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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103278
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】噴霧デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 31/00 20060101AFI20240725BHJP
   A61J 1/20 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61M31/00
A61J1/20 314C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007529
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
(72)【発明者】
【氏名】菊島 光一
(72)【発明者】
【氏名】上澤 駿
(72)【発明者】
【氏名】菊原 佑太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 翔太
【テーマコード(参考)】
4C047
4C066
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047CC04
4C047HH03
4C047HH07
4C066AA06
4C066BB03
4C066CC01
4C066DD07
4C066EE14
4C066FF02
4C066JJ07
4C066QQ14
4C066QQ15
4C066QQ94
(57)【要約】
【課題】本発明は、使いやすく、安全で作りやすい噴霧デバイスを提供することができる。
【解決手段】本発明に係る噴霧デバイス(100)は、吸引時に薬液が流れる吸引経路と、噴霧時に薬液が流れ、吸引経路と少なくとも一部が異なる噴霧経路と、噴霧経路とは異なる吸引経路内に配置され、吸引時には開いており、噴霧時には閉じている逆止弁(151)と、を備えている
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続されたシリンジを操作して、薬液をバイアルから吸引、及び患部に噴霧する噴霧デバイスであって、
吸引時に薬液が流れる吸引経路と、
噴霧時に薬液が流れ、前記吸引経路と少なくとも一部の経路が異なる噴霧経路と、
前記吸引経路、又は前記噴霧経路内に配置されている逆止弁と、を備えている、噴霧デバイス。
【請求項2】
前記逆止弁は、前記噴霧経路とは異なる前記吸引経路内に配置され、吸引時には開いており、噴霧時には閉じている、請求項1に記載の噴霧デバイス。
【請求項3】
前記噴霧経路とは異なる前記吸引経路は、複数設けられている、請求項2に記載の噴霧デバイス。
【請求項4】
前記逆止弁は、前記噴霧経路とは異なる前記吸引経路に設けられている挿入孔にそれぞれ挿入されている、請求項3に記載の噴霧デバイス。
【請求項5】
前記噴霧デバイスは、薬液を噴霧し、前記逆止弁を収容するノズルと、前記ノズルの少なくとも一部を覆うカバーと、を有しており、
前記逆止弁は、前記カバーの内面に圧接して保持されている、請求項1~4の何れか一項に記載の噴霧デバイス。
【請求項6】
前記逆止弁は、前記カバーに設けられており前記吸引経路を形成する溝部に接して配置されている、請求項5に記載の噴霧デバイス。
【請求項7】
前記噴霧デバイスは、バイアルアダプタを備えており、
前記バイアルアダプタは、前記バイアルアダプタの一部が弾性変形して前記ノズルに取り付け可能である、請求項5に記載の噴霧デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン投与に用いられる噴霧デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ワクチン接種は、腕に注射して投与する方法で行われている。感染症流行の長期化に伴い、より使いやすく、注射技術を不要としたワクチン投与方法が望ましいとされており、鼻腔内に投与する方法がその1つとして考えられている。鼻腔内に投与する方法は、ワクチンが粘膜により直接吸収されて感染部位で免疫を作ることが可能である。そのため、感染自体を防ぐことができると考えられ、より優れた予防効果が得られる可能性がある。また、注射針による痛みもない。経鼻投与型噴霧デバイスは、薬液を接続されているシリンジで吸引した後、噴霧デバイスを噴霧可能な状態に切り替えて、患部に薬液が噴霧する形態が考えられる。
【0003】
特許文献1には、バイアルアダプタを用いてのバイアルから薬液の吸引と、薬液の放出と、を切り替えて使用される注射器アセンブリが開示されている。特許文献1の注射器アセンブリでは、薬液の吸引した後、注射器アセンブリを噴霧可能な状態にして薬液を放出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6917493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の注射器アセンブリでは、注射器アセンブリの一部を回転させることで、薬液が通る経路を切り替える構造となっていた。そのため、薬液の吸引後、薬液を放出するまでに、注射器アセンブリの一部を回転させる操作しなければならなかった。また、ワクチン経鼻投与型噴霧デバイスは、投与対象者の一人に1つずつ用いられるため、安全で作りやすい噴霧デバイスであることも求められる。
【0006】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、使いやすく、安全で作りやすい噴霧デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る噴霧デバイスは、吸引時に薬液が流れる吸引経路と、噴霧時に薬液が流れ、吸引経路と少なくとも一部の経路が異なる噴霧経路と、吸引経路、又は噴霧経路内に配置されている逆止弁と、を備えている。
【0008】
本発明に係る噴霧デバイスは、吸引と、噴霧とで経路を自動的に切り替える逆止弁を備えている。そのため、使用者は、薬液の吸引後、噴霧する時に薬液通路を切り換える操作をする必要がない。したがって、使いやすい噴霧デバイスとすることができる。
【0009】
本発明に係る噴霧デバイスが備える逆止弁は、噴霧経路とは異なる吸引経路内に配置され、吸引時には開いており、噴霧時には閉じていることが好ましい。
【0010】
本発明に係る噴霧デバイスが備える逆止弁は、噴霧経路とは異なる吸引経路内に配置され、吸引時には開いており、噴霧時には閉じているように構成されている。そのため、薬液の無駄となるデッドスペース、及び吸引から噴霧への切り替え時に発生し得るシリンジ押子のロスストロークを低減することができる。したがって、使いやすい噴霧デバイスとすることができる。
【0011】
また、本発明に係る噴霧デバイスは、噴霧経路とは異なる吸引経路は複数設けられていることが好ましい。
【0012】
本発明に係る噴霧デバイスは、噴霧経路とは異なる吸引経路は複数設けられている。そのため、噴霧経路とは異なる吸引経路が1つの場合に比べて、吸引経路の流路断面積を大きくすることができる。その結果、吸引経路の流路抵抗を低減でき、薬液を素早く吸引することができる。したがって、使いやすい噴霧デバイスとすることができる。
【0013】
また、本発明に係る噴霧デバイスの逆止弁は、噴霧経路とは異なる吸引経路に設けられている挿入孔に挿入されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る噴霧デバイスの逆止弁は吸引経路を構成している経路の一部を拡径して設けられた挿入孔に挿入されて保持されている。そのため、本発明に係る噴霧デバイスは、逆止弁用に複雑な保持構造を設けずに簡素な構造で構成することができる。したがって、作りやすい噴霧デバイスとすることができる。
【0015】
また、本発明に係る噴霧デバイスは、薬液を噴霧するノズルと、ノズルの少なくとも一部を覆うカバーとを有しており、逆止弁はカバーの内面に圧接して保持されていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る噴霧デバイスは、逆止弁をカバーの内面に圧接して保持している。そのため、接着剤を使用することなくカバーで逆止弁を圧接して保持可能である。したがって、容易に製作でき、異物が混入しない安全な噴霧デバイスを提供することができる。
【0017】
また、本発明に係る噴霧デバイスの逆止弁は、カバーに設けられ、前記吸引経路を形成する溝部に接して配置されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係る噴霧デバイスは、カバーに設けられている吸引経路を形成する溝部に接して配置されている。そのため、簡素で短い吸引経路にすることができる。したがって、容易に製作できる噴霧デバイスとすることができる。
【0019】
また、本発明に係る噴霧デバイスが備えるバイアルアダプタは、バイアルアダプタの一部が弾性変形してノズルに取り付け可能であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る噴霧デバイスは、バイアルアダプタの一部が弾性変形してノズルに取り付け可能に構成されている。そのため、固定具を用いることなく、バイアルアダプタをノズルに容易に取り付けることができる。したがって、使いやすい噴霧デバイスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施例に係る噴霧デバイスを示す斜視図である。
図2図1におけるII-II断面図である。
図3】逆止弁の斜視図である。
図4図1におけるC部拡大図である。
図5図1におけるD部拡大図である。
図6】本発明の第2実施例に係る噴霧デバイスの図2に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施例>
図1を参照して、本発明の第1実施例に係る噴霧デバイス100を説明する。図1は噴霧デバイス100を示しており、噴霧デバイス100の中心軸線Xを含む断面を示した側面断面図である。噴霧デバイス100は、ノズル110、及びバイアルアダプタ190を備えている。
【0023】
図1に示されているように、バイアルアダプタ190は、ノズル110に脱着可能に構成されている。ノズル110の一端部には、バイアルアダプタ190が接続され、ノズル110の他端部には、図示されないシリンジが取り付けられる。ワクチン等の薬液を吸い上げる際には、図示されないバイアル内にバイアルアダプタ190の先端を差し込み、シリンジの押子を操作してノズル110を介してシリンジ内に薬液を吸引する。薬液を噴霧する際には、ノズル110に取り付けられているバイアルアダプタ190を取り外し、シリンジを操作してノズル110から薬液を噴霧する。
【0024】
図1を参照して、バイアルアダプタ190の構成を説明する。バイアルアダプタ190は、先端部191、中間部192、嵌合部193、及び係合部194を有している。バイアルアダプタ190は、樹脂で一体的に形成されている。バイアルアダプタ190を形成している樹脂は、例えばPC樹脂、又はABS樹脂である。
【0025】
先端部191は、薬液吸引時にバイアルに差し込まれる部分である。先端部191は、先端側が円錐形状、基端側が円筒形状に形成されている。先端側部分の円錐形状部分の外面は、噴霧デバイス100の中心軸線Xを中心として、180度間隔で2か所が切り欠かれて、切り欠き部189が設けられている。切り欠き部189は、先細部の中心軸線X方向の全範囲において、周方向に一定幅、かつ円錐形状部分の外面から中心軸線Xに向かって所定半径の位置まで形成されている。基端側部分は、全長にわたって中心孔である流路195が形成されている。流路195は、中心軸線X方向において、切り欠き部189と重なる位置にも延びており、切り欠き部189と連通している。薬液は、シリンジが操作されると、バイアル内に差し込まれた先端部191の切り欠き部189から流路195に吸引される。
【0026】
中間部192は板状部材である。中間部192の一端面198の略中央には、先端部191の基端側部が接続されている。中間部192の他端面199には、嵌合部193、及び係合部194がそれぞれ接続されている。嵌合部193はノズル110側に開口している中空円筒形状の部材であり、ノズル110の上部が嵌合する。係合部194は棒状部材であり、中間部192の両端部において、中間部192の他端面199に対して垂直にそれぞれ接続されている。係合部194は、係合部194の先端部にノズル110に係合する係合爪197をそれぞれ有している。バイアルアダプタ190がノズル110に取り付けられる際には、係合部194の係合爪197が、傘状部114の外周部分の外面に摺動しながら係合部194の係合爪197側が弾性変形して中心軸線X方向に対し外側に撓み、傘状部114の外周端部118を乗り越して外周端部118の端面に係合する。
【0027】
すなわち、ノズル110と、バイアルアダプタ190とは、バイアルアダプタ190の嵌合部193の内部空間に、ノズル110のノズル本体上部122が嵌合した状態で、バイアルアダプタ190の係合爪197が外周端部118に係合して取り付けられる。バイアルアダプタ190は、嵌合部193と、係合爪197とで、ノズル110を中心軸線X方向に挟みこんで取り付けられるので、バイアルアダプタ190をノズル110に容易、かつ確実に取り付けることができる。
【0028】
中間部192には、先端部191に形成されている流路195がそのまま延長して形成されている。中間部192の他端面199側には、他端面199に開口し、流路195が連通している接続開口部196が形成されている。接続開口部196は略円柱形状の空間であり、流路195とともに、中心軸線Xと同軸に配置されている。接続開口部196の内径は、流路195の内径より大きく形成されており、接続開口部196には、ノズル110の上部が嵌合して接続されている。バイアルから吸引された薬液は、流路195、及び接続開口部196を通って、接続されているノズル110の上部からノズル110内に流入する。
【0029】
図1を参照して、ノズル110の構成を説明する。ノズル110は、ノズル本体111、及びカバー161を有している。カバー161は、ノズル本体111の上部に嵌合して取り付けられている。
【0030】
ノズル本体111は、ノズル本体下部112、及びノズル本体上部122を有しており、樹脂で一体的に形成されている。ノズル本体111を形成している樹脂は、例えばPP樹脂である。
【0031】
図1を参照して、ノズル本体下部112を参照する。ノズル本体下部112は、シリンジが接続される部材である。ノズル本体下部112は、円筒部113と、傘状部114とを有している。
【0032】
円筒部113の端部形状は、シリンジが取り付けられるように形成されている。円筒部113は、第1孔部115、第2孔部116、及びねじ突条117を有している。第1孔部115は、円筒部113の下端側の端面において、角部の面取りを有して開口しており、前記開口より奥側に向かって、内径が徐々に縮径する縮径部が2つ連続して形成されている。第1孔部115の奥には、第1孔部115の最小内径部分より細く、一定内径の第2孔部116が第1孔部115に連続して設けられている。第2孔部116は、ノズル本体上部122の上端部127まで形成されている。第1孔部115と、第2孔部116とは、中心軸線Xとそれぞれの中心軸線を同軸にして配置されている。円筒部113の下端側端部の外周面には、ねじ突条117が周方向に等間隔で2つ形成されている。ねじ突条117は、ロック式シリンジの対応する接続部に係合する。円筒部113は、例えば、ISO80369-7規格に対応したシリンジが接続できるように構成されている。
【0033】
円筒部113の外面には、全周において傘状部114が設けられている。傘状部114は中空の三角錐形状の部材である。傘状部114は、円筒部113の上端部の全周から突出して形成されており、円筒部113の下端側に向かうにつれて、徐々に拡径して形成されている。傘状部114は、噴霧デバイス100で薬液を鼻孔内に噴霧する際に、鼻孔の外側端部に当たり、噴霧位置を合わせるための部分である。
【0034】
図2図5を参照して、ノズル本体上部122の構成を説明する。図2は、図1におけるII-II断面図である。図3は、ノズル本体上部122が有する逆止弁151の斜視図である。図4は、図1におけるC部拡大図である。図5は、ノズル本体上部122を拡大した、図1におけるD部拡大図である。
【0035】
図1に示されているように、ノズル本体上部122は、インサータ123、及び逆止弁151を有している。ノズル本体上部122のノズル本体下部112に隣接する部位には、挿入孔125が設けられている。図2に示されているように、挿入孔125は、ノズル本体上部122のノズル本体上部122の外周面から中心軸線Xに向かって半径方向に形成され、ノズル本体上部122の外周面上において、180度間隔で2本形成されている。すなわち、2本の挿入孔125は直線状に配置されており、ノズル本体上部122の中心軸線Xを通る直径と重なるように設けられている。図3に示されているように、逆止弁151はダックビル型の逆止弁151である。図4に示されているように、各挿入孔125の最外側部には、挿入孔125よりわずかに直径が大きい円形状の孔であるフランジ溝部126がそれぞれ設けられており、逆止弁151が挿入孔125に挿入された時に、逆止弁151のフランジ部152が嵌合する。逆止弁151と、挿入孔125とは、すきま嵌めである。又は、逆止弁151と、挿入孔125とは、わずかな締め代を有した締まり嵌めでもよい。
【0036】
図3、及び図4を参照して、逆止弁151を説明する。逆止弁151は略円筒形状であり、一端部側にはフランジ152が全周に形成されている。他端部側は、円筒形状から徐々に板状に形成され、端部には2枚の板状の弁体153が互いの内面を接した状態で設けられている。図4に実線で示しているように、弁体153は、通常時は閉状態である。吸引時に逆止弁151の内圧が高まると、図4に破線で示しているように、互いに接している弁体153が弾性変形して離れる。その結果、弁開口部154が開いて薬液を流すことができる。吸引終了に伴い吸引操作をやめると、弾性変形力により、弁体153は初期形状に戻って、弁開口部154が閉じる。吸引操作、及び噴霧操作の何れでもない時には、逆止弁151は閉じており、シリンジから押し出された薬液は噴霧経路に流れる状態になっている。そのため、噴霧時には、シリンジの押子の押し始めにおいて、弁の切り替えのための無駄ストロークを生じることがなく、シリンジの押子操作に応じて、薬液を素早く噴霧することができる。
【0037】
逆止弁151を用いる噴霧デバイス100は、以下のような利点を有する。薬液の吸引経路と、噴霧経路との切り替えは、噴霧デバイス100の操作、例えば噴霧デバイス100の一部を使用者が回転操作をせずに逆止弁151が経路を自動的に切り替える。そのため、使いやすい噴霧デバイス100にすることができる。また、逆止弁151によって吸引経路の一部が切り離されるため、薬液が空気と触れる可能性を低減することができる。そのため、薬液への異物混入、薬液の変性等の発生を低減することができ、安全な噴霧デバイス100とすることができる。また、逆止弁151によって吸引経路の一部が切り離されるため、無駄なデッドスペースが少なくなる。そのため、ノズル110内の薬液の残量を減らすことができ、薬液をより有効に使うことができる。
【0038】
図5に示されているように、ノズル本体上部122の第2孔部116には、インサータ123が第2孔部116の内面の上端部127に突き当てて挿入されている。インサータ123は、一定直径で形成されている第1円筒部128の一方端に、若干小さい直径の第2円筒部129が第1円筒部128と同軸に設けられ、樹脂で一体的に形成されている部材である。インサータ123を形成している樹脂は、例えばPP樹脂である。インサータ123は、インサータ123の中心軸線を噴霧デバイス100の中心軸線Xに同軸にして配置されている。図5に示されているように、第2円筒部129の上面部には、第2円筒部129の水平方向の一方端から他方端まで、断面形状が半円状の溝部135が設けられている。溝部135と、溝部135が対向するノズル本体上部122の上端部127の内面136とにより囲まれた空間は、流路137を形成している。
【0039】
第1円筒部128の円筒面には、中心軸線Xに対し平行に溝部132が設けられている。溝部132は断面形状が半円状であり、第1円筒部128の下端部から上端部まで設けられている。溝部132と、溝部132が対向する第2孔部116の内面133とにより囲まれた空間は、流路134を形成している。なお、逆止弁151は、本実施例では、逆止弁151の全体が挿入孔125に収容されているが、一部が挿入孔125から突出していてもよい。例えば、逆止弁151の長さは、挿入孔125より長く形成され、逆止弁151の弁体153側が第2孔部116内に位置していてもよい。溝部132の円筒面上の周方向角度位置は、逆止弁151に対して周方向にずれて配置されていてもよい。例えば、逆止弁151は、中心軸線Xを中心として互いに180度の位置に配置され、溝部132は、中心軸線Xを中心として互いに180度の位置に配置され、2本の溝部132は逆止弁151に対してそれぞれ90度ずれて配置されていてよい。
【0040】
図5を参照して、ノズル本体上部122の上端部127の構成を説明する。上端部127には、流路141が中心軸線Xと同軸に設けられている。流路141は、溝部135に対向する内面136に開口している大径円筒形状部、ノズル本体上部122の上面に開口している小径円筒形状部、及び両者の間に配置され上方に向かって縮径している円錐形状部を含み、それぞれが上記のとおり接続されて形成されている。前記小径円筒形状部が開口しているノズル本体上部122の上面には、略円形の凹部142が形成されている。凹部142の外周部分は、全周にわたって凹部142の中央部分の底部と、上端部127の上面とをつなぐ傾斜面である円錐状面143となっている。
【0041】
図5を参照して、カバー161の構成を説明する。カバー161は、ノズル本体上部122に取り付けられて、吸引経路、及び噴霧経路の一部を形成している部材である。カバー161は円筒形状に形成され、一方端はカバー端面162が設けられ、他方面は開口部が設けられている。カバー161は、ノズル本体上部122の外径とほぼ同じ寸法の内径に形成されており、開口部を下にしてノズル本体上部122にかぶせられている。
【0042】
図2に示されているように、カバー161の下端部に中心軸線X方向に向かって突出している突起163が設けられている。ノズル本体111の対応する部位には嵌合凹部138が設けられており、突起163が嵌合凹部138に嵌め込まれて、カバー161と、ノズル本体111とが固定されている。突起163、及び嵌合凹部138は、円周方向等間隔に2個~4個、例えば2個設けられている。
【0043】
カバー端面162の中央に設けられ、カバー端面162を貫通して形成されている中央開口部164には、上側、すなわちインサータ123に対し反対側にはフランジ166が全周に突出して形成されているパッキン165が嵌められている。中央開口部164は、中央開口部164の開口部側にパッキン165のフランジ166とほぼ同じ直径の円筒状空間部分、及び下側、すなわちインサータ123側にはフランジ166に設けられている連通孔167の最外径とほぼ同じ直径の円筒状空間部分が形成されている。パッキン165が中央開口部164に嵌め込まれている状態でも、連通孔167は塞がれておらず、中央開口部164は外部と連通している。パッキン165は、エラストマーで形成されている。
【0044】
図5に示されているように、パッキン165は、フランジ166の両面を貫通している複数の連通孔167が設けられている。連通孔167は、薬液の吸引時、及び噴霧時に薬液が通過する孔である。連通孔167の形状及び数は、通気抵抗、及び噴霧時の薬液の拡散性能を考慮して決定される。連通孔167は、例えば、円弧状に形成され、周方向等間隔に配置されている複数の貫通孔である。連通孔167は、中心軸線Xを中心とする所定半径の円周上に等間隔で2個~6個、例えば4個形成されている。
【0045】
カバー161の内面には、断面が半円形状の複数の溝部168が設けられている。溝部168は、カバー端面162からカバー161の開口部側の端部まで設けられている。溝部168は、カバー端面162の内面では、中央開口部164を起点に半径方向外側に向かって形成され、カバー161の円筒部分では、中心軸線Xに平行に形成されている。溝部168は、中心軸線Xを中心にしてカバー161の内面において周方向に180度間隔で2本形成されている。溝部168と、カバー161の内面とにより形成されている空間は、流路を形成している。流路169と、それに続く逆止弁151は、2組設けられている。それにより、流路断面積が他の部分、例えば中央孔142に対して小さい流路169について、流路の断面積を増やすことができ、流路抵抗を低減して、素早く薬液を吸引することができる。なお、流路169と、それに続く逆止弁151は、1組のみ設けられていてもよい。
【0046】
ノズル本体上部122の上面の凹部142は、パッキン165の下面に当接している。すなわち、ノズル本体上部122に形成されている流路141の上端の開口部は、パッキン165の下面に当接している。そのため、流路141の上端の開口部は、パッキン165の下面により閉塞されている。薬液の吸引時には、その閉塞状態が維持される。薬液を吸引した後、バイアルアダプタ190は取り外され、パッキン165も取り外される。薬液の噴霧時には、図5において、矢印Bで示されているように、薬液は流路141から吐出し、ノズル110の先端から噴出する。
【0047】
図5に示されているように、カバー161の内面は、逆止弁151のフランジ部152に圧接して、逆止弁151を挿入孔125内に保持している。フランジ部152のカバー161に接する面の全周は、カバー161の内面の凹曲面形状に合わせた凸曲面形状に形成され、両者は互いに隙間なく接している。この構造により、接着剤を用いることなく、又は複雑な構造を設けずに、逆止弁151はノズル110に確実に保持される。接着剤を用いないので、薬液に接着剤の成分が混入する可能性がなく、安全な噴霧デバイス100を構成することができる。なお、フランジ部152のカバー161に接する面の全周は、加工の容易性から、曲面形状ではなく平面形状に形成されていてもよい。この場合、フランジ部152が接するカバー161の内面の部分は、フランジ部152に合わせて平面に形成されていてもよい。
【0048】
図2、及び図5を参照して、噴霧デバイス100における薬液の吸引経路、及び噴霧経路を説明する。図2、及び図5に示されているように、カバー161と、溝部168とにより形成される流路169の下端部は、逆止弁151の入口側に位置しており、薬液は流路169から逆止弁151へ流れることができる。
【0049】
図5に実線の矢印Aで示されているように、薬液の噴霧デバイス100への吸引経路は、以下のとおりである。薬液の吸引は、ノズル110に取り付けられているバイアルアダプタ190の先端部191をバイアルに差し込み、ノズル110の円筒部113に接続しているシリンジを操作して行う。薬液は、バイアルから、バイアルアダプタ190の流路195、パッキン165の連通孔167、中央孔142、流路169、逆止弁151、第2孔部116、及び第1孔部115を通って、シリンジに流入する。すなわち、流路195、連通孔167、中央孔142、流路169、挿入孔125、第2孔部116、及び第1孔部115が吸引経路を構成している。逆止弁151が当該吸引経路の挿入孔125に配置されている。なお、薬液があらかじめシリンジに充填されているプレフィルシリンジタイプの場合には、上記吸引作業は不要である。
【0050】
図5に破線の矢印Bで示されているように、薬液の噴霧デバイス100の噴霧経路は、以下のとおりである。薬液の噴霧は、薬液を吸引後、ノズル110からバイアルアダプタ190を取り外し、パッキン165がない状態で、シリンジを操作して行う。薬液は、シリンジから第1孔部115、第2孔部116、流路134、流路137、中央孔141を通ってノズル110の先端から噴出する。すなわち、第1孔部115、第2孔部116、流路134、流路137、中央孔141が噴霧経路を構成している。
【0051】
<第2実施例>
図6を参照して、本発明に係る第2実施例の噴霧デバイス200を説明する。図6は、第2実施例の図2に相当する断面図である。噴霧デバイス200は、第1実施例の噴霧デバイス100に対し、カバー261が中心軸線Xを中心にしてノズル210に対して所定角度回転すること、及びカバー261が有する溝部268が第1実施例より若干大きく形成されていることのみが異なる。なお、以下の第2実施例に関する説明において、第1実施例と形状が同じ部品は同じ符号を用いて、その説明を省略する。
【0052】
ノズル本体上部222に設けられ、ノズルカバー261の突起163が嵌合する嵌合凹部238は、中心軸線Xに垂直な方向において、嵌合する突起163より十分長い嵌合凹部238として形成されている。嵌合凹部238の長さは、突起163が嵌合した状態でカバー261が回転する角度が所定角度範囲となるように形成されている。前記所定角度範囲は、カバー261が回転した時に、溝部268と逆止弁151とが対向して連通する位置と、連通しない位置となる所定角度範囲である。前記所定角度範囲は、10度から30度の範囲であり、例えば20度である。
【0053】
溝部268は、第1実施例と比べて、位置と深さは同じであるが、溝の幅が大きく形成されている。溝部268の幅は、逆止弁151のフランジ部152の端面の外周部のみと接する大きさに形成されている。溝部268の溝幅が第1実施例より大きく形成されていることで、溝部268と、ノズル本体上部222の外面とにより形成される流路269の断面積は、第1実施例の流路168より大きく形成されている。そのため、流路抵抗をより低減させて薬液を容易に流すことができる。
【0054】
噴霧デバイス200における薬液の吸引経路、及び噴霧経路は、第1実施例の噴霧デバイス100と同じである。噴霧デバイス100は、薬液を吸引する時には、溝部268と逆止弁151とが対向して連通する位置として薬液が吸引される。薬液を噴霧する場合には、カバー261を回転させて溝部268と逆止弁151とが非連通として薬液が噴霧される。逆止弁151の弁体153に加えて、逆止弁151と溝部268との間でも非連通となるため、より確実に薬液の逆流防止が図られる。
【0055】
本発明により、使いやすく、安全で作りやすい噴霧デバイスを提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
100 噴霧デバイス、125 挿入孔、110 ノズル、
151 逆止弁、161 カバー、190 バイアルアダプタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6