(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103243
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】押出成形機のフィルタ
(51)【国際特許分類】
B29C 48/69 20190101AFI20240725BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240725BHJP
B29K 77/00 20060101ALN20240725BHJP
B29L 31/14 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
B29C48/69
B29C48/305
B29K77:00
B29L31:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007464
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和宏
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AA29
4F207AA32
4F207AA40
4F207AJ08
4F207AM10
4F207AR12
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL38
4F207KL40
4F207KL84
4F207KM15
4F207KM20
(57)【要約】
【課題】 筺体内に流入した成形材料が滞留するのを抑制し、異物が発生して樹脂フィルムの品質が低下するおそれを払拭できる押出成形機のフィルタを提供する。
【解決手段】 成形材料を押し出す溶融押出成形機と、溶融押出成形機からの成形材料を樹脂フィルムに成形するTダイスとを備え、溶融押出成形機からTダイスに押し出される成形材料をろ過する押出成形機のフィルタ20であり、少なくとも樹脂含有の成形材料を溶融して押し出す溶融押出成形機とTダイスとの間に介在される筺体と、筺体に収容されて成形材料をろ過するエレメント体28とを含み、エレメント体28の下流の他端部32に、筺体内の下流部の成形材料を流入させて滞留を規制する流通孔40を穿孔する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を押し出す押出成形機と、この押出成形機からの成形材料を樹脂フィルムに成形するダイスとを備え、押出成形機からダイスに押し出される成形材料をろ過する押出成形機のフィルタであって、
少なくとも樹脂含有の成形材料を溶融して押し出す押出成形機とダイスとの間に介在される筺体と、この筺体に収容されて成形材料をろ過するエレメント体とを含み、このエレメント体に、筺体内の成形材料を流入させて滞留を規制する流通孔が設けられることを特徴とする押出成形機のフィルタ。
【請求項2】
成形材料の樹脂は、ナイロン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、及びポリアリールエーテルケトン樹脂の少なくともいずれかである請求項1記載の押出成形機のフィルタ。
【請求項3】
筺体は、エレメント体の略中央部を隙間を介して収容する本体と、この本体に取り付けられて押出成形機と連通する第一の蓋体と、本体に取り付けられてダイスと連通する第二の蓋体とを含み、第一の蓋体にエレメント体の一端部が隙間を介して収容され、第二の蓋体にエレメント体用の取付孔が設けられるとともに、第二の蓋体の内面には、ダイス方向に向かうにしたがい徐々に傾斜して取付孔に接続されるテーパが形成されており、
エレメント体は、ハウジングにエレメントが収納されることで構成され、一端部が絞り加工されるとともに、他端部が絞り加工されて筺体の第二の蓋体のテーパに隙間を介して接近し、最他端部が第二の蓋体の取付孔に取り付けられる請求項1又は2記載の押出成形機のフィルタ。
【請求項4】
流通孔は、エレメント体の他端部に設けられ、孔幅が0.4mm以上である請求項3記載の押出成形機のフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形機からダイスに流動する成形材料をろ過して異物を除去する押出成形機のフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、成形材料1を樹脂フィルム2に成形する場合には
図5や
図6に示すように、成形材料1を溶融して押し出す溶融押出成形機10と、この溶融押出成形機10からの成形材料1を薄い樹脂フィルム2に成形するTダイス13とを用いるが、これら溶融押出成形機10とTダイス13との間には、成形材料1をろ過して異物を除去するフィルタ20が装着される(特許文献1参照)。
【0003】
成形材料1は、少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂等の樹脂を含有して調製される。また、溶融押出成形機10の先端部には成形材料1を流動させる連結管12が挿着され、この連結管12には、Tダイス13が支持されるとともに、溶融押出成形機10とTダイス13との間に介在するフィルタ20が装着されている。
【0004】
フィルタ20は、
図5や
図6に示すように、溶融押出成形機10とTダイス13との間に介装される筺体21と、この筺体21に収容されて成形材料1をろ過するエレメント体28とを備えて構成されている。筺体21は、エレメント体28の中央部を隙間Cを介して収容する本体22と、この本体22に装着されて溶融押出成形機10と連通する第一の蓋体23と、本体22に装着されてTダイス13と連通する第二の蓋体24とから構成され、第一の蓋体23にエレメント体28の一端部31が隙間Cを介して収容される。第二の蓋体24の中心部にはエレメント体28用の螺子孔26が穿孔され、第二の蓋体24の内面には、Tダイス13方向に向かうにしたがい傾斜して螺子孔26に連接するテーパ27が形成されている。
【0005】
エレメント体28は、
図6に示すように、ハウジング29にろ過用のエレメント30が収納して構成され、下流の他端部32が取付の便宜を図る観点から絞り加工されて筺体21の第二の蓋体24のテーパ27に隙間Cを介して接近するとともに、最下流の最他端部33が第二の蓋体24の螺子孔26に螺着される。
【0006】
上記において、成形材料1を樹脂フィルム2に成形する場合、成形材料1は、溶融押出成形機10から溶融状態で押し出され、連結管12内を流通してフィルタ20の筺体21内とエレメント体28にそれぞれ流入する(
図6の矢印参照)。筺体21内に流入した成形材料1は、第一の蓋体23、本体22、及び第二の蓋体24を順次流通し、第二の蓋体24とエレメント体28の他端部32とが接近する部分、具体的には第二の蓋体24の螺子孔26とテーパ27との境界付近、及びエレメント体28の他端部32が区画する滞留部Sに滞留する。
【0007】
これに対し、エレメント体28に流入した成形材料1は、エレメント体28の一端部31、エレメント30を順次流通して未溶融の樹脂やゲル異物が分離され、その後、最他端部33と連結管12内を順次通過してTダイス13方向に流動し、薄膜の樹脂フィルム2に連続して成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来における押出成形機のフィルタ20は、以上のように構成され、第二の蓋体24とエレメント体28の他端部32とが区画する滞留部Sが成形材料1の流れないデッドゾーンとなるので、筺体21内に流入した成形材料1が滞留部Sで滞留し、成形作業を開始して24時間以上経過すると、滞留部Sに焼けが連続的に発生し、滞留した成形材料1が劣化物となる。その結果、劣化物により多数の異物(例えば、架橋ゲル等)が発生してフィルタ20を徐々に通過し、樹脂フィルム2に悪影響を及ぼして品質を低下させるおそれがある。
【0010】
係る問題は、成形材料1が樹脂のみからなり、この樹脂が高機能を発揮する熱可塑性樹脂、例えばポリアリールエーテルケトン樹脂の場合には、重合時にオリゴマーや低分子成分が発生し、これらがゲル異物となることがあるので、薄い樹脂フィルム2に異物が混在して品質を低下させるおそれが少なくない。
【0011】
本発明は上記に鑑みなされたもので、筺体内に流入した成形材料が滞留するのを抑制し、異物が発生して樹脂フィルムの品質が低下するおそれを払拭することのできる押出成形機のフィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては上記課題を解決するため、成形材料を押し出す押出成形機と、この押出成形機からの成形材料を樹脂フィルムに成形するダイスとを備え、押出成形機からダイスに押し出される成形材料をろ過するものであって、
少なくとも樹脂含有の成形材料を溶融して押し出す押出成形機とダイスとの間に介在される筺体と、この筺体に収容されて成形材料をろ過するエレメント体とを含み、このエレメント体に、筺体内の成形材料を流入させて滞留を規制する流通孔が設けられることを特徴としている。
【0013】
なお、成形材料の樹脂は、ナイロン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、及びポリアリールエーテルケトン樹脂の少なくともいずれかとすることができる。
【0014】
また、筺体は、エレメント体の略中央部を隙間を介して収容する本体と、この本体に取り付けられて押出成形機と連通(連なり通す)する第一の蓋体と、本体に取り付けられてダイスと連通する第二の蓋体とを含み、第一の蓋体にエレメント体の一端部が隙間を介して収容され、第二の蓋体にエレメント体用の取付孔が設けられるとともに、第二の蓋体の内面には、ダイス方向に向かうにしたがい徐々に傾斜して取付孔に接続されるテーパが形成されており、
エレメント体は、ハウジングにエレメントが収納されることで構成され、一端部が絞り加工されるとともに、他端部が絞り加工されて筺体の第二の蓋体のテーパに隙間を介して接近し、最他端部が第二の蓋体の取付孔に取り付けられると良い。
【0015】
また、筺体の本体、第一の蓋体、及び第二の蓋体の対向面に凹部と凸部のいずれかが形成され、これら本体、第一の蓋体、及び第二の蓋体が凹凸嵌合されるようにすることができる。
また、筺体の本体は、中空に形成されてその内面が押出成形機方向からダイス方向に向かうにしたがい徐々に内側に傾斜するようにすることができる。
また、流通孔は、エレメント体の他端部に設けられ、孔幅が0.4mm以上であると良い。
【0016】
ここで、特許請求の範囲における成形材料には樹脂の他、各種のフィラーを含めることができる。この成形材料の樹脂は、100℃以上の耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックあるいは150℃以上の耐熱性を有するスーパーエンジニアリングプラスチックが好適である。また、樹脂フィルムは、透明、不透明、半透明のいずれでも良く、医療用、工業用、産業資材用、農業用、包装用、回路基板用、光学用、シールド用、小型スピーカの振動板等の用途を特に問うものではない。流通孔は、単数でも良いし、複数でも良い。この流通孔は、円形、楕円形、矩形、多角形、溝形等に設けることができる。
【0017】
本発明によれば、成形材料を樹脂フィルムに成形する場合、成形材料は、押出成形機から押し出され、フィルタの筺体内とエレメント体に流入する。筺体内に流入した成形材料は、筺体の上流部、下流部、及びエレメント体の流通孔を順次流通し、エレメント体の内部に流入する。成形材料が筺体からエレメント体内に流入するので、成形材料が筺体の下流部で滞留することが少ない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、筺体内に流入した成形材料が滞留するのを抑制し、異物が発生して樹脂フィルムの品質が低下するおそれを払拭することができるという効果がある。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、成形材料の樹脂がナイロン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂の少なくともいずれかの場合、経験則上認められる焼けや異物の発生を防ぐことができる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、フィルタの筺体が本体、第一の蓋体、第二の蓋体により分割して構成されるので、筺体の製造やメンテナンスが容易となる。また、エレメント体の一端部が絞り加工されるので、押出成形機から押し出されて来る成形材料の流速を向上させることができる。また、エレメント体の下流の他端部が絞り加工されるので、最他端部を第二の蓋体の取付孔に容易かつ確実に固定することが可能となる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、エレメント体の他端部に流通孔が設けられ、この流通孔の孔幅が0.4mm以上なので、成形材料の流速を高めて成形材料の滞留を抑制することができ、樹脂フィルム中の異物の数を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る押出成形機のフィルタの実施形態を模式的に示す全体説明図である。
【
図2】本発明に係る押出成形機のフィルタの実施形態における筺体を模式的に示す断面説明図である。
【
図3】本発明に係る押出成形機のフィルタの実施形態におけるエレメント体を模式的に示す説明図である。
【
図4】本発明に係る押出成形機のフィルタの実施形態における流通孔を模式的に示す要部説明図である。
【
図5】従来における押出成形機のフィルタを模式的に示す説明図である。
【
図6】押出成形機のフィルタを模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における押出成形機のフィルタ20は、
図1ないし
図4、
図6に示すように、少なくとも樹脂含有の成形材料1を溶融して押し出す溶融押出成形機10とTダイス13との間に介在される筺体21と、この筺体21に収容されて成形材料1をろ過するエレメント体28とを備え、このエレメント体28に、筺体21内の成形材料1を流入させて滞留を規制する必要数の流通孔40が設けられることにより、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0024】
成形材料1は、所定の熱可塑性樹脂、例えば焼けや異物の発生が経験則上認められるナイロン(ポリアミド)樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂の少なくともいずれかを主成分として調製される。これらの樹脂の中では、成形温度が高く(300℃~450℃)、好ましい酸化防止剤の存在しないスーパーエンジニアリングプラスチックであるポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂、具体的にはポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂,ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂が好適であり、好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂が最適である。
【0025】
ポリアリールエーテルケトン樹脂は、1種単独でも良いし、2種以上を混合して使用しても良く、共重合体でも良い。このポリアリールエーテルケトン樹脂は、一般的には粉状、顆粒状、ペレット状の成形加工に適した形で使用される。ポリアリールエーテルケトン樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば文献〔株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)〕に記載された製法等があげられる。
【0026】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、アリーレン基、エーテル基、及びカルボニル基からなる結晶性の熱可塑性樹脂であり、機械的特性、軽量性、電気絶縁特性、耐加水分解性、耐熱性、耐薬品性等に優れる。このポリエーテルエーテルケトン樹脂は、融点が通常320℃以上360℃以下、好ましくは335℃以上345℃以下であり、通常、粉状、顆粒状、ペレット状の成形加工に適した形で使用される。このようなポリエーテルエーテルケトン樹脂の製品例としては、例えばビクトレックス社製の製品名:Victrex Powderシリーズ、Victrex Granulesシリーズ、ポリプラ・エボニック社製の製品名:ベスタキープシリーズ、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製の製品名:キータスパイア PEEKシリーズがあげられる。
【0027】
成形材料1は、樹脂のみでも良いが、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤が選択的に添加される。例えば、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑り剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤等が必要に応じて添加される。
【0028】
溶融押出成形機10は、
図1に示すように、例えば成形材料1をスクリューで溶融混練する単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、後部上方にホッパからなる成形材料1用の原料投入口11が設置される。この原料投入口11には、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスを供給する不活性ガス供給管が必要に応じて接続され、この不活性ガス供給管による不活性ガスの供給により、成形材料1の酸化劣化、酸素架橋、熱架橋が有効に防止される。また、溶融押出成形機10の先端部には成形材料1を流動させる連結管12が水平に接続され、この連結管12の下流部には薄膜の樹脂フィルム2を成形するTダイス13が装着されており、連結管12の中流部付近には溶融押出成形機10とTダイス13との間に介在するフィルタ20が交換可能に装着される。
【0029】
Tダイス13は、
図1に示すように、マニホールドを流通した成形材料1を吐出口であるリップから高精度に押し出す構造に構成され、帯形の樹脂フィルム2を連続的に下方に押し出すよう機能する。このTダイス13の下方には間隔をおき相対向して高温の樹脂フィルム2を挟む一対のロール14が回転可能に軸支され、この一対のロール14の一方のロール14が樹脂フィルム2用の冷却ロールとされるとともに、他方のロール14が冷却ロールに樹脂フィルム2を圧接する圧着ロールとされる。冷却ロールとしては金属ロール等が使用され、圧着ロールには金属ロールの周面にシリコーンゴムやフッ素ゴム等のゴム層が覆着された金属弾性ロール等が用いられる。
【0030】
一対のロール14は樹脂フィルム2の厚さを調整するが、この際の樹脂フィルム2の厚さは、3μm以上1000μm以下、好ましくは10μm以上500μm以下、より好ましくは50μm以上300μm以下が良い。これは、厚さが3μm未満の場合には、樹脂フィルム2の引張強度が著しく低下するので、製造時に破断が生じやすくなり、製造効率が低下するからである。これに対し、厚さが1000μmを越える場合には、引張張力が過大となるからである。
【0031】
一対のロール14の下流には樹脂フィルム2を回転可能な巻取管に巻き取る巻取機15が設置され、この巻取機15と一対のロール14との間には、樹脂フィルム2にテンションを作用させて円滑に巻き取るためのテンションロール16が回転可能に必要数軸支される。また、一対のロール14と巻取機15との間には、樹脂フィルム2の側部長手方向にスリットを形成する昇降可能なスリット刃が選択的に配置される。
【0032】
フィルタ20の筺体21は、
図2や
図6に示すように、製造や分解を容易にする観点から、エレメント体28の両端部以外の略中央部を僅かな隙間Cを介して収容する中空の本体22と、この本体22の開口部に装着されて上流の溶融押出成形機10と連結管12を介し連通する第一の蓋体23と、本体22の開口部に装着されて下流のTダイス13と連結管12を介し連通する第二の蓋体24とを備え、これら中流に位置する本体22、上流側に位置する第一の蓋体23、下流側に位置する第二の蓋体24がそれぞれステンレス鋼等により構成される。
【0033】
本体22は、中空が上流と下流で同径とされるが、成形材料1の流速を向上させたい場合には、中空の内周面が上流から下流に向かうにしたがい徐々に内側に傾斜形成される。また、第一、第二の蓋体23・24は、それぞれ凹んだ断面略すり鉢形に形成され、中心部に連結管12と連通接続される連通口25がそれぞれ穿孔される。第一の蓋体23は、断面略漏斗形の空洞部を備え、この空洞部にエレメント体28の一端部31が僅かな隙間Cを介して収容される。また、第二の蓋体24の中心部には連通口25と連通するエレメント体28用の螺子孔26が穿孔され、第二の蓋体24の内周面には、Tダイス13方向に向かうにしたがい徐々に内側に傾斜して螺子孔26の周縁部に連接するスカート形のテーパ27が形成される。
【0034】
フィルタ20のエレメント体28は、
図3、
図4、
図6に示すように、略中空筒形のハウジング29にろ過用のエレメント30が収納された略円柱形に構成され、流通性を有する上流の一端部31が成形材料1の流速を高めるために縮径の略円錐形に絞り加工されており、この一端部31が筺体21の第一の蓋体23に僅かな隙間Cを介して収容される。エレメント30は、特に限定されるものではないが、例えば多数の網目付きのスクリーンや金属繊維等が用いられる。また、エレメント体28の下流の他端部32は、縮径に絞り加工されて筺体21の第二の蓋体24のテーパ27に僅かな隙間Cを介して接近し、エレメント30と連通する縮径で略円筒形の最他端部33と一体化されており、この最他端部33が最下流に位置して第二の蓋体24の螺子孔26に螺着固定される。
【0035】
流通孔40は、
図4に示すように、エレメント体28のハウジング29の他端部32径方向に穿孔される丸い小径の貫通孔からなり、筺体21の第二の蓋体24のテーパ27とエレメント体28の他端部32との間の僅かな隙間Cから成形材料1をハウジング29内に流入させて滞留部Sでの滞留を規制するよう機能する。この流通孔40の数は、特に限定されるものではないが、1個以上、好ましくは1個、2個、3個、4個程度とされる。
【0036】
流通孔40が複数の場合、流入箇所を均等に分散させる観点から、180°、120°、90°等の間隔で流通孔40が穿孔される。また、流通孔40の孔径は、流入する成形材料1の流速を高める観点から、0.4mm以上、好ましくは0.4mm以上1.5mm以下、より好ましくは0.45mm以上1.2mm以下、さらに好ましくは0.5mm以上1.0mm以下が良い。これは、流通孔40の孔径が0.4mm未満の場合には、成形材料1の流速が低下し、滞留のおそれがあるからである。
【0037】
上記構成において、溶融押出成形法により成形材料1を樹脂フィルム2に成形する場合、成形材料1は、溶融押出成形機10から溶融状態で押し出され、連結管12内を流通してフィルタ20の筺体21内とエレメント体28にそれぞれ流入する。筺体21内に流入した成形材料1は、第一の蓋体23の僅かな隙間C、本体22の僅かな隙間C、第二の蓋体24の僅かな隙間C、及びエレメント体28の流通孔40を順次流通し、エレメント体28内のエレメント他端部に流入する。成形材料1がバイパス用の流通孔40に流入するので、第二の蓋体24の螺子孔26とテーパ27との境界付近、及びエレメント体28の他端部32が区画する滞留部Sに成形材料1が滞留することがない。
【0038】
エレメント体28に流入した成形材料1は、エレメント体28の一端部31、中央部のエレメント30を順次流通して未溶融の樹脂やゲル異物が分離され、その後、最他端部33と連結管12内を順次通過してTダイス13方向に流動し、熱可塑性の薄膜の樹脂フィルム2に連続して成形される。樹脂フィルム2は、成形材料1がポリエーテルエーテルケトン樹脂の場合、結晶化度が1%以上15%以下、好ましくは2%以上12%以下、より好ましくは5%以上10%以下に溶融押出成形される。これは、結晶化度が1%未満のときには、樹脂フィルム2の製造が困難になり、15%を越えるときには、延伸張力が過大となり、樹脂フィルム2の破れ、延伸ムラ、ピンホール等が生じ易くなるからである。
【0039】
上記構成によれば、筺体21下流の成形材料1がエレメント体28の流通孔40に流入するので、成形材料1の流れないデッドゾーンを消失させることができ、例え成形作業を開始して8時間や24時間以上経過しても、滞留に伴う焼けが連続的に発生し、滞留した成形材料1が劣化物となることがない。したがって、多数の異物が発生してフィルタ20を徐々に通過し、樹脂フィルム2に悪影響を及ぼして品質を低下させるおそれを有効に払拭することができる。
【0040】
係る効果は、成形材料1が樹脂のみからなり、この樹脂が成形温度の高いスーパーエンジニアリングプラスチック、具体的にはポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂の場合、樹脂フィルム2に異物が混在して品質を低下させるおそれが少ないので、きわめて有意義である。
【0041】
なお、上記実施形態では連結管12にTダイス13を装着したが、丸ダイス等を装着しても良い。また、上記実施形態では連結管12にフィルタ20を装着したが、連結管12にギアポンプを装着することにより、溶融押出成形機10により溶融混練された成形材料1を一定の流量で、かつ高精度に下流のフィルタ20に移送しても良い。また、上記実施形態では一対のロール14の一方のロール14を冷却ロールとし、他方のロール14を圧着ロールとしたが、何らこれに限定されるものではない。例えば一対のロール14を圧着ロールとし、この一対の圧着ロールと巻取機15との間に樹脂フィルム2を冷却する必要数の冷却ロールを回転可能に軸支しても良い。
【0042】
また、一対のロール14は、同径でも良いし、異なる径とすることもできる。また、筺体21の本体22、第一の蓋体23、及び第二の蓋体24の対向面に、凹部又は凸部を形成し、これら本体22、第一の蓋体23、及び第二の蓋体24を凹凸嵌合して第一の蓋体23や第二の蓋体24の脱落を防止することもできる。また、筺体21の本体22と第一の蓋体23あるいは第二の蓋体24を一体化して筺体21を二分割したり、筺体21を
図1の上下方向に二分割したりすることもできる。さらに、エレメント体28は、例えば多角形の柱形等に構成することもできる。
【実施例0043】
以下、本発明に係る押出成形機のフィルタの実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
樹脂フィルムを製造するため、先ず、市販されているポリエーテルエーテルケトン樹脂を用意し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機に投入して12時間以上乾燥させることにより、成形材料とした。ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、キータスパイアPEEK KT-851NL SP〔ソルベイスペスルティポリマーズ社製:製品名〕を用いた。
【0044】
次いで、
図1に示すTダイス付きの単軸押出成形機からなる溶融押出成形機を用意した。単軸押出成形機の先端部には成形材料を流動させる連結管を水平に接続し、この連結管の下流部にはTダイスを装着し、連結管の中流部には単軸押出成形機とTダイスとの間に介在するフィルタを装着した。フィルタは、単軸押出成形機とTダイスとの間に介在される筺体と、この筺体に収容されて成形材料をろ過する略円柱形のエレメント体とを備えた
図2ないし
図4、
図6の構成とした。エレメント体を構成するハウジングの他端部径方向には、成形材料の滞留を規制する孔径1mmの流通孔を1個穿孔した。
【0045】
こうしてTダイス付きの溶融押出成形機を用意したら、成形材料を溶融押出成形機にセットして溶融混練し、この溶融混練した成形材料をTダイスから連続的に押し出し、150℃の温度に調整した一対のロールの間に挟持させて冷却することにより、厚さ100μmの樹脂フィルムを帯形に押出成形した。この際、溶融押出成形機の温度は380℃~400℃、Tダイスの温度は400℃、これら溶融押出成形機とTダイスを連結する連結管の温度は400℃に調整した。溶融した成形材料の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定することとし、測定したところ397℃であった。
【0046】
次いで、連続した樹脂フィルムを巻取機の巻取管に順次巻き取り、24時間経過した後、長さ1000mの樹脂フィルム中の異物の数を計測してその品質評価結果を表1に◎○×形式でまとめた。異物の計測に際しては、CCDカメラと光源を用い、樹脂フィルム上に投影された面積0.8mm2以上の影(暗欠点)を異物と定義した。また、品質評価結果は、◎が樹脂フィルムの品質の著しい向上、○が樹脂フィルムの品質の向上、×が樹脂フィルムの品質の低下を示す。
【0047】
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様であるが、エレメント体を構成するハウジングの他端部径方向に孔径1mmの流通孔を4個穿孔した。4個の流通孔は、ハウジングの他端部周方向に90°の間隔で穿孔した。連続した樹脂フィルムを巻取機の巻取管に順次巻き取り、24時間経過したら、長さ1000mの樹脂フィルム中の異物の数を計測してその品質評価結果を表1に◎○×形式でまとめた。
【0048】
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様であるが、エレメント体を構成するハウジングの他端部径方向に孔径0.5mmの流通孔を1個穿孔した。連続した樹脂フィルムを巻取機の巻取管に順次巻き取り、24時間経過したら、長さ1000mの樹脂フィルム中の異物数を計測してその品質評価結果を表1に◎○×形式でまとめた。
【0049】
〔実施例4〕
基本的には実施例1と同様であるが、エレメント体を構成するハウジングの他端部径方向に孔径0.5mmの流通孔を4個穿孔した。4個の流通孔は、ハウジングの他端部周方向に90°の間隔で穿孔した。連続した樹脂フィルムを巻取機に順次巻き取り、24時間経過したら、長さ1000mの樹脂フィルム中の異物数を計測してその品質評価結果を◎○×形式で表1に記載した。
【0050】
〔比較例〕
樹脂フィルムを製造するため、市販されているポリエーテルエーテルケトン樹脂を用意し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機に投入して12時間以上乾燥させることにより、成形材料とした。ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、実施例1と同様とした。
【0051】
次いで、
図1に示すTダイス付きの単軸押出成形機からなる溶融押出成形機を用意した。単軸押出成形機の先端部には成形材料を流動させる連結管を挿着し、この連結管の下流部にはTダイスを支持させ、連結管には単軸押出成形機とTダイスとの間に介在するフィルタを装着した。フィルタは、単軸押出成形機とTダイスの間に介在される筺体と、この筺体に収容されて成形材料をろ過するエレメント体とを備えた
図6の構成とした。エレメント体の他端部には実施例と異なり、流通孔を穿孔しなかった。
【0052】
Tダイス付きの溶融押出成形機を用意したら、成形材料を溶融押出成形機にセットして溶融混練し、この溶融混練した成形材料をTダイスから連続的に押し出し、150℃の温度に調整した一対のロールの間に挟持させて冷却することにより、厚さ100μmの樹脂フィルムを帯形に押出成形した。この際、溶融押出成形機の温度は380℃~400℃、Tダイスの温度は400℃、これら溶融押出成形機とTダイスを連結する連結管の温度は400℃に調整した。溶融した成形材料の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定することとし、測定したところ397℃であった。
【0053】
次いで、連続した樹脂フィルムを巻取機の巻取管に順次巻き取り、24時間経過したら、長さ1000mの樹脂フィルム中の異物の数を計測してその品質評価結果を表1に◎○×形式で記載した。異物の計測や品質評価結果については、実施例1と同様とした。
【0054】
【0055】
〔評 価〕
各実施例の場合には、フィルタのエレメント体に流通孔を穿孔して成形材料の滞留を防ぐようにしたので、樹脂フィルムの異物数が8個以下となり、樹脂フィルムの品質を向上させることができた。特に、実施例3、4の場合には、樹脂フィルムの異物数が3個以下となり、樹脂フィルムの品質が著しく向上したのを確認した。
これに対し、比較例の場合には、従来のフィルタを用い、エレメント体の流通孔を省略したので、樹脂フィルムの異物数が10個となり、樹脂フィルムの品質が低下して実用性に疑義が生じた。