(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103240
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、歯車製造システム、歯車製造方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23F 23/12 20060101AFI20240725BHJP
G05B 19/4069 20060101ALI20240725BHJP
B24B 53/075 20060101ALI20240725BHJP
B24B 53/08 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B23F23/12
G05B19/4069
B24B53/075
B24B53/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】34
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007461
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】591092615
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトギヤシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 千紘
(72)【発明者】
【氏名】丸山 健一
【テーマコード(参考)】
3C025
3C047
3C269
【Fターム(参考)】
3C025HH00
3C047AA01
3C047AA15
3C047CC08
3C047CC12
3C269AB06
3C269AB07
3C269BB03
3C269EF23
3C269EF69
3C269MN41
3C269QE08
(57)【要約】
【課題】研削加工後のワークの形状を精度良くシミュレーションできるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】本発明において、演算装置3は、ドレッサモデル91とドレス前砥石モデル92との接触部分に対応するドレス部分を特定し、ドレス前砥石モデル92からドレス部分を取り除くことで、ドレス後の砥石の形状をシミュレーションし、ドレス後の砥石の形状を示す3次元データであるドレス後砥石モデル93を作成するドレスシミュレーション処理S1と、ドレス後砥石モデル93と加工前ワークモデル94との接触部分に対応する研削部分を特定し、加工前ワークモデル94から研削部分を取り除くことで、研削加工後のワークの形状をシミュレーションし、研削加工後のワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する研削加工シミュレーション処理S2と、を実行する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレッサの形状を示す3次元データであるドレッサモデル、歯車状の砥石のドレス前の形状を示す3次元データであるドレス前砥石モデル、歯車状のワークの研削加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、ドレス条件、及びワーク加工条件を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置と通信可能に接続されている演算装置と、
を備え、
前記演算装置は、
3次元座標系において、前記ドレス条件に基づいて、前記ドレッサモデルと前記ドレス前砥石モデルとを作動させ且つ前記ドレッサモデルの歯面と前記ドレス前砥石モデルの歯面とを接触させることで、前記ドレッサモデルと前記ドレス前砥石モデルとの接触部分に対応するドレス部分を特定し、前記ドレス前砥石モデルから前記ドレス部分を取り除くことで、ドレス後の前記砥石の形状をシミュレーションし、ドレス後の前記砥石の形状を示す3次元データであるドレス後砥石モデルを作成するドレスシミュレーション処理と、
前記3次元座標系において、前記ワーク加工条件に基づいて、前記ドレス後砥石モデルと前記加工前ワークモデルとを作動させ且つ前記ドレス後砥石モデルの歯面と前記加工前ワークモデルの歯面とを接触させることで、前記ドレス後砥石モデルと前記加工前ワークモデルとの接触部分に対応する研削部分を特定し、前記加工前ワークモデルから前記研削部分を取り除くことで、研削加工後の前記ワークの形状をシミュレーションし、研削加工後の前記ワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する研削加工シミュレーション処理と、
を実行するように構成されている、
シミュレーション装置。
【請求項2】
前記演算装置は、さらに、
前記3次元座標系において、前記ドレス後砥石モデルの歯面のうち前記研削部分に対応する部分である使用エリアの位置を算出する使用エリア算出処理を実行するように構成されている、
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記演算装置と通信可能に接続された表示手段を備え、
前記砥石の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、前記砥石の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の前記歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の前記工具軸方向の位置を表す2次元グラフを歯面グラフとすると、
前記演算装置は、前記使用エリアが表された前記歯面グラフを作成し、前記表示手段に表示させる、
請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記ドレス後砥石モデルの少なくとも歯面、及び前記加工前ワークモデルの少なくとも歯面は、複数の3次元の微小モデルにより構成され、
前記演算装置は、
前記ドレス後砥石モデルの歯面の表面を構成する複数の前記微小モデルのうち前記研削加工シミュレーション処理で前記加工前ワークモデルと重なった部分に対応する前記微小モデルを使用微小モデルとして特定し、
前記使用微小モデルに対して設定された設定点を前記使用エリアとして前記歯面グラフに表示する、
請求項3に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記演算装置は、さらに、
前記3次元座標系において、前記使用エリアに対して、前記加工前ワークモデルから取り除かれた体積に対応する加工量を算出する加工量算出処理を実行するように構成されている、
請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記演算装置と通信可能に接続された表示手段を備え、
前記砥石の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、前記砥石の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の前記歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の前記工具軸方向の位置を表す2次元グラフを歯面グラフとすると、
前記演算装置は、前記使用エリアと未使用エリアとの違い及び前記加工量の違いが色の違いにより表された前記歯面グラフを前記表示手段に表示させる、
請求項5に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
請求項2~6の何れか一項に記載のシミュレーション装置と、
前記加工前ワークモデルに対応する前記ワークと、前記ドレス後砥石モデルに対応する前記砥石とを噛み合わせて回転させることで、前記ワークを研削する歯車加工装置と、
前記ワーク加工条件に基づいて前記歯車加工装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、
前回と同一の前記砥石を用いた研削加工において、前回の前記使用エリアを避けて前記砥石が前記ワークを研削するように、前記ワーク加工条件を変更するワーク加工条件変更処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記ワーク加工条件変更処理で変更された前記ワーク加工条件に基づいて、前記歯車加工装置を制御する、
歯車製造システム。
【請求項8】
前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、
同一の前記使用エリアで所定回数研削されたこと、及び同一の前記使用エリアで所定時間以上研削されたことの少なくとも一方を含む所定条件が満たされたか否かを判定し、
前記所定条件が満たされたと判定した場合、前記ワーク加工条件変更処理を実行する、
請求項7に記載の歯車製造システム。
【請求項9】
前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、前記ワーク加工条件変更処理において、前記研削加工の開始時における前記ワークに対する前記砥石の相対位置を変更する、
請求項7に記載の歯車製造システム。
【請求項10】
請求項5又は6に記載のシミュレーション装置と、
前記加工前ワークモデルに対応する前記ワークと、前記ドレス後砥石モデルに対応する前記砥石とを噛み合わせて回転させることで、前記ワークを研削する歯車加工装置と、
前記ワーク加工条件に基づいて前記歯車加工装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、
1つの前記砥石の前記使用エリアについて所定条件が満たされた場合、前回と同一の前記砥石を用いた研削加工において、前回の前記使用エリアを避けて前記砥石が前記ワークを研削するように、前記ワーク加工条件を変更するワーク加工条件変更処理を実行するように構成され、
前記所定条件は、前記使用エリアに対する前記加工量の総量が所定の閾値を超えていることを含み、
前記制御装置は、前記ワーク加工条件変更処理で変更された前記ワーク加工条件に基づいて、前記歯車加工装置を制御する、
歯車製造システム。
【請求項11】
ドレッサの形状を示す3次元データであるドレッサモデル、歯車状の砥石のドレス前の形状を示す3次元データであるドレス前砥石モデル、歯車状のワークの研削加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、ドレス条件、及びワーク加工条件を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置と通信可能に接続されている演算装置と、
前記加工前ワークモデルに対応する前記ワークと、ドレス後砥石モデルに対応する前記砥石とを噛み合わせて回転させることで、前記ワークを研削する歯車加工装置と、
前記ワーク加工条件に基づいて前記歯車加工装置を制御する制御装置と、
を備える歯車製造システムを用いた歯車製造方法であって、
前記演算装置が、3次元座標系において、前記ドレス条件に基づいて、前記ドレッサモデルと前記ドレス前砥石モデルとを作動させ且つ前記ドレッサモデルの歯面と前記ドレス前砥石モデルの歯面とを接触させることで、前記ドレッサモデルと前記ドレス前砥石モデルとの接触部分に対応するドレス部分を特定し、前記ドレス前砥石モデルから前記ドレス部分を取り除くことで、ドレス後の前記砥石の形状をシミュレーションし、ドレス後の前記砥石の形状を示す3次元データである前記ドレス後砥石モデルを作成するドレスシミュレーション処理と、
前記演算装置が、前記3次元座標系において、前記ワーク加工条件に基づいて、前記ドレス後砥石モデルと前記加工前ワークモデルとを作動させ且つ前記ドレス後砥石モデルの歯面と前記加工前ワークモデルの歯面とを接触させることで、前記ドレス後砥石モデルと前記加工前ワークモデルとの接触部分に対応する研削部分を特定し、前記加工前ワークモデルから前記研削部分を取り除くことで、研削加工後の前記ワークの形状をシミュレーションし、研削加工後の前記ワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する研削加工シミュレーション処理と、
前記演算装置が、前記3次元座標系において、前記ドレス後砥石モデルの歯面のうち前記研削部分に対応する部分である使用エリアの位置を算出する使用エリア算出処理と、
前回と同一の前記砥石を用いた研削加工において、ユーザ、前記制御装置、又は前記演算装置が、前回の前記使用エリアを避けて前記砥石が前記ワークを研削するように、前記ワーク加工条件を変更するワーク加工条件変更処理と、
前記制御装置が、前記ワーク加工条件変更処理で変更された前記ワーク加工条件に基づいて、前記歯車加工装置を制御する制御処理と、
を含む、歯車製造方法。
【請求項12】
前記歯車製造システムは、前記演算装置と通信可能に接続された表示手段を備え、
前記砥石の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、前記砥石の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の前記歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の前記工具軸方向の位置を表す2次元グラフを歯面グラフとすると、
前記使用エリア算出処理では、前記演算装置が、ユーザの操作に応じて、前記使用エリアが表された前記歯面グラフを作成し、前記表示手段に表示させる、
請求項11に記載の歯車製造方法。
【請求項13】
前記ドレス後砥石モデルの少なくとも歯面、及び前記加工前ワークモデルの少なくとも歯面は、複数の3次元の微小モデルにより構成され、
前記演算装置は、前記使用エリア算出処理において、
前記ドレス後砥石モデルの歯面の表面を構成する複数の前記微小モデルのうち前記研削加工シミュレーション処理で前記加工前ワークモデルと重なった部分に対応する前記微小モデルを使用微小モデルとして特定し、
前記使用微小モデルに対して設定された設定点を前記使用エリアとして前記歯面グラフに表示する、
請求項12に記載の歯車製造方法。
【請求項14】
工具の形状を示す3次元データである工具モデル、歯車状のワークの研削加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、及びワーク加工条件を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置と通信可能に接続されている演算装置と、
を備え、
前記演算装置は、
3次元座標系において、前記ワーク加工条件に基づいて、前記工具モデルと前記加工前ワークモデルとを作動させ且つ前記工具モデルの歯面と前記加工前ワークモデルの歯面とを接触させることで、前記工具モデルと前記加工前ワークモデルとの接触部分に対応する加工部分を特定し、前記加工前ワークモデルから前記加工部分を取り除くことで、加工後の前記ワークの形状をシミュレーションし、加工後の前記ワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する加工シミュレーション処理と、
前記3次元座標系において、前記工具モデルの歯面のうち前記加工部分に対応する部分である使用エリアの位置を算出する使用エリア算出処理と、
を実行するように構成されている、
シミュレーション装置。
【請求項15】
前記演算装置と通信可能に接続された表示手段を備え、
前記工具の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、前記工具の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の前記歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の前記工具軸方向の位置を表す2次元グラフを歯面グラフとすると、
前記演算装置は、前記使用エリアが表された前記歯面グラフを作成し、前記表示手段に表示させる、
請求項14に記載のシミュレーション装置。
【請求項16】
前記工具モデルの少なくとも歯面、及び前記加工前ワークモデルの少なくとも歯面は、複数の3次元の微小モデルにより構成され、
前記演算装置は、
前記工具モデルの歯面の表面を構成する複数の前記微小モデルのうち前記加工シミュレーション処理で前記加工前ワークモデルと重なった部分に対応する前記微小モデルを使用微小モデルとして特定し、
前記使用微小モデルに対して設定された設定点を前記使用エリアとして前記歯面グラフに表示する、
請求項15に記載のシミュレーション装置。
【請求項17】
前記演算装置は、さらに、
前記3次元座標系において、前記使用エリアに対して、前記加工前ワークモデルから取り除かれた体積に対応する加工量を算出する加工量算出処理を実行するように構成されている、
請求項14に記載のシミュレーション装置。
【請求項18】
前記演算装置と通信可能に接続された表示手段を備え、
前記工具の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、前記工具の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の前記歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の前記工具軸方向の位置を表す2次元グラフを歯面グラフとすると、
前記演算装置は、前記使用エリアと未使用エリアとの違い及び前記加工量の違いが色の違いにより表された前記歯面グラフを前記表示手段に表示させる、
請求項17に記載のシミュレーション装置。
【請求項19】
請求項14~18の何れか一項に記載のシミュレーション装置と、
前記加工前ワークモデルに対応する前記ワークと、前記工具モデルに対応する前記工具とを噛み合わせて回転させることで、前記ワークを加工する歯車加工装置と、
前記ワーク加工条件に基づいて前記歯車加工装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、
前回と同一の前記工具を用いた加工において、前回の前記使用エリアを避けて前記工具が前記ワークを加工するように、前記ワーク加工条件を変更するワーク加工条件変更処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記ワーク加工条件変更処理で変更された前記ワーク加工条件に基づいて、前記歯車加工装置を制御する、
歯車製造システム。
【請求項20】
前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、
同一の前記使用エリアで所定回数加工されたこと、及び同一の前記使用エリアで所定時間以上加工されたことの少なくとも一方を含む所定条件が満たされたか否かを判定し、
前記所定条件が満たされたと判定した場合、前記ワーク加工条件変更処理を実行する、
請求項19に記載の歯車製造システム。
【請求項21】
前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、前記ワーク加工条件変更処理において、加工の開始時における前記ワークに対する前記工具の相対位置を変更する、
請求項19に記載の歯車製造システム。
【請求項22】
請求項17又は18に記載のシミュレーション装置と、
前記加工前ワークモデルに対応する前記ワークと、前記工具モデルに対応する前記工具とを噛み合わせて回転させることで、前記ワークを加工する歯車加工装置と、
前記ワーク加工条件に基づいて前記歯車加工装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、
1つの前記工具の前記使用エリアについて所定条件が満たされた場合、前回と同一の前記工具を用いた加工において、前回の前記使用エリアを避けて前記工具が前記ワークを加工するように、前記ワーク加工条件を変更するワーク加工条件変更処理を実行するように構成され、
前記所定条件は、前記使用エリアに対する前記加工量の総量が所定の閾値を超えていることを含み、
前記制御装置は、前記ワーク加工条件変更処理で変更された前記ワーク加工条件に基づいて、前記歯車加工装置を制御する、
歯車製造システム。
【請求項23】
工具の形状を示す3次元データである工具モデル、歯車状のワークの加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、及びワーク加工条件を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置と通信可能に接続されている演算装置と、
前記加工前ワークモデルに対応する前記ワークと、前記工具モデルに対応する前記工具とを噛み合わせて回転させることで、前記ワークを加工する歯車加工装置と、
前記ワーク加工条件に基づいて前記歯車加工装置を制御する制御装置と、
を備える歯車製造システムを用いた歯車製造方法であって、
前記演算装置が、3次元座標系において、前記ワーク加工条件に基づいて、前記工具モデルと前記加工前ワークモデルとを作動させ且つ前記工具モデルの歯面と前記加工前ワークモデルの歯面とを接触させることで、前記工具モデルと前記加工前ワークモデルとの接触部分に対応する加工部分を特定し、前記加工前ワークモデルから前記加工部分を取り除くことで、加工後の前記ワークの形状をシミュレーションし、加工後の前記ワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する加工シミュレーション処理と、
前記演算装置が、前記3次元座標系において、前記工具モデルの歯面のうち前記加工部分に対応する部分である使用エリアの位置を算出する使用エリア算出処理と、
前回と同一の前記工具を用いた加工において、ユーザ、前記制御装置、又は前記演算装置が、前回の前記使用エリアを避けて前記工具が前記ワークを加工するように、前記ワーク加工条件を変更するワーク加工条件変更処理と、
前記制御装置が、前記ワーク加工条件変更処理で変更された前記ワーク加工条件に基づいて、前記歯車加工装置を制御する制御処理と、
を含む、歯車製造方法。
【請求項24】
前記歯車製造システムは、前記演算装置と通信可能に接続された表示手段を備え、
前記工具の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、前記工具の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の前記歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の前記工具軸方向の位置を表す2次元グラフを歯面グラフとすると、
前記使用エリア算出処理では、前記演算装置が、ユーザの操作に応じて、前記使用エリアが表された前記歯面グラフを作成し、前記表示手段に表示させる、
請求項23に記載の歯車製造方法。
【請求項25】
前記工具モデルの少なくとも歯面、及び前記加工前ワークモデルの少なくとも歯面は、複数の3次元の微小モデルにより構成され、
前記演算装置は、前記使用エリア算出処理において、
前記工具モデルの歯面の表面を構成する複数の前記微小モデルのうち前記加工シミュレーション処理で前記加工前ワークモデルと重なった部分に対応する前記微小モデルを使用微小モデルとして特定し、
前記使用微小モデルに対して設定された設定点を前記使用エリアとして前記歯面グラフに表示する、
請求項24に記載の歯車製造方法。
【請求項26】
工具の形状を示す3次元データである工具モデル、歯車状のワークの加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、及びワーク加工条件が記憶されたコンピュータに対して、加工シミュレーション処理及び使用エリア算出処理を実行させるプログラムであり、
前記加工シミュレーション処理は、前記コンピュータが、3次元座標系において、前記ワーク加工条件に基づいて、前記工具モデルと前記加工前ワークモデルとを作動させ且つ前記工具モデルの歯面と前記加工前ワークモデルの歯面とを接触させることで、前記工具モデルと前記加工前ワークモデルとの接触部分に対応する加工部分を特定し、前記加工前ワークモデルから前記加工部分を取り除くことで、加工後の前記ワークの形状をシミュレーションし、加工後の前記ワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する処理であり、
前記使用エリア算出処理は、前記コンピュータが、前記3次元座標系において、前記工具モデルの歯面のうち前記加工部分に対応する部分である使用エリアの位置を算出する処理である、
プログラム。
【請求項27】
前記工具の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、前記工具の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の前記歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の前記工具軸方向の位置を表す2次元グラフを歯面グラフとすると、
前記使用エリア算出処理では、前記コンピュータが、ユーザの操作に応じて、前記使用エリアが表された前記歯面グラフを作成し、前記コンピュータの表示手段に表示させる、
請求項26に記載のプログラム。
【請求項28】
ドレッサの形状を示す3次元データであるドレッサモデル、歯車状の砥石のドレス前の形状を示す3次元データであるドレス前砥石モデル、歯車状のワークの研削加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、ドレス条件、及びワーク加工条件が記憶されたコンピュータに対して、ドレスシミュレーション処理と研削加工シミュレーション処理とを実行させるプログラムであり、
前記ドレスシミュレーション処理は、前記コンピュータが、3次元座標系において、前記ドレス条件に基づいて、前記ドレッサモデルと前記ドレス前砥石モデルとを作動させ且つ前記ドレッサモデルの歯面と前記ドレス前砥石モデルの歯面とを接触させることで、前記ドレッサモデルと前記ドレス前砥石モデルとの接触部分に対応するドレス部分を特定し、前記ドレス前砥石モデルから前記ドレス部分を取り除くことで、ドレス後の前記砥石の形状をシミュレーションし、ドレス後の前記砥石の形状を示す3次元データであるドレス後砥石モデルを作成する処理であり、
前記研削加工シミュレーション処理は、前記コンピュータが、前記3次元座標系において、前記ワーク加工条件に基づいて、前記ドレス後砥石モデルと前記加工前ワークモデルとを作動させ且つ前記ドレス後砥石モデルの歯面と前記加工前ワークモデルの歯面とを接触させることで、前記ドレス後砥石モデルと前記加工前ワークモデルとの接触部分に対応する研削部分を特定し、前記加工前ワークモデルから前記研削部分を取り除くことで、研削加工後の前記ワークの形状をシミュレーションし、研削加工後の前記ワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する処理である、
プログラム。
【請求項29】
前記コンピュータが、前記3次元座標系において、前記ドレス後砥石モデルの歯面のうち前記研削部分に対応する部分である使用エリアの位置を算出する使用エリア算出処理を含む、
請求項28に記載のプログラム。
【請求項30】
前記砥石の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、前記砥石の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の前記歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の前記工具軸方向の位置を表す2次元グラフを歯面グラフとすると、
前記使用エリア算出処理では、前記コンピュータが、ユーザの操作に応じて、前記使用エリアが表された前記歯面グラフを作成し、前記コンピュータの表示手段に表示させる、
請求項29に記載のプログラム。
【請求項31】
前記演算装置と通信可能に接続された表示手段を備え、
前記演算装置は、ユーザの操作に応じて、加工後ワークモデルと目標形状との誤差の大小を、色の違いで等高線状に表した歯面等高線グラフを作成し、前記表示手段に表示するように構成され、
前記歯面等高線グラフは、一方の軸が前記加工後ワークモデルの歯丈方向に対応し、他方の軸が前記加工後ワークモデルの軸方向に対応する、
請求項1又は14に記載のシミュレーション装置。
【請求項32】
前記歯面グラフでは、前記工具軸方向を共通軸として、一方の歯面と他方の歯面とが並べて表示される、
請求項3、4、15、又は16に記載のシミュレーション装置。
【請求項33】
前記歯面グラフでは、前記工具軸方向を共通軸として、一方の歯面と他方の歯面とが並べて表示される、
請求項12、13、24、又は25に記載の歯車製造方法。
【請求項34】
前記歯面グラフでは、前記工具軸方向を共通軸として、一方の歯面と他方の歯面とが並べて表示される、
請求項27又は30に記載のシミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の研削加工に利用されるシミュレーション装置、歯車製造システム、歯車製造方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯車の加工において、加工後のワークの形状をシミュレーションする技術が利用されている。例えば、特開2004-86773号公報には、ブランクモデルとカッターモデルとを用いて歯車モデルをシミュレーションする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯車状のワークと歯車状の砥石とを噛み合わせて回転させることで、ワークを研削する研削加工の分野において、加工後のワークの形状(歯面形状)を精度良くシミュレーションすることが望まれている。また、砥石等の工具の歯面(刃面ともいえる)を効率良く使用するために、工具の歯面のうち加工で使用された位置を精度の良く把握できることが望まれる。
【0005】
本発明の目的は、砥石の歯とワークの歯とを噛み合わせて研削する研削加工分野において、研削加工後のワークの形状を精度良くシミュレーションすることができるシミュレーション装置を提供することである。また、本発明の別の目的は、砥石等の工具の使用位置を精度良く把握することができるシミュレーション装置及びプログラムを提供することである。また、本発明の別の目的は、シミュレーション装置を用いることで、工具を効率的に利用することができる歯車製造システム及び歯車製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシミュレーション装置は、ドレッサの形状を示す3次元データであるドレッサモデル、歯車状の砥石のドレス前の形状を示す3次元データであるドレス前砥石モデル、歯車状のワークの研削加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、ドレス条件、及びワーク加工条件を記憶する記憶装置と、前記記憶装置と通信可能に接続されている演算装置と、を備えている。前記演算装置は、3次元座標系において、前記ドレス条件に基づいて、前記ドレッサモデルと前記ドレス前砥石モデルとを作動させ且つ前記ドレッサモデルの歯面と前記ドレス前砥石モデルの歯面とを接触させることで、前記ドレッサモデルと前記ドレス前砥石モデルとの接触部分に対応するドレス部分を特定し、前記ドレス前砥石モデルから前記ドレス部分を取り除くことで、ドレス後の前記砥石の形状をシミュレーションし、ドレス後の前記砥石の形状を示す3次元データであるドレス後砥石モデルを作成するドレスシミュレーション処理と、前記3次元座標系において、前記ワーク加工条件に基づいて、前記ドレス後砥石モデルと前記加工前ワークモデルとを作動させ且つ前記ドレス後砥石モデルの歯面と前記加工前ワークモデルの歯面とを接触させることで、前記ドレス後砥石モデルと前記加工前ワークモデルとの接触部分に対応する研削部分を特定し、前記加工前ワークモデルから前記研削部分を取り除くことで、研削加工後の前記ワークの形状をシミュレーションし、研削加工後の前記ワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する研削加工シミュレーション処理と、を実行するように構成されている。
【0007】
また、本発明の歯車製造システムは、前記シミュレーション装置と、前記加工前ワークモデルに対応する前記ワークと、前記ドレス後砥石モデルに対応する前記砥石とを噛み合わせて回転させることで、前記ワークを研削する歯車加工装置と、前記ワーク加工条件に基づいて前記歯車加工装置を制御する制御装置と、を備えている。前記シミュレーション装置は、前記ドレス後砥石モデルの歯面のうち、前記研削加工シミュレーション処理の演算上、前記加工前ワークモデルの歯面と接触した部分に対応する使用エリアを演算する使用エリア演算処理を実行するように構成されている。前記制御装置及び前記演算装置の少なくとも一方は、前回と同一の前記砥石を用いた研削加工において、前回の前記使用エリアを避けて前記砥石が前記ワークを研削するように、前記ワーク加工条件を変更するワーク加工条件変更処理を実行するように構成されている。制御装置7は、前記ワーク加工条件変更処理で変更された前記ワーク加工条件に基づいて、前記歯車加工装置を制御する。
【0008】
また、本発明の歯車製造方法は、歯車製造システムを用いた方法であって、前記ドレスシミュレーション処理と、前記研削加工シミュレーション処理と、前記使用エリア算出処理と、前記ワーク加工条件変更処理と、制御処理と、を含む。前記ワーク加工条件変更処理は、ユーザ、前記演算装置、又は前記制御装置により実行される。前記制御処理は、前記制御装置が、前記ワーク加工条件変更工程で変更された前記ワーク加工条件に基づいて、前記歯車加工装置を制御する処理である。
また、本発明の別の形態に係るシミュレーション装置、歯車製造システム、及び歯車製造方法は、使用位置の算出を主眼として、砥石を工具とし、研削加工を加工として、ドレスを行わない場合も含む形で記載することができる。また、本開示の技術は、これらの処理をコンピュータに実行させるプログラムとしても記載できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシミュレーション装置によれば、ドレスによる砥石形状の変化がシミュレーションされた後に、そのシミュレーション結果であるドレス後砥石モデルと加工前ワークモデルとに基づき加工後ワークモデルがシミュレーションされる。つまり、ドレス後の砥石の形状がシミュレーションされているため、より実際に即した精度の良い加工後ワークモデルをシミュレーションすることができる。
【0010】
本発明の歯車製造システム及び歯車製造方法によれば、シミュレーション装置で算出された砥石の使用エリアを利用することで、砥石のうち使用エリア以外の部分を利用するように、ワーク加工条件を変更することができる。従来では、砥石の使用位置が前回研削時の使用位置と重複しないように、例えば熟練作業者の勘に頼った位置調整により、ワークに対する砥石の相対位置が決定されていた。しかし、本発明の歯車製造システムによれば、使用エリアがシミュレーションされているため、使用位置が重複しない砥石の作動位置を精度良く決定することができる。また、本発明の歯車製造方法によれば、ユーザが、使用位置が重複しない砥石の作動位置を容易に且つ精度良く決定することができる。本発明の歯車製造システム及び歯車製造方法によれば、砥石の寿命の観点で、砥石を効率的に利用することができる。
本発明の別の形態に係る構成によれば、シミュレーションにより工具の使用位置が算出されるため、ユーザ、演算装置、又は制御装置が過去の工具の使用位置を把握することができる。これにより、過去の使用位置を避けて工具を使用することができ、工具を効率的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のシミュレーション装置の構成図である。
【
図2】本実施形態のドレッサモデルとドレス前砥石モデルを表す図である。
【
図3】本実施形態のドレス後砥石モデルと加工前ワークモデルを表す図である。
【
図4】本実施形態のシミュレーションの流れを示すフローチャートである。
【
図5】本実施形態の加工前ワークモデルの歯面を表す図である。
【
図6】本実施形態のドレス後砥石モデルの歯面と加工前ワークモデルの歯面とがかみ合った状態を表す図である。
【
図7】本実施形態における一部が加工された加工前ワークモデルの歯面を表す図である。
【
図8】本実施形態のドレス後砥石モデルの歯面と当該歯面上の使用微小平面を表す図である。
【
図9】本実施形態のディスプレイに表示される歯面グラフである。
【
図11】本実施形態のディスプレイに表示される歯面グラフである。
【
図12】本実施形態のシミュレーションの流れを示すフローチャートである。
【
図13】本実施形態の歯車製造システムの構成図である。
【
図14】本実施形態のある瞬間の使用エリアを示す歯面グラフである。
【
図15】本実施形態のある瞬間のワークの加工位置及び加工量を示す歯面グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の一実施形態であるシミュレーション装置1及び歯車製造システム8を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0013】
(シミュレーション装置)
図1に示すように、本実施形態のシミュレーション装置1は、1つ以上のコンピュータで構成されており、記憶装置2と、演算装置3と、ディスプレイ(「表示手段」に相当する)4と、を備えている。記憶装置2は、1つ以上のメモリで構成されている。記憶装置2の少なくとも一部がコンピュータ外に配置されてもよい。演算装置3は、1つ以上のプロセッサ(又はCPU)で構成されている。演算装置3は、記憶装置2と通信可能に接続されている。演算装置3は、記憶装置2に記憶されたプログラムに基づいて、演算処理を実行する。ディスプレイ4は、表示手段の1つであって、演算装置3と通信可能に接続されている。ディスプレイ4は、タッチパネル形式のものでもよい。シミュレーション装置1には、図示しないが、例えば、キーボード、マウス、又はタッチパネル等の入力手段が接続されている。
【0014】
記憶装置2は、
図2及び
図3に示すように、ドレッサモデル91、ドレス前砥石モデル92、加工前ワークモデル94、ドレス条件、及びワーク加工条件を記憶している。各モデルの形状や位置は、3次元座標系における座標(3次元座標)をもつ複数の点データに基づいて表現される。3つ以上の点データにより平面が規定される。3次元座標は、例えば(X、Y、Z)で表される。ドレッサモデル91は、ドレッサの形状を示す3次元データである。演算装置3は、例えば、ユーザの操作に応じ、ドレッサの諸元データとドレッサの基本形状データとに基づいてドレッサモデル91を作成する。演算装置3は、ドレッサモデル91の3次元座標を算出する。
【0015】
ドレス前砥石モデル92は、歯車状の砥石のドレス前の形状を示す3次元データである。演算装置3は、例えばユーザの操作に応じ、ドレス前の砥石の諸元データと砥石の基本形状データとに基づいてドレス前砥石モデル92を作成する。演算装置3は、ドレス前砥石モデル92の3次元座標を算出する。
【0016】
加工前ワークモデル94は、歯車状のワークの研削加工前の形状を示す3次元データである。演算装置3は、例えばユーザの操作に応じ、研削加工前のワークの諸元データとワークの基本形状データとに基づいて加工前ワークモデル94を作成する。演算装置3は、加工前ワークモデル94の3次元座標を算出する。モデル作成に用いられる各諸元データ及び各基本形状データは、記憶装置2に記憶されている。
【0017】
各諸元データには、必要に応じて、例えば、歯数、モジュール(サイズ、半径、軸長等)、及び歯のねじれ角等の情報が含まれている。各モデルにおける基本形状について、例えば、砥石とワークの歯形曲線はインボリュート曲線で、歯の基部(台座部分)は円盤状、円柱状、又は円筒状に設定されている。ドレッサの形状も各種形状で設定可能である。研削加工は、すでにワークに形成されている歯車の歯面に対して、仕上げとして及び/又は例えばクラウニングを形成するために行われる仕上げ加工に相当する。
【0018】
ドレス条件には、例えば、ドレッサ及び/又は砥石の送り速度と、ドレッサ及び/又は砥石の回転数と、ドレス開始時のドレッサに対する砥石の相対位置と、ドレッサ及び/又は砥石の軸の傾き角度等が含まれている。ワーク加工条件には、例えば、砥石及び/又はワークの送り速度と、砥石及び/又はワークの回転数と、研削加工開始時のワークに対する砥石の相対位置と、砥石及び/又はワークの軸の傾き角度等が含まれている。
【0019】
3次元データは、3次元座標系で表示可能なデータであって、例えば、CADデータ又はポリゴンデータである。3次元データである各モデルは、例えば、3点以上の点データで定義されるサーフィスデータを複数含んで構成されている。例えば、モデルを構成する各面の位置、形状、及び姿勢は、3次元座標系における3次元座標で特定することができる。CADデータは、CADのソフトウェアで利用できるデータである。CADソフトウェア上では、例えば複数のサーフェスデータで構成された3次元モデルを作成することができる。CADでは、2次元のモデルから3次元モデルを作成することができる。3次元モデルは、設計図や諸元に基づいて作成することができる。なお、ポリゴンデータは、例えばスキャンで取得した点群データからモデリングされて作成されてもよい。ポリゴンデータは、CADデータに変換することができる。3次元データやモデリング手法については公知の技術を利用できるため、詳細な説明は省略する。
【0020】
演算装置3は、
図4に示すように、ドレスシミュレーション処理S1と、研削加工シミュレーション処理S2と、判定処理S3と、使用エリア算出処理S4と、加工量算出処理S5と、シフト量算出処理S6と、条件変更処理S7と、を実行するように構成されている。各処理の結果に対応するデータは、プログラムに沿って及び/又はユーザの操作に応じて、適宜、記憶装置2に記憶される。また、例えば、使用エリア算出処理S4及び加工量算出処理S5は、研削加工シミュレーション処理S2とともに実行されてもよい。
【0021】
ドレスシミュレーション処理S1は、演算装置3が、3次元座標系において、ドレス条件に基づいて、ドレッサモデル91とドレス前砥石モデル92とを作動させ且つドレッサモデル91の歯面とドレス前砥石モデル92の歯面と接触させることで、ドレッサモデル91とドレス前砥石モデル92との接触部分に対応するドレス部分を特定し、ドレス前砥石モデル92から当該ドレス部分を取り除くことで、ドレス後の砥石の形状をシミュレーションし、ドレス後の砥石の形状を示す3次元データであるドレス後砥石モデル93を作成する処理である。
【0022】
演算装置3は、記憶装置2に記憶されたプログラムを実行し、3次元座標系において、ドレス条件に基づいてドレッサモデル91とドレス前砥石モデル92とを回転・移動させる(例えば
図2参照)。シミュレーション上、例えば、ドレス前砥石モデル92のうちドレッサモデル91と接触した部分、換言するとドレス前砥石モデル92のうちドレッサモデル91と重複・交差した部分(以下、ドレス部分ともいう)は、ドレスされたものとみなされる。そして、ドレス前砥石モデル92からドレス部分が取り除かれることで、ドレス前砥石モデル92の歯面形状が変形する。ドレス条件に基づいてドレス部分の演算が繰り返され、設定されたドレス処理が終わると、ドレス後砥石モデル93が完成する。ドレスシミュレーション処理S1により、ドレス後砥石モデル93の3次元座標が算出される。なお、モデルの回転や移動、モデル同士の接触部分の特定、及び接触部分のモデルからの除去等は、公知のシミュレーション技術で実現することができる。
【0023】
研削加工シミュレーション処理S2は、演算装置3が、3次元座標系において、ワーク加工条件に基づいて、ドレス後砥石モデル93と加工前ワークモデル94とを作動させ且つドレス後砥石モデル93の歯面と加工前ワークモデル94の歯面とを接触させることで、ドレス後砥石モデル93と加工前ワークモデル94との接触部分に対応する研削部分を特定し、加工前ワークモデル94から当該研削部分を取り除くことで、研削加工後のワークの形状をシミュレーションし、研削加工後のワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する処理である。
【0024】
演算装置3は、ドレスシミュレーション処理S1と同様に、記憶装置2に記憶されたプログラムを実行し、3次元座標系において、ワーク加工条件に基づいてドレス後砥石モデル93と加工前ワークモデル94と噛み合わせて回転・移動させる。
図3、
図5、
図6、及び
図7に示すように、シミュレーション上、加工前ワークモデル94のうちドレス後砥石モデル93と接触した部分、換言すると加工前ワークモデル94のうちドレス後砥石モデル93と重複・交差した部分(以下、研削部分ともいう)が研削されたものとみなされる。そして、加工前ワークモデル94から研削部分が取り除かれることで、加工前ワークモデル94の歯面形状が変形する。ワーク加工条件に基づいて研削部分の演算が繰り返され、設定された研削加工が終わると、加工後ワークモデルが完成する。ドレッサ、砥石、及びワークを表す各モデルは、少なくとも自身の歯の位置・形状が特定されるように作成されている。
【0025】
より詳細に、
図5~
図7に示すように、本例の加工前ワークモデル94の少なくとも歯面は、複数の微小な角柱状の微小モデル(微小3次元モデル又は単位3次元モデルともいえる)で構成されている。図示しないが、ドレス前砥石モデル92の少なくとも歯面及びドレス後砥石モデル93の少なくとも歯面も、上記同様に複数の角柱状の微小モデルで構成されている。
【0026】
演算装置3は、ブーリアン演算により、加工前ワークモデル94の各微小モデルからドレス後砥石モデル93との重なり部分を引いた差分を演算する。演算装置3は、この際の加工前ワークモデル94の各微小モデルの体積減少量を足し合わせて、微小時間内(単位時間内ともいえる)に除去された部分の体積(加工量)を算出することができる。
【0027】
図7に示すように、ブーリアン演算の結果、両モデルが重なった研削部分(干渉部分や接触部分ともいえる)に対応する各微小モデルの体積は減少する。研削部分に対応する各微小モデルの形状は、初期の角柱状から変形する。演算装置3は、ワーク加工条件に基づいて、微小時間毎に加工前ワークモデル94とドレス後砥石モデル93の位置関係を変える。演算装置3は、前記位置関係を変える度にブーリアン演算を繰り返し、最終的に加工後ワークモデルを算出する。なお、各モデル91~94の少なくとも歯面を構成する微小モデルの形状は、角柱状に限られない。
【0028】
また、
図8に示すように、演算装置3は、上記とは反対に、ブーリアン演算により、ドレス後砥石モデル93から加工前ワークモデル94の各角柱モデルとの重なり部分(研削部分)を引いた差分を演算する。これにより、ドレス後砥石モデル93の歯面のうち、加工前ワークモデル94の各角柱モデルとの重なり位置すなわち使用位置を把握することができる。ドレス後砥石モデル93の表面は、複数の微小平面(角柱モデルの表面)で構成されている。演算装置3は、この複数の微小平面のうち、重なり位置に対応する微小平面(以下、使用微小平面ともいう)を特定する。演算装置3は、プログラムに沿って及び/又はユーザの操作に応じて、各使用微小平面の中心点の位置を算出し、算出結果を後述する使用エリアの2次元グラフ(歯面グラフ)の作成に利用する。なお、ドレスシミュレーション処理S1においても、上記のように微小モデルを用いた処理が行われる。例えば、ドレッサモデル91の少なくとも歯面及びドレス前砥石モデル92の少なくとも歯面が、複数の微小モデルで構成されてもよい。
【0029】
判定処理S3は、演算装置3が、加工後ワークモデルの歯面と、研削加工後のワークの目標歯面形状とを比較し、加工後ワークモデルと目標歯面形状との差が所定の許容条件を満たすか否かを判定する処理である。目標歯面形状は、例えば、目標歯面形状を示す3次元データである目標ワークモデルとして、又は目標歯面形状の各種寸法等のデータである目標ワーク諸元として、記憶装置2に記憶されている。
【0030】
許容条件として、例えば、加工後ワークモデルの歯形の歯すじに関する許容値(例えば、歯すじ方向誤差許容値や、歯すじ間隔の誤差許容値)、ドレス条件に関する許容値(例えば圧力角の誤差許容値)、及び加工後ワークモデルの歯形の丸みに関する許容値等が設定されている。判定処理S3は、シミュレーション結果と目標形状との誤差量が許容範囲内か否かを判定する処理といえる。なお、判定処理S3は、ユーザが行ってもよい。つまり、ユーザが、加工後ワークモデルと目標歯面形状との差が所定の許容条件を満たすか否かを判定してもよい。ユーザは、判定結果に基づいて、シミュレーション装置1に対して、シミュレーションにおける加工条件等を変更することができる(条件変更処理S7)。このように、判定処理S3及び条件変更処理S7は、ユーザの判断及びデータ入力等により実行されてもよい。
【0031】
演算装置3は、加工後ワークモデルの歯面形状と目標歯面形状との差(以下「形状差」ともいう)が所定の許容条件を満たす場合(S3:Yes)、ドレス条件及びワーク加工条件を変更しない。つまり、制御は、次のステップS4に進む。
【0032】
一方、演算装置3は、形状差が所定の許容条件を満たさない場合(S3:No)、ドレス条件及び/又はワーク加工条件を変更する条件変更処理S7を実行する。条件変更処理S7で、形状差が許容条件を満たすように、ドレス条件及び/又はワーク加工条件が演算され更新される。なお、条件変更処理S7において、演算装置3は、プログラムに沿って又はユーザの操作に応じて、ドレス条件及びワーク加工条件だけでなく、ドレッサ67の形状(諸元)を変更し、ドレッサモデル91を変更することもできる。
【0033】
例えば、加工後ワークモデルの歯形の丸みに関して許容条件が満たされない場合、ドレッサモデル91の丸みが修正される。また、例えば、ドレスの圧力角に関して許容条件が満たされない場合、ドレス条件が修正される。また、例えば、加工後ワークモデルの歯すじに関して許容条件が満たされない場合、ワーク加工条件が修正される。
【0034】
条件等が変更されると、再度、ドレスシミュレーション処理S1又は研削加工シミュレーション処理S2が実行される。ドレッサモデル91及び/又はドレス条件が変更された場合(S8:Yes)、制御はステップS1に戻る。また、ワーク加工条件が変更された場合(S8:No)、制御はステップS2に戻る。なお、演算装置3は、各種判定や各種条件変更について、予め設定されたプログラムに基づいて実行してもよいし、ユーザの操作(例えば数値入力等)に応じて実行してもよい。本実施形態では一例として演算装置3がプログラムに沿って各処理を実行している。演算装置3の各処理は、プログラムに沿って及び/又はユーザの操作に応じて実行されればよい。
【0035】
形状差が許容条件を満たす場合(S3:Yes)、使用エリア算出処理S4が実行される。使用エリア算出処理S4は、演算装置3が、3次元座標系において、ドレス後砥石モデル93の歯面のうち上記研削部分に対応する部分である使用エリアの位置を算出する処理である。換言すると、使用エリア算出処理S4は、演算装置3が、3次元座標系において、ドレス後砥石モデル93の歯面のうち加工前ワークモデル94の歯面と接触した部分に対応する使用エリアを算出する処理である。使用エリア算出処理S4では、演算装置3が、研削加工シミュレーション処理S2に伴い特定されるドレス後砥石モデル93の歯面のうちの加工前ワークモデル94との接触部分を、砥石の使用エリアとして算出する。
【0036】
演算装置3は、ドレス後砥石モデル93の表面のうち、すべての使用微小平面のそれぞれの中心点(座標)を算出する。使用エリアは、すべての使用微小平面の集合体により形成されており、使用微小平面の中心点の集合体で表すことができる。演算装置3は、使用微小平面の中心点によって、使用エリアをユーザが容易に認識できるように表現する。具体的に、
図9及び
図10に示すように、演算装置3は、使用エリアが表された「歯面グラフ」を作成し、ディスプレイ4に表示させる。
【0037】
歯面グラフは、砥石の回転軸に平行な方向を工具軸方向とし、砥石の歯の高さ方向に平行な方向を歯丈方向とし、一方の軸が歯面の歯丈方向の位置を表し、他方の軸が歯面の工具軸方向の位置を表す2次元グラフである。本実施形態の歯面グラフでは、縦軸が歯面の歯丈方向の位置を表し、横軸が歯面の工具軸方向の位置を表す。
図9及び
図10に示すように、使用エリアは、使用微小平面の中心点(点データ)の集合体で表されている。
【0038】
このように、本実施形態において、ドレス後砥石モデル93の少なくとも歯面、及び加工前ワークモデル94の少なくとも歯面は、複数の3次元の微小モデル(この例では角柱モデル)により構成されている。そして、演算装置3は、ドレス後砥石モデル93の歯面の表面を構成する複数の微小モデルのうち研削加工シミュレーション処理S2で加工前ワークモデル94と重なった部分に対応する微小モデルを使用微小モデルとして特定し、使用微小モデルに対して設定された設定点(この例では使用微小平面の中心点)を使用エリアとして歯面グラフに表示する。
【0039】
図9の上半分が歯の一方の歯面(例えば右歯面)を表し、下半分が歯の他方の歯面(例えば左歯面)を表している。
図9の上半分では、下端が歯先の位置に対応し、上端が歯元の位置に対応する。
図9の下半分では、下端が歯元の位置に対応し、上端が歯先の位置に対応する。
図9は、1回の研削加工の結果を表している。
【0040】
加工量算出処理S5は、演算装置3が、使用エリアに対して、加工前ワークモデル94から取り除かれた部分の体積に対応する加工量を算出する処理である。換言すると、加工量算出処理S5は、演算装置3が、使用エリアに対して、ドレス後砥石モデル93と加工前ワークモデル94との接触により加工前ワークモデル94の変形量を算出する処理である。加工量算出処理S5では、演算装置3が、研削加工シミュレーション処理S2に伴い特定される研削部分を加工量として算出する。加工量は、取り代ともいえ、砥石のうち使用エリアに対応する部分の加工負荷に相当する。研削加工シミュレーション処理S2において、例えば加工量の時系列データが演算され、各瞬間における又は単位時間当たりの砥石歯面の負荷や取り代が演算される。加工量の時系列データと使用エリアとは対応付けられている。加工量は、使用エリア毎に又は中心点毎に、数値又はグラフ上の配色等により表される。
【0041】
シフト量算出処理S6は、演算装置3が、次回の研削加工がドレス後砥石モデル93の歯面のうち使用エリアを避けて行われるように、研削加工開始時のドレス後砥石モデル93の位置を工具軸方向にシフトさせる場合のドレス後砥石モデル93のシフト量を算出する処理である。シフト量は、移動量又はずらし量ともいえる。例えば、
図11に示すように、記憶装置2が、同一の砥石に対する過去の使用エリアを記憶している場合、演算装置3は、過去の使用エリアを使用しないようにするための、ドレス後砥石モデル93のシフト量及びシフト方向を算出する。ドレス後砥石モデル93のシフト量は、実際に同じ条件で行われる研削加工における砥石のシフト量に対応する。なお、シフト量算出処理S6は、ユーザの手作業(例えば後述する歯面グラフの読み取り等)により実行されてもよい。
【0042】
演算装置3は、
図12に示すように、シフト量算出処理S6の後に、シフト量に応じてワーク加工条件を変更するワーク加工条件変更処理S9を実行するように構成されてもよい。この場合、演算装置3は、ワーク加工条件変更処理S9で変更されたワーク加工条件に基づいて、研削加工シミュレーション処理S2を再度実行してもよい。つまり、ワーク加工条件変更処理S9の後に、ステップS1又はステップS2に戻ってもよい。これにより、ユーザは、使用エリアをシフトして研削加工を行った際の加工後ワークモデルを検証でき、さらに使用エリアの累積結果も把握することができる。なお、ワーク加工条件変更処理S9は、ユーザの操作(例えば数値入力等)により実行されてもよい。
【0043】
本実施形態のシミュレーション装置1によれば、ドレスによる砥石形状の変化がシミュレーションされた後に、そのシミュレーション結果であるドレス後砥石モデル93と加工前ワークモデル94とに基づき加工後ワークモデルがシミュレーションされる。つまり、ドレス後の砥石の形状がシミュレーションされているため、より実際に即した精度の良い加工後ワークモデルをシミュレーションすることができる。
【0044】
また、使用エリア算出処理S4が実行されることで、ドレス後砥石モデル93の歯面上の使用エリアが特定される。これにより、シミュレーションと同じ条件で行われた実際の研削加工において、シミュレーション結果を参照して、実際の砥石の使用位置を推定することができる。使用エリアを推定したシミュレーション結果を用いることで、実際の研削加工を実行するにあたり、砥石の歯のうち使用エリアに対応する部分以外の部分を使用することは容易となる。
【0045】
図9~
図11に示すように使用エリアが特定された場合、その使用エリアが研削で使用されないように、実際の研削加工において、砥石の位置を工具軸方向にシフトさせることができる。シフト量は、シミュレーション結果に基づいて算出できる。本実施形態では、当該シフト量がシフト量算出処理S6で算出される。つまり、使用エリアに基づいてシフト量が演算されることで、シフト量を熟練者の勘等に頼ることなく、ユーザ又はコンピュータは数値でシフト量を把握することができる。歯面グラフによれば、ユーザが目視により容易に(直感的にも)シフト量を把握することができる。ユーザは、歯面グラフに基づいて、設定事項における次回の研削加工の開始位置を変更することができる。砥石の使用エリアを避けて研削加工することは、砥石の寿命又は砥石の研削性能維持の観点で有効である。
【0046】
また、加工量算出処理S5が実行されることで、ユーザ又はコンピュータは、歯面の使用エリアの負荷状況を把握することができる。ユーザ又はコンピュータは、負荷の大小に応じて、砥石をシフトさせるか否かを判断することもできる。
【0047】
演算装置3は、ディスプレイ4に歯面グラフを表示することができる。これにより、主にユーザは、使用エリアの工具軸方向の位置を容易に把握することができる。つまり、主にユーザは、歯面グラフを参照することで、使用エリア以外のエリアで研削加工を実行するための工具軸方向へのずらし量を容易に把握することができる。
【0048】
また、演算装置3は、使用エリアと未使用エリアとの違い及び加工量の違い(値の違い)が、色(配色、色合い)の違いにより表された歯面グラフをディスプレイ4に表示させてもよい(
図14、
図15参照)。色の違いは、色の濃淡の違いも含む。これにより、主にユーザは、砥石66の歯面において、使用位置だけでなく、加工負荷の度合いも容易に把握することができる。なお、
図14のグラフでは、シミュレーション中のある瞬間における、砥石の使用エリアと加工量とが色の違いにより表れている。
図15のグラフでは、シミュレーション中のある瞬間における、ワークの被研削位置と被加工量とが色の違いにより表れている。いずれの図も、一方の軸が歯丈方向に対応し、他方の軸が砥石又はワークの軸方向に対応している。さらに、いずれの図も、砥石又はワークの軸方向を共通軸として、一方の歯面と他方の歯面とが並べて表示されている。これにより、使用エリア又は被加工位置の把握がさらに容易となる。
【0049】
(歯車製造システム)
図13に示すように、本実施形態の歯車製造システム8は、シミュレーション装置1と、歯車加工装置6と、制御装置7と、を備えている。歯車加工装置6は、第1スピンドル61と、第1保持台62と、第2スピンドル63と、第2保持台64と、駆動装置65と、砥石66と、ドレッサ67と、を備えている。歯車加工装置6は、歯車状のワークWと歯車状の砥石66とをかみ合わせて回転させることでワークWを研削する装置である。ドレッサ67の形状は、ドレッサモデル91の形状に対応している。砥石66の形状は、ドレス前砥石モデル92の形状又はドレス後砥石モデル93の形状に対応している。研削加工前のワークWの形状は、加工前ワークモデル94の形状に対応している。なお、
図13では、ワークWが設置されていない状態の歯車加工装置6が表されている。
【0050】
第1スピンドル61は、複数の歯が形成されたワークWを保持する主軸部材である。本例のワークWは、円筒歯車状のワークであって、研削加工が完了すると、はすば歯車(インボリュート歯車)となる。つまり、ワークWの外周面には、研削加工前の別途の加工により、ねじれ角をもつ複数の歯が予め形成されている。ワークWは、被削歯車とも呼ばれる。
【0051】
第1保持台62は、第1スピンドル61を、第1スピンドル61の軸線である第1軸線A1のまわりに回転可能に保持する主軸台である。第1軸線A1は、ワークWの回転軸線である。第1保持台62は、歯車加工装置6のベッド60の表面(テーブル)に配置されている。第1軸線A1は、上下方向に延びている。第1スピンドル61及び第1保持台62は、テーブル軸部ともいえる。
【0052】
第2スピンドル63は、外周面にらせん状の加工歯を備えた砥石66を保持する主軸部材である。本例の砥石66は、全体として円筒状であって、多条のねじ状砥石(ねじ状工具の1つ)である。なお、砥石66は、1条のねじ状砥石(加工歯が1つ)であってもよい。砥石66は、砥石車ともいえる。
【0053】
第2保持台64は、第2スピンドル63を、第2スピンドル63の軸線である第2軸線A2のまわりに回転可能に保持する主軸台である。第2軸線A2は、砥石66の中心軸(回転軸)に対応する。第1保持台62及び第2保持台64は、ベッド60上に配置されている。第2保持台64は、第2スピンドル63がベッド60上で移動できるように、第2スピンドル63を保持している。砥石66の軸方向に対応する第2軸線A2の延伸方向(すなわち工具軸方向)は、第1軸線A1の延伸方向(以下「ワーク軸方向」という場合がある)に交差する。すなわち、工具軸方向とワーク軸方向とは平行ではない。第2スピンドル63及び第2保持台64は、主軸部ともいえる。
【0054】
駆動装置65は、第2スピンドル63を第2軸線A2まわりに回転させ、第1保持台62及び第2保持台64の少なくとも一方を移動させる装置である。また、駆動装置65は、ドレッサ67を作動させる。駆動装置65は、複数の駆動源及びエンコーダ等を備えている。一例として、駆動装置65は、第1スピンドル61に対して回転力を付与する第1電動モータ651と、第2スピンドル63に対して回転力を付与する第2電動モータ652と、第2スピンドル63の位置や角度を変更する第3電動モータ653と、ドレッサ67を回転させる第4電動モータ654と、を備えている。第1電動モータ651は、第1スピンドル61を第1軸線A1まわりに回転させる。第2電動モータ652は、第2スピンドル63を第2軸線A2まわりに回転させる。第4電動モータ654は、ドレッサ67をドレッサ67の回転軸まわりに回転させる。駆動装置65は、ドレッサ67の位置・姿勢を調整するモータを備えていてもよい。なお、
図1は概念図であり、電動モータ651~654の位置が実際とは異なる場合がある。また、駆動源は電動モータ以外であってもよい。
【0055】
駆動装置65は、研削時には、制御装置7の制御に基づいて、ワークWと砥石66とがかみ合って回転するように、第1スピンドル61の回転と第2スピンドル63の回転とを同期させる。駆動装置65は、制御装置7の制御に基づいて、第2スピンドル63の角度を変更することができる。本実施形態において、駆動装置65は、ワークWに対する砥石66の相対位置を調整するにあたり、第2スピンドル63を移動させる。本実施形態の第1保持台62は、ベッド60に固定されている。
【0056】
このように、歯車加工装置6は、円盤状のドレッサ67とねじ状の砥石66とを接触させて回転させることで砥石66をドレスすることができ、さらに、はすば歯車状のワークWとねじ状の砥石66とをかみ合わせて回転させることでワークWを研削することができる。
【0057】
制御装置7は、例えば、1つ又は複数のプロセッサ71と1つ又は複数の記憶部72とを備えるコンピュータ又は電子制御ユニット(ECU)である。記憶部72は、例えばメモリである。プロセッサ71は、記憶部72に記憶されたプログラムに従って、演算処理及び駆動装置65の制御等を実行する。制御装置7は、シミュレーション装置1及び駆動装置65に対して通信可能に接続されている。なお、制御装置7は、ベッド60と一体的に配置されてもよいし、ベッド60とは別体であってもよい。また、制御装置7とシミュレーション装置1とは、共通のコンピュータで構成されてもよいし、別々のコンピュータで構成されてもよい。
【0058】
制御装置7は、駆動装置65を制御し、ワークWに対する砥石66の相対位置及び相対角度を調整・制御する。換言すると、制御装置7は、第1スピンドル61に対する第2スピンドル63の相対位置及び相対角度を制御する。制御装置7は、記憶部72に予め設定された研削プログラム及び/又はユーザの操作に応じて、砥石66(第2スピンドル63)の位置・角度を制御(例えば数値制御)する。つまり、駆動装置65及び制御装置7は、NCシステムを含んでいる。また、制御装置7は、第1電動モータ651及び第2電動モータ652を制御して、第1スピンドル61及び第2スピンドル63の回転速度を制御する。制御装置7は、ドレス時には、ドレッサ67に対する第2スピンドル63の相対位置及び相対角度を制御する。制御装置7は、ドレッサ67及び/又は第2スピンドル63の回転速度を制御する。
【0059】
シミュレーション装置1のシミュレーション結果は、制御装置7に送信される。制御装置7は、砥石66の歯面のうち過去の使用エリアを使用しないように、シフト量算出処理S6で算出されたシフト量に基づいて、ワーク加工条件を変更する。つまり、制御装置7は、次回の研削加工において、シミュレーション結果のシフト量に基づいて、砥石66の研削加工開始位置(砥石66の歯面とワークWの歯面との接触開始位置)を工具軸方向に移動させる。なお、制御装置7は、使用エリア算出処理S4の算出結果に基づいて、次回のワークWに対する研削加工において、砥石66の使用エリアを避けるように、砥石66の位置を演算してもよい。シフト量の演算は、演算装置3及び制御装置7の少なくとも一方で行われる。
【0060】
まとめると、歯車加工装置6は、加工前ワークモデル94に対応するワークWと、ドレス後砥石モデル93に対応する砥石66とを噛み合わせて回転させることで、ワークWを研削する装置である。制御装置7は、ワーク加工条件に基づいて歯車加工装置6を制御する装置である。制御装置7及び演算装置3の少なくとも一方は、ワーク加工条件変更処理(処理S9に相当する)を実行するように構成されている。ワーク加工条件変更処理は、前回と同一の砥石66を用いた研削加工において、使用エリアを避けて砥石66がワークWを研削するように、ワーク加工条件が変更される処理である。ワーク加工条件は、ユーザの操作に応じて変更されてもよい。制御装置7は、ワーク加工条件変更処理で変更されたワーク加工条件に基づいて、歯車加工装置6を制御する。これにより、過去の使用エリアを使用せずに、今回の研削加工が実行される。
【0061】
ワーク加工条件の変更における所定条件は、同一の使用エリアで所定回数研削(加工)されたこと、及び同一の使用エリアで所定時間以上研削(加工)されたことの少なくとも一方を含んでもよい。例えば、所定条件における所定回数が1回に設定されている場合、1回の研削加工で使用された位置である使用エリアは、次回以降使用されなくなる。また、例えば、使用エリアの累積使用時間が所定時間以上である場合、その使用エリアは次回以降使用されなくなる。なお、1回の研削加工は、プログラムに基づく研削加工の開始から完了までの一連の研削加工を意味する。
【0062】
また、ワーク加工条件変更処理における変更項目は、研削加工の開始時におけるワークWに対する砥石66の相対位置であってもよい。これによれば、上記のように、砥石66の工具軸方向の位置をずらすだけで、使用エリアを回避することができ、条件変更演算が容易となる。なお、砥石66が新しい砥石に取り換えられると、使用エリアはリセットされる。
【0063】
本実施形態の歯車製造システム8によれば、シミュレーション装置1で算出された砥石66の使用エリアを利用することで、砥石66のうち使用エリア以外の部分を利用するように、ワーク加工条件を変更することができる。従来では、砥石66の使用位置が前回の研削加工時の使用位置と重複しないように、例えば熟練作業者の勘に頼った位置調整により、ワークWに対する砥石の相対位置が決定されていた。しかし、歯車製造システム8によれば、使用エリアがシミュレーションされているため、使用位置が重複しない砥石66の作動位置を精度良く決定することができる。歯車製造システム8によれば、砥石の寿命の観点で、砥石を効率的に利用することができる。
【0064】
制御装置7は、使用エリアのシミュレーション結果(シフト量)を利用することで、精度良く且つ容易に、使用エリアを避けた研削加工を実行することができる。使用エリアに基づいてシフト量が演算されることで、シフト量を熟練作業者の勘等に頼ることなく、ユーザ及び制御装置7は数値でシフト量を把握することができる。砥石の使用エリアを避けて研削加工することは、砥石の寿命又は砥石の研削性能維持の観点で有効である。
【0065】
また、制御装置7は、加工量を利用することで、歯面の使用エリアの負荷状況を把握することができる。ユーザ又は制御装置7は、負荷の大小に応じて、砥石66をシフトさせるか否かを判断することができる。例えば、制御装置7及び/又はシミュレーション装置1は、1つの砥石66の使用エリアについて所定条件が満たされた場合、同一の砥石66を用いた研削加工において、使用エリアを避けて砥石66がワークWを研削するように、ワーク加工条件を変更してもよい。
【0066】
所定条件は、例えば、「現在の砥石66の使用状態に対応する加工量の総量をシミュレーション装置1でシミュレーションした場合に、使用エリアに対する加工量の総量が所定の閾値を超えていること」を含んでもよい。例えば、同じ使用エリアを2回使用した後、1つの使用エリアにおける加工量の総量が閾値を超えた場合、3回目の研削加工では、当該使用エリアを使用しないようにワーク加工条件が修正される。このように、同一の使用エリアに対する加工量の総量又は使用回数を、ワーク加工条件の変更(砥石66のシフト)に対する閾値に設定してもよい。なお、シミュレーション結果に基づく判定又は加工条件変更等は、ユーザにより行われてもよい。
【0067】
本開示の上記技術は、歯車製造方法としても記載できる。すなわち、本開示の歯車製造方法は、歯車製造システム8を用いた方法であって、演算装置3により実行されるドレスシミュレーション処理S1と、演算装置3により実行される研削加工シミュレーション処理S2と、演算装置3により実行される使用エリア算出処理S4と、ユーザ、演算装置3、又は制御装置7により実行されるワーク加工条件変更処理S9と、制御装置7により実行される制御処理と、を含んでいる。制御処理は、制御装置が、ワーク加工条件変更処理S9で変更されたワーク加工条件に基づいて、歯車加工装置6を制御する処理である。この方法によっても、上記同様の効果が発揮される。上記同様、使用エリア算出処理S4において、歯面グラフが作成されてもよい。
(他の実施形態)
本開示の技術は、使用位置の算出を主眼として、砥石を工具とし、研削加工を加工として、ドレスを行わない場合も含む形で記載することができる。すなわち、シミュレーション装置1は、工具の形状を示す3次元データである工具モデル、歯車状のワークの研削加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、及びワーク加工条件を記憶する記憶装置2と、記憶装置2と通信可能に接続されている演算装置3と、を備えている。工具は、歯車状に限らず、例えば円盤状であってもよい。また、工具は、砥石に限らず、例えば切削工具であってもよい。一例として、工具モデルと加工前ワークモデルとのセットは、ドレッサモデル91(工具モデル)とドレス前砥石モデル92(加工前ワークモデル)のセット、又はドレス後砥石モデル93(工具モデル)と加工前ワークモデル94のセットに相当する。以下、後者の例を採用して説明する。
演算装置3は、加工シミュレーション処理と、使用エリア算出処理と、を実行するように構成されている。加工シミュレーション処理は、ドレスシミュレーション処理S1又は研削加工シミュレーション処理S2に相当する処理である。詳細に、加工シミュレーション処理は、演算装置3が、3次元座標系において、ワーク加工条件に基づいて、工具モデル93と加工前ワークモデル94とを作動させ且つ工具モデル93の歯面と加工前ワークモデル94の歯面とを接触させることで、工具モデル93と加工前ワークモデル94との接触部分に対応する加工部分を特定し、加工前ワークモデルから加工部分を取り除くことで、加工後のワークの形状をシミュレーションし、加工後のワークの形状を示す3次元データである加工後ワークモデルを作成する処理である。使用エリア算出処理は、演算装置3が、3次元座標系において、工具モデル93の歯面のうち加工部分に対応する部分である使用エリアの位置を算出する処理である。
この構成によっても、シミュレーションにより工具の使用位置が算出されるため、ユーザ又は演算装置3(歯車製造システム8であれば制御装置7でもよい)が過去の工具の使用位置を把握することができる。これにより、過去の使用位置を避けて工具を使用することができ、工具を効率的に利用することができる。この構成のシミュレーション装置1を利用した歯車製造システム8及び歯車製造方法によっても、同様の効果が発揮される。また、シミュレーション装置1は、上記同様、歯面グラフを作成し、ディスプレイ4に表示させることができる。
【0068】
(その他)
本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記の開示技術は、コンピュータで実行されるプログラムとしても記載できる。例えば、本開示のプログラムは、工具の形状を示す3次元データである工具モデル、歯車状のワークの加工前の形状を示す3次元データである加工前ワークモデル、及びワーク加工条件が記憶されたコンピュータに対して、上記実施形態のような「加工シミュレーション処理及び使用エリア算出処理を含む処理」又は「ドレスシミュレーション処理及び研削加工シミュレーション処理を含む処理」を実行させるプログラムである。
【0069】
また、例えば、砥石66は、外周面に歯が形成された外歯型の砥石に限らず、内周面に歯が形成された内歯型の砥石であってもよい。砥石66が内歯型の砥石である場合、砥石モデル92、93も内歯型の砥石の形状を表すモデルとなる。なお、砥石の「歯」は、「刃」とも記載できる。また、ワークWは外周面に歯が形成された外歯型のワークに限らず、内周面に歯が形成された内歯型のワークであってもよい。この場合、各ワークモデルも内歯型のワークの形状を表すモデルとなる。また、各モデルは、3次元データであって、各モデル間の接触を判定可能なデータであればよく、ポリゴンデータやCADデータでなくてもよい。接触の有無の判定は、立体モデルの重なりに限らず、例えば、立体モデルに付随する要素(例えば線分等)の重なりに基づいてもよい。
【0070】
また、算出されたシフト量に基づいて、工具軸方向に砥石66をシフトさせる制御は、ワークW(第1スピンドル61)が工具軸方向に移動可能である場合、ワークWを工具軸方向に移動させてもよい。つまり、制御装置7は、次回の研削加工において、使用エリアが使用されないように、シミュレーション結果(使用エリア及び/又はシフト量)に基づいて、ワークWに対する砥石66の相対位置を制御する。
【0071】
また、シミュレーション装置1又はそこで用いられるプログラムは、ユーザの操作に応じて、
図16に示すように、加工後ワークモデルと目標形状(例えば理論インボリュート)との誤差の大小を、色(配色、色合い、色の濃淡)の違いで等高線状に表した歯面等高線グラフを作成するように構成されてもよい。この歯面等高線グラフは、一方の軸が加工後ワークモデル(ワーク)の歯丈方向に対応し、他方の軸が加工後ワークモデル(ワーク)の軸方向に対応している。これにより、ユーザは、誤差が大きい位置と小さい位置とを一目で把握することができる。また、歯車製造方法は、演算装置3が、ユーザの操作に応じて、使用エリアが表された歯面グラフ又は上記歯面等高線グラフを作成し、ディスプレイ4に表示させるグラフ表示処理を含むといえる。このように、シミュレーション装置1は、上記シミュレーション処理の終了後、ユーザの操作に応じて又はプログラムに沿って(自動的に)、歯面グラフ及び/又は歯面等高線グラフを作成し、ディスプレイ4に表示させる。
【符号の説明】
【0072】
1…シミュレーション装置、2…記憶装置、3…演算装置、4…ディスプレイ(表示手段)、6…歯車加工装置、66…砥石(工具)、67…ドレッサ、7…制御装置、8…歯車製造システム、91…ドレッサモデル、92…ドレス前砥石モデル、93…ドレス後砥石モデル(工具モデル)、94…加工前ワークモデル、W…ワーク。