従来の塗料組成物を用いて低温焼き付け硬化を行った場合、十分に硬化した塗膜を得ることは困難である。
【0003】
また、自動車製造の現場では、優れた品質の製品を画一的に製造する管理の一環として、得られた複層塗膜の状態を検査し、不具合の状態に応じて、研磨処理、及び/又はリコート処理が行われる。リコート処理では、被塗物に対して設けられた最初の複層塗膜に対し、次の複層塗膜が3コート1ベーク方式により再度積層されて複数の複層塗膜の積層体を構成することで補修される。このため、最初の複層塗膜のクリヤ塗膜と、次の複層塗膜の第1水性ベースコート層とが優れた密着性、すなわち優れたリコート密着性を有する必要がある。
【0004】
このような状況下、これまで、クリヤ塗料組成物に不飽和脂肪酸エステルポリオールを添加し、クリヤ塗膜の性能を向上させてこれを含む複層塗膜の焼き付け温度を低下させる方法が開示されている(特許文献1)。また、クリヤ塗料組成物の硬化剤の一部として分子量が200~350の範囲内である脂肪族トリイソシアネートを用い、焼き付け時に脂肪族トリイソシアネートをベース塗膜層に浸透させることにより、低温の焼き付けにおいて、複層塗膜同士の密着性を向上させる方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-188387号公報
【特許文献2】特許7043621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法によりクリヤ塗料組成物に不飽和脂肪酸エステルポリオールを添加して低温硬化を行ったとしても、リコート密着性が十分には得られない場合がある。
【0007】
また、特許文献2のように、クリヤ塗料組成物の硬化剤の一部として低分子量の脂肪族トリイソシアネートを用いて複層塗膜の低温硬化を行った場合にも、リコート密着性が十分に得られるとはいい難い。さらには耐ガソリン性、耐チッピング性、耐水性等の塗膜性能をバランスよく満足することができない場合もある。
【0008】
しかるに、本発明は、上記の従来技術に鑑み、低温の硬化であっても、リコート密着性に優れ、かつ耐ガソリン性、耐チッピング性、耐水性等の塗膜性能についても遜色のない複層塗膜の形成方法を提供することを課題とする。
【0009】
さらに、本発明は、3コート1 ベーク方式で形成される複層塗膜を形成するために用いられ、低温の硬化であっても、リコート密着性に優れ、かつ耐ガソリン性、耐チッピング性、耐水性等の塗膜性能についても遜色のない複層塗膜を構成することのできるクリヤ塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等の鋭意研究により、上記課題は、
被塗物上に、水性第1着色塗料組成物(BC1)を塗装して未硬化の第1着色塗膜を形成する工程(1)と、
工程(1)で得られた未硬化の第1着色塗膜上に水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)を塗装して未硬化の第2着色塗膜を形成する工程(2)と、
工程(2)で得られた未硬化の第2着色塗膜上にクリヤ塗料組成物(CC)を塗装して未硬化のクリヤ塗膜を形成する工程(3)と、を含み、
クリヤ塗料組成物(CC)が、
水酸基含有アクリル樹脂(A1)と、
イソシアネート硬化剤(A2)と、
1分子中に少なくとも2つの水酸基を有する不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)と、を含み、
水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上の溶解度パラメーターと不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターとの距離Raが4.0以下であり、
工程(1)~(3)で形成された未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜、および未硬化のクリヤ塗膜を、70~100℃ に加熱することによって同時に硬 化させる工程(4)を含むことを特徴とする複層塗膜の形成方法により解決されることが見出された。
【0011】
本発明の方法では、水酸基含有アクリル樹脂(A1)の水酸基価が、80~200mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明の方法では、水酸基含有アクリル樹脂(A1)の質量平均分子量が3000~30000であることが好ましい。
【0013】
本発明の方法では、クリヤ塗料組成物(CC)がウレタン硬化触媒(E)を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の方法では、第1着色塗膜の乾燥膜厚が、4~30μmであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の上記課題は、
水性第1着色塗料組成物(BC1)から形成された未硬化の第1着色塗膜と、
未硬化の第1着色塗膜上に設けられた、水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)から形成された未硬化の第2着色塗膜と、
未硬化の第2着色塗膜上に設けられた未硬化のクリヤ塗膜と、を同時に硬化させて複層塗膜を形成するために用いられる、クリヤ塗膜を形成するクリヤ塗料組成物(CC)であって、
クリヤ塗料組成物(CC)は、
水酸基含有アクリル樹脂(A1)と、
イソシアネート硬化剤(A2)と、
1分子中に少なくとも2つの水酸基を有する不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)と、を含み、
水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上の溶解度パラメーターと不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターとの距離Raが4.0以下であり、
未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜、および未硬化のクリヤ塗膜は、70~100℃における加熱で硬化することを特徴とするクリヤ塗料組成物(CC)により解決される。
【0016】
本発明においては、クリヤ塗料組成物は、不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)の配合量(固形分)が、クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、3~20質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明においては、水性第1着色塗料組成物(BC1)が、カルボキシル基含有樹脂(B1)及びカルボジイミド基含有硬化剤(B2)を含み、
クリヤ塗料組成物(CC)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基1当量に対し、イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基を0.8~1.5当量となる割合で含有することが好ましい。
【0018】
また、本発明においては、クリヤ塗料組成物(CC)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基1当量に対し、イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基を1.5~3.0当量となる割合で含有し、かつイソシアネート硬化剤(A2)が、ジイソシアネートの2量体(A2-1)とジイソシアネートの3量体以上の化合物(A2-2)とを固形分質量比で10/90~40/60の範囲内で含むことが好ましい。
【0019】
本発明において、クリヤ塗料組成物(CC)は、3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)を含むことが好ましく、3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物の配合量(固形分)は、クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、2~50質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、70~100℃の低温での硬化が可能であり、リコート密着性に優れた複層塗膜の形成方法が得られる。さらに本発明のクリヤ塗料組成物は、3コート1 ベーク方式における低温での硬化による複層塗膜の形成に好適に用いられ、得られたクリヤ塗膜はリコート密着性に優れたものとされる。また、本発明の複層塗膜の形成方法、および本発明のクリヤ塗料組成物から得られた複層塗膜は、耐ガソリン性、耐チッピング性、耐水性等の塗膜性能においても、従来の複層塗膜と比較して、少なくとも同等以上のものとされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る、複層塗膜の製造方法およびこれに用いられるクリヤ塗料組成物を説明するための図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、本発明の第2の実施の形態に係る、複層塗膜の製造方法およびこれに用いられるクリヤ塗料組成物を説明するための図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、本発明の第3の実施の形態に係る、複層塗膜の製造方法およびこれに用いられるクリヤ塗料組成物を説明するための図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、本発明の第4の実施の形態に係る、複層塗膜の製造方法およびこれに用いられるクリヤ塗料組成物を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の複層塗膜の形成方法は、
被塗物上に、水性第1着色塗料組成物(BC1)を塗装して未硬化の第1着色塗膜を形成する工程(1)と、
工程(1)で得られた未硬化の第1着色塗膜上に水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)を塗装して未硬化の第2着色塗膜を形成する工程(2)と、
工程(2)で得られた未硬化の第2着色塗膜上にクリヤ塗料組成物(CC)を塗装して未硬化のクリヤ塗膜を形成する工程(3)と、
工程(1)~(3)で形成された未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜、および未硬化のクリヤ塗膜を、70~100℃ に加熱することによって同時に硬化させる工程(4)を含む。
【0023】
また、本発明で用いられるクリヤ塗料組成物(CC)は、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と、イソシアネート硬化剤(A2)と、1分子中に少なくとも2つの水酸基を有する不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)と、を含む。さらに、クリヤ塗料組成物における水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上の溶解度パラメーターと不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターとの距離Raは4.0以下である。
【0024】
さらに、本発明の実施の形態に係る複層塗膜の製造方法を説明する。
【0025】
[工程(1)]
本発明の複層塗膜形成方法では、工程(1)として、被塗物上に、着色顔料を含む水性第1着色塗料組成物(BC1)が塗装され、未硬化の第1の着色塗膜層が形成される。
【0026】
[被塗物]
本発明の複層塗膜形成方法を適用することができる被塗物には特に制限はなく、例えば、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属からなる部材、これら金属の合金からなる部材、これらの金属によるメッキ又は蒸着が施された部材、ガラス、プラスチック、各種素材の発泡体等からなる部材等を挙げることができ、その中でも、自動車車体を構成する鋼材及びプラスチック材料が好ましい。これらの部材には、必要に応じて適宜、脱脂処理、表面処理等の処理を施すことができる。
【0027】
また、本発明では前記部材に下塗り塗膜を形成したものを被塗物として用いることもできる。下塗り塗膜は、部材表面を隠蔽したり、部材に防食性、防錆性、密着性等を付与したりするために部材表面に適用されるものであり、下塗り塗料を塗装し、硬化又は乾燥させることによって形成することができる。この下塗り塗料は、特に限定されるものではなく、それ自体既知のもの、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー、水系プライマー等を用いることができる。
【0028】
さらに、本発明では、金属、ガラス、プラスチックに任意に処理を施した前述の部材に対して、少なくとも1つの複層塗膜が施された状態のものを被塗物とすることもできる。このような複層塗膜を含む被塗物に対して、補修の目的でさらに工程(1)から工程(4)を行うことにより更なる複層塗膜を施すことをリコート(Recoat)と呼ぶ。
【0029】
[水性第1着色塗料組成物(BC1)]
本発明の複層塗膜形成方法の工程(1)に使用される水性第1着色塗料組成物(BC1)は、樹脂成分と着色顔料を含む。
【0030】
本発明に使用される水性第1着色塗料組成物(BC1)の樹脂成分としては、水性着色塗料組成物を形成できる成分である限り、特に制限はなく、塗装後、加熱により架橋反応が進行することによって塗膜を形成する熱硬化性樹脂であってもよいし、溶媒が揮発することによって塗膜を形成する熱可塑性樹脂であってもよい。
【0031】
本発明において「水性」とは、基体樹脂、架橋剤などが、水もしくは水と有機溶剤との混合液中に、安定して溶解もしくは分散可能な状態であることを意味する。
【0032】
熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、基体樹脂と架橋剤を含んでなる熱硬化性樹脂組成物を用いることができる。この樹脂組成物(基体樹脂+架橋剤)中における架橋剤の含有量は特に制限はないが、樹脂不揮発成分の合計量100質量部に対して0~50質量部であることが好ましく、5~45質量部であることがより好ましく、10~40質量部であることが特に好ましい。
【0033】
熱硬化性樹脂組成物の基体樹脂は、水溶性又は水分散性樹脂である限り特に制限はないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂等が挙げられる。さらに、基体樹脂は、一部が架橋された粒子であってもよいし、粒子が内側(コア部)と外側(シェル部)からなるコア/シェル型粒子であってもよい。粒子状の基体樹脂としては、例えば、ポリウレタン-ポリウレア粒子、ウレタンコア/アクリルシェル型粒子、アクリルコア/ウレタンシェル型粒子等が挙げられる。なお、基体樹脂粒子の一部が架橋されている場合は、その部分が有機溶剤に不溶な部分(ゲル部)となるため、基体樹脂粒子固形分中におけるゲル部の割合を示す値であるゲル分率を測定することができる。また、基体樹脂は、官能基として、水酸基及び/又はカルボキシル基を有することが好ましい。これらの基体樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
熱硬化性樹脂組成物の硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物等が挙げられる。この中でも、アミノ樹脂、ポリカルボジイミド化合物が特に好ましい。これらの硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
アミノ樹脂は、アミノ基を含有する化合物にホルムアルデヒドを付加し縮合させた樹脂の総称である。アミノ樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂等が挙げられ、その中でも、メラミン樹脂が特に好ましい。
【0036】
メラミン樹脂として、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを反応させて得られる部分又は完全メチロール化メラミン樹脂、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をアルコール成分で部分的に又は完全にエーテル化して得られる部分又は完全アルキルエーテル型メラミン樹脂、イミノ基含有型メラミン樹脂、及びこれらのメラミン樹脂を2種以上混合した混合型メラミン樹脂等が挙げられる。さらに、アルキルエーテル型メラミン樹脂としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル/ブチル混合アルキルエーテル型メラミン樹脂等が挙げられる。
【0037】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添XDI、水添TDI、水添MDI等の脂環族ジイソシアネート、及びこれらのウレトジオン体、アロファネート体、アダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体等のジイソシアネート2量体、3量体、またはそれ以上のジイソシアネートからなる化合物を挙げることができる。
【0038】
ブロックポリイソシアネート化合物としては、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、例えば、ブタノール等のアルコール類、メチルエチルケトオキシム等のオキシム類、ε-カプロラクタム類等のラクタム類、マロン酸ジエステル、アセト酢酸エステル等の活性メチレン類、イミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール類、m-クレゾール等のフェノール類等によりブロックしたものを挙げることができる。
【0039】
ポリカルボジイミド化合物としては、親水性カルボジイミド化合物が好ましい。親水性カルボジイミド化合物として、例えば、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するポリカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、NCO/OHのモル比が1を超えるような比率で反応させ、得られた反応生成物に、活性水素及び親水性部分を有する親水化剤を反応させたもの等が挙げられる。
【0040】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、30,000以上の質量平均分子量を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂(塩素化及び/又は変性されたものも含む)、エポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0041】
本発明に使用される水性第1着色塗料組成物(BC1)の着色顔料としては、例えば、酸化チタン顔料、酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化物顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料、カーボンブラック顔料等が挙げられる。これらの着色顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明に使用される水性第1着色塗料組成物(BC1)に含まれる着色顔料の合計含有量は特に限定されないが、ビヒクルとして使用される樹脂不揮発成分の合計量100質量部に対して10~200質量部であることが好ましく、30~180質量部であることがより好ましく、50~160質量部であることが特に好ましい。
【0043】
また、本発明に使用される水性第1着色塗料組成物(BC1)は、さらに光輝性顔料を含んでもよい。光輝性顔料としては、例えば、未着色又は着色アルミニウム顔料、蒸着金属フレーク顔料、透明又は半透明な基材を金属酸化物で被覆した光干渉性顔料等を挙げることができる。これらの光輝性顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明に使用される水性第1着色塗料組成物に含まれる光輝性顔料の合計含有量は特に限定されないが、ビヒクルとして使用される樹脂不揮発成分の合計量100質量部に対して0~3.0質量部であることが好ましく、0~25.0質量部であることがより好ましく、0~20.0質量部であることが特に好ましい。
【0045】
本発明に使用される水性第1着色塗料組成物(BC1)は、さらに必要に応じて、有機溶剤、および添加剤、例えば、表面調整剤、増粘剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種塗料用添加剤、体質顔料等を適宜配合することができる。有機溶剤の例としては、水性第1着色塗料組成物(BC1)の製造に慣用の有機溶剤、例えばトルエン、キシレン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2-ブトキシエチル、酢酸ペンチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル、イソプロパノール、ブタノール、2-ブトキシエタノール等のアルコール、エーテル、塩素化炭化水素などを含む脂肪族炭化水素、またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0046】
本発明に使用される水性第1着色塗料組成物の塗装時の固形分含有率は特に限定されないが、10.0~50.0質量%が好ましく、20.0~30.0質量%がより好ましい。
【0047】
本発明に使用される水性第1着色塗料組成物(BC1)は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレー等の方法により塗装することができる。水性第1着色塗料組成物(BC1)の塗装後は、第1着色塗膜に含まれる水分を蒸発させるために、70℃~80℃、3分から5分にわたる加熱(フラッシュオフ)を行ってもよいし、行わずに室温で放置するだけでもよい。フラッシュオフを行う場合は、塗膜が硬化しないように、上述の範囲を目安として温度、時間範囲を選定して行われる。
【0048】
水性第1着色塗料組成物(BC1)の硬化膜厚は特に限定されないが、後述の工程(4)の加熱処理の後の膜厚(乾燥膜厚)が、好ましくは4~30μm、より好ましくは10~30μmとなるように水性第1着色塗料組成物(BC1)の塗装が行われる。
【0049】
[工程(2)]
工程(1)で得られ、任意にフラッシュオフまたは室温放置を行った未硬化の第1着色塗膜上に、水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)が塗装され、未硬化の第2着色塗膜が形成される。
【0050】
[水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)]
工程(2)に使用される水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)は、樹脂成分と着色顔料を含む。
【0051】
水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)に含まれる樹脂成分と着色顔料の詳細は、水性第1着色塗料組成物(BC1)に記載したものと同様である。ただし、水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)は1液型として使用するため、硬化剤としてポリイソシアネート化合物、または、ポリカルボジイミド化合物を用いることは好ましくない。水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)は、樹脂成分を含み、着色顔料を含まず光輝性顔料を含むものであってもよい。水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)における各成分の使用量の詳細も水性第1着色塗料組成物(BC1)について記載したものと同様である。さらに、水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)の樹脂成分、着色顔料、光輝性顔料はそれぞれ、対応する水性第1着色塗料組成物(BC1)の各成分と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0052】
また、水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)においても、水性第1着色塗料組成物(BC1)について挙げた有機溶剤および添加剤等を用いることができる。
【0053】
本発明に使用される水性1液型第2着色塗料組成物の塗装時の固形分含有率は特に限定されないが、5.0~50.0質量%が好ましく、20.0~30.0質量%がより好ましい。
【0054】
水性1液型第2着色塗料組成物(BC1)の塗装も、水性第1着色塗料組成物(BC1)の場合と同様に、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレー等の方法で行われる。さらに、一般に、水性第2の着色塗料組成物(BC2)の塗装後は、上述したフラッシュオフが行われる。
【0055】
第2着色塗膜の乾燥膜厚は、好ましくは3~20μm、より好ましくは5~15μmとなるように水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)の塗装が行われることが好ましい。なお、第2着色塗膜の乾燥膜厚とは、後述の工程(4)の加熱処理の後の膜厚である。
【0056】
[工程(3)]
本発明の複層塗膜形成方法では、工程(3)として、未硬化の第2着色塗膜上にクリヤ塗料組成物(CC)が塗装され、未硬化のクリヤ塗膜が形成される。
【0057】
[クリヤ塗料組成物(CC)]
本発明の複層塗膜形成方法に使用されるクリヤ塗料組成物(CC)は、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と、イソシアネート硬化剤(A2)と、1分子中に少なくとも2つの水酸基を有する不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)と、を含む。
【0058】
[水酸基含有アクリル樹脂(A1)]
本発明に使用される水酸基含有アクリル樹脂(A)は、水酸基含有アクリルモノマーの単独重合によって得られる単独重合体、または水酸基含有アクリルモノマーを含んだモノマー混合物のラジカル共重合等公知の方法によって得られる共重合体として得ることができる。
【0059】
水酸基含有アクリルモノマーとしては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸の2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、3-ヒドロキシプロピル又は4-ヒドロキシブチル等のエステル、アクリル酸又はメタクリル酸2-ヒドロキシエチルのε-カプロラクトン、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド開環付加物等が挙げられる。これらの水酸基含有アクリルモノマーは、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
また、上述の水酸基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸、及びそのメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、2-エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル等のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、α-メチルスチレン、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの共重合可能なモノマーは、前記水酸基含有アクリルモノマーに対して、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の重合は、通常、公知の重合開始剤を用いて行われる。
【0061】
水酸基含有アクリル樹脂(A)の水酸基価は、共重合するモノマー中の水酸基含有アクリルモノマーの含有量で決定される。本発明に用いる水酸基含有アクリル樹脂(A)の水酸基価は特に限定されないが、80~200mgKOH/gであることが好ましく、80~190mgKOH/gであることが好ましい。
【0062】
さらに、水酸基含有アクリル樹脂(A)の質量平均分子量は、共重合時の反応条件で決定される。本発明に用いる水酸基含有アクリル樹脂(A)の質量平均分子量は特に限定されないが、2,000~30,000であることが好ましく、3,000~2,5000 であることがより好ましく、4、000~20,000であることが特に好ましい。なお、本発明においては、質量平均分子量は、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(GPC)により、温度40℃、流速1m/分で測定したデータを、ポリスチレンの質量平均分子量を基準にして換算したときの値として求めた。ここで、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(GPC)のカラムは、TSKgel G2000HXL、G3000HXL、G4000HXL、G5000HXL(商品名、東ソー株式会社製)を組み合わせて用いた。
【0063】
水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1種単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
[イソシアネート硬化剤(A2)]
本発明に使用されるイソシアネート硬化剤(A2)は、塗料用途に用いられているものであれば、特に限定されることなく、芳香族、脂肪族、脂環族等の各種イソシアネート化合物を使用することができる。このようなイソシアネート硬化剤(A2)としては、
例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添XDI、水添TDI、水添MDI等の脂環族ジイソシアネート、及びこれらのウレトジオン体、アロファネート体、アダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体等のジイソシアネート2量体、3量体、またはそれ以上のジイソシアネートからなる化合物を挙げることができる。また、2-イソシアネートエチル-2,6-ジイソシアネートカプロエート(LTI)、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン等の脂肪族トリイソシアネート化合物であってもよい。さらに、これらのイソシアネート基の一部をアミノ基含有のシランカップリング剤等で変性したものであってもよい。これらのイソシアネート硬化剤(A2)は、1種単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
本発明に使用されるクリヤ塗料組成物(CC)中では、水酸基含有アクリル樹脂(A)の水酸基1当量に対して、イソシアネート硬化剤(A2)のイソシアネート基が0.8~3.0当量の割合となるように混合されるのが好ましく、0.9~3.0当量がより好ましく、0.9~2.5当量が特に好ましい。
【0066】
本発明において、クリヤ塗料組成物(CC)は、水酸基含有アクリル樹脂(A)およびイソシアネート硬化剤(A2)を必須の樹脂成分とし、このほか任意の樹脂成分を含んでもよい。任意の樹脂成分として、例えば、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂等を挙げることができる。
【0067】
[不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)]
本発明において用いられる、1分子中に少なくとも2つのヒドロキシ基を有する不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)(不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)ともいう)は、例えば、不飽和脂肪酸と1分子中に少なくとも3つのヒドロキシ基を有するポリオールとのエステル化反応によって得ることができる。
【0068】
不飽和脂肪酸の好ましい例としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸及びそれらの組み合わせ等が挙げられ、その中でもリシノレイン酸が特に好ましい。なお、得られる不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)が、1分子中に少なくとも1つの不飽和基を有する限り、不飽和脂肪酸の一部を飽和脂肪酸に変更することもできる。飽和脂肪酸の好ましい例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、9,10-ジヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0069】
また、1分子中に少なくとも3つのヒドロキシ基を有するポリオールの好ましい例としては、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、ジトリエチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、テトラキス(2-ヒドロキシエチル)メタン、グルセリン、ジグリセリン、キシリトール、ソルビトール、ガラクチトール、スクロース及びそれらの組み合わせ等が挙げられ、その中でもグルセリンが特に好ましい。
【0070】
一般に、不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)は、例えば質量平均分子量3000以下、特に2000以下のオリゴマー状の分子とされる。
【0071】
本発明のクリヤ塗装組成物(CC)の製造に用いられる水酸基含有アクリル樹脂(A1)と不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)に関し、水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上の溶解度パラメーターと前記不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターとの距離Raが4.0以下、好ましくは0.5~3.5の範囲とされる。
【0072】
上述のハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)は、C.M.Hansenによって開発された、物質の溶解性を示すためのパラメーターである(C.M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A User‘s Handbook、1999年)。本発明においては、ハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)を、D.W.van KrevelenとP.J.Hoftyzerが提案したグループ寄与法を用いて求めた(D.W.van Krevelen、P.J.Hoftyzer共著、Properties of Polymers 2nd Edition、1976年)。さらに、水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上における溶解度パラメーターと不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上における溶解度パラメーターとの距離Raを、以下の式(1)に従って求め、両者の相溶性を示す指標とした。
【0073】
Ra=[(4(δD2-δD1)2+(δP2-δP1)2+(δH2-δH1)2]1/2・・・(1)
【0074】
ここで、δD1、δP1、及びδH1は水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上における溶解度パラメーターの分散項、分極項、及び水素結合項をそれぞれ示す。また、δD2、δP2、及びδH2は不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上における溶解度パラメーターの分散項、分極項、及び水素結合項をそれぞれ示す。
【0075】
上記式(1)によるハンセン空間上における溶解度パラメーターの距離Raが4.0以下となるように、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)とを選定して用いることにより、クリヤ塗料組成物(CC)における水酸基含有アクリル樹脂(A1)と不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)の相溶性が良好となる。これにより、不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)は、クリヤ塗膜の内部において、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と良好に混ざり合った状態で、水酸基含有アクリル樹脂(A1)とともに硬化反応に寄与するため、クリヤ層の架橋密度が高くなり、リコート密着性、耐ガソリン性、耐チッピング性、耐水性等の塗膜性能をバランスよく満足する硬化複層塗膜を得ることができる。
【0076】
不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)の配合量(固形分)は、クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、1~20質量%、好ましくは 3~20質量%とされる。不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)の配合量を上記の範囲とすることにより、得られた硬化複層塗膜は、リコート密着性、耐ガソリン性、耐チッピング性、耐水性等の塗膜性能をバランスよく満足することができるようになる。
【0077】
さらに、クリヤ塗料組成物(CC)は、ウレタン硬化触媒(E)を含むことが好ましい。
【0078】
[ウレタン硬化触媒(E)]
クリヤ塗料組成物(CC)にウレタン硬化触媒(E)を添加することにより、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と、イソシアネート硬化剤(A2)と、不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)と、からのウレタン結合生成反応が促進される。ウレタン硬化触媒(E)としては、例えばビスマス系化合物、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、亜鉛系化合物等が挙げられる。
【0079】
上記ビスマス系化合物としては、例えばビス(アセチルアセトン)ビスマス、2-エチルヘキサン酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、サリチル酸ビスマス等が挙げられる。
【0080】
上記アルミニウム系化合物としては、例えばアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
【0081】
上記スズ系化合物としては、例えばジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、ジメチルスズクロリド、ジブチルスズクロリド、ジn-オクチルスズジラウレート等が挙げられる。
【0082】
上記亜鉛系化合物としては、例えば亜鉛アセチルアセトナート、プロピオン酸亜鉛、オクタン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛、ネオデカン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、リノール酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、安息香酸亜鉛、サリチル酸亜鉛等が挙げられる。
【0083】
ウレタン硬化触媒(E)の配合量(固形分)は、クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、2質量%以下、好ましくは0.001 ~1.5質量%とされる。
【0084】
また、本発明に使用されるクリヤ塗料組成物(CC)は、透明性を損なわない程度に着色顔料を含んでいてもよい。着色顔料としては、例えば、酸化チタン顔料、酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化物顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料、カーボンブラック顔料等が挙げられる。これらの着色顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
本発明に使用されるクリヤ塗料組成物(CC)に含まれる着色顔料の合計含有量は特に限定されないが、クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して10質量%以下であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましい。
【0086】
本発明に使用されるクリヤ塗料組成物(CC)は、さらに必要に応じて、有機溶剤等の溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種塗料用添加剤、体質顔料等を適宜配合することができる。有機溶剤の例としては、クリヤ塗料組成物(CC)の製造に慣用の有機溶剤、例えばトルエン、キシレン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2-ブトキシエチル、酢酸ペンチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル、エーテル、塩素化炭化水素などを含む脂肪族炭化水素、またはこれらの混合物を挙げることができる。ただし、アルコールは硬化反応の妨げになることが想定される場合は、使用が推奨されない。
【0087】
本発明に使用されるクリヤ塗料組成物(CC)の塗装時の固形分は特に限定されないが、30~70質量%が好ましい。
【0088】
本発明に使用されるクリヤ塗料組成物(CC)は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレー等の方法により塗装することができる。一般に、クリヤ塗料組成物(CC)の塗装後は、室温で5~20分間放置後、加熱硬化が行われる。
【0089】
[工程(4)]
本発明の複層塗膜形成方法では、工程(4)として、工程(1)~(3)で形成された未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜、および未硬化のクリヤ塗膜を、同時に70~100℃、好ましくは80~100℃で加熱することにより、第1着色塗膜、第2着色塗膜およびクリヤ塗膜がすべて硬化し、複層塗膜が形成される。
【0090】
加熱温度を70℃以上とすることにより硬化反応を十分に進めることができ、100℃以下とすることによりエネルギーの消費を抑制することができる。加熱時間は、一般に、5~60分間であることが好ましく、10~50分間であることがより好ましく、15~40分間であることが特に好ましい。本発明では、加熱は公知の手段により行うことができ、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉を使用できる。
【0091】
なお、本発明において単に「複層塗膜」と記載する場合は、工程(4)による加熱硬化が完了した塗膜を意味し、工程(4)前の未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜、および未硬化のクリヤ塗膜からなる「未硬化の複層塗膜」と区別する。
【0092】
図1~
図4に、本発明における複層塗膜の模式断面図を示し、これらを用いて本発明の複層塗膜の製造方法、またはこれにより得られる複層塗膜の更なる実施形態を説明する。ここで、
図1~
図4の複層塗膜に含まれるクリヤ塗膜は、本発明のクリヤ塗料組成物の実施の形態にも該当する。
【0093】
図1に第1の実施形態を示す。すなわち、
図1(a)には、自動車車体用の金属板等の被塗物(図示せず)の上に、上述の工程(1)~(4)に従い、下から、未硬化の第1着色塗膜BC1-ncd1、未硬化の第2着色塗膜BC2-ncd1、未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd1が順次塗装されて得られた未硬化の複層塗膜が示されている。
【0094】
図1(a)の最上層に位置する未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd1は、すでに説明したようにクリヤ塗料組成物(CC)から得られるものであり、水酸基含有アクリル樹脂(A1)、イソシアネート硬化剤(A2)および不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)を含むものである。ここで、クリヤ塗料組成物(CC)において、水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上の溶解度パラメーターと不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターとの距離Raが4.0以下、好ましくは0.5~3.5となるように、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)とを選定して用いることにより、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)の相溶性が良好となる。そして、本発明のクリヤ塗料組成物(CC)中、不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)(●で示した)が未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd1中に均一に存在する。
【0095】
第1の実施形態では、クリヤ塗料組成物(CC)中で、水酸基含有アクリル樹脂(A)の水酸基1当量に対して、イソシアネート硬化剤(A2)のイソシアネート基が0.8~3.0当量の割合となるように混合されるのが好ましく、0.9~3.0当量がより好ましく、0.9~2.5当量が特に好ましい。
【0096】
図1(a)の未硬化の複層塗膜に対し、加熱処理h、すなわち焼き付けが開始されると、不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)は、クリヤ塗膜の内部において、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と良好に混ざり合った状態を維持して、水酸基含有アクリル樹脂(A1)とともにイソシアネート硬化剤(A2)との硬化反応に寄与する。これにより、高い架橋密度を有する硬化したクリヤ塗膜CC-cd1を含む本発明の複層塗膜が完成する。
【0097】
第2の実施形態は、第1の実施形態として記載した事項に加えて、水性第1着色塗料組成物(BC1)およびクリヤ塗料組成物(CC)がさらに特定のものとされている。すなわち、
図2に示した第2の実施形態では、水性第1着色塗料組成物(BC1)が、カルボキシル基含有樹脂(B1)及びカルボジイミド基含有硬化剤(B2)(ポリカルボジイミド化合物(B2)ともいう)を含み、クリヤ塗料組成物(CC)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基1当量に対し、イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基を0.8~1.5当量、特に0.9~1.5当量となる割合で含有した場合の例を示している。
【0098】
すなわち、第2の実施形態に係る複層塗膜は、水性第1着色塗料組成物(BC1)は、上記の工程(1)に関連して挙げた樹脂成分としてカルボキシル基含有樹脂(B1)およびポリカルボジイミド化合物(B2)とを含んでいる。カルボキシル基含有樹脂(B1)からなる組成物1と、これとは別のポリカルボジイミド化合物(B2)を含む組成物2とを2液型塗料として用意して、塗装の直前に両者を混合して使用することが好ましい。カルボキシル基含有樹脂(B1)とポリカルボジイミド化合物(B2)とは、混合され、工程(1)において塗装され、さらに工程(4)における加熱により反応する。
【0099】
水性第1着色塗料組成物(BC1)に含まれるカルボキシル基含有樹脂(B1)の好ましい例としては、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、カルボキシル基含有アクリルウレタン樹脂、カルボキシル基含有ポリウレタン-ポリウレア粒子、カルボキシル基含有ウレタンコア/アクリルシェル型粒子等が挙げられる。
【0100】
また、ポリカルボジイミド化合物(B2)の好ましい例としては、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するポリカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、NCO/OHのモル比が1を超えるような比率で反応させ、得られた反応生成物に、活性水素及び親水性部分を有する親水化剤を反応させたもの等が挙げられる。
【0101】
図2(a)に示すように、第2の実施形態では、未硬化の第1着色塗膜BC1-ncd2、未硬化の第2着色塗膜BC2-ncd2、および未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd2が順次積層される。未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd2にはイソシアネート硬化剤(A2) (▲で示した)が含まれている。
図2(a)の未硬化の複層塗膜に対し、加熱処理h、すなわち焼き付けが開始されると、イソシアネート硬化剤(A2)の極性が高いため、未だ硬化の完了していないクリヤ塗膜から一部のイソシアネート硬化剤(A2)が、第2着色塗膜に移動する。そして、加熱時間の推移とともにクリヤ塗膜内、および第2着色塗膜内のイソシアネート硬化剤(A2)が各塗膜内の水酸基含有樹脂と反応し、未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd2および未硬化の第2着色塗膜BC2-ncd2が硬化する。一方、未硬化の第1着色塗膜BC1-ncd2は塗膜内のカルボキシル基とカルボジイミド基の反応により硬化する。これにより、硬化した第1着色塗膜BC1-cd2、硬化した第2着色塗膜BC2-cd2、および硬化したクリヤ塗膜CC-cd2からなる本発明の複層塗膜が完成する。
【0102】
第3の実施形態は、第1の実施形態として記載した事項に加えて、クリヤ塗料組成物(CC)がさらに特定のものとされている。すなわち、
図3に示した第3の実施形態では、クリヤ塗料組成物(CC)中の、水酸基含有アクリル樹脂(A1)とイソシアネート硬化剤(A2)の使用割合を所定の範囲内とし、さらにイソシアネート硬化剤(A2)の種類とその使用割合とを更に決定することにより、特に良好な硬化状態を有する複層塗膜を得ることが可能となる。
【0103】
図3(a)に示すように、第3の実施形態でも、未硬化の第1着色塗膜BC1-ncd3、未硬化の第2着色塗膜BC2-ncd3、および未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd3が順次積層される。未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd3を構成するクリヤ塗料組成物(CC)には、水酸基含有アクリル樹脂(A1)と、イソシアネート硬化剤(A2)が含まれ、イソシアネート硬化剤(A2)としてはジイソシアネートの2量体(A2-1)(2量体(A2-1)ともいう)(◇で示した)と、ジイソシアネートの3量体以上の化合物(A2-2)(3量体等(A2-2)ともいう) (△で示した)が含まれている。
【0104】
ジイソシアネートの2量体(A2-1)の例としては、ウレトジオン構造を有するジイソシアネート化合物、ジイソシアネートの3量体等(A2-2)としてはイソシアヌレート構造を有するトリイソシアネート化合物が好ましい。
【0105】
また、上記の2量体(A2-1)、および3量体等(A2-2)を製造するためのジイソシアネートは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、例えば、上記の工程(1)に関連して挙げたジイソシアネートを挙げることができる。第3の実施の形態では、2量体(A2-1)の分子量が3量体等(A2-2)の分子量よりも小さいことが好ましい。また、イソシアネート硬化剤(A2)として、2量体(A2-1)および3量体等(A2-2)の以外のポリイソシアネート(他のポリイソシアネートともいう)を含んでもよい。
【0106】
次いで、
図3(a)の未硬化の複層塗膜に対し、工程(4)による加熱処理h、すなわち焼き付けが開始されると、ジイソシアネートの2量体(A2-1)および3量体等(A2-2)の極性が高いため、未だ硬化の完了していないクリヤ塗膜から、ジイソシアネートの2量体(A2-1)および3量体等(A2-2)の各一部が、第2着色塗膜BC2-ncd3および第1着色塗膜BC1-ncd3に移行する。
【0107】
第3の実施形態では、クリヤ塗料組成物(CC)は、水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基1当量に対し、イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基が1.5~3.0当量、好ましくは1.5~2.5当量となる量で、水酸基含有アクリル樹脂(A1)とイソシアネート硬化剤(A2)を含む。すなわち、イソシアネート硬化剤(A2)中のイソシアネート基を水酸基含有アクリル樹脂(A1)中の水酸基に対して、過剰に存在させることにより、未反応のイソシアネート硬化剤(A2)が第2着色塗膜BC2-ncd3、さらには第1着色塗膜BC1-ncd3に移行するように構成されている。ジイソシアネートの2量体(A2-1)および3量体等(A2-2)を含むイソシアネート硬化剤(A2)は、第2着色塗膜BC2-ncd3、さらには第1着色塗膜BC1-ncd3に移動して、各塗膜内の水酸基含有樹脂と反応して硬化した第2着色塗膜BC2-cd3および硬化した第1着色塗膜BC1-cd3が形成される。
【0108】
2量体(A2-1)の分子量を3量体等(A2-2)の分子量よりも小さくすることで、2量体(A2-1)が最下層である第1着色塗膜(BC1-ncd3)にまで移動することができるようになり、第1着色塗膜BC1-ncd3の硬化を十分なものとすることができる。
【0109】
また、2量体(A2-2)と3量体等(A2-1)とを固形分質量比で10/90~40/60の範囲内で配合することにより、第2着色塗膜BC2-ncd3と第1着色塗膜BC1-ncd3の両方を十分硬化させることができる。
【0110】
これにより、硬化した第1着色塗膜BC1-cd3、硬化した第2着色塗膜BC2-cd3、および硬化したクリヤ塗膜CC-cd3からなる本発明の複層塗膜が完成する。
【0111】
第4の実施形態は、第1の実施形態として記載した事項に加えて、クリヤ塗料組成物(CC)がさらに特定のものとされている。すなわち、
図4に示した第4の実施形態は、クリヤ塗料組成物(CC)に3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)を配合したものである。
【0112】
第4の実施形態に関し、
図4(a)には、未硬化の第1の着色塗膜BC1-ncd4、未硬化の第2の着色塗膜BC2-ncd4、および未硬化のクリヤ塗膜CC-ncd4が順次積層された未硬化の複層塗膜が示されている。クリヤ塗料組成物(CC)から構成されたクリヤ塗膜CC-ncd4は、イソシアネート硬化剤(A2)(▲で示した)と3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)(■で示した)を含んでいる。
【0113】
次いで、
図4(a)の未硬化の複層塗膜に対し、加熱処理hが開始されると、イソシアネート硬化剤(A2)および3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)の極性が高いため、未だ硬化の完了していないクリヤ塗膜から、イソシアネート硬化剤(A2)および3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)の各一部が、第2着色塗膜BC2-ncd4、さらには第1着色塗膜BC1-ncd4に移行する。3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)は、イソシアネート硬化剤(A2)よりも分子量が小さく粘度も低いため、最下層である第1着色塗膜BC1-ncd4にまで移動することができ、第1着色塗膜BC1-ncd4の硬化を十分なものとすることができる。
【0114】
また、3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物(A3)の配合量(固形分)を、クリヤ塗料組成物(CC)に含まれる全ての樹脂成分の固形分の総質量に対して、2~50質量%、好ましくは2~20質量%とすることにより、第2着色塗膜BC2-ncd4と第1着色塗膜BC1-ncd4の両方を十分硬化させることができる。
これにより、硬化した第1着色塗膜BC1-cd4、硬化した第2着色塗膜BC2-cd4、および硬化したクリヤ塗膜CC-cd4からなる本発明の複層塗膜が完成する。
【0115】
以上のように、本発明の複層塗膜は
図1~4に示されているような単一の複層塗膜として自動車車体などの被塗物の外装コーティングとされる。
【0116】
また、複層塗膜のリコートが必要とされる場合には、硬化したクリヤ塗膜CC-cd1の上に、さらに未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜、未硬化のクリヤ塗膜を順次塗装して、その後に加熱処理を行うことで、複層塗膜の積層体とすることもできる。その場合、クリヤ塗膜CC-cd1は、不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)により架橋密度が高くなるため、良好なリコート密着性を示す。
【0117】
このように、本発明の複層塗膜の製造方法、または本発明のクリヤ塗膜組成物(CC)によれば、低温(70~100℃)の加熱においても、リコート密着性、耐ガソリン性、耐チッピング性、耐水性等の塗膜性能をバランスよく満足することができる複層塗膜を製造することができる。
【0118】
本発明の複層塗膜形成方法およびこれから得られる複層塗膜は、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体、部材および部品について適用可能である。そして、金属を被塗物とする場合には特に自動車車体に対し、プラスチックを被塗物とする場合には、特に自動車の内外装部品の使用に有効である。
【0119】
さらに、本発明のクリヤ塗料組成物(CC)は、水性第1着色塗料組成物(BC1)から形成された未硬化の第1着色塗膜上の水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)から形成された未硬化の第2着色塗膜上に塗布されて未硬化のクリヤ塗膜を形成し、第1着色塗膜および第2着色塗膜と、同時に加熱硬化して複層塗膜を形成する。すなわち、本発明のクリヤ塗料組成物(CC)は、本発明の方法により形成される複層塗膜の一部として、上述の自動車車体、部材および部品に適用される。
【実施例0120】
以下、本発明について実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、配合量、含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
【0121】
[樹脂特性値測定方法]
本発明において、樹脂特性値は以下の方法により測定した。
1.樹脂固形分
サンプル1.0gを130℃で60分加熱した後の質量を測定することにより、樹脂固形分を求めた。
2.ゲル分率
まず、サンプル1.0gを130℃で60分加熱し、質量を測定した。次に、加熱したサンプルを過剰なテトラヒドロフラン中に25℃で24時間浸漬し、溶解成分を抽出した。その後、残った不溶成分を50℃で4時間乾燥した後の質量を測定することにより、ゲル分率を求めた。
3.水酸基価
JIS-K1557に準拠して測定した。
4.酸価
JIS-K5601に準拠して測定した。
【0122】
<製造例1:水性第1着色塗料組成物及び水性1液型第2着色塗料組成物(BC1およびBC2)用ウレタンコア/アクリルシェル型粒子の水性分散液CS-1の製造>
1-(1) ポリエステルポリオール溶液PE-1の製造
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された炭素数36のジカルボン酸が主成分であるダイマー酸PRIPOL1017(商品名、クローダジャパン株式会社製)54.0部、イソフタル酸16.3部、1,6-ヘキサンジオール29.7部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、酸価が3.5mgKOH/gになったところで、80℃以下まで冷却した。最後にメチルエチルケトン31.0部を加え、ポリエステルポリオール溶液PE-1を得た。ポリエステルポリオール溶液PE-1の特性値は、酸価3.5mgKOH/g、水酸基価73mgKOH/g、樹脂固形分75質量%であった。
【0123】
1-(2) アリル基含有不飽和ポリエステルウレアウレタンの水性分散液PU-1の製造
還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例1-(1)で得られたポリエステルポリオール溶液PE-1を586.7部、ジメチロールプロピオン酸71.0部、メチルエチルケトン278.7部を仕込み、窒素気流下、攪拌し、均一にした。
【0124】
次に、得られた溶液にイソホロンジイソシアネート279.5部を添加した。発熱反応がおさまった後、反応混合物を撹拌しながら徐々に80℃まで加熱し、この温度で、溶液のイソシアネート基の含有量が3.3質量%になるまで撹拌を続けた。その後、アリルアルコール9.4部、トリメチロールプロパン22.2部、メチルエチルケトン21.3部を添加し、溶液のイソシアネート基の含有量が1.0質量%に減少するまで80℃で撹拌した。次いで、ジエタノールアミン22.6部を加え、遊離イソシアネート基がもはや検出できなくなるまでイソシアネート基の含有量をモニターした。次に、得られたポリウレタン溶液にメチルエチルケトン28.8部、メトキシプロパノール142.3部、トリエチルアミン45.5部を加えた。トリエチルアミンの添加30分後、溶液の温度を60℃に下げ、脱イオン水1977部を30分間かけて攪拌しながら加えた。その後、還流冷却器に分離管を取り付け、分散体の樹脂固形分が29質量%となるまで減圧下60℃で脱溶剤を行い、アリル含有不飽和ポリエステルウレアウレタンの水性分散液PU-1を得た。
【0125】
得られたアリル含有不飽和ポリエステルウレアウレタンの水性分散液PU-1は、酸価35mgKOH/g、水酸基価28mgKOH/g、pH7.1であった。
【0126】
1-(3) ウレタンコア/アクリルシェル型粒子の水性分散液CS-1の製造
2系統の滴下装置、還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例1-(2)で得られたアリル含有不飽和ポリエステルウレアウレタンの水性分散液PU-1を1961.2部、メトキシプロパノール43.3部、脱イオン水744.4部、トリエチルアミン3.6部を仕込み、窒素気流下、攪拌し、80℃に加熱した。その後、過硫酸アンモニウム0.6部を脱イオン水35.7部に溶解し、反応器に加えた。
【0127】
続いて、撹拌下、一方の滴下装置を用いて、n-ブチルメタクリレート538.3部、2-ヒドロキシエチルアクリレート26.3部、アリルメタクリレート4.2部、ブチルグリコール70.0部からなるモノマー混合物溶液を5時間かけて等速滴下した。上記滴下装置による滴下と同時に、もう一方の滴下装置を用いて、過硫酸アンモニウム1.1部、脱イオン水71.3部からなる重合開始剤溶液を5時間かけて等速滴下した。
【0128】
モノマー混合物溶液及び重合開始剤溶液の滴下終了後、得られた反応混合物を80℃でさらに1時間撹拌し、次いで室温に冷却し、ウレタンコア/アクリルシェル型粒子の水性分散液CS-1を得た。
【0129】
得られたウレタンコア/アクリルシェル型粒子の水性分散液CS-1は、酸価18mgKOH/g、水酸基価25mgKOH/g、樹脂固形分が33質量%、pH7.1、ゲル分率83質量%であった。
【0130】
<製造例2:水性第1着色塗料組成物及び水性1液型第2着色塗料組成物(BC1およびBC2)用ポリウレタン-ポリウレア粒子の水性分散液UU-1の製造>
2-(1) ジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンによるジケチミン溶液DK-1の製造
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ジエチレントリアミン180.0部とメチルイソブチルケトン531.9部を仕込み、窒素気流下、攪拌し、130~150℃で反応水を除去した。反応水の留出が停止した時点で冷却し、ジケチミン溶液DK-1を得た。
【0131】
2-(2) ポリウレタン-ポリウレア粒子の水性分散液UU-1の製造
還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例1-(1)で得られたポリエステルポリオール溶液PE-1を746.3部、ジメチロールプロピオン酸27.2部、ジブチル錫ジラウレート3.8部、メチルエチルケトン157.9部を仕込み、窒素気流下、攪拌し、均一にした。
【0132】
次に、得られた溶液にジシクロヘキシルメタン4,4´-ジイソシアネート201.8部を添加した。発熱反応がおさまった後、反応混合物を撹拌しながら徐々に80℃まで加熱した。この温度で、溶液のイソシアネート基の含有量が1.5質量%になるまで撹拌を続けた。その後、メチルエチルケトン626.2部を添加し、反応混合物を40℃に冷却した。冷却後、トリエチルアミン11.8部を2分間かけて添加し、5分間撹拌した。次いで、製造例2-(1)で得られたジケチミン溶液DK-1を30.2部1分間かけて添加し、40℃で30分間撹拌した。さらに、脱イオン水1206部を7分間かけて攪拌しながら加えた。その後、還流冷却器に分離管を取り付け、分散体の樹脂固形分が40質量%となるまで減圧下45℃で脱溶剤を行い、ポリウレタン-ポリウレア粒子の水性分散液UU-1を得た。
【0133】
得られたポリウレタン-ポリウレア粒子の水性分散液UU-1は、酸価17mgKOH/g、pH7.4、ゲル分率87質量%であった。
【0134】
<製造例3:水性第1着色塗料組成物(BC1)用アクリルウレタンの水性分散液AU-1の製造>
3-(1) ポリエステルポリオール溶液PE-2の製造
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、アジピン酸49.9部、1,6-ヘキサンジオール18.5部、ネオペンチルグリコール31.6部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、酸価が3.5mgKOH/gになったところで、80℃以下まで冷却した。最後にメチルエチルケトン21.9部を加え、ポリエステルポリオール溶液PE-2を得た。ポリエステルポリオール溶液PE-2の特性値は、酸価3.5mgKOH/g、水酸基価155mgKOH/g、樹脂固形分80質量%であった。
【0135】
3-(2) アクリルウレタンの水性分散液AU-1の製造
2系統の滴下装置、還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例3-(1)で得られたポリエステルポリオール溶液PE-2を420.0部、ネオペンチルグリコール31.0部、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル27.8部、ジブチル錫ジラウレート0.5部、メチルエチルケトン195.7部を仕込み、窒素気流下、攪拌し、均一にした。
【0136】
次に、得られた溶液にイソホロンジイソシアネート259.9部を添加した。発熱反応がおさまった後、反応混合物を撹拌しながら徐々に80℃まで加熱し、この温度で、溶液のイソシアネート含量が2.2質量%になるまで撹拌を続けた。次いで、トリメチロールプロパン66.7部を添加し、溶液中の遊離イソシアネート基がもはや検出できなくなるまで80℃で撹拌した。その後、得られたポリウレタン溶液にメチルエチルケトン248.9部を添加した。
【0137】
続いて、温度を82℃に調整し、一方の滴下装置を用いて、n-ブチルアクリレート312.5部、メチルメタクリレート312.5部、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート74.7部、アクリル酸58.4部からなるモノマー混合物を3時間かけて等速滴下した。上記滴下装置による滴下と同時に、もう一方の滴下装置を用いて、2,2´-アゾビス(メチルブチロニトリル)22.8部、メチルエチルケトン152.3部からなる重合開始剤溶液を3.5時間かけて等速滴下した。
【0138】
モノマー混合物及び重合開始剤溶液の滴下終了後、得られた反応混合物を82℃でさらに2.5時間撹拌し、ジメチルエタノールアミン56.9部、脱イオン水2242部を添加した。その後、還流冷却器に分離管を取り付け、分散体の樹脂固形分が40質量%となるまで減圧下45℃で脱溶剤を行い、アクリルウレタンの水性分散液AU-1を得た。
【0139】
得られたアクリルウレタンの水性分散液AU-1は、酸価32mgKOH/g、水酸基価57mgKOH/g、pH8.1であった。
【0140】
<製造例4:水性1液型第2着色塗料組成物(BC2)用ポリエステルポリオールの水性分散液PE-3の製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された炭素数36のジカルボン酸が主成分であるダイマー酸PRIPOL1017(商品名、クローダジャパン株式会社製)171.0部、ネオペンチルグリコール72.9部、1,6-ヘキサンジオール82.7部、ヘキサヒドロフタル酸無水物46.2部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、酸価が8.5mgKOH/gになったところで、140℃に冷却した。次に、トリメリット酸無水物76.8部を添加し、180℃で酸価が30mgKOH/gになるまで反応を継続した。その後、120℃に冷却し、ブタノール140.2部を添加し、さらに90℃まで冷却後、ジメチルエタノールアミン1.6部、脱イオン水140.2部を添加することにより、ポリエステルポリオールの水性分散液PE-3を得た。
【0141】
得られたポリエステルポリオールの水性分散液PE-3の特性値は、酸価30mgKOH/g、水酸基価83mgKOH/g、樹脂固形分60質量%、pH7.8であった。
【0142】
<製造例5:水性第1着色塗料組成物BC1-1及びBC1-2の製造>
5-(1) 黒色ペーストPP-1の製造
製造例3で得られたアクリルウレタンの水性分散液AU-1を25.0部、カーボンブラック顔料MA100(商品名、三菱ケミカル株式会社製)10.0部、メチルイソブチルケトン0.1部、ジメチルエタノールアミン1.4部、ポリアルキレングリコールPluriol P900(商品名、BASF社製)2.0部、脱イオン水61.5部を混合し、モーターミルで分散することにより、黒色ペーストPP-1を得た。
【0143】
5-(2) 白色ペーストPP-2の製造
製造例3で得られたアクリルウレタンの水性分散液AU-1を43.0部、二酸化チタン顔料タイピュアR706(商品名、ケマーズ株式会社製)50.0部、1-プロポキシ-2-プロパノール0.3部、脱イオン水6.7部を混合し、モーターミルで分散することにより、白色ペーストPP-2を得た。
【0144】
5-(3) 水性第1着色塗料組成物BC1-1及びBC1-2の製造
表1に列挙した成分を記載の順序で混合し、さらに30分間撹拌した。次に、ジメチルエタノールアミンを添加してpHを8.5に調整した。その後、脱イオン水を添加して、回転粘度計Rheomat RM180(商品名、METTLER TOLEDO社製)を用いて、23℃、せん断速度1000s-1で測定した粘度を100mPa・sに調整した。
【0145】
【表1】
1) サーフィノール104PA(商品名、日信化学工業株式会社製、有効成分50質量%)
2) Rheovis HS 1162(商品名、BASF社製)
3) サイメル327(商品名、オルネクス社製、樹脂固形分90質量%)
4) カルボジライト V-02-L2(商品名、日清紡ケミカル株式会社製、樹脂固形分40質量%)
【0146】
<製造例6:水性1液型第2着色塗料組成物BC2-1の製造>
表2の水相の欄に列挙した成分を記載の順序で混合し、さらに60分間撹拌して水性混合物を得た。次に、別の容器に有機相の欄に列挙した成分を記載の順序で混合し、有機混合物を得た。その次に、得られた有機混合物を水性混合物に添加し、さらに30分間撹拌した。続いて、ジメチルエタノールアミンを添加してpHを8.0に調整した。その後、脱イオン水を添加して、回転粘度計Rheomat RM180(商品名、METTLER TOLEDO社製)を用いて、23℃、せん断速度1000s-1で測定した粘度を100mPa・sに調整した。
【0147】
【表2】
5) Laponite RD(商品名、ビックケミー社製)3質量部、Pluriol P900(商品名、BASF社製)3質量部、脱イオン水94質量部の混合物
6) Rheovis AS 1130(商品名、BASF社製)
7) STAPA IL HYDROLAN 2192 55900/G(商品名、ECKART社製、顔料分60質量%)
【0148】
<製造例7:クリヤ塗料組成物(CC)用水酸基含有アクリル樹脂A1-1~10溶液の製造>
7-(1) 水酸基含有アクリル樹脂A1-1溶液の製造
滴下装置、還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、溶剤として3-エトキシプロピオン酸エチル99.0部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら75℃に加熱した。滴下装置にモノマーとしてスチレン10.0部、4-ヒドロキシブチルアクリレート25.0部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート10.0部、イソブチルメタクリレート55.0部、重合開始剤として2,2´-アゾビス(イソブチロニトリル)1.0部を混合したものを、75℃に保ちながら3時間等速で滴下し、その後、さらに75℃で5時間攪拌を続けた。樹脂固形分測定によって、添加率が98%超えたことを確認後、冷却し、水酸基含有アクリル樹脂A1-1溶液を得た。
【0149】
7-(2) 水酸基含有アクリル樹脂A1-2~10溶液の製造
表3の記載の初期溶剤量、モノマー組成、配合量、及び開始剤量に変更した以外は、水酸基含有アクリル樹脂(A1―1)溶液と同様にして、水酸基含有アクリル樹脂A1-2~10溶液を得た。また、表3には水酸基含有アクリル樹脂A1-1~10のハンセン空間上における溶解度パラメーター(HSP)も記載した。
【0150】
【0151】
以下に、表3中の略称を示す。
ST:スチレン
4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
IBMA:イソブチルメタクリレート
HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
【0152】
<製造例8:クリヤ塗料組成物CC1~52の製造>
8-(1) 不飽和脂肪酸エステルポリオールD-1~5
【0153】
使用した不飽和脂肪酸エステルポリオールD-1(グリセリンのトリリシノレイン酸エステル)の構造を下記に示す。
【0154】
【0155】
使用した不飽和脂肪酸エステルポリオールD-2(グリセリンのジリシノレイン酸エステル)の構造を下記に示す。
【0156】
【0157】
使用した不飽和脂肪酸エステルポリオールD-3(グリセリンのモノリシノレイン酸エステル)の構造を下記に示す。
【0158】
【0159】
使用した不飽和脂肪酸エステルポリオールD-4(ジグリセリンのモノリシノレイン酸エステル)の構造を下記に示す。
【0160】
【0161】
使用した不飽和脂肪酸エステルポリオールD-5(ジペンタエリスリトールのモノリシノレイン酸エステル)の構造を下記に示す。
【0162】
【0163】
また、不飽和脂肪酸エステルポリオールD-1~5のハンセン空間上における溶解度パラメーター(HSP)を表4にまとめた。
【0164】
【0165】
8-(2) クリヤ塗料組成物CC1の製造
84.6部の水酸基含有アクリル樹脂A1-1溶液、3部の不飽和脂肪酸エステルポリオールD-1、22.4部のイソシアネート硬化剤A2-1(水酸基含有アクリル樹脂A1-1中の水酸基1当量に対し、イソシアネート硬化剤A2-1中のイソシアネート基が1.0当量)、及び0.01部のウレタン硬化触媒E-1を計量した後、溶剤として3-エトキシプロピオン酸エチルを用いて、フォードカップ#4の粘度が25秒(20℃)となるように希釈し、ペイントシェイカーで十分均一になるまで攪拌した。その後、目開き200μmのメンブランフィルターで濾過を行い、粗大粒子を除去し、クリヤ塗料組成物CC1を得た。
【0166】
8-(3) クリヤ塗料組成物CC2~52の製造
表5の配合比になるように変更し、クリヤ塗料組成物CC1と同様の手順でクリヤ塗料組成物CC2~52を得た。なお、表5における水酸基含有アクリル樹脂(A1-1~10)溶液の使用量はすべて84.6部である。
【0167】
また、各実施例および比較例における組成ごとに、水酸基含有アクリル樹脂(A1)のハンセン空間上の溶解度パラメーターと不飽和脂肪酸エステルポリオール(D)のハンセン空間上の溶解度パラメーターとの距離Raを求めた。すなわち、表3および表4に記載したδD1、δP1、δH1、δD2、δP2、δH2の値を、下式(1)に代入して得られた値を、Raとして表5に記載する。
【0168】
Ra=[(4(δD2-δD1)2+(δP2-δP1)2+(δH2-δH1)2]1/2・・・(1)
【0169】
【0170】
以下に、表5中の略称を示す。
【0171】
イソシアネート硬化剤A2-a:デュラネートTPA-100(商品名、旭化成株式会社製、ジイソシアネートの3量体以上の化合物)
イソシアネート硬化剤A2-b:デュラネートTKA-100(商品名、旭化成株式会社製、ジイソシアネートの3量体以上の化合物)
イソシアネート硬化剤A2-c:デュラネートTUL-100(商品名、旭化成株式会社製、ジイソシアネートの2量体含有量14%)
イソシアネート硬化剤A2-d:デュラネートTLA-100(商品名、旭化成株式会社製、ジイソシアネートの2量体含有量12%)
イソシアネート硬化剤A2-e:デスモジュールN3400(商品名、コベストロ社製、ジイソシアネートの2量体含有量38%)
3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物A3-1:KBE-9007N(商品名、信越化学株式会社製、(3-イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン)
3-イソシアナトプロピルトリアルコキシシラン化合物A3-2:(3-イソシアナトプロピル)トリメトキシシラン
ウレタン硬化触媒E-1:K-KAT XK-614(商品名、楠本化成株式会社製)
ウレタン硬化触媒E-2:K-KAT 670(商品名、楠本化成株式会社製)
ウレタン硬化触媒E-3:ジブチルスズジラウレート
【0172】
<実施例1~45及び比較例1~7>
[試験板の調製]
リン酸亜鉛処理された冷延鋼板(150mm×75mm×0.8 mm)に、カチオン電着塗料カソガードNo.500(商品名、BASFコーティングス社製)を膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で30分加熱して硬化させた。
【0173】
上記試験板に、表6記載の水性第1着色塗料組成物(BC1)を表6記載の乾燥膜厚になるように静電塗装し、室温で10分間放置してから、水性1液型第2着色塗料組成物BC2-1を乾燥膜厚10μmになるように静電塗装し、室温で5分間放置し、その後80℃で5分予備乾燥(フラッシュオフ)した。次に、表6記載のクリヤ塗料組成物(CC)を乾燥膜厚35μmになるように静電塗装し、室温で10分間放置してから85℃で20分間加熱して複層塗膜が形成された試験塗板を得た。
【0174】
【0175】
[評価]
上記のように作製された試験板1~52について、以下の塗膜性能試験を行った。評価結果を表6に併せて記載した。なお、目視評価結果は評価者20人の観察結果の平均とした。
【0176】
<耐チッピング性>
飛石試験機JA-400型(商品名、スガ試験機株式会社製)の試片保持台に試験板を設置し、-20℃ において、試験板から30cm離れた所から0.39MPa(4kgf/cm2)の圧縮空気により、粒度7号の花崗岩砕石50gを試験板に45度の角度で衝突させた。その後、得られた試験板を水洗して、乾燥し、塗面に布粘着テープ(ニチバン株式会社製)を貼り付け、それを剥離した後、試験板上の塗膜のキズの発生程度等を目視で観察し、下記基準により評価した。
◎:キズの大きさが極めて小さく、電着面や素地の鋼板が露出していない。
○:キズの大きさが小さく、電着面や素地の鋼板が露出していない。
△:キズの大きさは小さいが、電着面や素地の鋼板が露出している。
×:キズの大きさはかなり大きく、素地の鋼板も大きく露出している。
【0177】
<耐ガソリン性>
試験板を無鉛レギュラーガソリン(JISK2202:2012に定義された2号)に20℃で24時間浸漬し、外観を目視で観察し、次に示す基準に従い評価した。
○:異常が認められない。
△:わずかに黄変、フクレなどの異常が認められた。
×:黄変、フクレなどの異常が認められた。
【0178】
<耐水試験:ブリスター>
試験板を40℃の温水に10日間浸漬し、引き上げて乾燥してから、塗装面を目視で観察し、ブリスターの発生を、以下の基準で評価した。
◎:ブリスター発生なし。
〇:全面積に対して、ブリスター発生の面積が10%以下である。
△:全面積に対して、ブリスター発生の面積が11%以上、30%以下である。
×:全面積に対して、ブリスター発生の面積が31%以上である。
【0179】
<耐水試験:密着性>
試験板を40℃の温水に10日間浸漬し、引き上げて乾燥した。その後、試験板の塗膜面に素地に達するようにカッターで切り込み線を入れ、大きさ2mm×2mmのマス目を100個作り、その表面に粘着セロハンテープを貼り付け、20℃においてそれを急激に45°剥離した。評価は、マス目の残存塗膜数から以下の基準により行った。
◎:100個(剥離なし)
〇:99個(一部剥離有り)
△:51個以上98個以下
×: 50個以下
【0180】
<リコート密着性試験>
試験板を室温で7日間放置し、その塗面に同一塗料を同一条件で再塗装し硬化させた。すなわち、実施例1では、水性第1着色塗料組成物BC1―1、水性1液型第2着色塗料組成物BC2-1、クリヤ塗料組成物CC1を順次塗装し、加熱することにより得られた複層塗膜を形成して室温にて7日間放置し、さらにその表面(クリヤ塗料組成物CC1から得られたクリヤ塗膜上)に、同様の材料、すなわち、水性第1着色塗料組成物BC1―1、水性1液型第2着色塗料組成物BC2-1、およびクリヤ塗料組成物CC1による再塗装(リコート)と加熱を行い、複層塗膜を形成した。
【0181】
このように得られた複層塗膜の積層体を、室温で3日間放置した後、上記と同様の密着性試験を行ない、残存塗膜数を調べ、以下の基準で評価した。
◎:100個(剥離なし)
〇:99個(一部剥離有り)
△:51個以上98個以下
×:50個以下
【0182】
以上、本発明者等によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。