(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103285
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240725BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240725BHJP
F16J 15/3264 20160101ALI20240725BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240725BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240725BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/3264
F16C33/80
F16J15/447
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007541
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 正稚
(72)【発明者】
【氏名】藤元 直人
【テーマコード(参考)】
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J042AA03
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA01
3J042CA07
3J042CA11
3J042CA21
3J042DA20
3J043AA16
3J043BA02
3J043BA06
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA01
3J043DA06
3J043DA07
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
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3J216CC41
3J216CC52
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA02
3J216EA03
3J216EA05
3J216GA03
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701BA78
3J701EA31
3J701EA49
3J701FA13
3J701FA60
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB40
(57)【要約】
【課題】汚水等の排出性能を簡易な構造により向上させることができるとともに、容易に製造することができる密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置10は、第1部材20が外側部材2の内周面に固定される第1円筒部21を備え、第2部材が内側部材3の外周面に固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備え、第3円筒部32が外周面に表れる外面部38をすくなくとも備え、第1円筒部21と第3円筒部32との間に環状の隙間40が形成されるような装着構造とされており、外面部38の厚さを周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから外面部38の外周面38aまでの距離を周方向に沿って異ならせている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置において、
前記第1部材は、前記外側部材の内周面に固定される第1円筒部を備え、
前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、該第3円筒部は、外周面に表れる外面部をすくなくとも備え、
前記第1円筒部と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、
前記外面部の厚さを周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記外面部の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第3円筒部は、円筒基部を備え、該円筒基部の外周面側に前記外面部が配されていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記第3円筒部の略全体が前記外面部で構成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置において、
前記第1部材は、前記外側部材の内周面に固定される第1円筒部を備え、該第1円筒部は、円筒基部と、該円筒基部の内周面に固着された内面部とを備え、
前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、
前記第1円筒部と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、
前記内面部の厚さを周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記内面部の内周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする密封装置。
【請求項5】
外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置において、
前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、前記外側部材の外周面側に配される第3円筒部とを備え、
前記外側部材と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、
回転軸から前記第3円筒部の内周面までの寸法を周方向に沿って異ならせることで、前記隙間の幅寸法を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記第3円筒部は、円筒基部と、該円筒基部の内周面に固着された内面部とを備え、
前記内面部の厚さを周方向に沿って異ならせたことを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項5において、
回転軸から前記第3円筒部の外周面までの寸法を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする密封装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項において、
回転軸に対して同心度が0.02~0.1としたことを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側部材と、外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する密封装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には、第1円筒部を有する第1部材(芯金を含む部材)と、回転軸から距離の相異なる位置に断面倒U字形状をなす第2、第3円筒部を有する第2部材(スリンガを含む部材)とを有する密封装置が多く提案されている(例えば、特許文献1参照)。この種の密封装置によれば、第3円筒部を有しない断面L字形状の第2部材を備えたものにくらべ、被シール空間への汚水等の浸入阻止効果を高められるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、被シール空間に入り込んだ汚水等を効率よく排出することも密封装置にとって必要な機能とされ、特許文献1などでも例示されているように、種々の手段により汚水等の排出性能を高めることが提案され、本発明者らによっても、簡易な構造により汚水等の排出性能を向上させることの研究が進められている。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、汚水等の浸入阻止効果を有するとともに、汚水等の排出性能を簡易な構造により高めることができ、かつ簡易に製造することができる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の密封装置は、外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置において、前記第1部材は、前記外側部材の内周面に固定される第1円筒部を備え、前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、該第3円筒部は、外周面に表れる外面部をすくなくとも備え、前記第1円筒部と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、前記外面部の厚さを周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記外面部の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする。
【0007】
本発明の他の密封装置は、外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置において、前記第1部材は、前記外側部材の内周面に固定される第1円筒部を備え、該第1円筒部は、円筒基部と、該円筒基部の内周面に固着された内面部とを備え、前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、前記第1円筒部と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、前記内面部の厚さを周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記内面部の内周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする。
【0008】
本発明のさらに他の密封装置は、外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封するように、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置において、前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、前記外側部材の外周面側に配される第3円筒部とを備え、前記外側部材と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、回転軸から前記第3円筒部の内周面までの寸法を周方向に沿って異ならせることで、前記隙間の幅寸法を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の密封装置は前述した構成とされているため、汚水等の浸入阻止効果を有するとともに、汚水等の排出性能を簡易な構造により高めることができ、かつ簡易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る密封装置を装着した軸受装置の縦断面図(第1~第6実施形態に共通)である。
【
図2】第1実施形態に係る密封装置の説明図であり、
図1のX1部とY1部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【
図4】(a)は同密封装置の第3円筒部の模式的簡略平面図である。(b)(c)は外面部の変形例の模式的簡略平面図である。
【
図5】第2実施形態に係る密封装置の説明図であり、
図1のX1部とY1部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る密封装置の説明図であり、
図1のX1部とY1部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【
図7】(a)は同密封装置の第1円筒部の模式的簡略平面図である。(b)(c)は内面部の変形例の模式的簡略平面図である。
【
図8】第4実施形態に密封装置の説明図であり、
図1のX1部とY1部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【
図9】第5実施形態に係る密封装置の説明図であり、
図1のX2部とY2部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【
図10】第6実施形態に係る密封装置の説明図であり、
図1のX2部とY2部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。以下に説明する複数の実施形態に係る密封装置10、10A、10B、10C、11、11Aはいずれも、
図1の軸受装置1に装着される装置である。
【0012】
まず、
図1にもとづいて軸受装置1の概略構成について説明する。なお
図1に示すように、回転軸L方向に沿って車輪(不図示)に向く側(
図1において左側を向く側)を車輪側、車体(不図示)に向く側(同右側を向く側)を車体側という。
【0013】
図1の軸受装置1は、車体(不図示)に固定される外側部材(外輪部材)2の内側に配された2列の転動体7、7…を介して、ハブ輪3bおよび内輪3aが軸心回りに回動自在に支持されている。ハブ輪3bは、ハブフランジ3cを有しており、そのハブフランジ3cに、駆動輪(不図示)がボルト3dによって取りつけられる。
【0014】
また、ハブ輪3bにはドライブシャフト4が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト4は等速ジョイント5を介して駆動源(不図示)に連結される。ドライブシャフト4はナット4aによって、ハブ輪3bと一体化され、ハブ輪3bのドライブシャフト4からの抜脱が防止されている。
【0015】
ハブ輪3bと内輪3aとにより内側部材(内輪部材)3が構成されており、この内輪部材3は、外輪部材2に対して、回転軸L回りに相対回転が可能とされる。この内輪部材3と外輪部材2との間に、転動体7、7…がリテーナ7aに保持された状態で介装されている。こうして、外輪部材2と内輪部材3とにより相対的に回転する2部材が構成され、それら2部材間に、転動体7、7…の介装部分を含む空間部分である環状空間が形成される。この環状空間が軸受空間であり被シール空間6とされる。
【0016】
被シール空間6の回転軸L方向における車体側の端部には、密封装置10、10A、10B、10Cが装着されている(
図1のX1部およびY1部参照)。また、被シール空間6の車輪側の端部には、他の密封装置11、11Aが装着されている(
図1のX2部およびY2部参照)。両方の端部のそれぞれに密封装置10、10A、10B、10C、11、11Aを装着することで、被シール空間6の回転軸L方向に沿った両端部が密封される。
【0017】
なお
図1においては、車体側に配される密封装置10、10A、10B、10C、および車輪側に配される密封装置11、11Aのいずれも、その全体が被シール空間6に装着されるように図示してあるが、車輪側に配される密封装置11、11Aについては、一部が外側部材2の外側に配される(
図9~
図12参照)。
【0018】
被シール空間6にはグリースなどの潤滑剤(不図示)が充填され、これにより、転動体7、7…の転動が円滑になされる。密封装置10、10A、10B、10C、11、11Aは、この潤滑剤の外部漏出を防止するとともに、被シール空間6への外部からの泥水や塵埃等の浸入を防止する機能と、浸入してきた泥水等を排出する機能とを有する。
【0019】
また、車体側に装着される密封装置10、10A、10B、10Cの車体側の面には、後述する環状の磁気エンコーダ(環状磁石)36(
図2、
図8参照)が配されてもよく、環状磁石36に対向する位置の車体には磁気センサ15が設置される。
【0020】
環状磁石36は、後述するスリンガ34に一体に成形された、ゴム材に磁性粉を混練してなる環状磁石36であり、その周方向に沿って多数のN極およびS極を交互に着磁したものである。磁気センサ15は環状磁石36の回転に伴う磁気変化を検出する。つまり、この磁気センサ15と環状磁石36とにより、車輪(内輪部材3)の回転検出機構が構成され、アンチブレーキシステムが構成される。
【0021】
以下に詳述する密封装置10、10A、10B、10C、11、11Aはいずれも、外輪部材2に内嵌される円筒体よりなる第1部材20と、内輪部材3に外嵌される円筒体よりなる第2部材30とが組み合わさって構成されている。
【0022】
第1部材20は外輪部材2に組み付けられ、第2部材30は内輪部材3に組み付けられるから、その状態で外輪部材2と内輪部材3とが相対回転をすれば、第1部材20と第2部材30とは、後述する第1部材20のリップ部を介して相互に摺接しながら相対回転をする。なお、
図1の軸受装置1においては、内輪部材3が回転側の部材とされる。
以下、各密封装置10、10A、10B、10C、11、11Aについて説明する。
【0023】
<第1、第2実施形態の概要>
まず、被シール空間6の車体側に装着される密封装置10、10Aに関する第1、第2実施形態について、
図1~
図5を参照しながら説明する。これらの実施形態に係る密封装置10、10Aはつぎに示す基本構成とされる。
【0024】
これらの密封装置10、10Aは、外側部材2と、外側部材2に対して相対的に回転する内側部材3との間の被シール空間6を密封する、外側部材2の内側に嵌合する第1部材20と、内側部材3の外側に嵌合する第2部材30とを備えている。
【0025】
第1部材20は、外側部材2の内周面に固定される第1円筒部21を備えている。第2部材30は、内側部材3の外周面に固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備えている。第3円筒部32は外周面に表れる外面部38をすくなくとも備えている。
【0026】
密封装置10、10Aは、第1円筒部21と第3円筒部32との間に環状の隙間40が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされる。
【0027】
これらの密封装置10、10Aでは、外面部38の厚さ(寸法E)を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから外面部38の外周面38aまでの距離(寸法D、D´)を周方向に沿って異ならせている(以上、
図1~
図5参照)。
ついで各実施形態について説明する。
【0028】
<第1実施形態の詳細>
図2は、本実施形態に係る密封装置10の、
図1のX1部とY1部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
図3は密封装置10の模式的平面図である。
図4(a)は密封装置10の第3円筒部32の模式的簡略平面図であり、
図4(b)(c)は第3円筒部の変形例の模式的簡略平面図である。
【0029】
第1部材20は、外輪部材2に内嵌される芯金23と、芯金23に固着された弾性材製のシール部25とを備えている。さらに具体的には、芯金23は、外輪部材2の内周面に内嵌される芯金円筒部23aと、芯金円筒部23aの被シール空間6の奥側の端部から内側に延びる芯金円板部23bとを備えてなり、断面形状がL字形状をなす。
【0030】
またシール部25は、ゴム材や合成樹脂材などの弾性材料からなり、芯金23への加硫成形により固着一体とされたシール基部25aと、シール基部25aから延出された複数のリップ部、つまり1個のサイドリップ26aおよび1個のラジアルリップ26bとを備えている。
図2において、サイドリップ26aおよびラジアルリップ26bの2点鎖線部は、弾性変形前の原形状を示す。
【0031】
シール基部25aは、芯金円板部23bの被シール空間6の奥側の面の中途から内周縁部23cを回り込み、反対側の面の全面を覆い、さらに芯金円筒部23aの内周面の全面を覆い、さらに車体側の端部23dを回り込んで芯金円筒部23aの外周面にいたるように芯金23に固着一体とされている。
【0032】
被シール空間6の奥側に位置するシール基部25aの始端部には、奥側に向けてさらに突出した環状突部25dが形成されている。また、芯金円筒部23aの外周面側に位置するシール基部25aの終端部には、外輪部材2側に突出した突条部25cが形成されている。
【0033】
環状突部25dは、密封装置10を軸受装置1に装着する前に重ねて運搬する際に、その密封装置10に重ねられた別の密封装置10に弾接し、当該密封装置10の芯金23と別の密封装置10の環状磁石36とが磁力で吸着し合うことを防ぐための突出部である。突条部25cは、密封装置10を被シール空間6に嵌合した際に、芯金23を外輪部材2に圧接させるための突出部である。
【0034】
以上のように、芯金23とシール部25とは一体とされ、外輪部材2の内側に嵌合する第1部材20を構成する。また、芯金円筒部23aと、シール基部25aの一部であるシール円筒部25bとにより第1円筒部21が構成されている。
【0035】
第2部材30は、内輪部材3に外嵌される、断面倒U字形状をなす2重円筒形のスリンガ34と、スリンガ34に固着された環状磁石36とを備えている。
【0036】
スリンガ34は、内輪部材3の内輪3aの外周面に外嵌される、第2円筒部31をなす内周側円筒部34cと、内周側円筒部34cの車体側の端部から外側に延びるスリンガ円板部34aと、スリンガ円板部34aの外周縁部から回転軸L方向に沿って被シール空間6の奥側に延びる外周側円筒部(円筒基部)34bとを備えている。この外周側円筒部34bは、被シール空間6の奥側の端面が、第1部材20の芯金円板部23bと対向するように配される。
【0037】
環状磁石36は、スリンガ円板部34aの車体側の面を覆うエンコーダ本体36aと、スリンガ34の外周側円筒部34bの外周面を覆うように形成された被覆部36bとを有している。被覆部36bは前述の外面部38とされる。
【0038】
以上のように、スリンガ34と環状磁石36とは一体とされ、内輪部材3の外側に嵌合する第2部材30を構成する。また、外周側円筒部34bと被覆部36bとにより第3円筒部32を構成する。
【0039】
ついで、第1部材20および第2部材30の被シール空間6への装着状態における位置関係について、特に両部材により形成されるラビリンス構造、および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係について説明する。
【0040】
スリンガ34の外周側円筒部34bと、第1部材20との間にラビリンス構造部rが形成されている。このラビリンス構造部rは、回転軸L方向に略平行な第1ラビリンス部r1と、第1ラビリンス部r1に連続する径方向に略平行な第2ラビリンス部r2とにより構成されている。
【0041】
第1ラビリンス部r1は、第3円筒部32の(外面部38の)外周面38aと、これに対向する第1部材20の第1円筒部21の内周面との間に形成される。第1ラビリンス部r1の経路中には、泥水等の排出を阻害するリップ部などは配されていない。シール円筒部25bの内周面は、車体側から回転軸L方向に沿って被シール空間6の奥側に次第に隙間40が狭まるように若干傾斜して形成されており、浸入してきた泥水等を排出しやすい構成となっている。
【0042】
また、第2ラビリンス部r2は、第3円筒部32の被シール空間6の奥側(車輪側)の端面と、これに対向する部分の車体側の面との間に径方向に沿って形成される。この第2ラビリンス部r2の経路中にもリップ部等、泥水等の排出を阻害する部材は配されていない。
【0043】
第1部材20のサイドリップ26aは、スリンガ円板部34aの被シール空間6の奥側の面に弾接する。サイドリップ26aが摺接するスリンガ円板部34aの面には、グリース(不図示)が塗布されている。なお、サイドリップ26aの個数、形状等は図例のものに限定されない。
【0044】
ラジアルリップ26bは、シール基部25aから延びて形成されており、スリンガ34における内周側円筒部34cの外周面に弾接する。ラジアルリップ26bは、被シール空間6の奥側に向くように傾斜形成されており、被シール空間6に充填されているグリースが密封装置10の外部へ漏れないように配されている。また、ラジアルリップ26bが摺接する第2円筒部31(内周側円筒部34c)の外周面にはグリースが塗布されている。なお、ラジアルリップ26bの個数、形状等は図例のものに限定されない。
【0045】
本実施形態では、第1ラビリンス部r1である隙間40の幅寸法C、C´が、
図2、
図3に示すように周方向に沿って異なっている。このように隙間40の幅寸法C、C´が部位によって異なるのは、
図2の上下の図によりあきらかなように、第3円筒部32の外面部38(被覆部36b)の厚さ寸法E、E´を周方向に沿って異ならせたことによる。
図2、
図3に示した例では、外面部38の平面外形つまり外周面38aの平面形状は円(真円)とされるが、その中心Mは、
図4(a)に示すように回転軸Lからは偏心している。なお、隙間40の幅寸法C、C´は
図2に示すように、隙間40の開口側の幅寸法を表している。第2~第4実施形態についても同様である。
【0046】
ここで、内輪部材3の外周面、外輪部材2の内周面、芯金円筒部23aの内周面、シール円筒部25bの内周面、スリンガ34の外周側円筒部34bの外周面のそれぞれの平面形状は、回転軸Lを中心とした円とされる。
【0047】
ようするに、
図2、
図3に示すように、回転軸Lから外輪部材2の内周面までの寸法A、回転軸Lからスリンガ34の外周側円筒部34bの外周面までの寸法Bはそれぞれ周方向に沿って一定であるが、外面部38の厚さ寸法E、E´が周方向に沿って異なるため、それにより回転軸Lから外面部38の外周面38aまでの寸法D、D´は周方向に沿って異なり、それにより隙間40の幅寸法C、C´も周方向に沿って異なる。
【0048】
第3円筒部32(外面部38)の外周面38aの平面形状としては、
図4(a)によるもののほか、
図4(b)のように第3円筒部32の外周面38aの形状を楕円とし、その楕円の中心Mを偏心させたものや、
図4(c)のように第3円筒部32の外周面38aの形状を楕円とし、その楕円の中心Mを回転軸Lに合致させたものなどが想定される。なお、
図4(c)のものは偏心ではないが、隙間40の幅寸法C、C´(
図3参照)は周方向に沿って異なる。
【0049】
本実施形態に係る密封装置10によれば、隙間の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置10の汚水の出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等を効率よく広い隙間40から多く排出させることができる。換言すれば、隙間の幅寸法C、C´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rを含む密封装置10内の空間において、内部に入り込んだ汚水等の周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水等が排出されやすくなる。
【0050】
また、本実施形態では軸受装置1の内輪部材3が回転するため、回転軸Lに近い箇所、例えば第2円筒部31の近傍に入り込んだ汚水等を、回転軸Lから外面部38の外周面38aまで寸法D、D´(寸法B+寸法E、E´)の小さい方に対応する隙間40、つまり幅寸法の大きな隙間40から汚水を遠心力により排出させやすくできる。
【0051】
このように本密封装置10では汚水等の排出性能が向上する。また本密封装置10は、環状磁石36による外面部38の厚さを周方向に沿って異ならせることで形成されているため、スリンガ34や芯金23などの金属部材については従来のものから設計変更をする必要がなく、そのため密封装置10を容易に製造することができる。スリンガ34や芯金23は従来のように回転軸Lと同心の円形状であるため、嵌合精度が影響を受けるおそれもない。
【0052】
また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bは水に接触しにくくなり、シール部25の高寿命化を図ることができる。また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bをそれぞれ複数設けなくてもよく、材料コストを抑えることもできる。
【0053】
<第2実施形態の詳細>
図5は、本実施形態に係る密封装置10Aの、
図1のX1部とY1部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。密封装置10Aの模式的平面図および外面部38の模式的簡略平面図については図示を省略する。
【0054】
第1部材20については、第1実施形態の第1部材20(
図2参照)と同様の構造、形状であり、
図5において同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0055】
第2部材30は、内輪部材3に外嵌される、断面L字形状をなすフランジ付き円筒形のスリンガ34と、例えば合成樹脂、ゴムなどで構成された外面部38とを有してなる。この外面部38が第3円筒部32の略全体を構成する。
図5に示すように、外面部38の厚さ、つまり第3円筒部32の厚さは周方向に沿って異なっている。なお、厚さの異なる外面部38の詳細については後述する。
【0056】
スリンガ34は、内輪部材3の内輪3aの外周面に外嵌される、第2円筒部31をなす内周側円筒部34cと、内周側円筒部34cの被シール空間6の開口側の端部から外側にフランジ状に延びるスリンガ円板部34aとを備えている。
【0057】
スリンガ円板部34aの外側の端部と外面部38とは、
図5に示すように連結され、一体とされており、スリンガ34と外面部38とにより形成された第2部材30は断面倒U字形状をなしている。
【0058】
第1部材20および第2部材30の被シール空間6への装着状態における位置関係(両部材により形成されるラビリンス構造、および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係)は、第1実施形態のものとおおむね同様であるため、説明は省略する。
【0059】
本実施形態では、第1ラビリンス部r1である隙間40の幅寸法C、C´が、
図5に示すように周方向に沿って異なっている。このように隙間40の幅寸法C、C´が部位によって異なるのは、
図5の上下の図によりあきらかなように、第3円筒部32(外面部38)の厚さ寸法E、E´を周方向に沿って異ならせたことによる。
図5に示した例では、外面部38の外周面38aの平面形状は円(真円)とされ、その中心Mは、
図4(a)と同様に回転軸Lからは偏心している。
【0060】
なお、内輪部材3の外周面、外輪部材2の内周面、芯金円筒部23aの内周面、シール円筒部25bの内周面、外面部38の内周面のそれぞれの平面形状は、回転軸Lを中心とした円とされる。
【0061】
ようするに、
図5に示すように、回転軸Lから外輪部材2の内周面までの寸法A、回転軸Lから外面部38の内周面までの寸法Bはそれぞれ周方向に沿って一定であるが、外面部38の厚さ寸法E、E´が周方向に沿って異なるため、それにより隙間40の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なる。
【0062】
外面部38の外周面38aの平面形状としては、第1実施形態と同様、
図4(a)のものだけではなく、
図4(b)(c)のものも想定可能である。
【0063】
本実施形態に係る密封装置10によれば、隙間寸法C、C´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置10Aの出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等を効率よく広い隙間40から多く排出させることができる。換言すれば、隙間の幅寸法C、C´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rを含む密封装置10A内の空間において、内部に入り込んだ汚水等の周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水等が排出されやすくなる。
【0064】
また、本実施形態では軸受装置1の内輪部材3が回転するため、回転軸Lに近い箇所、例えば第2円筒部31の近傍に入り込んだ汚水等を、回転軸Lから外面部38の外周面38aまで寸法D、D´(寸法B+寸法E、E´)の小さい方に対応する隙間40、つまり幅寸法の大きな隙間40から汚水等を遠心力により排出させやすくできる。
【0065】
このように本密封装置10Aでは汚水等の排出性能が向上する。また、合成樹脂などによる外面部38の厚さを周方向に沿って異ならせることで本密封装置10が形成されているため、スリンガ34や芯金23などの金属部材の設計変更をする必要がなく、そのため密封装置10Aを容易に製造することができる。スリンガ34や芯金23は従来のように回転軸Lと同心の円形状であるため、嵌合精度が影響を受けるおそれもない。
【0066】
また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bは水に接触しにくくなり、シール部25の高寿命化を図ることができる。また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bをそれぞれ複数設けなくてもよく、材料コストを抑えることができる。
【0067】
また、
図5の実施形態のものはスリンガ34が断面L字形状であるが、外面部38による第3円筒部32を付加することで断面倒U字形状の第2部材30を形成することができ、第1実施形態と同様のラビリンス構造を持たせることができる。
【0068】
<第3、第4実施形態の概要>
つぎに、被シール空間6の車体側に装着される密封装置10B、10Cに関する第3、第4実施形態について、
図6~
図8を参照しながら説明する。これらの実施形態に係る密封装置10B、10Cはつぎに示す基本構成とされる。
【0069】
これらの密封装置10B、10Cは、外側部材2と、外側部材2に対して相対的に回転する内側部材3との間の被シール空間6を密封する、外側部材2の内側に嵌合する第1部材20と、内側部材3の外側に嵌合する第2部材30とを備えている。
【0070】
第1部材20は、外側部材2の内周面に固定される第1円筒部21を備え、第1円筒部21は、円筒基部23aと、円筒基部23aの内周面に固着された内面部28とを備えている。第2部材30は、内側部材3の外周面に固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備えている。
【0071】
密封装置10B、10Cは、第1円筒部21と第3円筒部32との間に環状の隙間40が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされる。
【0072】
この密封装置10B、10Cでは、内面部28の厚さ寸法F、F´を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから内面部28の内周面28aまでの距離(寸法B+寸法C、C´)を周方向に沿って異ならせている(以上、
図6、
図7参照)。
【0073】
なお第4実施形態に係る密封装置10C(
図8参照)は、基本構成としては、第1、第2実施形態に係る密封装置10、10A(
図1~
図5参照)とも、おおむね同一とされる。すなわち、第4実施形態に係る密封装置10Cはつぎに示す構成とされる。
【0074】
この密封装置10Cは、外側部材2と、外側部材2に対して相対的に回転する内側部材3との間の被シール空間6を密封する、外側部材2の内側に嵌合する第1部材20と、内側部材3の外側に嵌合する第2部材30とを備えている。
【0075】
第1部材20は、外側部材2の内周面に固定される第1円筒部21を備えている。第2部材30は、内側部材3の外周面に固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備えている。第3円筒部32は外周面38aに表れる外面部38をすくなくとも備えている。
【0076】
密封装置10Cは、第1円筒部21と第3円筒部32との間に環状の隙間40が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされる。
【0077】
この密封装置10Cでは、外面部38の厚さ(寸法E)を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから外面部38の外周面38aまでの距離(寸法D、D´)を周方向に沿って異ならせている(以上、
図8参照)。
ついで各実施形態について説明する。
【0078】
<第3実施形態の詳細>
図6は、本実施形態に係る密封装置10Bの、
図1のX1部とY1部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
図7(a)は密封装置10の第1円筒部21の模式的簡略平面図であり、
図7(b)(c)は第1円筒部21の変形例の模式的簡略平面図である。密封装置10Bの模式的平面図については図示を省略する。
【0079】
第1部材20については、第1実施形態の第1部材20(
図2参照)と同様の構造、形状であり、芯金円筒部23aが円筒基部23aを構成し、シール円筒部25bが内面部28を構成する。
図6に示すように、内面部28の厚さ、つまり第1円筒部21の厚さは周方向に沿って異なっている。なお、厚さの異なる内面部28の詳細については後述する。
【0080】
第2部材30は、内輪部材3に外嵌される、断面倒U字形状をなす2重円筒形のスリンガ34により構成されており、環状磁石36(
図2参照)は備えていない。つまり、第3円筒部32は外周側円筒部34b(外面部38)により構成される。スリンガ34については、第1実施形態のスリンガ34と同様の構造、形状であり、その説明は省略する。
【0081】
第1部材20および第2部材30の被シール空間6への装着状態における位置関係(両部材により形成されるラビリンス構造、および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係)は、第1実施形態のものとおおむね同様であるため、説明は省略する。
【0082】
本実施形態では、第1ラビリンス部r1である隙間40の幅寸法C、C´が、
図6に示すように周方向に沿って異なっている。このように隙間40の幅寸法C、C´が部位によって異なるのは、
図6の上下の図によりあきらかなように、第1円筒部21の内面部28の厚さ寸法F、F´を周方向に沿って異ならせたことによる。
図7(a)に示した例では、内面部28(第1円筒部21)の内周面28aの平面形状は円(略真円)とされ、その中心Nは回転軸Lからは偏心している。
【0083】
ここで、内輪部材3の外周面、外輪部材2の内周面、芯金円筒部23aの内周面、第3円筒部32の外周面のそれぞれの平面外形は、回転軸Lを中心とした円とされる。
【0084】
ようするに、
図6に示すように、回転軸Lから外輪部材2の内周面までの寸法A、回転軸Lから外面部38の外周面38aまでの寸法Bはそれぞれ周方向に沿って一定であるが、内面部28の厚さ寸法F、F´が周方向に沿って異なるため、それにより隙間40の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なる。
【0085】
第1円筒部21(内面部28)の内周面28aの平面形状としては、
図7(a)によるもののほか、
図7(b)のように第1円筒部21の内周面28aの形状を楕円とし、その楕円の中心を偏心させたものや、
図7(c)のように第1円筒部21の内周面28aの形状を楕円とし、その楕円の中心を回転軸Lに合致させたものなどが想定される。なお、
図7(c)のものは偏心ではないが、隙間40の幅寸法C、C´は周方向に沿って異なる。
【0086】
本実施形態に係る密封装置10Bによれば、隙間の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置10Bの汚水等の出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等を効率よく幅寸法の大きな隙間40から多く排出させることができる。換言すれば、隙間の幅寸法C、C´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rを含む密封装置10B内の空間において、内部に入り込んだ汚水等の周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水等が排出されやすくなる。
【0087】
このように本密封装置10Bでは汚水等の排出性能が向上する。また、シール部25による内面部28の厚さを周方向に沿って異ならせることで本密封装置10Bが形成されているため、スリンガ34や芯金23などの金属部材の設計変更をする必要がなく、そのため密封装置10Bを容易に製造することができる。スリンガ34や芯金23は従来のように回転軸Lと同心の円形状であるため、嵌合精度が影響を受けるおそれもない。
【0088】
また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bは水に接触しにくくなり、シール部25の高寿命化を図ることができる。また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bをそれぞれ複数設けなくてもよく、材料コストを抑えることができる。
【0089】
<第4実施形態の詳細>
図8は、本実施形態に係る密封装置10Cの、
図1のX1部とY1部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。密封装置10Cの模式的平面図および外面部の模式的簡略平面図については図示を省略する。
【0090】
第1部材20については、第3実施形態の第1部材20(
図6参照)と同様の構造、形状であり、芯金円筒部23aが円筒基部23aを構成し、シール円筒部25bが内面部28を構成する。
図8に示すように、内面部28の厚さ、つまり第1円筒部21の厚さは周方向に沿って異なっている。なお、厚さの異なる内面部28の詳細については後述する。
【0091】
第2部材30については、第1実施形態の第2部材30(
図2参照)と同様の構造、形状であり、外周側円筒部34bが第3円筒部32の円筒基部34bを構成し、被覆部36bが外面部38を構成する。
【0092】
図8に示すように、内面部28の厚さ、つまり第1円筒部21の厚さは周方向に沿って異なっており、かつ外面部38の厚さ、つまり第3円筒部32の厚さも周方向に沿って異なっている。なお、厚さの異なる内面部28、外面部38の詳細については後述する。
【0093】
第1部材20および第2部材30の被シール空間6への装着状態における位置関係(両部材により形成されるラビリンス構造、および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係)は、第1実施形態のものとおおむね同様であるため、説明は省略する。
【0094】
本実施形態では、第1ラビリンス部r1である隙間40の幅寸法C、C´が、
図8に示すように周方向に沿って異なっている。このように隙間40の幅寸法C、C´が部位によって異なるのは、
図8の上下の図によりあきらかなように、第1円筒部21の内面部28の厚さ寸法F、F´を周方向に沿って異ならせ、かつ第3円筒部32の外面部38の厚さ寸法E、E´を周方向に沿って異ならせたことによる。
【0095】
なお、内輪部材3の外周面、外輪部材2の内周面、芯金円筒部23aの内周面、第3円筒部32の外面部38の内周面のそれぞれの平面形状は、回転軸Lを中心とした円(真円)とされる。
【0096】
ようするに、
図8に示すように、回転軸Lから外輪部材2の内周面までの寸法A、回転軸Lから外面部38の内周面までの寸法Bはそれぞれ周方向に沿って一定であるが、内面部28の厚さ寸法F、F´および外面部38の厚さ寸法E、E´がともに周方向に沿って異なるため、それにより隙間40の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なる。
【0097】
本実施形態に係る密封装置10Cによれば、隙間寸法C、C´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置10Cの出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等の水分を効率よく広い隙間40から多く排出させることができる。換言すれば、隙間の幅寸法C、C´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rを含む密封装置10C内の空間において、内部に入り込んだ汚水等の周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水等が排出されやすくなる。
【0098】
また、本実施形態では軸受装置1の内輪部材3が回転するため、回転軸Lに近い箇所、例えば第2円筒部31の近傍に入り込んだ汚水を、回転軸Lから外面部38の外周面38aまで寸法D、D´(寸法B+寸法E、E´)の小さい方に対応する隙間40から汚水等を遠心力により排出させやすくできる。
【0099】
このように本密封装置10Cでは汚水等の排出性能が向上する。また、環状磁石36による外面部38の厚さを周方向に沿って異ならせることで本密封装置10Cが形成されているため、スリンガ34や芯金23などの金属部材の設計変更をする必要がなく、そのため密封装置10Cを容易に製造することができる。スリンガ34や芯金23は従来のように回転軸Lと同心の円形状であるため、嵌合精度が影響を受けるおそれもない。
【0100】
また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bは水に接触しにくくなり、シール部25の高寿命化を図ることができる。また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bをそれぞれ複数設けなくてもよく、材料コストを抑えることができる。
【0101】
また、本実施形態のものは、内面部28および外面部38の両方について周方向に沿って厚さを異ならせているため、外輪部材2と内輪部材3の相対回転によりできる周方向における隙間40の幅寸法C、C´の最大値と最小値の差は大きい。そのためポンピング作用を大きく働かせることができる。
【0102】
<第5、第6実施形態の概要と詳細>
ついで、車輪側に装着される密封装置11、11Aに関する第5、第6実施形態について、
図9、
図10を参照しながら説明する。これらの実施形態に係る密封装置11、11Aはつぎに示す基本構成とされる。
【0103】
図9および
図10は、本実施形態に係る密封装置11、11Aの2例に関する、
図1のX2部とY2部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【0104】
これらの密封装置11、11Aは、外側部材2と、外側部材2に対して相対的に回転する内側部材3との間の被シール空間6を密封する、外側部材2の内側に嵌合する第1部材20と、内側部材3の外側に嵌合する第2部材30とを備えている。
【0105】
第2部材30は、内側部材3の外周面に固定される第2円筒部31と、外側部材2の外周面側に配される第3円筒部32とを備えている。
【0106】
密封装置11、11Aは、外側部材2と第3円筒部32との間に環状の隙間41が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされる。
【0107】
この密封装置11、11Aでは、回転軸Lから第3円筒部32の内周面32aまでの寸法G、G´を周方向に沿って異ならせることで、隙間41の幅寸法I、I´を周方向に沿って異ならせている(以上、
図9~
図10参照)。
【0108】
第1部材20は、外輪部材2に内嵌される芯金23と、芯金23に固着された弾性材製のシール部25とを備えている。さらに具体的には、芯金23は、外輪部材2の内周面に内嵌される芯金円筒部23aと、芯金円筒部23aの被シール空間6の奥側の端部から内側に延びる芯金円板部23bとを備えてなり、断面形状がL字形状をなす。
【0109】
またシール部25は、ゴム材や合成樹脂材などの弾性材料からなり、芯金23への加硫成形により固着一体とされたシール基部25aと、シール基部25aから延出された複数のリップ部、つまり1個のサイドリップ26aおよび1個のラジアルリップ26bとを備えている。
図9および
図10において、サイドリップ26aおよびラジアルリップ26bの2点鎖線部は、弾性変形前の原形状を示す。
【0110】
シール基部25aは、芯金23における芯金円板部23bの被シール空間6の奥側の面の中途から内周縁部23cを回り込み、反対側の面の全面を覆い、さらに芯金円筒部23aの内周面の全面を覆い、さらに車輪側の端部23dを回り込んで芯金円筒部23aの外周面にいたるように芯金23に固着一体とされている。
【0111】
芯金円筒部23aの外周面側に位置するシール基部25aの終端部には、外輪部材2側に突出した突条部25cが形成されている。この突条部25cは、密封装置10を被シール空間6に嵌合した際に、芯金23を外輪部材2に圧接させるための突出部である。
【0112】
以上のように、芯金23とシール部25とは一体とされ、外輪部材2の内側に嵌合する第1部材20を構成する。また、芯金円筒部23aと、シール基部25aの一部であるシール円筒部25bとにより第1円筒部21を構成する。
【0113】
第2部材30は、内輪部材3に外嵌される、断面倒U字形状をなす2重円筒形のスリンガ34を備えている。
【0114】
スリンガ34は、内輪部材3のハブ輪3bの外周面に外嵌される、第2円筒部31をなす内周側円筒部34cと、内周側円筒部34cの車輪側の端部から外側に延びるスリンガ円板部34aと、スリンガ円板部34aの外周縁部から回転軸L方向に沿って車体側に延びる外周側円筒部34bとを備えている。この外周側円筒部34bは外輪部材2の外側に配される。
【0115】
ついで、第1部材20および第2部材30の被シール空間6への装着状態における位置関係について、特に両部材により形成されるラビリンス構造、および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係について説明する。
【0116】
スリンガ34の外周側円筒部34bと、外輪部材2との間にラビリンス構造部rAが形成されている。このラビリンス構造部rAは、回転軸L方向に略平行な第1ラビリンス部rA1と、第1ラビリンス部rA1に連続する径方向に略平行な第2ラビリンス部rA2とにより構成されている。
【0117】
第1ラビリンス部rA1は、第3円筒部32の内周面32aと、これに対向する外輪部材2の外周面との間に形成される。第1ラビリンス部rA1の経路中には、泥水等の排出を阻害するリップ部などは配されていない。
【0118】
また、第2ラビリンス部rA2は、外輪部材2の車輪側の端面と、これに対向するスリンガ円板部34aの面との間に径方向に沿って形成される。この第2ラビリンス部rA2の経路中にもリップ部等、泥水等の排出を阻害する部材は配されていない。
【0119】
第1部材20のサイドリップ26aは、スリンガ円板部34aの被シール空間6の奥側の面に弾接する。サイドリップ26aが摺接するスリンガ円板部34aの面には、グリース(不図示)が塗布されている。なお、サイドリップ26aの個数、形状等は図例に限定されない。
【0120】
ラジアルリップ26bは、シール基部25aから延びて形成されており、スリンガ34における内周側円筒部34cの外周面に弾接する。ラジアルリップ26bは、被シール空間6の奥側に向くように傾斜形成されており、被シール空間6に充填されているグリースが密封装置10を経て外部へ漏れないように配されている。また、ラジアルリップ26bが摺接する第2円筒部31(内周側円筒部34c)の外周面にはグリースが塗布されている。なお、ラジアルリップ26bの個数、形状等は図例に限定されない。
【0121】
本実施形態の
図9、
図10の2例では、第1ラビリンス部rA1である隙間41の幅寸法I、I´が、
図9、
図10に示すように周方向に沿って異なっている。このように隙間41の幅寸法I、I´が部位によって異なるのは、
図9、
図10の上下の図によりあきらかなように、回転軸Lから第3円筒部32の内周面までの寸法G、G´を異ならせたことによる。
図9、
図10に示した例では、第3円筒部32の平面外形は円(略真円)とされるが、その中心は回転軸Lからは偏心している。
【0122】
なお、内輪部材3の外周面、外輪部材2の内周面、外周面、芯金円筒部23aの外周面のそれぞれの平面外形は、回転軸Lを中心とした円とされる。
【0123】
隙間41の幅寸法I、I´を周方向に沿って異ならせる手段は、
図9と
図10とで異なる。
【0124】
図9のものでは、スリンガ34の円中心は回転軸Lと一致しており、外周側円筒部34bを円筒基部34bとしてその内周面に別部材による内面部37が固着されている。したがって、第3円筒部32は円筒基部34bと内面部37とよりなる。このように周方向に沿って異なる厚さ寸法H、H´の内面部37を設けることで、隙間41の幅寸法I、I´を周方向に沿って異ならせている。つまり、内面部37の内周面37aの平面形状はその中心が回転軸Lから偏心している。
【0125】
図10の密封装置11Aでは、第3円筒部32がスリンガ34の外周側円筒部34bよりなり、この外周側円筒部34bの曲げ加工の程度により、スリンガ34の円中心を回転軸Lから偏心させ、隙間41の幅寸法I、I´を周方向に沿って異ならせている。
【0126】
ようするに、
図9、
図10のものは手段が異なるものの、いずれも回転軸Lから第3円筒部32の内周面32aまでの寸法G、G´が周方向に沿って異なるため、それにより隙間41の幅寸法I、I´が周方向に沿って異なる。
【0127】
第3円筒部32の内周面32aの平面形状としては、図示は省略するが、第1実施形態で示した
図4(a)の第3円筒部32の外周面38aの形状と同様に真円であればよく、
図4(b)のように楕円とし、その楕円の中心を偏心させたものであってもよく、
図4(c)のように楕円とし、その楕円の中心を回転軸Lに合致させたものなどであってもよい。
【0128】
本実施形態に係る密封装置11、11Aによれば、隙間41の幅寸法I、I´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置11、11Aの汚水の出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等の水分を効率よく広い隙間41から多く排出させることができる。換言すれば、隙間の幅寸法I、I´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rAを含む密封装置11、11A内空間において内部に入り込んだ汚水に周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水が排出されやすくなる。
【0129】
また、
図10の密封装置11Aは、第3円筒部32が曲げ加工により偏心した形状とされているため、隙間41の幅寸法I、I´が周方向に沿って異なるだけではなく、第3円筒部32が全周にわたり同厚でもあるため外周面32bの突出程度も周方向に沿って異なる。つまり、回転軸Lから第3円筒部32の外周面32bまでの寸法J、J´が周方向に沿って異なっている。
【0130】
このように、第3円筒部32の径が周方向に沿って部分的に大きくなっているため、第3円筒部32による振り切り作用を増大させることができる。
【0131】
第2部材30の第3円筒部32の偏心による真円化はプレス加工による曲げ加工で行えるため、簡易に形成することができる。なお曲げ加工を、工具などにより部分的に外方に膨らませるような方法で行ってもよい。また、
図9に示した外周側円筒部34bの外周面側に別部材を設けることで、外周面側を突出させた第3円筒部32を形成してもよい。
【0132】
第5、第6実施形態に係る密封装置11、11A(
図9、
図10参照)は、汚水等の排出性能が高いだけではなく、第3円筒部32を有し、その第3円筒部32を外輪部材2の外側に配した構造であるため、ラビリンス構造を形成でき、それにより汚水等の浸入阻止効果を確保することもできる。
【0133】
以上に説明した密封装置10、10A、10B、10C、11、11Aはいずれも、第2部材30が第3円筒部32を備えて断面倒U字の2重円筒形状をなし、それにより装置内にラビリンス構造が形成され、その結果、汚水等の浸入阻止効果が高められている。
【0134】
また、密封装置10、10A、10B、10C、11、11Aがこのようなラビリンス構造を有すれば汚水等の排出性能についても期待でき、特に第3円筒部32の軸方向の長さを大きくしたものは排出効果を生み出す部分の面積が大きくなるため、周方向に沿った隙間40、41の大きさのアンバランス化とあいまって、汚水等の排出性能を格段に向上させることができる。
【0135】
以上には、実施形態の例として真円の中心を偏心させたもの(
図4(a)、
図7(a)に相当するもの)を示したが、その同心度(偏心度)は、0.02~0.1mmとすることが望ましい。なお、本発明の発明者らによれば、同心度が0.05のもので実験を行っており、同心度が0のものにくらべ水の排出性能が向上したという結果が得られている。
【0136】
なお、以上に説明した複数の実施形態に係る密封装置10、10A、10B、10C、11、11Aおよび軸受装置1の構成、形状は一例にすぎず、各図例以外の構成、形状に適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0137】
1 軸受装置
2 外側部材(外輪部材)
3 内側部材(内輪部材)
6 被シール空間
10、10A、10B、10C (車体側に設置される)密封装置
11、11A (車輪側に設置される)密封装置
20 第1部材
21 第1円筒部
23 芯金
23a 芯金円筒部(円筒基部)
23b 芯金円板部
25 シール部
25a シール基部
25b シール円筒部
28 内面部
28a 内周面
30 第2部材
31 第2円筒部
32 第3円筒部
32a 内周面
32b 外周面
34 スリンガ
34a スリンガ円板部
34b 外周側円筒部(円筒基部)
34c 内周側円筒部
36 磁気エンコーダ(環状磁石)
36a エンコーダ本体
36b 被覆部
37 内面部
37a 内周面
38 外面部
38a 外周面
40、41 隙間
L 回転軸