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特開2024-103218積層体、及び積層体の製造方法、包装袋、並びに包装体
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  • 特開-積層体、及び積層体の製造方法、包装袋、並びに包装体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103218
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】積層体、及び積層体の製造方法、包装袋、並びに包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240725BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240725BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B65D65/40 D
B32B27/30 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007431
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵介
(72)【発明者】
【氏名】市丸 真緒
(72)【発明者】
【氏名】森 諒平
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AB02
3E086AC07
3E086AC13
3E086AC15
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA33
3E086BA35
3E086BB01
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB22
3E086BB52
3E086BB68
3E086BB71
3E086BB85
3E086CA01
3E086CA28
3E086CA31
3E086DA08
4F100AA01
4F100AA01B
4F100AC05
4F100AC05B
4F100AH06
4F100AH06B
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK21
4F100AK21B
4F100AK42
4F100AK42A
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH46
4F100EH46B
4F100EJ42
4F100EJ67
4F100EJ67B
4F100EJ86
4F100GB15
4F100JB09
4F100JB09B
4F100JD01
4F100JD01B
4F100JD03
4F100JD04
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】酸素バリア性及び水蒸気バリア性が高い積層体を提供すること。
【解決手段】
基材上に、バリア性組成物を含むバリア層を有する積層体であり、バリア性組成物は、水溶性高分子と、無機層状化合物と、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方と、を含み、バリア性組成物中の無機層状化合物に対する水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である積層体を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、バリア性組成物で形成されるバリア層を有する積層体であり、
前記バリア性組成物は、水溶性高分子と、無機層状化合物と、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方と、を含み、
前記バリア性組成物中の前記無機層状化合物に対する前記水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である積層体。
【請求項2】
前記バリア層が、シランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方と、を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記シランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方がエポキシ基を有する、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記バリア層は、前記バリア性組成物を含み、pHが4.0未満である分散液を乾燥して得られる、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記バリア性組成物における前記水溶性高分子の質量比率と前記無機層状化合物の質量比率の合計が30~60質量%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記バリア層の厚さが0.1~3.0μmである、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコール及び前記変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方の重合度が1500~4200である、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記バリア層の水蒸気透過度が10.0g/m/日以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
前記バリア層の酸素透過度が2.0mL/m/日以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の積層体を備える包装袋。
【請求項12】
請求項11に記載の包装袋と、当該包装袋の収容部に収容される収容物と、を備える、包装体。
【請求項13】
水溶性高分子と、無機層状化合物と、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方とを含み、前記無機層状化合物に対する前記水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である原料組成物を調製する工程と、
前記原料組成物を含む分散液を基材に塗布する工程と、
加熱により前記分散液からバリア性組成物で形成されるバリア層を形成する工程と、を含む、積層体の製造方法。
【請求項14】
前記分散液のpHが4.0未満である、請求項13に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体、及び積層体の製造方法、包装袋、並びに包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
内容物の包装に用いられる包装袋には、内容物の品質劣化を抑制するためにバリア性が求められる。したがって、品質の劣化に大きく影響する酸素と水蒸気に対してバリア性を有するバリア性積層体が包装袋の材料として種々検討されている。
【0003】
特許文献1には、ポリプロピレン基材の片面に、透明プライマー層、蒸着薄膜層、及びバリア性複合被膜を順次積層して、包装材料のバリア性を向上する技術が開示されている。特許文献2には、異なる組成のバリア層を2層積層したバリア性積層体が開示されている。また、特許文献3には、樹脂基材と下地層と被覆層を備え、被覆層に無機層状化合物を用いた積層フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-254994号公報
【特許文献2】特開2020-069801号公報
【特許文献3】国際公開第2016/158794号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水蒸気及び酸素に対するバリア性を向上する観点から、積層体にバリア性の蒸着薄膜層を設けたり、2層のバリア層を積層したりすると、工程が煩雑となり製造コストが増大する。一方、蒸着薄膜層を用いず、単層によりバリア性を持たせる場合、十分なバリア性を得るためには膜厚が厚くなり塗工適性が悪くなることが懸念される。本開示は、基材上に塗布され、酸素及び水蒸気に対して十分なバリア性を有する積層体及び積層体の製造方法を提供する。また、本開示はそのような積層体を備える包装袋及び包装体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、基材上に、バリア性組成物で形成されるバリア層を有する積層体であり、上記バリア性組成物は、水溶性高分子と、無機層状化合物と、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方と、を含み、上記バリア性組成物中の上記無機層状化合物に対する上記水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である積層体を提供する。
【0007】
上記積層体は、バリア性組成物中の無機層状化合物に対する水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である。このような積層体は、酸素及び水蒸気に対するバリア性に寄与する水溶性高分子及び無機層状化合物をバランスよく含むバリア層を有し、基材上のバリア性を有する層が単層であったとしても、酸素及び水蒸気に対して十分に高いバリア性を有することができる。
【0008】
本開示の一側面は、水溶性高分子と、無機層状化合物と、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方とを含み、上記無機層状化合物に対する上記水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である原料組成物を調製する工程と、上記原料組成物を含む分散液を基材に塗布する工程と、加熱により上記分散液からバリア性組成物を含むバリア層を形成する工程を含む、積層体の製造方法を提供する。
【0009】
上記積層体の製造方法により、基材上に上記バリア性組成物を含むバリア層を有する積層体を提供することができる。したがって、蒸着工程及び他のバリア層の塗布工程が必要なく、製造工程が簡略化され、設備コストを低減することができる。また、上記製造方法により得られた積層体は、酸素や水蒸気に対して十分に高いバリア性を有する。
【0010】
本開示の一側面は、上記積層体を備えた包装袋を提供する。上記包装袋は、上記積層体を備えることで、水蒸気及び酸素に対して十分に高いバリア性を有する包装袋を提供することができる。
【0011】
本開示の一側面は、上記包装袋と、包装袋の収容部に収容される収容物と、を備える、包装体を提供する。上記包装体は、上記積層体を有する包装袋内に収容物を備えることで、水蒸気及び酸素による収容物の品質劣化を十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示は、一側面において、基材上に塗布されており、且つ酸素及び水蒸気に対して十分なバリア性を有する積層体及び積層体の製造方法を提供することができる。また、本開示はそのような積層体を備える包装袋及び包装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】積層体の断面の概略図である。
図2】包装袋の概略図である。
図3】実施例1,3,8,10、及び比較例2の積層体の光線透過率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。本明細書に明示される数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されるいずれかの値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせてもよい。本明細書において例示する材料又は成分は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、説明に使用される上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0015】
図1は、一実施形態に係る積層体の模式断面図である。積層体100は、基材10の一方面上に、バリア層30を有する。
【0016】
基材10は、特に限定されず、樹脂フィルム、紙等であってよい。樹脂フィルムには、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリスチレンフィルム;66-ナイロン等のポリアミドフィルム;ポリカーボネートフィルム、並びに、ポロアクリロニトリル、及びポリイミドフィルム等のエンジニアリングプラスチックフィルム等が挙げられる。また、ホモポリマーで構成される層(フィルム)、ランダムコポリマーで構成される層(フィルム)、及びブロックコポリマーで構成される層(フィルム)から選ばれる一種を備えていてもよく、また、同種のフィルムが複数積層されたものでもよい。酸素バリア性と水蒸気バリア性を両立する観点から、PETを用いるのが好ましい。
【0017】
樹脂フィルムは、延伸及び未延伸のどちらであってもよい。少なくとも一つの延伸フィルムと少なくとも一つの未延伸フィルムとが積層されているものであってもよい。基材10は、二軸方向に任意に延伸されたフィルムを有することによって、機械強度及び寸法安定性を向上することができる。酸素バリア性を一層向上させる観点から、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いることが好ましい。
【0018】
樹脂フィルムは、水蒸気バリア性を一層向上させる観点から、蒸着フィルムを用いてもよい。蒸着フィルムは、アルミニウム等の金属又はアルミナ等の金属酸化物をあらかじめ基材に蒸着させたものを使用してもよい。蒸着フィルムとしては、アルミ蒸着フィルム、アルミナ蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルム等が挙げられ、アルミ蒸着フィルムが好ましい。
【0019】
基材10に用いられる紙には、植物由来のパルプを主成分として一般的に用いられているものであれば特に制限はない。紙としては、晒、未晒クラフト紙、上質紙、板紙、ライナー紙、塗工紙、片艶紙、グラシン紙、グラファン紙等が挙げられる。
【0020】
上記基材10の一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。基材10は、同種又は異種のものを複数積層することによって構成されてもよい。
【0021】
基材10の厚さは特に制限されず、例えば、3~200μmであってもよく、6~30μmであってもよい。厚さは、用途又は求められる特性に応じて調整してもよい。基材10は、フィラー、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、及び酸化防止剤等から選ばれる少なくとも一種の添加剤を含有してもよい。基材10の表面は、薬品処理、溶剤処理、コロナ処理、プラズマ処理、及びオゾン処理から選ばれる少なくとも一つの処理が施されていてもよい。
【0022】
バリア層30は、バリア性組成物で形成される。バリア性組成物は、水溶性高分子、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方、並びに無機層状化合物を含む。バリア性組成物は、無機層状化合物を含有することから、バリア性組成物で形成されるバリア層30の酸素バリア性及び水蒸気バリア性を向上することができる。このようなバリア層30を有する積層体100は、基材10に蒸着薄膜層及び複数のバリア層を有していなくても、高いバリア性を有することができる。
【0023】
バリア性組成物における無機層状化合物に対する水溶性高分子の質量比は0.3~3.0であり、好ましくは0.5~2.5であり、より好ましくは0.7~2.0である。質量比が3.0より大きくなると、無機層状化合物の割合が減少するため、バリア層30の酸素バリア性及び水蒸気バリア性が低下する。一方、質量比が0.3より小さくなると、無機層状化合物の割合が過剰になるため、バリア層30が濁り、塗工適性が損なわれて、厚みがばらつきやすくなる。
【0024】
バリア性組成物における無機層状化合物は、層状構造を有する無機化合物である。無機層状化合物としては、例えば、カオリナイト族、スメクタイト族、又はマイカ族等に代表される粘土鉱物が挙げられる。また、無機層状化合物は非晶質であってもよい。バリア性組成物は、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。無機層状化合物の粒径は、例えば0.1~10μmである。無機層状化合物のアスペスト比は、例えば50~5000である。
【0025】
バリア層30の酸素バリア性及び水蒸気バリア性を一層向上させる観点から、無機層状化合物は、モンモリロナイト、非晶質の合成雲母を含むことが好ましく、積層体100の透明性を向上させる観点から、非晶質の合成雲母を含むことがより好ましい。
【0026】
無機層状化合物として、合成雲母を用いると、合成雲母は、水溶性高分子との相溶性が高く、天然系の雲母に比べて不純物が少ないため、不純物に由来するガスバリア性の低下や膜凝集力の低下を招くことがない。また、合成雲母は、構造内にフッ素原子を有することから、水系コーティング剤からなる被膜のガスバリア性の湿度依存性を低く抑えることにも寄与し、他の無機層状化合物に比べて、高いアスペクト比を有することから、迷路効果がより効果的に働き、特に水系コーティング剤からなる被膜のガスバリア性を高く発現するのに寄与する。
【0027】
バリア性組成物における無機層状化合物の含有量は、例えば15~30質量%である。バリア性組成物における無機層状化合物の含有量の下限は、バリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度を一層低減する観点から20質量%であってもよい。バリア性組成物における無機層状化合物の含有量の上限は、バリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度を一層低減する観点から、25質量%であってもよい。なお、バリア性組成物における各成分の含有量は、原料組成物を調製する際の配合比と通常同じである。したがって、各成分の含有量は、配合比から求めることができる。ただし、公知の分析手段によって各成分の含有量を求めてもよい。
【0028】
水溶性高分子は、特に限定されず、例えばポリビニルアルコール系、デンプン・メチルセルロース・カルボキシメチルセルロース等のアルコール系、及びアクリルポリオール系等の高分子が挙げられる。酸素バリア性及び水蒸気バリア性を一層向上させる観点から、水溶性高分子は、ポリビニルアルコール系の高分子を含むことが好ましい。ポリビニルアルコール系の高分子は、ポリビニルアルコールであってもよく、ポリビニルアルコールにカルボキシル基及び/又はカルボニル基等の官能基が導入された変性ポリビニルアルコールであってもよい。水溶性高分子の数平均分子量は、例えば、40000~180000である。
【0029】
ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールの重合度は、1500~4200が好ましく、1700~3000がより好ましい。ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方の重合度が上記下限値以上であることによって、バリア性組成物の緻密性が上がり、バリア層30のガスバリア性を一層高くすることができる。上記重合度が上記上限値以下であることによって、バリア性組成物の分散液が適度な粘度となり塗工性が向上する。これによって、バリア層30の厚さの均一性が向上し、ガスバリア性を一層高くすることができる。
【0030】
ポリビニルアルコール系の水溶性高分子は、例えばポリ酢酸ビニルをけん化(部分けん化も含む)して得ることができる。この水溶性高分子は、酢酸基が数十%残存しているものであってもよく、酢酸基が数%しか残存していないものであってもよい。ポリビニルアルコールは、完全けん化型であってもよい。
【0031】
バリア性組成物における水溶性高分子の含有量は、例えば、15~35質量%である。バリア性組成物における水溶性高分子の含有量の下限は、バリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度を一層低減する観点から20質量%であってもよい。バリア性組成物における水溶性高分子の含有量の上限は、バリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度を一層低減する観点から、30質量%であってよく、25質量%であってもよい。
【0032】
バリア性組成物中の無機層状化合物と水溶性高分子の質量比率の合計は、好ましくは30~60質量%であり、より好ましくは35~55質量%であり、さらに好ましくは40~50質量%である。バリア性組成物中の無機層状化合物と水溶性高分子の質量比率の合計が上記範囲内であることによって、バリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度を一層低減することができる。
【0033】
バリア性組成物に含まれる金属アルコキシド並びにその加水分解物としては、例えば、テトラエトキシシラン[Si(OC]及びトリイソプロポキシアルミニウム[Al(OC]等の一般式M(OR)で表されるもの、並びにその加水分解物が挙げられる。これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0034】
バリア性組成物における金属アルコキシド及びその加水分解物の合計含有量は、例えば、40~70質量%である。バリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度を一層低減する観点から、バリア性組成物における金属アルコキシド及びその加水分解物の合計含有量の下限は45質量%であってもよい。同様の観点から、バリア性組成物における金属アルコキシド及びその加水分解物の合計含有量の上限は55質量%であってもよい。バリア性組成物中に金属アルコキシドを含むことで、バリア層30の耐水性・耐湿性が向上する。これによって、バリア層30の湿度依存性が低減され、ガスバリア性を向上することができる。
【0035】
バリア性組成物にはシランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方を含んでよい。シランカップリング剤及びその加水分解物としては、有機官能基を有するシランカップリング剤が挙げられる。そのようなシランカップリング剤及びその加水分解物としては、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプリピルメチルジメトキシシラン、及びこれらの加水分解物が挙げられる。これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0036】
シランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方は、有機官能基として、エポキシ基を有するものを用いることが好ましい。エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、γ―グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、及びβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。エポキシ基を有するシランカップリング剤及びその加水分解物は、ビニル基、アミノ基、メタクリル基又はウレイル基のように、エポキシ基とは異なる有機官能基を有していてもよい。
【0037】
有機官能基を有するシランカップリング剤及びその加水分解物は、その有機官能基と水溶性高分子の水酸基とが相互作用することによって、バリア層30の酸素バリア性及び水蒸気バリア性を一層向上することができる。特に、シランカップリング剤とその加水分解物のエポキシ基、及びポリビニルアルコールの水酸基は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に特に優れるバリア層30を形成することができる。また、前記シランカップリング剤及びその加水分解物を含むことで、バリア層30を形成するバリア性組成物中の無機層状化合物の相溶性、分散性が向上する。これによって、バリア層30のガスバリア性を一層向上することができる。
【0038】
バリア性組成物におけるシランカップリング剤及びその加水分解物の合計含有量は例えば15質量%以下である。バリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度を一層低減する観点から、バリア性組成物におけるシランカップリング剤及びその加水分解物の合計含有量の下限は5質量%であってもよく、3質量%であってもよく、1質量%であってもよい。同様の観点から、バリア性組成物におけるシランカップリング剤及びその加水分解物の合計含有量の上限は10質量%であってもよく、15質量%であってもよい。
【0039】
バリア層30は、基材10上にバリア性組成物と分散媒とを含む分散液を塗布して乾燥し形成する。分散媒は、水、アルコール、及び酸を含んでよい。バリア性組成物1質量部に対し、分散媒の水を10~20質量部、アルコールを3~10質量部、酸を0.1~1質量部含んでよい。分散媒が酸を含むことによって、バリア性組成物に含まれる金属アルコキシドが加水分解する。上記分散液のpHは4.0未満であることが好ましい。pHは、上記分散液中に加える酸の量により調整してもよい。pHが4.0未満である分散液はゲル化し難く塗工適性が高い。このような分散液を乾燥して得られるバリア層30は厚みのばらつきが小さく、厚さの均一性に優れる。分散液の塗工適性をさらに向上する観点から、分散液のpHは、好ましくは3.8以下であり、より好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは3.2以下である。pHの下限は、変色を抑制する観点から、例えば1.5であってもよく、2.0であってもよい。
【0040】
波長350~800nmにおける上記分散液の光線透過率は、60%以上であってよい。より透明なバリア層を形成する観点から、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上である。光線透過率の上限は、例えば95%であってもよく、90%であってもよい。
【0041】
バリア層30の厚さは、特に制限されず、例えば、0.1~3μmであってもよい。厚さは、用途又は求められる特性に応じて調整してもよい。バリア層30の厚さの上限は2.0μmであってよく、1.5μmであってもよい。バリア層30の厚さがこの範囲であることで、積層体100を利用した包装袋を薄くすることができる。
【0042】
積層体100は、バリア層30と基材10の間に下地層を備えていてもよい。下地層は、有機高分子を主成分として含有する層であり、プライマー層と呼ばれることもある。バリア層30と基材10の間に下地層を備えることによって、バリア層30と基材10との接着性を高くすることができる。
【0043】
下地層における有機高分子の含有量は、例えば70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。有機高分子としては、高分子末端に2つ以上のヒドロキシル基を有するポリオール類、シランカップリング剤又はその加水分解物のような有機シラン化合物、上記ポリオール類と、イソシアネート化合物との2液反応によって得られる反応生成物(水系ポリウレタン樹脂)、及び、上記ポリオール類とシランカップリング剤との反応生成物、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0044】
ポリオール類としては、例えば、アクリルポリオール、ポリビニルアセタール、ポリスチルポリオール、及びポリウレタンポリオール等から選択される少なくとも一種が挙げられる。アクリルポリオールは、アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られるものであってもよく、アクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られるものであってもよい。アクリル酸誘導体モノマーとしては、エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、及びヒドロキシブチルメタクリレート等が挙げられる。アクリル酸誘導体モノマーと共重合させるモノマーとしては、スチレン等が挙げられる。
【0045】
下地層は、有機溶媒中に上述の成分を任意の割合で配合して混合液を調製し、基材10の一方面上に調製した混合液を用いて形成することができる。混合液は、例えば、3級アミン、イミダゾール誘導体、カルボン酸の金属塩化合物、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等の硬化促進剤;フェノール系、硫黄系、ホスファイト系等の酸化防止剤;レベリング剤;流動調整剤;触媒;架橋反応促進剤;充填剤等を含有してもよい。
【0046】
混合液は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、又はシルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式、或いは、ロールコート、ナイフエッジコート、又はグラビアコート等の周知の塗布方式を用いて基材10の上にコーティングすることができる。コーティング後、例えば50~200℃に加熱し、乾燥及び/又は硬化することによって、基材10上に下地層を形成することができる。基材10上に下地層を形成した場合、下地層上に上記分散液を塗布し、バリア層30を形成させてもよい。
【0047】
積層体100は優れた酸素バリア性を有する。JIS K7126-2:2006に準拠して、mocon法(等圧法)によって測定される積層体の酸素透過度は、例えば、2ml/m/日以下であってもよく、1.0ml/m/日以下であってもよく、0.7ml/m/日以下であってもよい。なお、本明細書における酸素透過度は、大気圧下、30℃、70%RHの条件で測定される値である。
【0048】
積層体100は優れた水蒸気バリア性を有する。JIS K 7129:2008に準拠して、mocon法(等圧法)によって測定される積層体の水蒸気透過度は、例えば、10g/m/日以下であってもよく、8.5g/m/日以下であってもよく、5.0g/m/日以下であってもよく、4.0g/m/日以下であってもよい。なお、本明細書における水蒸気透過度は、大気圧下、40℃、90%RHの条件で測定される値である。
【0049】
バリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度は、積層体100の各透過度の実測値から、基材単体での各透過度の実測値を差し引いて求めることができる。バリア層30の酸素透過度は、2.0ml/m/日以下であってもよく、1.0ml/m/日以下であってもよく、0.8ml/m/日以下であってもよく、0.7ml/m/日以下であってもよい。バリア層30の水蒸気透過度は、例えば、10g/m/日以下であってもよく、7.0g/m/日以下であってもよく、5.0g/m/日以下であってもよく、4.0g/m/日以下であってもよい。積層体100の各透過度の実測値から、基材単体での各透過度の実測値を差し引いたバリア層30の酸素透過度及び水蒸気透過度がこの範囲であることによって、積層体100は、基材の種類によらず積層体100の酸素バリア性および水蒸気バリア性を十分に高くすることができる。
【0050】
一実施形態に係る積層体の製造方法は、水溶性高分子と、無機層状化合物と、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方とを含み、上記無機層状化合物に対する上記水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である原料組成物を調製する工程と、上記原料組成物を含む分散液を基材に塗布する工程と、加熱により上記分散液からバリア性組成物で構成されるバリア層を形成する工程を含む、積層体の製造方法である。上記原料組成物の各成分及び配合量は、積層体の実施形態で説明したとおりである。また、上記原料組成物を調製する工程では、シランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方を原料組成物に加えてもよい。シランカップリング剤及びその加水分解物の種類及び配合量についても、積層体の実施形態で説明したとおりである。
【0051】
原料組成物を調製する工程は、上記各成分を原料として混合することで調製する。原料組成物を簡便に調製する観点から、水溶性高分子と無機層状化合物をあらかじめ混合し、その後他の成分を混合してもよい。また、金属アルコキシドは酸等の触媒により加水分解した状態で加えてもよい。
【0052】
原料組成物を含む分散液は、上記で調製した原料組成物を分散媒に混合し、分散させることで得られる。分散媒は、水、アルコール及び酸を含んでよい。水、アルコール及び酸の配合量は、上述したとおりである。バリア層は基材の表面上に調製した上記分散液を塗布して乾燥させて形成することができる。塗布時の原料組成物を含む分散液のpHは4.0未満であることが好ましい。pHが4.0未満であることにより、分散液のゲル化が抑制され、基材へ塗布しやすくなる。分散液のゲル化をさらに抑制する観点から、原料組成物を含む水分散液のpHは、好ましくは3.8以下であり、より好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは3.2以下である。pHの下限は、例えば1.5であってもよく、2.0であってもよい。
【0053】
原料組成物を含む分散液は、バリア層の物性を大きく損なわない範囲で、その他の成分を含有してよい。そのような成分としては、分散剤、安定化剤、粘度調整剤及び着色剤等が挙げられる。
【0054】
原料組成物を含む分散液のpHの調整は、有機酸及び無機酸のいずれで行ってもよい。例えば、塩酸、酢酸、硫酸、硝酸等が使用できる。これらの酸を水及び/又はエタノールで希釈して使用してもよい。
【0055】
原料組成物を含む分散液は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、又はシルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式、或いは、ロールコート、ナイフエッジコート、又はグラビアコート等の周知の塗布方式を用いて基材上にコーティングすることができる。コーティング後、例えば100℃程度に加熱し、乾燥及び/又は硬化することによって、バリア層を形成することができる。基材上の下地層がある場合、上記と同様の方法で下地層上にバリア層を形成してもよい。
【0056】
このような方法で製造された積層体は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れる。すなわち、無機酸化物等からなる蒸着薄膜層を有していなくても、優れた酸素バリア性及び水蒸気バリア性を有することができる。このため、積層体は、無機酸化物等からなる蒸着薄膜層を有するものに比べて、低い製造コストで製造することができる。このような積層体は、内容物を保管する包装袋を構成する積層フィルムとして、好適に用いることができる。
【0057】
図2は、積層体を用いて形成される包装袋の一実施形態を示す平面図である。包装袋200は、略矩形の一対の積層体100の周縁を貼り合わせてなるシール部211と、シール部211によって一対の積層体100,100の間に形成される収容部218とを備える。すなわち、包装袋200は、側端部214、下端部216及び上端部217がシール部211によってシールされている。包装袋200は、シール部211に包囲された非シール部215に、食料品等の収容物が収容される収容部218を備える。収容部218には、食料品等の収容物が封入される。なお、下端部216のシール部211は、収容物を収容部218に充填した後にシールしてもよい。
【0058】
一対の積層体100は、バリア層30同士が対向するように重ね合わせられている。一対の積層体100は、接着剤によってシール部211において互いに接着されていてもよい。一対の積層体100は、バリア層30上にそれぞれ設けられたヒートシール層同士を接着することによって、シール部211を構成してもよい。
【0059】
積層体100は、酸素ガスバリア性又は水蒸気バリア性に優れるため、収容部218に収容される収容物が酸素又は水蒸気バリア性によって劣化することを十分に抑制することができる。包装袋200は、積層体100の基材10及びバリア層30の上には任意の層を設けてもよい。
【0060】
積層体100を用いて包装袋200(包装体)を製造する手順を以下に説明する。一対の積層体100を準備する。積層体100の場合、積層体100のバリア層30同士、又はバリア層30上に設けられたヒートシール層同士を対向させ、再封止手段230となる例えばファスナーテープを挟んだ状態で、バリア層30同士、又はヒートシール層同士を接着する。これによって、上端部217及び側端部214,214に対応する位置にシール部211を形成して、シール部211でコの字状に包囲された非シール部215を形成する。
【0061】
シール部211を形成した後、開封手段220を形成してもよい。例えば、側端部214,214には、傷痕群からなる易開封加工部224,224を形成する。易開封加工部224は、傷痕群に限定されず、V字状、U字状又はI字状等のノッチであってもよい。また、上端部217と再封止手段230との間の積層体100の表面部には、易開封加工部224からの切り開きの軌道となるハーフカット線221を形成してもよい。ハーフカット線221は、レーザー光を用いて形成することができる。開封手段220の形成後に、シール部211を切断すると共に化粧裁ちをして個々の包装袋に分割する。
【0062】
次に、未シール状態にある下端部216から収容物を充填する。その後、下端部216において積層体100同士を接着して、下端部216にもシール部211を形成する。このようにして、包装袋200及び包装体を製造することができる。ハーフカット線は貼り合わせた一対の積層体100を所定の幅にスリットする前に形成してもよい。
【0063】
包装袋200は、非シール部215の上端側に、包装袋200の側端部214,214及びその間を横断するように切り開いて開封するための開封手段220と、開封手段220よりも下側に、開封手段220によって開封した後に収容部218を再封止する再封止手段230とを備える。再封止手段230は、開封と密封とを繰り返して行うことが可能な公知の構造を適宜採用することができる。例えば、帯状の突起部と帯状の溝部が嵌合することによって繰り返し密封することが可能な合成樹脂製のファスナーであってもよく、粘着シールであってもよい。
【0064】
包装体は、包装袋200と、包装袋200の収容部218に収容された収容物とを備える。収容物は特に制限されず、例えば、食品、医薬品、電子部材、又は電子機器等を用いることができる。上記包装体は、包装袋200を備えるため、酸素及び水蒸気によって上記収容物が変質又は劣化することを抑制することができる。
【0065】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、積層体100は、基材10と下地層との間、下地層とバリア層30との間に、積層体の機能を大きく損なわない範囲で、任意の層又は薄膜を備えていてもよい。包装袋200及び包装体の形状は、四方袋に限定されるものではない。例えば、二方袋、三方袋又は合掌袋でもよいし、底テープを付加したスタンディングパウチ形状であってもよい。
【0066】
本開示は、以下の内容を含む。
[1]基材上に、バリア性組成物で形成されるバリア層を有する積層体であり、前記バリア性組成物は、水溶性高分子と、無機層状化合物と、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方と、を含み、前記バリア性組成物中の前記無機層状化合物に対する前記水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である積層体。
[2]前記バリア層が、シランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方と、を含む、[1]に記載の積層体。
[3]前記シランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方がエポキシ基を有する、[2]に記載の積層体。
[4]前記バリア層は、前記バリア性組成物を含み、pHが4.0未満である分散液を乾燥して得られる、[1]~[3]のいずれか一つに記載の積層体。
[5]前記バリア性組成物における前記水溶性高分子の質量比率と前記無機層状化合物の質量比率の合計が30~60質量%である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の積層体。
[6]前記バリア層の厚さが0.1~3.0μmである、[1]~[5]のいずれか一つに記載の積層体。
[7]前記水溶性高分子がポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方を含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の積層体。
[8]前記ポリビニルアルコール及び前記変性ポリビニルアルコールの少なくとも一方の重合度が1500~3000である、[7]に記載の積層体。
[9]前記バリア層の水蒸気透過度が10.0g/m/日以下である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の積層体。
[10]前記バリア層の酸素透過度が2.0mL/m/日以下である、[1]~[9]のいずれか一つに記載の積層体。
[11][1]~[10]のいずれか一つに記載の積層体を備える包装袋。
[12]上記[11]に記載の包装袋と、当該包装袋の収容部に収容される収容物と、を備える、包装体。
[13]水溶性高分子と、無機層状化合物と、金属アルコキシド及びその加水分解物の少なくとも一方とを含み、前記無機層状化合物に対する前記水溶性高分子の質量比が0.3~3.0である原料組成物を調製する工程と、前記原料組成物を含む分散液を基材に塗布する工程と、加熱により前記水分散液からバリア性組成物で形成されるバリア層を形成する工程とを含む、積層体の製造方法。
[14]前記分散液のpHが4.0未満である、[13]に記載の積層体の製造方法。
【実施例0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて本開示の内容をより具体的に説明する。なお、本開示は下記実施例に限定されるものではない。
【0068】
[積層体の作製と評価]
(実施例1)
ポリビニルアルコール(PVA,日本酢ビ・ポバール株式会社製、商品名:JF-17、重合度:1700,完全けん化型)0.379gと水膨潤性合成雲母(MEB,コープケミカル株式会社製、商品名:ソマシフMEB-3)3.692gを、水及びメタノールの混合溶媒(水:メタノール=90:10(重量比))と混合し、水/メタノール分散液を調製した。調製した水/メタノール分散液に、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403)を0.209g加えて攪拌した。次いで所定の濃度の塩酸を、テトラエトキシシラン(TEOS)2.453gを含む水/メタノール溶液に加えて、TEOSを加水分解させた。加水分解したTEOSを含む水/メタノール溶液14.791gを水/メタノール分散液に加え、原料組成物を含む分散液(以下、「分散液」と称する。)を調製した。この分散液に含まれる不揮発性成分(PVA,MEB,TEOS,KBM403)の質量比率(分散液を調製する際の配合比から算出)をバリア性組成物の組成として表1に示した。また、分散液中の固形分濃度、及び分散液のpHも表1に示した。
【0069】
バリア性組成物に含まれるPVA、MEB、TEOS、及びKBM403の濃度はそれぞれ24質量%、16質量%、50質量%、10質量%であった。したがって、無機層状化合物(M)に対する水溶性高分子(P)の質量比(P/M)は、1.5であった。また、バリア性組成物全体に対する水溶性高分子と無機層状化合物の質量比率の合計(PM/全体)は40質量%であった。
【0070】
調製した分散液を基材であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ:12μm)に、バーコート法により塗布した。塗布後、加熱して乾燥し、PETフィルム上にバリア層を形成した。このようにして、実施例1の積層体を作製した。バリア層の厚さは1.0~1.3μmであった。また、積層体の厚さは13.0~13.5μmであった。
【0071】
得られた積層体の酸素透過度を、酸素透過率測定装置(MOCON社製、装置名:OXTRAN 2/21)を用いて測定した。測定雰囲気は、30℃、70%RHとした。また、水蒸気透過度を、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、装置名:PERMARTRAN 3/31)を用いて測定した。測定雰囲気は、40℃、90%RHとした。各測定結果は表1に示すとおりであった。
【0072】
(実施例2~実施例8、比較例1)
バリア性組成物の組成と分散液のpHを表1のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で積層体を作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。得られた結果を表1に示した。
【0073】
【表1】
【0074】
P/Mが0.3~3.0である実施例1~8は、比較例1よりも水蒸気透過度が低く、高い水蒸気バリアを有していた。また、実施例1~8は、比較例1と同程度の高い酸素バリア性を有していた。
【0075】
(比較例2)
合成雲母の代わりにモンモリロナイト(Mon.)を使用したこと、及びバリア性組成物の組成と分散液のpHを表2に示したとおりに調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で積層体を作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。得られた結果を表2に示した。
【0076】
(比較例3)
合成雲母の代わりにモンモリロナイト(Mon.)を使用したこと、及びバリア性組成物の組成と分散液のpHを表2に示したとおりに調整し、実施例1と同様の方法で分散液を調製した。実施例1で用いたPETフィルムと同じPETフィルム上に、電子線加熱方式による真空蒸着装置を用いて、シリカを含む混合材料を蒸発させて、PETフィルム上に厚さ20nmのシリカからなる蒸着薄膜層を形成したものを基材とした。その後、実施例1と同様の方法で、基材の蒸着薄膜層上にバリア層を形成し、比較例3の積層体を作製した。実施例1と同様の方法で酸素透過度と水蒸気透過度を測定し、得られた結果を表2に示した。
【0077】
【表2】
【0078】
無機層状化合物としてモンモリロナイトを使用し、P/Mを表1の比較例1と同様に高い値に調整した比較例2は、比較例1と同様に水蒸気バリア性が低かった。したがって、無機層状化合物の種類によらず、P/Mの値が高いと、積層体は水蒸気バリア性を有しないことが確認された。酸素及び水蒸気に対するバリア性を付与するため、比較例2の基材に金属薄膜の蒸着を行い、蒸着薄膜層を形成した比較例3では、蒸着薄膜層により、ガスバリア性が向上し、特に水蒸気バリア性が大きく向上していた。したがって、P/Mの値が高い場合は、水蒸気バリア性を確保するために蒸着薄膜層を設ける必要があることが確認された。一方で、実施例1~8のようにP/Mを低くすれば、蒸着薄膜層を設けずに、水蒸気に対するバリア性を向上させることができる。
【0079】
(実施例9~実施例15)
バリア性組成物の組成と、分散液のpHを表3に示したとおりに調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で積層体を作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。また、分散液を調製後、大気中に放置し、分散液がゲル化するまでの時間を測定した。得られた結果を表3に示した。比較例3で使用した分散液がゲル化するまでの時間も併せて測定した。
【0080】
【表3】
【0081】
比較例3の分散液は1週間以上ゲル化しなかった。一方、表3で示した実施例は、ゲル化するまでの時間が最長でも48時間であった。したがって、P/Mの値を低くすると、ゲル化しやすくなることが示された。表3より、pHが4.0以上である実施例9及び実施例10は、ゲル化するまでの時間が比較的短かった。したがって、分散液のpHを低くすることで、分散液のゲル化が抑制され、基材への分散液の塗布を円滑に行うことができることが確認された。
【0082】
(実施例16)
二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)上に下地層を形成したものを基材とした。具体的には、希釈溶剤(酢酸エチル)に、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、アクリルポリオール、脂肪族系イソシアネートを所定の質量比で配合して、下地層形成用の混合液(固形分:2質量%)を調製した。OPPフィルムの一方面上に、混合液をグラビアコート法によって塗布した。塗布後、乾燥してOPPの一方面上に下地層を形成した。なお、OPPフィルムは、ホモポリマータイプのポリプロピレンフィルムと、コポリマータイプのポリプロピレンフィルムとから構成される市販品(AJ Plast Public Co.製、商品名:PJ201、厚さ:20μm)を用いた。
【0083】
OPPフィルム上に下地層を形成後、表4に示す組成を有するバリア性組成物を用いたこと、及び分散液のpHを表4に示す値に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で基材上にバリア層を形成した。実施例1と同様の方法で評価用フィルムを作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。得られた結果を表4に示した。
【0084】
(比較例4)
実施例16と同様の方法でOPPフィルムに下地層を形成したものを基材として用いた。表4に示す組成を有するバリア性組成物を用いたこと、及び分散液のpHを表4に示す値に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で基材上にバリア層を形成した。実施例1と同様の方法で評価用フィルムを作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。得られた結果を表4に示した。
【0085】
(実施例17~実施例19、比較例5)
基材をアルミ蒸着バリアフィルム(VMCPPフィルム)としたこと、バリア性組成物の組成、及び分散液のpHを表4に示したとおりに調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で積層体及び評価用フィルムを作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。得られた結果を表4に示した。なお、VMCPPフィルムは、市販品(東レフィルム加工株式会社製、商品名:VM―CPP2703、厚さ:20μm)を用いた。
【0086】
【表4】
【0087】
下地層を備えた基材を用いても、実施例16と比べてP/Mが大きい比較例4では水蒸気バリア性は向上しなかった。一方、基材に下地層を形成した場合でも、比較例4と比べてP/Mが小さい実施例16では、酸素バリア性と水蒸気バリア性が向上していた。したがって、下地層の有無によらず、P/Mの値がガスバリア性に影響を及ぼすことが示された。
【0088】
VMCPPフィルムを基材として用いると、実施例17~19に比べてP/Mが大きい比較例5であっても、酸素と水蒸気に対して高いバリア性を示した。ここで、比較例5と比べてP/Mが小さい実施例17~19は、さらにガスバリア性が向上し、特に水蒸気バリア性はいずれの実施例でも数値が向上することが示された。したがって、基材の種類によらず、P/Mの値を低く調整したバリア層はガスバリア性を向上させるこが示された。
【0089】
(実施例20~実施例22)
重合度が2400のPVA(株式会社クラレ製、商品名:PVA-124、完全けん化型)、及び4000のPVA(日本酢ビ・ポバール株式会社製、商品名:JC-40、完全けん化型)を準備した。表5に示す重合度を有するPVAを用いるとともに、バリア性組成物の組成を表5に示すとおりにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で積層体を作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。得られた結果を表5に示した。
【0090】
【表5】
【0091】
重合度が互いに異なる複数種類のPVAを用いて、積層体のガスバリア性を比較したところ、重合度2400の積層体が、最も高いガスバリア性を示した。一方、PVAの重合度が4000の積層体は、重合度1700及び重合度2400の積層体よりも、低いガスバリア性を示した。
【0092】
(比較例6、実施例23)
バリア性組成物の組成を表6に示すとおりにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で積層体を作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。
【0093】
【表6】
【0094】
実施例23と比較例6はP/Mの値は同じであるが、比較例6は金属アルコキシドであるTEOSを含んでいない。実施例23と比較例6のガスバリア性を比較すると、実施例23の方が優れたガスバリア性を示した。これらの結果から、金属アルコキシドを加えることで、積層体のガスバリア性を向上できることが確認された。
【0095】
(実施例24)
バリア性組成物の組成を表7に示すとおりにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で積層体を作製し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。なお、表7には比較のため、実施例3及び実施例4の結果も併せて示す。
【0096】
【表7】
【0097】
実施例24は、実施例3及び実施例4とP/Mの値が同じであるが、実施例24はシランカップリング剤であるKBM403を含んでいない。実施例24と、実施例3及び実施例4とのガスバリア性を比較すると、実施例3及び実施例4の方が優れたガスバリア性を有していた。これらの結果から、シランカップリング剤を加えることで、積層体のガスバリア性を一層向上できることが確認された。
【0098】
[バリア層単独のガス透過度の計算]
各実施例及び比較例において、バリア層単独のガス透過度を求めた。結果を表6に示す。バリア層単独のガス透過度は、これまでの実施例で実測した積層体のガス透過度及び基材単独のガス透過度の実測値を用いて以下の計算式により求めた。基材単独のガス透過度の実測値の測定は積層体の実測値の測定と同じ方法で行った。
1/Ptotal=1/Pfilm+1/Pbase
total:積層体のガス透過度(実測値)
film:バリア層単独のガス透過度
base:基材単独のガス透過度(実測値)
【0099】
【表8】
【0100】
バリア層単独のガス透過度を、積層体の実測値と基材単独の実測値から差し引いて求めた。各実施例において、バリア層単独のガス透過度は、酸素及び水蒸気いずれも積層体のガス透過度と比べてわずかに高い値を示した。したがって、バリア層単独のガスバリア性は、積層体のガスバリア性と同等であると考えられる。
【0101】
[分散液の光線透過率測定]
実施例1、実施例3、実施例8、実施例10、及び比較例2で調製した分散液に対して、光線透過率の測定を行った。透過率の測定は、分光光度計(株式会社日立ハイテク製、商品名:U-3010)を用いて、波長200~800nmの範囲の光線透過率を測定した。結果を図3に示した。無機層状化合物に合成雲母を使用した実施例1、実施例3、及び実施例8は、モンモリロナイトを使用した比較例2よりも光線透過率が高い傾向がみられた。また、実施例1、実施例3、及び実施例8は、比較例2と比べてP/Mが大きく分散液中の無機層状化合物の割合が多いにもかかわらず、比較例2よりも高い光線透過率を示していた。したがって、無機層状化合物が合成雲母を含むことで、バリア層が無機層状化合物を多く含む場合であっても、光線透過率が高く透明な積層体を作製できると考えられる。一方、実施例10はゲル化までの時間が短くゲル化しやすいため、実施例1、実施例3及び実施例8と比較して光線透過率が低くなり、比較例2と同等の光線透過率になったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本開示によれば、高い酸素バリア性と水蒸気バリア性を有する積層体及びその製造方法が提供される。また、この積層体を用いた包装袋及び包装体を提供することができる。
【符号の説明】
【0103】
10…基材、30…バリア層、100…積層体、200…包装袋、211…シール部、214…側端部、215…非シール部、216…下端部、217…上端部、218…収容部、220…開封手段、221…ハーフカット線、224…易開封加工部、230…再封止手段
図1
図2
図3