(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103216
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】被圧延材の蛇行量予測装置、蛇行量制御装置、蛇行量予測方法、蛇行量制御方法、及び金属帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/68 20060101AFI20240725BHJP
B21B 38/02 20060101ALI20240725BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20240725BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20240725BHJP
B21B 37/58 20060101ALI20240725BHJP
B21B 37/72 20060101ALI20240725BHJP
B21B 37/30 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B21B37/68 Z
B21B38/02
B21C51/00 L
B21B37/00 300
B21B37/58 Z
B21B37/72
B21B37/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007429
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀祐
(72)【発明者】
【氏名】日当 洸介
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 由紀雄
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA06
4E124AA18
4E124CC01
4E124CC05
4E124EE01
4E124EE15
4E124FF01
4E124GG08
(57)【要約】
【課題】被圧延材の尾端部の蛇行量を予測可能な被圧延材の蛇行量予測装置及び蛇行量予測方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る被圧延材の蛇行量予測装置は、熱間仕上圧延機を構成する圧延スタンドにおける被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する被圧延材の蛇行量予測装置であって、圧延スタンドの入側における被圧延材の先端部のウエッジ量を特定する入側ウエッジ特定部と、圧延スタンドの入側における被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する入側キャンバー特定部と、圧延スタンドの出側における被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する出側キャンバー特定部と、入側ウエッジ特定部によって特定された被圧延材の先端部のウエッジ量と、入側キャンバー特定部によって特定された被圧延材の先端部のキャンバー量と、出側キャンバー特定部によって特定された被圧延材の先端部のキャンバー量と、を用いて、圧延スタンドにおける被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する尾端蛇行量予測部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間仕上圧延機を構成する圧延スタンドにおける被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する被圧延材の蛇行量予測装置であって、
前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の先端部のウエッジ量を特定する入側ウエッジ特定部と、
前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する入側キャンバー特定部と、
前記圧延スタンドの出側における前記被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する出側キャンバー特定部と、
前記入側ウエッジ特定部によって特定された前記被圧延材の先端部のウエッジ量と、前記入側キャンバー特定部によって特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、前記出側キャンバー特定部によって特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、を用いて、前記圧延スタンドにおける前記被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する尾端蛇行量予測部と、
を備える、被圧延材の蛇行量予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の被圧延材の蛇行量予測装置によって予測された前記被圧延材の尾端部の蛇行量に基づいて、前記圧延スタンドのレベリング設定値を算出するレベリング設定値算出部と、
前記被圧延材の定常部の圧延中に、前記レベリング設定値算出部によって算出されたレベリング設定値に基づき前記圧延スタンドのレベリングを設定するレベリング設定部と、
を備える、被圧延材の蛇行量制御装置。
【請求項3】
熱間仕上圧延機を構成する圧延スタンドにおける被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する被圧延材の蛇行量予測方法であって、
前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の先端部のウエッジ量を特定する入側ウエッジ特定ステップと、
前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する入側キャンバー特定ステップと、
前記圧延スタンドの出側における前記被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する出側キャンバー特定ステップと、
前記入側ウエッジ特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のウエッジ量と、前記入側キャンバー特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、前記出側キャンバー特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、を用いて、前記圧延スタンドにおける前記被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する尾端蛇行量予測ステップと、
を含む、被圧延材の蛇行量予測方法。
【請求項4】
前記尾端蛇行量予測ステップは、前記入側ウエッジ特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のウエッジ量と、前記入側キャンバー特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、前記出側キャンバー特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、を入力として含み、前記圧延スタンドにおける前記被圧延材の尾端部の蛇行量を出力とする、機械学習により学習された尾端蛇行量予測モデルを用いて、前記圧延スタンドにおける前記被圧延材の尾端部の蛇行量を予測するステップを含む、請求項3に記載の被圧延材の蛇行量予測方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の被圧延材の蛇行量予測方法によって予測された前記被圧延材の尾端部の蛇行量に基づいて、前記圧延スタンドのレベリング設定値を算出するレベリング設定値算出ステップと、
前記被圧延材の定常部の圧延中に、前記レベリング設定値算出ステップにおいて算出されたレベリング設定値に基づき前記圧延スタンドのレベリングを設定するレベリング設定ステップと、
を含む、被圧延材の蛇行量制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の被圧延材の蛇行量制御方法を用いて、金属帯を製造するステップを含む、金属帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被圧延材の蛇行量予測装置、蛇行量制御装置、蛇行量予測方法、蛇行量制御方法、及び金属帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間仕上圧延機では、被圧延材が圧延ロールの幅方向中央部に安定的に存在せず、圧延の進行と共に圧延ロールの幅方向端部側へ移動する蛇行が問題となることがある。被圧延材の蛇行が発生した場合、被圧延材の尾端部が圧延スタンドを抜ける尻抜けの際、被圧延材がサイドガイドに衝突して被圧延材の幅方向端部が折れ込んで圧延される、いわゆる「絞り込み」と呼ばれる操業トラブルが発生することがある。絞り込みが発生すると、圧延ロールにロール疵が発生するため、突発的なロール交換による稼働率の低下、ロール原単位の悪化や半成材の発生による歩留まりの低下という問題が発生する。
【0003】
これに対して、被圧延材の蛇行を制御するために、圧延機のレベリング(圧延機の駆動側と作業側との間の圧下位置差)を調整することが一般的に行われている。しかしながら、被圧延材の蛇行が一旦発生すると、圧延機の駆動側と作業側との間に圧延荷重の差(差荷重)が発生し、圧延ロールの駆動側と作業側との間にロール開度差が生じる。これにより、駆動側と作業側との間で被圧延材の圧下量に差が生じるため、被圧延材の曲がりが増大し、蛇行がさらに促進されることになる。すなわち、被圧延材の蛇行が一旦発生すると、被圧延材の蛇行量が一層大きくなり、絞り込みの発生に至る。このような背景から、被圧延材の蛇行を発生させ得る要因を予め特定し、圧延機のレベリングを調整してから圧延を行う方法が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、複数の圧延スタンドを備えるタンデム圧延機において、圧延初期における被圧延材の蛇行を抑制する方法が記載されている。具体的には、この方法は、まず、第一圧延スタンドにおける被圧延材の入側オフセンター量と、最終圧延スタンドにおける被圧延材の出側オフセンター量と、各圧延スタンドにおける圧延荷重、差荷重、及び片圧下量(レベリング量)をそれぞれ検出する。次に、この方法は、検出値に基づいて各圧延スタンドにおける被圧延材の出側オフセンター量を推定する。そして、この方法は、推定した各圧延スタンドにおける被圧延材の出側オフセンター量が零となるように片圧下修正量(レベリング修正量)を算出し、次材の圧延開始前に、算出した片圧下修正量に従って各圧延スタンドのレベリングを調整する。
【0005】
また、特許文献2には、被圧延材にキャンバーが発生していないが被圧延材が全体的にオフセンターしている場合及び被圧延材にキャンバーが発生している場合のいずれの場合においても被圧延材が蛇行することを抑制する方法が記載されている。具体的には、この方法は、まず、仕上圧延機の第1圧延スタンド入側における被圧延材の先端部のオフセンター量と、粗圧延後の被圧延材の長手方向各位置におけるキャンバー量(曲がり量)を測定する。次に、この方法は、被圧延材の先端部が仕上圧延機の第1圧延スタンドを通過するまでの間に、測定したオフセンター量に基づいて第1圧延スタンドのレベリングを設定する。そして、この方法は、被圧延材の先端部が第1圧延スタンドを通過した後は、測定したキャンバー量に応じて第1圧延スタンドのレベリングを調整する。また、この方法は、仕上圧延機の第2圧延スタンド以後については、圧延条件及び各圧延スタンドの左右のミル剛性差に基づいて作業側と駆動側とでロール間隙が等しくなるように圧下位置を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-201613号公報
【特許文献2】特開2015-157317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法は、タンデム圧延機により圧延されている被圧延材の第一圧延スタンドにおける先端部の入側オフセンター量と、最終圧延スタンドにおける先端部の出側オフセンター量を用いて、次に圧延される被圧延材のオフセンター量を抑制している。このため、現在の被圧延材と次の被圧延材とで被圧延材の材質、厚み、幅等の圧延条件が同じである場合には、一定の蛇行抑制効果が見込まれる。しかしながら、現在の被圧延材と次の被圧延材とで圧延条件が異なる場合には、オフセンター量を抑制できない可能性がある。また、タンデム圧延機の圧延ロールを組み替えた後の1本目の被圧延材については、オフセンター量を抑制することは難しい。一方、特許文献2に記載の方法では、仕上圧延機の第1圧延スタンドにおいて発生する被圧延材の蛇行が仕上圧延機の入側における被圧延材のキャンバーやオフセンターに起因する場合には、一定の効果が得られる。しかしながら、仕上圧延機の入側で被圧延材がウエッジ(幅方向の厚みの偏差)を有する場合や第1圧延スタンドが被圧延材の蛇行を発生させる要因となっている場合には、十分な効果が得られない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、被圧延材の尾端部の蛇行量を予測可能な被圧延材の蛇行量予測装置及び蛇行量予測方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、被圧延材の尾端部の蛇行量を低減可能な被圧延材の蛇行量制御装置及び蛇行量制御方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、尾端部のキャンバー(曲がり)が抑制された金属帯を製造可能な金属帯の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る被圧延材の蛇行量予測装置は、熱間仕上圧延機を構成する圧延スタンドにおける被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する被圧延材の蛇行量予測装置であって、前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の先端部のウエッジ量を特定する入側ウエッジ特定部と、前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する入側キャンバー特定部と、前記圧延スタンドの出側における前記被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する出側キャンバー特定部と、前記入側ウエッジ特定部によって特定された前記被圧延材の先端部のウエッジ量と、前記入側キャンバー特定部によって特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、前記出側キャンバー特定部によって特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、を用いて、前記圧延スタンドにおける前記被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する尾端蛇行量予測部と、を備える。
【0010】
本発明に係る被圧延材の蛇行量制御装置は、本発明に係る被圧延材の蛇行量予測装置によって予測された前記被圧延材の尾端部の蛇行量に基づいて、前記圧延スタンドのレベリング設定値を算出するレベリング設定値算出部と、前記被圧延材の定常部の圧延中に、前記レベリング設定値算出部によって算出されたレベリング設定値に基づき前記圧延スタンドのレベリングを設定するレベリング設定部と、を備える。
【0011】
本発明に係る被圧延材の蛇行量予測方法は、熱間仕上圧延機を構成する圧延スタンドにおける被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する被圧延材の蛇行量予測方法であって、前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の先端部のウエッジ量を特定する入側ウエッジ特定ステップと、前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する入側キャンバー特定ステップと、前記圧延スタンドの出側における前記被圧延材の先端部のキャンバー量を特定する出側キャンバー特定ステップと、前記入側ウエッジ特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のウエッジ量と、前記入側キャンバー特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、前記出側キャンバー特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、を用いて、前記圧延スタンドにおける前記被圧延材の尾端部の蛇行量を予測する尾端蛇行量予測ステップと、を含む。
【0012】
前記尾端蛇行量予測ステップは、前記入側ウエッジ特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のウエッジ量と、前記入側キャンバー特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、前記出側キャンバー特定ステップにおいて特定された前記被圧延材の先端部のキャンバー量と、を入力として含み、前記圧延スタンドにおける前記被圧延材の尾端部の蛇行量を出力とする、機械学習により学習された尾端蛇行量予測モデルを用いて、前記圧延スタンドにおける前記被圧延材の尾端部の蛇行量を予測するステップを含むとよい。
【0013】
本発明に係る被圧延材の蛇行量制御方法は、本発明に係る被圧延材の蛇行量予測方法によって予測された前記被圧延材の尾端部の蛇行量に基づいて、前記圧延スタンドのレベリング設定値を算出するレベリング設定値算出ステップと、前記被圧延材の定常部の圧延中に、前記レベリング設定値算出ステップにおいて算出されたレベリング設定値に基づき前記圧延スタンドのレベリングを設定するレベリング設定ステップと、を含む。
【0014】
本発明に係る金属帯の製造方法は、本発明に係る被圧延材の蛇行量制御方法を用いて、金属帯を製造するステップを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る被圧延材の蛇行量予測装置及び蛇行量予測方法によれば、被圧延材の尾端部の蛇行量を予測することができる。また、本発明に係る被圧延材の蛇行量制御装置及び蛇行量制御方法によれば、被圧延材の尾端部の蛇行量を低減することができる。さらに、本発明に係る金属帯の製造方法によれば、尾端部のキャンバーが抑制された金属帯を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明が適用される熱間仕上圧延機を含む熱延ラインの構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明が適用される熱間仕上圧延機の構成例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、熱間仕上圧延機を構成する一つの圧延スタンドの構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、ウエッジ量の定義を説明するための図である。
【
図6】
図6は、キャンバー量の定義を説明するための図である。
【
図7】
図7は、蛇行量の定義を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測方法の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御方法の流れを示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態である尾端蛇行量予測モデル生成部の構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、ニューラルネットワークを用いた尾端蛇行量予測モデルの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測装置、蛇行量制御装置、蛇行量予測方法、蛇行量制御方法、及び金属帯の製造方法について詳しく説明する。
【0018】
〔熱間仕上圧延機の構成〕
まず、
図1~
図3を参照して、本発明が適用される熱間仕上圧延機(以下では、単に「仕上圧延機」と称されることがある)の構成について説明する。
【0019】
図1は、本発明が適用される熱間仕上圧延機を含む熱延ラインの構成例を示す模式図である。
図1に示すように、熱延ライン1は、加熱炉2、デスケーリング装置3、幅圧下プレス装置4、粗圧延機5、仕上圧延機6、冷却装置7、及びコイラー(巻取り機)8を備えている。不図示の鋳造スラブは、加熱炉2に装入された後、所定の設定温度まで加熱され、熱間スラブとして加熱炉2から抽出される。加熱炉2から抽出された熱間スラブは、デスケーリング装置3によって表面に形成された1次スケールが除去された後、幅圧下プレス装置4によって所定の設定幅まで幅圧下される。そして、幅圧下されたスラブは、粗圧延機5において所定厚さまで圧延されることで粗バー(粗圧延材)となり、仕上圧延機6に搬送される。仕上圧延機6では、本発明に係る被圧延材としての粗バーが5から7基の圧延スタンドを備える連続式圧延機により製品厚さまで圧延される。仕上圧延機6の下流側にはランアウトテーブルと呼ばれる設備に冷却装置7が備えられており、被圧延材は、所定の温度まで冷却された後、コイラー8によってコイル状に巻き取られる。
【0020】
図2は、本発明が適用される熱間仕上圧延機の構成例を示す模式図である。
図2に示すように、仕上圧延機6は、F1~F7の7基の圧延スタンド(単に圧延機と称されることがある。)を備えている。仕上圧延機6の入側(被圧延材Sの進行方向に対する上流側)には入側搬送ロール10が配置され、入側搬送ロール10のさらに上流側には、被圧延材Sの先尾端のクロップ(先尾端部のいびつな形状の部分)を切断除去する不図示のクロップシャーが配置されている。クロップシャーにより先尾端のクロップが除去された被圧延材Sは、圧延スタンドF1~F7に順次通板され、被圧延材Sの先端が最終の圧延スタンド(最終圧延スタンド)F7を通過することにより、全ての圧延スタンドF1~F7で被圧延材Sの圧延が行われている「定常圧延」が実現される。そして、被圧延材Sの尾端が圧延スタンドF1~F7を順次抜け、被圧延材Sの尾端が最終圧延スタンドF7を通過することにより、被圧延材Sに対する仕上圧延が終了する。この場合、被圧延材Sの先端が圧延スタンドF1~F7を順次通板する過程を「通板」、被圧延材Sの尾端が圧延スタンドF1~F7を順次通過する過程を「尻抜け」と呼ぶ。本発明は、被圧延材Sの尾端が各圧延スタンドF1~F7を順次通過する尻抜けの過程における、被圧延材Sの蛇行量(オフセンター量)を予測し、これを低減させるものである。
【0021】
仕上圧延機6の出側(被圧延材Sの進行方向に対する下流側)には出側搬送ロール11が配置され、入側搬送ロール10と共に、被圧延材Sが搬送される高さ方向の基準位置であるパスラインPLが設定される。パスラインPLは、各圧延スタンドF1~F7においても被圧延材Sが圧延される際の高さ方向の基準位置となる。一方、仕上圧延機6の圧延スタンド間(隣接する圧延スタンドの間)には、スタンド間ルーパー12が配置されている。スタンド間ルーパー12は、上流側の圧延スタンドから搬出される被圧延材Sの速度と下流側の圧延スタンドへ装入される被圧延材Sの速度のバランスを調整するための装置である。スタンド間ルーパー12の先端部(ルーパーロール)は、パスラインPLに対する高さが可変となっており、被圧延材Sの定常圧延が行われている際に、被圧延材Sに負荷される張力が所定の範囲に維持されるように制御が行われる。但し、被圧延材Sの通板過程では、ルーパーロールは予めパスラインPLの高さまで下降しており、被圧延材Sの先端が下流側の圧延スタンドに到達してからスタンド間ルーパー12の制御(ルーパー制御)が行われる。また、被圧延材Sの尻抜け過程では、被圧延材Sの尾端が上流側の圧延スタンドを通過する時点で、ルーパーロールがパスラインPLの高さまで下降するようにルーパー制御が行われる。
【0022】
本実施形態では、各圧延スタンドF1~F7について、被圧延材Sの進行方向に対する上流側を「入側」、被圧延材Sの進行方向に対する下流側を「出側」と呼ぶ。この場合、圧延スタンドF3の入側は、その上流側の圧延スタンドである圧延スタンドF2と圧延スタンドF3との間の範囲を意味し、圧延スタンドF3の出側は、その下流側の圧延スタンドである圧延スタンドF4と圧延スタンドF3との間の範囲を意味する。なお、第1圧延スタンドである圧延スタンドF1の入側とは、圧延スタンドF1とその上流側に配置されるクロップシャーとの間を意味するものとする。一方、最終圧延スタンドである圧延スタンドF7の出側とは、圧延スタンドF7とその下流側に配置されるランアウトテーブルとの間を意味する。
【0023】
仕上圧延機6には、仕上圧延機6を構成する各機器を制御するための制御用コントローラ(PLC)90、制御用コントローラ90に制御指令を与える制御用計算機(プロセスコンピュータ)91が備えられている。また、熱延ライン1には、仕上圧延機6を含む各設備に製造指示を与える上位計算機92が備えられている。仕上圧延機6における圧延制御は、上位計算機92又は上位計算機92からの製造指示に基づき制御用計算機91が、被圧延材Sに対する操業条件を設定することにより実行される。また、制御用コントローラ90は、仕上圧延機6に設置される各種センサー(板厚計、板幅計、温度計等)から取得される情報を所定のサンプリング周期で収集し、それらを制御用計算機91に出力する機能を有する。
【0024】
図3に仕上圧延機6を構成する一つの圧延スタンドの構成例を図示する。
図3(a),(b)に示すように、圧延スタンドは、パスラインPLを挟んで上下方向に1対のワークロール61a,61bを備えている。ワークロール61a,61bは、それぞれがバックアップロール62a,62bによって支持される構造となっている。ワークロール61a,61bの一方の端部は、カプリングや減速機を介して駆動用電動機と接続されている。駆動用電動機はワークロール61a、61bを回転させる。この場合、圧延スタンドに対して駆動用電動機が配置される側を駆動側(DS)、その反対側を作業側(WS)と呼ぶことがある。
【0025】
バックアップロール62a,62bは、それぞれが軸方向端部に配置されている軸受箱(バックアップロールチョック)63a,63bにより支持されている。被圧延材Sに負荷される圧延荷重は、バックアップロールチョック63a,63bを介してハウジング64a,64bに伝達される。ハウジング64a,64bとバックアップロールチョック63a,63bとの間には荷重検出器であるロードセル65a,65bが配置され、被圧延材Sに負荷される圧延荷重の計測が可能となっている。この場合、ロードセル65aとロードセル65bによって計測される計測値の和を圧延荷重又は和荷重と呼び、ロードセル65aとロードセル65bによって計測される計測値の差を差荷重と呼ぶことがある。
【0026】
圧延スタンドの作業側及び駆動側には圧下装置66a,66bが配置されている。圧下装置66a,66bは、バックアップロールチョック63a,63bをそれぞれ上下方向に変位させることによって、ワークロール61aとワークロール61bとの間の隙間(ロールギャップ又はロール開度とも呼ばれる)を調整する。なお、バックアップロールチョック63a,63bの上下方向の位置は、不図示の変位計によって測定できるように構成されるのが通常である。ワークロール61aとワークロール61bとの間の隙間を実測することは難しいことから、慣用的にはバックアップロールチョック63a,63bの上下方向の位置によってロール開度が設定される。
【0027】
圧下装置66a,66bは、電動式又は油圧式の圧下機構を備えている。油圧式の圧下機構(油圧圧下とも呼ばれる)は、油圧シリンダーの油圧を制御することにより、バックアップロールチョック63a,63bを上下方向に変位させる。電動式の圧下装置(電動圧下とも呼ばれる)は、圧下装置用の電動機を回転させ、ギアを介して圧下ネジを上下させることにより、バックアップロールチョック63a,63bを上下方向に変位させる。圧下装置66a,66bは、ハウジング64a,64bの上部からバックアップロール62aを上下方向に変位させる方式に限定されず、ハウジング64a,64bの下部からバックアップロール62bを上下方向に変位させる方式であってもよい。
【0028】
圧下装置66a,66bは、ワークロール61aとワークロール61bとの間の隙間が作業側と駆動側とで同一となるように、バックアップロールチョック63a,63bの上下方向位置を設定するのが通常である。しかしながら、バックアップロールチョック63a,63bの上下方向位置が異なるように設定することがある。バックアップロールチョック63a,63bの上下方向位置が異なるように設定することをレベリングと呼び、作業側のバックアップロールチョック63aと、駆動側のバックアップロールチョック63bの上下方向位置の差をレベリング量と呼ぶことがある。レベリングは、作業側と駆動側のワークロールのロール開度差を付与することを意図するものであるが、実際には、上記の通りバックアップロールチョック63a,63bの上下方向位置の差を与える操作により実行される。
【0029】
〔蛇行量予測装置〕
次に、
図4~
図7を参照して、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測装置の構成について説明する。
【0030】
図4は、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測装置の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測装置20は、入側ウエッジ特定部21、入側キャンバー特定部22、出側キャンバー特定部23、及び尾端蛇行量予測部24を備えている。
【0031】
入側ウエッジ特定部21は、仕上圧延機6を構成する圧延スタンドFの入側における被圧延材Sの先端部のウエッジ量を特定する。被圧延材Sのウエッジとは、被圧延材Sの幅方向に厚みの偏差が生じている状態をいい、被圧延材Sの幅方向における厚みの偏差をウエッジ量と呼ぶ。具体的には、ウエッジ量は、
図5に示す被圧延材Sの断面形状において、作業側の幅方向端部から予め設定した距離Weにおける被圧延材Sの厚みh1と、駆動側の幅方向端部からの距離Weにおける被圧延材Sの厚みh2との差によって定義される。この場合、作業側の幅方向端部における厚みh1の方が駆動側の幅方向端部における厚みh2よりも大きい場合を正のウエッジ量、作業側の幅方向端部における厚みh1の方が駆動側の幅方向端部における厚みh2よりも小さい場合を負のウエッジ量のように定義してよい。ウエッジ量の基準となる幅方向端部からの距離Weは、例えば15~200mmの範囲で設定する。
【0032】
図4に戻る。入側ウエッジ特定部21は、圧延スタンドFの入側にウエッジ計31を設置し、ウエッジ計31による測定値に基づいて被圧延材Sの先端部のウエッジ量を特定するようにしてよい。ウエッジ計31は、例えばX線やγ線を用いた板厚計を被圧延材Sの幅方向に複数設置し、被圧延材Sの作業側の幅方向端部における被圧延材Sの厚みh1及び駆動側の幅方向端部における被圧延材Sの厚みh2を測定する。また、ウエッジ計31は、被圧延材Sの幅方向に板厚計を走査して被圧延材Sの幅方向の厚み分布を測定し、測定した厚み分布からウエッジ量を算出するようにしてよい。さらに、レーザースキャン式の距離計を被圧延材Sの表面側と裏面側に配置し、距離計により測定される被圧延材Sの幅方向の各位置における距離情報を用いて、表面側で得られる距離情報と裏面側で得られる距離情報との差から被圧延材Sの厚みを算出してもよい。
【0033】
本実施形態では、入側ウエッジ特定部21は、被圧延材Sの先端部において取得されるウエッジ量を特定する。ここで、本実施形態における被圧延材Sの「先端部」とは、仕上圧延機6の通板過程において、被圧延材Sがある圧延スタンドを通過してから次の圧延スタンドに噛み込まれるまでの間で、その圧延スタンド間に存在している被圧延材Sの範囲をいう。この場合、被圧延材Sの先端(被圧延材Sの最先端の部分)が、圧延スタンドFの上流側の圧延スタンドF-1を通過し、次の圧延スタンドFに到達するまでの間に圧延スタンド間に存在している被圧延材Sの範囲を、圧延スタンドFの入側における被圧延材Sの先端部という。また、被圧延材Sの先端が、圧延スタンドFを通過し、その次の圧延スタンドF+1に到達するまでの間に圧延スタンド間に存在している被圧延材Sの範囲を、圧延スタンドFの出側における被圧延材Sの先端部という。
【0034】
一方、本実施形態において、被圧延材Sの「尾端部」とは、仕上圧延機6の尻抜け過程において、ある圧延スタンドを被圧延材Sの尾端(被圧延材Sの最尾端の部分)が抜けてから次の圧延スタンドを被圧延材Sの尾端が抜けるまでの間で、その圧延スタンド間に存在している被圧延材Sの範囲をいう。この場合、圧延スタンドFに対して、その上流側の圧延スタンドF-1を被圧延材Sの尾端が抜け、圧延スタンドFに到達するまでの間に圧延スタンド間に存在している被圧延材Sの範囲を、圧延スタンドFの入側における被圧延材Sの尾端部という。また、圧延スタンドFを被圧延材Sの尾端が抜け、その下流側の圧延スタンドF+1を被圧延材Sの尾端が抜けるまでの間に圧延スタンド間に存在している被圧延材Sの範囲を、圧延スタンドFの出側における被圧延材Sの尾端部という。
【0035】
入側キャンバー特定部22は、圧延スタンドFの入側における被圧延材Sの先端部のキャンバー量を特定する。また、出側キャンバー特定部23は、圧延スタンドFの出側における被圧延材Sの先端部のキャンバー量を特定する。被圧延材Sの先端部のキャンバー量(曲がり量)とは、被圧延材Sの先端における幅方向中心位置と被圧延材Sの先端から所定の距離離れた位置における幅方向中心位置との差をいう。被圧延材Sのキャンバー量は、慣用的には横曲がり量と呼ばれることもある。
【0036】
被圧延材Sの先端部のキャンバー量Camは、
図6に示すように、圧延スタンドFの幅方向中心位置P0と被圧延材Sの先端の幅方向中心位置との間の距離をy
1、圧延スタンドFの幅方向中心位置P0と被圧延材Sの先端から距離z離れた位置における被圧延材Sの幅方向中心位置との間の距離をy
2とすると、距離y
1と距離y
2との差によって表される。この場合、被圧延材Sが作業側に曲がっている場合を正のキャンバー量、駆動側に曲がっている場合を負のキャンバー量として、被圧延材Sの曲がりの方向によって正負を定義してよい。キャンバー量の基準となる被圧延材Sの先端からの距離zは、圧延スタンド間の距離を上限として、任意に設定してよい。具体的には、距離zは500~6000mmの範囲で設定する。
【0037】
図4に戻る。入側キャンバー特定部22及び出側キャンバー特定部23には、被圧延材Sの先端と、先端から距離z離れた位置における被圧延材Sの幅方向位置を測定可能な測定装置を適用できる。入側キャンバー特定部22及び出側キャンバー特定部23は、例えば、圧延スタンドFの入側に被圧延材Sの先端部を上面又は下面から撮像する入側カメラ32を設け、圧延スタンドFの出側に被圧延材Sの先端部を上面又は下面から撮像する出側カメラ33を設け、入側カメラ32及び出側カメラ33が撮像した被圧延材Sの先端部の画像に対して画像処理を適用して被圧延材Sのキャンバー量を特定できる。この場合、入側カメラ32は、圧延スタンドFの入側における圧延スタンド間の上部から被圧延材Sの先端部の表面を撮影できるように配置するとよい。また、出側カメラ33は、圧延スタンドFの出側における圧延スタンド間の上部から被圧延材Sの先端部の表面を撮影できるように配置するとよい。これにより、入側カメラ32及び出側カメラ33により、
図6に示すような被圧延材Sの先端部の画像を取得できる。
【0038】
図4に戻る。入側キャンバー特定部22及び出側キャンバー特定部23は、入側カメラ32と出側カメラ33がそれぞれ取得する被圧延材Sの先端部の画像から画像処理により被圧延材Sの輪郭形状を抽出し、抽出された被圧延材Sの輪郭形状に基づいて被圧延材Sのキャンバー量を特定する。この場合、カメラにより取得される画像の寸法を実際の縮尺に換算するために、予め画素間の距離と実際の距離との対応関係を特定しておく。
【0039】
入側ウエッジ特定部21が特定するウエッジ量と、入側キャンバー特定部22が特定するキャンバー量と、出側キャンバー特定部23が特定するキャンバー量とは、それぞれの計測器や撮像装置が設置される位置によって取得タイミングが異なる。この場合、制御用コントローラ90は、被圧延材Sの通板過程を制御するために被圧延材Sの先端を随時トラッキングしているので、制御用コントローラ90が生成するトラッキング情報を用いて、ウエッジ計31により被圧延材Sのウエッジ量を測定するタイミングや、入側カメラ32及び出側カメラ33により被圧延材Sを撮像するタイミングを調整するとよい。
【0040】
尾端蛇行量予測部24は、入側ウエッジ特定部21が特定したウエッジ量、入側キャンバー特定部22が特定したキャンバー量、及び出側キャンバー特定部23が特定したキャンバー量を用いて、圧延スタンドFにおける被圧延材Sの尾端部の蛇行量を予測する。被圧延材Sの尾端部の蛇行とは、被圧延材Sの尾端部が圧延スタンドFを通過する際に、被圧延材Sの幅方向中心位置が圧延スタンドFの幅方向中心位置からずれること(オフセンターとも呼ばれる。)をいい、蛇行量とはそのズレ量(オフセンター量とも呼ばれる。)を意味する。被圧延材Sの尾端部の蛇行量は、
図7(a)に示すように、被圧延材Sの尾端が圧延スタンドFを尻抜けする際の、圧延スタンドFの幅方向中心位置P0からの被圧延材Sの尾端の幅方向中心位置の差y
cによって定義できる。また、被圧延材の尾端部の蛇行量は、
図7(b)に示すように、圧延スタンドFの上流側に予め設定した距離z
c離れた位置における、被圧延材Sの尾端の幅方向中心位置と圧延スタンドFの幅方向中心位置P0との差y
cによって定義してよい。いずれも、被圧延材Sの尾端部の蛇行挙動を代表する指標となる。この場合、蛇行量を特定するための距離z
cは、圧延スタンド間の距離を上限として任意に設定できる。例えば距離z
cは、0~6000mmの範囲で設定してよい。また、蛇行の方向は、キャンバー量と同様、被圧延材Sが作業側にずれている場合を正の蛇行量、駆動側にずれている場合を負の蛇行量として、被圧延材Sの尾端のずれている方向によって正負を定義してよい。なお、
図7(b)における距離z
cをゼロとした場合が
図7(a)に示す状態に相当する。
【0041】
被圧延材Sの蛇行は、被圧延材Sに対する駆動側と作業側での圧下量又は圧下率に差が生じ、被圧延材Sの幅方向で進行速度の分布が発生することにより発生する。特に被圧延材Sの尾端部が圧延スタンドFを通過する際、下流側の圧延スタンドF+1では被圧延材Sがワークロールによって拘束された状態であるのに対して、上流側の圧延スタンドF-1では被圧延材Sの尾端が通過して幅方向の変位が拘束されていない。このため、圧延スタンドFを通過する被圧延材Sの尾端部は定常部に比べて蛇行が発生しやすい状態になる。これにより、被圧延材Sの尾端部の蛇行は、尾端部が通過しようとする圧延スタンドFの入側において発生する。なお、被圧延材Sに対する駆動側と作業側での圧下量又は圧下率に差が生じるのは、圧延スタンドのレベリングが適正な設定でないことや、レベリングが概ね適正であっても被圧延材Sにウエッジが存在するために作業側と駆動側とで圧下差が生じることが原因として挙げられる。
【0042】
尾端蛇行量予測部24は、被圧延材Sの先端部のウエッジと圧延スタンドFの入側及び出側におけるキャンバー量に基づいて、圧延スタンドFのレベリングの実績値を推定する(レベリング推定ステップ)。そして、尾端蛇行量予測部24は、推定されたレベリングの実績値が、被圧延材Sの定常圧延及び尻抜け過程まで維持された場合に、被圧延材Sの尻抜け時に発生する尾端部の蛇行量を予測する(蛇行量予測ステップ)。
【0043】
ここで、圧延スタンドのレベリングとは、上記の通り、作業側と駆動側のワークロールのロール開度差を付与することを意味するが、実際には、作業側と駆動側のバックアップロールチョック63a,63bの上下方向位置の差を与えることにより設定される(指令レベリング)。しかしながら、圧延スタンドを構成するバックアップロール62a,62bやワークロール61a,61bに生じる熱膨張や摩耗等の影響によって、圧下装置66a,66bにより設定される指令レベリングは、ワークロール61a,61bの間に形成されるロール間隙の作業側と駆動側の差と必ずしも一致しない。本実施形態では、尾端蛇行量予測部24が、被圧延材Sの先端部の通板過程においてワークロール61a,61bの間に形成されるロール間隙の作業側と駆動側の差の実績値を推定し、推定されたレベリングの実績値をレベリング推定値として算出する。そして、尾端蛇行量予測部24は、算出されるレベリング推定値を用いて、被圧延材Sの尾端部における蛇行量を予測する。
【0044】
レベリング推定ステップによって推定されるレベリング推定値Sdは、入側ウエッジ特定部21が特定したウエッジ量Hd(mm)、入側キャンバー特定部22が特定したキャンバー量Ci(mm)、及び出側キャンバー特定部23が特定したキャンバー量Co(mm)を用いて、以下の数式(1)に示す関数式fによって算出できる。
【0045】
【0046】
ここで、Hは圧延スタンドFの入側における被圧延材Sの厚み(mm)、hは圧延スタンドFの出側における被圧延材Sの厚み(mm)、zはキャンバー量を特定するための被圧延材Sの先端からの距離(mm)、K
pは圧延スタンドFの平行剛性(kN/mm)、Mは塑性係数(kN/mm)、Pは圧延荷重(kN)、λは圧延スタンドFによる被圧延材Sの伸び率(入側の材料長さに対する出側の材料長さの延伸率)、bは被圧延材Sの幅(mm)、Lは作業側と駆動側のバックアップロールチョック63a,63bを圧下する圧下装置66a,66b間の距離(
図3参照)である。
【0047】
平行剛性Kpとは、ワークロール61a,61bに差荷重が発生した場合に、ワークロール61aとワークロール61bの平行度の保ちやすさを示す指標であり、例えば4段式圧延機の場合には以下に示す数式(2)により算出できる。
【0048】
【0049】
但し、Kはミル定数(kN/mm)、krはワークロールとバックアップロール間の扁平変形を表すばね定数(kN/mm)、ksはワークロールロールと被圧延材Sとの間で生じるワークロールの扁平変形を表すばね定数(kN/mm)、Lbはワークロールの胴長(m)である。
【0050】
塑性係数Mとは、被圧延材Sの厚みの変化に対する圧延荷重の変化を表す指標であり、以下に示す数式(3)により算出できる。
【0051】
【0052】
また、圧延スタンドFの入側におけるウエッジ量と出側におけるウエッジ量の変化に対する、差荷重の変化を表す指標として、平行塑性係数Mpは以下に示す数式(4)のように定義できる。
【0053】
【0054】
ここで、上記関数式fを具体的に導出する。例えば被圧延材Sの先端部の曲がり(キャンバー)が、被圧延材Sの長手方向に沿って放物線(2次式)で近似できると仮定すると共に、被圧延材Sの幅方向に沿った圧延荷重の分布を直線で近似できる場合には、レベリング推定値Sdは以下に示す数式(5)のように求めることができる。
【0055】
【0056】
ここで、a
0,a
1,a
2は、被圧延材Sの先端部のキャンバー(曲がり)を被圧延材Sの長手方向に沿って放物線(2次式)で近似した場合に、キャンバーの形状を代表するパラメータである。具体的には、a
0,a
1,a
2は、
図6に示す距離y
1及び距離y
2を用いて、以下の数式(6)に示す関係により特定される。
【0057】
【0058】
一方、有限要素法等の数値解析手法を用いて、ウエッジ量Hd、キャンバー量Ci、及びキャンバー量Coと、圧延スタンドFのレベリング推定値Sdとの関係について、各パラメータを変更した複数の計算を実行してもよい。そして、得られた数値計算の結果から、入力変数をウエッジ量Hd、キャンバー量Ci、及びキャンバー量Coとし、出力変数を圧延スタンドFのレベリング推定値Sdとする回帰式を算出し、算出した回帰式を用いて圧延スタンドFのレベリング推定値Sdを求めてもよい。この場合、圧延スタンドFの入側における被圧延材Sの厚みH、圧延スタンドFの出側における被圧延材Sの厚みh、被圧延材Sの変形抵抗や、圧延スタンドFにおける摩擦係数等の圧延条件を変更した数値解析を行い、これらを回帰式の入力変数に含めてもよい。
【0059】
以上のようにして、被圧延材Sの先端部の通板過程で取得される情報に基づいて、圧延スタンドFのレベリングの実績値(レベリング推定値Sd)が推定される。
【0060】
次に、尾端蛇行量予測部24は、推定されたレベリング推定値Sdが被圧延材Sの尻抜け過程まで維持された場合における、被圧延材Sの尾端部の蛇行量を推定する。具体的には、レベリング推定値Sdが尻抜け過程で維持され、被圧延材Sの圧延スタンドFの入側におけるウエッジ量Hdが被圧延材Sの先端部と尾端部とで同一であると仮定すると、圧延スタンドFの出側における被圧延材Sのウエッジ量hdは以下に示す数式(7)により算出できる。
【0061】
【0062】
このようにして算出される圧延スタンドFの出側における被圧延材Sのウエッジ量hdを用いて、圧延スタンドFで生じる被圧延材Sのウエッジ比率変化を算出する。ウエッジ比率変化とは、圧延スタンドFの入側と出側における被圧延材Sのウエッジ量の変化を表す指標である。具体的には、圧延スタンドFの入側における被圧延材Sのウエッジ比率Ψ1と、圧延スタンドの出側における被圧延材Sのウエッジ比率Ψ2は以下に示す数式(8)によって定義され、ウエッジ比率変化ΔΨは以下に示す数式(9)によって定義される。
【0063】
【0064】
【0065】
これらから、被圧延材Sの尻抜け時に発生する尾端部のウエッジ比率変化ΔΨは、以下に示す数式(10)のように求められる。
【0066】
【0067】
被圧延材Sの尻抜け時に発生する尾端部のウエッジ比率変化ΔΨは、被圧延材Sの面内における回転挙動を表すことから、被圧延材Sの尻抜け時に発生する尾端部の蛇行量ycは以下に示す数式(11)により求められる。但し、数式(11)は、被圧延材Sの尻抜け時に発生する尾端部の蛇行が、被圧延材Sの尾端が上流側の圧延スタンドF-1を抜けてから発生するものであって、下流側の圧延スタンドの出側において被圧延材Sが拘束されていることを前提として算出されたものである。
【0068】
【0069】
なお、dは圧延スタンドFとその上流スタンドF-1との間の距離である。この場合、
図7(a)に示すように、距離z
cをゼロとする場合には、蛇行量y
cは以下に示す数式(12)によって表される。
【0070】
【0071】
〔蛇行量予測方法〕
次に、
図8を参照して、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測方法について説明する。
【0072】
図8は、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測方法の流れを示すフローチャートである。
図8に示すように、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量予測方法では、まず、入側ウエッジ特定部21が、圧延スタンドFの入側で取得される被圧延材Sの先端部のウエッジ量H
dを特定する(ステップS1)。次に、入側キャンバー特定部22が、圧延スタンドFの入側で取得される被圧延材Sの先端部のキャンバー量C
iを特定する(ステップS2)。次に、出側キャンバー特定部23が、圧延スタンドFの出側で取得される被圧延材Sの先端部のキャンバー量C
oを特定する(ステップS3)。次に、被圧延材Sの先端部の通板過程において特定されるこれらの情報に基づいて、尾端蛇行量予測部24が、圧延スタンドFのレベリング推定値S
dを算出する(ステップS4)。そして、尾端蛇行量予測部24は、レベリング推定値S
dを用いて被圧延材Sの尾端部の蛇行量y
cを予測する(ステップS5)。
【0073】
〔蛇行量制御装置〕
次に、
図9を参照して、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御装置の構成について説明する。
【0074】
図9は、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御装置の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御装置40は、レベリング設定値算出部41とレベリング設定部42を備えている。レベリング設定値算出部41は、蛇行量予測装置20が予測した圧延スタンドFにおける被圧延材Sの尾端部の蛇行量に基づいて、被圧延材Sの尾端部の蛇行を低減するためのレベリング設定値を算出する。レベリング設定部42は、圧延スタンドFによる被圧延材Sの定常部を圧延中に、レベリング設定値算出部41が算出したレベリング設定値に基づき圧延スタンドFのレベリングを設定する。
【0075】
〔蛇行量制御方法〕
次に、
図10を参照して、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御方法について説明する。
【0076】
図10は、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御方法の流れを示すフローチャートである。本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御方法では、レベリング設定値算出部41には、予め被圧延材Sの尾端部の蛇行量に関する限界値(限界蛇行量)が設定されている。そして、
図10に示すように、本発明の一実施形態である被圧延材の蛇行量制御方法では、まず、蛇行量予測装置20が、圧延スタンドFの入側での被圧延材Sの尾端部の蛇行量(予測蛇行量)を予測する(ステップS11)。次に、レベリング設定値算出部41が、予測蛇行量が限界蛇行量以下であるか否かを判別する(ステップS12)。判別の結果、予測蛇行量が限界蛇行量以下である場合(ステップS12:Yes)、レベリング設定値算出部41は、現在のレベリング設定(初期レベリング設定)を維持するようにレベリングの設定値を決定する(ステップS13)。一方、予測蛇行量が限界蛇行量を超える場合には(ステップS12:No)、レベリング設定値算出部41は、以下のようにしてレベリングの設定値を決定する(ステップS14)。
【0077】
まず、レベリング設定値算出部41は、予測蛇行量の正負を特定し、被圧延材Sの尾端部が圧延スタンドFの作業側に蛇行するのか、駆動側に蛇行するのかを判定する。そして、被圧延材Sの尾端部が作業側に蛇行することが予測される場合、レベリング設定値算出部41は、予め設定される指令レベリングに対して作業側のロール開度が狭くなるように新たなレベリングの設定値を設定する。一方、被圧延材Sの尾端部が駆動側に蛇行することが予測される場合には、レベリング設定値算出部41は、指令レベリングよりも駆動側のロール開度が狭くなるように新たなレベリングの設定値を設定する。例えば10~100mmの蛇行量が予測される場合、レベリング設定値算出部41は、指令レベリングに対して0.01~0.1mm程度変更するように新たなレベリングの設定値を設定すればよい。
【0078】
一方、レベリング設定値算出部41は、予測蛇行量をゼロとするようにレベリングの設定値を決定してもよい。この場合、レベリング設定値算出部41は、予測蛇行量をゼロとするための被圧延材Sのウエッジ比率変化(目標ウエッジ比率変化)ΔΨaimを以下に示す数式(13)により算出する。そして、レベリング設定値算出部41は、以下の数式(14)を満足する条件からレベリング推定値Sdに対するレベリング修正量ΔSdを算出する。
【0079】
【0080】
【0081】
これにより、レベリング設定値算出部41は、予測蛇行量をゼロとするためのレベリング修正量ΔSdを決定できる。そして、レベリング設定値算出部41は、現在のレベリング設定値(指令レベリング)にレベリング修正量ΔSdを加えたレベリング量を新たなレベリング設定値として決定する。限界蛇行量は、被圧延材Sの蛇行による絞り込みが発生しない限界の蛇行量として決定され、具体的には圧延スタンドFの入側での被圧延材Sの尾端の蛇行量と絞り込みの発生率との関係を予め調査しておき、絞り込みが発生しない最大の尾端の蛇行量を限界蛇行量とすれば良い。あるいは、絞り込みは被圧延材Sがサイドガイドに衝突することで発生することから、サイドガイド間の距離に基づいて限界蛇行量を決定してもよい。
【0082】
そして最後に、レベリング設定部42が、圧延スタンドFによる被圧延材Sの定常部を圧延中に、レベリング設定値算出部41が算出したレベリング設定値に基づき圧延スタンドFのレベリングを設定する(ステップS15)。新たなレベリング設定値への変更は被圧延材Sの定常圧延中に行う。これにより、被圧延材Sの尻抜け過程が開始される前に尾端部の尻抜けに適したレベリング設定に更新され、被圧延材Sの尾端部が尻抜けを行う際の蛇行を低減できる。また、被圧延材Sに対するレベリング設定を定常圧延中に行っても、圧延スタンドFの上流側の圧延スタンド及び下流側の圧延スタンドにおいて被圧延材Sの連続圧延が行われている。このため、各圧延スタンドによる被圧延材Sの拘束により、定常圧延中に被圧延材Sの蛇行が促進される可能性は低くなる。
【0083】
レベリング設定部42は、制御用コントローラ90が生成する各圧延スタンドの噛み込み及び尻抜けに関するトラッキング情報を受信し、被圧延材Sの通板過程が完了した後であって、定常圧延過程となった段階で制御用コントローラ90に対して、圧延スタンドFの新たなレベリング設定値の指令を送る。これにより、制御用コントローラ90は、圧延スタンドFの圧下装置66a,66bに対して、設定されたレベリングとなるように指令を送る。
【0084】
〔変形例〕
入側ウエッジ特定部21は、ウエッジ計31を用いて特定した第1圧延スタンド入側のウエッジ量とレベリング推定ステップにて特定した圧延スタンドのレベリング推定値を用いて、第1圧延スタンドより下流側の圧延スタンドの入側のウエッジ量を推定してもよい。この場合、入側ウエッジ特定部21は、圧延スタンドFの出側のウエッジ量であることを利用して、以下に示す数式(15)を用いて圧延スタンドF+1の入側のウエッジ量Hd2を算出する。
【0085】
【0086】
尾端蛇行量予測部24は、機械学習を利用した学習により被圧延材Sの尾端部の蛇行量を予測する尾端蛇行量予測モデルを用いて、被圧延材Sの尾端部の蛇行量を予測してもよい。尾端蛇行量予測モデルとしては、入側ウエッジ特定部21が特定したウエッジ量、入側キャンバー特定部22が特定したキャンバー量、及び出側キャンバー特定部23が特定したキャンバー量を入力として含み、圧延スタンドの入側での被圧延材Sの尾端部の蛇行量を出力とする、機械学習により学習されたものを適用できる。
【0087】
ここで、
図11を参照して、本発明の一実施形態である尾端蛇行量予測モデル生成部の構成について説明する。
図11に示すように、本実施形態の一実施形態である尾端蛇行量予測モデル生成部100は、データベース部101と機械学習部102を備えている。データベース部101は、入側ウエッジ特定部21が特定したウエッジ量の実績データと、入側キャンバー特定部22が特定したキャンバー量の実績データと、出側キャンバー特定部23が特定したキャンバー量の実績データと、圧延スタンドFの入側での被圧延材Sの尾端部の蛇行量の実績データを蓄積する。圧延スタンドFの入側での被圧延材Sの尾端部の蛇行量の実績データとしては、入側キャンバー特定部22を用いてキャンバー量を特定する際の圧延機の幅方向中心位置からの被圧延材Sのズレ量を取得すればよい。
【0088】
データベース部101は、必要に応じて、圧延スタンドFの圧延操業パラメータから選択した1つ以上の実績データを蓄積するようにしてよい。圧延スタンドFの圧延操業パラメータとは、圧延スタンドFにおける被圧延材Sの先端部における圧延条件を特定する操業パラメータであって、例えば圧延荷重、差荷重、入側板厚、出側板厚、定常圧延時のスタンド間張力、被圧延材の変形抵抗や温度等を含めてよい。被圧延材Sの圧延荷重や差荷重は、圧延スタンドFを構成する各圧延ロールの弾性変形に影響を与え、ワークロール61a,61bによる幅方向のロール間隙分布に影響を与えるからである。また、他の操業パラメータも間接的に圧延荷重に影響を与えるからである。また、データベース部101は、必要に応じて、被圧延材Sの長手方向の温度変化に関する操業パラメータから選択した1つ以上の実績データを蓄積するようにしてよい。被圧延材Sの長手方向の温度変化に関する操業パラメータとは、被圧延材Sの先端から尾端にかけての温度変化に影響を与えるパラメータである。具体的には、被圧延材Sの長さ、重量、圧延速度、加速率を挙げることができる。これらは、被圧延材Sの通板から尻抜けまでの圧延スタンドFにおける圧延時間に影響を与え、被圧延材Sの先端から尾端にかけての温度変化に影響を与える。被圧延材Sの先端から尾端にかけての温度変化は、圧延スタンドFだけでなくその上流スタンドにおけるワークロールの熱膨張に影響を与える。これにより、被圧延材Sの先端から尾端にかけてのウエッジ量が変動する要因となって、被圧延材Sの尾端部の蛇行量に影響を与える。
【0089】
さらに、データベース部101は、必要に応じて、粗圧延機5の圧延操業パラメータから選択した1つ以上の実績データを蓄積するようにしてよい。粗圧延機5における圧延操業パラメータとは、被圧延材Sが仕上圧延機6に装入される前に、粗圧延機5における圧延条件を特定するパラメータをいう。具体的には、粗圧延機5による圧延パス数、粗圧延機5の各圧延パスにおける圧延荷重、差荷重、オフセンター量や、粗圧延機5の配置されるエッジャーによる幅圧下量が挙げられる。粗圧延機5による圧延パス数、圧延荷重、差荷重、オフセンター量は、仕上圧延機6に搬送される粗バーの長手方向の温度分布やウエッジ量の変化に影響を与える。また、エッジャーによる幅圧下量は、粗圧延機5の水平圧延において被圧延材Sにオフセンターが生じると作業側と駆動側での幅圧下量が異なり、仕上圧延機6に搬送される粗バーの長手方向におけるウエッジ量の変化に影響を与える。そのため、被圧延材Sの先端から尾端にかけてのウエッジ量が変動する要因となることから、被圧延材Sの尾端部の蛇行量へ影響を与える。
【0090】
データベース部101に蓄積する実績データは、上位計算機92、制御用計算機91又は制御用コントローラ90から適宜取得してよい。また、これらの実績データを収集するためにデータ取得部103を設け、データ取得部103において実績データを一旦保存し、複数種の実績データを対応付けたデータセットを生成した後に、データベース部101に蓄積してもよい。データベース部101に蓄積するデータは、それぞれ取得されるタイミングが異なる場合があるため、データ取得部103において複数種の実績データを対応付けることにより、互いに対応関係にあるデータセットを構成することができる。
【0091】
尾端蛇行量予測モデル生成部100は、蛇行量予測装置20に設けるようにするとよい。また、尾端蛇行量予測モデル生成部100は、制御用計算機91に設けることができ、他の機器と通信可能である独立の計算機に設けてもよい。また、尾端蛇行量予測モデル生成部100は、データベース部101に蓄積されたデータセットを受信可能な装置を用いてデータベース部101とは別の装置に構成してもよい。データベース部101には、100個以上のデータセットが蓄積される。好ましくは1000個以上、より好ましくは10000個以上のデータセットがデータベース部101に蓄積されるとよい。データベース部101に蓄積されるデータについては、必要に応じてスクリーニングが行われる場合がある。
【0092】
機械学習部102は、データベース部101に蓄積されたデータセットを用いて、入側ウエッジ特定部21が特定したウエッジ量の実績データ、入側キャンバー特定部22が特定したキャンバー量の実績データ、及び出側キャンバー特定部23が特定したキャンバー量の実績データを入力実績データとして含み、圧延スタンドFの入側での被圧延材Sの尾端部の蛇行量を出力実績データとする、複数の学習用データを用いた機械学習により、圧延スタンドFの入側での被圧延材Sの尾端部の蛇行量を予測する尾端蛇行量予測モデルMを生成する。また、尾端蛇行量予測モデルMは、入力実績データとして、被圧延材Sの先端部での圧延操業パラメータの実績データ、被圧延材Sの長手方向の温度変化に関する操業パラメータの実績データ、粗圧延機5の圧延操業パラメータの実績データを用いて生成してよい。
【0093】
尾端蛇行量予測モデルMを生成するための機械学習モデルは、実用上十分な尾端部の蛇行量に関する予測精度が得られれば、いずれの機械学習モデルでもよい。例えば、一般的に用いられるニューラルネットワーク(深層学習や畳み込みニューラルネットワーク等を含む)、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰等を用いればよい。また、複数のモデルを組み合わせたアンサンブルモデルを用いてもよい。例えば、
図12に示すような一般的なニューラルネットワークを用いた機械学習により尾端蛇行量予測モデルMを生成することができる。特に深層学習を用いると多重共線性の問題を考慮せず、被圧延材Sの尾端部における蛇行量と相関関係を有する他の操業パラメータも入力として自由に選択できるため、尾端部の蛇行量に関する予測精度を高めることができる。例えばニューラルネットワークの中間層は2~3層、ノード数は3~5個ずつとし、活性化関数としてシグモイド関数を用いたものを用いることができる。
【0094】
機械学習部102は、データベース部101に蓄積されたデータセットを訓練データとテストデータに分けて学習を行うことにより尾端部の蛇行量の推定精度を向上させてもよい。例えば機械学習部102は、訓練データを用いてニューラルネットワークの重み係数の学習を行い、テストデータでの尾端部の蛇行量の正解率が高くなるようにニューラルネットワークの構造(中間層の数やノード数)を適宜変更しながら尾端蛇行量予測モデルMを生成してもよい。重み係数の更新には、誤差伝播法を用いることができる。なお、尾端蛇行量予測モデルMは、例えば6ヶ月毎又は1年毎に再学習により新たなモデルに更新してもよい。データベース部101に保存されるデータが増えるほど、精度の高い尾端部の蛇行量の予測が可能となるからであり、最新のデータに基づいて尾端蛇行量予測モデルMを更新することにより、熱延ラインを用いて製造する熱延鋼板の製造条件の変化を反映した尾端蛇行量予測モデルを生成できる。
【実施例0095】
本発明の実施例として、熱延ラインに配置される7基の圧延スタンドから構成される仕上圧延機に本発明を適用した例について説明する。本実施例では、仕上圧延機の第2圧延スタンドにおける被圧延材Sの尾端部の蛇行量を低減することを目的とした。具体的には、第2圧延スタンド(圧延スタンドF2)の入側における被圧延材Sの先端部のウエッジ量を特定する入側ウエッジ特定部21と、圧延スタンドF2の入側における被圧延材Sの先端部のキャンバー量を特定する入側キャンバー特定部22と、圧延スタンドF2の出側における被圧延材Sの先端部のキャンバー量を特定する出側キャンバー特定部23を配置し、
図4に示すように尾端蛇行量予測部24を有する蛇行量予測装置20を構成した。入側ウエッジ特定部21は、被圧延材Sの作業側及び駆動側に板厚計を配置し、板厚計から取得される板厚データから被圧延材Sの先端部のウエッジ量を特定した。また、入側キャンバー特定部22と出側キャンバー特定部23は、エリアカメラを用いて被圧延材Sの先端部の平面形状を撮像し、撮像された画像について画像処理を行うことによって被圧延材Sの幅方向端部を特定することにより、被圧延材Sの幅方向中心位置を特定した。
【0096】
本実施例では、被圧延材Sとして幅1250mmの低炭素鋼板を用いた。仕上圧延機の圧延スタンドF2における被圧延材Sの入側板厚は20mm、出側板厚は13mmであった。本実施例では、予め圧延スタンドF2の指令レベリングが適切な設定となるように零点調整を行っておき、被圧延材Sの圧延を実施した。そして、被圧延材Sの先端が圧延スタンドF1を通過して圧延スタンドF2に到達するまでの間に、被圧延材Sの先端部のウエッジ量とキャンバー量を特定した。また、被圧延材Sの先端が圧延スタンドF2を通過して圧延スタンドF3に到達するまでの間に、被圧延材Sの先端部のキャンバー量を特定した。その結果、圧延スタンドF2の入側における被圧延材Sの先端部のウエッジ量は0.05mmであった。また、圧延スタンドF2の入側における被圧延材Sの先端部のキャンバー量は0mmであり、圧延スタンドF2の出側における被圧延材Sの先端部のキャンバー量は-20mmであった。
【0097】
そして、尾端蛇行量予測部24により圧延スタンドF2における被圧延材Sの尾端部の蛇行量を予測した。被圧延材Sの尾端部の蛇行量の予測にあたっては、レベリング推定ステップにより、数式(5)を用いて被圧延材Sの先端部におけるレベリング推定値Sdを推定した。その結果、レベリング推定値Sdは-0.35mmであった。そして、蛇行量推定ステップにより、数式(11)を用いて被圧延材Sの尾端部の蛇行量ycを予測した。その結果、蛇行量ycは-28mmと予測された。一方、入側キャンバー特定部22を用いることにより、被圧延材Sの尾端部についても幅方向中心位置を特定でき、特定された被圧延材Sの尾端部の蛇行量は-25mmであった。これにより、本実施例の蛇行量予測装置20により被圧延材Sの尾端部の蛇行量が精度よく予測できることが確認された。
【0098】
次に、同一寸法の被圧延材Sに対して、被圧延材Sの尾端部の蛇行量を低減する蛇行量制御を行った例について説明する。本実施例では、蛇行量制御装置40を設け、圧延スタンドF2に設置した蛇行量予測装置20が予測した被圧延材Sの尾端部の蛇行量ycを受信し、レベリング設定値を圧延スタンドF2の圧下装置の指令値として制御用コントローラ90に送るように構成した。この場合、レベリング設定値算出部41は被圧延材Sの尾端部の蛇行を低減するためのレベリング設定値を算出し、レベリング設定部42が圧延スタンドF2で被圧延材Sの定常部を圧延中にレベリング設定値を設定する制御指令を制御用コントローラ90に送るようにした。
【0099】
表1は、本実施例により被圧延材Sの尾端部の蛇行量制御を行った例を示す。表1に示す実施例では、圧延スタンドF2の入側における被圧延材Sの先端部のウエッジ量は0.05mm、被圧延材Sの先端部の入側キャンバー量は0mm、出側キャンバー量は-21mmであった。この場合、蛇行量予測装置20は被圧延材Sの尾端部の蛇行量を-30mmと予測した。しかしながら、レベリング設定値算出部41では、予め限界蛇行量が絶対値で10mmと設定されており、予測蛇行量が限界蛇行量を超えることからレベリング設定が0.06mmと決定された。そして、レベリング設定部42が圧延スタンドF2で被圧延材Sの定常部を圧延中に算出されたレベリング設定値を設定し、被圧延材Sの尾端部の尻抜けを行ったところ、被圧延材Sの尾端部の蛇行量は-5mmと良好であった。
【0100】
一方、表1には比較例として、被圧延材Sの尾端部の蛇行量制御を実行しない例を示す。比較例では、圧延スタンドF2の入側における被圧延材Sの先端部のウエッジ量は0.03mm、被圧延材Sの先端部の入側キャンバー量は-1mm、出側キャンバー量は-19mmであった。比較例では被圧延材Sの尾端部の蛇行量制御を実行しなかったため、レベリング設定値は0mmとし、予め設定していた指令レベリングのまま圧延を行った。その結果、被圧延材Sの尾端部の蛇行量は-24mmと、実施例に比べて大きかった。以上より、本実施例により被圧延材Sの尾端部の蛇行量を効果的に低減できることが確認された。
【0101】
【0102】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。